
「営業代行」に関する裁判例(26)平成23年12月 5日 東京地裁 平22(ワ)18559号 損害賠償等請求事件
「営業代行」に関する裁判例(26)平成23年12月 5日 東京地裁 平22(ワ)18559号 損害賠償等請求事件
要旨
◆原告が、被告会社の従業員又は被告会社が営業代行をさせていた訴外会社の従業員から虚偽の説明を受け、被告会社が運営するリゾートクラブの会員権を購入させられたとして、被告会社、同社の代表取締役である被告Y1及び同Y2並びに同取締役である被告Y3に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに、予備的に、被告会社に対し、本件会員権売買契約の取消し又は解除に基づく不当利得返還を求めた事案において、被告会社の訴外会社に対する実質的な指揮監督関係を認めた上、被告会社の従業員を称する者の虚偽説明の事実を認定するなどして、被告会社の使用者責任、被告Y1ないし同Y3の不法行為責任を認めて、原告の主位的請求をほぼ認容した事例
参照条文
民法704条
民法709条
民法715条
民法719条2項
会社法429条1項
特定商取引に関する法律24条の2第1項
消費者契約法4条1項
裁判年月日 平成23年12月 5日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)18559号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2011WLJPCA12058001
北海道函館市〈以下省略〉
原告 X
訴訟代理人弁護士 渋谷和洋
東京都中央区〈以下省略〉
被告 リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社
代表者代表取締役 Y1
東京都足立区〈以下省略〉
被告 Y1
〈前略〉Wattana Bangkok 10110 Thailand
((タイ王国バンコク都ワッタナー区〈以下省略〉)
被告 Y2
東京都世田谷区〈以下省略〉
被告 Y3
4名訴訟代理人弁護士 板垣眞一
”
主文
1 被告らは,原告に対し,連帯して693万円及びこれに対する平成21年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告に対し,連帯して700万円及びこれに対する平成21年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 (被告リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社に対する予備的請求)
被告リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社は,原告に対し,630万円及びこれに対する平成21年10月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が被告リタイヤメントリゾートデベロップメント株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員又は同被告が営業を代行させていた株式会社A&Gの従業員から虚偽の説明を受けて被告会社が運営するリゾートクラブの会員権を購入して代金計630万円を支払ったとして,被告会社に対しては民法715条1項,709条,719条2項に基づき,被告Y1及びY2に対しては民法709条,会社法429条1項,民法715条2項,719条2項に基づき,被告Y3に対しては民法709条,会社法429条1項,民法719条2項に基づき,連帯して損害金700万円(購入代金630万円及び弁護士費用70万円)と最終不法行為日である平成21年5月21日からの民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求めるとともに,原告が被告会社に対して特定商取引に関する法律24条の2第1項1号,消費者契約法4条1項1号に基づき上記会員権の売買契約の申込みの意思表示を取り消し,又は特定商取引に関する法律24条1項に基づき同契約の解除をしたとして,被告会社に対する予備的請求として,不当利得に基づき630万円と取消し又は解除の翌日である平成21年10月30日からの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等の掲記がない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 被告会社は,レジャー施設等の企画,建設,経営並びにその施設の所有権,利用権及びクラブ会員権の売買並びに仲介等を目的とする株式会社であり,リタイヤメントリゾートクラブと称する会員制クラブ(以下「本件クラブ」という。)を運営し,タイ王国内のリゾート施設を利用することができる本件クラブの会員権(タイムシェア利用権。特定商取引に関する法律2条4項の「指定権利」に該当する。)を販売していた者である。被告Y1及び被告Y2は,被告会社の代表取締役であり,被告Y3は,被告会社の取締役である。
(2) 被告Y2は,被告会社の代表者として,平成20年10月31日,株式会社A&Gとの間で,本件クラブの会員権の販売に係る営業業務を委託する旨の契約を締結した(乙1)。
(3) 原告は,平成20年11月以降,被告会社の従業員と称する者から,本件クラブの会員権の購入を電話で勧誘され,平成21年1月13日,同年2月18日,同年3月27日,同月30日,同年4月3日,同年5月21日の6回にわたり,被告会社に対し,本件クラブの会員権各1口をそれぞれ代金105万円で購入するとの申込みをし,各同日,被告会社との間で,郵便により,申込みに応じた売買契約を締結し(以下「本件売買契約」という。),被告会社に対し,代金105万円,計630万円を支払った(甲4,18,弁論の全趣旨)。本件売買契約に係る契約書には,特定商取引に関する法律24条1項の規定による売買契約の解除に関する事項の記載がない(甲5,弁論の全趣旨)。
(4) 原告は,平成21年10月29日までに,被告会社に対し,同月23日付け「契約解除通告書」と題する書面の送付により,特定商取引に関する法律24条の2第1項1号,消費者契約法4条1項1号に基づき本件売買契約の申込みの意思表示を取り消し,特定商取引に関する法律24条1項に基づき同契約を解除するとの意思表示をし,購入代金630万円の返還を催告した。
2 争点
(1) 被告会社の責任
ア 被告会社の従業員による転売可能性に係る虚偽説明の不法行為の成否及び同不法行為に係る被告会社の使用者責任の有無
イ 株式会社A&Gの従業員による転売可能性に係る虚偽説明の不法行為の成否及び同不法行為に係る被告会社の使用者責任の有無
ウ 適切な営業代行者を選任し,営業代行者が違法な営業活動を行わないよう監視監督すべき義務違反の不法行為の成否
エ 株式会社A&Gの違法な勧誘行為を支援・助長し,野放しにした共同不法行為(幇助)責任の有無
(2) 被告Y1の責任
ア 被告会社の従業員が違法な勧誘行為により顧客に損害を与えないよう監視監督すべき義務違反の(共同)不法行為の成否
イ 悪意又は重過失により被告会社の代表取締役として同被告の従業員が違法な勧誘行為により顧客に損害を与えないよう監視監督すべき任務を懈怠したことの有無
ウ 株式会社A&Gの従業員による転売可能性に係る虚偽説明の不法行為の成否及び同不法行為に係る被告Y1の代理監督者責任の有無
エ 適切な営業代行者を選任し,営業代行者が違法な営業活動を行わないよう監視監督すべき義務違反の不法行為の成否
オ 悪意又は重過失により被告会社の代表取締役として適切な営業代行者を選任し,営業代行者が違法な営業活動を行わないよう監視監督すべき任務を懈怠したことの有無
カ 株式会社A&Gの違法な勧誘行為を支援・助長し,野放しにした共同不法行為(幇助)責任の有無
(3) 被告Y2の責任
ア 被告会社の従業員が違法な勧誘行為により顧客に損害を与えないよう監視監督すべき義務違反の(共同)不法行為の成否
イ 悪意又は重過失により被告会社の代表取締役として同被告の従業員が違法な勧誘行為により顧客に損害を与えないよう監視監督すべき任務を懈怠したことの有無
ウ 株式会社A&Gの従業員による転売可能性に係る虚偽説明の不法行為の成否及び同不法行為に係る被告Y2の代理監督者責任の有無
エ 適切な営業代行者を選任し,営業代行者が違法な営業活動を行わないよう監視監督すべき義務違反の不法行為の成否
オ 悪意又は重過失により被告会社の代表取締役として適切な営業代行者を選任し,営業代行者が違法な営業活動を行わないよう監視監督すべき任務を懈怠したことの有無
カ 株式会社A&Gの違法な勧誘行為を支援・助長し,野放しにした共同不法行為(幇助)責任の有無
(4) 被告Y3の責任
ア 被告会社の代表取締役が同被告の従業員が違法行為を行わないよう指導監督すべき義務を履行するよう監督すべき義務違反の(共同)不法行為の成否
イ 悪意又は重過失により被告会社の取締役として同被告の代表取締役が同被告の従業員が違法行為を行わないよう指導監督すべき義務を履行するよう監督すべき任務を懈怠したことの有無
ウ 被告会社の代表取締役が適切な営業代行者を選任し,営業代行者が違法な営業活動を行わないよう監視監督すべき義務を履行するよう監督すべき義務違反の不法行為の成否
エ 悪意又は重過失により被告会社の取締役として同被告の代表取締役が適切な営業代行者を選任し,営業代行者が違法な営業活動を行わないよう監視監督すべき義務を履行するよう監督すべき任務を懈怠したことの有無
オ 株式会社A&Gの違法な勧誘行為を支援・助長し,野放しにした共同不法行為(幇助)責任の有無
(5) 被告らの不法行為等により原告に生じた損害額
(6) 被告会社が原告に対して電話勧誘行為(特定商取引に関する法律2条3項)をし,その際に本件クラブの会員権の権利内容(転売可能性)につき不実のこと告げ(同法21条1項1号),これにより原告が当該告げられた内容が事実であるとの誤認をしたこと(同法24条の2第1項1号)の有無
(7) 被告会社が原告に対して本件クラブの会員権の購入を勧誘し,その際に重要事項(会員権の転売可能性)について事実と異なることを告げ,これにより原告が当該告げられた内容が事実であるとの誤認をしたこと(消費者契約法4条1項1号)の有無
(8) 被告会社が原告から本件売買契約の申込みを受けて遅滞なく特定商取引に関する法律18条各号の事項を記載した書面を原告に交付したことの有無及び同法19条の書面の交付がない場合に同法24条1項に基づき契約を解除することができる期間につき同法18条の書面を受領した日から起算することの当否
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)ア,イについて
(1) 前提事実(3)において,原告に対し本件クラブの会員権の購入を電話で勧誘したのが被告の従業員であるか,それとも株式会社A&Gの従業員であるかは,証拠上,定かでないが,後者であるとしても,被告会社は,自社が運営するリゾートクラブの会員権の販売を株式会社A&Gに委託し,これに基づき同社の従業員は,被告会社の従業員と称して電話勧誘を行い,被告会社・顧客間の売買契約を成立させている上,証拠(乙1,4,5)によれば,被告会社は,本件売買契約に先立ち,株式会社A&Gの従業員に対し,名刺,パンフレットその他の営業用資材を提供し,販売方法について説明会を実施して指導を行ったことが認められるから,被告会社と株式会社A&Gの従業員との間には実質的な指揮・監督の関係があり,被告会社は,本件クラブの会員権の販売事業のために株式会社A&Gの従業員を使用する者(民法715条1項)といえる。
(2) 原告本人は,前提事実(3)の電話勧誘を受けた際,平成21年4月に第2次募集が行われることが既に予定され,それ以降は被告会社において本件クラブの会員権を購入価格を下回らない価格で転売することが可能である旨を告げられたと供述する。証拠(甲17)によれば,全国の消費生活センターにおいて,平成20年から平成22年までの間に,被告会社が運営するリゾートクラブの会員権の販売において上記供述と同趣旨の勧誘が行われた旨の消費者相談が複数受け付けられ,かかる相談情報が国民生活センターのPIO-NET情報に登録されていることが認められ,本件クラブの会員権の販売に際しても同様の勧誘が行われていたものと推認することができるほか,本件売買契約当時,本件クラブの会員権1口に105万円の経済的価値があったことを認めるに足りる証拠はなく,転売可能性に係る上記のような勧誘がなければ原告が本件クラブの会員権を計6口も購入した動機を説明するのは困難であることからすると,上記供述は信用することができ,供述どおりの勧誘が行われた事実を認めることができる。そして,証拠(甲2ないし5,18,乙4,5)によれば,本件クラブの会員権が上記勧誘のとおり購入価格を下回らない価格で転売することが可能であったとの事実はなかったこと,原告は,上記勧誘によりこれを可能であると誤認して本件売買契約を締結したことが認められる。したがって,被告会社の従業員を称する者は,前提事実(3)の電話勧誘において本件クラブの会員権の転売可能性について虚偽の説明を行い,原告を誤認させて本件売買契約を締結させ,購入代金を支払わせたものであり,不法行為が成立する。
(3) 以上によれば,被告会社は,被告会社の従業員を称する者による上記不法行為につき,使用者責任を負う。
2 争点(2)ア,エについて
前記のとおり,本件クラブの会員権1口に105万円の経済的価値があったことを認めるに足りる証拠はないこと,全国の消費生活センターに,被告会社が運営するリゾートクラブの会員権の販売において購入価格を下回らない価格で転売することが可能であるとの勧誘が行われた旨の相談が寄せられたことからすると,被告会社の代表取締役である被告Y1は,本件クラブの会員権を1口当たり105万円で販売するのは困難であり,その販売を担当する被告会社又は株式会社A&Gの従業員が転売可能性に係る虚偽説明を行うなど違法な勧誘行為をするかもしれないことを容易に知り得たものと認めることができる。しかるに,弁論の全趣旨によれば,被告Y1は,違法な勧誘行為を阻止するための十分な処置を施すことなく,本件クラブの会員権の販売を実施したことが認められ,これにより,前記のとおり,顧客である原告に対する虚偽の説明が行われたものであるから,同被告について,原告に対する不法行為が成立する。
3 争点(3)ア,エについて
上記2において述べたのと同じ理由から,被告会社の代表取締役である被告Y2についても,原告に対する不法行為が成立する。被告Y2本人の供述中,これに反する部分は,同認定に供した証拠関係等に照らし,採用することができない。
4 争点(4)ア,ウについて
上記2において述べた理由に加え,証拠(乙4,5)によれば,被告Y3は,被告会社の取締役として,株式会社A&Gの従業員に対し,本件クラブの会員権の販売方法について説明会を実施して指導を行ったことが認められることからすると,被告Y3は,本件クラブの会員権を1口当たり105万円で販売するのは困難であり,その販売を担当する被告会社又は株式会社A&Gの従業員が転売可能性に係る虚偽説明を行うなど違法な勧誘行為をするかもしれないことを容易に知り得たが,被告会社の代表取締役がこれを阻止するための十分な処置を施すことなく本件クラブの会員権の販売を実施するのを放置したことが認められ,これにより,前記のとおり,顧客である原告に対する虚偽の説明が行われたものであるから,被告Y3についても,原告に対する不法行為が成立する。
5 争点(5)について
上記1ないし4の不法行為により,原告には,被告会社に支払った購入代金630万円の損害が生じたほか,弁論の全趣旨によれば,原告が弁護士に本件訴訟の提起等を委任したことが認められ,本件事案の難易,審理経過,認容額その他諸般の事情を総合すると,弁護士費用のうち63万円を上記不法行為による損害と認めるのが相当である。なお,争点(1)ないし(4)における他の責任原因が認められるとしても,これにより原告に生じた損害額は,変わらない。
6 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,主文第1項の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条ただし書,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 芹澤俊明)
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