
「営業代行」に関する裁判例(1)平成30年10月29日 東京地裁 平29(ワ)30646号 損害賠償請求事件
「営業代行」に関する裁判例(1)平成30年10月29日 東京地裁 平29(ワ)30646号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成30年10月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)30646号
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2018WLJPCA10298010
名古屋市〈以下省略〉
原告 有限会社未来厨機
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 松川正紀
東京都港区〈以下省略〉
被告 株式会社GLUG
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 岸本有巨
主文
1 被告は,原告に対し,74万円及びこれに対する平成29年7月31日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,211万2000円及びこれに対する平成29年7月31日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,被告との間で弁当販売事業に関するコンサルティング契約を締結した原告が,被告には上記コンサルティング契約に係る原告の商圏(販売エリア)の一部において原告の販売を妨げるなどの債務不履行があったとして,上記コンサルティング契約を解除した上で,被告に対し,①損害賠償金191万2000円の支払,②保証金20万円の返還,③これらに対する弁済期の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であり,その主要な争点は,上記コンサルティング契約に係る原告の商圏の範囲である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等。以下,書証番号は特記しない限り枝番を含む。)
(1) 当事者
ア 原告は,厨房器機の販売,飲食店の経営,喫茶店の経営等を目的とする会社である。原告は,平成22年4月から,愛知県安城市住吉町三丁目所在の店舗(以下「本件旧店舗」という。)において,「a店」の名称で,インターネットカフェを経営していた。(甲1,12)
イ 被告は,経営コンサルタント業務,飲食店の経営,フランチャイズチェーン店の加盟店募集及び加盟店の指導業務等を目的とする会社である。(甲2)
(2) 弁当販売事業に関するコンサルティング契約の締結
原告は,被告との間において,平成27年5月20日,「○○弁当」の名称の下で,許諾標章及び被告が作成したオペレーションマニュアル等の資料(以下「本件マニュアル」という。)を使用して運営する弁当販売事業業態(以下「本件業態」という。)に関するコンサルティング契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件契約の締結に際して原告及び被告により取り交わされた契約書(以下「本件契約書」という。)には,要旨以下のような記載がある。(甲3,弁論の全趣旨)
① 被告は,原告に対し,本件業態に関するノウハウ(以下「本件ノウハウ」という。)が記載された本件マニュアルを提供し,原告は,本件契約の定めに従って本件マニュアルを使用する。
② 被告は,原告に対する本件ノウハウの伝達のために,弁当製造ノウハウ,食材調達ノウハウ,弁当販売ノウハウ,販売後フォローノウハウ等を伝達する以下の実地研修を行う。
(ア) 事前打合せ(1営業日)
設備備品の確認,オープンまでの営業スケジュール及びシフトの作成,オープン期間中のスケジュール及びシフトの作成,事前営業ノウハウ伝達,事前営業同行
(イ) オープンサポート(4営業日)
キックオフミーティング,営業ノウハウ伝達,営業同行,オペレーション指導,発注業務指導,衛生管理指導
③ 原告は,被告に対し,○○弁当導入コンサルティング費用として,契約日までに140万円(消費税相当額を含まない。)を支払うものとし,当該費用には,上記②の実地研修の費用を含むものとする。
④ 原告は,被告に対し,○○弁当メニューコンサルティング費用として,上記②の実地研修の開始月から,月額3万5000円(消費税相当額を含まない。)を支払うものとする。
⑤ 原告は,被告に対し,保証金として,契約日までに20万円を支払う。保証金は,契約満了時に全額返還するが,原告に売掛金等の未払がある場合には,これを相殺した後の残金のみを返還するものとする。
⑥ 原告は,刈谷市エリアを商圏とし,弁当販売を実施する。
⑦ 原告は,被告が事前に定めている契約店舗の弁当販売商圏のみで営業を行い,他の者の本件業態店舗とバッティングしないようにする。
⑧ 原告は,○○弁当の販売個数アップの戦略として,原告の負担において,オープンから毎週1000件以上のFAXDMを4週間連続で導入し,それ以降は隔週500件以上ずつのFAXDMを導入する。
⑨ 原告は,被告の営業秘密の保持のために,本件契約の有効期間中及び終了後5年間,本件業態店舗の営業と競合する営業を行うことができないものとする。なお,「競合」とは,被告が原告に提供したレシピ,チラシ,オリジナル商材等のノウハウ及び情報を模倣した営業活動のことを意味する。
被告が競業と判断した場合には,原告は,被告に対し,違約金として5000万円を支払うものとする。
⑩ 本件契約の有効期間は,契約日から36か月間とし,契約期間満了の60日前までに,原告及び被告のいずれからも書面により期間満了による解約の申出がないときは,有効期間を12か月間として契約が自動的に更新されるものとする。なお,更新料は生じないものとする。
⑪ 本件契約の途中解約の際には,解約日までに違約金30万円を原告から被告に支払うものとする。ただし,弁当販売終了日の90日前までに,原告から被告に対し書面により解約の申出を行った場合には,違約金は免除するものとする。
(3) 原告による導入コンサルティング費用等の支払
原告は,被告に対し,本件契約に基づいて,平成27年5月26日,導入コンサルティング費用の一部10万8000円(消費税相当額を含む。)及び保証金20万円を支払い,同年8月10日頃,導入コンサルティング費用の残金140万4000円(消費税相当額を含む。)を支払った。
(4) 原告による弁当販売事業の実施
原告は,平成27年9月30日,本件旧店舗において,愛知県刈谷市内を商圏として,○○弁当の販売を開始した。原告は,事業所の訪問やチラシの配布等による販売先の開拓を進め,平成28年9月には,刈谷市高須町に店舗を移転し,同店舗(以下「本件新店舗」という。)を拠点として,○○弁当の販売を行ってきた。(甲10,12)
(5) 被告による刈谷市北部地域等における販売中止の要請等
被告は,原告に対し,平成28年12月8日,原告が○○弁当の販売を行っていた刈谷市北部の一里山町及び一ツ木町並びに同市東南部の末広町及び場割町の各地区について,原告の商圏の範囲外であることを理由に,販売を中止するよう通知し,同月21日,上記各地区へのFAXDMの配信を停止した。
これを受けて,原告は,被告に対し,同月下旬以降,数回にわたり,原告の商圏の範囲は刈谷市全域であるとして,上記各地区において従前どおり○○弁当を販売させるよう求めた。(甲5,13,弁論の全趣旨)
(6) 原告による本件契約の終了の通知
原告は,被告に対し,遅くとも平成29年3月30日までに,口頭により,同年6月末日をもって本件契約を終了させる旨を通知した(本件契約が同日の経過により終了したことは,当事者間に争いがない。)。
(7) 原告の被告に対する損害賠償等の請求
ア 原告は,被告に対し,平成29年4月19日到達の書面により,原告が被告の担当者に対して同年3月22日に債務不履行を理由として同年6月末日をもって本件契約を終了させる旨を通知したとした上で,導入コンサルティング費用相当額140万円,市場開拓費相当額40万円及び保証金20万円の合計200万円の支払を請求した。(甲13,乙3)
イ 原告は,被告に対し,平成29年7月20日到達の書面により,同書面の到達後10日以内に,導入コンサルティング費用相当額140万4000円,市場開拓費相当額40万円及び保証金20万円の合計200万4000円の支払を請求した。(甲8)
(8) 被告による相殺の意思表示
被告は,原告に対し,平成30年9月21日の本件口頭弁論期日において,原告の競業避止義務違反に基づく5000万円の違約金請求権をもって,原告の本訴請求債権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。(顕著な事実)
3 争点
(1) 被告の債務不履行の有無
(2) 原告による本件契約の解除の可否等
(3) 原告の損害額
(4) 原告の競業避止義務違反の有無
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告の債務不履行の有無)について
(原告の主張)
ア 本件契約は,刈谷市全域を原告の商圏とするもので,原告は,その商圏内で営業を行い,他の者の本件業態店舗とバッティングしないようにするというものであるから,被告は,他の者による○○弁当の販売に関して,原告の商圏と競合させない義務を負っている。
イ ところが,被告は,原告と本件契約を締結した後,ヤオスズとの間で,刈谷市等の一部を商圏とするコンサルティング契約を締結した上,平成28年12月8日,原告に対し,原告が○○弁当の販売を行っていた刈谷市の一里山町,一ツ木町,末広町及び場割町の各地区について,原告の商圏の範囲外であることを理由に,販売を中止するよう通知し,同月21日,上記各地区へのFAXDMの配信を停止した。
ウ このため,原告は,被告に対し,再三にわたり,原告の商圏の範囲は刈谷市全域であるとして,上記各地区において従前どおり○○弁当の販売をさせるよう求め,平成29年1月中旬頃には,早急にヤオスズによる弁当販売を中止させ,刈谷市全域で原告のみに弁当販売をさせるよう求めた。しかし,被告は,上記各地区において原告が開拓した販売先での弁当販売を認めるとするのみで,ヤオスズとの競合を解消せず,かえって,原告に対して上記各地区からの撤退を求めた。
エ 上記のような被告の行為は,本件契約に違反するものであるから,債務不履行に当たる。
(被告の主張)
ア 被告における商圏の設定は,市区町村などの地方公共団体を単位とするものではなく,現実的な配送可能性や潜在的な顧客の存在などを踏まえ,河川や幹線道路を基準に行われる。
イ 本件契約は,刈谷市全域を原告の商圏とするものではなく,JR刈谷駅を中心とした,別紙図面1中の赤色の線で囲まれた範囲内(別紙図面2中のアの部分。以下「本件刈谷市エリア」ということがある。)を原告の商圏としたものである。被告は,原告に対し,本件契約の締結に際して,刈谷市内のどの地域が商圏として設定されているのかを説明し,本件旧店舗のオープンサポートの際にも商圏を表示した地図を示した。
ウ 原告が商圏内であると主張する一里山町など刈谷市北部の地区には,当初からFAXDMは配信されておらず,刈谷市北部の地区へのFAXDMの配信は,平成28年10月24日に原告からFAXDMの配信依頼を受けた被告が,原告の商圏外であることを看過して行ったものにすぎない。
エ したがって,被告の行為は,債務不履行には当たらない。
(2) 争点(2)(原告による本件契約の解除の可否等)について
(原告の主張)
原告は,被告に対し,ヤオスズによる弁当販売を中止させ,刈谷市全域で原告のみに弁当販売をさせるよう求めたにもかかわらず,被告は,これに応じることなく,本件契約に基づく債務を履行する意思を有していなかった。このため,原告は,被告に対し,平成29年3月22日,口頭により,同年6月末日をもって本件契約を終了させる旨の解除の意思表示をした。
そうすると,本件契約は,同日をもって終了したから,被告には,原告が預託した保証金20万円の返還義務がある。
(被告の主張)
ア 被告に債務不履行はないから,原告による解除の意思表示には効力がない。
イ 原告が被告に対して解除の意思表示をしたのは,平成29年3月22日ではなく,同月30日である。そうすると,仮に原告の商圏の範囲が原告主張のとおりであったとしても,被告は,原告が解除の意思表示をする前に,原告が主張する商圏での営業を認めており,債務不履行の状態は解消されているから,原告による解除の意思表示には効力がない。
ウ 本件契約は継続的契約であるから,その解除には,契約当事者間の信頼関係が破壊されていることが必要である。被告は,原告に対し,平成29年3月11日,原告主張の商圏を前提として,商圏の一部の買取り等の提案をしており,原告の商圏に関する紛争が生じた後にも原告の店舗の売上げが減少していないことなどからすれば,原被告間の信頼関係は破壊されていないというべきであるから,原告による解除の意思表示には効力がない。
エ 原告が被告に対して書面により本件契約の解約を通知したのは,平成29年4月19日であり,弁当販売終了日の90日前までに書面による解約の申出がされていないから,原告は被告に対して違約金30万円の支払義務がある。そうすると,この支払義務と被告の保証金20万円の返還義務は相殺されるから,被告には保証金の返還義務はない。
(3) 争点(3)(原告の損害額)について
(原告の主張)
被告の債務不履行により本件契約が解除され,原告は,本件契約に基づき支払った弁当導入コンサルティング費用151万2000円相当額の損害を被った。
また,被告が原告の商圏外であると主張する地域において,原告が顧客の開拓のために支出した費用は,40万円を下らないから,原告は,同額の損害を被った。
以上によれば,原告が被告の債務不履行により被った損害の額は,191万2000円となる。
(被告の主張)
弁当導入コンサルティング費用は,弁当販売事業の導入に関するコンサルティングの対価であり,契約期間中に発生する費用等の先払いの性質を有するものではないから,仮に,被告に債務不履行があったとしても,弁当導入コンサルティング費用と被告の債務不履行との間に因果関係は存在しない。
また,原告が顧客の開拓のために40万円を支出したとは認められない。
(4) 争点(4)(原告の競業避止義務違反の有無)について
(被告の主張)
原告は,その店舗を刈谷市に移転した後,被告のコンサルティングに基づく弁当の販売のみならず,原告自身による弁当も調理・販売しており,被告が提供した弁当販売事業のノウハウ等を利用して,営業活動を行っていた。
この行為は,本件契約期間中の本件業態店舗の営業と競業する営業であるから,被告は原告に対して5000万円の違約金請求権を有している。
(原告の主張)
原告は,元々インターネットカフェを経営しており,そこで提供していたから揚げ弁当や総菜を,昼食時間帯ではない夕方に,被告の弁当の営業先以外のところに販売したことがあるにすぎないから,被告のノウハウを利用した販売ではなく,競業には当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に掲記の証拠及び弁論の全趣旨等を総合すると,以下の事実が認められる。
(1) 原告は,平成22年4月から,本件旧店舗において,「a店」の名称で,インターネットカフェを経営していた。
原告から本件旧店舗の営業を任されていたC(以下「C」という。)は,平成27年4月頃,被告の営業代行を行っていた業者から送信されたファックスを見て,本件業態に興味を持った。そこで,原告代表者は,被告から本件業態についての説明を聞くことにし,Cと共に,数回にわたり,被告側と面談した。(甲10,12,乙9)
(2) 原告代表者は,平成27年5月13日,本件旧店舗において,Cと共に,被告の営業担当のD(以下「D」という。)と,弁当販売事業の商圏に関して面談を行った。
上記面談において,Cは,本件旧店舗のある安城市を商圏としたいとDに述べたが,Dから,安城市には既に契約した業者がおり,競合は認められていないので,刈谷市と愛知県知立市の両市を商圏としてほしい旨を伝えられた。Cは,両市を商圏とすることは,エリアが広すぎて無理であり,どちらか一方のみを商圏としたい旨述べるとともに,Dに対し,刈谷市と知立市ではどちらの法人数の方が多いのかを尋ねた。すると,Dは,持参していたタブレット端末を操作して,両市の法人数について検索し,刈谷市の方が多いと述べて,刈谷市を商圏とすることを勧めた。
これに対して,Cが,刈谷市は知立市よりも本件旧店舗のある安城市から遠いのではないかと尋ねると,Dは,刈谷市の中にも安城市と接している場所があるので,法人数の多い刈谷市の方が弁当の販売には向いていると答えた。
このようなやり取りを経て,原告代表者は,被告との間で,刈谷市を商圏とするコンサルティング契約を締結することにした。
なお,上記面談の際に,Dが,刈谷市内でも刈谷市の商圏に含まれない場所があるなどと説明したことはなく,別紙図面1のような商圏の範囲を示す地図を示して刈谷市の商圏について説明したこともなかった。(甲10,12,証人C,原告代表者)
(3) 原告代表者とDは,平成27年5月20日,本件旧店舗において,本件契約書を取り交わした。本件契約書には,表紙に「商圏 刈谷市」と記載され,また,本文中にも「乙(注:原告を示す。)は刈谷市エリアを商圏とし弁当販売を実施します。」と記載されている。
なお,この際にも,Dから,刈谷市内でも刈谷市の商圏に含まれない場所があるなどの説明はなく,別紙図面1のような地図が示されることもなかった。(甲3,12,乙9,原告代表者)
(4) 被告のオープン準備業務担当のE(以下「E」という。)は,平成27年8月31日,事前打合せのため,本件旧店舗を訪れ,設備の準備状況,人員の配置,配達車両の状況等を確認し,その後,Cの運転する自動車に同乗して,弁当の売上げが見込まれるエリアを巡回した。その際,Eらは,刈谷市北部の地域は巡回しなかったが,末広町などの刈谷市東南部の地域については巡回した。(乙8,証人C)
(5) Eは,平成27年9月29日,オープンサポートのため,本件旧店舗を訪れ,調理や配送等を担当する原告の従業員に対して,盛り付け,配達の注意点,電話対応,チラシの配布方法等について説明を行った。
その後,Eは,事前に商圏内に送ったFAXDMからの注文を集計し,仕込みなどの翌日のオープンに向けた準備のサポートをした。上記FAXDMの配信先は,販売先となりそうな企業等の存在などを踏まえて,Eが決めており,配信先には,東刈谷町,板倉町,末広町といった,刈谷市東南部の地区(これらの位置については,乙10,11の6参照)が含まれていた。(乙1,8,証人C,証人E)
(6) 原告は,事業所の訪問やチラシの配布等による販売先の開拓を進め,刈谷市の東南部や北部の地域においても,販売先を開拓した。そして,平成28年9月には,刈谷市高須町所在の建物を賃借して店舗を移し,同建物に設けた本件新店舗において,○○弁当の販売を行ってきた。(甲10,12,証人C,原告代表者)
(7) 被告は,ヤオスズとの間で,平成28年8月1日,刈谷市北部,知立市北部,愛知県豊田市南部等を併せた地域(別紙図面2中のイの部分。以下「本件知立市エリア」ということがある。)を商圏とするコンサルティング契約を締結し,同年11月16日,ヤオスズによる上記地域における弁当販売事業が開始された。
その後,Dは,Cから,電話により,原告の商圏内においてヤオスズがチラシを配布しているとの苦情を伝えられたことから,ヤオスズの商圏について確認した上,同月25日,Cにメールを送信し,別紙図面1中の赤色の線の範囲内が原告の商圏である旨を伝えた。これに対して,Cは,メールにより,本件契約の締結前の打合せの際にDから刈谷市内全域が原告の商圏である旨を聞いたとして,Dに抗議した。
また,原告代表者も,Dに電話を架け,本件契約の締結の際には,刈谷市内でも刈谷市の商圏に含まれない場所があるなどの説明はなかったとして,これでは営業が成り立たなくなる旨を伝えた。(甲10,12,乙5,8,9,証人C,証人D,原告代表者,弁論の全趣旨)
(8) 被告は,原告に対し,平成28年12月8日,刈谷市の北部及び東南部の地域について,原告の商圏の範囲外であることを理由に,販売を中止するよう求め,同月21日,メールにより,刈谷市一里山町,一ツ木町,末広町及び場割町の各地区について,FAXDMの配信を停止する旨を通知し,上記配信を停止した。
これを受けて,原告代表者は,Dに対し,数回にわたり,原告の商圏の範囲は刈谷市全域であるとして,上記各地区において従前どおり○○弁当を販売させるよう求めた。これに対して,Dは,平成29年1月頃,上記各地区においても,原告が開拓した販売先に限り,原告による販売を認めると述べたが,ヤオスズとの競合を解消することはしなかった。(甲5,10,12,13,乙5,9,証人C,証人D,原告代表者,弁論の全趣旨)
(9) Dは,原告代表者に対し,平成29年3月11日,メールにより,刈谷市のうち,北部及び東南部の地域を20万円で原告から買い取るとともに,その補填として,愛知県東浦町を原告の商圏とする旨の提案を行った。原告代表者は,この提案についてCと検討したが,Cから,東浦町は本件新店舗から遠い上,刈谷市北部及び東南部の地域を失うと売上げが大きく減少するため営業を継続できないとして,辞意を示されたことから,上記提案を受け入れることはできないと判断し,本件契約を解除することにした。
そして,原告代表者は,Dに対し,同月22日,電話により,同年6月末日をもって本件契約を終了させる旨の解除の意思表示をするとともに,損害賠償として200万円の支払を要求した。(甲6,10,12,13,乙9,証人C,原告代表者)
(10) 原告代表者は,本件新店舗を管理する不動産業者に対し,平成29年3月27日,同年6月末日をもって本件新店舗から退去する旨の解約通知書を送付するとともに,Cとパート従業員に対しても,同日をもって解雇する旨を伝えた。(甲7,12,原告代表者)
(11) Dは,原告代表者から前記(9)の要求を受けたため,ヤオスズとの間で,刈谷市北部をヤオスズの商圏から除外することについての交渉を続け,交渉がまとまったことから,原告代表者に対し,平成29年3月30日,電話により,刈谷市北部における原告の営業の継続を認める旨を申し入れた。
これに対し,原告代表者は,既に本件新店舗の解約の手続を進めていることなどを理由に,前記(9)の解除の意思表示は撤回しない旨を告げて,Dの申入れを断った。(甲12,乙9,原告代表者)
2 争点(1)(被告の債務不履行の有無)について
(1) 上記認定事実によれば,本件契約は,刈谷市全域を原告の商圏とするものであると認められる(なお,乙5ないし7によれば,本件契約の締結当時,被告内部において,本件刈谷市エリアや本件知立市エリア等の商圏が設定されていた可能性は否定できないが,本件契約の締結に際してこれらの商圏について原告側に説明があったとは認められないから,本件契約が本件刈谷市エリアを商圏とするものとは認められない。)。そして,本件契約書に,原告が,被告が事前に定めている契約店舗の弁当販売商圏のみで営業を行い,他の者の本件業態店舗とバッティングしないようにする旨記載されていることなどからすれば,被告は,他の者の○○弁当の販売に関して,原告の商圏と競合させないようにする義務を負っているというべきである。
しかるに,被告は,平成28年8月1日,ヤオスズとの間で,本件知立市エリア(別紙図面2中のイの部分)を商圏とするコンサルティング契約を締結し,同年11月16日,ヤオスズに上記エリアにおける弁当販売事業を開始させ,同年12月8日,原告に対し刈谷市北部等の地域における弁当の販売を中止するよう通知し,同月21日,刈谷市一里山町,一ツ木町,末広町及び場割町の各地区について,原告のFAXDMの配信を停止し,その後も平成29年3月30日に至るまで,原告からの数回にわたる要求にもかかわらず,上記地域におけるヤオスズとの競合を解消せず,かえって,原告に対して上記地域からの撤退を求めるなどしていたものであるから,このような被告の行為は,本件契約に違反し,債務不履行に当たるというほかはない。
(2) これに対し,被告は,被告における商圏の設定は,市区町村などの地方公共団体を単位とするものではなく,河川や幹線道路を基準に設定されるものであって,本件契約においては,刈谷市全域ではなく,本件刈谷市エリア(別紙図面2中のアの部分)が原告の商圏とされたものであるとした上で,本件契約の締結に際して,原告に対し,刈谷市内のうちどの地域が商圏として設定されているのかを説明し,本件旧店舗のオープンサポートの際にも商圏を表示した地図を示した旨主張し,証人D及び同Eの証言及び陳述書の記載には,これに沿う部分がある。
しかしながら,上記の証言及び陳述書の記載は,以下の理由から採用することはできず,ほかに上記(1)の認定判断を左右するに足りる証拠はない。
ア Dは,平成27年5月13日の打合せの際,刈谷市と知立市の法人数について尋ねられたため,タブレット端末により両市の法人数を検索して,刈谷市の方が多いことなどを説明し,刈谷市を商圏とすることを勧めたと述べる(乙9の2頁,D証人調書3頁,25頁参照)。
しかし,本件刈谷市エリアは,刈谷市と知立市の各一部を商圏とするものであり,本件知立市エリアは,刈谷市,知立市,豊田市等の各一部を商圏とするものであるから,刈谷市と知立市の法人数のみを調べても,両エリアのいずれの法人数が多いのかは判明しない。
そうすると,仮に,Dが,原告の商圏の決定に際し,両エリアの範囲について具体的に説明していたとすれば,Dが,両エリアの法人数について上記のような説明をし,これが考慮され原告の商圏が決定されたということは,不合理といわざるを得ない。
イ 本件知立市エリアに属する知立市中心部(名鉄知立駅及び市役所付近)と本件旧店舗との距離は,本件刈谷市エリアに属する刈谷市中心部(JR刈谷駅及び市役所付近)と本件旧店舗の位置と比較して,はるかに近い上,本件知立市エリアには,本件旧店舗から比較的近い豊田市南部も含まれている(以上の点につき,別紙図面2,C証人調書26頁参照)。
仮に,Dが両エリアの範囲について具体的な説明をしていたとすれば,本件知立市エリアではなく,本件刈谷市エリアが原告の商圏として選択されたことは,不合理かつ不自然というほかはない。
ウ 本件旧店舗における弁当販売事業の開始に先立ってEが決めたFAXDMの配信先には,東刈谷町,板倉町,末広町といった本件刈谷市エリア外の地区が含まれており,その後も,これらの地区には,原告のFAXDMの配信が続けられていた(乙1により認められる。)。
仮に,本件旧店舗のオープンサポートの際,原告に対し,その商圏を表示した地図が示されていたとすれば,このような事態が続いていたことは,不合理であるといわざるを得ない。
エ 本件契約書において,原告は,被告が事前に定めている弁当販売商圏のみで営業を行い,他の者の本件業態店舗とバッティングしないようにする旨記載されていた。
仮に,原告が,被告から,原告の商圏が本件刈谷市エリアであることにつき説明を受けていたとすれば,Cが,Dに対して,原告の商圏内においてヤオスズがチラシを配布しているとの苦情を述べたことは,不合理かつ不自然といわざるを得ない。
3 争点(2)(原告による本件契約の解除の可否等)について
(1) 前記2(1)において説示したとおり,被告は,平成28年11月以降,原告からの数回にわたる要求にもかかわらず,平成29年3月30日に至るまで,刈谷市北部地域におけるヤオスズとの競合を解消せず,かえって,原告に対して上記地域からの撤退を求めるなどしていたものであり,このような被告の行為は債務不履行に当たる。
したがって,原告が,被告に対し,同月22日に口頭により行った解除の意思表示は,有効であり,本件契約は,同年6月末日をもって,解除により終了したものというべきであるから,被告には,原告が預託した保証金20万円の返還義務がある。
(2) これに対し,被告は,①原告が被告に対して解除の意思表示をしたのは,平成29年3月22日ではなく,同月30日であるから,仮に原告の商圏の範囲が原告主張のとおりであったとしても,被告は,原告が解除の意思表示をする前に,原告が主張する商圏内での営業を認めており,債務不履行の状態は解消されているため,原告による解除の意思表示には効力がない,②本件契約は継続的契約であり,その解除には,契約当事者間の信頼関係が破壊されていることが必要であるところ,被告は,原告に対し,同月11日,原告主張の商圏を前提として,商圏の一部の買取り等の提案をしており,原告の商圏に関する紛争が生じた後にも原告の店舗の売上げが減少していないことなどからすれば,原被告間の信頼関係は破壊されておらず,原告による解除の意思表示には効力がないなどと主張する。
しかしながら,原告代表者が,本件新店舗を管理する不動産業者に対し,同月27日に,同年6月末日をもって本件新店舗から退去する旨の解約通知書を送付していることからすれば,原告代表者が,上記解約通知書の送付に先立つ同年3月22日に,Dに対して解除の意思表示をしたとする原告代表者の供述及び陳述書の記載は,合理的であって信用性が高いものといえる。
仮に,証人Dの証言(D証人調書7頁)及び陳述書の記載(4頁)にあるように,同日,原告代表者がDに対して,刈谷市北部地域での営業が継続できないのであれば撤退するしかなく,その場合には200万円の支払を要求するつもりである旨を述べたとすれば,原告代表者は,被告からの譲歩を引き出す意図でこのような発言をしたものと考えられるから,これに対するDの回答の前に,本件新店舗を管理する不動産業者に解約通知書を送付したことは,不合理といわざるを得ない。
また,仮に,本件契約の解除には,契約当事者間の信頼関係が破壊されていることが必要であると解されるとしても,前記認定事実によれば,被告は,平成28年11月以降,原告からの数回にわたる要求にもかかわらず,平成29年3月30日に至るまで,刈谷市北部地域におけるヤオスズとの競合を解消せず,かえって,原告に対して上記地域からの撤退を求めるなどしていたものであるから,同月22日の時点においても,原被告間の信頼関係は破壊されていたものと認めるのが相当である。
以上によれば,被告の上記主張は,いずれも採用することはできない。
なお,保証金の返還義務と違約金の支払義務との相殺に関する被告の主張(前記第2の4(2)(被告の主張)エ参照)は,本件契約が解約の申出により終了したことを前提とするものであるから,失当であり判断を要しない。
4 争点(3)(原告の損害額)について
(1) 前記前提事実のとおり,本件契約においては,①契約の締結に際し,原告は,被告に対し,弁当導入コンサルティング費用140万円(消費税相当額を含まない。)を支払うものとされ,②契約の有効期間は契約日から36か月間で,期間満了の60日前までに原告及び被告のいずれからも申出がないときは,契約が自動的に更新され,③契約の更新に際しては,更新料の支払を要しないとされている。
そして,前記認定事実のとおり,原告は,本件契約の締結後,事業所の訪問やチラシの配布等による販売先の開拓を進め,平成28年9月には,刈谷市高須町所在の本件新店舗に店舗を移し,○○弁当の販売を続けてきたものであって,原告代表者の供述(本人調書17頁)によれば,店舗移転後の収支はほぼ均衡していたことがうかがわれる。
そうすると,仮に,本件契約が被告の債務不履行による解除により終了しなかったとすれば,原告は,○○弁当の販売を継続し,初期投資である弁当導入コンサルティング費用の回収を一定程度図ることが可能であったと認めるのが相当であるから,本件契約の解除により,原告に相応の損害が生じたものと認められる。
上記損害はその性質上その額の立証が極めて困難と認められるので,当裁判所は,民訴法248条により相当な損害額を認定することとするところ,上記①ないし③の諸点に加えて,本件新店舗の収支の状況契約締結から約2年が経過した平成29年6月30日をもって本件契約が終了したことなど,諸般の事情を総合考慮すれば,原告の損害額は,これを50万円(消費税相当額を加えると54万円)と認定するのが相当である。
被告は,弁当導入コンサルティング費用について,弁当販売事業の導入に関するコンサルティングの対価であり,契約期間中に発生する費用等の先払いの性質を有するものではないと主張して,弁当導入コンサルティング費用と被告の債務不履行との間の因果関係を否定するが,上記説示のとおり,弁当導入コンサルティング費用の性質のいかんにより原告の損害の発生が左右されるものではないから,被告の主張は採用することができない。
(2) 原告は,原告が顧客の開拓のために支出した費用のうち,40万円が被告の債務不履行と相当因果関係がある損害に当たると主張するところ,本件全証拠によっても上記損害の発生を認めるには足りないから,この点に関する原告の主張は採用することができない。
5 争点(4)(原告の競業避止義務違反の有無)について
本件契約書の記載によれば,原告は,被告の営業秘密の保持のために,本件業態店舗の営業と競合する営業を行わないものとされ,「競合」とは,被告が原告に提供したレシピ,チラシ,オリジナル商材等のノウハウ及び情報を模倣した営業活動のことを意味するとされている。
証拠(証人C,原告代表者)によれば,本件新店舗において,原告は,から揚げ弁当やとんかつ弁当等の,Cが考案した弁当を販売していたほか,総菜等のケータリングも販売していたことが認められるが,これらの販売が,被告が原告に提供したレシピ,チラシ,オリジナル商材等のノウハウ及び情報を模倣したものに当たるとは,本件全証拠によっても認めるに足りないから,原告に競業避止義務違反があるとは認められない。
6 まとめ
以上によれば,原告の請求は,損害賠償金54万円及び保証金20万円の合計74万円並びにこれらに対する平成29年7月31日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第24部
(裁判官 市原義孝)
〈以下省略〉
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