「営業支援」に関する裁判例(68)平成25年 3月19日 東京地裁 平24(ワ)16836号 損害賠償請求事件
「営業支援」に関する裁判例(68)平成25年 3月19日 東京地裁 平24(ワ)16836号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成25年 3月19日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)16836号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2013WLJPCA03196004
要旨
【先物取引被害全国研究会(要旨)】
◆1.本件は、商品CFD取引と称する差金決済取引が、賭博に該当し、詐欺であり、公序良俗に反して違法であるとして、被告会社及びその代表者・従業員に対し共同不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。
◆2.原告は昭10年生まれの女性であり、株式取引や金取引の経験あり。
◆3.本件取引における金の現物価格及びドルの為替レートは、被告会社や顧客には予見・支配できず、本件取引は偶然の事情により利益の得喪を争うもので賭博に該当し、公序良俗に反するとした。
また、商品CFD取引の実体があったとは認めがたいとして、詐欺を認定した。
更に、本件取引は原告と被告が常に利益相反関係になること、本件取引について被告会社が何らリスクヘッジしていないこと、被告会社に資金的な裏付けのないことなど、本件取引はきわめてリスクの高い取引であり、その説明不足と相まって本件取引は違法であるとして、被告らに共同不法行為の成立を認めた。
出典
先物取引裁判例集 68号337頁
裁判年月日 平成25年 3月19日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)16836号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2013WLJPCA03196004
群馬県〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 荒井哲朗
東京都新宿区〈以下省略〉
(送達場所)東京都新宿区〈以下省略〉
被告 株式会社フロンティア・エッジ
同代表者代表取締役 Y1
東京都〈以下省略〉
被告 Y1
埼玉県〈以下省略〉
被告 Y2
横浜市〈以下省略〉
被告 Y3
東京都〈以下省略〉
被告 Y4
被告ら訴訟代理人弁護士 岩井昇二
主文
1 被告らは,原告に対し,連帯して1146万9978円及びこれに対する平成24年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告らの負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告株式会社フロンティア・エッジ(以下「被告会社」という。)の従業員である被告Y3(以下「被告Y3」という。)及び被告Y4(以下「被告Y4」という。)から,商品CFD取引と称する差金決済取引を勧誘され,被告会社との間で上記差金決済取引を行ったが,この差金取引が賭博に該当し,詐欺でもあって,公序良俗に反して違法性を有すると主張し,共同不法行為,使用者責任又は会社法429条1項に基づき,被告らに対し,連帯して,原告が交付した取引証拠金及び弁護士費用相当額の合計1146万9978円及びこれに対する不法行為後であり,催告後である平成24年9月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実
(1)ア 原告は,昭和10年○月○日生まれの女性である。
イ 被告会社は,ファンド・アライアンス(ベンチャー企業等の営業支援)・コモディティ(CFD取引受託取次)・コンサルティングを主とした投資アドバイザリー等を目的とする株式会社である。
被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,被告会社の代表取締役である。
被告Y2(以下「被告Y2」という。)は,被告会社の取締役である。
被告Y3及び被告Y4は,被告会社の従業員である。
(2) 原告は,平成22年11月19日,被告Y4から,被告会社との間で商品CFD取引と称する取引(以下「本件取引」という。)を行うことを勧誘され,そのころ,被告会社との間で,本件取引のための取引口座を開設することを合意した。
(3) 原告は,被告会社に対し,本件取引の取引証拠金として,次のとおり,各日時に各被告らから勧誘を受けて,交付または送金して合計1073万1000円を預託した(甲2の1から2の8まで)。
ア 平成22年11月19日
被告Y3から勧誘されて,同被告に64万2000円を交付した。
イ 平成22年11月24日
被告Y3から勧誘されて,被告会社に128万4000円を送金した。
ウ 平成22年12月1日
被告Y3から勧誘されて,被告会社に128万4000円を送金した。
エ 平成22年12月8日
被告Y3から勧誘されて,被告会社に449万4000円を送金した。
オ 平成23年1月19日
被告Y3から勧誘されて,同被告に50万円を交付した。
カ 平成23年1月20日
被告Y3から勧誘されて,被告会社に100万円を送金した。
キ 平成23年1月27日
被告Y3から勧誘されて,被告会社に32万7000円を送金した。
ク 平成23年8月9日
被告Y4から勧誘されて,被告会社に120万円を送金した。
(4) 原告は,平成24年3月ころ,被告会社に対して,本件取引の手仕舞いを求めた。
被告会社は,同年4月3日付けの残高照合通知書で,原告に対し,本件取引にかかる預り現金残高が,611万1022円であることを通知した。(甲5)
(5) 被告会社は,原告に対し,上記(4)の預り金の返還として,平成24年4月27日に11万1022円,同年5月29日に10万円,同年7月2日に10万円を支払ったが,その余の返還をしていない。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 被告Y3及び被告Y4が本件取引を勧誘し,被告会社が本件取引をしたことについて不法行為が成立するか。
(原告の主張)
ア 本件取引は,一般に「ロコ・ロンドン貴金属まがい取引」と称される取引であり,賭博に該当し,詐欺でもあって,公序良俗に反して違法性を有する。
イ 本件取引は,ロンドン渡しの金現物100トロイオンスを1取引単位,ロンドン渡しの金の現物価格及びドル円為替変動を差金決済指標とする差金決済取引であり,顧客は,最低取引単位あたり60万円の証拠金を支払って,ロンドン渡しの金を売買したのと同様の差金決済を行う地位を取得し,任意の時点で当該地位(ポジション)と反対の取引をすることによって生じる観念上の差損益について差金の授受を行うものとされている。
しかし,本件取引は,顧客と被告会社との間の相対取引であって,ロンドン渡しの金現物価格及びドル円為替相場という偶然の事情によって利益の得喪を争うという賭博に該当する取引である。しかも,ロンドン渡しの金現物価格及びドル円為替相場については,取引の相手方である被告会社が任意に決定することとされているのであり,本件取引が相対取引で,当事者間の利害が鋭く対立することを考慮すれば,「いかさま賭博」,「詐欺賭博」とでもいうほかない公序良俗に著しく反する詐欺的な取引ということができる。
ウ 被告Y3及び被告Y4が,原告に対し,このような違法な本件取引を勧誘し,取引証拠金と称して金銭を預託させたことは不法行為にあたる。
また,被告会社は,被告Y3及び被告Y4の使用者であるから,使用者責任を負い,被告Y1及び被告Y2は,被告会社の代表取締役及び取締役であり,被告会社が適法に営業を行うように業務執行を行うべきであったのに,悪意又は重大な過失によりこれを怠ったのであるから,会社法429条1項の責任を負う。
さらに,被告らは,金融商品取引に藉口して,業として金銭を騙取するために被告会社を設立した上,共同して原告に本件取引を勧誘し,金銭を交付させたのであるから,共同不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
ア 本件取引は,賭博,詐欺にあたらないし,公序良俗にも反しない。
イ 原告は,過去に多くの株式取引や金取引を行ってきたベテラン投資家であり,被告会社から交付された資料や被告会社従業員の説明によって,内容を十分に理解した上で本件取引を行ったのであるから,被告らに不法行為は成立しないし,会社法429条に基づく責任を負わない。
(2) 原告と被告会社との間で,和解が成立したか。
(被告らの主張)
原告は,被告会社との間で,次のとおり和解し(以下「本件和解」という。),被告会社は,本件和解に基づき,分割金の支払をしている。
ア 被告会社は,原告に対し,本件取引の清算金611万1022円の支払義務があることを認める。
イ 被告会社は,原告に対し,本件取引の清算金の一部として11万1022円を支払う。
ウ 被告会社は,原告に対し,上記アの金員を分割して,平成24年6月から平成29年5月まで,毎月25日限り10万円を支払う。
(原告の主張)
原告と被告会社との間で本件和解は成立していない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1)ア 原告は,本件取引について差金決済を内容とする相対取引であると主張するところ,被告らは,本件取引の内容を明確に主張しない。また,前提となる事実に加え,証拠(甲2,4,5,6,乙1,2,3(枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,被告会社は,商品CFD取引の取引証拠金として預り証を発行していること,被告会社が原告に発行した「預り現金及び売買報告書」には商品として「スポット金」と記載され,成立日,売買の別,区分,枚数,成立値段,仕切情報として日付,枚数,成立値段,為替レート,売買差金,SW金利,差引損益金等の項目が記載されていること等が認められる。
そうすると,原告の主張するとおり,本件取引は,ロンドン渡しの金現物100トロイオンス(1トロイオンス=31.1035グラム)を1取引単位として,最低取引単位あたり60万円の証拠金を支払ってロンドン渡しの金を売買したと同様の地位を取得し,任意の時点で当該地位と反対の取引をすることによって生ずる観念上の差損金について差金の授受を行う旨の差金決済取引であり,被告会社が提示するロンドン渡しの金の現物価格及びドル円為替変動を差金決済指標とする差金決済契約であると認めることが相当である。さらに,差金決済指標となるロンドン渡しの金の現物価格は,被告会社が任意に設定し,ドルの為替レートも被告会社が任意に設定するものとされている。なお,本件取引は相対取引であり,原告と被告が常に利益相反関係にあること,被告会社は本件取引に関してカバー取引を行うなどのリスクヘッジ措置を講じていないこと,被告会社は,金融商品取引に関する許可,登録を受けておらず,相対取引によって生ずる損害(顧客の利益)を担保するに足る財務状況を備えていないこと等も認められる。
このように,本件取引における売買差金の額は,顧客が買った(又は売った)ロンドン渡しの金の現物価格についてドルの為替レートによって換算した額と,顧客がその後に売った(又は買った)ロンドン渡しの金の現物価格についてドルの為替レートによって換算した額との差額によって算出されるところ,上記のロンドン渡しの金の現物価格も上記のドルの為替レートも,被告会社と顧客には予見することができず,その意思によって自由に支配することもできないから,本件取引は,偶然の事情によって利益の得喪を争うものであって,賭博に該当し,公序良俗に反するというべきである。また,本件で被告らは,原告を含む顧客から預託された取引証拠金について,被告会社がどのように運用していたかを全く明らかにしておらず,被告会社が自認する預託金の残高すら原告に返金していないことからすれば,被告会社が自称する商品CFD取引の実体があったとは容易に認めがたいのであり,実体のない本件取引を顧客に勧誘することが原告に対する詐欺に当たることは明らかである。さらに,上記のとおり,本件取引は,相対取引であって原告と被告会社が常に利益相反関係にあること,差金決済指標となるロンドン渡しの金の現物価格やドルの為替レートも被告会社が任意に設定できること,被告会社が本件取引について何らのリスクヘッジ措置を講じていないこと,被告会社に資金的な裏付けがなく,相対取引によって生ずる損害について担保がないこと等からすれば,本件取引は,顧客にとって極めて大きな危険を伴う取引であったというべきであり,被告会社としては,本件取引を勧誘する際,顧客に対し,上記のような本件取引の内容を十分に説明すべきであったところ,被告会社は,原告に対し十分な説明を行わずに勧誘し,本件取引を行っていると認められるのであるから,本件取引が賭博や詐欺に該当するかどうかにかかわらず,本件取引は違法なものであるというべきである。
イ これに対し,被告らは,本件取引について,いわゆる「ロコ・ロンドン貴金属まがい取引」ではないと主張する。
しかし,上記のとおり,被告らは,本件取引の運営者であり,本件取引の内容と実体を客観的資料に基づいて容易に説明できる立場にあるにもかかわらず,本件取引の実体について何ら明らかにしないのであるから,上記認定を左右するものではない
(2) 以上のとおり,本件取引は違法な取引であるところ,被告Y3及び被告Y4は,本件取引が違法な取引であることを知りながら,被告会社の業務として原告に本件取引を勧誘して金銭を交付させたというべきであり,また,被告会社の代表取締役及び取締役である被告Y1及び被告Y2も,本件取引が違法であることを知りながら,被告会社の役員として本件取引を行ったということができ,被告会社は,その営業活動として,原告に本件取引を勧誘し,金銭を交付させて,違法に本件取引を行ったということができる。
したがって,被告らは,共同して,原告に本件取引を勧誘し,原告に金銭を交付させて,本件取引を行ったということができるから,被告らには共同不法行為が成立すると認めるのが相当である。
(3) 原告は,本件取引について,被告会社に対し,取引証拠金名目で合計1073万1000円を交付し,このうち1041万9978円の損害が生じている旨主張しており,原告には同額の損害が生じていると認められる。
また,本件事案の概要,本件取引による損害額等本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告らによる上記の違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,105万円と認めるのが相当である。
(4) したがって,原告は被告らに対し,不法行為に基づき,連帯して1146万9978円及びこれに対する不法行為後又は催告後の平成24年9月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
2 争点(2)について
(1) 被告らは,原告と被告会社との間で本件和解が成立したと主張し,乙4(「和解契約書」と題する書面)を提出し,被告会社は原告に対し預託金の一部を返還している。
(2) しかしながら,乙4には,原告の署名押印がなく,日付けすら記載されていないことから,原告が和解の意思表示をしたとは到底認められないし,また,被告会社が原告に対し預託金の一部を返還しても,解約に伴う当然の措置であって,本件和解が成立したと認めるに足りる事情ということはできない。
したがって,被告会社の主張は認められない。
3 結論
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 齋藤清文 裁判官 西村修 裁判官 木村太郎)
*******
関連記事一覧
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。