判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(77)平成28年 7月28日 東京地裁 平27(ワ)17999号 報酬等請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(77)平成28年 7月28日 東京地裁 平27(ワ)17999号 報酬等請求事件
裁判年月日 平成28年 7月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)17999号
事件名 報酬等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA07288016
要旨
◆被告から被告所属のアイドルグループが出演する映像制作等の支援を依頼され、相当報酬を支払うとの約定でこれを引き受けた(業務支援契約)とする原告が、同契約に基づく報酬金残金の支払を求めた事案において、原告は本件業務支援として映像制作(簡単なWEB番組の制作及びミュージックビデオの制作)のほか、それ以外の業務に従事していたとした上で、原告と被告代表者Aとの間では、本件業務支援に関し被告が原告に対し業務の内容や量に応じて相当報酬を支払うとの(黙示の)合意はなく、本件アイドルグループが利益を生じさせるようになった際にはその利益の2割が原告に分配される一方で、そうならなかった場合には原告には何らの報酬も支払われない旨の合意があったと認められるところ、本件アイドルグループは未だ利益を上げていないとして請求を棄却した事例
参照条文
民法91条
民法643条
民法656条
裁判年月日 平成28年 7月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)17999号
事件名 報酬等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA07288016
横浜市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 高橋建嗣
東京都港区〈以下省略〉
被告 MovingFactory株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 樋口譲
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
Ⅰ 被告は、原告に対し、1746万9000円及びうち1641万9000円に対する平成27年6月5日から、うち105万円に対する平成27年7月15日(訴状送達の日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
Ⅱ 訴訟費用は被告の負担とする。
Ⅲ 仮執行宣言
第2 事実関係
Ⅰ 事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、被告から、被告所属のアイドルグループの出演する映像制作等の支援を依頼され、相当な報酬を支払うとの約定でこれを引き受けた(業務支援契約)ところ、その相当報酬は合計1926万9000円となるとして、業務支援契約に基づき、同額から既払金180万円を控除した報酬金残金1746万9000円及びこれに対する請求日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
Ⅱ 基本的事実(争いのない事実)
1 当事者
原告は、映像製作業務等を目的とする株式会社POW SOURCE(以下「パウソース」という。)の取締役であり、パウソースにおいて実際に映像編集等の映像製作に関する業務に従事していた。
被告は、アイドルのプロデュース等を業務とする株式会社であり、その代表者であるA(以下「A」という。)は、かねてから原告の知り合いであった。
2 原告による被告の業務支援
Aは、平成24年8月頃、原告に対し、業務支援を依頼し、原告は、同月18日から平成26年11月16日までの間、上記依頼に基づき、被告所属のアイドルグループである「○○」「△△」(以下「本件アイドルグループ」という。)のために、①出演映像(動画)コンテンツの複数制作(編集が主で、原告が撮影したものもある。)、②ライブ・イベント等活動での撮影、インターネット中継配信のセッティング(手配)、営業用写真撮影、イベント準備、レッスンの様子の撮影、各メディア(マスコミ)配布用動画の撮影(上記①とは別のもの)、映像(原告が制作したものに限られない。)の管理、写真素材の加工、ホームページやファンサイトの制作・管理・更新作業等、多岐にわたる作業を行った(以下「本件業務支援」という。)。
3 原告の被告に対する請求
原告は、平成27年5月22日、被告に対し、上記2記載の業務支援に係る対価として、1641万9000円を同年6月4日までに支払うよう請求した。
Ⅲ 争点及びこれに関する当事者の主張
1 本件業務支援において原告が具体的に実施した業務【争点1】
(原告の主張)
原告は、被告のために、別紙1のとおり、映像制作(簡単なWEB番組の制作及びミュージックビデオの制作)を行い、また、平成24年8月から平成26年11月までの間、別紙2のとおり、映像制作以外の被告の業務に従事した。
(被告の主張)
知らない。
2 本件業務支援について相当報酬を支払う合意の有無【争点2】
(原告の主張)
原告は、Aから依頼を受けて、本件業務支援を行ったところ、その対価については、原告もAもその業界のプロフェッショナルであり、無償で業務を行うことなどあり得ないことは互いに了解していたものであるから、原告とAとの間において、原告が被告のために行う本件業務支援については、被告が原告に対して相当な報酬を支払うとの黙示の合意があったものである。株式会社の取締役である原告が、対価なく、2年以上も労務の提供を続けることなどあり得ない。また、被告は、本件業務支援の対価として180万円を支払っており、これも、被告が原告に報酬を支払わなければならないと考えていたことの証左である。なお、Aは、本件業務支援に係る依頼をする当初に、原告に対し、本件アイドルグループが売れたらその利益の2割を支払うと述べた事実はあるが、これは相当報酬の支払とは別に、成功報酬として利益の2割を分配するという意味にすぎない。
(被告の主張)
原告と被告との間に、本件業務支援に対して相当報酬を支払うとの合意は存在しない。原告は、平成24年8月以降、本件業務支援を行ってきたが、平成27年5月に至るまで報酬を請求してこなかったのであって、このことこそ報酬支払の約束がなかったことの証左である。被告が、原告に対し、本件業務支援に関して180万円を支払った事実はあるが、これは感謝の気持ちとして支払ったものにすぎない。
原告と被告は、本件アイドルグループのプロモーションを行い、もし、本件アイドルグループが利益を出すほどに売れたらその利益のうち2割を原告に分配する(売れるまでは無償)という約束をしたにすぎない(いわゆるレベニューシェア:提携手段の一つであり、支払枠が固定されている委託契約ではなく、パートナーとして提携し、リスクを共有しながら、相互の協力で生み出した利益をあらかじめ決めておいた配分率で分けることを意味する。)。2割の成功報酬はとてつもない高率なものであって、相当報酬の支払を受けた上で2割の成功報酬を取得するのは、その取得する者が相当の知名度、権益、技術を有しており、その者が関与することによりプロモーションになるという場合でなければあり得ない。なお、現時点においては、本件アイドルグループにつき、まだ利益は上がっていない。
3 本件業務支援に係る相当報酬額【争点3】
(原告の主張)
原告は、パウソースの業務として多数の映像制作やそれ以外の業務を行ってきたところ、その場合に適用される報酬基準が本件においても相当報酬となるというべきである。上記報酬基準を参考にすると、簡単なWEB番組を制作する場合の1分当たりの単価は1万5000円、ミュージックビデオを制作する場合の1分当たりの単価は12万円であり、かつ、ミュージックビデオを原告が撮影する場合は1本当たりの価格は17万2000円となる。また、それ以外の業務を行う際の原告の日当は2万5000円である。
これを本件業務支援に当てはめると、別紙1のとおり、映像制作に係る相当報酬は合計731万9000円であり、別紙2のとおり、その他の業務実施に係る相当報酬は合計1195万円となる(総合計1926万9000円)。
(被告の主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
Ⅰ 争点1(本件業務支援において原告が具体的に実施した業務)について
証拠(甲3、8、11の1~4、13~21)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、本件業務支援として、別紙1のとおり、映像制作(簡単なWEB番組の制作及びミュージックビデオの制作)を行い、また、平成24年8月から平成26年11月までの間、別紙2のとおり、映像制作以外の業務に従事したことが認められる。
Ⅱ 争点2(本件業務支援について相当報酬を支払う合意の有無)について
証拠(原告本人、被告代表者本人)によれば、原告がAから依頼を受けて本件業務支援を始めた際、原告とAの間で、原告が行う本件業務支援の内容や量に応じて、具体的に報酬としてどの程度の金額を支払うなどという話がされたことはない一方、Aから、本件アイドルグループが売れて、利益が出るようになったら、その利益の2割を原告に分配するという話はあり、原告はその話を承諾したことが認められるところ(原告は、本件業務支援に係る報酬はどうやって決めたのかという被告代理人からの質問に対し、Aから[利益の]2割と言われた、[そのAから提案を受けて]取りあえずそれでいいと言った旨供述している。)、この事実からすれば、原告とAの間においては、本件業務支援について、原告が実際に行う映像制作やそれ以外の業務ごとに、作業料や日当等として積み上げる形での報酬を支払うという約束はなく、その代わり、本件アイドルグループが利益を生み出すようになったら、その利益の2割に相当する金額を分配するという約束がされ、同約束の下、原告は本件業務支援を行ったものと認定できる。
この点、原告は、原告もAもプロフェッショナルであり、無償で業務を行うことはあり得ない旨主張するが、上記認定のとおり、本件アイドルグループについて利益が生じた場合には、原告は利益の分配を受けることができるようになるわけであるから、必ずしも無償で業務を行ったということにはならない。
また、原告は、利益の分配の話があった点については、相当報酬の支払に加えて、成功報酬として利益分配をするという趣旨であった旨主張するが、本件アイドルグループのプロモーションに関して必要となる経費は、その全てを被告が負担していることが認められるところ(原告本人、被告代表者本人)、原告の主張のとおりであるとすれば、本件アイドルグループが売れるか売れないかが全く不明である中、原告は、何のリスクも負担せず、本件業務支援に係る相当報酬(原告の計算によれば、その額は約2000万円にも上る。)を受領できる上、仮に本件アイドルグループが売れた場合には、2割の利益分配も受けられるということになるが、そのような(被告にとってメリットが乏しいと思われる)合意がされたことに合理性があると認められるような事情は、本件において全くうかがわれない。
さらに、原告は、被告から、本件業務支援に係る報酬の一部として、180万円の支払があったことも、相当報酬の支払合意を推認させる旨主張するところ、確かに、本件業務支援に関して、被告が、原告に対し、原告が本件業務支援を行っている期間中、三、四回に分けて、合計180万円(各回五、六〇万円程度)を支払ったことが認められる(原告本人、被告代表者本人)。その一方、原告は、本件業務支援を行っている2年4か月の間、被告に対して、本件業務支援に係る報酬の支払を求める請求書を一度も送ったりしていないことが認められるのであって(原告本人。なお、原告が被告に対して本件業務支援に係る報酬請求を書面で行ったのは、本件業務支援を終えた約半年後の平成27年5月になってからである[甲6、7]。)、同期間に原告が行った本件業務支援の量(争点1で認定したとおりである。)に照らすと、仮に、原告において、被告から相当額の報酬(上記のとおり、原告の計算によれば、その額は約2000万円にも上る。)を受け取ることができるという認識を有していたのであれば、過去に、原告が取締役を務めるパウソースが、本件業務支援で原告が行った業務と類似の業務について被告から依頼を受けた際と同様、個別の業務ごとに請求書を送付する(甲4の1、25の1~6)といった行動をとってしかるべきと考えられるが、原告がそのようなことを行っていないのは上記認定のとおりであり、そのことについての合理的な説明もない。なお、この点につき、Aは、本件アイドルグループについて利益は出ていないが、原告も困っていると思い、温情で支払った旨供述しており、そのような理由による支払であったとも十分に考えられるところである。
また、原告は、過去にパウソースが、本件業務支援で原告が行った業務と類似の業務について被告から依頼を受けた際にも、本件業務支援と同様、明示的に報酬の合意をしたわけではなかったが、その後具体的に報酬について話をして、(一部未払はあるが)支払ってもらえた旨供述しており、本件業務支援についても、上記過去の業務依頼と同様の(黙示の)合意があったという趣旨の供述をする。しかしながら、原告は、同時に、上記過去の業務依頼においては、利益の分配の話は存在しなかったとも述べており、そうすると、利益の分配の話がある本件業務支援を、それがない上記過去の業務依頼と同様に捉えることはできないというべきである。
以上のとおりであって、本件業務支援に関して、被告が、原告に対し、原告が実際に行う映像制作やそれ以外の業務の内容や量に応じて、相当報酬を支払うとの(黙示の)合意はなく、仮に、本件アイドルグループが利益を生じさせるようになった際には、その利益の2割が原告に分配される一方、そのようにならなかった場合には、原告に対しては何らの報酬も支払われないという合意があったものと認定できる。
Ⅲ よって、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとする。
(裁判官 武部知子)
*******
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。