判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(52)平成29年 3月14日 東京地裁 平27(ワ)37052号 中途解約金等請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(52)平成29年 3月14日 東京地裁 平27(ワ)37052号 中途解約金等請求事件
裁判年月日 平成29年 3月14日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)37052号
事件名 中途解約金等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2017WLJPCA03148010
要旨
◆木造戸建て住宅の工務店を組織したフランチャイズチェーンのフランチャイザーである原告会社が、そのフランチャイジーであった被告RT社及び被告DH社に対し、同社らが原告会社との各フランチャイズ契約(本件各契約)を中途解約したことにより中途解約金等が発生しているなどと主張して、フランチャイズ契約に基づき、金員の支払を求めた事案において、原告会社と被告RT社との間のフランチャイズ契約の期間満了による終了を否定するなどして、本件各契約の中途解約を認めるとともに、原告会社と被告DH社との間で同社が被告RT社の債務を重畳的に引き受ける旨の合意が黙示的に成立していたと認めた上で、原告会社が請求できる各費用を認定する一方、同社の債務不履行による被告DH社の損害の発生を否定して、その損害賠償請求権での相殺に係る被告DH社の主張を排斥したが、同社が譲り受けた役員報酬請求権での相殺を認めて、請求を一部認容した事例
参照条文
民法415条
民法505条
裁判年月日 平成29年 3月14日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)37052号
事件名 中途解約金等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2017WLJPCA03148010
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 株式会社千金堂
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 遠山秀
同 田村優樹
同 松浦康治
同 今井浩
同 柏木秀一
同 福井琢
同 黒河内明子
同 黒田貴和
同 和田陽一郎
同 新井理栄
同 金子朝彦
同 迫友広
千葉県習志野市〈以下省略〉
被告 株式会社デクトホールディング
同代表者代表取締役 B
同所
被告 有限会社リタ
同代表者代表取締役 B
主文
1 被告株式会社デクトホールディングは,原告に対し,456万7476円(ただし20万6712円について被告有限会社リタと連帯して)及びこれに対する平成27年11月1日から支払済みまで年18.25%の割合による金員を支払え。
2 被告有限会社リタは,原告に対し,被告株式会社デクトホールディングと連帯して,20万6712円及びこれに対する平成27年11月1日から支払済みまで年18.25%の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを25分し,その3を原告の負担とし,その21を被告株式会社デクトホールディングの負担とし,その余を被告らの連帯負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告株式会社デクトホールディングは,原告に対し,518万9736円(ただし52万5972円の限度で被告有限会社リタと連帯して)及びこれに対する平成27年11月1日から支払済みまで年18.25%の割合による金員を支払え。
2 被告有限会社リタは,原告に対し,被告株式会社デクトホールディングと連帯して,52万5972円及びこれに対する平成27年11月1日から支払済みまで年18.25%の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,木造戸建て住宅の工務店を組織したフランチャイズチェーンのフランチャイザーたる株式会社である原告が,原告のフランチャイジーであった被告有限会社リタ(以下「被告リタ」という。)及び被告株式会社デクトホールディング(以下「被告デクト」という。)に対し,被告らが,原告とのフランチャイズ契約に基づく債務を支払わず,また,被告デクトが,被告リタの債務を重畳的に引き受け,さらに,当該フランチャイズ契約を中途解約したことにより,中途解約金等が発生しているとして,フランチャイズ契約に基づき,被告デクトについては,費用等合計518万9736円(ただし,52万5972円の範囲で被告リタと連帯する),被告リタについては,費用等合計52万5972円及びこれらに対する当該フランチャイズ契約終了の日が属する月の翌月最初の日である平成27年11月1日から各支払済みまで年18.25%の割合による約定遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により容易に認定できる事実のことをいう。なお,枝番等のある書証については,特に断らない限り,その全てを含む。以下同じ。)
(1) 当事者
ア 原告は,加盟店に対する市場調査,経営企画,店舗設計,財務管理,労務管理の指導,援助並びに教育等を目的とする株式会社であり,木造戸建住宅の工務店を組織したフランチャイズチェーンのフランチャイザーである。(争いがない)
イ 被告デクト及び被告リタは,いずれも代表者代表取締役Bが,その実弟で原告の元取締役のCとともに支配する会社であり,原告が運営するフランチャイズチェーンのフランチャイジーとして,木造戸建住宅の販売・建設請負工事等を行っていた。(争いがない)
ウ Cは,遅くとも平成24年4月19日から平成27年6月30日に辞任するまで原告の取締役であった。(弁論の全趣旨〔全部事項証明書〕)
(2) フランチャイズ契約の締結(a店分)
被告リタは,平成21年1月31日,原告との間で千金堂フランチャイズチェーン加盟契約(以下「a店契約」という。)を締結し,店舗名称を「千金堂b店」,営業地域を「浦安エリア(浦安・市川南部)」として,原告のフランチャイズチェーンに加盟した。(争いのない事実のほか,甲2)
a店契約では以下の約定があった。(争いのない事実のほか,甲2)
ア 月額会費 1万5000円(消費税別)
イ 広告協賛金 1万5000円(同上)
ウ ロイヤリティ 千金堂住宅(千金堂〔原告〕ブランドの住宅のこという。以下同じ。)の受注契約をした場合,1件につき5万円
エ イベント参加費(イベント参加費,研修費・セミナー参加費,各種保険料,紹介手数料,その他原告が必要と認めたものについて,別途原告の定める金額)
オ その他諸費用:仕様,価格改定,CI(コーポレートアイデンティティーの略。ブランドイメージ,商標,意匠,ロゴ,ロゴマーク,会社の行動,品位等の総称をいう。以下同じ。)変更等に伴うデザイン,看板等の制作,取付費用の実費
カ 遅延損害金 年18.25%
キ 中途解約 被告リタは,以下の条件を充足する場合には,a店契約を中途解約できる。(甲2)
(ア) やむを得ない事由の存在(甲2。第57条)
(イ) 3か月以上前の文書による通知(同上)
(ウ) 千金堂フランチャイズチェーン加盟契約中途解約に伴う覚書の締結(同上)
ク 終了後の措置
被告リタは,原告に対し,契約終了の日までに,ロイヤリティ,販促費用等すべての金銭債務を支払わなければならない。(甲2。61条1項,3号)
(3) フランチャイズ契約の締結(c店分)
被告デクトは,平成23年11月1日,原告との間で千金堂フランチャイズチェーン加盟契約(以下「c店契約」という。)を締結し,店舗名称を「千金堂c店」,営業地域を「仙台南エリア(宮城県岩沼市,亘理町,山元町,柴田町,大河原町,角田市,丸森町)」として,原告のフランチャイズチェーンに加盟した。(争いがない事実のほか,甲3)
c店契約では以下の約定があった。(争いのない事実のほか,甲3)
ア 月額会費 40万円(消費税別)
なお,翌月分を当月末日までに支払う。ただし,原告と被告デクトは,平成26年4月1日以降の月額会費を20万円とする合意をした。
イ 広告協賛金 月額60万円(同上)
翌月分を当月末日までに支払う。ただし,原告と被告デクトは,平成26年4月1日以降の広告協賛金を月額30万円とする合意をした。
ウ 物件チャージ 千金堂住宅の受注契約をした場合,1件につき30万円(ただし,被告デクトは,平成26年4月1日以降,原告に対して,1件につき10万円を支払ってきた。)
エ イベント参加費(イベント参加費,研修費・セミナー参加費,各種保険料,紹介手数料,その他原告が必要と認めたものについて,別途原告の定める金額)
オ その他諸費用:仕様,価格改定,CI変更等に伴うデザイン,看板等の制作,取付費用の実費
カ 遅延損害金 年18.25%
キ 契約期間 2年間であるが,以下の条件を充足することを条件に中途解約が認められる。
(ア) やむを得ない事由の存在
(イ) 3か月以上前の文書による通知
(ウ) 「千金堂フランチャイズチェーン加盟契約中途解約に伴う覚書」の締結
(エ) 契約終了の日までに物件チャージ,販促費用等すべての金銭債務の支払
(オ) 中途解約金として月額会費及び広告協賛金の合計額の3か月分に相当する金員の支払
(カ) 中途解約事務手数料として,月額会費及び広告協賛金の合計1か月分に相当する金員の支払
(4) 会費等の不払及び解約申入れ
ア 被告らは,平成27年7月28日,原告に対し,退会を申し入れ,平成27年8月以降の月額会費を支払わない。(争いがない)
イ 原告は,同年10月8日到達の文書により,被告らに対し,退会の申出について,本件各契約所定の手続を履践し,中途解約金その他未払金を支払うことを条件に同月末日をもって解約することを承諾するとし,未払金合計518万9736円を支払うよう催告・回答した。(争いがない)
(5) 被告の役員報酬の発生
Cは,少なくとも平成27年1月から同年6月30日まで原告の取締役であり,月額5万円の役員報酬を受領する権利を有していた。(争いがない)
(6) 相殺の意思表示
被告デクトは,平成28年2月26日の本件第1回弁論準備手続期日において,原告に対して,原告の本訴請求債権と,被告デクトの原告に対するc店契約の債務不履行に基づく損害賠償請求債権3024万円を対当額で相殺する意思表示をし,さらに,予備的に,原告の本訴請求債権と被告デクトがCから譲り受けたと主張する同人の原告に対する平成27年1月から6月分までの役員報酬合計30万円の合計3054万円を対当額で相殺する意思表示をした(これは,被告デクトが,被告リタの債務を重畳的に引き受けたことを争っていることからすれば,c店契約に係る原告の請求債権を受働債権とする主張と善解される。)。(当裁判所に顕著な事実)
(7) 消滅時効援用の意思表示
被告デクトは,平成28年2月26日の本件第1回弁論準備手続期日において,原告に対して,原告の本訴請求債権のうち,a店契約に係るチラシ製作費10万円及び印刷費10万1200円のイベント参加費等支払債務に対して,消滅時効を援用する意思表示をした。(当裁判所に顕著な事実)
3 争点
(1) a店契約が期間満了により終了したか(争点1。抗弁)
(2) 被告デクトがa店契約に基づく被告リタの債務を重畳的に引き受けたか(争点2)
(3) 原告が請求できるフランチャイズ関係費用(争点3)
ア a店契約関係
イ c店契約関係
(4) 原告が,c店を加盟店として原告のホームページに掲載することを怠ったことが,c店契約の債務不履行となるか(争点4。相殺の抗弁関係)
(5) 原告の債務不履行による被告の損害(争点5。相殺の抗弁関係)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(a店契約が期間満了により終了したか)について
(被告の主張)
a店契約の規定では,契約の更新は,契約期間満了の6か月前までに書面にて契約更新の意思表示をし,被告リタから通知を受けた原告は,被告リタに対し,期間満了の3か月前までに書面にて通知をし,協議をするとされているところ,被告リタが書面による契約更新の意思表示をしたことはない。
そのため,a店契約は,平成23年2月1日に終了しており,被告らが,中途解約金の支払義務を負うことはない。
(原告の主張)
被告らの主張は否認し,争う。
ア a店契約は,平成23年2月1日以降も継続していた。
すなわち,a店契約書55条1項にもあるように,a店契約は2年ごとの更新が原則であり,フランチャイザーである原告に,フランチャイズの価値の維持・向上の観点から契約の更新について一定の裁量が留保されていた。a店契約56条は,更新の手続きを定めた条項であるところ,被告リタが何も通知しない場合には,原則に戻ってa店契約は更新される扱いとなる。
イ また,実際にも,被告らは,平成23年2月1日以降も,「千金堂a店」という屋号を使用して,事業活動を行っていたし,被告リタは,平成27年7月まで,原告に対し,自己名義の預金口座から,月額会費等の支払いをしていたのであり,このような事実関係からすれば,遅くとも平成23年2月頃には,被告リタと原告との間でa店契約を更新する黙示の合意が成立していた。
ウ そのため,a店契約は,被告リタの中途解約時まで継続していた。
(2) 争点2(被告デクトがa店契約に基づく被告リタの債務を重畳的に引き受けたか)について
(原告の主張)
ア 被告らは,代表者及び所在地を共通にし,原告の取締役であったCが実兄とともに支配する会社である。そして,しばしば連名で,あるいは店舗名称を連記して,顧客から千金堂住宅を受注し,その旨を原告に報告していた。また,顧客との関係でも,被告らは,請求書の宛先を被告らのいずれかと指示し,時には,請求者の宛先とはなっていない方の被告から,その支払いを行うなど,法人格を混同して事業活動をしてきた。
イ 原告も,上記の事実を認識し,被告らの要請を受け入れて,a店の受注に被告デクトが関与することや,同契約に基づく支払を被告デクトがすることを許容してきたのであり,これを法的に評価すれば,被告デクトは原告に対し,遅くとも平成26年11月初め頃には,a店契約に基づく被告リタの債務を重畳的に引き受けたと評価できる。
(被告らの主張)
原告の主張は否認する。
前記(1)(被告らの主張)のとおり,a店契約は平成23年1月31日で終了している。
(3) 争点3(原告が請求できるフランチャイズ関係費用)について
(原告の主張)
被告らのa店契約及びc店契約に係る費用並びにc店契約の中途解約により,被告らは,原告に対して,以下の内容の中途解約金の支払義務を負う。
ア a店関係(以下の費目はいずれも消費税を含まない。)
以下の金額について,被告らは連帯して支払義務を負う。
(ア) 月額会費(平成27年8月~10月分) 4万5000円
(イ) 広告協賛費(平成27年8月~10月分) 4万5000円
(ウ) ロイヤリティ(4棟分) 20万0000円
D(以下「D」という。),E(以下「E」という。),F(以下「F」という。)及びG(以下「G」という。)の4名から,千金堂住宅の建築工事を受注しており,ロイヤリティは,5万円×4=20万円である。なお,被告デクトは,Dとの契約におけるロイヤリティの発生を争うが,a店関係において,平成27年5月1日,Dの建物建築に関するプラン依頼書(甲8)を送付しており,ロイヤリティの対象であると認識していた。
(エ) イベント参加費用 20万1200円
平成22年1月1日から同月11日までの間,「千金堂2010新春合同キャンペーン」を実施し,キャンペーン参加費用10万円及び印刷費10万1200円が発生している。
(オ) その他諸費用 1400円
平成27年6月に原告が立て替えたF宅のUSBキー発行手数料
(カ) 上記(ア)から(オ)に対する消費税(ただし,上記(エ)については税率5%) 3万3372円
(キ) 小計 52万5972円
イ c店関係(以下の費目はいずれも消費税を含まない。)
以下の金額について被告デクトは支払義務を負う。
(ア) 月額会費(平成27年8月~10月分) 60万0000円
(イ) 広告協賛金(平成27年8月~10月分) 90万0000円
(ウ) 物件チャージ 50万0000円
被告デクトは,平成27年4月から7月にかけて,施主であるH(以下「H」という。),I(以下「I」という。),J(以下「J」という。),K(以下「K」という。)及びL(以下「L」という。)の5名から千金堂住宅の建築工事を受注したことから,これら5件の物件チャージは合計50万円(10万円×5)である。
なお,被告デクトは,H関係の物件チャージの発生を争うが,c店契約では,物件チャージの対象となるのは,「本加盟店契約の契約期間中に,被告デクトが本加盟契約11条に定める営業エリア内の事業所として建築請負契約を締結した全ての住宅」であり,誰の紹介かは問わない。また,被告デクトは,c店関係において,Hとの本設計依頼書(甲9),重要事項説明書(甲10)を送付しており,物件チャージの対象であることを認識していた。
(エ) イベント参加費等 20万1200円
原告は,平成26年9月,販売促進キャンペーンを実施したことから,被告デクトは,キャンペーン基本参加費10万円及び印刷費10万1200円を負担する義務を負う。なお,被告デクトは,c店契約上,イベントに参加する義務を負い,イベントに参加しない場合にも,最低広告参加部数である1万部の参加費用を負担する義務を負うため,上記費用の支払義務を負う。
(オ) その他諸費用 小計 11万7100円
a 訴外Mの名刺作製費用 2600円
b LINEの費用 2万0000円
c ホームページ月額使用料 1万5000円
d 住宅ポータルサイト成功報酬 7万9500円
(カ) 中途解約金 150万0000円
(キ) 中途解約事務手数料 50万0000円
(ク) 上記に対する消費税 34万5464円
(ケ) 小計 466万3764円
ウ 総合計 518万9736円
(被告らの主張)
原告の主張のうち,c店契約に関して,1件あたりの物件チャージの金額が10万円(消費税別)であること,被告デクトが,I,J,K及びLとの間で千金堂住宅の受注契約を締結したこと,上記(オ)の費用は認め,その余否認し,争う。
ア a店契約分について
a店契約は,平成23年1月31日で終了しており,ロイヤリティその他諸費用の支払義務は存在しない。また,イベント参加費等についてイベント参加費等の支払期限から5年が経過しており,消滅時効を援用する(この主張は,イベント参加費等の弁済期が平成27年10月8日〔原告の催告の日〕の前日である同月7日から5年以上前の日であること,同月7日が経過した旨の主張と善解できる。)。
イ c店契約分について
被告デクトは,Hから千金堂住宅の建築工事を受注していないため,千金堂住宅としては工事していない。
(4) 争点(4)(原告が,c店を加盟店として原告のホームページに掲載することを怠ったことが,c店契約の債務不履行となるか)について
(被告らの主張)
原告は,c店契約に基づき,原告のホームページにc店を加盟店として掲載すべき義務その他加盟店として広告する義務を負っていた。ところが,原告は,平成27年7月以降,原告のホームページにc店を掲載しなくなったのであり,c店契約の債務不履行を構成するものである。
(原告の主張)
被告らの主張のうち,原告が,平成27年7月下旬頃からc店を原告のホームページに加盟店として掲載なかったことは認め(ただし,同年8月11日に再び掲載し,最終的に削除したのは,同年10月28日である。),その余の主張は否認し,争う。
c店契約は詳細な内容が契約書に記載されているが,それには,原告のホームページにc店を加盟店として掲載する義務は記載されていない。また,被告デクトは,平成27年7月に,原告に退会を申し入れたのであり,その時点で,千金堂住宅を受注し,請負施工する意思がないことは明確であった。
(5) 争点(5)(原告の債務不履行による被告の損害)について
(被告らの主張)
原告の債務不履行により,被告デクトは,逸失利益として3024万円の損害を被っており,原告の本訴請求債権と対当額で相殺する。
すなわち,被告デクトは,平成26年の1年間に19件(月間約1.5件)の工事を受注していたところ,その平均請負代金額は2515万9062円であり,これから製造原価を控除した利益(粗利)は,請負代金の28.19%である709万4519円であるから,1件当たり少なくとも672万円の利益が見込まれている。
そして,被告デクトは,平成27年7月から同年10月までの3か月間ホームページに原告の加盟店として掲載されなかったために,以下の計算式のとおり3024万円の損害を被っている。
(計算式)
672万円×1.5件/月×3か月-3024万円
(原告の主張)
被告らの主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(a店契約が期間満了により終了したか)について
(1) 被告らは,a店契約が平成23年2月1日の経過により終了したと主張するところ,前記前提事実及び証拠(甲2,15,16,乙3,4,6,8,10,12,13,17,19)並びに弁論の全趣旨によれば,①a店契約では,a店契約の契約期間を当初は2年間とし,加盟店契約有効期間満了の6か月前までに,被告リタが原告に契約更新の意思を書面にて通知するものとされており,当該通知がない場合には,契約を更新しないこととし,契約が期間満了により終了する場合には,「千金堂フランチャイズチェーン加盟契約期間満了に伴う覚書」を作成するとされていたこと(甲2。56条),②被告らが,平成23年2月1日以降平成27年7月頃まで,千金堂a店・b店名義で千金堂住宅の受注をしているなど営業活動を継続していたことが認められる。
上記認定のa店契約の契約書の文言からすれば,確かに,a店契約においては,被告リタが原告に対して,書面による更新の意思表示をしない場合には,a店契約が終了する旨合意されていたというのがa店契約における当事者間の合理的意思解釈といえる。
しかしながら,上記で認定したとおり,被告リタが契約期間満了後も事業を継続し,これに対して,原告が異議を述べたことを窺わせる事情もないことからすれば,遅くともa店契約の契約期間が満了する平成23年2月頃には,原告と被告リタとの間で,a店契約を更新する黙示の合意が成立していたと認められる。
(2) そのため,a店契約の期間満了を理由とする被告らの主張には理由がなく,a店契約は,少なくとも被告デクトが千金堂住宅に関する営業活動を行っていた平成27年7月頃までは継続しており,前記前提事実に係る被告デクトの退会の意思表示により終了したものと認められる。
2 争点2(被告デクトがa店契約に基づく被告リタの債務を重畳的に引き受けたか)について
(1) 原告は,被告デクトがa店契約に係る被告リタの債務を重畳的に引き受けたことから,被告デクトが被告リタと連帯して,a店契約に基づく債務の支払義務を負うと主張するところ,証拠(甲5,8,15,16,乙3,4,6,8,10,12,13,17,19)及び弁論の全趣旨(全部事項証明書)によれば,被告らは,本店所在地(千葉県習志野市〈以下省略〉)及び代表者(B)を共通とし,a店契約の営業に関して,原告に対して,連名で被告らが顧客から受注した旨の記載のある「プラン依頼書」を送信したり,被告デクト名義でa店の周辺に居住する顧客との間で建築請負契約を締結したりするなどの営業活動をしていたこと,原告が,被告ら加盟店に対して,費用等を請求する際には,口座振替を利用していたところ,原告が,遅くとも平成26年11月頃から,a店の関係で生じた物件チャージや広告協賛金等を被告デクト名義で請求し,被告デクトが口座振替等により,これを支払っていたことが認められる。
(2) このように,被告らは所在地及び代表者を同一として,共同してa店の営業に従事し,原告としても,金銭の支払や請求について,被告デクトが当事者となることを許容し,実際にも被告デクトがa店の営業に係る費用を負担していたことからすれば,遅くとも平成26年11月頃には,原告と被告デクトとの間で,a店契約における被告リタの債務を被告デクトが重畳的に引き受ける旨の合意が黙示的に成立していたと認めるのが相当である(なお,原告が主張する重畳的に債務を引き受けるという趣旨は,前記認定のとおり,被告デクトが,平成26年11月以降,請負人として千金堂住宅の建築工事を受注していたことからすれば,一般的な債務引受というよりは,被告デクトが名義上請負人となった千金堂住宅の建築工事について被告リタも重畳的に債務を負う旨の黙示的な合意がされていたものと認められ,原告の主張も上記の趣旨と善解される。)。
(3) そのため,被告デクトは,a店契約に関する被告リタの債務(被告デクトが千金堂住宅の名義上の請負人となる場合には,被告リタも同様の債務を負う。)について,原告に対して,連帯してこれを支払う義務を負うことになる。
3 争点3(原告が請求できるフランチャイズ関係費用)について
(1) 前記前提事実及び前記1及び2で認定・説示したとおり,原告と被告らとの間では,a店契約及びc店契約が締結されており,また,a店契約に係る被告リタの債務については,被告デクトが重畳的に引き受けたことが認められる。そして,前記前提事実のとおり,被告らは,原告に対して,退会の意思表示をし,これに対して,原告は,前記第2の4(3)記載の金員の支払を条件に退会を認める旨回答したことが認められる。そして,原告の上記回答は,a店契約及びc店契約の終了に際して,原告が被告らに対して,上記記載の金員の請求権が発生することを条件に退会を承認する旨の主張と善解できる。そのため,a店契約及びc店契約は,退会申出の日の属する月の3か月後の末日で終了する(甲2,3)ことになり,被告らは,a店契約及びc店契約に基づき,原告に対して,以下の債務を負う。
(2) a店契約関係
ア 月額会費 4万5000円
前記前提事実のとおり,a店契約では,月額の会費が1万5000円と合意されたところ,平成27年8月から同年10月分までの月額会費の合計は4万5000円となる。
イ 広告協賛金 4万5000円
前記前提事実のとおり,a店契約では,月額の広告協賛金として,被告リタが,原告に対して1万5000円を支払うと合意されており,平成27年8月から同年10月までの広告協賛金は合計4万5000円となる。
ウ ロイヤリティ 10万0000円
(ア) 前記前提事実及び証拠(甲2,7,15の34,乙25,26)によれば,①原告と被告リタは,a店契約において,被告リタが千金堂住宅を受注した場合,1件につき5万円のロイヤリティを支払う旨合意したこと,②被告デクトが,平成27年3月15日にGとの間で,同年6月2日にEとの間で,千金堂住宅の建物建築請負契約を締結したことが認められる(被告デクトがEとの間で千金堂住宅の建築請負契約を締結したことについては当事者間に争いがない)。
(イ) a店契約では,被告らが千金堂住宅を受注した場合にロイヤリティの支払義務が生じるところ,前記認定の事実関係からすれば,被告デクトが,G及びEとの間で締結した建築請負契約については,被告らにロイヤリティの支払義務が生じるものと認められる。他方,原告が,被告デクトが千金堂住宅の建築請負契約を締結したと主張するD,Fについては,被告らが建築工事を受注したことを認めるに足りる証拠がなく,原告の主張は採用することができない。
この点につき,原告は,被告らがDから受注したことに関し,被告らが原告に提出したプラン指示書(甲8)を書証として提出するが,原告としても,プラン指示書は,顧客から被告らが間取り設定等の仮設計の依頼を受けた場合に提出するものであると主張しているのであるからすれば,プラン指示書のみでは被告らがDから千金堂住宅を受注したことを推認することはできないというべきである。
(ウ) そのため,被告らは,a店契約に関するロイヤリティとして,原告に対して,G及びEとの建物請負契約分の合計10万円の支払義務を連帯して負うことになり,その余の原告の主張については理由がない。
エ イベント参加費用 0円
(ア) 原告は,平成22年1月1日から同月11日までの間に,「千金堂2010新春合同キャンペーン」を実施したと主張し,そのイベント参加費用として,チラシ製作費及び印刷費を請求するところ,前記前提事実及び前記2で説示するとおり,a店契約において,被告らが原告に対して,イベント参加費用を支払う旨合意されていたことが認められるものの,原告が上記キャンペーンを実施したことを認めるに足りる証拠はない。
(イ) また,仮に,被告らが上記金員の支払義務を負うとしても,被告らが,当該イベント参加費用について消滅時効を援用する意思表示をしたことは前記前提事実のとおりであり,原告もこれを争わないことから,いずれにしてもa店契約に関する原告のイベント参加費用の請求については理由がない。
オ その他諸費用(USBキー発行手数料) 1400円
前記前提事実及び証拠(甲2,5の1)並びに弁論の全趣旨によれば,原告と被告リタは,a店契約において,イベント参加費,研修費・セミナー参加費用,各種保険料のほか原告が必要とする費用を被告リタの負担とする旨合意されていたこと,原告がFに係るUSBキーの発行手数料として1400円を要したことが認められ,この費用についても,原告が必要とする費用と認めるのが相当である。
カ 消費税(前記ア~オの合計の8%) 1万5312円
上記ア~オの合計は19万1400円であるところ,その消費税額は,1万5312円である。
キ a店契約に係るフランチャイズ関係費用の小計 20万6712円
(3) c店契約関係
ア 月額会費 60万0000円
前記前提事実のとおり,c店契約においては,月額会費を40万円とする旨合意されていたが,平成26年4月1日以降,半額の月額20万円とする旨合意されていたのであり,平成27年8月分から10月分の会費の合計は60万円となる。
イ 広告協賛金 90万0000円
前記前提事実のとおり,c店契約においては,被告デクトが原告に支払うべき広告協賛金が平成26年4月1日以降月額30万円とされたことが認められ,平成27年8月分から同年10月分の3か月分の広告協賛金は90万円となる。
ウ 物件チャージ 50万円
(ア) 前記前提事実のとおり,原告と被告デクトは,c店契約において,被告デクトが,千金堂住宅を受注した場合,1件につき10万円を物件チャージとして支払っており,また,被告デクトが,I,J,K及びLとの間で,千金堂住宅の建築工事を受注したことは当事者間に争いがない(なお,証拠〔甲5の2,5の3,15の27,15の32,乙27〕によれば,その受注時期は,I,J,Lについては,遅くとも平成26年4月以降であると認められる。)。
そのため,上記被告デクトは,上記4名の物件チャージとして40万円(消費税別)の支払義務を負う。
(イ) また,証拠(甲3,9,10,乙28)及び弁論の全趣旨によれば,原告と被告デクトは,c店契約において,物件チャージが課される対象である千金堂住宅を,「本加盟契約(c店契約のことをいう。以下同じ。)の契約期間中に,乙(被告デクト)が本加盟契約11条に定める営業エリア内の事業所として建築請負契約を締結した全て住宅(中略)をさすものとする。」と合意したこと,c店契約では,営業エリアを,宮城県岩沼市,亘理町,山元町,柴田町,大河原町,角田市,丸森町と定めていたこと,被告デクトが,仙台市太白区に居住していたHから,リクルート住まいカンパニーのNを介して,同所における建築請負契約を締結したこと,被告デクトが,平成27年4月11日頃,原告に対して,Hの住宅建設に関し,本設計依頼書及び重要事項説明書を送付したことが認められる。
(ウ) 上記認定事実のとおり,原告と被告デクトは,c店契約において,物件チャージの対象を千金堂住宅に限らず,被告デクトが営業エリア内の事業所において請け負ったすべての住宅の受注契約と定義していることからすれば,Hとの建築請負契約の締結についても,c店契約に基づく物件チャージの対象と認められる。
なお,この点につき,被告デクトは,Hの住宅建設予定地が,c店契約の営業対象エリア外であると主張し,確かに,前記認定のとおり,被告デクト主張の事実が認められるが,c店契約では,「営業エリア内の事業所として建築請負契約を締結した」場合を物件チャージの対象としており,物件チャージの対象を営業エリア内で建築される住宅とは定義しておらず,前記認定のとおり,被告デクトが,原告に本設計依頼書等を送付しており,被告デクトとしても,Hの住宅も物件チャージの対象と認識していることが窺われることからしても,上記物件チャージの対象に関する規定は,加盟店が営業エリア内の営業所として建築予定場所を問わずに建築請負契約を受注した場合に,当該営業所に関する契約による物件チャージの支払義務が発生する旨の規定と解釈すべきである。
(エ) そのため,被告デクトは,Hの住宅建築請負契約の締結に関して,c店契約に基づき,物件チャージとして10万円(消費税別)の支払義務を負い,上記(ア)と合計して50万円(消費税別)の支払義務を負う。
エ イベント参加費等 20万1200円
前記前提事実及び証拠(甲3,11,12)によれば,①原告と被告デクトは,c店契約において,イベント参加費を被告デクトが負担する旨約したこと,②c店契約では,被告デクトが,千金堂住宅の統一イベント(全加盟店参加による全国一斉売り出し),広域広告等には必ず参加することとされており(甲3の37条1項),キャンペーンに参加しない場合でも,最低広告部数である1万部の参加費用を負担する義務があると約されていること,③原告が,平成26年9月に一斉キャンペーンと称して,チラシ又はフリーペーパーによる告知等を実施すること,④キャンペーン基本参加費が10万円,キャンペーンチラシ印刷費が最低10万1200円(いずれも消費税別)と定められていたことが認められる。
そのため,被告デクトが,上記キャンペーンに参加しない場合であっても,被告デクトは原告に対して,c店契約に基づき,キャンペーン基本参加費及びキャンペーンチラシの最低印刷費10万1200円の合計20万1200円の支払義務を負う。
オ その他諸費用 11万7100円
被告デクトが,c店契約に基づき,以下の費用の支払義務を負うことは当事者間に争いがない。
(ア) 訴外Mの名刺作成費用 2600円
(イ) LINEの費用 2万0000円
(ウ) ホームページ月額使用料(3か月分) 1万5000円
(エ) 住宅ポータルサイトの成功報酬 7万9500円
(オ) 小計 11万7100円
カ 中途解約金 150万0000円
前記前提事実のとおり,c店契約では,被告デクト(加盟店)が当該契約を中途解約する場合には,中途解約金として,月額会費及び広告協賛金の合計額の3か月分を支払う旨合意されている(甲3。57条)ところ,前記前提事実のとおり,被告デクトは,平成27年7月28日,原告に対して,退会の意思表示をしていることが認められることから,被告デクトは,原告に対して負う,月額会費及び広告協賛金の合計は月額50万円(月額会費20万円,広告協賛金30万円)であることから,その3か月分である150万円の支払義務を負う(なお,その前提として,c店契約の契約期間は2年であり,平成27年10月31日に期間満了により終了するようにも思われるが,c店契約では,期間満了により終了する場合には,6か月前までに更新拒絶の意思表示をしない限り,自動的に更新されるものと合意されており〔甲3。55条1項〕,本件は,上記の更新拒絶の意思表示が認められないことから,その後の解約については,仮に期間満了日が契約終了の日であったとしても,中途解約として扱われるよう合意されていたと認められる。)。
キ 中途解約事務手数料 50万円
前記前提事実のとおり,原告と被告デクトは,c店契約において,中途解約金とは別に,中途解約事務手数料として月額会費及び広告協賛金の合計の1か月分を支払う旨合意していることから,被告デクトは,原告に対して,中途解約事務手数料として50万円の支払義務を負う。
ク 上記ア~キの消費税 34万2464円
上記ア~キの合計額は,431万8300円となるところ,上記のうち,421万8300円分(K宅の建築請負契約に係る物件チャージ10万円を除いたもの)となり,その消費税は,33万7464円となる。
そして,K宅の建築請負契約の締結時期が明らかでないことから,消費税率を5%と計算し,その場合の物件チャージ10万円に対する消費税額は5000円となり,合計34万2464円が消費税額となる。
ケ c店契約関係費用の合計 466万0764円
(4) 総合計(上記(2)キと(3)ケの合計) 486万7476円
4 争点4(原告が,c店を加盟店として原告のホームページに掲載することを怠ったことが,c店契約の債務不履行となるか)について
(1) 被告デクトは,原告がc店を加盟店として原告のホームページに掲載しなかったことが,c店契約の債務不履行に当たると主張する。
証拠(甲3,5の2,5の4,14,18,19の1)及び弁論の全趣旨によれば,①c店契約に係る契約書には,原告が被告を加盟店として掲載する義務を具体的に規定する条項は存在しないものの,千金堂住宅の統一広域広告費用として月額30万円の広告協賛金を加盟店(被告デクト)が支払うよう定められていたこと,②広告協賛金とは別に,原告が被告デクトから月額5000円のホームページ使用料を請求していること,③原告が,テレビCMやラジオCM等の広報活動を行っていること,④原告が,被告デクトの退会の意思表示を受けて,平成27年7月17日頃から原告のホームページに加盟店として被告デクトのc店を掲載しないようになり,その後,c店のOの要請により,同年8月11日に掲載を再開したことが認められる。
(2) 上記認定のとおり,c店契約には被告デクトの運営するc店を原告のホームページに掲載する義務を直接規定する条項はなく,広告協賛金の用途に関する記載も同条項には見られないこと,原告がホームページ使用料を広告協賛金とは別に請求していること,広告の具体的内容として,原告がテレビCM等相応の費用を要する活動を行っていることからすれば,原告が被告デクトに対して,被告デクトの広告協賛金支払義務に対応して,被告デクトの加盟店情報を原告のホームページに掲載する義務を負っていたとは認められない。もっとも,前記認定のとおり,原告が,被告デクトからホームページ使用料を請求していたことからすれば,ホームページ使用料の対価として,原告は被告デクトに対して,被告デクトを原告の加盟店としてホームページに掲載する義務を負っていたものと認められる。
(3) そのため,少なくとも平成27年7月17日頃から同年8月11日までの間,原告が,被告デクトの情報を原告のホームページに掲載しなかったことについては,c店契約のうち,ホームページ使用料に対応する部分の債務不履行を構成するものといわざるを得ない。
5 争点5(原告の債務不履行による被告の損害)について
(1) 被告らは,原告の債務不履行により,逸失利益の損害を被ったと主張する。しかしながら,本件全証拠を検討しても,被告デクト主張に係る逸失利益の発生を認めるには足りない。
すなわち,被告デクトは,月間の受注件数を基準として,ホームページに掲載されなかった期間の逸失利益を計算するものの,そもそも,被告らが千金堂住宅を原告のホームページ経由でどの程度受注していたかは明らかではなく,しかも,c店の情報が原告のホームページに掲載されなかった期間は,前記3で認定したとおり,平成27年7月17日頃から同年8月11日の1か月弱程度であり,しかも,被告ら提出の証拠(乙2~20)を見ても,契約の締結時期が明らかではなく,着工開始時期が重複しているものもみられることや住宅という高額な物件の建築請負契約が日常的に締結されているともいえないことからしても,上記の期間,ホームページにc店の情報が掲載されていたとしても,被告デクトが,千金堂住宅の建築請負契約を締結できたとは認められない。
そのため,原告のホームページにc店の情報が掲載されなかったことによる被告デクトに損害(逸失利益)が発生したとは認められない。
(2) なお,被告デクトは,原告が,被告デクトに対して,上記期間問い合わせ客の情報提供をしなかった点をもって,債務不履行とする旨主張しているようにも思われるが,この点についても,上記(1)で説示した点に加え,住宅の請負契約の締結及びその施工等を事業とする被告デクトの性質に鑑みれば,原告が問い合わせ客の情報提供をした場合に,被告デクトが千金堂住宅の受注を受けることができたとは認められないのであるから,やはり,被告デクトの主張は採用することができない。
(3) 以上の次第で,原告の債務不履行による損害賠償請求権を自働債権とする被告デクトの原告に対する相殺の主張(抗弁)は,理由がない。
6 相殺による充当について
(1) 前記1ないし4で認定・説示したとおり,被告デクトは,原告に対し,a店契約及びc店契約に関して,中途解約料等合計486万7476円の支払義務(うち,a店契約分20万6712円については,被告リタとの連帯債務である。)を負っており,被告リタは,被告デクトと連帯して,a店契約のフランチャイズ関係費用として20万6712円の支払義務を負っていることが認められる。
そして,これらの費用については,遅くともa店契約及びc店契約の契約終了の日である平成27年10月31日まで支払う旨合意されているのは前記前提事実のとおりであり,その翌日である同年11月1日から被告らは原告に対して履行遅滞に基づき,年18.25%の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
(2) 他方,前記前提事実のとおり,被告デクトは,原告の元取締役であったCが原告に対して有していた平成27年1月から6月分の役員報酬合計30万円をCから譲り受け,これと被告デクトの原告に対する本訴請求債権のうちc店契約に基づく請求権とを,平成28年2月26日の本件第1回弁論準備手続期日において,対当額で相殺する意思表示をしたと認められる(被告デクトの上記相殺の意思表示が,原告の被告デクトに対するc店契約に基づく請求権を受働債権とするものと善解されるのは,前記第2の2(6)記載のとおりである。)。
(3) ところで,被告デクト主張の自働債権である報酬請求権について,特段の期限の合意がなされた旨の主張立証がないものの,期限によって定められる報酬であることから,遅くとも平成27年6月末日までには,当該報酬請求権30万円は,全て弁済期にあったものと認められる(民法648条2項ただし書き,同法624条2項)。
そのため,原告請求に係るc店契約に基づく請求権と被告デクト主張に係る役員報酬請求権とは,平成27年10月31日までには相殺適状になったものと認められる。
そのため,被告デクトの相殺の意思表示により,原告請求に係る被告デクトに対するc店契約に基づく請求権のうち30万円(弁済期の最も早い平成27年8月分の月額会費及び広告協賛金支払債務に按分して充当される。)は相殺により消滅したことになるため,その残額は,436万0764円(うち,平成27年8月分の月額会費残額は8万円であり,同月分の広告協賛金残額は12万円となる。)となり,a店契約に基づく請求との合計額は,456万7476円となる(なお,被告デクトは,既発生の遅延損害金について自働債権とする旨主張しておらず,相殺の対象とはならない。)。
7 まとめ
以上検討の結果,原告の請求及び被告デクトの相殺の主張については,以下のとおりとなる。
(1) 被告デクトは,原告に対し,a店契約及びc店契約に基づき,456万7476円(うち,a店契約に基づく請求分20万6712円については,被告リタと連帯して責任を負う。)及びこれに対する上記各契約終了の日の翌日である平成27年11月1日から支払済みまで約定の年18.25%の割合による遅延損害金の支払義務を負うと認められ,その余の請求には理由がない。
(2) 被告リタは,原告に対し,a店契約に基づき,被告デクトと連帯して20万6712円及びこれに対するa店契約終了の日である平成27年11月1日から支払済みまで約定の年18.25%の割合による遅延損害金の支払義務を負い,原告の被告リタに対する請求は上記の限度で理由があり,その余の請求は理由がない。
(3) 被告デクトの原告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権(請求額3024万円)を自働債権とする相殺の抗弁には理由がなく,また,被告デクトが譲り受けたCの原告に対する平成27年1月分から同年6月分の役員報酬請求権(30万円)については,相殺により消滅している。
第4 結論
よって,主文掲記の限度で原告の被告らに対する各請求を認容し,その余の各請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条,64条,65条1項本文を,仮執行の宣言について,同法259条1項を,それぞれ適用し,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第10部
(裁判官 山口雅裕)
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