「営業支援」に関する裁判例(138)平成19年 1月18日 東京地裁 平17(ワ)7089号の1 損害賠償請求事件
「営業支援」に関する裁判例(138)平成19年 1月18日 東京地裁 平17(ワ)7089号の1 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年 1月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)7089号の1・平17(ワ)22154号の1
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA01188007
要旨
◆ゴルフ会員権の購入に際し、被告銀行が虚偽あるいは値上がりについて断定的な説明を行った、ゴルフ会員権の危険性について説明しなかった、金融機関の優越的地位を利用して販売を行った、ゴルフ会員権の販売媒介行為が銀行法に違反する、などの原告らの主張を排斥し、原告らの被告に対する損害賠償請求を棄却した事例
参照条文
民法709条
銀行法10条
銀行法11条
銀行法12条
裁判年月日 平成19年 1月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)7089号の1・平17(ワ)22154号の1
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA01188007
東京都中央区〈以下省略〉
第1事件原告
(以下単に「原告」という。)
有限会社ブツクセンタークリエイト
同代表者代表取締役 A
東京都文京区〈以下省略〉
第2事件原告
(以下単に「原告」という。)
同代表者代表取締役 B
上記両名訴訟代理人弁護士 道本幸伸
同 永井均
同 渡瀬耕
同訴訟復代理人弁護士 坂井崇徳
岐阜市〈以下省略〉
第1事件及び第2事件被告
(以下単に「被告」という。)
株式会社岐阜銀行
同代表者代表取締役 C
同訴訟代理人弁護士 辻徹
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告有限会社ブツクセンタークリエイトに対し,金3500万円及びこれに対する平成2年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告株式会社阿部電業社に対し,金3500万円及びこれに対する平成2年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告らが,ゴルフ会員権の購入に関して,被告から違法な勧誘を受けたことにより損害を被ったと主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
1 前提事実(証拠等で認定した事実については,各項の末尾に証拠等を摘示した。)
(1) ゴルフ場の経営主体等
ア 富士カントリー株式会社(以下「富士カントリー」という。)は,昭和46年12月,ゴルフ場の開発とゴルフ場運営会社への出資及び会員権販売請負を目的として設立された。富士カントリーは,自らゴルフ場事業を営むほか,有限会社大多喜城ゴルフ倶楽部(以下「大多喜城ゴルフ倶楽部」という。)を含むグループ企業の中核会社として,グループ企業に対して金融支援,営業支援及び業務支援をしていた。
(甲27の1,2)
イ フジパン株式会社(以下「フジパン」という。)は,富士カントリーの株式を有していた時期があるものの,昭和61年ころ資本関係は解消された。しかし,Dは,昭和26年からフジパンの取締役,昭和40年から代表取締役を務めるとともに,昭和46年から平成15年まで富士カントリーの取締役,昭和52年から昭和56年まで代表取締役を務め,また,Eは,昭和40年から平成15年までフジパンの取締役,昭和48年から平成15年まで代表取締役を務めるとともに,昭和46年から平成16年12月まで富士カントリーの代表取締役を務めており,資本関係解消後も,フジパンと富士カントリー間には,人的な関係が存在した。
(甲1の1,4,5,甲2の1から3まで,甲3の1から5まで,甲27の1,2,分離前相被告E本人)
ウ 大多喜城ゴルフ倶楽部は,富士カントリー大多喜城倶楽部(以下「本件ゴルフ場」という。)の開発・運営を主たる目的として,昭和61年9月,株式会社富士カントリー大多喜城ゴルフ倶楽部の商号で設立され,平成13年8月,有限会社に組織変更し,平成17年8月1日,現商号に変更した。
Eは,平成元年1月から平成11年ころまで大多喜城ゴルフ倶楽部の取締役,平成元年1月から平成6年3月まで代表取締役であった。
(甲5の1から4まで,甲64,甲○30の3)
エ 大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成元年7月以降,本件ゴルフ場のゴルフ会員を募集し,その際,富士カントリーが募集代行業者を務めた。
(甲64,70の2)
(2) 被告の勧誘行為
ア 被告は,平成元年12月ころまでに,大多喜城ゴルフ倶楽部との間で,被告が,その取引先等に対して本件ゴルフ場を紹介し,本件ゴルフ場の会員権(以下「本件会員権」という。)の購入希望者に対して,その購入資金を融資するとともに,大多喜城ゴルフ倶楽部が購入希望者の借入債務について被告に対して連帯保証する旨の提携ローンの合意をした。
(乙○4,分離前相被告E本人,証人F,証人G)
イ 原告有限会社ブツクセンタークリエイト(以下「原告ブツクセンタークリエイト」という。)は,昭和55年ころ設立された製本やコピーを主な業務とする会社である。原告ブツクセンタークリエイトは,昭和56年ころから,被告東京支店と継続的な銀行取引を行っていた。
被告東京支店のH渉外次長(以下「H」という。)は,平成元年12月ころ,原告ブツクセンタークリエイトの事務所を訪問して,原告ブツクセンタークリエイト代表者A(以下「A」という。)に対し,本件ゴルフ場のパンフレットを交付して本件ゴルフ場の説明をし,本件会員権の購入を勧誘した(Aは,原告代表者尋問において,担当者の名前を覚えていないと供述するが,証人Fの証言により,勧誘を担当したのはHであると認められる。)。
その後,Hは,本件会員権購入の勧誘のため,数度にわたり,原告ブツクセンタークリエイトの事務所を訪問したが,富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が勧誘に関与したことはなかった。
(甲51,甲70の1から4まで,証人F,証人G,原告ブツクセンタークリエイト代表者)
ウ 原告株式会社阿部電業社(以下「原告阿部電業社」という。)は,昭和29年ころ設立された電気設備工事,施工を主な業務とする会社である。原告阿部電業社は,本件会員権購入にあたって融資を申し込むまで,被告と取引をしたことはなかった。
原告阿部電業社代表取締役B(以下「B」という。)は,友人との雑談の中で,本件ゴルフ場が開場されることを知り,富士カントリー又は大多喜城ゴルフ倶楽部の事務所に連絡を取ったところ,同事務所の職員から,入会審査を通りやすくするために,株式会社千葉銀行又は被告の提携ローンを利用することを勧められた。
そこで,Bは,平成2年3月ころ,被告東京支店を訪れ,被告東京支店のHから本件会員権及び提携ローンの説明を受けた。
(甲76,原告阿部電業社代表者,証人G)
(3) 会員権の購入
ア 原告ブツクセンタークリエイトは,平成2年3月ころ,本件会員権を3500万円で購入することとし,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の入会申込書及び保証委託契約書を作成して大多喜城ゴルフ倶楽部に送付した。これを受けて,大多喜城ゴルフ倶楽部は,そのころ,同原告の入会を承諾した。
同原告は,同月22日,大多喜城ゴルフ倶楽部の連帯保証のもとで被告から本件会員権購入代金の支払のため3500万円の融資を受け,同月30日,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円を含む3809万円を支払った。
(甲51,乙03,原告ブツクセンタークリエイト代表者,弁論の全趣旨)
イ 原告阿部電業社は,平成2年3月ころ,本件会員権を3500万円で購入することとし,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の入会申込書及び保証委託契約書を作成して大多喜城ゴルフ倶楽部に送付した。これを受けて,大多喜城ゴルフ倶楽部は,そのころ,同原告の入会を承諾した。
同原告は,同年5月1日,大多喜城ゴルフ倶楽部の連帯保証のもとで被告から本件会員権購入代金の支払のため3500万円の融資を受け,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円を含む3809万円を支払った。
(甲76,乙○7,原告阿部電業社代表者,弁論の全趣旨)
(4) 大多喜城ゴルフ倶楽部の推移
ア 大多喜城ゴルフ倶楽部は,被告以外の金融機関とも,本件会員権の購入に関して,(2)アと同様の提携ローンの合意を行い,これらの金融機関の紹介により,平成元年以降,特別縁故募集として800名の法人会員を集めた後,追加の第一次募集を行い,平成4年11月30日,本件ゴルフ場を開場した(平成12年ころの公表会員数は法人939名)。
(甲42,64,甲70の2)
イ 大多喜城ゴルフ倶楽部は,ゴルフ場開場後,海外でのプレーを希望する会員への利便性提供の意味を含め,豊富な預託金により富士カントリー関係の海外ゴルフ場等への投融資を行ったが,その後海外のゴルフ場の価額が大幅に下落し,出資会社が大幅な債務超過に陥ったことから,出資金の回収が不能となった。
また,バブル経済崩壊後における経済不況の深刻化・長期化によって,会員権購入のためのローンの支払が困難となる会員が続出した結果,金融機関から,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して保証債務の履行請求が相次ぎ,履行ができない状態に陥った。
さらに平成7年当時約1000万円であった会員権相場が,平成15年には250万円程度に下落し,預託金券面額を大幅に割り込むこととなり,大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成16年12月30日以降に償還時期を順次迎える預託金について,会員権の分割を条件に据置期間の延長を求めたが,その約3割について同意を得ることができず,預託金返還請求に応じられない見込みとなった。
(甲28の1,甲64)
ウ こうしたことから,大多喜城ゴルフ倶楽部は,平成16年12月6日に,当庁に対して民事再生手続開始の申立てを行って倒産し,同月10日に民事再生手続開始決定を受けた。その後,平成17年4月27日,スポンサーとして東急不動産株式会社を選定し,預託金返還請求権について元本等の95%の免除を受けること等を内容とする再生計画について認可決定を受けた。
(甲28の1,甲64,甲○30の1,2,乙C6,8,9)
2 争点
(1) Hによる被告の勧誘行為が,以下のとおり違法なものであって,被告の故意又は過失による不法行為に該当するか(争点1)。
ア 本件会員権に関する虚偽の説明
イ 本件会員権に関する断定的な説明
ウ 本件会員権の危険性に関する説明義務違反
エ 金融機関の優越的地位の濫用
オ 販売媒介行為の銀行法違反
(2) Hによる勧誘行為について,被告は使用者責任を負うか(予備的主張,争点2)。
(3) 原告らは,被告の不法行為により損害を被ったといえるか(争点3)。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(被告の違法な勧誘行為)について
ア 本件会員権に関する虚偽の説明
(原告らの主張)
本件会員権の募集当時,フジパンは富士カントリーの親会社ではなく,フジパンが,富士カントリー及びその子会社である大多喜城ゴルフ倶楽部のゴルフ場の経営や預託金の償還について責任を負担したり,保証をしたりする関係にはなかったのであるから,被告は,そのような誤解を与えることのないような説明を行うべきであった。
それにもかかわらず,Hは,原告ブツクセンタークリエイトに対する勧誘に際して「このゴルフ場はフジパンが経営している」とか「房総カントリーと同じようにフジパンが経営しているから大丈夫です。預金のつもりでやってくれないか」という説明を行い,また,原告阿部電業社に対する勧誘に際して「ゴルフ場はフジパンが親会社である」,「フジパンがスポンサーである」という説明を行い,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行った。
(被告の主張)
Hは,本件会員権購入の勧誘当時,大多喜城ゴルフ倶楽部がフジパンの系列会社であることを知らなかったから,Hが原告らが主張するような説明を行ったことはない。
Aは,平成元年12月より前に,富士カントリー系列の房総カントリーのゴルフ会員権を原告ブツクセンタークリエイト名義,A名義で各1つずつ購入しており,さらにA名義で他に2箇所のゴルフ会員権を所有していたことから,ゴルフ場の経営会社の仕組みについて十分な知識を有していた。しかも,Aは,本件ゴルフ場の経営会社及び預託金の預け先が大多喜城ゴルフ倶楽部であることを認識していた。
Bは,原告阿部電業社名義及びB名義で合計3つのゴルフ会員権を保有していたことから,ゴルフ場の経営会社の仕組みについて十分な知識を有していた。また,原告阿部電業社は,自ら被告東京支店を訪れて提携ローンの申込みをしており,自らの自由意思により本件会員権の購入及び融資申込みを決定している。
イ 本件会員権に関する断定的な説明
(原告ブツクセンタークリエイトの主張)
Hは,原告ブツクセンタークリエイトに対し,「銀行が保証するゴルフ場である」とか「元本は保証される」と説明し,ゴルフ場の経営が万全であるかのような断定的な説明を行った。また,ゴルフ会員権の価格は様々な要素により変動するものであるにもかかわらず,当時の会員権相場の趨勢として「15年後にはもっと上がっているでしょう」と相場の上昇を示唆する説明をして,不確実なことを断定的に説明した。
(原告阿部電業社の主張)
Hは,原告阿部電業社に対し,単にフジパンが経営するゴルフ場でその経営が万全であるかのような断定的な説明を行った。また,ゴルフ会員権の価格は様々な要素により変動するものであるにもかかわらず,「フジパンだから安心」と説明した。
(被告の主張)
Hが原告らが主張するような説明をしたことは,否認する。
平成2年ころ,ゴルフ会員権の価格は,ゴルフ場オープン前後に値上がりするのが常であり,ゴルフ場経営会社,融資する金融機関及びゴルフ会員権購入者は,いずれも,資金回収の方法としてはゴルフ会員権の売買を念頭に置いており,償還期限が15年も先の預託金の返還を念頭に置いていた者は皆無であったから,ゴルフ場経営会社の安全性や,15年後の預託金返還の可能性について話題にすることはなかった。
原告らは,本件会員権購入以前に複数のゴルフ会員権を購入していたことから,預託金の性質や将来どこから返還されるのかということについて十分な知識を有していた。
ウ 本件会員権の危険性に関する説明義務違反
(原告らの主張)
被告は,富士カントリーが大多喜城ゴルフ倶楽部の預託金を含めた資金を海外ゴルフ場開発や各種の投資,絵画の購入等の事業に支出しており,それらの事業が頓挫した場合にはゴルフ場経営や預託金の償還に支障が生じることを知っていたか若しくは当然に知ることができたにもかかわらず,Hは,これらの危険性を原告らに説明しなかった。また,被告は,ゴルフ会員権の価格暴落の危険が指摘されていることを認識しており,ゴルフ事業の今後について不確定要素が多い状況にあり,長期に亘る預託金の償還については危険性がある状況であったにもかかわらず,Hは,その危険を原告らに説明しなかった。
(被告の主張)
被告は,原告らが主張するような投資について知らなかった。
エ 金融機関の優越的地位の濫用
(原告ブツクセンタークリエイトの主張)
Hは,著名金融機関の行員としての社会的な信用に加えて,原告ブツクセンタークリエイトとの継続的な銀行取引によって培ってきた信頼関係や,原告ブツクセンタークリエイトの経営内容や資産状況などの内情を把握しているという点や,融資している若しくは今後も融資の可否を判断する立場という総合的な優越的地位を有していた。被告は,その立場を利用して本件会員権の販売を媒介した。
また,Hは,原告ブツクセンタークリエイトの事務所を何度も訪問して,執拗に勧誘することによって,プレッシャーを与え,本件会員権を購入すれば将来の融資枠が広がるかのような期待を与えて勧誘を行った。
(原告阿部電業社の主張)
Hは,著名金融機関としての社会的な信用を利用して本件会員権の販売を媒介した。
(被告の主張)
本件会員権の購入及びゴルフローンによる融資を受けるか否かは,あくまでも顧客である原告らの自主判断に委ねており,被告が金融機関としての地位・信用を不当に利用した事実はない。
被告は,平成2年3月当時,担当者に対してゴルフローン申込みについて何らのノルマも課しておらず,Hが本件会員権の購入を強く勧めたことはない。
オ 販売媒介行為の銀行法違反
(原告らの主張)
Hは,単なるゴルフ場の紹介にとどまらず,ゴルフ場の会員契約を直接媒介して入会申込書までも原告らから受領した。ゴルフ場関係者による説明や勧誘などが一切介在しない銀行の直接媒介による入会手続は,銀行法や大蔵省の通達によって禁止されている銀行の目的外行為であり,当然に違法である(銀行法12条)。また,こうした銀行による媒介行為に対して,大多喜城ゴルフ倶楽部からは,協力預金という名のもとに対価が支払われていたから,特にその違法性は強い。
(被告の主張)
被告は,ゴルフ会員権を販売したことはない。被告は,本件会員権購入のための融資を勧誘したが,大多喜城ゴルフ倶楽部宛の封筒・入会申込書類を顧客に交付し,本件会員権を購入するか否かの判断を顧客の自主判断に任せており,本件会員権の販売自体を行っていない。
(2) 争点2(使用者責任,予備的主張)について
(原告らの主張)
Hが行った勧誘行為は,被告の事業執行に際して行われたものである。
(被告の主張)
原告らの主張は争う。
Hは,何ら違法行為をしていないから,被告が使用者責任を負うこともない。
(3) 争点3(損害)について
(原告らの主張)
被告の違法な勧誘行為がなければ,原告らは,本件会員権を購入していないし,ローン契約も締結していないから,当該勧誘行為と以下の損害は因果関係がある。
ア 原告ブツクセンタークリエイトの損害
(ア) 原告ブツクセンタークリエイトは,平成2年3月30日までに,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円と預託金3500万円の合計3809万円を支払った。
原告ブツクセンタークリエイトは,同月22日,被告との間で,3500万円のローン契約を締結し,平成6年2月27日までに全額返済した(利息合計964万2000円)。
その結果,原告ブツクセンタークリエイトは,購入代金と利息合計額の4773万2000円の損害を被った。
(イ) 大多喜城ゴルフ倶楽部の民事再生手続の中で,Eの私財提供という名目で4万0628円の支払がされた。また,原告ブツクセンタークリエイトは,民事再生計画に基づき,再生計画認可確定日から10年経過後の退会の意思表示により5.6%の返還を受けられる。結局,現時点での本件会員権の実質価格は預託金額の5%である175万円に下落したと評価される。したがって,原告ブツクセンタークリエイトは,支出した4773万2000円から支払を受けた4万0628円と下落後の実質価値175万円を差し引いた4594万1372円の損害を被った。
(ウ) 原告ブツクセンタークリエイトは,上記4594万1372円に,弁護士費用200万円を加算した合計4794万1372円の損害賠償請求権を有するので,一部請求として3500万円を請求する。また,遅延損害金起算日は違法勧誘により入会申込みをした平成2年3月30日であるから,同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
イ 原告阿部電業社の損害
(ア) 原告阿部電業社は,平成2年5月1日,大多喜城ゴルフ倶楽部に対して入会金309万円と預託金3500万円の合計3809万円を支払った。
原告阿部電業社は,同日,被告との間で,3500万円のローン契約を締結し,平成4年11月2日までに元金及び利息の支払を完了した(利息合計697万6273円)。
その結果,原告阿部電業社は,購入代金と利息合計額の4506万6273円の損害を被った。
(イ) 大多喜城ゴルフ倶楽部の民事再生手続の中で,Eの私財提供という名目で4万0628円の支払がされた。また,原告阿部電業社は,民事再生計画に基づき,再生計画認可確定日から10年経過後の退会の意思表示により5.6%の返還を受けられる。結局,現時点での本件会員権の実質価格は預託金額の5%である175万円に下落したと評価される。したがって,原告阿部電業社は,支出した4506万6273円から支払を受けた4万0628円と下落後の実質価値175万円を差し引いた4327万5645円の損害を被った。
(ウ) 原告阿部電業社は,上記4327万5645円に,弁護士費用200万円を加算した合計4527万5645円の損害賠償請求権を有するので,一部請求として3500万円を請求する。また,遅延損害金起算日は違法勧誘により入会申込みをした平成2年5月1日であるから,同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(被告の主張)
原告らの主張のうち,原告らが被告と3500万円のローン契約を締結したこと及び利息を支払ったことは認め,原告らが損害を被ったことは否認する。
第3 当裁判所の判断
1 Hによる勧誘行為の位置づけについて
被告は,大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,被告が,その取引先等に対して本件ゴルフ場を紹介し,本件会員権の購入希望者に対して,その購入資金を融資するとともに,大多喜城ゴルフ倶楽部が購入希望者の借入債務について被告に対して連帯保証する旨の提携ローンの合意(以下「本件提携ローン合意」という。)をしたことは,前記第2の1(2)アに認定のとおりであり,また,甲51,乙○1,証人Fの証言,原告ブツクセンタークリエイト代表者尋問の結果によれば,被告東京支店の渉外次長であったHは,F支店長から,取引先に本件ゴルフ場を紹介するように指示を受けたこと,そこで,その指示に基づいて,原告ブツクセンタークリエイトに対して,被告の提携ローンを利用して本件会員権を購入することを勧誘したことが認められる。
また,甲76,証人Gの証言,原告阿部電業社代表者尋問の結果によれば,Bが,本件会員権購入の提携ローンに関する問合せのために被告東京支店を訪れたところ,Hが対応し,Bに対して,本件会員権及び提携ローンの説明をしたことが認められる。
そうであれば,Hが,原告らに対して行った本件会員権購入の勧誘及び説明は,提携ローンの利用を勧誘する目的で行われたものであり,被告の営業行為そのものであるから,被告の不法行為の成否の検討においては,Hの行った本件会員権購入の勧誘行為は,被告による勧誘行為と解して妨げないというべきである。
2 争点1ア(本件会員権に関する虚偽の説明の有無)について
(1) 原告らは,被告が,本件会員権購入の勧誘に際し,ゴルフ場経営会社がフジパンであって万全であり,預託金の償還に不安はないと強調し,あたかもゴルフ事業や将来の預託金の償還についてフジパンが責任を負担したり,保証したりするかのような虚偽の説明を行ったと主張する。
そこで検討するに,被告は,本件提携ローン合意に基づき,取引先等に対して本件会員権の購入の勧誘をしたものであり,取引先等による本件会員権の購入と被告からの融資は極めて密接な関連性を有しているから,被告は,取引先等に対して自ら本件会員権の内容を説明するにあたっては,信義則上,できる限り正確な説明をすべきであり,購入希望者の判断を誤らせるような虚偽の説明をしたときは,これを信用して本件会員権を購入した者に対し,上記虚偽の説明と相当因果関係のある損害を賠償すべき義務を負うというべきである。
(2) 原告ブツクセンタークリエイトについて
原告ブツクセンタークリエイトは,Hが,勧誘に際して「このゴルフ場はフジパンが経営している」とか「房総カントリーと同じようにフジパンが経営しているから大丈夫です。預金のつもりでやってくれないか」という説明を行ったと主張する。
そして,Aは,その調査回答書(甲51)において,「フジパンが経営しているので安全だから大丈夫」との説明を受けた旨を述べ,代表者尋問においても,大多喜城ゴルフ倶楽部をフジパンが経営していると聞いた旨供述している。
他方,被告東京支店の支店長兼東京事務所長であったF(以下「F」という。)は,その陳述書(乙○1)において,大多喜城ゴルフ倶楽部について,富士カントリーグループの一員であることは承知していたが,フジパンの系列会社であることは全く知らなかったし,被告東京支店のゴルフローン担当者であった渉外次長Hも同様の認識であったと思う旨述べ,証人尋問においても,自らにつき大多喜城ゴルフ倶楽部がフジパンの系列であることは知らなかった旨証言する。
そこで,検討すると,Aは,代表者尋問において,被告担当者による勧誘の際の説明文言について具体的に述べ,また,3度か4度押しかけられてきて,何とか頼むと言われた旨述べる一方,自己に対して勧誘行為を行った被告担当者については氏名,容貌等を覚えていない旨述べており,その供述は曖昧な点が少なくなく,その供述をもって,Hが,大多喜城ゴルフ倶楽部をフジパンが経営している旨の説明を行ったとたやすく認定することはできない。
念のため,仮にHがフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部との関係に言及したことがあるとして検討しても,本件会員権募集の当時,フジパンと富士カントリー及び大多喜城ゴルフ倶楽部との間において,前提事実(1)イ及びウのとおり,代表取締役や取締役の経営陣が共通していたという人的関係が存在していたことからすると,フジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部が何らかの関係を有することを説明したとしても,その人的関係を説明する趣旨においては必ずしも虚偽とまでいうことはできない。
これに加えて,本件会員権募集に際しHがAに交付した本件ゴルフ場のパンフレット(甲70の1,2)には,本件ゴルフ場の経営会社は大多喜城ゴルフ倶楽部であることが明確に表示されている一方,フジパンが本件ゴルフ場に関連していることを示す記載は何ら存在しないこと,ゴルフ会員権の購入を検討している一般的な顧客は,当該ゴルフ場のパンフレットに目を通し,それを1つの重要な資料として購入の是非を検討すると考えられるところ,上記パンフレットを読めば,本件ゴルフ場の運営主体は大多喜城ゴルフ倶楽部であることを容易に理解できるものといえること,Aは,本件会員権購入の勧誘を受ける前に,富士カントリー系列のゴルフ場である房総カントリーの会員権のほか複数のゴルフ会員権を購入した経験を有しており(原告ブツクセンタークリエイト代表者),預託金制度については十分認識していたものと考えられるところ,A自身,代表者尋問において,本件会員権についての預託金の預託先が大多喜城ゴルフ倶楽部であることは認識していた旨供述していることをあわせ考えると,仮にHがフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部が何らかの関係を有することを説明したとしても,それが購入希望者の判断を誤らせるような虚偽の説明であったということはできない。
したがって,Hが,本件会員権の内容に関し,原告ブツクセンタークリエイトの判断を誤らせるような虚偽の説明を行ったとはいえないから,原告ブツクセンタークリエイトの主張は採用することができない。
(3) 原告阿部電業社について
原告阿部電業社は,Hが,勧誘に際して「ゴルフ場はフジパンが親会社である」とか「フジパンがスポンサーである」という説明を行ったと主張する。
そして,Bは,その調査回答書(甲76)において,「ゴルフ場の経営はどこですかと尋ねたところ,フジパンが親会社ですと説明を受けました。売り逃げなどしないでしょうねと聞くと,フジパンがスポンサーだから大丈夫と・・・説明を受けました」旨を述べ,代表者尋問においても,スポンサーがフジパンである旨説明された旨供述している。
他方,Bは,代表者尋問において,被告担当者からの説明内容について具体的な言葉は記憶にない旨述べており,Gは,その陳述書(乙○6)において,Hがフジパンが親会社であるとかスポンサーであるといった説明をするのを聞いたことはない旨述べており,これらの供述等に照らすと,Bの供述をもって,Hが,大多喜城ゴルフ倶楽部をフジパンが経営している旨の説明を行ったとたやすく認定することはできない。
念のため,仮にHがフジパンと大多喜城ゴルフ倶楽部との関係に言及したことがあるとして検討しても,その人的関係を説明する趣旨においては必ずしも虚偽とまでいうことはできないことは,(2)のとおりである。
これに加えて,Bは,本件ゴルフ場を知ったきっかけは,友人から「フジパンがスポンサーでゴルフ場を造ると」聞いたことであり,その後ゴルフ場に連絡したところ,ゴルフ場の人もスポンサーはフジパンだというような話をしており,ゴルフ場の人から株式会社千葉銀行又は被告で提携ローンを組んで貰わないと審査が通りにくいと言われて,被告東京支店を訪れ,提携ローンの説明を受けたと述べており(甲76,原告阿部電業社代表者),Bは,Hと接触する以前から本件ゴルフ場はフジパンがスポンサーであると認識していたというのであるから,Hの説明によって,フジパンが大多喜城ゴルフ倶楽部を経営していると誤解し,本件会員権を購入するという投資判断に至ったと認めることも困難である。
したがって,Hが,本件会員権の内容に関し,原告阿部電業社の判断を誤らせるような虚偽の説明を行ったとはいえないから,原告阿部電業社の主張は採用することができない。
3 争点1イ(本件会員権に関する断定的な説明の有無)について
(1) 原告らは,被告が,本件会員権購入の勧誘に際し,ゴルフ場の経営が万全であるかのような断定的な説明を行い,また,ゴルフ会員権の価格は様々な要素により変動するものであるにもかかわらず,当時の会員権相場の趨勢として相場の上昇も示唆して,不確実なことを断定的に説明したと主張する。
そこで検討するに,被告が,その取引先等に対して本件ゴルフ場を紹介し,本件会員権の購入希望者に対して,その購入資金を融資しようとする場合において,購入希望者に対して自ら本件会員権の内容を説明する際には,信義則上,できる限り正確な説明をすべき義務を負うことは2(1)に判示のとおりであり,預託金返還の可能性やゴルフ会員権相場の動向等の投資判断を左右するような重要な事実について,不確実なものをあたかも確実な事実として断定的に説明した結果,購入希望者の任意かつ自由な判断を誤らせたときは,これを信用して本件会員権を購入した者に対し,上記断定的説明と相当因果関係のある損害を賠償すべき義務を負うというべきである。
(2) 原告ブツクセンタークリエイトについて
原告ブツクセンタークリエイトは,Hが,「銀行が保証するゴルフ場である」とか,「元本は保証される」と説明し,また,当時の会員権相場の趨勢として相場の上昇も示唆したと主張する。
Aは,その調査回答書(甲51)において,「その当時ゴルフ会員権も上がっていたので15年後にはもっと上がっているでしょう」との説明を受けた旨を述べているが,その供述は曖昧な点が少なくないことは2(2)のとおりであって,その供述をもって,Hが,預託金の返済が確実であるとか,本件会員権の価格が必ず上昇するという断定的な説明を行ったとたやすく認定することはできない。
念のため,Hが本件会員権の価格の値上がりの可能性に言及したことがあるとして検討すると,Hが原告ブツクセンタークリエイトに対する勧誘を行った当時において,ゴルフ会員権価格相場は未だ高騰を続けていたのであるから(甲○12の11),Hが本件会員権の価格の値上がりの可能性に言及したとしても,それが全く不合理な主観的予測に基づく評価であるとは言い難い。また,将来におけるゴルフ会員権の価格が経済情勢によって上下することは何ら専門的知識を有しない者でも当然推知し得るものであり,Aは,個人名義及び原告ブツクセンタークリエイト名義で,本件会員権購入以前に既に別のゴルフ場の会員権を複数所有していたのであって(原告ブツクセンタークリエイト代表者),Aがゴルフ会員権の価格変動により損失を被る可能性を理解していなかったとは到底認められないから,Hが本件会員権の価格の値上がりの可能性に言及したとしても,これにより原告ブツクセンタークリエイトの任意かつ自由な判断が誤らされたとまでは認めることができない。
したがって,Hが,本件会員権の内容に関し,預託金返還の可能性や会員権相場等の将来における変動が不確実な事実について断定的説明を行い,原告ブツクセンタークリエイトの任意かつ自由な判断を誤らせたとはいえないから,原告ブツクセンタークリエイトの主張は採用することができない。
(3) 原告阿部電業社について
原告阿部電業社は,Hが,フジパンが経営するゴルフ場でその経営が万全であるかのような説明をし,また,会員権の価格は変動するものであるにもかかわらず「フジパンだから安心」と説明したと主張する。
そして,Bは,その調査回答書(甲76)において,Hから「名古屋にも関東にも多くのコースがあり全てのコースがうまくいっているので安心」と説明を受けたと述べている。
しかしながら,Bの供述をもって,Hが,大多喜城ゴルフ倶楽部をフジパンが経営している旨の説明を行ったとたやすく認定することはできないことは2(3)に認定のとおりである。
念のため,Hが全てのコースがうまくいっているので安心との説明をしたことがあるとして検討すると,原告阿部電業社が本件会員権を購入した当時において,富士カントリー系列のゴルフ場が倒産したとか,倒産の危機に瀕していたと認められないこと,B自身,代表者尋問において,出島,笠間,その他富士カントリー系列のゴルフ場は,いいコースであることをみんな知っていた旨を供述していることを考慮すると,当時の状況の下において,かかる説明をしたことが,全く不合理な主観的予測に基づく評価であったとは言い難い。
また,Hが本件会員権の価格についてフジパンだから安心という説明をしたことがあるとして検討しても,将来におけるゴルフ会員権の価格が経済情勢によって上下することは何ら専門的知識を有しない者でも当然推知し得るものであり,原告阿部電業社自身,本件会員権購入以前に既に別のゴルフ場の会員権を所有していたのであって(原告阿部電業社代表者),Bがゴルフ会員権の価格変動により損失を被る可能性を理解していなかったとは到底認められないから,Hが本件会員権の安全性に言及したとしても,原告阿部電業社の任意かつ自由な判断が誤らされたものとは認めることができず,不法行為を構成すべき断定的説明に該当するものということはできない。
したがって,Hが,本件会員権の内容に関し,預託金返還の可能性や会員権相場等の将来における変動が不確実な事実について断定的説明を行い,原告阿部電業社の任意かつ自由な判断を誤らせたとはいえないから,原告阿部電業社の主張は採用することができない。
4 争点1ウ(本件会員権の危険性に関する説明義務違反の有無)について
(1) 原告らは,富士カントリーが大多喜城ゴルフ倶楽部の預託金を含めた資金を海外ゴルフ場開発や各種の投資,絵画の購入等の事業に支出しており,それら事業が頓挫した場合にはゴルフ場経営や預託金の償還に支障が生じることや,今後のゴルフ事業には不確定要素が多く,預託金の将来の償還については危険性がある状況であったことを,被告は知り又は知り得たにもかかわらず,原告らにこれらの危険性を説明しなかった義務違反があると主張する。
しかしながら,金融機関の従業員が,その取引先等に対して融資を受けてゴルフ会員権を購入するように積極的に勧誘し,その結果として,当該取引先等がゴルフ会員権を購入するに至ったものの,自ら虚偽の説明や,不確実なものをあたかも確実な事実とする断定的な説明を行ったことにより当該取引先等の判断を誤らせたという事情は存在しない場合においては,当該従業員がゴルフ会員権の預託金の償還が見込まれないことを認識していながらこれを当該取引先等に殊更に知らせなかったことなど,信義則上,当該従業員の当該取引先等に対する説明義務を肯認する根拠となり得るような特段の事情のない限り,当該従業員がゴルフ場運営会社の経営内容や預託金の償還可能性等について調査した上で顧客に説明しなかったとしても,それが法的義務に違反し,当該取引先等に対する不法行為を構成するものということはできないものというべきである。
(2) これを本件についてみると,本件提携ローン合意に基づき,Hは原告らに対して本件会員権の購入を勧誘したものであり,原告らによる本件会員権の購入と被告からの融資は極めて密接な関連性を有していることは前記2(1)のとおりであり,この事実は,上記の特段の事情を肯定する方向の一要素ということができる。
しかしながら,証拠(甲120,甲○11の12,甲○12の2,5から11まで,甲○13の5)によれば,昭和60年ころから,ゴルフ場の開発がブームになり,ゴルフ会員権の相場も高騰を始め,昭和63年ころから平成元年ころにかけては,さらに相場が上昇し,千葉県内のゴルフ会員権が数千万円で販売されることも珍しくない状態であったことが認められ,一部にゴルフ場の供給過剰を懸念する指摘もあったものの,本件会員権購入の勧誘当時において,ゴルフ場を経営する会社の倒産やゴルフ場の開発の著しい遅延という具体的な状況が存し,社会的な問題となっていたという状況はうかがうことはできず,一般に大多喜城ゴルフ倶楽部を含むゴルフ場運営会社が破たんするおそれがあると予見できる状況にはなかったことが認められる。
大多喜城ゴルフ倶楽部が民事再生手続開始の申立てをするに至った原因をみても,その主たる要因は,富士カントリー関係の海外ゴルフ場等への投融資が回収不能に陥ったこと,バブル経済崩壊後における経済不況の深刻化・長期化によって,会員権購入のためのローンの支払が困難となる会員が続出した結果,金融機関から大多喜城ゴルフ倶楽部への保証債務の履行請求が相次いだこと,本件会員権の相場の大幅な下落により会員からの預託金の返還請求が避けられない見込みとなったことによるものであり,いずれも,原告らが本件会員権を購入した後に生じたものである。
このほか,本件会員権購入の勧誘当時,大多喜城ゴルフ倶楽部や富士カントリーが,他のゴルフ場運営会社と比較して特に経営基盤が脆弱で預託金の返還の実行余力に乏しいと認識されていたとか,被告が大多喜城ゴルフ倶楽部や富士カントリーの将来における破綻を予測させるような事実ないしその兆候を認識していたと認めるに足りる証拠もなく,これを予測することは極めて困難であったというべきである。
一方,原告ブツクセンタークリエイトの代表者であるAは,製本・コピーを主な業務とする会社を営み,社会的に豊富な経験ないし知識を有している者で,しかも,本件会員権のほかにも,原告ブツクセンタークリエイト及びA名義で複数のゴルフ会員権を所有していたこと,Aは,Hからの説明を受けた後,同原告の専務と相談した上で,本件会員権の購入を決めていること(以上の事実は,原告ブツクセンタークリエイト代表者)に照らすと,Aが,本件会員権の預託金の償還可能性について誤った思いこみをしている状況にあったということもできないし,HがAの思いこみをしている状況を認識しつつ,放置したということもできない。
また,原告阿部電業社の代表者であるBも,電気設備工事・施工を主な業務とする会社を営み,社会的に豊富な経験ないし知識を有している者で,しかも,本件会員権のほかにも同原告名義で複数のゴルフ会員権を所有していたこと,購入の目的,動機は,B自身,富士カントリー系列のゴルフ場はいいコースであることを知っており,平らなコースが欲しかったということであったこと(以上の事実は,原告阿部電業社代表者)に照らすと,Bが,本件会員権の預託金の償還可能性について誤った思い込みをしている状況にあったということもできないし,HがBの思い込みをしている状況を認識しつつ,放置したということもできない。
以上の諸点にかんがみると,本件において,信義則上,Hの原告らに対する説明義務を肯認する根拠となり得るような特段の事情を認めることはできず,Hが大多喜城ゴルフ倶楽部の経営内容や預託金の償還可能性等について調査した上で原告らに説明しなかったとしても,それが法的義務に違反し,被告の原告らに対する不法行為を構成するものということはできない。
5 争点1エ(金融機関の優越的地位の濫用の有無)について
原告らは,Hは,著名金融機関の行員としての社会的な信用に加えて,原告らとの継続的な銀行取引によって培ってきた信頼関係や,原告らの経営内容や資産状況などの内情を把握しているという点や,融資している若しくは今後も融資の可否を判断する立場という総合的な優越的地位を有しており,その立場を利用して本件会員権の販売を媒介したと主張し,原告ブツクセンタークリエイトの事務所を何度も訪問して,執拗に勧誘することによって,原告ブツクセンタークリエイトに対して本件会員権を購入すれば将来の融資枠が広がるかのような期待を与えて,勧誘を行ったと主張する。
なるほど,金融機関が,顧客に対し,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,不利益な条件での取引を余儀なくさせた場合には,不法行為を構成する余地があるものと解すべきである(独占禁止法2条9項5号,19条及び一般指定14項1号)。
これを本件についてみると,Aは,その調査回答書(甲51)において,「この件をのんでくれれば今後のことも融通もしやすくなるような事だと思いますがそのようなことを言っていた」,「岐阜銀行の強い勧誘によってその当時メインバンクなのでやむをえず」本件会員権購入を決断した旨を述べ,代表者尋問においても,「担当者が言うには,一応,今後のこともあるでしょうというような言い方はしてたんですね。今後のことということは,融資ができやすくなるようなニュアンスで私はとりましたけど」,「一応ローンを組むことによって融資はしやすくなるというようなニュアンスでとらえていたんですけど」と供述している。
しかしながら,Aの供述は曖昧な点が少なくないことは2(2)のとおりであって,その供述をもって,Hが,本件会員権を購入すれば今後の融資において有利に扱う旨の説明を行ったとたやすく認定することはできない。また,Aの述べるところによっても,Aが購入を断ったのに対してHが3度か4度訪問して何とか頼むと言われたというものであって,勧誘に高圧的な状況は認められないこと,当時同原告に融資枠を広げなければならない具体的な必要性があったとも認められないことからすると,Hが,同原告に対して,正常な商慣習に照らして不当に,不利益な条件での取引を余儀なくさせたとは認められない。
また,原告阿部電業社は,本件会員権購入に伴う提携ローン以外には被告と一切取引関係がなかったこと,Bは自ら本件会員権購入のために被告東京支店を訪問していることに照らすと,被告が同原告に対して取引上の優越的地位を有していたものとは到底認められない。
したがって,被告が金融機関としての取引上の優越的地位を不当に利用したものとは認められず,原告らの主張は,理由がない。
6 争点1オ(販売媒介行為の銀行法違反の有無)について
原告らは,ゴルフ場関係者の説明や勧誘など一切介在しない入会手続は,銀行法及び大蔵省の通達によって禁止されている銀行の目的外行為であり,その行為に対して協力預金という名のもとに対価が支払われていたから,違法であると主張する。
そこで検討するに,まず,原告阿部電業社は,本件会員権を購入するにあたって,富士カントリー又は大多喜城ゴルフ倶楽部の事務所に連絡を取ったところ,同事務所の職員から,入会審査を通りやすくするために株式会社千葉銀行又は被告の提携ローンを利用することを勧められたことから,被告の融資を受けることにしたのであって,ゴルフ場関係者の説明や勧誘が一切介在しないものではないから,同原告の主張は,その前提を欠くものである。
次に,原告ブツクセンタークリエイトは,本件会員権を購入するにあたって,Hから説明を受けたのみで,富士カントリーや大多喜城ゴルフ倶楽部の関係者が関与したことがなかったことは,前記第2の1(2)イのとおりである。
なるほど,銀行法は,10条1項1号ないし3号において,銀行の営む業務を列挙した上,同条2項において,同項に掲げる業務その他の銀行業に付随する業務を営むことができると規定し,12条において,10条及び11条の規定により営む業務及び担保付社債信託法その他の法律により営む業務のほか,他の業務を営むことはできないと規定して,銀行が法の定める業務のほか,他の業務を営むことを禁止している。
しかしながら,本件において,被告自身はゴルフ場運営事業を営むものではなく,本件会員権購入の勧誘は,被告の業務そのものである融資契約の締結を勧誘する目的で行われたものであるから,本件会員権購入の勧誘行為自体は,銀行法10条2項の定める銀行業に付随する業務とみることができないではない。
また,銀行法が,銀行の行う業務を制限した趣旨は,銀行に無制限の業務を許した場合には,その業務の内容及び遂行如何によって,銀行が多大な損失を被り,経営基盤を危うくする事態も想定されることから,銀行の行うことができる業務を一定の範囲に制限し,もって,銀行経営の健全性を確保することにあると解されるところ,被告の従業員が本件会員権購入の媒介をしたとしても,直接,被告が何らかの債務を負担するものではないから,本件会員権購入の媒介をすることにより,直ちに被告の経営の健全性が損われるおそれがあるということもできない。そうすると,本件会員権購入の勧誘は,大多喜城ゴルフ倶楽部若しくは富士カントリーの関係者の関与がなかったとしても,銀行法12条の趣旨に違反するとまでいうことはできない。
さらに,原告らは,本件会員権購入の勧誘が,大蔵省の発出した通達に違反すると主張し,「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」(昭和57年4月1日蔵銀第901号)の別紙1「銀行経営のあり方」1(3)「社会的批判を受けかねない過剰サービスの自粛」中の「他金融機関への過度な預金紹介,顧客に対する金融商品以外の商品の紹介・斡旋,顧客が振り出した他店券の見做現金扱いによる不当な便益供与,顧客の印鑑及び押印済預金払戻請求書の預かりなど正常な取引慣行に反する行為,その他過当競争の弊害を招き社会的批判を受けかねない行為は厳に慎しむものとする。」との記載部分を指摘する。しかしながら,同通達の別紙1は,平成4年4月30日に定められたものであって,本件会員権購入の勧誘当時には存在しないものであったから,原告らの主張は,その前提を欠くといわざるを得ない。
したがって,被告の行った本件会員権購入の勧誘が,銀行法12条に違反し,不法行為に該当するという原告らの主張は,採用することができない。
第4 結論
以上のとおり,被告の勧誘行為について違法性があるということはできず,その余について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとしし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鹿子木康 裁判官 小川雅敏 裁判官 進藤光慶)
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