【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(23)平成29年 1月27日 東京地裁 平26(ワ)7681号 損害賠償請求事件

「営業アウトソーシング」に関する裁判例(23)平成29年 1月27日 東京地裁 平26(ワ)7681号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成29年 1月27日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)7681号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2017WLJPCA01276006

事案の概要
◇株式会社東京証券取引所のマザーズ市場に上場されていた訴外会社の株式を取引所市場において取得した者又はその相続人である原告らが、訴外会社が上場に際し提出した有価証券届出書に、架空売上高の計上という虚偽記載があった結果、同社が上場廃止となり原告らは損害を被ったところ、訴外会社の同粉飾上場に当たり、被告Y2社の従業員であった被告Y1は、被告Y2社名義の虚偽の残高確認書を作成するなどして同粉飾上場に加担したと主張して、被告Y1に対しては、民法709条、同法719条1項又は同条2項に基づき、被告Y2社に対しては、同法715条1項に基づき、各損害金の一部及びその遅延損害金の連帯支払を求めた事案

評釈
岩田合同法律事務所・新商事判例便覧 3257号(旬刊商事法務2140号)
藤林大地・法セ増(新判例解説Watch) 22号121頁

参照条文
金融商品取引法18条1項
金融商品取引法19条
金融商品取引法21条1項
金融商品取引法21条の2第1項
金融商品取引法22条1項
民法709条
民法715条1項
民法719条1項
民法719条2項

裁判年月日  平成29年 1月27日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(ワ)7681号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2017WLJPCA01276006

原告 別紙原告目録記載のとおり(以下「原告ら」という。)
同訴訟代理人弁護士 塚田裕二
同 五十嵐潤
同 高柳孔明
同 中村新造
同 北畑有梨
同 木下徹郎
同 小竹広子
同 有村佳人
同 石岡良子
同 江川剛
同 遠藤和宏
同 大川原栄
同 荻上守生
同 葛田勲
同 木村壮
同 近藤博徳
同 田上潤
同 仲居康雄
同 花垣存彦
同 洞澤美佳
同 松尾文彦
同 水田一彦
同 村上一也
同 山口貴士
同 吉村健一郎
同 米川長平
同 小森貴之
同 田畑淳
同 福田隆行
同 中川亮
同 志賀絵里子
同 松村龍一
同 今西順一
同 佐藤瑞穂
同 宮内宏
東京都府中市〈以下省略〉
被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
同訴訟代理人弁護士 小川治彦
同 田川信一
川崎市〈以下省略〉
被告 Y2株式会社(以下「被告Y2社」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 村島俊宏
同 穂積伸一
同 谷口悠樹
同 藤平真吾
同 山本晋之介
同 森山敦

 

 

主文

1  被告Y1は,原告らに対し,各原告に対応する別紙請求債権目録の「H 本件請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成27年7月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告らの被告Y2社に対する請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,原告らに生じた費用の2分の1と被告Y1に生じた費用を被告Y1の負担とし,原告らに生じたその余の費用と被告Y2社に生じた費用を原告らの負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
被告らは,原告らに対し,各自,別紙請求債権目録の「H 本件請求金額」記載の各金員及びこれらに対する平成27年7月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)のマザーズ市場(以下「マザーズ市場」という。)に上場されていた株式会社a(以下「a社」という。)の株式を取引所市場において取得した者又はその相続人である原告らが,a社が上場に際し提出した有価証券届出書に,架空売上高の計上という虚偽記載があり,その結果,同社が上場廃止となり損害を被ったところ,a社の上記粉飾上場に当たり,被告Y2社の従業員であった被告Y1が,被告Y2社名義の虚偽の残高確認書を作成するなどして上記粉飾上場に加担したと主張して,被告Y1に対しては,民法709条,同法719条1項又は2項に基づき,被告Y2社に対しては,同法715条1項に基づき,損害金の一部として別紙請求債権目録の「H 本件請求金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成27年7月21日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
1  前提事実(当事者間に争いがない事実及び後掲証拠等から容易に認められる事実)
(1)  当事者等
ア 原告ら
原告らは,マザーズ市場に上場されていたa社の株式を取得した者あるいはa社の株式を相続した者(原告X1は,Bの相続人であり,原告X2は,Cの相続人である。)であり,そのa社の株式の株式取得年月日,取得株式数,取得株価(1株),取得手数料は別紙原告別取引目録記載のとおりであり,原告らのうちa社の株式を売却した者についての株式売却年月日,売却株式数,売却株価(1株)及び売却手数料も同別紙記載のとおりである。(甲16,弁論の全趣旨)
イ 被告ら
(ア) 被告Y2社は,通信機器等の製造販売を主たる業務とする株式会社である。(弁論の全趣旨)
(イ) 被告Y1は,昭和62年4月1日に被告Y2社に入社し,平成14年12月から購買本部デバイスプロダクト調達統括部設備調達担当部担当課長,平成17年4月から平成19年3月まで同本部設備・材料調達統括部設備調達部担当課長,平成19年4月から同本部システムプロダクト調達統括部メカニカルパーツ調達部担当課長を務めた者である。その後,被告Y1は,平成22年4月1日から被告Y2社の子会社である株式会社b第二購買部長を経て,平成25年6月,被告Y2社から懲戒解雇された。(甲4,乙A13,被告Y1本人)
ウ a社
(ア) 会社概要等
a a社は,平成6年10月17日,電子回路測定機用精密機材及び電子計測器の製造販売,コンピュータソフトウェアの製造販売等を目的として設立されたが,平成12年以降は,絶縁膜エッチング装置(以下「エッチャー」ということもある。)や基板上のレジスト除去装置(以下「アッシャー」ということもある。)などの半導体製造装置の開発,製造及び販売等を主な業務としていた。(甲2,32)
b D(以下「D」という。)は,a社設立当初からa社が破産手続開始決定を受けるまで,同社の代表取締役であった。(甲2,32)
c 野村證券株式会社出身のE(以下「E」という。)は,平成13年6月27日,a社の財務担当取締役に就任し,平成19年5月18日,同社の代表取締役に就任した。(甲2)
d F(以下「F」という。)及びG(以下「G」という。)は,平成15年6月頃,c株式会社を共に退社し,同年9月頃,a社に入社した。Fは,a社の営業課長として入社し,平成16年6月30日,同社の取締役に就任した。Gは,a社の営業部アシスタントマネージャーとして入社し,平成18年12月にフィールド技術部長,平成21年10月に営業マーケティング部長に就任した。(甲2,23,32)
(イ) a社の会計監査
a 公認会計士d共同事務所(以下「d事務所」という。)所属のH(以下「H」という。),I(以下「I」という。)及びJ(以下「J」という。)は,平成14年3月期から平成21年3月期までの間,a社に対する会計監査を行った。同期間以降も,d事務所所属のJ及びK(以下「K」という。)がa社に対する会計監査を行った。(甲10)
b H及びIは,a社の会計監査を担当して以来,売上先が発行した注文書や輸出の際に税関が発行した輸出許可通知書等の書類を確認することはもとより,半期毎にa社の売掛金の回収状況をまとめた書類を確認した上で,回収がされているものについては預金通帳で確認し,未回収のものについては中間期末と決算期末の年2回,売掛金の計上先に対し,残高確認を文書で照会していたほか,a社を訪問して棚卸資産の確認を行っていた。(甲10)
c d事務所所属の公認会計士は,a社と同様に半導体製造装置の製造販売を目的とし,特にエッチング装置に関しては世界一のシェアを誇るe社の監査実績があり,その他にも,f社,g社,h社等の半導体製造販売を行う会社の監査を行っていた。(甲38)
(2)  被告Y1による虚偽の残高確認書の作成及び主幹事証券会社からのヒアリング等
ア 被告Y1は,被告Y2社がc株式会社と取引関係にあったこともあり,平成16年以前から,F及びGと面識があった。(争いがない事実)
イ a社は,平成16年3月期から,Eが管理部に指示して架空売上計上をするほか,営業部又は管理部において,架空計上した売上に見合う虚偽の発注書,航空貨物運送状,輸出許可証,請求書のほか,販売した装置ごとに仕様書や図面等をまとめたファイルなど,実際に装置を販売した場合に作成されるのと同様の証憑を作って販売を装い,併せて,架空の売上先となった会社内に協力者を得て,会計監査人による調査に対して虚偽の回答をさせるといった粉飾発覚を免れるための措置を講ずるなどして,粉飾決算を開始した。(甲2)
ウ 被告Y1は,平成16年3月下旬,E,F及びGから,a社が被告Y2社に対して売掛金を有している旨を証明する平成16年3月期の残高確認書の偽造の依頼を受け,平成16年4月23日付け「勘定残高確認ご依頼の件」と題する書面(甲6。以下「平成16年度残高確認書」という。)を作成した。同書面は,d事務所が,a社の会計監査にあたり,同年3月31日時点におけるa社の被告Y2社に対する売掛金10億6951万8450円の残高確認を求めるものであるところ,被告Y1は,上記金額と相違ない旨記載された欄に,「Y2株式会社 購本 デバイスプロダクト調達」と刻印されたゴム印及び「Y2株式会社 購買本部デバイスプロダクト調達統括部」と刻印された角と丸の社印(いずれも真正のもの)をそれぞれ押印した。(甲6,乙A13)
エ 被告Y1は,上記ウと同様に,平成17年3月期の残高確認書の偽造の依頼を受け,平成17年4月22日付け「勘定残高確認ご依頼の件」と題する書面(甲7。以下「平成17年度残高確認書」という。)を作成した。同書面は,d事務所が,a社の会計監査にあたり,同年3月31日時点におけるa社の被告Y2社に対する売掛金14億0551万8450円の残高確認を求めるものであるところ,被告Y1は,上記金額と相違ない旨記載された欄に,「Y2株式会社 購本 デバイスプロダクト調達」と刻印されたゴム印及び「Y2株式会社 購買本部デバイスプロダクト調達統括部」と刻印された丸の社印(いずれも真正のもの)をそれぞれ押印した。(甲7,乙A13)
オ 被告Y1は,平成17年頃,Fから,a社の主幹事証券会社であるHSBC証券株式会社(以下「HSBC証券」という。)のヒアリングを受けるよう依頼され,これに応じ,HSBC証券担当者からヒアリングを受けた。(乙A13)
カ 被告Y1は,平成19年11月頃,Fから,a社の主幹事証券会社がHSBC証券からみずほインベスターズ証券株式会社(当時。現商号は「みずほ証券株式会社」であり,以下「みずほ証券」という。)に変更されたことから,みずほ証券のヒアリングを受けるよう依頼され,これに応じ,同年12月3日,被告Y2社川崎工場において,E及びGの立会いの下,みずほ証券担当者からヒアリングを受けた。(甲8の1,甲9の1ないし3)
(3)  a社の粉飾上場に至る経緯等
ア a社は,平成19年12月20日,東証に対し,マザーズ市場への上場申請をした(以下「第1次申請」という。)。これにより,東証から自主規制業務を委託されている東京証券所自主規制法人(平成26年4月1日付けで日本取引所自主規制法人に名称変更。以下「自主規制法人」という。)の上場審査部は,a社の上場審査を開始した。(甲8の1)
イ 東証は,平成20年2月14日,a社が平成16年頃から注文書,検収書類を偽造して巨額な粉飾決算をしている旨,注文書偽造については,被告Y2社の購買部長が巨額のストックオプションと引き換えに偽注文書を発行した旨などを記載した匿名の同月13日付け「注文書偽造による巨額粉飾決算企業の告発」と題する書面(以下「第1次投書」という。)を受けた。自主規制法人の上場審査部及びみずほ証券は,第1次投書の真偽を調査したが,第1次投書に係る粉飾決算の事実を認めるに足りないと判断した。(甲17,33,38,乙A6,A7,A9,A11,A12)
ウ a社は,平成20年4月17日,第1次申請を取り下げた。(甲8の1)
エ a社は,平成20年12月1日,東証に対し,改めてマザーズ市場への上場申請をしたが(以下「第2次申請」という。),平成21年5月中旬,第2次申請を取り下げた。(甲8の1)
オ a社は,平成21年8月18日,東証に対し,改めてマザーズ市場への上場申請をした(以下「第3次申請」という。)。(甲8の1)
カ 東証は,平成21年10月16日,a社株式についてマザーズ市場への上場を承認し,a社は,同日,東証に対して「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)(甲32),関東財務局長に対して有価証券届出書(甲1)を各提出し,上場予定日を平成21年11月20日として,株式の売出しや公募等の手続を進めることになった。しかしながら,東証は,同月27日,第1次投書と同旨の「10月16日付で東証マザーズに上場承認された株式会社aの巨額粉飾決算の実態についての告発」と題する書面(以下「第2次投書」という。)を受けた。自主規制法人の上場審査部及びみずほ証券は,第2次投書の真偽を調査したが,第2次投書に係る粉飾決算の事実を認めるに足りないと判断した。(甲1,甲8の1,甲17,32,乙A7,A9,A10)
キ a社は,平成21年11月20日,マザーズ市場へ株式を上場した。(争いがない事実)
(4)  a社の粉飾決算の発覚及び上場廃止等
ア 証券取引等監視委員会は,平成22年5月12日,金融商品取引法違反容疑で,a社に対する強制捜査(捜索・差押え)を実施した。そこで,東証は,同月13日,a社株式を開示注意銘柄に指定した。(甲17,乙A3の1)
a社は,同月16日,上場時に提出した有価証券届出書に売上高を過大に計上するなどした虚偽の決算情報を記載し,粉飾額が100億円規模に上るとの東証による報道の真偽につき,概ね上記報道のとおりであり,東証への新規上場申請書類において虚偽の決算情報を記載したことを認める旨の開示をした。(乙A3の2)
東証は,同月18日,a社株式を同日から同年6月18日まで整理銘柄に指定し,a社の上記開示に係る虚偽の内容が,会社の状況を示す最も基本的な情報である決算情報に係るものであり,さらに,その規模が,a社の新規上場直前事業年度である平成21年3月期の連結売上高118億円に対して100億円にも上るものであって,売上の大部分に係る極めて重要かつ巨額なものであったと認められ,しかも,a社が,虚偽の決算情報であると認識しながら,新規上場申請書類において当該決算情報を記載し,上場申請時に提出し,上場承認を得ていたとして,新規上場申請における宣誓書において宣誓した事項について重大な違反を行ったと認められるとして,上場廃止が適当であり,同廃止日を同年6月19日とする旨決定し,速やかに上場廃止すべき事情が発生した場合は,上記整理銘柄指定期間及び上場廃止日を変更することがあるとした。(甲17,28,乙A3の4)
イ a社は,平成22年5月21日,東京地方裁判所に対し,破産手続開始の申立てをし,同裁判所は,同月31日,破産手続開始決定をした。(争いがない事実)
ウ a社の株式は,平成22年6月15日,上場廃止となった。(争いがない事実)
エ a社の株式の平成21年11月20日(上場日)から平成22年6月15日(上場廃止日)までの株価(1株。以下同じ。)の推移は,別紙株価推移表のとおりであり,515円から875円の価格幅で推移し,粉飾決算が発覚した平成22年5月12日の前日である同月11日の株価の終値は775円であった。(乙B6,弁論の全趣旨)
オ Dは平成22年9月15日に,E及びFは同月16日に,それぞれ逮捕され,その後,D及びEは,金融商品取引法違反(偽造有価証券届出書提出罪及び偽計罪)で起訴され,平成24年2月29日,それぞれ懲役3年の実刑に処する旨の判決を受けた。(争いがない事実,甲3)
(5)  粉飾決算の概要等
a社の平成16年3月期から平成21年3月期までの各期の粉飾決算の概要は,別紙粉飾決算の概要記載1のとおりであり,第3次申請に係る平成21年3月期は架空売上割合が97.3パーセントであった。また,a社の平成16年3月期から平成20年3月期までの架空売上高の顧客等の詳細は,同別紙記載2ないし6のとおりであり,国内企業を顧客とする架空売上高は,平成16年3月期の架空売上高16億0858万9000円のうち被告Y2社のものが10億1858万9000円,平成17年3月期の架空売上高25億3600万円のうち被告Y2社のものが3億2000万円,i社のものが12億6000万円,平成18年3月期の架空売上高44億4100万円のうち被告Y2社のものが1億1000万円,i社のものが5億9600万円,j社のものが5億2000万円,平成19年3月期の架空売上高66億8800万円のうちj社のものが7億4000万円であった。(甲2,23)
(6)  破産配当及び別件訴訟における和解
ア 原告らは,a社の破産手続において,別紙請求債権目録の「C 配当割付(中間+最後)」欄記載の各金員の配当を受けた。(甲14の1及び2,弁論の全趣旨)
イ 原告らは,平成27年6月23日,J及びKを被告として東京地方裁判所に提起した損害賠償請求事件(以下「別件訴訟」という。)において,上記両名との間で,上記両名が,原告らに対し,和解金として,別紙請求債権目録の「F 和解金充当額」欄記載の各金員の支払義務を認める旨等を内容とする訴訟上の和解をした。上記両名は,同年7月22日,原告らに対し,上記各金員を支払った。(甲42,弁論の全趣旨)
2  争点
(1)  被告Y1の共同不法行為責任の有無
ア 被告Y1の加害行為の内容(争点1)
イ 被告Y1の上記各行為時における認識(争点2)
ウ 共同不法行為該当性等(争点3)
(2)  被告Y2社の使用者責任の有無(争点4)
(3)  原告らの損害の有無及びその額(争点5)
3  争点に関する当事者の主張
(1)  争点1(被告Y1の加害行為の内容)について
(原告らの主張)
ア 被告Y1は,E,F及びGから,a社が上場するために大手電機メーカーと取引している実績が必要であるなどとして,報酬としてa社上場後1億円程度を提供する代わりに,a社の被告Y2社に対する架空売上工作の協力を依頼され,これを承諾し,真実はa社の被告Y2社に対する売掛金がないにもかかわらず,これが存在する内容の平成16年度残高確認書及び平成17年度残高確認書を各偽造した。
イ 被告Y1は,平成17年頃,Fから,a社の上場主幹事証券会社であるHSBC証券からのヒアリングを受けることを依頼され,HSBC証券の担当者と面会した。その際,被告Y1は,被告Y2社がa社の半導体製造装置を購入していないにもかかわらず,評価機を納入後検収完了に至るまでは長期になること,a社は将来性があること,リピート機の購入も考えていること等の虚偽の回答をした。
ウ 被告Y1は,平成18年2月23日,a社の会計監査担当公認会計士であるH及びIと面談し,a社の半導体製造装置の納入の有無や使用状況,検収期間,返品可能性について確認された際,a社の半導体製造装置が被告Y2社に納入されていること,少量ながら製品を製造し販売していること,歩留まりが高くなったところで検収を行うこと,返品はないこと等の虚偽の回答をした。
エ 被告Y1は,平成19年12月頃,Fから,a社の上場主幹事証券会社がみずほ証券に替わったことから改めてヒアリングを受けることを依頼され,事前にGからヒアリングの想定問答集を受け取り,電話等で打ち合わせした上,同月3日,被告Y2社本店川崎工場会議室において,みずほ証券担当者と面会した。その際,被告Y1は,被告Y2社とa社との間には半導体製造装置の実際の取引はなく,今後購入の際a社製品が有力候補でないにもかかわらず,「営業に来る会社の中でもa社は先端技術を追っている会社である,技術的なことは分からないが,工場からも悪いうわさも聞かないので,a社のサポート状況も良いと思われる,先端技術を追っているので,a社はリピート機購入の有力候補である」等の虚偽の回答をした。
オ 小括
このように,被告Y1は,E,F,Gらに依頼され,a社の架空売上計上による粉飾上場に協力するため,被告Y2社名義の平成16年度残高確認書及び平成17年度残高確認書を各偽造し,平成17年頃に当時a社の上場主幹事証券会社であったHSBC証券とのヒアリング,平成18年2月23日にa社の公認会計士とのヒアリング及び平成19年12月3日のa社の上場主幹事証券会社であったみずほ証券とのヒアリングにおいて虚偽の説明をするといった一連の行為によって,a社の多額の架空売上計上による粉飾上場に加担した。
(被告らの主張)
ア 被告Y1が,平成16年度残高確認書及び平成17年度残高確認書を各偽造したことは認める。
イ HSBC証券からのヒアリングの回答は虚偽ではないこと
被告Y1は,HSBC証券担当者からのヒアリングの際,当たり障りのない話に終始しており,被告Y1が偽造した各残高確認書を示されて質問されることもなかった。a社の半導体製造装置の評価機が平成17年8月に被告Y2社の三重工場に納入されており,評価機を納入後検収完了に至るまで長期になるとの回答は事実である。また,被告Y1は,a社の半導体製造装置の評価機を使用していた三重工場から,同評価機のコストパフォーマンスが良い旨聞いており,被告Y1としては被告Y2社は予算が付けば買うつもりであろうと考えていたのであるから,a社に将来性があることや被告Y2社が将来a社の半導体製造装置の購入を考えているとする回答も,虚偽とはいえない。
したがって,被告Y1のHSBC証券担当者に対する回答は,いずれも虚偽ではない。
ウ 公認会計士からのヒアリングの回答は虚偽ではないこと
被告Y2社にa社の半導体製造装置の評価機が納入されていたこと,歩留まりが高くなったところで検収を行うこと,a社の上記評価機の評価が概ね良好であると聞いていたことから返品はないと考えていたことからすれば,被告Y1の公認会計士に対する回答は,いずれも虚偽とはいえない。
なお,被告Y1が,a社の上記評価機により製品を製造して販売したと発言することはあり得ない。
したがって,被告Y1の公認会計士に対する回答は,いずれも虚偽ではない。
エ みずほ証券からのヒアリングの回答は虚偽ではないこと
みずほ証券は,a社の上場申請に当たり,「販売先から見た当該会社の良い点と悪い点とを指摘してもらうこと」をヒアリングの目的とし,a社の将来性について調査したにすぎず,上記ヒアリングにおいて,過去の購入実績の有無等や事前に送付されていた想定問答集に係る質問もなかった。
そして,a社が先端技術を追っている会社であることは事実であるし,被告Y1はa社の評価機の評価が好評であると聞いており,工場から悪いうわさも聞かずサポート状況も良いと思われるとの回答及び将来同社の半導体製造装置が購入の有力候補である旨の回答も自らの認識に沿う発言であって,虚偽の回答とはいえない。
したがって,被告Y1のみずほ証券担当者に対する回答は,いずれも虚偽ではない。
(2)  争点2(被告Y1の上記各行為時における認識)について
(原告らの主張)
被告Y1は,平成16年度残高確認書の偽造を依頼された当初から,EやFから,a社が上場を目指していてそのために被告Y2社のような有名大手電機メーカーとの取引実績が必要である旨の説明を受けていたのであるから,a社が虚偽の事実に基づき上場を計画,実行しようとしており,被告Y1の上記行為がその上場に利用され,上場後a社株式取得者に損害を与えるものであることを認識していたか,容易に認識可能であった。
なお,平成16年3月期の架空売上計上につき,a社の営業が不調でa社製の装置の具体的な販売可能性もなく,期ずれで売上を計上することは不可能な状態にあったから,被告Y2社の上記3月期における架空売上は,近い将来に確実に受注できるものを前倒しで計上したものでなかった。
(被告らの主張)
ア 各残高確認書の偽造当時の認識等
(ア) a社は,平成16年4月の段階では,平成16年3月期の粉飾決算は金融機関の融資等を維持するための一時的なものであり,上場まで視野に入れた粉飾決算をしたわけではない。
(イ) 被告Y1は,F及びGと旧知の仲であったところ,平成16年4月頃,F及びGから,a社の大幅な赤字転落を回避し,融資を受けることによりa社を存続させるという目的の下,被告Y2社のような有名大手電機メーカーとの取引実績が必要であるとして,平成16年度残高確認書の作成を依頼された。F及びGは,上記依頼の際,上記残高確認書の使用目的についての詳しい説明をせず,粉飾決算や上場,上場後の謝礼等の説明もしなかった。これは,平成17年4月頃も同様である。
(ウ) 被告Y1は,被告Y2社において,残高確認書は経理部が発行するものであって,購買部が発行することはないから,仮に自身が残高確認書に購買部の印を押印してこれを作成したとしても,決算書類等の正式な書類として使用されることはなく,上記残高確認書がF及びGの営業実績作りのためにa社内部で使用されるものと考えていた。被告Y1は,各残高確認書を偽造し,これをGに対し交付する際も,上記残高確認書が公にならない旨を確認して交付した。
(エ) このように,そもそも,a社は平成16年4月時点又は平成17年4月時点の粉飾決算によって上場する計画はなく,また,被告Y1は,各残高確認書を偽造するに当たり,a社が上場するなどという認識はなく,かつ,各残高確認書が正式な書類として使用されるとの認識もなかったのであるから,各残高確認書が粉飾決算に用いられ,上場申請の書類として用いられるとの認識を持ち得なかった。
イ HSBC証券などからのヒアリング当時の認識
被告Y1は,HSBC証券からのヒアリングを依頼されたときに,a社が上場を目指していることを認識したが,HSBC証券,公認会計士及びみずほ証券からの各ヒアリングの依頼は,被告Y2社を通さない非公式のものであったから,上記各ヒアリングの回答結果が,a社の上場審査に影響をもたらすものであると認識していなかった。
(3)  争点3(共同不法行為該当性等)について
(原告らの主張)
ア a社が株式をマザーズ市場に上場させるためには,会計監査を担当する公認会計士,主幹事証券会社及び東証に対し,架空売上を真実の売上であると信用させる必要がある。被告Y1がした本件各行為は,a社の取引先としての被告Y2社による外部証拠として,会計監査手続や引受審査手続において高い信用性を発揮したから,架空売上の存在を隠蔽するとともに,a社と被告Y2社との間に取引があると信用させるのに大きな役割を果たした。
イ そもそも決算が各期独立のものではなく前期のものを前提に引き継ぐものであることからすれば,平成16年度残高確認書及び平成17年度残高確認書による架空売上計上の影響も引き継がれているというべきである。
ウ 3回の上場申請に対応した各上場審査はそれぞれ別個独立に行われるのではなく,途中で上場申請が取り下げられた場合も,次の上場申請における上場審査は途中までされた前回の審査を引き継ぐのが実態であったことから,被告Y1の各行為が直接的には上場審査を行う東証に対するものでないとしても,上場審査における影響力は大きい。
エ 被告Y1がa社と被告Y2社との間の取引の有無につき真実の回答をしていれば,主幹事証券会社は上場推薦書を取引所に提出することができず,また,公認会計士は無限定適正意見を出すことができなかった以上,a社の株式が取引所市場に上場することはなかった。
オ 以上から,被告Y1の一連の行為は,a社の粉飾上場を容易にさせるものであり,a社の上場後粉飾発覚により生じた原告らの損害と被告Y1の一連の行為には因果関係が認められるから,被告Y1は,民法709条,同法719条1項又は2項に基づき,損害を賠償する責任を負う。
(被告らの主張)
ア 共同不法行為等には該当しないこと
原告らの損害の直接の原因となったのは,a社の役員らによるa社の有価証券報告書の虚偽記載及び当該有価証券報告書に基づく3回目の上場申請である。有価証券報告書は,金融商品取引法に基づき,有価証券の発行者に提出が義務付けられているものであり,その内容の正確性について投資者に対して直接責任を負うべき立場にあるのは,これを提出した会社及びその会社の取締役等である(金融商品取引法18条,21条,21条の2及び21条の4)。したがって,本件で,原告らに発生した損害につき原告らに対して直接責任を負うべき立場にあるのは,a社及びa社の役員らである。
これに対し,被告Y1は,a社の役員又は従業員ではなくa社とは無関係の第三者であるから,原告らに対し,直接責任を負わないのが原則であるし,以下に述べるとおり,被告Y1の関与の程度からして,この程度の行為では,投資家に対して直接不法行為責任を負うことが相当と認められる程度に,有価証券報告書の虚偽記載の作出に重要な役割を果たしたと評価することは困難であるから,被告Y1は,原告に対し,民法709条,同法719条1項又は2項に基づき,損害を賠償する責任を負わない。
イ 因果関係がないこと
a社は,第1次申請及び第2次申請をいずれも取り下げ,第3次申請にてようやくその株式を上場させたものであるところ,被告Y1は,上場が認められるに至った第3次申請には何ら関与していない。被告Y1の各行為からa社の株式の上場までには,相当の時間が経過しており,その間に発生した事情(a社が被告Y1とは無関係に行った粉飾行為や上場申請行為,みずほ証券による上場申請関与行為,東証による数次にわたる上場審査行為等)が介在していた。そして,被告Y1の各行為による被告Y2社の架空売上計上がなくても,a社はマザーズ市場に上場していたと予想される。以上から,被告Y1の各行為と原告らのa社の株式取得との間には相当因果関係がない。
(ア) 平成16年度残高確認書
平成16年度残高確認書の作成は,a社の上場の5年以上前の行為である。そして,a社の上場の申請資料として作成された有価証券届出書には,平成16年3月期の記載はなく,上記残高確認書の記載内容は上場審査の対象となっていない。
したがって,被告Y1による上記残高確認書の作成がなかったとしても,a社の株式は上場していたのであるから,因果関係はない。
(イ) 平成17年度残高確認書
被告Y1が作成した平成17年度残高確認書記載の金額が,a社の同期の売上に計上されたか否かは不明であるし,仮にa社の同期の売上に被告Y2社に対する約14億円の架空売上が含まれているとしても,上場審査を通過するには,直近かつ複数年度にわたる高い成長可能性が要求されるのであり,一次的に約14億円の売掛残高証明があるからといって,直ちに上場が可能になるわけではない。
マザーズ市場の上場審査基準によれば,有価証券報告書のうち監査証明の対象となるのは,最近2事業年度及び連結会計年度に係る財務諸表及び連結財務諸表であることからすると,平成17年3月期の決算情報は,上場時における監査証明の対象となっていなかった。現に,上場時の有価証券届出書に添付された独立監査人の監査報告書では,平成19年4月以降の財務諸表について意見は述べられているものの,被告Y1が作成した残高確認書の金額が計上された可能性がある平成17年3月期の財務諸表については全く触れられていない。
(ウ) HSBC証券からのヒアリング
HSBC証券は,a社の上場手続を実行していないのであるから,HSBC証券からのヒアリングとa社の株式上場及び原告らの損害との間に因果関係はない。
(エ) 公認会計士からのヒアリング
公認会計士からのヒアリングが実施されたのは平成18年であり,有価証券届出書のための監査報告書(平成20年,平成21年)とは関係がないから,公認会計士からのヒアリングとa社の株式上場及び原告らの損害との間に因果関係はない。
(オ) みずほ証券からのヒアリング
みずほ証券からのヒアリングは,平成19年12月の第1次申請の申請資料作成のために行われたものであり,第3次申請の際の上場審査の資料とはなっていないから,みずほ証券からのヒアリングとa社の株式上場及び原告らの損害との間に因果関係はない。
(4)  争点4(被告Y2社の使用者責任の有無)について
(原告らの主張)
ア 被告Y1は,平成14年12月から被告Y2社の購買本部デバイスプロダクト調達統括部設備調達部,平成17年4月から同本部設備・材料調達統括部設備調達部,平成19年4月から同本部システムプロダクト調達統括部メカニカルパーツ統括部の各担当課長を歴任した。被告Y1は,平成19年4月に異動するまで半導体製造装置に係る購買契約締結権限を有していた以上,自身が締結した購買契約の確認行為として,残高確認書の作成,公認会計士及び主幹事証券会社とのヒアリングをすることも,被告Y1の職務の範囲に属するか,あるいはその行為の外形から観察して,あたかも被告Y1の範囲内の行為に属するものとみられる。
イ また,みずほ証券とのヒアリング当時,被告Y1は上記同メカニカルパーツ統括部所属していたが,購買の対象製品が変わっただけであり,上記ヒアリングも被告Y1の購買部門の職務に相当の関連性を有する行為といえる。
ウ このように,被告Y1が作成した偽造残高確認書は,被告Y1が保管を任されていた被告Y2社の正式な印鑑を使用して作成されたものであるし,また,被告Y1と主幹事証券会社担当者及び会計監査担当公認会計士からのヒアリングは,被告Y1が被告Y2社の従業員として,その勤務時間内に被告Y2社社内で行われたものであるから,被告Y1の上記各行為は,被告Y2社の被用者としてその事業の執行についてしたものである。
(被告Y2社の主張)
ア 被告Y2社は,デバイスプロダクト調達統括部やシステムプロダクト調達統括部などのいわゆる事業部制であり,各事業部に購買部を置いている。購買部は,各部門から購入の依頼を受け付け,購入候補会社に対して見積もりを依頼し,見積回答を得,同回答に基づき,購入先会社に対し,注文書等により発注をしていた。注文書等の発行後の物品の納入や検収は事業部が担当し,代金の請求及び代金の支払は経理部が担当し,いずれも購買部の職務ではなかった。
被告Y2社では,購買対象物毎に複数の購買部門が存在し,特定の取引先に対して複数の購買部門が関与することがあるため,職務分掌上,当該取引先に対する被告Y2社の買掛債権額を対外的に確認できるのは経理部だけであって,個別の購買部がこれを確認することはできなかった。
イ 被告Y1は,各残高確認書の偽造に当たり,購買部門の印鑑等を冒用したが,当該印鑑等が押印されたとしても,それが残高確認書を作成する権限を有しない部門の印鑑等であり,被告Y1に当該書面を作成する権限がないのであるから,被告Y1による残高確認書の作成行為は,被告Y1が購買部門で担当していた職務と関連性を有しないものであるし,被告Y1が権限外にこれらの作成を行うことが客観的に容易な状態に置かれていたわけでもないから,被告Y1の職務の範囲内の行為とはいえず,外形上も被告Y1の職務の範囲内の行為に属するものとみることもできない。
ウ 取引先でない第三者によるヒアリングへの回答は,被告Y2社とa社との間の購買契約の締結に向けた行為ではない。検収,取引先の評価及び購買意欲に関する事項は事業部の分掌職務であり,本来被告Y1が回答できる事項ではない。また,被告Y1は,みずほ証券のヒアリング時点では,半導体製造装置に関する購買本部デバイスプロダクト調達統括部設備調達部から異動していたことから,a社の半導体製造装置に関する事項について回答できる立場になかった。
したがって,被告Y1のHSBC証券,公認会計士及びみずほ証券の各ヒアリングに対する回答行為は,被告Y1が購買部門で担当していた職務と関連性を有しないものであるから,被告Y1の職務の範囲内の行為とはいえず,また,外形上も被告Y1の職務の範囲内の行為に属するものとみることもできない。
(5)  争点5(原告らの損害の有無及びその額)について
(原告らの主張)
ア 取得自体損害
(ア) 被告Y1の各行為がなければ,a社の株式が取引所市場に上場されることも,原告らがa社の株式を取得することもなく,その後,a社は破産してa社の株式は無価値となったものであるから,被告Y1の各行為により原告らに生じた損害の額は,上場時にa社の株式を取得した原告,上場後虚偽記載が発覚する前日である平成22年5月11日までに取得した原告を問わず,a社の株式を取引所市場において処分したときはその取得価額(取引手数料を含む。以下同じ。)と処分価額との差額,また,上記株式を保有し続けていたときはその取得価額となる。
(イ) a社は,上場当時の売上の約97%が架空であり,本来は同社の株式がほぼ無価値であるが故に上場自体不可能であったのであるから,企業価値や経済活動の実体を反映した株式の価値が市場で評価されていた西武鉄道事件(最高裁判所平成21年(受)第1177号同23年9月13日第三小法廷判決・民集65巻6号2511頁参照)とは事案を異にする。
a社の粉飾決算が同社株式の上場からわずか約半年後に発覚したこと,その間に上場時の評価と異なるa社株式の評価を基礎付ける情報が市場に提供された痕跡がみられないことからすれば,上場から虚偽記載発覚までのおよそ半年間のa社株価の変動は,全てa社株式の上場時に虚偽記載のある有価証券届出書によって市場に提供された情報を基礎としているといえ,虚偽記載と一定の関連性を有する。すなわち,a社株式は,上場時からその評価の大半が粉飾に起因するものであり,上場時から投資家が自己責任に基づいて投資判断を行いその判断の結果についてリスクを負担するための前提条件を欠いていた。上場後も,a社株式に関する投資判断に影響を与える情報で虚偽記載と無関係のものはなく,投資家は上場時に市場に提供された粉飾決算を内容とする有価証券届出書に依拠して投資判断を行っていた。そうすると,原告らは,a社株式が上場されていた全期間を通じ,同株式に対する投資判断は歪められその自己責任の基盤が失われていたのであるから,上場から虚偽記載発覚までの株価下落分も虚偽記載と相当因果関係を有するものというべきである。
イ 弁護士費用
本件事案の難易度等からすれば,被告Y1の不法行為と相当因果関係のある損害として,認容額の1割が弁護士費用相当損害である。
ウ 遅延損害金,破産配当及び別件訴訟における和解金の充当
原告らの損害は,a社株式取得時点に生じており,不法行為の損害賠償債務が損害発生と同時に何らの催告を要せず遅滞に陥るのであるから,遅延損害金の起算日は原告らのa社株式の取得日からとなる。
もっとも,本件では,別件訴訟において,J及びKと和解し,平成27年7月20日,別紙請求債権目録の「F 和解金充当額」欄記載の支払を受けたから,同別紙の「E 遅延損害金額(株式取得日毎,平成27年7月20日まで)」欄記載の各株式取得日から平成27年7月20日までの遅延損害金の合計額,同別紙の「D 配当差引後の損害金(株式取得日別)」欄記載の原告らの損害額に順次充当した結果,原告らの損害は,同別紙「G 和解金差引後の損害金」欄記載の金員となり,本件で請求すべき遅延損害金は平成27年7月21日以降のものとなる。
エ 小括
以上から,原告らの損害は,別紙請求債権目録の「G 和解金差引後の損害金」欄記載のとおりであるが,原告らは,本件において,同別紙「H 本件請求金額」欄記載の金員につき,一部請求する。
(被告らの主張)
ア 虚偽記載に起因しない市場価額の下落の控除
原告らは,取得したa社の株式の市場価額が,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等虚偽記載とは無関係な要因に基づき変動することは当然想定した上で,これを投資の対象として取得し,かつ,上記要因に関しては開示された情報に基づきこれを処分するか保有し続けるかを自ら判断することができる状態にあったのであるから,自らの判断でその保有を継続していた間に生ずる上記要因に基づく市場価額の変動リスクは,原告らが自ら負うべきである。したがって,原告らの損害を算定するに当たり,虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を取得価額と処分価額又は保有株式の市場価額との差額から控除すべきである。
すなわち,虚偽記載の事実は平成22年5月12日に初めて公表されたのであるから,公表の前日である同月11日のa社の株式の終値775円は,虚偽記載の事実とは無関係に形成された株価である。したがって,原告らの取得価額が上記775円よりも高い場合には,当該取得価額と775円との差額は,虚偽記載に起因しない市場価額の下落分といえ,控除すべきである。
イ 取引手数料
取引手数料は,株式取引をするに当たり当然に発生する費用であり,投資者としては,虚偽記載とは無関係に,取得時及び売却時に支払うことを想定して株式を取引するものといえる。したがって,取引手数料は,虚偽記載に起因しない市場価額の下落分と同様に,虚偽記載と相当因果関係のないものとして,損害には含まれない。
ウ 弁護士費用
原告らの主張は争う。本件における弁護士費用相当損害金として,認容額の10%は不相当に高額である。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記前提事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。
(1)  マザーズ市場について
ア マザーズ市場は,新興企業に対してより早い段階から証券市場を通じた資金調達の機会を提供することにより,企業の成長を支援するとともに投資者の成長企業への投資機会を提供することを目的として,平成11年11月に開設された。(甲17)
マザーズ市場の上場審査基準の概要は,別紙東証の有価証券上場規程記載のとおりであり,本則市場である市場第一部や市場第二部とは異なり,純資産や利益の額といった過去の実績による基準がない代わりに,「高い成長可能性」が求められる。その「高い成長可能性」は,当該会社ならではの技術の優位性,当該会社の属する業界における競争力,今後収益の向上が見込めるかなどの観点から総合的に判断されるが,それらの主観的・抽象的な判断を裏付けるものとして,過去の販売実績など客観的な事情が極めて重要な判断要素となる。かかる「高い成長可能性」については,上場申請がされる前の段階で主幹事証券会社が判断し,上場申請に当たっては,主幹事証券会社において東証宛の推薦書を作成することになる。(甲17,乙A1)
イ 上場申請会社から,主幹事証券会社が事前に作成した推薦書,有価証券新規上場申請書,新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)等必要な書類を揃えた上で,東証に対して上場申請がされ,自主規制法人の上場審査部がそれら申請書類を受領し,上場審査を開始し,申請会社又は会計監査を行う公認会計士などに対するヒアリングを行うなどする。上場審査は,申請会社が上場審査基準を満たすか否かを審査する制度であって,会計監査の内容を精査するものではない。そして,残高確認書は,会計監査の際に,公認会計士が会計監査人として申請会社の債権債務の残高を確認するために用いる資料であり,上場審査における確認対象ではなく,上場申請時の提出書類ともされていない。(甲17,33)
一般的に,マザーズ市場への上場を申請した会社が1度目の申請を却下又は辞退後,再び2度目の上場申請を行うことは珍しくなく,その場合,2度目の上場申請における審査の際には,改めて一から全く同じような審査を行うのではなく,1度目の審査内容に依拠できる部分は依拠し,1度目の審査の時から事情変更があった点や,1度目の審査の際に問題となった点を主として審査を行うことが通例である。(甲17)
(2)  被告Y2社の職務の分掌等
ア 被告Y2社には,購買本部,事業本部及び財務経理部等が存在し,その購買本部だけでも500人以上の従業員が所属し,同本部が14の統括部に分かれ,同統括部がさらに1ないし4の部に分かれていた。(乙B1,B2,B4,B5)
そして,購買本部,事業本部及び財務経理部等の事務分掌が規定され,購買本部が社内の各部門から購入依頼を受けて取引候補会社から見積もりを得た上で発注を行い,事業本部が物品の納入や検収等を行い,財務経理部が代金の請求又は代金の支払等を行っていた。(乙B1,B2,B4,B5,弁論の全趣旨)
イ 被告Y2社の財務経理部は,平成18年頃,d事務所からの残高確認に対して回答していた。(乙B3)
(3)  被告Y2社がa社製の半導体製造装置の評価機の納入を受けていたこと
ア 被告Y2社は,平成17年6月頃,被告Y2社の三重工場において取り扱う半導体製品の製造工程数が増加したことから,各製造工程に使用する製造装置の増設が必要な状況にあった。そこで,被告Y2社では,新たに製造装置を導入することが検討されていた。被告Y2社は,a社から半導体製造装置の営業を受け,同年8月頃,a社製装置が当時三重工場で増設を検討していた製造装置と同種であったこと,a社で行われたデモ評価の結果が良好であったことから,a社製装置を借用して評価することとした。(弁論の全趣旨)
イ a社は,被告Y2社に対して評価機を納品し,被告Y2社三重工場では,工場内の評価機の設置工事を行い,実際と同様の製造工程を実施し,製品の評価を行ったが,最終的に,a社との間で購買契約を締結しなかった。(弁論の全趣旨)
(4)  平成16年3月期及び平成17年3月期における架空売上計上の経緯等
ア 平成13年にa社に入社して以来同社の財務担当であったEは,a社のように段階的に資金が必要となる製造業においては,株式公開による資金調達がふさわしいと考え,入社当時から,Dに対して,上場準備が必要である旨説明してきた。そして,Eは,平成15年秋頃,HSBC証券を主幹事証券会社に選定し,マザーズ市場に2年以内に上場することを目標に準備した。(甲19)
イ D,E及びFは,平成16年3月下旬,平成16年3月期に架空売上を計上するためにエッチング装置が納入できたかのような注文書を偽造することとし,被告Y2社名義のエッチング装置4台分の注文書を偽造することとした。F及びGは,被告Y2社と取引がある以前の勤務先の同僚から,被告Y2社の注文書のコピーを入手し,被告Y2社名義のエッチング装置4台分の注文書を偽造するとともに,被告Y2社名義の納品書兼検査票やa社の通帳等を偽造した。(甲13,23,24,乙A2,乙A4の1ないし3,乙A5)
ウ Fは,架空売上計上のためには,偽造注文書等だけではなく,偽造残高確認書が必要であるため,被告Y2社の従業員である被告Y1の協力を求めることとした。E,F及びGは,被告Y1に対し,a社が上場を目指していること,そのためには大手電機メーカーと取引しているとの実績が必要であること,上場した際にはa社の株式を売却するなどして約1億円の謝礼をするつもりであること,被告Y1には絶対に迷惑をかけないことなどを前提に,残高確認書に被告Y2社の印鑑を押してもらいたい旨依頼した。(甲12,13,23,乙A5)
エ 被告Y1は,上記ウの依頼に応じ,平成16年度残高確認書を作成し,また,平成17年3月期にも同様の依頼を受け,これに応じ,平成17年度残高確認書を作成した。(甲6,7)
オ なお,a社は,平成18年3月期にも被告Y2社に対する架空売上を計上しているが,上記期に係る偽造残高確認書は,被告Y1ではなくa社関係者が作成した。(甲4,弁論の全趣旨)
(5)  HSBC証券からのヒアリング
被告Y1は,平成17年頃,Fから,a社の主幹事証券会社であるHSBC証券からのヒアリングを受けるよう依頼を受け,これに応じ,ヒアリング当日,a社のE及びFと事前に打ち合わせをした上で,HSBC証券担当者からヒアリングを受けた。(乙A13)
(6)  公認会計士からのヒアリング
ア Hは,平成17年3月期の会計監査を行っていた際,a社の被告Y2社及びi社に対する売掛金が1年以上回収されてないことを確認した。Hは,半導体製造装置の初号機は技術検収を受けるまでにかなりの期間がかかり売掛金が長期滞留することも仕方がないことであるとは考えていたものの,a社の倒産リスクに結びつく可能性があると考え,次期の会計監査では,書面による残高確認という通常の監査手続にとどまらず,a社が売掛金を有している販売先を直接訪問し,実際にa社から納品された装置が使われているのか否か,返品の可能性があるのか否かなどについて,担当者から確認することをEに伝えた。そこで,Eは,被告Y2社に対するヒアリングとして,被告Y1との面会を設定した。(甲10)
Hは,Eから被告Y1が購買担当者であることを伝えられたが,被告Y2社における経理担当者が半導体製造製品に係る買掛金の存在を認識するのは技術検収がされた後であることから,未だ技術検収がされていない段階では,購買担当者でないと買掛金の存在を認識できないと考え,被告Y2社の購買担当者との面会でもよいと考えた。(甲10)
イ H及びIは,平成18年2月23日,被告Y2社川崎工場を訪問し,E及びFの立会いのもと,被告Y1に対するヒアリングを実施した。H及びIが,被告Y1に対し,装置の納入の有無,使用状況,検収時期,返品可能性について質問したところ,被告Y1は,a社の半導体製造装置が納入されていること,少量ながら製品を製造して販売していること,歩留まりが高くなったところで検収を行うこと,返品することはないことをそれぞれ回答した。Hは,被告Y1に対して,半導体製造装置の実物を見せてほしい旨伝えたが,被告Y1は,クリーンルームに入っているため見せることはできない旨回答した。(甲10)
(7)  みずほ証券からのヒアリング
ア Eは,平成18年12月18日,みずほ証券に対し,HSBC証券を主幹事証券会社として上場準備を進めていたが,同社の公開引受業務撤退に伴い,新たに主幹事証券会社を選定することになったとして,マザーズへの上場を目指しているため主幹事証券会社に就任してほしい旨打診をした。みずほ証券は,社内で検討した結果,a社が半導体製造装置メーカーであり新技術を持っているため競争力があること,業績が順調に伸びていること,既に公認会計士が会計監査を行っている会社法上の大会社であることなどから,平成19年4月19日,主幹事証券会社に就任した。(甲8の1)
イ みずほ証券公開引受部は,平成19年5月頃から同年10月頃までヒアリング等を行い,その後,みずほ証券引受審査部は,同年10月10日,同月11日,同月26日,同月30日及び同年11月27日,a社に対して,事業内容やコーポレート・ガバナンスの状況,関係会社,開示体制,取締役会議事録の内容,内部監査,株主の状況,業務フロー,業績推移,会計方針,資金繰りの状況などについて,ヒアリングを行ったほか,監査役や公認会計士に対してもヒアリングを行った。上記各ヒアリングにおいては,a社の注文書と通帳の写しとを照合し,受注したものについて入金がされているかを確認したほか,公認会計士に対するヒアリングにおいて販売先に対する売掛債権の残高確認の状況を確認した。(甲8の1)
ウ みずほ証券は,上記各ヒアリングと並行して,平成19年3月期のa社の売上高のうち約89パーセントは台湾や韓国の海外企業に対する売上であったことから,海外の取引先からa社製の半導体製造装置に対する評価を確認することも考えたが,引受審査部としては,通訳等を介在せずに信用ある日本企業の担当者に対して確認することが最も確実であると考え,結局,国内企業と海外企業の両方から確認することとした。a社は,みずほ証券から,海外取引先1社及び国内取引先1社の実査を予定している旨を伝えられ,Fは,国内企業で架空売上を計上していたi社及びj社に内部協力者がいなかったことから,同年11月頃,被告Y1に対し,a社の主幹事証券会社がHSBC証券からみずほ証券に変更があったことから,みずほ証券のヒアリングを受けるよう依頼した。被告Y1は,同年4月1日からサーバー・携帯電話基地局の部材を取り扱う購買本部メカニカルパーツ調達部に異動していて,半導体を扱う部署ではなかったことから,その旨をF及びGに対して伝えたものの,同人らから,担当部署を異動していてもよいと言われ,これを引き受けた。そこで,a社は,みずほ証券に対し,台湾のm社と国内の被告Y2社が実査を承諾した旨連絡した。(甲5,38,乙A5)
エ みずほ証券は,平成19年11月26日,a社から取引先に対する質問事項を事前に教えてほしい旨の連絡を受けたことから,同社に対し,被告Y1とのヒアリングにおける予定質問事項をメールで送付した。その後,Gは,同月28日,被告Y1に対し,想定問答集を送付した。(乙A5)
オ 上記想定問答集には,①みずほ証券の出席者の所属部署,性格等,②基本的な対応として,取引内容の詳細は話せないと突き放すこと,a社の技術の優位性を多く述べること,全ての取引につき発注書が発行されていることにすること,各工場にエッチャー及びアッシャーが複数台販売済みであることとし,具体的な台数についての詳細は話せないと突き放すこと,検収完了日は分からないが長いのが標準であると述べることなどの基本的な対応方法が記載されていた。また,以下のとおり,a社における初号機とリピート機の分類を区別して回答してもらいたい旨の記載があった。
(ア) a社が顧客に販売する装置は,「初号機販売」と「リピート販売」とに分けることができる。
(イ) 顧客の新しい生産ラインに販売する装置を「初号機」という。通常1台から数台で,技術検収完了まで2年くらい必要である。資金回収は,技術検収完了後である。この傾向は業界標準であり,前工程の「初号機販売」は大体この期間が必要である。2年くらい必要な理由は,前工程ライン全体の歩留まりを一定の水準に上げるために長期間必要であるからである。
(ウ) 「初号機販売」後,前工程全体の歩留まりが一定の水準に達した段階で販売する装置を「リピート販売」という。通常5台から数十台と多い。「初号機販売」とは違い,前工程全体の歩留まりが確保されているので,技術検収完了までの期間が短く,通常6か月くらいで検収完了する。
(エ) a社は若い会社であるから,現段階では「初号機販売」が多いと思う。これから「リピート販売」が増えると思う。
(オ) 「初号機販売」で納入された装置を活用して,デバイスは製造している。「デバイスを製造していない。」と回答してはいけない。「製造している。」という回答は必要である。
さらに,上記想定問答集には,みずほ証券が希望している質問内容とそれに対する回答例として,①「a社との取引開始の経緯」については,a社の○○ICPは,エッチング技術部門が早くから注目しており,エンジニアレベルでは10年ぐらい前の発表当時からコンタクトしていた旨,a社と被告Y2社の取引は,被告Y2社製装置販売での取引が先にスタートしていたが,被告Y1は4年ぐらい前から装置購入で取引開始した旨,これ以上詳しいことは話せない旨,②「被告Y2社における今後の設備投資計画」については,計画は経営者が考えているためよく分からず,新聞等の発表を見てもらいたいが,今期は例年通り数百億円規模であろう旨,③「設備投資計画の中でエッチング装置・アッシング装置への投資計画」については,全体の投資計画が分からないため答えられないが,例年通りの投資になると思われ,エッチャー,アッシャーとも年間数十台購入すると思われる旨,④「他の製造装置メーカーと比較してのa社に対する評価(装置の性能,価格,メンテナンス体制)」については,装置の基本性能につき,非常にすばらしく,エッチャーは世界で唯一の「Narrow Gap ICP」で,微細化に最適なソースを持っている旨,ICPなので高密度プラズマを生成でき,なおかつ制御性がよいのがすごい旨,e社と他社は,CCPだから微細化までは厳しいと思う旨,アッシャーは,有名なL博士のソースを改良しており,他社より性能がいい旨,装置の安定性をだいぶ評価(発注書を発行して購入する前に評価したこととする。)したため,問題なく安定して稼働していると聞いている旨,価格につき,エッチャーはe社などより多少安いくらいであるが,性能を評価して購入するから関係ない旨,アッシャーは価格が重要であり,a社は他社よりも安く提供できるメーカーである旨(絶対に具体的な価格を言わず,価格を聞かれても言えないと答える旨),メンテナンス体制につき,a社は会社が若いから最も不安な要素だが,よく対応しているので問題ないと考えている旨,これから人が増えると聞いているため,さらに充実すると思っている旨,上場するのはいいことだと思う旨,⑤「現在導入しているa社製装置の種類と各装置のインスペクションにおける評価(満足な結果が得られているか)」について,エッチャーもアッシャーも購入しているが,具体的なことは話せない旨,安定して稼働していて特に問題はない旨,先端ラインなので,技術検収までは時間がかかると思う旨,⑥「今後のa社製装置の導入計画」について,投資計画の詳しい話はできないが,被告Y2社はa社に対して大きな期待を持っている旨,将来にわたり相当な台数を購入することになると思う旨回答するよう記載されていた。(甲5)
カ みずほ証券担当者は,平成19年11月29日にはm社を実査し,同年12月3日,被告Y2社川崎工場を訪問し,a社からE及びGの立会いの下,被告Y1に対してヒアリングを実施した。被告Y1は,受付の女性から鍵を受け取り,みずほ証券担当者らを会議室に案内した。その際,被告Y1は,Gに対し,「上場するの。」などと親しげに話しかけるなどした。被告Y1は,みずほ証券担当者からの質問に対し,上記想定問答集に基づき,概要以下のとおり回答した。なお,上記ヒアリングにおいて,みずほ証券担当者は,a社製半導体製造装置の設置を確認しなかった。(甲8の1,甲9の1ないし3,甲38,乙A6,A8)
(ア) 取引開始の経緯(なぜa社を取引先として採用したか)
デバイスの分野において,a社は先端の技術を追っている。以前から,色々な装置メーカーに注目しており,a社も技術力がある最先端の一社として認識しており,4年ないし5年前に接触した。
(イ) 他の装置メーカーと比較したa社の優位性(e社,k社,l社と比較しa社をどう見ているか)
被告Y2社は,先端の技術を追い,先端の会社と取引している。技術のことは分からないが,被告Y2社と取引していることから,高技術を持っていると思われる。価格も高いわけではない。業界内で後発の会社であるので,サポート状況も良いと思われる(悪い情報が工場から来ない。)。
(ウ) 購入したエッチング装置及びアッシング装置の使用結果
問題なく動いている。
(エ) エンドユーザーからみた要望はあるか
余裕があれば,工場の近所にエンジニアを配置してほしい程度であり,現況は,故障などはないため対応状況に問題はない。
(オ) 他社取引先で不満に感じていることはどのようなことか
外資の場合,撤退することがあり経営者の交代により方針が変わる点であるが,国内の取引先は,商慣行も知っていて,サービスもいい。
(カ) 今後もa社製装置を購入する意欲はあるか
有力候補である。理由としては,先端の技術を追っているからである。
(キ) 半導体業界への投資意欲について
後工程はアウトソーシングしている会社が多いが,前工程は旬の技術を社内で作成し社内で売ることが続くと考える。
(8)  上場申請等の経緯
ア 第1次申請
(ア) みずほ証券引受審査部は,平成19年12月7日,再度H,I及びJに対するヒアリングを実施し,売上高の確認状況について,製品出荷に関する証書は精密機械を運送できる運送会社の受領書等で確認している旨,売掛債権の残高確認状況について,残高確認書は発注した会社の購買部に対して送っている旨それぞれ確認した。(甲8の1,甲38)
(イ) みずほ証券は,平成19年12月13日,東証に対し,a社に成長性があることや反社会的勢力との関係がないことなどの事前説明を行い,a社は,同月20日,第1次申請をした。その後,自主規制法人の上場審査役らによる審査が始まり,みずほ証券引受審査部担当者同席の下,a社に対するヒアリングや実査が行われた。自主規制法人の上場審査役らは,a社の売掛金回収計画や未回収の売掛債権が長期滞留している点を重点的に質問したが,Eの説明やH,I及びJの説明に納得し,審査は順調に進んだ。(甲8の1,甲17,33,乙A11)
イ 第1次投書等
(ア) 東証は,平成20年2月14日,第1次投書を受け,上場審査部として追加調査すべきであると判断し,みずほ証券に対し,確認を要する事項が発生したため,上場承認を延期する旨伝えた。自主規制法人の上場審査部は,a社の預金通帳や帳簿類の原本確認,過去の年次に遡って帳簿類の確認を行う必要があると判断し,同月20日,みずほ証券担当者と共にa社を抜き打ちで訪問して,平成15年3月期からのa社の預金通帳の原本や平成15年3月期まで遡って帳票類の現物を確認するとともに,a社の営業担当者からも販売先の状況等につきヒアリングを実施した。この際,被告Y1が偽造した各残高確認書の原本は確認されなかった。(甲17,33,38,乙A6,A7,A11,A12)
みずほ証券も,平成20年2月25日頃,第1次投書を確認した。(甲8の1)
(イ) 自主規制法人の上場審査部は,さらに,平成20年2月27日,H,I及びJに対するヒアリングを実施し,監査法人による監査の際の売掛金回収状況等を集約した書面を確認したものの,残高確認書の原本の確認はしなかった。上記ヒアリングにより,①残高確認書に基づく一連の残高確認手続について,監査手続や監査意見を形成する上で問題がなかったこと,②過去の監査においても,架空の売上を窺わせるような事情は認められていないこと,③監査手続において,売上計上だけではなく売上に対応する原価の動きも確認しているため,投書に記載されているような問題の存在は認識していないこと,④監査手続において,被告Y2社に対する納品を確認するために,被告Y2社の川崎工場の購買課長被告Y1に直接会って作業日報を確認したところ,納品受領書に記載された日付どおりに設置作業が行われたとの記載があったこと,⑤監査手続において,製品を運送業者との間で循環させているような状況が認められず運送業者の関与の可能性も認められないことをそれぞれ確認した。(甲17,33,乙A9,A11,A12,弁論の全趣旨)
(ウ) 自主監査法人の上場審査部は,最終的に,第1次投書に係る粉飾決算の事実を認めるに足りないと判断した。(甲17,乙A11,A12)
(エ) 東証による追加調査が終了し,みずほ証券引受審査部においても,平成20年4月2日から同月10日頃にかけて,第1次投書に記載のあった決算の粉飾事実の真偽につき,平成15年3月期以降の全案件の見積書,注文書,非口座製造指示書,納品書,請求書,輸出許可通知書等帳票類の写し,通帳等の写しをa社から提出を受けるなどの追加調査をした。その結果,各帳票類や入金状況に不自然な点はなく,また,被告Y2社関係者にストックオプションが付与された事実はなく,第1次投書記載の決算の粉飾事実は確認できなかった。(甲8の1,甲34,38,乙A6)
(オ) H及びIは,平成20年4月8日,多額かつ長期滞留状況がみられる得意先である台湾のn社を訪問し,納入装置の有無,稼働状況,返品の可能性等を確認した。(甲10)
(カ) Eは,平成20年4月15日,市場環境等の悪化のために想定していた資本政策が組めなくなったこと,また,第1次投書をしたのはa社の社員であり社内管理体制を見直す必要があることを理由に,第1次申請を取り下げたい旨の意向を示し,a社は,同年4月17日,東証に対する第1次申請を取り下げた。(甲8の1,甲38)
ウ 第2次申請
(ア) みずほ証券引受審査部は,平成20年8月から同年11月までの間,a社のE及び公認会計士から,同年3月期決算の利益計画の達成状況,第1次申請取下げの原因となった第1次投書を提出した社員への対応状況等を確認した。なお,同審査部は,第1次申請前にa社の取引先に対するヒアリングを行っていたことから,改めてこれをすることはなかった。(甲8の1,甲38)
(イ) みずほ証券は,東証に対する事前説明を行い,a社は,平成20年12月1日,第2次申請をした。これにより,自主規制法人の上場審査役らによる審査が開始されたが,第1次申請時の審査結果を踏まえ,前回の審査時からの変更事項や,第1次投書を受けた社内管理体制の改善などに審査の重点が置かれた。その後,a社の販売先の経営状況悪化が続き,東証の審査が延長され,基準となる決算期が変わることもあって,a社は,平成21年5月中旬,第2次申請を取り下げた。(甲8の1,甲17)
エ 第3次申請
(ア) みずほ証券は,平成21年6月頃から,再びa社の上場準備に着手し,取引先の経営状況の確認や,未公開の増資に伴い新たに株主に加わったベンチャーキャピタルやファンドの中に反社会的勢力と関わりがある者がいないかを確認し,みずほ証券引受審査部は,半導体市場の動向,債権回収及び資金繰りの状況に留意して調査を行ったところ,上場申請に問題がなかったことから,a社は,平成21年8月18日,第3次申請をした。自主規制法人の上場審査役らは,a社に対する審査が既に2回行われていたことから第2次申請取下後の事情について重点的に審査を行った。(甲8の1,甲17)
(イ) J及びKは,平成21年10月8日,a社の平成20年4月1日から平成21年3月31日までの連結会計年度の連結財務諸表及びa社の同期間の15期事業年度の財務諸表につき,無限定適正意見を付した独立監査人の監査報告書を作成した。(甲1,10,32)
オ 第2次投書等
(ア) 東証は,平成21年10月16日,第2次投書を受け,自主規制法人の上場審査部は,一度上場承認がされた会社であっても,実際に上場されるまでの間は上場承認を取り消すことが可能であり,また,第2次投書の内容が仮に事実であれば到底上場承認できるものではないため,上場審査部として追加調査すべきであると判断した。東証は,みずほ証券との間で,対応策を打ち合わせ,第2次投書の真実性を確かめるために,以下の2点を確認することとした。(甲8の1,甲17)
a 装置が取引先に届いており,先方が債務として認識していること
監査法人が実施している残高確認の証跡(残高確認書)の確認(対象期間:平成21年4月から同年9月までの6か月間)
b 売掛先からの代金の支払が行われていること
a社の銀行口座への入金記録(銀行通帳)の確認(対象期間:平成21年4月から同年9月までの6か月間)
(イ) 自主規制法人の上場審査部は,平成21年10月29日,a社の担当公認会計士であるJ及びKに対し,第2次投書に係る①債権の確認方法,②売掛金の入金の実在性の確認方法についてヒアリングを実施し,①については,売掛先から受領している平成21年3月期の残高確認書の原本をその場で閲覧し,②については,取引銀行の残高確認を全て行っているとの説明を受けた。自主規制法人の上場審査部は,最終的に,第2次投書に係る粉飾決算の事実を認めるに足りないと判断した。(甲8の1,甲17,乙A7,A9,A10)
(ウ) a社は,平成21年11月20日,マザーズ市場へ株式を上場した。(争いがない事実)
(9)  被告Y1の検察官に対する供述等
被告Y1が,平成22年9月19日,さいたま地方検察庁大宮分室において検察官から事情聴取を受け,任意に次のとおり供述した旨の供述調書が存在する。(甲4,5)
ア 被告Y1は,平成16年3月頃,a社のFから,a社が上場を目指していること,そのためには大手電機メーカーと取引しているという実績が必要であること,上場した際にはa社の株式を売却して約1億円の謝礼をするつもりであること,被告Y1には絶対に迷惑をかけないことを前提に,残高確認書に被告Y2社の印鑑を押してもらいたい旨依頼を受けた。
被告Y1は,当時購買本部デバイスプロダクト調達統括部設備調達部の担当課長であったが,部長ポストが空いていたため,被告Y1が同部部長代理として被告Y2社の社印を押すことが可能であった。
被告Y1は,残高確認書に被告Y2社の印鑑を押印するだけで1億円もの大金をもらえるのかと思う反面,1億円を福祉事業等を行う資金にしようと考え,Fの依頼を受けることとした。
イ 被告Y1は,被告Y2社とa社との間に実際の取引がないにもかかわらず,a社の残高確認書に被告Y2社の社印を押すことが不正であること及びa社の架空売上計上に協力することになることを認識していた。
ウ 被告Y1は,a社の平成16年度残高確認書及び会計事務所宛の返信用封筒を受け取り,F又はEから依頼されたとおり,当該残高確認書に被告Y2社の社名と部署名のゴム印を押し,被告Y2社の丸と角の社印を押印した。
被告Y1は,同様に,a社の平成17年度残高確認書を偽造した。
エ 被告Y1は,平成17年頃,Fからa社の主幹事証券会社であるHSBC証券のヒアリングを受けてほしい旨の依頼を受け,これを引き受けた。
被告Y1は,上記ヒアリング当日,E及びFと事前に打ち合わせたところ,Eらから,評価機を納入後,検収完了に至るまでは長期になること,a社は将来性があること,リピート機の購入も考えていることなどを回答してほしい旨の依頼を受けた。
オ 被告Y1は,平成18年2月頃,Iのヒアリングを受けた。
カ 被告Y1は,平成19年12月頃,Fからa社の主幹事証券会社がHSBC証券からみずほ証券に替わったため,みずほ証券のヒアリングを受けてほしい旨の依頼を受け,Fに対し,担当部署の異動により半導体を扱う部署に所属していないことを告げるも,担当部署を異動していてもよいと言われたことから,これを引き受けた。
被告Y1は,上記ヒアリングに当たり,Gから,事前に想定問答集の送付を受けた。被告Y1は,上記想定問答集の内容を暗記し,みずほ証券からの「取引開始の経緯,e社,k社,l社の大手3社と比べてa社をどうみているか,リピート機の購入はあるか」などの質問に対し,「営業に来る会社の中でもa社は先端技術を追っている会社である,技術的なことは分からないが,工場から悪いうわさも聞かないので,a社のサポート状況も良いと思われる,先端技術を追っているので,a社はリピート機購入の有力候補である」などと,a社に有利な話をした。しかしながら,被告Y2社とa社との間に正式に実際の取引があった旨及び今後a社の製品が有力候補である旨は全くのでたらめであった。
2  争点1(被告Y1の加害行為の内容)について
(1)  被告Y1は,平成16年度残高確認書及び平成17年度残高確認書の作成は認めているが,HSBC証券,公認会計士及びみずほ証券とのヒアリングにおいて虚偽の事実を述べたことはないと主張するから,以下,検討する。
(2)  HSBC証券からのヒアリング
ア 前記1(9)エのとおり,被告Y1の検察官面前調書には,被告Y1が,HSBC証券担当者に対し,E及びFから指示されたとおり,被告Y2社がa社の評価機の納入を受けてから検収完了に至るまでは長期になること,被告Y2社としてはa社には将来性があると考えており,リピート機の購入も考えていることなどを回答した旨の供述記載部分が存在する。
イ これに対し,被告らは,被告Y1が,担当検察官から調書に署名しなければ被告Y2社に対して捜索押収をすると脅されたため,真実に反する供述をした旨主張し,その陳述書及び本人尋問の結果中にも同旨の部分があるが,E,F及びGの陳述書には,被告Y1の上記検察官面前調書に沿う供述記載部分が存在し,その内容に格別不自然又は不合理な点は見当たらず,他に被告Y1が検察官から脅されたことを裏付ける的確な証拠がないことからすれば,被告Y1の上記検察官面前調書は信用することができ,これに反する被告らの上記主張はたやすく採用することができない。
ウ また,被告Y1は,三重工場の製造技術部責任者からa社の評価機の評価を事前に確認しており,その評価を基に自身の考えを回答したのであるから回答に虚偽はない旨供述するが,被告Y1が上記責任者からa社の評価機の評価を事前に確認したことを裏付ける的確な証拠はないから,上記供述を信用することはできない。
エ そうすると,被告Y1は,HSBC証券担当者に対し,被告Y2社がa社製半導体製造装置の評価機の納入を受けているにすぎなかったにもかかわらず,E及びFの指示どおり,a社と被告Y2社との間でa社製半導体製造装置の初号機の購入取引があったことやa社の将来性を前提にリピート機の購入を考えている旨の虚偽の事実を述べたことが認められる。
(3)  公認会計士からのヒアリング
ア 証拠(甲5)によれば,被告Y1がIの名刺を所持していた事実が認められ,被告Y1がa社の上場に係るヒアリングの他にIと面談した事実は窺われないから,被告Y1は,Iから上記ヒアリングを受けた事実が認められ,上記ヒアリングの存在自体を否認する被告Y1の供述は信用することができない。
そして,前記1(6)によれば,H及びIは,a社の被告Y2社に対する売掛金の長期滞留の確認のため,販売先である被告Y2社を訪問し,実際にa社製の半導体製造装置を購入して設置しているか否かなどを確認したところ,被告Y1は,被告Y2社がa社製の半導体製造装置を購入して納入を受けた旨,現在クリーンルームに入っているため半導体製造装置を見せることはできない旨回答したことが認められる。
イ これに対し,被告Y1は,仮に上記ヒアリングにおいて前記1(6)のとおり回答していたとしても,その内容は虚偽ではない旨主張するが,前記1(3)によれば,a社製の半導体製造装置が納入されていたのは被告Y2社の三重工場であるところ,被告Y1の現在クリーンルームに入っているため見せることができない旨の回答は,a社製の半導体製造装置が被告Y2社の川崎工場に納入されていることを前提にしていることからしても虚偽であり,先にみたとおり,被告Y1は被告Y2社がa社製の半導体製造装置の評価機の納入を受けていたにすぎないにもかかわらず実際に購入したことを前提に回答したことが認められる以上,被告Y1の上記主張は採用することができない。
ウ したがって,被告Y1は,H及びIに対し,被告Y2社がa社製の半導体製造装置を購入した旨,現在被告Y2社の川崎工場のクリーンルームに納入されていることから見せることができない旨の虚偽の事実を述べたことが認められる。
(4)  みずほ証券からのヒアリング
ア 被告Y1の検察官面前調書には,被告Y1は,みずほ証券とのヒアリングに当たり,Gから,事前に想定問答集の送付を受けてその内容を暗記した上,みずほ証券からの質問に対してa社に有利な回答をしたが,被告Y2社とa社との間に正式に実際の取引があった旨及び今後a社の製品が有力候補である旨は全くのでたらめであった旨の供述記載部分が存在する。
前記1(7)オによれば,Gが被告Y1に対して事前に送付した想定問答集には,基本的な対応方法やみずほ証券が希望している質問内容及びそれに対する回答例が詳細に記載されており,被告Y1は,上記想定問答集に基づき,みずほ証券担当者に対し,前記1(7)カのとおり回答したことが認められ,ここでも被告Y2社がa社製の半導体製造装置の評価機の納入を受けていたにすぎないにもかかわらず実際に購入したことを前提に回答したことが認められる。
イ これに対し,被告Y1は,「取引開始の経緯」や「購入したエッチング装置及びアッシング装置の使用結果」などについては質問されておらず,被告Y1の回答のうち,a社が先端技術を追っている会社であることは事実であるし,a社製の半導体製造装置の評価機の評価が三重工場において好評であると聞いており,工場から悪いうわさも聞かずサポート状況もよいと思われるとの回答及び将来同社の半導体製造装置が購入の有力候補である旨の回答も自らの認識に沿う発言をしたにすぎず,虚偽の回答とはいえない旨主張する。
しかしながら,みずほ証券作成の平成19年12月3日付けa社取引先ヒアリングメモ(甲9の1)には,「取引開始の経緯」や「購入したエッチング装置及びアッシング装置の使用結果」の項目に,前記1(7)カのとおりの記載があること及び被告Y1が三重工場の製造技術部責任者からa社製の半導体製造装置の評価機の評価につき事前に確認したことを裏付ける的確な証拠がないことは前記のとおりであるから,被告Y1の上記主張は採用することができない。
ウ したがって,被告Y1は,みずほ証券担当者に対し,被告Y2社がa社製の半導体製造装置を購入した旨などの虚偽の事実を述べたことが認められる。
3  争点2(被告Y1の各行為時における認識)について
(1)  前記前提事実(1)ウ及び前記1(4)アによれば,a社は,平成13年に野村證券株式会社出身のEを財務担当取締役に就任させたこと,Eはa社入社当初から株式公開による資金調達の準備をし,平成15年秋頃にはHSBC証券を主幹事証券会社に選定したことが認められるから,a社は,遅くとも平成15年秋頃には上場を計画していた事実が認められる。
(2)  前記前提事実(2)ウ及びエのとおり,平成16年度残高確認書は,d事務所がa社の会計監査に当たり,平成16年3月31日時点におけるa社の被告Y2社に対する売掛金として10億6951万8450円もの金額の確認を求めるものであり,また,平成17年度残高確認書は,上記同様に売掛金として14億0551万8450円もの金額の確認を求めるものであって,上記各残高確認書が会計監査のために使用されること及び記載された売掛金の額が非常に高額であることは被告Y1において各書面から一見明白であり,また,主幹事証券会社及び公認会計士からの複数回のヒアリングもa社の上場に係る重要なものであることは,FやEからの要請を受ける過程で当然認識したことであると認められる。
(3)  そして,E,F及びGの各陳述書中,Eらが,被告Y1に対し,平成16年度残高確認書の作成を依頼する当初から,a社が上場を目指していること,そのためには大手電機メーカーと取引している実績が必要であること,上場した際にはストックオプション等により1億円相当の報酬を支払うことを伝えていた旨の供述記載部分が存在し,上記各内容は被告Y1の検察官面前調書の内容とほぼ一致するところ,同調書の内容が信用できることは前記のとおりであり,被告Y1がa社の幹部らと知己の関係にあったからといって,被告Y1が無償で上記各残高確認書の偽造や各ヒアリングへの対応をするとは俄かに考え難い。
(4)  したがって,被告Y1は,a社が粉飾上場を果たした暁には1億円の報酬を得られると認識した上で,平成16年度残高確認書及び平成17年度残高確認書を偽造し,また,HSBC証券,公認会計士及びみずほ証券からのヒアリングにおいて虚偽の事実を述べたことが認められる。
4  争点3(共同不法行為該当性等)について
(1)  まず,前記前提事実及び前記1の認定事実によれば,D,E,F及びGらa社関係者が,架空売上高計上による粉飾上場のための一連の仮装工作をしたことが認められ,これにより原告らが粉飾上場を果たしたa社の株式を取得することにより損害を被ったことが認められることから,上記a社関係者は,原告らに対し,民法719条1項前段に基づき,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。
これに対し,a社の部外者である被告Y1がa社関係者からの各依頼に基づき残高確認書の偽造やヒアリングへの回答といった限られた協力行為をしたにすぎないこと,a社の粉飾上場がa社関係者による一連の仮装工作により計画的に敢行されたことからすれば,被告Y1がa社関係者とともに共同の不法行為をしたとまで認めることはできない。
(2)  そこで,次に,被告Y1がした一連の行為が,a社関係者の粉飾上場を幇助したとして,民法719条2項に基づき,共同行為者とみなされるか否か検討する。
ア 前記前提事実(1)ウ(イ)a及びbによれば,d事務所所属の公認会計士は,a社の平成16年3月期及び平成17年3月期における監査手続において,期末売上債権につき全件について取引先に残高確認手続を実施していたのであり,その監査手続の過程で被告Y1が作成した被告Y2社名義の平成16年度残高確認書及び平成17年度残高確認書を確認することにより,a社が被告Y2社に対して売掛金を有しているなどの錯誤に陥ったことが認められる。その後,前記1(6)ア及びイによれば,H及びIは,a社の被告Y2社に対する売掛金の未回収状況を確認するため,平成18年3月期の監査手続において,同年2月23日,取引先である被告Y2社に対する実査として被告Y1とのヒアリングを実施したところ,被告Y1による虚偽回答(前記2(3)ウ)により,a社の架空売上に気付くことができなかった。
イ また,a社の当時の主幹事証券会社であったHSBC証券は,被告Y1とのヒアリングにおいて,前記2(2)エの虚偽回答を受けたことにより,a社と被告Y2社との間に取引が存在するなどの錯誤に陥ったことが認められる。
ウ その後,HSBC証券による先の審査内容がみずほ証券に引き継がれたか否かは証拠上明らかではないが,みずほ証券は,前記1(7)のとおり,平成19年4月19日にa社の主幹事証券会社に就任して以降,上記錯誤に陥った公認会計士からのヒアリングを通じて被告Y2社に対する売掛債権の残高確認状況を確認し,また,同年12月3日,被告Y1からのヒアリングにおいて,前記2(4)の虚偽回答を受けたことにより,やはりa社と被告Y2社との間に取引が存在するなどの錯誤に陥ったことが認められる。
エ その後,東証は,a社による第1次申請により上場審査を開始し,売掛債権が未回収のまま長期に滞留している点について公認会計士H,I及びJらの説明を受けるなど審査を進め(前記1(8)ア),平成20年2月14日の第1次投書後の追加調査として行った同月27日の上記公認会計士らからのヒアリングをした結果,第1次投書に係る粉飾決算の事実を認めるに足りないと判断するに至ったことが認められる(前記1(8)イ)。そして,前記1(1)イによれば,上場申請会社が上場申請を取下げ後に改めて上場申請をした場合,先の審査内容が引き継がれるところ,前記1(8)ウないしオによれば,a社は平成20年4月17日に第1次申請を取り下げて同年12月1日に第2次申請をしたこと,東証は第1次申請時の審査結果を踏まえて前回の審査時からの変更事項等に重点を置いて審査したこと,a社は第2次申請を取り下げて第3次申請をしたこと,東証は第2次申請取下後の事情について重点的に審査を行ったこと,平成21年10月27日の第2次投書後の追加調査として行われた同月29日のJ及びKに対するヒアリングした結果,第2次投書に係る粉飾決算の事実を認めるに足りないと判断するに至ったこと,最終的にa社は平成21年11月20日にマザーズ市場に上場したことがそれぞれ認められる。
オ 以上の一連の事実関係に加え,一般的に監査対象企業から独立した情報源で監査人が直接入手した監査証拠の証明力は高いこと,被告Y1が日本有数の電機メーカーで社会的信用のある被告Y2社の従業員であったこと,被告Y1がa社の国内企業の架空売上先の唯一の協力者としてみずほ証券からのヒアリングに応じたことを併せ考慮すれば,被告Y1がした一連の行為は,公認会計士及び主幹事証券会社並びに東証が関わる一連の上場手続においてa社が粉飾上場を敢行するに当たり相当程度重要な役割を果たしたものといえる。
a社の架空売上について海外企業の協力行為が一定程度認められ(前記1(7)カ及び(8)イ(オ)),被告Y1が偽造した平成16年度残高確認書及び平成17年度残高確認書が上場審査の確認書類に含まれず,第1次投書及び第2次投書の際の追加調査時にこれらが確認対象でなかったとしても,上記結論は左右されない。
(3)  これに対し,被告らは,被告Y1がした一連の行為は,いずれも上場よりも1年半以上前の第1次申請以前の行為であり,第1次申請が取り下げられた結果その影響も消滅し,その後上場に至った第3次申請に被告Y1は何ら関与しておらず,被告Y1の各行為がなくともa社は上場していた旨,被告Y1の関与の程度からして投資家に対して直接不法行為責任を負うことが相当と認められる程度に,有価証券報告書の虚偽記載の作出に重要な役割を果たしたと評価することは困難である旨主張する。
しかしながら,上記のとおり,被告Y1は,虚偽の残高確認書の作成及び主幹事証券会社及び公認会計士からのヒアリングにおける虚偽の回答を通じて,a社と被告Y2社との間に取引があるなどと公認会計士及び主幹事証券会社を錯誤に陥らせることによって審査を通過させ,さらには東証の上場審査を通過させることでa社の粉飾上場を容易にしたといえるから,その意味では相当程度重要な役割を果たしたものである。被告らの上記主張は,採用することができない。
(4)  以上より,被告Y1は,原告らに対し,民法719条2項に基づき,a社関係者との間で共同行為者とみなされ,連帯してその損害を賠償する責任を負う。
5  争点4(被告Y2社の使用者責任の有無)について
(1)  原告らは,被告Y1が作成した偽造残高確認書は,被告Y1が保管を任されていた被告Y2社の正式な印鑑を使用して作成されたものであり,また,被告Y1と主幹事証券会社及び公認会計士とのヒアリングは,被告Y1が被告Y2社の従業員として,その勤務時間内に被告Y2社社内で行われたものであるから,被告Y1の各行為は,被告Y2社の被用者としてその事業の執行についてされたものであるとして,被告Y2社は,使用者責任を負う旨主張する。
(2)  前記1(2)によれば,被告Y2社には,購買本部,事業本部及び財務経理部等が存在し,その購買本部だけでも500人以上の従業員が所属し,同本部が14の統括部に分かれ,同統括部がさらに1ないし4の部に分かれており,被告Y1を含む多数の被用者にその職務を分掌させていたことが認められる。そして,購買本部,事業本部及び財務経理部等の事務分掌が規定され,購買本部が社内の各部門から購入依頼を受けて取引候補会社から見積もりを得た上で発注を行い,事業本部が物品の納入や検収等を行い,財務経理部が代金の請求又は代金の支払等を行っていたことが認められ,また,財務経理部が公認会計士からの残高確認書への回答をしていたことが認められる。
被告Y1は,平成16年度残高確認書及び平成17年度残高確認書を作成した当時は購買本部に所属し,公認会計士からの残高確認書への回答は財務経理部の職務であって,被告Y2社において購買本部が残高確認書を作成していたことを窺わせる証拠はない。また,上記各残高確認書に押印された印鑑類は購買本部が所管するものであり,被告Y1が経理部の印鑑を冒用して作成したものではないから,被告Y2社が,被告Y1をして権限外に上記各残高確認書を作成することを客観的に容易な状態に置いていたとも認められない。
また,被告Y1は,主幹事証券会社及び公認会計士との各ヒアリングに応じた当時も,やはり購買本部に所属しており,主幹事証券会社との間の他社企業の上場の際のヒアリングや,公認会計士による残高確認等のためのヒアリングに応じる職務権限を有していなかったと認められる。そして,被告Y1は,E,F及びGの周到かつ巧妙な準備の下に上記各ヒアリングに応じていたのであり,被告Y2社が,被告Y1をして権限外に上記各ヒアリングに応じることを客観的に容易な状態に置いていたとは認められず,上記各ヒアリングが被告Y2社の勤務時間中に同社内で行われたことは上記認定を左右しない。
(3)  そうすると,被告Y1がした一連の行為と被告Y1が分掌する本来の職務との間には関連性が認められず,また,被告Y1がかかる権限外の行為をすることを被告Y2社が客観的に容易な状態に置いていたとも認められず,結局,被告Y1の一連の行為は被告Y2社の事業の執行についてされたものとは認められないから,原告らの上記主張は,採用することができない。
6  争点5(原告らの損害の有無及びその額)
(1)  取得自体損害等
ア 有価証券届出書に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が,当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合,当該虚偽記載により生じた損害の額,すなわち当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,上記投資者が,当該虚偽記載の公表後,上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を,また,上記株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額との差額をそれぞれ基礎とし,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきものと解される(最高裁判所平成21年(受)第1177号同23年9月13日第三小法廷判決・民集65巻6号2511頁参照)。
イ これを本件についてみるに,前記前提事実(1)アによれば,原告らは,別紙原告別取引目録記載のとおりa社株式を取得し,また,原告らの中には同別紙のとおり売却した者がいることが認められるところ,a社の有価証券届出書の架空売上高計上の虚偽記載がなければ,a社はマザーズ市場に上場することはできず,原告らにおいてa社株式を取得するという結果自体が生じなかったとみることが相当である。
そして,前記前提事実(4)のとおり,a社は,平成22年5月31日に破産手続開始決定を受け,同年6月15日には上場廃止となり,a社の株式は無価値となったことが認められるから,原告らに生じた損害の額は,a社の株式を取引所市場において処分したときはその取得価額(取引手数料を含む。以下同じ。)と処分価額との差額,また,上記株式を保有し続けていたときはその取得価額となるというべきである。
ウ これに対し,被告らは,原告らの損害を算定するに当たり,虚偽記載の事実は平成22年5月12日に初めて公表されたのであるから,公表の前日である同月11日のa社の株式の終値775円は,虚偽記載の事実とは無関係に形成された株価であるから,原告らの取得価額が上記775円よりも高い場合には,当該取得価額と775円との差額は,虚偽記載に起因しない市場価額の下落分として控除すべきである旨主張する。
しかしながら,虚偽記載に起因しない市場価額の下落分が控除されるのは,株式の市場価額は種々の要因によって変動することは通例であるところ,一般投資家は,当該虚偽記載がなければ上記株式を取得することはなかったとしても,取得した株式の市場価額が経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載とは無関係な要因に基づき変動することは当然想定した上で,これを投資の対象として取得し,かつ,上記要因に関しては開示された情報に基づきこれを処分するか保有し続けるかを自ら判断することができる状態にあったことから,上記投資者が自らの判断でその保有を継続していた間に生ずる上記要因に基づく市場価額の変動のリスクは,上記投資者が自ら負うべきであり,上記要因で市場価額が下落したことにより損失を被ったとしても,その損失は投資者の負担に帰せしめるのが相当といえるからである(前掲最高裁判決参照)。
これを本件についてみるに,a社はその上場時の売上のおよそ97%が架空であり上場が到底不可能な会社であったこと,a社の上場後架空売上計上の虚偽記載が発覚するまでわずか約半年であり,株価変動も515円から875円の幅で動いているにすぎず,上記短期間のうちに上場時からの事情変更は特段窺われないことからすれば,虚偽記載に起因しない市場価額の変動リスクを原告らに負担させる基礎がないといえるから,虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を控除すべきである旨の被告らの主張は,採用することができない。
エ 小括
以上より,虚偽記載によって生じた原告らの損害の額は,別紙原告別取引目録の原告らに対応する「取引損害金合計欄」記載の各金員となり,本件事案の難易度,請求額,認容された額,その他の証拠等から認められる諸般の事情に照らして,不法行為と相当因果関係のある弁護士費用として,別紙原告別取引目録の原告らに対応する「取引損害金合計欄」記載の各金員の1割が相当である。
したがって,原告らの損害額は,上記合計額のうち,原告らが損害と主張する別紙請求債権目録の原告らに対応する「損害金合計(B)」欄の「小計」欄記載の各金員となる。
(2)  遅延損害金,破産配当及び別件訴訟における和解金の充当
ア 不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時に遅滞に陥るところ,原告らは,a社の株式を取得した時点で損害を被ったといえるから,被告Y1が原告らに対して負う遅延損害金の起算日は,別紙請求債権目録の「A 遅延損害金起算点(株式取得日別)」欄記載の日である。
イ 前記前提事実(6)によれば,原告らは,平成27年7月20日,別件訴訟においてJ及びKから別紙請求債権目録の「F 和解金充当額」欄記載の各金員の支払を受けたから,これを同別紙の「E 遅延損害金額(株式取得日毎,平成27年7月20まで)」欄に記載のある上記アの各遅延損害金の起算日から平成27年7月20日までの遅延損害金の合計額に充当し,その後,同別紙の「D 配当差引後の損害金(株式取得日別)」欄記載の原告らの損害額に充当した結果,原告らの損害は,同別紙の「G 和解金差引後の損害金」欄記載の各金員となる。
7  結論
以上の次第であるから,原告らの被告Y1に対する請求は,各原告に対応する別紙請求債権目録の「G 和解金差引後の損害金」欄記載の各金員及びこれらに対する平成27年7月21日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり,そのうち,各原告に対応する同別紙の「H 本件請求金額」欄記載の各金員及び上記同様の遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し,原告らの被告Y2社に対する請求は,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第4部
(裁判長裁判官 北澤純一 裁判官 佐藤重憲 裁判官 大瀧泰平)

 

〈以下省略〉

 

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