
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(148)平成26年 3月 4日 東京地裁 平23(ワ)22439号 業務委託料請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(148)平成26年 3月 4日 東京地裁 平23(ワ)22439号 業務委託料請求事件
裁判年月日 平成26年 3月 4日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)22439号
事件名 業務委託料請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA03048004
要旨
◆原告が、被告に対し、人材紹介に関する業務委託契約に基づき委託料等の支払を求めた事案において、平成18年2月17日付契約書及び同年3月27日付支払確認書は、いずれも被告の代表取締役専務であったCの意思に基づいて作成されたものではなく、また、被告が成立の真正を争わない同年1月20日付契約書1項は、日本語に訳される場合の通常の意味等から成功報酬を定めたものであるところ、紹介された者を採用していない以上、被告に報酬支払義務はなく、被告に同契約書3項の自動支払条項の違反も認められないとして、請求を棄却した事例
参照条文
民法656条
民事訴訟法228条4項
裁判年月日 平成26年 3月 4日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)22439号
事件名 業務委託料請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2014WLJPCA03048004
東京都港区〈以下省略〉
原告 マネージメイツ・インターナショナル・マーケティング株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 鹿内徳行
同 高松政裕
東京都大田区〈以下省略〉
被告 トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 磯部健介
同 青木竜太
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,6818万3850円及びこれに対する平成18年8月2日から支払済みまで年1割2分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
本件は,原告が,被告に対し,被告との間の人材の紹介に関する業務委託契約に基づいて,その未払委託料及びこれに対する約定の遅延損害金を請求する事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実)
(1) 原告は,主に日本で営業を行っている外資系企業を中心とする経営に関する相談業務,会社の合併,技術の導入等に関する斡旋業務,法人,団体等における経営のための管理的職務を行う者及び通訳に関する職業紹介事業等を行うことを目的として設立された株式会社である。(甲1)
(2) 被告は,各種繊維製品,殊にファウンデーションウェア,ビーチウェア,水着,ランジェリー等の製造,販売,卸売及び輸出入等を行うことを目的として設立された株式会社である。(甲2)
(3) 平成18年1月5日,原告代表者代表取締役A(以下「原告代表者」という。)は,当時被告の代表取締役専務であったC(以下「C」という。)から財務担当取締役及び総務担当取締役を必要としているので,連絡が欲しい旨の電子メールを受信した。(甲3,弁論の全趣旨)
(4) 被告は,原告に対し,人材の紹介を委託し,原告はこれを受託して(以下「本件委託契約」という。)被告に候補者を紹介した。被告は,紹介された一部の候補者と面接を行ったが,候補者を採用するには至らなかった(本件委託契約の内容,紹介及び面接した候補者の人数については,当事者間に争いがある。)。(弁論の全趣旨)
(5) 被告は,原告に対し,本件委託契約に関し,報酬の支払を行っていない。(弁論の全趣旨)
2 争点及び当事者の主張の要旨
本件の争点は,(1)被告に本件委託契約に基づく報酬の支払義務が認められるか(主位的請求),(2)被告に本件委託契約の債務不履行を理由とする損害賠償義務が認められるか(予備的請求)である。
(1) 被告に本件委託契約に基づく報酬の支払義務が認められるか(主位的請求)
(原告の主張)
ア 原告代表者は,平成18年1月5日,Cから,以下の(ア)の記載のある書面(以下「本件依頼書」という。甲4)をもって,7つの職種(以下「本件各職種」という。)について,候補者となる人材の紹介をしてほしい旨の依頼を受け,同年2月17日,被告との間で,本件依頼書に基づき,以下の(イ)のとおり対価及び実費を支払うことを合意する手数料契約書(以下「本件2月17日付契約書」という。甲5)を調印して,もって,本件委託契約を締結した。
(ア) 被告は,原告に対し,以下の本件各職種に係る人材の紹介を依頼する。
① 財務担当取締役 給与年2500万円及び成果インセンティブ並びにボーナス給
② 経理部長 給与年1600万円及びインセンティブ
③ 内部監査役 給与年1800万円及びインセンティブ
④ 人事部長 給与年1600万円及びインセンティブ
⑤ 総務・管理部長 給与年1500万円及びインセンティブ
⑥ IT担当部長 給与最低年1800万円及びインセンティブ並びにボーナス給
⑦ 物流担当部長 給与年1800万円及びインセンティブ
(イ) 被告は,原告に対し,本件各職種の職種ごとに以下の対価及び実費を支払う(本件2月17日付契約書1項)。
① アドヴァンス・プロフェッショナル・フィー(以下「着手金」という。)
候補者の採用不採用にかかわらず各200万円
② 被告が原告が紹介した候補者を採用した場合の報酬(以下「報酬金」という。)
各候補者の初年度の想定総年収の35%
(ウ) 自動支払条項(本件2月17日付契約書3項)
本件2月17日付契約書3項には,被告が,原告から候補者に関する資料の提供を受けたにもかかわらず,依頼日から起算して45日以内にいずれの候補者に対しても面接を実施しない場合には,被告は原告の選択により,着手金の支払義務を負い,また,被告が,上記期間後90日以内に候補者の採用決定を行わない場合には,被告の責任による本件委託契約に係る業務の一方的中止と見なされ,被告は原告に対し,30日以内に報酬金等の費用の全額を支払う義務を負う。
(エ) タイムチャージ(本件2月17日付契約書6項,10項)
被告は,原告に対し,上記(イ)及び(ウ)のほか,業務を実施するスタッフのレベルに応じて定められたタイムチャージを支払う義務を負う。
タイムチャージの最低課金時間は8時間である。
(オ) 実費(本件2月17日付契約書1項)
(カ) 遅延損害金(本件2月17日付契約書10項)
支払の遅延が発生した場合には,被告は,原告に対し,業務の依頼日から延滞料金全額に対し,毎月1%(年1割2分)の遅延損害金を支払う義務を負う。
イ 原告は,被告に対し,本件委託契約に基づき,本件各職種につき,各候補者についての個人情報データ(以下「シノプシス」という。)を作成し,被告に交付して11名の候補者を紹介し(甲9,18ないし24),被告は,以下の(ア)①ないし⑦のとおり,うち7名と面接した。以下の(ア)⑧の候補者については,予定していた面接当日にCが,急遽,別の候補者であるD及びEの2次面接を原告本社で行うことになったことから,原告代表者が,代わりに以下の(ア)⑧の日時に面接を行った。また,以下の(イ)①ないし③の3名については,平成18年2月17日から同年3月15日にかけて2次面接を行った。(甲27)
しかし,被告は,本件2月17日付契約書3項に定めた期間内に,上記以外の候補者4名については,面接を行わず,面接を行ったその余の7名についても採否決定をしなかった。(甲9,10,15,枝番省略(以下同じ。))
(ア) 1次面接
① 候補者:F
職種:人事部長
日時:平成18年2月9日 午後4時
場所:原告本社会議室
面接官:C
② 候補者:G
職種:経理部長
日時:平成18年2月9日 午後6時
場所:原告本社会議室
面接官:C
③ 候補者:H
職種:人事部長
日時:平成18年2月16日 午後6時
場所:原告本社会議室
面接官:C
④ 候補者:D
職種:財務担当取締役,内部監査役
日時:平成18年1月30日 午後6時
場所:原告本社会議室
面接官:C
⑤ 候補者:E
職種:財務担当取締役
日時:平成18年2月16日 午後4時
場所:原告本社会議室
面接官:C
⑥ 候補者:I
職種:内部監査役
日時:平成18年2月8日 午後4時30分
場所:原告本社会議室
面接官:C
⑦ 候補者:J
職種:経理部長
日時:平成18年2月22日 午後6時30分
場所:原告本社会議室
面接官:C
⑧ 候補者:K
職種:財務担当取締役
日時:平成18年2月17日 午後4時
場所:原告本社会議室
面接官:原告代表者
(イ) 2次面接
① 候補者:G
日時:平成18年3月15日 午後5時
場所:被告本社
面接官:C及びL
② 候補者:D
日時:平成18年2月17日 午後7時
場所:被告本社
③ 候補者:E
日時:平成18年2月17日 午後5時30分
場所:被告本社
ウ 上記イのとおり,原告は,被告に対し,被告から依頼を受けた本件各職種につき候補者を選定し,シノプシス(甲9,18ないし24,33ないし37)を送付しているのであるから,原告の義務は完了したが,被告は,依頼日から起算して45日以内に4名の候補者につき面接を実施せず,また,面接を行った候補者に対しても,依頼日から90日以内に採用決定を行わなかったから,本件依頼書及び本件2月17日付契約書3項,6項,10項に基づき,以下のとおり最低でも6818万3850円の支払義務を負う。
(ア) 財務担当取締役
① 着手金 200万円
② 報酬金 875万円
(初年度年収2500万円×35%)
(イ) 経理部長
① 着手金 200万円
② 報酬金 560万円
(初年度年収1600万円×35%)
(ウ) 内部監査役
① 着手金 200万円
② 報酬金 630万円
(初年度年収1800万円×35%)
(エ) 人事部長
① 着手金 200万円
② 報酬金 560万円
(初年度年収1600万円×35%)
(オ) 総務・管理部長
① 着手金 200万円
② 報酬金 525万円
(初年度年収1500万円×35%)
(カ) IT担当部長
① 着手金 200万円
② 報酬金 630万円
(初年度年収1800万円×35%)
(キ) 物流担当部長
① 着手金 200万円
② 報酬金 630万円
(初年度年収1800万円×35%)
(ク) タイムチャージ 660万円
(候補者11名×8時間×時間給7万5000円)
(ケ) 実費 23万7000円
(コ) 消費税 5%
上記合計 6818万3850円(消費税込み)
エ 被告の主張に対する反論
(ア) 被告は,本件依頼書及び本件2月17日付契約書の成立を否認するが,本件依頼書は,被告のレターヘッドのある用紙に印字されたものであり,また,その内容からしても,Cが作成したものであることは明らかである。また,本件2月17日付契約書の記名欄及びCの署名についても何ら不自然なところはなく,Cの署名が,C自身によってなされたことは明らかである。
(イ) 被告は,原告が,本件委託契約に係る報酬請求権を放棄した旨の主張をするが,そのような事実はない。
被告は,原告の取締役であったM(平成19年2月23日退任。以下「M」という。)が,平成18年3月20日,Cに送信したメール(乙7)に報酬請求権を放棄した旨の記載があると主張するが,同メールには,請求を一時留保する旨が記載されているだけであって,請求を放棄するとは記載されていないから,被告の主張は失当である。
また,Cは,平成18年3月27日,「リクルーティング依頼キャンセル及び適用手数料支払確認書」(以下「本件支払確認書」という。甲30)によって,原告の請求をすべて認めている。
(ウ) 被告は,本件2月17日付契約書の内容が不合理である旨を主張するが,原告代表者は,本件委託契約締結当時の被告の代表取締役社長であったL(以下「L」という。)及び同じく代表取締役専務であったC,さらに,L以前にもN元代表取締役社長を被告に紹介したのであり,原告代表者とL,C,Nは非常に緊密な関係にあり,信頼関係の中で本件2月17日付契約書が締結されたものであり,本件2月17日付契約書の内容に不合理な点は存しない。
(エ) 被告は,原告が被告に送付したシノプシスでは,原告の義務の履行として足りない旨の主張をする。しかし,被告が原告に依頼した業務はヘッドハンティングであり,ヘッドハンティング業では,サーチコンサルタントが候補者をリサーチして見つけてくるものであり,候補者から積極的に応募してくるものではないから,候補者に履歴書を提出してもらうようなことはせず,コンサルタントによってシノプシスが作成され,これがクライアントに提供され,それで足りるものであるから,被告の主張は失当である。
(被告の主張)
ア 本件依頼書(甲4),本件2月17日付契約書(甲5)及び本件支払確認書(甲30)の成立は否認する。
(ア) 本件依頼書は,被告のレターヘッドが用いられているが,被告が作成した事実はない。また,仮に,本件依頼書の作成に被告の何者かが関与しているとしても,その日付,作成者の記名押印がないことから明らかなように,被告の正式な書面ではないし,契約の申込書等という性質のものではない。当時,被告が必要としていたのは,財務・管理担当取締役,人事・総務を担当できる人事部長及び監査役のみであり,このことは,原告に伝えている。
(イ) 本件2月17日付契約書にCは署名していない。Cの署名は,偽造である。
(ウ) 本件支払確認書をCは作成していない。平成18年3月20日のメール(乙7)から1週間後に,無条件で,しかも探してもいない職種の成功報酬まで含めて認める内容の本件支払確認書をCが作成するなどあり得ない話である。また,原告は,その後,本件支払確認書に基づく請求も行っていないのであって,本件支払確認書は後に原告によって作成されたものとしか思われない。
イ(ア) 上記アのとおりであって,本件2月17日付契約書に係る契約は成立していないから,同契約書に基づく原告の請求は認められない。
(イ) 被告と原告との間に,良い人がいたら紹介してほしいという成功報酬ベース(成功するまでは,報酬や費用は支払わない。)の本件委託契約があったことは認めるが,Cは,成功報酬ベースでの紹介の依頼であることを,当初の段階で,原告代表者に明確に伝え,原告はこれを了承していた。そして,成功(紹介された人員を採用)しなかった以上,原告に報酬請求権は発生しない。
現実に,原告が人材の紹介活動をしている間,原告から着手金を含めいかなる報酬も請求されることはなかった。
(ウ) なお,原告は,被告に対し,11名の候補者を紹介し,被告がうち7名と面接を行った旨の主張をするが,被告が原告の紹介によって面接を行ったのは,せいぜい,4名にすぎない。また,被告から,原告に対し,すべての職種の延べ人数で,概ね10名程度の候補者について,匿名,かつ,極めてラフな情報が送られてきたことは事実であるが,候補者の紹介というようなレベルのものではなかった(乙6,7)。
(エ) さらに,仮に本件2月17日付契約書によったとしても,被告は,依頼日から起算して45日以内に候補者4名に対して面接をし,90日以内に採否の決定を行っている(乙7)から,被告の本件委託契約に係る手数料支払義務の発生要件は充足されていない。
ウ 平成18年3月に300万円の請求書が原告から被告に送られてきたが,本件委託契約に反することから,Cは,原告代表者にその説明をし,原告代表者はその請求を撤回・放棄した。したがって,仮に,原告に,被告に対する何らかの報酬請求権が発生していたとしても,平成18年3月に,請求権は消滅している。
しかも,その後,何の督促もなく,4年以上経過した平成22年11月30日に至って,突如,原告は,被告に対し,4200万円(乙1)の請求書を,さらに,平成23年1月17日には1億0624万9808円(乙3)の請求書を送ってきたものであって,数字の根拠も不明である。
(2) 被告に本件委託契約の債務不履行を理由とする損害賠償義務が認められるか(予備的請求)
(原告の主張)
ア 本件2月17日付契約書1項に基づき,被告は,独占的委託義務を負う。すなわち,被告は,本件委託契約期間(契約から5年間)中,原告以外の者に対し,同一の業務を委託しない義務(以下「本件独占的委託義務」という。)を負っていた。
本件2月17日付契約書が真正に成立していることは前記(1)(原告の主張)エ(ア)のとおりである。
イ 被告が,本件独占的委託義務に違反し,本件委託契約期間中に,他の事業者にも人材紹介を依頼しその紹介を受けたことにより,原告は,本件委託契約に係る業務の遂行が不可能となった。
ウ 被告の上記イの債務不履行により,原告は,主位的請求と同額である6818万3850円の損害を被った。
(被告の主張)
ア 原告が主張する本件独占的委託義務に係る合意は存在しない。
被告は,本件2月17日付契約書の成立を否認するが,仮に成立が認められたとしても,同書面には,「独占権を与える」という文言自体がなく,原告が主張するような定めは読み取れない。
イ 仮に本件独占的委託義務に係る合意が存在したとしても,被告が採用した人材は,被告会社役員の個人的な知人からの紹介であって,他の人材派遣業者からの紹介ではないから,被告に独占的委託義務違反はない。
実際,本件訴訟までこの点は問題とされていなかった(乙7)。
ウ さらに,原告が,被告に対して報酬の請求を放棄する旨合意していることは,前記(1)(被告の主張)ウのとおりであり,本件委託契約に基づく原告の請求権は消滅している。
第3 争点に対する判断
1 認定事実
(1) 被告は,財務・管理本部の取締役の採用を計画していたところ,被告が,原告代表者(ただし,原告の代表者としてではない。)から紹介を受けたC及びLを被告の取締役として採用したなどの経緯があったことから,Cは,原告代表者に対し,平成18年1月5日,被告が財務・管理の取締役の候補者を探しているので連絡が欲しい旨のメールを送信した。(甲3,乙8)
(2) 上記(1)のメールを受け,原告代表者は,平成18年1月20日付手数料契約書(以下「本件1月20日付契約書」という。甲64)の原案を作成してCに示し,同日,Cは上記原案の一部を斜線で訂正した上で原告代表者に提出し,原告と被告は,本件委託契約を締結した。本件1月20日付契約書には,以下の内容の記載がある。(甲64,弁論の全趣旨)
ア 本件1月20日付契約書1項
サーチアサインメントごとに100万円(加えて,実費)をミニマム(最低限の)・プロフェッショナル・フィーとするパフォーマンスベース(Performance-based)の手数料方式であり,マネージメイツ(原告)は,マネージメイツより紹介された候補者の基本給,賞与,インセンティブ,コミッション及び手当により構成される初年度想定総収入の35%を候補者の採用時に,直ちに(又は請求書に従い)受領する。
なお,原告は,本件1月20日付契約書1項の英文につき,「ミニマム・プロフェッショナル・フィーとして100万円(加えて実費)を支払うとともに,給与,賞与(中略)を支払う」と訳し,採用の有無を問わず,100万円を着手金として支払う義務がある旨の主張をするが,この主張が採用できないことは後記2(1)イのとおりである。
イ 本件1月20日付契約書3項
クライアント企業(被告)は,候補者の情報が提供されたにもかかわらず,依頼日より起算して45日以内にいずれの候補者に対しても面接を行わない場合,又は,90日以内に候補者採用の決定がなされない場合は,顧客企業(原告)は自動的にミニマムフィーの支払を求められる。ミニマムフィーは最終サクセスフィーから差し引かれる。
ウ なお,本件1月20日付契約書に独占委任契約であることを示す文言はない。
(3) 原告の取締役であったMは,本件委託契約に係る業務を担当し,Cから①CFO(最高財務責任者),②人事/経理/総務部長,③監査役の候補者の紹介を依頼され,11名のシノプシスをCに送付した。Cは,そのうちの4名について面接を行ったが,採用することなく,被告の関係者の紹介を受けた者を採用するに至ったことから,遅くとも平成18年3月18日までに,その旨を原告代表者に連絡し,Mは,原告代表者からその旨の報告を受けた。(甲17ないし25,33ないし37,乙6ないし10,12,13,原告代表者本人,弁論の全趣旨)
(4) Mは,上記(3)の原告代表者からの報告を受け,平成18年3月18日,Cに対し,Cが原告に人材を探すように依頼したすべての役職が埋まったことを聞いたが,当該役職は,①CFO(最高財務責任者),②人事/経理/総務部長,③監査役であり,原告はそのうち11名の適任者をリクルートし,そのうちの4名についてC自身が面接した旨,別途,1月20日付のFee Agreementに従い,請求書を発送する旨,当該請求書は,原告と被告間で合意されていた所定の最低サービス料金(minimum Professional Fee)と,法定の消費税を加算したものをカバーしているので,平成18年3月31日までに支払って欲しい旨を記載したメールを送信するとともに,300万円の請求書を送付した。(乙7,弁論の全趣旨)
(5)ア Cは,Mに対し,平成18年3月20日13時38分ころ,Mがリクルート活動に全力を傾けてくれたと感じている旨,Cが考える「成功報酬」は,原告の時間,専門性,個人的な労力を考慮していないものであって,全員が満足できるような形で解決できなかったことを詫びる旨のメールを送信した。(乙7)
イ Mは,Cに対し,平成18年3月20日15時58分ころ,原告代表者は,Cに対する請求書を見合わせることに同意した旨,今後も良い関係を保ちたい旨を記載したメールを送信した。(乙7)
(6) 原告は,被告に対し,平成22年11月30日,本件委託契約に基づく報酬金等として,合計5901万5748円(利息,消費税込み)を支払うよう請求した。(乙1)
(7) 原告は,被告に対し,平成23年1月17日,本件委託契約に基づく報酬金等として,合計1億9634万8385円(利息,消費税込み)を支払うよう請求した。(乙3)
2 当裁判所の判断
(1) 被告に本件委託契約に基づく報酬の支払義務が認められるか(主位的請求)について
ア 本件依頼書,本件2月17日付契約書及び本件支払確認書の成立について
(ア) 原告は,本件依頼書及び本件2月17日付契約書をもって締結された契約に基づいて被告に対して報酬を請求した旨,被告が,本件支払確認書をもって,原告に上記報酬の請求権があることを認めていた旨主張し,これに沿う原告代表者の本人尋問の結果及び陳述書(甲27,31,50)の記載があるところ,被告は,本件依頼書,本件2月17日付契約書及び本件支払確認書の成立を否認するので検討する。
(イ) 本件依頼書の成立について
原告は,被告が本件依頼書を作成したものである旨主張し,これに沿う原告代表者の本人尋問の結果及び陳述書(甲50)の記載がある。
しかし,本件依頼書の用紙に被告のロゴが印刷されていることは認められるものの,依頼するとして記載されている本件各職種には,被告において存在しない職種が含まれていること(乙15,証人C),また,前記1認定事実(4)のとおり,Mのメールによっても,被告が依頼した職種は3種類であると認められることからすれば,被告が,原告に対し,本件依頼書に基づき本件各職種の候補者の紹介を依頼したと解するのは不自然・不合理であること,本件依頼書に使用されている被告のロゴのある用紙は,原告においても入手が可能であったと認められること(乙17,18)からすれば,本件依頼書を被告が作成したものと認めることは困難である。
(ウ) 本件2月17日付契約書の成立について
原告は,本件2月17日付契約書のCの署名はC自身によるものであり,同契約書はCの意思に基づいて作成されたものである旨主張する。
しかし,①本件1月20日付契約書のCの署名と本件2月17日付契約書のCの署名は似ているものと認められるものの,その筆跡のみでは同一人物による署名であるかは不明であること,②本件2月17日付契約書の上部がかすれており,その体裁からして,正式な契約書としてCが署名したと解するには疑問の余地があること,③原告代表者は,本人尋問において,本件2月17日付契約書の上部がかすれている点について,クリーンなものにコピーし直す時間の余裕がなかった旨の供述をするが,原告代表者が本件2月17日付契約書を取り交わした場所は原告の事務所であってコピーを行うことは極めて容易であったと推認されること,④本件2月17日付契約書に記載されたCの肩書は,同日における肩書ではないこと(甲5,証人C),⑤原告代表者は,本人尋問において,本件2月17日付契約書は,平成18年2月17日午後4時過ぎころ,原告の事務所において,原告代表者とCが,ラウンドテーブルを隔てて対面でCが署名したものである旨供述するが,原告の主張(原告準備書面(2),(6))及び原告代表者の陳述書(甲27,50)の記載には,上記日時には,Cが原告本社に来ることができなかったため,原告代表者が,Cに代わって,急遽,上記日時に候補者と面接を行ったというものであり,上記日時にCが原告の事務所に来所し,本件2月17日付契約書に調印した旨の原告代表者の供述と矛盾すること,⑥原告代表者の陳述書(甲50)には,本件2月17日付契約書は,原告が被告を含むトリンプグループとの長年の取引において使用してきた定型の書式である旨の記載があるが,成立に争いのない本件1月20日付契約書とは,その内容が主要な点において大きく異なるのであって,本件2月17日付契約書が原告と被告間の定型的な書式と認めることは困難であること,⑦Mは,被告との間の業務を担当していた取締役であり,仮に本件2月17日付契約書が存在していたとすれば,本件委託契約に係る報酬の請求は,同契約書に基づいて行うのが合理的と解されるところ,前記1認定事実(4)のとおり,Mは,Cに対し,本件2月17日付契約書について触れることなく,本件1月20日付契約書に基づき請求書を発送する旨記載したメールを送信していること,⑧前記1認定事実(4)のとおり,Mは,上記⑦のメールとともに,被告に対して,300万円の請求書を送付しているが,仮に,本件2月17日付契約書に基づく合意が存在したとしたら,原告が被告に対して300万円を請求することは不合理であること,⑨原告準備書面(10)には,Mの上記⑦のメールの記載につき,「原告代表者の認識では,平成18年1月20日付けで「Fee Agreement」と題する書面が作成されたことはなく,M氏のメールの記載は単純な誤記である」旨主張しているが,原告代表者が平成18年1月20日付け書面の存在について失念していたと認めるのは困難であることからすれば,本件2月17日付契約書のCの署名がC自身によるものと認めるには疑問があり,また,同契約書がCの意思に基づいて作成されたものと認めることはできない。
(エ) 本件支払確認書の成立について
原告は,本件支払確認書の署名はC自身によるものであり,同確認書はCの意思に基づいて作成されたものである旨主張する。
しかし,本件1月20日付契約書のCの署名と本件支払確認書のCの署名は似ているものと認められるものの,その筆跡のみでは同一人物による署名であるかは不明である。また,本件支払確認書には,被告が,①本件委託契約が,原告の主張する独占的委託契約であること,②原告から12名の紹介を受け7名の面接を行ったこと,③Minimum Advance Fee(1400万円)を始め,各候補者の総年収の35%であるエグゼクティブサーチ手数料(4410万円)に加えてコンサルティング料,コスト,費用等,また毎月1%の遅延料加算の支払義務があることを認める内容になっているが,上記1認定事実(4)及び(5)のとおり,平成18年3月18日の時点において,Mが被告に請求した本件委託契約に係る報酬額は,11名をリクルートしそのうち4名をCが面接したことを前提とする300万円であり,同請求についても,同年3月20日には,その請求を見合わせる旨のメールをMがCに送信しているのであって,その7日後に,紹介を受けた候補者の人数及び面接を行った候補者の人数が異なり,かつ,額が大きく異なる報酬額を認める書面をCが作成するとは到底考えられないこと,本件支払確認書は,本件訴訟の第8回弁論準備手続期日(平成24年8月21日)に至って初めて提出されたものであって,上記確認書の存在について訴訟前を含み上記期日まで触れられたことはなかったことからすれば,本件支払確認書の署名がC自身によるものと認めるには疑問があり,また,本件支払確認書がCの意思に基づいて作成されたものと認めることはできない。
(オ) 上記(イ)ないし(エ)に照らし,上記認定に反する原告代表者の本人尋問の結果及び陳述書(甲27,31,50)の記載は採用できず,他の証拠及び弁論の全趣旨によっても,本件依頼書,本件2月17日付契約書及び本件支払確認書が真正に成立したものと認めることはできない。
イ(ア) 原告が本件1月20日付契約書に基づいて業務を行ったことは前記1認定事実(2)及び(3)のとおりであるから,被告に本件1月20日付契約書に基づく報酬の支払義務があるか検討する。
(イ) 原告は,本件1月20日付契約書1項は,「クライアント企業は依頼ポジションごとにミニマム・プロフェッショナル・フィーとして100万円(加えて,実費)を支払うとともに,初年度想定総収入の35%を候補者の採用時に,直ちに(又は請求書に従い)支払う。」という内容であり,本件1月20日付契約書1項に記載のある「Performance-based」という単語は,成功報酬制と訳するべきではない旨,本件1月20日付契約書3項には,「クライアント企業は候補者の情報が提供されたにもかかわらず,依頼日より起算して45日以内に候補者に対する面接を行わない場合,又は,90日以内に候補者採用の決定がなされない場合は,顧客企業は自動的にミニマムフィーの支払を求められる。ミニマムフィーは最終サクセスフィーから差し引かれる。」という本件2月17日付契約書3項と同様の自動支払条項があるから,同条項に基づき,被告は,原告に対してミニマムフィーを支払う義務がある旨主張する。
しかし,「Performance-based」という単語は,実績ベースすなわち成功報酬制と約するのが自然である上,原告のホームページ(乙4,5)においても,原告の業務については「成功報酬制」であることを表明していることからすれば,上記1認定事実(2)のとおり,本件1月20日付契約書1項は,成功報酬制であり,候補者が採用されない限り,被告は原告に対し,報酬を支払う義務は負担しないと解するのが合理的であり,この点に関する原告の主張は採用できない。
そして,本件1月20日付契約書1項において,同契約書に係る報酬が,成功報酬制を前提としているものであること,いかなる候補者であっても,紹介しさえすれば顧客において紹介されたすべての候補者に対して面接を行う義務が発生し,依頼日より起算して45日以内に面接を行わない場合には,報酬の支払義務が発生すると解するのは不合理であることからすれば,本件1月20日付契約書3項は,原告において紹介された複数の候補者のいずれについても紹介されてから45日以内に面接を行わない場合,あるいは,面接を行った場合においても,90日以内に候補者を採用するか不採用とするかについての決定を行わない場合のペナルティー条項として定められたものと解するのが合理的である。
(ウ) 前記1認定事実(3)のとおり,原告は,被告に対し,①CFO(最高財務責任者),②人事/経理/総務部長,③監査役の3職種につき11名のシノプシスを送付して紹介し,被告は,そのうちの4名について紹介後45日以内に面接したことが認められ,また,上記1認定事実(3)のとおり,Cは,原告代表者に対し,遅くとも平成18年3月18日までには,被告が原告に対して紹介を依頼した役職につき,すべて採用者が決まったことを連絡していることが認められる。そうであれば,被告は,「90日以内に候補者採用の決定」を行っているといえるから,本件1月20日付契約書に基づいたとしても,被告に本件1月20日付契約書3項違反の事実は認められないというべきである。
ウ 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,被告に本件委託契約に基づく報酬の支払義務があると認めることはできない。
(2) 被告に本件委託契約の債務不履行を理由とする損害賠償義務が認められるか(予備的請求)について
ア 原告は,被告が,本件2月17日付契約書1項に基づき,本件独占的委託義務を負う旨主張するが,同契約書が真正に成立したと認められないことは前記したとおりであるから,同契約書に基づく原告の請求は認められない。
イ また,原告と被告間に本件1月20日付契約書に係る業務の委託契約があったことが認められることは前記のとおりであるが,本件1月20日付契約書には,本件独占的委託義務を認めるに足りる記載はないから,いずれにしても,この点に関する原告の主張は認められないことは明らかである。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 田口紀子)
*******
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。