判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(142)平成26年 5月28日 東京地裁 平24(ワ)35897号 報酬金等支払請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(142)平成26年 5月28日 東京地裁 平24(ワ)35897号 報酬金等支払請求事件
裁判年月日 平成26年 5月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)35897号
事件名 報酬金等支払請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2014WLJPCA05288012
要旨
◆原告が、被告に対し、被告が第三者から資金調達をするためのアドバイザリー業務委託契約に基づき、当該業務委託報酬及びこれに係る費用並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案において、本件契約の締結に当たり、被告が原告に対して、訴外I社による出資等に関する案件を本件契約の対象外とする旨を伝えた事実も認められず、また、同案件についての原告による業務提供は、本件契約において被告が特定した者と指定された訴外I社との取引に係るアドバイザリー業務であったといえるから、本件案件も本件契約の対象になるとし、本件報酬の合意も成立したと判断した上で、本件報酬等のうち、本件案件の優先株式分の成功報酬は、払込みという停止条件が成就しないことが確定しているから認められないなどとして、本件報酬等に係る金額を認定し、請求を一部認容した事例
参照条文
民法127条
民法643条
裁判年月日 平成26年 5月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)35897号
事件名 報酬金等支払請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2014WLJPCA05288012
東京都千代田区〈以下省略〉
原告 株式会社レコフ
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 秋田瑞枝
同 中村嘉宏
東京都杉並区〈以下省略〉
被告 株式会社ゴンゾ
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 鎌田真理雄
同 小西智志
主文
1 被告は,原告に対し,4606万0773円及びこれに対する平成20年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その7を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,金6448万5650円及びこれに対する平成20年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 本件は,原告が被告に対し,被告が第三者から資金調達をするためのアドバイザリー業務委託契約に基づき,当該業務委託報酬6300万円及びこれに係る費用148万5650円並びにこれらに対する支払期限経過後である平成20年11月29日から支払済みまでの商事法定利率に基づく遅延損害金を請求した事案である。
2 前提事実(争いのない事実,証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
原告は,会社間の合併,営業・株式・資産の譲受・譲渡及び業務提携等による事業の譲受・譲渡の仲介及び斡旋等を業とする株式会社である(争いがない)。
被告は,アニメーションの企画・開発・製作,販売及び輸出入等を業とする株式会社であり,株式会社GDHという商号であったが,平成21年4月1日,株式会社ゴンゾを吸収合併し,株式会社ゴンゾに商号変更した(争いがない)。被告は,平成20年5月当時,東京証券取引所(以下「東証」という。)マザーズ市場に上場していた(乙2)。
(2) アドバイザリー業務委託契約の締結(甲1)
原告と被告は,平成20年5月12日付けで,下記のアドバイザリー業務委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
ア 本件契約の趣旨
被告は,原告に対し,被告が特定した者(以下「丙」という。)との間の被告又は被告の関係会社の株式の譲渡,事業の譲渡,経営・事業統合及び資本業務提携その他これに類する取引等についての契約の締結(以下「本件取引」という。)に関する,アドバイザリー業務を委託し,原告はこれを受託する。
イ アドバイザリー業務の内容
(ア) 丙の候補者のリスティング
(イ) 丙の候補者の選定に関する助言
(ウ) 本件取引の推進方法に関する助言
(エ) 本件取引の交渉及び諸手続に関するスケジューリング
(オ) 本件取引の交渉への立会い及び支援
(カ) 本件取引に関わる各種契約書,覚書等の作成及び内容確定の支援
(キ) 本件取引に関するデュー・ディリジェンスの調整及び支援
(ク) 法律事務所,会計事務所等との連絡事務等
(ケ) その他前各号に付随するサービスの提供
ウ 本件契約の有効期間
平成20年5月12日から同年10月31日まで
エ 成功報酬
(ア) 被告は,原告に対し,本件契約の有効期間中または本件契約終了後3年以内に,被告,被告の関係会社,被告の管理・運営するファンド又は被告の株主等(以下「被告グループ」という。)が,丙,丙の関係会社又は丙の株主等(以下「丙グループ」という。)と資産等の移動を伴う取引について文書による法的拘束力のある合意に至ったときは,成功報酬を支払う。
(イ) 当該取引により移動する資産等の総金額(株式譲渡・譲受の場合は同取引における株式売買価額の総額,第三者割当増資による新株発行の場合は同取引における株式引受価額の総額)を次に掲げる金額に区分し,区分されたそれぞれの金額に各規定料率を乗じて計算した金額の合計金額を成功報酬額とする。
5億円以下の部分(料率5%),5億円超から10億円以下の部分(料率4%),10億円超から50億円以下の部分(料率3%),50億円超から100億円以下の部分(料率2%),100億円超の部分(料率1%)。
(ウ) 被告グループが複数の取引を行う場合には,それぞれの取引毎に本規定を適用するものとし,2回目以降の取引についての報酬金額はそれまでに行われた本件取引における被告グループと丙グループとの間で移動した資産等の総金額に,新たに被告グループと丙グループとの間で移動する資産等の総金額を加えた額に基づき,上記計算方法で算出された報酬金額から既に原告に対し支払済みの報酬金額を控除した金額とする。
(エ) 被告は,原告に対し,報酬金額に消費税を加算して支払う。
(オ) 支払期限は,丙グループから被告グループに合意に基づく入金がなされる日から10日以内。ただし,入金の行われない取引の場合は,資産等の受け渡しから10日以内とする。
オ 業務委託手数料及び費用の支払合意
(ア) 被告は,原告に対し,本件取引が複数取引になった場合には,業務委託手数料1か月あたり100万円を,成功報酬の1回目の支払日の属する月から有効期間の満了日まで消費税を加算して支払う。
(イ) 被告は,原告に対し,業務遂行のために原告が支出した合理的な費用を原告からの請求に応じて支払う。
(3) 株式会社タカラトミー(以下「タカラトミー」という。)に対する被告の子会社株式譲渡(以下「タカラトミー案件」という。)
原告のアドバイザリーを受けて,被告は,タカラトミーに対し,平成20年5月30日頃,被告の子会社であるゴンゾロッソ株式会社株式1万2899株を,代金7億7394万円で譲渡した。被告は,原告に対し,平成20年6月末,タカラトミー案件の報酬として,4200万円(消費税込み)を支払った。(争いがない)
(4) 海外出張
原告の従業員は,スポンサー候補先企業とのミーティングのため,平成20年6月19日から同月21日まで香港に,同年7月8日から同月10日,同年8月10日から同月12日,同月14日から同月16日までシンガポールに出張した(争いがない)。原告は,海外出張の航空券及び宿泊費として148万5650円(以下「本件費用」という。)を支出した(甲9の1から13)。
(5) いわかぜキャピタル株式会社(以下「いわかぜ」という。)による出資等(以下,下記(ア),(イ)を合わせて「いわかぜ案件」という。)
(ア) 第三者割当増資
被告は,いわかぜが運営管理するいわかぜ1号投資事業有限責任組合(以下「いわかぜ1号組合」という。)との間で,平成20年9月10日,第三者割当増資(普通株式14万5815株を発行価額総額9億9999万9270円で,優先株式13万1232株を発行価額総額8億9998万9056円で発行)の合意をし,同日,被告取締役会において上記第三者割当増資を決議し,その旨を開示した(争いがない)。いわかぜ1号組合は,同月30日,普通株式9億9999万9270円の払込を完了した(争いがない)が,優先株式の払込は,未了である(被告代表者)。
(イ) 株式の公開買付
被告は,いわかぜ1号組合との間で,同組合が被告の株式及び新株予約権に対する公開買付けを行い,被告が賛同意見を表明することを合意し,平成20年9月10日,被告取締役会は,上記内容を決議し,その旨を開示した。いわかぜ1号組合は,1株当たり8000円で公開買付けを実施し,被告の株式4万2643株を3億4114万4000円で買い付けた。(争いがない)。
(6) 原告の被告に対する請求
原告は,被告に対し,平成20年10月20日,いわかぜ案件の成功報酬6300万円(消費税込み)(以下「本件報酬」という。)及び本件費用148万5650円(以下,本件報酬及び本件費用を併せて「本件報酬等」という。)を請求した(甲10の1,2)。
3 争点
(1) いわかぜ案件が本件契約の対象となるか
ア 原告の主張
(ア) 本件契約においていわかぜが除外されておらず,被告がいわかぜを丙として特定したこと
本件契約に資本業務提携先の限定はなく,本件契約の契約書等においていわかぜを除外する定めはない。
本件契約締結前に,被告の代表者がいわかぜを本件契約において除外するなどと言ったことは否認する。原告がリストアップした候補先にいわかぜが記載されていないのは,いわゆるファンドであるいわかぜよりも,シナジー効果の見込める事業会社を優先してアプローチする趣旨であって,いわかぜを除外したものではない。
原告は,下記(イ)のとおり,いわかぜ案件についてのアドバイザリー業務を提供し,被告代表者は,平成20年8月1日,原告に対し,いわかぜとの「契約関連の調整スタートお願いします」と明確に依頼し,いわかぜを丙として特定した。
(イ) 原告がいわかぜ案件につきアドバイザリー業務を提供したこと
原告は,交渉に具体的進展のなかったいわかぜ案件につき,同社から書面で提案を受けるよう助言した。そして,原告は,いわかぜの提出した「出資に関する独占交渉権等に関する合意書」についてアドバイスをし,原告が作成した「追加情報のお願い」という文書で,いわかぜに説明を求めたり,原告従業員が被告といわかぜとの会議に出席したり,被告代表者の依頼を受けて,原告従業員がいわかぜの代表者に連絡を取って,最終提案の依頼,契約書の作成等に関する質問及び実質的条件の交渉をし,最終提案を受ける場をセッティングして,原告従業員もこれに出席した。さらに,いわかぜから出た合意書等の案文について確認,検討を行い,株式公開買付け及び第三者割当増資のスケジュール案や今後の対応事項を整理し,東証等への対応,プレスリリース案の作成などの準備を行った。
(ウ) 被告が本件報酬等の発生を認めたこと
被告は,メール等で本件報酬等の発生を自認し,有価証券報告書において本件報酬等を未払金として記載し,その発生を認めた。
(エ) 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立て
被告は,第8回口頭弁論期日において,下記イの(エ)の主張をしたが,時機に後れているので,却下を申し立てる。
イ 被告の主張
(ア) 本件契約ではいわかぜが除外され,いわかぜを丙とする特定もないこと
本件契約の締結に当たり,被告代表者は,原告の担当者に対し,被告は,いわかぜ案件についてアドバイザリー業務を原告に委託するつもりはなく,いわかぜ以外との資本増強について業務を委託する旨伝え,被告からいわかぜの記載がない候補先のリストの提示を受け,本件契約を締結した。したがって,本件契約においては,被告がリスト(アップデートされたものを含む。)に記載した候補先についてのアドバイザリー業務であることが合意されていたが,いわかぜは当該リストに記載されていないから,いわかぜは本件契約の対象ではない。
また,原告は,被告代表者が「契約関連の調整スタートお願いします」というメールでいわかぜ案件に関する契約手続の指示をしたと主張するが,当該メールは,被告代表者自らが契約関連の調整をすることを原告に報告したものであり,原告はメールの趣旨を誤解している。したがって,被告がいわかぜを丙として指定したこともない。
(イ) 原告がいわかぜ案件についてアドバイザリー業務を提供していないこと
被告といわかぜとの間で交換されたメールは,原告とは共有されておらず,被告が独自にいわかぜと交渉をしていた。いわかぜが平成20年6月下旬に提出した「資本参加に関する御提案書」は,相当詳細な条件まで詰められたものであるが,原告はそれまでの交渉に何の働きもしていなかった。
原告が,被告に対し,いわかぜから具体的提案を書面で得るように述べたことは,いわかぜ以外の候補先との交渉を進める前提としていわかぜの条件を把握するためにしたものである。被告が原告に対し,同提案書を提供したのは,原告がいわかぜの提示条件を把握し,より好条件を他の候補先から引き出すようにするためである。原告が出資に関する独占交渉権に関する合意書の送付を受けたのは,いわかぜの独占交渉権の例外を定め,原告が交渉していたメディアコープ等との交渉が続けられるようにするために必要だったからである。原告が「追加情報のお願い」なる文書でいわかぜに質問したのは,いわかぜの条件を入手した上で,メディアコープの条件を検討するためのものである。原告がいわかぜとの打ち合わせに同席したのは,独占交渉権の例外を定めたり,いわかぜに最終提案をメディアコープにぶつけたりするために必要だったからであり,原告がプレスリリースの加筆修正等をしたのは,形式的な事務手続であって,アドバイザリー業務の提供とはいえない。
(ウ) 被告が本件報酬等の発生を認めていないこと
被告は,監査法人から保守的な会計処理をするよう指示を受けていた。そのため,本件報酬等は発生していなかったのであるが,保守的に負債として計上したものであり,債務を自認したものではない。
また,被告が送ったメールも,下記(3)アのとおり,条件付きの趣旨であって,債務を自認したものではない。
(エ) 一般的なM&Aの実態からして,いわかぜ案件は本件契約の対象ではないこと
一般的にM&Aは,①相手探し,②マッチング及び投資に関する双方合意,③条件確定,④最終合意書等の作成,⑤現実の資金移動という順で進むところ,原告は①,②及び⑤に関与せず,③について,原告が最終提案等を出すよう要請をしたのは,メディアコープとの業務のためにしたものにすぎず,④について,原告は形式的事務手続をしたにすぎないから,原告はファイナンシャルアドバイザーが行うべき業務は行っていない。
M&Aにおける法務,財務デューデリジェンスの一環として,アドバイザリー報酬は売手の債務として,買手に開示される。しかるに,原告は,タカラトミー案件の報酬は会議資料に記載したにもかかわらず,本件報酬等は記載しておらず,デューデリジェンス関与者及び被告の役員は,本件報酬等を認識していなかった。
(2) 本件報酬の合意が成立したか
ア 原告の主張
原告は,被告に対し,複数案件の業務委託手数料(平成20年6月から9月まで)420万円(消費税込み)及び成功報酬として6905万7670円を請求できたのであるが,原告と被告は,平成22年10月22日,本件報酬を6300万円(消費税込み)とすることをメールにて合意した。その当時,いわかぜ1号組合との合意は全て成立し,履行を待つだけの状態で,公開買付けも50%近く成立する見込みがあったから,当該合意は有効である。
イ 被告の主張
本件報酬を6300万円とする合意は成立していない。
いわかぜ案件のうち,発行価額総額8億998万9056円の優先株式の第三者割当増資は実現されていなかったから,被告は,原告に対し,当該第三者割当増資がされることを条件とすることを伝えていた。しかし,原告が法的措置も辞さないなどとして本件報酬等を請求してきたので,訴訟係属した場合には,優先株式引受のための資金調達に支障が出ることを懸念して,被告が原告の報酬請求のメールに返信をしたが,これは被告が本件報酬を合意したものではない。
(3) 本件報酬等に条件が付されているか
ア 被告の主張
原告と被告との間では,優先株式に関する第三者割当増資が実行されることを条件として本件報酬等を支払うことが合意されていた。このことは,原告のメールにも,本件報酬等を増資を経てから支払うことになっていた旨が記載されていること等から認められる。
イ 原告の主張
本件報酬等に条件が付されているという被告の主張は,被告が,原告の報酬請求に条件付きとの異議を出さず,条件付きと主張することなく本件報酬等を認めるメールを出したこと,被告が本件報酬等の発生を有価証券報告書で自認したことと矛盾しており,否認する。
(4) 本件費用に合理性があるか
ア 原告の主張
本件費用は,本件契約に基づく業務遂行のために支出した合理的費用である。原告は,被告に予め予約するホテルを伝えていたし,被告もメールや有価証券報告書において本件費用を債務として認めていた。
イ 被告の主張
被告の代表者は,原告の担当者に対し,平成20年6月19日からの香港出張に先立ち,飛行機はエコノミークラスを利用し,可能な限りホテルの費用を押さえるよう伝えた。したがって,これに違反した原告の支出は合理的でなく,被告は全額の支払義務は負わない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実(各事実末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨により認める。)
(1) 本件契約の締結まで
ア 被告は,第9事業年度末(平成20年3月31日)に債務超過であったため,第10事業年度末も債務超過になると,上場廃止になる事態に陥っていたので,早急に資本増強等により債務超過を解消する必要があった(甲47,乙2,28)。
イ 被告は,平成20年4月3日,資本増強のための業務提携候補の一つであったいわかぜとの間で,秘密保持契約を締結し,交渉を開始した(乙17から19,20の1)。また,被告は,同月,シンガポール法人メディアコープとの間で,同法人による被告のMBO(マネジメントバイアウト)への出資計画を協議していた(甲18,被告代表者)。
ウ 被告は,資金調達の一環として,タカラトミーとの間で被告の子会社であるゴンゾロッソ株式会社株式をタカラトミーに売却するための交渉をしていたところ,平成20年5月10日頃,タカラトミーから,当該取引を進めるにあたって,ファイナンシャル・アドバイザーを付けるよう勧められ,原告の紹介を受けた(乙2,甲50,被告代表者)。
エ 被告代表者B(以下「被告代表者」という。)は,原告コーポレートファイナンス部長C(以下「C」という。)らに対し,平成20年5月12日,同月中の資金調達及び中長期的な資本増強の目処が立たないと,被告の監査法人から監査証明が出ないと説明したので,原告は,被告の監査法人から聞き取りをし,同月14日以降,タカラトミーに対して被告の提案書案を提示し,資本業務提携先の候補を被告に伝えるなどのアドバイザリー業務を開始した(甲46,50,乙3,4,証人F)。
オ 原告は,被告に対し,平成20年5月20日,タカラトミー案件での資金調達により監査証明を得ること,中長期的増資計画については,いわかぜから具体的提案を得るよう助言し,具体的提案があった場合には,原告とも情報を共有するよう求め,増資に向けた大株主への対応方法の助言などを記載したメールを送付した(甲17,50,証人F)。
カ 平成20年5月30日頃,タカラトミー案件の取引が成立した(争いがない)。
キ 被告は,原告に対し,平成20年6月1日,事業会社から優先して候補先を探す方針で,事業会社中心の資本業務提携の候補先のリストを送付し,原告と被告との間で,候補先リストの改訂作業を行ったが,当該リストには,いわかぜは記載されていなかった(甲18,19,乙3,7,8,証人F)。
ク 原告と被告は,平成20年6月2日,本件契約の契約書(平成20年5月12日付)に調印した(乙15)。
ケ 原告は,被告に対し,平成20年6月4日頃,増資等に関する提案をし,事業会社から優先して候補先を探し,事業会社のみでは調達資金が不足する場合には,いわかぜ等のファンドに打診を行う旨の方針を明らかにし,いわかぜ以外の事業会社を多数記載した候補リストを提示した(甲46,証人F)。
(2) 原告によるいわかぜ案件以外のアドバイザリー業務の遂行
ア 平成20年6月5日頃,原告は,被告の意見を踏まえて,予定増資総額を15億円とする増資案についての候補先用の提案資料を作成し,同月7日,香港の候補先との打ち合わせの日程調整を開始した(甲21)。
イ 原告は,被告に対し,平成20年6月15日から同月20日にかけて,金融機関に対してリスケジューリングを求める際の説明資料について修正の助言等を行った(甲20,50)。
ウ 原告のCは,平成20年6月19日から同月21日まで香港に出張し,被告代表者と共に候補先へのプレゼンテーションをした(甲9,22,乙9)。
エ 被告は,原告に対し,平成20年6月24日,シンガポールの候補先であるメディアコープとの打ち合わせへの同行及び英文資料の作成を依頼し,原告は資料を作成した(甲23,26)。
オ 原告は,被告からメディアコープに対する提案方法について質問を受け,平成20年6月28日,被告の取締役には現株主の利益を最大化する義務があること,いわかぜから具体的な提案(発行価格,調達総額,資本参加後の事業計画等)を受け取り,その提案が株主利益を最大化するかどうか判断するべきこと,いわかぜから具体的提案がないと,メディアコープの提案が現株主に有利か分からないので,被告からメディアコープに対し積極的に提案をするべきではないことを回答した。被告も原告の提案に賛同したので,原告は,被告に対し,同年7月1日,いわかぜの提案とメディアコープの提案のどちらが現株主の利益にかなうのかという原理原則で交渉するべきであるとの方針を確認するメールを送った。(甲26)
カ Cは,平成20年7月8日から同月10日までシンガポールに出張し,メディアコープとの打ち合わせを行った(甲9の3,50)。
キ 被告は,原告に対し,平成20年7月26日,メディアコープとのNDA(秘密保持契約)締結についての助言を求め,原告の助言を踏まえ,同月28日,NDA締結の方針を決めた(甲31)。
(3) 原告のいわかぜ案件への関与
ア いわかぜは,被告との間で,原告を介さず,資本業務提携に関する打ち合わせをした上で,平成20年6月23日,「資本提携に関する御提案書」を提示し,平成20年7月2日,これを修正した提案書を提示し,いわかぜが被告と資本業務提携した後の被告の経営方針,事業計画及び予想投資額,いわかぜの保有比率,経営体制,いわかぜの株式保有期間とその売却見通しなどを提示した(甲48,乙10から12,21)。また,いわかぜは,被告に対し,「出資に関する独占交渉権等に関する合意書」案を提示した(甲28,乙20の10)。
イ 被告は,原告に対し,平成20年7月2日,「資本参加に関する御提案書」及び「出資に関する独占交渉権等に関する合意書」案を送付し,これらの書面についての打ち合わせを求めた(甲28)。
ウ 原告は,被告に対し,平成20年7月4日までに,「出資に関する独占交渉権等に関する合意書」における独占交渉権の例外の範囲などについて助言するとともに,被告の意見を取り入れた上で,いわかぜに対する質問事項を記載した「追加情報のお願い」なる文書を作成した(甲29)。「追加情報のお願い」は,原告が被告のファイナンシャル・アドバイザーとして,いわかぜに対し説明をお願いするものであり,具体的には,TOB(株式公開買付け)に有力株主が応じない場合の対応,被告との事業の提携を提案している法人との交渉状況,増資額の根拠,いわかぜの被告株式売却についての具体的考えなどについて質問するものであった(甲29,証人F)。
エ 原告は,いわかぜとの間で,平成20年7月7日及び8日,「出資に関する独占交渉権等に関する合意書」案の修正協議をし,同月8日,いわかぜから「追加情報のお願い」に対する回答の送付を受けた(甲58,59)。
オ 原告は,被告に対し,平成20年7月9日,メディアコープの打ち合わせが終わるまでは,独占交渉権等に関する合意書の作成は遅らせた方がよいなどと助言し,これに従って,被告は,同月11日まで合意書の調印を延ばした(甲30,乙16,20の11)。
(4) いわかぜとメディアコープに候補先が絞られてからの状況
ア 被告代表者は,Cに対し,平成20年8月1日,「昨日,いわかぜのD代表と話した際に,具体的な契約関連をそろそろ手をつけないと間に合わないのではないかとレコフさん(原告)も心配しているというお話したところ,(中略)やり取りは来週早々からもはじめましょうとおっしゃっていました。レコフ・Cさんから来週月曜に連絡してくださいといわれましたので,来週明けにDさんに連絡して,契約関連の調整スタートお願いします。」とのメールを送ったところ,Cは,返信のメールで,被告代表者の指示を了解し,いわかぜの最終提案が出てから契約書の作成をした方がよいとの意見等を伝えたところ,被告代表者は,原告代表者の指示を了解したという部分について何ら言及しないで返信をした(甲51)。
イ Cは,上記アの被告代表者の依頼に従い,週が明けた平成20年8月4日,いわかぜのD代表に対し,同月7日までに,いわかぜの最終提案を出すよう求め,契約締結手続のスケジュール等について確認した(甲32)。
ウ Cは,被告に対し,平成20年8月4日,いわかぜの最終提案を踏まえ,メディアコープが対抗提案を出すかどうかを確認してから資本業務提携先を決定するとの方針を伝えたところ,被告代表者は,Cに対し,同月7日にいわかぜの最終提案を聞く会議をセットするよう要望した。そこで,Cは,いわかぜ側と日程調整をしたが,いわかぜ側の希望で,会議は延期された。(甲32,52,乙14,18)
なお,いわかぜのD代表が,原告に対し,会議の延期を連絡した際,無形固定資産の「のれん」を半額まで減損処理すればよいというのが被告の方針であったが,いわかぜの会計アドバイザーは全額減損処理すべきとの意見であることを伝え,この問題の処理いかんによっては,いわかぜ案件の取引が成立しないおそれがあると話したので,原告は被告にそのことを伝えた(甲52)。
エ Cは,メディアコープとの打ち合わせのために,平成20年8月10日から同月12日までシンガポールに出張した(甲9の8,甲50)。
オ 平成20年8月12日,原告事務所において,被告が,いわかぜの最終提案を聞くための打ち合わせが行われ,原告の従業員(Cほか2名)もこれに出席した(甲50)。その際,いわかぜは,「株式引受に向けた合意事項に関する事前討議資料」という書面を提示し,いわかぜの株式公開買付け,第三者割当増資の予定スケジュール,被告といわかぜの合意事項の案(デューデリジェンスを踏まえた被告の改善報告,取締役の責任表明,株式の発行条件,新経営体制の合意等)を提示した(甲49)。
カ Cは,メディアコープとの打ち合わせのために,平成20年8月14日から同月16日までシンガポールに出張した(甲9の10から13,甲50)。なお,当該出張に先立ち,Cは,被告社長秘書と宿泊先ホテル及びその宿泊費を伝えるなどの調整を行った(甲57)。
キ 原告は,被告に対し,平成20年8月17日,メディアコープとの資本業務提携は未だ決定している状況ではないので,既に具体的な提案のあったいわかぜ案件を進めるのが適切であるとの意見をメールで送り,原告と被告は,同月19日頃,協議を行い,被告は,いわかぜを第一候補に絞ることとした(甲33,50)。
(5) いわかぜ案件成立までの状況
ア いわかぜが,被告に対し,いわかぜ案件に関する契約書案(普通株式発行に係る株式引受契約書および優先株式発行に係る基本合意書,表明保証及び誓約書)を送付したことから,被告は,原告に対し,平成20年8月26日,上記契約書等を転送し,原告,被告,いわかぜ及び弁護士が,翌日,契約書案について打ち合わせを行った(甲34,乙18)。
イ 原告は,被告らに対し,平成20年8月28日,29日,いわかぜ案件についての原告,被告,いわかぜ及び弁護士がそれぞれ対応する事項(原告は,改善報告書の確認,意見表明報告書作成,プレスリリース修正,関東財務局への届出書作成等を担当する。)をまとめたところ,いわかぜが一部事項について修正を求めた(甲35)。なお,原告は,その後も関係者がそれぞれ対応すべき事項を修正アップデートしていた(甲37,40)。
ウ 原告は,被告に対し,平成20年8月29日から同年9月1日にかけて,東証でのプレスリリース内容について助言した(甲36)。
エ 原告は,いわかぜから,株式公開買付けの予定が遅れそうであるとの情報を得て,平成20年9月1日,これを被告に伝えた(甲36,50)。
オ 原告と被告は,平成20年9月1日から2日かけ,公開買付け届出書,公告及びプレスリリース案についてメールで協議し,同月2日,これらについての金融庁への対応につき電話会議をした(甲38,50)。
カ 原告は,平成20年9月3日,東証に事前相談に赴いた上で,被告に対して,東証に対する説明のポイントなどを助言した(甲39,50)。
キ 原告は,被告との間で,平成20年9月5日,東証及び関東財務局への提出書類等に関し打ち合わせをした(甲41,50)。
ク 原告は,平成20年9月6日,プレスリリース案を弁護士と共同で作成し,これを被告に送付した(甲42,50)。
ケ 原告は,平成20年9月8日,同月10日に予定されているいわかぜ1号組合に対する普通株の第三者割当増資及び同組合による被告株式の公開買い付けに向けて,まず,原告,被告及び弁護士で必要書類の最終確認をし,その後いわかぜも加えて株価の確定をして全書類を最終確認するための会議のスケジュール調整をし,同月9日に当該会議が実施された(甲43,50)。
コ 原告は,被告から関東財務局提出用の書類一式の確認を求められ,平成20年9月9日,同書類を修正したものを被告に送った(甲44)。
サ 原告は,弁護士に対し,平成20年9月9日,被告は株式の発行費用に原告と弁護士のアドバイザリーフィーを含めず,費用処理をするとの方針であり,この処理について被告が監査法人に確認済みであると伝えた(甲55)。
シ 原告といわかぜは,平成20年9月10日,普通株式発行に係る株式引受契約書および優先株式発行に係る基本合意書を締結し,被告は,いわかぜ1号組合による被告株式に対する公開買付けに関する賛同意見表明を取締役会決議し,これらについて,プレスリリースを行った(争いがない)。
(6) 本件報酬等に関するやりとり
ア 原告は,被告に対し,平成20年10月20日頃,いわかぜ案件のうち優先株式の第三者割当引受及び公開買付けが確定していなかったが,見込額で計算した成功報酬額が6905万7670円であるとして,報酬の支払を請求し,被告と協議をしたところ,被告から減額を求められた(甲8,50,証人F,弁論の全趣旨)。
原告は,上記協議を踏まえ,被告のCFO・E(以下「E」という。)に対し,平成20年10月21日,上記請求よりも減額した本件報酬6300万円に本件費用を加えた本件報酬等6448万5650円を同年11月末日までに支払うよう請求した請求書を送付し,これに受諾するよう返信を求めるメールを送った(甲7)。これに対し,Eは,同月22日,「ご連絡ありがとうございます。11月28日お支払いで,進めさせていただきたく,よろしくお願いします。」と返信した(甲8)。
イ Eは,原告に対し,平成20年11月28日,同年12月予定のいわかぜの追加増資が翌年3月にずれ込み,資金繰りが苦しいとの理由で,本件報酬等の支払を平成21年3月末にするよう求めるメールを送り,原告もこの申し入れを受諾した(甲11,12)。
ウ いわかぜは,優先株式の増資の引き受けのため,多数の候補先に出資を提案したが,平成21年3月までに資金を調達できず,同月末のいわかぜによる優先株の引受もなされなかった(乙17)。
上記イで予定した期限に支払がなされないことから,原告は,被告に対し,平成21年3月30日,本件報酬等について,被告が保有資産等の売却,金融支援又は優先株による増資などの取り組みを実現して支払うということで間違いないか確認を求め,被告代表者は,間違いないと回答した(甲12)。
エ 原告は,平成21年11月25日,被告の監査法人に対し,本件報酬等が6448万5650円である旨回答し(甲13),被告の第13期有価証券報告書には,原告に対し6448万5000円の未払金がある旨記載された(甲14)。
2 以上の事実に基づき判断する。
(1) いわかぜ案件が本件契約の対象となるか
ア 本件契約は,被告が特定した者(以下「丙」という。)との間の被告又は被告の関係会社の株式の譲渡,事業の譲渡,経営・事業統合及び資本業務提携その他これに類する取引等についての契約の締結に関するアドバイザリー業務を内容とするものであり(上記第2の2(2)ア),丙の特定が候補先リスト等によって限定されるなどの定めは契約書にない。
また,下記エ(ア)のとおり,本件契約の締結に当たり,被告が,原告に対し,いわかぜ案件を本件契約の対象外とする旨を伝えた事実も認められない。
イ 原告は,被告に対するアドバイザリー業務を開始して間もなく,いわかぜから具体的提案を得て,原告もその情報を共有する旨の助言をし(上記1(1)エ,オ),増資等に関する方針を提案をした際に,事業会社から優先して候補先を探すが,いわかぜを含むファンドも候補先とすることを伝えていた(上記1(1)ケ)。
そして,いわかぜから「資本参加に関する御提案書」及び「出資に関する独占交渉権等に関する合意書」案の提示を受けると,被告は,これらの文書を原告に送付し,原告は,被告のアドバイザーとして,いわかぜに対する上記御提案についての質問をし,上記合意書案の修正及び合意時期についても被告に助言した(上記1(3)アからオ)。
さらに,原告は,被告代表者から,いわかぜ案件の契約手続への協力を依頼され(上記1(4)ア),いわかぜとの打ち合わせの日程調整をし(上記1(4)イ,ウ),いわかぜから,いわかぜ案件の取引の成否に影響するのれんの償却問題についての意見を聞いて,被告にこれを伝え(上記1(4)ウ),いわかぜから被告が契約書等の案の提示を受ける席に同席し(上記1(4)オ),被告に対し,いわかぜとメディアコープのいずれと取引すべきかについて助言した(上記1(4)キ)。
加えて,原告は,契約書等の内容の協議に立ち会い(上記1(5)ア,ケ),関係者から情報を得て,関係者がそれぞれ対応すべき事項をまとめて,これを随時修正し(上記1(5)イ,エ),東証,金融庁及び関東財務局への対応に直接又は間接に関わった(上記1(5)ウ,オ,カ,キ,ク,コ)。
上記各業務は,本件契約に定めるアドバイザリー業務のうち,上記第2の2(2)イ(エ)から(カ),(ク)の各事項に該当するのはもとより,同(イ),(ウ)の候補者の選定等に関する助言にも該当するといえる。
ウ 原告がいわかぜ案件について上記イの各業務を提供したのは,被告の助言要求(上記1(3)イ)や被告代表者の契約手続開始指示(上記1(4)ア)を受けてのものであるから,被告は,いわかぜを丙と指定したということができる。
したがって,いわかぜ案件ついての業務提供は,本件契約の丙と指定されたいわかぜとの本件取引に係るアドバイザリー業務であったといえるから,いわかぜ案件は本件契約の対象となる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,本件契約締結に当たり,被告代表者がいわかぜを本件契約の対象外とすることを伝えており,本件契約の対象となるのは原告と被告がリストアップした候補先に限定される旨主張し,被告代表者の陳述書及び尋問結果に同旨の部分がある。
しかしながら,被告代表者がいわかぜを対象外とする旨を明確に述べたのであれば,本件契約の契約書に,いわかぜを除外する旨の記載があってしかるべきであるが,そのような記載はない。また,原告は,事業会社から優先して候補先を探し,予備的にいわかぜを含めたファンドからも出資を募る方針を示していた(上記1(1)ケ)から,原告が事業会社を中心したリストを被告に提示したことをもって,原告がいわかぜを本件契約の対象としない趣旨を明らかにしたということもできない。
さらに,被告が,いわかぜからの「資本参加に関する御提案書」を原告に送付して助言を求め(上記1(3)ア,ウ),原告が被告のファイナンシャル・アドバイザーとしていわかぜに質問するのを許容し,候補先が事実上いわかぜ1社に絞られた後も,原告にいわかぜ案件に関与させた(上記1(4)キ,(5)アからケ)という経緯は,被告がいわかぜ案件を本件契約から除外していたという被告主張と整合しない。
その他にも,原告からの本件報酬等の請求に対し,これを認めるメールを送り(上記1(6)ア),被告の有価証券報告書に本件報酬等を記載した(上記1(6)エ)ことは,被告がいわかぜ案件を本件契約から除外する意思があったことと矛盾する態度である。
以上によると,上記被告代表者の陳述書及び尋問結果は採用できず,被告の主張は理由がない。
(イ) 被告は,原告に対し,いわかぜ案件の契約関係の調整を依頼したことはなく,原告は,被告代表者のメールを誤解していると主張し,被告代表者の尋問の結果には,メールの正確な意味は,「(私が,)レコフ・Cさんから来週月曜に(いわかぜキャピタルのDさんに)連絡してくださいといわれましたので,(私が)来週明けにDさんに連絡して,契約関連の調整スタート(をいわかぜのDさんに)お願いします。」という意味であるとの部分がある。
しかしながら,原告のCが,被告代表者から「契約関連の調整スタートお願いします」とのメールを受け取り,指示を了解した旨返信したのに対し,被告代表者が異議を唱えなかったこと(上記1(4)ア),後日,被告代表者が,Cに対し,改めていわかぜとの会議の設定を依頼したこと(上記1(4)ウ)からすれば,メールの内容が被告代表者が述べるような趣旨であったと理解するのは,不自然不合理であるといわざるを得ない。
したがって,被告代表者の尋問結果は採用できず,被告の主張は理由がない。
(ウ) 被告は,原告が関わる以前にいわかぜと被告との間で詳細な条件が詰められていたこと,原告がいわかぜ案件に関わったのは,競合していたメディアコープとの交渉を有利に進めるためであったこと,プレスリリースの修正等は形式的事務であったことなどから,被告によるいわかぜ案件についてのアドバイザリー業務はなかったと主張する。
しかしながら,本件契約において,原告が途中からアドバイザリー業務を提供した候補先を丙から除外するなどの定めはない(上記第2の2の(2)参照)。現に,原告が関わる以前から協議が行われていたタカラトミー案件は本件契約の対象となっている(上記1(1)ウ,上記第2の2(3))し,被告がアドバイザリー業務を提供したことを争っていないメディアコープも,本件契約成立以前に被告が独自に交渉していた相手であった(上記1(1)イ)から,本件契約が,契約成立前から交渉が進んでいた候補先についての業務を除外する趣旨であったとは解されない。
また,原告は,いわかぜとメディアコープのいずれの提案が被告の利益に適うかという方針で業務を進め(上記1(2)オ),被告のファイナンシャル・アドバイザーとして,いわかぜに質問し,その回答を得たほか(上記1(3)ウ,エ),いわかぜとの独占交渉権等に関する合意書について助言し(上記1(3)オ),いわかぜを第一候補に絞る際の助言を行い(上記1(4)キ),いわかぜ案件成立までの事務手続を行っている(上記1(5)アからサ)ことからすれば,原告が専らメディアコープとの交渉を有利に進めるためにいわかぜ案件に関与していたともいえない。
さらに,原告が行った事務手続は,会議の日程調整,関係者の対応事項のまとめ,東証,金融庁及び関東財務局への対応及び提出書類についての助言,いわかぜと被告との間の契約関係書類の確認等(上記1(5)アからサ)の多岐にわたっており,形式的事務の域を超えている。
したがって,被告の主張は理由がない。
(エ) 被告は,一般的なM&Aの手続からして,本件報酬は発生していない旨の主張をする。
当該主張は,口頭弁論終結の直前に同時に膨大な証拠の提出とともにされたものであるが,上記第2の3(1)イ(イ)の主張と実質的に重なり,訴訟の完結を遅延させるとまではいえないから,時機に後れた攻撃防御方法として却下することはしない。
ただし,乙17から乙22は,本件契約の有効期間外の事実や,被告に対するアドバイザリーとは関連の薄いいわかぜ側の行動に関する事実に関する部分が多く,これらの証拠から認められる事実を前提としても,原告のいわかぜ案件への関与が極めて少なかったとはいえないから,上記イの認定判断を左右するものではない。
また,被告は,本件報酬等がデューデリジェンスで検討されていなかったとも主張する。しかし,上記1(5)サのとおり,被告及び被告の監査法人は,原告のアドバイザリーフィーを株式発行費用に含めるか否かを検討し,原告及び弁護士とも情報が共有されていたこと,いわかぜ側の法務デューデリジェンスにおいて,本件契約の要旨が記載されていたこと(乙27の2)からすると,本件報酬について検討がなかったとはいえない。
したがって,被告の主張は理由がない。
(2) 本件報酬の合意が成立したか
ア いわかぜ案件も本件契約の対象となることから,いわかぜ案件について第三者割当増資及び株式公開買付けに関する原告といわかぜ1号組合との法的拘束力のある合意が成立した平成20年9月10日に,いわかぜ案件についての成功報酬債権が成立することとなる(上記第2の2(2)エ(ア),(5))。
そして,本件報酬の算定の基礎となる移動する資産額(上記第2の2(2)エ(イ))は,タカラトミー案件が7億7394万円(上記第2の2(3)),第三者割当増資が普通株式9億9999万9056円,優先株式8億9998万9056円(上記第2の2(5))であり,原告は,平成20年10月当時,公開買付けの額は50%成立見込みで3億5171万2000円と仮定していた(上記1(6)ア)。これを基に,本件契約の報酬算定式に当てはめ,既払いのタカラトミー案件報酬4200万円(上記第2の2(3))を控除すると,成功報酬額は6905万7670円となる。
また,原告は,タカラトミー案件の他に,増資に向けた業務も開始したことで,上記第2の2(2)オ(ア)のとおり,複数取引となった場合の月額の手数料4か月分(平成20年6月から9月)420万円(消費税込み)も請求できた。
イ 上記アのとおりの債権を原告は取得していたところ,原告は,被告に対し,被告からの減額要求に応じて,本件報酬6300万円に本件費用を加えた6448万5650円の請求をし,被告CFOであったEが,平成20年10月22日,平成同年11月28日に支払う旨をメールで返信した(上記1(6)ア)から,本件報酬等について原告と被告の間で合意(以下「本件合意」という。)が成立したといえる。
ウ 被告は,原告から法的措置を辞さないなどとして請求を受けたため,メールに返信したもので,合意は成立していないと主張する。
しかし,平成20年10月当時,被告が,原告に対し,法的措置を執る旨強硬に主張していたことを認めるに足りる証拠はないし,上場企業であった被告が(上記第2の2(1)),単に法的措置を執ると主張されただけで,負担していない債務を承認するとは考えられないから,被告の主張は理由がない。
(3) 本件報酬等に条件が付されているか
ア 本件契約では,成功報酬の支払は,入金又は資産等の受け渡しから10日以内にすることとされていた(上記第2の2(2)エ(オ))から,本件合意が成立した時点では,払込の行われていない優先株式の第三者割当増資分の成功報酬の支払をする必要はなかったものである。
また,被告が平成20年11月28日に,いわかぜの追加増資がないことを理由にいわかぜからの払込みの見込まれる平成21年3月末まで本件報酬等の支払時期を延期するように求めた際には,原告もこれに応じていた(上記1(6)イ)。
これらの事情からすれば,本件合意に当たって取り交わされた請求書及びメールの返信には何ら条件が付されてはいなかったものの,原告と被告は,本件報酬のうち,いわかぜの優先株式の第三者割当増資に関する分の報酬については,その払込があることを黙示的な前提として,本件合意をしたものと認めることができる。
そうすると,本件報酬のうち,優先株式の第三者割当増資に関する報酬は,その払込みを停止条件とする合意があったと認められる。
そして,上記第2の2(2)エ(ア)のとおり,本件契約による成功報酬が発生する期限である契約終了から3年を経過しても,いわかぜによる優先株式の第三者割当増資の払込は実現していないから(上記第2の2(5)ア),条件が成就しないことが確定したといえる。
イ 原告は,被告が,原告に対し,本件報酬等を支払う旨を自認し,有価証券報告書に本件報酬を記載したことは,条件が付されていたことに反していると主張する。
しかし,被告が本件合意をした平成21年10月当時は,同年12月の増資が見込まれており(上記1(6)イ),被告が改めて支払を約束した平成21年3月当時も,いわかぜは出資者を募る活動を続けており(上記1(6)ウ),優先株式の第三者割当増資の条件が成就する可能性があったこと,既に払込済みのいわかぜによる普通株式の第三者割当増資等についての多額の報酬が発生しており(上記(2)ア参照),被告がその支払を免れる余地がなかったことからすれば,本件報酬等を支払をすると被告が表明したことが,条件付き権利であることに矛盾する行動とまではいえない。
また,被告は,有価証券報告書に本件報酬等を記載していることも,条件付きの権利であっても成立している債務は開示しなければならないことからすれば,条件付き権利であることと矛盾する行動とはいえない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(4) 本件費用に合理性があるか
本件費用は,本件契約に基づく打ち合わせのための費用であり(上記1(2)ウ,カ,(4)エ,カ),かつ,本件合意において,被告も支払義務のあることを認めている(上記(2)イ)から,合理的な費用として被告に請求できる。
被告代表者の陳述書及び尋問結果には,原告に対し,エコノミークラスを利用し,ホテルの費用を抑えるよう伝えたという部分があるが,被告が被告の社長秘書に出張計画を伝えていた経過(上記1(4)カ)に照らすと,採用できない。
(5) 以上によると,本件報酬等のうち,いわかぜ案件の優先株式分の成功報酬を除く請求は理由があることとなる。
その額は,タカラトミー案件7億7394万円(上記第2の2(3)),普通株式増資9億9999万9270円,公開買付け3億4114万4000円(上記第2の2(5))を基に計算した報酬4037万5123円(消費税込み)に,複数案件の手数料420万円(消費税込み)を加算し,さらに本件報酬148万5650円を加算した4606万0773円とするのが相当である。
よって,上記金額の限度で認容することとし,訴訟費用の負担について,民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき,同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 綿貫義昌)
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