「営業代行」に関する裁判例(15)平成27年12月21日 東京地裁 平27(ワ)12739号 損害賠償請求事件
「営業代行」に関する裁判例(15)平成27年12月21日 東京地裁 平27(ワ)12739号 損害賠償請求事件
要旨
◆訴外会社との間において同社制作予定映画のDVD及び関連グッズ商品を購入してその販売を同社に委託する旨の本件各契約を締結し、同社に金員を支払った原告が、原告を勧誘した被告Y3においては、本件各契約がリスクの高い契約であるにもかかわらず、この点の説明を一切せず、元本の保証された出資契約であるかのように原告を誤信させた、訴外会社の代表取締役であった被告Y1においては、被告Y3による違法な勧誘の実態を把握していたにもかかわらず、漫然と被告Y3に資金調達業務を行わせ、自らも原告に対する勧誘に加担したと主張して、被告Y3及び被告Y1に対し、不法行為に基づき、損害賠償として上記支払金額等の連帯支払を求めるなどしたほか、訴外会社の取締役であった被告Y2に対し、取締役の職務を行うについて悪意又は重過失があったとして、会社法429条1項に基づき、原告に支払われた分配金等の額を控除した金員等の支払を求めた事案において、被告Y3の不法行為責任及び被告Y1の共同不法行為責任並びに被告Y2の会社法429条1項に基づく責任を認めた上で、訴外会社の原告に対する分配金の支払を損益相殺の対象とすることは許されず、被告Y3及び被告Y1に対する請求額から同分配金を控除することはできないとし、各請求を認容した事例
参照条文
民法708条
民法709条
会社法429条1項
裁判年月日 平成27年12月21日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)12739号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2015WLJPCA12218015
東京都板橋区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 米澤裕賀
東京都稲城市〈以下省略〉
被告 Y1
東京都品川区〈以下省略〉
被告 Y2
住居所不明
(最後の就業場所 東京都新宿区〈以下省略〉)
被告 Y3
主文
1 被告Y1及び被告Y3は,原告に対し,連帯して3190万円及びこれに対する平成24年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y2は,原告に対し,2808万9000円及びこれに対する平成27年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文と同旨。
第2 事案の概要等
本件は,訴外a株式会社(以下「a社」という。)との間において同社が制作する予定のアニメーション映画のDVD及び関連グッズ商品を購入しその販売を同社に委託する旨の契約(以下「本件各契約」という。)を締結し,同社に合計2900万円を支払った原告(昭和6年○月○日生)が,①原告を勧誘した被告Y3(以下「被告Y3」という。)においては,本件各契約がリスクの高い契約であるにもかかわらず,この点の説明を一切せず,元本の保証された出資契約であるかのように原告を誤信させた,②a社の代表取締役であった被告Y1(以下「被告Y1」という。)においては,被告Y3による違法な勧誘の実態を把握していたにもかかわらず,漫然と被告Y3に資金調達業務を行わせ,自らも原告に対する勧誘に加担したと主張し,被告Y3及び被告Y1に対しては,不法行為に基づき,損害賠償として上記2900万円及び弁護士費用290万円の合計3190万円及び最終の支払日の翌日である平成24年10月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,被告Y1に対しては,予備的請求として,代表取締役の職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとして,会社法429条1項に基づき,同額の支払をそれぞれ求めるほか,a社の取締役であった被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対しては,取締役の職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとして,会社法429条1項に基づき,原告に支払われた分配金等の額を控除した2808万9000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年6月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実
(1) 原告(昭和6年○月○日生)は,平成19年に配偶者が死亡した後,月11万円余りの年金によって生活している者であり,三菱UFJ信託銀行株式会社が販売した投資信託商品を購入した以外には投資の経験はなかった。(甲27,弁論の全趣旨)
(2) a社は,テレビ番組等の企画,制作等を業とする取締役会設置会社である。被告Y1はその代表取締役,被告Y2はその取締役であり,両名は,平成20年11月30日に退任したが,その後,平成24年10月1日に被告Y1はその代表取締役に,被告Y2はその取締役に就任した。平成20年12月1日から平成24年9月30日までの間,a社において取締役が選任されることはなかった。(甲28)
(3) 原告は,被告Y3から勧誘され,別紙のとおり,平成24年5月15日から同年10月24日までに7回にわたり,a社が制作する予定のアニメーション映画のDVD及び関連グッズ商品を購入しその販売を同社に委託する旨の本件各契約(以下,7回にわたる本件各契約を順に「本件契約1」などという。)を締結し,合計2900万円をa社に支払った。(甲4~8,10~25)
(4) 本件各契約に係る契約書上,本件契約1及び2は,3Dアニメーション映画「○○」を,本件契約3から7は,アニメーション映画「△△」をそれぞれ対象とするとされていた。(甲5,7,8,11,12,14,15,17,18,20,21,23,24)
(5) 原告は,平成24年11月28日,a社との間において,平成25年7月31日までの間,同社が制作する映画著作物「△△」のプロデューサーを担当し,同社は,原告に対して担当料として月額2万5000円を支払う旨の契約書を取り交わした。(甲30)
(6) 原告は,a社から,本件各契約に関して,平成24年10月1日に20万円,同月2日に100万円,同年12月3日に2万5000円,平成25年1月4日に2万5000円,同月31日に32万円,同年2月1日に2万5000円,同年3月1日に2万5000円,同年4月1日に2万5000円,同月25日に74万1000円,同年5月1日に2万5000円の支払を受けた。
(7) 原告は,a社がアニメーション映画「□□」制作のために設立した訴外b株式会社(以下「b社」という。)との間においても,平成25年1月30日及び同年5月24日に同映画のDVD及び関連グッズ商品を購入しその販売を同社に委託する旨の各契約(以下「別件契約」という。)を締結し,合計150万円を支払った。(甲1)
(8) 「○○」については,平成25年7月15日に完成し,同年11月から劇場で公開された。(弁論の全趣旨)
(9) a社は,東京地方裁判所に破産手続開始の申立てをし,平成26年4月30日,破産手続開始決定を受けた。(甲1)
(10) 原告は,平成26年に東京地方裁判所において,b社及びその代表取締役であった被告Y2に対し,別件契約について,出資が安全な取引であるかのように原告を誤信させたなどと主張し,b社に対しては民法715条に基づき,被告Y2に対しては民法719条又は商法429条1項に基づき,弁護士費用を含む165万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴えを提起した(以下「別件訴訟」という。)。
東京地方裁判所は,平成26年11月20日,別件訴訟について,被告Y3(別件訴訟では被告とされなかった。)は,高齢者(82歳)である原告に対し,それらの法的性質はもとより,関連商品の売上げが伸びなかった場合には,被告Y3が約束するような分配金が支払われず,原告が出資した金額全額を回収できなくなるといった高いリスクを伴う契約である旨を説明することなく,別件契約が元本の保証された出資契約であるかのように誤信させる説明をしたとして被告Y3に不法行為責任が認められると判示し,b社については使用者責任,被告Y2については共同不法行為に基づき,165万円及び遅延損害金の連帯支払を命ずる判決を言い渡した。そして,同判決は,控訴されることなく確定した。(甲1,2)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 被告Y3の不法行為責任
ア 原告の主張
a社は,「営業代行勧誘請負団体」に映画制作の資金調達業務を委ねており,被告Y3は,その構成員であったところ,投資経験の乏しい高齢者である原告に対し,本件各契約がリスクの高い契約であるにもかかわらず,元本の保証された出資契約であるかのように誤信させる説明を行い,原告が老後の資金としていた3000万円の中から合計2900万円もの金員を払わせて回収不能にした。
したがって,被告Y3は,原告に対し,契約締結時の信義則上の義務に違反し,不法行為責任を負う。
イ 被告Y3の主張
被告Y3は,公示送達による呼出しを受けたが,本件口頭弁論に出頭しない。
(2) 被告Y1の責任
ア 原告の主張
(ア) 共同不法行為責任
被告Y1は,平成24年初め頃には被告Y3らによる違法な勧誘の実態を把握していたにもかかわらず,故意又は過失によりこれを放置し,a社の設備等を使わせて漫然と資金調達を行わせたばかりか,a社の事務所内において被告Y3とともに原告と会い,被告Y3が高齢の原告を勧誘していることを認識しながら,自ら契約内容を正確に説明したり,被告Y3に正確な説明を行わせることなく,原告に対して良い作品を作るよう努力するなどと述べて被告Y3の勧誘行為に加担した。
したがって,被告Y1は,被告Y3とともに原告に対して共同不法行為責任を負う。
(イ) 会社法429条1項責任
被告Y1は,a社の代表取締役として業務全般を執行する職務権限を有し,業務の執行の適正を確保する義務を負っていたにもかかわらず,「営業代行勧誘請負団体」による違法な勧誘行為を放置し,自らもこれに加担したものであるから,その職務を行うについて悪意又は重大な過失があったというべきであり,これによって損害を受けた原告に対し,会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
イ 被告Y1の主張
争う。
被告Y3は詐欺師の一味であるが,面識はない。自分も被害者である。
(3) 被告Y2の責任
ア 原告の主張
被告Y2は,a社の取締役として,代表取締役の業務執行を監視監督し,代表取締役である被告Y1の業務執行について取締役会を招集するなどしてその是正を講ずる義務があったが,これを放置したものであり,これによって損害を受けた原告に対し,会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
イ 被告Y2の主張
被告Y2は,平成20年11月30日にa社の取締役を退任していた。被告Y3とは面識がなく,自分も被告Y1に騙された。
(4) 損益相殺
ア 被告Y1の主張
a社は,原告に対し,分配金として「○○」の関係で平成25年1月31日に32万円,同年4月25日に9万6000円の合計41万6000円を,「△△」の関係で平成25年4月25日に64万5000円を支払うなどした。
イ 原告の主張
a社の原告に対する分配金の支払は,被告Y3の言動を原告に信用させて更に出資を行わせ,又は出資の危険性の発覚を回避する手段として行われたものであるから,これを損益相殺の対象として損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されない。
したがって,原告の被告Y1に対する請求額からこれを控除することはできない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記第2の1の前提事実に証拠(甲25,26の1,2,27)及び弁論の全趣旨によると,①被告Y1は,Aという人物を代表とする「営業代行勧誘請負団体」に対し,「営業活動費」として集めた資金の60%を支払うとの条件で映画制作資金の調達を依頼したこと,②被告Y1は,遅くとも平成24年初め頃,取引先銀行や消費者生活センターからa社が高齢者に対して不当な勧誘行為をしていると注意されたこと,③被告Y3は,上記①の団体の構成員であるところ,平成24年5月初め頃,無作為で選んだ原告に電話をかけ,ハイビジョン営業の従業員であると名乗って「○○」制作のための出資を勧誘したこと,④原告は,同月15日,ハイビジョン営業の事務所を訪ね,被告Y3から,年間の収益分配計算表等が記載された「DVD・グッズ販売プレゼン資料」を見せられ,「(出資したお金は)しっかりお返しします。」,「映画の収益,グッズの販売収益を出資の額に基づいて3か月ごとにしっかり受け取って頂きます。」,「銀行の金利よりもお得です。」など説明されて出資を勧められ,分配金が得られないリスクの有無や程度については説明を受けなかったため,元本が保証され銀行預金の利率以上の分配金が得られるものと誤信したこと,⑤原告は,同日,a社に対し,20万円の出資金を支払って本件契約1の締結をし,その後も,被告Y3に勧められるまま,同年10月24日までの間に,老後の資金として貯めていた3000万円の大半に当たる合計2900万円の出資金を支払って本件各契約を締結したこと,⑥原告は,同年8月11日にa社の事務所において500万円を支払って本件契約4の締結をした際に被告Y1及び被告Y2と挨拶を交わし,被告Y1からよい作品を作るように努力すると言われたこと,⑦原告は,同年9月28日にa社の事務所において1200万円を支払って本件契約6の締結をした際にも被告Y1と挨拶を交わしたこと,⑧原告は,本件各契約に関して,平成24年10月1日から平成25年5月1日までに分配金等の名目で合計241万1000円の支払を受けたが,a社が平成26年4月30日に破産手続開始決定を受けたため,支払った出資金の返還を受けることができなくなったことの各事実を認めることができ,同認定を左右するに足りる証拠はない。
2 争点(1)(被告Y3の不法行為責任)について
前記1の認定事実によると,被告Y3は,「営業代行勧誘請負団体」の構成員として,集めた資金の60%は同団体が取得するとの約定の下,被告Y1から依頼されてアニメーション映画制作のための出資を勧誘していたものであり,そのような中,電話での勧誘で興味を示した当時81歳と高齢の原告に対し,年間の収益分配計算表等が記載された「DVD・グッズ販売プレゼン資料」を見せ,「(出資したお金は)しっかりお返しします。」,「映画の収益,グッズの販売収益を出資の額に基づいて3か月ごとにしっかり受け取って頂きます。」,「銀行の金利よりもお得です。」など説明し,関連商品の売上げが伸びなかった場合には被告Y3が説明するような分配金を受け取ることができないばかりか,原告が出資した金額全額を回収することができなくなるといった高いリスクを伴う契約である旨を説明することなく出資を勧め,老後の資金として蓄えていた貯金のほぼ全額を拠出させ,結局,そのほとんどを回収不能にさせたものであることが認められる。そうだとすると,本件各契約を含む出資者との各契約は,集めた資金の60%を被告Y3の所属する団体が取得することを予定していたものであり,早晩,破綻することが避けられないものであったというべきであって,原告が出資した金額が返還される見込みは極めて少ないものであったといわざるを得ず,このことは,被告Y3も十分に認識していたと認めるのが相当である。にもかかわらず,被告Y3は,高齢の原告に対していわば甘言を弄して本件各契約を締結させ,原告に多額の損害を被らせたものであるから,被告Y3のこのような勧誘行為は,違法であり,不法行為に当たるといわざるを得ない。
3 争点(2)(被告Y1の共同不法行為責任)について
前記1の認定事実によると,被告Y1は,「営業代行勧誘請負団体」に対し,「営業活動費」として集めた資金の60%を支払うとの条件で映画制作資金の調達を依頼し,その構成員である被告Y3にa社の従業員を名乗らせて出資の勧誘を行わせていたところ,遅くとも平成24年初め頃には取引先銀行や消費者生活センターからa社が高齢者に対して不当な勧誘行為をしていると注意され,この頃には被告Y3らが行きすぎた勧誘をしていることを認識したものと認めるのが相当である。にもかかわらず,被告Y1は,被告Y3らの勧誘行為を止めさせることなく,これを続けさせ,原告が本件契約4及び6の締結のためにa社の事務所に訪れた際には原告に挨拶をして自らも同契約の締結を勧めたものと認めることができる。
そうだとすると,被告Y1は,被告Y3の違法な勧誘行為を許容しこれに加担していたといわざるを得ず,被告Y3と共に不法行為責任を負うというべきである。
4 争点(3)(被告Y2の責任)について
前記第2の1(2)のとおり,被告Y2は,a社の取締役であり,平成20年11月30日に退任したが,平成20年12月1日から平成24年9月30日までの間,a社において取締役が選任されることはなかったことが認められ,そうすると,退任後も引き続き取締役としての権利義務を有していたというべきである(会社法346条1項)。
そして,被告Y1が「営業代行勧誘請負団体」に対して集めた資金の60%を支払うとの条件で映画制作資金の調達を依頼し,その構成員である被告Y3にa社の従業員を名乗らせ,原告を含め高齢者に対して出資の勧誘を行わせていたことが行きすぎたものであったこと,原告に対する被告Y3の勧誘が違法であり,a社の代表取締役である被告Y1の共同不法行為責任を負うべきことは,前記2及び3のとおりであって,出資者が被った被害は,極めて大きなものであったというべきである。
そうだとすると,a社の取締役である被告Y2としては,被告Y1の業務執行を監督し,取締役会を招集するなどしてその是正を講じるべきであったというべきであり,にもかかわらず,漫然とこれを放置したものであるから,その職務を行うについて少なくとも重大な過失があったといわざるを得ず,原告に生じた損害について会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
5 争点(4)(損益相殺)について
前記第2の1(6)のとおり,原告は,本件各契約に関して,平成24年10月1日から平成25年5月1日までに分配金等の名目で合計241万1000円の支払を受けたことが認められるが,前記2のとおり,本件各契約を含む出資者との契約は,早晩,破綻することが避けられず,原告が出資した金額が返還される見込みは極めて少ないものであったというべきである。そうだとすると,a社の原告に対する分配金の支払は,原告に被告Y3の言動を信用させ,更に出資を行わせ,又は出資の危険性の発覚を回避する手段として行われたものといわざるを得ず,これを損益相殺の対象として損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されない(最高裁平成19年(受)第1146号同20年6月24日第三小法廷判決・集民第228号385号参照)。
したがって,原告の被告Y3及び被告Y1に対する請求額からこれを控除することはできない
6 結論
以上によれば,原告の請求は,いずれも理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 永谷典雄)
〈以下省略〉
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