「営業 外部委託」に関する裁判例(16)平成30年 1月10日 仙台地裁 平25(行ウ)24号 分限免職処分取消等請求事件
「営業 外部委託」に関する裁判例(16)平成30年 1月10日 仙台地裁 平25(行ウ)24号 分限免職処分取消等請求事件
裁判年月日 平成30年 1月10日 裁判所名 仙台地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(行ウ)24号・平25(行ウ)30号
事件名 分限免職処分取消等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2018WLJPCA01106006
事案の概要
◇社会保険庁の職員として勤務していた原告X1ないし原告X4が、同庁が廃止されたことに伴い、本件社会保険事務局長より、平成26年4月18日号外法律第22号による改正前の国家公務員法78条4号に基づき分限免職する旨の本件各処分を受けたことから、同各処分は、同法78条4号の要件に該当せず、仮に同号の要件に該当するとしても、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法な処分であると主張して、本件各処分の取消しを求めるとともに、本件社会保険事務局長が本件各処分をしたことは国家賠償法上の違法行為に該当すると主張して、被告国に対し、同法1条1項に基づき、慰謝料等各330万円等の支払を求めた事案
裁判年月日 平成30年 1月10日 裁判所名 仙台地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(行ウ)24号・平25(行ウ)30号
事件名 分限免職処分取消等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2018WLJPCA01106006
平成25年(行ウ)第24号 分限免職処分取消等請求事件(第1事件),
同第30号 分限免職処分取消等請求事件(第2事件)
当事者の表示 別紙1当事者目録のとおり
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 a社会保険事務局長が,原告X1に対し,平成21年12月25日付けで行った分限免職処分を取り消す。
2 a社会保険事務局長が,原告X2に対し,平成21年12月25日付けで行った分限免職処分を取り消す。
3 a社会保険事務局長が,原告X3に対し,平成21年12月25日付けで行った分限免職処分を取り消す。
4 a社会保険事務局長が,原告X4に対し,平成21年12月25日付けで行った分限免職処分を取り消す。
5 被告は,原告らに対し,それぞれ330万円及びこれに対する平成21年12月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
社会保険庁(以下「社保庁」という。)の職員として,a社会保険事務局(以下「a事務局」という。)において勤務していた原告らは,平成22年1月1日に,日本年金機構法(以下「機構法」という。)に基づき日本年金機構(以下「機構」という。)が設立され,社保庁が廃止されたことに伴い,a社会保険事務局長(以下「本件任命権者」という。)より,平成21年12月25日付けで,国家公務員法(平成26年4月18日号外法律第22号による改正前のもの。以下「国公法」という。)78条4号に基づき平成21年12月31日限りで分限免職する旨の各処分(以下「本件各処分」といい,各原告に対する処分を「本件処分」ともいう。)を受けた。
本件は,原告らが,本件各処分は,国公法78条4号の要件に該当せず,仮に同号の要件に該当するとしても,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法な処分であると主張して,本件各処分の取消しを求めるとともに,本件任命権者が本件各処分をしたことが国家賠償法(以下「国賠法」という。)上の違法行為に該当すると主張して,被告に対し,同法1条1項に基づき,慰謝料等各330万円及びこれに対する本件各処分の効力発生日である平成21年12月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 関係法令の定め
本件に関係する法令の定めは,別紙2「関係法令の定め」のとおりである。
2 前提事実(認定根拠を示すほかは,当事者間に争いがないか,又は,明らかに争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告らの職歴の概要
(ア) 原告X1(以下「原告X1」という。)について
原告X1は,昭和57年度国家公務員初級試験に合格し,昭和58年11月1日にb社会保険事務所庶務課に採用され,その後,c社会保険事務所,a事務局,d社会保険事務所等で勤務し,平成20年7月1日以降はa事務局総務課職員係長の職にあった。原告X1の職務の級は,平成18年4月1日以降,行政職(一)4級であった(乙Cイ1)。
平成21年12月31日 本件任命権者は,国公法78条4号に基づき,原告X1を免職した。
(イ) 原告X2(以下「原告X2」という。)について
原告X2は,平成14年度国家公務員Ⅱ種試験に合格し,同年10月1日,e社会保険事務局総務課に採用され,その後,f社会保険事務所,c社会保険事務所等で勤務し,平成21年10月1日以降は,a事務局g社会保険事務室国民年金業務課第二係長の職にあった。原告X2の職務の級は,平成19年4月1日以降,行政職(一)2級であった(乙Cロ1)。
平成21年12月31日,本件任命権者は,国公法78条4号に基づき,原告X2を免職した。
(ウ) 原告X3(以下「原告X3」という。)について
原告X3は,平成13年度国家公務員Ⅱ種試験に合格し,同年11月1日,e社会保険事務局総務課に採用され,その後,b社会保険事務所等で勤務し,平成20年10月1日以降は,a事務局運営課業務管理室分室年金審査係審査主任の職にあった。原告X3の職務の級は,平成18年4月1日以降,行政職(一)2級であった(乙Cハ1)。
平成21年12月31日,本件任命権者は,国公法78条4号に基づき,原告X3を免職した。
(エ) 原告X4(以下「原告X4」という。)について
原告X4は,平成5年度国家公務員Ⅲ種試験に合格し,平成6年4月1日,b社会保険事務所国民年金第一課に採用され,その後,f社会保険事務所,a事務局,c社会保険事務所等で勤務し,平成20年7月1日以降は,a事務局g社会保険事務室国民年金徴収専門官の職にあった。原告X4の職務の級は,平成20年4月1日以降,行政職(一)3級であった(乙Cニ1)。
平成21年12月31日,本件任命権者は,国公法78条4号に基づき,原告X4を免職した。
イ 原告らの任命権者(処分権者)
社保庁は,厚生労働省(以下「厚労省」という。)の外局であり(厚生労働省設置法(平成19年7月6日号外法律第109号による改正前のもの。)25条1項,国家行政組織法3条2項),社保庁職員であった原告らの任命権者(処分権者)は社保庁長官であった(国公法55条1項,61条)。ただし,原告らについては,国公法55条2項に基づき,本件任命権者に任命権(処分権)が委任されていた。
ウ 原告らの懲戒処分歴
原告らには,次のとおり懲戒処分歴がある。
(ア) 原告X1(乙Cイ1,Cイ2)
原告X1は,平成16年4月1日に1回,業務外の目的で被保険者の個人情報について閲覧(以下「業務目的外閲覧」という。)を行ったこと及び平成17年3月に行った業務目的外閲覧行為の自己申告調査において閲覧行為をしていないと回答して,上司の職務上の命令に背き,虚偽の報告を行ったことを理由に,同年12月27日,国公法82条1項1号及び2号に基づき,本件任命権者から,戒告の懲戒処分を受けた。
(イ) 原告X2(乙Cロ1,Cロ2)
原告X2は,平成16年1月から同年5月にかけて計12回業務目的外閲覧を行ったこと及び平成17年3月に行った業務目的外閲覧行為の自己申告調査において閲覧行為をしていないと回答して,上司の職務上の命令に背き,虚偽の報告を行ったことを理由に,同年12月27日,本件任命権者から,国公法82条1項1号及び2号に基づき,戒告の懲戒処分を受けた。
(ウ) 原告X3(乙Cハ1,Cハ2)
原告X3は,平成16年4月23日に2回業務目的外閲覧を行ったこと及び平成17年3月に行った業務目的外閲覧行為の自己申告調査において閲覧行為をしていないと回答して,上司の職務上の命令に背き,虚偽の報告を行ったことを理由に,同年12月27日,本件任命権者から,国公法82条1項1号及び2号に基づき,戒告の懲戒処分を受けた。
(エ) 原告X4(乙Cニ1,Cニ2)
原告X4は,平成16年1月14日に4回業務目的外閲覧を行ったこと及び平成17年3月に行った業務目的外閲覧行為の自己申告調査において閲覧行為をしていないと回答して,上司の職務上の命令に背き,虚偽の報告を行ったことを理由に,同年12月27日,本件任命権者から,国公法82条1項1号及び2号に基づき,戒告の懲戒処分を受けた。
(2) 社保庁の廃止に至る経緯等
ア 平成16年,年金制度改革の国会審議が始まり,同制度を運営する社保庁の事業運営について様々な批判を受ける中,同時期に,社保庁幹部職員の収賄容疑での逮捕や,国民年金保険料の未納情報等に関する個人情報の漏洩が疑われる事例が報道された。この頃,業務目的外閲覧をした社保庁職員が多数存在することが判明し,これらの業務目的外閲覧等について,多数の社保庁職員に対し,懲戒処分等が行われた(乙A1の2)。
イ 平成16年8月,内閣官房長官の下に「社会保険庁の在り方に関する有識者会議」が設置された。
平成17年5月に上記有識者会議が取りまとめた「社会保険庁改革の在り方について(最終とりまとめ)」は,公的年金制度の運営と政府管掌健康保険(以下「政管健保」という。)の運営を分離した上で,それぞれ新たな組織を設置し,それぞれの事業の運営を担わせることが適当であるとした。また,公的年金の運営主体については,年金事業に特化した組織とした上で,徴収を始めとする業務全般について,政府が直接に関与し,明確かつ十全に運営責任を果たす体制を確立することが必要であるとし,政管健保の運営主体については,国とは切り離された全国単位の公法人を保険者として設立して事務を実施させることが適切であるとした(乙A1の2)。
ウ 平成17年6月,厚生労働大臣(以下「厚労大臣」という。)の下に「社会保険新組織の実現に向けた有識者会議」が設置された(乙A2の1)。
同年12月に上記有識者会議が取りまとめた「組織改革の在り方について」は,社保庁を事実上解体し,公的年金に対する国民の信頼を回復するため,国家行政組織法に定める特別の機関として新組織を設立すべきとした(乙A2の2)。
エ 平成18年3月,厚労省は,社保庁を廃止し,厚労省に特別の機関(職員は公務員の身分を有する。)として,「ねんきん事業機構」を設置することなどを内容とする「ねんきん事業機構法案」(乙A3)を国会に提出した。
しかし,上記法案の審議中に,国民年金保険料の不適正免除等が社会問題となり,同年12月,同法案は審議未了のまま廃案となった。
オ その後,与党年金制度改革協議会(以下「与党協議会」という。)において,社保庁の改革について議論された。
平成18年12月に与党協議会が取りまとめた「社保庁改革の推進について」は,国民の信頼を回復するため,社保庁を廃止・解体し,新たな非公務員型の公的新法人を設立すること,年金新法人の発足に当たり,その職員は社保庁を一旦退職した後,第三者機関の厳正な審査を経て再雇用すること,外部からの採用を積極的に行い,これまでの職場体質を一掃することなどの改革に取り組むべきであるという考え方を示した(乙A4)。
カ 平成19年3月,厚労省は,社保庁を廃止して,公的年金業務等を行う機構を設立することなどを内容とする日本年金機構法案を国会に提出した。
機構法は,同年6月30日に成立し,同年7月6日に公布され,附則の一部の規定を除き,平成22年1月1日から施行された。
(3) 機構法における社保庁職員の取扱い
ア 機構法には,機構の設立時に,社保庁職員が法律上当然に機構職員となる旨の規定(以下,同様の規定を「職員承継規定」という。)は設けられなかった。
なお,機構職員は,公務員としての身分を有せず(機構法20条),機構は,非公務員型法人である。
イ 機構法は,政府が,政府管掌年金又は経営管理に関し専門的な学識又は実践的な能力を有し,中立の立場で公正な判断をすることができる学識経験者の意見を聴いた上で(附則3条3項),機構の設立に際して採用する職員の数その他の機構職員の採用についての基本的な事項等について,基本計画を定め(同条1項,2項),厚労大臣が任命する設立委員が,基本計画に基づき,機構職員の労働条件及び採用基準を定めることとした(附則5条1項,2項)。
そして,設立委員は,社保庁長官を通じ,社保庁職員に対し,機構職員の労働条件及び採用基準を提示して,機構職員の募集を行い,社保庁長官は,機構職員となることに関する社保庁職員の意思を確認し,機構職員となる意思を表示した者の中から,当該採用基準に従い,機構職員となるべき者を選定し,その名簿を作成して設立委員に提出するものとされた(附則8条1項,2項)。
その上で,上記名簿に記載された社保庁職員のうち,設立委員から採用する旨の通知を受けた者であって,機構法の施行の際,現に社保庁職員であるものは,機構の成立の時において,機構職員として採用されることとなった(附則8条3項)。なお,設立委員は,機構職員の採否を決定するに当たっては,人事管理に関し高い識見を有し,中立の立場で公正な判断をすることができる学識経験者のうちから厚労大臣の承認を受けて選任する者からなる会議の意見を聞くものとされた(附則8条5項)。
(4) 機構職員の採用等に関する議論の経緯
ア 年金業務・組織再生会議での議論(乙A7)
(ア) 平成19年8月,機構法附則3条3項に基づき,国・地方行政改革担当大臣の下に,学識経験者から構成される「年金業務・組織再生会議」(以下「再生会議」という。)が設置された。
(イ) 平成20年6月に再生会議がまとめた「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本的方針について(最終整理)」(以下「最終整理」という。乙A7)は,機構に求められる組織体制,業務の外部委託推進についての基本的考え方,職員採用についての基本的考え方及び機構の必要人員数等についての検討結果を示した。
(ウ) 最終整理は,公的年金業務への信頼を損ねた職員の取扱いとして,「過去に懲戒処分や矯正措置などの処分を受けた者については,その処分を機構の職員としての採否を決定する際の重要な考慮要素とし,処分歴や処分の理由となった行為の性質,処分後の更生状況などをきめ細かく勘案した上で,採否を厳正に判断すべきである」,「特に,国民の公的年金業務に対する信頼回復の観点から,懲戒処分を受けた者は機構の正規職員には採用すべきでない。なお,懲戒処分を受けた者についても,有期雇用職員として採用することは可能であるが,この場合にあっても,採用基準を定め,審査会における公正かつ厳格な審査を経るべきである」,「有期雇用職員として採用された機構の職員についても,その能力や実績に応じ,本人の希望により,雇用期間満了後に正規職員として採用される道が開かれるべきである。しかし,過去に懲戒処分を受けた者については,機構の有期雇用職員としての採用後,業務に精励し,意欲と能力が実証された場合にあって,正規職員への採用を行おうとするときは,機構において第三者による公正かつ厳格な採用審査を行うべきである」とした(乙A7の10頁,12頁)。
また,最終整理は,外部人材の積極採用について,「業務の円滑な移行のため,機構の業務に必要な知識や経験を有する社会保険庁の職員の活用は必要としても,機構がサービスの質の向上を図りつつ,効率的で公正,透明な業務運営を行える,国民から「信頼」される組織として再生するため,民間人はもとより,他省庁の職員も含め外部から優れた能力を有する人材を積極的に採用することが必要である」とした上で(乙A7の11頁),機構の必要人員数について,機構の設立時点の人員数を総数1万7830人程度とし,うち1万0880人程度を正規職員,6950人程度(社保庁職員により担われている業務のうち,機構設立後に削減が予定されている業務量におおむね相当する人員数1400人程度を含む。)を有期雇用職員とし,正規職員1万0880人のうち,おおむね1000人程度については,外部から人材を採用することが適当であるとした(乙A7の13頁)。
さらに,最終整理は,「機構の設立に際し,機構への採用を希望しても,一定数の社会保険庁の職員は不採用になることが見込まれる。厚生労働省及び任命権者である社会保険庁長官は,退職勧奨,厚生労働省への配置転換など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行うべきである。また,官民人材交流センターの活用も図るべきである」とした(乙A7の15頁)。
イ 内閣による基本計画の決定(乙A8)
(ア) 平成20年7月29日,内閣は,機構法附則3条に基づき,「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本計画」(以下「本件基本計画」という。)を閣議決定した。
本件基本計画は,機構の組織体制,業務の外部委託推進についての基本的な考え方,職員採用についての基本的考え方及び機構の必要人員数などを内容とするものである。
(イ) 本件基本計画は,職員採用についての基本的考え方として,「国民の公的年金業務に対する信頼回復の観点から,懲戒処分を受けた者は,機構の正規職員及び有期雇用職員には採用されない」(乙A8の11頁),「機構がサービスの質の向上を図りつつ,効率的で公正,透明な業務運営を行える,国民から「信頼」される組織として再生するため,民間人はもとより,他省庁の職員も含め外部から優れた能力を有する人材を積極的に採用する」(乙A8の12頁)とした。
また,本件基本計画は,機構の必要人員数について,機構の設立時点の人員数を総数1万7830人程度とし,うち1万0880人程度を正規職員,6950人程度(社保庁職員により担われている業務のうち,機構設立後に削減が予定されている業務量におおむね相当する人員数1400人程度を含む。)を有期雇用職員とし,正規職員1万0880人のうち,おおむね1000人程度については,外部から人材を採用するが,応募状況等を踏まえ,その採用数の拡大を検討することとした(乙A8の13頁)。
さらに,本件基本計画は,社保庁職員からの機構職員の採用に当たり,機構に採用されない職員(以下「不採用職員」という。)については,「退職勧奨,厚生労働省への配置転換,官民人材交流センターの活用など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行う」とした(乙A8の14頁)。
(5) 機構職員の採用基準等の策定等
ア 平成20年11月,機構法附則5条1項に基づき厚労大臣に任命された設立委員は,日本年金機構設立委員会(以下「機構設立委員会」という。)を組織した(乙A9)。
イ 平成20年12月22日,機構設立委員会は,機構法附則5条2項及び8条1項に基づき,機構職員の労働条件及び採用基準(以下,この採用基準を「本件採用基準」という。)を定めるとともに,社保庁長官を通じてこれを提示し,機構職員の募集を行った(乙A10の1,10の2)。
本件採用基準においては,社保庁職員からの採用に当たって,「懲戒処分を受けた者は採用しない。なお,採用内定後に懲戒処分の対象となる行為が明らかになった場合には,内定を取り消す。また,採用後に懲戒処分の対象となる行為が明らかになった場合には,機構において,労働契約を解除する」とされている(乙A10の1別添2)。
(6) 機構設立委員会による機構職員の採用等
ア 社保庁職員に対する意向調査等
(ア) 平成20年10月から同年11月にかけて,社保庁は,厚労省と共同して,社保庁職員全員に対し,厚労省への転任及び機構への採用等の希望を把握するため,職員意向準備調査票(以下「準備調査票」という。)に基づく意向準備調査を実施した(乙A31)。
(イ) 平成20年12月24日,社保庁は,機構設立委員会から労働条件及び本件採用基準が提示されたことを受け,地方社会保険事務局長に対し,同条件及び同基準を職員全員に配布するよう通知した(乙A11の1,A12)。
(ウ) 平成21年1月,社保庁は,社保庁職員全員に対し,機構及び全国健康保険協会(以下「協会」といい,機構と併せて「機構等」という。)への採用並びに厚労省への転任等の希望を確認するため,職員意向調査票(以下「意向調査票」という。)に基づく意向調査(以下「本件意向調査」という。)を実施した(乙A13)。
イ 社保庁長官による名簿提出
平成21年2月16日,社保庁長官は,本件意向調査の結果を踏まえ,機構職員となることを希望した者の中から,本件採用基準に従い,機構職員となるべき者1万1118人を選定し,機構設立委員会に対して名簿を提出した(乙A14,A15)。
ウ 機構職員の採用内定
(ア) 平成21年5月19日,機構設立委員会により選任された学識経験者で組織される日本年金機構職員採用審査会(機構法附則8条5項。以下「採用審査会」という。)は,上記名簿とともに提出された書類の審査を行った上で,面接をすることが必要と判断した者の面接審査を行い,機構職員としての採否を機構設立委員会に報告した。
同日,機構設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,上記名簿に登載された者のうち,正規職員として9613人,准職員として358人の採用を内定し,28人を不採用,残り1119人を保留等とした(乙A15)。
(イ) 平成21年7月28日,機構設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,外部(民間)から正規職員として1078人の採用を内定した(乙A17)。
(ウ) 平成21年10月8日,機構設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,健康状態を理由として採否を保留していた社保庁職員161人について,正規職員として59人,准職員として78人の採用を内定し,24人を不採用とした。
同日,機構設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,外部(民間)から准職員の募集に応募した5975人について,准職員として970人の採用を内定した(乙A18)。
(エ) 平成21年10月28日,機構設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,外部(民間)から管理職(正規職員)の追加募集に応じた2752人について,管理職(正規職員)として49人の採用を内定した(乙A19)。
エ 機構職員の追加募集等
(ア) 平成21年5月19日,機構設立委員会は,准職員が採用予定者数の1400人程度を大きく割り込んだため,社保庁長官を通じて,本件採用基準等を示し,准職員の追加募集(以下「1次追加募集」という。)を行った(乙A16,A48)。
同年10月8日,機構設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,社保庁職員から准職員の1次追加募集に応じた160人について,准職員として154人の採用を内定し,6人を不採用とした(乙A18)。
(イ) 平成21年12月1日,機構設立委員会は,社保庁長官を通じて本件採用基準を示し,准職員の第2次追加募集(以下単に「2次追加募集」という。)を行った(乙A20)。
同月17日,設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,機構の2次追加募集に応じた61人について,准職員として60人の採用を内定し,1人を不採用とした(乙A21)。
オ 機構職員の内定者数
上記の経緯による機構職員の内定者は,合計1万2419人(正規職員1万0799人及び准職員1620人)であり,そのうち,①社保庁職員からの内定者が1万0322人(正規職員9672人及び准職員650人),②外部(民間)からの内定者が2097人(正規職員1127人及び准職員970人)であった。
(7) 協会の設立等
ア 政管健保業務の移管
社保庁が行っていた政管健保(健康保険組合の組合員でない被用者の健康保険)業務については,健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律83号。以下「健康保険法改正法」という。)により,非公務員型法人である協会が設立され,同業務を実施することになった。
イ 社保庁長官による名簿提出
(ア) 協会職員については,厚労大臣が任命した設立委員会が提示する採用基準に従って社保庁長官が作成した名簿に記載された社保庁職員から,設立委員が採用することとされた(健康保険法改正法附則15条)。
(イ) 平成18年11月,厚労大臣に任命された設立委員は,全国健康保険協会設立委員会(以下「協会設立委員会」という。)を組織した(乙A22の1)。
平成19年10月25日,同委員会は,協会職員の労働条件及び採用基準(以下,この採用基準を「協会採用基準」という。)を定めた。同基準においては,社保庁職員からの職員について,「懲戒処分を受けた者及び社会保険庁の改革に反する行為を行った者については,その内容等を踏まえ,勤務成績及び改悛の情を考慮して,可否を厳正に判断するものとする」とした(乙A22の2別添1)。
(ウ) 協会設立委員会は,社保庁職員から約1800人,外部(民間)からの採用や民間・国等からの出向により約300人を,協会職員として確保することとした(乙A22の2)。
(エ) 平成20年4月14日,社保庁長官は,社保庁職員全員に対する意向調査において協会を第1希望とした4156人を優先し,協会採用基準に従い,協会の人事方針への賛同の有無,人事評価結果,健康状態,業務経験及び懲戒処分歴に照らし,1800人を掲載した名簿を作成して協会設立委員会に提出した(乙A26,A27の1)。
ウ 協会職員の採用内定
(ア) 平成20年4月14日,協会設立委員会は,社保庁長官から提出された名簿に記載された1800人全員について採用を内定した(乙A28)。
(イ) 平成20年4月3日及び同年9月3日,協会設立委員会は,外部(民間)からの正規職員として,合計271人の採用を内定した(乙A25,A29)。
エ 協会の設立
平成20年10月1日,協会が設立され,協会設立時の職員として採用されることとなった1800人の社保庁職員は,社保庁を退職して協会職員となった(健康保険法改正法附則15条3項)。
オ 協会職員の追加募集
(ア) 協会は,平成22年1月から,雇用保険法等の一部を改正する法律(平成19年法律30号。以下「雇用保険法改正法」という。)による船員保険法の改正によって,社保庁が行っていた船員保険業務を行うこととなった。
(イ) 平成20年12月25日,協会は,機構設立委員会が同月22日に決定した本件採用基準において,懲戒処分を受けた者は採用しないとされたことを踏まえ,協会採用基準における社保庁職員からの採用に関する部分について,「懲戒処分を受けた者は採用しない。なお,採用内定後に懲戒処分の対象となる行為が明らかになった場合には,内定を取り消す。採用後に懲戒処分の対象となる行為が明らかになった場合には,協会において,労働契約を解除する」と改めた(以下,改正後の協会採用基準を「改正協会採用基準」といい,本件採用基準と併せて「本件各採用基準」という。)(乙A33の1別添1)。
同日,協会は,社保庁長官を通じて,改正協会採用基準を示し,約40人の協会職員の募集を行った(乙A33の1)。
(ウ) 平成20年12月26日,社保庁は,協会から改正協会採用基準が提示されたことを受け,地方社会保険事務局長に対し,同基準を職員全員に配布するよう通知した(乙A34)。
(エ) 平成21年2月16日,社保庁長官は,本件意向調査の結果および人事記録に基づき,協会職員となることを希望した者3077人の中から,懲戒処分歴保有者6人を改正協会採用基準に合致しないとして除外し,協会職員となるべき者3071人を選定し,協会に対して名簿を提出した(乙A35)。
(オ) 平成21年6月25日,社保庁は,協会が上記名簿から45人の採用を内定したことを,内定を受けた社保庁職員に伝達した(乙A36の1(3枚目),A36の2)。
(8) 社保庁職員に対する分限免職処分等
ア 平成21年12月時点で,社保庁職員であった1万2566人のうち,1万0069人が機構に,45人が協会に採用され,1293人が厚労省及び他府省(以下併せて「厚労省等」という。その内訳は,厚労省に1284人,金融庁に1人及び公正取引委員会に8人。なお,このうち懲戒処分歴保有者は291人である。)に転任し,631人が勧奨により,3人が自己都合によりそれぞれ退職した(以下,勧奨による退職を「勧奨退職」ともいう。乙A36の1,A40,A43)。
イ その結果,原告らを含む525人については,機構等への採用や厚労省等への転任がされず,退職勧奨にも応じなかったため,社保庁の廃止と同時に,国公法78条4号に基づく分限免職処分を受けた。
上記525人のうち,懲戒処分歴のある者は251人であり,懲戒処分歴のない者は274人であった(乙A36の1の2枚目)。
ウ 上記分限免職処分を受けた社保庁職員に対しては,国家公務員退職手当法5条に基づき,自己都合退職や勤続25年未満の勧奨退職者に比べて割増しされた退職手当が支給された(国家公務員退職手当法5条1項,乙A51参照)。
(9) 原告らに対する本件各処分等
ア 原告らは,平成21年2月9日又は同月10日に,東北厚生局による転任面接を受けたが,当該転任面接の結果,いずれも転任されなかった(乙Cイ7,Cロ7,Cハ7,Cニ7)。
イ 本件各処分
本件任命権者は,平成21年12月25日,原告らに対し,原告らはいずれも国公法78条4号に該当するとして,同月31日限りで分限免職する旨の本件各処分をし,同月28日,人事異動通知書及び処分説明書を交付した。
機構法の施行により同月31日をもって社保庁が廃止されたことにより,同法附則73条1項に基づき,本件各処分は厚労大臣がしたものとみなされる。
ウ 審査請求
原告らは,平成22年1月18日,人事院に対し,本件各処分の取消しを求め審査請求をした。
エ 原告らに対する人事院判定
(ア) 人事院は,平成25年3月29日,原告X1及び原告X3に対し,分限免職処分を承認するとの判定を下し,同判定は,同年4月5日に上記両名に対して送達された。
(イ) 人事院は,平成25年5月31日,原告X2及び原告X4に対し,分限免職処分を承認するとの判定を下し,同判定は,同年6月10日に上記両名に対して送達された。
3 本件における主要な争点
(1) 国公法78条4号の要件該当性(争点1)
(2) 本件各処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無であり,具体的には,以下の各点である。(争点2)
ア 判断枠組み
イ 分限免職処分を回避するために努力すべき義務(以下「分限免職回避努力義務」という。)履行の有無
(ア) 分限免職回避努力義務の主体
(イ) 分限免職回避努力義務の内容
(ウ) 分限免職回避努力義務履行の有無
ウ 人員選定(以下「人選」という。)の合理性の有無
エ 誠実な説明・協議義務等の履行の有無
(3) 本件各処分が国賠法の適用上違法となるか(争点3)
(4) 消滅時効の成否(争点4)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(国公法78条4号の要件該当性)について
(被告の主張)
本件は,国公法78条4号の廃職を生じた場合に該当する。
国公法78条柱書きは,「職員が,次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは,人事院規則の定めるところにより,その意に反して,これを降任し,又は免職することができる。」と規定し,国家公務員についての分限処分を定めている。そして,分限処分の事由として,同条4号は,「官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」と規定している。
「官制」とは,行政組織のことであり,通常,内閣法及び国家行政組織法の体系によって形成される組織をいい,政省令で定められた組織も含まれる。「廃職」とは,ある官職(「官職」とは,国家公務員の一般職に属する全ての職をいう。国公法2条4項)が廃止されることをいい,「過員」とは,職員又は官職の定数が減少することにより,不特定の職員又は官職について剰員を生じることをいう。
本件においては,機構法改正附則70条ないし72条による国家行政組織法及び厚生労働省設置法の改正に基づく,社保庁という「官制」の廃止に伴い,社保庁の全ての官職につき廃職が生じたことから,国公法78条4号の定める場合に該当する。
(原告らの主張)
ア 本件は,国公法78条4号に該当しない。
憲法25条及び15条に基づき,国公法74条1項,75条,78条及び人事院規則11-4第2条等が国家公務員の身分保障を定めている趣旨からすれば,同法78条4号にいう「廃職」又は「過員」とは,当該公務員の担当していた職務自体が廃止あるいは縮小され,現存の職員数に比して業務量が減少した結果,実質的な「人員削減の必要性」が認められる場合を指すというべきである。
イ 本件において,社保庁は廃止されたものの,同庁が担っていた公的年金業務は,厚労省と社保庁から組織変更した機構が担うことになったにすぎないから,「廃職」には該当しない。
また,平成21年12月末時点での社保庁は,年金記録の照合や利用者からの問合せ等によって業務量が著しく増大しており,人員増が求められていたし,機構の発足に当たっては,民間から1000人以上もの職員が新たに採用されており,人員削減を行わなければならない理由は一切なかった。そして,社保庁廃止時には,機構の正規職員は約300人の欠員が生じていた。
ウ 以上のとおり,本件各処分は,何ら人員削減の必要がなく,実質的に「廃職」や「過員」が認められない状況で行われたものであり,国公法78条4号にはそもそも該当せず,違法である。
(2) 争点2(本件各処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)について
(原告らの主張)
ア 判断枠組み
(ア) 廃職又は過員に相当する場合であっても,分限免職処分を行うかどうかは,任命権者の裁量に委ねられているが,国公法が定める国家公務員の身分保障及び厳格な分限規定が,憲法25条の生存権保障に基づくものであることからすれば,職員側に何ら落ち度のない国公法78条4号に基づく分限免職処分は,純然たる自由裁量ではなく,分限制度の目的と関連のない目的や動機に基づいて分限処分をした場合,考慮すべき事項を考慮せず,考慮すべきでない事項を考慮して判断した場合,その判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えた場合には違法となる(最高裁第二小法廷昭和48年9月14日判決)。
よって,社保庁が廃止されたことをもって,直ちに「廃職」に当たるとすることはできず,比例原則に照らせば,当該公務員と担当職務の結びつきが客観的になくなったといえること,すなわち,人員削減の必要性が存在し,かつ,分限免職処分以外の方法によってはその目的を達成できないという特別な事情が存在しなければならない。
また,国公法27条,74条1項及び2項に基づいて定められた人事院規則11-4第2条及び第7条の規定に照らせば,分限免職処分における被処分者の選定は,公平・公正な手続及び人選基準に基づいてなされなければならない。
さらに,分限免職処分は不利益処分であるから,憲法31条が規定する適正手続の保障として,労働者・労働組合に対する協議を尽くさなければならないというべきである。
(イ) 民間の整理解雇と国公法78条4号に基づく分限免職処分は,いずれも組織の縮小や廃止等に伴い,個々の労働者に何ら帰責事由が存在しないにもかかわらず,その意に反して離職させる点において共通しているから,分限免職処分についても,民間における整理解雇4要件と同様に,最低でも,①実質的に人員削減の必要性があること,②分限免職回避努力義務が尽くされたこと,③対象者の人選が公平・公正で合理的な基準に基づきなされたこと,④本人への説明と労働組合との協議が尽くされていることを満たすべきであり,これを満たさない分限免職処分は,裁量権を逸脱,濫用したものとして違法である。
イ 分限免職回避努力義務履行の有無
(ア) 分限免職回避努力義務の主体
以下に述べるとおり,内閣を中心とする政府全体が,分限免職回避努力義務を負う主体である。
a 現存の国家公務員制度の下では,任命権者の任用行為によって,当該労働者と国との間に勤務関係という法律関係が発生し,分限免職回避努力義務は,この勤務関係という法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として,信義則上負う義務であり,その主体は使用者である国(内閣)である。
内閣は憲法上行政権全体を所掌事務としている以上,社保庁職員の処遇の問題が所掌事務の対象外であるとはいえないし,社保庁の解体・民営化は,内閣が方針を決定し,かつ機構法を閣議決定して国会に提出したことにより実施されたものであって,機構法の施行に際して社保庁職員の雇用問題についてどう対処するかについては,内閣が総合調整機能を発揮して政治的判断を行うことが不可避である。
b 内閣は,本件基本計画の中で,「機構に採用されない職員については,退職勧奨,厚生労働省への配置転換,官民人材交流センターの活用など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行う」と定めたのであるから,内閣が分限免職回避努力義務を負うことは明らかである。
また,本件基本計画は,分限免職回避の具体的手段として,厚労省への転任を明記しており,当時の厚労大臣が内閣の一員として分限免職回避努力義務を負っていたことは明らかである。
c 仮に,被告が主張するとおり任命権者のみが分限免職回避努力義務を負うとすると,回避のためにできることはほとんどなく,国家公務員労働者の雇用を確保することはおよそ期待できないし,転任の可能な単位が小さい行政機関の職員ほど,分限免職回避措置がとられないことになり,結果において不平等が生じ,妥当でない。
d 被告は,本件任命権者が与えられた権限に照らして行い得る活動の範囲内において分限免職回避努力義務を尽くしたかどうかが問題となると主張するが,任命権が国公法55条1項により定められた任命権者にそれぞれ独立かつ終局的に帰属しているというのは,処分権限の主体が限定されるという意味にすぎず,処分権限の行使に至る経過でどの国家機関にどのような義務が課されるかという問題とは別の問題である。
(イ) 分限免職回避努力義務の内容及びその履行の有無
a 内閣の分限免職回避努力義務違反
(a) 機構法は,機構職員の数や採用基準等の具体的内容の決定について,政府に委任しているが,政府が定める基本計画は,機構法の趣旨・目的に沿ったものでなければならないことはいうまでもないし,国公法や人事院規則など国家公務員の人事に関する規定に反してはならず,分限免職回避努力義務に抵触するものであってはならない。
しかし,内閣は,本件基本計画(乙A8)を閣議決定することにより,機構の定数を削減した上,民間から1000人を採用する枠組みを決定したため,機構が公的年金業務を承継して効率的に運営していく上で,大きな障害となった。
また,政府は,本件基本計画において,再生会議における最終整理を覆して,懲戒処分歴を有する職員については,処分の理由の如何を一切問うことなく,一律に機構への応募資格を認めない方針を採用した。これは,政治的介入を避けるために学識経験者の意見聴取を義務付けた法の趣旨を踏みにじるものであり,機構法の委任の範囲を著しく逸脱するものである。
さらに,社保庁からの事前の要請があったにもかかわらず,社保庁の職員に対して,雇用調整本部を活用しないこととして,分限免職を回避するための省庁間の転任を行わなかった。
したがって,内閣には分限免職回避努力義務違反がある。
(b) これまで国公法78条4号が発動されるような事態が生じた場合,国が分限免職回避努力義務を負うことについては,国会等で再三確認されてきたことであり,かつ実際に省庁間の転任などによって国が分限免職回避措置を行ってきた。農林統計,食糧管理,北海道開発等の定員の純減が実施された際には,閣議決定で雇用調整本部を立ち上げ,平成19年から平成22年にかけて,4年間で約2600人の職員を転任させて分限免職を回避したにもかかわらず,社保庁職員に対しては,省庁間の転任の枠組みは活用されず,分限免職回避のための唯一の転任先である厚労省に対しては,上記省庁間の転任の受入枠の免除は最後まで認められなかった。
(c) したがって,本件各処分は,内閣の分限免職回避努力義務違反及び平等取扱原則(国公法27条)違反により,違法である。
b 厚労大臣の分限免職回避努力義務違反
(a) 厚労大臣は,社保庁職員の中には,懲戒処分歴のある職員がかなりの割合で存在しており,これらの職員は厚労省に転任されない限り,分限免職となる可能性が極めて高く,他方で,機構の業務遂行上,応募資格のある職員は可能な限り機構職員となって年金業務を担うことが望まれていたのであるから,こうした状況を踏まえて,機構への応募資格を奪われた懲戒処分歴のある職員の厚労省転任の枠を可能な限り残すよう配慮する必要があり,機構への採用手続を先行させれば,懲戒処分歴のある職員を分限免職とする必要性はなかった。
しかし,実際には機構の職員募集と厚労省転任の手続を並行して進めたために,厚労省転任希望者は6017人(うち懲戒処分歴ある職員は698人)に上り,懲戒処分歴のある職員の転任の可能性を狭め,分限処分回避の途を閉ざした。
(b) 厚労省転任に際して,分限免職の対象者選定になるとの問題意識を欠いていたため,基準の設定においても,転任のための面接及び選考においても,客観的かつ公正・公平な選定を担保する措置をとらず,恣意的で不公正・不公平な転任者の選考を実施した。
(c) 本件基本計画で定めた社保庁から機構へ採用される正規職員の数は,9880人程度とされていたが,平成21年5月19日時点で267人,同年10月8日時点で208人の欠員が生じており,平成22年1月1日の機構設立時には381人に及んでいたし,外部からの採用も併せた機構の正規職員の必要人数は1万0880人程度とされていたのに対し,機構設立時の正規職員数は1万0556人であり,324人の欠員が生じていたのであるから,厚労省は正規職員の追加募集の必要性を認識していた。正規職員の募集と准職員の募集で特段の違いはないから,准職員の追加募集ができた以上,正規職員の追加募集にも支障はなかった。
よって,厚労省が主導して,機構に正規職員の追加募集をさせるべきであったのに,これを行わせなかった。
(d) 年金記録確認第三者委員会は,定員252人のうち転任数は162人に止まっており,そもそも全国に年金事務所が312あることからすれば,定員252人ですら不足している。年金記録確認第三者委員会に,より多くの社保庁職員を転任させることによって,分限免職を回避することが可能であった。
また,平成21年度予算で,「社会保険庁廃止に伴う残務整理のための定員の振替3カ月措置」として,平成22年3月まで,年金局10人,地方厚生局103人の合計113人の定員が確保されており,これを活用することができたにもかかわらず,厚労省はこれを活用しなかった。
さらに,厚労省は,機構への業務支援のため職員147人を出向させており,これらの職員分の欠員が生じていたから,社保庁職員からの転任によって補充すれば,分限免職を回避することは十分可能であったにもかかわらず,この定員枠を活用しなかった。
加えて,厚労省は,平成22年度に436人もの大量の新規採用をしているにもかかわらず,平成21年に欠員創設を行わなかった。
(e) 厚労大臣官房人事課長は,平成21年7月,各府省等に対し,社保庁職員の受入れを要請したが,平成22年4月の新規採用の募集は既に始まっていて時機を逸しており,他省庁がその転任を受け入れる余地がほとんどなく,分限免職回避努力に値しないものであった。
(f) したがって,厚労大臣には分限免職回避努力義務違反がある。
c 社保庁長官及び本件任命権者(以下「社保庁長官等」という。)の分限免職回避努力義務違反
(a) 前記b(c)のとおり,機構の発足に当たって,大量の欠員が予想されたのであり,社保庁総務部長のHは,機構設立委員会の準備事務局の事務局長でもあったから,厚労省から命じられるまでもなく,正規職員を追加募集することは極めて容易であったのに,准職員の追加募集のみを行い,正規職員の追加募集をしなかった。
(b) 前記b(d)のとおり,厚労省には残務処理の113人分の定員枠や機構への業務支援のための出向者の枠があったのであるから,社保庁長官は,上記定員枠を活用するよう要請したり,平成22年度の採用を抑制することによって転任の枠を増やして分限免職を回避する措置をとることを要請したりすべきであったのに,これをしなかった。
(c) 平成20年7月の本件基本計画の閣議決定によって,懲戒処分歴のある職員については分限免職がされ得ることが予想されたにもかかわらず,社保庁が社会保険庁職員再就職等支援対策本部(以下「支援対策本部」という。)を設置し,a事務局内にa社会保険事務局再就職支援室(以下「本件支援室」という。)が設置されたのは,平成21年6月24日よりも後のことで,遅きに失したことは明らかである。
社保庁は,同年7月9日付けの書面で,各府省等に対し,欠員補充等のため採用予定がある場合などには,社保庁職員の転任による受入れについても検討してほしいとの要請を行ったが,平成22年4月の新規採用の募集は既に始まっていて時機を逸しており,分限免職回避の努力に値しないものであった。また,地方公共団体,関係団体等への採用依頼も,同年7月3日以降であり,時機を逸していたし,文書には期限の明記がなく,実際に採用されることもなく,何ら実効性のあるものではなかった。
a事務局内では,再就職支援を専属的に担当した職員はおらず,支援室会議が開かれたこともなく,同年8月以降,局長と室長がゆっくりとしたペースで地方支分部局や市町村等に顔を出した程度で,再就職支援業務には程遠かった。また,各省庁の出先機関の欠員調査等もなく,地域ブロックや本省への支援要請もしなかった上,原告ら職員への再就職についての配慮もなかった。さらに,当初は,原告らを含む再就職に係る支援を要する者らに対して,再就職支援活動の進捗状況等の報告や説明もしなかった。
(d) 官民人材交流センターに登録された情報は,ハローワークが一般に配布している情報と同じであり,また,同センターの担当者はハローワークへの登録を促す等するだけで,再就職支援として無意味であった。
(e) したがって,社保庁長官等には,分限免職回避努力義務違反がある。
ウ 人選の合理性の有無
(ア) 人選の在り方
人事院規則11-4第7条4項は,国公法78条4号に基づく分限免職処分の対象者を公正に選定すべき旨定めており,分限免職処分に当たっては,公正な人選が行われなければならない。
具体的には,公平かつ合理的な人選を行うために,勤務成績,勤務年数に加えて,個々の職員の収入状況,家族構成,健康状態,妥当な再就職先の確保状況等の事情を十分に考慮しなければならない。
そして,このような事情を考慮することなく,懲戒処分歴,成績に基づかない事情等考慮すべきでない事項を考慮してなされた分限免職処分は違法となる。
(イ) 人選の不合理性
a 本件においては,厚労省への転任は,懲戒処分歴を有する者にとっては分限免職処分を回避するための事実上唯一の機会であったことから,転任者選定は分限免職対象者の選定行為と表裏一体となるものであり,国公法27条の2,33条1項及び58条1項に照らせば,転任の基準は公正かつ合理的でなければならず,能力主義からすればもっとも重視されるべきは社保庁における人事評価であった。
平成18年4月から始まった社保庁の人事評価制度(以下「社保庁人事評価」という。)は,国公法18条の2第1項,70条の3,人事評価の基準,方法等に関する政令4条1項に沿ったものである。同制度には,毎年上期と下期に実施される実績評価と毎年1回実施される能力評価があり,いずれの評価もS,A,B,C,Dに区分され,「役職階層に期待される実績(能力)を上回った」とされるA評価は全体の25%,「役職階層に期待される実績(能力)を大きく上回った」とされるS評価は全体の5%の職員だけが受ける評価であった。
しかし,実際には,厚労省への転任基準は,主観的,恣意的評定となる人選基準であり,客観的・統一的な基準は設けられておらず,社保庁人事評価による勤務成績は,全く評価の基礎とされなかった。そして,転任面接は,わずか10分から15分程度の時間で,全く客観性を欠くものであった。
b また,実際には,面接結果の成績下位の者が転任され,上位の者が分限免職となるなど,面接評価の評点も無視した選考がなされた。
c さらに,厚労省は,平成21年6月から同年12月にかけて,転任の追加内定を行ったが,その選定経過は全く不透明で,募集等は社保庁職員全体に周知されていないし,労働局への転任に係る募集も社保庁職員全体には周知されていない。
d 以上のとおり,厚労省への転任者選考手続は,著しく不公正で不合理であり,他の国家公務員の任用手続と比しても,著しく不公平で国公法上の平等取扱いの原則(同法27条)に反するものである。
エ 誠実な説明・協議義務等の履行の有無
(ア) 適正手続の要請
国公法78条4号に基づく分限免職処分に当たっては,憲法31条が保障する適正手続の観点から,厚労省への転任手続にも適正手続原則が及び,被告には原告ら及びその所属する労働組合に対して協議・説明をなす義務がある。具体的には,懲戒処分歴がある職員やその所属する労働組合に対しては,分限免職回避に関して,厚労省にどのような他部局があるのか,その受入人数,枠組み等詳細を説明した上で,平成20年11月の職員意向準備調査の目的,期限など応募手続についても説明すべきであった。
(イ) 説明・誠実協議義務違反等
国家公務員の分限免職は,民間の整理解雇と異ならないところ,労働者の生活生存に重大な影響を及ぼすので,被告は,労働者及び労働組合に対して,整理解雇と同様の必要性とその内容,解雇に対する補償などについて納得を得るために説明を行い,誠意をもって協議すべき義務を負う。
内閣は,公的年金制度に対する国民の不信を招いた責任を職員や労働組合に転嫁し,従来認められていた労働組合の権利をことごとく否定した。その結果,原告らは,分限免職処分を回避するために当局と協議・交渉する機会を奪われたばかりか,労働者としての権利主張さえ否定された。
オ 原告らの個別事情
原告らに対する分限免職回避努力義務違反に係る主張は,別紙3「個別事情に関する原告らの主張」記載のとおりである。
カ まとめ
以上によれば,本件各処分は違法であるから,いずれも取り消されるべきである。
(被告の主張)
ア 判断枠組み
国公法78条各号に基づく分限免職処分一般の適法性を検討するに当たっては,同処分が裁量処分であることから,①分限制度の目的と関係のない目的や動機に基づいて分限処分を行った場合,②考慮すべき事項を考慮せず,考慮すべきでない事項を考慮して判断した場合,③その判断が合理性を持つ判断として許容される限度を超えた不当なものである場合,④合理的な範囲での分限免職処分回避のための努力義務を怠った場合など,裁量権の逸脱又は濫用に該当すると認められる場合を除き,その判断の当不当はともかく,違法な処分とはならないものと解される。
本件における社保庁の廃止によるその全官職の廃止という分限事由は,法律の改正(機構法附則70条から72条までによる国家行政組織法及び厚生労働省設置法の改正)によるものであるから,分限事由を生じさせたことにつき,本件任命権者の裁量権の逸脱又は濫用を観念する余地はない。また,本件一連の分限免職処分は,廃止される社保庁の官職に就いていた職員全員が分限免職処分の対象となり得る場面であったところ,そのうち,機構への採用や厚労省への転任等がされず,退職勧奨にも応じなかった一部の者について一律に分限免職処分が行われたものであるから,そもそも,いずれの職員を分限免職処分の対象とするかという任命権者による「選定」の概念が入り込む余地はない。
以上のように,本件は,違法な分限事由を生じさせたか否か,複数の職員のうちいずれの職員を分限免職処分とするかに当たって裁量権の逸脱又は濫用があったか否かといった問題が生じるような事案,すなわち上記①から③までが問題となるような事案ではない。
したがって,本件各処分の裁量権の逸脱又は濫用が問題となり得るのは,上記④に該当する場合であり,すなわち,原告らを含めた多数の社保庁職員に対する分限免職処分の回避のための努力を行うに当たり,〈ア〉転任等が比較的容易であったのにそれを怠ったか,〈イ〉国公法27条(平等取扱の原則),74条(分限,懲戒及び保障の根本基準)及び108条の7(不利益取扱いの禁止)並びにこれらを受けた人事院規則11-4第2条及び7条4項の趣旨に照らし,分限免職処分が平等かつ公正に行われなかったかのみが問題になる。
イ 分限免職回避努力義務の履行の有無
(ア) 分限免職回避努力義務の主体
社保庁は,国家行政組織法3条2項,3項,4項及び別表第一並びに厚生労働省設置法25条1項等に基づき設置された行政組織であり,国公法55条1項所定の「外局」に当たるから,同庁に属する官職に就く職員に対する任命権は,その長である社保庁長官(ただし,国公法55条2項により社保庁長官の職員に対する一部の任命権は,各地方社会保険事務局長等に委任されていた。)に独立的かつ終局的に帰属するものというべきであって,厚労大臣,内閣総理大臣(内閣)は,社保庁の職員に対する任命権を有しない。
よって,本件各処分において,分限免職回避努力義務を負うべき主体は,厚労大臣や内閣総理大臣(内閣)ではなく,法令に基づき社保庁長官の任命権の一部につき委任を受けた任命権者である本件任命権者であるというべきである。
したがって,本件においては,本件任命権者がその与えられた権限に照らして行い得る活動の範囲内において分限免職回避努力義務を尽くしたかどうかが問題となり,任命権者が左右し得ない事情や,他の行政機関等の分限免職回避努力義務の履行の有無は裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無に関する判断に影響を与えないというべきであり,本件各処分を巡る政府与党や厚労大臣の取組等一連の経過は,本件各処分がされた当時の状況という「事情」として考慮されるにすぎない。
人事院規則8-12第6条3項が「任命権者を異にする官職に職員を昇任させ,降任させ,転任させ,又は併任する場合には,当該職員が現に任命されている官職の任命権者の同意を得なければならない。」と定めていることから,社保庁長官ないし各地方社会保険事務局長等には転任に関する最終的な同意権限が付与されているものの,厚労大臣が,社保庁の職員のうち誰を,いかなる基準に基づいて転任させるかという具体的な選定手続に関しては,何らの権限も付与されていない。この点からも,厚労大臣による転任の手続に何らかの問題があったとしても,それにより社保庁長官ないし各地方社会保険事務局長等がする分限免職処分が違法となるものではない。
(イ) 分限免職回避努力義務の内容
本件任命権者あるいは社保庁長官において,その権限内でできた行為としては,①社保庁職員の再就職あるいは退職に当たっての意向ないし希望を再三にわたって丁寧に聴取するほか,機構設立委員会又は協会設立委員会の要請により,その募集内容を社保庁職員に周知するとともに,採用希望の意志を表示した職員の中から,上記各設立委員会が定めた採用基準を満たす職員の名簿を作成して提出すること,②厚労省その他の府省に対し,可能な限り社保庁職員を受け入れるよう要請するとともに,その募集内容を社保庁職員に周知すること,③そのほか機構の准職員の募集,厚労省の非常勤職員の募集,地方公共団体への受入要請についても同様であり,官民人材交流センターやハローワークの利用についてもその周知と登録等を各職員に促すくらいに限定されていた。
(ウ) 分限免職回避努力義務の履行状況
本件任命権者は,自らの権限の及ぶ範囲内において,可能な限りの分限免職回避努力義務を履行した。すなわち,本件任命権者は,自己の権限の及ぶ範囲内において,社保庁職員の意向又は希望等を丁寧に聴取し,機構等の募集内容の周知並びに採用基準を満たす職員の名簿の作成及び提出を適正に行った上,各府省や地方公共団体等への社保庁職員の受入要請及び募集内容の周知等を可能な限り行った。
さらに,本件任命権者は,これらの分限免職回避措置をとるに当たり,恣意的な取扱いをせず,全ての社保庁職員について,平等かつ公平に行った。社保庁職員の機構,協会及び厚労省への採用又は転任の内定がされたのは,平成21年6月25日であった結果,いずれの組織へも採用又は転任できない可能性のある職員を特定し,当該職員に対する具体的な取組を行うことができたのは,同日以降にならざるを得なかった。
また,機構等への採用や厚労省への転任等については,いずれも本件任命権者の権限の及ぶところではないが,下記のとおり,それぞれの組織が設定した合理的な採用基準に基づいて採用行為等が行われたものであって,その採用過程は,平等取扱いの原則や公平取扱いの原則に合致するものであった。したがって,厚労大臣や内閣等に分限免職回避努力義務が認められると仮定しても,本件において同義務違反があったとはいえない。
a 機構の職員採用枠が適正であったこと
機構の職員採用枠(社保庁職員から機構の正規職員への採用は1万人弱程度)は,人員を必要最小限度とし,一層の業務の効率化,合理化を図ることを求める機構法の立法政策に基づいて,正規職員1万0880人,有期雇用職員6950人とされ,正規職員のうち1000人程度は民間から外部採用することとされた。
b 機構の職員採用基準が適正であったこと
機構法においては,社保庁職員について職員承継規定を設けず,かつ,機構の採用基準においては懲戒処分歴のある社保庁職員は機構の職員として採用されないこととされた。
これは,国民の信頼に応えることができる組織とするためには,独自の人事制度及び人事方針の下で,勤務成績等に基づき公正な採用が行われる仕組みを設けることが求められ,社保庁職員を機構に漫然と移行させない措置を講ずるべきであるとする立法政策が採用された結果であり,また,社保庁職員の懲戒処分等により国民の公的年金制度への信頼が損なわれていったという事情に照らせば,国民の信頼回復を図るためには,懲戒処分歴のある社保庁職員を機構の職員として採用しないという採用基準を設けたことも,公的年金制度に対する国民の信頼を回復するという上記の立法目的を達成するために必要かつ合理的な措置であった。
c 本件基本計画の内容が不合理でないこと
本件基本計画において前記bのとおり採用基準を設けることは,公的年金制度に対する国民の信頼を回復するという目的を達成するための必要かつ合理的な措置であり,前記aのとおり,外部採用するとしたことも最終整理の判断と合致しており何ら不合理ではない。
d 協会における追加採用が分限免職処分回避のために活用されたこと
平成20年10月1日の協会の設立そのものは,平成19年6月の機構法の成立を前提としたものではなく,協会設立時の職員である1800人の採用も,機構法の成立や平成20年7月の本件基本計画を前提としたものではなかったが,その後,雇用保険法改正法による船員保険法の改正により,船員保険事業についても協会が行うこととなったことに伴い,新たに協会において職員の追加採用を行うことになり,この追加採用も,社保庁職員の分限免職処分を回避する措置として機能した。
e 協会の職員採用枠が適正であったこと
協会の職員採用枠は,健康保険改正法の趣旨等に従って,合理化,効率化の観点から設定されたものであり,適正である。
f 協会の採用基準が適正であったこと
協会の追加募集に当たっては,平成20年7月の機構に係る本件基本計画を受け,懲戒処分歴を有する者を採用しないこととし,追加募集に当たっては,社保庁長官が名簿を作成する際にも懲戒処分歴がある者は名簿に登載されなかった。この措置は,機構と同様に従来社保庁が担っていた業務を新たに担うこととなった協会においても,業務に対する国民の信頼を回復する観点から,懲戒処分歴がある社保庁職員を採用しないこととしたものであり,必要かつ合理的な措置である。
g 厚労省への転任
社保庁は,厚労省の外局であり,社保庁長官には厚労省職員に対する任命権がない(機構法による改正前の厚生労働省設置法25条1項,国公法55条1項)ため,転任を含めた厚労省の人事は,任命権者である厚労大臣及びその委任を受けた厚生(支)局長の権限であり,社保庁長官及び本件任命権者において社保庁職員を厚労省へ転任させることによって分限免職処分を回避する努力を尽くすには,厚労省の任命権者である厚労大臣等の協力を必要とした。
厚労省への転任については,法令に定める定員等の枠内において,かつ,業務内容に応じた人員確保という合理的な数の範囲内で,可能な限りの社保庁職員を転任すべく転任数が定められたものであり,このような転任数の設定は適正なものであった。
社保庁職員の厚労省への転任については,転任数の範囲内で,平等かつ公正な基準により,6017人の希望者(対象職員)の中から一定数(転任数である1284人)の者について,書類審査及び面接審査の結果を総合的に勘案し,組織における転任予定数,転任先の職務の内容に基づき,平等かつ公正にその可否を判断したものであり,級別定数の関係上,特定の職務の級の定員枠が確保できず,面接評価のいかんにかかわらず厚労省への転任候補者として選定され得なかった職員は存在したし,同一の地方厚生局等の同一の職務級の中で,面接評価が上位の者が転任の内定を得られず,下位の者が内定を得ている場合もあるが,これらは人事政策上又は人事配置の観点から選定が行われた結果であり,選定が不平等又は不合理であったことを示すものではない。
原告らは,懲戒処分歴のある職員を機構に採用しないという採用基準が閣議決定された状況下で,分限免職を回避するには,年金機構に移行できる職員をできるだけ移行させた後に,厚労省への転任手続を行うべきであったと主張するが,社保庁職員は,職員意向調査において,機構への採用希望及び厚労省への転任希望の意向を表明することにより,両方の手続の対象となることが可能であったから,機構への採用手続を先行させたとしても,両手続を同時に行ったとしても,分限免職処分対象者数に影響はない。準備調査票及び職員意向調査票にも,厚労省へ転任を希望しても認められることが保障されていないことは明記してあり,それでも多くの職員が厚労省への転任を希望した。また,懲戒処分を受けた社保庁職員をその他の職員に優先して転任させれば,かえって不公正な事態が生じることとなり相当でない。
h 雇用調整本部による調整がされなかったことについて
雇用調整本部による調整は,国の行政機関の定員の純減を図る観点から,全府省を対象として,定員の純減及び公務部門への職員の転任を段階的に行うものである。一方,社保庁職員の分限免職処分を回避するための取組は,本件基本計画に基づき,社保庁という組織の廃止を目的とするものであって,その趣旨,目的を異にするものであり,社保庁の廃止に伴い,雇用調整本部による転任の取組が用いられなかったとしても,分限免職回避努力義務違反とはならない。
ウ 人選の合理性の有無
(ア) 人選の合理性について
機構等への採用や厚労省への転任は,それぞれの組織における採用基準等により,各組織において,いかなる人物を採用するかが問題となるのであって,分限免職対象者を選定する場面ではない上,機構等への採用や厚労省その他の府省への転任は,いずれも本件任命権者の権限の及ぶところではない。
機構等への採用に当たっては,それぞれの設立委員会が適正な採用基準に基づいて採用し,また,厚労省への転任に当たっては,厚労省において,書類審査及び面接審査の結果を総合的に勘案し,組織における転任予定数,転任先の職務の内容等に基づき,平等かつ公平にその可否を判断したものであるから,その選定は人事院規則11-4第7条4項の趣旨に反するものではない。
国公法58条1項は,平成19年7月6日法律第108号による改正で設けられた規定であり,「職員の昇任及び転任(職員の幹部職への任命に該当するものを除く。)は,任命権者が,職員の人事評価に基づき,任命しようとする官職の属する職制上の段階の標準的な官職に係る標準職務遂行能力及び当該任命しようとする官職についての適性を有すると認められる者の中から行うものとする。」と定めているが,同条にいう「人事評価」とは,従来の勤務成績の評定(上記改正前国公法72条)に代えて導入された人事評価制度(国公法18条の2第1項)を指すところ,改正によって従前の勤務評定を人事評価制度上の資料として扱うことができなくなってしまうため,平成21年4月1日の施行日から3年間は,転任を含む任用の手続中「人事評価」とあるのを「人事評価又はその他の能力の実証」と読み替えることとされていた(平成19年7月6日法律第108号附則8条1項)。なお,社保庁においては,国公法18条の2第1項に基づく人事評価制度が実施される前の平成18年4月24日以降,組織改革の一環として,同庁長官が定めた「社保庁人事評価制度実施規程」(乙A98)に基づく独自の人事評価制度が実施されていたが,社保庁が組織改革の一環として他の府省庁に先行して独自に実施したもので,国公法の改正により導入された人事評価制度とは異なるものである。厚労省への転任候補者の選考は,「その他の能力の実証」に基づいて実施され,「被面接者の人柄,性向等について評定し,転任者が就くことが予想されている官職への適否を判定することを目的」(乙A38の2枚目)として書類審査及び面接審査が行われ,当該書類審査及び面接審査の結果を総合的に勘案し,組織における転任予定数,転任先の職務の内容に基づき,平等かつ公平にその可否が判断された。職員の転任は,上位でも下位でもない職制上の段階に属する官職間の異動であるため(国公法34条1項2号ないし4号参照),昇任の場合のように能力評価又は業績評価の全体評語は要件として課されず(人事院規則8-12第25条),人事評価又はその他の能力の実証の結果に基づき,官職に係る標準職務遂行能力(国公法34条1項5号)及び適性を有すると認められる者の中から,人事の計画その他の事情を考慮した上で,最も適任と認められる者について行うことができるとされていた(国公法58条1項,人事院規則8-12第26条2項)のであるから,人事評価の順位に従って転任させることは求められておらず,厚労省の転任手続において,社保庁人事評価における全体評語の重要度は低く,相対的に,厚労省における面接による業務の適性等の確認が重視されることとなったが,選定の判断手法として何ら不合理ではない。
(イ) 原告らの個別事情について
原告らは,本件各処分の実質的な根拠は,冤罪又は過失により課された懲戒処分にあったと主張するが,本件各処分は国公法78条4号に基づいて行われたものであって,原告らの業務目的外閲覧を理由とする懲戒処分を理由とするものではないから,同事情は本件各処分の違法を基礎づける事由にはならない。
また,原告らは,原告らの社保庁での高い勤務実績や人事評価が考慮されなかったと主張するが,機構の採用や厚労省への転任等は,当該各組織における採用基準等に基づいて行われたものであって本件任命権者の権限の及ぶところではないし,機構の採用及び厚労省への転任に当たっては,いずれも平等かつ公平に採用の可否が判断されている。
エ 誠実な説明・協議義務等の履行の有無
(ア) 国家公務員に対する分限免職処分については,行政手続法の適用はなく(同法3条1項9号),国公法上も,分限免職処分を行うに当たっての事前手続としては,人事院に対して不服申立てをすることができる旨及び不服申立期間を記載した処分説明書を交付することとされているのみであり(同法89条),告知及び聴聞の機会の付与はその手続的要件とされていない。
(イ) そして,本件処分に至る過程では,本件の一連の分限免職処分を受けた525人を含め,社保庁職員に対して,必要な都度,各種の情報提供が行われるとともに,複数回にわたりその再就職又は退職に関する意向調査や必要な説明等が行われている。
(ウ) したがって,社保庁職員らに対する説明及び協議が不十分であったとはいえない。
オ まとめ
以上によれば,本件各処分については,任命権者による裁量権の逸脱,濫用は認められないから,いずれも適法である。
(3) 争点3(本件各処分が国賠法の適用上違法となるか)について
(原告らの主張)
原告らは,国民のためを思って,また,当局の期待に応えて,自分と家族を犠牲にして過酷な業務をこなし働き,いずれも社保庁で高い評価を受けていた。それにもかかわらず,前記主張のとおり,違法不当な本件各処分により,一方的かつ理不尽に職を奪われた。また,被告国と勤務関係にある原告らに対する本件各処分は,平等原則,公正・公平原則,分限免職回避努力義務,分限免職対象者の公正な選定義務,誠実な協議義務など,公務員の勤務関係に付随して生じる国及び任命権者の各義務に違反するものである。
本件各処分により,原告らは重大な精神的苦痛を被ったところ,これを慰謝するための慰謝料としては,一人当たり300万円を下らない。加えて,弁護士費用として,上記300万円の1割に相当する30万円が相当因果関係のある損害として認められる。
よって,原告らは,被告に対し,国賠法1条ないし債務不履行責任に基づく損害賠償として,各330万円の支払を求める。
(被告の主張)
ア 本件各処分は適法であるから,国賠法1条1項の適用上違法となることはない。
イ 原告らの損害については争う。
(4) 争点4(消滅時効の成否)について
(被告の主張)
本件各処分の効力発生日は平成21年12月31日であり,原告らは,同日に損害及び加害者を認識したと認められるから,仮に原告らに国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権が発生しているとしても,本件訴訟の提起までに3年が経過したことにより,同請求権はいずれも既に時効消滅している(国賠法4条,民法724条後段)。
(原告らの主張)
被告による消滅時効の主張は失当である。
ア 消滅時効の起算点である「損害及び加害者を知った時」とは,「被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれらを知った時を意味する」と解されているところ,本件においては,審査請求が先行しており,原告らが,審査請求が認められないことを前提とする損害賠償請求をすることは,審査請求中は期待することができないものであった。
よって,時効の起算点は,人事院の判定時とすべきである。
イ 原告らは,人事院に審査請求をして権利行使をしているので,権利の上に眠る者には当たらないし,人事院審理の過程で本件各処分の過程における証拠は収集されており,証拠散逸もしていない。人事院審理と並行して訴訟を行うことは,費用も労力もかかるものであり,人事院審理が早期に終結すれば訴訟に移行することもできたが,人事院の度重なる求釈明によって,処分者が五月雨式に資料を提出してきたため,審理が長期化したのであり,その責任は処分者の属する被告にある。さらに,被告は,自民党の政治介入のもとで,国家公務員の身分保障の原則に反して意図的に分限免職者を作り出し,分限免職回避を故意に怠るなど,行政の中立性の原則をも侵害し,年金事業を混乱させて国民の年金受給権まで危うくしている。
よって,強大な力を持つ被告が,単に時間が経過したとの一事をもって損害賠償を免れることは,著しく正義に反するから,被告による消滅時効の援用は,権利濫用として認められない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(国公法78条4号の要件該当性)について
(1) 前記前提事実のとおり,原告らは,社保庁職員であったところ,機構法附則70条及び72条による国家行政組織法及び厚生労働省設置法の改正によって社保庁が廃止されたことに伴い,社保庁の全ての官職が廃止されたため,本件各処分を受けたものであることが認められる。
したがって,本件各処分は,官制の改廃により廃職が生じた場合においてされたものであるから,国公法78条4号の要件を満たすものというべきである。
(2) これに対し,原告らは,憲法や国公法が国家公務員の身分保障を定めている趣旨からすれば,国公法78条4号は,当該公務員の担当していた職務そのものが廃止あるいは縮小され,現存の職員数に比して業務量が減少した結果,実質的な「人員削減の必要性」が認められる場合を指すところ,社保庁の廃止後は機構が年金業務を承継しているため,同号の要件を満たさないと主張する。
ア そこで検討するに,本件においては,原告らが主張するとおり,社保庁が所掌していた政府管掌年金事業等を,社保庁廃止後は機構等が担っており,公的性格を有する同事業等そのものは存続しているといえる。
イ しかし,国民主権原理を採用する憲法は,行政の民主的統制の観点から,行政が担うべき事務の範囲及び内閣の下に置かれる行政組織の仕組みについて,国権の最高機関たる国会の立法により定めるべきものとしていると解され(同法1条,66条1項,73条4号参照),それを担う公務員についても,全体の奉仕者であると定めた上で,国民がその選定罷免権を有すると定めている(同法15条1項,2項)。そして,それを受けて国家行政組織法は,内閣府以外の国の行政機関の組織を法律で定めるものとし(同法3条),行政機関の職員の定員に関する法律で常勤の職員の定員の総数の最高限度を定めた上,定員については政令に委任し,国公法は,前記のとおり,行政組織の変動に応じて国家公務員を分限免職処分することができると定めている(同法78条4号)。
そうすると,公的業務を国の行政機関及び国家公務員に担わせるか,それ以外の者に担わせるかについても,国会の立法により定められるべきものと解されるのであり,それに伴って,本件のように,従前は行政機関が担っていた公的業務を国家公務員以外の組織に担わせることとした結果「廃職又は過員」が生じることは,法の予定するところであるといえるから,当該業務を職務としていた官職が廃止されることになる以上は,「廃職」が生じた場合に当たるというべきである。
国家公務員は,国公法において制度上整備された身分保障を受けているものの,同法は,前記のとおり,行政組織の変動に関しては,廃職又は過員が生じた場合に限り分限免職処分をするという限度で国家公務員の身分保障をしているにとどまるものであると解され,国公法等に基づく国家公務員の身分保障の趣旨は,分限免職処分をする任命権者の裁量権の行使の違法性を判断するに当たり考慮されるべきものである。
ウ 以上より,原告らの上記主張は採用することができない。
2 争点2(本件各処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)について
(1) 判断の枠組み(争点2ア)について
ア 国公法78条所定の分限制度は,公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の観点と,公務員の身分保障との調和を図り,任命権者に処分権限を与える一方,これを発動し得る場合を限定したものと解される。また,同条の文言及びその趣旨に照らし,任命権者に対し,同条4号に規定する事由が存在する場合においても,分限免職処分をするか否かについての裁量権を認めているものと解される。
もっとも,本件においては,前記のとおり,国公法78条4号の「廃職」の要件を満たすこととなるから,同号に基づく分限免職処分をすることができるのが原則である。しかし,国公法78条4号に基づく分限免職処分は,被処分者には何ら責めに帰すべき事由がないにもかかわらず,その意思に反して免職という重大な不利益を課すものであるから,他省庁への転任や機構等への採用など,就職の機会を提供する合理的な努力(分限免職回避努力義務)が尽くされなかったにもかかわらず,処分者である本件任命権者等が,同号に基づく処分をした場合には,当該処分は,任命権者が有する裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして,違法であるというべきである。
また,国公法78条4号に基づく処分に当たっては,同法27条,74条1項及び108条の7並びに人事院規則11-4第2条及び第7条4項に基づき,平等取扱原則,公正原則及び不利益取扱いの禁止に違反してはならず,これらに反して分限免職処分が行われた場合にも,当該処分は,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるというべきである。
イ これに対し,原告らは,国公法78条4号に基づく分限免職処分は,組織の縮小や廃止等に伴い,個々の労働者に何らの帰責事由が存在しないにもかかわらず,その意に反して離職させる点において,民間における整理解雇と共通しているから,最低でも,民間における整理解雇4要件と同様の要件,すなわち①実質的に人員削減の必要性があること,②分限免職回避努力義務が尽くされたこと,③対象者の人選が公平・公正で合理的な基準に基づきなされたこと,④本人への説明と労働組合との協議が尽くされていることを満たすべきである旨主張する。
しかし,いわゆる整理解雇4要件は,私人間の労働契約関係において,使用者による一方的な解雇権の行使を制限するために認められてきた解雇権濫用法理(労働契約法16条)にその基礎を有するものであるのに対し,国公法に基づく任用関係にある国家公務員については,その身分保障の見地から,分限免職処分をする場合の要件や手続が国公法及び人事院規則に定められており,「職員の免職は,法律に定める事由に基づいてこれを行わなければならない」とされている(国公法33条2項)から,類推の基礎を欠いており,同様に解することはできないというべきである。
よって,原告らの主張は採用できない。
(2) 分限免職回避努力義務の主体(争点2イ(ア))について
ア 前記(1)のとおり,国公法78条4項に基づく分限免職処分に当たり,任命権者が,分限免職回避努力義務を尽くさずに,同処分をした場合には,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるというべきところ,本件分限免職処分について,その処分権限を有する社会保険庁長官等が分限免職回避努力義務を負っていたことは明らかであり,当事者間に争いがない。
イ また,本件においては,前記前提事実のとおり,社保庁は厚労省の外局で,社保庁長官の任命権は厚労大臣に属しており(国公法55条1項ただし書),厚労大臣は,分限免職回避努力義務を履行するべき社保庁長官等に対し指揮命令を及ぼす関係にあるといえる。そして,再生会議が取りまとめた最終整理においては,「厚生労働省及び任命権者である社会保険庁長官は,退職勧奨,厚生労働省への配置転換など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行うべきである。また,官民人材交流センターの活用も図るべきである。」とされ,厚労省を主体として分限免職回避努力義務を定めているところ,最終整理を踏まえて閣議決定された本件基本計画においても「退職勧奨,厚生労働省への配置転換,官民人材交流センターの活用など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行う。」として厚労省への転任という厚労省,すなわちその長である厚労大臣を主体とする具体的義務が定められていることに照らすと,厚労大臣は,社保庁長官等とともに本件において分限免職回避努力義務を負うというべきである。
被告は,社保庁の職員に対する任命権(処分権)は,社保庁長官等に独立的かつ終局的に帰属するのであるから,社保庁長官等のみが分限免職回避努力義務を負うと主張するが,国公法55条1項は,その任命権(処分権)が及ぶ範囲をその部内の官職に限られるものとすることを明らかにしたにすぎず,任命権者の処分について裁量権の逸脱又は濫用の有無を判断するに当たり,任命権者のなしうる行為のみに限定したものではないから,社保庁長官等以外は分限回避努力義務の主体となり得ないとの被告の主張は採用できない。
ウ(ア) 原告らは,国家公務員の使用者は国であり,特別な社会的接触関係に入った当事者として,信義則上,分限免職回避努力義務を負うし,また,閣議決定により,本件基本計画において,「機構に採用されない職員については,退職勧奨,厚生労働省への配置転換,官民人材交流センターの活用など,分限免職回避に向けてできる限りの努力を行う」と定めたのであるから,内閣が分限免職回避努力義務を負うことは明らかであると主張する。
しかし,国公法は,国家公務員の勤務関係の発生根拠となる任命権を終局的かつ独立的に各府省の長に与えており(国公法55条1項),分限免職処分についても,それぞれの任命権者が処分権限を有する(同法61条,78条)のであって,内閣が処分権限を有するものではない。
そして,本件基本計画は,上記国公法その他の分限処分に関する法令の定めを変更する効力までを有するものではなく,国(内閣)の直接的・具体的な分限免職回避努力義務についての定めはないから,国(内閣)は,厚労大臣及び社保庁長官等が本件基本計画に定められた分限免職回避努力義務を履行する際に,間接的に努力すべきであるとはいえるものの,社保庁長官等が任命権及び処分権を有する社保庁の職員について分限免職回避努力義務を負うとはいえない。
よって,原告の上記主張は採用できない。
(イ) また,原告らは,これまで,国公法78条4号の発動が問題となるような国家公務員の純減の際には,政府(内閣)全体として,分限免職回避努力義務を果たしてきたのであるから,本件の社保庁廃止に当たっても,分限免職回避努力義務を負い,社保庁職員に対しては省庁間転任の枠組みを活用しないことは国公法27条の平等取扱原則にも反すると主張するが,日本国有鉄道の解体や行政改革推進法に基づく国家公務員の純減の際に,政府全体の取組として,省庁間での転任等を行ってきたとしても,分限免職回避努力義務の主体や内容は,その時々の個別具体的な事情によって異なるべきものであるところ,日本国有鉄道の解体や行政改革推進法に基づく国家公務員の純減とは根拠法令や背景事情の異なる社保庁廃止においても内閣全体が直ちに分限免職回避努力義務を負うということはできないし,本件につき省庁間転任の枠組みを活用しなかったことから,直ちに平等取扱原則に反するとはいえないので,原告らの主張は採用できない。
(ウ) さらに,原告らは,仮に任命権者のみが分限免職回避努力義務を負うとすると,回避のためにできることはほとんどないし,転任の可能な単位が小さい行政機関の職員ほど,分限免職回避措置が取られないことになり,不平等であると主張するが,国公法は,任命権者が有する法律上の権限の大小にかかわりなく,任命権者に対して同法78条4号に基づく分限免職処分をする権限を与えているところ,当該任命権者が法律上採り得る分限免職回避措置が限定されていることを根拠に,直ちに分限免職回避努力義務を内閣全体に及ぼすことができると解することは困難である。
(エ) よって,原告らの主張は採用することができない。
(3) 認定事実
以上を踏まえ,本件各処分について分限回避努力義務が尽くされたかどうかを検討するに,第2の2記載の前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せれば,以下の事実を認めることができる。
ア 社保庁長官による取組
(ア) 機構等への採用
a 平成20年10月から同年11月にかけて,社保庁は,厚労省と共同して,社保庁職員全員に対し,厚労省への転任及び機構への採用等の希望を把握するため,準備調査票に基づいて意向準備調査を実施した(乙A31,前提事実)。
準備調査票においては,現時点における意向について,第1希望から第3希望までを,「1.厚生労働本省(内部部局,地方厚生(支)局等)」,「2.日本年金機構」,「3.退職予定」の3つから選ぶことになっている。ただし,第3希望は任意である(乙A31の5,6枚目)。
b 社保庁長官は,平成20年12月24日,地方社会保険事務局長に対し,機構設立委員会が同月22日に定めた本件採用基準等について,社保庁職員全員に配布し周知するよう通知した(乙A10の1,A11の1)。また,社保庁長官は,同月26日,地方社会保険事務局長に対し,協会設立委員会が同月25日に定めた改正協会採用基準について,社保庁職員全員に配布し周知するよう通知した(乙A33の1,A34)。
同月24日及び26日,社保庁は,地方社会保険事務局長に対し,職員への周知は,年内に職員に資料を配布して行うこと,本件採用基準及び改正協会採用基準は社保庁LAN掲示板にも掲載してあること又は掲載予定であることを通知し,平成21年1月9日に全国社会保険事務局長等事務打合せ(以下「本件事務打合せ」という。)を開催する旨連絡した。
同日の本件事務打合せにおいては,本件各採用基準及び職員意向調査の実施について説明が行われ,協会の職員の募集及び厚労省への転任に係る説明も行われた。厚労省への転任については,厚労省を第1希望とする者から,書類審査,面接審査の結果等を総合的に勘案し,審査した上で決定する旨が説明された(乙A12,弁論の全趣旨)。
c 平成21年1月,社保庁は,社保庁職員全員に対し,機構等への採用の募集に係る職員の意思を確認するため,意向調査票に基づいて本件意向調査を実施した(乙A13)。
意向調査票においては,機構への採用及び協会への採用を希望するかについて記入する欄があり,いずれも「×」印を記入した場合には,「1.厚生労働省等への転任」,「2.定年退職」,「3.自己都合退職」,「4.整理退職」,「5.勧奨があれば応じたい」という選択肢から選択することになっている(複数選択可)。また,準備調査票における転任希望順位と変更がある場合は,変更を記入することになっている(乙A13の4,5枚目)。
d 平成21年2月16日,社保庁長官は,本件意向調査の結果を踏まえて,機構職員となることを希望した者の中から,本件採用基準に従い,機構職員となるべき者1万1118人を選定し,機構設立委員会に対して名簿を提出した(乙A14,15)。同年5月19日,採用審査会は,上記名簿及び提出書類の審査を行った上で,面接をすることが必要と判断した者の面接審査を行い,機構職員としての採否を機構設立委員会に報告した。機構設立委員会は,報告を受けて,名簿に登載された1万1118人のうち,正規職員として9613人,准職員として358人の採用を内定し,28人を不採用,残りの1119人を保留等とした(乙A15,A107,前提事実)。
また,同年2月16日,社保庁長官は,本件意向調査の結果及び人事記録に基づき,協会職員となることを希望した者3077人の中から,懲戒処分歴保有者6人を改正協会採用基準に合致しないとして除外し,協会職員となるべき者3071人を選定し,協会に対して名簿を提出した(乙A35,前提事実)。協会は,このうち45人について採用を内定した(乙A36の1)。
e 平成21年5月19日,機構設立委員会は,准職員が採用予定者数の1400人程度を大きく割り込んだため,社保庁長官を通じて,本件採用基準等を示し,1次追加募集を行った(乙A16,48)。
同年10月8日,機構設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,社保庁職員から准職員の1次追加募集に応じた160人について,准職員として154人の採用を内定し,6人を不採用とした(乙A18)。
また,同日,健康状態を理由として採否を留保していた社保庁職員161人について,機構の正規職員として59人,准職員として78人の採用を内定し,24人を不採用とした(乙A18,前提事実)。
社保庁は,同年6月24日,機構等への採用が内定した職員に対し,採用の内定について同月25日に伝達することとした(乙A36の2)。
f 平成21年12月1日,機構設立委員会は,社保庁長官を通じて本件採用基準を示し,准職員の2次追加募集を行った(乙A20)。
同月17日,機構設立委員会は,採用審査会からの報告を受け,機構の2次追加募集に応じた61人について,准職員として60人の採用を内定し,1人を不採用とした(乙A21)。
g 上記の経緯による機構職員の内定者は,正規職員1万0799人,准職員1620人であり,そのうち,社保庁職員からの内定者は1万0322人(正規職員9672人及び準職員650人)であった(前提事実)。
(イ) 厚労省への転任要請
a 平成21年1月9日,社保庁総務部総務課長は,厚労省大臣官房人事課長に対し,本件基本計画において,不採用職員につき分限免職を回避するための努力を尽くす必要があるとされており,平成22年1月以降の厚労省の新体制下での業務を円滑に行うためには,経験や専門性を持った職員が厚労省及び機構にバランスよく配置される必要があるとして,社保庁から厚労省に転任する職員等の選考に当たっては,これまで職員が培った経験,勤務実績,職員との面談結果等を踏まえて,総合的な判断の下,積極的に採用するとの立場から選定するよう依頼するとともに,厚労省における職員の新規採用及び欠員補充に当たっては,不採用職員からの転任等について検討することも依頼した(乙A37)。
平成21年1月9日に行われた本件事務打合せにおいて,厚労省は,厚労省への転任については,厚労省を第1希望とする者から,書類審査,面接審査の結果等を総合的に勘案し,審査した上で決定する旨を説明し,その後,各地方社会保険事務局長や総務課長等の管理者から,社保庁職員に対して同様の説明が行われた(乙A83の2頁,4頁,弁論の全趣旨)。
b 本件意向調査において,厚労省への転任を第1希望とした6017人の社保庁職員については,厚労省において選考のための面接審査が行われた(乙A38,A82,弁論の全趣旨)。平成21年5月18日,厚労省は1216人の社保庁職員に対して転任の内定をし,社保庁は,同年6月24日,同月25日に内定を受けた社保庁職員にその旨を伝達することとした。その後合計83人について追加の内定があったため,社保庁は内定を受けた職員に対し転任の内定を伝達した(乙A36の2,A84の10頁)。
最終的には,15人が辞退し,1284人の社保庁職員が厚労省転任の内定を受けた。
(ウ) 地方再就職支援室の設置等
平成21年6月24日,社保庁は,機構等への採用内定者及び厚労省への転任予定者が内定した結果,いずれの組織へも採用あるいは転任できない可能性のある職員(以下「支援対象職員」という。)は,同年12月末時点で国公法78条4号の規定による分限免職となる可能性があることから,これを回避するための取組を行う再就職支援対策本部を設置し,同本部の下に,本庁には社会保険庁職員再就職等支援室(以下「再就職支援室」という。)を,各地方社会保険事務局には地方社会保険事務局職員再就職等支援室(以下「地方再就職支援室」という。)を設置することとした(乙A30の1,30の2)。
(エ) 他府省への転任要請
a 平成21年7月8日,厚労省人事課長は,各府省人事管理官会議幹事会において,各府省の人事担当課長等に対し,支援対象職員の転任による受入れについて協力を要請した(甲A74の24頁,弁論の全趣旨)。
同月9日以降同年8月にかけて,社保庁総務部総務課長は,支援対象職員の他府省への転任を実現するため,全府省の人事担当課長を往訪し,社保庁長官名義の要請書に基づき,各府省の事務次官等に対し,支援対象職員の受入れを要請した(甲A74の23~24頁,乙A41,A42の1別紙4)。
b また,社保庁は,各都道府県に所在する各府省の地方支分部局等に対しても直接受入要請を実施するため,各府省の人事当局に対し,各府省の地方支分部局等への要請の可否を確認し,各府省の地方支分部局等において採用権限を有し,職員の転任に係る要請を行うことについて本省の了解を得られた地方支分部局等に対して受入れを要請することとした。そして,平成21年8月11日及び同月31日,再就職支援室は,地方再就職支援室に対し,受入要請を受諾した各府省の地方支分部局等に,直接受入れを要請するよう連絡した(乙A42の1及び2)。
c 上記の受入要請の結果,金融庁及び公正取引委員会から受入要請に応じる旨の回答があったが,その他の府省(厚労省を除く。)からは,回答がなかった。
金融庁には1人の転任が内定し,公正取引委員会には8人の転任が内定した(前提事実)。
(オ) 雇用調整本部の活用の打診
a 平成18年12月,与党協議会が社保庁を廃止することなどを内容とする「社会保険庁改革の推進について」(乙A4)を取りまとめた後の平成19年1月,社保庁は,厚労省と共に,雇用調整本部に対して,社保庁の廃止に伴う社保庁職員の転任について,同本部の枠組みを活用するよう要請した。
これに対し,雇用調整本部からは,雇用調整本部の仕組みは,平成18年6月の閣議決定に基づく「国家公務員の配置転換,採用抑制等に関する全体計画」(乙A44の1)の中で位置づけられたものであり,社保庁については対象となっていないため,活用することは不可能である旨の回答があった(乙A84の2~4頁,A106の5~6頁)。
b 平成20年7月29日に,懲戒処分を受けた職員は機構に採用されないこと等を内容とする本件基本計画(乙A8)が閣議決定された後,同年10月に厚労省が,同年11月には社保庁と厚労省が,雇用調整本部に対し,再度雇用調整本部の仕組みを活用することを要請するとともに,平成22年度における同本部による厚労省に対する転任の受入れを免除してほしいと依頼した。
しかし,同本部は,厚労省だからという理由で厚労省の受入人数を減らすことはできないし,同本部の仕組みは社保庁職員には適用できないと回答した(乙A84の3~4頁,A106の7~8頁)。
(カ) 地方公共団体への採用要請
平成21年7月3日,社保庁は,各都道府県知事,全国知事会,各市区町村長,全国市長会,全国町村会に対して,各地方公共団体において欠員補充等のため採用予定がある場合などには,社保庁職員の採用について検討してほしいと要請し,同日,地方社会保険事務局に対しても,地方公共団体に要請を行うよう連絡した(乙A45)。
(キ) 官民人材交流センターの活用
a 平成20年12月31日以降,各府省による職員の再就職のあっせんが禁止され(国公法106条の2第1項),国家公務員の再就職支援については,内閣府に設置された官民人材交流センターが一元的に行うことになった(同法18条の5から7)。
b 再就職支援室は,支援対象職員の再就職のため,官民人材交流センターを活用することとし,地方再就職支援室に対して,支援対象職員の基本情報を入力し,同職員の意向を踏まえた上で,人材情報及び再就職希望情報を登録するよう通知し,地方社会保険事務局は,支援対象職員に対して登録をするように説明した(乙A32の1)。
c また,社保庁は,関係団体等に官民人材交流センターを紹介し,求人情報の登録を求めた(乙A32の1)。
d 支援対象職員のうち,348人が官民人材交流センターによる支援を受け,108人が同センターのあっせんにより再就職した(乙A46の3)。
(ク) ハローワークの活用
平成21年7月3日,社保庁は,厚労省の職業安定局総務課長に対し,社保庁職員がハローワークを活用した求職活動を行うに際し必要な支援を行うための協力を要請し,同月10日,厚労省は,各都道府県労働局長に対し,社保庁職員の求職活動について支援を行うよう通知した。
同月13日,再就職支援室は,地方再就職支援室に対し,上記の通知が発出されたことを通知した(乙A47)。
(ケ) 厚労省非常勤職員の採用
平成21年12月8日,再就職支援室は,地方再就職支援室に対し,厚労省及び地方厚生(支)局において,約200人から250人の非常勤職員を公募していることを支援対象職員に通知するよう連絡した(乙A49の1,A49の2)。
支援対象職員のうち,192人が上記非常勤職員の募集に応募し,152人が採用された(乙A36の1)。
(コ) 退職勧奨の活用
平成21年6月24日,社保庁は,地方社会保険事務局に対し,支援対象職員の再就職活動を支援するため,支援対象職員から勧奨があれば応じたい旨の意思表示がある場合には,支援対象職員の勤続年数にかかわらず,勧奨による退職を認めることを通知した(乙A30の1)。
同年12月7日以降,社保庁は,地方社会保険事務局に対して,支援対象職員に退職勧奨をした上で,勧奨に応じて退職するか,分限免職処分を受けて退職するか,自己都合で退職するかの意思を確認するよう連絡した(乙A50の1)。
最終的に,631人が勧奨退職し,3人が自己都合で退職し,525人が分限免職処分を受けた。なお,分限免職処分を受けた525人のうち,401人は,退職手当が割増しされる制度の適用を受けることを希望し,分限免職処分を受けた(乙A36の1)。
(サ) 職員団体との協議(乙A77)
社保庁長官や社保庁総務部長等は,社保庁の廃止に当たり,h労働組合との間で,平成18年1月20日,同年12月22日,平成19年12月19日,平成20年9月12日,平成21年6月17日,同年11月24日に,厚労省への転任や官民人材交流センターの活用など,分限免職回避措置や,分限免職一般に関する事項について,協議を行った。
また,i労働組合との間で,平成19年12月27日,平成20年10月24日,平成21年6月19日,同年10月26日,同様に協議を行った。
イ 本件任命権者による取組
(ア) 地方再就職支援室の設置
本件任命権者は,平成21年6月24日,a事務局において本件支援室を設置した(甲B4,乙B6,証人I・6頁)。
同日時点で,a事務局における支援対象職員は17人であり,懲戒処分歴のある職員は9人であった。なお,同年12月28日時点で,勧奨に応じて退職する者は6人,分限免職を受ける者は11人であった(甲B6,証人I・20頁)。
(イ) 他府省への転任の要請
平成21年8月11日,社保庁から,各府省の地方支分部局等に対して転任の要請を行うよう指示があり,本件任命権者は,秋田地方法務局,秋田刑務所,秋田少年鑑別所,秋田保護観察所に対して,社保庁が示した要請文のモデルを参考に作成した要請文を持参して,直接職員の転任による受入れを要請した。なお,各府省の地方支分部局については,仙台にあるため,e社会保険事務局長が受入要請をすることとされていた(乙A42の1,B6,証人I・8~10頁)。
また,これに先立ち,本件任命権者は,秋田労働局及び秋田行政評価事務所に対しても,職員の転任による受入れを要請した(乙B6,証人I・9頁)。
(ウ) 地方公共団体等への採用要請
本件任命権者は,社保庁から地方公共団体への採用要請を行うよう連絡を受けて,平成21年7月16日から同年12月1日にかけて,秋田県内の地方公共団体に対して社保庁職員の採用を要請した(乙A73)。
本件任命権者は,秋田県庁,秋田県市長会,秋田県町村会,秋田県内の各市を訪問し,社保庁が示した要請文のモデルを参考に作成した要請文と支援対象職員の履歴書を持参して,職員の受入れを要請したが,いずれの訪問先においても,非常に厳しい状況であるという説明を受けた(乙A73,証人I・10頁)。
(エ) 官民人材交流センターの活用
本件任命権者は,官民人材交流センターへの企業登録の開拓を図るため,秋田県商工会連合会,秋田社会保険委員会連合会,秋田県中小企業団体中央会,社会福祉協議会,秋田県市町村職員共済組合,秋田県国民健康保険団体連合会,日本赤十字社秋田県支部,独立行政法人国立病院機構あきた病院及び各地区社会保険委員会等の民間企業法人等を訪問した(乙B6,証人I・12頁)。
また,支援対象職員に対しては,官民人材交流センターへ登録をするように説明した(乙A32の1,証人I・12頁)。
ウ 厚労大臣による取組
(ア) 定員枠の確保
厚労省は,新たに年金業務の一部を行うための平成21年度措置により706人の増員が認められ,このうち598人について,社保庁職員を転任により受け入れた(乙A40)。残る108人の定員については,国家公務員試験のⅠ種試験合格者を配属したり,厚労省や社保庁以外の省庁から総務省の年金記録確認業務を取り扱う第三者委員会に出向させるためのポストに充てる分として用いられた(乙A84の6頁)。
また,厚労省の既定定員のうち,本省内部部局の実施業務,保険医療指導監査業務等については,既定の570人の定員が社保庁職員を転任させるため用いられた(乙A40)。さらに,厚労省は,退職者の不補充や新規採用の抑制によって,116人分の定員を確保した。
以上により,厚労省は,社保庁の廃止に伴い,1284人の社保庁職員を転任により受け入れた(乙A40)。
(イ) 厚労省への転任
a 平成21年1月1日,厚労省は,社保庁の廃止に伴い厚労省及び地方厚生局へ転任する職員の選考その他これに関する事務を円滑に処理するため,厚生労働省職員選考会議を設置した(乙A39)。同選考会議は,同年5月18日,本件意向調査において厚労省を第1希望とした6017人(うち懲戒処分歴保有者は698人)の社保庁職員のうち,1216人を転任候補者として内定した(乙A84の8~10頁,弁論の全趣旨)。また,同年6月22日に49人,同年8月27日に9人,同年12月10日に20人,同月16日に4人,同月22日に1人の社保庁職員を,転任候補者として内定し,合計1299人の内定者を選考した(乙A84の10頁)。同内定者のうち15人は最終的に内定を辞退した(前提事実)。
社保庁職員の転任に当たっては,厚労省(本省)に493人,地方厚生局に791人を転任させ,一般行政職1級から8級までの職員につき,それぞれ級別に,厚労省本省及び地方厚生局ごとに転任数が定められた(乙A52)。
b 厚労省への転任については,書類審査(準備調査票,人事記録,出勤簿,休暇簿,健康診断書,勤務評価資料,処分関係資料の審査)及び面接審査の結果を総合的に勘案し,組織における転任予定数及び転任先の職務の内容に基づき転任の可否が判断された。
厚労省への転任候補者のうち,社保庁本庁,社会保険業務センター及び社会保険大学校職員に対する面接は厚労省本省において,管区地域内の各地方社会保険事務局職員及び当該地方社会保険事務局管内の各社会保険事務所職員に対する面接は各地方厚生(支)局において実施された。面接に当たっては,面接評価に偏りが生じないようにするため,統一された面接要領(以下「本件面接要領」という。)が設けられた(乙A38,弁論の全趣旨)。
c 面接を担当する面接官は,事前に面接対象者に係る準備調査票,人事記録,出勤簿,休暇簿,健康診断書,懲戒処分・矯正措置の状況,人事評価書を審査し,書類審査の結果面接において確認すべき留意事項がある場合は,面接の際,同留意事項を確認して,面接評価における判断材料の一つとしていた(乙A38,弁論の全趣旨)。
東北厚生局においては,より子細な面接評価を実施するため,面接票の特記事項(メモ)欄に,「表現力・説明力」,「業務に対する意欲・積極性」,「職場内における協調性」及び「部下への統率力・指導力 ※係長以上」という評価欄を設け,AからEまでの5段階で評価し,面接評価における判断材料の一つとしていた(乙Cイ7参照)。
d 本件面接要領において,面接審査は,被面接者1人に対して面接官2人,概ね10分前後を目安に行われ,被面接者の人柄,性向等について評定し,転任者が就くことが予想されている官職への適否を判定することを目的とするものであるとされている。面接の結果は,「A:是非任用したい」,「B:任用したい」,「C:任用してもよい」,「D:任用には多少疑問がある」,「E:任用不可」の5段階で評価することとされていた(乙A38)。
なお,東北厚生局においては,A評価及びB評価に評価が集中することが予想されたことから,円滑な選考を実施するために,A及びB評価をそれぞれ上,中,下に区分し,より細分化した評定を行っていた(乙B5参照)。
本件面接要領において,面接の評定に当たっては,「志望動機の確認※本人の希望に反していないか。」,「異動可能な範囲の確認(広域以外の場合は将来的な可否を確認)」,「希望分野の確認(保険医療指導監査部門,年金部門)」,「懲戒処分の確認(処分を受けた者は,改悛の情を確認)」,「労働関係部門への希望の有無及び船員保険担当経験の有無」,「書類の確認で留意点があった事項」,「健康状態の確認」等の事項を確認することとされていた(乙A38)。
面接官は,上記事項を参考に,被面接者の人柄,性向等を総合的に評価し,転任者が就くことが予想される官職への適否を判定することとして,AからEまでの評価基準に従って,評定を行った。
e 本件面接要領においては,面接官と被面接者が特別な関係(面接官が扶養する親族若しくは面接官と同居する親族,又はそれ以外の者で面接官と特別の関係にあり,公平な評定をすることが困難であると面接官が考える者)にある場合には,面接官を交代することとし,社保庁人事グループの者は面接官としないこととされていた。また,質問に当たっては面接時間に極端な長短が生じないようにすることや,評定及び判定に当たっては,面接票の項目ごとに評価の視点等を参考にしながら評定を行うとともに,先入観や評価の厳しさの偏り等による誤差が生じないようにすることに留意するよう記載されていた(乙A38)。
f 東北厚生局では,東北厚生局健康福祉部長(総務監理官)であるJ(以下「J」という。)及び同局総務課長であるK(以下「K」という。)によって,原告らを含むa事務局職員及び同局管内社会保険事務所職員52人の面接が実施された(弁論の全趣旨)。
東北厚生局の転任者数は,一般行政職2級につき12人,同3級につき20人,同4級につき10人,同5級につき12人,同6級につき3人の合計57人とされ,行政職2級,3級及び5級は,面接の評価結果がB下以上,同4級は評価結果がB中以上,同6級は評価結果がA上以上の者から選考された(乙B1)。
また,労働部門については,東北厚生局の面接を受けた社保庁職員の中から,船員保険業務の経験,東北厚生局の面接結果を考慮し,面接対象者を選定した。その結果,一般行政職1級につき6人,同2級につき5人,同3級につき1人の計12人が宮城労働局に転任した(甲A76の23~25頁,乙B2,弁論の全趣旨)。
さらに,辞退者が出た場合の調整や,厚労省全体における欠員の補充のため,厚労省本省において,東北厚生局が行ったものとは別に,転任候補者の選考が行われ,意向準備調査の段階で,いかなる都道府県でも赴任できること,厚労省本省でも勤務できることを表明し,面接の結果がC以上の社保庁職員から,転任候補者を決定した。その結果,東北厚生局の面接を受けた社保庁職員は,一般行政職2級につき1人,同3級につき1人,同4級につき2人の合計4人が転任した(乙B5,弁論の全趣旨)。
(ウ) 残務整理定員の確保(乙A82)
厚労省は,平成21年度の組織・定員要求において,社保庁の廃止後に生じる職員の人事記録等の移管,退職手当の支給,平成21年12月分の超過勤務手当の支給や社保庁が行った調達・契約案件の残務整理及び出納整理,国有財産の承継事務等の残務を処理するための定員を要求し,その結果,平成22年1月から同年3月までの暫定的なものとして,厚労省年金局に10人,厚生局に103人の定員が認められた。
上記定員要求には,仮に他府省が社保庁職員について,通常の人事異動の時期である平成22年4月に転任を受け入れることが可能となった場合に備えて,同年1月から同年3月までの間は,国家公務員の身分を保有させておくことができるという意図もあった。
しかし,社保庁廃止後の残務の内容が具体化するにつれ,残務整理に要する期間が短い業務が多数存在したため,年金局,厚生局及び機構の職員が対応することとされた上,同年4月1日付けでの社保庁職員の転任を受け入れる他府省が存在しなかったため,結果的に残務整理定員は活用されなかった。
(エ) 非常勤職員の募集
厚労省は,平成21年12月1日,支援対象職員に対する雇用確保の一方策として,200人から250人程度の非常勤職員を公募した(乙A82)。
支援対象職員の内,192人が上記非常勤職員に応募し,152人が採用された(乙A36の1)。
(オ) 職員団体との協議(乙A78)
厚労省は,社保庁の廃止に当たり,h労働組合との間で,平成18年11月28日,平成19年3月26日,同年8月2日,同年12月4日,平成20年4月25日,同年7月30日,同年11月28日,平成21年3月3日,同年3月26日,同年7月22日,同年11月17日,同年11月24日,分限免職処分に関する事項や分限免職回避措置について協議を行った。
また,厚労省は,j労働組合共闘会議との間で,平成18年12月19日,平成19年7月10日,同年7月31日,平成20年6月26日,平成21年1月29日,同年6月29日,同年11月30日,同年12月21日,同様に協議を行った。
さらに,平成21年11月26日,k労働組合連合会との間でも,分限免職回避措置等について協議を行った。
エ 原告らについて
(ア) 社保庁人事評価について
平成18年に導入された社保庁人事評価では,人事評価は実績評価及び能力評価とすることとされており,実績評価は,上期においては,毎年4月1日から9月末日までの評価期間における職員の勤務成績について10月1日に実施し,下期においては,毎年10月1日から3月末日までの評価期間における職員の勤務成績について4月1日に実施するものとされていた。そして,能力評価は,毎年10月1日から翌年9月末日までの評価期間における職員の勤務成績について,10月1日に実施するものとされていた。
人事評価及び能力評価は,それぞれS,A,B,C,Dの5段階とされ,Sは,役職階層に期待される実績を大きく上回った場合に与えられる評価で,職員のうち上位5パーセントに与えられる。Aは,役職階層に期待される実績を上回った場合に与えられる評価で,職員のうち,上位5パーセントに続く,25パーセントの職員に与えられる(甲A123,証人L・17頁)。
(イ) 原告X1について
a 原告X1は,平成20年の意向準備調査において,厚労省本省(内部部局,地方厚生(支)局等)への転任を第1希望とし,異動は可能であり,自宅から通勤できるところを希望するものの,県外であっても可能である旨回答し(乙Cイ3),本件意向調査でも厚労省への転任又は勧奨があれば応じたいという考えを示した(乙Cイ4)。また,平成21年6月から7月に実施された職員意向確認追加調査票に基づく職員意向確認追加調査(以下「追加調査」という。)では,希望する順に,「厚労省等への転任の話があれば,受けたい。」,「その他」,「官民人材交流センターに登録し,再就職のあっせんを受けたい。」,「自分で就職活動をする」を選択し,「その他」の具体的内容として,「他省庁への配置換があれば受けたいと思います」と記載した。また,退職については,「社会保険庁廃止時に整理退職(いわゆる分限免職)」を選択した(乙Cイ6)。
b 原告X1は,平成21年2月9日,厚労省転任のため,約10分程度の面接を受け,表現力・説明力,業務に対する意欲・積極性,職場内における協調性,部下への統率力・指導力は,いずれもA~Eの5段階のうちC評価とされ,予定する業務に対する適正もC評価とされた(乙Cイ7)。
厚労省に提出された転任の資料では,原告X1の平成20年の能力評価はA,同年上半期実績評価はAとされていた(甲Cイ3)。
c 原告X1は,平成21年7月中に,官民人材交流センターの登録に必要な情報を入力し,a事務局次長であったM(以下「M」という。)に送ったが,同年9月時点でも,原告X1の情報は同センターに登録されていなかった(X1本人9~10頁)。原告X1は,同センターから,病院の事務の求人に係る情報提供を受け,面接を受けたが,採用には至らなかった(X1本人13~14頁)。また,金融庁等の応募についての案内は受けておらず,労働局の面接の案内もされなかった(X1本人5頁,6頁)。
原告X1は,本件任命権者又はMと,同年7月2日,同年10月23日,同年12月10日,同年12月11日に,原告X1の意向や,再就職支援について面談した(乙Cイ5)。
d 原告X1は,厚労省の非常勤職員の募集に応募して採用され,約1年東北厚生局l事務所に勤務した後,平成23年7月から年金相談センターで勤務している(X1本人2頁,14頁)。
(ウ) 原告X2について
a 原告X2は,平成20年の意向準備調査において,厚労省本省(内部部局,地方厚生(支)局等)への転任を第1希望とし,異動も可能であると回答し(乙Cロ3),本件意向調査でも厚労省への転任を希望した(乙Cロ4)。また,追加調査では,今後の就職活動について,希望する順に,「厚労省等への転任の話があれば,受けたい。」,「官民人材交流センターに登録し,再就職のあっせんを受けたい。」を選択した。また,退職に係る考えについては,選択をせず,空欄とした(乙Cロ6)。
b 原告X2は,平成21年2月10日,厚労省転任のため,短時間の面接を受け,表現力・説明力及び業務に対する意欲・積極性は,A~Eの5段階のうちC評価とされ,職場内における協調性については,JはC評価,KはB評価を付けた。また,おとなしい,コツコツタイプ,弱い,まじめである等の理由で,予定する業務に対する適正はC評価とされた(乙Cロ7)。
厚労省に提出された転任の資料では,原告X2の平成20年能力評価はA,同年上半期実績評価はAとされていた(甲Cロ3)。
c 原告X2は,平成21年7月中に,官民人材交流センターの登録に必要な情報を入力し,登録を完了した。病院の事務及び学校法人の事務の求人について情報提供を受け,応募したが,いずれも不採用となった(X2本人23頁)。なお,厚労省の非常勤職員の募集には応募しなかった(X2本人23~23頁)。また,原告X2は,労働局への転任のための面接の機会を与えられなかった(X2本人15~16頁)。
原告X2は,本件任命権者又はMと,同月3日,同月8日,同年8月25日,同年10月9月,同月14日,同月20日,同月23日,同年11月13日,同年12月4日,同月11日に,原告X2の意向や,再就職支援について,面談又は電話をした(乙Cロ5)。
d 原告X2は,本件処分を受けた後,ハローワークの紹介を受けて仙台の法律事務所に勤務していたが,平成26年10月に司法書士試験に合格し,現在は司法書士事務所で司法書士として勤務している(X2本人17,21頁)。
(エ) 原告X3について
a 原告X3は,平成20年の意向準備調査において,厚労省本省(内部部局,地方厚生(支)局等)への転任を第1希望とし,都道府県外への異動は困難である旨回答し(乙Cハ3),本件意向調査では,厚労省への転任を希望した(乙Cハ4)。また,追加調査では,今後の就職活動について,希望する順に,「厚労省等への転任の話があれば,受けたい。」,「官民人材交流センターに登録し,再就職のあっせんを受けたい。」を選択した。また,退職に係る考えについては,選択をせず,空欄とした(乙Cハ6)。
b 原告X3は,平成21年2月9日,厚労省転任のため,約10~15分の面接を受け,表現力・説明力及び業務に対する意欲・積極性は,A~Eの5段階のうちC評価とされ,職場内における協調性については,JはC評価,KはB評価とした。おとなしい,コツコツタイプ,懲戒処分については反省している等の理由で,予定する業務に対する適正はC評価とされた(乙Cハ7)。
厚労省に提出された転任の資料では,原告X3の平成20年能力評価はS,同年上半期実績評価はSとされていた(甲Cハ3)。
c 原告X3は,官民人材交流センターから,病院の事務等の求人について情報提供を受けたが,面接を受けることはしなかった(X3本人21頁)。なお,原告X3は,厚労省の非常勤職員の募集には応募しなかった(X3本人20頁)。
原告X3は,平成21年7月1日,同月6日,同年10月8日,同月14日,同月22日,同年11月12日,同年12月4日,同月10日,原告X3の意向確認や,再就職支援について面談をした(乙Cハ5)。
d 原告X3は,平成21年12月上旬頃,自分でハローワークに行って国民年金基金の求人を見つけ,平成22年1月から,m国民年金基金において勤務している(X3本人2,19頁)。
(オ) 原告X4について
a 原告X4は,平成20年の意向準備調査において,厚労省本省(内部部局,地方厚生(支)局等)への転任を第1希望とし,都道府県外への異動も可能であるが,できるだけ県内での転任を希望する旨回答し(乙Cニ3),本件意向調査においても厚労省への転任を希望する又は勧奨があれば応じたいとの考えを示し,特記事項に採用にあたって一律に処分歴のある者を採用しないということを見直し対応して頂きたい旨記載した(乙Cニ4)。また,追加調査では,今後の就職活動について,希望する順に,「厚労省等への転任の話があれば,受けたい。」,「具体的なことは考えていないが,再就職について相談をしたい。」を選択した。また,退職に係る考えについては,選択をせず,空欄とした(乙Cニ6)。
b 原告X4は,平成21年2月10日,厚労省転任のため,約10~15分の面接を受け,表現力・説明力については,JがC+評価,KがD評価とし,業務に対する意欲・積極性については,JがC+評価,KがB評価とし,職場内における協調性は,いずれもC評価とされ,Jは,熱心さは窺える,積極性の面では少し弱い,まじめ,意志が強いとの理由で,予定する業務に対する適性をC評価とし,Kは,芯が細い,改悛の情は認め難い,姿勢も変えないと主張している等の理由で,予定する業務に対する適性をD評価とした(乙Cニ7)。
厚労省に提出された転任の資料では,原告X4の平成20年能力評価はA,平成20年上半期実績評価はAとされていた(甲Cニ3)。
c 原告X4は,官民人材交流センターから,病院の事務の求人について情報提供を受けたが,平成22年1月からの仕事が決まったため,面接を受けることはしなかった(X4本人12頁)。なお,原告X4は,厚労省の非常勤職員の募集に応募し,面接を受けたが,平成22年1月からの仕事が決まったため,辞退した。辞退した後,不採用という結果を受け取った(X4本人15頁)。
原告X4は,本件任命権者又はMと,平成21年7月1日,同月6日,同年8月21日,同年10月9日,同月14日,同月23日,同年11月13日,同年12月4日,同月10日に,原告X4の意向や再就職支援について,面談を行った(乙Cニ5)。
d 原告X4は,ハローワークの情報を基に応募し,平成22年1月からn厚生年金基金において勤務している(X4本人2,12~13頁)。
(4) 分限免職回避努力義務の内容(争点2イ(イ))及び履行の有無(争点2イ(ウ)について
ア 検討
(ア) 前記前提事実及び認定事実のとおり,社保庁長官等は,①本件基本計画の閣議決定後,平成20年10月及び同年11月に,雇用調整本部に対して,社保庁の廃止に伴う社保庁職員の転任について,同本部の枠組みを活用することを要請したこと,②同年12月24日及び同月26日に,機構設立委員会及び協会設立委員会が定めた各採用基準を,社保庁職員に配布するよう通知してその周知を図り,平成21年5月及び同年12月に,機構の1次追加募集及び2次追加募集について,その周知をしたこと,③同年1月,厚労省に対し,新規採用及び欠員補充に当たっては,社保庁職員の転任を検討するよう要請したこと,④同年6月,再就職支援室及び地方再就職支援室を設置したこと,⑤同年7月から同年9月にかけて,他府省に対し,社保庁職員の転任による受入れについて,協力を要請したこと,⑥同年12月,厚労省の非常勤職員の募集について,支援対象職員に通知するよう連絡してその周知を図ったこと,⑦同年7月,地方公共団体に対して,欠員補充等のため採用予定がある場合などには,社保庁職員の採用について検討してほしいと要請したこと,⑧関係団体等に官民人材交流センターを活用し,求人情報の登録を求め,支援対象職員に対しては,人材情報及び再就職希望情報の登録を通知したこと,⑨同年7月3日,厚労省の職業安定局総務課長に対し,社保庁職員がハローワークを活用した求職活動を行うに際して必要な支援を要請したこと,⑩勤続年数にかかわらず,退職手当の割増しが受けられる勧奨退職を活用したことなどの取組を行ったことが認められる。
(イ) 前記前提事実及び認定事実のとおり,厚労大臣は,①退職者の不補充や,新規採用の抑制によって,116人分の空き定員を確保したこと,②社保庁の廃止に伴う定員増及び既定定員を利用して,合計1284人の社保庁職員を転任により受け入れたこと,③平成21年度の組織・定員要求において,社保庁の残務整理等のため,また,平成22年4月に社保庁職員が他府省に転任するまで国家公務員の身分を保有させるため,113人の残務整理定員を確保したこと,④平成21年12月,支援対象職員に対する雇用確保の一方策として,非常勤職員を公募したことなどの取組を行ったことが認められる。
(ウ) 上記分限免職回避措置により,平成21年12月時点で社保庁職員であった1万2566人のうち,1万0069人が機構に,45人が協会にそれぞれ採用され,厚労省に1284人,金融庁に1人及び公正取引委員会に8人がそれぞれ転任し,631人が勧奨退職により,3人が自己都合により退職することになり,原告らを含む525人(そのうち401人は,分限免職により退職手当が割増しされる制度の適用を希望していた。)について,分限免職処分を受けたことが認められる。
そうすると,上記の措置によってもなお残りの525人に対する分限免職処分は避けられなかったとはいえ,閣議決定に基づく国の行政機関の定員の純減や雇用調整本部による転任の取組がされていた当時,他府省による社保庁職員の受入れは困難な状況にあったこと,本件基本計画により,懲戒処分歴保有者は機構職員に採用されないこととなり,社保庁の廃止に伴って分限免職処分となる社保庁職員が相当数生じることが想定される状況にあったこと,分限免職処分を受けた525人のうち401人は分限免職処分により退職手当が割増しされる制度の適用を希望した者であったことも考慮すれば,社保庁長官等及び厚労大臣による分限免職処分を回避するための取組が全体として不十分であったとは認められないというべきである。
イ 原告らの主張について
(ア) 内閣について
原告らは,内閣が機構の職員数を社保庁職員数より減らし,さらに民間から1000人を採用する枠組みを決定したこと,懲戒処分歴保有者について,一律に機構への応募資格を与えない旨決定したこと,雇用調整本部の枠組みを利用した省庁間転任を行わなかったこと,厚労省転任と機構職員の採用以外の分限免職回避措置が,平成21年6月までとられなかったこと等について,内閣に分限免職回避努力義務違反があると主張するが,内閣が分限免職回避努力義務の主体であるとはいえないことは,前記(2)ウのとおりであり,原告らの主張を採用することはできない。
(イ) 厚労大臣について
a 原告らは,分限免職を回避するためには,厚労省転任手続より機構の採用手続を先行させて,機構に採用される資格のある職員が機構に採用されていれば,懲戒処分歴のある職員が厚労省に転任することができ,分限免職処分を回避することができたにもかかわらず,機構の職員採用手続と厚労省への転任手続を並行して進めたため,必要のない分限免職処分が行われたとして,分限免職回避努力義務違反があると主張する。
前記認定事実のとおり,機構設立委員会が平成20年11月に設置されてから,同年12月に機構採用基準が策定・配布され,平成21年5月19日に機構職員の採用内定者が決定するまで,約6か月を要している。また,同年1月1日に厚労省職員等選考会議が設置されてから,面接要領が作成され,同年3月中旬にかけて書類審査及び面接審査が実施されて同年5月18日に1216人の転任候補者を内定するまで約5か月を要している。そうすると,そもそも機構の採用手続が終了してから厚労省の転任手続を実施することは時間的に困難であるし,いずれの手続も終了してなお支援対象職員が残存した場合に,当該職員の分限免職回避措置を講じる十分な時間がないという事態を招きかねない。
さらに,仮に機構の採用手続を先行させたとしても,厚労省への転任を希望する社保庁職員が機構への応募をせず,厚労省への転任を選択すれば,本件と同様の結果になることも十分あり得るし,懲戒処分歴のない社保庁職員に対して選択を制限するなど懲戒処分歴を有する社保庁職員にとって有利な手続とすれば,国公法や人事院規則の定める平等取扱いの原則や公正の原則の観点から問題があるといわざるを得ない。
したがって,上記の原告らの主張は採用することができない。
b 原告らは,①厚労省から機構への業務支援出向(147人),②平成22年3月までの残務処理定員(113人),③平成21年度末に予想される欠員数と平成22年度の新規採用抑制などを適切に組み合わせれば,本件各処分を回避することは可能であったにもかかわらず,その努力を尽くさなかったとして,分限免職回避努力義務違反があると主張する。
まず,①の厚労省から業務支援のため機構に一時的に出向していた者については,出向期間満了後には厚労省に復帰することが予定されているところ,そのためには,厚労省において出向者数と同数の欠員を確保しておかなければならないのであるから,この欠員について社保庁職員を転任によって受け入れることはできないというべきである。
②の残務処理定員については,前記認定事実のとおり,社保庁廃止に伴う残務処理のため,また,平成22年4月1日に転任が可能な場合に,社保庁職員に国家公務員としての身分を保有させておくための一時的な定員を確保する意図も兼ねて確保したものであるところ,その後,社保庁の残務処理につき必要な期間が短い業務が多数存在することが判明した上,同日付けでの転任を受け入れる他府省が存在しなかったことから,結果的に活用されなかったものであり,このことをもって厚労大臣に分限免職回避努力義務違反があるとは認められない。原告らは,残務整理に当たる社保庁職員が実際にも必要不可欠であったと主張するが,同年3月31日まで上記業務が必要であったと認めるに足りる証拠はない。また,原告らは,当事者からすれば,他の職場を求めるにしても,3月末まで国家公務員の身分が保証されることには大きな意味があるとも主張するが,残務整理のための定員が必要でない以上は,身分を保証するためだけに残務整理定員を活用する義務があるということはできない。
③については,原告らは,113人の残務整理定員を活用した上,そこから更に平成22年4月以降厚労省に転任させることを見越して同月の新規採用を抑制していれば,雇用を維持することは十分可能であったと主張するものである。しかし,前記のとおり,そもそも身分保障のためだけに残務整理定員を活用する義務があるということはできないから,原告らの主張は前提を欠いているし,同月1日の新規採用数188人は,厚労省が,行政改革推進法に基づく定員削減を実施するとともに,社保庁職員の受入れのために平成21年12月末日までに欠員不補充等の措置を講じなければならないという状況において,厚労省の各組織の年齢構成,組織体制の維持のための新卒者採用の必要性等,人事管理上の諸般の事情を考慮した結果,新卒者を採用すべき必要最小限度の定員数として決定したものであるところ(乙A82),新規採用数を188人より抑制し,当該抑制部分に社保庁職員を転任させたとしても,厚労省の業務の円滑な運営や人材の確保・育成という観点から支障が生じなかったと認めるに足りる証拠はない。
以上より,上記の原告らの主張は採用することができない。
c 原告らは,機構設立時に,324人の欠員が生じており,本件基本計画が定める機構設立時の正規職員の必要人員数を充足させるため,厚労大臣は,機構に正規職員の追加募集を行わせる義務があったのにこれを怠ったと主張する。
しかし,原告らは懲戒処分歴を有しており,機構への募集資格がないため,仮に機構において正規職員の追加募集を行ったとしても,機構職員の採用に関しては,機構設立委員会を構成する設立委員が,採用基準を定めた上で,学識経験者の意見を聴いて決定することとされており(機構法附則5条,8条),必ずしも原告らが機構に採用されたとは限らないから,機構設立委員会が正規職員を追加募集しなかったことについて,厚労大臣に分限免職回避努力義務違反があるとはいえない。
(ウ) 社保庁長官等について
a 原告らは,社保庁長官等が,他府省,地方公共団体,関係団体への要請など,厚労省転任と機構職員採用以外の措置を平成21年6月までとらなかったことや,再就職支援対策本部が実質的に機能しなかったことが,分限免職回避努力義務違反であると主張する。
しかし,他府省等への要請や再就職支援対策本部の設置は,社保庁職員のうち,機構に採用されず,厚労省にも転任されなかった支援対象職員を対象とするものであるところ,支援対象職員が具体化されたのは,機構設立委員会が同年5月19日に最初の採用内定を出し,厚労省が転任者の内定数を出し,社保庁長官が「日本年金機構,全国健康保険協会の職員となるべき者の名簿及び厚生労働省への転任予定者の名簿の送付等について」との通知を発出した同年6月22日頃である(乙A36の2)と考えられる。したがって,上記通知に基づく社保庁職員への一斉通知が行われた同年6月25日の前日である同年6月24日に再就職支援対策本部を設置したことが時機を逸したものであるということはできない。また,前記認定事実のとおり,再就職支援対策本部の下に再就職支援室及び地方再就職支援室が設置され,各支援室では支援対象職員との面談や意向確認追加調査を行い,官民人材交流センター等の活用を促すなど,分限免職処分の回避に向けた働きかけを行ったことが認められるから,同本部が実質的に機能しなかったとは認められない。
そして,前記のとおり,支援対象職員が具体化されたのは同年6月22日頃であるから,同年7月9日以降社保庁長官等が他府省へ受入要請をしたことが,時機を逸したものということはできない。
また,原告らは,a事務局内では,再就職支援を専属的に担当する職員もおらず,本件支援室における活動は支援業務とは程遠く,地域ブロックや本省への支援要請も行われなかったことや支援対象職員に対する配慮が足りなかったことが分限回避努力義務違反であると主張するが,前記認定事実のとおり,本件任命権者又はMは,原告らとの面談を複数回行い,原告らの意向を調査しているほか,本件任命権者は他府省への転任要請や地方公共団体への採用要請を行い,官民人材交流センターへの企業登録の開拓を図るべく民間企業法人等を訪問したり,支援対象職員に登録を促したりしていることからすれば,a事務局においても本件任命権者による分限免職処分回避に向けての取組がなされていたといえ,分限免職回避努力義務違反があるとは認められない。
以上より,原告らの上記主張は採用できない。
b 原告らは,官民人材交流センターには,登録しても提供された情報が少なく,提供されてもハローワークの非常勤職員の求人の写しがそのままメールで流れてくるなど,実効性が全くなかったと主張する。
しかし,前記認定事実のとおり,社保庁長官等は,官民人材交流センターへの登録を促すため,関係団体等に同センターを紹介して求人情報の登録を求めており,実際に,同センターは348人の支援対象職員を支援し,平成22年3月末時点でそのうち108人が同センターのあっせんにより再就職しているし,原告らに対しても1件又は2件の求人情報を提示していることからすると,結果的に採用には至らなかったものの,実効性が全くなかったとまではいえず,原告らの主張は採用できない。
c 原告らは,社保庁長官が,機構に対して正規職員の追加募集を要請しなかったことや,厚労省に対して厚労省の定員を活用して分限免職回避措置をとることを要請しなかったことが,分限免職回避努力義務違反であると主張する。
しかし,前記のとおり,厚労大臣について,機構に対して正規職員の追加募集を要請する義務があったとはいえない以上,社保庁長官等についても,正規職員の追加募集を要請しなかったことが,分限免職回避努力義務違反になるということはできない。また,厚労大臣が厚労省の定員を調整するなどして本件各処分を回避しなかったことが分限免職回避努力義務違反に当たるとはいえないことも前記のとおりであるから,社保庁長官等がそれを要請しなかったことも,分限免職回避努力義務違反に当たるとはいえないというべきである。
以上より,原告らの主張は採用することができない。
(5) 人選の合理性の有無(争点2ウ)について
ア 判断枠組み
原告らは,人事院規則11-4第7条4項は,国公法78条4号に基づく分限免職処分の対象者を公正に選定すべき旨定めており,分限免職処分に当たっては公正な人選が行われなければならないにもかかわらず,厚労省への転任手続は不公正であったと主張する。
しかしながら,関係法令の定め並びに前記前提事実によれば,本件は,機構法の施行により社保庁が廃止されたことによって,全ての社保庁職員が分限免職処分の対象となり得たところ,厚労省等への転任や機構等への採用がされず,退職もしなかった社保庁職員について,一律に分限免職処分とされたものであり,本件各処分自体については,分限免職処分の対象となる候補者の中から,分限免職処分の対象とする者を選定することが行われたものではないから,人事院規則11-4第7条第4項を適用する前提を欠くものというべきである。
もっとも,国公法27条及び74条1項並びに人事院規則11-4第2条及び第7条が平等原則及び公正基準を定めていることからすれば,国公法78条4号に基づく分限免職処分をするに当たって,分限免職回避努力義務を負う者が同義務を履行する際には,職員に対して平等かつ公正な取扱いをしなければならないというべきである。
よって,分限免職回避努力義務の履行に際し,不平等,不公正な取扱いをしたかどうかを検討する。
なお,原告らは,本件基本計画が懲戒処分歴のある者を機構に採用しないとしたことが実質的な二重処分であり,平等原則・公正取扱原則にも違反すると主張するが,本件各処分は,前記のとおり,懲戒処分歴があることを理由に行われたものではないから,同主張は,採用することができない。
イ 原告らの主張
(ア) 原告らは,厚労省転任に当たり,同省が設定した選考基準は,主観的,恣意的評定となる人選基準であり,到底,客観的・合理的基準とはいえなかったし,実際に極めて短時間の面接で,主観的かつ恣意的な評価が行われたと主張する。
前記認定事実のとおり,厚労省への転任手続における面接審査に当たって,面接評価に偏りが生じないようにするため,統一された面接要領に基づいて全国一律に行われ,被面接者1人につき面接官2人で面接審査を行い,被面接者と面接官に特別な関係がある場合には面接官を交代することとしていたし,面接時間,確認事項,質問事項等も同要領において詳細に定められていた。また,多くの転任希望者の面接をするため,面接時間が短くなることもやむを得ないといえ,原告らに対してのみ短時間の面接が実施されたとは認められない。そして,面接による評価は,本来的に合理的な範囲で面接官の裁量に委ねられているというべきであるところ,厚労省への転任手続は,前記のとおり,面接の統一的基準を踏まえて相応の役職者が面接官として行ったものであり,前記(3)エ(イ)ないし(オ)のとおりの原告らの評価を踏まえても,平等かつ公正にこれを実施されたものということができるから,原告らの主張は採用することができない。
(イ) また,原告らは,社保庁における転任希望者の勤務成績は全く評価の基礎とされず,国公法等の定める成績主義に反していると主張する。
確かに,原告らの面接を担当したKは,社保庁人事評価を,面接の中では余り意識しなかった(乙A89の17頁),基本的には選考の際に考慮の事情にしなかった(乙A89の33頁)と述べているが,同時に,面接前に面接官自身が人事評価結果そのものを確認しているとも述べている(乙A89の6頁)のであるから,社保庁人事評価による被面接者の勤務成績を踏まえつつ,面接審査を行って,その裁量に基づき被面接者の評価を行ったものであって,勤務成績を全く評価の基礎としなかったということはできない。
前記認定事実のとおり,原告らは,いずれも社保庁における勤務成績が非常に優秀であることは疑いようがなく,原告X1については,仕事が迅速丁寧で,非常に責任感が強く,自らも支援対象職員であるにもかかわらず,再就職支援業務を担当し,最後まで丁寧に業務に取り組んでいた(甲B3),原告X2については,職場では誰もが一目置く,年金相談業務のスペシャリストであり,年金相談業務を離れてからも,年金相談員や上司,同僚がレアケースの相談で原告X2を訪ねてくるほどであった(証人L・16頁),原告X3については,電話も窓口対応も積極的であり,年金請求の審査も他の職員より迅速で正確である(甲B3),原告X4については,単に仕事早く正確というだけではなく,目標を高く設定してそれを遂行するための企画力があり,進捗管理も確かな職員で,高いリーダーシップを発揮していた(甲B3)など周囲からも優秀な職員であるとの評価を受けていたことが認められるものの,社保庁人事評価による勤務成績をも確認した上で,面接官らが行った原告らの評価につき,裁量の逸脱又は濫用があると認めるべき事情はないといわざるを得ない。
よって,原告らの上記主張は採用できない。
(ウ) 原告らは,厚労省への転任において,面接結果の成績下位の者が転任し,上位の者が免職となるという不可解な選定が行われたとも主張するが,原告らに関して,原告らより面接結果の成績が下位の者が厚労省に転任したとの不平等,不公正な選考が行われたとは認められず,このことをもって本件各処分が違法であるということはできない。
(エ) また,原告らは,分限免職回避としての転任の対象となる人員数が確定されていなかったこと,厚労省への転任可能数が決まっていなかったこと,厚労省への転任受入数は地方ごとに顕著な格差があったこと及び地方ごとの転任受入数の格差を是正する措置を採らなかったことから,厚労省転任者の選定が不公正になされたと主張する。
しかし,転任の対象となる人員数や厚労省への転任可能数が決まっていなかったとしても,直ちに転任手続が不公正になされたと認めることはできない。また,地方ごとの転任受入数に格差があったとしても,当該地方厚生局において受け入れることができる人数はそれぞれ異なっていると考えられ,直ちに転任手続が不公正であるということはできないし,是正を求めなければならない義務があるともいえない。
よって,原告らの主張は採用できない。
(オ) 原告らは,厚労省への追加内定や,労働局への採用内定については,社保庁職員全体には一切周知されておらず,不公正な実態であったと主張する。
確かに,厚労省への追加内定や労働局への採用等について,社保庁職員全体に周知されたと認めるべき証拠はないが,厚労省への追加内定者数や労働局への転任者数が少数にとどまるのに対し,転任希望者は多数に上ることから,厚労省への転任面接の結果等を踏まえて,面接対象者を限定することも不合理であるとはいえず,不公正な採用手続であったとは認められない。
よって,原告らの主張は採用することができない。
ウ 小括
以上より,分限免職回避努力義務の履行に当たって,原告らについて平等原則及び公正原則に反する取扱いがなされたとは認められない。
(6) 誠実な説明・協議義務等の履行の有無(争点2エ)について
原告らは,本件各処分に当たり,憲法31条が保障する適正手続の観点から,原告ら及びその所属する労働組合に対して協議・説明をなす義務があるにもかかわらず,同義務が果たされなかったと主張する。
しかし,前記認定事実のとおり,厚労省及び社保庁長官等は,原告らを含む社保庁職員に対して,厚労省への転任や機構等への採用など,必要に応じて各種の情報提供を行い,再就職又は退職に関する意向調査も複数回にわたって実施された。また,社保庁の廃止に当たり,社保庁の廃止,職員に対する分限免職処分一般に関する事項及び分限回避措置等について,職員団体との間で説明及び協議を行っていることが認められる。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
3 争点3及び4(本件各処分が国賠法の適用上違法となるか及び消滅時効の成否)について
前記第3の1及び2で述べたとおり,原告らに対する本件各処分はいずれも適法であるから,本件任命権者が本件各処分をしたことが,国賠法上の違法行為又は債務不履行に当たらないことは明らかである。
したがって,原告らの国賠法に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
第4 結論
以上の次第であるから,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
仙台地方裁判所第2民事部
(裁判長裁判官 髙取真理子 裁判官 杉森洋平 裁判官 宮崎裕季子)
別紙1
当事者目録
秋田市〈以下省略〉
原告 X1
仙台市〈以下省略〉
原告 X2
秋田県北秋田市〈以下省略〉
原告 X3
秋田市〈以下省略〉
原告 X4
上記4名訴訟代理人弁護士 狩野節子
同 冨田大
同 虻川高範
同 三浦広久
同 松本和人
同 西野大輔
同 小野寺義象
同 北見淑之
同 加藤健次
同 萩尾健太
同 尾林芳匡
同 中川勝之
同 三澤麻衣子
同 渡辺輝人
同 神保大地
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 F
処分行政庁 a社会保険事務局長事務承継者厚生労働大臣 G
同指定代理人 W1
同 W2
同 W3
同 W4
同 W5
同 W6
同 W7
同 W8
同 W9
同 W10
同 W11
以上
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