判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(29)平成30年 1月25日 東京地裁 平28(ワ)30430号 損害賠償等請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(29)平成30年 1月25日 東京地裁 平28(ワ)30430号 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成30年 1月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)30430号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2018WLJPCA01258009
要旨
◆原告が、訴外会社との間で本件コンサルティング契約に基づき太陽光発電等に関するプロジェクトを紹介し、その購入者から支払われるはずであった約定の成功報酬が支払われなかったことについて、同社が購入者に成功報酬を支払わせるべき義務の履行を怠ったのはその実質的代表者だった被告の義務違反であるとし、被告は同社が同報酬を支払う旨を保証していたなどとし、また、同社について被告が同意してシンガポール法上の清算手続がとられたことにより同社の責任追及が不可能になったなどとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、原告と訴外会社との間での本件仲裁合意は原告と被告との間の紛争について適用されないとした上で、被告が訴外会社をして一定の作為をなさしめるべき義務に違反したことが不法行為に当たるとの原告の主張を排斥し、被告が個人として本件成功報酬の支払を保証したとは認められず、被告が同清算手続に合意したとも、合意したこと自体が直ちに株主の不法行為になるとも認められないなどとして、請求を棄却した事例
参照条文
民法709条
民法719条
裁判年月日 平成30年 1月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)30430号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2018WLJPCA01258009
東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社X
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 松野絵里子
〈前略〉マサチューセッツ州 アメリカ合衆国
(〈前略〉MA,United States of America)
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 門伝明子
同 川村一博
同訴訟復代理人弁護士 三森健司
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金2835万7500円及びこれに対する平成27年3月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,a社(以下「a社」という。)との間でのコンサルティング契約に基づき太陽光発電等に関するプロジェクトを紹介し,その購入者から約定の成功報酬が支払われるはずであったにもかかわらず,これが支払われなかったことについて,①a社は購入者をして成功報酬を支払わせるべき義務の履行を怠っており,これはa社の実質的な代表者だった被告の義務違反によるものである,②被告はa社が上記報酬を支払う旨を保証していたのであるから,これに基づく義務を果たすべきであったし,a社の債務不履行について同社の代表者に報告して履行を促すべき義務を怠った,③a社についてシンガポール法上の清算手続がとられたことにより同社の責任追及が不可能になったところ,これは同手続に同意した被告の注意義務違反によるものであるなどと主張して,被告に対し,不法行為(単独不法行為,共同不法行為又は幇助)に基づき,支払われるべきであった成功報酬額に相当する2535万7500円及び弁護士費用300万円の合計2835万7500円の損害賠償並びにこれに対する平成27年3月19日(請求日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は,再生可能エネルギーに関するコンサルティング業務等を目的とする株式会社である。
イ a社は,平成25年10月2日に設立され,B(以下「B」という。)を代表者とするシンガポール法人であったが,平成27年12月10日付けでシンガポール法上の「Striking off」の手続により閉鎖され,登記抹消がされた。(甲4,乙2)
ウ Bと原告代表者は夫婦である。両名は,平成25年11月21日頃から,離婚協議を行っている。
エ 被告は,平成25年から平成26年当時,シンガポール法人であるb社(以下「b社」という。)において,日本での太陽光発電所に対する投資を担当していた。
オ Sunrise Megasolar合同会社(以下「サンライズメガソーラー」という。)は,Nippon Solar Partners Ltd.から匿名組合出資を受ける合同会社である。同社は,米国のファンド運営会社であるFarallon Capital Management,L.L.C.(以下「ファラロン」という。)から出資を受け,b社との間でマネジメント契約を締結していた。(甲26)
(2) 事実経過
ア 原告とa社は,平成25年12月2日付けで,太陽光発電ビジネスに関するコンサルタントサービス契約(以下「本件コンサルティング契約」という。)を締結した。同契約に係る契約書のa社側の当事者欄には,被告がサインしている。(甲1の1・2)
イ a社は,平成25年12月2日付け譲渡契約(以下「本件譲渡契約」という。)により,株式会社JCサービス(以下「JCサービス」という。)から,同社が有していた茨城県日立市十王町所在のc発電所の太陽光発電所施設に関する権利(以下,上記発電所に関わるプロジェクトを「サンライズプロジェクト」といい,これについての権利を「本件発電所権利」という。)を2億1000万円で購入した。同契約に係る契約書のa社側の当事者欄には,被告がサインしている。(甲2)
ウ JCサービス,a社及びサンライズメガソーラーは,平成26年2月21日付け「太陽光発電所開発権譲渡契約に関する地位譲渡契約書兼全面変更契約書」を締結し,本件譲渡契約における譲受人の地位をa社からサンライズメガソーラーに移転することなどを合意した(以下「本件権利移転契約」という。)(乙13)
エ 原告は,平成26年3月3日付けの請求書により,a社に対し,本件コンサルティング契約に基づく成功報酬(原告の主張するこの成功報酬を,以下「本件成功報酬」という。)として2535万7500円を支払うよう求めたが,支払はされなかった。(甲3の1・2,弁論の全趣旨)
2 争点及び当事者の主張
(1) 争点1(仲裁合意の存在により本件訴えが訴訟要件を欠くこととなるか否か)について(本案前の争点)
(被告の主張)
本件コンサルティング契約10条によれば,同契約から生じる紛争は全て,同条1項の合意によりシンガポール法に準拠し,同法に従って解釈され,「国際商業会議所の仲裁規則」に基づき,日本国における仲裁手続によって最終的かつ拘束力のある解決がされるものとされている。そのような仲裁合意がある以上,本件訴訟は訴訟要件を欠くことになり,不適法であるから却下されるべきである。
(原告の主張)
争う。
(2) 争点2(本件成功報酬請求権が発生し,これに関してa社が義務を負っていたか否か)について
(原告の主張)
ア 本件コンサルティング契約3条等によれば,a社は,原告から紹介された太陽光発電プロジェクトの購入ができた場合,当該プロジェクトを所有することとなる企業(通常は特別目的会社である。)をして,原告に対し本件成功報酬を支払わせるべき義務を負う。その具体的な方法は契約上限定されていないが,当該企業に対し報酬確認書を作成させて実際に支払わせたり,原告と当該企業との間での報酬合意書を作成しておくこと,当該企業が匿名組合出資者と匿名組合契約を締結する際に,匿名組合事業の内容として報酬の支払を含めておくことなどの方法が考えられる。
イ 原告はa社に対してサンライズプロジェクトを紹介し,これに基づいてa社(その後の権利移転によりサンライズメガソーラー)が本件発電所権利を取得した。のみならず,JCサービスとの取引を仲介し,法律事務所を関与させたデューデリジェンス会議に出席したり,プロジェクトの詳細やデータの提供,金融機関との交渉など,契約上必要であってa社の求めるサービスを提供している。本件コンサルティング契約1.1条の(a)から(f)は例示列挙であり,これらのサービス全てを実施しなければ報酬請求権が発生しないというものではない。
したがって,a社には,本件譲渡契約締結日である平成25年12月2日から,本件コンサルティング契約3.3条所定の支払期間である14日が経過した同月16日には(遅くとも,本件権利移転契約が締結された平成26年2月21日から14日が経過した同年3月7日には),サンライズメガソーラーをして本件成功報酬2535万7500円を原告に対して支払わせるべき義務が生じていたことになる。
(被告の主張)
ア(ア) 本件コンサルティング契約上の原告の義務は,投資対象案件をa社に紹介することのみならず,本件コンサルティング契約1.1条(a)から(f)に列挙されたものを含む各種サポート業務を行うことも含まれていた。原告が上記業務をどの程度行ったかは不知だが,被告が知る限りではJCサービスを紹介すること以外の業務は行われておらず,むしろ契約の相手方であるJCサービスの利益を代表する発言をしたり,金融機関に対してa社及びBを誹謗中傷するような発言をしたり,a社との排他的交渉期間中にサンライズプロジェクトを競合先に紹介するなどの契約違反行為をしていた。以上によれば,本件成功報酬請求権の発生原因事実が充足されたとはいえない。
(イ) 本件成功報酬の支払期限は「プロジェクトの権利の購入が完了した日」から2週間後であるところ,これは単に本件譲渡契約が成立した日を意味するものではなく,サンライズプロジェクトの権利の購入の全ての過程が終了した日を意味する。本件権利移転契約が締結された平成26年2月21日時点においても,上記状態に至ってはいなかったのであるから,遅くとも同日から14日が経過したことにより支払期限が到来している旨の原告の主張には理由がない。
イ 上記アのとおり,原告からサンライズメガソーラーに対する本件成功報酬の請求権は発生していないから,上記請求権に係る債務を同社に履行させるべき義務をa社が負っていたということはあり得ない。
(3) 争点3(被告がa社をして一定の作為をなさしめるべき義務を負っていたか否か)について
(原告の主張)
ア a社はb社の日本における太陽光発電への私募ファンド組成業務のために設立された法人であり,同社における上記業務担当である3名(B,被告及び他1名)のいずれかがプロジェクトごとに業務を担当していたのであって,単なる従業員というべき者は存在しなかった。上記3名のうち日本語を流暢に話せるのは被告のみであり,日本における契約交渉等は被告が一切を担当していた上,b社及びa社の大株主でもあったのであるから,被告は実質的にはa社の代表者というべき地位にあり,少なくともBと共同での代表者というべき地位にはあった。このことは,被告がサンライズプロジェクトに関する会議等にa社の代表者として出席していた一方,Bが出席したことはなかったこと,本件コンサルティング契約及び本件譲渡契約に係る契約書にも被告がサインしており,契約内容を熟知していたことなどの事情からも明らかである。
Bはシンガポール在住であったために代表者として登録されていたに過ぎず,サンライズプロジェクトについても当初は積極的に関与していたが,平成25年11月21日に妻である原告代表者との離婚問題が生じて以降は担当から外れる形になり,被告が実質的意思決定をするようになっていた。
イ 上記アのような地位にあった被告は,a社をして,争点2で主張した同社の義務を履行させ,サンライズメガソーラーから原告への本件成功報酬の支払を実現させるべき義務を負っていたにもかかわらず,故意又は過失により同義務を履行しなかった。このことは,原告に対する不法行為(被告自身の義務に違反した単独での不法行為,a社の代表者として本件成功報酬の支払を実現させるべき義務を負っていたBとの共同不法行為又は同人に対する幇助)に当たる。
(被告の主張)
ア 被告はa社の代表権を有する立場にあったことはなく,従業員であったに過ぎない。本件コンサルティング契約及び本件譲渡契約に係る契約書にサインしているのは,代表者であったBからの個別的な授権に基づくものであり,契約条件の決定及び契約締結の判断は同人が行っていた。このことは,本件コンサルティング契約に至る交渉経過の中で,Bが契約書案文を作成して原告に送付し,被告はBの指示を仰いだ上で契約書の作成を行っていること,譲渡代金額の決定についてもBの意向確認が行われていることなどの事情からも明らかである。
また,被告は平成25年12月2日の本件コンサルティング契約締結時点ではb社株式を保有しておらず,その後に一定数の株式を取得した事実はあるものの,過半数には遠く及ばないものであって,大株主などと評価されるべきものではない。
イ 法人とその役職員は別個の法主体であるから,a社が原告に対する債務を履行していなかったとしても,被告が個人として,原告に対し,「a社をして上記債務を履行させるべき不法行為法上の義務」を負うことはない。
原告とa社との間では本件成功報酬請求権が発生したか否かについて争いが生じていたところ,そのような状況下で,a社の従業員である被告が,代表者であるBからの指示に反して原告の求める本件成功報酬の支払を実現させるための行為をすべき義務を負うことはありえないし,仮にそのような行動をとったとしても,a社の行動を変更させることは不可能である。
(4) 争点4(本件成功報酬請求に関する被告のその余の注意義務違反の有無)について(争点3で主張した不法行為についての予備的主張)
(原告の主張)
争点3において主張した不法行為が成立しなかったとしても,被告には以下の注意義務違反につき不法行為が成立する。
ア 被告は,平成26年1月29日のメールにおいて,本件成功報酬をa社が支払うことを約束するとともに,契約違反はさせない旨を保証している。したがって,被告は上記保証に基づく義務を履行すべきであった。
イ 被告はサンライズプロジェクトの主担当者だったのであるから,a社の債務不履行に気付いた時点で,代表者であるBにその旨を報告し,履行を促すべき義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った。
(被告の主張)
争点3において主張したのと同様の理由により争う。
(5) 争点5(a社の清算手続に関する被告の不法行為の成否)について
(原告の主張)
被告は,a社がサンライズメガソーラーをして原告に対し本件成功報酬を支払わせる債務を履行していないことを知っていたにもかかわらず,a社についてシンガポール法上の「Striking off」という清算手続をとることに同社の株主として合意した。上記手続は会社に債権債務がない場合にのみ行うことができるのであるから,a社に本件コンサルティング契約に基づく債務がある状況下で行われた清算は有効ではないはずであるが,実際には清算手続は完了し,原告がa社に対して債務の履行を請求することは不可能になっている。そのような要件を充足していない違法な手続に合意した被告には過失があったというべきであり,このことは原告に対する不法行為(被告自身の義務に違反した単独での不法行為,a社の代表者として本件成功報酬の支払を実現させるべき義務を負っていたBとの共同不法行為又は同人に対する幇助)を構成する。
(被告の主張)
被告はa社について行われたシンガポール法上の清算手続には関与しておらず,これに合意した事実もない。また,同法上,解散に異議のある債権者にはその申し出をする機会が与えられており,解散会社の株主や従業員が債権者保護に関する義務を負うことはないから,上記合意の有無にかかわらず,被告が不法行為責任を負う余地はない。
(6) 争点6(原告に生じた損害額)について
(原告の主張)
被告の不法行為により,原告には以下のとおり2835万7500円の損害が生じた。
ア 本件成功報酬相当額
被告の不法行為の結果,原告は本件成功報酬2535万7500円を受領することができなくなったのであるから,同額の損害が生じている。
イ 弁護士費用
上記損害の賠償請求のためは英語を理解する訴訟代理人への依頼が不可欠であったところ,そのための弁護士費用としては,300万円が相当である。
(被告の主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。なお,当事者及び関係人間でやり取りされた英文のメール等については,特に断りがない限り,日本語訳のみを記載する。
(1) 原告は,平成25年夏頃から,日本国内での投資ファンド組成の対象となる太陽光発電所に関する情報収集等を行っており,その過程でJCサービスと接触するようになった。(甲52)
(2) 原告代表者とBは夫婦であったが,平成25年末ないし平成26年初め頃から離婚に関する協議等を行っていた。このことは被告も認識していた。(甲52,乙19の1・2)
(3) 被告とBは,平成25年11月頃,a社に対する投資勧誘の資料の作成等を行っていた。(甲29,30(枝番を含む。))
(4) b社と被告の関係等
ア 平成26年11月11日時点におけるb社の取締役はCであったが,同人は平成27年3月12日までに退任し,Bが取締役に就任した。(乙20の1・2)
イ 被告は,平成27年6月18日時点ではb社の株式を保有していなかったが,同年8月31日までに,当時の発行済み株式総数135万2074株中7万3333株を取得した。その後,平成28年11月1日時点では,当時の発行済み株式総数231万2074株中31万3333株を保有していた。なお,同日時点におけるBの保有株式数は47万1534株であった。(甲5,乙20の2・3)
ウ 平成28年11月20日時点のb社のホームページにおいては,被告,B及びその他3名の者が「パートナー」として紹介されている。また,同ホームページ中の日本太陽光私募ファンドの紹介部分では,被告,B及びその他1名の者が「パートナー」として紹介されている。(甲6)
(5) a社と被告との関係等
ア 被告は,a社との間で雇用契約を締結していたが,金銭での給与等は受領しておらず,スウェットエクイティとしてa社の株式を取得していた。(被告本人)
イ a社の権限ある代表者として登録されていたのはBのみであり,被告は登録された代表者の地位にはなかった。(甲4)
ウ 被告は,平成26年中にa社を退社した。(被告本人)
エ 被告は,「Striking off」の手続がとられた時点で,a社の発行済み株式総数5億3660万1000株のうち,1750万株を保有していた。(甲4)
なお,原告は,a社の勧誘資料(甲30の3)の記載によれば,同社の議決権のある株式は発行済み株式総数の20%のみであり,Bが8%,被告が8%,b社が4%を保有していたはずである旨を主張するが,上記資料はその体裁からしても作成途中のものであることが明らかであり,その記載内容が現実の状況を反映したものであったか否かは判然としないから,上記主張は採用できない。
(6) 平成25年11月頃,原告代表者,被告及びBの間では,以下のようなメールのやり取りがあった。(乙3から8)
ア 同月18日に,原告代表者が被告に対し,サンライズプロジェクトの進行等に関して,Bの意向を確認するように依頼した。
イ 同月19日に,被告が原告代表者に対し,Bと協議した結果を報告した。
ウ 同月28日に,Bから原告代表者に対し,修正を加えた契約書案文が送付されるとともに,被告が東京にいるので双方合意に至れば署名ができること,Bは自身が作成した上記契約書案文に完全に同意していることなどが伝えられた。
(7) 原告代表者と被告は,以下のとおりメールのやり取りをしていた。
ア 平成25年11月頃
(ア) 日本語で作成された本件譲渡契約に係る契約書の内容につき,被告が原告代表者に質問した(同月21日)。(甲16の1・2)
(イ) 被告が原告代表者に対し,サンライズプロジェクトの購入のための法人としてa社を使うことになった旨を述べた(同月29日)。(甲21の1・2)
イ 平成26年1月頃
(ア) 原告代表者が被告に対し,JCサービスのIPOのスケジュールに悪影響を与えることは避けたいなどと述べた(同月25日)。(乙16の1・2)
(イ) 原告代表者が,Bが本件成功報酬の支払を妨害することを危惧している旨を述べたのに対し,被告はサンライズ案件を行ったらa社が手数料を払うことを約束する旨を述べた(同月29日)。(甲25の1・2)
ウ 平成26年2月頃
(ア) JCサービス側との会議等について,原告代表者がアレンジを行った(同月3日)。(甲14の1・2)
(イ) サンライズプロジェクトに関し,被告は「我が社は貴社がなすべきことはこれで終わり,後は我々で進められると考えています。」,「君のサービスすべてに感謝しています」などと述べる一方,JCサービスとの交渉はa社側で直接行うなどと述べた(同月14日)。(甲17の1・2)
エ 平成26年3月頃
原告代表者が本件成功報酬の支払を求めたのに対し,被告は発電所が建設できない可能性がある状況で報酬を支払うのはフェアではないなどと述べた(同月25日)。(甲7の1・2)
(8) 平成25年12月2日付けの原告とa社との間での本件コンサルティング契約には,以下の条項が置かれている(一部要約及び抜粋)。(甲1の1・2,乙1)
ア 原告(コンサルタント)は,本契約内での条件に従い,投資マンデートの範囲内で,専門的なコンサルタントサービスを提供することに合意する。(前文)
イ 原告は,a社に対し,投資マンデートの範囲内で魅力的な投資機会の確保かつ供給を支援する(以下「本サービス」という。)。本サービスは,以下を含むがこれに限定されない。(1.1条)
(a)a社に対する投資機会(ソーラー発電ビジネスに適したプロジェクトあるいは土地)及び主要な関係者の積極的な特定及びその紹介
(b)主要な関係者との関係樹立の積極的な管理かつ調整
(c)用地訪問の支援及び調整
(d)a社による要請があった場合,地主,公共事業会社,官庁など開発関連の当事者との通信におけるa社の代理を務めること
(e)代金決済(ファイナンスクローズ)までのa社のプロジェクト実施の積極的な支援
(f)a社の代理としての現地の金融機関との交渉及びa社向け融資獲得の積極的な支援
ウ 本サービスの提供に対する報酬として,原告は3.2条に従って成功報酬を受け取る(コンサルタント料)(3.1条)
エ 3.3条及び0を条件として,a社は同社指定のプロジェクト所有企業が,原告に以下を確実に支払うようになさしめる。(3.2条)
(a)1キロワット時当たり40円の固定価格買取制度を誘致したプロジェクトについては,AC出力1ワット当たり2.3円(消費税を除く)の成功報酬,又は,
(b)1キロワット時当たり36円の固定価格買取制度を誘致したプロジェクトについては,AC出力1ワット当たり2円(消費税を除く)の成功報酬
オ 成功報酬の支払期限は,以下の通りである。(3.3条)
1.プロジェクトの権利の購入が終了した後2週間以内。成功報酬の支払期限が到来した場合,原告はa社が指定したプロジェクト所有企業に対し,成功報酬の額を記載した請求書を提出する。a社は,かかる請求書受領から,30日以内に成功報酬を原告に支払う。
カ 本契約は全ての点においてシンガポールの法律に準拠し,同法に従って解釈されるものとする。(10.1条)
キ 本契約に関連して紛争が生じ,一方の当事者からもう一方当事者への当該紛争の通知後60日を経過しても当事者間において解決されないときは,いずれの当事者も,10条3項の規定に従い,当該紛争を仲裁に付託することができる。(10.2条)
ク 現在の契約から生じる又はこれに関連して生じるすべての紛争は,「国際商業会議所の仲裁規則」に基づき,当該規則に従い選任された仲裁人1人によって最終的に解決されるものとする。仲裁地は日本国とする。仲裁裁定は,両当事者に対し最終的かつ拘束力あるものとする。(10.3条)
(9) 平成25年12月2日付けJCサービスとa社との間の本件譲渡契約には,以下の条項が置かれている。(甲2)
ア JCサービスとa社は,JCサービスの保有する太陽光発電所建設に関する権利を,a社に譲渡することに関し,次のとおり契約を締結する。本契約はあらゆる点において別紙記載の事項を前提とする。本契約書と別紙との間で不一致,あるいは矛盾した事柄がある場合には,別紙が優先するものとする。(前文)
イ JCサービスは,a社に対し,JCサービスが保有する別紙記載の物件において,電力買取価格40円/KW(消費税抜き)が適用される太陽光発電所建設を可能とする権利(開発権)を,a社又はその指定する事業者に譲渡するものとする。(1条)
ウ 本契約の対象とする案件(本案件)についての開発権の価格は,前条1項の諸手続において設計された設置パネル数で計算した発電量10.5MWに対し,1メガワット当たり2000万円,総額2億1000万円とする。(3条)
エ a社は,本契約の成立と同時に,別紙規定の条件に従って,JCサービスに対し,内金として8800万円を,その指定する銀行口座への振込によって支払うものとする。(4条)
オ 譲渡代金の決済は,別紙規定の条件に従って以下の方法により行う。(5条)
1.a社は,本契約締結後,平成26年2月21日に,3条に基づく譲渡金額(消費税込み)から4条により支払われた内金を控除した金額を,JCサービスに支払うものとする。
2.JCサービスは,1項の支払確認後直ちに,a社の求める方法で,開発権移転の手続を行うものとする。
カ 契約書の4条に記載されている手付金については,SPCの株の42%を7000万円の金額にてa社に売却する形式をとるものとする。本売却は契約書の締結日以降14営業日以内に行うものとする。(別紙1条(b))
(10) 被告は,平成26年2月中旬頃,JCサービスに対して,サンライズプロジェクトの対象土地所有者らとの間で,土地利用権設定についての期間を明示した合意書が締結されることなどが本件成功報酬支払のためには不可欠であること,そのような条件が同月21日までに充足されない場合にはエスクロー等の対応を検討する必要があることなどを申し入れるメールを送信した。これに対し原告代表者は,上記申入れは了承できない旨を回答した。(甲18,19の1・2)
(11) 平成26年2月17日付けで,関東経済産業局新エネルギー対策課から,JCサービスに対し,サンライズプロジェクトに係る報告内容を前提とすると,所定の認定基準に適合しなくなっているおそれがあると認められるなどとの内容の事務連絡が発出された。(乙12)
(12) JCサービス,a社及びサンライズメガソーラーは,平成26年2月21日付け本件権利移転契約により,本件譲渡契約における譲受人の地位をa社からサンライズメガソーラーに移転することなどを合意した。本件権利移転契約に係る契約書にはa社の代表者としてBがサインしており,本件譲渡契約における譲受人の地位の移転とともに,同契約の内容を全面変更する旨の内容となっている。(乙13)
(13) JCサービスとサンライズメガソーラーは,平成26年2月21日付け確認書により,本件発電所権利の譲渡に伴う説明及び確認を行った。(甲9)
(14) 原告は,a社に対し,平成26年3月3日付け請求書により,本件成功報酬として2535万7500円の支払を求めた。(甲3の1・2)
(15) JCサービスとサンライズメガソーラーは,平成26年4月8日付け書面により,サンライズプロジェクトに係る契約上の地位がサンライズメガソーラーに移転したことを確認した。(甲10)
(16) a社は,平成26年頃,設立日から事業を開始していないことを理由として,シンガポール法上の「Striking off」の申請を行った。その結果,a社については,平成27年12月10日付で「Striking off」の登録がされている。
なお,「Striking off」は,シンガポール法において,会社が設立以来事業を開始していない場合や休眠状態にある場合に行われる簡易な会社閉鎖の手続であり,会社に資産・負債が存在せず,過半数の株主の合意があることなどが要件とされており,不服のある債権者には異議申立ての手続が設けられている。(甲4,45,乙2)
(17) 原告代表者は,平成27年3月頃,被告に対し,本件成功報酬の支払に関するメールを送信した。その旨の報告を受けたBは被告に対し,「契約は終了した。返事をするな。」との趣旨のメールを送信した。(乙10,11)
2 争点1(仲裁合意の存在により本件訴えが訴訟要件を欠くこととなるか否か)について(本案前の争点)
本件コンサルティング契約10条に仲裁手続に関する合意が存在することは被告の主張するとおりであるが,同合意は同契約の当事者である原告とa社との間で成立したものであり,原告と被告との間の紛争について適用されるものではない。
したがって,上記仲裁合意の存在により本件訴えが訴訟要件を欠くこととなる旨の被告の主張には,理由がない。
3 争点2(本件成功報酬請求権が発生し,これに関してa社が義務を負っていたか否か)及び争点3(被告がa社をして一定の作為をなさしめるべき義務を負っていたか否か)について
(1) 本件成功報酬請求権が発生したか否か
ア 本件コンサルティング契約の合意内容は認定事実(8)のとおりであり,本件成功報酬の支払時期については「プロジェクトの権利の購入が終了した後2週間以内」とされている(3.3条)一方,その発生要件についての明確な規定は置かれていない。もっとも,同契約がa社による投資機会の確保及び供給を目的としたものであったと考えられること(1.1条)からすれば,同条(a)から(f)列挙の事由は,上記目的を達成するために通常必要となるサービス内容を例示的に示したものに過ぎず,これらの全てが充足されていなくても,同社が本件発電所権利を取得し,投資機会の確保が実現したと評価し得る状態に至れば,本件成功報酬請求権は発生するものと解するのが相当である。
イ 以上を前提に検討するに,本件譲渡契約によりa社が本件発電所権利を取得していることは前記認定のとおりである。もっとも,本件譲渡契約については本件権利移転契約により内容が全面変更されるなど,未だ流動的な部分が多い状態であったと考えられること,関東経済産業局からJCサービスに対して認定基準に適合しなくなっているおそれがあるとの指摘がされるなど(認定事実(11)),サンライズプロジェクトの進行自体が危ぶまれるような状況にもあったことなどの事情に照らせば,投資機会の確保が実現したと評価し得る状態にあったか否かについては,合理的な争いの余地が残る状態であったというべきである。なお,認定事実(7)ウ(イ)のメールは,原告に対して以降の交渉に関与しないよう求める趣旨のものと解され,その文言は多分に社交辞令を含むものであったと見るのが自然であるから,これらのやり取りをもって,本件成功報酬請求権の発生原因事実が充足されていたものと認めることはできない。
(2) 被告の地位,役割
ア a社及びb社における被告の地位
(ア) a社の代表者として登録されていたのはBのみであり,被告は登録された代表者の地位にはなかったこと,被告による同社の株式保有数は平成27年時点でも発行済み株式総数5億3660万1000株中1750万株に過ぎなかったことなどの事情は前記認定のとおりである。被告がa社からの報酬を金銭では受け取っておらず,スウェットエクイティとして株式を取得していたとの事実(認定事実(5)ア)からすれば,被告はa社の経営に一定の関与をし得る地位にあったことは推認されるが,このことから直ちに,被告がa社の実質的な代表者であったということはできない。
(イ) また,a社を管理,支配していたと考えられるb社(被告はそのような関係を否定するが,被告及びBと原告側とのやり取りにおいてはb社のメールアドレスが使用されていたこと〔甲14から17等〕,被告はサンライズプロジェクト購入のための法人としてa社を使うことになった旨を述べていたこと(認定事実(7)ア(イ))などの事情からすれば,a社はb社の管理,支配のもとで,サンライズプロジェクト購入のための法人として利用されていたものと考えられる。)においても,被告は取締役の地位にはなく,平成25年ないし平成26年当時は株式も保有していなかったのであるから,そのような見地からも,被告がa社の実質的な代表者であったと評価することはできない。なお,平成28年11月20日時点のb社のホームページにおいて,被告がBらと並んで「パートナー」として紹介されていることは認定事実(4)ウのとおりであるが,このことから直ちに,被告が平成25年ないし平成26年頃の時点においても同様の地位にあったものと認めることはできない。
イ サンライズプロジェクトに関して被告が果たした役割
(ア) 本件コンサルティング契約の締結に至る経緯の中では,Bが契約書の作成に関与し,原告代表者との間で直接連絡をとっていたこともあり,被告と原告代表者が連絡を取る場合(なお,Bと原告代表者が直接連絡を取らなくなったのは,両者間での離婚の問題が顕在化したことの影響を受けた部分もあったと考えられる。)も,Bの意向確認が必要であることを前提としたやり取りがされている(認定事実(6))。
(イ) また,被告は本件コンサルティング契約及び本件譲渡契約に係る契約書にサインしているが,これは単に被告が当時日本にいたためであったと考えられ(認定事実(6)ウ),その後に作成された本件権利移転契約に係る契約書にはB自身がサインしていることにも照らせば,被告がサンライズプロジェクトに関して包括的な決定権限を有していたわけではなく,あくまでも個別的な授権に基づき上記交渉や各契約書へのサインなどを行っていたものと認めるのが相当である。
(3) 被告がa社をして一定の作為をなさしめる義務を負っていたか否か
ア 以上のとおり,被告はa社の実質的代表者と評価されるべき立場にあったとは認められず,サンライズプロジェクトに関して包括的な決定権限を有していたとも認められない。また,本件成功報酬請求権が発生していたか否かについては合理的な争いの余地が残る状態にあり,a社の代表者であるBはその発生を否定する意向を示していたと考えられる(認定事実(17),弁論の全趣旨)。
イ そのような事実関係の下では,被告が個人として,代表者であるBの意向に反してまで,a社をして本件成功報酬の支払を実現させるべき義務を負っていたものとは認められない。また,上記のとおり本件成功報酬請求権が発生していたか否かにつき合理的な争いの余地が残る状態では,a社の代表者であるBにおいても,個人として上記義務を負っていたものとは認められないから,被告がBと共同して上記義務に違反し,又はBによる上記義務違反を幇助したものと認めることもできない。
(4) 小括
よって,被告がa社をして一定の作為をなさしめるべき義務に違反したことが不法行為に当たる旨の原告の主張は,採用することができない。
4 争点4(本件成功報酬請求に関する被告のその余の注意義務違反の有無)について
(1) 原告の主張アの不法行為について
平成26年1月29日に被告が原告代表者に送付したメールの要旨は認定事実(7)イ(イ)のとおりであるところ,上記メールはその直前の原告代表者からのメール(Bが本件成功報酬の支払を妨害することを危惧するなどの内容である。)に対し,そのような不当な行為はさせない旨を述べたものと見るのが通常であり,当事者間における債務発生についての争いの有無や,これについてのBの意向にかかわらず,被告が個人として本件成功報酬の支払を保証する趣旨のものとは解されない。したがって,被告がそのような保証に基づく義務を履行しなかったことが不法行為に当たるとする原告の主張は,採用できない。
(2) 原告の主張イの不法行為について
争点2及び争点3についての認定によれば,Bは本件成功報酬の支払義務を争う意向を示していたのであるから,その支払がされていないことは当然に認識していたものと考えられる。したがって,同人が上記不払状況を認識していなかったことを前提として,被告がBに対しその旨を報告し,履行を促すべき義務を負っていたとする原告の主張は,前提を欠くものであって採用できない。
(3) 小括
したがって,原告が争点4において予備的に主張する不法行為は,いずれも認めることができない。
5 争点5(a社の清算手続に関する被告の不法行為の成否)について
(1) シンガポール法上の「Striking off」の制度の概要は認定事実(16)のとおりであるところ,a社についての同手続において株主のうちいずれの者が合意をしていたのかをうかがわせる証拠は存在しない。
(2) 認定事実(5)エの株式保有状況からすれば,a社についての同手続は,被告の合意を欠いたとしても成立し得ることになり,他の証拠によっても被告が同手続につき合意していたことの立証がされたとは認められない。
(3) また,a社に債務が存在し,同手続において必要な要件が充たされていなかったにもかかわらず申立てが行われたとの事実関係があったとしても,そのような不備は債権者による異議申立手続等により是正されることが予定されているのであって,そのような申立てに合意したこと自体が,直ちに当該株主の不法行為になるものとは認められない。このことは,被告単独での不法行為,Bとの共同不法行為及び同人に対する幇助のいずれの法律構成についても同様である。
(4) 以上によれば,被告が「Striking off」の手続に株主として合意したことが不法行為に当たる旨の原告の主張は,採用することができない。
第4 結論
よって,原告の請求は,その余の争点につき判断するまでもなく理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第28部
(裁判官 阿保賢祐)
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