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「営業支援」に関する裁判例(78)平成24年 2月16日 東京地裁 平22(ワ)7175号 売買代金請求事件

「営業支援」に関する裁判例(78)平成24年 2月16日 東京地裁 平22(ワ)7175号 売買代金請求事件

裁判年月日  平成24年 2月16日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平22(ワ)7175号
事件名  売買代金請求事件
裁判結果  認容  文献番号  2012WLJPCA02168006

要旨
◆原告が、被告との間で、分散する情報資源の統合共有を実現するための本件ソフトウエアの売買契約を締結したと主張して、被告に対し、本件売買契約に基づき本件ソフトウェアの代金等の支払を求めたのに対して、被告が、本件売買契約の実質は委任契約であり、被告には原告に対する売買代金を支払う義務はない、あるいは、本件売買契約は、心理留保、通謀虚偽表示、公序良俗違反、信義則違反により無効であるなどと主張し、争った事案において、契約書の文言や内容から、本件契約は売買契約であるとした上で、被告の各抗弁を全て排斥し、請求を認容した事例

参照条文
民法1条2項
民法90条
民法93条ただし書
民法94条1項
民法555条
民法643条
民法648条1項

裁判年月日  平成24年 2月16日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平22(ワ)7175号
事件名  売買代金請求事件
裁判結果  認容  文献番号  2012WLJPCA02168006

東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 株式会社X
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 安達一彦
群馬県高崎市〈以下省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 井坂和広
同 石井英智

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,2億2440万円並びにこれに対する平成18年10月25日から平成21年10月31日まで年2.3分の割合による金員及び同年11月1日から支払済みまで年1割の割合による金員を支払え。
2  訴訟費用は被告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
主文同旨
第2  事案の概要
本件は,原告が,被告との間でIIMS(「Information Integrated Management System」の略で,分散する情報資源の統合共有を実現するためのソフトウエアである。以下同じ。)の売買契約を締結したと主張して,被告に対し,売買契約に基づきIIMSの代金並びにこれに対する利息及び損害金の支払を求めたものである。
1  前提となる事実(以下の事実のうち,証拠を掲記したもの以外は当事者間に争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1)  当事者
原告は,地球科学技術に関する調査・研究業務及び情報システムの開発・運用業務を主たる目的とする株式会社である。
被告は,原告の代表取締役であった者である。被告は,平成18年10月25日までは原告の代表取締役,平成19年5月31日までは原告の取締役の地位にあった。
(2)  売買契約書の締結
原告と被告は,平成18年10月25日付けでIIMS売買契約書(以下「本件売買契約書」といい,本件売買契約書に係る売買契約を「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約書は,「IIMS売買契約書」との表題がつけられ,以下の内容を含むものである(甲5)。
ア 原告は,被告に対し,原告所有のインドネシアNSDI向けシステム(以下「本件ソフト」という。)を売却し,被告はこれを買い受けた(第1項)。
イ 本件ソフトの売買代金は2億2440万円(消費税抜き)とする(第3項)。
ウ 被告は,原告に対し,前記イ(第3項)の売買代金を平成19年10月末日限り支払う。ただし,契約日から売買代金の履行日まで年2.3パーセントの約定金利を原告に対して支払う(第4項)。
エ 支払代金の期限について,約定日までに履行できない場合は,平成21年10月末日を最終期限とする(第5項)。
オ 被告が前記エの最終期日(平成21年10月末日)に約定全額の支払を怠ったときは,その後の延滞分について,年1割の遅延損害金を原告に対して支払う(第7項)。
カ IIMSの売却に当たっては,納入までのサポートを原告が行うものとする。ただし,カスタマイズは別途費用とする(付帯事項(以下「本件付帯事項」という。))。
(3)  覚書の締結
原告と被告は,本件売買契約書の締結に付随して,IIMS売買契約書に関する覚書(以下「本件覚書」という。)を締結した。本件覚書は,以下の内容を有する(甲5)。
ア 原告は,インドネシアNSDIプロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)の受注を目指しているシステムインテグレータ等に被告の所有する本件ソフトの譲渡を推進する(第1項)。
イ 原告は,本件ソフトの譲渡先及び譲渡価額等の譲渡条件に関する交渉権限を被告に与え,本件ソフトの譲渡契約が成立したときは,この契約の譲渡価額を被告に支払うものとする(第2項)。
ウ 被告は,原告に対し,前記イ(第2項)の譲渡契約が成立したときは,本件売買契約書の第3項に記載されている売買代金以外に,以下の金額を支払うこととし,代金の支払は本件売買契約書の第4項,第5項のとおりとする。ただし,約定金利は除くものとする(以上につき,第3項)。
(ア) IIMSインドネシア調査費及び営業支援費 5000万円
(イ) IIMSインドネシア営業経費 1000万円
エ 原告は,本件プロジェクトを受注した際,被告所有の本件ソフトの機能に該当する部分の受注額を被告に支払うものとする(第4項)。
オ 原告は,本件プロジェクトを受注した際,被告所有の本件ソフトのカスタマイズ及び新規作成部分の開発はOpen Data Ltd.に外注するものとする(第5項)。
カ 原告は,本件プロジェクトの受注が不調に終わったときは,被告の所有する本件ソフトの本件プロジェクト以外への転用を認めるものとする(第6項)。
2  争点及び当事者の主張
原告は,本件売買契約に基づいて売買代金の支払を求めるのに対し,被告は,本件売買契約の実質は委任契約であり,被告に売買代金を支払う義務はないと主張してこれを争うとともに,本件売買契約は,(a)心裡留保又は通謀虚偽表示により無効である,(b)公序良俗違反,信義則違反により無効である,(c)本件売買契約には,本件プロジェクトの受注という停止条件の合意があるところ,停止条件が成就していない,(d)本件売買契約には,納入までのサポートを原告が行うとの特約があるところ,原告にはその債務不履行があるから,被告は,本件売買契約を解除したと主張(抗弁)する。原告は,これらの被告の主張をいずれも争う。
したがって,本件の争点は,
①  本件売買契約の実質は委任契約と認められ,被告に売買代金支払義務がないといえるか否か(争点1)
②  本件売買契約が心裡留保又は通謀虚偽表示により無効と認められるか否か(争点2),
③  本件売買契約が公序良俗違反,信義則違反により無効と認められるか否か(争点3)
④  本件売買契約には,本件プロジェクトの受注という停止条件の合意があるといえるか(争点4)
⑤  本件売買契約の解除が認められるか否か(争点5)
であり,争点に関する当事者の主張は,以下のとおりである。
(1) 争点1(本件売買契約の実質は委任契約と認められ,被告に売買代金支払義務がないといえるか否か)について
(原告の主張)
本件売買契約は,実質的にも売買契約である。本件覚書及び本件売買契約書の本件付帯事項は,本件売買契約とは別個の合意である。
(被告の主張)
本件覚書第1項は「譲渡を推進する」という原告の義務を総論的に定め,本件覚書のその他の規定は,譲渡契約が成立した際の金銭的調整を行う定め等を規定しているものと,また,本件付帯事項は,原告が支援業務を遂行すべき義務を具体的に定めたものとそれぞれ理解すべきである。
そして,これらの規定と矛盾する売買契約書の本質的部分(所有権移転と代金支払義務の発生)については,当事者自ら否定していることになるため,これを合理的に意思解釈すると,全体として委任契約と解釈して契約全体を有効視することが可能となる。
よって,本件売買契約は本件プロジェクトの受注先への譲渡に向けて相互に協力することを内容とする委任契約と解すべきである。
(2) 争点2(本件売買契約が心裡留保又は通謀虚偽表示により無効と認められるか否か)について
(被告の主張)
本件売買契約は,平成18年10月2日付けの取締役会における決議に従って締結されたものであるが,この取締役会のIIMSの売却決議は,被告に対する責任追及の一環として行われたもので,被告は,その決議に従わざるを得なかったのであって,被告の真意が反映されたものではない。
本件売買契約締結の時点において存在した目的物は,カスタマイズ前の半製品であり,これを被告が一人で購入して,被告一人でカスタマイズして顧客であるインドネシアの受注にこぎつけることは全く不可能である。このような非現実的な売買契約を被告が真意で締結することは考えられず,原告もまたしかりである。これは,原告の誤った事実認識に基づく被告の問責という背景において行われたものであり,極めて虚構性が濃厚な売買契約である。
このような実態が乏しい売買契約には民法93条ただし書又は同法94条1項を適用して法的効力を否定するのが妥当である。
(原告の主張)
争う。本件売買契約は,被告の真意に基づき,締結されたものである。IIMSを推進したのは,被告であって,被告でなければインドネシアの受注にこぎつけることは困難であり,IIMSが半製品であり,被告一人で受注にこぎつけることが困難であるとの主張は事実に反する。
(3) 争点3(本件売買契約が公序良俗違反,信義則違反により無効と認められるか否か)について
(被告の主張)
原告は,被告に半強制的に本件売買契約を締結させて形式上は被告がIIMSの権利を取得した形をとり,万一被告が顧客からの受注を成功させた場合は自らその利益を取得できるようにした上で(覚書第3項(前記1(3)ウ)参照),受注が不成功に終わった場合でも最終的には被告に売買代金を請求することで損害を受けない仕組みを設定した。また,原告は,IIMSの開発保守を担ってきたR&Dセンターの閉鎖等を行い,自らサポート体制を放棄して顧客からの受注を不可能にしながら,本件売買契約の代金を請求している。
このように,本件売買契約は,強制した契約であるとともに,被告にのみ損害発生のリスクを負わせて原告は利益のみを共有できるように仕組まれた著しく不公平な契約内容であり,公序良俗に違反し,又は信義則に反し無効である。
(原告の主張)
争う。本件売買契約は,強制した契約でも,被告にのみ損害発生のリスクを負わせた契約でもない。被告は,本件売買契約は被告自身の利益になることを認識した上で自身の判断で契約を締結したものである。
(4) 争点4(本件売買契約には,本件プロジェクトの受注という停止条件の合意があるといえるか)について
(被告の主張)
本件覚書第2項の「本件ソフトウエアの譲渡契約が成立したとき」,同第3項の「第2項の譲渡契約が成立したとき」との約定は,本件売買契約の停止条件であり,この条件が成就していない以上,本件売買契約の法的効力は生じない。
(原告の主張)
停止条件に係る被告の主張は否認する。本件覚書第2項は,譲渡条件に関する交渉権限を被告に付与した上,譲渡契約が成立したときは,譲渡価額を被告に支払う旨約しているだけである。
(5) 争点5(本件売買契約の解除が認められるか否か)について
(被告の主張)
本件売買契約は,本件付帯事項に,受注先への納入までのサポートを原告が行う旨の規定があるのに,原告は,被告を代表取締役から解任して,IIMSの開発・保守に関する業務の執行権限を剥奪した上で,同ソフトの開発・保守体制そのものを完全に放棄した。
このように,原告は,本件付帯事項の義務を履行していないところ,本件売買契約の目的物は契約締結時点では半製品であって,上記義務の履行が不可欠であることにかんがみると,上記義務の債務不履行を理由に,本件売買契約を解除することができるというべきである。
被告は,平成22年7月16日の本件弁論準備期日において,本件売買契約を解除するとの意思表示をした。
(原告の主張)
争う。IIMSは,半製品であるが価値のあるソフトウエアであり,売買が可能である。また,本件付帯事項にあるサポートは,形式上IIMSの売却を原告名義で行うことを意味し,技術的サポート事項は,全て被告において実施可能であるから,原告は被告が主張するような義務を負うものではなく,債務不履行はない。また,本件覚書と本件付帯事項は,本件売買契約とは別個の合意であり,その違約が本件売買契約の効力に影響することはない。
第3  当裁判所の判断
1  前記第2の1の事実に証拠(甲4ないし7,9ないし11,乙4,6ないし10,14,19ないし23(各枝番を含む。),原告代表者,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(1)  原告は,被告により設立された会社であり,地方自治体の住民情報システム等のシステム構築事業を展開していた。
原告は,平成4年に旧宇宙開発事業団から受託して,地球観測事業を開始し,平成6年に同事業団の自治体パイロットプロジェクトのコンサルティングとシステム構築を受託し,平成8年には,バンクーバーにR&Dセンターを設立し,IIMSの製品化に向けた研究開発を開始した。
原告のIIMS関連販売実績は,平成14年3月期の2億2307万円,平成15年3月期の1億8442万8000円,平成16年3月期の1億7625万5000円,平成17年3月期の2億1098万3000円,平成18年3月期の3億4076万2000円と平成14年3月期から平成18年3月期までで累計11億3549万8000円の販売実績があった(いずれも,IIMS関連プロジェクト及びライセンス販売の合計額である。)。
(2)  原告は,本件プロジェクトにおいてIIMSを受注するための活動を行っていた。そして,平成17年10月から11月にかけて,本件プロジェクトが採択される見込みであり,また,本件プロジェクトの採択に伴い,IIMSを受注することが可能であることが見込まれていた。
被告は,原告の代表取締役としてIIMSの事業を推進していたが,平成17年3月期の売り上げ目標を達成するために,平成17年10月から11月にかけて本件プロジェクトが採択され,IIMSが受注できることを見越して,本件プロジェクト向けIIMSをシリコンスタジオ株式会社(以下「シリコンスタジオ」という。)に合計2億1120万円(消費税別)で売却した。シリコンスタジオは,本件プロジェクトが採択され,IIMSの受注がなされた際に,上記IIMSを転売することを予定していた。シリコンスタジオに売却された本件プロジェクト向けIIMSは,カスタマイズが必要であったが,本件プロジェクトでの必要な作業が明らかになるまでは,いかなるカスタマイズが必要かどうかは明確にはならないものであった。
(3)  その後,平成17年10月ころ,本件プロジェクトの採択が1年間延期となった。そのため,シリコンスタジオは,上記IIMSをさらに1年間保有しておくことが困難であるとして,原告の代表取締役であった被告に対し,本件プロジェクトが採択され,同IIMSを転売することが可能になるまでの間,同IIMSを保持する先を探すように依頼した。
そこで,被告は,本件プロジェクトに参画することを予定していた株式会社GIS中部(以下「GIS中部」という。)を売却先としてあっせんし,シリコンスタジオは,平成17年10月ころ,原告から購入した本件プロジェクト向けIIMSをGIS中部に転売した。
(4)  この間,平成17年夏ころから,原告においてIIMS事業及びIIMSの開発拠点であるR&Dセンターの運営について,売上に対し経費がかかりすぎているのではないかとの問題提起がなされ,平成18年1月27日の臨時取締役会において,IIMS事業を売却し,投資の回収及び経営合理化を図ること,並びにIIMS事業の売却に伴い,IIMSの開発拠点であるR&Dセンターを平成18年3月末で閉鎖することを決定した。
その後,被告は,原告の代表取締役として,国内大手システムインテグレータに対してIIMS事業を売却するための交渉を行った。また,海外においてもHY DigiTech Inc(以下「HY社」という。)との間で売却交渉を行い,平成18年3月上旬ころには,HY社に対し,中国での技術情報実施権やR&Dセンターを譲渡する方向で話が具体化しつつあった。なお,国内各社への売却については,NTTデータ通信株式会社(以下「NTTデータ」という。),富士通株式会社(以下「富士通」という。),三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)等に対し,IIMS事業売却のための交渉を行っていた。このうち,富士通及び三菱電機は,IIMSと同様のシステムを保有していなかったが,IIMSと同様のシステムを必要とするシステムを構築しようとしているユーザーをもっていたため,売却先の候補となったものである。また,NTTデータはIIMSと同様のシステムを保有していたが,本件プロジェクトにはIIMSを使用しないと参画できないという状況にあったため,IIMSと同様のシステムを保有していたにもかかわらず,売却先の候補となっていたものである。
(5)  平成18年2月ころ,GIS中部は,原告に対し,シリコンスタジオが転売した本件プロジェクト向けIIMSの買い戻しを求めた。被告は,原告の代表取締役として,当時,R&Dセンターの閉鎖が決まっており,原告として責任を持って同IIMSのカスタマイズを行うことができないと考え,GIS中部からの買い戻し要求に応じるほかないと考えた。
そこで,被告は,原告の代表取締役として,群馬銀行から2億円を借り入れて,GIS中部の買い戻し要求に応じることとし,原告は,平成18年2月ころ,GIS中部から,本件プロジェクト向けIIMS(12セット)を2億2440万円(消費税別)で買い戻した。原告が群馬銀行から2億円を借り入れ,GIS中部から本件プロジェクト向けIIMSの買い戻しを行うに当たっては,原告の取締役会の承認を得る必要があったが,被告は,これを得ないまま,群馬銀行からの2億円の借入れ及びGIS中部からの買い戻しを行った。
(6)  原告は,IIMSの中国における権利及びR&DセンターをHY社に売却することとなったが,中国のHY社との間で取引を行うことにより生じる不都合を回避するために,HY社は,カナダにOpen Data Technologies Ltd(以下「OD社」という。)を設立し,原告は,平成18年8月ころ,IIMSの中国における権利及びR&DセンターをOD社に対し3億3000万円で売却した。
OD社は,3億3000万円の譲渡代金につき,同年9月29日までに3000万円を,同年12月20日までに1億円を,平成19年3月20日までに2億円を原告に支払うこととなっていた。しかし,OD社は,平成18年9月29日の3000万円の支払を行うことができなかった。そのため,同月ころ,原告の資金繰りがつかなくなる事態に陥り,それに伴い,被告が,原告の取締役会の承認を得ないで群馬銀行から2億円の借入れを行っていたことが原告の取締役会に発覚した。
(7)  原告は,平成18年9月26日の臨時取締役会において,被告から,IIMSのOD社への売却状況及び支払についての説明を受け,また,群馬銀行からの2億円の借入れについての説明(借入金の使途となるGIS中部からの本件プロジェクト向けIIMSの買い戻しについての説明を含む。)を受けた。この臨時取締役会において,被告が原告の取締役会の承認を得ないで群馬銀行から2億円の借入れを行ったことなどが問題とされ,原告の代表印を高崎にある本社から東京事務所に移設して管理することや被告は引き続きIIMSの売却及び本件プロジェクトに注力すること,原告の国内業務は原告の事業部長が注力することが今後の方針として決定された。
(8)  同年10月2日にも原告の臨時取締役会が開催され,OD社からの3000万円の入金が実行されなかったことが報告された。また,本件プロジェクトについて,同年9月29日にインドネシアの双日から本件プロジェクトがほぼ採択されるとの電話連絡があったとの報告がなされ,併せて,本件プロジェクトのIT部分(原告受注部分)は,総額24億円弱であり,R&Dセンターへの委託は5億円,IIMSのライセンスは5億円を予定していることが報告された。
また,同年10月2日の臨時取締役会において,被告が原告の取締役会の承認を得ずにGIS中部から本件プロジェクト向けIIMSの買戻し及び群馬銀行からの2億円の借入れを行い,原告の資金計画に多大な影響を与えたことに対する対応策が検討された。その結果,本件プロジェクトの採択が確実となったとの報告があったことを受け,本件プロジェクトが採択された際に本件プロジェクト向けIIMSを売却することができることを見越して,GIS中部から買い戻した本件プロジェクト向けIIMSを買戻額と同額の2億2440万円で被告に売却し,被告が同IIMSを本件プロジェクトを受注する大手のシステムインテグレータに売却することとするとの結論に至った。これは,当時,原告は債務超過状態にあり,これを解消する必要があったこと,本件プロジェクトが採択されて本件プロジェクト向けIIMSを売却すれば,被告にも相当な利益が見込まれることからこのような結論に至ったものである。そして,売買契約については,後日締結することとなった。
(9)  上記の平成18年10月2日の臨時取締役会を受けて,本件売買契約が締結された。
本件売買契約の締結に際し,被告から,被告の個人名義で本件ソフトを大手のシステムインテグレータに売却することは,信用性の観点からできないので,原告の名義で本件ソフトを売却してほしいとの要請がなされ,原告は,この要請を受け入れた。そして,これを明らかにするために,本件売買契約書に本件付帯事項が加えられるとともに,本件覚書が作成されることとなった。
本件覚書の原案は,被告が作成した。被告が作成した原案は,第3項が,「原告は,本件ソフトウエアのシステムインテグレータ等への譲渡が不調に終わったときは,本件プロジェクトの受注を推進するものとする」旨の内容となっている以外は,本件覚書とほぼ同様の内容であった。原告は,本件覚書に上記の旨の第3項を入れることを拒否し,最終的に,前記第2の1(3)のとおりの覚書が締結された。
(10)  その後,平成18年11月に本件プロジェクトについてJBIC(国際開発銀行)とインドネシアとの合意文書の調印が行われた。
なお,被告は,同年10月25日付けで原告の代表取締役を退任し,平成19年5月31日付けで原告の取締役を退任している。
2  争点1(本件売買契約の実質は委任契約と認められ,被告に売買代金支払義務がないといえるか否か)について
(1)  前記第2の1(2)のとおり,本件売買契約書の表題は「IIMS売買契約書」とされ,売買契約であることが明示されていること,本件売買契約書には,原告は,被告に対し,本件ソフトを売却し,被告はこれを買い受けたこと(第1項),本件ソフトの売買代金は2億2440万円(消費税抜き)とすること(第3項)が定められ,売買の内容が明確にされていることに照らすと,本件売買契約は,売買契約と認められる。
(2)  この点,被告は,本件覚書第1項は「譲渡を推進する」という原告の義務を総論的に定め,本件覚書のその他の規定は,譲渡契約が成立した際の金銭的調整を行う定め等を規定しているものと,また,本件付帯事項は,原告が支援業務を遂行すべき義務を具体的に定めたものとそれぞれ理解すべきであり,これらの規定と矛盾する売買契約書の本質的部分(所有権移転と代金支払義務の発生)については,当事者自ら否定していることになるため,これを合理的に意思解釈すると,全体として委任契約と解釈して契約全体を有効視することが可能となるなどと主張する。
しかし,前記認定のとおり,本件覚書が作成されるに至った経緯は,本件売買契約の締結に際し,被告の個人名義で本件ソフトを大手のシステムインテグレータに売却することは,信用性の観点からできないので,原告の名義で本件ソフトを売却してほしいとの要請が被告からなされ,これを明らかにするために,本件売買契約書に本件付帯事項が加えられるとともに,本件覚書が作成されることとなったというものである。このような趣旨から本件覚書が作成されたことにかんがみると,本件覚書は,本件売買契約の効力を否定するものではないことは明らかである。被告は,本件覚書や本件付帯事項において,被告の義務が定められていることを指摘しているが,これらの本件覚書等に定められている義務は,本件売買契約によって被告が本件ソフトに係る権利を得たことを前提として定められている義務であるから,本件売買契約と矛盾するものではなく,本件覚書や本件付帯事項が本件売買契約と矛盾するようなものでないというべきあって,被告の上記主張を採用することはできない。
また,このように本件売買契約が売買契約として有効に成立していることは,前記第2の1(3)イのとおり,本件ソフトの譲渡契約が成立したときは,原告は,その譲渡価格を被告に支払うものとされていること(本件覚書第2項)からも裏付けられているというべきである。すなわち,本件覚書第2項は,本件ソフトの譲渡契約が成立したときは,当該契約の譲渡価額を原告が被告に支払うことを定めているところ(甲5),これは,本件ソフトの権利を本件売買契約により被告が取得していることから,原告名義で譲渡契約を締結した際にも当該譲渡による利益は被告に帰属し,原告が譲渡価額を被告に支払うこととしたものと理解される(なお,原告は,本件覚書第3項により,調査費,営業支援費及び営業経費として6000万円を取得することとなる。)。
(3)  以上のとおり,本件売買契約は売買契約というべきであり,その実質が委任契約であるとの被告の主張を採用することはできない。
3  争点2(本件売買契約が心裡留保又は通謀虚偽表示により無効と認められるか否か)について
被告は,本件売買契約締結の時点において存在した目的物は,カスタマイズ前の半製品であり,これを被告が一人で購入して,被告一人でカスタマイズして顧客であるインドネシアの受注にこぎつけることは全く不可能であって,このような非現実的な売買契約を原告・被告ともに真意で締結することは考えられないところ,これは,原告の誤った事実認識に基づく被告の問責という背景において行われたものであり,極めて虚構性が濃厚な売買契約であるなどと主張して,本件売買契約が心裡留保又は通謀虚偽表示により無効と主張する。
しかし,本件売買契約が締結されるに至った経緯は,前記認定のとおり,平成18年10月2日の臨時取締役会において,本件プロジェクトの採択が確実となったとの報告があったことを受け,本件プロジェクトが採択された際に本件プロジェクト向けIIMSを売却することができることを見越して,GIS中部から買い戻した本件プロジェクト向けIIMSを買戻額と同額の2億2440万円で被告に売却し,被告が同IIMSを本件プロジェクトを受注する大手のシステムインテグレータに売却するとの結論に至ったというものであり,当時,原告は債務超過状態にあり,これを解消する必要があったこと,本件プロジェクトが採択されて本件プロジェクト向けIIMSを売却すれば,被告にも相当な利益が見込まれることからこのような結論に至ったものと認められる。そして,本件プロジェクト向けIIMSはシリコンスタジオ等へ売却されていたものであり,カスタマイズが必要であったことが認められるものの,一定の価値を有するものであって,被告が主張するような虚構性が濃厚な売買契約であるということはできない。
また,上記のとおり,被告は,被告一人でカスタマイズして顧客であるインドネシアの受注にこぎ着けることは全く不可能であり,非現実的な売買契約であると主張しているが,上記に述べたとおり,被告は,本件売買により取得した本件ソフトをカスタマイズして本件プロジェクトを受注することを意図していたのではなく,本件プロジェクトを受注する大手のシステムインテグレータに売却することを意図していたと認められるのであって(このことは,前記第2の1(3)アの本件覚書第1項の文言からも明らかである。また,この覚書の原案は被告が作成したところ,覚書の原案を作成した際に被告も本件ソフトをシステムインテグレータに譲渡することを意図していたと認められることは,後述のとおりである。),被告が本件ソフトを一人でカスタマイズして本件プロジェクトを受注することを意図していたわけではないから,被告の主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。なお,前記認定のとおり,原告においてIIMS事業を売却することを決定した後,被告を中心として,NTTデータ等の国内大手システムインテグレータに対する売却交渉を行っており,大手のシステムインテグレータに本件ソフトを売却することが非現実的であったということはできない(特に,前記認定のとおり,NTTデータは,IIMSと同様のシステムを保有していたが,本件プロジェクトにはIIMSを使用しないと参画できないという状況にあったため,IIMSと同様のシステムを保有していたにもかかわらず,売却先の候補となっていたのであって,本件プロジェクトの受注におけるIIMSの優位性は明らかであるから(被告本人調書31頁参照),システムインテグレータに本件ソフトを譲渡することが非現実的であったということができないことは明らかである。)。
以上のとおり,本件売買契約が非現実的であるとか虚構性の濃厚なものであるとの被告の主張を採用することはできない。むしろ,前記2でも述べたとおり,本件覚書において,本件ソフトの譲渡契約が成立したときは,原告は,その譲渡価格を被告に支払うものとされ,本件ソフトの譲渡による経済的利益を被告が享受することとされていることは,本件売買契約によって,本件ソフトに係る権利が被告に移転することを原告及び被告が意図して本件売買契約を結んだものというべきであって,本件売買契約に応じた効果意思が認められることに照らすと,本件売買契約が心裡留保又は通謀虚偽表示により無効と認めることはできない。
4  争点3(本件売買契約が公序良俗違反,信義則違反により無効と認められるか否か)について
(1)  被告は,本件売買契約が公序良俗違反,信義則違反により無効であると主張して,その根拠として,原告は,被告に半強制的に本件売買契約を締結させて形式上は被告がIIMSの権利を取得した形をとり,万一被告が顧客からの受注を成功させた場合は自らその利益を取得できるようにした上で,受注が不成功に終わった場合でも最終的には被告に売買代金を請求することで損害を受けない仕組みを設定したなどと主張している。
しかし,すでに述べたとおり,本件覚書において,本件ソフトの譲渡契約が成立した時は,原告は,その譲渡価格を被告に支払うものとされ,本件ソフトの譲渡による経済的利益を被告が享受することとされており,原告が得る経済的利益は,調査費,営業支援費及び営業経費として合計6000万円に限られている。証拠(乙8)によると,被告は,平成18年10月2日の臨時取締役会で本件プロジェクトがほぼ採択されるとの報告を行うとともに,本件プロジェクトのIT部分(原告受注分)は,総額24億円弱であり,R&Dセンターへの委託は5億円,IIMSのライセンスは5億円を予定しているとの報告をしたことが認められ,この報告のとおりのIIMSのライセンスの売却が実現した際には,原告に対する営業経費等の6000万円を支払っても,なお被告は相当額の経済的利益を得ることができることになる(しかも,すでに述べたとおり,本件プロジェクトの受注におけるIIMSの優位性は明らかであること,シリコンスタジオやGIS中部が転売を前提として本件プロジェクト向けIIMSの購入に応じていることに照らすと,IIMSのライセンスの売却が実現する可能性は相当高かったものというべきである。)。そうすると,被告が主張するように,形式上は被告がIIMSの権利を取得した形をとり,万一被告が顧客からの受注を成功させた場合は原告が自らその利益を取得できるようにした上で,受注が不成功に終わった場合でも最終的には被告に売買代金を請求することで損害を受けない仕組みを設定したなどということはできないのであり,被告の公序良俗違反等の主張は,その前提を欠くものであり,採用できない。
(2)  また,被告は,本件売買契約が公序良俗違反,信義則違反により無効であるとの主張の根拠として,原告は,IIMSの開発保守を担ってきたR&Dセンターの閉鎖等を行い,自らサポート体制を放棄して顧客からの受注を不可能にしながら,本件売買契約の代金を請求しているなどと主張する。
しかし,前記認定のとおり,R&Dセンターは,OD社に売却されており,本件覚書第5項においても,原告が本件プロジェクトを受注した際,本件ソフトのカスタマイズ等をOD社に外注することとされていること(前記第2の1(3)オ),R&Dセンターのセンター長であった任がOD社に所属していること(甲14,弁論の全趣旨)に照らすと,OD社に譲渡されたR&Dセンターにおいて,従前のR&Dセンターと同等の機能を果たすことが可能であるというべきであり,かつ,本件売買契約においては,そのことが前提とされていたというべきである。そうすると,IIMSの開発保守を担ってきたR&Dセンターの閉鎖等を行い,自らサポート体制を放棄して顧客からの受注を不可能にしながら,本件売買契約の代金を請求しているなどとする被告の主張はその前提を欠くものであり,採用することができない。
(3)  以上のとおり,本件売買契約が公序良俗違反,信義則違反により無効であるとの被告の主張はいずれも採用できず,本件売買契約が無効であると認めることはできない。
5  争点4(本件売買契約には,本件プロジェクトの受注という停止条件の合意があるといえるか)について
被告は,本件覚書第2項の「本件ソフトウエアの譲渡契約が成立したとき」,同第3項の「第2項の譲渡契約が成立したとき」との約定は,本件売買契約の停止条件であると主張している。
しかし,本件覚書第2項は,「本件ソフトウェアの譲渡契約が成立したときは,この契約の譲渡価額を乙に支払うものとする」とされており(甲5),「本件ソフトウエアの譲渡契約が成立したとき」との停止条件は,「この契約の譲渡価額を乙に支払うものとする」にかかっていることは明らかであり,本件売買契約の停止条件ではない。また,本件覚書第3項も「第2項の譲渡契約が成立したときは,売買契約書の第3項に記載されている売買代金以外に,以下の金額を支払う」とされており(甲5),「第2項の譲渡契約が成立したとき」との停止条件は,「売買契約書の第3項に記載されている売買代金以外に,以下の金額を支払う」にかかっていることは明らかであり,本件売買契約の停止条件ではない。そして,これら本件覚書に定められている義務は本件売買契約によって被告が本件ソフトに係る権利を得たことを前提として定められているというべきことは,すでに述べたとおりであって,上記の本件覚書の各約定が上記の文言どおりの意味を有するのではなく,本件売買契約の停止条件を定めたものであると解すべき根拠もない。
したがって,本件売買契約には,本件プロジェクトの受注という停止条件の合意があるとの被告の主張は失当であり,そのような停止条件の合意があると認めることはできない。
6  争点5(本件売買契約の解除が認められるか否か)について
被告は,「本件売買契約は,本件付帯事項に,受注先への納入までのサポートを原告が行う旨の規定があるのに,原告は,被告を代表取締役から解任して,IIMSの開発・保守に関する業務の執行権限を剥奪した上で,同ソフトの開発・保守体制そのものを完全に放棄した」との債務不履行があり,債務不履行に基づき本件売買契約を解除することができる旨主張している。
被告の上記主張は,本件付帯事項に定められている納入までのサポートとは,本件ソフトのカスタマイズを行うことを意味するとの被告の主張を前提とするものと理解される。しかし,すでに述べたとおり,本件売買契約に際し,信用性の観点から,被告の個人名義で本件ソフトを大手のシステムインテグレータに売却することはできないため,被告が原告の名義で本件ソフトを売却してほしいとの要請を行い,これを明らかにするために,本件売買契約書に本件付帯事項が加えられるとともに,本件覚書が作成されることとなったことが認められるのであるから,本件付帯事項にあるサポートとは,被告の個人名義で売却することの難しい本件ソフトを原告の名義で売却することを意味するものと認められ(原告代表者(同本人調書9頁参照)),本件ソフトのカスタマイズをする債務を原告が負っていたと認められない。
これに対し,被告は,上記のとおり,本件付帯事項の納入までのサポートとは,本件ソフトのカスタマイズを行うことであると主張し,被告も本人尋問でこれに沿う供述をしている。しかし,被告の要望により本件覚書が締結されたことは,被告もこれを認めているところ,被告が作成した本件覚書の原案(乙23の3)には,①(a)原告は,本件プロジェクトの受注を目指しているシステムインテグレータ等に本件ソフトの譲渡を推進すること,(b)原告は,本件ソフトの譲渡先及び譲渡価額等の譲渡条件に関する交渉権限を被告に与え,本件ソフトの譲渡契約が成立したときは,この契約の譲渡価額のうち,被告所有の本件ソフトの対価に該当する部分を被告に支払うこと,②(a)原告は,本件ソフトのシステムインテグレータ等への譲渡が不調に終わったときは,本件プロジェクトの受注を推進するものとすること,(b)原告は,本件プロジェクトを受注した際,被告所有の本件ソフトの機能に該当する部分の受注額を被告に支払うこと,(c)原告は,本件プロジェクトを受注した際,本件ソフトのカスタマイズ及び新規作成部分の開発はOD社に外注すること,③原告は,本件プロジェクトの受注が不調に終わったときは,被告の所有する本件ソフトの本件プロジェクト以外への転用を認めることが記載されていることが認められる(乙23の3)。この原案によると,原告はシステムインテグレータに本件ソフトの譲渡を推進すること(上記①(a)),これが不調に終わった場合には,原告自身が本件プロジェクトの受注を推進すること(上記②(a)),原告自身が本件プロジェクトを受注した際,本件ソフトのカスタマイズはOD社に外注すること(上記②(c))とされているのであるから,被告の当時の意図としても,まずは,本件ソフトをシステムインテグレータに譲渡することを予定しており,その際に,原告が本件ソフトのカスタマイズを行うことは意図していなかったというべきであり(本件覚書にその旨の記載はないし,原告自身が本件プロジェクトを受注する際のカスタマイズもOD社に外注することとされ,原告が行うものとはされていないことにかんがみても,システムインテグレータに本件ソフトを譲渡する際にのみ原告がカスタマイズを行うものとは考え難い。),これが不調に終わったときに原告自身が本件プロジェクトを受注する際のカスタマイズもOD社に外注することとされているのであるから,いずれにしても,本件売買契約において,原告が本件ソフトをカスタマイズすることは予定されていなかったものというべきである。さらに,被告が主張するとおりカスタマイズを行うとすると,138人月を要する2億7600万円に相当するカスタマイズということとなることが認められ(乙15の1ないし3,被告本人(本人調書23頁参照)),これは本件売買契約における譲渡価額を超えることとなり,譲渡価額よりも売買契約に付随して発生する売主の債務の履行に多額の費用を要するという不合理なものといわざるを得ず,仮に本件売買契約において,被告の主張するようなカスタマイズが予定されているとすると,そのような不合理な売買価格の設定を原告が行うとは考え難い。以上述べたことに照らすと,本件付帯事項の納入までのサポートとは,本件ソフトのカスタマイズを行うことであるとの被告の主張を採用することはできない。
以上のとおり,本件ソフトのカスタマイズを行う債務を原告が負っていたと認められず,その債務不履行ということはないから,本件売買契約の解除に係る被告の主張を採用することはできず,本件売買契約が解除されたと認めることはできない。
7  まとめ
以上のとおり,本件売買契約は実質的にも売買契約と認められ,被告の抗弁はいずれも認められないから,本件売買契約に基づき売買代金を請求する原告の請求には理由がある。
第4  結論
以上のとおり,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言は,相当でないので,これを付さないこととする。
(裁判官 加藤聡)

 

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