判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(313)平成19年 9月 7日 東京地裁 平18(ワ)11120号 損害賠償請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(313)平成19年 9月 7日 東京地裁 平18(ワ)11120号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年 9月 7日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)11120号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA09078010
要旨
◆債務者から委任を受けていた弁護士である原告が、債権回収会社である被告会社との間で債務者の債務整理等に関する事務を行っていたところ、被告会社の担当者が原告を通さず直接に債務者との間で和解契約を締結したことから、これが不法行為に当たるなどとして被告会社に慰謝料等の支払を求めた事案において、被告会社の担当者が原告を除外して債務者に直接和解の話を持ち掛け、債権回収を図ったことは、債権管理回収業に関する特別措置法18条8項に違反するが、同条は弁護士の業務を保護する趣旨を含むものではないなどとして、原告の請求を棄却した事例
参照条文
民法709条
債権管理回収業に関する特別措置法18条
裁判年月日 平成19年 9月 7日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)11120号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA09078010
東京都練馬区〈以下省略〉
(送達場所・東京都練馬区〈以下省略〉)
原告 X
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 株式会社港債権回収
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 相川泰男
同 野中篤
同 栗原稔
同 古賀政治
同 杉原麗
同 曽我陽一
相川泰男訴訟復代理人弁護士 若林義和
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成18年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,弁護士である原告が,債務者から委任を受けて,債権回収会社である被告との間で債務整理等に関する事務を行っていたところ,被告が原告の依頼者である上記債務者との間で原告を通さず直接に和解契約を締結したことから,これが不法行為に当たるなどとして慰藉料等の支払を求める事案である。
1 前提となる事実等
(1) 原告は,東京弁護士会に所属する弁護士である。
訴外株式会社山京(旧商号・札幌山京ビル株式会社,以下「山京」という。)は,貸ビル業等を目的とする株式会社であり,訴外B(以下「B」という。)が代表取締役を務めていたが,平成17年4月28日,株主総会の決議によって解散し,平成18年3月20日,清算が結了した。
被告は,債権の買取,管理及び回収等を目的とする株式会社であり,債権管理回収業に関する特別措置法(以下「サービサー法」という。)の営業許可を受けた法人である。
(2) 山京は,昭和63年7月20日,日本開発銀行(平成11年10月1日に日本政策投資銀行法附則6条1項により廃止され,日本政策投資銀行に承継された。以下「日本政策投資銀行」という。)から資金の貸付けを受け,その後,Bが同銀行に対し,山京の上記債務を連帯して保証した。
同銀行は,平成15年3月12日,リンデン・ウッド・リミテッド(以下「リンデン・ウッド」という。)に対し,山京に対する昭和63年7月20日付け金銭消費貸借契約証書及び同契約証書に関連又は付随して締結された契約書等に基づく上記貸付金残元金(平成15年2月25日現在,3億6010万6889円)を譲渡した(以下,この債権を「本件債権」といい,これによって山京が負う債務を「本件債務」という。)。
被告は,平成15年3月12日,リンデン・ウッドから,本件債権の回収についての委託を受け,債権管理,再生チームに所属する従業員のC(以下「C」という。)がその担当者となった。
(3) 山京は,平成15年3月下旬,本件債務に関する返済方法等の交渉,和解等の事務について,原告に委任した。
原告とBは,同年4月3日,被告の本社を訪れ,Cに対し,山京の財務書類と和解提案書を提出し,本件債務のうち約500万円を弁済する代わりに,残額を免除するよう求めたが,被告はこれを拒否した。
(4) リンデン・ウッドは,東京地方裁判所に対し,山京及びBを被告として,本件債権の残金相当額6569万1780円及びうち5000万円に対する平成15年10月1日から支払済みまで年14.5パーセントの割合による金員を連帯して支払うことを求める譲受債権請求訴訟を提起し(平成15年(ワ)第23056号),同年12月26日,これを認容する内容の判決を受けて,同判決は確定した。
(5) 山京は,リンデン・ウッドとの間で,平成17年3月16日,本件債務について山京に支払義務があることを認め,和解金として800万円を支払い,これを条件にリンデン・ウッドが残債務を免除することを内容とする和解契約を締結した(以下「本件和解契約」という。)。
2 原告の主張
(1) 不法行為
被告は,原告の依頼者である山京の代表取締役Bに対し,受任者である原告を排除して直接働きかけて和解交渉を行った。これはサービサー法18条8項に違反する行為である。そして,同条項は受任者が弁護士である場合に限って適用されるものである。そうすると,同法の趣旨は,債務者の保護を第一義的目的としていると同時に,受任者である弁護士の地位を保護するものであるから,被告による同条項違反の行為は,同法によって直接又は反射的に保護されている受任者としての原告の地位を侵害するものであって,原告に対する不法行為を構成するものというべきである。
また,原告は,山京との間で,同社を委任者,原告を受任者とする委任契約を締結して,本件債務について被告との間で債務整理等の事務を行う地位にあった。そして,受任者たる弁護士の地位は,弁護士法によって債務弁済等に関する交渉,和解契約の代理等の事務は専ら弁護士が行うものとされ,同様の趣旨は,特に金融分野における事務において,貸金業者に対する昭和58年の大蔵省通達,貸金業の規制等に関する法律21条1項6号及びサービサー法18条8項等にも具体化されており,これらの法律等によって保護されている。しかしながら,被告は原告を除外して,直接山京の代表取締役であったBに連絡を取って交渉を行い,本件和解契約を締結したのであり,これは原告の受任者としての地位あるいは委任契約上の債権を侵害するものであって,原告に対する不法行為を構成する。
(2) 損害
被告の行為は,法的に保護されている原告の受任弁護士としての地位を不法に侵害したもので,これによって原告は受任事務を遂行することができず,私的秩序の維持に貢献する機会を奪われ,依頼者である山京やBとの信頼関係を毀損されるなど社会的信用を損なう結果となり,精神的苦痛を被った。この原告の精神的苦痛を慰藉するには,被告に200万円の支払を認めるのが相当である。
(3) 請求
よって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰藉料200万円及びこれに対する不法行為の後である平成18年6月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の主張
原告には被侵害利益が存在せず,不法行為は成立しない。本件和解契約は,Bの自由な意思に基づいて行われたものである。被告が原告を除外して山京と直接交渉を行ったことはなく,平成16年8月4日にCがBに電話をかけたのは,山京から依頼された残高証明書の書式や遅延損害金も含めるかどうかについて確認するためであり,CがBに原告を解任しなければ直接交渉することは難しいと述べたのは,原告との委任関係が終了していることを明確することを求めるためであった。
サービサー法18条8項は,債務に関する争いが顕在化し法的手段によらずして解決することが困難な状況において,正当な理由なく債務の弁済を要求することは,債務者の私生活ないし業務の平穏を害することになるため,債務者保護の見地からそのような行為を禁止する規定であり,債務者の利益を離れて,債務者の受任者である弁護士に慰藉料請求権を発生させるような固有の権利又は利益を付与しているものではない。被告と山京の交渉は,前記譲受債権請求訴訟の認容判決確定後に山京の求めに応じて開始されており,また,その時点では山京と原告の間の委任契約は終了していたというべきであるから,同条項に違反するような事実もない。また,原告は,委任契約上の地位の侵害を主張するが,その前提としては,山京と原告の間の委任契約において,交渉権が山京自身による交渉も禁じる形で原告に独占的に付与されており,原告が山京に対し,山京自ら和解交渉又は和解締結をしないことを求める不作為請求権を有していることが必要であるところ,本件においてはそのような事情はなく,また,上記のとおり,委任契約も前記譲受債権請求訴訟の判決の確定や,山京の直接交渉により終了していたというべきであるから,いずれにしても被侵害利益はない。さらに,山京と被告の和解交渉及び本件和解契約の締結は,山京の意思に基づいて行われた,債権回収の秩序を逸脱することのない社会的に相当な行為であるから,違法となる余地もない。
4 主な争点
被告が,原告に対し,不法行為責任を負うかどうか(被告にサービサー法18条8項に違反する行為があったかどうか。受任者たる弁護士の地位は,同条項により保護されるかどうか。被告が,原告の委任契約上の受任者としての地位あるいは委任契約上の債権を侵害したといえるかどうか。)。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提となる事実等,証拠(甲1から16,乙1,2,4から15(いずれも枝番号を含む。),証人C,同B,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 原告は,山京の代表取締役であるBとは古くからの知人であり,昭和56年に弁護士登録をした直後から,山京及びその関連会社の顧問弁護士となり,平成13年10月30日には,山京の監査役に就任した。
(2) 山京は,昭和63年7月20日,日本政策投資銀行から資金の貸付けを受け,Bは,平成4年5月25日,同銀行に対し,山京の上記債務について連帯保証をした。
同銀行は,山京が平成5年7月31日分以降の分割返済金の支払を怠ったため,担保に供していた不動産について競売を申し立て,平成13年8月2日,期限の利益の喪失を山京に通告するとともに,平成15年3月12日,リンデン・ウッドに対し,本件債権を譲渡した。
(3) 被告は,平成15年3月12日,リンデン・ウッドから,本件債権の回収についての委託を受け,債権管理・再生チームのCがその担当者となった。
(4) 山京は,経営が悪化し,約10年間にわたり,会社の清算に向けて,不動産を任意売却するなどしながら,会社規模の縮小と借入金の返済を行った結果,平成15年ころには,無担保の債務として,ユーエフジェイ信託銀行株式会社(現・三菱UFJ信託銀行株式会社,以下「三菱UFJ信託銀行」という。)に対する約42億円,ムーア・グループに対する約19億円,日本政策投資銀行に対する約3億6000万円の各債務を負っていた。
(5) 山京は,債権回収業務を委託された被告が東京所在の会社であることもあって,同年3月下旬ころ,本件債務に関する返済方法等の交渉,和解等について,原告に委任した。もっとも,その際,その旨の委任状は作成されなかった。
そして,原告は,同年4月3日,Bとともに被告本社を訪れ,Cに対し,山京の財務書類と和解提案書を提出して和解交渉をした。Bは,Cに,「清算/貸借対照表」(乙1)を示して山京の状況報告をするとともに,「申し入れ書」(乙2)を交付して,債権額に応じて按分して返済する旨のいわゆるプロラタ案による和解案を示し,主債務者である山京が,配当額として426万4000円を支払うとともに,保証人であるBが拠出する500万円を按分して,三菱UFJ信託銀行に対して460万9852円,リンデン・ウッドに対して39万0148円を支払い,リンデン・ウッドに対して合計465万4148円の支払をすることで,残債務の免除を受けることを求めた。これに対し,Cは,保証人であるBが拠出する上記500万円を債権額に応じて按分する旨の提案を,三菱UFJ信託銀行に対する弁済を約500万円上乗せするものと捉えて,一桁違うなどと述べ,リンデン・ウッドに対する債権についても500万円の上乗せを求めて,山京の上記和解案を拒否した。
(6) 原告は,平成15年5月7日ころ,Cと電話で話をしたが,その際,Cは,原告に対し,同年4月3日の面談の際に,山京が1000万円を支払うと述べた旨主張して,その支払を迫った。これに対し,原告は,事実関係についてBと確認した上,そのような提案をした事実はないなどとして,これを拒否した。
(7) 平成15年8月18日,リンデン・ウッドは,東京地方裁判所に対し,山京を債務者,山京の取引銀行7行を第三債務者として,債権仮差押命令を申し立て,同月26日,同裁判所から仮差押決定を受けた(同裁判所平成15年(ヨ)第3308号)。
Bは,取引銀行から仮差押えがされた旨の連絡を受けたため,原告に,対応を相談したところ,原告は,仮差押えや本裁判等を阻止することはできず,争うべき事案でもないと説明し,いずれ被告も同年4月3日の山京の提案額を超える額の回収ができないことが分かるものと考え,ひとまず静観する方針を示した。
(8) Cは,平成15年10月ころ,Bに直接電話をかけて,原告に債務整理等の事務を委任していることを非難するなどの行動に出たため,Bは,本件債権の譲渡人である日本政策投資銀行の札幌支店の担当者に連絡し,被告の取立方法等についての指導等を求めた。それを受けて,上記札幌支店の担当者は被告に電話を入れて善処を求めた。
(9) リンデン・ウッドは,平成15年10月8日,東京地方裁判所に対し,山京及びBを被告として,本件債権及び保証債務履行請求権の6569万1780円及びうち5000万円に対する同月1日から支払済みまで年14.5パーセントの割合による金員を連帯して支払うことを求める譲受債権請求訴訟を提起した(同裁判所平成15年(ワ)第23056号)。山京及びBは,上記訴訟の追行について,原告に訴訟委任し,原告が訴訟代理人として応訴した。原告は,同年11月下旬ころ,Bに和解には応じないことを報告し,当初からの方針どおり訴訟においては争わないこととしたため,結局,東京地方裁判所は,同年12月26日,リンデン・ウッドの請求をすべて認容する旨の判決をし,同判決は確定した。
他方,Bは,同年10月末ころ,医師から狭心症と診断され,同年12月には入院して,冠動脈バイパス手術を受けるなど,リンデン・ウッドとの交渉等に関して協議できる健康状態にはなかった。
(10) その後,原告とBは,Bの体調が落ち着いた平成16年春ころから,本件債務に関する対応を再度協議した結果,基本的には事態を静観する方針を維持しつつも,被告が債務名義を取得しても債権額の按分によってはほとんど債権回収ができないことを理解させることが必要と考え,同年5月ころ,債権者であるDに山京の預金債権の差押えを申し立てるように働きかけ,その結果,札幌地方裁判所が実施した同月18日の配当期日においては(平成16年(リ)第348号),上記Dが配当加入したことによって,リンデン・ウッドに対する配当額は手続費用を除くと2811円にとどまった。
このように,被告は,本件債権の回収について,手詰まりになって,その後,何らの措置もとることなく経過した。
(11) 山京は,決算期が7月であったため,山京は,平成16年8月2日,被告に宛てて決算処理に必要な本件債務の同年7月31日現在の残高証明書の発行依頼書を発送した。被告は,同年8月3日,被告の書式により残高証明書を作成して,そのころ山京に送付された。
上記のとおり,被告は,本件債権の回収について手詰まり状態になって何らの措置をとることもなく経過していたが,Cは,山京から残高証明書の発行依頼を受けた機会を利用して,同月4日,Bに対して電話をかけ,原告を通さず直接に和解の話を持ち掛けた。
Bは,かねてから,被告が債務名義を取得しているため動産執行等の可能性を懸念し,その不安を解消するために,本件債務について被告との間で和解をして,全面的な解決を図ることを希望していた。そのため,原告に連絡するこことなく,直ぐさまこれに応じることとし,同月19日には,東京にある被告の本社に赴き,Cとの間で支払額の交渉を行うなど,和解に向けての話合いを行った。
その後,BとCとの間で交渉を重ね,結局,山京とリンデン・ウッドは,平成17年3月16日,本件債務について山京に支払義務があることを認め,和解金として同年4月末までに800万円を支払い,これを条件にリンデン・ウッドが残債務を免除することを内容とする本件和解契約を締結した。Bは,原告に伝えれば,当初提示した約500万円を超える額での上記和解交渉が原告の方針とは異なるものであって当然制止されるものと思い,原告に何らの相談をすることなく,本件和解契約を締結したものであった。
(12) 原告は,本件和解契約の締結後,Bからの報告で,ようやくその事実を知るに至った。
原告は,被告が原告を除外して本件和解契約を締結したことがサービサー法上問題があると考え,その交渉を担当した被告やその倫理担当取締役である弁護士らに対し,経緯に関する質問等を行った。
これに対し,被告は,代表取締役A名義の平成17年5月30日付け「ご報告」(甲12)と題する書面によって,「平成16年8月4日,突然,B氏から弊社担当者に電話連絡があり,残高証明書の交付依頼,さらに和解による解決の申出がありました。」などという事実の経過を記載した上,本件和解契約の締結についてはサービサー法に係る問題はないと判断している旨の回答をし,被告の取締役弁護士E名義の「質問書の件」(甲13)と題する書面によって,調査の結果,上記「ご報告」と題する書面と相違する事実はなかったとした上で,「さらに,当職が調査したところによれば,当社担当者に対する電話も,面談の申出も,債務者から行うなど,その後の和解交渉を債務者が自ら自発的かつ積極的に進めていた状況が十分窺われる」などとして本件和解契約の締結がサービサー法に照らして問題ない旨の回答をした。
2 原告は,山京との間で,本件債務に関する返済方法等の交渉,和解等について,受任したところ,平成16年8月の時点においても,委任関係は存続していたと主張し,他方,被告は,前記譲受債権請求訴訟の判決確定や山京が直接和解交渉を行ったことによって委任関係は既に解消していた旨主張するので,検討する。
前記認定によれば,原告は,山京との間で,平成15年3月下旬,本件債務に関する返済方法等の交渉,和解等について,受任したが,その際には,委任状等の書面を作成することはなかったものの,原告は,その委任に基づき,Bとともに,同年4月上旬,被告の本社を訪れ,和解交渉を行ったこと,同年5月ころ,和解条件に関して,被告の担当者のCと電話でやりとりをしたこと,同年8月になって,山京がリンデン・ウッドから債権仮差押えを受けた際,原告は山京に対し静観する方針を伝えたこと,同年10月,リンデン・ウッドから山京及びBが譲受債権請求訴訟を提起されたが,それについては,山京及びBから訴訟委任を受けて,訴訟代理人としてそれに応訴したこと,平成16年春ころ,山京と対策を協議して,静観する方針を維持するとともに,他の債権者に働きかけて,債権差押命令を申し立てさせたことなど,本件債務に関する返済方法等の交渉,和解等について受任した弁護士として具体的な事務処理を行っていたが,同年8月ころまでに,原告が辞任したり,山京やBから解任された形跡は窺われないから,同年8月ころの時点においては,原告と山京やBとの委任関係はなお存続していたものというべきである。この点について,証人Cは,Bに対し,原告との委任関係を確認したところ,Bが原告を解任する旨述べたと供述し,債務者交渉録(乙3)にも,それにそう記載があるが,サービサー法の規定に照らしても,弁護士の代理権が消滅したかどうかは債権回収に従事する者にとって最も重要な確認事項の一つであるにもかかわらず,Cは,その後,解任を証する書面の提出を求めることもせず,解任の確認をしたこともないと述べているのであるから,上記供述は信用できない。
被告は,譲受債権請求訴訟の判決が確定したことによって,原告と山京やBとの委任関係は解消されたものと主張するが,そもそも,原告は,上記譲受債権請求訴訟の訴訟委任とは別に,本件債務に関する返済方法等の交渉,和解等について受任したものであって,訴訟委任ですら,判決手続のほかに執行手続等についても訴訟代理権が及ぶとされているのであるから,判決の確定によってその委任関係が消滅するいわれはない。
被告は,また,山京が直接和解交渉に及んだことから,委任関係は消滅したものと主張するが,上記のとおり,山京やBが原告を解任した形跡は窺われない上,前記認定のとおり,山京が直接和解交渉を始めたのは,被告の担当者Cが原告を除外して和解を働きかけた結果であるから,被告の主張は失当というほかはない。
そうすると,被告は,本件債権の回収について手詰まり状態になって何らの措置をとることもなく経過していたところ,山京から残高証明書の発行依頼がされた機会を利用して,被告の担当者であるCは,平成16年8月4日,Bに対して電話をかけ,本件債務に関する返済方法等の交渉,和解等について受任していた弁護士である原告を除外して和解の話を持ち掛け,債権回収を図ったことは,サービサー法18条8項に違反するものというべきである。なお,本件においては,前記譲受債権請求訴訟の判決が確定しているが,判決が確定したことによって,債権の回収において,債務者の保護を図る必要性が全くなくなるものではないから,上記判決が確定していたことをもって,受任者である弁護士を除外して債務者に和解の話を持ち掛けて債権回収を図ったCの行為を正当化することはできない。
被告は,CがBに電話をかけたのは,山京から依頼された残高証明書の書式や遅延損害金も含めるかどうかについて確認するためであり,Bから任意に和解を持ち掛けられたなどと主張し,これにそう証人Cの供述も存するが,そもそも残高証明書の発行依頼は決算手続を行う際に取引先等に対して一律に行うものであり,それについて何らかの電話連絡が必要とは到底考えられないばかりか,債務者交渉録(乙3)にさえも,書式や遅延損害金を確認した旨の記載など全くないのであるから,採用の限りではない(なお,被告は,原告からの照会に対し,代表取締役あるいは取締役弁護士名義で,債務者から電話をかけてきた旨の回答をしている(甲12,13)が,どのような社内調査に基づくものかも定かではなく,証人Cの証言や債務者交渉録(乙3)の記載とも全く矛盾した内容であって,到底信用できるものではない。)。
3 次に,原告は,債務者が法的手段をとった後の接触禁止を規定するサービサー法18条8項の趣旨は,債務者の保護を第一義的目的としていると同時に,受任者である弁護士の地位を保護するものであるから,被告による同条項違反の行為は,同法によって保護されている受任者としての原告の地位を侵害するものであって,原告に対する不法行為を構成すると主張するので,検討する。
サービサー法は,いわゆる特定金銭債権の回収が喫緊の課題になっている状況のもとで,弁護士法の特例として,債権回収会社に債権回収を行うことを認めるとともに,債権回収会社の業務の適正を確保して,国民経済の健全な発展に資することを目的とするものであって(同法1条),同法の18条8項も,債務者が特定金銭債権に係る債務の処理を弁護士に委任した場合などには,正当な理由がないのに,当該債務者に対し,訪問し又は電話をかけて,当該債務の弁済を要求することを禁止して,債務者の私生活ないし業務の平穏を確保して債務者を保護する趣旨の規定である。したがって,同条項の規定は弁護士の業務を保護したり,弁護士に対して何らかの法的利益等を付与したものとは解されず,債権回収会社が同項に反して債務者に対し直接弁済を要求する行為に及んだとしても,そのことから直ちに弁護士に対する関係で不法行為を構成するものとは認められない。
また,原告は,被告が原告を除外して直接Bに連絡を取って交渉を行い和解契約を締結した行為が,原告の委任契約上の受任者としての地位を侵害するものとして,不法行為を構成すると主張する。しかしながら,委任契約あるいは準委任契約においては,委任者が自ら事務処理を行うことを禁止したり,委任事務に関して相手方が委任者本人と交渉することを禁止したりはしておらず,このことは受任者が弁護士である場合も同様であるから,Cが山京の代表取締役であったBに対し,和解を持ち掛けたこと自体が受任者の地位を侵害するものとはいえない。そして,前記認定のとおり,委任者である山京の代表取締役であったBは,自らの判断で受任者である原告に相談することなく,本件和解契約を締結したものであるから,被告が山京と本件和解契約を締結したことが原告の受任者としての地位を侵害したものともいえない。また,原告は,委任契約上の債権が侵害されたとも主張するが,前記認定のとおり,原告は,もともと約500万円程度を超えた和解はしないとの方針で,被告との交渉に臨んでおり,その後も,その方針を変更することなく,被告の債権回収を静観していたり,被告の配当額を少額にするために他の債権者に配当加入を働きかけるなどしていたのであって,原告の方針による被告との和解は著しく困難な状況であったのであるから,被告が山京と本件和解契約を締結したことによって,いわゆる成功報酬に相当する報酬請求権や報酬に対する期待権を侵害したものともいえない。
したがって,被告に原告に対する不法行為が成立するものとは認められない。
原告の上記主張は採用できない。
4 よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 阿部潤 裁判官 中里敦 裁判官 安見章)
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