
「営業代行」に関する裁判例(9)平成29年 4月27日 東京地裁 平27(ワ)28193号 不当利得返還請求事件
「営業代行」に関する裁判例(9)平成29年 4月27日 東京地裁 平27(ワ)28193号 不当利得返還請求事件
事案の概要
◇不動産の売買・交換・賃借及びその仲介等を目的とする株式会社である原告が、広告代理店業、インターネット事業、WEB制作等を目的とする株式会社である被告に対してホームページ等の制作やインターネット広告等の業務を委託してその代金を支払ったが、被告は委託業務の一部を履行しないことから同契約を合意解除したものの、被告は履行済みの業務に相当する代金を控除した残額を法律上の原因なく利得していると主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、残金289万9504円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案
裁判経過
控訴審 平成29年10月10日 東京高裁 判決 平29(ネ)2484号 不当利得返還請求控訴事件
裁判年月日 平成29年 4月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)28193号
事件名 不当利得返還請求事件
裁判結果 一部認容 上訴等 控訴 文献番号 2017WLJPCA04276016
東京都千代田区〈以下省略〉
原告 明誠商事株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 鵜飼大
同 東畑義弘
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 株式会社アシタクリエイト
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 木村俊将
同 日髙義允
主文
1 被告は,原告に対し,3万7504円及びこれに対する平成27年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを80分し,その79を原告の,その余を被告の各負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,289万9504円及びこれに対する平成27年11月20日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が被告に対してホームページ等の制作やインターネット広告等の業務を委託してその代金を支払ったところ,被告が委託業務の一部を履行しないことから上記契約を合意解除したが,履行済みの業務に相当する代金を控除した残額につき被告が法律上の原因なく利得していると主張して,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,上記残金289万9504円及びこれに対する平成27年11月20日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。
1 前提事実(証拠の記載がない事実は,当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1) 原告は,不動産の売買・交換・賃借及びその仲介等を目的とする株式会社である(甲1の1)。
被告は,広告代理店業,インターネット事業,WEB制作等を目的とする株式会社である(甲1の2)。
(2) 原告代表者と被告代表者は,平成26年6月頃,C司法書士の紹介で知り合い,原告が行っている任意売却等の不動産業の広告業務を被告に委託することを協議し,原告の各種広告等の業務を被告が行うとの業務委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
なお,本件契約についての契約書は作成されなかった。
(3) 原告は,被告に対し,本件契約の代金として,以下の合計1410万5564円を支払った(甲2(各枝番を含む。以下同じ。),3)。
平成26年7月25日 289万9800円
同年11月6日 400万0000円
同月7日 25万8500円
同年12月10日 151万2000円
平成27年1月22日 108万0000円
同月29日 232万4000円
同年5月29日 203万1264円
(4) 被告は,本件契約に基づき,以下の各業務を行った(いずれも消費税込み。以下同じ。)。
ア ホームページ制作(2サイト分) 129万6000円
イ ランディングページ制作 21万6000円
ウ リスティング広告掲載・運用費 653万7646円
リスティング広告とは,検索サイトの検索結果ページに,検索されたキーワードと関連性の高いサイトを有料で上位に表示する仕組みを利用した広告のことである。
エ スマートフォン対応サイト制作費 86万4000円
オ システム制作費 21万6000円
カ コーポレートサイト制作費 32万4000円
(5) 被告は,平成27年7月16日,原告に対し,本件契約の解約を申し入れたところ,原告もこれに応じ,本件契約は合意解除された(甲5,9)。
(6) 被告は,平成27年8月4日及び同月7日,原告に対し,受領済みの本件契約代金のうち合計175万2414円を返還した。
2 争点及び当事者の主張
(1) SEO対策業務の実施の有無
(原告の主張)
ア 原告は,被告に対し,被告が制作した原告の2サイト(http://○○○.com及びhttp://△△△.jp。以下「本件2サイト」という。)につき,検索サイトで特定のキーワードで検索した際に上位に表示されるための対策であるSEO対策を依頼した。
被告は,原告に対し,①任意売却の過去の取引事例を掲載し,ページ数や文字数を増やす,②被リンクを数多く張る,③市場調査や業界調査,キーワード選定を行う,④サテライトサイトや既存サイトのSEO対策を行うなどの施策を提示し,半年後には必ず「任意売却」の検索で本件2サイトを上位に表示させることを約束した。
イ しかし,被告は,本件契約後1年が経過しても何らのSEO対策を行わず,本件2サイトが検索サイトで上位に表示されるようにはならなかった。
本件契約においては,ウェブサイトの制作等についても全て被告に一任されていたのであるから,その掲載内容も全て被告が制作して完成させるのが通常であって,打合せ等は経るものの原告が被告に資料や図面を提示することは一切予定されていなかったのであり,被告から資料の提出を督促されたことも一切ない。原告の資料提供がなくても,サイト自体が制作されれば被リンクを張ること自体は可能であるのに,被告はこれもしていない。
検索サイトで上位に表示されている原告サイト(http://○○○.com)は,被告が作成してSEO対策を行ったサイトではなく,他社に運用を任せてきたものであり本件契約の対象となっていない。被告は,原告から資料等の提供がなくSEO対策が十分できなかったとしながら,上記サイトについては被告のSEO対策の効果があったと主張しており,矛盾している。
(被告の主張)
ア 被告は,SEO対策として①集客の中核となるメインサイトのほかに地域別サイトも作成して相互リンクを張りメインサイトに誘導する,②メインサイトの文章等の情報量を充実させるなどの施策をすることとし,各サイトの文章や図式は原告が用意することに合意した上で,アクセス解析や電話の反響数等で効果を測定することを取り決めた。また,被告によるSEO対策の対象は,被告が制作した本件2サイトのみならず原告の既存サイトも対象としており,被告は,これら既存サイトのログインIDやパスワードの提供を原告から受けていた。
イ 被告は,SEO対策として原告に提案していたキーワード選定を行い,日本語のドメインを用いた地域別サイトを作成するなどの業務を実際に行ったが,これに加えて,原告に対し,任意売却の過去の取引事例をサイトに掲載することを提案し,被告ができる部分はすべて作業を完了した上で原告に文章や図式の提供を依頼した。一般に,広告を受注する者は,発注側から事業内容,アピールポイント,実績を示す資料等の提供を受けなければこれを知り得ないから,独断でウェブサイトの文章や図案を作成することなどあり得ないのであり,本件契約でも原告から資料等が提供されることが当然に予定されていた。しかし,被告は,再三の求めにもかかわらず原告が必要な素材を一切提供しないことから,サイトの内容を充実させることが十分にできず不完全な状態となっていた。また,検索サイトから高い評価を得るには,関連性の高いテーマのサイトとリンクし,一貫したテーマの下で充実した内容のサイトでなければならないから,内容が充実しないまま被リンクを多数張っても高い評価は得られず,被リンクを張る施策もできなかった。
ウ このように,被告が行うべきSEO対策業務は完了させており不履行はなく,原告の作業未了部分が残されていたにすぎない。SEO対策は原告の準備不足により不十分であったものの,検索サイトで原告サイトが上位に表示されるようになり,問い合わせの電話やメールが来るなど一定の効果は出ていた。
(2) コンサルティング業務の実施の有無
(原告の主張)
ア コンサルティング業務とは,インターネット以外での営業販路獲得,営業代行,アポイント,面談等を行って顧客獲得を目指すことで,被告は,原告に対し,不動産を主に取り扱っている弁護士を原告に紹介し,業務開始から3か月経過後には月2,3件の具体的な任意売却案件を原告に紹介すると口頭で説明しており,任意売却案件を5ないし10件紹介することは同業務の内容となっていた。
イ しかし,被告は,コンサルティング業務の開始から3か月後の平成27年2月が経過しても,原告に1件も任意売却案件を紹介せず,営業販路獲得のアドバイスや営業代行も行っていないし,具体的な業務内容を報告することすら一度もなかったから,被告は,コンサルティング業務を一切履行していない。被告が主張する多数の面談等は,現実に実施されたことを示す証拠はなく,本件契約のために実施されたものであるかも不明である。
コンサルティング業務は,インターネット以外の方法による営業を意味するから,その内容にサイト納品後の修正・保守業務は含まれない。被告が指摘する契約書案(乙2の2)は,被告から一方的に送付されたもので合意内容の証拠とはならない。被告は,原告従業員を研修生として受け入れたと主張するが,被告事務所で2,3時間ほど被告制作の原告サイトの利用方法の説明を受けただけである。
(被告の主張)
ア 被告は原告との間で,コンサルティング業務として,顧客の獲得を目的としたインターネット以外での営業販路獲得,営業代行等を行うこととし,具体的には,提携先候補となる弁護士,司法書士等の専門家を被告が開拓し,提携内容や契約条件等は原告が決めて被告に資料等を提示し,開拓先から反響があった場合は同資料を提示して被告が営業を行うこととし,サイト納品後の修正・保守もコンサルティング業務の一環として行うこととした。
もっとも,被告が受託したのは営業活動であって具体的な案件を紹介する業務ではないし,紹介件数を保証したことはなく,このことは契約書案(乙2の2)にも記載されている。
イ 被告は,債務整理を扱うポータルサイトの運営者,コンサルタント,弁護士・司法書士等と月3回程度,面談したり懇親会に参加するなどして任意売却を得意とする原告を宣伝する営業活動を行っており,その結果,実際に複数の者から原告の詳細な契約条件や資料の問い合わせを受け,原告にこれらの資料を提供するよう要請したが,原告から全く応答がなかったため,被告はそれ以上の営業活動ができなかった。他にも,被告は,原告の事業展開についてアドバイスしたり,原告従業員を研修生として受け入れ教育したほか,各サイトの保守,修正も対応していた。
このように,被告は,コンサルティング業務を行ったが,その効果が上がらないのは原告の責任によるものであって被告に不履行はない。
(3) 会社概要作成業務の実施の有無
(原告の主張)
原告は,被告に対し,会社概要パンフレットの作成を依頼したが,被告は現在に至ってもこれを完成させていない。被告が完成品として原告に送付してきた会社概要は,文章が全て「ダミー」と表示されたものであった(甲12)。完成した会社概要として被告が示すものは,本件訴訟に至るまで見たことがなく,訴訟段階で作成された疑いがある。
(被告の主張)
被告は,原告の会社概要を完成させた上で,原告の要望を反映させたデータをメールで原告に送付して納品しており(乙11),同作成業務は履行済みである。原告が指摘するデータは,デザイン案として被告が送付したもので,会社概要を完成させるには原告が作成する文章を挿入する必要があったが,原告から文章が送られることがなかったため,やむなく無難な文章を作成し,完成させたものを納品している。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(SEO対策業務の実施の有無)について
(1) 上記前提事実及び証拠(甲2,11ないし13,乙2,4ないし9,13,15,23,原告代表者本人,被告代表者本人)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
ア 原告代表者と被告代表者は,平成26年6月の面談後,電話や面談で数回の打ち合わせを行った後に本件契約を締結し,まずは本件2サイトの制作,リスティング広告,SEO対策を開始することとした。
被告は,原告のウェブサイトのSEO対策として,検索サイトが採用するサイト評価方法を分析した結果に基づき,原告が主に手掛ける不動産の任意売却をサイトのメインテーマとして各種調査やキーワード選定を行った上で,関連性の高いテーマを持ったサイトと多数リンクさせるべく,中心となる本件2サイト及び原告の既存サイトに加えて地域別サイトを制作して相互に被リンクを張り,これら各サイトのページ数や文書量も増やして内容を充実させるべく,原告が手掛けた過去の取引事例等を各サイトに掲載することとし,その旨を原告にも説明した。
そこで,原告は,同年8月8日,原告の既存サイトについてのSEO対策を実施するため,被告に対し,既存サイトに関するIDやパスワード等のデータを送信した(乙13)。また,被告は,任意売却に関連するキーワードの選定作業を原告とともに行った(乙4)。
イ 被告は,原告に対し,同年7月25日,本件契約に係る1回目の代金請求として,ホームページ等制作費,3か月分のリスティング広告費及びSEO対策運用費の合計289万9800円を請求した(甲2の1)。
被告は,その請求書に添付した明細書に,SEO対策の施策内容として市場調査,業界調査,キーワード選定,サテライトサイトSEO対策,既存サイトSEO対策を列挙した上で,テコ入れしている既存サイトとして合計5つの原告サイトを挙げ,現在も施策継続中と記載した。
ウ 被告代表者は,その頃,ホームページ制作業務に関する契約書案(乙2の1)を起案して原告に交付し,本件契約に関する契約書を作成・締結しようとした。同契約書案には,被告の業務として,原告から提供されるテキスト原稿,画像等のデータと被告が提供するデザイン・レイアウトデータ等を組み合わせてウェブコンテンツを制作することと記載されていた。
原告代表者は,上記契約書案の内容を確認したが,これに押印して正式に契約書として作成するには至らなかった。
エ 被告代表者は,原告代表者との間で連日のように電話をしたり数日置きに原告の事務所を訪問して面談するなどし,各業務の進行状況等を報告するとともに,上記SEO対策のうちサイトの内容充実のために掲載すべき取引事例等の文章や図案等を提供するよう繰り返し要請した。
しかし,原告代表者は,口頭では資料の提供等を約束するものの,簡易な指示をしたことがあった程度で(乙15),サイトの内容は被告がすべて制作すべきであるとしてこれに十分対応しなかった。
オ 被告は,原告からの資料等の提供がなくサイトの内容を充実させる方法でのSEO対策が進められなかったが,地域別サイトを制作するなどの可能な範囲での準備を進め(乙5),他の方法による施策を実行するとともにリスティング広告等の業務も並行して行った(甲4)。
その結果,原告サイトを閲覧した者からのメールや電話での問い合わせが増加するなどの一定の広告効果が見られた(乙6ないし8)。
(2) 上記認定事実によれば,被告は,本件契約に基づいて制作した本件2サイトのみならず,原告の既存サイト及び新たに制作した地域別サイトを含めた原告サイト全体のSEO対策業務を受託し,その業務として複数の施策を実施していたところ,重要なSEO対策の1つであるサイトの内容充実のために必要な各サイトに掲載する文章や図案等を原告が提供しなかったため,同施策によるSEO対策を進めることができず,十分な成果を上げることができなかったことが認められる。
この点,原告は,SEO対策のために相応の費用を支払っているのであるから,各サイトに掲載すべき文章や図案等は,原告が提供すべきものではなく全て被告が制作すべきものであるとして,被告が何らのSEO対策も行わず成果も得られなかったと主張するが,SEO対策業務において,原告の業務に精通しているわけではない被告が,原告の事業内容の理念や特色,実際の取引事例等の必要な情報につき,原告から資料を提供されることなく自ら調査して選定・判断することまでも,その業務内容に含まれるとは考え難いといわざるを得ないから,この点を捉えて被告が何らのSEO対策も行わなかったとする原告の主張は採用できない。
(3) よって,被告は,上記認定に係るSEO対策の各施策を一定の範囲で実施し,サイトの内容充実に向けても原告に資料等の提供を求めて準備を進めていたと認められ,被告がSEO対策業務を実施していなかったとは認められないから,原告がSEO対策費として被告に支払った合計48万6000円は,被告が法律上の原因なく利得したものとは認められない。
2 争点(2)(コンサルティング業務の実施の有無)について
(1) 上記前提事実,上記認定事実及び証拠(甲2,13,乙2,10,23,原告代表者本人,被告代表者本人)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
ア 原告と被告は,本件契約の締結に当たり,インターネット上の広告等以外にも,弁護士や司法書士と提携して任意売却案件の顧客を獲得する方法での原告の営業販路獲得について,被告が人脈を生かしてこれに当たることを目的とするコンサルティング業務の実施についても合意した。
イ 原告と被告は,平成26年11月頃,本件2サイトの制作等の業務に続いてコンサルティング業務にも着手することとし,併せて,ホームページ制作業務には含まれない各サイトの仕様変更や修正・追加等,その他の個別依頼に応じて行った業務もコンサルティング業務の内容に含めて代金請求することとした。被告は,原告に対し,平成26年11月6日,本件契約に係る2回目の代金請求として,6か月分のコンサルティング業務代金194万4000円を請求した(甲2の2)。
被告は,その請求書に添付した明細書に,コンサルティング業務の内容として地上戦での営業販路獲得,営業代行作業,アポイント,面談,クライアント獲得を列挙し,一次段階は掛けた費用分の回収を,二次段階は月10件から20件の営業件数の確保を目標とすることを記載した。
ウ 被告代表者は,コンサルティング業務に関する契約書案(乙2の2)を起案して原告に交付し,本件契約に関する契約書を作成・締結しようとした。同契約書案には,被告の業務として,提携弁護士の紹介,ウェブ制作等における適正化支援,営業代行業務,社内での営業内政補助業務とされ,その性質上,原告の売上高の上昇などを保証するものではないと記載されていた。
原告代表者は,上記契約書案の内容を確認したが,これに押印して正式に契約書として作成するには至らなかった。
エ 被告は,原告の依頼に応じて原告の各サイトの仕様変更や修正・追加等の各種業務を行い(乙10),原告従業員に情報機器の操作方法を説明・教示するなどしたことがあったほか,原告に対し,被告による営業活動に当たって相手方が原告に関心を示した場合に具体的な説明するため,原告の会社概要を製作することを提案したり原告との契約条件等の詳細を示した資料を提供することを求めるなどした。
しかし,原告は,被告に対し,原告が提携先から任意売却案件の紹介を受けた場合の契約条件等の詳細を開示して説明したり資料を交付したことはなかった。
オ 被告は,原告に対し,平成27年5月27日,本件契約に係る代金請求として,1か月継続分のコンサルティング業務代金として32万4000円を請求し(甲2の6),原告はこれを支払った。
カ 被告代表者は,複数の取引先や弁護士,司法書士等との面談や会合等に赴いた際,任意売却を手掛ける不動産業者として原告の存在を教示するなどして営業活動を行ったが,原告に具体的な任意売却案件を紹介したことは一度もなかった。
(2) 上記認定事実によれば,被告は,コンサルティング業務の内容として,インターネット上の広告以外による原告のための営業活動をすることを受託したことが認められるが,被告が原告に対し,上記営業活動の結果として一定数の具体的な任意売却案件を紹介することを保証したとの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
原告は,被告代表者が口頭で具体的な案件を紹介することを保証した旨を主張し,原告代表者もこれに沿う供述をするが,上記認定事実によれば,被告が原告に示したコンサルティング業務に関する契約書案には,営業成果を保証しない趣旨が記載されていたのであり,同契約書案が正式に契約書として作成されるには至らなかったとはいえ,原告代表者がその内容の修正を求めるなど,そこに示された被告の認識と異なる合意が成立したことを窺わせる具体的な事情は見当たらないといわざるを得ず,上記原告の主張は採用できない。
(3) また,上記認定事実を総合すると,上記営業活動以外にコンサルティング業務に含まれる業務の範囲を明確に定めた客観的証拠はないものの,被告は,ホームページ等制作やインターネット上の広告等の各受託業務のいずれにも含まれないような様々な依頼を原告から受け,これに対応するに当たり,これらをコンサルティング業務の内容に含めることを原告に告げて原告もこれに異議を述べず,さらに原告は,コンサルティング業務の開始から6か月後にはこれを1か月延長することに了承して1か月分の同業務代金を追加して支払ったことが認められるのであるから,コンサルティング業務の内容がこれら個別の依頼に対応する業務を広く含むものであったと解するのが相当である。
そして,上記認定事実によれば,被告は,原告の依頼に基づいて各サイトの仕様変更や修正・追加・保守等の業務を実施したほか,原告のための営業活動に向けた一定の準備等の活動を行っていたにもかかわらず,原告が必要な情報等を提供しなかったため具体的な案件の紹介に結びつく営業活動まで進めることができず,十分な成果を上げることができなかったものと認められる。
(4) よって,被告は,上記認定に係るコンサルティング業務の各内容を一定の範囲で実施し,具体的な営業活動に向けて原告に契約条件等の情報提供を求めるなどの準備を進めていたと認められ,被告がコンサルティング業務を実施していなかったとは認められないから,原告がコンサルティング業務費として被告に支払った合計226万8000円は,被告が法律上の原因なく利得したものとは認められない。
3 争点(3)(会社概要作成業務の実施の有無)について
上記認定事実及び証拠(甲12,13,乙10,11,17,23,原告代表者本人,被告代表者本人)によれば,被告は,平成26年11月以降,原告のための営業活動用の資料として会社概要の制作を勧めてこれを原告から受託し,まずはパンフレットのデザイン案を作成して,原告の事業内容の理念や特色等の文章を記載する部分にはダミーと表示したものを原告に提示し(甲12),そこに記載すべき文章の作成を原告に依頼したが,原告がこの依頼に応じた文章を被告に提示しなかったため,被告は,それまでの原告からの受託業務を踏まえた無難な内容の文章を作成して上記デザインに当てはめ,平成27年2月20日にはこれを完成品として原告にメールで送信し(乙11,17),納品したことが認められる。
そうすると,被告は,原告の会社概要の作成業務を実施したと認められるから,原告が会社概要作成費として被告に支払った10万8000円は,被告が法律上の原因なく利得したものとは認められない。
4 以上の判断に基づいて,原告が本件契約に基づいて支払った代金から被告が実施した上記各業務の代金及び既返還額を控除すると,被告が原告に返還すべき不当利得額は3万7504円と認められる。
よって,原告の請求は,主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第28部
(裁判官 小崎賢司)
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