判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(310)平成19年10月19日 東京地裁 平17(ワ)26564号 損害賠償等請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(310)平成19年10月19日 東京地裁 平17(ワ)26564号 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成19年10月19日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)26564号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2007WLJPCA10198001
要旨
◆被告らの発行する各週刊誌にフリーアナウンサーである原告の名誉を侵害する記事が掲載されたとして損害賠償及び謝罪広告を求めた事案につき、詐欺的投資への原告の関与の可能性を摘示した記事は原告の社会的評価を低下させ真実性や相当性も認められないとし、原告が訴外投資会社の宣伝の役割を果たしその勧誘により被害者が生じた事実を摘示した記事は原告の社会的評価を低下させるものであるが真実性が認められ違法性が阻却されるとした上で、前者の記事を掲載した被告出版社への損害賠償請求の一部を認容し、謝罪広告の掲載請求は棄却し、後者の記事を掲載した被告出版社への請求はいずれも棄却した事例
参照条文
民法709条
民法710条
民法723条
裁判年月日 平成19年10月19日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)26564号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2007WLJPCA10198001
東京都品川区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 和田佳久
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 株式会社小学館(以下「被告小学館」という。)
同代表者代表取締役 C
同訴訟代理人弁護士 竹下正己
同 山本博毅
同 多賀亮介
同訴訟復代理人弁護士 大山弘通
東京都文京区〈以下省略〉
被告 株式会社講談社(以下「被告講談社」という。)
同代表者代表取締役 D
同訴訟代理人弁護士 的場徹
同 山田庸一
同 服部真尚
同 宮川舞
同 大塚裕介
主文
1 被告小学館は,原告に対し,165万円及びこれに対する平成18年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告小学館に対するその余の請求及び被告講談社に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告に生じた費用の8分の1と被告小学館に生じた費用の4分の1とを被告小学館の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告に対し,連帯して,600万円及びこれに対する平成18年年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告小学館は,同被告発行の週刊誌「週刊ポスト」に別紙1記載の謝罪広告を同別紙記載の掲載条件で1回掲載せよ。
3 被告講談社は,同被告発行の週刊誌「FRIDAY」に別紙2記載の謝罪広告を同別紙記載の掲載条件で1回掲載せよ。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告らに対し,被告小学館は,同社が発行した週刊誌「週刊ポスト」において,被告講談社は,同社が発行した週刊誌「フライデー」において,それぞれ原告の名誉を毀損する記事を掲載したとして,不法行為に基づく損害賠償として,慰謝料500万円及び弁護士費用相当額100万円の損害金合計600万円並びにこれに対する不法行為の後の日(訴状送達日の翌日)である平成18年1月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,被告らそれぞれに対して,謝罪広告の掲載を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 原告は,ファイナンシャルプランナーの資格を有する元テレビ朝日のアナウンサーであり,平成16,7年当時においては,フリーアナウンサーとしてビジネス関係の番組に出演したり,話し方講座やキャリア講座などのセミナーの講師をしていたが,ファイナンシャルプランナーとして,講座を主催するなどしたことはなかった(甲4,原告本人)。
(2) 被告小学館は,同社発行の週刊誌「週刊ポスト」平成17年8月26日号において,別紙記事1記載のとおり,タイトル部分に「6000万円被害者が激怒告白『私はあの有名女子アナに騙された!』(ただし,「元テレ朝・X」との文字を四角で囲って同タイトル部分に重なるように配置されている。),サブタイトル部分に「100億円超!『巨額詐欺疑惑』に新展開」,リード部分に「まさに“金余りニッポン”の象徴であり,起こるべくして起こった事件といえるかもしれない。投資ブームの最中,高利を謳う資産運用会社が破産した。口コミで集めた額は100億円超。集金力の源となったのは人脈豊かな「紹介者」だった。そのひとりに,著名な美人女子アナがいた。」と記載して,次のような記述を含む記事(以下「本件記事1」という。)を掲載し,同月12日ころ,全国で販売した。
① 本件記事1①(別紙記事1 39頁2段7行目ないし40頁1段9行目。以下,この部分を「本件記事1①」といい,他もこの例による。)
うますぎる話だとは思いましたが,“勧誘”してくれたのがキャスターのXさん。社会的地位もあり,ファイナンシャルプランナーの資格も持っているというので,安心していました。
なのにXさんは今では「自分も被害者だ」といって謝罪の言葉すらない。騙された,許せないという気持ちでいっぱいです。
② 本件記事1②(40頁3段15行目ないし17行目)
それにしても,Aさんに対するXアナの“勧誘”は,自信に満ちていた。
③ 本件記事1③(同頁4段28行目ないし5段5行目)
しかし,Xアナは,『詐欺じゃないわよ』と明言した上でこう続けたという。
「彼(E氏)は独立したてで,張り切っているのよ。みんなが叡智を結集したから,今回は60%も配当がついた」
④ 本件記事1④(同頁5段22行目ないし26行目)
いずれにせよ,GPJと名乗るようになってからの同社の営業活動には拍車がかかり,Xアナの“勧誘”にも熱が入った。
⑤ 本件記事1⑤(41頁2段17行目ないし20行目)
(GPJ社の元幹部社員の話として,原告とGPJ社社員のB氏とが四谷のフラメンコ教室で知り合ったとする文の後に)「この教室の生徒さんには,2人に勧誘されて投資した人が少なくない」
⑥ 本件記事1⑥(41頁2段21行目ないし3段16行目)
こうした海外へのファンドや金融商品への投資には,「イントロデューサー」と呼ばれる紹介者がつきものである。いずれも出資法等の規制があって,広告宣伝は適わず,口コミでの募集となる。その際,人脈豊かな人に「イントロデューサー」を委託すれば,労せずして資金を集めることができる。むろん,勧誘に成功すれば,投資金額の数%が支払われるのが常識だ。
GPJ社の詐欺的商法をXアナが承知していたとはいわないが,紹介者として関わった以上,他の事例のように成功報酬があった可能性は否定できない。
⑦ 本件記事1⑦(41頁5段28行目ないし32行目)
そのなかには,Xアナを含む紹介者の役割の解明も含まれており,場合によっては,「モラル」だけでは済まない責任が生じる恐れもある。
(3) 被告講談社は,同社発行の週刊誌「フライデー」平成17年8月19日・26日合併号において,別紙記事2記載のとおり,「直撃元テレ朝女子アナもサギ会社の“広告塔”だった」の見出し(ただし,「X氏」との文字を四角で囲って同見出しのテレ朝女子アナに重なるように配置されている。)の下,次のような記述を含む記事(以下「本件記事2」という。)を掲載し,同月12日ころ,全国で販売した。
① 本件記事2①(別紙記事2 本文1段1行目ないし7行目)
「Xさんに紹介されて,最初は半信半疑ながら150万円を投資しました。そうしたら1か月後には240万円になって還元されてきたんで,これは良い話だなと。ところが6月末からおかしいと思うようになって……。現在,身内の投資金額の合計は約6000万円。本当に許せません。」(被害者・A氏)
② 本件記事2②(同3段8行目ないし4段1行目)
A氏はこう語る。
「Xさんと,E社長とはGPJの会社で会いました。Xさんには,『私も200万円ほど投資しています。E社長は素晴らしい人です』と投資を勧められました。E社長にも『Xさんの紹介だから特別に会ったのだ』といわれたので,運用してみようという気になったんです。」
③ 本件記事2③(同4段8行目ないし10行目)
(原告の発言として)「加害者といわれても仕方ありません。」
(4) 本件記事1及び本件記事2において,被害者として記載されている「Aさん」,「A氏」とは,F1ことF(以下「F」という。)のことであり,Fやその家族は,GPJ社の金融商品への投資により,約6000万円の損失を被った(乙イ24)。
(5) 株式会社Gestion Privee Japon(ジェスティオン・プリヴェ・ジャポン,以下「GPJ社」という。)は,平成14年9月18日設立された会社である。同社は,資産運用コンサルティング業をその目的として掲げ,個人投資家や資産家から投資名目で総額約270億円の資金を集めたが,その後破綻し,東京地方裁判所は,同社につき,平成17年7月20日,破産手続開始決定をした。
また,東京地方裁判所は,GPJ社の代表者であったE(以下「E」という。)に対して,平成19年4月12日,「3か月後に約27%の利益がある」などと虚偽の事実を告げて投資を募り,合計約3億1900万円を騙し取ったとして,詐欺罪により,懲役7年に処する判決を言い渡した(乙イ25)。
2 争点
(1) 名誉毀損の成否
ア 本件記事1について
(原告の主張)
(ア) 本件記事1は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として解釈すると,(イ)以下に述べるとおり,原告が紹介者として詐欺行為に関与・加担したとの事実を報じ,一般読者をしてこれが真実であるかのように思わせ,原告の名誉を毀損したものである。なぜならば,本件記事1は,その具体的な内容として,原告が,詐欺であるGPJ社への投資について,真実に反する説明をするなどして,熱心に勧誘を行った,あるいは,少なくとも,原告が詐欺であるGPJ社への投資について,熱心に勧誘を行ったとの事実を報じたものであって,(a)原告が知人に対して熱心に投資の勧誘を行い,その結果,その知人がGPJ社に投資をしたこと(本件記事1①ないし⑤等,以下「摘示事実a」という。),(b)原告が紹介者として成功報酬を受領した可能性があり,その責任を問われる可能性があること(本件記事1⑥⑦,以下「摘示事実b」という。),及び,(c)被害者A氏が,原告について,「騙された,許せないという気持ちでいっぱいです」との発言をしたこと(本件記事1①,以下「摘示事実c」という。)との各事実を摘示するものだからである。
(イ)a 本件記事1のタイトルは,記事中で最も大きな活字を使用して「私はあの有名女子アナ(元テレ朝・X)に騙された!」とするものである。なお,同タイトルは,かぎ括弧を用いて,一被害者の発言を引用した形となっているが,そのような形式であっても,一般の読者は,「騙された」との発言の前提事実である「原告が当該被害者を騙した」との事実を報じたものと考えるのが普通である。
また,上記タイトル近くには,「100億円超!『巨額詐欺疑惑』に新展開」とのサブタイトルがあり,これには,「巨額詐欺疑惑」の対象となる主体が明示されていないから,上記「騙された」とタイトルと相まって,原告が詐欺行為に関与・加担したとの印象を与えている。
加えて,本件記事1には,「集金力の源になったのは人脈豊かな『紹介者』だった。そのひとりに,美人女子アナがいた」とのリード部分や,「『2年で資金10倍も』と勧誘」との小見出しがあるから,前記タイトル及びサブタイトルと相まって,原告が紹介者としてGPJ社の詐欺行為に関与・加担したとの印象を与えている。
したがって,本件記事1は,タイトル・サブタイトル・小見出しといった一般読者の目に最も触れやすい部分において,原告が紹介者としてGPJ社の詐欺行為に関与・加担したとの印象を与えるものである。
b 次に,本件記事1の本文は,「勧誘」や「紹介者」という言葉を繰り返し使用して,原告がGPJ社への投資の勧誘を行ったことを報じており,その内容も,原告の発言を引用した形を取るなど,極めて具体的かつ詳細である。しかも,勧誘の態様について,「“勧誘”は自信に満ちていた。」,「『これはあなたに,ぜひ教えたくて。』」,Xアナの“勧誘”にも熱が入った。」と記載しているから,原告が主体的かつ積極的に勧誘したとの印象を与える内容となっている。
また,「GPJと名乗るようになってからの同社の営業活動には拍車がかかり,Xアナの“勧誘”にも熱が入った」ともしており,同社の営業活動と原告の勧誘との間に強い関連性,一体性があるとの印象を与えている。
c これに加えて,本件記事1の本文は,GPJ社への投資は実体がなく,詐欺商法だと報じているのだから,このような本文を通読した一般の読者としては,原告が勧誘の際にした発言は真実に反するものであるとか,原告が,GPJ社への投資について,熱心な勧誘を行ったと考えるにとどまらず,さらに進んで,原告は,詐欺商法であるGPJ社への投資について,真実に反する説明をするなどして,熱心に勧誘を行ったと考えるのが普通である。
(ウ) 以上の次第で,本件記事1は,全体として,原告が報酬を受領して紹介者としてGPJ社の詐欺行為に関与・加担し被害を生じさせたとの事実を報じたものであり,その具体的な原告の行為内容として,原告が,詐欺であるGPJ社への投資について,真実に反する説明をするなどして,熱心に勧誘を行った,あるいは,少なくとも,原告が,詐欺であるGPJ社への投資について,熱心な勧誘を行ったとの事実を報じたものと解すべきである。
(被告小学館の主張)
(ア) 本件記事1は,原告がGPJ社とともに詐欺行為をしたことではなく,世間の耳目を集めたGPJ社の破綻事件の概略とともに,世間から信頼を集める人気女子アナウンサーが軽率な勧誘行為をしたことから多大な被害にあった人がおり,その責任の解明が待たれることを報じたものであって,原告の名誉を毀損するものではない。
(イ) 本件記事1の「『私はあの有名女子アナに騙された!』」というかぎ括弧付きのタイトルは,一般の読者の普通の注意と読み方からすれば,6000万円の被害を受けた者が,騙されたと発言し,被害者が怒っていることを読み取るものである。具体的内容については,大見出しだけでは分からず,実際に本文を読んで分かることとなるのであって,見出しだけで判断されるべきではない。
(ウ) また,そのリード部分は,破産した資産運用会社が100億円を集めたところ,その資金を集める源となった紹介者の中に著名な美人女子アナがいたことを記事の導入として示していて,原告の氏名の指摘や原告が詐欺の実行行為を行った等という記載もなく,本文を読み進めるための導入として,記載どおり,紹介者には著名な美人女子アナウンサーがいたことを示しているものである。
(エ)a 本件記事1の本文中,「カリブ海クルーズに3億円」との小見出しに続く章においては,被害者であるFがGPJ社に投資したことで被ったという被害の内容,同社の取引の危険性及び破綻の計画性などを記載し,原告については,原告がFを勧誘し,紹介者となっていたことを指摘し,Fにおいて,原告が「自分も被害者だ」といって謝罪の言葉すらないことに憤っていることを記述したものであるが,原告が詐欺の実行行為やGPJ社との詐欺の共謀行為など刑事訴追を受けるようなことをしていたというような趣旨の記載は全くない。
b 次に,「『2年で資金10倍も』と勧誘」との小見出しに続く章においては,原告が勧誘をしていたことを指摘し,Fに対する勧誘時の原告の言動などの状況を具体的に記載したが,原告の行為が何らかの違法行為や犯罪の実行行為に当たるとする評価は記載していない。
c さらに,最終の,「クリスマスパーティで司会」との小見出しに続く章においては,原告がGPJ社の詐欺行為の認識があったことについて,「GPJ社の詐欺的商法を,Xアナが承知していたとはいわないが」と記載して,地の文で否定しており,原告について詐欺などの犯罪行為を行ったかのごとく報じたものではなく,また,原告への電話取材の内容を紹介した部分にも,原告が何らかの詐欺行為をしたことを示唆するような記述はない。
そして,最終2段落においては,本件について捜査による解明次第では,原告を含む紹介者のモラルだけでは済まされない責任が生じるおそれがあると指摘したにとどまる。
なお,原告が紹介報酬を受領した可能性を指摘した記述部分はあるが,その直後のインタビュー部分において,原告自らがこれを否定していることを説得力のある表現で記述しており,これが考え難いことは一般読者には明確に伝わっている。
(オ) 以上の次第で,本件記事は,原告が詐欺をした,又は詐欺の共犯であったという事実を摘示したものではない。
イ 本件記事2について
(原告の主張)
(ア) 本件記事2のタイトルは,「X氏も『サギ会社の“広告塔”だった』」とするものであるが,この「広告塔」という言葉は,一般に「人が,特定の団体や思想等の宣伝活動をしている場合やそのような立場にある場合」に用いられ,否定的,批判的なニュアンスを含む言葉である。
したがって,一般の読者は,このタイトルから,原告がサギ会社の宣伝活動をしていた,あるいはそのような立場にあったとの事実を報じたものと考えるのが普通である。
(イ)a 本件記事2の本文は,原告が被害者A氏をEに引き合わせて,GPJ社への投資に勧誘した(本件記事2②),原告が投資の勧誘をしたことについて,被害者A氏が「本当に許せません」との発言をした(本件記事2①),原告が「加害者といわれても仕方ありません。」と発言した(本件記事2③)との各事実を摘示するものである。
また,本件記事2の本文は,原告が被害者A氏をEに引き合わせてGPJ社への投資を勧めた際に,同人を「素晴らしい人」とほめたたえたような表現を用いていて,原告が主体的かつ積極的にGPJ社への投資の勧誘をしたとの印象を与える内容となっていることに加えて,本件記事2③において原告のコメントを引用することによって,原告がGPJ社への投資の勧誘をしたことを認めるような発言をしたとの印象を与えている。
したがって,本件記事2を読んだ一般の読者は,これが,原告が,GPJ社への投資について,熱心な勧誘を行ったとの事実を報じたものと考えるのが普通である。
b これに加えて,本件記事2は,本文において,GPJ社の破産手続が開始されたこと,Eが自殺を図ったとの情報があること,及び,新規会員の投資金を他の会員への配当に回していたという話もあり,今後,詐欺事件に発展する可能性も示唆されていることを報じている上,タイトルでは「サギ会社」と断定的な表現を用いることによって,GPJ社への投資は詐欺であるとの印象を与えるものである。
(ウ) 以上の次第で,本件記事2は,全体として,原告が,詐欺を行っている会社の宣伝活動に加担していた,あるいは,そのような立場にあって被害を生じさせたとの事実を報じたものであり,その具体的な原告の行為内容として,原告が,詐欺であるGPJ社への投資について,熱心に勧誘を行ったとの事実を報じたものである。
(被告講談社の主張)
本件記事2は,原告が,軽率にも,詐欺的商法と呼ばれても仕方がない投資商品の販売の勧誘に関与してしまったという事実を紹介して,原告のタレントとしての顧客誘引力が詐欺的商法に利用されたことについて原告に対して,広告塔と言われても仕方がなかったという批判的論評を寄せたものである。
したがって,本件記事2における主要な伝達事実とは,原告自身が,GPJ社の社長に被害者を紹介してGPJ社の投資勧誘行為に関わったという事実であって,被告講談社は,そのような事実を前提として,原告に対して,軽率に利用されたことについて広告塔と言われても仕方がないという批判・論評を加えたものである。
著名なアナウンサーであった原告は,メディアに露出し社会的影響力を有していたのであるから,それと同時に相応の批判・意見を甘受しなければならない立場にある。そして,本件記事2が報じた原告の軽率かつ安易な行動に対する批判的論評は,その表現内容,表現方法,表現目的等に鑑みても,決して通常の批判・意見の領域を超えるものではなく,原告の社会的評価を低下させるものではないから,名誉毀損言明となる余地はない。
(2) 違法性ないし責任阻却の成否
ア 本件記事1について
(被告小学館の主張)
(ア) 公共性・公益目的
本件記事1は,GPJ社の投資勧誘が社会問題化している背景の下で,フリーアナウンサーとして主としてビジネス関係の番組に出演するほか,各種セミナーの講師をするなど広く活躍している原告がその勧誘に一役買っていたという情報に基づいて,原告の言い分を含めてその実体を報じたものであって,その内容は公共の利害に関する事実である上,被告小学館は,社会問題化したGPJ社の投資勧誘について国民に警鐘を鳴らすべく,原告が,被害者を巻き込んだことを伝えようとしたのであり,特に原告の誹謗中傷を目的として報じたものではなく,公益目的による報道である。
(イ) 真実性
a 本件記事1①ないし⑤によって摘示した事実は,いずれも真実である。
b 本件記事1⑥によって摘示したのは,一般論であって真実である。原告に関しては,一般論に基づく可能性を指摘したにとどまるものであって,原告が報酬を受領したとまで断定していないから,原告が報酬を受領したことの真実性を立証する必要はない。
c 本件記事1⑦については,本件記事①ないし⑥の各事実に加えて,GPJ社の活動の違法性が強く,その被害も大きいことや,原告がGPJ社のクリスマスパーティで司会をするなどその活動に協力したこと,及び,原告はビジネスに強いという評価を受けており,セミナーの講師も務めるなど,世間の信頼も厚いという立場にあるといったことを前提として,原告の行動が社会的に厳しく批判される可能性があることを指摘した意見ないし論評であり,前提となった事実はすべて真実である。
仮に,被告小学館において,何らかの法的責任が問われる可能性があることを立証しなくてはならないとしても,以下のとおり,原告は法的責任を負う可能性がある。
(a) ファイナンシャルプランナーの資格を有する原告が自らの投資実績をも合わせて説明の上でチラシを配った以上,原告の行動は勧誘行為にほかならないから,原告は,善意であったとしても,勧誘した被害者に対する民事上の過失責任を問われる可能性が十分にあった。
(b) さらに,一般読者が,本件記事1⑦から,原告につき刑事責任が生じていると読み取ると仮定しても,GPJ社は,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締に関する法律(以下「出資法」という。)に違反して,出資金の受入及び業として預り金をしていたのであって,原告についても,原告は,不特定多数の人を勧誘して資金をGPJ社に拠出させたり,同社からチラシをもらっていたりしたことから,同社が同様に不特定多数の人から高率の配当を謳い文句に資金を募っていることを承知していたとみるべきである。すなわち,原告は,GPJ社が出資法に違反する行為をしている事実を認識しつつ,同社に協力して預り金の勧誘をしたことになる。
したがって,捜査の進展如何によっては,原告についても刑事責任が生じるおそれがあると評価したことについて,その根拠たる事実はすべて真実である。
(ウ) 相当性
a 被告小学館は,原告から直接勧誘されたFの他,原告本人にも取材を行い,Fからは,本件投資に関する資料も入手した。さらに,別のGPJ社の被害者や被害者の代理人弁護士に対しても取材を行った。
そして,Fと原告への取材によれば,概ね原告が進んで自身の投資実績を話し,チラシを配布してFを勧誘したこと,及び,原告が被害者に対して責任を感じていたことは双方の証言として一致していた。特に,後者に関しては,原告は,被告小学館のG記者(以下「G記者」という。)の取材に対し,原告に騙されたといっている人に対しても申し訳ないという気持ちしかなく,なかなか人を責めるという気にはなれないと話したのであって,原告の本件被害についての役割や責任の重さを自ら認識していた。
以上の次第で,被告小学館が取材した結果として,本件事件の顛末については,客観的な事実面としては概ね一致していたものであり,原告が説明した投資実績は社会常識からすれば不可解なものであったことをも合わせ鑑みれば,本件記事の摘示事実の主要な部分につき,真実であると被告が信じたことには相当な理由があったというべきである。
b また,Fは原告の親しい友人であって原告をことさら貶めるような動機は見受けられなかったこと,Fが本件の顛末を具体的にG記者に説明した内容は原告の説明とも一致していたこと,取材時においては,原告は,Fに対してチラシをファックスしたとは説明していなかったこと,及び,Fは,G記者の取材に対し,7月28日,同月29日,同年8月1日,同月2日と,ほぼ連日の取材に誠実に対応し,原告の本件事件についての対応を,親しい友人でなければ知り得ないような詳しい点まで把握してG記者に話したこと,といった点に鑑みれば,被告小学館がFの取材時の説明を信用したことについて何ら落ち度はない。
c さらに,裏付取材に関しても,H記者が,Iや朝日新聞社のJに取材をしているし,取引指示書(出資申込書,乙イ5)やファイナンシャルプランニング及び事務委任契約書(乙イ8),償還金取引指示書(乙イ9)を入手しており,これらの書類を見れば,オプションが当時の為替レートと比べて,考えられないような有利なものであったことが見て取れるのであり,チラシ自体を入手していなかったことは何ら問題ではなく,また,Fの証言に加え,原告も,フラメンコの先生が投資している,3人ぐらいで投資しているんではないかという社員からの情報があったことをG記者に話していたのであるから,これらの証言で十分であって,フラメンコ教室関係者に対して取材を行わなかったことは問題ではない。
d 以上の次第で,被告小学館が本件記事1の摘示事実を真実と信じたことには相当の理由がある。
(原告の主張)
(ア) 真実性
本件記事1は,摘示事実aないしcの各事実を摘示するものであるところ,摘示事実aないしcは,以下のとおり,いずれも真実ではない。
a 本件記事1において,摘示事実aの具体的内容として,本件記事1③及び⑤のほか,原告が「これはあなたに,ぜひ教えたくて。私自身,100万円の預け資金が150万円になったの。なかには2年やって,1000万円が1億円になった人もいるのよ。」と述べてA氏を勧誘したこと,原告がA氏以外の人物も勧誘したことを報じている。
しかし,原告が上記発言や本件記事1③の発言をしたことはないし,また,原告がテレビ朝日の社員や知人等を多数勧誘したという事実もない。さらに,本件記事1⑤のように,原告がフラメンコ教室の生徒を勧誘したという事実もない。
なお,被告小学館のFに対する取材内容(乙イ23の1ないし7)及びFの陳述書(乙イ24,以下,上記取材内容と合わせて「F証言」という。)は,Fが,自分がきっかけとなって家族を巻き込んだために,家族からの責任追及を受けかねない立場にあって原告に責任をなすりつける危険性があること,Fに対する最初の取材(乙イ23の2)にはFがきっかけとなって被害にあった同人の姉妹が同席していたこと,及び,Fは,被告小学館からの取材に応じることで,著名人である原告につき大々的に報じられることによって,自己あるいは家族の被害回復に有利な状況を作り出そうと考えていたのであって,あえて原告に不利な証言をする危険性があると考えられることに照らせば,Fには虚偽の証言をする動機や危険性が十分に存在し,その証言の信用性には疑問がある。
b 原告が紹介者として成功報酬を受領したことはないから,摘示事実bは真実ではない。
c また,Fは,「騙された,許せないという気持ちでいっぱいです」という発言をした事実はなく,摘示事実cは真実ではない。
(イ) 相当性
F証言には,前記(ア)aのとおり,虚偽証言の危険性があり,被告小学館はその危険性について認識し,あるいは容易に認識し得たはずであったし,Fの取材を担当したG記者は,情報提供者であるKのことをいわゆる「ブラックジャーナリスト」と評しており,情報提供者の信用性について疑問を抱いていたのであるから,本件を取材するに当たっては,F証言の信用性について十分に注意をするとともに,それが真実であることを確認するために慎重に裏付取材をするべきであった。
ところが,被告小学館は,F証言をうのみにして,その信用性について十分な検討をせず,原告に対して取材をしたのみで,それ以外の裏付け取材を全くしなかったのであるから,被告小学館には,摘示事実aないしcが真実であると信じるについて相当な理由があったとはいえない。
イ 本件記事2について
(被告講談社の主張)
(ア) 公共性・公益目的
本件記事2は,著名なアナウンサーとして顧客誘引力を有する原告が,詐欺的商法の一端に関わったことを批判し,そのタレントとしての自覚を促す目的で発行されたものであって,公共の利害事項に関する事柄について専ら公益を図る目的で発行されたものである。
(イ) 真実性・相当性
また,被告講談社が本件記事2において摘示した,原告が被害者に対して投資を勧めたこと,原告が「加害者といわれても仕方ありません」と発言したこと,被害者が「本当に許せません」と発言したことは,いずれも真実であるか,被告講談社が真実であると信じるについて相当な理由がある。
(原告の主張)
(ア) 真実性
原告が被害者FをEに引き合わせて,GPJ社への投資に勧誘したこと,原告が投資の勧誘をしたことについて,Fが「本当に許せません」との発言をしたこと,及び,原告が「加害者といわれても仕方ありません。」と発言したこととの各事実は,いずれも真実に反する。
(イ) 相当性
被告講談社は,本件記事2の作成に関して,情報提供者であるKからの情報収集と原告本人への取材だけしか行っていないのであって,第三者への裏付取材や被害者本人への直接の取材も行っていない。
また,被告講談社は,他の被害者や原告が勧誘したとされる知人等への取材を一切行っておらず,原告の勧誘の事実を裏付けるチラシなどの資料収集を行った形跡もない。
さらに,被告講談社のL(以下「L記者」という。)は被害者本人と一度も会わず,また一言も言葉を交わしていないであって,真実探求に必要な最低限の努力すら行っていない。
以上の次第で,被告講談社は最低限必要と考えられる取材すら行っていないから,被告講談社には,真実であると信じるについて相当な理由はない。
(3) 損害等
(原告の主張)
原告は,本件記事1及び2によって,精神的損害を被り,それを金銭に換算すると500万円は下らない。また,原告は,被告らの名誉毀損行為により弁護士に訴訟提起を依頼することを余儀なくされ,弁護士費用相当額100万円は,被告らの名誉毀損行為と相当因果関係がある。
また,原告の被った損害は甚大であって,金銭賠償では慰謝しきれないものであるから,謝罪広告の掲載が不可欠である。
これらの損害はいずれも被告らの名誉毀損行為に起因するものであるから,被告らの行為は共同不法行為である。
(被告らの主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(名誉毀損の成否)について
ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,当該記事についての一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
そこで,本件各記事について,この見地から検討する。
(1) 本件記事1について
ア 前提事実(2)に弁論の全趣旨を合わせて考慮すると,本件記事1の摘示内容は,以下のとおりであると認められる。
(ア) GPJ社の商法
本件記事1は,GPJ社の商法について,「巨額詐欺疑惑」とのサブタイトルの下,同社が投資金として集めた金員を他の顧客への償還にあてていて(40頁2段12行目),海外送金していなかったこと(同41頁3段2行目)を記述し,また,「GPJ社の詐欺的商法」との表現も用いているから(本件記事1⑥),GPJ社が投資名目で資金を集める詐欺行為を行っていたことを報じたものである。
(イ) 原告の投資勧誘への関与
本件記事1は,原告がGPJ社への投資を「勧誘」し(本件記事1①,②,④,⑤),原告が「紹介者」であること(本件記事1⑥,⑦),GPJ社の申込書には紹介者欄に原告の名前が記載されたものが10枚以上あること,原告及び原告が紹介した被害者の被害総額が1億円に及んだこと(40頁最終段落),原告及びB氏に勧誘されて投資した人が少なくないこと(本件記事1⑤)を記述し,勧誘は自信に満ちていた(本件記事1②)とか,勧誘に熱が入った(本件記事1④)といった原告の積極性を示す表現も用いていることから,原告が積極的に多数人にGPJ社への投資を紹介し,勧誘したことを報じたものである。
(ウ) 原告の報酬の受領
本件記事1⑥は,投資商品の勧誘では紹介者が成功報酬を受領するのが通常であるとの一般論及び,原告が紹介者として関わった以上,成功報酬(以下「勧誘報酬」という。)を受領した可能性は否定できない旨を記載したものである。そして,その直後の部分(41頁3段24行目ないし4段12行目)では,原告が被告小学館の取材に対し金銭を一切受け取っていないとの回答をしたが,クリスマスパーティで司会をし,10万円を受領したことを認めたとの取材内容を記述し,しかも,本件記事1⑦では,原告を含む紹介者の役割について,捜査当局の解明を待つしかないと記載していて,含みを持たせた記述をしていることからして,本件記事は,全体を見た場合,原告が勧誘報酬を受領した可能性がある旨を報じたものである。
(エ) 原告の主観的認識等
本件記事1は,タイトル及び本件記事1①においては,原告に騙されたとの主婦Aの発言を引用した形式を取ってはいるが,その直後の部分(40頁1段10行目ないし19行目)では,「Aがその『勧誘』を疑わなかったとしても無理はない。」と記述し当該Aの発言の信用性を是認した上で,GPJ社が投資名目で資金を集める詐欺行為を行っていたことを報じるとともに,本件記事1⑦やその直前の部分(41頁5段18行目ないし27行目)では,GPJ社の事件には解明されていない点が多く,捜査当局による解明を待つしかないが,その中には原告を含む紹介者の役割の解明も含まれており,場合によっては,原告が道義的責任にとどまらない責任を負う可能性があることを報じたものである。
そして,この責任について,被告小学館は,民事上あるいは出資法による刑事責任を示唆したものであると主張するが,上記記述は,捜査当局による解明を待つしかないとの記述を受けているから,民事上の責任を述べたものではなく,刑事責任を述べたものであることが明らかである。しかも,出資法による刑事責任については,本件記事1には,「出資法等の規制があって,広告宣伝は適わず,口コミでの募集となる。その際,人脈豊かな人に『イントロデューサー』を委託すれば,労せずして資金を集めることができる。」と記載し(本件記事1⑥),GPJ社が,出資法の規制のある広告宣伝行為を回避していたかのように記述する部分があるにとどまるから,本件記事1⑦にいう「『モラル』だけでは済まない責任」が出資法による刑事責任を述べたものと解することもできない。むしろ,本件記事1を通じてみても,本件記事1には,主婦Aが騙されたことの他には,原告の刑事責任を基礎づけるべき事実の摘示は存しないし,主婦Aが騙されたことによる原告の刑事責任は,原告に騙すことの故意なしには,成立しない。
なお,本件記事1中には,原告について,「GPJ社の詐欺的商法をXアナが承知していたとはいわない」(41頁3段11行目から13行目)とし,被害者に含めて記述した部分(同頁5段18行目から19行目)もある。しかしながら,前者の記述は,原告の認識可能性を完全に排除したものではなく,後者の記述も,上記のとおり,その直後において,原告の詐欺による刑事責任の可能性を指摘する文脈の中で述べられたものであって,タイトル等から,一般の読者が形成した認識を払拭するには十分なものとはいえない。
したがって,本件記事1は,原告が,GPJ社の詐欺行為を認識しながら,投資勧誘を行ったとの詐欺による刑事責任を負う可能性がある旨を報じたものである。
イ 以上の次第で,本件記事1は,原告が,GPJ社において投資名目で資金を集める詐欺行為を行っていることを認識しながら,報酬を受領して,多数人に積極的な勧誘行為を行い,詐欺による刑事責任が及ぶ可能性があることを摘示したものである。そして,このような可能性を摘示した本件記事1は,読者に対し,当該摘示された事実がどの程度においてかは実在するという印象を与えるから,これは,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
(2) 本件記事2について
ア 前提事実(3)に弁論の全趣旨を総合すれば,本件記事2の摘示内容は,以下のとおりであると認められる。
(ア) GPJ社の商法
本件記事2は,GPJ社の商法について,原告も詐欺会社の「広告塔」だったとのタイトル及び被害者1000人,被害総額は100億円以上にとのサブタイトルのもと,本文(1段8行目ないし13行目)において,個人投資家や資産家を対象にした資産運用コンサルタント会社であるGPJ社について,平成17年7月20日,破産手続が開始され,債権者は少なくとも1000人,負債総額は100億円以上になることを記述したから,GPJ社の詐欺行為を報じたものである。
(イ) 原告の投資勧誘への関与
本件記事2は,タイトルにおいて,元テレビ朝日のアナウンサーである原告も詐欺会社の「広告塔」だったとした上で,本文において,原告がFに対してGPJ社への投資を紹介し,その際,原告はFをEに引き合わせて投資の勧誘を行い,FはEに会ったために投資を始めた(本件記事2①及び②)との事実を摘示し,また,その後のGPJ社が破綻した後に,Fが,原告が勧誘したことについて,本当に許せませんと発言し,原告も加害者といわれても仕方がないと発言したこと(本件記事①及び③)を記述したものである。
また,「広告塔」とは,通常は,ビルの屋上などにある広告のための看板を掲げる塔を意味するが,転じて,比喩的に,ある組織・団体の宣伝の役割を果たす有名人との意味において用いられる言葉である。
したがって,本件記事2は,原告が,詐欺会社であるGPJ社の宣伝の役割を果たす有名人であり,全体としては,原告によるGPJ社への投資勧誘行為によって,被害者が生じたことを報じたものである。
イ 以上の次第で,本件記事2は,原告が詐欺行為を行っていたGPJ社の宣伝の役割を果たす有名人であり,その勧誘により被害者が生じたとの事実を摘示したものであり,これは,原告の社会的評価を低下させるものというべきである。
2 争点(2)(違法性ないし責任阻却の成否)について
事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁,最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。
そこで,本件各記事について,この見地から検討する。
(1) 本件記事1について
ア 本件記事1の公益性等について
前提事実(1),(2),(4)及び(5)並びに前記1のとおり,本件記事1は,個人投資家や資産家から270億円以上の投資資金を集めたGPJ社が倒産し,社会問題化した中で,ファイナンシャルプランナーの資格を有する元テレビ朝日のアナウンサーであり,その当時もフリーアナウンサーとしてビジネス関係の番組に出演したり,各種セミナーの講師をするなどしていた原告が,GPJ社の勧誘が詐欺行為であることを認識しながら,報酬を受領して,多数人に積極的な勧誘行為を行い,詐欺による刑事責任が及ぶ可能性があることを摘示したものであり,この原告の立場や記事の内容等からして,本件記事1は,有名人である原告の犯罪容疑に関するものであり,それが公共の利害に関するものであることは明らかである。
また,これら本件記事1の内容等に,証拠(乙イ1,証人G)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件記事1の目的は,有名人であり,ファイナンシャルプランナーの資格等を有する原告の関わりが被害を広げる一因となっているとすれば問題は更に深刻といえることから,さらに同様の事件の被害者の発生を抑止することにあったことが認められ,これによれば,本件記事1は,専ら公益を図る目的で掲載されたことが明らかである。
イ 真実性について
(ア) 本件記事1は,前記1(1)イのとおり,可能性を摘示したものであるが,このように,勧誘報酬の受領や詐欺罪の成立の可能性があると表現した場合であっても,当該記事が指摘している事実がどの程度かにおいて実在するという印象を与える以上,真実証明の対象となるのは,行為者において可能性があると判断したかや半信半疑というような低い水準の可能性ではなく,通常人において,当該事実がどの程度かにおいて実在すると考える,すなわち,それだけの疑いを抱くに足りる具体的事実の存在であると解するのが相当である。
そして,前提事実(5)の事実に証拠(甲2,甲3の1及び2,甲4,乙イ2,乙イ23の2ないし6及び8,乙イ24,乙ロ1,乙ロ2,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
a 原告は,平成16年12月中旬ころ,Fと話をした際に,Mの話題から,同人の勧誘によりGPJ社に100万円投資し,翌年1月には132万円になって戻ってくる予定である旨を話し,Fの求めによりその後同社のチラシを送付した。そして,Fは,平成16年12月29日ころ,GPJ社への投資を開始し,その後である平成17年6月末ころ,原告の紹介により,Eに面会した。
b 原告は,平成17年1月又は同年3月ころ,同人主催の異業種交流会において,Mの勧誘でGPJ社に100万円投資し,これが132万円になって戻ってきた旨を話し,求めのあった約9名に対し,同社のチラシを送付したところ,これらの者は全員,その後,同社への投資を始めた。
c 他方,GPJ社は,個人投資家や資産家から投資名目で総額約270億円の資金を集めたが破綻し,同年7月20日には,東京地方裁判所において,破産手続開始決定を受けた。その後,破産管財人が同社について調査を行ったが,入金額は顧客への返金,代表者個人渡し,絵画・宝飾品・海外出張経費等として支出されていて,資産運用の実態はみられなかった。
また,Eは詐欺罪による実刑判決を受けた。
d 原告は,GPJ社への投資により,350万円の損失を受け,原告の親兄弟も1500万円の損失を受け,Fやその親族は約6000万円の損失を受けた。
e Fは,同月28日から同年8月2日にかけて,G記者の取材を受けた。そして,Fは,7月28日の取材において,G記者に対し,親族を紹介したFは,勧誘報酬を受領していないし,原告もこれを受領していたのならば,たかだか100万円の支払のために車を売らなくても足りるだろうとして,原告がこれを受領していないと思うと説明する一方,8月1日の電話取材において,Xに悪意がなかったとはいえ,誘った人に対して何かけじめをつけるのであれば,ある程度覚悟は必要かなという気がする,だまされたというお気持ちだと思いますよね,もう裏切られたというのは,本当そうですよねとのG記者の発言に,これを肯定する回答をした。
f 原告は,同年8月1日,L記者の取材を受け,原告が誘わなければ投資しなかったことについては本当に申し訳ないと思っていると述べるとともに,他人を巻き込んだという部分では加害者という意識はあるかとの問いに対し,「そうですねー。はい」と答えた。
(イ) また,証拠(乙イ23の8,原告本人)によれば,原告は,GPJ社が主催するクリスマスパーティで,司会を務め,その対価として10万円を受領したことが認められるが,原告がこれ以外に報酬を受領したことや上記知人ら以外の者にGPJ社に関する説明を行ったことを認めるべき証拠はない。
(ウ) なお,Fの陳述書(乙イ24)や,G記者の取材時の発言(乙イ23の2)中には,原告がFに対して「詐欺じゃない。」とか,「中には2年やって,1000万円が1億円になったという人もいる。」等と述べたとする部分が存するが,客観的裏付けを欠き,容易に採用できない。
(エ) そして,上記(ア)及び(イ)に認定の事実からすれば,GPJ社は,投資名目で資金を集める詐欺行為(以下「GPJ社の詐欺行為」ともいう。)を行っていたものであるところ,原告は,チラシの送付先が希望者に限られるにしても,Fを含む知人約10名以上に対し,GPJ社に投資を行っていることを自らの側から説明し,その顕著な運用成績にも言及したものである。そして,この事実によれば,原告の上記行為は,上記詐欺行為を行うGPJ社の投資についての多数人に対する,積極的な勧誘行為と十分に評しうることになるから,この限度では,本件記事1に摘示された事実は,真実であることになる。なお,原告の供述や陳述書(甲4)中には,同社への投資は,Fを含む知人らが各自の判断ないし責任において行ったものであると述べる部分があるが,ここでの問題は,投資するか否かの最終判断における原告の関与ではなく,それ以前の段階における言動にあるから,上記原告の陳述等は前記判断を覆すものとはならない。
しかしながら,原告が勧誘報酬を受領したことについては,原告の生活ぶりからそれはないと思うとFが説明している中にあって,現に原告がそれを得たと疑うに足りる根拠事実が存在したとはいえない(なお,証人Nの供述中には,このような場合,紹介者が報酬を受領するのが一般的であり,原告氏名を紹介者欄に記載した申込書が10枚以上あったとする部分があるが,そもそも,そのような経験則が存在するのか疑問であるばかりか,現にFが報酬を受領しておらず,Fが否定的見解を述べている以上,本件に妥当すると認めることはできない。)。また,勧誘報酬を受領した可能性も認められないのに,原告が,GPJ社の詐欺行為を認識しながら勧誘行為を行い,したがって詐欺による刑事責任が原告に及ぶものと疑うに足りる根拠事実についても,本件全証拠上,これを認めるに足りず,かえって,上記(ア)のとおり,自らや親兄弟も多額の損失を出したことからしても,原告に,GPJ社が投資名目で資金を集める詐欺行為を行っていることを認識していた可能性が実存したとはとても認められない。
したがって,本件記事1のうち,原告の詐欺の認識及び勧誘報酬の受領の可能性が真実であるとは認められない。
ウ 相当性について
原告が勧誘報酬を受領した可能性の点については,上記イのとおり,FがG記者に対し,具体的根拠に触れながら,原告は報酬をもらっていないと思うとの否定的見解を述べたにもかかわらず,紹介者が勧誘報酬を受領するのが一般的との思いから,原告が勧誘報酬を受領したことの裏付証拠を得ることもなく,その可能性を摘示したのだから,被告小学館の記者において,そのように信じたことにつき相当の理由があったとは認められない。
また,原告がGPJ社の詐欺行為を認識していた可能性の点についても,本件記事1には,「GPJ社の詐欺的商法を,Xアナが承知していたとはいわないが」との記述(本件記事1⑥)があるところ,証拠(証人N)及び弁論の全趣旨によれば,このような記述になったのは,被告小学館において,原告がGPJ社の詐欺行為を認識していたか否かは解明しえなかったためであることが認められる。
そうすると,被告小学館は,そもそも原告がGPJ社の詐欺行為を認識していたことをどの程度かにおいて実存する真実であると信じるには至っていなかったのではないかとの疑問が存するばかりか,上記イの事実関係によっては,通常人において当該事実が存在したと疑うだけの根拠事実が存したとは認められない。
エ 以上の次第で,被告小学館が本件記事1を掲載した行為は,原告がGPJ社から報酬を受領して投資勧誘が詐欺行為であることを認識しながら,勧誘を行い詐欺による刑事責任が及ぶ可能性があったと摘示した部分では,違法性ないし責任が阻却されることはなく,原告に対する不法行為となる。
(2) 本件記事2について
ア 公益性等について
前提事実(1),(3)ないし(5)並びに前記1(2)のとおり,本件記事2は,元テレビ朝日のアナウンサーであり,その当時もフリーアナウンサーであった原告が詐欺行為を行うGPJ社の宣伝の役割を果たし,かつ,その勧誘により,被害者が生じたとの事実を摘示したものであり,この原告の立場や記事の内容等からして,本件記事2は,有名人である原告の行為による被害に関するものであるから,公共の利害に関するものである。
また,これら,本件記事2の内容に,証拠(乙ロ1,証人L)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件記事2の目的は,有名人である原告の関わりが被害者を増加させたといえることから,今後の被害者の発生を抑止することにあったことが認められ,これによれば,本件記事2は,専ら公益を図る目的で掲載されたものと認められる。
イ 真実性について
(ア) 原告の行為が詐欺行為を行うGPJ社への投資についてのFを含む多数人に対する積極的勧誘行為と評しうること,Fが原告の紹介の後にGPJ社への投資を行って損失を出し,原告にだまされ,裏切られたという気持ちであることを肯定する発言を記者にしたこと,原告がL記者の取材に対し,他人を巻き込んだことについての加害者としての認識や責任の自覚を認める発言をしたことは,いずれも前記(1)イにおいて判断したとおりである。
したがって,本件記事2のうち,原告が詐欺行為を行うGPJ社の宣伝の役割を果たすとともに,原告の勧誘を受けてFがGPJ社への投資を開始して損失を出し,原告を許すことができないとの表意行為をしたこと(記者の取材に応じ,原告にだまされ,裏切られたといった気持ちを肯定したFの言動は,そのような思いなしに為しえない行為である。)や,また,原告が他人を巻き込んだことについての非難を加害者として甘受する発言をしたことは真実であると認められる。
(イ) 他方,FがGPJ社への投資を始めたのは平成16年12月29日ころであったところ,Fが原告の紹介でEと面会したのは平成17年6月末ころであったことも上記(1)イにおいて判断したとおりだから,本件記事2のうち,原告がFをEと引き合わせたためにFが投資を始めたとする部分は,真実と異なるものであったことになる。
しかしながら,前記(1)イのとおり,原告の勧誘によりGPJ社への投資を開始したことやFが原告の紹介によりEに会ったこと自体は真実である。また,弁論の全趣旨によれば,本件記事2は,週刊誌の116頁目をすべて用いて掲載された本文64行の記事であるが,Eに会わされたことが本件取引開始の動機となったとする上記相違部分は,3段目から4段目冒頭部の7行で記述されているに過ぎないことが認められるし,本件記事2の目的が有名人である原告の関与によりGPJ社の詐欺行為による被害者が増加した事実を報道するとともに,今後の同様事件での被害者の発生を抑止することにあったことは,前記アのとおりである。したがって,本件記事2の内容や目的を勘案すれば,有名人である原告の勧誘によりGPJ社への投資を開始した者がいることが,その重要部分であり,FがEに会ったのが投資開始前であるか後であるかは,本件記事2の眼目ではないと解するのが相当である。
ウ 以上の次第で,被告講談社が本件記事2を掲載した行為は,原告に対する不法行為とならない。
3 争点(3)(損害等)について
被告小学館に対する関係において検討する。
(1) 慰謝料について
本件において顕れた諸事情,特に,原告がGPJ社への投資についての多数人に対する積極的勧誘行為と評しうる行為を行い,その結果,被害者が生じたという,外形的な事実経過それ自体については真実であり,これが報道されることによる社会的評価の低下は,甘受すべきであるにしても,原告がGPJ社から勧誘報酬を受領したことや同社の詐欺行為を認識していたことの可能性があるとの事実を摘示して,フリーアナウンサーや各種セミナーの講師としての活動を行っていた原告の社会的評価をより大きく低下させたものであること,もっとも,見出しや冒頭部においては,原告にだまされたとの被害者の発言を強調したが,全体としては可能性を指摘したものであり,断定等までは特にしていないものであることなどを考慮すれば,本件記事1が掲載されたことによる原告の精神的損害に対する慰謝料は150万円と認めるのが相当である。
(2) 謝罪広告について
また,上記事情に鑑みれば,被告小学館に謝罪広告の掲載を命じるのは相当ではない。
(3) 弁護士費用について
被告小学館の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は,15万円と認めるが相当である。
4 結論
よって,原告の請求は,被告小学館に対しては,165万円及びこれに対する平成18年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから,この限度で認容し,その余の部分及び被告講談社に対する請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条を,仮執行の宣言につき民訴法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松井英隆 裁判官 内田義厚 裁判官 大倉靖広)
〈以下省略〉
*******
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。