判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(256)平成22年 3月 5日 東京地裁 平20(ワ)406号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(256)平成22年 3月 5日 東京地裁 平20(ワ)406号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年 3月 5日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)406号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2010WLJPCA03058002
要旨
◆原告が、訴外会社との間で、訴外会社の委託に基づいて原告が行った大口顧客の紹介に対し報酬を支払う旨合意したとして、訴外会社の債務を承継した被告a社に対し、上記合意に基づく報酬の一部及び支出した費用の支払を求め、訴外会社の代表者であった被告Y2が原告に虚偽の事実を欺罔する等して原告に損害を被らせたとして、被告Y2に対し、民法709条に基づき、被告a社に対し、会社法350条に基づき、損害賠償を請求する等した事案において、原告主張の報酬合意がされたとは認められず、原告主張の費用を支出したとする各業務は、いずれも訴外会社からの委託に基づいて行った業務であるとは認められないとして、また、被告Y2が原告代表者を欺罔したとは認められないとして、原告の主張を棄却した事例
参照条文
民法648条1項
民法650条1項
民法709条
会社法350条
商法14条
裁判年月日 平成22年 3月 5日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)406号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2010WLJPCA03058002
東京都足立区〈以下省略〉
原告 日本ロードサービス株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 柴田敏之
同 澤口秀則
同 高橋伴子
同 中村誠
東京都千代田区〈以下省略〉
ティーエフエム・インタラクティブ株式会社(以下「TFM」という。)訴訟承継人
被告 ジグノシステムジャパン株式会社(以下「被告ジグノ」という。)
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 佐藤りえ子
同 谷垣岳人
同 鬼頭政人
東京都杉並区〈以下省略〉
被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
同訴訟代理人弁護士 宮岡孝之
同 迫野馨恵
同 鈴木健三
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 株式会社エフエム東京(以下「被告FM東京」という。)
同代表者代表取締役 C
同訴訟代理人弁護士 溝呂木商太郎
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告らは,原告に対し,連帯して4億9017万6000円及びこれに対する平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,東日本電信電話株式会社(以下「NTT東日本」という。)及び西日本電信電話株式会社(以下「NTT西日本」といい,併せて「NTT」という。)が推進するフレッツフォン(テレビ電話)普及促進事業(以下「本件普及促進事業」という。)に関し,(1)TFMとの間で,TFMの委託に基づいて原告が行った大口顧客の紹介に対し10億円の報酬を支払う旨合意したとして,また,TFMの委託に基づいて原告が行った上記事業に関する作業において費用を支出したとして,TFMの債務を承継した被告ジグノに対し,上記合意に基づく報酬の一部である3億8300万円及び支出した費用計5572万6000円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求め,また,(2)TFMの代表者であった被告Y1が原告に対し上記事業についてNTTから特別の委任を受けているとの虚偽の事実を述べて欺罔する等して原告に計4億9017万6000円の損害を被らせたとして,被告Y1に対し,民法709条に基づき,被告ジグノに対し,会社法350条に基づき,それぞれ4億9017万6000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,さらに,(3)被告FM東京において被告Y1らに対し上記事業の際に被告FM東京のロゴ等の入った名刺を使用することを許諾したことにより原告は被告FM東京が上記事業に携わることになったと誤信したとして,被告FM東京に対し,商法14条に基づき,上記(2)と同様の請求金額の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は,路上における故障,事故車の処理,牽引等のロードサービス及びETC普及促進事業を業とする株式会社である。
イ TFMは,平成13年7月に設立された通信ネットワークを利用した各種情報提供サービス及び通信機器の販売を業とする株式会社である(乙ハ3)。
ウ 被告Y1は,TFMの設立時から平成20年6月まで同会社の代表取締役であった者である。
エ 被告ジグノは,平成21年1月1日にTFMを吸収合併した株式会社である。
オ 被告FM東京は,ラジオ放送などの放送事業を業とする株式会社であり,TFMの筆頭株主である。
(2) 本件普及促進事業に関する経過
ア 被告Y1は,本件普及促進事業を行うことを模索していたところ,平成17年11月9日,原告代表取締役A(以下「原告代表者」という。)との間で,本件普及促進事業に関する話合いを行った。
イ 原告代表者は,同月16日,被告Y1に対し,日本郵政公社の副総裁であったD(以下「D」という。)を紹介した。
ウ 原告代表者は,同年12月8日,被告Y1と面談した。
エ 原告とTFMは,平成18年1月15日付けで,TFMが推進する本件普及促進事業に関し原告がオフィシャルパートナーとして協同事業を実施することを目的とする覚書(以下「甲12覚書」という。甲12)を作成した。
オ 原告とTFMは,同年6月22日,本件普及促進事業の推進を目的とした新事業会社(以下「新事業会社」という。)の設立を視野に入れた本件普及促進事業に関する基本合意書(以下「甲20基本合意書」という。甲20)を作成し,また,同日,TFM及び新事業会社が原告に支払う報酬を開通及び設置が確認がされた光ファイバー回線(Bフレッツ)1回線ごとに1万円とする旨等が記載された報奨金支払いに関する覚書(以下「甲21報酬覚書」という。甲21)を作成した。
カ 原告とTFMは,同年9月27日,TFMが原告に対し1700万円(消費税込みで1785万円)を支払う旨の覚書(以下「甲19覚書」という。甲19)を作成し,同年10月5日,TFMは原告に対し1785万円を支払った。
キ TFMは,平成19年2月8日,原告に対し,フレッツフォンの販売取次等を委託する旨の契約書(甲22)を交付したところ,その数日後,NTT自身が,フレッツフォンの新機種であるVP100(甲23)の発売を発表した。
(3) 本件名刺の作成
TFMは,平成18年1月ころ,被告FM東京のロゴ「TOKYO FM」及び周波数「Just Me,Just80MHZ」が記載され,フレッツフォンステーション設立準備室との所属等が記載された被告Y1,原告代表者及び原告従業員らの名刺(以下「本件名刺」という。)を作成して交付した(甲14)。
(4) 被告ジグノの吸収合併
被告ジグノは,平成21年1月1日,TFMを吸収合併した。
2 争点
(1) 被告Y1の原告に対する大口顧客の委託及び10億円の報酬合意の有無
(2) 各費用償還請求権の有無
(3) 被告Y1の詐欺行為等及び原告に生じた損害の有無
(4) 名板貸人の責任の発生の有無
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告Y1の原告に対する大口顧客の委託及び10億円の報酬合意の有無)
(原告の主張)
ア 被告Y1は,平成17年11月9日,原告に対し,本件普及促進事業に関し,大口顧客の紹介を委託し,また,同年12月8日,原告との間で,主として原告がTFMに対し大口顧客を紹介することの対価として,原告に対し10億円を平成18年3月末日から同年12月末日まで各月1億円ずつ支払う旨合意(以下原告主張のかかる合意を「10億円の報酬合意」という。)した。
イ 上記10億円の報酬合意は,新事業会社設立による本件普及促進事業からの収益及びNTTから得られるフレッツフォンの拡販インセンティブ収益とは別個である。
上記10億円の報酬は,被告Y1がNTTから特命を受けた機密事項であるとの被告Y1の意向により,契約書を作成していない。
被告Y1は,10億円の債務の確認と履行要求をした原告に対し,原告の会議室のデスクを叩きながら約束は必ず履行する旨大声で述べた。
ウ しかし,TFMは,原告に対し1785万円しか支払っていないから,原告はTFMの債務を承継した被告ジグノに対し,10億円の一部である4億円から既払いの1700万円を控除した3億8300万円の支払を求める。
(被告らの主張)
ア 10億円の報酬合意は否認する。
イ 被告Y1及びTFMは,原告による顧客の紹介等の協力によって実際に得られた収益の中から報酬を与えることを考えていたが,顧客の紹介に対し独立して対価を支払う旨述べたことはない。
被告Y1は,大口顧客について紹介してもらえたら有り難いとは述べたものの,委託したことはなく,原告は債務の履行としてではなく,フレッツフォンの拡販インセンティブを得るために紹介を行ったにすぎない。TFMは,甲20基本合意書及び甲21報酬覚書において,フレッツフォンの開通確認が行われた際の拡販インセンティブのみが原告への支払の対象であることを明らかにしており,他方,10億円の報酬合意については契約書が作成されていない。
大口顧客の紹介するというだけで,実際に紹介を行う前に月々1億円ずつ支払うような契約は,経済的に不合理である。
ウ TFMが甲19覚書により原告に対し1785万円支払うとした理由は,原告から紹介を受けた日本郵政公社から実証実験の受注を受けてTFMがリース料を取得したことから成功報酬を与えること,及び,当時TFMには原告に対し未回収の売掛金1716万円があったことからその返済原資に充てることである。
(2) 争点(2)(各費用償還請求権の有無)
(原告の主張)
ア フレッツフォンステーション設立準備室の賃料等(4152万6000円)
被告Y1は,TFMとNTT東日本本社との中間地点に位置するaビルにフレッツフォンステーション設立準備室を設置したいと要求した。
原告は,被告Y1からの上記委託に基づき,フレッツフォンステーション設立準備室を設置するために,aビル33階のBブロック(326.87平方メートル)を賃借し,平成18年5月1日から平成19年4月30日までの12か月間,毎月,賃料275万2500円及び共益費70万8000円を支払った。
イ 人件費(900万円)
原告は,TFMからの委託に基づき,フレッツフォンステーション設立準備室の担当者として,原告の従業員9名を,原告の業務を免除して就労させ,計900万円の人件費を支出した。
ウ コールセンター準備費用(520万円)
原告は,平成18年4月18日,E,TFMのF部長及びG取締役から,原告の北千住オフィス内で本件普及促進事業に係るコールセンター業務を行うよう委託された。
原告は,上記委託に基づき,フレッツステーションサポートセンターを設置し,その開発準備にかかる費用として520万円を支出した。
(被告らの主張)
ア フレッツフォンステーション設立準備室の賃料等について
原告が賃借したとする場所は平成19年4月3日までの原告の登記簿上の本店所在地であるから,本店事務所の移転にすぎず,本件普及促進事業に関するものではない。
イ 人件費について
原告の従業員は,原告の業務も行っていた。
ウ コールセンター準備費用について
TFMが原告に対しコールセンター業務を委託したことはない。
仮にコールセンターがあったとしても,それは原告のロードサービス業務におけるコールセンターにすぎず,また,端末機器等の知識を要するフレッツフォンのコールセンター業務をNTTの実施する研修を受けていない原告において自力でトレーニングを行うことはできない。
(3) 争点(3)(被告Y1の詐欺行為等及び原告に生じた損害の有無)
(原告の主張)
ア 被告Y1の詐欺行為
(ア) 被告Y1は,本件普及促進事業に関し,NTTから特別の委任を受けていないにもかかわらず,受けているかのように述べて,原告を錯誤に陥らせて本件普及促進事業に関する業務を行わせ,原告に対し,上記(1)の報酬,上記(2)の費用及び後記イの立替金の計4億9017万6000円の損害を被らせた。
(イ) 被告Y1は,原告に対し,本件普及促進事業においては大口顧客の獲得が最重要課題である旨述べていた。
(ウ) 被告Y1は,原告に対し,NTTのフレッツフォン事業と光ファイバー事業を統括していたNTT東日本の代表取締役副社長H(以下「H副社長」という。)と親密である旨述べ,また,NTTがフレッツフォン事業に1兆円規模の広告及び販促予算を充てて展開しようとしていることや歌手のIのCMを平成19年春ころから放映開始する予定であることなど通常では知り得ない事業上の秘密を述べ,原告を信じ込ませようとした。
(エ) 被告Y1は,原告及びその関連会社である日本ビレッジ協議会を事業パートナーに選定する旨等記載された平成18年3月30日付け書面を作成し,これをNTT東日本に提出したとして,原告に交付し,NTTの承認を得たかのように振る舞った。
(オ) 被告Y1が平成19年2月8日付けの販売取次契約書を原告に交付した数日後にNTT自身が新機種であるVP100の発表を行っているところ,同発表はTFMを無視しており,TFMは同発表を把握できておらず,TFMは廉価なVP100(2万9400円)が販売される数日前に高価なVP1000(6万2790円)の販売取次契約を求めており,また,VP1000は現品限りの商品であることから,被告Y1は原告に在庫処分をさせようとしていたといえる。
被告Y1は,原告がそれまで行ってきた仕事が原告及びTFMの協同出資による新事業会社の設立などではなく,実は単なるフレッツフォンの販売取次にすぎなかったとの外形を作出しようと画策し,上記販売取次書を交付した。
(カ) TFMの取締役であったE(以下「E」という。)は,平成19年2月19日,原告に対し,被告Y1の詐欺行為を記載した内部告発文書(以下「甲1告発文書」という。)を提出し,原告はTFMのすべての取締役及び監査役に対し上記告発文書に基づき作成した通知書を送付したが,被告Y1は,かかる通知書をNTTから出向していた役員には一切見せずに隠蔽した。
(キ) 被告Y1は,原告に対し,株式を額面価額で譲渡して純資産価額との差額である750万円を原告代表者に懸案事項の解決のためとして支払う旨提案した。
イ ハイウェイパスポートの債務の立替金(5145万円)
原告が出資する株式会社ハイウェイパスポート(以下「ハイウェイパスポート」という。)は,TFMに対し,ラジオ広告出稿料として5145万円の未払債務があった。被告Y1は,被告FM東京の信任を得るために原告に対し上記債務の立替払いを強要し,原告にこれを支払った。
(被告らの主張)
ア 被告Y1の詐欺行為は否認する。
イ VP100はテレビ電話のみの機能を有するのに対し,VP1000はこれに加えてインターネット接続及び電子メール等の機能を有しているから,機能が大幅に異なっており,VP100の発表によりVP1000の販売がそれほど阻害されるものではない。
ウ 被告Y1は,NTTからVP1000,1500の販売取次を委任されていたから,虚偽の説明を行ったとはいえない。
(4) 争点(4)(名板貸人の責任の発生の有無)
(原告の主張)
ア TFMは,原告代表者らに対し本件名刺を交付し,本件普及促進事業において使用させ,営業を行う日本郵政公社等にも提出させた。
イ 本件名刺は,被告FM東京が本件普及促進事業を推進しているかのような外観を策出するものであった。
ウ 原告は,本件名刺により,被告FM東京が本件普及促進事業に携わることになったと信じた。
エ 被告FM東京は,TFMに対し,自己の商号を使用して本件普及促進事業を行うことを許諾していた。
(被告FM東京の主張)
エは否認し,アないしウは知らない。
第3 当裁判所の判断
1 事実認定
(1) 平成17年12月8日の面談までの経過
TFMは,NTTから本件普及促進事業における営業推進を委任されていた(乙ハ3)。被告Y1と原告代表者は,平成17年11月9日,aビル30階の原告本店事務所において,本件普及促進事業について,原告がTFMと提携して協同して本件普及促進事業の営業推進を行う旨の話し合いをした(甲43)。被告Y1は,かかる話し合いの際,NTTから本件普及促進事業における営業推進を委任されている旨,本件普及促進事業においては大口の取引先の開拓が重要な課題であり,原告において大口顧客を紹介してくれると有り難い旨述べ,被告Y1と原告代表者は,本件普及促進事業について新事業会社を設立するとの話し合いをした(甲43,乙ハ3)。
被告Y1は,同月16日,原告代表者から,日本郵政公社の副総裁であったDを紹介され,日本郵政公社におけるフレッツフォンの導入を提案し,同月29日,日本郵政公社会議室において,NTTのH副社長を同行した上,フレッツフォンのデモンストレーションを行った(甲10,43,乙ハ3)。また,原告は,それ以降も,TFMに対し,トヨタホーム株式会社,日本文化再生議員連盟会長久間章夫議員,東京都足立区,静岡県知事,株式会社セントラルファイナンス,北米トヨタのJ社長等を紹介した(甲13,27)。
原告は,地方自治体等の公共機関を対象に含めた本件普及促進事業及び新事業会社の設立等を内容とする同年12月8日付け基本構想書(甲11)を作成した。
原告代表者は,同年12月8日,原告の本店事務所において被告Y1と面談し,本件普及促進事業に関する話し合いを行った。
(2) 面談後の経過及び書面の作成
原告とTFMは,平成18年1月15日付けで甲12覚書を作成した。同覚書には,原告とTFMは本件普及促進事業に関し協同事業を実施すること,将来TFMを中心にフレッツ事業の拡大を目的とする新事業会社の設立を検討すること,原告とTFMはそれぞれ得意分野において本件普及促進事業を担っていくこと,新事業会社の設立に至る前に一定の商業的成果を得た際には成果の配分に関し互いに協議することが記載されている(甲12)。
原告は,同年3月ころ,本件普及促進事業に関する5か年の販売計画の概要を記載した書面(甲16)及び収支計画の概算を記載した書面(甲17)を作成した。
TFMは,同月30日ころ,NTTに対し,本件普及促進事業における新事業会社の設立について,事業パートナーとして原告を選定した理由を補足する旨の書面(甲18)を提出し,また,同月ころ,同書面を原告にも交付した(甲43)。
原告とTFMは,同年6月22日付けで,甲20基本合意書及び甲21報酬覚書を作成した。甲20基本合意書には,本件普及促進事業について原告とTFMが協同すること,平成18年度内を目途に出資割合をTFM70パーセント,原告30パーセントとする新事業会社を設立し本件普及促進事業を同会社に移管すること,TFMはNTTとの折衝等の業務を,原告は自らのネットワークを活用し企画及び営業関連業務を行うこと,本件普及促進事業における原告の全面的な協力に対する報奨金については別途甲21報酬覚書を締結すること,同合意書は有効期間を1年とすることが記載されている(甲20)。甲21報酬覚書には,同覚書はTFMが原告に対し支払う報奨金(インセンティブ)の支払条件を明確にすることを目的とするものであること,役割分担として原告がフレッツフォン及び光ケーブル回線の契約申込情報の取りまとめを行いTFMが同情報に基づきフレッツフォン及び光ケーブル回線を取次及び手配するものとすること,報奨金(インセンティブ)は初年度延べ10万加入までは光ケーブル回線の開通及びフレッツフォンの設置が確認されたときに1回線につき1万円を上限に支払うこと,同覚書は有効期間を1年とすることが記載されている(甲21)。
原告代表者は,被告Y1に対し,同年9月ころ,本件普及促進事業における原告の協力支援の対価としての金員の支払を強く要求した(甲43,乙ハ3)。
原告とTFMは,同年9月27日,甲19覚書を作成した。甲19覚書には,甲20基本合意書に鑑み,日本郵政公社におけるフレッツフォン導入実証実験に至った経緯を踏まえ,また,原告の本件普及促進事業における協力支援に対するコーディネート料として,TFMが原告に対し1700万円(税込みで1785万円)を同年10月5日に支払う旨記載されている(甲19)。
(3) 平成19年以降の経過
TFMは,原告に対し,平成19年2月8日付けの販売取次契約書(甲22)を交付し,月額利用サービスによるVP1000の販売取次方式を提案した。同契約書には,原告の活動により獲得できた新規顧客の数に応じてTFMが原告に対し販売取次手数料として対応機器1台につき2万円を支払う旨記載されている。その数日後,NTTがVP100の販売を発表し,原告は上記提案を拒否した(甲43)。なお,VP100とはテレビ電話のみの機能を有する主として家庭用を想定した機種であるところ,VP1000又は1500とはテレビ電話に加えてインターネット接続及び電子メール機能等を有する業務用にも堪え得る機種であり,利用方法が異なる(乙ハ3,証人E)。
原告代表者と被告Y1は,同年5月14日,話し合いを行い,その際,被告Y1は原告代表者に対し同月付けの覚書案文(甲24)を交付した。同覚書案文には,日本郵政公社において導入実証実験を行っていたフレッツフォンのテレビ電話会議システムにつき実証期間を同年9月24日まで延長すること,同延長期間における原告の活動に対する費用については甲19覚書の1785万円に含まれるものとすることが記載されている(甲24)。
また,その際,被告Y1は,原告代表者に対し,同月付の合意書案文(甲25)を交付し,懸案事項の解決のために被告Y1が原告代表者に対し解決金750万円を支払うことを提案した(甲25,26)。
なお,新事業会社は設立していない(証人E)。
2 10億円の報酬合意の有無(争点(1))について
(1) 原告は,平成17年12月8日の面談の際に,被告Y1との間で,10億円の報酬合意をした旨主張する。
しかし,上記10億円の報酬合意を認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告は,平成17年12月8日に被告Y1が大口顧客紹介の対価として10億円を支払うと述べた旨陳述(甲43)及び供述し,10億円を支払うとの発言を聞いたとのKの陳述書(甲28)及び多額の報酬を支払うとの発言を聞いたとのJの陳述書(甲27)を提出する。
ア しかし,上記1(1)ないし(3)認定の事実によれば,原告とTFMは,甲12覚書等において本件普及促進事業を協同して行う旨合意しており,かかる合意に基づいて原告はTFMに対し大口顧客の紹介及びその他の業務を行っているといえるところ,かかる協同事業における原告の業務に対する報酬について,甲12覚書では新事業会社の設立前は一定の商業的成果を得た場合に協議により配分するとされ,甲20基本合意書では新事業会社の出資割合をTFM70パーセント,原告30パーセントとすることとされ,甲21報酬覚書ではTFMが原告に支払う報奨金はフレッツフォン及び光ケーブル回線の開通及び設置確認時に1回線ごとに上限1万円とされ,甲19覚書では日本郵政公社において実証実験に至った経緯を踏まえて原告の協力支援に対するコーディネート料として1785万円支払うものとされており,これらの書面の作成において原告代表者が異議を留めたとの事情はなく,そのほかに原告とTFMとの間で報酬に関する書面は作成されていない。
これらの事実からすれば,本件普及促進事業において原告が受ける報酬ないし利益は,上記各書面に記載されているフレッツフォン等の販売及び設置等がされた場合の販売インセンティブ及び新事業会社を設立した場合の同会社の収益の分配によるものとされ,新事業会社設立前においては一定の商業的成果を得た場合に限りその分配を行うことが予定されていたことがうかがわれるところであり,コーディネート料として原告に対し1785万円を支払うとする甲19覚書があるものの,これを超えて顧客の紹介業務に対する報酬合意を裏付ける証拠はない。
原告は,契約書が作成されていないのは機密事項とする被告Y1の意向である旨陳述するが,これに反して上記のとおりその後に原告及びTFM間で報酬に関する複数の書面が作成されている。
イ また,総額10億円あるいは月額1億円という極めて多額の合意であるのに金額に具体的な算定根拠がなく,行われた業務内容や成果に関わらず平成18年3月から毎月1億円ずつ支払うという支払方法自体も不自然であるといえるところ,この点を合理的に説明できる事情は見当たらない。
ウ さらに,同月以降平成19年6月12日付けの通知書(甲2)の送付に至るまでに原告において書面により10億円の支払を催告をしたとの事情はない。
エ 被告Y1は,原告の金員要求に応じて1785万円を支払い,平成19年5月14日の話し合いの際に原告代表者との間の懸案事項の解決のために750万円を支払う旨提案しており,これらの事実は被告Y1において原告代表者に対し何らかの金員を支払う理由があったことを示唆するものといえるが,直ちに金額が顕著に相違する10億円の報酬合意の存在に結びつくものとはいえず,また,上記1785万円についてはTFMの原告に対する売掛金の回収目的で支払われたことがうかがわれる(甲1,乙ハ3,証人E及び被告Y1)。
オ 甲1告発文書には,被告Y1が原告代表者に拡販インセンティブを勝手に約束しながら反故にした旨記載されているが(甲1),かかる記載が顧客紹介の対価である10億円の報酬合意を反故にしたことを示すとは認められないし,また,原告が同文書の作成者であるとする証人Eは同文書には誤っている箇所もある旨証言している。
カ K及びJの陳述はいずれも顧客紹介の対価として述べたとするものではなく,後者は単に本件普及促進事業への協力に対し多額の報酬を支払うことを条件にしていると聞き及んだにすぎない。
キ これらの事情からすれば,10億円の報酬合意がされたとの原告の陳述及び供述は信用できず,また,K及びJの陳述は10億円の報酬合意を証するに足りるものとはいえない。
(3) したがって,10億円の報酬合意がされたとは認められない。
3 各費用償還請求権の有無(争点(2))について
(1) 原告は,TFMからの委託に基づき各業務を行い,費用を支出した旨主張する。
しかし,上記1(1)及び(2)認定の事実並びに証拠(証人E)によれば,TFMと原告は本件普及促進事業について協同して行う旨合意しており,甲12覚書及び甲20基本合意書にはいずれもTFMと原告がそれぞれ得意とする異なる業務を分担して行う趣旨が記載されており,これらの書面に加え甲21報酬覚書及び甲19覚書にはいずれも原告において生じた費用をTFMにおいて負担する趣旨の条項が含まれておらず,また,平成19年6月12日の通知書の送付に至るまで原告がTFMに対し原告において支出した費用の負担を求めたと認めるに足りる証拠がないことからすれば,TFMと原告との間の本件普及促進事業を協同して行う旨の契約において,各自に生じる費用については各自で負担する意思であったことがうかがわれるのであり,TFMが費用を全額負担することを前提とし,TFMのために行うとの趣旨で業務の委託がされたとは認められない。
(2) したがって,原告主張の費用を支出したとする各業務は,いずれもTFMからの委託に基づいて行った業務であるとは認められない。
4 被告Y1の詐欺行為等の有無(争点(3))について
(1) 被告Y1の詐欺行為について
原告は,被告Y1がNTTから特別の委任を受けたとの虚偽の事実を述べて原告代表者を欺罔した旨主張する。
しかし,上記1(1)ないし(3)認定の事実によれば,TFMはNTTから本件普及促進事業の営業推進を委任されていたこと,原告を事業パートナーとして新事業会社設立を意図していたことについてはNTTにもその旨説明していたこと,VP100は家庭用の簡易な機種であるのに対しTFMが原告に提案したVP1000は業務用に堪え得る機種であるから直ちに競合するものではなく,証人EにおいてもVP100はTFMの事業の外であるとの認識であったことが認められ,また,TFMにおいて新事業会社を設立できていないこと及び甲1告発文書の記載などからTFMにおいてNTTから当初想定していた範囲の権限ないし役割を取得できなかった可能性があるものということができる。また,原告は,被告Y1がNTTから特別に委任を受けているかのように述べた旨主張するが,その具体的な内容は明らかでなく,原告代表者も自分は独占的な権限であると解釈した,印象を受けた旨述べるだけであって,被告Y1が明確にTFMが委任を受けた範囲を超える権限を与えられていた旨述べたとの供述をしていない。
これらの事実からすれば,被告Y1において平成17年11月ないし12月ころ原告代表者に対しNTTから委任された範囲を超える権限を有しているとの発言をしたとは認められない。
(2) 原告は,被告Y1が,NTTのH副社長と親密な関係にあること,NTTがフレッツフォン事業に1兆円規模の予算を充てていることなどを述べた旨及び原告作成の通知書(甲2)を隠蔽した旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。また,原告は,被告Y1がIのCMの予定があると述べた旨主張し,かかる事実は甲1告発文書にも記載されているが(甲1),仮にかかる発言があったとしても直ちに被告Y1においてNTTから委任された権限の範囲について虚偽の事実を述べたと認められるものではない。
(3) したがって,被告Y1においてNTTから受けた委任の範囲について原告代表者を欺罔したとは認められない。
(4) ハイウェイパスポートの債務の弁済の強要について
原告は,ハイウェイパスポートがTFMに対して負っていた債務について,被告Y1が原告に対しかかる債務の弁済を強要し,これにより原告は同債務を弁済したが,ハイウェイパスポートが休眠状態で回収できず,同額の損害を被った旨主張するが,原告がかかる弁済を行ったことについて,被告Y1が不法行為を構成する行為を行ったと認めるに足りる証拠はない。
5 以上のとおり,争点(4)について判断するまでもなく原告の請求にはいずれも理由がないから棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 笠井勝彦 裁判官 三浦隆志 裁判官 沓掛遼介)
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