【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業支援」に関する裁判例(157)平成 7年 5月17日 東京地裁 昭62(ワ)3669号 労働協約無効確認請求事件 〔安田生命保険事件〕

「営業支援」に関する裁判例(157)平成 7年 5月17日 東京地裁 昭62(ワ)3669号 労働協約無効確認請求事件 〔安田生命保険事件〕

裁判年月日  平成 7年 5月17日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  昭62(ワ)3669号
事件名  労働協約無効確認請求事件 〔安田生命保険事件〕
裁判結果  棄却  文献番号  1995WLJPCA05176005

要旨
◆一 労働条件を不利益に変更する内容を含む労働協約についても、その内容が労働基準法あるいは公序良俗に違反するなどの特段の事情がない限り、規範的効力を持つ。
二 営業制度の変更を定めた本件労働協約には、一掲記の特段の事情はないとされた事例。
◆協約締結組合を脱退した労働者については、労働契約の内容は労働協約によるとの合意が存しない限り労働協約内容が右労働者の労働契約の内容となるとはいえないが、本件労働契約当事者にこのような合理的意思が存在していたといえないから、本件労働協約の効力は本件労働者には及ばないとされた事例。
◆営業制度を変更するために行われた、労働条件の変更をもたらす就業規則の改訂について、変更に伴う労働者の不利益の程度、変更の必要性、その内容の合理性を総合して勘案すると、本件変更後の就業規則は労働者にその不利益を受忍させることを許容すべき高度の必要性に基づいた合理的な内容のものということができ、労働者はこれに同意しないことを理由としてその適用を拒むことはできないとされた事例。〔*〕

出典
労判 677号17頁
労経速 1565号3頁

評釈
山川隆一・ジュリ 1080号129頁
中内哲・民商 114巻4・5号846頁
山崎文夫・労判 684号6頁
山下昇・法政研究(九州大学) 62巻3・4号681頁
高島良一・経営法曹 115号26頁

裁判年月日  平成 7年 5月17日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  昭62(ワ)3669号
事件名  労働協約無効確認請求事件 〔安田生命保険事件〕
裁判結果  棄却  文献番号  1995WLJPCA05176005

原告 (旧姓小淵)高橋弘子
右訴訟代理人弁護士 鴨田哲郎
同 仲田晋
同 岡田克彦
同 清水恵一郎
被告 安田生命保険相互会社
右代表者代表取締役 岡本則一
右訴訟代理人弁護士 宇田川昌敏
同 太田恒久
同 中川幹郎

 

 

主文

一  原告の請求を棄却する。
二  訴訟費用は原告の負担とする。

 

 

事実及び理由

第一  原告の請求
一  原告が被告に対し、「市場開発・顧客管理制度取扱規程」に従って就労すべき労働契約上の義務がないことを確認する。
二  原告が被告に対し、「市場開発・顧客管理制度取扱規程」三三条一項二号、三七条一項、三八条、三九条一号(イ)、四〇条に基づく自己担当SSエリア外契約を転出すべき労働契約上の義務がないことを確認する。
三  被告が原告に対し、昭和六一年一〇月一日以降、昭和五九年五月一日施行の個人職員給与規程に基づく預振契約管理手当、保全手当及び地区深耕手当の支払義務があることを確認する。
第二  事案の概要
一  基礎となる事実関係
以下の事実は、当事者間に争いがないか、各掲記の証拠によって認めることができる。
1  当事者
被告は、明治一三年の創業に始まり、保険募集業務を主たる業務とする相互会社として昭和二二年六月に設立されたものであり、東京に本社を置き、地方本部を三か所設け、昭和六二年当時、全国各地に支社(九〇か所)を有し、支社の下に月掛営業所、月掛事務所等(月所と総称されている)を有し、その従業員数は約二万二五〇〇名であり、そのうち約一万七〇〇〇人が営業職員であった。
原告は、被告に雇用されて渋谷支社(五反田支社)旗ノ台営業所に勤務し、保険の募集、保険料の集金等の業務に従事する営業職員である。
2  被告会社内の労働組合(〈証拠略〉)
被告会社には、内勤員(事務職、医務職等)によって昭和二一年に組織された安田生命内勤員組合(以下、内組という。)、外勤員(保険募集に携わる職員等)によって昭和二二年に組織された安田生命労働組合(旧名称は安田生命営業職員組合、以下、営組という。)、月掛営業職員(いわゆるデビット)によって組織された安田生命月掛労働組合(旧名称は安田生命月掛外勤職員組合、以下、月労という。)、月掛養成所出身者によって組織された全安田生命労働組合(旧名称は安田生命営業管理職員労働組合、以下、全労組という。)の四労働組合が併存していた。そして、右四組合の協議体として、安田生命労働組合協議会(以下、安田労協という。)があったが、同労協は、全労組とその余の組合との間に統合のあり方をめぐって意見が対立したため、昭和六〇年に解散し、同年、月労、内組及び営組は、安田生命労働組合連合会(以下、安田労連という。)を結成した。その後、月労、内組及び営組は、昭和六二年四月一日、合併して安田生命労働組合(以下、安田労組という。)となり、安田労連は解散した。また、昭和六三年に全労組からの脱退者により、安田生命営業管理職員組合(以下、営管組という。)が組織された。
原告は、もと月労(合併後の安田労組)に加入していたが、昭和六二年八月二七日、安田労組を脱退し、全労組に加入した。
3  被告会社におけ営業職員の従来の業務活動
(一) 保険契約募集方式(〈証拠・人証略〉)
被告会社における保険料月払扱契約の募集方式については、昭和二四年三月から団体月払扱(団体(A)扱)が、また、同二六年四月からいわゆるデビット・システム(F扱)に則った本格的な地域月掛扱(D扱)がそれぞれ開始され、多数の女性外務員が募集活動に従事してきた。
デビット・システムとは、月掛保険の実施地域を一定の基準(人口規模等)で地区割りを行い、原則として一人の営業職員(外務員)に地区を担当させ、担当地区内の既契約の月払保険料の集金や保全活動を行わせ、それらの活動を通じて新契約の開拓(募集)を行わせる制度であり、被告会社では、昭和二六年四月、本社直営本部の下に月払保険課(月掛保険部の前身)が設けられ、東京で開始されて以来、同二八年四月以降、六大都市(東京、大阪、京都、名古屋、横浜、神戸)に拡張され、積極的推進が図られたものである。
デビット・システムにおいては新契約を募集した外務員が第二月目以降の継続保険料も集金するのに対し、従来の販売組織(業務部)で扱われる地域月払保険(D扱)は、新契約を募集した外務員が第一回保険料のみを外務員が預かり、第二月目以降は、専任の集金員が集金するものであった。昭和三三年、業務部においても支社月掛班(奉仕事務所の前身)が設けられ、地区制度が実施されるようになった。
また、被告会社における団体月払契約の募集については、昭和二九年一月、丸の内支社が設置され、専門的に職域団体の開拓及び新契約の募集が開始され、同三〇年五月、銀座支社が設置され、同支社において外務員をプロパー部門(代理店開拓等により、主に年・半年払い契約を募集する。)と、月掛部門とに別編成し、月掛部門は団体月扱を中心に新契約募集活動を行うようになり、その後昭和三一年七月には、銀座支社の下に新橋営業所が設置され、団体月払を専門とする部門が確立され、積極的な活動を行うようになった。
そして、被告会社は、集金実施地域として、デビット部門にはF扱実施地域を、プロパーの支社デビット部門(業務月掛)にはK扱実施地域を設定し、集金実施地域内の月所の所管地域を人口(三〇〇〇人をめどとする。)や地域性を勘案して地区割りを行い、営業職員が主として新契約募集及び集金活動を行う地区を担当地区とする、地区制度を実施した。
その結果、戦後開始された月払扱契約は、昭和三九年頃になると、新契約における同契約の占率が全体の八四・一パーセント(団体月払二三・一パーセント、地域月払六一・一パーセント)となるに至った。
(二) 旧地区制度(〈証拠・人証略〉)
被告会社は、地区制度の明確化を図り、地区担当者が退職、休職その他により担当者としての任務遂行が不可能になった場合の取扱方法等を定めるため、昭和四一年四月、「地区取扱規程」及び「職員集金取扱規程」を制定した。前者の規程によれば、同規程は「地区の運営を公正かつ円滑ならしめ、集金能率の向上と契約者奉仕の徹底を図ることを目的とする」ものとされ(一条)、「担当地区は一ないし数個の地区をもって構成し、一名の地区担当者を置く」ものとされ(四条一項)、地区は、人口三〇〇〇人、世帯数一〇〇〇世帯をめどに設定され、本地区と準地区とに区分され(四条二項)、本地区とは、「地区主任が主たる新契約募集及び集金活動並びに契約者奉仕を推進する地区」であり(五条一項)、本地区には原則として一名の地区主任が置かれる(五条二項)。準地区とは、「地区主任の本地区以外の地区であって、地区主任が本地区に準じて担当する地区」、または、「将来地区主任に任用される見込みのある職員に対し、当該職員の任用後の予定担当地区として予め担当させる地区」であり(六条一項)、一担当者につき三地区以内を担当させることができる(六条三項)。地区主任は、「新契約の募集並びに継続保険料の集金に従事するとともに担当地区内の開拓深耕を図り、地区内契約の保全及び契約者奉仕に専念しなければならない」とされていた
地区取扱規程では、「地区担当者の自己担当地区外契約の要集件数は、二〇〇件」を限度とされており(一六条)、職員集金取扱規程によれば、初年度保険料払込中の契約については、「集金時現在職員である新契約取扱者を集金担当者とする」ものとされ(四条一項イ)、「前号による集金担当者のいない契約及び新契約取扱者の休職、長期欠勤あるいは契約者の転居などの理由により新契約取扱者自身が集金不能の契約については、原則としてその契約の契約者の住所を所管する奉仕員を集金担当者とする」ものとされる(四条一項ロ)。また、初年度経過契約については、「原則として契約者の住所を所管する地区担当者を集金担当者とする」ものとされ(四条二項イ)、「当該地区に担当者がいないときは奉仕員を集金担当者と」し(四条二項ロ)、「契約者の住所を所管する地区担当者が二名以上のときは担当者双方の転入契約の保険料金額が均衡化するよう考慮して集金担当者を定める」ものとされていた(四条二項ロ)。
被告会社は、右地区制度の下で、昭和三一年以降、初年度経過契約については、保険料の領収証等集金資料を元の集金担当者に交付せず、契約者の住所を所管する地区担当者に交付する方法により、いわゆる強制転管措置を講じていた。しかし、昭和三〇年代後半からデビット部門の基本施策として、月所の新設が積極的に推進された結果、既設月所の所管地区の一部が所管から外れ、新設月所の所管地区とされることに伴い、営業職員が従来担当していた集金契約も新設月所の地区担当者に転出を余儀なくされる事態が生じた。また、人口動態もいわゆるドーナツ化現象、すなわち大都市から周辺地域への人口流出が進み、大都市の集金契約を周辺地域へ転出する件数も著しく増加した。一方、デビット部門でも代理店制度が実施される等、販売方式の多角化が進むに従い、地区外契約の増大がもたらされた。このように販売環境が変化する中で、引き続き集金契約の強制転管を実施すると、大都市内の集金契約は減少し、周辺地域の集金契約が増大し、必然的に大都市に勤務するデビット営業職員の給与収入が減少し、販売効率が低下することが考えられた。
そこで、被告会社は、右のような環境の変化に対応し、昭和四一年四月、前記地区取扱規程及び職員集金取扱規程とともに、「集金先交換委員会運営基準」を制定し、新たに集金先交換委員会制度を設け、従来の集金契約の強制転出に代えて任意転管すなわち営業職員の申出により集金先交換委員会を通じて、集金契約の転出を行うことに改めることとし、前記のように営業職員の本地区外集金契約の持数制限を二〇〇件と設定することとした。右集金先交換委員会運営基準によれば、同基準は、「地区取扱規程及び職員集金取扱規程の趣旨に則り、特に集金先の担当地区内集約化に関する集金先の相互交換に関する事項及び相互交換に伴って必要とされる本地区・準地区の指定、分割、再編成もしくは担当地区の変更に関する事項を推進するため営業部長(月所長)の諮問機関として設けるものとされていた(一条)。集金先交換委員会は、営業部及び月所毎に設けられ、委員は営業部長(月所長)及び月労支部・分会の指名する若干名で構成して両者同数とし、委員長は営業部長(月所長)とする(二条)、営業部においては毎四半期に一回以上、月所においては毎月一回以上開催するものとし、委員会は委員の三分の二以上の出席があったとき成立する、委員会における協議結果の認定は、出席者の三分の二以上の同意があったときとするが、右認定に対し利害関係者から異議の申立があったときは、営業部長(月所長)は、利害関係者を含めて再度委員会を開催し、協議を行い、なお意見が整わないときは営業部長(月所長)がこれを決定するとされていた(三条ないし五条)。集金先交換基準については、転出対象契約は、本人が希望するほかは、次年度以降の担当地区外契約とするが、団体扱、集団扱及び一事業所件数一〇件以上の契約は転出対象契約から除くものとされ、また、転出基準は、集金先交換を行う直前の転出契約の件数または保険料が転入契約の件数または保険料より下回っているとき、その差に概ね対応する件数、地区外集金件数制限を上回っているとき、その超過件数とされ、その転出優先順位は、〈1〉本人が希望する担当地区外契約、ただし当月内集金であること、〈2〉営業部外の集金先で、その地区の担当者の集金先の契約、〈3〉月所外の集金先で、その地区の担当者の集金先の契約、〈4〉営業部外の集金先で、月所より交通機関を利用して最も遠い集金先の契約、〈5〉月所外の集金先で、月所より交通機関を利用して最も遠い集金先の契約、〈6〉月所内の集金先で、その地区の担当者の集金先である契約、〈7〉月所内の本準地区以外の契約、〈8〉同一集金先に初年度の集金と併集している契約、の順とされ、ただし、その集金先が重契約の見込みが強度なときはその契約の転出を三か月延期し、その間重契約がないときは三か月経過後の交換委員会で転出させるものとされていた(六条)。転出方法については、営業職員は、あらかじめ転出しようとする契約の内容について、所定の様式により、委員会開催の二日前までに、営業部長(月所長)に提出しなければならないとされていた(七条)。
被告会社は、昭和四六年四月に至り、「地区取扱規程」及び「職員集金取扱規程」を一部改訂するとともに、同年八月、「地区管理委員会運営基準」を制定して集金先交換委員会制度を地区管理委員会制度に改訂し、公正な地区内集約の促進を図ることとした。すなわち、それまで持件数を制限されてはいたものの、次年度以降、無限定に集金を認めていた地区外集金を廃止し、限定的な地区外の拠点契約を設定し、拠点契約については次年度以降も集金を認めることとした。拠点契約とは、〈1〉団体・集団として、一年以内に設置できる見込みのある事業所に設置条件の二分の一以上ある基礎契約、〈2〉直前六か月以内に紹介実績のある代理店を集金先とする契約、〈3〉一事業所一〇件以上の契約、〈4〉三条によって認められた団体・集団扱契約及び企業年金契約をいう(改訂後の職員集金取扱規程五条)。そして、契約の転出は原則として、転出入の均衡を保ちながら行うこととし、少なくとも転入のあった分は転出すべきであることを明定した(地区管理委員会運営基準六条)。
なお、被告会社は、地区管理委員会運営基準設定に関する通達において、昭和四一年四月以来地区外契約の積極的転換策を講ずることにより、昭和四四年三月末をもって、営業員の地区外契約保有件数は、二〇〇件以下にまで減少し、要集契約集約化の第一段階の目標はほぼ達成できたとしていた。
(三) 営業職員の旧給与制度(〈証拠・人証略〉)
被告会社の営業職員は、専業職員、一般職員、新職員に区分され(個人職員資格・資格選考規程二条)、専業職員は、上位のものから順に「専業職員特別」、「専業職員一級」、「専業職員二級」、「専業職員補」の四資格に格付され(同四条)、専業職員とは、生命保険の普及活動を職業とする者の社会的使命を自覚し、絶えず高度の専門知識の習得と販売技術の練磨に努めて、専業職員にふさわしい活動実態を有するものをいい(同三条)、専業職員特別は、専業職員一級、二級のうち、勤務状況、活動の姿勢、活動の成果、研修の項目別活動標準を達成している者から任用するものとされ、任用後も一年毎に資格存続選考がなされていた(同七条)。原告は、専業職員特別の資格を有していた。
個人営業職員の給与は、個人職員給与規程により、固定給・比例給・継続給・集金関係給与その他に大別され、専業職員特別については、固定給に当たる本給は、初任時が月額七万九〇〇〇円で、毎年一回四月に、前一か年通算支給成績の標準に対する達成率段階に応じ、一五〇〇円ないし二一〇〇円昇給するものとされていた(五条)。比例給に当たるものとして奨励手当、成績手当、活動手当及び開拓手当があるが、奨励手当は、各月の直前四か月平均支給成績段階に応じ、五万円ないし一九万四〇〇〇円が支給され(七条)、成績手当は、基本分として当月支給成績に対し対万三〇円、超過比例分として直前四か月月平均支給成績と当月の支給成績により、対万三〇円ないし九〇円が支給され(八条)、活動手当は、当月三件以上の挙績者に対し、挙績件数及び一件平均差引修正成績段階に応じて一万六〇〇〇円ないし五万一〇〇〇円が支給され(九条)、開拓手当は、商品別、白地(新契約締結時及び前三か月以内に同一の契約者、被保険者による既契約が存在しない契約)・黒字契約別により、月払換算保険料段階に応じ、普通保険契約一件について、保障性商品については〇円ないし四〇〇〇円、貯蓄性商品については〇円ないし三〇〇〇円が支給されていた(一〇条)。継続給に当たる継続手当は、第二年度から第五年度までの各保険料が完納された契約に対し、年払及び半年払契約については、各年度修正新契約成績に対し対万二〇円、月払契約及び一時払保険契約については、各年度修正新契約成績に対し対万一〇円が支給されていた(一一条)。その他専業職員特別に対しては、研修手当(六条)・通勤交通費補助(一二条)・保障給(一三条)が支給され、これらの各手当は、専業職員一級、同二級、専業職員補にも同様に支給がなされていた(ただし、金額に違いのあるものがある。)が、一般職員については、本給・職能手当・成績手当・開拓手当・継続手当・通勤交通費補助・日額最低保障の賃金項目となっていて、新職員については、本給・職員手当・勤務手当・成績手当・活動手当・開拓手当・通勤交通費補助・保障給の賃金項目となっていた。
集金関係給与については、営業職員に共通であり、保全手当・地区深耕手当・集金手数料・預振契約管理手当に区分されていた。保全手当は、別紙(一)・1「保全手当支給額表」記載のとおり、前三か月月平均次年度以降集金保険料段階に応じ、一〇〇〇円ないし一万一五〇〇円が支給(三か月固定)されていた(六三条)。地区深耕手当は、自己担当本地区内の要集件数が四〇件以上で、かつ当該件数の全要集件数に対する割合が三〇パーセント以上のとき、右割合が三〇パーセント以上の場合は当期保全手当の五割、四〇パーセント以上の場合は同六割が支給(三か月固定)されていた(六四条)。集金手数料は、第二月目以降の保険料を集金したときに実収保険料の三パーセントが支給される(六五条)。預振契約管理手当(いわゆるマル銀管理手当)は、預振契約管理担当者に対し、当該預振契約が入金されたとき、実収入保険料の一パーセントが支給されていた(六六条)。その他、個人職員給与規程には規定がないが、集金関係給与として口座振替時変更手数料があり、口座振替への変更を行った場合は、別紙(一)・2「口座振替時変更手数料表」記載のとおり、月額実収保険料に応じ、一〇〇円ないし年間保険料の一パーセントが支給されていた。
(四) 集金諸制度の改訂提案(〈証拠・人証略〉)
被告会社は、前記(三)の制度改訂を行ったが、めざす地区内集約の成果は得られなかったとして、まず昭和五五年七月、後記の「SSエリア制度」の基本構想を関係組合に提案したが、交渉するまでには至らなかったところ、被告会社は、昭和五八年九月、拠点契約を除く初年度経過の地区外契約を強制転管とすることを内容とする集金関係諸制度改訂提案を関係組合に提案した。すなわち、昭和五八年九月一日付で被告会社が月労に提示した「集金関係諸制度の改訂について」と題する書面によると、デビット契約保有状況をみると、昭和四八年から同五七年にかけて保有件数は一〇八万四〇〇〇件から一〇万六〇〇〇件へと漸減し、保有減少率は一二・五パーセントから一五・六パーセントへと上昇し、新契約解約率も二七・四パーセントから四五・六パーセントへと上昇しており、顧客管理機能が満足に発揮されておらず、期待成果水準には達していないとし、集金の地区内集約化による集金効率の向上、顧客管理責任の明確化と顧客サービスの向上をめざして、自動転管制度を実施し、これに伴って集金給与体系も変更したいとした。
しかし、月労は、これらに反対し、右改訂案を全面的に返上すると回答したため、被告会社はその実施に至らなかった。
4  市場開発・顧客管理制度
(一) SSエリア制度の実施及び就業規則の制定(〈証拠・人証略〉)
被告会社は、市場開拓力の強化と顧客管理体制の確立を企図して、重点的管理すべき市場・顧客ならびにその担当者を明定し、開拓管理責任の一元化と明確化を行い、マーケットシェアの拡大を図ることを目的として、全営業職員について、昭和六一年一〇月一日以降、市場開発・顧客管理制度(以下、SSエリア制度ともいう。)を実施し、これに伴い、被告は、同年四月一日、「営業職員給与規程ならびに育成組織長・指導組織長規程の一部改訂」(以下、本件営業職員給与規程等一部改訂という。)を、同年一〇月一日、集金関係給与支給細則をそれぞれ定め、また、昭和六二年度給与改訂交渉の妥結に伴い、昭和六二年四月一日、営業職員給与規程を定め、いずれも就業規則の一部とした。
さらに、昭和六二年七月一〇日、市場開発・顧客管理制度取扱規程を就業規則の一部として制定し、その施行日を同六一年一〇月一日とした。
その後被告は、昭和六三年五月一日、営業職員給与の改正(以下、昭和六三年就業規則という。)をし、全労組所属の組合員に対し、同年七月五日からこれを適用した。
以下、右の本件営業職員給与規程等一部改訂、集金関係給与支給細則、営業職員給与規程、市場開発・顧客管理制度取扱規程、昭和六三年就業規則を総称して本件就業規則という。
(二) SSエリア制度の概要(〈証拠略〉)
本件市場開発・顧客管理制度取扱規程によれば、「全国全地域を重複することなく区分し、支社の責任開拓管理地域として『支社エリア』を設定」(三条)し、「支社エリアのうち、重点開拓・管理地域を『SSエリア』と呼称」(四条一項)し、「SSエリア内は、集金実施地域とする」(同条二項)ものとされる。そして、SSエリアは、「支社SSエリア、支社直轄SSエリア・営業部SSエリア、営業所SSエリア、営業職員SSエリア」に区分される(五条)。
「営業所はすべて原則として営業所SSエリアを所管する」ものとされ、当該営業所は「Ⅰ型営業所」と呼称され(一〇条一項)、「Ⅰ型営業所所属の勤続一年以上の営業職員はすべてSSタイプ、Sタイプ、Nタイプのいずれかに区分される(一四条一項)。各タイプの営業職員の基本活動については、「SSタイプは、担当SSエリア内の支援情報を活用しながら他人受理契約の集金を含むマルチエリア活動を志向するSSエリアの担当者」であり、「Sタイプは、担当SSエリア内の情報を支援情報を活用しながらマルチエリア活動を志向するSSエリアの担当者」であり、Nタイプは、「(1)特定基盤定着営業職員で、SSエリアを担当せずしても高能率(月平均五件以上を目処とする)を維持できる営業職員、(2)その他特にSSエリアの担当者としてなじまないと判断される営業職員」である。なお、マルチエリア活動とは、時間帯別基盤武装により担当SSエリアの市場特性に応じた複式営業活動(職域及び地域)を展開し、基盤を立体的・系統的に把えて、販売効率の向上・保有顧客数の純増を目指すSSエリア内の多角的活動をいうものである(一五条)。
そして、「原則として営業職員一人につき、一SSエリアを担当させるもの」とされる(二〇条)が、一人の営業職員が複数のSSエリアを担当することも可能である。この場合、「開拓・管理の主となるSSエリアを『主エリア』、他を『副エリア』と呼称する(二一条)。制度移行時のSSエリア担当者配置基準については、制度移行前に地区担当者であ場合、原則として移行前の担当地区に相当するSSエリアにSSタイプとして配置す。ただし、担当するSSエリア数が著しく多い場合は、新規担当者を配置することができ」、「制度移行前に地区担当者でない場合、新規担当者配置基準に則り配置する」ものとされる(二五条)。
右配置基準によれば、原告の場合、地区担当者であったので、担当地区に相当するSSエリアにSSタイプ営業職員として配置されることになる。
「SSエリア制度の定着を図り、制度の厳正かつ円滑な運営を図ることを主眼とし、SSエリア制度全般に関し検討・協議した事項について支社長(営業所長)に対し意見具申することを目的に、支社長(営業所長)の諮問機関として」、「SSエリア推進委員会」が設置されている(五九条)。
(三) SSエリア制度における転管制度(〈証拠略〉)
本件市場開発・顧客管理制度取扱規程によれば、Ⅰ型営業所に所属する営業職員は、自己募集契約のうち集金扱(第二月目以降の継続保険料を集金により収納する契約)及び管理扱(預金口座振替扱契約、集団定期保険扱契約及び郵便振替扱契約)契約を、原則として初年度中は自己担当SSエリアの内外にかかわらず集金・管理するとされる(三二条)が、SSタイプ及びSタイプ職員の自己募集契約のうち、集金扱及び管理扱契約の次年度以降の取扱について、「自己担当SSエリア内契約は、継続して集金・管理するが、自己担当SSエリア外契約は、原則として初年度経過時に、当該契約者の現住所(又は集金先)を担当するSSエリア担当者へ集金・管理を移管する、ただし、別に定める基盤型認定契約の取扱いにより引き続き集金・管理する場合を除くものとされる(三三条一項)。
基盤型認定契約とは、「自己募集契約のうち自己担当SSエリア外の契約については、別に定める基盤型契約認定基準を満たしたものに限り、別に定めるエリア外担当件数基準の範囲内で、基盤型認定契約として次年度以降についても、本人が引き続き集金することを認める」(三七条一項)とされているものであり、基盤型認定基準については、〈1〉本社登録済プレ職団(従業員三〇名以上かつ保有契約五件以上で本社登録された企業)の基礎契約、〈2〉企業先集金扱・管理扱契約、〈3〉直前一年以内に紹介実績のある代理店を集金・管理先とする契約、〈4〉その他支社長が認めた契約と定められている(三八条)。
エリア外担当件数基準について、SSタイプ・Sタイプの営業職員は、「算定時の資格が、指導組織長・育成組織長・専業特別・一級・一級補・二級の場合、集金扱・管理扱の次年度以降担当件数の三〇パーセント又は七〇件のいずれか大きい方を上限とする。算定時の資格が、専業職員補・一般職員・新職員の場合、集金扱・管理扱の次年度以降担当件数の二〇パーセント又は五〇件のいずれか大きい方を上限とする」ものとされている。
右エリア外担当件数基準によれば、原告の場合、SSタイプ職員で、専業特別の資格を有していたので、集金扱・管理扱の次年度以降担当件数の三〇パーセント又は七〇件のいずれか大きい方が上限となる。
右基準を超過した基盤型認定契約については、「年三回(五月・九月・一月)定期的に、各節末のタイプ・資格・担当件数の実績に基づいて前条に定めるところによりエリア外担当件数基準を算出し、基準を超過して担当してい基盤型認定契約については、超過件数の二割を月節末までに転出しなければならない」(四〇条一項)とされるが、「ただし、前項により算出した超過件数の二割相当件数が、本制度発足後第一回目は一五件、第二回目は二〇件、第三回目は二五件を超える場合は、超過分の転出を猶予する」(同条二項)とされ、「資格選考により資格が変更となった場合も、本条一項を準用して転出する」(同条三項)ものとされる。
(四) SSエリア制度における営業職員給与(〈証拠略〉)
SSエリア制度の下における営業職員の給与体系は、営業職員就業規則に基づき定められた本件営業職員給与規程、本件集金関係給与支給細則、市場開発・顧客管理制度取扱規程、昭和六三年就業規則に従っており、これらにより固定給、比例給、継続給、集金関係給与に大別され、なおこの他に、通勤交通費補助及び保障給がある。
固定給とは、各人の属性に応じ、毎月固定的に支払われる給与であり、支給額は、営業職員の資格、勤務状況(実働日数)、専門的知識修得状況に応じて決定される。原告のような専業職員特別の場合、本給、研修手当がこれに当たる。
比例給とは、各人の業績状況に応じ、毎月比例的に支払われる給与であり、支給額は、受理した契約の保険金(修正S、支給Sといわれるもの)、件数(給与Nといわれるもの)、保険料(月換算保険料)に応じて決定される。専業職員特別の場合、奨励手当、成績手当、活動手当及び開拓手当がこれに当たる。
継続給とは、受理した契約が二年以上長期にわたり継続しているときに支払われる給与である。専業職員特別の場合、継続手当がこれに当たる。
集金関係給与とは、第二回目以降の継続保険料の集金件数に応じて支払われる給与、あるいはエリアの開拓状況に応じて支払われる給与である。
SSエリア制度の下における集金関係給与は、エリア管理手当、集金手数料(年払・半年払・月払)、口座振替時変更手数料、調整手当に区分される。
エリア管理手当は、SSエリア制度実施前の保全手当、地区深耕手当を統一改訂したものであり、改訂後の本件営業職員給与規程によれば、「登録後一年以上資格の営業職員のうちSSタイプとしてSSエリアを担当中の者に対して、前三か月月平均件数段階に応じ」(八一条一項)、別紙(二)「エリア管理手当支給額表」記載のとおりの金額(三か月固定)を支給するものである。算定対象契約は、次年度以降主エリア内自己集金担当契約、次年度以降副エリア内自己担当契約及び次年度以降主エリア内自己預振扱担当契約であるが、調整手当支給対象契約、収納保全職員担当契約、代理担当契約は除かれている(同条二項)。なお、集金関係給与支給細則によれば、制度移行保障として、制度移行直前月に保全手当等を受給する営業職員で、制度移行に伴いSSタイプに移行しSSエリアを担当する場合等を制度移行保障対象者とし、これらについて、昭和六一年九月支給分の保全手当等支給額を保障期間中の保障基準額とし(一一条一項、一三条一項)、制度移行保障対象者各々の算定件数実績に基づくエリア管理手当算定額と保障基準額とを比較し、エリア管理手当算定額が保障基準額を下回る場合、その差額に対し、昭和六一年一〇月支給分ないし同六二年九月支給分については差額の全額、同六二年一〇月支給分ないし同六三年支給分については差額の三分の二相当額、同六三年一〇月支給分ないし同六四年九月支給分については差額の三分の一相当額を制度移行保障額と定め(一三条二項)、制度移行保障対象者については、エリア管理手当算定額に前項で定めた制度移行保障額を加算してエリア管理手当を支給するとされている(同条三項)。
集金手数料は、従前も集金手数料として支給されていた(ただし、支給対象契約が異なる。)ものであり、改訂後の本件営業職員給与規程によれば、集金責任を有する営業職員に対して、第二回目以降集金扱の継続保険料(復活保険料を含む。)を集金したときは、集金手数料として、入金契約一件ごとに次の基準により算出した金額を実集金月の翌月に支給するものとされ、支給基準として、年・半年払契約については、実収保険料の一パーセント相当額、月払契約については、実収保険料の三パーセント相当額とされている(八二条一項)。
口座振替時変更手数料は、従前どおりのものであり、口座振替への変更を行った場合、一定の基準により算出した金額を支出するものとされる。右基準について、月額実収保険料が五〇〇〇万円以上のときは年間保険料の一パーセント、三〇〇〇万円以上のときは四〇〇円、二〇〇〇万円以上のときは三〇〇円、二〇〇〇万円未満のときは一〇〇円と定められている。また、年・半年払の場合は一件につき二〇〇円と定められている。
調整手当は、従前の預振契約管理手当(いわゆるマル銀管理手当)を改訂したものであり、改訂後の本件営業職員給与規程によれば、「SSエリア制度以降直前月において預振契約管理手当を受給する営業職員のうち、制度移行後も引き続きSSタイプとしてSSエリアを担当する者に対して、二項に定める対象契約の継続保険料が入金されたとき、実入金保険料の一パーセント相当額を調整手当として入金月の翌月に支給する」(八三条一項)ものとされ、「調整手当の支給対象契約は、制度移行直前月末において前項に定める支給対象者を預振契約管理担当者として設定済みの契約のうち、制度移行後も当該支給対象者本人が引き続き預振契約として担当中の契約を支給対象契約とする」(同条二項)というものである。
(五) 新営業職員制度(〈証拠略〉)
その後さらに、被告会社は、営業職員給与規程を改正して昭和六三年就業規則を制定し、安田労組所属の組合員に対しては昭和六三年五月一日から、全労組所属の組合員に対しては同年七月五日から、「新営業職員制度」として給与体系の改訂を行ったが、右改訂内容中、集金関係給与に関する部分は、次のとおりである。
すなわち、従前のエリア管理手当は、エリア開拓手当Ⅰ、同手当Ⅱ(基本分)及び同手当Ⅱ(加算分)に改め、また従前の集金手数料は、集金経費(年払・半年払・月払)に改め、さらに従前の口座振替変更手数料は廃止し、経過的に銀振化促進経費助成(平成元年四月支給分まで)を行うものとされ(三条、一一〇条)、調整手当のみは、経過取扱として従前どおりのものを保障するとすると(ママ)いうものである。
エリア開拓手当Ⅰは、前三か月における月平均のエリア内自己担当契約件数に応じ、右契約が一五〇件以上のときは四〇〇(ママ)円、一〇〇件以上のときは三〇〇〇円、五〇件以上のときは二〇〇〇円、一〇件以上のときは一〇〇〇円を支給するというものである。エリア開拓手当Ⅱ(基本分)は、前三か月エリア内自己担当契約純増件数に応じ、右純増件数が一件以上のときの一〇〇〇円から、六件以上のときの一万円まで、各件数段階に応じて支給するというものである。エリア開拓手当Ⅱ(加算分)は、前三か月エリア内開拓ポンイトに応じ、一五ポイント以上のときの一〇〇〇円から、九〇ポイント以上のときの五〇〇〇円まで、各ポイント段階に応じて支給するというものである。
集金経費は、集金責任を有する営業職員に対し、第二回目以降の継続保険料を集金したとき、入金契約一件毎に、所定の基準により算出した金額を集金月の翌月に支給するものとされ、右支給基準については、初年度集金、次年度以降エリア内集金の換算件数一件につき二〇〇円、次年度以降エリア外集金一件につき一二〇円とされている。
銀振化促進経費助成は、昭和六三年度以前募集契約については、年間実収保険料の一パーセントを、昭和六三年度募集契約については、一契約につき二〇〇円をそれぞれ支給するというものである。
5  労働協約の締結
(一) 月労(安田労組)との労働協約
被告会社は、月労との間に、昭和六一年三月一九日、営業職員給与規程ならびに育成組織長・指導組織長規程の一部改訂に関する労働協約(以下、本件営業職員給与改訂協約という。)を締結し、また、同年八月一一日、集金関係給与支給細則に関する労働協約(以下、本件集金関係給与協約という。)を締結し、さらに、合併後の安田労組との間に、昭和六二年七月一〇日、本件市場開発・顧客管理制度取扱規程に関する労働協約(以下、本件市場開発・顧客管理協約という。)を締結した(以下、これらの労働協約を本件各労働協約という。)。
(二) 全労組との労働協約
被告は、全労組との間に、昭和六二年五月二〇日、営業職員給与規程に関する協定(以下、昭和六二年協定という。)を締結した。
二  争点
原告に対して、SSエリア制度所定の労働条件の適用があるか否かが争点である。具体的には、
(一)  月労(安田労組)と被告会社との間の本件各労働協約が原告に対し適用されるか。
(二)  全労組と被告会社との間の昭和六二年協定によってSSエリア制度所定の労働条件が原告に対して適用されるか。
(三)  SSエリア制度に関する本件就業規則は有効か。
1 被告の主張
(一) 月労(安田労組)との労働協約に基づく適用
(1) 月労との交渉経過
被告と月労との間においては、月労が結成された昭和三二年九月以降、数多くの労働協約の制定・改訂及びこれに伴う賃金その他の労働条件の制定・改訂が行われたが、それらに際してはその都度交渉を行ったうえ、制度の制定・改訂を実施し、労働協約を締結してきた。しかし、月労からかつて労働協約が無効であるなどと主張されたことは一度もなかった。本件SSエリア制度の実施及びこれに伴う本件営業職員給与改訂協約、集金関係給与協約についての交渉も何回となく行われてきたうえで、その締結に至ったものである。仮に何らかの事情で月労においてこれらを締結する権限がなかったとしても、締結権限ありと信ずるについて正当な理由がある。
(2) 月労の内部手続
月労組合規約一九条四項は、「労働協約の締結及び変更」については組合大会において特別決議を要すると定めているが、その労働協約とは、本体としての労働協約であり、付属協定は含まれていない。このことは、現に年間二〇件ないし三〇件もある付属協定を月労組合規約一九条四項所定の労働協約として運営されてきたことが長い過去にも一度としてなかったことから明らかである。
また、月労組合規約一九条五項には「その他の重要事項」も特別決議事項とされている。しかしながら、SSエリア制度移行時の営業職員の移行取扱いについは(ママ)、F扱取扱営業職員(デビット営業職員)は、原則としてSSタイプに移行するのであり、S、Nタイプへの移行は、本人の希望に基づくのであって、会社が移行を強制するものではない。SSタイプ営業職員の基本活動は、担当エリア内支援情報を活用しながら他人受理契約の集金を含むマルチエリア活動を志向するものであり、旧地区制度下における地区担当者の基本活動と何ら異なるところはない。また、SSエリア制度下においても、契約の転管は、制度的に強制ではなく任意転管であって、エリア外契約の保有制限もいわば指導基準であり、保有限度を超過するエリア外契約の転出を強制するものではない。したがって、SSエリア制度は営業職員の提供すべき労働内容自体の変更であり、最も基本的な労働条件の変更であるとはいえない。したがって、SSエリア制度の実施及びそれに関連する集金関係給与についての定めが「その他の重要事項」に該当しないことも明らかである。
そこで、月労は、昭和六一年二月一九日開催の第五六回中央委員会において、SSエリア制度の実施及びそれに伴う集金関係給与の改訂に関する妥結権を中央執行委員会に付与することを決議し、同年三月六日に被告に右制度の実施等を了承する旨を通告し、同年五月の全国大会で報告審議し、同大会において承認している。
(3) 原告への適用
本件各労働協約は、いずれもSSエリア制度に関し、労働条件その他労働者の待遇に関する基準を内包するものであり、原告は、本件各労働協約締結当時、月労ないし安田労組の組合員であったから、原告は本件各労働協約の適用を受けていたものである。
原告は、昭和六二年八月二七日、安田労組を脱退して全労組に加入したが、本件各労働協約に定める基準は原告との労働契約の内容となっており、もしくは、原告について右基準によることが合理的であるから右脱退後もSSエリア制度の適用があるというべきである。
(二) 全労組との労働協約に基づく適用
(1) 昭和六二年協定
原告が加入した全労組には、既に昭和六二年一月に下総我孫子営業所所属の営業職員七名が、同年四月一日には中野営業所所属の営業職員一一名が、いずれも月労を脱退して加入していたので、被告は、同年度の営業職員の給与改訂に当たって全労組との間で、昭和六一年一〇月一日に実施されているSSエリア制度を当然の前提として協議し、昭和六二年協定を締結しているのであるから、その後全労組に加入した営業職員である原告がSSエリア制度を前提とする本件各労働協約に従うべきことは当然である。因みに、被告は、安田労組とも昭和六二年度営業職員給与改訂に関し、同年四月二三日に全労組との妥結内容と同一の内容で合意妥結し、同年五月二〇日付けで労働協約を締結している。
(2) 追認
そうでないとしても、被告は、昭和六三年四月一日、全労組に対し、昭和六二年協定の破棄を通告したが、被告は、全労組との間に、平成二年六月二九日、営業職員給与改訂に関し、労働協約付属協定(以下、平成二年協定という。)を締結した。平成二年協定は、SSエリア制度下における営業職員の給与改訂協定であるから、当然に平成元年度の被告と全労組間で合意・妥結した内容に基づいて改訂されたものであるが、平成元年度の営業職員給与改訂は昭和六三年度営業職員就業規則を前提に、また昭和六三年度営業職員給与改訂は、昭和六二年度営業職員就業規則を前提にしたものである。したがって、全労組は、平成二年協定を締結したことにより、昭和六二年度、昭和六三年度、平成元年度の各営業職員就業規則の適用を遡って追認したというべきである。
(三) 本件就業規則に基づく適用
(1) 不利益性の有無
SSエリア制度において、SSタイプ職員によるエリアの共同担当は制度上存在しないから、デビット営業職員が地区を取り上げられることはない。またSSエリアタイプの営業職員は、Sタイプ職員(旧プロパーで集金業務を担当しない営業職員がこのタイプに移行した。)とエリアを共同担当(共管)するが、Sタイプの営業職員は、他人受理契約の集金は担当しないので、共同担当者であるSタイプ営業職員に集金を取り上げられることはない。職域基盤についても、従来は圧倒的多数はプロパーが所管していたが、SSエリア制度は属地主義を原則とし、段階的にエリア担当者に移管することとしているので、デビット営業職員から一方的に職域基盤を取り上げることはない。
そもそも生命保険会社における地区制度とは、月掛保険の実施地域を一定の基準(人口規模等)で地区割りを行い、原則として一人の営業職員に地区を担当せしめ、担当地区内の既契約の集金や保全活動を行わせ、それらの活動を通じて新契約の開拓(募集)を行わせる制度であり、これらを円滑かつ効率的に進めるために契約の地区内集約と転管とが論理的前提として、密接不可分なものとなっている。したがって、地区制度においては、集金契約の転管による担当地区内集約を制度骨子としており、SSエリア制度実施前の地区取扱規程によれば、初年度払込中の契約については、保全活動の必要上、新契約取扱者を集金担当者とするが(四条一項イ)、初年度経過契約は、原則として契約者の住所を所管する地区担当者を集金担当者とし(四条二項イ)、契約者の住所を所管する地区担当者に転出(転管)する旨定めている(六条一項)。そして、集金契約の転管は、集金担当者の意思にかかわらず転管されなければならず(強制転管)、現に昭和四一年四月、集金先交換委員会運営基準設定による制度改訂前は、初年度経過の要転出契約については、領収書等の集金資料を送付することで転管を強制していた。しかし、昭和三〇年後半から販売環境が外的内的に変化し、引き続き集金契約の強制転管を実施すると、大都市内の集金契約は減少し、周辺地域の集金契約が増大する跛行減少が進む一方、大都市に勤務するデビット営業職員の担当地区内の集金契約は減少を来すこととなった。そこで、被告会社は、昭和四一年四月、変化する環境に対応して新たに集金先交換委員会制度を設け、従来の集金契約の強制転管に代えて任意転管、すなわち営業職員の申出により集金先交換委員会を通じて、集金本地区外集金契約の持数制限を二〇〇件と設定して、地区内集約を促進することとした(地区取扱規程一六条)。しかし、集金先交換委員会を設置したものの、月所長や営業職員の取組姿勢に不一致があり、転出に強制力を伴わないことから、集約が順調に行われた月掛営業所等がある反面、全く集約が進まない月所もあるなど、めざす地区内集約が公正に推移したとは必ずしも評価しがたいのが実態であった。そこで、被告会社は、昭和四六年四月に地区取扱規程及び職員集金取扱規程を一部改訂するとともに、集金先交換委員会制度を地区管理委員会制度に改訂し、右制度を機能的に推進することにより、公正な地区内集約の促進を図ることとした。すなわち、職員集金取扱規程によれば、持件数を制限されてはいたものの、次年度以降、無限定に集金を認めていた地区外集金を廃止し、限定的な地区外の拠点契約を設定して、この拠点契約については次年度以降も集金を認めることとした(五条)。しかし、制度改訂を行ったものの契約の転出に強制力を伴わないことの限界は脱しきれず、めざす地区内集約の成果は得られなかったのである。SSエリア制度においては、集金関係諸制度の改訂による会社提案が昭和五八年九月に月労から全面返上された経緯から、契約の転出について強制力を持たせることは、月労の合意が得られないことは明白であったので、やむを得ず任意転管とし、指導強化による公正な地区内集約を推進することとした。すなわち、まず新契約を受理した時点で、受理した営業職員が申込書のSSエリア確認欄に基盤型か非基盤型かを記入して、一年経過後当該契約を転管するか否かの意思表示を自主的に行い、さらに、契約成立九月目に基盤確認リストにより申込書において行った転管する、しないの意思表示について当該営業職員に再度確認したうえで、転管するエリア外契約について機械処理による転管をするものであり、制度的に従前と同様、任意転管であって強制でないことは明らかである。しかしながら、転管に強制力を伴わないことから生ずる欠陥の是正はやはり困難で、転管について営業所・営業職員間には依然として不一致があり、集約率もSSエリア制度実施前の昭和六〇年七月末における営業推進部計の集約率が六二パーセントであったのに対し、制度実施後の平成三年三月末では、SSエリアタイプ職員の集約率計は六二・一パーセントで、ほぼ横ばいである。
SSエリア制度は、営業職員の販売活動を合理化し、各種の市場情報、顧客情報を質量ともに拡充する等情報支援を積極的に実施し、営業職員の販売効率を引き上げることにより、給与の増嵩を意図したものである。現にSSエリア制度実施後、営業職員の販売効率は、一人当たり件数において、昭和五八年度二・七二件に対し、同六〇年度二・七六件、同六一年度二・八五件、同六二年度二・九二件と増加しており、一人当たり平均挙績(修正S)も昭和五八年度一〇五三万八〇〇〇円に対し、同六〇年度一二四七万二〇〇〇円、同六一年度一二九七万九〇〇〇円、同六二年度一三九七万五〇〇〇円と増嵩しており、その結果営業職員の給与(固定的・比例的給与)が引上げられたことは明らかである。因みに営業職員の給与は、能率給であり、大別すると固定的給与・比例的給与・集金関係給与で構成されているが、給与の大半を占める固定的給与・比例的給与は新契約の成約成果により算定し支給される。したがって、営業職員の給与水準は、固定的給与・比例的給与・集金関係給与を一体として評価すべきものである。
エリア管理手当については、SSタイプの営業職員に対し、その基本活動である「SSエリア内の支援情報を活用しながら他人受理契約の集金を含むマルチ活動」に対し支払われる給与であり、従前の保全手当と地区深耕手当を一本化したものである。その金額は、次年度以降エリア内実集金件数と次年度以降主エリア内預振扱入金件数とのクロス表により算定されるが、給与の性格上、従前の保全手当では対象とされていたエリア外の集金契約を対象外とした。このため、集約率の低い営業職員については、従前の支給額を下回ることが想定されるので、三年間の制度移行保障の措置を講じている。因みに原告の昭和六〇年三月末の集約率は、三七・四パーセントで、同期の全国平均集約率は六一・七パーセントであるから、平均よりかなり低い集約率である。
マル銀管理手当については、契約の保全管理(アフターサービス)上、担当営業職員に年三回の訪問義務を課し、その対価として保険料の一パーセントを訪問経費として支給していたものであるが、営業職員の訪問実態の把握が困難であり、実効性にも疑問が存したため、契約の保全管理上はむしろ訪問しやすい訪問ツールを開発し、営業職員に提供する方が効果的であるとの判断の下に、被告会社は、年三回の訪問義務の免除とマル銀管理手当の廃止を関係組合に提案したものの合意に達しなかったので、従前から担当していた契約のマル銀管理手当についてのみ訪問義務を免除したうえ、従来通り保険料の一パーセントを調整手当として支給することとしたものであって、単にSSエリア制度実施後の新契約についてマル銀管理手当の廃止を意図したものではない。なお、エリア外でマル銀扱契約を受理した場合にも預振(口座振替時)変更手数料として年間保険料の一パーセントが支給されるのであるから、集金給与上全く賃金の対象とならないことはない。
以上のように、SSエリア実施後、被告会社が意図したとおり営業職員の販売効率が向上し、固定的・比例的給与が引上げられこそすれ、比例的給与が低下したことなど全くなく、給与の約一七パーセントを占めるにすぎない集金関係給与が減少したとしても、給与を一体として捉えれば、営業職員の給与が低下するものとはいえないことは明らかである。
(2) 合理性の有無
生命保険会社にとっては、営業職員の質的向上、すなわち高能率化を推進することが最重要経営課題の一つとなっており、このためには営業職員の重点開拓市場への投入と営業職員に対する市場情報の提供が不可欠である。この重点開拓市場への営業職員の投入と市場情報の提供を合理的・効果的かつ公平に行うためはルール化と制度化が必要であり、さらに会社の顧客に対するアフターサービスのための顧客管理システムの確立もまた重要な経営課題の一つであることから、これらの重要経営課題を解決すべく、昭和五五年以降検討を重ね、昭和五九年一〇月に成案を得たのがSSエリア制度であって、合理的な制度目的を有するものである。
SSエリア制度の下においても、新契約の募集が全国オープンであるのはいわば鉄則であって、SSエリア制度の実施によりこの鉄則が変更され、エリア内だけで新契約の獲得が求められることなどあり得ない。また、SSエリアタイプの営業職員の基本活動は担当エリア内の支援情報を活用しながら、他人受理契約の集金を含むマルチエリア活動であるから、SSエリア制度の実施により、営業職員が職場を中心とする活動に変えていかなければならないことなどない。
昭和六三年五月現在、原告を除く営業職員は全員SSエリア制度に従い、エリア担当者として業務を遂行し、給与の支給を受けている。したがって、原告のみが旧地区制度に基づく地区担当者であるということになれば、他に地区担当者はいないのであるから、原告が転出しようとした契約を受け入れる者がいないことになったり、他の営業職員であるエリア担当者が契約を転出させようとしてもエリア担当者でない原告はこれを受け入れることができなくなる。また、給与についても、原告一人のみが旧規程によるとした場合には、被告会社は膨大な人と金を投入して、原告一人のために、契約維持管理システムや給与計算システムについてプログラム開発を行うか、あるいはこれらを手処理するために必要な人員を常時確保せざるを得なくなる。本来、業務遂行や給与計算・支給などは全社的・統一的に行われるべきであり、一万七〇〇〇人を超える営業職員の中で、原告のみを別異に取扱う理由はないのであるから、原告がSSエリア制度に従うことについては十分合理性がある、というべきである。
2 原告の主張
(一) 月労(安田労組)との労働協約に基づく適用
(1) 労働協約締結に関する月労の規約手続違反
デビット営業員にとってSSエリア制度への移行は、労働条件の重大な不利益変更であるところ、被告と月労との間で昭和五九年一〇月一日に締結された労働協約においては、賃金等の具体的労働条件について一切の定めがなく、すべて付属協定として締結することとなっており(一五条)、月労規約では、「労働協約の締結及び変更」と「その他の重要事項」については全国大会での出席代議員の三分の二以上の賛成を要する特別決議事項と定められ(一九条)、他に付属協定の締結に関する定めは一切ない。したがって、基本的な労働義務の内容や賃金の具体的基準を定める付属協定は、規約上、「労働協約」に当たると解さねばならず、またSSエリア制度が、デビット営業員に対し、転管制度によってエリア外転出義務を新たに課し、集金関係給与を改悪するという、基本的労働条件にかかわる重大な不利益変更であることに照らせば、「その他の重要事項」にも当たるのである。月労は、付属協定は、「労働協約」に当たらないとして、SSエリア制度に関する労働協約を締結するについて、昭和六〇年五月一六・一七日に開催された第三一回全国大会、及び昭和六一年五月一三・一四日に開催された第三二回全国大会において経過報告がされただけで特別決議を経ていないが、特別決議を経ないで締結された被告と月労間のSSエリア制度協定は無効である。なお、月労は、昭和六二年二月一六日に開催された臨時全国大会において、安田労組及び内組と合併するに当たり合併後の新組合に承継される労働協約七六件を、賛成一〇一、反対一、白票一で確認し、右労働協約中には、本件営業職員給与改訂協約及び本件集金関係給与協約が含まれているが、協約の有効性の判断は客観的に下されるものであり、事後的に直接の当事者が有効性を判断しても無意味というべきである。
月労は、第五六回中央委員会で、SSエリア制度に関する労働協約の妥結権限を中央執行委員会に付与し、これに基づき同委員会が妥結を決定したものであるが、組合規約上、中央執行委員会に労働協約ないし付属協定に関する権限は何ら付与されておらず、また妥結内容が前記月労第三一回全国大会で採択された「基本方針」を逸脱したものであることから、中央執行委員会にSSエリア制度に関する労働協約の正当な妥結権限はなかったものである。
右「基本方針」と最終的な妥結内容の間には、デビットにとってより不利益な方向での大きな食い違いがあり、到底「基本方針」に沿った範囲内での妥結とは評しえない。最大の問題であった転出義務については、制度移行四か月後の昭和六二年一月からさっそく具体的に課され、保全・地区深耕手当は減額され、また、マル銀管理手当については組合員に知らされないまま廃止され、プロパーとの共管制も導入された。これをもって、「基本方針」の範囲内とは到底いえず、月労の中央執行委員会は、全国大会で組合員から付託された範囲を逸脱して、より不利益な内容で妥結をしたものであって、正当な権限なく妥結したものである。
(2) 規範的効力
SSエリア制度は、その適用を受ける営業職員のうち、七割を占めるプロパー営業員(全国で採用・配置され、集金義務を負わない。)にとっては、新たにエリアが付与されるという利益のみを与えるのに対し、三割にすぎないデビット営業員(東京・名古屋・大阪・神戸・福岡の五大都市で採用・配置され、集金義務を負担する。)にとっては、プロパーへのエリアの分割を余儀なくされるうえ、エリア外担当件数基準を超える契約は、たとえ基盤型契約の認定を受けていても、転出義務を負わされ、集金関係給与は低下し、転入契約の保全(お守り)をしなければならず、さらにSSエリア推進委員会に関与する権限は全く奪われ、なんらの代償措置もないという、新たな労働義務を課されたうえでの労働条件の重大な不利益変更である。しかも、転出義務による不利益は、通常、受理契約の七ないし八割はエリア外によっているため、同じデビットの中でも優秀な成績の者ほどエリア外保有件数が多く、より大きな不利益を被る。また、賃金に占める集金関係給与の比率が高かった者も転出義務の負担と集金関係給与の引下げという不利益を受ける。
また、エリア制度は、その構想自体が家庭の個人顧客を念頭に置かず、その立場を無視したがために、デビットについては数年にして制度自体破綻したという本質的にも不合理な制度である。
原告は、昭和六一年九月二七日、被告に対し、文書でSSエリア制度の適用に同意しない旨通告しており、被告と月労の労働協約は、月労組合員たる原告にすらその規範的効力を及ぼさない。
原告は、昭和六二年八月二七日、月労(安田労組)を脱退した。同日以降、月労(安田労組)の労働協約が原告に適用されないことは明らかである。
被告は、月労(安田労組)との間の本件各労働協約の締結によって、被告と原告間の労働契約自体が変更されたと主張するが、所属労組の締結した労働協約によって直ちに労働契約そのものが変更されるものではないことは、労組法の規定上も明らかである。
(二) 全労組との協約に基づく適用
(1) 原告の不同意
原告は、昭和六二年八月二七日、全労組に加入したが、全労組は、被告との間で、市場開発・顧客管理制度取扱規程に関する労働協約を締結したことはなく、したがって、全労組組合員には、右規程を適用する余地はない。
原告が全労組に加入した時点で、全労組は、被告との間で、昭和六二年協定を締結していた。しかし、右協定は、SSエリア制度移行時には明確な不同意の意思を表明しなかった月労からの脱退者が同年一月及び四月に加入したために、同年五月二〇日、同組合員らの給与規程として締結されたものであり、明確に不同意を表明していた原告には適用されないものである。
全労組は、SSエリア制度が被告会社から提案されて以来、強力にその反対運動を展開し、制度移行後もその撤廃運動に継続的に取り組んでいる組合であって、SSエリア制度反対を主張している原告を組合に迎えるに当たって、当然のことながら、原告にはSSエリア制度は適用されないとの前提に立っており、被告もそのことは十分に承知している。
(2) 協約の不締結
さらに、昭和六二年協定は、昭和六三年四月一日通告により被告によって破棄され、その後は、賞与受給のため平成二年及び同三年に形式的に営業職員給与規程が締結されたのみで、平成四年以降今日に至るまで、被告と全労組間では、営業職員の給与に関する労働協約は締結されていない。
以上のとおり、SSエリア制度に関する労働協約は、被告と全労組との間では一切締結されず、給与規程も現在は形式的にも存在しないばかりか、実質的には昭和六三年以降、無協約の状態が続いている。
(三) 本件就業規則に基づく適用
(1) 周知義務
SSエリア制度に関する本件市場開発・顧客管理制度取扱規程、営業職員給与等一部改訂、及び集金関係給与支給細則の各就業規則は、その存在すら不明であり、ましてや原告や全労組に周知されたことはなく、このような就業規則に法的効力はない。
(2) 不利益変更
SSエリア制度は、プロパーには新たにエリアが付与されるという利益のみ与える制度であるが、デビットにとっては、プロパーとの共管制が導入されるとともに、エリア外契約の転出義務の設定、転入契約の無償での保全(お守り)、集金関係給与の引下げ、代償措置の不存在という点において、不利益な制度である。
まず転出義務については、SSエリア制度導入前の地区制度下においては、地区外契約については、拠点契約の認定を受けた契約を除き、一年経過時に担当地区に「自動転換」するとの規程が存したが、昭和四六年の改訂以後は一五年間実施していないのが実態であった。また、拠点契約は、申請すれば自動的に認定される状況にあった。ところが、SSエリア制度においては、規程上、エリア外契約については、一定の基準を超える契約は初年度経過時に担当エリアに移管され(本件市場開発・顧客管理制度取扱規程三三条一項二号)、営業員は転出義務を負う(同規程四〇条一項)。右一定基準として、基盤型契約の認定を受けることとエリア外担当件数基準の範囲内であることの二要件(同規程三七条ないし三九条)が定められ、さらに具体的に、年三回(五月・九月・一月)定期的に超過件数の二割の転出を義務づけられたうえ(同規程四〇条一項)、エリア外担当件数基準(資格により、三〇パーセント又は七〇件、あるいは二〇パーセント又は五〇件のいずれか大きい方を上限とする。)の範囲内であってもエリア内集約に努めなければならない(同規程三七条二項)との努力義務まで定められている。SSエリア制度への移行時の経過措置としても、同規程四〇条に従い逐次転出するものとする(同規程四二条)としたうえ、超過件数の二割相当件数が、本制度発足後第一回目は一五件、第二回目は二〇件、第三回目は二五件をそれぞれ超える場合は、超過分の転出を猶予すると定められているにすぎない(同規程四〇条二項)。被告が一つのめどとする二〇〇件を例にとれば、原告は、昭和六二年一月には一五件、同年五月には二〇件、同年九月には一九件の転出が義務づけられ、制度発足一年後には、一四六件しか担当できないことになる。さらに基盤型契約は、あくまで例外的な取扱いであり、極力なくすことがその基本的な考えであって、各所属長に対し、制度発足直後の昭和六一年一〇月二九日付けの「『基盤型契約』の認定の厳正運用に関する件」をもって、基準件数超過は一件たりとも絶対認めないことを方針とするエリア内集約運動が大々的に展開されたのである。
転入契約の保全(お守り)については、転出が義務付けられるということは、反面で他人受理の契約が転入されてくるということであり、従前においても受理営業員が退職した場合には、顧客の住所地の地区担当者に転入されることはあったが、SSエリア制度による転出義務の下では、転入が相当に増加するという「量の面」と受理者も未だ被告会社の営業員として稼働しているのに人間関係の全くないエリア担当者が顧客の保全にあたるという「質の面」の両面で、労働強化となる。生保契約の獲得と継続は、主として営業員と顧客との人間関係(属人関係)と信頼関係による。属人関係のない営業員が転入契約の顧客に接する苦労は並大抵ではない。しかるに、保全労働に対する賃金面での評価は非常に低く、SSエリア制度によって、エリア外の保全労働に対してはほとんど全く賃金が支給されないことになり、エリア内の保全労働の対価まで切り下げられ、さらに、時期は遅れたものの集金労働についても賃金が改悪され、ことにエリア外の集金に対しては、一件一二〇円と交通費にもならない金額とされてしまった。
集金関係給与の改悪については、まずエリア管理手当についてみると、かつての地区制度下においては、地区の内外を問わず、集金保険料に応じて(P建て)定額の保全手当が支給されており(個人職員給与規程六三条)、また本地区内の要集件数が四〇件以上で、かつ、当該件数が全要集件数の三〇パーセント以上の場合に定額の地区深耕手当が支給されていた(同規程六四条)が、SSエリア制度では、エリア内実集金件数、主エリア内実集金件数、主エリア内マル銀入金件数の組合せ(N建て)で定額のエリア管理手当が支給されることになった。すなわち、エリア管理手当の導入によって、エリア外の保全労働に対しては全く対価が支払われないことになった。また、エリア内の保全・集金労働についても、P建てからN建てへの変更と支給基準の高度化によって賃金は減額された。制度移行に当たって経過措置がとられたが、原告については、すべての月について保障措置がとられているが、その合計額は、昭和六二年二月から同六三年六月までの休職期間を除く一四か月間で金七万四六〇〇円{(一万八四〇〇円-一万二〇〇〇円)×九か月+(一万八四〇〇円-一万五〇〇〇円)×五か月}であり、賃金引下げであることは明らかである。右保障措置は、期間三年で、一年目は差額の全額、二年目はその三分の二、三年目は三分の一である。
次にマル銀管理手当についてみると、地区制度下においては、保険料銀行引き落としで集金する契約については、預振契約管理手当(マル銀管理手当)として実収保険料の一パーセントが支給されていた。SSエリア制度によって、同手当は廃止され、新契約をマル銀で受理した場合は、エリア管理手当の対象件数(主エリアに限られる。)となる以外は、全く賃金の対象とならないのである。マル銀管理手当の廃止によって、原告が支給を受け得なかった新契約に対する支給されるべき同手当額は、別紙(三)「マル銀管理手当及び預振変更手数料新旧差額一覧表」(略)記載のとおり、昭和六一年一〇月から昭和六三年一〇月までの間、合計金二六万九七二六円である。なお、制度移行時の既存契約のマル銀管理手当については、従前通り支給され、名称は調整手当と変更されたが、支給対象は現担当者であるから、転出を余儀なくされれば支給されなくなり、また、同一人が担当していても、契約が切り替え、下取り(いわゆるV転)されれば支給されなくなり、調整手当は早晩消滅する賃金費目である。
集金経費についてみると、地区制度下においては、担当契約の集金に対して地区の内外を問わず、実収保険料(P建て)の三パーセントが集金手数料として支給されていた。SSエリア制度下では、昭和六三年度から、P建て三パーセントが廃止され、集金件数に応じ(N建て)一件当たりエリア内及び初年度(すなわち転出義務の課されていない契約については)二〇〇円、エリア外一二〇円の支給となった。なお、その後最近になって、エリア内外を問わず、一八〇円と改訂されている。エリア内により経費(主として交通費であり、営業員の自己負担である。)を要するエリア外集金の方の賃金を低く設定するというのも、エリア内への集約とエリア外契約の転出を促進させる裏付けとしてなされていることは明白である。集金経費の改悪による原告の減収は、別紙(四)「集金手数料(集金経費)新旧差額一覧表」(略)記載のとおり、昭和六三年四月から同年九月までの間、合計金二七万四二四八円である。
預振変更手数料についてみると、地区制度下においては、マル銀契約時または集金契約のマル銀切替時に、一回限りの賃金として、銀行口座振替扱変更手数料(預振手当と略称される。)が年間実収保険料の一パーセント支給されていた。SSエリア制度下では、昭和六三年にこれが廃止されたが、昭和六三年度募集契約に限り、銀振化促進経費助成として、一件二〇〇円が支給された。預振手当廃止による原告の減収は、別紙(三)「マル銀管理手当及び預振変更手数料新旧差額一覧表」記載のとおり、昭和六三年四月から同年一〇月までの間、合計金八万八一九一円である。
(3) 合理性
SSエリア制度は、大中堅法人・職域の開拓に引き続き注力する一方、中小法人・職域の開拓に重点を置いた地域市場の開発を制度目的とするものである。ここに明らかなように、SSエリア制度は、デビット営業員が対象とする家庭や個人を度外視した制度であり、営業職員の七割を占めるプロパーを対象に、新たに担当地域(エリア)を設定し、エリア内での職域開拓に重点的、集中的に当たらせることを目的として構想された制度であって、この中に業態の違うデビットを、地区外集金先に強く支えられて、地区外を営業基盤としている実態を無視してはめ込んでしまい、併せてデビットにもエリア内での職域開拓まで行わせようと目論んだ制度なのである。三割のデビットを無視した制度である以上、デビット営業員に対して規程どおりに制度を適用することはそもそも無理であった。
さらに基本的な構想として、プロパーによる職域開拓を念頭に置いたためもあり、個人顧客にも、営業員との人間的信頼関係が形成されない限り契約を獲得することはできないという特性を無視して、法人・職域と同じスタイルで契約は取れる、取らなければならないとの思想に立脚したことが基本的欠陥であった。
当然の帰結として、デビットに関するSSエリア制度の最大の目的であった転出義務によるエリア内集約は見直しを迫られ、ついに平成三年八月、既契約者市場対策推進プロジェクト事務局は、「既契約者市場について(基本方向、検討事項)」を公表し、転管制度について「支社エリア(もしくは広域ブロック)にて転管判定する。」との基本方向を打ち出した。支社エリアでの捕捉率は、概ね九五パーセントを超える実態にある。すなわち、デビット営業員は受理した契約のほぼすべてを次年度以降も担当(集金・保全)できることとなり、デビットにとってSSエリア制度は大いなる破産をしたのである。
被告会社の業績は年々悪化したが、その主要な原因がSSエリア制度にあることは明らかである。
第三  争点に対する判断
一  月労(安田労組)との労働協約に基づく適用について
1  SSエリア制度の概要
証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、被告会社は、昭和六一年四月二三日頃、社内に配布した「SSエリア制度の概要」と題する資料において、次のとおり説明していることが認められる。
すなわち、その目的・概略については、普保市場において、マーケット・シェアを拡大していくため、大中堅法人・職域の開拓に引き続き注力する一方、従来から被告会社が劣勢である中小法人・職域の開拓に重点を置いた地域市場の開発及び顧客管理体制の確立をめざすものであり、プロパーとデビットを統一した新基盤ルールを確立し、担当者の新規投入、既設基盤の再開発を促進する。同ルールの適用により、SSエリアを継続的挙績可能な基盤とすべく一定規模以下の法人・職域基盤は、属地主義を原則として順次エリア担当者に集約をはかる。保有契約の一元管理と自動転管制度により既契約先のエリア内(エリア担当者)への集約を行い、営業員活動の効率化と担当エリア内に対する密着を強化する。本制度の実効ある運営を期して、各種セールス・サポートの充実と非集金扱契約の管理手法向上をはかるとともに、地域開拓技法、特に地域中小法人・職域の継続的・組織的開拓技法の開発・向上に主眼を置いた指導・支援体制を強化する。マル銀扱いを含め保有契約についてマン・ツウ・マンで管理担当者を設定して顧客の管理と基盤化を徹底するとともに、地域市場開拓の強化と相まってエリア内の保有顧客純増を推進する。特化した職域専門営業員による対応を推進すべき市場もあるが、各地域の市場特性に応じた複式営業活動(職域プラス地域)による時間帯別基盤武装を通じて主力商品を安定して月三件以上挙績可能な営業員育成をめざす。担当エリアをベース基盤の一つとして効率的な開拓を進めるためには、顧客への継続的訪問手法からみて、適量かつ適集約率といった条件下では集金を伴ったエリア活動が望ましいといえる。しかし、市場のちょう密な地域での複数営業員の戦略的配置、増加するマル銀扱への顧客管理対応、集金業務になじみの少ないプロパー営業員の本制度への円滑な移行も考慮し、他人受理集金を担当しないエリア担当者をもう一方のエリア担当者のタイプとして設定する、としている。
責任開拓管理地域の設定については、支社エリアは、行政区画、管内営業所所在地、当該地域の開拓状況(保有契約状況)、鉄道路線(交通の便)、商圏エリア等を参考にして本社が設定する。支社エリア中、重点開拓・管理地域を定め、「支社SSエリア」と呼称する(制度発足当初は、現行F・D・K扱実施地域の外円を支社SSエリアとする)。支社SSエリアは、集金実施地域(個別月払及び年・半年払)とする。SSエリア外の集金扱の新契約受理は取り扱わない。F・D・K扱等の呼称、諸取扱いはすべて統一する。支社SSエリア内の支社母店所在都市における重点開拓・管理地域を定め、「支社直轄SSエリア」と呼称する。支社SSエリア内の支社母店所在都市外で、営業部所在都市における重点開拓・管理地域を定め、「営業部SSエリア」と呼称する。支社SSエリアに、市場性のバランス(人口・世帯数・事業所数及び保有契約状況)、営業所毎の陣容、営業員の活動効率等を総合判断して、営業所SSエリアを設ける。原則として、丸の内法人支社管下営業所、フローラ営業所、本社及び支社・営業部直属、特別研修所、その他特に本社が指定した営業所(Ⅱ型営業所)を除く全営業所(Ⅰ型営業所)は、SSエリアを担当する。SSエリアの総合開拓・管理責任は、支社SSエリアについては支社長が、営業部SSエリアについては営業部長が、営業所SSエリアについては営業所長が、それぞれ負う。支社SSエリアを開拓・管理する基本単位として、市場性(人口数三〇〇〇人前後・世帯数一〇〇〇世帯前後・事業所数・金融機関・保有契約状況等)を総合的に勘案し、原則として行政区画を構成単位として、営業員SSエリアを設定し、担当営業員を配置する、とする。
営業員SSエリア担当者については、Ⅰ型営業所所属の営業員のタイプをSSタイプ、Sタイプ、Nタイプ(ノンエリア)に三分類する。SSタイプ営業員とは、担当SSエリア内の支援情報を活用しながら、他人受理集金を含むマルチエリア活動を志向するエリアの担当者であり、旧デビット営業員及びプロパーのデビット営業員(F、K、OD扱営業員)がこのタイプに移行した。Sタイプ営業員は、担当SSエリア内の支援情報を活用しながら、マルチエリア活動を志向するエリアの担当者である。旧プロパーの集金業務を行っていなかった営業員(D扱営業員)がこのタイプに移行した。Nタイプ営業職員は、特定基盤定着営業員で、SSエリアを担当せずしても高能率(月平均五件以上をめどとする。)を維持できる営業員、その他特にエリア担当者としてなじまないと判断される営業員である。
SSエリア担当者の配置については、原則としてSSタイプ及びSタイプ営業員を所属営業所SSエリア内に配置することができる。一営業員一エリア担当を基本とするが、複数エリアを担当する場合は同一タイプとしてのみ可とする。主エリアは一エリアのみとし、副エリアは原則として二エリアまでとする。一営業員SSエリアには、SSタイプ一名とSタイプ二名を上限として配置することができる。制度実施前に地区担当者の場合、原則として、現在担当地区に相当するSSエリアのSSタイプ担当者とする。制度実施直前に担当している集金扱契約・マル銀扱契約については、現担当者が新エリア内外にかかわらず引き続き担当することができる。但し、エリア外担当件数基準を超える場合は、エリア外契約の取扱いに則り逐次転管するものとする。
SSエリア担当者と集金・管理担当契約については、現行の個別月払集金営業員集金扱F、D、(OD)・K扱及び年・半年払の収納保全職員集金扱を一元化し、「集金扱」と総称する。また、現行のマル銀・集定扱・振替扱を「管理扱」と総称する。SSエリア担当者の集金・管理担当契約の範囲については、原則として初年度自己募集契約のうち集金扱・管理扱契約は担当エリアの内外にかかわらず担当する。次年度以降自己募集契約については、担当エリア内自己募集契約は、集金・管理扱とも継続担当するが、担当エリア外自己募集契約は、エリア外契約の取扱いによる。制度発足後の担当エリア内転入契約については、専管エリアの場合、集金扱転入契約は、SSタイプが担当する。管理扱転入契約は、エリア担当者が担当する。共管エリアの場合には、集金扱転入契約は、SSタイプが担当する。管理扱は、前任者(転出者)と同一タイプ者が担当する。エリア外契約の取扱いについては、担当エリア外の契約は、初年度契約(一二月目入金後自動転管)及び基盤型契約を除き、すべて当該契約者の現住所または集金元のエリア担当者に移管する(自動転管制度の確立)。基盤型契約の取扱い、基盤型契約の認定条件、エリア外担当件数基準は、前記第二の「基礎となる事実関係」中の4の(三)「SSエリア制度における転管制度」に記載したとおりであるが、右件数基準の範囲内であっても、SSエリア制度の主旨に鑑み、転出入均衡の原則に則って、エリア内集約に努めなければならない。制度移行時の取扱いにより、右基準を超過して担当する者については、各節末の実績に基づいて年三回(五月、九月、一月)定期的に判定を行い、次により段階的な収束を図る。すなわち、各節末(三月末、七月末、一一月末)の担当件数から「エリア外担当件数基準」限度を算出し、担当エリア外契約が右件数限度を超過している場合は、当面超過件数の二割を次節末までに各エリア担当者へ転出する。
販売支援情報の提供については、従来は、集金員に対してYDカード(契約内容・訪問記録等を記載するカード)が提供されるだけであったが、SSエリア担当者に対し、SS台帳(個人情報・法人情報)・SSカレンダー・SSメッセージ(誕生日情報・支払情報・年齢アップ情報・お祝い情報)等、エリア開拓管理のための各種支援情報が提供されることになる。
SSエリア推進委員会運営基準については、支社SSエリア推進委員会と営業所SSエリア推進委員会があるが、いずれもSSエリア制度の定着を図り、制度効果を最大限発揮するため制度の厳正かつ円滑な運営を図ることを主眼とし、SSエリア制度全般に関し、検討・協議した事項について、支社長に対し意見具申することを目的に、支社長(営業所長)諮問機関として設置するものである。
集金給与については、SSタイプ営業職員には、エリア管理手当として、一年以上営業職員のうち、前三か月月平均次年度以降集金及びマル銀件数ランクに応じ、別紙(二)「エリア管理手当支給額表」記載のとおりの金額を支給(三か月固定)する。エリア管理手当は、従来の保全手当及び地区深耕手当に代わるものであり、制度実施前に右各手当を受給していた者について、右支給額表所定の金額が制度実施直前月の保全手当・地区深耕手当の合計額を下回るときは、その差額に対し、制度実施一年目は全額、二年目は三分の二相当額、三年目は三分の一相当額を保障する。調整手当として制度実施前マル銀管理手当支給対象契約を制度実施後も同一担当者が引き続き担当中に限り、当該契約の実収保険料の一パーセントを支給する。但し、エリア管理手当の対象件数から除外する。調整手当は、従来の預振契約管理手当に代わるものである。集金手数料として、月払の第二回目以降の保険料を集金したときは、従来どおり、実収保険料の三パーセントを支給する。年・半年払の第二回目以降の保険料を集金したときは、実収保険料の一パーセントを支給する。なお、口座振替時変更手数料も従来どおり支給する。Sタイプ職員及びNタイプ職員には、エリア管理手当及び調整手当は支給されない。
2  SSエリア制度に対する月労の対応
前記第二の「基礎となる事実関係」記載の事実と証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告会社は、まず昭和五五年七月、それまでの制度改訂ではめざす地区内集約の成果は得られなかったとして、後記の「SSエリア制度」の基本構想を関係組合に提案したが、交渉するまでには至らなかったところ、月労が、昭和五六年五月一二日から一四日にかけて開催した第二七回定期全国大会において採択した昭和五六年度運動方針案では、「地区制度と集金制度の基本方向」として、〈1〉デビット営業員は最低一地区(本地区)を担当する。〈2〉月所間の地区数、要集と職員数の著しい不均衡解消と地区内活動へ支援強化を可能とするため、支社地区制による担当地区の設定をはかる。〈3〉地区内集約の基本対策として、地区外契約は一定の枠を設ける、初年度経過契約は自動転管とする、右以外の地区外契約は現行の転出入の均衡を基本とする。〈4〉地区担当数、要集件数等によるデビット営業員のタイプ区分化は、活動実体が区々である現状と現実の運営の困難性から行わない。但し、職団、金融等の基盤付与ルール及び地盤解放基準と担当地区、要集、適格性との調整は検討していく。〈5〉地区制度は基本的には「属地主義」としての機能とその活動を求めるのであるが、現在の実態は集金先との「属人関係」が主体となっており、この事実は無視できない。したがって、急激な変化は行わない。〈6〉SSエリア制度はプロパー契約の集約も含めた構想であり、社内営組の取組状況も判断しつつ、対応並びに調整を行っていく。〈7〉月労の方針とSSエリア制度会社構想との調整が具体化した場合は、組織内に明らかにし、併せて一部支社におけるるテスト実施をすすめる。〈8〉地区内の集約と販売の合一活動を重視する基本に合わせて、集金関係給与の体系改訂と水準の改善をはかる、としている。
(二) 月労は、被告会社から昭和五九年一〇月三〇日に「新市場開発、顧客管理制度(SSエリア制度)の実施について」との文書で受けた提案に対し、昭和六〇年五月一四日から一六日にかけて行われた第三一回定期全国大会において、次の内容の「SSエリア制度に対する基本方針」(以下、月労基本方針という。)を付議し、承認された。その内容の要旨は次のとおりである。すなわち、〈1〉SSエリア(地区)の設定に関しては、行政区画をベースとした「地区」の見直し、再編成による原担当者への影響に対して適切な措置をとる。「仮担当(準地区)」の名称は不適格である。「仮」はいつでも「担当を外す」ねらいがあり、新契約・集金の合一活動に適さない。〈2〉SSエリア担当者に関しては、営業員を「資格」と「基本的パターン」によってSS、SⅠ、SⅡ、SSSの四タイプに区分することは問題である。デビットはSSのみで一本化する。集金・管理扱契約に関しては、SSエリア内は現在のF扱、マル銀のほか、他の扱いを含めた総合的な集金・管理も検討する。一つのエリア内は、SSタイプ一名を原則とし、SⅠタイプとの共管制は行わない。〈3〉自動転管(一二月目入金後)は、当面実施しない。担当エリア外(地区外)も適当な件数は必要である。そのためのエリア外保有件数(枠)基準を設ける。基盤型契約(拠点)はこの保有基準に関連づけて検討する。SSエリア開拓・管理基準に関しては、主担当(本地区)の変更は市場性の問題もしくは本人の申出によって決定する。仮担当地区の開放基準と開放する場合の契約の転出基準の適正化を図る。担当エリア管理状況による担当交替は行わない。集金・管理契約の行き過ぎた限度枠(件数の)指導を排除する。〈4〉SSエリア推進委員会運営基準に関しては、この委員会には支部、分会とも参加しない。SSエリア制度本体の基準を明確にし、委員会の勝手な決定を抑制する問題が生じたときは支部・分会活動として交渉の課題としていく。〈5〉昭和五八年九月に提案された「集金関係給与改訂案」は、会社側よりSSエリア制度に関連させ、再提案される予定であるが、組合としては、「集金保全労働の適正な評価を基本」とし、現行水準の確保をはかることとする。
月労は、昭和六〇年七月三日、右月労基本方針を被告会社に回答し、その後被告会社との交渉に入った。右交渉の過程で、被告会社は、昭和六一年一月二七日、SSエリア制度について修正提案をした。その内容は、以下のとおりである。〈1〉「地区」から「エリア」への移行に当たっては、原則として現集金担当契約を引き続き担当する形でスタートする。「仮担当エリア」の呼称は、主エリア、副エリアで差し支えない。〈2〉営業員タイプ区分は、SS及びSⅡについてはSSと、SⅠについてはSと、SSSについてはNとする。〈3〉エリア外保有件数基準は、集金扱、管理扱とも一定の割合または一定件数での基準を設ける。年三回のエリア集約推進期に、この基準を超過しているときは転出する。第一三月目の自動転管はエリア外保有件数の申告がないものについて実施する(申告あれば転出しない)。営業エリアは、現在のデビット営業所のエリア(所管地域)を分割再編成し、新たに現プロパー営業所のエリアを設けるか、または統合支社は一定のエリアはデビットとプロパー双方が共に担当していく方法のいずれかを検討していく。営業員エリアの専管、共管は、営業所エリアの設け方、営業員エリア(現在の本、準地区)の市場性などの個別事情をとらえて行う。〈4〉SSエリア推進委員会への参加については、支社には支部役員、営業員には分会役員が営業員代表で参加する方向で検討する。委員会の決定には「営業員の意向反映」の表現を盛り込む。〈5〉集金給与の中心的存在である集金手数料について、実収手数料の三パーセントを支給する。月労は、昭和六一年二月一九日に開催された第五六回中央委員会において、右修正提案内容を説明・審議し、これがほぼ月労基本方針に沿うものであるとして、交渉継続中の集金関係給与上積み交渉経過を待って、妥結権限を中央執行委員会に付与することとした。
昭和六一年二月二七日、被告会社から集金関係給与の再修正提案がなされ、月労は、同年三月四日から六日にかけて開催された中央執行委員会において、右再修正提案を評価し、交渉妥結を決定し、同年三月一九日、被告会社に対し、SSエリア制度の実施及び集金関係給与の改訂について了承する旨通告した。そこで、被告会社と月労は、右同日、本件営業職員給与協約を締結した。
月労執行部は、昭和六一年五月一三日から一五日にかけて開催された月労第三二回定期大会において、昭和六〇年度経過報告を行い、その中で、「SSエリア制度の取り組み」に関し、被告会社からなされた修正提案が組合の主張をほぼ全面的に受け入れたものであり、エリア管理手当の上積み回答を評価し、中央執行委員会で検討を行うとともに、安田労連との協議・調整を進め、今後は昭和六一年一〇月実施に向けて、制度内容の細部、関連諸規定の整備等の交渉と、実施のための準備作業、教育スケジュールの確認を行っていくことにしたと報告し、同報告は賛成多数で承認された。
被告会社と月労は、同年八月一一日、本件集金関係給与支給協約を締結した。
月労は、昭和六二年二月一六日に開催された臨時全国大会において、本件営業職員給与協約等、被告会社との間に締結した労働協約が現に有効であること、これが組合合併後も引き続き新組合に承継されること、及び本件集金関係給与協約等、前記第三二回定期大会以降に被告会社との間に締結した労働協約について承認を求めたところ、投票総数一〇七票、うち賛成一〇一票、反対一票、白票五票で承認された。
月労は、昭和六二年四月一日、内組・営組と合併して安田労組となったが、被告会社は、同年七月一〇日、右合併後の安田労組との間に、昭和六一年一〇月一日を施行日とする本件市場開発・顧客管理協約を締結した。
3  SSエリア制度に対する原告の対応
前記第二の「基礎となる事実関係」記載の事実と証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実が認められる。
原告は、月労東京南支部旗ノ台分会に所属していたが、SSエリア制度が提案された後である昭和六〇年三月頃、同制度は、集金手数料が三パーセントでなくなる、地区外の顧客を被告会社が取り上げる、顧客の情報が契約担当者以外の者に知れるので顧客のプライバシーの侵害となるなどの点において、制度の改悪であるとの認識を抱き、これに反対し、その実施を阻止するため、同年五月一四日から一六日にかけて開催された月労の第三一回定期大会において、志を同じくする者らとともに、昭和六〇年度の本部役員(中央執行委員長)に立候補したが選出されなかった(八代長斗が再選された。)。
その後、右第三一回定期大会において原告らがとった行動等が、月労統制委員会によって統制対象として取り上げられた。同委員会は、昭和六一年四月一四日、「原告らが配布した宣伝文書は、立候補による選挙活動の形式をとっているが、その内容は当時(SSエリア制度に反対していた)全労組による月労への中傷、虚偽の宣伝文書の内容と全く同一に等しく、全労組と共同行動をとったのではないかとみられた。」等と認定したが、制裁は行わず、月労の団結に向けた行動を求めていくことが適切であると答申し、右答申を受けた月労中央執行委員会は、同年八月一三日、原告に対し、厳重注意する旨の通知をした。
また、原告は、昭和六一年四月九日、月労東京南支部の第三回定期大会において、SSエリア制度に反対する立場から、昭和六一年度支部役員(委員長)に立候補し、当選した。
そして、原告は、昭和六一年五月一三日から一五日にかけて開催された月労第三二回定期大会に向け、同月二日、東京南支部委員長として、月労本部に対し、〈1〉マル銀管理手当を現行どおり支給せよ、〈2〉エリア管理手当を現状の保全・深耕手当のままにせよ、〈3〉エリア外保有件数基準というしばりをなくせ、〈4〉デビットとプロパーの不平等をなくせ、等とする議案を提出した。これに対し、月労執行部は、四四支部から提出された議案は、多数かつ内容も広範囲に及んでおり、右定期大会で一項目ずつ審議することは時間的にも技術的にも困難であり、右議案は、新執行部が昭和六一年度運動方針及び安田労連活動に結合させながら細部の検討を行い、取扱いを決定したいと提案した。同大会において、原告は、昭和六〇年度の経過報告中の「SSエリア制度の取り組み」に関し、同制度に反対する立場から質問し、緊急動議を提出するなどと述べたが、同緊急動議は取上げられず、結局右経過報告は賛成多数で承認された。
この間、原告は、月労東京南支部旗ノ台分会の分会集会や、右支部の分会代表者会議・執行委員会等において、SSエリア制度に反対する活動をし、また昭和六〇年五月頃には、同制度の実施を阻止するべく、被告会社の安田一取締役会長に手紙を送付するなどした。
原告は、SSエリア制度実施が間近に迫った昭和六一年九月二七日頃、被告会社に対し、「SSタイプ営業員を選択するが、右制度には同意しかねるので異議を留める」旨、文書で通知した。
原告は、昭和六二年三月二〇日、被告会社及び月労(安田労組)を被告として(後者に対しては後に訴えを取り下げた。)、本件営業職員給与改訂協約及び本件集金関係給与協約が無効であること等の確認を求めて、本訴を提起した。
そして、原告は、昭和六二年八月二七日月労を脱退し、同日、SSエリア制度に反対する立場をとっていた全労組に加入した。
なお、原告は、昭和六二年四月二八日から同年七月三一日まで、及び昭和六三年一〇月一一日以降、被告会社を休職している。
4  本件各労働協約の効力
右1ないし3に認定した事実及び前記第二の「基礎となる事実関係」記載の事実をもとに、被告会社と月労(安田労組)との間に締結された本件各労働協約の効力が原告に及ぶかどうかについて検討する。
(一) 労組法一六条の規範的効力
労組法は、労働協約の内容が合理性を有しなければならない旨を規定しているわけではないから、協約内容については、労使間の自治的判断にゆだねられており、労働者は、その所属する労働組合が団結力と集団規制力をもって使用者との間に締結する労働協約を通じて労働条件の維持改善を図っていくべきものであるとする趣旨であるとみることができ、労組法一六条が、労働協約中の労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に労働契約を直接規律する効力を付与しているのは、右の趣旨を端的に承認していると解せられる。
したがって、労働条件の一部又は全部を不利益に変更する内容を含む労働協約についても、それぞれ労使間の自治的判断の結果締結されたものである以上、これに規範的効力が生ずるものと解するのが相当であり、当該労働協約の内容が労基法に違反し、あるいは、公序良俗に違反して無効であるなど、特段の事情があると認められる場合でない限り、右労働協約が定める労働条件は、労働契約の内容を直接定める直律的効力を有するものと解すべきである。
これを本件に即していえば、SSエリア制度は、テビット営業職員に対し、エリア内での職域営業活動をも可能とし、種々の販売支援情報の提供を受けられ、また自己の担当する契約をエリア内に集約することにより、きめ細かな販売活動が可能となり、新規契約獲得に結び付けることができ、ひいては比例的給与の上昇につなげることが可能となるなど、労働者にとって利益とみられる側面を有している反面、転管制度により初年度経過時以降、基盤型契約の認定がされないエリア外契約を転出しなければならず、また集金関係給与が引き下げられるという不利益な側面も有することを否定できない。
しかしながら、本件各労働協約は、その内容について労基法違反、公序良俗違反として無効とすべき事情は見出しがたいうえ、昭和五九年一〇月三〇日に、被告会社から月労ほか関係労組に提案されて以来、月労では、内部諸機関での慎重な討議・検討を経たうえ、所定の手続を踏んでこれを締結したものであり、右締結過程に明白かつ重大な手続的瑕疵も認めがたく、原告が特定の労働者として不利益に取り扱われた事情も認められないことに照らすと、SSエリア制度を内容とする本件各労働協約は、原告が月労に所属する組合員である限り、原告に対し、その規範的効力を及ぼすものと認めるのが相当である。
(二) 労働協約の労働契約に及ぼす影響
ところで、労働協約が組合員に及ぼす効力は、協約当事者たる組合員であることに根拠づけられているものであるところ、原告は、昭和六二年八月二七日、月労を脱退し、全労組に加入したのであるから、右脱退後は、被告会社と月労との間に締結された各労働協約の効力は、非組合員である原告には及ばなくなったと解するほかない。
被告は、本件各労働協約に定める基準は、原告との労働契約の内容となっており、または右基準によることが合理的であるから、原告について、右脱退後もSSエリア制度の適用があると主張するが、労働契約の内容は労働者と使用者との間の意思表示の合致によってのみ定まるのであって、労組法一六条は、労働協約規範が労働契約の内容を外部から規律する効力を有する旨を定めているにすぎないと解されるから、労働契約の内容は労働協約で定める基準によるとの合意が存しない限り、労働組合が会社との間に締結していた労働協約の内容がそのまま当然に労働契約の内容となるということはできず、労働契約当事者の合理的意思が、労働組合脱退後も労働協約に定める労働条件を労働契約の内容に取り込んで存続させることにあると認められる等特段の事情がある場合に限り、労働協約に定める基準が労働契約の内容になるにすぎないものと解するのが相当であるというべきである。
これを本件についてみるに、前記の事実関係からすれば、原告は、SSエリア制度に関する会社提案がなされて以来、終始同制度に反対する意思を有していたことが明らかであり、しかも、これが被告会社に表示されていたのであるから、被告会社と月労との間に締結された、同制度を内容とする労働協約規範が、組合脱退後も被告会社と原告との労働契約の内容となるとの合理的意思が存したと推認することは困難である。
そうすると、被告会社と月労(安田労組)との間に締結された労働協約に基づく規範を月労(安田労組)脱退後の原告に及ぼすことはできないというべきである。
二  全労組との労働協約に基づく適用について
1  SSエリア制度の運用
前記第二の「基礎となる事実関係」記載の事実と証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実が認められる。
SSエリア制度は、昭和六一年一〇月一日から実施されたが、被告会社は、特に自動転管制度によるエリア内集約率を高めるため、次のような措置を講じた。すなわち、被告会社営業推進部は、同年一〇月二九日付けで、「『基盤型契約』認定の厳正運用に関する件」と題する社内通達を発し、その中で、「市場・生活環境の変化等に対応して、毎日・毎月における総稼働時間の確保と充実した活動を実践・指導することは、新人育成・効率アップに不可欠であることはいうまでもない。わが社の緊急課題である顧客サービスの充実による継続・解約率の改善には、顧客にとって『いつでも身近に相談相手のいる体制』となっていることが不可欠であり、それがひいては顧客のオール安田化につながるとの基本認識がSSの原点である。また大手各社においてもほとんど例外なしに『顧客サービス・管理は属地主義』が当たり前になっており、かつての全件受理店・受理者管理といった考えは、SSを契機に絶対打破せねばならない。」とし、基盤型契約についても、今後一定の基準により、基準超過件数は一件たりとも絶対認めない方針で、エリア外契約の収束を図っていくこととする旨を通達した。
そして、被告会社営業推進部は、社内新聞である「アタック・マイエリア」を発行し、集約率順位、転出率順位を発表する等して、エリア内集約運動を促進するキャンペーンを行った。
エリア外契約の転管の取扱いについては、まず、新契約成立時、営業職員は、生命保険契約申込書の「会社使用欄」中の「SSエリア確認欄」に担当エリアの内・外、担当エリア外である場合は、基盤型か非基盤型か、基盤型である場合は、市場開発・顧客管理制度取扱規程三八条所定の基盤型認定基準のいずれの登録区分に該当するかを記入する。その後の取扱いは、被告会社収納保全部が、昭和六二年六月八日に発した、「『一三月目自動転管』の開始について」と題する社内通達により、次のとおり定められた。すなわち、エリア担当支社・営業所・担当者への転管は、該当契約の機械収録住所の形態により、自動転管と個別転管に区分される。転管の具体的手順については、九月目一三日頃、一三月目転管対象契約について基盤確認リストを作成する。自動転管対象契約については、基盤確認リストに基づき、一一月目の五日までに、基盤登録・抹消異動票を起票し、コンピューターに基盤コードの入力を行う(基盤コード0の契約が一三月目自動転管される。同コード2ないし5の契約は基盤登録され、同コード7で基盤抹消される)。入力後、集金扱一三月目自動転管の該当契約については、一二月目領収証の入金控欄に「ジゲツテンカンヨテイ」と表示する。個別転管対象契約については、引き続き、基盤型契約として担当するかどうか担当者に確認し、担当しない契約については、一二月目入金確認後、諸転入異動票を起票してエリア所管担当者に個別転管する。自動転管契約について、一一月目一〇日頃、基盤確認リストに基づき現所管での基盤型契約見直しによる登録変更後、一三月目転入予定契約リストを作成し、新所管宛て送付する。そして、一二月目保険料入金後、集金扱契約については、契約指示メッセージ及び案内調整メッセージにより通知し、管理扱契約については、取扱内容変更通知し、機械的に転管する、というものであった。
こうした努力にもかかわらず、昭和六〇年七月頃の地区集約率は、六二・〇パーセントであったところ、SSエリア制度実施後のSSタイプ営業職員のエリア内占率は、昭和六三年三月末は六二・六パーセント、平成二年三月末は六三・一パーセント、平成三年三月末は六二・一パーセントとエリア内集約率を高めることはできなかった。
原告についてみると、昭和六〇年三月頃、地区内契約を一六一件、地区外契約を二六九件、合計四三〇件(地区別占率六二・六パーセント)有しており、被告会社が原告について作成した「担当エリア外契約リスト」(昭和六二年一一月現在)によれば、エリア外契約二六九件中、二一件を昭和六三年三月二〇日までに転管すべきものとされていた。しかし、原告は、かつて地区制度下においては転管したことがあったにもかかわらず、右転管を一件もしなかった。
2  昭和六二年協定
前記第二の「基礎となる事実関係」記載の事実と証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実が認められる。
全労組は、SSエリア制度が被告会社により昭和五九年一〇月三〇日に提案されて以来、これに反対する立場をとっていたが、当初は、同労組の組合員に営業職員はいなかったので、月労所属の営業職員に対し、SSエリア制度に反対するよう呼びかけを行う活動をしていたにすぎなかった。
ところが、昭和六二年一月二四日に下総安孫子営業所所属の営業職員七名が、同年四月一日には中野営業所所属の営業職員一一名が、いずれも月労を脱退して、全労組に加入するに至ったが、右営業職員はSSエリア制度に反対の態度をとっていたわけではなかったので、被告会社は、同年度の右営業職員の給与改訂に当たって、被告会社との間で、既に実施されているSSエリア制度を前提として協議し、同年五月二〇日に合意妥結し、同年四月一日付で昭和六二年協定を締結した。また被告会社は、同年五月二〇日、安田労組との間に、右と同一内容の労働協約を締結し、同協定は同年五月一日から施行された。
右給与改訂は営業職員の固定給・比例給を増額改訂するものであり、その内容を専業職員特別についてみると、固定給である初任本給は月額八万二〇〇〇円となり、比例給である奨励手当は各月の直前四か月平均支給成績段階に応じて、五万円ないし二〇万七〇〇〇円となり、成績手当は従来と変わらず、活動手当は当月三件以上挙績者に対し、挙績件数及び一件平均差引修正成績段階に応じて、一万六〇〇〇円ないし五万二五〇〇円となり、開拓手当商品別・白地黒地契約別により月払換算保険料段階に応じ、普通保険契約一件について、保障性商品については〇円ないし五五〇〇円となり、貯蓄性商品については一〇〇〇円ないし三〇〇〇円となり、継続手当は従来と変わらないというものであった。
原告は、昭和六二年三月二〇日に本件訴えを提起したうえで、昭和六二年協定締結後の同年八月二七日、安田労組を脱退して、全労組に加入した。
3  昭和六三年就業規則と全労組の対応
前記第二の「基礎となる事実関係」記載の事実と、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、次の事実が認められる。
被告会社は、昭和六二年一〇月一六日、関係組合に対し、生保企業をめぐる経営環境が大きく変化する中で、時代に即応した新たな給与体系の構築が急務であるとして、「営業職員に関する諸規程改訂」の提案(いわゆる新営業職員制度)の(ママ)提案をした。
そして、被告会社は、昭和六三年五月一日に、昭和六三年就業規則を実施したが、全労組に対しては、昭和六二年協定が適用されていたので、昭和六三年四月一日、全労組に対して昭和六二年協定の破棄を通告し、全労組の組合員について、右協定が失効した同年七月五日から、昭和六三年就業規則を適用した。
昭和六三年就業規則の内容は、次のとおりであった。すなわち、同制度では、営業職員の資格は上位のものから順に、シニア・ライフプランナー特選職員、ライフプランナー特別職員、同一級職員、同二級職員、同発展職員、一般職員、新職員、職員見習に区分される。これにより、原告は、シニア・ライフプランナー特選職員の資格を有することとなった。シニア・ライフプランナー特選職員の本給は、月額一六万円であり、LP(ライフプランナー)基準達成加算として二万円が上積みされる。比例給に当たる成績手当として、直前四か月平均支給S(保険金)と直前四か月平均換算件数に応じ、四万九五〇〇円ないし二七万八五〇〇円が支給される。成績手当加算として、当月支給S一六〇〇万以上二四〇〇万未満のとき保障性商品の支給Sについて対万五〇円、その他商品の支給Sについて対万六〇円、当月支給S二四〇〇万以上のとき保障性商品の支給Sについて対万六一万、(ママ)その他商品の支給Sについて対万七一円、当月支給S六〇〇〇万超分について対万一七円が支給される。活動手当として、当月修正Sと当月換算件数に応じ、一七万五〇〇〇円ないし四三万五〇〇〇円が支給される。販売手当として、普通保険の各契約について、平準払のときは月換算保険料に応じ、五〇〇〇円ないし一一万円、一時払のときは一時払保険料に応じ、一〇〇〇円ないし一万円が支給される。二五月目奨励手当として、第二保険年度の保険料が完納された自己受理契約に対し、基本分として、保障性商品について修正Sにつき対万一八・五円、その他商品につき同対万八・五円、LP加算として、商品のいかんを問わず、二五月目継続率九五パーセント以上のとき、修正Sにつき対万プラス一円、同九〇パーセント以上のとき、修正Sにつき対万プラス〇・五円を支給する。保有純増手当として、第三年度から第五年度までの各保険料が完納された自己受理契約に対し、基本分として、保障性商品については、修正S比例対万七・五円、月換P(保険料)比例P×一四パーセント、その他商品については、修正S比例対万五・五円、月換P比例P×一〇パーセント、LP加算として、保有純増率八〇パーセント以上のとき、商品のいかんを問わず、修正S対万プラス〇・五円を支給する、とされる。
集金関係給与については、前記第二の「基礎となる事実関係」中の4の(五)「新営業職員制度」に記載したとおりの金額が支給される。
右給与改訂の目的は、営業職員の資質向上のための条件整備として月例給与の安定化を図り、併せて集金扱契約の減少、銀行口座振替扱契約の急増に対応すべく、営業職員の給与を構成する固定給与・比例給与・集金関係給与を全面的に組替え、固定給与部分の大幅積み増しを行ったことにある、とされる。
被告会社は、昭和六三年六月二八日、全労組所属の組合員に対し、就業規則たる昭和六三年度賞与支給基準を適用し、新営業職員制度に基づいて計算した中元手当を支給した。また、同年一二月二日には、同基準の適用により年末手当(冬期一時金)を支給した。
平成元年度の給与・賞与についても、被告会社は、就業規則の適用により、全労組所属の組合員に対し、新営業職員制度を前提とした昇給を実施し、中元手当・年末手当を支給した。
全労組は、新営業職員制度の会社提案以来、これに反対する立場をとっていたが、平成元年一一月に至り、同労組所属の営業職員である組合員らが、東京地方裁判所に対し、新営業職員制度の適用はないことの確認を求める訴え(同裁判所平成元年(ワ)第一五七七三号)を提起した。
平成二年度の春闘に際し、夏期一時金闘争につき、被告会社は、労働協約付属協定に全労組が調印しない限り、全労組所属の組合員に対し、中元手当を支給しない旨を通告した。そこで、全労組所属の組合員らは、東京地方裁判所に賞与仮払仮処分を提起し、同年六月二二日の審尋期日において、賞与支給に関する合意が成立し、同月二九日、被告会社と全労組は、平成二年協定に調印し、同年度の夏期賞与は、同年七月一〇日までに支給された。
しかし、全労組は、その後も新営業職員制度に基づく給与制度に対しては、異議を留める態度をとっていた。
4  SSエリア制度の適用
右1ないし3に認定した事実及び前記第二の「基礎となる事実関係」記載の事実をもとに、被告会社と全労組との間に締結された昭和六二年協定及び平成二年協定により、原告に対してSSエリア制度の適用があるかどうかについて検討する。
(一) 昭和六二年協定の効力
原告は、昭和六二年八月二七日、安田労組を脱退して、全労組に加入したものであるが、全労組は、被告会社がSSエリア制度を提案してから一貫してこれに反対して組合活動を続けてきたものであって、本件訴えを提起してSSエリア制度に反対している原告の立場を支持しているものと認められ、これによって同労組の統制と団結に影響を及ぼしている形跡はなく、被告会社と全労組との間の昭和六二年協定は、新たに加入してきた営業職員がSSエリア制度を容認する態度をとっていたため、これら営業職員の立場を尊重して締結されたものであって、その後に原告が同労組組合員となった結果、被告会社との間の労働契約が右協定と抵触するに至ったのであるから、同協定は原告に対してその規範的効力を及ぼすものではないというべきである。
そして、全労組は、SSエリア制度に反対する立場から、本件市場開発・顧客管理協約を締結したことはなく、昭和六二年五月二〇日、同制度下における営業職員給与規程に関する労働協約である昭和六二年協定を締結したのみであり、これによって、全労組が本件市場開発・顧客管理制度取扱規程を承認したとみることも困難である。
(二) 追認
また、被告会社は、新営業職員制度を提案するに当たり、昭和六三年四月一日、全労組に対し、昭和六二年協定を破棄する旨通告し、同協定は、昭和六三年七月五日以降、失効するに至ったのであるから、原告に対し、昭和六二年協定を適用する余地もなくなったものというべきであり、平成二年協定は、本訴係属中に本訴の帰すうに影響を及ぼす趣旨で締結されたものとはいいがたいから、同年度支給にかかる給与・賞与に関する限りの協定と認められ、これによって、昭和六二年協定を追認したと認めることもできないというべきである。
そうすると、被告会社と全労組との間に、営業職員の給与・賞与の支給に関する労働協約があるからといって、SSエリア制度を内容とする労働協約規範を原告に及ぼすことはできないというべきである。
三  本件就業規則に基づく適用について
1  就業規則の変更
賃金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関して不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、その不利益の程度を考慮しても、なおそのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである(最高裁判所大法廷昭和四三年一二月二五日判決・民集二二巻一三号三四五九頁、同第三小法廷昭和六三年二月一六日判決・民集四二巻二号六〇頁参照)。
そこで、本件についてみると、SSエリア制度を内容とする本件就業規則は、前記第二の「基礎となる事実関係」中の4の(一)に認定したとおり、被告会社において制定・変更され、社内労働組合を通じるなどして従業員に周知されたものと認められるが、右制定・変更が原告にとって不利益なものであるとしても、これが合理的なものであれば、原告においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解すべきところ、右制定・変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たっては、変更の内容及び必要性の両面から検討すべきであり、右変更により従業員の被る不利益の程度、右変更との関連の下に行われた賃金等の労働条件の改善状況のほか、労働組合との交渉の経緯、同業他社の取扱い等の諸事情を総合勘案する必要があるというべきである。
2  本件就業規則の不利益性
(一) 集金関係給与
前記第二の一3(三)、4(四)(五)、第三の一1、同二1ないし3の事実によれば、右SSエリア制度を内容とする就業規則の施行に伴い、営業職員につき、集金関係給与において、次のような不利益がもたらされたものということができる。
(1) SSエリア制度下におけるエリア管理手当は、従前の保全手当と地区深耕手当を一本化したものであるが、従前保全手当で支給対象とされていたエリア外の集金契約が対象外とされることとなった。集約率の低い営業職員については、三年間の制度移行保障措置が講じられているが、昭和六三年五月一日(全労組組合員については同年七月五日)以降、新営業職員制度の実施により、エリア管理手当は、エリア開拓手当Ⅰ・Ⅱに代わり、エリア内自己担当契約の件数段階に応じた定額支給に改められた。被告会社において、SSエリア制度実施後の全国平均エリア内集約率は、同制度実施前のそれと比べて、ほとんど改善されていないから、大多数の営業職員にとって、エリア管理手当が従前の保全手当と地区深耕手当より減額となり、制度移行保障措置の対象となったことが推測され、また、新営業職員制度下におけるエリア開拓手当は、さらに減額となったことが推測される。
集金手数料(経費)については、SSエリア制度下においても月払契約については実収保険料の三パーセントとする支給基準が維持されていたが、新営業職員制度になると、次年度以降エリア内一件二〇〇円、エリア外一件一二〇円と件数建てに改められ、減額となることが推測される。
預振変更手数料については、SSエリア制度下においても従前の支給基準が維持されたが、新営業職員制度になると、銀振化促進経費助成として、昭和六三年度以前募集契約については年間実収保険料の一パーセント、昭和六三年度募集契約については一契約につき二〇〇円と改められた。右改訂に伴い、預振変更手数料が減額となることが推測される。
調整手当については、従前の預振契約管理手当(マル銀管理手当)として実収保険料の一パーセントが支給されていたところ、SSエリア制度下においては、制度移行時の既存契約についてのみ従前どおり支給されることとなり、減収がもたらされる。但し、SSエリア制度下では、従前の年三回の顧客訪問義務は免除されることとなり、また、新営業職員制度下では、昭和六三年度以前募集契約についても年間保険料の一パーセントの銀振化促進経費助成がなされることとなった。
(2) 原告についてみると、原告のSSエリア制度実施前におけるエリア内集約率は、三七・四パーセントと全国平均よりもさらに低かったところ、エリア管理手当・エリア開拓手当の支給状況は、別紙(五)「原告のエリア管理手当ならびにエリア開拓手当の明細表」(略)記載のとおりであることが認められる(〈証拠略〉)。同表によれば、「実績による算定額」は、年度を追うごとに低下しているが、「支給額」は、「資格選考サイクルによる手当の更改」等の理由により、さほど低下していないか、あるいは新営業職員制度下におけるエリア開拓手当の支給額については逆に増加している。
また、原告の昭和六三年四月以降同年九月までの集金手数料(経費)の支給状況は、別紙(四)「集金手数料(集金経費)新旧差額一覧表」記載のとおりであり、合計二七万四二四八円の減額となったこと、マル銀管理手当については、別紙(三)「マル銀管理手当及び預振変更手数料新旧差額一覧表」の「預振変更手数料」欄記載のとおり、同年四月募集月以降同年一〇月募集月までの分で、合計八万八一九一円が減収となったこと、預振変更手数料については、同表の「マル銀管理手当」欄記載のとおり、昭和六一年一〇月募集月以降昭和六三年一〇月募集月までの分で、合計二六万九七二六円の減収となったこと、以上の事実を認めることができる(〈証拠略〉)。
(3) 以上のとおり、SSエリア制度を内容とする各就業規則の制定・施行により、集金関係給与の減額という不利益がもたらされることは否定できないと考えられる。
被告は、新営業職員制度による給与改訂は、SSエリア制度と関係がないと主張するが、新営業職員制度は、SSエリア制度の実施に継ぐ一連の制度改訂であると認められるから右主張は採用できない。また、被告会社は、集金手数料(経費)の減少は、キャッシュレス化とバンク特約に伴うマル銀契約の増加によるものであると主張するが、これが右減収の主たる原因であるとも認められない。
(二) 転管制度
前記第二の一3(二)、4(三)、第三の一1、同二1の事実によれば、SSエリア制度下における(自動)転管制度については、次のとおり、営業員に不利益をもたらすものではないということができる。
(1) 被告会社は、SSエリア制度の実施にあたり、エリア内集約を呼びかけるパンフレットを配布する等のキャンペーンを行い、あるいは集金関係給与の支給基準において、エリア内・外の契約を別異に取り扱うことによって、エリア内集約を促進しようとしたことが窺われるが、エリア内集約率をみると、同制度実施前に比べて、その後もこれを高めることはできなかったのであり、このことは、SSエリア制度が、営業職員に対し、強制的にエリア外契約の転管を迫るものではなく、営業職員がエリア外契約について基盤型認定の登録申告をすれば、そのまま被告会社によって受け入れられ、右登録申告をしなかった契約のみについて転管される取扱いであったこと、すなわち任意転管制度であったことを示すものであったということができ、それ故、原告自身も被告会社から転出するよう求められたエリア外契約を転出しなかったものであるということができる。そうすると、SSエリア制度の下における(自動)転管制度が営業職員に不利益をもたらす強制転管制度であるということはできないというべきである。
(2) また、原告は、SSエリア制度の下でプロパー(Sタイプ職員)とデビット(SSタイプ職員)との共管制によって営業基盤を取り上げられるとか、あるいは転入契約の保全(お守り)を強いられるという不利益があると主張するが、右事実を認めるに足りず、原告本人尋問の結果によっても、その根拠が薄弱であるというほかなく、原告自身の個人的な心理上のものにすぎないものと認められるから、これをもってSSエリア制度を内容とする就業規則の制定・実施により不利益がもたらされたということはできない。なお、転入契約についても、エリア活動手当は支給されるのであるから無償で保全活動を強いられる訳ではない。
(3) このようにエリア外契約の(自動)転管制度は、エリア内集約がSSエリア制度を成功させるための重要なポイントであり、集約率を高めるため、被告会社は、基盤型契約の認定を厳正に行うよう社内通達を発したりしたが、なお任意転管制度にとどまったものであるということができる。
3  本件就業規則の合理性
(一) SSエリア制度の目的・趣旨
前記第二の「基礎となる事実関係」記載の事実、第三の一1の事実によれば、SSエリア制度が提案された目的・趣旨は、次のとおり、合理的なものであったということができる。
(1) 高齢化・高福祉高負担化・女性の職場進出等の背景の下、従業員市場・事業主自営業主市場・作業福祉市場等いわゆる職域市場は、成長市場と目とされていたところ、被告会社は、従来これらの市場において他社に比し、劣勢であったが、同市場でのシェアダウンは企業の存亡に関わるものと受け止め、同市場での契約獲得に全力を挙げて取り組む必要があったので、そのための施策として、自動転管制度により既契約のエリア内集約を行い、営業員活動の効率化と、セールス・サポートを充実させることにより、担当エリア内顧客に対し、密接な継続的サービス活動を行うこと、すなわちSSエリア制度の実施が、急務かつ必要不可欠であった、ということができる。
(2) SSエリア制度は、従来の地区制度を発展させたものであるが、地区制度の下では、被告会社は、集金保全業務は新契約獲得につながるとの観点から、集金保全サービスに高水準の給与で報いてきたが、昭和四八年以来、デビットの保有契約件数が漸減するなど、必ずしも顧客管理機能が充分に発揮されていない状況にあって、「職域の開拓に重点を置いた地域市場の開発及び顧客管理体制の確立を期す」とのSSエリア制度の目的・趣旨は、それ自体として正鵠を射たものであったというべきである。
(二) SSエリア制度の内容
前記第二の一4、第三の一1、同二1の事実によれば、SSエリア制度の内容は、次のとおり、首肯することができるものであったということができる。
(1) 市場開発・顧客管理制度取扱規定は、SSエリアの設定、SSエリア担当者の配置、同担当者の集金・管理扱契約の取扱い、ことにエリア外契約の転管の基準・方法、販売支援情報の提供、SSエリア推進委員会の運営方法等について、詳細かつ明確な規定をしており、その内容は、前記制度目的を達成するのに必要かつ適切なものであるということができる。
(2) SSエリア制度の下では、集金関係給与が切り下げとなることは否定できないところであるが、同給与は、全体給与の約一七パーセントを占めるにすぎず、キャッシュレス社会を反映した銀行口座振替扱契約の増大という趨勢の中で、集金保全活動が必ずしも新契約の獲得に結びつかなくなってきているのであるから、その評価が下げられるのもやむを得ない面があるといわざるを得ない。むしろ、SSエリア制度においては、営業活動をできるだけエリア内に限定し、職域・地域できめ細かなサービス活動を行うことにより、また被告会社から販売情報の提供等の支援活動を受けることにより、有望な市場で新契約をより多く獲得することができ、これにより、固定的・比例的給与の増大も見込めるものであるということができる。
証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、営業職員の販売効率は、一人当たり件数において、昭和五八年度二・七二件であったのに対し、SSエリア実施後、昭和六〇年度二・七六件、同六一年度二・八五件、同六二年度二・九二件と増加しており、一人当たり平均挙績(修正S)も、昭和五八年度一〇五三万八〇〇〇円であったのに対し、SSエリア制度実施後、昭和六〇年度一二四七万二〇〇〇円、同六一年度一二九七万九〇〇〇円、同六二年度一三九七万五〇〇〇円と増嵩しており、その結果営業職員給与の固定的・比例的給与が引き上げられたことが推認される。
そして、昭和六二年営業職員給与規定では、専業職員特別の初任本給が月額七万九〇〇〇円から同八万二〇〇〇円に増額改訂され、さらに新営業職員制度(昭和六三年就業規則)ではシニアライフプランナー特選職員の本給が月額一六万円に大幅に増額改訂され、集金関係給与の減少を補償する措置がとられており、弁論の全趣旨によれば、原告の場合、新営業職員制度(昭和六三年就業規則)により、本給がそれまで月額一〇万〇八九〇円であったのに対し、同一七万一三四〇円に引き上げられたことが認められる。
右各事実からみても、営業職員給与の固定的・比例的給与が引き上げられたものということができる。
(三) 労働組合との交渉の経過
前記第二の一3(四)、5、第三の一2、3記載の事実によれば、次のとおり、SSエリア制度の導入にあたり、月労を始めとする関係組合の内部討議が民主的に尽くされたものということができる。
(1) 被告会社は、昭和五八年九月、地区外契約を強制転管とする集金関係諸制度改訂案を関係組合に提案したことがあったが、月労の反対を受けて実施に至らなかったため、改めて翌昭和五九年一〇月に、SSエリア制度の提案を関係組合に提案したのであり、月労は、右提案に対し、支部代表者会議等下部組織で検討を経たうえ、昭和六〇年五月の第三一回定期全国大会において、会社提案に対する取組経過報告、月労基本方針を承認した。その後、昭和六一年二月の中央委員会では、被告会社から、第一三月目の自動転管、集金関係給与について譲歩を得たことを評価し、その後の交渉の妥結権限を中央執行委員会に委ね、これに基づいて、本件営業職員給与改訂協約が締結され、そして、昭和六一年五月の月労の第三二回定期全国大会において、SSエリア制度の取組に対する昭和六〇年度経過報告が賛成多数で承認されて本件集金関係給与協約が締結され、SSエリア制度は、同年一〇月一日から実施され、これらの協約は、昭和六二年二月の臨時全国大会において、圧倒的多数の賛成で承認されたのである。その後、安田労組は、昭和六二年協定を締結し、次いで本件市場開発・顧客管理協約を締結した。以上の経過を辿ってきたものである。
このように、被告会社は、SSエリア制度を実施するに当たっては、利害関係を有する社内組合に予め提案をなし、月労等関係組合では、右提案を下部組織に伝達し、組織全体で検討を加えたうえ、被告会社から一定の譲歩を引き出し、SSエリア制度を内容とする労働協約を締結したものであり、右労働協約締結には原告らごく一部の組合員が反対したにすぎなかったものということができる。
(2) 原告は、月労の内部討議は民主的に尽くされておらず、本部独走であること、昭和六一年三月一九日の妥結内容は月労基本方針を逸脱していること、第三一回定期全国大会では原告らが役員選挙に立候補したが、実質的な討議を拒否したこと、SSエリア制度は、「デビット制度の基本に係わる重要問題」であり、月労組合規約一九条四、五項による大会の特別決議を経るべきであるのに、その特別決議がなされていないこと、原告は、全国大会において特別決議を経るよう緊急動議を提出したが無視されたこと、月労中央執行委員会にSSエリア制度を内容とする労働協約の妥結権限はないこと等を理由として、被告会社と月労間のSSエリア制度を内容とする労働協約は無効であると主張する。
しかし、SSエリア制度についての被告会社の提案は、月労の下部組織に伝達され、内部討議を経たうえ、同労組としての方針を決定したものであり、本部の独走などというに当たらず、また昭和六一年三月一九日のSSエリア制度承認の決定も、月労基本方針に沿い、自動転管制度の取扱いや集金関係給与の支給基準に関する重要な点での譲歩を引き出したことを評価し、右決定に至ったものであって、月労基本方針を大きく逸脱したということはできない。月労の第三一回定期全国大会で、原告らは本部役員に立候補したが、所定の選挙手続を経るも当選に至らなかったものであって、なんら瑕疵はない。月労の組合規約一九条四項、五項において、出席代議員の三分の二以上の賛成を要する「労働協約の締結及び変更」、「その他の重要事項」についてみれば、右労働協約とは、その文言からみても、実際の運用からみても、本体としての労働協約を対象としており、労働協約付属協定は含まれていないと解するのが相当であり、また、SSエリア制度の承認が「その他の重要事項」に当たるとも解せられないから、特別決議を要するとは考えられない。さらに、月労中央執行委員会にSSエリア制度を内容とする労働協約の妥結権限はないとの主張は、根拠がない。なお、月労の第三二回定期全国大会において、原告が特別決議を経るよう緊急動議を提出したのに対し、月労本部がこれを取り上げなかった根拠は明らかでなく、仮に、その点においてなんらかの手続的瑕疵を否定できないといえるとしても、同大会では、SSエリア制度の取組に対する昭和六〇年度経過報告は、結局賛成多数で承認されたのであるから、右瑕疵は治癒されたものというべきである。したがって、原告の右主張はいずれも理由がない。
(四) 同業他社との比較
(1) 証拠(〈証拠略〉)によれば、被告会社営業推進部が昭和五九年七月に被告会社と同じく生命保険業を営む他の大手五社(日本生命、第一生命、住友生命、明治生命)の地域市場戦略に関して調査した結果は、以下のとおりであることが認められる。
営業制度の状況は、五社それぞれ名称は異なるが、いずれも営業員の地区割り制度をとっており、日本生命、第一生命、住友生命は小地区専管制を採用し、明治生命、三井生命は中地区共管制を採用していた。
自動転管制度をとっている会社は、第一生命を除く四社(明治生命は昭和五九年一〇月から実施)であり、地区内集約率についてみると、業界最大手の日本生命は九八・二パーセント、三井生命も九九・二パーセントに達しているが、住友生命は地区支部三七パーセント、デビット六〇パーセント、明治生命は約四〇パーセントにとどまっていた。
日本生命は、大都市市場において職域営業部を実施しているほかは、基本的には地区(複数ユニット)を中心に営業活動を展開しており、ブロック・システム以来の地域戦略を主体としていた。
第一生命は、昭和四九年度の新外野制度により地区制度を導入したが、中途半端な制度内容のため徹底せず、現在では新人への基盤として地区を付与するほかは、あまり地区制度を中心した運営はしておらず、プロパー主流が会社風土となっており、地域戦略はなかなか根づかない会社とみられた。
住友生命は、昭和五四年の第二次新市場政策の目玉として地区支部制度の推進を提唱し、その後着実に増加し、昭和五九年一月にはそれまでの支社デビットが完全に地区支部へ移行したため、現在ではタブー視されているが近い将来にはプロパー・デビット統合の可能性もあるとみられた。
明治生命は、約二〇年間全く手つかずのまま推移してきた地区制度を、表面的には改訂の要素を極力抑えながらも実質的には制度の前進を図り、この新地区制度により、デビット主流の伝統を生かした強力な地区活動を展開することを期しているとみられた。
三井生命は、昭和五六年にプロパー・デビットを廃止し、ホーム・ユニット制度に全面移行したものの、同制度は理論的整合性が高く、理路整然とした制度内容ではあるが、その後の推移をみると規程と実態との乖離現象がみられ、制度の精神がどの程度浸透しているか現場によって相当差が出ているとされ、参考とすべき多くの点を持つ反面、まねてはならない点もある制度であるとみられた。
(2) 右調査結果によれば、第一生命を除く大手生保各社とも、それぞれに地区制度を中心とした経営戦略を練っているものということができ、被告会社においても、他社に遅れをとらないためには、SSエリア制度の実施による積極的な営業政策の展開が必要であったと認めることができる。
(五) SSエリア制度に対するその後の評価
(1) 証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、安田労組は、SSエリア実施後約五年を経過した平成二年一一月、SSエリア制度に関し、ヒアリング調査、全国オルグにおける意見・要望事項のまとめ、営業職員活動実態調査の結果を集計し、被告会社に対し、次のような提言をしたことが認められる。
SSエリア制度を積極的に評価する面として、〈1〉「一契約一顧客担当者制」を確立し、全保有契約に対するアフター・フォロー体制を明確にしたこと、〈2〉市場開拓ターゲットを明確にしたこと、〈3〉マルチエリア活動によってスリーサイクル活動の徹底をはかったこと、〈4〉コンピューター・セールス・サポートシステム(CSS)活用による営業支援を実現できたこと等をあげることができる。
より生産力・活動効率のあがる顧客管理体制にするためには、〈1〉自動転管制度について、SSエリア制度の根幹部分であるにもかかわらず、その正確な適用ルールが余りにも知らされていないので早急に周知徹底を行うこと、〈2〉運用に当たって無理のない転管制度とするとともに、制度の検討結果については強制力を持たせるべくその運用を徹底すること、〈3〉集金件数の激減、得意先担当職種の担当する集金扱件数の営業職員への集約及び旧プロパー・デビット意識を完全に払拭させるという観点から、営業職員のタイプを一元化するための条件整備について検討すること、〈4〉SSエリア推進委員会をエリア担当者の決定・変更ならびにエリアの見直し、事業所別管理の徹底等SSエリア制度全般にわたる運用の要として、完全定例開催を徹底させること、〈5〉顧客サービス活動に対する労働評価について、現行エリア開拓手当Ⅰを見直し、保有純増に資する顧客サービス活動、内容変更・名義変更・住所変更等の顧客サービス活動、満期保険金・死亡保険金・祝金・各種給付金等の支払に関する請求手続等の顧客サービス活動等に対する労働評価体系を検討すること、〈6〉集金経費については、自動転管制度の見直しにあわせ、かつ担当エリアの変更を円滑に進めるとの観点から現行集金経費におけるエリア内・外別金額設定を見直すこと、〈7〉継続手当について、顧客サービス活動に対する労働評価体系の構築にあわせ、継続手当の顧客担当契約・非顧客担当契約別の現行支給体系の見直しを行うこと、〈8〉エリア開拓手当Ⅱの判定基準の見直しについて、新契約申込書に勤務先住所を記入させるようシステム化を図り、これをエリア内・外の判定に用いること、〈9〉マル銀顧客の防衛と追加契約造出のために定期訪問が可能となるツールのさらなる充実を図ること、等が必要である。
(2) 証拠(〈証拠略〉)によれば、被告会社の既契約者市場対策推進プロジェクト事務局は、平成三年八月二六日、「既契約者市場対策について(基本方向・検討事項)」と題する書面をもって、次のとおりの提言を行ったことを認めることができる。すなわち、〈1〉法人職域市場開拓の強化として、企業化社会の進行・給与所得者増大といった法人市場の拡大、及びマル銀化の浸透、在宅率の低下といった家庭市場での顧客捕捉困難化に対し、昼間、人の集まっている市場での顧客捕捉を強化する観点から法人・職域市場開拓強化をさらに推進する。〈2〉顧客担当制度・転管制度に関し、営業員サイドからの不平不満といったマイナス要員の現象と顧客との結びつき強化の観点から、原則として遠隔地以外は受理者の顧客担当も可とする。より具体的には、支社エリア(もしくは広域ブロック)にて転管判定する。支社エリア(もしくは広域ブロック)外契約については、基盤型登録を廃止する。転管時期については一三月目転管とする。〈3〉支社エリアの中における陣容変化に柔軟に対応できるようにするとともに、陣容の増加への対応及びエリアの公平配置の観点から、エリア設定及び配置の見直しを行う。〈4〉情報支援強化として、既契約者を職場と家庭双方で捉え、顧客フォロー強化及び新契約再生産拡充を図りうる態勢へと進めることを目的に、エリア担当者・職域基盤担当者への顧客情報提供の拡大を図る、というものであった。
(3) 右事実によれば、SSエリア制度の実施後数年が経過したが、同制度に真向から異議を唱える者は、ひとり原告のみであり、被告会社のほとんどの営業職員は同制度を定める就業規則の規制の下で稼働しており、同制度は、被告会社において既に定着したというべきであって、安田労組や被告会社のSSエリア制度に関する提言も、同制度を積極的に評価しつつも実践経験に基づき同制度をさらに改善・発展させようとするものであったと認めることができる。
原告は、右SSエリア制度の見直し提言をもって、同制度は大いなる破産をしたと主張し、また同制度が原因となって、被告会社の業界シェアが低下し、マル銀扱新契約第一回振替不能率も悪化し、苦情が増加し、営業員の勤続年数が短く、営業員の退社率や契約の継続率基準も悪化する等の業績悪化を生じたと主張し、これに沿う証拠(〈証拠略〉)を提出するが、右弊害がSSエリア制度に起因するとの証明はない。SSエリア制度の運用に当たり、前記認定のとおり、エリア外契約の転管等の点で必ずしも営業職員らの協力を得られず、所期の目的どおりの成果をあげたということはできないが、同制度がその不合理性ゆえに破綻したということはできない。
4  本件就業規則の効力
以上、本件就業規則による原告の不利益の程度、本件就業規則の制定の必要性、その内容の合理性を総合して勘案したところによれば、本件就業規則は、原告が受忍すべき高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということができ、原告においてこれに同意しないことを理由としてその適用を拒むことができないというべきである。
第四  結論
以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤賢治 裁判官 吉田肇 裁判官 佐々木直人)

 

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