
「営業代行」に関する裁判例(29)平成22年 3月 1日 東京地裁 平21(ワ)25605号 損害賠償請求事件
「営業代行」に関する裁判例(29)平成22年 3月 1日 東京地裁 平21(ワ)25605号 損害賠償請求事件
要旨
◆税理士である原告が、インターネットを利用した各種情報提供サービス等を業務とする被告との間で、原告への顧問先の紹介や被告サイトへの登録等に関する契約を締結したが、被告の紹介した企業はごく少数である上、名称が違ったり連絡が取れなかったりするなどして、いずれも顧問契約の締結にまでは至らなかったことから、主位的に債務不履行(不完全履行)による損害賠償として支払済みの契約金額相当額の支払を、予備的に合意解除による報酬の一部返還を求めた事案において、被告に不完全履行はないとして主位的請求は排斥したが、未掲載分の返金等を約する合意解除については認められるとして予備的請求を認容した事例
参照条文
民法415条
裁判年月日 平成22年 3月 1日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)25605号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2010WLJPCA03018001
東京都北区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 木村峻郎
同 中村篤司
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 株式会社イー・クラシス
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 鈴木康之
同 榊山彩子
主文
1 被告は,原告に対し,178万5000円及びこれに対する平成21年8月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
請求額元本を315万円とする外は,主文1項同旨
第2 事案の概要
本件は,被告との間の契約を,主位的には債務不履行により解除したとして債務不履行に基づく損害賠償315万円の支払,予備的には合意解除したとして報酬の一部178万5000円の返還及びこれらに対する訴状送達日の翌日である平成21年8月28日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに弁論の全趣旨及び括弧内に掲げた証拠によって容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,a税理士事務所を経営する税理士である。
イ 被告は,インターネットを利用した各種情報提供サービス,インターネット広告の企画立案,制作,仲介,斡旋及び運営業務等を目的とする株式会社である。
(2) 契約等
原告は,被告との間で,平成20年3月11日,次の内容を含む「フィデリ税理士検索・特別プラン契約」(以下「本件契約」という。)を締結するとともに,報酬として315万円を支払った(甲2)。
ア 被告は,本件契約に基づき次の業務を行う(2条2項)。
(ア) 被告の運営するビジネスポータルサイト「フィデリ」(以下「本件サイト」という。)の会員への原告の登録
(イ) 原告に関する情報の上記サイト内のサービス「フィデリ税理士検索」(以下「本件サービス」という。)への掲載その他関係規約に定める役務の提供
(ウ) 原告と顧問契約を締結しようとする者(以下「見込客」という。)の被告に対する本件サービスへの掲載による紹介
(エ) 契約期間内における原告への継続的な見込客の紹介
(オ) その他本件契約に定める業務
イ 被告は,上記被告の業務により締結された契約の初年度総顧問料の累計額が200万円以上となることを保証する(3条1項)。
本件契約が終了する場合において,被告が上記保証を達成できなかったときは,事項により返還が行われることがあるほかは,原告が被告に対して損害賠償請求等をすることはできないものとする(3条3項)。
本件契約が終了した場合において,被告が上記保証を達成できなかったときは,被告は,原告から既に支払われた営業代行費用のうち,紹介累計額200万円に満たない残額に対応する部分の金額を,原告に対して返金するものとする。ただし,11条2項に基づいて,本件契約が解除された場合は,この限りではない。
ウ 原告は,被告に対し,本件業務追行の対価として,次の報酬(いずれも,消費税等相当額別)を支払うものとする(4条)。
(ア) 初期費用 90万円
(イ) 掲載費用 6か月間分合計60万円
(ウ) 営業代行費用 紹介累計額200万円に対し,150万円となる割合により計算し,紹介累計額が200万円を超えたときは,当該超過部分に係る分は無償とする。
エ 契約期間は,6か月とし,延長又は更新しない(10条)。
オ 原告は,被告が本件契約の重要な義務に違反した場合には,直ちに,本件契約を将来に向かって解除することができる。その場合には,掲載費用と営業代行費用については,全契約期間に占める契約解除日から当初契約の契約満了日までの割合分は被告から原告に返金するものとする(11条2項)。
(3) 成果
被告が新規顧客として原告に紹介した者は,7社にとどまり,しかも,「紹介相手の住所や会社名が異なる」,「紹介相手と連絡が取れない」,「面談予定を先方の都合で一方的にキャンセルされる」などの事由から,原告は,本件契約に基づく新規顧客を1件も獲得できなかった。
(4) 解除
原告は,被告に対し,平成20年7月31日までに,同日限り,本件契約を解除するとの意思表示をした。
2 争点
(1) 本件契約の合意内容
(原告の主張)
被告は,本件契約の締結に際し,原告に対し,「平成20年2月度。全国10事務所限定。会計士事務所営業支援パッケージ」と題し,被告が本件契約の相手方となる税理士事務所に対し,「1か月当たり10社」の顧客を紹介する旨の記載のある書面及び「見込客ご紹介スケジュール(営業計画書)」と題し,成約数を15パーセント以下と設定した場合でも,本件契約の相手方となる税理士事務所に対して,被告が最低50社の顧客を紹介し,最低7社の新規顧客とさせる旨を記載した書面を交付したから,被告は,原告に対し,半年間で最低でも50社の新規顧客を紹介し,最低7社の新規顧客と成約させることを約した。
なお,原告は,被告の債務不履行を理由として,本件契約11条2項により解除したから,原告が損害賠償を求める得る範囲は,本件契約3条3項及び4項の範囲に限定されない。
(被告の主張)
否認する。
原告と被告は,本件契約において,前記(2)イのとおり合意した。
したがって,本件において被告が原告に返還すべきは,報酬として受領した300万円から,初期費用90万円及び6か月分の掲載費用60万円を除外した150万円(いずれも消費税等相当額別。ただし,将来発生する営業代行費用に充てるために預り金として処理していた分)に限られる。
(2) 合意解除
(原告の主張)
原告は,被告に対し,平成20年7月29日頃,同月末日限り,本件契約を解除するとの申し入れを行い,被告は,これを承諾して,同年8月以降,本件サービスへの原告の掲載を中止するとともに,見込客の原告に対する紹介を取り止めた。
(被告の主張)
否認する。
(3) 原告の損害
(原告の主張)
原告は,被告による本件契約の不履行(不完全履行)により,被告に支払った報酬額315万円と同額の損害を被った。
(被告の主張)
争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件契約の合意内容)について
(1) 被告が,本件契約に基づく被告の業務により締結された契約の初年度総顧問料の累計額が200万円以上となることを保証したことは,前提事実(2)イにみたとおりである。
(2) また,証拠(甲2ないし甲4)及び弁論の全趣旨によれば,本件契約において,被告の業務内容とされたのは,前提事実(2)アの事項であること,被告が原告に本件契約締結に際し交付した「平成20年2月度。全国10事務所限定。会計士事務所営業支援パッケージ」と題する書面には,被告が本件契約の相手方となる税理士事務所に対し,「1か月当たり10社」の顧客を紹介する旨の記載がある一方で,保証との記載があるのは,成約売上を200万円とした部分に限られること,また,「見込客ご紹介スケジュール(営業計画書)」と題する書面には,計画書との記載とともに紹介の目安である旨の記載もあることが認められる。
(3) そして,上記(1)及び(2)の事実に加え,一般に紹介によって契約を得られるか否かは,そもそも不確実な事象であることを考え合わせると,被告が本件契約上負う債務は,前提事実(2)ア所定の事項であって,原告が本件契約の初年度総顧問料の累計額200万円以上を得られることや一定数の見込客の紹介や新規顧客を獲得できることまでを含むものではない一方,契約当事者は,原告の得られる顧問料が上記金額に満たない場合には,その一部を返金すべきものすることによって,対価関係の調整を図ることの合意をしたものと解される。
(4) そうすると,被告の行った紹介行為が前提事実(3)の程度にとどまったことは,いわば結果論であり,紹介行為が皆無であったものではなく,上記事実をもって,被告に債務不履行(不完全履行)があったとは認められない。
2 争点(2)(合意解除)について
証拠(甲5,甲6)及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告は,被告に対し,平成20年7月29日ころ,本件契約を解除する旨の意思表示をしたこと,他方,被告は,平成20年4月から同年7月までは,本件サービスへの掲載を行ったが,残る2か月については未掲載としたこと,被告代理人は,同年12月18日頃,未掲載分の掲載費用2か月分21万円を含む178万5000円を返金する等の提案をしたことが認められる。
したがって,被告は,原告がした解除の申し出に対し,同年7月末日限りをもって,本件サービスへの掲載を取り止めるなどして,原告の申し出を受け入れたとの事実が認められるから,本件契約は,同日限りをもって,原告と被告の合意によって解約されたことになる。
3 結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,営業代行費用157万5000円(消費税等相当額込み。以下,同じ。)及び未掲載分の掲載費用2か月分21万円の合計178万5000円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成21年8月28日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
よって,原告の請求を上記理由のある限度で認容し,訴訟費用の負担について民訴法61条,64条1項本文の,仮執行宣言について同法259条1項の各規定を適用して,主文のとおり判決する。
なお,仮執行免脱宣言の申立ては相当でないから,却下する。
(裁判官 松井英隆)
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