【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(58)平成29年 1月26日 東京地裁 平27(ワ)20168号 損害賠償等請求事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(58)平成29年 1月26日 東京地裁 平27(ワ)20168号 損害賠償等請求事件

裁判年月日  平成29年 1月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)20168号
事件名  損害賠償等請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2017WLJPCA01266006

事案の概要
◇世界4大会計事務所の1つである訴外b社が運営するグループのメンバーファームの1つであった被告Y2社の取締役であった原告が、正当な理由がないのに解任された旨主張して、被告Y2社に対し、会社法339条2項に基づく損害賠償請求を求めるとともに、被告Y2社の完全親会社であった被告Y1監査法人に対し、同法人との間で正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪することをせず、被告Y2社をしてそれを剥奪させないという合意をし、仮に同合意までは認められないとしても、原告に対し、正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪することをせず、被告Y2社をしてそれを剥奪させないという信義則上の義務を負っていたにもかかわらず、正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪し、かつ被告Y2社をしてそれを剥奪させた旨主張して、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を求めた事案

裁判経過
控訴審 平成29年 8月23日 東京高裁 判決 平29(ネ)909号 損害賠償等請求控訴事件

評釈
エドアルド=メスキタ・ジュリ 1515号116頁
弥永真生・ジュリ 1514号2頁
岩田合同法律事務所・新商事判例便覧 3251号(旬刊商事法務2134号)
原弘明・金商 1560号2頁
藤田和樹・法と政治(関西学院大学) 70巻2号1頁
木下崇・神奈川ロージャーナル 10号39頁
持田大輔・国際商事法務 47巻2号196頁
大久保拓也・月刊税務事例 51巻1号91頁

参照条文
会社法339条2項

裁判年月日  平成29年 1月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)20168号
事件名  損害賠償等請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2017WLJPCA01266006

東京都港区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 林康司
同 鈴木亮子
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 Y1監査法人(以下「被告Y1監査法人」という。)
同代表者代表社員 A
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 Y2株式会社(以下「被告Y2社」という。)
同代表者代表取締役 B
被告ら訴訟代理人弁護士 坂東直朗
同 石井裕介
同 柴田勝之
同 中野竹司

 

 

主文

1  被告Y2社は,原告に対し,2億0200万円及びこれに対する平成27年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告の被告Y2社に対するその余の請求及び被告Y1監査法人に対する請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,原告に生じた費用の10分の7,被告Y2社に生じた費用の5分の2及び被告Y1監査法人に生じた費用を原告の負担とし,原告及び被告Y2社に生じたその余の費用を被告Y2社の負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
被告らは,原告に対し,連帯して,3億3337万5000円及び内金3億2887万5000円に対する平成27年4月1日から,残り450万円に対する同年7月1日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,原告が,①被告Y2社(旧商号はa株式会社であり,平成29年1月19日に現商号に変更した。)の取締役であったところ,正当な理由がないのに平成27年4月1日同被告の取締役から解任(以下「本件解任」という。)され,それにより,残任期分の取締役報酬相当額6300万円,追加報酬相当額1億円,役員賞与相当額450万円,退職一時金相当額1億5000万円及び弁護士費用相当額1587万5000円の損害を被った旨主張して,被告Y2社に対し,会社法339条2項に基づく損害賠償請求として,3億3337万5000円及び内金3億2887万5000円に対する平成27年4月1日(本件解任の日)から,内金450万円に対する同年7月1日(役員賞与支給時期)から,各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,②被告Y1監査法人は,被告Y2社の完全親会社であったところ,原告との間で,正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪することをせず,被告Y2社をしてそれを剥奪させないという合意をし,仮に同合意までは認められないとしても,原告に対し,正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪することをせず,被告Y2社をしてそれを剥奪させないという信義則上の義務を負っていたにもかかわらず,これらの合意又は義務に違反して,本件解任により,正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪し,かつ被告Y2社をしてそれを剥奪させたものであり,それにより原告に上記各損害を被らせた旨主張して,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として,上記と同様の金員の支払を求める事案である。
2  前提事実(当事者間に争いがない事実,各掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実又は顕著な事実である。)
(1)  被告らについて
ア 被告Y1監査法人は,財務書類の監査又は証明等を目的とする監査法人であり,世界4大会計事務所の1つであるb社(以下「b社」という。)が運営するグループ(以下「b社グループ」という。)のメンバーファームである。同被告は,被告Y2社の発行済株式の全部を保有する完全親会社であった。
イ 被告Y2社は,平成11年4月1日に成立した,経営,経理及び財務に関する指導及び助言業務等を目的とする株式会社であり,b社グループのメンバーファームの1つであった。同被告は,取締役会及び監査役を設置しており,同被告の株式を譲渡により取得するには取締役会の承認を受けることを要するが,同被告の株主に譲渡する場合には承認したものとみなすこととされていた。同被告の定款上,取締役の任期は短縮も伸長もされておらず,同被告の事業年度は毎年7月1日から翌年6月30日までとされていた。(甲1)
(2)  原告の被告Y2社代表取締役への就任及び本件解任について
ア 原告は,平成23年12月13日当時,経営コンサルタント業等を目的とする株式会社c(以下「c社」という。)の発行済株式(1480株)の約79%(1175株)を保有し,代表取締役として同社を経営していたところ,同日,同社の他の株主4名全員とともに,被告Y2社との間で,c社の株式1480株全部を,代金合計5億5000万円,譲渡実行日同月31日と定めて同被告に譲渡する旨の契約(以下「本件株式譲渡契約」という。)を締結した。その後,c社は被告Y2社に吸収合併されて消滅した。(甲4)
イ 被告Y2社は,平成23年12月13日,原告との間で,以下の内容の委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した。同日時点の被告Y2社の代表取締役会長はC(以下「C」という。),代表取締役社長はD(被告Y1監査法人の常務理事も兼務していた。以下「D」という。)であった。本件委任契約の締結については,被告Y1監査法人も審議の上,了承していた。(甲3,27)
1条 被告Y2社は原告に対し,被告Y2社代表取締役への就任を委託し,原告はこれを承諾した。
2条 原告の被告Y2社代表取締役への最初の就任期間は,平成24年1月1日又は別途書面により合意した日から2年間とする。なお,この契約は,2年経過後に,両者間で更新を協議する。
4条1項 上記2年間の期間中,被告Y2社は原告に対し,報酬として年間3600万円を支払うものとし,その12分の1相当額を毎月20日限り原告の指定する口座に振り込む。
4条2項 上記2年間の期間中,原告が被告Y2社の業績向上に格別の寄与をしたと認められる場合,両者で協議の上,追加的報酬の支給を決定する。
4条3項 4条1項の報酬の支払義務は,被告Y2社の株主総会における承認又はこれに代わる同被告の株主全員の書面による同意の意思表示がされることを停止条件として発生する。
7条1項 本件委任契約の解除によらずに原告が被告Y2社の取締役を退任する場合,同被告は原告に対し,以下の各号の定めに従って退職一時金を支払う。(1号)同契約締結日より5年を経過した日以降に退任する場合は,1億5000万円。(2号)同契約締結日より5年未満で同被告の都合により退任する場合は,1億5000万円。(3号)同契約締結日より5年未満で原告の都合により退任する場合は,3000万円に在任年数(1年を単位とし,1年未満の端数月は切り捨てる。)を乗じて算出された金額。
7条2項 上記退職一時金の支払義務は,被告Y2社の株主総会における承認又はこれに代わる同被告の株主全員の書面による同意の意思表示がされることを停止条件として発生する。
10条1項 原告又は被告Y2社は,以下の各号のいずれかの事由が生じた場合,本件委任契約を解除することができる。(1号)原告の責めに帰すべき事由により,原告が同被告代表取締役の地位を喪失した場合。(2号)本件株式譲渡契約が事由の如何を問わず解除された場合。(3号)本件委任契約4条3項又は7条2項の停止条件が成就しなかった場合。(4号)相手方が同契約のいずれかの条項に違反した場合。
10条2項 10条1項の定めにかかわらず,被告Y2社はいつでも本件委任契約を解除することができる。ただし,本項に基づいて同契約を解除する場合には,同被告は7条1項の定める退職一時金の支払義務を免れない。
ウ 原告は,平成24年1月1日,被告Y2社の取締役及び代表取締役(社長)に就任し,平成26年9月10日,これらに重任した。
エ 原告は,平成27年4月1日,被告Y2社の株主総会の決議により,同被告の取締役から解任された(本件解任)。
(3)  原告の在任中の言動等について
ア 受嘱の承認手続について
(ア) 被告Y1監査法人は,「アドバイザリー品質管理規程」(乙4)を定め,その中で,同規程の対象となるアドバイザリー業務には被告Y2社が受嘱する業務が含まれる旨(2条),被告Y1監査法人のアドバイザリー業務のリスク及び品質管理のシステムの整備及び実施は品質管理本部アドバイザリー品質管理部(以下「AS品管部」という。)が担当する旨(3条1項)などを規定し,かつ,「アドバイザリー品質管理運用細則」(乙5)を定め,その中で,アドバイザリー業務を執行すべきものとして指定された社員は,アドバイザリー業務を開始する前に,当該業務のリスクに応じた承認を得なければならない旨(2条)などを規定している。
これらを受け,AS品管部は,「アドバイザリー業務受嘱承認の取扱い」(乙6)を定め,その中で,アドバイザリー業務の提供は,同取扱いに定める受嘱の承認(以下「受嘱承認」といい,これを得るための手続を「受嘱承認手続」という。)を受けた後でなければ行うことができない旨(2条)などを規定し,また,「契約書の取り扱いについて」(乙10)を定め,その中で,法人所定のひな型を使用しない場合等には,AS品管部と対応について協議すべきである旨などを規定している。
被告Y2社において,アドバイザリー業務の受嘱承認手続を行うのは,当該業務の業務責任者(EP:エンゲージメント・パートナー)の役割とされていた。
(甲30,乙4~7,10)
(イ) 平成24年6月以降に被告Y2社が開始したd社(被告Y1監査法人の監査の顧客でもあった。)に対するアドバイザリー業務に係る案件(以下「d社案件」という。)において,①AS品管部と協議することなく,法人所定のひな型と異なる基本契約書を使用し,②フェーズ0(調査・確認フェーズ,契約金額1500万円)の受嘱承認しか得ていないにもかかわらず,その後に予定される異なる業務に係るフェーズ1(要件定義フェーズ),フェーズ2(ビジネス設計フェーズ)等を含む全フェーズの業務概要を定めた基本契約を締結し,その後,③フェーズ0の受嘱承認しか得ていないにもかかわらず,フェーズ1(契約金額9200万円)及びフェーズ2(契約金額5億1600万円)の業務について,本来とるべき受嘱承認の手続をとらないまま,「アドバイザリー業務変更通知書兼承認依頼書」により上記基本契約の期間の延長として処理し,顧客に対して同業務を提供したという事案が発生した。d社案件の業務責任者は,開始時から平成25年2月1日まではE(以下「E」という。)であったが,同人の退職により,同日,原告に変更され,同年4月15日,さらにF(以下「F」という。)に変更された。原告は,d社案件の上記各フェーズに係る受嘱の際,必要な受嘱承認手続を経ているかどうかについて,業務責任者であるE等に確認したことはなかった。
原告は,同年5月13日,Fと連名で,AS品管部に対し,上記③についての弁明書(乙8)を提出した。原告は,その頃,この件に関しAS品管部からヒアリングを受けた際には,上記①及び②について報告しなかった。その後,上記①及び②が判明し,原告は,平成26年9月11日,改めて,Fと連名で,同部に対し,上記①及び②についての弁明書(乙9)を提出した。
(甲28,乙8,9,29の1・2,45,48~52,57)
(ウ) 平成27年1月にも,被告Y2社において,受嘱承認を受ける前にアドバイザリー業務の提供を開始したという事案が発生したため,同月17日,同被告の担当者が原告に対し,「受嘱手続きを実施せずにDeliveryを実施したという重大なルール違反が発生したようです。」との報告を行った。これに対し,原告は,同日,上記担当者や同業務の業務責任者であるGらに対し,「契約していれば,じゅしょくは,気にしなくよいと思うよ,品管に怒られるけどね。Gさんが,怒られれば良いのでは?」とのメールを送信した。(乙11,12)
イ 契約書の記載をめぐる原告とAS品管部担当者とのやり取りについて
AS品管部の担当者は,平成27年1月,被告Y2社が実施したアドバイザリー業務に係る契約書について,同被告の担当者に対し,同被告がプロジェクトのコーディネイトや管理(coordinate and manage)を行いその責任を負うようにも読める記載があるとして,当該記載の修正を求めるメールを送信し,その中で,「原則として,b社が行う業務は,アドバイザリーであり,クライアントのマネジメント(経営層のみならず管理者層も含む)が行うべき決定,検討,調整,管理等はb社は実施せず,あくまで支援(サポート)に限ることとしています。業務における管理責任はクライアントにあり,b社はその手伝いを行うということです。」等と説明した。これに対し,原告は,同年2月4日,上記担当者及び被告Y2社の従業員等に対し,上記説明内容を引用しつつ,「こんなことは,Y2社の方針とまったくことなるので,勝手に宣言しないでください。Y2社の従業員には,今後無視する様展開しておきます。」とのメールを送信した。(乙13)
ウ 指定研修の未受講者への対応について
被告らは,その従業員に対し,セキュリティ,コンプライアンス,監査人の独立性等に関する知識を身につけさせるため,「指定研修」と称する研修を実施している。被告Y1監査法人は,平成25年6月及び平成26年9月,被告Y2社に対し,上記指定研修に関し,「Y2社内で,義務不履行者に対する具体的な措置,処分を作成して下さい。」と指示をしたにもかかわらず,原告は,この指示について特段の対応をしなかった。(乙15の1・2,42,57)
エ 離職者数について
被告Y2社においては,平成24年4月1日入社の従業員16名のうち13名,及び平成25年4月1日入社の従業員(被告ら主張によれば20名,原告主張によれば29名)のうち10名が,平成27年3月末までの間に離職した。また,d社案件に関与した従業員131名のうち44名が,同月末までに離職した。
オ 規程リスト等の提出について
被告Y1監査法人は,平成26年10月頃,関係会社の規程整備状況の実態調査を行い,その結果を基に規程整備の検討を進めることとし,同被告の担当者において,同月22日,原告に対し,「関係会社における規程整備は,Y1(注;被告Y1監査法人)の関連本部が必要に応じサポートさせて頂いているものの,原則として各社にてご対応頂いている現状にあります。」と前置きし,上記の実態調査を行うことになった旨伝えた上で,「ご提出頂きたい資料」として「①規程リスト」及び「②各規程の電子ファイル」を挙げ,これらの提出を依頼するメールを送信した。これに対し,原告は,同日,「特にサポートは不要です。」とのメールを返信し,当該規程リスト等の提出をしなかった。(乙16)
そこで,被告Y1監査法人の担当者は,同年11月7日,再度原告に対し,上記規程リスト等の提出依頼に関して「ご担当の方へのご指示」を依頼するメールを送信したところ,原告からすぐに,「私が担当ですよ,何も言ってこないと,何もしませんよ。」とのメールの返信があったため,改めて原告に対し,上記規程リスト等の提出を依頼するメールを送信した。しかし,原告は,これに対する返信をせず,その後退任に至るまで当該規程リスト等の提出をしなかった。(乙17)
カ 原告の示した5カ年経営計画とその後の被告Y2社の業績について
原告は,本件株式譲渡契約に先立つ平成23年6月頃,c社の株式の譲渡について被告らと交渉した際,被告らに対し,c社の「ビジネス概況」と題する資料(乙18)を交付した。同資料の別紙「5カ年経営計画」の3枚目には,c社が,被告Y2社とのシナジーも織り込んで,平成25年9月期(平成24年10月~平成25年9月)には売上31億9870万円(「既存事業」20億4200万円+「新規事業」11億5670万円)及び「利益」6億3974万円を計上し,平成26年9月期(平成25年10月~平成26年9月)には売上38億4950万円(「既存事業」23億1620万円+「新規事業」15億3330万円)及び「利益」7億6990万円を計上する旨記載されていた。(乙18,44)
c社買収後の被告Y2社の当期純利益は,平成25年6月期は1億3812万1717円,平成26年6月期は9135万8838円であった。(甲13の2・3)
キ 日本国内のb社グループにおけるアドバイザリー業務体制の検討について
平成25年10月当時の日本国内のb社グループ(以下「b社ジャパン」という。)においては,被告Y2社のほか,被告Y1監査法人のアドバイザリー事業部や金融事業部金融アドバイザリー部が各別にアドバイザリー業務を提供していたため,ファーム間での業務範囲の線引きについて摩擦が生じ,同一の顧客に対して被告Y2社と被告Y1監査法人が同様のサービスを提案するなどの問題が生じており,b社もb社ジャパン内でのアドバイザリー業務体制の見直しを求めていた。
そのため,被告Y1監査法人は,同月頃,被告Y2社,被告Y1監査法人のアドバイザリー事業部や金融事業部金融アドバイザリー部を交えて上記見直しのための協議を行うこととし,そのための検討会を設置した。
同月16日及び同月29日に開催された上記検討会においては,最終的には,日本エリアにおいてb社グループとしてアドバイザリー業務を行う組織を1つに集約することを目指すこと,そのための移行プランを策定することなどが議論された。原告は,被告Y2社の移行プランとして,パートナーシップ化(後記ケ参照)を提案した。(乙40,47)
ク 原告によるQRMプロセス統合の提案について
平成26年11月当時,被告Y2社が行うPI業務(Performance Improvement:業務改善支援業務)は,AS品管部が実施するQRMプロセス(Quality Risk Management:業務のリスクをコントロールしながら同時に業務の品質を高める仕組み)の対象とされていたが,被告Y2社自身も独自のQRMプロセスを有しており,同被告の案件には「2階建てのQRMプロセス」が適用される状態にあった。
原告は,同月27日に実施されたb社との会議において,「サービスの質を維持するとともに,PIサービス分野におけるビジネスリスクを最小化するため,この2階建てのQRMプロセスを統合し,日本地区でただ一つのPI業務にかかるQRMプロセスを構築すべきである。」,「日本においてPI業務にかかるサービスを提供しているY2社こそが,PI業務にかかる統合後のQRMプロセスの構築について先頭に立つべきである。」,「統合され改良されたQRMプロセスにかかる方針は,b社の方針に沿うものでなければならないため,我々は,プロセルを構築し改良するに当たりb社からサポートを得たい。」(原文ママ)との提案を行おうとした。(乙19の1・2,22の1の1・2,22の2の1・2)
ケ 被告Y2社の「パートナー」に係るパートナーシップの検討について
b社グループのメンバーファームでは,原則として,出資していない者は正式なパートナーとは認められないとされているが,原告在任中の被告Y2社には,出資していないにもかかわらず「パートナー」の肩書を対外的にも使用していた者(以下「Y2社パートナー」という。)が多数いた。被告Y1監査法人とY2社パートナーは,この問題について協議を行った。
原告は,上記の問題について,平成26年4月,被告Y1監査法人に対し,Y2社パートナーのモチベーションの維持,被告Y2社のオペレーションの独立性の確保等の目的を達するため,同被告のパートナーシップ化を行うべきである旨の意見を述べ,具体的には,同被告のパートナー以上の従業員・役員に対する第三者割当増資を行うとともに,被告Y1監査法人の保有する被告Y2社の株式を配当優先株式(議決権が剥奪又は制限されるもの)に転換するという方法を提案した。その後,Y2社パートナーは,被告Y1監査法人に対し,被告Y1監査法人の保有株式及び議決権を維持しつつ,第三者割当増資等によりY2社パートナーにも株式及び議決権を取得させるという方法も提案した。
被告Y1監査法人は,Y2社パートナーに対し,上記の問題に関する最終回答として,同被告が被告Y2社の株式及び議決権の全部を保有するという従来の資本関係を維持しつつ,Y2社パートナーが被告Y2社に対して金銭の預託を行うことにより(出資を行わなくとも)「パートナー」としての登録を認められるという方法を提案した。これに対し,Y2社パートナーは,平成27年3月付けで被告Y1監査法人に対し,「共同経営者としての議決権を有さず,『パートナー』として登録されることを,将来新たにパートナーとなる(中略)メンバーに対して,誠実な説明が難しい」,被告Y1監査法人の上記「回答はパートナーシップにはあたらないものであり,本回答を前提とした議論の継続は難しい」との回答をしたため,被告Y1監査法人との間の協議は打ち切られた。
(甲21,乙20)
コ e株式会社に対する支払について
e株式会社(以下「e社」という。)は,被告らのグループ会社であり,b社ジャパンのメンバーファーム3社との間で平成21年7月1日付けシェアードサービス基本協定書(乙21の1)を取り交わして,上記3社の情報システム関連業務を担当し,その対価として報酬又は費用の支払を受けていた。被告Y2社も,平成23年1月1日,上記協定書に係る協定に参加し,以後,e社から情報システム関連業務に係るサービスの提供を受け,その対価を支払っていた。具体的には,e社は,いったん各決算期(毎年7月~翌年6月)における対価の額を予算ベースで見積もり,その金額を各ファームに月次で請求した上で,決算期後の7月に,既請求額と実績額との差額を「トゥルーアップ」と称する調整項目で請求していた。
原告は,被告Y2社の代表者として,e社から平成26年6月期(平成25年7月~平成26年6月)分の上記サービスの対価として請求された額について,当初は支払を拒絶し,その後の協議を経て一部の支払には応じたものの,e社の人件費等相当額1426万2300円及び「トゥルーアップ」1億1478万5337円(合計1億2904万7637円)については,本件解任時に至るまで支払わなかった(原告の退任後に後任者によって支払われた。)。また,原告は,被告Y2社の代表者として,e社から平成27年6月期(平成26年7月~平成27年6月)分の上記サービスの対価として請求された額についても,本件解任時に至るまで支払わなかった(原告の退任後に後任者によって支払われた。)。
(甲22,乙21の1・2,30の1・2,31の1・2)
(4)  マネージメントホールドバックについて
被告Y2社は,「給与規程」を定め,その25条において,(1項)「特別賞与は会社への貢献・勤務成績・担当職務等を勘案し,支給することができる。」,(2項)「特別賞与の支給時期及び支給対象者はその都度決定する。」と規定しており,これに基づいて,従業員に対し,マネージメントホールドバック(以下「MHB」という。)と称する特別賞与を支給したことがあった。同被告は,MHBの支給対象者に対する支給に充てるため,毎月,金銭を積み立てている。
本件委任契約には,原告に対するMHBその他の賞与の支給に関する規定はない。被告Y2社が原告に対して実際にMHBを支払ったこともない。原告在任中の被告Y2社が,原告に対するMHBの支給に充てるために金銭を積み立てたこともなかった。
(甲3,25,乙23,24の1・2,25,42)
3  主な争点及びこれに関する当事者の主張
(1)  本件解任の正当な理由の有無(争点1)
(被告らの主張)
本件解任については,以下のとおり正当な理由(会社法339条2項)がある。
ア 受嘱承認手続に係る規範の不遵守等
前提事実(3)ア(ア)の受嘱承認手続は,アドバイザリー業務に内在する風評リスク,財務リスクその他の様々なリスクが顕在化しないことや,当該業務の受嘱により被告Y1監査法人の監査人としての独立性を損なうおそれがないことを事前に確認する手続であり,被告Y2社が受嘱承認手続に係る規範を遵守することは極めて重要である。
それにもかかわらず,被告Y2社において,前提事実(3)ア(イ)の受嘱承認手続に係る規範の不遵守事案(d社案件)が発生した。同案件は,当時の同被告において契約金額が大きく非常に重要な案件であると認識されており,原告も,案件獲得段階から深く関与し,同案件に係る基本契約書への捺印もしており,少なくとも平成25年2月1日~同年4月15日の間は同案件の業務責任者を務めていたから,同案件に係る受嘱承認手続に係る規範の遵守状況を確認することができたはずであるにもかかわらず,これを怠った。また,原告は,前提事実(3)ア(イ)のとおり,1回目の弁明書(乙8)を提出した際のヒアリングにおいて,既に判明していたはずの受嘱承認手続の不履践について報告しないといった極めて不誠実な対応をした。
さらに,原告は,前提事実(3)ア(ウ)のとおり,別の受嘱承認手続に係る規範違反の報告を受けた際,被告Y2社の従業員に対し,受嘱承認手続自体を履践しなくてよいと受け取れる電子メールを送信した。
このように,原告が自ら受嘱承認手続に係る規範を遵守せず又はその不遵守を容認するがごとき対応をとったことは,被告Y2社の代表取締役としての原告の適格性に強い疑念を生ぜしめるものである。仮に,これらの受嘱承認手続に係る不遵守事案が業務責任者の同手続についての理解不足に起因するものであり,原告が同手続の不履践に気付いていなかったとすれば,原告は,受嘱承認手続を軽視していたというほかなく,上記と同様,その取締役としての適格性には疑問がある。
イ b社グループの方針の不遵守
原告は,前提事実(3)イのとおり,契約書の記載をめぐるAS品管部の担当者とのやり取りにおいて,同担当者が述べたb社グループの方針に従わない姿勢を明らかにした。
ウ 研修義務不履行者への措置・処分の未策定
被告Y2社における平成25年6月期及び平成26年6月期の指定研修(前提事実(3)ウ参照)の未受講率はそれぞれ4.9%及び10.8%であり,被告Y1監査法人におけるそれらの未受講率(同じく0.4%及び0.2%)に比して極めて高かった(乙14の1・2)。そのため,被告Y1監査法人は,前提事実(3)ウのとおり,被告Y2社に対し,研修義務不履行者を削減する仕組みを構築する(同不履行者に対する具体的な措置,処分を作成する)よう繰り返し指示していた。それにもかかわらず,原告は,これについて「対応の必要はない。」などと述べ,何らの対応もとらなかった。
エ 離職者数の多さ
原告在任中の被告Y2社においては,専門業務型裁量労働制が採用されていたが,タイムカード等による勤怠管理は行われず,実態として従業員の長時間労働が横行していたにもかかわらず,原告はこれに配慮しなかった。そのため,前提事実(3)エのとおり(平成25年4月1日入社の従業員数は20名である。),多数の離職者が出た。
また,d社案件は,長期にわたる,業務量も非常に多いプロジェクトであったにもかかわらず,原告は従業員の労働環境に対する配慮を行わなかった。そのため,d社案件に関与した従業員は疲弊し,前提事実(3)エのとおり,多数の離職者が出た。
オ 規程整備への非協力
原告は,前提事実(3)オのとおり,被告Y1監査法人からの規程リスト等の提出依頼に応じず,同被告による規程整備に一切協力しなかった。
カ 業績目標の未達
原告は,前提事実(3)カのとおり,c社買収交渉の際,同社の株式の譲渡価格を5億5000万円と定めるに当たり,買収後の業績目標として,1年目(平成25年9月期)には約6億4000万円,2年目(平成26年9月期)には約7億7000万円の利益を生み出すとしていた(乙18別紙参照)が,実際のc社買収後の被告Y2社の当期純利益は約1億3800万円ないし約9100万円にとどまり,上記業績目標は大幅に未達となった。
なお,同別紙において買収の対象とされていた「新規事業」のうち,ライセンスに係る事業は外部に売却されたが,それ以外の事業は被告Y2社に引き継がれた。
キ アドバイザリー業務体制の検討における非協調姿勢
原告は,前提事実(3)キの検討会の場において,「我々は独立した総合コンサルティングファームとしてやっている。」,「お互いに口出ししても意味がないし,従わない。」,「ガバナンスは個々に行えばよい。」,「別の人から何か言われても誰も言うことを聞かない。」などと新たな体制構築を否定するかのような発言を繰り返し,ファーム間の業務範囲の線引きについても「当然答えはNoである。」,「それについて私は発言しない。」などと議論自体を否定するかのような発言をするなど,極めて協調性を欠く態度をとった。
ク 独断での新たなQRMプロセスの提案
原告は,前提事実(3)クのとおり,b社との会議において,被告Y2社の業務をAS品管部のQRMプロセスの適用対象から外すことを提案しようとしたが,この提案内容は,b社ジャパンのアドバイザリー業務について被告Y1監査法人がコントロールできない部分を生じさせ,b社ジャパンの一体性を害し,被告Y1監査法人の監査人としての独立性に疑義を生じさせるおそれもある(前記ア参照)ものであった。また,b社ジャパンにおけるアドバイザリー業務の品質管理を統括する立場にあるAS品管部に何の相談もなくb社に対して品質管理制度の変更を提案する行為は,b社ジャパンの秩序を乱すものであった。
ケ Y2社パートナーに係るパートナーシップの検討における姿勢
原告及びY2社パートナーは,前提事実(3)ケのとおり,被告Y1監査法人との間のパートナーシップの協議・検討の過程において,Y2社パートナーが被告Y2社の支配権を得ることができないのであれば出資の意味はないとして協議を打ち切った。原告がY2社パートナーによる被告Y2社の支配権取得に固執した結果,b社ジャパン内における「パートナー」呼称の混乱は解消されないままとなった。
コ e社から提供を受けたサービスの対価の支払懈怠
原告は,前提事実(3)コのとおり,被告Y2社がシェアードサービス基本協定上負っていたe社への対価支払義務の履行を,正当な理由なく拒み続けた。
なお,e社の対価請求は,b社が定めたコスト分配規程(乙30の1・2)に従って明朗に行われており,そこに被告Y1監査法人の恣意が介在する余地はない。被告Y1監査法人からe社に対する従業員の出向はb社の承認の下に行われており,同被告の都合で恣意的に出向者の数を増減させることは不可能である。e社は,原告の求めに応じて,平成26年2月及び翌3月,上記対価支払の仕組みの説明を行っている。
(原告の主張)
本件解任には正当な理由はない。
ア 被告らの主張ア(受嘱承認手続に係る規範の不遵守等)について
原告が受嘱承認手続を軽視したことはない。d社案件については,担当の業務責任者(EP)が,作業工程ごとに受嘱承認手続が必要であるとの認識を有していなかったために生じたものである。前提事実(3)ア(ウ)の原告が送信したメールは,責任は担当の業務責任者であるGにあるとしつつ,契約がないのに業務提供するといった重大なミスを犯していないことは救いであると示唆したものであり,受嘱承認手続に係る規範を遵守しなくてもよいなどと述べたものではない。
イ 被告らの主張イ(b社グループの方針の不遵守)について
原告がAS品管部の担当者に送信した電子メール(乙13)においては契約書の解釈に関する議論がされており,「manage」という単語について,AS品管部は顧客の経営者層が行うべき行為と解釈し,原告は支援業務としての行為と解釈したにすぎない。この解釈論争にどれほどの実益があるかは判然としない。
原告が,上記電子メールを送信したことにより,AS品管部の担当者が述べたb社グループの方針に従わない姿勢を明らかにしたなどといえないことは明白である。
ウ 被告らの主張ウ(研修義務不履行者への措置・処分の未策定)について
被告Y2社が被告Y1監査法人から研修義務不履行者の削減を求められた事実はない。原告は,被告Y2社が,被告Y1監査法人から2回にわたり,同義務の不履行者に対する具体的な措置,処分を作成するよう指示されたことにつき,何らの報告をも受けておらず,したがって「対応の必要はない。」などと述べたこともない。
被告らが示す被告Y2社の研修未受講者数や未受講率等(乙14の1・2)については,受講期間や未受講の集計日等が示されていないことなどに照らし,直ちに賛同することはできないし,仮に未受講者数や未受講率が上記のとおりであったとしても,それが「多い」と評価される数値なのかは疑問がある。
エ 被告らの主張エ(離職者数の多さ)について
平成25年4月1日入社の従業員数は,20名ではなく,第2新卒採用やインターンシップ経験者等も含めた29名と解される。被告らが挙げる離職者10名の中には,入社時に表明したところに従って監査法人に転職した公認会計士資格保有者2名,弁護士事務所に転職した法曹有資格者1名,及び被告Y1監査法人の元人事担当者(H氏)の引き抜き的行動によりf社に転職した者3名なども含まれている。
そもそもアドバイザリー業務は人的な流動性が高い分野であり,一般に年間退職率は20~30%と言われており,被告Y2社においても採用者の7割程度は中途採用者であるし,特に近年は,アドバイザリービジネス分野における人材獲得競争が顕著であり,これにより人材の流動性がさらに高まっているから,被告Y2社の離職率が殊更に高いとはいえない。原告としては,現場のオーバーワークを回避し,かつ品質の維持を図るために,担当の業務責任者からの依頼を受け,プロジェクト工期の延期等を発注元企業に要請し,協議するという努力も日常的に行っていた。
オ 被告らの主張オ(規程整備への非協力)について
原告が被告Y1監査法人の担当者に対し「特にサポートは不要です。」との返信をしたのは,規程のリスト等を提出する作業を行う上で被告Y1監査法人のサポートは要しないであろうと考えたからであり,提出依頼に協力する意思がないことを表明したものではない。原告が規程のリスト等を提出しなかったのは,当時,来日したb社の責任者や原告を含む被告らの関係者の間で,被告らにおけるアドバイザリー業務やガバナンスをどうするかという重要事項に関する検討がされており,事務作業に傾注できる状況ではなかったからである。
カ 被告らの主張カ(業績目標の未達)について
原告が,乙18別紙の資料に記載されている数値をもって,統合後の被告Y2社の業績目標とする旨の合意をした事実はない。そもそも,当該資料に記載されたc社の事業のうち「新規事業」と記載されたものは,外部に売却されており,被告Y2社には移転していない。
キ 被告らの主張キ(アドバイザリー業務体制の検討における非協調姿勢)について
アドバイザリー業務には,システム監査等を行うリスク業務と業務改善支援業務を行うPI業務があり,もともとは被告Y1監査法人が前者を,被告Y2社が後者をそれぞれ顧客に提供していたところ,被告Y1監査法人が,平成25年秋,監査業務本部の下にPI業務を提供する部隊を立ち上げたため,同一の金融機関に対し,被告Y1監査法人と被告Y2社とが同様のサービス提供を提案するなど,顧客に混乱が生じた(金融関連のアドバイザリー業務の提供は,被告Y2社の主力事業の一つであった。)。
しかるに,被告ら主張の検討会においては,どのようにして顧客の混乱を収拾するかが話し合われることはなく,唐突に,被告Y1監査法人の下に新たな法人を作りそこにPI業務を集約するとの提案がされたため,原告は,問題解決の議論すら全くされていない中で,「新たな体制構築」について意見を述べるような会合ではないと考えた。
ファーム間の業務範囲の線引きに関しては,被告Y2社は,被告Y1監査法人から,被告Y2社の金融関連ビジネスを被告Y1監査法人に移管するよう要請されたが,原告は,決定権限を有する事項ではなかったため,同意することができず,被告Y1監査法人において被告Y2社を所管するソリューション業務本部長に判断を一任する旨回答した。
このように,原告が「アドバイザリー業務体制の検討における非協調姿勢」をとったことはない。
ク 被告らの主張ク(独断での新たなQRMプロセスの提案)について
原告が平成26年11月27日開催されたb社との会議において提案した内容は,品質の維持やリスクの最小化のために重複的なQRMプロセスを統合すること,統合したQRMプロセスの構築はPI業務に知見や経験を有する被告Y2社がリードして行うべきこと,b社の方針に沿うべきであり,b社の協力を得ることであり(乙22の1の1・2),「被告Y2社の業務をAS品管部のQRMプロセスの適用対象から外すこと」ではない。また,被告Y2社は,b社との会議の2日前に提案資料(乙19の1・2)をAS品管部に提出しており,「突然提案しようとした」ことはない。さらに,被告Y2社のメンバーをQRMチームに加えることによってQRMプロセスを継ぎ目なく実施できるようになるという話は,会議の前にAS品管部担当者(I氏)に伝え,その同意を得ていた(甲19(17頁))。
ケ 被告らの主張ケ(Y2社パートナーに係るパートナーシップの検討における姿勢)について
原告自身は「パートナー」の名称を使用しておらず(専ら代表取締役社長の肩書きを使用していた。),被告らが指摘する議論は,被告Y1監査法人とY2社パートナー(原告を含まない。)との間で直接されており,原告は参画していない(もっとも,出資を伴うパートナーシップは被告Y2社の経営方針に関わる事項であるため,原告は代表取締役として,被告Y1監査法人の前執行部(J理事長)やb社に対して意見を述べていた(甲21)。)。
また,原告やY2社パートナーが被告Y2社の支配権取得に固執して協議を打ち切ったということはない。
コ 被告らの主張コ(e社から提供を受けたサービスの対価の支払懈怠)について
原告は,e社からの請求に不明朗な部分が多かったため,その支払を留保した。すなわち,同社の請求の内訳には「情報システム関連費用」と「人件費相当額」があった。前者については,価格の合理性はともかく,少なくとも平成26年6月期(平成25年7月~平成26年6月)分までは請求明細において機器代金等の内訳も示されており,一応合理的と考えられたので,原告は全て支払った。他方,後者は,被告Y1監査法人からの出向者の人件費も含んでおり,当該出向者の数を増減させることにより被告Y1監査法人に入る出向料を増減させることができるものであるところ,e社の人件費の内容,出向の実態の有無,それをメンバーファームに割り付ける基準や根拠等について,被告Y1監査法人の担当者に何度も説明を求めたが,納得できる説明は得られなかった。また,被告らのいう「予算ベースの見積もり」や「実績値」も,実際には被告Y1監査法人が自在に設定できるものであり,被告ら主張の「トゥルーアップ」とは,被告Y1監査法人の6月決算の数値を,7月に調整するとして操作するものとしか解し得ない。
そこで,被告Y2社は,平成26年6月期分について,最終的に,e社の人件費等相当額1426万2300円及び「トゥルーアップ」1億1478万5337円を支払わなかったものである。なお,原告としては,平成26年6月期の分については,被告Y1監査法人と協議の上で合意した金額を全額支払っており,未払金が残ったという認識はない(被告Y2社の決算書類(甲22)にもそのような未払金は計上されていない。)。
平成27年6月期に入ると,e社からの請求書に明細が添付されなくなり,請求内容が示されなくなったため,被告Y1監査法人に対し,そのような請求について支払うわけにはいかない旨を伝えた。
(2)  本件解任による損害の有無及び額(争点2)
(原告の主張)
ア 本件解任により,原告には以下の各損害(合計3億3337万5000円)が生じた。
① 残存任期分の役員報酬相当額6300万円
原告は,被告Y2社から役員報酬として月額300万円の支払を受けていた(本件委任契約4条1項)。そして,本件委任契約に明記された原告の在任期間は5年間(平成28年12月末日まで)であり,本件解任時(平成27年4月1日)における残存任期は21か月であった。よって,本件解任がなければ,原告は,合計6300万円(300万円×21か月)の役員報酬を得ることができた。
② 追加報酬相当額1億円
原告は,赤字会社であった被告Y2社を安定的に毎年2億円超の黒字を生み出す会社に変えており,本件委任契約4条2項の「業績向上に格別の寄与をしたと認められる場合」に該当する。原告の寄与を金銭的に評価すれば,その在任期間中(平成24年6月期,平成25年6月期及び平成27年6月期)の被告Y2社の営業利益(合計約5億円)の2割は下らない。よって,本件解任がなければ,原告は,1億円(5億円×0.2)の追加報酬を得ることができた。
③ 役員賞与相当額450万円
被告Y2社においては,毎年6月及び12月に,最低でも給与1か月分のMHBが反復継続して役職員に支給されており,当該賞与支給の慣行があった。原告もその支給対象に含まれていたが,代表取締役在任中はその受領を辞退していた。平成27年6月にも被告Y2社の取締役及び従業員に対して1.5か月分の賞与が支給されており,本件解任がなければ,原告は450万円(300万円×1.5)の役員賞与を得ることができた。なお,原告が被告Y2社の代表取締役に就任して以降,同被告の株主総会においては,原告その他の役員に対して賞与を支給する旨の決定が行われてきた。
④ 退職一時金1億5000万円
本件解任がなければ,原告は,本件委任契約締結日より5年を経過した日以降に被告Y2社を退任することとなり,本件委任契約7条1項「1号」所定の退職慰労金1億5000万円を得ることができた。
⑤ 弁護士費用1587万5000円
原告は,被告らによる不法行為及び本件委任契約の不履行のため,本件訴訟の提起及び追行を弁護士に委任することを余儀なくされ,その弁護士費用相当額として,上記①~④の合計額3億1750万円の5%に相当する上記金額の損害を被った。
イ 遅延損害金については,役員の任期に対する期待権を保護するという会社法339条2項の趣旨に照らせば,報酬及び退職金についてはその解任時から,臨時的に支給される賞与については各支給時期に具体的支給基準が決定された時から,それぞれ遅滞に陥ると解するべきである。
ウ なお,本件委任契約に「いつでも解除できる」との規定があるからといって,合理的理由のない解除を当然に受け入れることを意味しない。原告主張の各損害が会社法339条2項の「損害」に該当することは明らかである。
(被告らの主張)
ア 会社と取締役との間で現に締結された委任契約において,会社の解除権及び解除に伴う処理が具体的に規定されているのであれば,かかる規定に従う限り,会社法339条2項において保護すべき取締役の損失(委任契約に基づく期待権の喪失)は生じず,賠償すべき「損害」を観念することもできないというべきである。本件においては,原告が被告Y2社の取締役に就任した際,本件委任契約が締結されており,同契約においては,被告Y2社は,約定の解除事由がなくても,いつでも本件委任契約を解除することができる旨定められ(10条2項),かつ,その解除が被告Y2社の都合によるものであれば,原告は退職一時金を請求することができる旨も定められており(7条1項1号),原告の利益の保護も十分に図られている。よって,本件解任については,会社法339条2項により賠償すべき「損害」は観念し得ない。
イ 原告主張の各損害については,以下の通りである。
① 残存任期分の役員報酬相当額について,本件解任時の原告の会社法上の任期は,平成28年6月に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結時までであり(同法332条1項本文),それを超える期間に係る役員報酬相当額は,同法339条2項の「損害」には含まれない。また,本件委任契約上明記された契約期間は「平成24年1月1日又は別途書面により合意した日から2年間」(2条)であって,5年間ではない。
② 追加報酬相当額について,本件委任契約4条2項所定の「追加的報酬」は,原告と被告Y2社との間の協議を経て,両者間でそれを支給する旨の合意が成立して初めて発生する権利であるところ,本件においては,合意はもとより協議すら行われていないのであるから,原告の権利は発生しようがない。また,原告の被告Y2社代表取締役就任後の同被告の利益額は,当初想定されていた数字に比して低い状況にあり,従業員1人当たりの売上高はそれほど増加しておらず,当期純利益はむしろ減少しており,時間当たりの売上高(売上高を,従業員の顧客向け業務の執務時間で除した額)は年を追って低下していることからすると,原告が「業績向上に格別の寄与をした」とは認められない。
③ 役員賞与相当額について,そもそもMHBは,権利性のない「特別賞与」であり,会社が決定した時期に会社が決定した従業員に対して任意的・恩典的に支給される一時金にすぎず,被告Y2社の役員はMHBの支給対象とされていない。また,被告Y2社の原告に対する報酬等の支払は,本件委任契約において規律され,同被告の他の取締役や従業員とは全く異なる報酬体系となっており,原告に対する実際の支払もかかる報酬体系に基づいて行われているところ,本件委任契約にはMHBその他の賞与の支給に関する規定は一切なく,同被告において,実際に原告に対してMHBその他の賞与が支払われたことはなく,原告に対するMHBの支給に充てるために金銭が積み立てられたこともなく,株主総会で原告に対して賞与を支給する旨の決定が行われたこともないのであるから,原告はMHBの支給対象者ではなかった。
④ 退職一時金について,本件委任契約上,同一時金の支払義務は,被告Y2社の株主総会における承認又はこれに代わる同被告の株主全員の書面による同意の意思表示がされることが停止条件とされているところ(7条2項),かかる承認や同意は存在しない。また,本件委任契約上,被告Y2社がその都合により同契約を解除した場合には,原告は,同契約7条1項1号に基づく退職一時金請求権を失うとしても,それと同時に同項2号の退職一時金請求権を取得するのであるから,原告には「損害」が生じない。
⑤ 弁護士費用については,「解任されなければ残存の任期期間中及び任期終了時に得べかりし利益」ではないから,会社法339条2項所定の「損害」に含まれない。
ウ 遅延損害金について,会社法339条2項に基づく損害賠償請求権に係る債務の履行については期限が定められていないから,民法の原則通り,履行の請求がなければ遅滞に陥らない(民法412条3項)。
(3)  被告Y1監査法人の不法行為及び債務不履行の有無等(争点3)
(原告の主張)
被告Y1監査法人は,原告との間で,正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪することをせず,被告Y2社をしてそれを剥奪させないという合意をしていた。仮にこの合意までは認められないとしても,本件委任契約締結時におけるCやDの言動により,被告Y1監査法人は,原告に対し,正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪することをせず,被告Y2社をしてそれを剥奪させないという信義則上の義務を負っていた。それにもかかわらず,被告Y2社の1人株主である被告Y1監査法人は,上記の合意又は義務に違反して,自ら原告に辞任を迫り,その直後には自らの名をもって原告に対し,被告Y2社の取締役から解任する旨通知し,被告Y2社の1人株主としてその議決権を行使し,その他,自らの役職員を通じもしくは被告Y2社の役職員に対して原告解任の手続を行うよう指示等することにより,正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪し,かつ被告Y2社をしてそれを剥奪させたものであり,かかる行為は原告に対する不法行為及び債務不履行に該当し,それにより原告に前記(2)の各損害が生じさせた。
(被告Y1監査法人の主張)
被告Y1監査法人が,原告との間で,正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪することをせず,被告Y2社をしてそれを剥奪させないという合意をしたことはなく,また,信義則上そのような法的義務を負う根拠もない。
第3  当裁判所の判断
1  争点1(本件解任の正当な理由の有無)について
(1)  「正当な理由」の意義について
会社法339条は,1項において株主総会決議による役員解任の自由を保障しつつ,当該役員の任期に対する期待を保護するため,2項において,当該解任に正当な理由がある場合を除き,当該解任がなければ当該役員が残存任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害について,会社に特別の賠償責任(法定責任)を負わせることにより,会社・株主の利益と当該役員の利益の調和を図ったものと解される。
同項の「正当な理由」の内容も,以上のような会社・株主の利益と当該役員の利益の調和の観点から決せられるべきものであり,具体的には,会社において,当該役員に役員としての職務執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的な事情があることをいうものと解するのが相当である。
以下,これを前提として,被告らが主張する正当の理由の有無を判断することとする。
(2)  被告らの主張ア(受嘱承認手続に係る規範の不遵守等)について
ア 原告による受嘱承認手続に係る規範の不遵守ないしその容認の有無と「正当な理由」該当性
(ア) 被告らは,原告自ら受嘱承認手続に係る規範を遵守せず又はその不遵守を容認するがごとき対応をとったことは,被告Y2社の代表取締役としての原告の適格性に強い疑念を生ぜしめると主張する。
(イ) まず,被告Y2社が,d社案件において,①AS品管部と協議することなく,所定のひな型と異なる基本契約書を使用し,②フェーズ0の受嘱承認しか得ていないにもかかわらず,その後に予定されるフェーズ1・フェーズ2等を含む全フェーズの業務概要を定めた基本契約を締結し,③さらに,フェーズ1(契約金額9200万円)及びフェーズ2(契約金額5億1600万円)の業務について,必要な受嘱承認手続をとらないまま,上記基本契約の期間の延長として処理し,顧客に対してサービスを提供したこと,原告はAS品管部に対し,平成25年5月13日,上記③についての弁明書(乙8)を提出し,平成26年9月11日,上記①及び②についての弁明書(乙9)を提出したことは,前提事実(3)ア(イ)のとおりである。そして,前提事実(3)ア(イ),証拠(甲28,30,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,d社案件の各フェーズに係る受嘱の際,必要な受嘱承認手続を経ているかどうかについて業務責任者であるEその他の従業員に確認せず,同手続に違反する事案の発生を防止することができなかったことが認められる。
しかしながら,株式会社の代表取締役(社長)が,個別案件についての会社グループ内の審査手続の具体的な履践を当該案件の担当者に委ねたとしても,直ちに不当と断ずることはできないところ,被告らの主張内容及び本件全証拠によっても,d社案件の受嘱当時の原告において,同案件に係る受嘱承認手続が業務担当者であるEによって適切に履践されていないことを具体的に窺わせる事情を認識していたことは認めるに足りない。そうである以上,原告が上記確認をせず,上記事案の発生を防止することができなかったことをもって,被告Y2社の代表取締役としての原告の適格性に疑念を生じさせるということはできない。
(ウ) これに対し,原告の代表取締役就任以前から現在まで被告Y2社の取締役を務めるK(以下「K」という。)は,証人尋問において,原告がd社案件に係る受嘱承認に関する状況を把握していたと思う旨証言し(証人K・10頁など),同人の陳述書(乙57)中にはその旨の陳述記載があるところ,同人はその根拠として,①同案件の業務責任者であるEは,フェーズ1及びフェーズ2の受嘱時に,業務の変更があるとして,定型書式による「アドバイザリー業務変更通知書兼承認依頼書」(乙51,52)を作成・提出しているところ,同依頼書においては,「業務内容・スコープの変更」がある場合や「報酬額が変更になり,30,000千円以上になる場合」には同依頼書作成前にAS品管部と協議してその結果を添付すべき旨が明記されており,フェーズ1及びフェーズ2はこれらの項目に該当していたにもかかわらず,敢えて単なる契約期間の変更(この場合には同部との協議が不要となる。)であるとの虚偽の記載をしていることや,同案件が非常に難しい案件であり,d社は被告Y1監査法人の監査の顧客でもあり,同案件について同部の受嘱承認を得るのは難しかったと思われることからすれば,フェーズ1及びフェーズ2の受嘱について,同部の審査を回避する目的があったと思われること,②d社案件に係る基本契約書において規定された業務内容が非常に広範であり,契約金額も約20億円と高額であって,上記のとおりd社が被告Y1監査法人の監査の顧客であり,AS品管部の承認を得るのは難しかったと思われることからすれば,同基本契約書についても,同部の審査を回避する目的があったと思われること,③原告が,d社案件の開始当初から実質リーダーとして関与していたこと,④フェーズ0の受嘱承認手続の際に被告Y2社の担当者とAS品管部の担当者との間でやりとりされたメールの内容が,CC(カーボンコピー)により原告にも送信されていたこと,⑤被告Y2社においては,アドバイザリー業務に係る契約書への代表印捺印の申請(乙48~50参照)の際,「アドバイザリー契約書チェックリスト」(乙54参照)を添付することとされており,同リストには,「業務受嘱質問表(中略)によりリスクの判定を行い,リスクに応じた承認を得ている」,「所定のひな型を使用していない場合,(中略)アドバイザリー品質管理部との合意内容の記録を添付する。」などのチェック項目が設けられていたにもかかわらず,d社案件のフェーズ1及びフェーズ2の個別契約書については同リストが保管されておらず,原告は,同リストを作成させずにこれらの契約書に押印したと思われること等を挙げる。
しかしながら,仮に上記①~④の事情があったとしても,そのことをもって,原告がd社案件について必要な受嘱承認手続を欠いている状況を認識していたと推認することはできない。上記⑤についても,証拠(乙48~50,原告本人43頁)及び弁論の全趣旨によれば,当時の被告Y2社におけるアドバイザリー業務に係る契約書への代表印捺印の承認権者は「部長」とされており,その承認や捺印のプロセスに社長の関与を要するものとされていたことを認めるに足りる証拠はないから,仮に当該チェックリストの作成が敢えて省略されたとしても,そのことをもって,原告が上記状況を認識していたと推認することはできない(証人Kは,原告は契約書等については慎重に確認して押印する性格であったなどとも証言するが,これを裏付ける的確な証拠はない。)。したがって,Kの上記証言及び陳述記載から,原告がd社案件に係る受嘱承認に関する状況を認識していたと断ずることはできない。
(エ) また,前提事実(3)ア(イ)によれば,原告は,d社案件についての1回目の弁明書提出の頃にAS品管部からヒアリングを受けた際,同案件に係る基本契約書に関する受嘱承認手続の不履践の問題について報告しなかったことが認められる。
しかしながら,被告らの主張内容及び本件全証拠によっても,原告が,上記ヒアリングの際,上記問題の存在について具体的に認識していたことは認めるに足りないから,この点をもって,原告の代表取締役としての適格性に問題があるということはできない。
(オ) さらに,前提事実(3)ア(ウ)によれば,原告は,別の受嘱承認手続違反の報告を受けた際,被告Y2社の従業員に対し,「契約していれば,じゅしょくは,気にしなくよいと思うよ,品管に怒られるけどね。」等とのメール(乙12)を送信したことが認められる。
この点について,原告は,責任は担当の業務責任者にあるとしつつ,契約がないのに業務提供するといった重大なミスを犯していないことは救いであると示唆したものである等と主張するが,文言上そのように解することは困難であり,上記メールの送信は,被告Y2社の従業員等をして,受嘱承認手続の不履践は気にしなくてよいとの認識を抱かせかねないものであるから,b社グループに属する同被告の代表取締役(社長)の行為としては,問題のあるものであったといわざるを得ない。
しかしながら,原告が,上記メール以外に,日常的に受嘱承認手続によるリスク管理の意義等を軽視するような言動を繰り返していたことや,原告在任中の被告Y2社において,d社案件や前提事実(3)ア(ウ)の案件の他にも受嘱承認手続の不履践が頻発していたことを認めるに足りる証拠はない。そして,証拠(甲16,30,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成26年12月,被告Y1監査法人の要請により同被告において行った「アドバイザリービジネスの基本的理解」と題する講義において,アドバイザリービジネスを行う上で最も重要な要素はリスク管理であること,常にリスクをモニタリングし,コンサルビジネスの専門家がリスクを軽減する活動を継続的に行うことが必須であることなどを強調しており,少なくともリスク管理の重要性それ自体については十分な認識を有していたこと,被告Y2社の代表取締役(社長)就任後,AS品管部が行う受嘱承認手続に加え,同被告内部で行う追加的な受嘱承認手続を導入しており,契約締結等に当たり受嘱承認を経ることの意義ないし重要性自体は認識していたことが認められる。
これらの事情を総合すれば,原告による上記メールの送信は,それ自体,被告Y2社の代表取締役(社長)の行為として問題のあるものであったことは否定できないとしても,これをもって,会社法339条2項の「正当な理由」があるとまでいうことはできない。
イ 原告による受嘱承認手続の軽視と「正当な理由」該当性
さらに,被告らは,仮に原告が受嘱承認手続の不履践に気付いていなかったとすれば,原告は同手続を軽視していたものであり,代表取締役としての適格性に疑問があると主張する。
上記認定・説示によれば,たしかに,上記メールの送信は,それ自体,被告Y2社の代表取締役(社長)の行為として問題のあるものであったものの,他方,原告が受嘱承認手続を軽視していたと断ずることはできないから,これをもって,会社法339条2項の「正当な理由」があるということはできない。
(3)  被告らの主張イ(b社グループの方針の不遵守)について
前提事実(3)イによれば,原告は,AS品管部の担当者が,被告Y2社のアドバイザリー業務の契約書中に同被告がコーディネイトや管理を行いその責任を負うように読める記載があるとして,この点に係るb社グループの方針を説明した際,その説明内容について,被告Y2社の方針と全く異なるものであり,同被告の従業員には今後無視するよう展開しておく等とのメールを送信したことが認められる。
しかしながら,証拠(乙13)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,上記メールに続くメールのやり取りにおいて,「マネジメントとしての管理責任はクライアントにあることは,当たり前です。そのことと,提案,個別契約において」上記担当者の説明内容のとおりに「指摘すること,特に,manageはNGということとは全くことなるので,よく研究して下さい。」等とも述べていることが認められ,詰まるところ,被告Y2社におけるアドバイザリー業務の提案等の在り方についての自身の見解を述べたものにすぎないとも解される。さらに,証拠(甲30,乙13,45)及び弁論の全趣旨によれば,原告とAS品管部との間では協議の機会が持たれたこと,被告Y1監査法人やb社グループないしb社ジャパンは原告に対し上記見解を是正するよう明示的な指示をしなかったことが認められるから,これらの事情を総合すれば,仮に,原告の上記見解に被告Y1監査法人やb社グループ等の方針と一致しない点があったとしても,そのことをもって,会社法339条2項の「正当な理由」があるということはできない。
(4)  被告らの主張ウ(研修義務不履行者への措置・処分の未策定)について
前提事実(3)ウによれば,被告Y1監査法人が被告Y2社の従業員に対し,指定研修に関して「Y2社内で,義務不履行者に対する具体的な措置,処分を作成」するよう指示していたこと,原告がこの指示について特段の対応をしなかったことが認められる。
しかしながら,この点に係る証拠(乙14の1・2,15の1・2,36,42,43,55の1・2,56の1・2,57,原告本人)を精査しても,被告Y1監査法人の上記指示の内容が原告に伝えられていたことは認めるに足りないし,その前提として,当時の被告Y2社において指定研修の義務不履行者の数の多さが問題になっていたこと,その多さの主たる原因が義務不履行者に対する具体的な措置等の不備にあるとみられていたことなども認めるに足りず,他にこれらの事実を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,この点について会社法339条2項の「正当な理由」があるということはできない。
(5)  被告らの主張エ(離職者数の多さ)について
被告Y2社において一定数の従業員が離職したことは,前提事実(3)エのとおりであるが,これらの離職が被告らの主張するような原告の配慮不足に起因するものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,この点について会社法339条2項の「正当な理由」があるということはできない。
(6)  被告らの主張オ(規程整備への非協力)について
ア 前提事実(3)オによれば,原告は,被告Y1監査法人の担当者から2度にわたって規程リスト等の提出依頼を受けながらこれに応ぜず,その後も当該規定リスト等の提出をしなかったことが認められる。
この点について,原告は,本人尋問において,1回目の依頼に対して「特にサポートは不要です」とのメールを返信したのは,「サポート要るかという依頼だと思った」からであり,その後失念し,2回目の依頼を受けた後も規程リスト等の提出をしなかったのは,多忙のため再び失念したからである旨供述する(原告本人22頁,40頁,60頁)。しかしながら,1回目の提出依頼のメール(前提事実(3)オ,乙16)の文面に照らせば,同メールを原告の供述するような趣旨に誤読することは想定し難いし,その後失念していたところに2回目の提出依頼を受けたにもかかわらず,さらに再び失念したというようなことも到底信用し難い。また,原告の陳述書(甲30)中には,原告は,平成26年11月7日午前9時40分の電子メールを返信した後,提出依頼を受けていたことを思い出し,被告Y1監査法人のL財務管理本部長に電話を架けて,何を提出すべきかを教えてほしいと依頼したところ,同人はこれを了解し,電子メールで連絡する旨答えたとの陳述記載があるが,そうであるとすれば,同日午前10時26分の同人からの電子メール(乙17)の冒頭が「了解しました。」で始まることも不可解というほかはない。結局,原告の上記供述や陳述記載は容易に採用し難いものであり,原告には,上記提出依頼に応じる意思がなかったとみられてもやむを得ないというべきであって,原告の上記対応は,b社グループに属する被告Y2社の代表取締役(社長)として問題のあるものであったといわざるを得ない。
イ しかしながら,本件全証拠によっても,被告Y2社における規程整備について具体的な問題又はその疑いが生じていたことや,被告Y1監査法人の担当者が被告Y2社に対し,規程整備の実態調査及び検討の必要性について具体的な説明をしたことを認めるに足りない。
ウ これらの事情を総合すれば,原告による規程整備への非協力は,それ自体,被告Y2社の代表取締役(社長)の行為として問題のあるものであったことは否定できないものの,これをもって会社法339条2項の「正当な理由」があるとまでいうことはできない。
(7)  被告らの主張カ(業績目標の未達)について
被告らは,原告がc社買収交渉の際に交付した資料(乙18別紙)に買収後の業績目標が記載されていたところ,実際のc社買収後の被告Y2社の当期純利益は大きくこれを下回り,上記業績目標は大幅に未達となった旨主張する。
原告が,平成23年6月頃c社の株式の譲渡について被告らと交渉した際,被告らに対して交付した「ビジネス概況」と題する資料(乙18)中には「5カ年経営計画」があり,その中で,買収後の平成25年9月期(平成24年10月~平成25年9月)の利益は6億3974万円,平成26年9月期(平成25年10月~平成26年9月)の利益は7億6990万円と記載されていたことは,前提事実(3)カのとおりである。しかしながら,仮にc社がこのとおりの当期純利益をもたらすことが想定されていたというのであれば,c社の株式全部の譲渡代金が合計5億5000万円とされることは容易に想定し難い。また,弁論の全趣旨によれば,上記資料に記載されたc社の事業のうち,「新規事業」と記載されたものの相当部分は,第三者に売却されており,被告Y2社には移転していないことが認められる(新規事業のうち,ライセンスに係る事業が被告Y2社への移転の対象とならなかったことは,当事者間に争いがない。)。そして,この点に係る証拠(乙44)を精査しても,原告が,上記買収交渉の際,上記資料に記載されていた「利益」の額をもって,その後の被告Y2社の当期純利益の「業績目標」とする旨を表明等した事実を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,この点について会社法339条2項の「正当な理由」があるということはできない。
(8)  被告らの主張キ(アドバイザリー業務体制の検討における非協調姿勢)について
ア この点に係る証拠(乙40,47,証人M)を精査しても,原告が,前提事実(3)キの検討会において,「我々は独立した総合コンサルティングファームとしてやっている。」,「お互いに口出ししても意味がないし,従わない。」,「ガバナンスは個々に行えばよい。」,「別の人から何か言われても誰も言うことを聞かない。」などと発言したことや,ファーム間の業務範囲の線引きについて,「当然答えはNoである。」,「それについて私は発言しない。」などと発言した事実を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
イ また,上記検討会においては,最終的にb社グループとしてアドバイザリー業務を行う組織を1つに集約することを目指し,そのための移行プランを策定することなどが議論され,原告が,被告Y2社の移行プランとしてパートナーシップ化の提案等を行ったことは,前提事実(3)キのとおりであり,証拠(甲30,乙40,原告本人)によれば,原告は,具体的には,これまで増資された被告Y2社の株式の一部をY2社パートナーが買い取り,被告Y1監査法人が保有する残りの同株式は優先株とすることを提案したことが認められる(この提案が被告Y1監査法人に受け入れられなかったことは,前提事実(3)ケのとおりである。)。
仮に,原告がした同提案の内容が被告Y1監査法人の方針等に沿わないものであったとしても,原告は,第一次的には,株主(被告Y1監査法人)に対してではなく被告Y2社に対して善管注意義務・忠実義務を負う立場にあったこと,被告Y2社は取締役会設置会社であり,その株主(被告Y1監査法人)が株主総会において決議することができるのは,会社法に規定する事項及び定款で定めた事項に限られる(会社法295条2項)など,取締役会設置会社における株主の権限は限定的であることをも踏まえれば,原告が,被告Y2社の利益を擁護するという観点から,株主(被告Y1監査法人)やb社グループの他の会社の方針等に沿わない提案等を行ったからといって,そのこと自体を一概に不当と断ずることはできない。
ウ したがって,この点について会社法339条2項の「正当な理由」があるということはできない。
(9)  被告らの主張ク(独断での新たなQRMプロセスの提案)について
原告が,b社との会議において,被告Y2社の案件に係る2階建てのQRMプロセスを統合すべきであり,被告Y2社こそが,PI業務に係る統合後のQRMプロセスの構築について先頭に立つべきであるとの提案を行おうとしたことは,前提事実(3)クのとおりであるが,仮にこれらの提案の内容が被告Y1監査法人の方針等に沿わないものであったとしても,あるいは,上記提案に先立ってAS品管部と協議していなかったとしても,そのことをもって会社法339条2項の「正当な理由」があるということはできないことは,前記(8)と同様である。
(10)  被告らの主張ケ(Y2社パートナーに係るパートナーシップの検討における姿勢)について
前提事実(3)ケのパートナーシップの協議・検討の過程において,Y2社パートナーがした平成27年3月付け回答やそれによる被告Y1監査法人との間の協議の打切りが,原告の意向によるものであったことを認めるに足りる証拠はない。
また,原告が,Y2社パートナーによる「パートナー」の肩書きの使用問題について,被告Y1監査法人に対し,同被告の保有する被告Y2社の株式の議決権の剥奪又は制限を含む方法を提案したことは,前提事実(3)ケのとおりであるが,仮にこの提案の内容が被告Y1監査法人の方針等に沿わないものであったとしても,そのことをもって会社法339条2項の「正当な理由」があるということはできないことは,前記(8)と同様である。
(11)  被告らの主張コ(e社から提供を受けたサービスの対価の支払懈怠)について
ア 原告が,e社から平成26年6月期(平成25年7月~平成26年6月)分の情報システム関連業務に係るサービスの対価のうち人件費等相当額及び「トゥルーアップ」合計1億2904万7637円並びに平成27年6月期(平成26年7月~平成27年6月)分の同サービスの対価全部について請求を受けながら,本件解任により代表取締役社長の地位を離れるまで,その支払を行わなかったことは,前提事実(3)コのとおりである。
イ この点について,原告は,e社の請求に不明朗な点が多かったためその支払を留保した旨主張し,原告本人尋問の結果及び陳述書(甲30)中には,e社からの請求書には数量や単価の明細が付されていなかったこと,c社を経営していた時に,税務当局から,100%子会社の場合には合理的な原証憑をつけなければ寄附金になると強く指導されたことがあり,税務調査の際に説明できるような明細が必要であると認識していたことなどの供述(原告本人24~25頁)及び陳述記載があるところ,この点に係る証拠(乙31の1・2)を精査しても,当時,原告に対し,原告が支払を留保した上記各対価の金額の具体的な算定根拠(単価,数量等)が示されていた事実を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告が,法的な支払義務の有無はともかく,被告Y2社の代表取締役(社長)として,上記各対価の明細がなく算定根拠が不明であるとの理由によりその支払に応じなかったこと自体をもって,会社法339条2項の「正当な理由」があるということはできない。
ウ なお,原告は,前記第2の3(1)の(原告の主張)コのとおり,e社の請求の内訳のうち「情報システム関連費用」について,少なくとも平成26年6月期(平成25年7月~平成26年6月)分までは請求明細において機器代金等の内訳も示されており,一応合理的と考えられたので全て支払ったが,平成27年6月期分以降は請求書に明細が添付されなくなったので,被告Y1監査法人に対して支払うわけにはいかないと伝えた旨主張し,原告の陳述書(甲30の38頁)中にはこれに沿う陳述記載があるところ,これについて被告らは,同年7月分以降の請求書(乙31の2)にも同年6月分以前の請求書(乙31の1)と同様の明細が添付されていた旨主張する。しかしながら,原告は,平成26年6月期分までの請求について機器代金等の内訳が示されたと判断した根拠について,被告ら提出の「請求書」(乙31の1)のみであると主張しあるいは陳述する趣旨であるとは解されない(乙31の1には,「機器代金等の内訳」等の記載は見当たらない。)から,被告らの上記主張は前記認定を左右するものではない。
(12)  以上によれば,前記第2の3(1)の(被告らの主張)アないしコ記載の原告の行為について,各項目ごとに独立して,会社法339条2項の「正当な理由」があるということはできない。
もっとも,前記(2)ア(オ)の原告の行為や前記(6)アの原告の対応が,b社グループに属する被告Y2社の代表取締役(社長)の行為として問題のあるものであり,これらを総合すると,原告の代表取締役としての適性に疑念を生じさせる面があることは否定できないところである。しかしながら,他方,証拠(甲25,27,30,31の1・2,乙43,証人C,証人M,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告Y2社の前代表取締役会長であるCから,業績が低迷して営業力も低い被告Y2社の収益を改善し規模を拡大することを目的として,被告Y2社に招聘されたものであり(そのことは被告Y1監査法人も前提としていた。),原告自身,そのことを十分認識して同被告の代表取締役(社長)に就任したものであること,実際,被告Y2社の損益は,平成24年6月期から黒字に転じ,原告の在任中は一応黒字を維持しており,同被告の従業員数も,平成24年6月期から平成27年6月期までの間の期末の人員を比較すると,毎年約100人ないし150人ずつ増加していることが認められる。これらの事実を総合すれば,原告が代表取締役として著しく不適任であると断ずることはできず,本件解任について会社法339条2項の「正当な理由」があるとまでいうこともできない。
したがって,争点1に係る被告らの主張は理由がない。
2  争点2(本件解任による損害の有無及び額)について
(1)  「損害」の意義等について
会社法339条2項の「損害」とは,当該解任がなければ当該役員が残存任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害をいうものと解されることは,前記1(1)において説示したとおりである。
この点につき,被告らは,前記第2の3(2)(被告らの主張)アのとおり,会社と取締役との間の委任契約において,会社の解除権及び解除に伴う処理が具体的に規定されているのであれば,かかる規定に従う限り,会社法339条2項において保護すべき取締役の損失(委任契約に基づく期待権の喪失)は生じず,賠償すべき「損害」を観念することもできない旨主張する。しかしながら,会社と取締役との間の委任契約(取締役任用契約)において,会社の無条件の解除権や解除された場合の処理が具体的に規定されたとしても,そのことをもって,当該取締役の任期に対する期待権(前記1(1)参照)が生じないなどと解することはできず,同項の「損害」を観念することができないともいえないから,被告らの上記主張は採用することができない。
(2)  各損害について
ア ①残存任期分の役員報酬相当額(請求額6300万円)について
(ア) 前提事実(1),(2)によれば,本件解任当時(平成27年4月1日)の原告の取締役としての任期は,会社法332条1項本文により,平成27年7月1日~平成28年6月30日の事業年度に関する定時株主総会の終結の時までとなる。この定時株主総会の開催・終結時がいつになるかは本件解任時においては未確定であるが,本件解任時において客観的に予測された同定時株主総会の開催・終結時は,直近の重任日が平成26年9月10日であったこと(前提事実(2)ウ)に鑑みると,平成28年9月10日であったと認定するのが相当である。そうすると,本件解任時における原告の残存任期は,17か月と10日であったこととなる。
そして,原告が被告Y2社から役員報酬として月額300万円の支払を受けていたことは,前提事実(2)イのとおりである。
よって,原告は,本件解任がなければ,残存任期中に,合計5200万円(300万円×17か月+300万円×10日/30日)の役員報酬を得ていたであろうと認めることはできるものの,それ以上の役員報酬を得ていたであろうと認めることはできない。
(イ) これに対し,原告は,本件委任契約に明記された原告の在任期間は5年間(平成28年12月末日まで)であり,同契約上の原告の利益は保護されるべきである旨主張する。しかしながら,会社法339条2項は,前記1(1)の説示のとおり,解任される役員の任期に対する期待を保護するため,当該解任がなければ当該役員が残存任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害について,会社に特別の賠償責任(法定責任)を負わせたものであり,ここでいう任期は,特別の法定責任という性質からしても,会社法上の任期をいうものと解するのが相当であるから,原告の上記主張は,それ自体採用することができない。
その点は暫く措くとして,本件委任契約上の契約期間が「平成24年1月1日又は別途書面により合意した日から2年間」(2条)とされていることは,前提事実(2)イのとおりであり,これを超えて,被告Y2社が,同契約締結の際,原告との間で,原告の取締役在任期間を5年間とする旨の合意をしたことを認めるに足りる証拠はない。仮に,同契約締結当時,被告Y2社の代表取締役会長であったCが,同契約に係る原告との交渉の中で,5年間やってもらうという趣旨の発言をしたことがあったとしても(証人C・12~13頁),その後の被告Y1監査法人との調整等を経て,原告が実際に締結した同契約の条項(2条)が上記のようなものとなった以上,上記認定を左右するものではない。
イ ②追加報酬相当額(請求額1億円)について
(ア) 前提事実(2)イによれば,本件委任契約4条2項は,原告が被告Y2社の業績向上に格別の寄与をしたと認められる場合に,両者で協議の上,追加的報酬の支給を決定すると規定するにとどまり,「業績向上に格別の寄与をした」か否かの判定基準や「追加的報酬」の額の算定基準について何ら規定していないことが認められるから,同条項のみによって,原告に具体的な報酬請求権が発生すると解することは困難であり(例えば,「業績向上」の有無を営業利益で測定すべきか,当期純利益で測定すべきか,従業員1人当たりの売上高や時間当たりの売上高で測定すべきか等は一義的に定まるものではない。),同条項は,両者間で改めて協議して追加的報酬の有無及び額を決定するという枠組みを規定したにすぎないものと解するほかはない。そして,被告Y2社において,同条項が実際に適用された事例があることやその適用が具体的に予定されていたといった事情は窺われず,他に,本件解任がなければ原告が残存任期中及び任期終了時に上記の「追加的報酬」を得ていたであろうことを認めるに足りる証拠はない。
(イ) これに対し,原告は,本人尋問において,本件委任契約締結に先立ち,被告Y2社の代表取締役会長であったC及び代表取締役社長であったDが,原告との間で,年間100名程度の人員増員及び就任3年後の黒字転換を条件として成功報酬3億円を支払う旨の合意をした旨供述し(原告本人13頁),Cも同旨の証言をする(証人C・18頁)。しかしながら,原告は,本件訴状及びその後提出した準備書面においては,そのような内容の合意の存在を主張せず,むしろ,追加的報酬に関しては本件委任契約の規定以外には特段の合意がないとの認識を前提とするかのような主張(前記第2の3(2)(原告の主張)ア②)をしていたこと(当裁判所に顕著な事実)や,仮にCやDが,同契約に係る原告との交渉の中で,上記の合意の内容に沿うような発言をしたとしても,その後の被告Y1監査法人との調整等を経て,原告が実際に締結した同契約の条項(4条2項)が上記のようなものとなったことに徴すると,上記の供述や証言は上記認定を左右するものではない。
(ウ) よって,追加報酬相当額に関する原告の主張は採用することができない。
ウ ③役員賞与相当額(請求額450万円)について
被告らは,前記第2の3(2)(被告らの主張)イ③のとおり,被告Y2社の原告に対する報酬等の支払は,本件委任契約において規律され,同被告の他の取締役や従業員とは全く異なる報酬体系となっていた旨主張する。
そして,前提事実(4)によれば,本件委任契約にはMHBその他の賞与の支給に関する規定がないこと,被告Y2社は,原告に対し,実際にMHBを支払ったことがなく,原告在任中,原告に対するMHBの支給に充てるための金銭を積み立てたこともなかったことが認められ,他に,原告が被告Y2社の代表取締役在任中にMHBの支給対象者とされていたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,原告が,本件解任がなければ残存任期中にその主張に係るMHBの支給を受けていたであろうと認めることはできない。
よって,役員賞与相当額に関する原告の主張は採用することができない。
エ ④退職一時金(請求額1億5000万円)について
(ア) 前提事実(2)イによれば,被告Y2社において,本件委任契約の締結により,同契約の解除(10条1項)によらずに原告が被告Y2社の取締役を退任する場合には,株主総会における承認等を条件として,同被告は原告に対し,退職一時金を支払うこと,その額は,同契約締結日より5年未満で原告の都合により退任する場合(7条1項3号)でない限り1億5000万円とすることが,唯一の株主である被告Y1監査法人の了承も得て,決定されていたことが認められる。そして,本件解任当時,同契約10条1項の事由や同契約7条1項3号の事由が生じており又は生じる具体的な見込みがあったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告は,本件解任がなければ,任期終了時(再任された場合にはその任期終了時)に1億5000万円の退職一時金を得ていたであろうと認めるのが相当であり,本件解任によってこれを喪失するという損害が生じたというべきである。
(イ) これに対し,被告らは,被告Y2社がその都合により本件委任契約を解除した場合,原告は同契約7条1項2号の退職一時金請求権を取得するのであるから,原告には損害は生じない旨主張する。しかしながら,仮に同号に基づく請求権が別途発生しているとしても,そのことをもって直ちに,本件解任による上記損害の発生(任期終了時において退職一時金を得ていたであろうとの期待権の喪失)を否定すべきものとは解されないから,被告らの上記主張は採用することができない。
(ウ) よって,退職一時金に関する原告の主張は,理由がある。
オ ⑤弁護士費用(請求額1587万5000円)について
前記1(1)において説示した会社法339条2項の趣旨に徴すると,原告主張の弁護士費用は,「解任がなければ当該役員が残存任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害」には含まれず,同項による補償の対象には含まれないと解するのが相当である。原告が主張する同項の趣旨等は,上記解釈を左右するものではない。
よって,弁護士費用に関する原告の主張は採用することができない。
(3)  遅延損害金について
被告Y2社の原告に対する会社法339条2項に基づく損害賠償債務については,法令上,その履行期限が定められておらず,両者間でその履行期限が定められたとの主張立証もないから,同被告は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うものと解される(民法412条3項)。そして,この点に係る証拠(甲8~12など)によっても,本件訴状の送達日(平成27年8月4日)よりも前に,被告Y2社に対し,上記債務に係る履行の請求がされていたことを認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はないから,同被告は,本件訴状の送達日の翌日から遅滞に陥ったというべきである。
また,前記1(1)において説示したとおり,上記債務は,法定責任であって,「商行為によって生じた債務」(商法514条)には該当しないと解されるから,遅延損害金の法定利率は年5分となる(民法404条)。
3  争点3(被告Y1監査法人の不法行為及び債務不履行の有無等)について
原告は,前記第2の3(3)(原告の主張)のとおり,被告Y1監査法人は,原告との間で,正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪することをせず,被告Y2社をしてそれを剥奪させないという合意をしていたこと,仮にこの合意までは認められないとしても,本件委任契約締結時におけるCやD(被告Y1監査法人の常務理事)の言動により,被告Y1監査法人は,原告に対し,正当な理由なく原告の被告Y2社取締役兼代表取締役たる地位を剥奪することをせず,被告Y2社をしてそれを剥奪させないという信義則上の義務を負っていたなどと主張する。
しかしながら,前提事実(2)イによれば,被告Y1監査法人が審議・了承した本件委任契約は,むしろ,被告Y2社がいつでも同契約を解除することができる旨を明確に規定しつつ,その場合に,同被告は退職一時金の支払義務を免れないと規定する(同契約10条2項)ことにより,原告の利益との調整を図っていることが認められるのであり,被告Y1監査法人が,被告Y2社の株主として,同被告が原告の取締役・代表取締役たる地位を剥奪する権限に制約を設ける内容の合意をしたことや,原告に対し,そのような剥奪権限を行使しないとの信頼を抱かせるような行為をしたことを認めるに足りる証拠はない。仮に,本件委任契約締結当時のCやDが,原告に対し,上記信頼を抱かせるような言動をしたことがあったとしても,同人らが,被告Y1監査法人から上記制約に関する合意を結ぶ代理権を与えられていたこと及び原告に対してその旨表示していたことを認めるに足りる証拠はない上,その後の被告Y1監査法人との調整等を経て,原告が実際に締結した同契約の条項(10条2項)が上記のようなものとなった以上,上記認定を左右するものではない。
よって,その余の点について検討するまでもなく,被告Y1監査法人について,原告主張の不法行為や債務不履行があったということはできない。
4  結論
以上によれば,その余の争点につき判断するまでもなく,原告の請求は,被告Y2社に対して合計2億0200万円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,被告Y2社に対するその余の請求及び被告Y1監査法人に対する請求はいずれも理由がない。
東京地方裁判所民事第8部
(裁判長裁判官 大竹昭彦 裁判官 秋吉信彦 裁判官 琴岡佳美)

 

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