「営業支援」に関する裁判例(82)平成23年11月10日 東京地裁 平22(ワ)18220号 運送代金等請求事件
「営業支援」に関する裁判例(82)平成23年11月10日 東京地裁 平22(ワ)18220号 運送代金等請求事件
裁判年月日 平成23年11月10日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)18220号
事件名 運送代金等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA11108013
要旨
◆原告が、被告に対し、被告との間の物品運送契約に基づく運送代金及び出荷品や伝票整理作業の業務委託に基づく業務委託料等の支払を求めたところ、被告が、本件運送代金及び業務委託料請求権に対する一部弁済並びに原告に対する倉庫使用料、代引き配送により回収した代金の引渡し及びコンサルティング料等の未払反対債権を有することを理由に両債権の相殺を主張してこれを争った事案において、倉庫使用料についてのみ被告の主張を認め、被告の原告に対する本件倉庫使用料請求債権と原告の被告に対する本件訴求債権との相殺後の残額の範囲で、請求を一部認容した事例
参照条文
商法512条
民法505条
民法643条
民法656条
裁判年月日 平成23年11月10日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)18220号
事件名 運送代金等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA11108013
横浜市〈以下省略〉
原告 株式会社ティエスケイライン
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 加藤豊三
同 松本大
東京都港区〈以下省略〉
被告 株式会社フィディック
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 坂本昌史
同 佐々木博英
同訴訟復代理人弁護士 渡辺志穂
主文
1 被告は,原告に対し,3239万4019円及びこれに対する平成22年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを30分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,3348万9091円及びこれに対する平成22年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告に対し,被告との間の物品運送契約に基づく運送代金及び出荷品や伝票の整理作業の業務委託に基づく業務委託料並びに遅延損害金の支払を求めた事案である。被告は,上記運送代金及び業務委託料請求債権に対する一部弁済並びに原告に対する倉庫使用料,代引き配送により回収した代金の引渡し及びコンサルティング料等の未払反対債権を有することを理由に両債権の相殺を主張してこれを争っている。
2 前提となる事実
(1) 原告は,一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,被告は貨物運送業等を目的とする株式会社である(争いのない事実)。
(2) 原告と被告は,平成21年9月1日ないし平成22年2月末日までの間,別紙1「債権一覧表」番号1ないし20欄記載のとおりの内容,金額及び支払期限の約定で,被告が物品の運送業務を発注し,原告はこれを受注するとの運送契約を締結し,原告はこれを履行した(争いのない事実)。
(3) 原告は,被告からの委託を受け,平成21年12月,同「債権一覧表」番号21欄記載のとおりの内容,金額及び支払期限の約定で,出荷品や伝票の整理作業を行った(争いのない事実,以下,これと上記(2)により発生した原告の債権を併せて「本件運送代金等請求債権」という。)。
(4) 原告と被告は,月額38万8500円との約定で,原告が被告の倉庫を使用する旨の契約を締結し,原告は,平成21年11月から平成22年1月までの間,同契約に基づき,同倉庫を使用した(争いのない事実)。
(5) 被告は,原告に対し,平成22年4月28日及び本件口頭弁論期日において,被告の原告に対する債権(上記(4)の倉庫使用料債権並びに後記代引き配送にかかる回収代金の支払債権及びコンサルティング料債権(ないし商法512条に基づく報酬請求債権)を自働債権とし,被告の本件運送代金等請求債権(3348万9091円)を受働債権として,これらを対当額で相殺するとの意思表示をした(甲7,顕著な事実,弁論の全趣旨)。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 一部弁済
(被告の主張)
被告は,原告に対し,平成22年2月1日,本件運送代金等請求債権(3348万9091円)の一部として,200万円を弁済した。
(原告の主張)
被告の主張事実は否認する。
(2) 相殺の有効性1(商品代引き配送業務委託契約の有無)
(被告の主張)
被告は,原告に対し,商品代引き配送業務を委託し,平成21年5月から平成22年3月までの間,別紙2「TRC代引き照合表」記載の業務を行ったが,これにより,配送先である顧客から商品代金合計210万5548円を回収したにもかかわらず,これを未だ被告に引き渡していない。したがって,被告は,原告に対し,上記業務委託契約に基づく上記商品代金の支払義務を負うというべきである。
(原告の主張)
被告の主張事実は否認する。原告は,被告から商品代引き配送業務を受託していない。
(3) 相殺の有効性2(コンサルティング契約締結の有無等)
(被告の主張)
被告と原告は,平成20年8月ころ,原告から依頼されて,月額報酬150万円(消費税別)との約定で,被告が原告の経営改善のためのコンサルティングを行う旨の契約(以下「本件コンサルティング契約」という。)を締結し,被告は,同契約に基づき,平成20年9月から平成22年2月までの間,人件費や原告事務所の経費削減,自己所有車両による業務の推進等原告事業の改善についての助言を行うとともに,顧客の紹介等の営業支援を行った。その結果,原告の売上は飛躍的に向上し,コンサルティング契約期間中の原告の売上高は1億6214万4852円にまで上った。よって,原告は,被告に対し,上記18か月間のコンサルティング料として,合計2700万円(消費税込み2835万円)の支払義務を負うというべきである。
仮に,本件コンサルティング契約締結の事実が認められないとしても,被告は,物流コンサルタントを業としている株式会社であり,上記コンサルティング業務は,その営業の範囲で原告のために行ったものというべきであるから,商法512条の規定に基づき相当な報酬を請求できるはすである。そして,かかる相当な報酬の額は,上記売上高の2割分(3133万848円)が相当である。
(原告の主張)
被告の主張事実は否認する。被告とコンサルティング契約を締結したとすれば,それは原告ではなく,原告代表者個人である。なお,被告が,実際に原告の業務に対する助言等を行ったのは,当初1か月位のことに過ぎず,また,原告代表者は,被告に対し,コンサルティング料として,平成20年9月から平成21年12月までの間,毎月50万円を支払っているから,もはや被告の相当な報酬請求権は存在しないというべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
上記のとおり,被告は,平成22年2月1日,本件運送代金等請求債権の一部として,200万円を弁済した旨主張し,被告代表者もこれに沿う供述をする(乙8,被告代表者本人)。しかし,原告代表者は,かかる事実はない旨供述するほか(甲8,原告代表者本人),他に領収書等被告の主張を裏付ける客観的な証拠も見当たらないことからすれば,被告の上記主張を採用することはできない。
2 争点(2)について
被告は,原告に委託した商品代引き配送業務において,原告が配送先である顧客から回収した商品代金合計210万5548円が未だ被告に引き渡されていないと主張し,その根拠として,別紙2「TRC代引き照合表」の元データを作成したのは原告の従業員Cであったことを挙げる。しかし,同人がこれを作成したことを示す証拠はない上,そもそも同データが作成されたとされる当時,同人は,被告事務所に常駐していたというのであるから(争いのない事実),仮に同データを作成したのが同人であったとしても,実際に代引き配送業務を行ったのが,被告であるか,原告であるか,あるいはそれ以外の第三者であるのかの特定は困難である(被告代表者本人の供述及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告以外の業者に対しても業務を委託していた事実が認められる。)。そうすると,原告が上記商品代金を受領していたとの事実は認め難いといわざるを得ないから,被告の上記主張を採用することはできない。
3 争点(3)について
上記のとおり,被告は,平成20年8月ころ,原告から依頼されて,本件コンサルティング契約を締結した旨主張する。この点,原告代表者も,同月ころ,被告の本社事務所において,被告代表者と話をした際,原告の事業に関して助言してもらうことを依頼した事実自体は認めている(甲8,原告代表者本人)。
しかし,本件コンサルティング契約について,契約書等の書面は作成されていないばかりか(争いのない事実),これまで被告から原告に対し報酬の請求書類が交付された形跡もなく,原告の決算書上,これが計上されていたとの事実も認められない(D証人)。
これに対し,被告は,本件コンサルティング契約の報酬については,契約当初の原告の財務状態から見て直ちにその支払を求めることは現実的でなかったし,そのころ,原告代表者と被告代表者の間で,将来被告が原告を買い取るとの話が出ていたから,その売買時に未払報酬を精算するとの合意が原被告間にあった旨主張し,被告代表者もこれに沿う供述をする(乙8,被告代表者本人)。しかし,そうだとすると,その後,被告の営業支援等により,原告の売上高は飛躍的に向上したというのにもかかわらず(乙6,被告代表者本人,弁論の全趣旨),また,平成21年夏ころから被告の財務状態は悪化していた(原告代表者本人,被告代表者本人)というのに,この時点で,未払のコンサルティング報酬を原告に請求していないのは不可解というほかはない上,被告は,平成22年3月12日,原告から本件運送代金等請求債権の支払を請求する内容証明郵便を送付された後,本件コンサルティング契約にかかる被告の報酬について何ら留保することなく,同月23日付けで本件運送代金等請求債権全額を分割で支払う旨の返済計画書を原告に提出していること(甲1,2の1,2の2,3ないし5)などの事実関係に照らすと,被告代表者の上記供述はたやすく信用することができないというべきである。
そうすると,本件コンサルティング契約の主体は,原告ではなく,原告代表者であると認めるのが相当であるから,本件コンサルティング契約が原被告間で締結されたとの被告の主張を採用することはできない。
なお,被告は,原被告間に本件コンサルティング契約が成立していないとしても,原告からの委託を受けて,平成20年9月から平成22年2月までの間,原告のために人件費や原告事務所の経費削減等についての助言を行うとともに,顧客の紹介等の営業支援を行ったと主張して,商法512条に基づき相当報酬額の支払を求めている。この点,被告ないし被告代表者が,平成20年8月ないし9月中の約1か月間にわたり,原告代表者に対し,人件費や原告事務所の経費削減等についての助言を行ったこと及び同年9月以降,原告に対して,被告が受注した運送業務の一部を下請けとして運送業務を委託した事実が認められるけれども(甲8,原告代表者本人),上記説示のとおり,これは,原告代表者との間の契約に基づき,被告ないし被告代表者が行ったものと認められることに加え,これについては,原告代表者が,上記助言及び運送業務委託の報酬(ないし謝礼)として月額50万円を,平成20年9月から平成21年12月まで毎月,被告代表者に支払っていた事実が認められる(甲8,原告代表者本人,なお,被告代表者本人は,かかる事実の存在を否定するが,原告代表者と被告代表者の間で,将来被告が原告を買い取る際に未払の報酬を精算するとの合意があった旨の被告代表者本人の供述の信用性に照らすと,この点に関する同人の供述も信用できない。)から,相当報酬額の支払を求める被告の上記主張も採用することは困難である。
4 相殺おける充当関係について
以上によれば,被告の相殺の抗弁は,上記第2の2(4)記載の倉庫使用料請求債権合計116万5500円を自働債権とし,本件運送代金等請求債権を受働債権として対当額で相殺する限度で理由があるというべきところ,この倉庫使用料請求債権については,うち38万8500円につき平成21年12月31日,うち38万8500円につき平成22年2月1日,うち38万8500円につき同年3月1日,それぞれ弁済期が到来するものと認められ(乙1の1ないし1の3),この時点で相殺適状になっているから,民法489条,491条1項の規定に従い,別紙3「計算書」記載のとおり,本件運送代金等請求債権のうち上記倉庫使用料請求債権の各弁済期よりも弁済期が早く到来する債権(別紙1「債権一覧表」番号1,2,5.6.9ないし11,14,15,18ないし21記載の各債権)の遅延損害金(7万428円),元金の順にこれを充当すると,最終的な相殺後の本件運送代金等請求債権の残元金は,3239万4019円となる。
5 結論
結局,原告の本訴請求は,3239万4019円及びこれに対する弁済期の後の日である平成22年5月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,この範囲で認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 本多哲哉)
〈以下省略〉
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