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判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(223)平成23年 8月30日 東京地裁 平20(ワ)29034号 損害賠償等請求事件

判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(223)平成23年 8月30日 東京地裁 平20(ワ)29034号 損害賠償等請求事件

裁判年月日  平成23年 8月30日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(ワ)29034号
事件名  損害賠償等請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2011WLJPCA08308001

要旨
◆原告らが、被告Y1健康保険組合(被告Y1組合)の理事長であったC、同理事であったD及びE並びに同組合の組合会議員であったFが、被告Y2と共謀の上、被告Y2において原告らに対し暴行、脅迫、名誉・信用毀損、業務妨害等の不法行為を行い、さらに、C、D及びFにおいて原告らに関する秘密を外部に漏洩するなどしたとして、不法行為等に基づき、被告らに対し、損害賠償の支払と謝罪広告の掲載を求めると共に、被告Y2に対しては、原告らを誹謗中傷する行為の差止めも求めた事案において、被告Y2による名誉・信用毀損、業務妨害、脅迫の事実が認められ、また同人とCとの共謀も認められるなどとして、原告らの一部に係る損害賠償請求のみを一部認容した事例
◆健康保険組合について、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条の類推適用が認められた事例

参照条文
民法709条
民法710条
民法715条
民法723条
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条
国家賠償法1条

裁判年月日  平成23年 8月30日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(ワ)29034号
事件名  損害賠償等請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2011WLJPCA08308001

横浜市〈以下省略〉
原告 株式会社X1
同代表者代表取締役 X3
東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社X2
同代表者代表取締役 X3
東京都港区〈以下省略〉
原告 X3
東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 X4
原告ら訴訟代理人弁護士 中城重光
同 生田康介
東京都豊島区〈以下省略〉
被告 Y1健康保険組合
同代表者理事長 A
同訴訟代理人弁護士 的場徹
同 山田庸一
同 服部真尚
同 大塚裕介
同 小西裕雅理
埼玉県所沢市〈以下省略〉
Bこと
被告 Y2
同訴訟代理人弁護士 内藤隆

 

 

主文

1  被告らは,原告X3及び原告X4に対し,連帯して,それぞれ330万円及びこれらに対する平成20年2月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,原告株式会社X1に生じた費用は同原告の負担とし,原告株式会社X2に生じた費用は同原告の負担とし,原告X3及び原告X4に生じた費用の100分の97,被告Y1健康保険組合に生じた費用の40分の39及び被告BことY2に生じた費用の100分の97を同原告らの負担とし,同原告らに生じた費用の100分の1及び被告Y1健康保険組合に生じたその余の費用を同被告の負担とし,同原告ら及び被告BことY2に生じたその余の費用を同被告の負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判
1  請求の趣旨
(1)  被告らは,原告株式会社X1(以下「原告X1社」という。)に対し,連帯して,1億1000万円及びこれに対する平成20年2月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)  被告らは,原告株式会社X2(以下「原告X2社」という。)に対し,連帯して,9900万円及びこれに対する平成20年2月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)  被告らは,原告X3(以下「原告X3」という。)及び原告X4(以下「原告X4」という。)に対し,連帯して,それぞれ1100万円及びこれらに対する平成20年2月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)  被告BことY2(以下「被告Y2」という。)は,自ら又は第三者をして,原告らを誹謗中傷する内容の文書記事等をインターネット上で公開する自らのブログ(URL:http://〈以下省略〉)及び今後開設するその他のホームページ又はブログに掲載する行為並びにその他不特定多数の者に触れさせるような一切の行為をしてはならない。
(5)  被告Y2は,原告X1社に対し,1100万円及びこれに対する平成20年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)  被告Y2は,原告X3に対し,550万円及びこれに対する平成20年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7)  被告らは,原告らに対し,別紙広告目録記載の謝罪広告を,朝日新聞,読売新聞,毎日新聞,日本経済新聞,産経新聞及び東京新聞の各朝刊に,同目録記載の条件で各1回掲載せよ。
2  請求の趣旨に対する答弁
(1)  被告Y1健康保険組合(以下「被告組合」という。)原告らの請求をいずれも棄却する。
(2)  被告Y2
ア 本案前の答弁
原告らの請求に係る訴えをいずれも却下する。
イ 本案の答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
第2  事案の概要
本件は,原告らが,被告組合の理事長であったC(以下「C」という。),被告組合の理事であったD(以下「D」という。)及びE(以下「E」という。)並びに被告組合の組合会議員であったF(以下「F」という。)は,被告Y2と共謀の上,被告Y2において原告らに対する暴行,脅迫,名誉・信用毀損,業務妨害等の不法行為を行い,さらにC,D及びFにおいて原告らに関する秘密を外部に漏洩する等したとして,被告組合に対して,主位的に民法709条,710条,715条及び723条又は一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団・財団法人法」という。)78条に基づき,予備的に国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償及びこれに対する不法行為の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに謝罪広告を求め,被告Y2に対して,同法709条,710条及び723条に基づき,損害賠償及びこれに対する不法行為の日の翌日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,謝罪広告並びに原告らを誹謗中傷する行為の差止めを求めた訴訟である。
1  前提となる事実等(争いがないか,又は弁論の全趣旨若しくは掲記の証拠により認められる。)
(1)  当事者
ア 原告X1社は,飲食店経営等を主な事業目的とする株式会社であり,平成5年6月から平成20年8月まで被告組合の委託を受けて,被告組合の直営保養所である神奈川県足柄下郡箱根町所在の「○○荘」の運営管理全般の業務を行っていた。
イ 原告X2社は,飲食店経営,飲食店のディスプレイ,ビル管理等を主な事業目的とする原告X1社の関連会社であり,○○荘に従業員を派遣していた。
ウ 原告X3は,原告X1社及び原告X2社の代表取締役である。原告X4は,原告X3の長男で,原告X2社の取締役であり,平成17年5月から平成20年3月までの間,被告組合の理事であった。
エ 被告組合は,原告X2社も加入している健康保険組合であり,健康保険法に基づき,組合員である被保険者の健康保険を管掌することを目的とし(同法6条),業務は理事の過半数によって決められ,理事長がこれを執行し(同法22条1項及び2項),組合会議員をもって組織される組合会が組合の事務に関する書類の検査等の権限を有している(同法20条1項)。
オ 被告Y2は,被告組合に加入している株式会社a(以下「a社」という。)の代表取締役である。被告Y2は,10年以上にわたり,Fが代表取締役である株式会社b(以下「b社」という。)の顧問も務め,同社の債権回収等を行い,毎月100万円の顧問料を受け取っていた。また,被告Y2は,原告X4及び原告X3とは○○荘の管理に関する紛争が生ずるまで全く面識がなかった。
カ Cは,被告組合に加入している株式会社c(以下「c社」という。)の代表取締役であり,平成3年に被告組合の組合会議員に就任し,平成15年8月に被告組合の理事長に就任した。
キ Dは,被告組合に加入している株式会社lの代表取締役であり,平成15年8月27日に被告組合の理事に就任し,財政改善委員会の委員長であった(甲126)。
ク G(以下「G」という。)は,平成17年5月から平成20年9月まで被告組合の組合会議員であった。
ケ Fは,被告組合に加入しているb社の代表取締役で,被告組合の組合会議員であるが,以前は株式会社日本興業銀行及びその関連会社に勤めていた(甲132)。
コ Eは,かつて社会保険庁に勤務しており,被告組合の常務理事であった。
(2)  本件以前の状況
ア 被告組合は,平成5年6月以降,原告X1社に○○荘の管理運営を委託した。
イ 平成5年から平成11年にかけて,○○荘建設に絡んで横領の疑惑が生じ,平成18年には当時被告組合の常務理事であったH(以下「H」という。)が起訴されるに至った。
ウ Dは,平成16年1月28日の被告組合の第227回理事会において,「私は実際はX1社を分かりませんが,前任のIが当時のC委員長とIがひどい仕打ちを受けたということを盛んに聞かされておりまして,私はX1社を排除すること以外考えられない。」と発言した(甲124)。
エ 被告組合は,ミサワリゾート株式会社に○○荘を視察させた上,同年5月31日,原告X1社との間での○○荘の管理委託契約の更新を拒絶し,同年8月,原告X1社に対し,○○荘の明渡しを求めて横浜地方裁判所に訴訟を提起した(横浜地方裁判所平成16年(ワ)第2841号。後に最高裁判所において,被告組合の請求を認容する判決が確定した。)。
オ 被告組合は,同年10月7日,原告X4,Gその他被告組合の組合員有志から同年9月24日付けでされた資料開示請求を拒否した。これに対して,原告X4,Gその他被告組合の組合員有志は,被告組合が議事録,決算報告書等の開示拒絶をしたこと等を理由として,同年10月20日付けで,厚生労働大臣及び東京社会保険事務局長に対し,健康保険法29条1項等に基づく指導及び命令権限の発動を求める上申書を提出した。それを受けて,厚生労働省関東信越厚生局(以下,単に「厚生局」という。)健康福祉部保健課長が,同年11月12日,組合会会議録等についての閲覧に速やかに応じるように被告組合を指導し,被告組合は,同月18日付けで,原告X4,Gその他被告組合の組合員有志の閲覧の請求に応じる旨通知した(甲21,23,24,26,27)。
カ 被告組合において,平成17年4月4日,互選組合会議員選挙が実施され,その際原告X4及びGが立候補したが,当時学識経験監事であったJ(以下「J」という。)が,原告X2社に赴き,原告X4及びGに対して,組合会議員の立候補の取下げを要請した。しかし,原告X4及びGは,立候補を取り下げず,同年5月,組合会議員に選出された。
キ 原告X4及びGは,理事又は組合会議員として活動する中で被告組合の運営について調査を行い,被告組合が法令及び規約違反を繰り返している旨の調査結果を厚生局に提出した。
厚生局は,平成17年8月,当時被告組合の理事長であったCを厚生局に呼び出し,被告組合が法令及び規約違反を繰り返していることから,法令に則った適正な事業運営ができるように組織の体制の見直しをするよう指導した。その後,Cは,厚生局に対し,同月23日に開催された被告組合の理事会で辞任する旨表明したものの理事会から慰留されたと報告した(甲122,123)。
ク 同年9月12日に開催された被告組合の理事会において,原告X4に対して理事の辞任を要求する決議が行われたが,同決議について同月14日に厚生局長から報告を求められた被告組合は,同決議を撤回するに至った(甲30,120)。
ケ 厚生局長は,同年10月14日,大正15年の健康保険法施行以来初めて,同法29条1項の規定に基づき,被告組合に対して以下の内容の命令(甲110)を発し,これが新聞等で報道された。
(ア) 不適切な予算措置となった経緯及び平成17年度の決算報告書等について調査するとともに,必要に応じ法令等に基づいた措置を講ずること。
(イ) 理事に対して,適切な組合運営のために必要な法令,規約,規程等の周知徹底を図るとともに,理事会運営を適切に実施するため理事会の会議規則等を制定すること。
(ウ) 被告組合が厚生局に対して提出した報告書等の内容について事実と異なる報告の有無について検証し,事実と異なる報告が認められた場合には,改めて事実に基づいた報告書を提出し,事実と異なった報告書を提出した理由について明確にすること。
(エ) 資金運用規程及び会計事務取扱規程を遵守していない契約等について,被告組合は総務委員会で十分な審議を行うことにより再発を防止する旨報告したが,総務委員会に関する規程が整備されておらず,委員会の役割及び体制が明確になっていない現状では再発防止策としては不十分であるため,より具体的な再発防止策を策定すること。また,委員会の整備を含めた組織体制の見直しを行うこと。
(オ) 被告組合が互選組合会議員選挙において作為的に選定議員候補者と互選議員候補者の入替えを行ったことなどにより,組合会議員選挙執行規程に違反した選挙が執行された。次回選挙を適切に執行するため,規約,規程及び選挙の執行体制の見直しを行うこと。
(カ) 被告組合は,厚生局に対し,「理事長の進退については,事務局の組織を建て直した後,辞任することを申し出たが,第241回理事会において,理事長の進退について十分審議し諮ったところ,辞任するに賛成者1名,反対者9名により慰留されました。」と報告した。しかし,被告組合においては理事長は任意に辞職でき,その申出を理事会又は組合会が拒むことはできないので,その措置について検討し適切な対応を図ること。
(キ) 被告組合は,個人情報の保護に関する法律及び個人情報保護管理規程6条の規定に基づく教育訓練を早急に実施し,個人情報等の管理について徹底を図ること。
コ Cは,平成17年11月9日,Fに紹介されて,被告Y2に会い,その際「普通の人ではない」と認識し,さらに被告Y2から裁判以外の方法で,○○荘の明渡し問題を解決する方法がある旨示唆された(甲2)。
被告組合は,同月11日,理事長専決でa社の被告組合への加入を承認した(甲131)。
サ 平成18年1月16日頃,被告組合が保有する個人情報(○○荘支配人Kの健康保険被保険者資格取得届の写し)が被告Y2によって保有されていることが発覚し,厚生局長は,同年2月17日,被告組合に報告を求めた。被告組合は,同月24日付けで,厚生局長に対して,L前常務理事の依頼を受けた前事務次長が,平成16年9月24日,健康保険被保険者資格取得届のコピーを担当課長に作成させ,L前常務理事に手渡したが,その後の経緯は不明であるとの報告をした。(甲17,19)
(3)  本件の関係
ア 無言電話
被告Y2は,平成17年11月頃から,原告X4の自宅に無言電話を連続してかけるようになった(甲74,原告X3本人,被告Y2本人)。
イ Eによる情報提供
当時被告組合の常務理事であったEは,平成18年1月16日頃,被告Y2の求めに応じて,ファクシミリにより○○荘支配人Kの健康保険被保険者資格取得届の写し等を送信した(甲44,102,109)。
ウ ブログ
(ア) 被告Y2は,平成18年頃から,「【B】Y1健康保険組合」と題するホームページその他多数のブログを開設し,「(株)X1の理不尽な言動を糾弾」と題し,「『○○荘』乗っ取り事件」,「○○荘管理契約に不正疑惑」,「経理不正事件(11億円)に続く,2.4億円の垂れ流し」,「『(株)X1の管理責任欠如問題』○○荘備品,絵画数十点の盗難横領事件が発生!総額2千3百万円が未だ未回収」などの記事を掲載した(甲15,33ないし40)。
(イ) 被告Y2は,平成18年,原告X2社に所属する原告X4及びGを含む3名の健康保険被保険者資格取得届をインターネットのホームページに公開した(甲16,17,115)。
エ 被告組合の第94回組合会
被告Y2は,平成18年1月24日,被告組合の第94回組合会を傍聴したが,その際,ヤジを飛ばし,Gに対し,「あんたの100m横に住んでいる。」,「△△d丁目だろ。」,「娘と一緒にパンツを干している。」,「あんたを支援するために皆近くに住んでいるんだよ。」などと発言し,同組合会は一時中断した(甲2,5,7の2,3,甲9,10,105)。
同組合会の再開後,被告Y2は,議事を進行させようとする組合会議員らに対して,「俺を退場させてみい。腹くくって。」,「何だバカヤロー。」,「百姓」,「ハゲ」,「やかましいこの野郎。」,「くたばれこの野郎。」,「出て行けこのじじい。」,「黙れじじい。」,「くたばれ。」,「外道」,「引っ込んでろバカ野郎。」などと罵声を浴びせた。その後,議長のCは,被告Y2を会場から退出させたが,結局,同組合会は中止され,被告組合の理事会も中止されるに至った(甲2,5の1,3,甲7の2,3,甲9,10,105)。
同組合会が流会となった後,被告Y2は,原告X4及びGに近寄り,原告X4及びGに対し「お前の言うことはマトモやけど,社会では通用せんぞ。」,「これからも顔を合わせると思うけどよろしくな。」と,Gに対し「パンツを干すのを見てるぞ。」,「玄関にある自転車に・・・」などと言った(甲2,5の2,甲7の2,3,甲9,10,105)。
その後,厚生局健康福祉部保健課長は,被告組合の理事長に対して,同組合会での被告Y2の妨害行為について指摘をし,理事会及び組合会の「会議の開催時には傍聴人の取扱いについて検討すること及び警備に十分配慮することなど円滑な会議の実施のために十分な措置を講じ,理事及び議員にその措置について説明し,理解が得られるまでの間は理事会及び組合会の開催を延期すべきである。」との指導をした(甲134)。
被告Y2は,同年2月5日,被告組合に対し,「今後二度と組合会議等を傍聴しません。」,「今後どのような理由があっても健保会館に出入りしません。」と記載した「誓約書」(甲93)を提出した。
厚生局長は,同年2月17日,被告組合に対して,前記指導にもかかわらず,被告組合の対応が十分でないとの申入れが一部の理事及び組合会議員からあったとして,適切な措置を講じた上で,理事及び組合会議員の理解を得て理事会及び組合会を実施するように再度指導をした(甲135)。
その後,被告組合は,同年4月17日,前記第94回組合会における被告Y2の不規則発言を議事録に載せた。
オ ビラまき等
(ア) 被告Y2は,平成18年2月16日,外から見える○○荘の玄関及びその周辺に「大盗賊(株)X1,X3親子死ね」,「狂犬病の巣X1社 X3菌」,「組合の金返せ!!」,「○○荘返せ」,「即刻撤退」,「不法占拠X1社」,「住居不法侵入」,「X3君やめたまえ 詐取 窃盗 住居侵入」等黒,赤及び緑の太文字マジックで書かれた手書きのA4版のビラ合計約50枚を貼り,被告組合は,調査を行った。
(イ) 被告Y2及びM(以下「M」という。)は,平成18年2月19日頃から,原告X4,G及び原告X2社について,「“心貧G老人”と“金銭欲呆X4”」,「X1社=(株)X2盗賊集団」,「悪臭を放つGや,馬鹿息子を走狗とし どんどん,組合内外で,腰抜けどもを脅迫しておけよ。」等記載した手紙,葉書等を原告らの会社や自宅に多数送付した(甲14の1,2)。
(ウ) 被告Y2は,平成18年3月頃,Mに指示して,被告組合の組合員に対し,「○○荘奪還フォーラム」と銘打ち,「とても重大なことですが,○○荘の美術品が不明になっております。当初,○○荘完成後,誰かが持ち込んだと思われる(健保が購入したものではないが支払いは健保組合がした)絵画(書画を含む)を高評価させていた席にX3氏が立ち会っている。一昨年,その絵画総数69点を総点検したところ,29点が行方不明。盗難保険に入るために再度点検管理を行ったところ,何故か,紛失したはずのものが22点戻っており(あと7点は未だに行方不明),しかも,購入実績のない絵画11点(価値がほとんどない)が新たに発見されている。X1社の管理責任がある以上に,絵画にまつわる不正疑惑も推測される。」と記載した文書を送付した(甲11の1,5)。
カ a社の被告組合への加入
平成18年3月7日に開催された被告組合の理事会において,被告Y2が怪文書を送信等していることが話題になった(甲2)。被告組合の第95回組合会が同月14日に開催され,a社の被告組合への加入が賛成13名,反対8名,棄権2名の過半数により承認された(甲3)。その後,被告組合は,厚生局から,健康保険組合への加入承認には組合会議員定数の3分の2の賛成が必要であるとの指摘を受けたため,同月27日の組合会で再投票が行われ,出席者24名のうち,賛成が19名,反対が5名であり,委任状による賛成4名を入れて,a社の被告組合への加入が承認された(甲121)。
キ 機関誌等への掲載
(ア) 被告組合は,その機関誌「e誌」に,平成18年3月19日付けの「被保険者のみなさまへ」と題する書面を差し込んだ(甲47の2)。同書面には,以下の記載があったが,被告Y2の行為についての言及はなかった。
「「株式会社X2」の役員及び従業員であるところの互選理事及び議員の連名による文書,あるいは「株式会社X1」による文書が,加入事業所に届いている(組合は全く関与しておりません。)ことについて,組合に照会が寄せられております。これらの文書は,当組合の組合会及び理事会と全く見解を異にする文書であり,むしろ当組合としては,当組合加入の皆様への不安を煽るものであり,非常に迷惑な行為であると評価しています。」
(イ) 被告組合は,同日,「健康保険組合からのお知らせ」と題する書面に,○○荘の現状について,横浜地方裁判所が原告X1社に対して○○荘の明渡し等を命ずる判決を出した旨,原告X1社による控訴及び執行停止の申立てにより○○荘の明渡しの仮執行ができない状況にある旨及び「一部の理事及び議員((株)X2の役員と従業員)の連名による文書,あるいは「株式会社X1」による文書が,加入事業所に届いていることについて,組合に照会が寄せられておりますが,これらの文書は,組合会及び理事会と全く見解を異にする文書であり,むしろ当組合としては,加入の皆様への不安を煽るものであり,非常に迷惑な行為であると評価しています。」等を記載し,組合員に配布した(甲97)。
(ウ) 被告組合は,同年8月27日,「お詫び」と題する書面(甲47の1)を原告X1社及び原告X2社に対して送付した。同書面には,上記「被保険者のみなさまへ」と題する書面に関して,以下の内容の記載がある。なお,以下の記載にある理事長はC,総務委員長はDである。
「・・・組合会及び理事会と全く見解を異にする・・・組合会にとって非常に迷惑な行為」等の記載については,株式会社X1及び株式会社X2から配布された文書は,過去の事実に基づくものであり信頼を傷つける誹謗中傷の周知となってしまいましたことを深くお詫び申し上げます。
また,同文書の作成について当時の事務局の担当が起案いたしましたが,理事長と総務委員長がチェックをして,機関誌発行責任者が大幅に修正し発行したものであり,誠に不本意ながら配布に至った次第であります。」
ク Cその他の被告組合関係者と被告Y2の接触
(ア) Cは,平成18年9月早朝,Cの自宅を訪れた被告Y2と車中で1時間程度話した。その際,被告Y2は,Cに,「Fを何とかしてやれ。」,「○○荘で紛失している絵画の問題が,X1社のアキレス腱だから,ちゃんと調べろ。」,「前の理事会か組合会で,CがNを擁護する発言をしたのはなぜか。」などと30分程度話した(乙イ1)。
(イ) D,F,E及び被告Y2は,同月25日,会食をした(甲126)。
(ウ) Cは,同年11月21日,被告Y2と,被告組合本部事務所において顧問弁護士立会いの下で会談した(甲131)。
(エ) Dは,上記(イ)の会合も含め,少なくとも5回程度被告Y2と接触した(甲126)。
(オ) 被告Y2は,平成18年10月上旬頃,被告組合から,Dが被告組合関係の資料を渡したかどうかを質問され,平成17年10月21日に受け取ったこと及びD以外から原告X4,Gその他の者の個人情報を入手することは不可能であることを,平成19年4月9日付けで回答した(甲99)。
ケ 街頭宣伝活動等
(ア) 被告Y2は,平成18年9月27日付けのブログ上の記事に,原告X3,原告X4及びGの個人の自宅の住所及び電話番号を掲載し,同月28日には原告X3又は原告X4の自宅の表札を撮影した写真を掲載し,インターネット上で公開した(甲36の3)。
(イ) 被告Y2は,同年11月頃,原告X1社及び原告X2社の重要得意先であるf電力株式会社(以下「f電力」という。),g管理株式会社(以下「g管理」という。)及びh組合に対し,原告X3が絵画詐欺をした等と記載した書面をファクシミリで送信し,かつ,直接これらの得意先を訪問して,同趣旨の訴えをした(甲50ないし52)。
(ウ) 被告Y2は,同年10月10日から同年11月17日までの間,原告X1社の本社,同営業所等に「株式会社X1社は○○荘絵画泥棒だ。」,「○○荘乗っ取り屋」,「絵画詐欺窃盗犯 X3」などと車体に書いた街頭宣伝用の車両で乗り付けた上,多数の協力者と共に,原告X1社や原告X2社の従業員や関係者に対して,罵声を浴びせたり,大声で威嚇するといった活動を複数回繰り返し,警察がパトロールカーを出動させる事態になった(甲75,76,原告X3本人,被告Y2本人)。Cは,そのうちの同月14日,Eに誘われて,被告Y2が原告X1社の本社前で上記街頭宣伝活動をしているのを見た(甲131)。
(エ) 被告Y2は,同年11月頃,有限会社i(以下「i社」という。)の社長であるO(以下「O」という。)が,原告X3に脅され,200万円の価値しかない絵画を2300万円と鑑定させられ,それにより原告X3が被告組合から2000万円の不法な利益を得たと述べているとの記事を自身のブログに掲載した。なお,Oは,この内容の記事は改ざんされたものであるとの書面を作成している(甲33,61,62)。
(オ) また,同じ頃,被告Y2は,平成16年○○荘委託管理費見積明細,原告X1社の○○荘従業員名簿・配置表・人件費等の情報を,自身のブログに掲載した(甲33)。
コ 原告X4の長女に危害を加える暗示
被告Y2は,平成18年10月19日,原告X4の娘の通学を尾行した(甲69)。さらに,被告Y2は,同年11月1日,自身の開設したブログに「詐欺師X1社の家族はどのような学園で,どのような教えを受けているのか?X4は詐欺の二代目か?」と題する記事を掲載し,「敬虔なD理事とは信仰の兄弟。ともに,横浜の有名学園を訪れ,シスターに,キリスト様の加護を祈り奉らん!私はj小学校の卒業(HP参照),詐欺師の孫は伝統を誇る●●学園。わしはその学園長に「入学選考基準」について聞きに行く手筈。」との文章を掲載した。なお,原告X4の長女が通学している学校は,k中学であった(甲69ないし71)。
原告X4は,被告Y2の上記の行動を知って,娘の身に危険を感じ,2度警察に保護を要請した(甲69,70)。
サ 被告Y2の「謝罪文・宣誓文」
被告Y2は,平成18年11月17日以降,原告らを攻撃対象とした文書等の配布,ブログへの掲載,街頭宣伝活動等をしなくなり,その後,平成19年2月2日付けで,以下の事実を認め,原告ら及びGに対して,「以下の数々の非礼なる脅迫・名誉毀損・偽計業務妨害等を執拗に行使し,甚大なる迷惑をお掛けした事を真摯に認め,誠に申し訳なく,平身低頭深謝し,お詫び申し上げます。また,其れはひとえに,私共の暗愚不明,心得違いに因る過ちと猛省しており,お赦しを乞うものであります。」などと記載した「謝罪文・宣誓文」を提出した(甲42の2)。
(ア) 約1年間にわたり,郵便物,電話,ファクシミリ,ブログ等を使って事実無根の中傷誹謗等を繰り返し,名誉毀損行為を行い,約1か月間にわたり,街頭宣伝車による会社,自宅等での威迫,脅迫及び業務妨害活動を行い,絵画詐欺をでっちあげるため,被告組合の執行部と手を握り,原告X4の娘を尾行し,ブログ等で脅迫し,原告X1社の取引先,顧問等に対し事実無根の悪評等を流布し,損害を与えたこと。
(イ) 被告Y2が,平成17年11月9日,Cから,原告X1社,原告X2社,G及びGの息子であるPの排除を要請されたこと。「X4はHと結託し,組合財産横領の共犯者であり絵画に関する詐欺・横領犯である。」と伝えられ,Cが経営するc社等が,Fが経営するb社に利幅の多い仕事を回し,それによりb社が得た利益による裏金から,被告Y2に経費及び成功報酬を支払うと約束したこと。
(ウ) D理事は,○○荘を原告X1社から奪還し,原告X1社を排除するために,被告Y2の関係しているa社の被告組合への加入を要請し,実際にFの紹介及びDの口利きにより容易にその加入手続が完了したこと。
(エ) 被告Y2は,健康保険被保険者資格取得届を含む膨大な被告組合の機密文書を原告らその他の者を排除するための道具として渡され,暴力及び嫌がらせ行為をするように要請されたこと。被告Y2は,平成17年12月13日及び平成18年1月24日,Dと会ったこと。
被告Y2が,平成18年秋ころ,D,E及びFと会食した際,Dは,「街宣費用は3000万円ほど必要でしょうね。」と資金の用意と支払をほのめかす発言をしたこと。
(オ) 被告Y2は,平成18年12月13日,銀座のすし屋で開催された忘年会に参加して,D,F及びQと会食し,その際,Dから「このままいけば組合も乗っ取られるので,より一層のX3理事叩きをお願いします。」と要請されたこと。
シ 原告らと被告Y2の接触
原告X1社は,平成19年3月4日,被告組合に○○荘を明け渡し,原告X2社は,被告Y2の長男と娘婿を含む4名をa社からの派遣社員として受け入れ,a社に同年6月から平成20年夏頃まで,月額約40万円から約130万円程度の派遣人件費を支払った(甲141,乙ロ12)。
ス 被告組合理事の解任等
厚生局は,平成19年4月17日,被告組合に対し,健康保険被保険者資格取得届のコピーがブログに掲載された事に関し,Eが同届を漏洩したとして健康保険法に基づきその理事解任を命令し(甲111),被告組合は,同命令に従いEを解任,解雇し,更にCに停職12か月を命じ,Dに辞任を勧告した。Dは,同年5月9日,被告組合の理事を辞任し,Cは同年8月30日に被告組合の理事長,理事及び組合会議員を辞任した(甲109)。
セ 本件訴訟以外の訴訟の帰趨
平成19年7月27日,被告組合が原告X1社に対して○○荘の維持管理費等約1億円を支払う旨の和解が成立した。
平成19年9月10日,Rが被告組合の理事長に,Sが被告組合の常務理事に就任した(甲109)。被告組合は,同月20日,原告X2社,原告X4,G及びTと原告X2社に係る健康保険被保険者資格取得届が外部に流出したことについて「遺憾の意」を表明し,各10万円ずつ支払う旨の和解をし,原告X1社に○○荘の運営を再び委託した(甲16,48,85)。そして,原告らは,被告組合に対する損害賠償請求事件(東京地方裁判所平成19年(ワ)第4670号)の訴えを取り下げた。
ソ 被告Y2と原告らの接触等
被告Y2は,平成19年11月21日,原告X3の還暦祝いに出席した(乙ロ10)。さらに,被告Y2は,平成20年2月28日,原告ら及びGが被告Y2,C,D,F及びMを相手方とした,請求原因が本件訴訟とほぼ同内容の東京地方裁判所平成18年(ワ)第10340号事件において,C及びDから原告らを被告組合から排除するように要請されたこと等を内容とする陳述書を作成して提出した(甲96)。その後,原告ら及びGは,平成20年6月25日付けの「取下書」にて,同事件につき被告Y2,F,Mに関して訴えを取り下げた(乙ロ1)。
タ 被告Y2は,平成20年4月頃,被告組合の互選組合会議員選挙において,被告組合が作成した,調査委員会報告書の一部をチラシに印刷して配布し,同選挙を妨害した(甲88,90)。
チ 被告組合は,平成20年7月24日に開催された第109回組合会を被告Y2が傍聴することを許可し,被告Y2,C及びFが席を並べて共に傍聴した。また,原告X1社は,同月頃,○○荘から再度立ち退いた(原告X3本人)。
ツ ブログの再開
被告Y2は,遅くとも平成20年8月頃から,再び,自身の管理するインターネットのブログを用いて,原告らに関する記事を掲載する行為を再開し,同月6日には,被告組合の調査委員会報告書の一部及び原告X1社が被告組合に送付した抗議文の一部を,2週間程度公開した(甲108)。
被告Y2は,平成21年6月15日以降,被告組合の理事会会議録,組合会議事録(黒塗り部分がなく,かつ被告Y2の本名「Y2氏」又は被告Y2の息子である「U氏」という透かし印刷の入ったもの)を,自らが開設したブログ上に公開した(甲148)。
2  争点
(1)  被告Y2の本案前の答弁について
(被告Y2の主張)
原告らは,主観的に不利益と感受したらすぐに訴訟提起をするという行動を繰り返すので,被告組合及び被告組合の執行部個人が畏怖させられている。したがって,原告らが被告組合に関連して提起する訴訟は全て訴権の濫用であるから,本件訴えは却下されるべきである。
(原告らの主張)
争う。
(2)  不法行為の成否
(原告らの主張)
別紙不法行為一覧表のとおり,被告ら,被告組合の理事であるC及びD並びに被告組合の組合会議員であるFによる不法行為が行われた。
(被告組合の主張)
被告組合並びにC,D及びFに係る部分を全て否認する。
また,別紙不法行為一覧表15記載の行為は,原告らの社会的評価を低下させるものではない。
(被告Y2の主張)
ア 名誉毀損及び業務妨害について
別紙不法行為一覧表14記載の行為は,原告らの社会的評価を低下させるものではない。
仮に,別紙不法行為一覧表記載の被告Y2の各行為が,原告らの信用又は名誉を毀損したり,業務を妨害するものであったとしても,被告Y2は,公法人である被告組合が所有する○○荘及び美術品等についての原告らによる管理の問題点を指摘したものであるから,公共性・公益目的があり,摘示した内容も真実であるのであって,被告組合をめぐる紛争についての正当な言論活動である。よって,被告Y2の行為に違法性はない。
また,被告Y2の別紙不法行為一覧表記載の各行為は,確かに激しい表現方法が含まれているものの,いかにその用語や表現方法が激越・辛辣であろうとも,またその結果として,被論評者が社会から受ける評価が低下することがあっても,公正な論評の法理により論評者は責任を問われないと考えるべきである。
イ 暴行・脅迫について
別紙不法行為一覧表2記載の行為のうち,被告Y2が原告X4の自宅に電話をかけたことは認めるが,これが暴行・脅迫になることは争う。
別紙不法行為一覧表3から6までに記載された行為のうち,被告Y2が被告組合で不規則発言をしたことは認めるが,その発言内容は否認し,これが暴行・脅迫になることは争う。
別紙不法行為一覧表17記載の行為のうち,被告Y2が原告X4との間で原告X4の長女を話題にしたことはあるが,これをもって脅迫に当たることは争う。
(3)  共謀の有無
(原告らの主張)
被告組合の理事及び組合会議員は,別紙共謀一覧表記載のとおり,原告らに対する不法行為について,被告Y2と共謀した。
(被告組合の主張)
否認する。Cは,平成17年11月9日,被告Y2から,○○荘の明渡しの問題を裁判以外の方法で解決することを示唆されたとき,これを明確に断った。
(4)  被告組合の責任
(原告らの主張)
C,D,E及びFの上記不法行為及び共謀は,原告らを被告組合から排除しようとの目的の下,被告組合の理事長ないし理事の立場を利用して行ったものであるから,被告組合は,一般社団・財団法人法78条の規定に基づき責任を負う。
また,C,D,E及びFの上記不法行為及び共謀は,これらの者の具体的権限にかかわらず,使用者たる被告組合の支配領域下にある状況下でされたことであるので,被告組合は,民法715条の使用者責任を負う。
(被告組合の主張)
争う。仮に,C,D,E及びFが被告Y2と原告らに対する不法行為についての共謀をしたとしても,被告組合の事業の執行とは無関係な私的な行為であり,被告組合は責任を負わない。
(5)  国家賠償請求の可否
(原告らの主張)
仮に,別紙不法行為一覧表記載の各行為に係る被告組合の賠償責任の法的根拠が国家賠償法1条1項であると解されるのであれば,原告らは,被告組合に対し,予備的に同項に基づく請求をする。その場合の要件は,次のとおりである。
ア 公共団体
被告組合は,健康保険法に基づいて設立された公法人であるから,国家賠償法1条1項の「公共団体」に当たる。
イ 公務員
国家賠償法1条1項の「公務員」とは単に組織上の公務員のみならず実質的に公権力の行使たる公務の執行に携わる者を広くいうところ,C,D及びEは被告組合の理事長又は理事として被告組合の業務を執行する権限を有するし,Fは組合会議員として組合会の議決権を有し,慣行として第三者の被告組合への加入を推薦する権限を有していることから,同項の公務員に該当する。
ウ 公権力の行使
公権力の行使とは,国,公共団体の作用のうち純粋な私経済作用と国家賠償法2条により救済される営造物の設置・管理作用を除く全ての作用をいい,いわゆる非権力的行政作用も含むところ,C,D,E及びFが被告Y2に対して別紙共謀一覧表記載のとおりの要請をした行為は,公権力の行使に該当する。
エ 職務を行うについて
公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合に限らず,自己の利を図る意図をもってする場合でも,客観的に職務執行の外形を備える行為をしてこれによって他人に損害を加えた場合には,国家賠償法1条1項の「その職務を行うについて」に該当する(最高裁昭和31年11月20日第二小法廷判決・民集10巻11号1502頁参照)。
C,D,E及びFは,共謀の上,Dが被告組合の理事としての業務執行の一環として入手した大量の秘密文書を被告Y2に提供し,また,Fが推薦した被告Y2が関係するa社の被告組合への加入をCが理事長専決で承認するなどしており,これらは客観的に職務執行の外形を備える行為といえる。
(被告組合の主張)
ア 国家賠償法と民法の関係
被告組合は,健康保険法に基づいて設立された健康保険組合であり,本来国が行うべき健康保険事業について,その公的権限を委譲されているから,被告組合の職員や理事,監事等の健康保険事業に関する職務行為は,原則として国の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解すべきであり,これらの行為が不法行為に該当する場合には被告組合ではなく国が国家賠償責任を負うべきである(最高裁平成19年1月25日第一小法廷判決・民集61巻1号1頁参照。以下「平成19年判決」という。)。公務員の不法行為について,国又は公共団体が賠償責任を負う場合には,公務員個人は民事上の損害賠償責任を負わないから(最高裁昭和30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁参照),国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても,当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合には,被用者個人が民法709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず,その使用者も同法715条に基づく損害賠償責任を負わない(平成19年判決参照)。
本件事案においても,仮にC,D,E又はFの行為が不法行為に該当するとしても,被告組合は国家賠償法上の責任を負担しないし,使用者としても民法715条に基づく責任を負担することもない。
イ 公権力の行使について
被告組合は,国から健康保険事業に関する権限を委譲されているから,同事業に関する職務行為は原則として公権力の行使に該当するものの,C,D,E又はFが,仮に被告Y2と共謀したとしても,被告Y2のした不法行為は健康保険事業に関する職務行為には該当しないので,健康保険事業に関する権限に関係せず,公権力の行使には当たらない。
ウ 職務を行うについて
C,D,E又はFが,被告Y2と何らかの接触をしたとしても,私的な行為であり,「職務を行うについて」行ったとは認められない。
(6)  損害
(原告らの主張)
ア 原告X1社は,被告らの信用毀損行為等により売上げの10%が減少したので,平成17年度の売上げ27億9400万円を基準に平成18年1月から平成19年9月までの21か月間において4億8895万円の損害が生じた。原告X1社は,そのうち1億円を本件において請求する。
イ 原告X2社は,被告らの信用毀損行為等により売上げの10%が減少したので,平成17年度の売上げ5億1600万円を基準に平成18年1月から平成20年9月までの33か月間において1億4190万円の損害が生じた。原告X2社は,そのうち9000万円を本件において請求する。
ウ 原告X3及び原告X4は,被告らによる名誉又は信用を毀損する行為により甚大な被害を受けた。その損害額は少なく見積もっても各1000万円を下らない。特に,原告X3は,原告X1社及び原告X2社の創業者であり,企業の信用は,代表者であるオーナー経営者の原告X3の信用でもあるため被害が甚大である。
エ 被告Y2が平成20年以降再開したブログ上の原告X1社及び原告X3に対する名誉又は信用を毀損する行為により,原告X1社及び原告X3は,甚大な被害を受け,その損害は,原告X1社について1000万円,原告X3について500万円を下らない。
オ 原告らは,本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人弁護士に依頼し,これら弁護士が定める報酬等の支払を約したが,被告らの不法行為と相当因果関係がある弁護士費用に係る損害は,各請求している損害賠償金の1割相当というべきである。
カ さらに,被告らによる原告らに対する名誉毀損は,広く流布されているので,損害賠償だけでは原告らの名誉は補えず,謝罪広告が必要である。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
第3  争点に対する判断
1  争点(1)・本案前の抗弁について
被告Y2は,原告らは主観的に不利益と感受したらすぐに訴訟提起をするという行動を繰り返し,被告組合及びその執行部個人らが畏怖させられているので,原告らが被告組合に関連して提起する訴訟は全て訴権の濫用であると主張する。しかし,前記前提となる事実等によれば,原告らの不利益が単なる主観的なものにとどまるものでないことは明らかであって,本件訴えを訴権の濫用ということはできない。被告Y2の主張は,採用しない。
2  争点(2)・不法行為の成否について
(1)  不法行為としての主張(別紙不法行為一覧表)の当否について
ア 原告X1社は,別紙不法行為一覧表1記載の行為として,被告組合の理事であったDが,被告Y2に対し,原告X4,Gほか1名の健康保険被保険者資格取得届を交付したことをもって,原告X1社を被害者とする不法行為責任又は国家賠償責任が成立するとしている。
しかし,原告X4,Gほか1名と原告X1社は,別人格であり,原告X4,Gほか1名の健康保険被保険者資格取得届が被告Y2に交付されたことにより,直ちに原告X1社の権利又は法律上保護される利益が侵害される理由はない。
したがって,別紙不法行為一覧表1記載の行為のうち,健康保険被保険者資格取得届の被告Y2への交付については,その余の事実を検討するまでもなく,その主張自体原告X1社に対する不法行為を構成するということはできない。
また,原告X1社は,別紙不法行為一覧表1記載の行為として,原告X1社の従業員の配置人数及び人件費などの営業上の重要な秘密情報を被告Y2に漏洩したことも主張している。しかし,原告X1社が本件で主張している損害は売上げの減少であるところ,原告X1社は,当該秘密情報の被告Y2への漏洩によって原告X1社の売上げが減少したとの因果関係の主張をしない。したがって,この点についての不法行為の主張も,失当である。
イ 別紙不法行為一覧表記載の行為のうち,Gを被害者とする行為(別紙不法行為一覧表番号2から7まで,16,21)の主張は,原告らの権利又は法律上保護される利益が侵害される理由が明らかでなく,原告らに対する不法行為を構成するということはできない。
ウ また,原告X4は,別紙不法行為一覧表3から6まで記載の行為として,平成18年11月24日開催の被告組合の第94回組合会における被告Y2のヤジ,Gに対するその家族等に危害を加えるかのような言動,組合会が一時中断し,再開した後も罵声をあげて発言を妨害し続けた行為,流会後の原告X4やGを脅すような言動等が,原告X4に対する暴行・脅迫として不法行為に当たると主張する。
しかし,被告Y2が組合会で大声や罵声をあげて組合会の進行を滞らせたとしても,原告X4の具体的な権利又は法律上保護される利益を侵害する違法な脅迫とは評価できない。また,被告Y2が,原告X4に対し,被告組合の組合会流会後,「おまえの言うことはマトモやけど,社会では通用せんぞ。」,「これからも顔を合わせると思うけどよろしくな。」との発言をしたことも,違法な害悪の告知とまでいうことはできない。
なお,原告X4は別紙不法行為一覧表3から6まで記載の行為を通じて「暴行」もあったと主張しているものの,その具体的な態様は主張がない。
したがって,別紙不法行為一覧表3から6まで記載の各行為は,その主張自体原告X4に対する不法行為を構成するものとはいえない。
エ 原告らは,別紙不法行為一覧表14記載の行為において,被告Y2がブログを開設し,原告らを誹謗中傷して原告らの名誉・信用を毀損するとともに,原告らのプライバシーに関わる事項を掲載してそのプライバシーを侵害したと主張するが,その主張からは,いずれも具体的な表現行為の態様が判然としない。
したがって,別紙不法行為一覧表14記載の行為は,その主張自体原告らに対する不法行為を構成するものとはいえない。(当裁判所は,本件の主張整理の段階で,原告らの不法行為に関する主張の特定が不十分であると指摘して,本件の第6回口頭弁論期日において,原告らに対し,不法行為の個数,態様等を特定するよう求釈明をした。原告らがこれに応じて提出したのが別紙不法行為一覧表であり,同一覧表の記載をもってしても特定が十分されていない場合には,その主張自体で判断せざるを得ない。)
オ 原告らは,別紙不法行為一覧表15記載の行為について,被告組合が機関誌等に掲載した「原告X1社が○○荘を不法占拠している。」という記事,また,原告らが作成し,被告組合の加入事業所に送付した文書が「当組合の組合会及び理事会と全く見解を異にする文書であり,むしろ当組合としては,当組合加入の皆様への不安を煽るものであり,非常に迷惑な行為であると評価しています。」とする記事が,原告らの名誉及び信用を毀損すると主張する。
しかし,原告らにおいて「原告X1社が○○荘を不法占拠している。」との記載があると主張する記事は,前記前提となる事実等にあるように,被告組合が,原告X1社に対し,○○荘の明渡しを求めて提訴した事件の第1審判決で被告組合が勝訴したこと,原告X1社が控訴及び執行停止を行ったことにより原告X1社がまだ○○荘を明け渡していないことを報告したものにすぎず,管理委託契約のトラブルの顛末を記載しただけのものといえる。したがって,一般的な読み手の普通の注意と読み方を基準とした場合,原告らがもともと何らの権原もなかったのに,不法に○○荘に侵入して占拠する等の犯罪行為を行っているとの印象を読み手に与えるものとは認められず,同記事によって直ちに原告らの客観的な社会的評価が低下するとはいえない。
また,被告組合の機関誌等におけるその他の記載は,被告組合と原告らの間に意見の対立があることを摘示したものか,又は単なる意見の表明にすぎないものであって,原告らの客観的な社会的評価を低下させるものとはいえない。
したがって,別紙不法行為一覧表15記載の行為は,原告らに対する不法行為を構成するものとはいえない。
カ 原告らは,別紙不法行為一覧表21記載の行為について,被告Y2が,そのブログにおいて,原告らの名誉と信用を毀損する記事を掲載し,営業秘密を暴露する等したとするが,その主張からは,具体的な表現行為の態様が判然としない。
したがって,別紙不法行為一覧表21記載の行為は,その主張自体原告らに対する不法行為を構成するということはできない。
キ そこで,上記以外の不法行為の主張(別紙不法行為一覧表2(原告X4に係る部分),8から13まで,17から20まで)についてのみ,以下判断する。
(2)  被告Y2の行為について
ア 名誉・信用毀損及び業務妨害(別紙不法行為一覧表8から13まで,18から20まで)について
(ア) 前記前提となる事実等によれば,被告Y2は,
① 平成18年頃から,「【B】Y1健康保険組合」と題するホームページその他多数のブログを開設し,「(株)X1の理不尽な言動を糾弾」と題し,「『○○荘』乗っ取り事件」,「○○荘管理契約に不正疑惑」,「経理不正事件(11億円)に続く,2.4億円の垂れ流し」,「『(株)X1の管理責任欠如問題』○○荘備品,絵画数十点の盗難横領事件が発生!総額2千3百万円が未だ未回収」などの記事を掲載し,
② 同年2月16日,○○荘の玄関等に「大盗賊(株)X1,X3親子死ね」,「狂犬病の巣X1社 X3菌」,「組合の金返せ!!」,「○○荘返せ」,「即刻撤退」,「不法占拠X1社」,「住居不法侵入」,「X3君やめたまえ 詐取 窃盗 住居侵入」等黒,赤及び緑の太文字マジックで書かれた手書きのA4版のビラ合計約50枚を外から見える位置に貼り付け,
③ Mと共に,同月19日頃から,原告X4,G,原告X2社について,「“心貧G老人”と“金銭欲呆X4”」,「X1社=(株)X2盗賊集団」,「悪臭を放つGや,馬鹿息子を走狗とし どんどん,組合内外で,腰抜けどもを脅迫しておけよ。」等記載した手紙,葉書等を原告らの会社や自宅に多数回送付し,
④ 同年3月頃,Mに指示して,「○○荘奪還フォーラム」と銘打ち,「とても重大なことですが,○○荘の美術品が不明になっております。当初,○○荘完成後,誰かが持ち込んだと思われる(健保が購入したものではないが支払いは健保組合がした)絵画(書画を含む)を高評価させていた席にX3氏が立ち会っている。一昨年,その絵画総数69点を総点検したところ,29点が行方不明。盗難保険に入るために再度点検管理を行ったところ,何故か,紛失したはずのものが22点戻っており(あと7点は未だに行方不明),しかも,購入実績のない絵画11点(価値がほとんどない)が新たに発見されている。X1社の管理責任がある以上に,絵画にまつわる不正疑惑も推測される。」と記載したファクシミリを,被告組合の組合員に送信し,
⑤ 同年10月10日から同年11月17日までの間,原告X1社本社,同営業所等に,「株式会社X1は○○荘絵画泥棒だ。」,「○○荘乗っ取り屋」,「絵画詐欺窃盗犯 X3」などと車体に書かれた街頭宣伝用の車両で乗り付けた上,多数の協力者と共に,原告X1社や原告X2社の従業員や関係者に対して,罵声を浴びせ,大声で威嚇するといった活動を複数回繰り返し,警察がパトロールカーを出動させる事態になり,
⑥ 同年11月頃には,i社の社長であるOが,原告X3の指示で,200万円の価値しかない絵画を2300万円と鑑定させられ,それにより原告X3が被告組合から2000万円の不法な利益を得たと述べているとの記事をブログに掲載し,
⑦ 同年11月頃,原告X1社及び原告X2社の重要得意先であるf電力,g管理及びh組合に対し,原告X3が絵画詐欺をした等を記載した書面をファクシミリで送信し,及びこれらの企業に直接訪問を行って,同趣旨の訴えをする等した
と認められる。
以上の被告Y2の言辞及び行為は,一般的な読み手や聞き手の普通の注意と読み方・聞き方を基準とした場合,読み手や聞き手に対して,原告らが○○荘の管理に絡み,窃盗,詐欺,横領等の犯罪を犯したとの印象を与えるものといえ,原告らの名誉及び信用を毀損するとともに,原告X1社及び原告X2社の業務を妨害したものであるということができる。
(イ) なお,原告らは,被告Y2及びMが,原告らに対し,原告らを「盗賊集団」などと記載した文書を送付するとともに,被告組合の組合員にも同様の文書を郵便やファクシミリで送付したと主張する(別紙不法行為一覧表10)。
しかし,前記前提となる事実等(3)オ(イ)によれば,被告Y2が同文書を原告らに送付した事実は認められるものの,原告ら以外の被告組合の組合員が名宛人となっている文書はなく,原告ら以外の者にも送付されたと認めるに足りる的確な証拠はない。被告Y2が公開されれば原告らの社会的評価を下げることが見込まれるような内容の書面を原告ら自身に送付しても,その伝播可能性がない以上は,原告らの名誉又は信用を毀損したとは評価できない。
また,原告らは,被告Y2及びMが,平成18年2月14日頃,「○○荘奪還フォーラム」と名乗り,「X3は慶應義塾卒業を詐称するエセ事業家。X3は親子で他人の生き血を吸う破廉恥ドラキュラ家族です。」等記載した文書を,被告組合の多数の組合員に郵送したと主張するが(別紙不法行為一覧表8),これを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) これに対して,被告Y2は,被告Y2の上記各行為について,原告らによる,公法人である被告組合所有に係る○○荘及び美術品等の管理の問題点を指摘したものであるから公共性・公益目的があり,その内容は真実であるのであって,被告組合をめぐる紛争についての正当な言論活動であると主張し,さらに,被告Y2の一連の表現には一読すると激しい表現方法や修辞を用いている部分があるが,公正な論評として,違法性が阻却される旨を主張する。
しかし,被告Y2の上記各行為は,原告X1社による○○荘の不法占拠又は不退去の事実の摘示にとどまらず,原告X1社の○○荘の管理に関して窃盗,詐欺,横領等の犯罪事実があるとの事実も指摘するものであり,本件全証拠によっても,後者の事実を真実と認めることはできないから,違法性が阻却されることはない。
よって,この点についての被告Y2の主張には理由がない。
イ 脅迫(別紙不法行為一覧表2(原告X4に係る部分),17)について
前記前提となる事実等によれば,被告Y2は,平成17年11月以降,原告X4の自宅に無言電話を連続してかけ,平成18年10月頃,自己の開設したブログに原告X4の長女が通学する学校の名称を暗に挙げた記事を掲載したこと,これにより原告X4が警察に2度保護要請をしていることが認められる。これらの事実を総合すれば,被告Y2の上記行為は,被告Y2が,原告X4の長女が通学する学校に赴き,長女に接触して,危害を加えることも可能である旨をほのめかし,原告X4を畏怖させたものというべきである。よって,被告Y2の上記行為は,脅迫に当たる。
3  争点(3)・共謀の有無等について
(1)  認定事実等
ア 被告組合から被告Y2への情報漏洩
(ア) 前記前提となる事実等によれば,被告Y2は,平成18年,原告X2社に所属する原告X4及びGを含む3名の健康保険被保険者資格取得届をインターネットのホームページに公開したこと,同年11月頃,平成16年○○荘委託管理費見積明細,原告X1社の○○荘の従業員名簿,配置表,人件費等の情報をブログに掲載したこと,平成20年8月,被告組合の調査委員会報告書の一部を,平成21年6月15日以降,被告組合の理事会会議録,組合会議事録(黒塗り部分がなく,かつ被告Y2の本名「Y2氏」又は被告Y2の息子である「U氏」という透かし印刷の入ったもの)を,インターネット上に公開したことが認められる。これらの資料・情報は,被告組合内部から流出しない限り,被告Y2が入手することができないものであるといえ,被告Y2が,被告組合の誰かを通じて入手したことが明らかである。
(イ) そして,証拠(甲82,98,132,133)によれば,Dは,平成17年10月21日午後2時頃,被告Y2の事務所に行き,Fを介して被告Y2に対して,被告組合関係の資料を渡したこと,Fは,○○荘等の事件を理解するために,過去の組合会及び理事会の議事録を集めて読んだ上,被告Y2に渡したことが認められる。
この点,Dは,被告Y2のいる席でFに同資料を渡しただけであると供述する。もっとも,Fは,Dから,被告Y2に資料を渡したのがDであったにもかかわらず,被告Y2に渡したのはFとするように言われた旨供述しており(甲82,98),他方,Dは,資料を第三者に開示しないことについての誓約をFから求めておらず,怪文書がファクシミリで流れていたことも知っていながら,それ以降も被告Y2の永田町の事務所において,被告Y2の面前でFに被告組合の資料を渡したことを認めている(甲132)。これらからすると,Dは,自分自身で,及びFを経由して,同資料が被告Y2に利用されることを承知した上で,同資料を被告Y2に渡したものというべきである。
(ウ) 以上からすると,Dは,平成17年10月ころ以降,被告Y2に対して,被告組合の理事の立場で入手した原告X2社に関する健康保険被保険者資格取得届,○○荘及び原告X1社に関する資料,調査委員会報告書,理事会会議録・組合会議事録,被告組合関係の資料等を継続的に提供していたことが推認できる。
イ 被告組合の理事らの目的と被告Y2の行動の合致
前記前提となる事実等によれば,被告組合は,①平成16年5月31日,原告X1社との間の○○荘の管理委託契約の更新を拒絶し,原告X1社に○○荘の明渡しを求めており,②Dは,理事会において原告X1社の排除を公言し,平成17年4月4日の被告組合の互選組合会議員選挙が実施された際に,Jが原告X4及びGに対して組合会議員の立候補の取下げを要請し,③原告X4らが被告組合の理事及び組合会議員として行った調査に基づき,同年8月に被告組合の不祥事について内部告発をすると,同年9月に理事会において原告X4の辞任要求が議決され,④その後厚生局長から健康保険法の施行以来初めての改善命令が出るに至り,理事長の進退についても言及されるに至ったことが認められる。これらの経緯に鑑みると,被告組合は,平成16年以降,原告X1社を○○荘から退去させ,執行部と対立する原告X1社の関係者らを被告組合から排除したいとの意図を持っていたことが明らかである。
そして,前記前提となる事実等によれば,Fの経営するb社の顧問であった被告Y2は,平成17年11月9日に初めてCと会った頃から,原告X4の自宅に無言電話をかけるようになり,ブログ等で「○○荘乗っ取り事件」等として原告らへの執拗な攻撃を始め,平成18年1月14日の被告組合の組合会において,原告X4及び原告らに同調するGに対して脅迫めいた発言をして発言を制し,その後も「○○荘奪還フォーラム」等を名乗って原告らへの誹謗中傷を繰り返し,「○○荘返せ」等記載したビラまき等をし,街頭宣伝活動を行った。これらの事実によれば,被告Y2の活動は,原告らを誹謗中傷し,○○荘及び被告組合から原告らを排除する目的をもって行われたと認められる。
このように,被告組合は,原告らを○○荘及び被告組合から排除したいとの意図を有していたところ,Cと面識を得た以降の被告Y2の行動は,被告組合のその意図に明らかに沿ったものであったのである。
ウ 被告組合の被告Y2に対する態度
前記前提となる事実等によれば,①Cは,平成17年11月11日,理事長専決によって,a社の被告組合への加入を承認したこと,②被告Y2は,平成18年1月24日,被告組合の組合会で暴言等により議事の進行を妨害して組合会を流会させ,被告組合は,厚生局から傍聴人の取扱いについて措置を講じ,理事及び組合会議員にその措置について理解が得られるまでの間は理事会及び組合会の開催を延期するように指導を受けたこと,③被告Y2は,同年2月16日,○○荘の玄関等に大量のビラを貼り,被告組合の事務局は,このことについて調査をしたこと,④同年3月7日の被告組合の理事会において,被告Y2が怪文書を送る等していることが話題に登ったこと,⑤しかし,被告組合の組合会は,同年3月7日,Cによるa社の被告組合への加入の理事長専決を追認したこと(Cは,その際,組合会において,当該理事長専決を承認せずにa社の加入が遡って無効になった場合には,被告組合がa社から訴訟を起こされ敗訴すると述べた(甲3)。),⑥同年4月19日,C及びDのチェックの上作られた機関誌等において,原告らの出した文書について,「組合会及び理事会と全く見解を異にする」,「組合会にとって非常に迷惑な行為」として名指しで批判する記事が掲載される一方,被告組合が認識しているはずの被告Y2の上記行動については,一言も言及がなかったこと,⑦被告組合は,同年2月5日,被告Y2から「今後二度と組合会議等を傍聴しません。」,「今後どのような理由があっても健保会館に出入りしません。」と記載した「誓約書」(甲93)を徴していたにもかかわらず,平成20年7月24日開催の組合会において,被告Y2の傍聴を認め,さらにC及びFは,同組合会を被告Y2と席を並べて傍聴したこと,⑧Cは,Eに誘われて,平成18年11月14日,被告Y2が原告X1社の本社前で「株式会社X1は○○荘絵画泥棒だ。」,「○○荘乗っ取り屋」,「絵画詐欺窃盗犯 X3」などと車体に書いた街頭宣伝用の車体で乗り付けた上,多数の協力者と共に,原告X1社や原告X2社の従業員や関係者に対して,罵声を浴びせたり大声で威嚇するといった活動をしているのを見たことが認められる。
また,証拠(甲132,被告Y2本人)によれば,Cも,Dも被告Y2の行動を止めようと行動を起こしたことはなかったことが認められる。
以上の事実によれば,被告組合の執行部は,理事長専決で被告組合に加入させたa社に関係する被告Y2が,原告らに対する執拗な嫌がらせをしているのを十分認識していたにもかかわらず,原告らに対しては対立の立場を鮮明にするのに対し,被告Y2に対しては,牽制する等の対応を一切とらなかったどころか,協調的な態度までもとっていたということができる。
エ 被告Y2と原告らの接点
前記前提となる事実等によれば,被告Y2と原告らは,被告Y2が原告らに対する攻撃を開始するまで,何ら接点がなかった。
(2)  以上によれば,被告Y2は,原告X4,原告X3及びGと面識がなく,もともと原告X4及びGを被告組合から排除する動機はなかったところ,原告X4及びGを被告組合から排除したいと考えていた被告組合のC,D,F等と接触を持った頃から,原告X4及びGを被告組合から排除するための行動を一時を除き継続的かつ執拗に行ったものである。これに対して,C,D,E,Fその他の被告組合の一部理事や組合会議員は,被告Y2の活動を黙認するどころかこれに協調する態度をとり,E,D及びFは,被告組合の内部資料を被告Y2に流出させて,被告Y2の行動の手助けさえもしているのである。このような行為は,被告組合の理事等において,被告Y2が,原告ら及びGに対して名誉毀損,脅迫等の不法行為をしていることを認識しつつ,これを容認して被告組合自身の有利になるように援助したものというべきである。
よって,具体的な共謀の時期・内容までは証拠上特定できないが,当時被告組合の理事長であったC,理事であったE及びD並びに組合会議員であったFが,共謀の上,被告組合の内部資料を被告Y2に流出させ,かつ,その者らが被告Y2と共謀して,前記2(2)ア及びイで認定した各行為を行ったと評価するのが相当である(なお,Cについては,被告Y2やE,D及びFと明示的かつ積極的な共謀をしたことを認めるに足りる証拠まではないが,E,D及びFが被告Y2と意を通じて原告らに対する不法行為に及んでいることを承知しつつ,これを容認し,支援する行動に出ていたことが認められ,これをもってCも共謀の関係者であるということが可能である。)。
(3)  これに対して,被告Y2本人は,上記の不法行為となるべき行為について,原告らの行動に対して,義憤に駆られ,自分自身のX4の念に駆られてしたものであると供述し,被告組合の関係者との共謀を否定する。
しかし,前記2(2)ア及びイで認定した被告Y2の原告らに対する長期にわたる執拗な攻撃には,被告Y2自身,4年間で5000万円位かかったというほど(甲143),多大な時間,労力及び金銭をつぎ込んでいるのであり,何らの依頼や見返りもなく被告Y2がこれを単独で行ったと見るのは,不自然・不合理というべきである。
そして,被告Y2は,平成19年2月2日付けの「謝罪文・宣誓文」と題する書面(甲42の2)及び同年4月9日付けの被告組合の調査に対する回答書(甲99)において,D以外から原告X4その他の者の個人情報を入手することは不可能であると記載している。また,被告Y2は,同月10日付け「D理事の個人情報漏洩違反告発状」と題する書面(甲100),同年11月14日付け「啓発状」(甲83)及び平成20年2月28日付け陳述書(甲96)において,①被告Y2は,平成17年11月9日,Cから○○荘の奪還及び原告らの攻撃を指示されたこと,②被告Y2は,平成17年10月21日,①の攻撃を実行するための資料として,Dから,原告X2社の関係者3名の健康保険被保険者資格取得届,横領事件,N設,原告X1社及び原告X2社に関する資料並びに被告組合の機密資料の提供を受けたこと,③被告Y2の経費及び報酬については,Cの経営するc社が,b社に利幅の大きい仕事を回し,b社が得た利益から裏金で支払うとされていたこと,④原告らに対する脅迫等はC,D等の指示に基づくものであること,⑤被告Y2が,平成18年12月13日にDらと会食した際,Dから,このままいけば被告組合も原告X2社に乗っ取られてしまうので,より一層原告X4,Gらを叩いてくれと言われたことといった内容の記載をしている(以下,被告Y2が,C,D及びFと共謀したことを認めたこれらの書面を「本件共謀肯定書面」という。)。
もっとも,前記前提となる事実等によれば,本件共謀肯定書面は,被告Y2による原告らに対する攻撃行為が平成18年11月の街頭宣伝活動を境に一度終了した後,被告Y2が,平成19年11月2日の原告X3の還暦祝いに出席し,原告X2社からa社に対して平成19年7月から平成20年12月までの間に総額1500万円近くが送金されている時期に作成されていると認められること,被告Y2は,その後,平成20年9月15日付けで「真実の表」と書いた書面(乙ロ13)を,平成21年6月26日付け及び平成22年2月4日付けで各陳述書(乙ロ14,15)を,同月1日付けで「謝罪文・宣誓文は馴れ合い文書」と題する書面をそれぞれ作成し,Cの不法行為への関与及びCとの共謀を完全に否定し,本件共謀肯定書面は,原告らとの合作による虚偽のものであるとし,共謀はなかったと供述していること(被告Y2本人。以下,被告Y2がC,D及びFとの共謀を否定する書面及び供述を「本件共謀否定書面等」という。)からすると,その信用性については,誇張や虚偽の可能性を慎重に判断する必要がある。しかし,本件共謀肯定書面の基本的な内容は,前記(3)で認定した客観的経緯とよく符合し,自然なものであって,信用することができる。他方,これに反する本件共謀否定書面等は,具体的な事実による裏付けを欠くものであって,採用できない。
よって,被告Y2の上記主張は採用することができない。
(4)  また,被告組合は,被告組合が○○荘の明渡請求訴訟という手段を既にとっているので,被告Y2に不法行為を行わせてまで○○荘を明け渡す必要がなかったと主張し,更にC及びDが,自身が被告となっている別訴訟で被告Y2との共謀を否定する供述(甲132,乙イ1)をしていることを援用する。
しかし,前記前提となる事実等によれば,被告組合が平成16年8月に○○荘の明渡訴訟を提起して以降,被告Y2の不法行為が開始する平成17年11月頃に至っても,同訴訟の結論は出ていなかったのであり,また,被告組合が対応に苦慮していたのは,原告X1社との間の○○荘の明渡しの問題だけではなく,被告組合の運営について執行部と対立する原告X2社及び原告X4への対処も含むものであったから,これら原告らに関係する問題を早期に解決するための手段として被告Y2を利用することを考えたとしても,経緯として決して不自然ではない。また,C及びDの供述は,前記(1)及び(2)で認定した客観的な事実関係と符合せず,また不自然・不合理であって信用することができない。
よって,被告組合の上記主張は採用できない。
4  争点(5)・国家賠償請求の可否について
原告らは,被告組合に対する請求として,予備的に国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求をしているところ,仮に被告組合の関係者(C,D,F等)の行為が公権力の行使に当たる場合には,主位的請求である民法又は一般社団・財団法人法に基づく損害賠償請求権はないので(最高裁平成19年1月15日第一小法廷判決・民集61巻1号1頁参照),まず被告組合関係者の行為が公権力の行使に当たるか否かを検討する。
健康保険法は,健康保険制度を医療保険制度の基本をなすものと位置付け,国は補助金等を交付の上,健康保険組合及び全国健康保険協会に健康保険事業の業務の執行を委ねた上で,その監督をしている。
もっとも,前記2で検討したところによれば,本件訴訟において損害賠償の対象となるか否かの検討を要する行為は,結局,①被告組合の関係者が,被告Y2と共謀して,原告らに対する名誉・信用毀損,脅迫及び業務妨害を行ったこと,②被告組合の関係者が,被告組合の所持する原告X1社の○○荘に関する人件費等の情報を漏洩した点のみである(別紙不法行為一覧表1記載の健康保険被保険者資格取得届の漏洩行為は,国から委託された健康保険事業の遂行という公権力の行使に関わるものという余地もあるが,その行為についての不法行為の主張が失当であることは前記のとおりである。)。これらの点は,国から被告組合に委ねられた健康保険制度に関する権限を行使する上で生じたものではなく,被告組合の保養所である○○荘の管理運営という純粋な私経済作用に関して生じたものといえる。したがって,被告組合の関係者の上記①又は②の行為を国の公権力の行使に当たる公務員の職務行為であるということはできない。
したがって,国家賠償法1条1項の規定に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,その主張自体が失当であり,理由がない。
5  争点(4)・被告組合の責任について
前記3によれば,前記2(2)ア及びイで認定した被告Y2の行為に加え,Dが,被告Y2に対して,平成16年○○荘委託管理費見積明細,原告X1社の従業員名簿,配置表,人件費等の情報を漏洩した行為についても,前同様に当時被告組合の理事長であったCが共謀していたと認められる。
そして,健康保険組合の理事長は健康保険組合を代表し,その業務を執行するのであって(健康保険法22条1項),その職務は,健康保険組合の業務全般に及ぶものというべきであるところ,Cが被告Y2やDと共謀して行った上記各行為は,被告組合が管理を委託している○○荘及び被告組合そのものから原告らを排除するための行為と被告組合が保有する情報の管理行為に関わるものであって,Cによる被告組合の業務の執行行為を契機とし,これと密接な関連を有すると認められる行為であって,被告組合の業務執行と無関係の私的な行為ということはできない。
よって,被告組合は,一般社団・財団法人法78条の類推適用(健康保険法には,国民健康保険組合と異なり(国民健康保険法31条),健康保険組合の代表者の行為について,一般社団・財団法人法78条を準用する旨の明文規定は設けられていないが,その適用を排除する趣旨であるとは解されない。)により,Cが被告Y2と共謀した上記各行為について,損害賠償責任を負う。
6  争点(6)・損害について
(1)  原告X1社及び原告X2社の損害について
原告X1社及び原告X2社は,被告らの信用毀損行為により,売上げの10%が減少したので,それを損害として請求し,その証拠として,V(原告X1社及び原告X2社の常務取締役)が作成した原告X1社及び原告X2社それぞれの売上げ及び利益の増減を平成15年から平成18年まで100万円単位で示した表(甲53,54)を挙げる。しかし,これはそもそも原告X1社及び原告X2社の常務取締役が本件訴訟のために作成したものであるため,必ずしも信用性は高くない上,原告X1社及び原告X2社の売上げが減少したとしても,その減少と被告らの不法行為との因果関係について一切立証がない。また,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとも認められない。
よって,原告X1社及び原告X2社の損害賠償請求には理由がない。
(2)  原告X3及び原告X4の損害について
原告X3及び原告X4は,被告らの不法行為により甚大な被害を受けたと主張するが,その具体的な内容について主張立証をしないので,通常の損害として想定される精神的損害についてのみ検討する。
原告X4及び原告X3は,上記2(2)ア及びイで認定したとおり,被告らの共謀による不法行為により,自宅に無言電話をかけられ,インターネット上に窃盗,詐欺,横領等の犯罪行為を行ったと掲載され,約1か月にわたり自宅及び勤務先に街頭宣伝活動が行われ,更に原告X4の長女の安全について脅迫を受けた。これらの精神的損害を慰謝するに足りる慰謝料としては,同原告ら各自についてそれぞれ300万円とするのが相当である。
(3)  被告Y2に対する誹謗中傷行為の差止請求について
前記2(2)アのとおり,被告Y2は,原告X1社及び原告X2社の信用を毀損するとともに業務を妨害し,また,原告X3及び原告X4の名誉及び信用を毀損する等の行為を反復継続したもので,本人尋問においても,自らの行為の正当性を縷々主張していることからすると,原告らの営業権及び人格権が今後も侵害される可能性がないとはいえない。
しかし,判決によるものであっても,将来の表現活動を事前に抑制することについては,極めて慎重にすべきであり,そのような可能性があるというだけでは足りないというべきである。しかも,原告らが求めているのは,「原告らを誹謗中傷する内容の文書記事等」のインターネット上の掲載その他不特定多数の者に触れさせる行為の差止めであり,その請求自体,差止めの対象とする表現内容が十分特定されておらず,非常に広範なものになっている。また,今後被告Y2が原告らの懸念するような表現活動をした場合には,原告らには損害賠償請求という救済手段があり得るのである。
これらに鑑みると,被告Y2に対する誹謗中傷行為の差止請求については棄却するのが相当である。
(4)  謝罪広告について
原告らの社会的地位や前記2(2)アで認定した名誉毀損行為の態様,前記(2)の被告らの負担する損害賠償の内容からすれば,原告らが被告らの名誉毀損行為によって被った損害の回復について,全国紙による謝罪広告まで要すると認めることはできない。
(5)  弁護士費用について
原告X3及び原告X4が,同原告ら訴訟代理人に対して本訴の提起及び追行を委任していることは顕著であるところ,被告らの不法行為と相当因果関係がある弁護士費用としては,それぞれ30万円を認めるのが相当である。
7  結論
以上によれば,原告X3及び原告X4の請求は主文第1項に掲げた限度で認容し,原告らのその余の請求は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条及び65条1項を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 尾島明 裁判官 增永謙一郎 裁判官 鬼丸のぞみ)

 

〈以下省略〉

 

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