「営業アウトソーシング」に関する裁判例(11)平成29年12月19日 東京地裁 平28(ワ)8803号 請負代金等請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(11)平成29年12月19日 東京地裁 平28(ワ)8803号 請負代金等請求事件
裁判年月日 平成29年12月19日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)8803号
事件名 請負代金等請求事件
文献番号 2017WLJPCA12198020
裁判年月日 平成29年12月19日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)8803号
事件名 請負代金等請求事件
文献番号 2017WLJPCA12198020
東京都豊島区〈以下省略〉
原告 X株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 河津良亮
同 東圭介
長野県諏訪市〈以下省略〉
被告 Y有限会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 齋藤泰史
主文
1 被告は,原告に対し,4087万8000円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済まで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告との間で,金物製品及びガラス製品についての各売買等契約を締結し,また,ガラス工事請負等契約を締結して同工事を完成させた旨を主張して,被告に対し,売買代金及び請負代金として,合計4087万8000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年4月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事件である。
被告は,上記各売買等契約及び上記ガラス工事請負等契約は,いずれも通謀虚偽表示により無効である旨を主張してこれを争っている。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者(乙4の1ないし3,弁論の全趣旨,被告代表者B)
ア 原告は,建築工事請負,建築用ガラス等の販売及び取付工事を業とする株式会社である。原告の平成26年3月31日以前の商号は,株式会社aであった。
イ 被告は,建築工事請負,建築用ガラス等の販売及び取付工事を業とする特例有限会社である。
ウ A(以下「A」という。)は,現在の原告の代表者である。
エ B(以下「B」という。)は被告の代表者であり,原告の取締役である。Bは,平成26年3月31日から平成27年10月15日まで,原告の代表者でもあった。
(2) 被告とb株式会社との間の工事請負契約
ア 被告は,平成26年10月16日,b株式会社(以下「b社」という。)との間で,以下の工事(以下「本件工事1」という。)についての請負契約を締結した(甲1)。
(ア) 内容 ガラス工事外注
(イ) 物件名称 cプラザ
(ウ) 工事場所 長野県飯山市〈以下省略〉
(エ) 施工期間 平成27年1月19日~同年9月30日
(オ) 工事代金 税込3024万円
イ 被告は,平成26年10月16日,b社との間で,以下の工事(以下「本件工事2」という。)についての請負契約を締結した(甲2)。
(ア) 内容 ガラス工事外注
(イ) 物件名称 cプラザ
(ウ) 工事場所 長野県飯山市〈以下省略〉
(エ) 施工期間 平成27年1月19日~同年9月30日
(オ) 工事代金 税込324万円
(3) 被告と株式会社dとの間の工事請負契約
被告は,平成27年6月9日,株式会社dとの間で,以下の工事(以下「本件工事3」という。)についての請負契約を締結し,これを完成させた。株式会社dは,同年10月13日,被告に対し,3348万円を支払った(甲9,10,弁論の全趣旨)。
ア 内容 フロントガラス工事
イ 物件名称 eビル
ウ 工事場所 東京都新宿区〈以下省略〉
エ 施工期間 平成27年6月10日~同年8月5日
オ 工事代金 税込3348万円
(4) 原告と被告との間の本件請負契約
原告は,平成27年7月15日,被告との間で,本件工事3の下請工事につき,以下の内容の請負等契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した(甲11)。
ただし,後述のとおり,本件請負契約が通謀虚偽表示であるか否かについては争いがある。
ア 内容 ガラス改修工事
イ 物件名称 eビル
ウ 工事場所 東京都新宿区〈以下省略〉
エ 施工期間 平成27年6月10日~同年8月5日
オ 工事代金 税込2322万円
(5) 原告と被告との間の本件各売買契約
ア 原告は,平成27年9月16日,被告との間で,本件工事1及び本件工事2で使用する金物製品を,代金785万円(税込847万8000円)で売買する等の契約(以下「本件金物売買契約」という。)を締結した(甲3)。
イ 原告は,平成27年9月26日,被告との間で,本件工事1及び本件工事2で使用するガラス製品を,代金850万円(税込918万円)で売買する等の契約(以下「本件ガラス売買契約」といい,本件金物売買契約と併せて「本件各売買契約」という。)を締結した(甲4)。
ただし,後述のとおり,本件各売買契約が通謀虚偽表示であるか否かについては争いがある。
(6) 原告による金物製品及びガラス製品の購入等
原告は,株式会社f(以下「f社」という。)から,金物製品を税込586万4400円で,ガラス製品を税込648万円でそれぞれ購入し,これを被告に納入した(甲5,6,原告代表者A,弁論の全趣旨)。
(7) 原告の被告に対する本件各売買契約の売買代金請求
原告は,平成27年9月20日,被告に対し,本件金物売買契約の売買代金として,847万8000円(税込)を請求し,同年10月15日,被告に対し,本件ガラス売買契約の売買代金として,918万円(税込)を請求した(甲7,8)。
(8) 被告による支払の拒絶
被告は,平成27年11月6日,原告に対し,本件各売買契約は,売買契約の形式をとっているが,実体は,原告から被告に対する金銭の貸付けであり,本件各売買契約は通謀虚偽表示により無効である旨を回答し,本件各売買契約に基づく売買代金の支払を拒絶した。
被告は,原告に対し,現在に至るまで,本件各売買契約及び本件請負契約の代金合計4087万8000円を支払っていない(甲15,原告代表者A,弁論の全趣旨)。
(9) 被告に対する訴状送達の日は,平成28年3月31日である(当裁判所に顕著な事実)。
2 争点
(1) 本件各売買契約は通謀虚偽表示により無効であるか否か(争点1)
(2) 本件請負契約は通謀虚偽表示により無効であるか否か(争点2)
3 争点に対する当事者の主張
(1) 本件各売買契約は通謀虚偽表示により無効であるか否か(争点1)
(被告の主張)
ア 被告は,原告代表者のA及びAから紹介を受けたCから運転資金を借り入れていたことがあったが,資金繰りが苦しくなり,再度Aから借り入れを行うため,平成26年2月頃,仮装売買及び仮装請負を行うことを目的として,原告を立ち上げることにした。
被告は,平成26年3月頃から,原告から資金を借り入れることを繰り返しており,その担保として,原告から被告の取引先に対する債権を要求されていた。Bは,本件各売買契約及び本件請負契約の当時,原告の代表者でもあったが,これは債権担保の為の形式的なものであり,原告の預金通帳及び銀行印は,全てAが管理していた。
イ 本件各売買契約の実体は,原告と被告との間の金銭消費貸借契約であり,実際の売買はなかった。したがって,本件各売買契約は,原告と被告において,売買をする意思がないのに,これを仮装したものであり,通謀虚偽表示により無効である。
ウ 被告から原告宛の発注書が存在するが,これらの発注書を作成したBには,原告に対して金物製品及びガラス製品を発注する意思はなく,原告が被告に貸し付けた高金利の利息の支払を売買取引に仮装するため,形式的に発注書を作成したものである。
本件工事1及び本件工事2の各請負契約につき,発注者であるb社は,契約の主体を原告にすることに応じないことから,原告は,本件各売買契約を仮装することにより,貸金の返済の担保とすることを要求し,被告は,これに応じ,本件各売買契約につき,実体のない発注書を作成した。
エ 原告が金物製品及びガラス製品を購入したf社は,Bが設立した被告の関連会社である。本件各売買契約当時,Bはf社の代表者でもあったから,被告は,直接f社から金物製品及びガラス製品を購入可能であるし,本件工事1及び2において,金物製品およびガラス製品を実際に調達したのも被告であった。
原告がf社から購入した金物製品及びガラス製品の代金は合計1143万円(税別)であるのに対し,原告が被告に対して請求している本件各売買契約の売買代金の合計は1635万円(税別)と大幅に上乗せされており,本件各売買契約の直前に原告からf社に多額の金銭が振り込まれていることも,原告が被告に貸し付けた高金利の利息の支払を売買取引に仮装したことの証左である。
オ 甲23のメールは,被告が原告から資金を借り入れるに当たり,原告の株主であるD(以下「D」という。)を説得するために,Aの指示により,Bが作成したものに過ぎない。
(原告の主張)
ア 被告の主張は否認する。
イ 原告と被告は,甲23のメールのとおり,それぞれが業務を協力し,会社を成長させることを目的としていたのであり,本件各売買契約は業務提携関係の一環であって,通謀虚偽表示ではない。
(2) 本件請負契約は通謀虚偽表示により無効であるか否か(争点2)
(被告の主張)
ア (1)の(被告の主張)アと同じ。
イ 本件請負契約の実体は,原告と被告との間の金銭消費貸借契約であり,実際の請負はなかった。したがって,本件請負契約は,原告と被告において,請負の合意をする意思がないのに,これを仮装したものであり,通謀虚偽表示により無効である。
本件工事3の請負契約につき,発注者である株式会社dは,契約の主体を原告にすることに応じないことから,原告は,本件請負契約を仮装することにより,貸金の返済の担保とすることを要求し,被告は,これに応じ,本件請負契約につき,実体のない発注書を作成した。
ウ 本件工事3の全体を実際に行ったのは被告の従業員であり,原告が本件請負契約に基づいて,本件工事3の下請工事を行った事実はない。
被告から原告宛の発注書が存在するが,この発注書を作成したBには,原告に対して本件工事3の下請工事を発注する意思はなく,原告が被告に貸し付けた高金利の利息の支払を請負取引に仮装するため,形式的に発注書を作成したものである。本件請負契約の直前に原告から被告に多額の金銭が振り込まれていることも,原告が被告に貸し付けた高金利の利息の支払を請負取引に仮装したことの証左である。
(原告の主張)
ア 被告の主張は否認する。
イ 原告と被告は,甲23のメールのとおり,それぞれが業務を協力し,会社を成長させることを目的としていたのであり,本件請負契約は業務提携関係の一環であって,通謀虚偽表示ではない。
ウ 原告は,本件請負契約において,本件工事3の全てを請け負ったものではなく,その一部を被告の従業員が行うことは当然あり得る。原告は,本件工事3の下請工事を実際に行っており,道路使用許可を取り,建設工事保険に加入し,現場監督者に報酬も支払うなどしている。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) Aは,平成26年2月頃,Bから,被告に融資をしてくれる人を紹介してほしいと言われ,Bに対し,Dを紹介した。
Dは,原告の元代表者であり,現在は原告の株主である(甲26,乙4の1ないし3,20,原告代表者A)。
(2) 原告は,Bから,取引先からの支払が滞っていると言われ,平成26年6月10日,被告に対し,1300万円を,利息年4パーセントの約定で貸し付けた。原告は,この事実を認めている(甲26,乙8の1及び2,弁論の全趣旨)。
(3) Bは被告の経営権を奪われることを心配しており,Dは赤字会社に出資しても配当が得られないと考えていた。
そこで,Aは,Bとの間で,平成26年7月から8月にかけて,メールで,「Y社&B社長との契約事項」と題する添付ファイル(以下「本件添付ファイル」という。)のやり取りをして合意事項を詰めたうえで,最終的に,①Dが代表者を務めていた原告を被告の関連会社とし,原告が関東圏を,被告がその他の地域を受注することで,原告と被告の業務の棲み分けを図る,②原告が受注した業務は,下請けとして被告に発注する,③原告(ないしD)は被告の資金調達に協力し,原告が得た利益をB(ないし被告)とD(ないしA)との間で概ね折半とすることを合意した(以下「本件合意」という。)。しかし,本件合意について契約書は作成されなかった(甲26,27の1ないし3,乙20,原告代表者A,被告代表者B)。
(4) 本件合意を受け,被告は,原告に対し,ガラス販売協力手数料として,月額70万2000円を支払っていた(甲26,27の1ないし3,乙8の2)。
また,原告の預金通帳,銀行届出印及び代表印の管理は,Aが行っていた(乙20,原告代表者A,被告代表者B)。
(5) BからD宛の平成27年7月30日付のメールには,以下の内容が記載されている(甲23)。
「X社の今後の展開として提案させていただきます。
目的
ガラス工事請負,ガラス製品卸,輸入管理をし儲ける。
形態
本社は工事請負を主とし業務を行う。
X社はガラス製品卸の業務を行う(実業務は本社)。
f社は輸入管理業務を行う。
商流
本社が請負い製品手配をX社が行いY社へ請求する(他社もあり)。
f社は管理業務を行いY社へ請求する。
(中略)
利益
各社30%
(中略)
9月からはDさん(株主),Aさん(経理),B(代取)の人員で社内経費を掛けず,全て社内アウトソーシング体制を構築し,利益を追求する方針です。
(中略)
上記のことからX社の存続をさせ利益を出していける(と)考えます。」
(6) 原告は,平成26年8月頃,保険金額2億円の建設工事保険に加入した。
また,原告は,本件請負工事について,平成27年9月18日,新宿警察署長に対する道路使用許可申請を行っており,本件請負工事の現場責任者として,Eを雇用して賃金等を支払い,株式会社レンタルのニッケンから工事用車両をレンタルする手配などをした。なお,本件工事3が完成していることからすれば,本件請負工事も完成したものと認められる(甲12ないし14,24ないし26,原告代表者A,被告代表者B,弁論の全趣旨)。
(7) 原告は,被告に対し,平成27年5月20日,1619万9244円を振り込んだ(乙14)。
また,原告は,Bが代表者を務めるf社に対し,平成27年9月17日に586万4400円,同月30日に648万円の合計1234万4400円を振り込んだ(乙13)。
(8) Aは,Dが代表者を務める株式会社gのFと名乗り,ファクタリング業務の宣伝を行っている(乙10の1及び2,11,原告代表者A)。
2 認定事実の補足
(1) 被告は,本件各売買契約及び本件請負契約は,原告と被告との間の高金利の金銭消費貸借契約を仮装したものであり,実際の売買及び請負はなかった旨を主張し,Bもこれに沿う内容を供述する(乙20,被告代表者B)。
しかしながら,認定事実(2)によれば,原告は,被告に対し,1300万円を利息年4%で貸し付けた事実を認めており,その旨が記載されたメールも存在するところ,本件各売買契約及び本件請負契約の金額に相当する金銭消費貸借契約が存在することを認めるに足りる的確な証拠はないこと,Bは,f社から原告宛の金物製品の請求書(甲5)の代金額である税込586万4400円は,被告が原告から借り入れた元本の額であり,本件金物売買契約の発注書(甲3)の代金額である税込847万8000円は,原告に対する利息を加えた返済額であると述べながら,原告に対する利息は元金に対して年15%であるとも述べており,金銭消費貸借契約において最も重要な利息の額が変遷していること,年15%の利息による金銭消費貸借契約であれば,利息制限法の制限利率の範囲内であって何ら違法ではなく,売買契約や請負契約を仮装する迂遠な方法を取る必要はないこと,認定事実(6)によれば,原告は,本件請負工事において,一部の請負作業を行っていることに照らすと,上記1の認定事実に反するBの供述(乙20,被告代表者B)は採用できず,他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。
(2) また,被告は,BからD宛の平成27年7月30日付のメール(甲23)の内容は,Aの指示によるものである旨を主張しているが,Aはこれを否定している上,これを裏付けるに足りる的確な証拠はない。
かえって,上記メール(甲23)の内容は,本件添付ファイル及び本件合意の内容とも整合していることからすれば,上記メール(甲23)の内容は,Aが指示したものとは認められない。
3 争点1(本件各売買契約は通謀虚偽表示により無効であるか否か)及び争点2(本件請負契約は通謀虚偽表示により無効であるか否か)について
(1) 上記認定事実(1),(3)ないし(5)によれば,本件各売買契約及び本件請負契約は,いずれも本件合意に基づき,原告(ないしD)が被告に資金を提供する代わりに,被告の業務に原告を関与させ,原告に利益を得させるためになされたものであり,被告及びBは,これを了承していたものと認められる。
また,前提事実(6)によれば,原告は,f社から金物製品及びガラス製品を購入して被告に納入しており,認定事実(6)によれば,原告は,本件請負工事において,一部の請負作業を行っているのであるから,本件各売買契約及び本件請負契約には,実体があったものというべきである。
以上からすれば,本件各売買契約及び本件請負契約が,通謀虚偽表示であったものとは認められない。
(2) 被告は,本件各売買契約に先立つ原告からf社に対する多額の振込が,原告の被告に対する貸付けである旨を主張するが,被告とf社は別の法人であって,これを被告に対する貸付けと評価することは困難であるし,上記振込は,原告とf社との間の金物製品及びガラス製品の売買代金であるというべきである。
認定事実(4)及び(7)は,本件合意の内容に沿うものであり,これらの事実があるからといって,本件各売買契約及び本件請負契約が,原告と被告との間の高金利の金銭消費貸借契約を仮装したものであるということはできないし,認定事実(8)があるとしても,上記(1)の認定を覆すに足りない。
したがって,被告の主張は理由がない。
第4 結論
よって,被告の通謀虚偽表示の抗弁はいずれも理由がなく,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第41部
(裁判官 浅海俊介)
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