「営業支援」に関する裁判例(50)平成27年 2月10日 東京地裁 平25(ワ)25046号 損害賠償請求事件
「営業支援」に関する裁判例(50)平成27年 2月10日 東京地裁 平25(ワ)25046号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成27年 2月10日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)25046号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2015WLJPCA02108018
要旨
◆被告会社との間で商品CFD取引を行った原告が、当該取引は違法であり、この取引のために同社に取引証拠金として支出した金額及び弁護士費用相当額の損害を被ったとして、被告会社、取引当時に同社の取締役であった被告Y2及び代表取締役であった被告Y1に対し、不法行為若しくは共同不法行為に基づき、又は、被告Y2及び被告Y1については、会社法429条1項に基づき、損害賠償を求めた事案において、本件取引の状況及び経緯に鑑みれば、本件従業員及び被告Y2は、原告に対して、明らかに過大な危険を伴う商品の取引を積極的に勧誘したというべきで、このような勧誘行為は違法であるとし、被告会社及び被告Y2の不法行為に基づく損害賠償責任を認めるとともに、本件取引当時の被告会社の代表取締役としての被告Y1の任務懈怠を認め、同被告の会社法429条1項に基づく損害賠償責任を認めて、原告の請求を認容した事例
参照条文
民法709条
民法719条1項
会社法429条1項
裁判年月日 平成27年 2月10日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)25046号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2015WLJPCA02108018
東京都江戸川区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 福田健治
同 小林美智子
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 株式会社フロンティア・エッジ
同代表者代表取締役 Y1
東京都北区〈以下省略〉
被告 Y1
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 Y2
上記3名訴訟代理人弁護士 岩井昇二
主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して1662万0788円及びこれに対する被告株式会社フロンティア・エッジについては平成25年10月16日から、被告Y1については同月3日から、被告Y2については同年12月25日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、被告株式会社フロンティア・エッジとの間で商品CFD取引を行った原告が、当該取引は違法であり、この取引のために同被告に取引証拠金として支出した金額及び弁護士費用相当額の損害を被ったとして、同被告に加え、取引当時に同被告の取締役であった被告Y2及び代表取締役であった被告Y1に対し、不法行為又は共同不法行為に基づく損害賠償として、又は被告Y2及び被告Y1については会社法429条1項に基づき損害賠償として、連帯して1662万0788円及びこれに対する不法行為以後の日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実(項末に証拠を掲記した事実以外の事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 被告株式会社フロンティア・エッジ(以下「被告会社」という。)は、ファンド・アライアンス(ベンチャー企業等の営業支援)・コモディティ(CFD取引受託取次)・コンサルティングを主とした投資アドバイザリー等を目的とし、肩書地を本店所在地として、平成17年11月30日に設立された株式会社である。
被告会社は、金融商品取引業及び商品先物取引業を行うことについて内閣総理大臣の登録を受けていない。
(一件記録中の履歴事項全部証明書)
イ 被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、被告会社の代表取締役の地位にある者である。
ウ 被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、被告会社の取締役の地位にある者である。
エ 原告は、昭和5年○月○日生の女性であり、肩書地に独居している。
(2) 原告と本件会社との間の取引
ア 原告は、平成21年10月ころ、被告会社の従業員の勧誘を受け、同月6日、被告会社との間で商品CFD取引(以下、原告と被告会社との間の取引を「本件取引」という。)を開始した。
イ 商品CFD取引は、海外の取引所に上場されている金、銀、原油、大豆、小麦等の商品を対象とする証拠金取引であり、顧客は、被告会社に対して証拠金を預託し、商品の売り又は買いの注文をすることによって商品を売買したのと同様の地位を取得し、任意の時点でこれと反対の取引(差金決済取引)をすることによって生ずる観念上の差損益について差金の授受を行う。
本件取引は、ロンドンスポット市場を参照市場とする金を対象として開始された。本件取引は、顧客と被告会社との間の相対取引である。
本件取引では、金の価格は、被告の参照市場の提示したレートを基準として被告会社が決定する。同様に、本件取引の「為替レート」や、顧客が金の取引を行うことによって得られる「スワップポイント」も参照市場が提示したレートを基準として被告会社が決定することになっている。
ウ 原告は、本件取引開始後、被告会社に対し、次のとおり、取引証拠金として合計1544万2118円を預託した。
平成21年10月7日 321万円
同年10月19日 200万円
同年12月10日 333万2118円
平成22年1月28日 130万円
同年3月23日 70万円
同年4月26日 50万円
同年4月27日 150万円
同年5月12日 50万円
同年9月28日 60万円
同年12月27日 30万円
平成25年3月5日 150万円
他方で、原告は、被告会社から、平成24年4月22日に24万円の、同年9月2日に15万6330円の、各返金を受けた(合計39万6330円)。
エ 原告は、平成25年6月13日、被告会社に対し、本件取引の解約を申し入れ、これによって生じる清算金の支払を求めた。
(甲4の1及び2)
2 争点及びこれに関する各当事者の主張
(1) 本件取引の違法性
〔原告の主張〕
ア 本件取引は、金等の価格及び為替相場の変動という偶然の事情によって財物の得失を争う行為であって、刑法上の賭博罪にも該当するものである。
本件取引は、海外市場における金現物取引にレバレッジをかけた私設先物まがい取引について、専ら被告会社又は海外業者が取引の相手方となる私設市場を作出して行うものであって、「商品又は商品指数(これに類似する指数を含む。)について先物取引に類似する取引をするための施設(取引所金融商品市場を除く。)」の開設を禁止する商品取引所法6条等の趣旨に違反して、射幸心の助長、委託者保護の欠如、取引所における公正価格形成機能の阻害等の弊害を生じさせるものであるから、公序良俗に反し、無効である。
イ 本件取引は、海外業者が決定する金等の価格及び被告会社が独自に決定するドル円の為替レートによって差金の授受を行う私的差金決済取引であるが、被告会社は、原告に対し、顧客と被告会社との間の利益相反状況その他顧客に不利な事情の一切を隠し、これを正当な金融商品取引であるとして勧誘した上で、高率の手数料や証拠金を支払わせた。
このような被告会社の行為は、詐欺行為ともいうべきであり、不法行為に当たる。
ウ 原告は、一人暮らしの専業主婦であり、収入としては平成15年に死別した夫の遺族年金のみである。原告は、これまで自らの意思で債券や株式の投資をしたことはなかった。
本件取引の仕組み、リスクの態様及び上記の原告の属性に照らして、原告に対し、本件取引を勧誘して取引を行わせたことは、適合性原則に違反する。
〔被告らの主張〕
ア 外国為替取引その他新金融取引は、全てが相対取引である。それ自体は一般経済的な取引であって、違法ではない。
相対取引は、利益相反取引である。その相反状態を解消するためには取引を終了させるほかない。被告会社のような取引業者が顧客と利益相反にならないような社内ルールを設けたり、ヘッジシステムを作成したりすることは経営の裁量の問題である。
イ 原告は、常時、投資用に3000万円の資金を保有し、金融商取引を繰り返していたベテラン投資家である。
原告は、低金利の金融資産を無視し、本件取引に係る「商品CFDガイド」、「約款」を熟読し、被告会社の従業員に対して長時間にわたって質問を重ねて本件取引の仕組みや危険性の理解をした上で、本件取引を申込み、極めて短い期間に約1600万円を投資した。
被告会社の行為が原告に対する詐欺行為となることはあり得ず、また、適合性原則に違反することもない。
(2) 本件取引に係る被告らの責任
〔原告の主張〕
ア 被告会社の責任
被告会社は、原告に対し、違法な本件取引を勧誘し、取引を行わせたことについて、不法行為責任を負う。
イ 被告Y1、被告Y2の責任
被告Y1及び被告Y2は、本件取引が違法であることを知りながら、被告会社の取締役として、原告との間で、本件取引を行っていたのであるから、民法709条及び同法719条の共同不法行為責任を負う。
被告Y1及び被告Y2は、被告会社の代表取締役又は取締役であるから、被告会社が適法な営業を行うように業務を執行すべき義務を負っていたにもかかわらず、悪意又は重大な過失によりこれを怠り、本件取引によって原告に損害を与えた。したがって、被告Y1及び被告Y2は、会社法429条1項に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
〔被告らの主張〕
争う。
(3) 原告の損害額
〔原告の主張〕
ア 本件取引に係る損害
原告は、被告会社に対し、本件取引の証拠金名目で1544万2118円を交付し、39万6330円の返還を受けたから、その差額である1504万5788円の損害を被った。
イ 弁護士費用
原告は、被告らが、本件取引によって原告に生じた損害の賠償をしないために代理人弁護士を委任して本件訴訟を提起し、訴訟追行を余儀なくされた。
原告は、代理人弁護士に対し、弁護士費用として157万5000円の支払を約束した。この弁護士費用も本件取引と相当因果関係のある原告の損害あるから、被告らは、原告に対してこれを賠償すべき義務がある。
〔被告らの主張〕
争う。
第3 当裁判所の判断
1 証拠(項末に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば、本件取引について、次のとおり認められる。
(1) 本件取引開始当時の原告の生活状況及び取引経験
ア 原告は、平成15年に夫と死別し、その後は、賃貸住宅で独居している。原告は、夫との間に1男2女をもうけたが、いずれも独立して生活しているため、子らと顔を合わせる機会は年に2、3回程度であった。
原告は、70歳になるまでパート勤務をしていたが、本件取引開始当時は、1か月当たり約10万円の年金収入しかなかった。
(甲6、原告)
イ 原告は、平成17年7月ころ、株式会社グローバル・イノベーション(以下「グローバル社」という。)の従業員を名乗る者から、「もうかる」等と未公開株式の売買の勧誘を受け、3株分として180万円を支払った。原告は、更にグローバル社から2株分の追加購入の勧誘を受けた。原告の長男は、この事実を知って警察署に相談し、また、原告の長女は、グローバル社に対し、180万円の返金を求めた。その結果、グローバル社は、原告に対し、180万円を返金した。
原告は、平成19年2月ころ、オリエンタルマザーズ株式会社(以下「オリエンタル社」という。)の勧誘を受け、原油のオプション取引契約を締結して100万円を支払い、同年4月、金のオプション取引を開始して250万円を支払った。原告の長女は、これを知ってオリエンタル社の担当者と話合いの上、同社に対して取引終了を申し入れ、152万円の返金を受けた。
原告は、そのころ、預貯金として約3000万円の資産を有していた。
(甲5、A)
(2) 本件取引の開始
ア 原告は、平成21年10月ころ、被告会社の女性従業員から電話を受け、その後、自宅において、被告会社の従業員(以下「本件従業員」という。)の訪問を受けた。
本件従業員は、引き続き、原告の自宅を訪問し、世間話をしながら、本件取引の勧誘を行った。原告は、そのうちに世間話を楽しむようになり、本件従業員の勧誘に応じて金を購入することとした。
(甲6、原告)
イ 原告は、平成21年10月6日、本件取引に係る口座開設申込書を作成し、また、本件取引の仕組みやリスクについて説明を受けてこれを理解した旨記載された複数の書面(約諾書、重要事項確認書等)に署名した。その上で、原告は、本件従業員を同行して取引銀行で預金を引き出し、本件従業員に対して321万円を交付した。
(甲2の1、6、原告)
ウ 原告は、その後も本件従業員や被告Y2の訪問を受け、同人らの言葉に従って、前記第2の1(2)ウのとおり、本件取引の取引証拠金を交付した。
なお、原告が上記取引証拠金の準備のために取引銀行へ行く際には、本件従業員が同行していた。
(原告、弁論の全趣旨)
(3) 本件に至る経緯
原告の長女は、平成25年4月ころ、原告の預貯金通帳から理由不明な出金のあることに気付き、原告に対して出金理由を尋ねた結果、原告が被告会社との間で本件取引をしたことを知った。
原告の長女は、消費者センターに相談の上、原告代理人弁護士に本件取引の終了と金銭の取戻しを依頼した。
(A)
2 争点(1)について
(1) 本件取引を含む商品CFD取引は、相対取引を基本とし、構造的に被告会社と顧客との利害が相反しやすい取引であり、極めて投機性が強く、顧客が短期間に多額の損失を被る危険性のあるものということができる。このような商品CFD取引を行うためには、顧客においても、取引に関する専門的な概念や仕組みについて十分な理解が必要である。
本件取引の専門性や危険性に鑑みれば、被告会社は、顧客の投資経験、商品取引の知識、投資意向及び財産状態等に照らして顧客の保護に欠ける不適当な勧誘をしてはならない義務があるというべきである。
(2) 原告は、上記1(1)イのとおり、本件取引以前に、未公開株式の購入や、原油及び金のオプション取引に手を付けた経験があるが、いずれの取引についても子らによって終了させられており、しかも上記未公開株式の取引については詐欺的取引に巻き込まれたものであることがうかがわれるから、これをもって投資経験や商品取引の知識があるということはできず、むしろ、原告には、取引の仕組みや危険性を理解しないままに取引を行ってしまう傾向があるということができる。
本件従業員及び被告Y2が、原告に対し、本件取引を開始するに当たって、本件取引の仕組みやその危険性について、十分に説明し、原告がこれを理解したことを認めるに足りる証拠はない。当時79歳の無職者であった原告が、本件従業員との世間話を楽しみ、その言葉に従って貯蓄である預貯金を取り崩して本件取引を行い、結果的にわずかな期間に1500万円以上もの金銭を交付することになったという経緯に照らせば、原告は、本件取引の仕組みや危険性について全く理解していなかったと考えられ、他方で、本件従業員や被告Y2は、原告の不十分な理解に乗じて短期間に多額の取引を行うことを勧めたと推認される。
このような本件取引の状況及び経緯に鑑みれば、本件従業員及び被告Y2は、原告に対し、明らかに過大な危険を伴う商品の取引を積極的に勧誘したというべきであって、このような勧誘行為は違法があるといわざるを得ない。
したがって、原告は、被告会社ないしその従業員及び被告Y2の不法行為によって損害を被ったと認められる。
3 争点(2)について
(1) 被告会社は、本件取引によって原告に対して損害を与えたというべきであるから、その損害を賠償すべき責任を負う。
(2) 被告Y2は、本件取引当時、被告会社の取締役であり、本件取引の仕組みや危険性を認識しながら、他の従業員と共に原告に対して本件取引の説明や勧誘を行ったものと認められるから、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うというべきである。
(3) 被告Y1は、本件取引当時、被告会社の代表取締役の地位にあって、本件取引を含む商品CFD取引が顧客に対して大きな損失をもたらす危険性のある取引であることを認識していたものと認められる。
被告Y1は、被告会社の代表取締役として、従業員や他の取締役が違法な取引行為を行わないようにその業務を適切に監督し、その違法行為を未然に防ぐための体制を構築すべき任務を負っていたというべきであるが、本件取引当時、そのような任務を怠っていたというほかなく、その任務懈怠には重大な過失があったというべきである。
したがって、被告Y1は、会社法429条1項に基づき、原告に対してその損害を賠償する責任を免れない。
4 争点(3)について
(1) 原告は、本件取引開始後、被告会社に対して合計1544万2118円を支出し、39万6330円の返金を受けたのみであるから、差額1504万5788円が、本件取引によって被った損害ということができる。
(2) 原告は、本件と訴訟を追行するに当たり、代理人弁護士を委任し、その費用の負担を余儀なくされたところ、本件訴訟の経緯その他一切の事情を考慮し、弁護士費用157万5000円について、被告会社ないしその従業員及び被告Y2の不法行為並びに被告Y1の任務懈怠と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
5 結論
以上のとおりであり、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条、65条1項本文を、仮執行の宣言について同法259条1項を、各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 栗田正紀)
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