「営業代行」に関する裁判例(3)平成30年 6月28日 東京高裁 平30(ネ)764号 損害賠償請求控訴事件
「営業代行」に関する裁判例(3)平成30年 6月28日 東京高裁 平30(ネ)764号 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成30年 6月28日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平30(ネ)764号
事件名 損害賠償請求控訴事件
文献番号 2018WLJPCA06286015
東京都千代田区〈以下省略〉
控訴人 Y株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 戸田一成
同 康潤碩
大阪市〈以下省略〉
被控訴人 株式会社X
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 宮澤勇作
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の上記取消しに係る部分の請求を棄却する。
第2 事案の概要(略称は原判決の例による。)
1 本件は,被控訴人が,被控訴人独自の「○○」という名称を付したウェブサイト作成等のサービス提供契約につき,控訴人に顧客の新規開拓等の業務を委託した際,控訴人は競業避止義務を負う旨の合意をしたのに無断で上記名称を商標登録し,自ら当事者となって顧客との間で上記と同様のサービス提供の契約を締結して競業避止義務に反したため,損害を被ったと主張して,控訴人に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求として,損害金456万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年12月30日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を,不法行為に基づく損害賠償請求として,損害金45万6000円(弁護士費用相当額)及びこれに対する控訴人が締結した契約の最初の効力発生日である平成27年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うよう求めた事案である。
原審は,控訴人の競業避止義務違反を認め,被控訴人の請求のうち,その損害として65万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じ,その余の請求を棄却した。
控訴人は,これを不服として控訴をし,被控訴人主張の競業避止義務の合意につき,客観的証拠に欠け,合意が存在する旨の各証言も信用できないとして否認したうえ,仮に競業避止合意があるとしても,控訴人は上記合意に反していない,上記合意は終了している等と重ねて主張した。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁13行目の末尾に改行して以下を加え,14行目の「(5)」を「(6)」に,19行目の「(6)」を「(7)」にそれぞれ改める。
「(5) 控訴人は,平成26年12月中旬,b社との間で,上記(4)の契約とは別に,控訴人名義で本件サービス契約を2アカウント分締結した。(甲8)」
(2) 原判決3頁19行目の「平成27年2月頃」を「平成27年1月」に改め,20行目の「との間で,」の次に「同年2月から開始をする」を加える。
(3) 原判決4頁26行目の末尾に「上記情報成果物作成業務は,ウェブ作成の一般的な業務にすぎず,控訴人が被控訴人が主張する競業避止義務等を負うことはない。」を加える。
(4) 原判決6頁5行目から9行目までを次のとおり改める。
「 本件合意の解約に被控訴人の同意は必要ない。
控訴人代表者B(以下「B」という。)は,平成26年11月頃,被控訴人の担当者C(以下「C」という。)に対し,「私たちはもう勝手にやっていきます」と告げ,もって本件合意は,一方当事者による解約の意思表示により終了した。
なお,被控訴人は「そうですか」などと言って特段の異議を唱えない意思表示をし,明示あるいは黙示の承諾をした。」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の請求は,65万円及びこれに対する平成28年12月30日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。その理由は,以下に補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決6頁19行目の末尾に「本件サービスは,「制作以外の作業・雑務まで対応」,「依頼の指示はアバウトでOK」,「何でも前向きに検討」,「ありそうでなかったサービス」,「月額固定で回数無制限」,「どんな理由でも,やり直し何度でもOK」,「他社では真似できないスタイル」であることを売り文句としたものであった。」を加え,21行目の「○○の事業を拡大するため,」を「平成24年7月頃から,営業代行を業とするf株式会社(以下「f社」という。)に○○の営業代行を委託した。この営業代行業務において,○○に関する契約自体は被控訴人と顧客との間で締結するものとされ,f社が関与することはなかった。f社の取締役であるD(以下「D」という。)は,f社の執行役員と控訴人の代表取締役を兼ねていたBから,控訴人が抱えているインターン生でもできる仕事は何かないだろうかとの相談を受けていたところ,被控訴人(担当者C)から本件サービスの制作を担うスタッフが不足している旨を聞いたことから,CにBを紹介した。被控訴人は,」に,20行目の「C」を「C」にそれぞれ改め,24行目の「甲22【2頁】,」の次に「甲23【1頁】,」を加え,同行目の「D」を「D」に,25行目の「4頁」を「1~4頁」にそれぞれ改める。
(2) 原判決7頁9行目の「平成25年12月頃,」の次に「Dが,被控訴人と控訴人の関係を整理する必要があるとして立ち会い,被控訴人のビジネスがあり,それに乗ったのが控訴人であるというものであるという認識のもと,」を,11行目の「本件合意を」の次に「口頭で」を,同行目末尾に「Dは,本件サービスを,顧客が面倒だと感じている細かい制作作業を代行するというサービスの内容自体がよいものであり,顧客から顧客の課題を引き出すための会話の応酬話法がきっちりと書かれていて,部下に任せても真似をすればできると思われるものである点で評価していた。」を,15行目の「甲23【2頁】,」の次に「乙12【2頁】,」をそれぞれ加え,16行目の「5~7」を「4~8」に改める。
(3) 原判決9頁1行目の「被告から」から3行目の「言われ,」までを「控訴人の従業員から,控訴人と被控訴人との契約関係が終了した,同様のサービスを希望する場合には,控訴人と被控訴人のいずれとも契約を締結してよい旨の電話を受け,」に改め,5行目の「乙5」の次に,「乙12【5頁】,原審における控訴人代表者【11頁】」を加える。
(4) 原判決9頁5行目末尾に改行して以下を加える。
「(11) 被控訴人は,控訴人から,平成27年1月から3月頃にかけて,本件合意に基づいて控訴人が開拓した顧客との本件サービス契約が解約されたとの報告を受け続け,その後,控訴人が新規に顧客を開拓したとの報告は受けておらず,同年8月以降,本件合意に基づく本件サービスの提供はないとの報告を受けた。
(乙4~8,乙12)」
(5) 原判決10頁8行目の末尾に改行して以下を加える。
「 また,控訴人は,本件合意に,控訴人独自に本件サービスの展開をしないことの合意が含まれるのであれば,それは被控訴人の事業活動に重大な影響を与えるものであることから,書面をもって合意されるべきところ,書面は作成されておらず,電子メールを含め,客観的証拠はないから,控訴人はサービスの展開をしないことの合意に基づく義務を負わないと主張する。
しかし,本件合意は,その性質には争いのあるものの,成立したことに争いがなく,本件合意についても書面は作成されていないことからすると,本件合意に含まれるサービスの展開をしないことの合意について,書面等が作成されていなくとも,不自然不合理ということはできず,控訴人の上記主張は採用できない。
さらに,控訴人は,被控訴人の主張及び原審における証人D及び同Cの各証言から競業避止義務が認定されるのであれば,その内実は「被控訴人から教示されたノウハウを使い,かつ独自に○○と同一内容の取引を行うことを禁止する」というものであり,そのノウハウの具体的内容は,「アポをとる際の電話の内容,パンフレット,制作事例,トーク内容の台本」である。控訴人は被控訴人から教示されたノウハウを使っておらず,違反の事実はないと主張する。
確かに,D及びCの各証言には,営業のマニュアル(営業トークの台本),制作事例といった被控訴人が開発したノウハウに重きを置いた部分がある。
しかしながら,Cは,原審における証言の中で,「基本的には月額無制限でということに関しては禁止しています。それが同様の内容です。」と禁止される同一内容の取引に該当するか否かを区別するものとして,月額無制限を挙げている(19頁)。
この原審における証人Cの証言は,被控訴人従業員の立場にある者として,被控訴人が控訴人に対し,控訴人が独自に本件サービスの展開をしないことの合意を求めた理由に合致するものであって,自然かつ合理的である。すなわち,本件合意は,被控訴人が本件サービスを顧客に提供する事業において,控訴人に対してサービス提供に加えて,営業業務を委託するというもので,委託後は,被控訴人は,顧客との間で契約締結の名義人にはなるものの,顧客との接点が代金の請求の場面(乙12【3頁】)程度となるものであるから,控訴人に対し,被控訴人の創作した「○○」という名称を用い,被控訴人が考案した本件サービスのセールスポイントである月額回数無制限で制作以外の作業・雑務にも対応する等の本件サービスの独自展開を禁止しておかないと,控訴人が顧客と直接契約を締結して被控訴人が顧客との契約から外されてしまい,被控訴人の生み出し集積してきたものが奪われる危険があるからである。
そうすると,「被控訴人から教示されたノウハウを使い,かつ独自に○○と同一内容の取引を行うことを禁止する」だけの合意をしたとの控訴人の主張は採用できない。」
(6) 原判決12頁14行目の末尾に「控訴人は,一方当事者である控訴人のみの解約の意思表示で本件合意は解消したと主張するが,その法的根拠は不明であり,一方当事者による解約の意思表示により本件合意が解消され,控訴人が本件競業避止義務を免れる理由はない。他に,本件競業避止義務が終了したと認め得る主張立証はない。」を加える。
2 以上のとおり,被控訴人の請求は65万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから棄却するのが相当であるから,これと同趣旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第21民事部
(裁判長裁判官 中西茂 裁判官 原道子 裁判官 大嶋洋志)
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