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「営業支援」に関する裁判例(86)平成23年 8月25日 東京地裁 平21(行ウ)396号 不当労働行為救済命令取消請求事件 〔田中酸素事件〕

「営業支援」に関する裁判例(86)平成23年 8月25日 東京地裁 平21(行ウ)396号 不当労働行為救済命令取消請求事件 〔田中酸素事件〕

裁判年月日  平成23年 8月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(行ウ)396号
事件名  不当労働行為救済命令取消請求事件 〔田中酸素事件〕
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2011WLJPCA08258014

要旨
◆原告会社の労働組合による不当労働行為救済申立てに対してなされた県労委の本件初審命令につき、原告会社が、再審査を申し立てたところ、中労委は、原告会社の労働組合の組合員ないし同組合の執行委員であった訴外Hらに対する賞与減額及び賃金減額は不利益な取扱いであり、不当労働行為に該当するなどと判断して、本件再審査申立てを一部棄却する旨の本件命令をしたので、原告会社が、被告国に対し、同命令のうち棄却部分の取消しを求めた事案において、原告会社が、訴外Hらが組合員であること又はその組合活動を嫌悪し、訴外Hらに対して経済的不利益を課す意図に基づいて、本件賞与査定及びこれに引き続く本件賃金減額を行ったものと認め、本件各行為がいずれも労組法7条1号の不当労働行為に該当するとした本件命令における中労委の判断は相当であり、各不当労働行為に対して本件命令が命ずる救済の内容も相当であるとして、請求を棄却した事例

新判例体系
公法編 > 労働法 > 労働組合法〔昭和二四… > 第二章 労働組合 > 第七条 > ○不当労働行為 > (一)の二 不利益取… > D 不利益取扱の認定 > (2)認定の基準
◆年功序列型の給与制度から職能給制度に変更した後の労働組合員に対する人事考課及び賞与査定について、それが「不利益な取扱い」というためには、(中央)労働委員会に当該査定が不相当であることの立証責任があるけれども、使用者と組合との間にある査定に関する情報量の差を考慮すれば、労働組合又は(中央)労働委員会が査定の相当性に多大な疑問があることを指摘し、それについて一応の立証がされているのに、使用者から的確な査定の相当性についての反証がなければ、前記立証がされたものと評価し得るというべきである。

 

裁判経過
上告審 平成24年11月 9日 最高裁第二小法廷 決定 平24(行ツ)190号・平24(行ヒ)225号 不当労働行為救済命令取消請求事件 〔田中酸素事件〕
控訴審 平成24年 2月 8日 東京高裁 判決 平23(行コ)304号 不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 〔田中酸素事件〕

関連審決・命令
平成21年 7月 1日 中央労働委員会 平成20年(不再)第14号

参照条文
労働組合法7条1号

裁判年月日  平成23年 8月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(行ウ)396号
事件名  不当労働行為救済命令取消請求事件 〔田中酸素事件〕
裁判結果  請求棄却  上訴等  控訴  文献番号  2011WLJPCA08258014

山口県宇部市〈以下省略〉
原告 X株式会社
同代表者代表取締役 E
同訴訟代理人弁護士 渡部邦昭
同 前田知彦
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 F
処分行政庁 中央労働委員会
同代表者会長 G
被告指定代理人 諏訪康雄
同 廣見和夫
同 西野幸雄
同 山口高広
同 宮本靖子

 

 

主文

1  原告の請求を棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  中央労働委員会が中労委平成20年(不再)第14号事件について平成21年7月1日付けで発した命令のうち主文2項及び3項を取り消す。
2  訴訟費用は被告の負担とする。
第2  事案の概要
1  山口県労働委員会(以下「山口県労委」という。)は,X社労働組合(以下「組合」という。)が平成18年8月15日に原告を被申立人として申し立てた不当労働行為救済申立事件(山口県労委平成18年(不)第2号事件。以下「本件初審事件」という。)について,①組合の組合員であるH(以下「H」という。)に対し,同月11日付けで美祢営業所での営業支援を命じたこと(以下「本件支援命令」という。),②H,組合の組合員であるI(以下「I」という。)及び同J(以下「J」という。)の平成17年冬季,平成18年夏季及び同年冬季(以下,この期間を「本件係争年」という。)の賞与並びに平成19年1月以降の月例賃金を減額したことは,労働組合法(以下「労組法」という。)7条1号の不当労働行為に当たるとし, Hを本件支援命令が発せられる前の職場に速やかに復帰させること, 本件係争年の賞与について,明確かつ具体的な査定基準と支給手続を明示した上で,再査定に基づいて賞与額を定め,既支給額との差額を支払うこと, 平成19年の月例賃金の基本給を平成18年と同額とし,既支給額との差額を支払うことを命じる一方,平成17年夏季賞与に係る申立部分については申立期間の徒過を理由として却下し,その余の部分の救済申立てを棄却する旨の命令(以下「本件初審命令」という。)をした。
原告は,本件初審命令を不服として,中央労働委員会(以下「中労委」という。)に対し,本件初審命令が救済を命じた部分(上記 ~ に係る本件初審命令主文1項,2項及び4項)の取消し及び同部分に係る救済申立ての棄却を求めて再審査を申し立てた(以下,この申立てを「本件再審査申立て」といい,同申立てにより係属した中労委平成20年(不再)第14号事件を「本件再審査事件」という。)。これに対し,中労委は,本件初審命令のうち,上記 に係る部分を取り消して,同部分に係る救済申立てを棄却し,上記 及び に係る部分の本件再審査申立てを棄却する旨の命令(ただし,本件初審命令主文2項の訂正を伴う。以下「本件命令」という。)をした。
本件は,本件命令のうち原告の本件再審査申立てを棄却した部分を不服とする原告が,その取消しを求める事案である。なお,取消しを求める救済命令の内容は,別紙1のとおりである。
2  前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。
(1)当事者等
ア 原告は,昭和44年1月8日に設立された高圧ガス製造販売及び建設機材のリース販売を業とする株式会社であり,肩書地に本社を置き,山口営業所,美祢営業所及び東営業所を有している。本件再審査事件の審問終結時の従業員数は約60人である。
イ 組合は,原告の従業員らによって平成16年4月14日に結成された労働組合であり,上部団体である宇部地域労働組合総連合に加盟している。本件再審査事件の審問終結時の組合員数は5人であり,平成8年7月12日に原告に入社したK(以下「K」という。)が執行委員長に就任している。
ウ H
Hは,昭和60年8月1日,原告に入社し,当時新設されたLPガス事業部(プロパン部)に配属され,その後まもなく同部部長の肩書きを与えられ,数名の部下を持つ管理責任者として,保安,販売,顧客の管理,部下の指導育成等を行っていた。
その後,Hは,平成16年5月11日,本社営業部の高圧ガス担当係(営業グループ)に,同年8月5日,本社業務部の耐圧試験場に順次異動し,平成18年8月11日,本件支援命令を受けて美祢営業所での営業支援に従事し,平成20年5月31日,本件支援命令が解除され,以後,本社で勤務している。
Hは,組合結成当時から組合の組合員である。
エ I
Iは,昭和57年1月14日,原告に入社し,本件係争年当時,美祢営業所のリース部門の業務を担当していた。
Iは,組合結成当時から組合の組合員である。
オ J
Jは,平成12年12月,原告に入社し,本件係争年当時,山口営業所のリース部門において,リース機械の配達,メンテナンス,修理等の業務を担当していた。
Jは,組合結成当時から組合の組合員である。
(2)就業規則の変更による人事考課制度の変更
原告は,平成16年11月1日,就業規則を変更し(以下「本件就業規則変更」という。),これに伴い,賞与の査定方法を変更し,また,賃金について新たに査定制度を導入した。その変更等の内容は,以下のとおりである。
ア 賞与
(ア)本件就業規則変更前
a 支給の態様
原告は,本件就業規則変更前においても,毎年8月(夏季)と12月(冬季)に賞与を支給していた。賞与の支給額は,会社の業績と従業員の勤務成績を勘案して,決定することとされていた。なお,原告は,夏季賞与を冬季賞与より若干多く支給していた。
b 査定の方法
(a)原告は,平成15年まで,部署長の意見等を参考にして,社長が各従業員の賞与額を決定していた。査定対象期間は,慣例上,夏季賞与については,支給前年の12月から支給当年の7月までの間,冬季賞与については,支給当年の8月から11月までの間とされていた。なお,本件就業規則変更の直前に支給された平成16年夏季賞与及び同年冬季賞与は,下記(b)の内容の評価基準シート(以下「旧評価基準シート」という。)を用いて各従業員の勤務成績の査定が行われた(以下,この査定方法を「旧査定方法」という。)。
(b)旧評価基準シートは,別紙2の体裁,内容のものであり,旧査定方法は,業務遂行能力等に関し,重要度に応じて3点~8点を満点とする配点をした60の査定項目を設け(全項目の配点の合計は300点),達成できていると評価する項目には○を付け,当該項目に係る考課点は配点全部を与え(中間点は与えない),達成できていないと評価する項目には×を付け,当該項目の考課点は0点とし,以上により付けた考課点の合計に基づいて評価するというものであった。
(イ)本件就業規則変更後
a 支給の態様
毎年8月及び12月に,会社の業績,従業員の勤務成績(業績を含む。)を勘案して支給する。ただし,勤務成績によっては賞与の支給を停止することもある。賞与に関する勤務成績は,人事考課規程によって決定する。
平成17年夏季賞与から,次項の人事考課表の点数に考課係数(1点につき5000円)を乗じて賞与額を決定することとなった。
b 査定の方法
(a)旧評価基準シートに基づく査定に代えて,賞与及び賃金に共通する新たに導入した下記イ(イ)bの内容の人事考課規程を適用することとされた(以下,この査定方法を「新査定方法」という。)。
(b)査定対象期間は,本件就業規則変更前と同じである。
(c)人事考課表(賞与)は,別紙3の体裁,内容のものであり,考課対象事項として,「意欲・態度」と「業績」の2つの大項目が設けられ,そのうち「意欲・態度」においては,「積極性」,「協調性」,「責任感」,「規律性」,「態度」及び「自主性」の6つの小項目が,「業績」においては,「仕事の質」,「仕事の量」及び「連絡報告」の3つの小項目がそれぞれ設けられ,各小項目について0~10点の考課点が付けられる(各項目の考課点の合計は90点)。各小項目には,2~13個の考課事項があり,その考課事項の中で「主」(原告が重要なものと考えるもの)と「他」とを区分していた。
人事考課表(賞与)を用いた査定においては,査定時期が重なる賃金に対する査定の結果も加味される。
イ 賃金
(ア)本件就業規則変更前
賃金の査定方法に関する具体的な基準は定められておらず,昇給に際し,個別の勤務成績の査定は行われていなかった。
(イ)本件就業規則変更後
新たに職能給制度及び人事考課規程を導入した。その内容は,概ね以下のとおりである。
a 職能給制度
基準内賃金の基本給部分を本人給及び職能給に再構成し,職能給制度を設けた。
職能給は,従業員各人の職務遂行能力を評価して支給するものであり,従業員各人の人事考課規程による査定結果に基づいて支給される。職能給の査定は,毎年1月及び7月の2回,人事考課規程により行われる。職務遂行上の発揮能力が現在の等級・号数に適切でない者は,下位の等級・号数に変更される。
なお,経過措置として調整給が設けられ,職能給の導入によって従来の賃金との差額が生じる場合には,平成17年6月30日まではその差額分を調整給として支給することとされた。
b 人事考課規程
(a)概要
一般従業員に対し,業績考課と態度考課を行う(4条)。業績考課は,各人の考課対象期間における業績を,目標達成度,量的考課,質的考課の3つの項目により考課する(5条)。態度考課は,各人の担当する仕事に取り組む姿勢・規律性,協調性,積極性,責任感の4つの項目により考課する(6条)。
考課対象者の直属の上司である管理職が1次考課を,役員が2次考課を行う(8条)。
考課は,人事考課票,目標管理票を用いて実施し(10条),各項目に示された着眼点と考課対象者の行動実績を比較して,S(非常に優れている),A(やや優れている),B(普通),C(やや劣る),D(非常に劣る)の5段階で評価する(11条)。人事考課の結果は,考課対象者と1次考課者との面接において直接公開される(14条)。
考課の対象期間は1年間であり,1月1日から6月30日までの上半期と,7月1日から12月31日の下半期に区分される(3条)。
(b)考課の指針
原告は,人事考課制度の導入に合わせて,考課者用の「人事制度運用の手引き」を作成した。その概要は,以下のとおりである。
6階級の職能等級を設け,従業員全員をその能力の程度に応じていずれかの職能等級に格付ける。6階級の内訳は,部長相当(部を統括する上級管理者)を6等級,課長相当(課を統括する管理者)を5等級,係長相当(係を統括する管理者)を4等級,主任相当(業務に精通し,かつ部下の指導,育成ができる監督職)を3等級,一般職相当を2等級及び1等級とする。
人事考課(定期評価)は年1回,あらかじめ定める評価表に基づいて行う。評価表には,1(Ⅰ)・2(Ⅱ)等級用,3(Ⅲ)・4(Ⅳ)等級用及び5(Ⅴ)・6(Ⅵ)等級用の3種類があり,従業員の職能等級に合わせてそのうちの1つを使用する。評価は1次と2次の2回行い,その上で全社的な調整を図ることとし,人事考課の結果は,上司が面接して考課対象者に通知する。人事考課の結果(S~D)は,昇給に反映される。
(c)人事考課の資料
ⅰ 人事考課表
原告は,賃金に係る人事考課に用いる評価表として,人事考課表(賃金)を作成している。
(ⅰ) 1・2等級用
人事考課表(賃金)のうち,1・2等級用のものは別紙4の1のとおりであり,評価項目として,成果(40点満点),勤務態度(40点満点),能力(20点満点)の3項目が定められ(合計100点満点),40点満点の項目(成果及び勤務態度)については,Sに40点,Aに36点,Bに32点,Cに28点,Dに24点を,20点満点の項目(能力)については,Sに20点,Aに18点,Bに16点,Cに14点,Dに12点を与えることとされている。各評価項目には,それぞれ4つの評価要素及びこれに対応する具体的な評価ポイント(着眼点)が定められている。
(ⅱ) 3・4等級用
人事考課表(賃金)のうち,3・4等級用のものは別紙4の2のとおりであり,評価項目として,成果(50点満点),勤務態度(20点満点),能力(30点満点)の3項目が定められ(合計100点満点),「成果」については,Sに50点,Aに45点,Bに40点,Cに35点,Dに30点を,「勤務態度」については,Sに20点,Aに18点,Bに16点,Cに14点,Dに12点を,「能力」については,Sに30点,Aに27点,Bに24点,Cに21点,Dに18点を与えることとされている。各評価項目には,それぞれ4つの評価要素及びこれに対応する具体的な評価ポイント(着眼点)が定められている。
(ⅲ) 以上の他に,人事考課表(賃金)には,昇進,昇格,昇給,賞与等に関する考課者の意見を具申する総合所見欄及びノルマ達成率を記載する欄が設けられている。
ⅱ 評価の基準
人事考課表(賃金)における評価の資料として,新たに作成した評価基準書(以下「新評価基準書」という。)を用いることとされた。
新評価基準書は,業務部門別に,営業・配送用のもの(別紙5の1),営業・管理事務用のもの(別紙5の2)及び工場・仮設用のもの(別紙5の3)の3種類がある。営業・配送用のものは,別紙5の1のとおり,1等級から5等級の職能等級ごとに,従業員として必要とされる能力(事項)が,知識・人格,判断力,折衝力,企画力,指導力の5項目に分類され,箇条書きで記載されている。
ウ 職能等級制度の実施状況等
(ア)実施時期
原告は,平成16年11月に本件就業規則変更を行った後も,直ちに職能給制度を実施せず,平成17年12月までを職能給制度移行のための準備期間とし,考課者を対象に,新評価基準書の作成やその運用方法等に関する研修を8回にわたって実施した。(甲E10の1,証人L)
(イ)職能給制度実施当初における職能等級の格付
原告は,平成18年1月から職能給制度を導入,実施するに当たり,各従業員の職能等級を決定することとし,平成17年11月ころから,各従業員と面接を行い,各従業員に対し,それぞれの業務内容を記載した業務調査票の提出を求めた。業務調査票は,罫線が引かれた横書き26行の書式に,数行おきに行頭に印字されている「毎日の仕事」,「週でする仕事」,「月単位の仕事」,「年単位の仕事」の記載に従って,各項目に対応する作成者の業務の内容等を記入するものである。
原告は,各従業員の職能等級を決定するに当たり,職能給制度の導入によって従業員が不利益を受けないように,各従業員の同月分月例賃金額を考慮して,これを若干上回る月例賃金額になる職能等級に格付けることとし,格付後の月例賃金額と同月分の月例賃金額との差額分につき,あらかじめ平成17年12月に昇給させた。
(ウ)考課の結果と職能等級との関連性
職能等級の格付は,最終的に役員会及び社長の判断によって決定されていた。
(3)Hらの本件係争年の賞与額
H,I及びJ(以下「Hら3名」という。)に対する平成13年夏季から平成18年冬季の各賞与額は,別表1のとおりであり,本件係争年の賞与額は,いずれも平成15年夏季及び同年冬季の賞与額に比べて大幅な減額となっている(以下,この賞与の減額を「本件賞与減額」という。)(乙B6)。
(4)Hらの平成19年1月の月例賃金額
本件就業規則変更後の原告の従業員の月例賃金は,年齢給,勤続給及び職能給で構成され,Hら3名の平成18年12月当時の職能等級及び職能給の額並びに平成19年1月当時の職能等級及び職能給の額は,別表5のとおりである。Hら3名の同月の月例賃金は,平成18年12月のそれと比べて,職能給については同別紙の「職能給増減」欄に記載の金額分が減額となり,他方,年齢給の増額があるため,月例賃金全体では,Hが1万4500円,Iが9100円,Jが8870円の減額となった(以下,この月例賃金の減額を「本件賃金減額」という。)。
(5)本件初審命令
組合は,平成18年8月15日,山口県労委に対し,原告を被申立人として,本件初審事件を申し立てた。これに対し,山口県労委は,平成20年3月27日,本件初審命令を発した。
(6)本件命令
原告は,平成20年4月11日,本件初審命令のうち救済を命じた部分の取消しを求めて,本件再審査事件を申し立てた。これに対し,中労委は,平成21年7月1日,本件命令を発した。
(7)本訴の提起
原告は,平成21年8月8日,本訴を提起した。
3  争点
(1)Hら3名の本件賞与減額は労組法7条1号の不当労働行為に当たるか
(2)Hら3名の本件賃金減額は労組法7条1号の不当労働行為に当たるか
第3  争点に関する当事者の主張
1  争点(1)(Hら3名の本件賞与減額は労組法7条1号の不当労働行為に当たるか)について
【被告の主張】
(1)Hら3名に係る本件係争年の賞与額は,以下のとおり,非組合員にはみられない大幅な減額がされた。
Hら3名の賞与は,平成15年冬季賞与から減額され,本件係争年における3回の賞与額は,Hについては,順に8万円,10万円,9万円(従前は30万円又は32万円),Iについては,順に15万円,19万円,15万円(従前は21万円又は22万円),Jについては,順に5万円,5万5000円,6万円(従前は15万円前後)であった。これに対し,同じ時期の賞与額が判明している組合員でない13人についてみると,同じ時期に前年同季よりも賞与を減額された組合員でない従業員は,13人中1~4人であり,その減額幅は4万円を超えないものであった。
以上のとおり,原告においては,Hら3名の賞与だけが,他の従業員には例をみないほど大幅に減額され,低額となっていた。
(2)原告のHら3名に係る本件係争年の賞与の査定は,以下のとおり,恣意的なものであり,原告は前年同季に支給した賞与額を重視して賞与額を決定していたものと推認される。
ア 旧査定方法の下における査定の内容(平成16年冬季賞与まで)
原告は,平成16年夏季賞与及び同年冬季賞与の査定を旧評価基準シートを用いて行ったが,平成16年夏季賞与についてみると,従業員A20は考課点が198点で賞与額18万円,従業員A5は考課点が180点で賞与額22万円,従業員A20は考課点が198点で賞与額18万円,従業員A7は考課点が149点で賞与額20万円というように,考課点の大小と賞与額の大小とが逆転する事例がみられる。以上のことからすると,原告は,旧評価基準シートに基づく勤務成績の評価のみから賞与額を決定していたとは認め難い。
イ 新査定方法の下における査定の内容
(ア)Hら3名の本件係争年の賞与の査定における考課点は,原告が把握する各人ごとの売上額に上下動があるにもかかわらず,Hについては順に15点,20点,18点,Iについては順に30点,38点,30点,Jについては順に10点,11点,12点であり,概ね低位の数値の考課点が付けられている。
しかし,Hら3名を個別にみると,以下のとおり,それらの考課点は,原告が把握する売上額との間に関連性が認められない不合理なものである。
a Hの場合
(a)Hの平成18年冬季賞与の査定対象期間における売上額は580万円余りであり,同年夏季賞与の査定対象期間の売上額192万円を大幅に上回るものであったが,「業績」に関する各評価項目(仕事の質,仕事の量及び連絡報告)の考課点の合計は,どちらも同じ9点が付けられている。
(b)Hは,平成19年夏季賞与の査定対象期間において1600万円余りの売上額を上げているが,同賞与の査定対象期間における「業績」中の「仕事の量」の考課点は,580万円余りの売上げであった平成18年冬季賞与の5点から4点に下がっている。
b Iの場合
(a)Iの平成17年冬季賞与の査定対象期間における売上額は122万円余りであり,同年夏季賞与の査定対象期間における売上額386万円余りの3分の1以下であったが,「業績」中の「仕事の量」の考課点は,両査定とも4点で変化はなく,「仕事の質」の考課点は3点から4点に上がっている。
(b)Iの平成18年夏季賞与の査定対象期間における売上額は266万円余りであり,前年同季の査定対象期間における売上額386万円余りを下回ったが,「業績」中の「仕事の量」の考課点は下がっておらず,逆に4点から5点に上がっている。
c Jの場合
原告は,Jの平成17年冬季賞与の査定対象期間における売上額を0円と把握していたにもかかわらず,同査定対象期間における「業績」中の「仕事の量」の考課点は,同年夏季賞与の査定より1点上がっている。
(イ)Hら3名の本件係争年の賞与の査定における考課点は,原告が主張する賞与の減額理由となる事由(以下「賞与減額事由」という。)とも関連していない。
a Hに対する査定について
原告は,平成18年夏季賞与の査定対象期間中に生じた賞与減額事由として,Hがヘルメットの着用指示に従わず反抗的な態度をとったことを挙げている。しかし,同賞与の査定における「意欲・態度」中の「協調性」の考課点は,そのような賞与減額事由の指摘がない平成17年冬季賞与の査定における当該評価項目の考課点から下がった数値ではなく,逆に1点から3点に上がっている。
b Iに対する査定について
(a)原告は,平成18年夏季賞与の査定対象期間中に生じた賞与減額事由として,Iが上司の権限を否定する趣旨の発言をしたことを挙げている。しかし,同賞与の査定における「意欲・態度」中の「協調性」の考課点は,平成17年冬季賞与における3点から4点に,「態度」の考課点は,同賞与における3点から8点にそれぞれ上がっており,「規律性」の考課点は,いずれも3点とされている。
(b)原告は,Iの平成18年夏季賞与について所長代理の権限を否定する発言をしたという賞与減額事由を指摘しているが,同年冬季賞与の査定対象期間における賞与減額事由は特段指摘していない。そうであるにもかかわらず,両賞与の査定における「意欲・態度」全体の考課点を比較すると,賞与減額事由が指摘されている同年夏季については24点であるのに対し,賞与減額事由の指摘がされていない同年冬季については18点に下がっている。
c Jに対する査定について
(a)Jの「業績」中の「連絡報告」の考課点は,平成17年夏季賞与の査定では,同人がその査定対象期間内に一時的に業務日報を提出していたにもかかわらず,0点とされているのに対し,同年冬季賞与の査定では,同人がその査定対象期間内に業務日報を全く提出しなかったのに,1点が付けられている。
(b)原告は,Jが,平成18年夏季賞与の査定対象期間において,それ以前から引き続いて業務日報を提出せず,勤務態度の改善がなかったことを指摘しているが,「積極性」,「規律性」,「態度」のそれぞれの考課点は,平成17年冬季賞与の査定における1点が平成18年夏季賞与の査定ではいずれも2点に上がっている。
(ウ)原告は,賞与の査定では,人事考課表(賞与)に記載された各評価項目を「主」と「他」に分け,それぞれにつきA,B,Cの3区分に分けて考課点を付けた旨主張する(以下,この評価方法を「三段階評価方式」という。)。しかし,下記の点からすると,原告は,Hら3名に係る本件係争年の賞与の査定において,その主張する三段階評価方式に沿った査定をしておらず,客観的で明確な指標ないし基準によらないで,恣意的にHら3名の各考課点を付けたものといえる。
a 原告は,本件初審事件及び本件再審査事件の審問手続において,三段階評価方式の存在及び内容を主張,立証したことは一度もなく,本件訴訟における証拠調べの直前に初めてその主張をするに至ったものである。
b 原告がHら3名に係る平成17年夏季賞与及び本件係争年の賞与の査定に用いたと主張する人事考課表(賞与)である乙B17の29~44(平成17年夏季賞与関係),乙B17の45~60(同年冬季賞与関係),乙B17の61~74(平成18年夏季賞与関係)及び甲E4の1~3,5の1~9(同年冬季賞与関係)のいずれにも,三段階評価方式に沿って査定をした形跡はみられない。
ウ 以上によれば,原告のHら3名に係る本件係争年の賞与の査定は,旧査定方法及び新査定方法のいずれの下でも恣意的な面を有するものであり,Hら3名の本件係争年の賞与額が,原告の主張する売上額や賞与減額事由の有無にかかわらず継続して低額のものとなっていたこと,他の従業員の賞与額にも顕著な上下動がみられないことを併せると,原告は,前年同季の支給額を重視して賞与額を決定していたとみるのが相当である。
(3)原告が主張する賞与減額事由は,以下に述べるとおり,いずれも合理性のないものであり,これらを賞与減額事由とすることはできない。
ア Hについて
原告は,Hの賞与額が従前と比較して低額になった理由として,第1に,業務調査票の提出態様の不良,第2に,営業成績の不良(期間全般),第3に,上司に対し不適切な言動をとったこと(平成16年1月),第4に,ヘルメットの着用指示に従わず反抗的な態度をとったこと(平成17年11月),第5に,就業前の時間を使って行われていたミーティング(以下「朝ミーティング」という。)における態度が悪く注意を受けたこと(平成18年7月及び8月)を主張する。
(ア)業務調査票の提出態様の不良について
Hが提出した業務調査票は,その記載内容を一見すると,Hの業務意欲を疑わせるものであるものの,後記(イ)で述べるとおり,Hの営業成績が悪いとはいえないことを考慮すると,Hが業務に対する意欲,自覚を欠いていたとはいえない。
(イ)営業成績の不良について
a Hの平成13年夏季以降の賞与額の推移は,別表1のとおりであるところ,平成16年8月から耐圧試験場で主に高圧ガスボンベの耐圧試験等の検査業務に従事する前の業務状況の指標となる売上額をみると,平成14年10月から平成15年9月までの間(12か月間)は1月平均79.4万円であったのに対し,平成15年10月から平成16年7月までの間(10か月間)は1月平均78.1万円であり,ほとんど変わらない。そして,耐圧試験場に異動してからのHの業務遂行が停滞していたことを示す証拠はない。さらに,Hは,平成18年8月17日以降,美祢営業所で営業支援をしていたところ,前任者が在任中の同年6月から同営業所における売上額が月額200万円台に低下していたが,Hが営業支援に入った後の同年9月には,前任者を上回る月額218万円余りの売上額を記録していること,Hはあくまでも営業支援(応援)として同営業所で営業業務に従事していたことからすると,営業支援中におけるHの営業成績が悪かったと評価することはできない。
b 原告の主張について
原告は,Hの耐圧試験場での業務について,耐圧試験作業1本当たり1000円の販売実績があったものと評価し,Hの売上(相当)額を算出した上で,営業等を担当していた他の従業員の売上額と比較し,Hの業績は劣ると主張する。
しかし,耐圧試験場におけるHの業務は,原告が扱う商品の検査を主とするものであり,営業担当者の業務とは内容を異にするから,売上額ないし売上げに対する貢献度を数値化し,それらを営業担当者と比較して耐圧試験場に勤務するHの業績を評価するのは,誤った評価である。また,原告が販売する商品の売上額は顧客ないし商品によって異なるところ,そもそも,Hの耐圧試験場における実績を実際の売上額と関係なく1本当たり一律1000円で換算することに合理的根拠はないし,想定される単位時間あたりの処理数については,営業担当者は1つの営業機会に複数の数量(本数)の商品を販売することができるのに対し,Hが従事していた耐圧試験場の業務はそれと同じ業態のものではない。原告は,比較の対象とすべきでない営業担当者の業績とHの業績とを比較してその善し悪しを論じており,失当である。
また,原告は,Hの勤務年数等からすれば,月額460万円程度の売上額を上げないと同人の地位や月例賃金額に釣り合わない旨主張する。しかし,Hが当初上司から指示された売上目標額は月額200万円であり,Hは,そのように認識して,平成19年4月までの営業月報を作成していた。また,原告主張の売上額は,その設定自体合理性のあるものではなく,同売上額との比較でHの営業成績が悪いという主張は失当である。
c 以上によれば,Hが,業務に対する意欲,自覚を欠き,営業成績が不良であったということはできない。
(ウ)上司に対し不適切な言動をとったことについて
原告は,Hが,平成16年1月20日,Kが上司の胸倉をつかむなどした際に加勢したことを賞与減額事由として主張する。
しかし,上記出来事は,本件係争年の賞与の中で最も早い平成17年冬季賞与の支給日からしても約2年前の出来事であり,原告が当該出来事に対して懲戒処分をしていないこと,その後Hが同種行為を繰り返していないことを併せると,当該出来事を平成17年冬季賞与以降における賞与減額事由とする合理的理由はない。
(エ)ヘルメットの着用指示に従わず反抗的な態度をとったことについて
原告は,Hが,平成17年11月,ヘルメットを着用するよう指示した上司に対して暴言を吐いて反抗したことを賞与減額事由として主張する。
しかし,Hは,上司の上記指示に対して,他の従業員もヘルメットを着用していないと抗議したにとどまり,暴言を吐くというような粗暴な言動はしていない。原告では,Hに限らず,従業員が夏場にヘルメットを着用しないで作業を行うことがあったのであり,H以外にヘルメット不着用を理由に賞与を減額されたり,賞与の査定において不利益な評価を受けた者はいないことからすると,上司のHに対する上記指示が正当であるとしても,上記の態様の対応をしたにとどまるHに対し,戒告に付し,当該行為を賞与減額事由とすることには合理性がない。
(オ)朝ミーティングにおける態度が悪く注意を受けたことについて
原告は,Hが,平成18年7月以降の朝ミーティングにおいて,顔を下に向け,椅子に浅く腰掛けて後ろの机に片肘をつく姿勢をとり,同年8月に注意を受けたことを賞与減額事由として主張する。
Hが上記のような態度をとったことは,一般的にみて好ましいものではないが,朝ミーティングは就業時間外に行われていたものであり,Hが当時所属していた業務部からは,業務全般に対して知識及び責任を有する部長ではなく,その余の参加者とは地位も業務内容も異にする耐圧試験場の業務に従事していたHに参加が求められていた。以上の事情の下で,Hが朝ミーティングへの参加を求められたことに不満を抱き,上記のような態度をとったことは,決して理解できないことではなく,これを賞与減額事由とすることは行き過ぎである。
(カ)以上のとおり,Hの本件係争年の賞与に関して原告が主張する賞与減額事由は,Hの賞与額を減額する理由となるものではない。
イ Iについて
原告は,Iの賞与が従前と比較して低額になった理由として,第1に,営業成績の不良(期間全般),第2に,業務調査票の提出態様の不良,第3に,上司の権限を否定する趣旨の発言をしたこと(平成18年5月)を主張する。
(ア)営業成績の不良について
a Iは,平成11年7月から,美祢営業所のリース部門において主にリース機械の配達,修理業務に従事し,平成17年5月以降は,同営業所における同業務に従事していた従業員はIだけであった。Iは,上司が指示する業務はきちんと遂行しており,Iの業務が停滞していたことなどを示す証拠はない。
b 原告の主張について
原告は,Iの売上額が他の従業員と比較して低いことを賞与減額事由として指摘する。
しかし,原告が比較の対象とした従業員は,いずれもIとは異なる業務に従事する者であり,原告の主張は適切でない。また,Hの場合と同様に,原告が主張する売上額と査定の内容との間に合理的な関連性はない。
(イ)業務調査票の提出態様の不良について
Iが原告に対して提出した業務調査票の記載内容は,他の従業員の業務調査票と比較して特に目立った不備,不足があるものではなく,Iの業務調査票について,原告の業務,企画に役立てようという意欲,自覚が欠如した不十分なものであるという原告の主張は失当である。
(ウ)上司の権限を否定する趣旨の発言をしたことについて
a 原告は,Iが,平成18年5月22日,所長代理には権限がない旨の記事が記載されたビラ(乙A15)を配布したことなどに関し,賞与減額事由に当たる上司に対する不適切な言動であると主張する。
しかし,同ビラは組合が作成したものであり,Iは同ビラを配布したにすぎないから,この事実をもって,Iがビラに記載された内容の言動をしたものとして問責するのは失当である。
b 原告は,Iが,同月23日,(a)美祢営業所の所長代理であったM(以下「M」という。)から,「(ビラに)記載された所長代理は自分のことであるのか。所長代理を辞めたらいいのか。」と尋ねられたことに対し,「自分でそのように思うのであれば,そうだろう。自分で決めたらいいのでは。」と答えたこと,(b)営業会議において,原告から命じられれば所長代理を務めると答えたことを賞与減額事由として主張する。
しかし,上記Iの発言内容は,(a)Mが所長代理を辞めるべきか否かは自分で判断すればよい,(b)Iは原告から命じられれば所長代理を務めてもよいという趣旨のものであり,これらの発言がMの権限を否定したものと理解するのは相当でない。
なお,Iに対する戒告書では,戒告の理由として「5月24日の営業会議の中でM所長代理の権限を否定したこと」と記載されているが,その内容と原告が主張する上記事実とは,日時及び場所を異にしている。
c 原告が主張する賞与減額事由と査定との間に合理的な関連性がないことは,上記(2)イ(イ)bのとおりである。
(エ)以上によれば,原告が,Iの本件係争年の賞与に関して主張する賞与減額事由は,Iの賞与額を減額する理由となるものではない。
ウ Jについて
原告は,Jの賞与が従前に比較して低額となった理由として,第1に,業務調査票の提出態様の不良,第2に,営業成績の不良(期間全般),第3に,業務日報に売上額を記載しなかったこと(期間全般),第4に,交通事故を再三起こしていること(期間全般)を主張する。
(ア)業務調査票の提出態様の不良について
Jが原告に提出した業務調査票の記載量は,他の従業員のそれと比較して少ないものではあるが,Jがその業務内容を書き漏らしたとはいえない。そして,Jの勤務成績が良くないとはいえないことを併せると,Jに意欲,自覚が欠如しているということはできない。
(イ)営業成績の不良について
a Jは,山口営業所のリース部門におけるリース機械の配達,メンテナンス,修理等の業務に従事する唯一の従業員であり,月平均90万円の売上額を上げていた。そして,Jの業務が停滞していたことを示す証拠はない。
b 原告の主張について
原告は,Jの売上額が他の従業員と比較して低いことを賞与減額事由として主張する。
しかし,Jは,山口営業所のリース部門の業務に従事する唯一の従業員であったのであり,原告が比較の対象とした従業員はいずれもJとは異なる業務に従事していた者であるから,上記売上額の比較に基づく原告の主張は適切でない。
原告は,Jが業務日報を提出しなかったため,同人の売上額を0円と理解してその業績を評価したようであるが,Jは,原告自身が作成した資料によっても,平成17年2月から同年4月までの3か月間に約270万円の売上額を上げており,Jの営業成績がその後低下したことを認める証拠は見当たらない。そうすると,Jの業績について売上額を0円とするのは,Jの業績を過小評価するものであり,不合理である。
(ウ)業務日報に売上額を記載しなかったことについて
Jは,山口営業所においてリース部門を担当する唯一の従業員である一方,同部門の売上額は経理担当の事務員が把握していた。Jは,平成19年5月21日に原告のN部長(以下「N部長」という。)から業務日報中の売上金額欄の記載方法を説明されるまで,その記載方法が分からず,原告に対して記載方法の教示を求めていたが,N部長から説明を受けるまで,原告は何らその説明をしていない。Jは,N部長から説明を受けた後は,売上額を記載した業務日報を提出している。なお,Jは,一時的に売上額を記載した業務日報を提出したことがあったが,これは,Jが他の従業員に問い合わせて分かった範囲で記載し,作成したものであり,原告から正しい記載方法を説明され,これを理解した上で記載したものではない。
また,Jが業務日報を提出しなかったことと査定の内容との間に合理的な関連性がないことは,上記(2)イ(イ)cのとおりである。
(エ)交通事故を再三起こしていることについて
Jは,平成14年3月15日,同年6月4日,平成17年4月13日の各日に交通事故を起こしているが,これらは本件係争年の賞与の査定対象期間中の最も早い始期である同年8月よりも前に起きたものである。Jは,平成18年夏季賞与の査定対象期間中である同年3月16日に物損事故を起こしたが,損傷箇所の修理は行われなかったような軽微な事故であった。そして,同賞与の査定では,「意欲・態度」中の「規律性」及び「態度」の各考課点は,いずれもその前季の賞与の査定における1点から2点に上がっている。そして,Jは,同年冬季賞与の査定対象期間である同年8月から同年11月までの間に交通事故を起こしていない。
Jの1次考課者であった山口営業所O所長(以下「O所長」という。)は,Jの月例賃金(職能給)に関する評価基準書中の評価事項である「交通ルールを守り安全運転を心掛けている」について,同所長において達成できていないと判断したことを示すチェックを付けていない。そして,2次考課者がJの交通事故歴を査定の際に考慮したことを認め得る証拠はない。
以上のとおり,原告が主張するJの交通事故歴は,平成17年冬季賞与及び平成18年冬季賞与の各査定対象期間中に生じたものではなく,同年夏季賞与の査定対象期間中に生じたものについても,付けられた考課点との関係では関連性がないものである。
(オ)以上によれば,原告がJの本件係争年の賞与に関して主張する賞与減額事由は,Jの賞与額を減額する理由となるものではない。
(4)組合は,Kが訴訟で解雇を争っていた平成16年4月に同人を執行委員長,Hら3名を組合員として結成された労働組合であり,その後,原告とは継続的に対立関係にあった。また,Hら3名に係る賞与額は,平成15年冬季賞与から減額され始め,その後は,同年夏季賞与以前の支給額と比較して低額のまま推移している。
(5)以上によれば,Hら3名に係る本件係争年の賞与額は,組合員でない従業員にはみられない大幅に減額されたものであること,原告は,前年同季の支給額を重視して賞与額を決定していたとみられること,原告のHら3名に係る本件係争年の賞与の査定内容に恣意的な面がみられることからすると,Hら3名に係る本件係争年の賞与の査定及びこれに基づき決定された賞与額は,同人らに経済的な不利益をもたらすものであり,労組法7条1号の「不利益な取扱い」に当たるというべきである。そして,原告がHら3名それぞれについて主張する賞与減額事由は,いずれも賞与額を減額する理由とならないものであること,組合が結成されてから以降,原告と組合とは対立関係にあったこと,その間,Hら3名に支給された賞与が低額のままであったことからすると,原告がしたHら3名に係る本件係争年の賞与の査定及びこれに基づく本件賞与減額は,原告が,Hら3名が組合の組合員であること又は同人らの組合活動を嫌悪し,同人らに経済的な不利益を課す意図をもってしたものというべきである。したがって,原告がHら3名に対して行った本件賞与減額は,労組法7条1号の不当労働行為に当たる。
【原告の主張】
(1)Hら3名に係る本件係争年の賞与の査定が労組法7条1号の不当労働行為に当たるというためには,Hら3名が他の従業員と同様の勤務実績を上げているのに他の従業員より低査定を受けたという不利益な取扱いの事実が存在することが立証される必要がある。
(2)賞与の支給について
ア 賞与に関する定め
原告では,賞与の支給につき,本件就業規則変更前の旧就業規則中の賃金規程16条1項において,「会社は毎年8月及び12月に会社の業績を考慮したうえで従業員のうち月給者及び日給者に対して勤務成績などに応じて賞与を支給する。」と定め,従前から従業員の勤務成績等を査定してその支給額を決定していた。
原告は,平成16年11月1日に施行した本件就業規則変更後の就業規則に基づき,賞与について,客観的に公正公平な査定に務めることを定める人事考課規程を定めた。賃金規程22条では,「賞与は毎年8月及び12月に会社の業績,従業員の勤務実績(業績を含む)を勘案し,在籍者のみに支給する。ただし,勤務成績(業績を含む)によっては賞与を支給しないこともある。」(同条1項),「第1項の勤務成績については,人事考課規程によって決定する。」(同条5項)と定めている。
賞与の査定対象期間についての定めはないが,原告は,12月から翌年7月までを夏季賞与の,8月から11月までを冬季賞与の査定対象期間として実施している。
イ 査定方法
原告では,査定をできるだけ客観的に行うために,旧評価基準シートを使用していたが,平成17年夏季賞与から,人事考課表(賞与)に変更して,より客観的に分かりやすく,査定しやすく,賞与額を決定することができるように改善した。
具体的な査定の方法は,以下のとおりである。
(ア)人事考課表(賞与)の考課点の付け方としては,原告が営業中心の会社である観点からの査定を行っており,「連絡」や「態度」も重視している。
(イ)人事考課表(賞与)の各評価項目について,70%以上できたと判断したものをAとし,30%以下と判断したものをCとし,どちらにも属さない中間(30%~70%)をBとする。考課点は,Bの中でも,Cに近いBか,Aに近いBかも考慮し,Aは10点~7点,Bは7点~3点,Cは3点以下の範囲内で付けるという三段階評価方式をとっている。
(ウ)人事考課表(賞与)の各評価事項は,重要な項目を「主」,他の一般的なものを「他」に分け,その比率をも考慮して総合判断する。
(エ)出来・不出来を判断する物指しとして,原告の従業員でトップの成績を上げているMの勤務成績を用い,これと比較して考課点を付けている。
ウ 査定の実際
原告は,従業員に対する賞与額が一定のものになるように,勤務成績の査定を操作し,考課点を付けるということはしていない。
(3)Hについて
Hには,下記ア~オの賞与減額事由があり,人事考課表(賞与)中の評価項目である「意欲・態度」及び「業績」において低い評価を受けるのはやむを得ないし,他の従業員と同様の勤務成績を上げていたとは到底認められない。
ア 業務調査票の提出態様の不良
原告では,従業員に業務調査票の作成,提出を求めている。この業務調査票は,原告において,今後の営業展開を企図するための重要な資料となるものであるところ,Hが作成して提出した業務調査票は,「毎日の仕事」のみを少し記載しただけで,「週でする仕事」,「月単位の仕事」,「年単位の仕事」をいずれも「無し」と記載したものであった。
また,Hは3等級に位置付けられる従業員であるから,「業務に精通し,かつ部下の指導・育成ができる監督職」としての業務遂行が期待される者であるが,Hが作成して提出した業務調査票は,そのような意欲や自覚が全く感じられないものであった。
イ 営業成績の不良
Hの営業成績は,Hの月例賃金額に見合うものとして原告が指定した売上目標月額460万円を大きく下回るものであった。なお,Hは,当初,売上目標を月額200万円としていたが,その後,自ら売上目標を月額460万円に訂正した営業日報を提出している。
被告は,Hは平成18年9月に月額218万円余の売上額を上げており,前任者であるPの同年7月分の売上額158万円余を上回る売上額を上げていたと主張する。しかし,Pは26歳で勤続4年の従業員であるが,Hは49歳で勤続20年の従業員であり,Hの勤務年数や給料の額からすると,Hが当初立てた月額200万円という売上目標は低すぎるし,原告が,上記の勤務経験を有するHに対し,Pよりも多くの成果を期待するのは当然である。また,Pの売上額と比較をする場合には,Pは平成18年7月21日に退職しているので,Pの同年6月分の売上額と比較すべきであるところ,Pの同月分売上額は226万円余であるから,HがPを上回る売上額を上げたとはいえない。Hの月例賃金額や勤務年数からすると,Hの売上実績がPよりも低かったという点は,Hの営業成績が悪いと評価されるものである。
また,Hの営業活動については,実績が上がっておらず,成績が悪い。このことは,個人別年度売上額を見ても明らかであり,Hは,他の従業員と比較して成績が悪く,他の従業員と同様の勤務成績を挙げているとは到底いえない。
ウ 朝ミーティングにおける態度の悪さ
朝ミーティングに出席した際のHの態度は,顔を下に向け,椅子に浅く腰掛けて後ろの机に片肘をつく姿勢をとるというものであり,これは,反抗的で不遜な態度を示すものである。この点の評価は,朝ミーティングが就業時間外に行われているか否かという問題とは直接関係のないものであり,仮に朝ミーティングに不満を抱いていても,上記のような態度は,協調性が求められる場面において反抗的姿勢を示すものであり,職場の秩序を乱すものとして許されない。
Hが朝ミーティングに参加しなかったことは,原告の従業員としての自覚に欠け,また,協調性に欠けるものとして,低評価を受けてもやむを得ない行為である。
エ ヘルメット着用を注意されたことに対する反抗的態度
Hは,原告の会長から就業中にヘルメットを着用するよう注意されたが,これに素直に従わず,暴言を吐くなどして反抗した。原告は,このHの行為が協調性を欠く行為であるとして問題視し,Hに対し,戒告処分をした。原告の会長がした注意は,労働安全衛生法上当然のことであり,会長の指示に対して上記の態様で反抗したHの行為は,戒告相当の行為である。
オ Hの上記エの反抗行為は,平成16年1月20日にKがQ部長の頸部をつかみ,「お前もやっちゃるけえの」等と発言した際に,Hが「金払え」などと発言してKに加勢した事実とも連続している。この出来事は,本件係争年の賞与の査定対象期間外に起こった出来事であるが,Hが継続的に原告に反抗ないし抵抗する姿勢,態度をとり続けていることを示す重要な事実である。
(4)Iについて
Iには,下記ア~ウの賞与減額事由があり,人事考課表(賞与)中の評価項目である「意欲・態度」及び「業績」において低い評価を受けるのはやむを得ないし,他の従業員と同様の勤務成績を挙げていたとは到底認められない。
ア 営業成績の不良
Iの売上額は,別表4の「日報の売上累計」欄に記載のとおりの金額であり,これを上回る売上額はない。仮にIがリース部門の売上げを把握することができない事情があったとしても,把握した時点で速やかに業務日報に記載できたはずであり,勤務成績が売上額によって評価されることからすると,これを上回る売上額があるのにそれを業務日報に記載しないことは考えられない。Iの上記売上額に対し,M及びPの売上額は,同表の「M」及び「P」の各欄に記載のとおりであり,Iの売上額は,MやPのそれと比較して著しく劣っており,また,他の従業員の売上額と比較しても,同等のものとはいえない。
イ 業務調査票の提出態様の不良
42歳で勤続23年のIが作成した業務調査票と33歳で勤続9年のMが作成した業務調査票とを比較すると,Iの記載内容はあまりに抽象的であって,原告の業務,企画に役立てようという意欲,自覚が欠如した不十分なものである。
ウ M所長代理の権限を否定するような発言
Iは,平成18年5月22日,美祢営業所において,所長代理には権限はない旨の記事が掲載された組合ビラを配布し,同ビラの記載内容と同様の同営業所のM所長代理の権限を否定するような発言をした。Iの上記行為は,上司に対する不適切な行為であり,協調性を欠いた,職場秩序を乱す行為である。
(5)Jについて
Jには,下記ア~ウの賞与減額事由があり,人事考課表(賞与)中の評価項目である「意欲・態度」及び「業績」において低い評価を受けるのはやむを得ないし,他の従業員と同様の勤務成績を挙げていたとは到底認められない。
ア 業務調査票の提出態様の不良
Jが作成して提出した業務調査票は,業務調査票の作成の意味を全く理解せず,また,理解しようとしないと受け取らざるを得ない内容のものであり,同じ部署の他の従業員が作成した業務調査票と比較すると,Jの意欲,自覚が欠如していることが明らかに看取できるものである。
イ 業務日報に売上額を記載しないこと
Jが作成して提出した業務日報には,売上額の記載がない。24歳で勤続6年の従業員が作成して提出した作業日報には,売上額の記載があること,リース価格表を見れば売上額の計算はすぐにできるはずであること,平成17年2月から同年4月にかけてJが作成して提出した業務日報には売上額が記載されていることからすると,37歳で勤続4年のJが,業務日報に記載すべき売上額の記載方法が分からないということはあり得ない。Jが業務日報に売上額を記載しないのは,Jが原告を困らせるために意図的に原告の指示に従わないことによる。
ウ 交通事故を再三起こしていること
Jは,業務中に交通事故を再三起こしており,業務に対する緊張感,責任感,自覚を欠いており,勤務成績及び勤務態度の両面において低評価を受けるのはやむを得ない。
Jの1次考課者であるO所長がJの月例賃金(職能給)に関する評価基準書中の「交通ルールを守り安全運転に心掛けている」との事項に達成できていないことを示すチェックを付けていないのは,Jの交通事故を問題視していなかったわけではなく,評価基準書に記載するのをうっかり漏らしていただけである。なお,2次考課者は,Jの交通事故歴を評価の対象としている。
2  争点(2)(Hら3名の本件賃金減額は労組法7条1号の不当労働行為に当たるか)について
【被告の主張】
(1)原告の従業員で平成19年1月に月例賃金を減額されたのは,Hら3名の他には1人しかいなかった。
(2)原告における職能給は,原告が各従業員についてそれぞれが相当すると仮定した役職及びこれに対応する等級を基本として定めるものであるが,原告の組織上,課長,係長等の役職は存在しなかった。
職能給に関する人事評価の方法は,かなり詳細に定められているが,査定の結果,職能給表に定めた号級がどのような基準でどう変更されるのかについて,原告は明らかにしていない。
人事考課表(賃金)の各評価項目内の4つの評価要素に関し異なる水準の評価がされた場合の原告における全体評価の仕方をみると,Hら3名の人事考課表(賃金)では,一部の例外(Iの「勤務態度」)を除き,ある評価項目について上位と下位の評価を与えられた評価要素が2つずつある場合は,低い評価に合わせて当該評価項目全体の評価を行い,B以上の評価がされた評価要素を含む評価項目についても,全体ではC以下の評価しか与えていない。
これに対し,他の従業員の人事考課表(賃金)をみると,1例を除き,ある評価項目について上位と下位の評価が与えられた評価要素が2つずつある場合は,高い評価に合わせて当該評価項目全体の評価を行い,評価要素ごとにばらつきがある場合は中間位の評価をしている。
以上のように,原告がHら3名に対して行った職能給の査定は,合理性,客観性に欠けるところがあり,原告の恣意を容れる余地を有するものであった。
(3)Hら3名に対する査定の内容は,以下のとおり,いずれも合理性がない。
ア Hについて
Hの平成19年1月の月例賃金に係る査定結果を示す人事考課表(賃金)には,以下のとおり,不合理な点がみられる。
(ア)原告(考課者)は,評価項目「成果」中の評価要素「顧客満足」をCと評価しているが,Hは,平成18年8月途中まで,耐圧試験場の業務に1人で従事しており,耐圧試験場の業務そのものは顧客と接する機会がないものであったから,顧客対応を想定したと思われる評価要素「顧客満足」についてC評価を付する合理的な理由はない。
(イ)原告(考課者)は,評価項目「成果」中の評価要素「部下の育成」及び「リーダーシップ」をDと評価しているが,Hには部下がいなかったのであるから,評価要素「部下の育成」及び「リーダーシップ」についてD評価を付する合理的な理由はない。
イ Iについて
原告(考課者)は,Iの平成19年1月の月例賃金に係る査定結果を示す人事考課表(賃金)において,Iが業務の効率性及び営業努力の点で特に劣ると評価している。しかし,その根拠は,Iの業務とは異なる内容の業務に従事する従業員の売上額と比較してIが劣っていたというものであり,Iが上司の指示する業務を適正に遂行していたことに照らすと,その比較の仕方及び評価結果は不当であり,不合理である。
ウ Jについて
Jの平成19年1月の月例賃金に係る査定結果を示す人事考課表(賃金)及び評価基準書には,以下のとおり,不合理な点がみられる。
(ア)原告(考課者)は,Jの服装に問題があるとして低評価(D)をしており,1次考課者であるO所長が説明するその根拠は,Jが平成18年に更新される前の制服を着用し続けていたというものである。しかし,原告が問題視したJの服装は,従前の作業服を着用していたというものにすぎず,これをもってD評価を付するのは行き過ぎである。
(イ)原告(考課者)は,Jのコミュニケーション能力を相当問題視していることがうかがわれる。しかし,原告は,Jのコミュニケーション能力が劣ることの具体的根拠を明らかにしていないし,コミュニケーション能力が問題となる評価要素である評価項目「勤務態度」中の「協調性」は,平成18年上半期の評価ではA,同年下半期の評価ではBとなっており,総合所見欄にも,他の従業員との協調性に関する否定的な記述はみられないことからしても,Jのコミュニケーション能力を問題視する原告の評価は不合理である。
(ウ)Jの1次考課者であるO所長が作成したJの職能給の査定に係る評価基準書には,在庫管理に関する項目や高圧ガス販売主任者の資格の項目に,達成されていないことを示すチェックが付けられている。しかし,Jは,入社後,原告の山口営業所のリース部門において,リース機械の配達,修理等の業務に従事していたのであり,在庫管理や高圧ガス販売主任者の資格はJが従事していた職務とは直接関係しないものである。O所長が行った上記チェックは,Jの業務とは関係しない項目についてマイナス評価をしたものであり,合理性がない。
(4)上記1【被告の主張】(4)で述べたとおり,原告と組合とは,組合結成以降継続的に対立関係にあったこと,上記1【被告の主張】(1)~(5)で述べたとおり,原告が,Hら3名が組合の組合員であること又はその組合活動を嫌悪して,同人らに対して本件賞与減額をしたこと,上記(1)~(3)で述べたとおり,原告がしたHら3名の職能給の査定は合理性を欠くものであったことを併せると,原告は,Hら3名に対する職能給の査定及びこれに基づく月例賃金の支給に際しても,同人らが組合の組合員であることを嫌悪していたものとみるのが相当である。
(5)以上によれば,平成19年1月の月例賃金(職能給)を減額された原告の従業員は4人しかおらず,そのうち3人は組合の組合員であるHら3名であること,原告が行う職能給の査定には恣意的な面があることからすると,Hら3名に係る本件賃金減額は,同人らに経済的な不利益をもたらすものであり,労組法7条1号の「不利益な取扱い」に当たるというべきである。そして,原告が行ったHら3名に対する平成19年1月の月例賃金に係る職能給の査定の内容は合理性を欠くものであったこと,原告は,Hら3名に対する職能給の査定及びこれに基づく月例賃金の支給に際しても,同人らが組合の組合員であることを嫌悪していたものとみられることからすると,原告がしたHら3名に対する平成19年1月の月例賃金に係る職能給の査定及びこれに基づく本件賃金減額は,原告が,Hら3名が組合の組合員であること又は同人らの組合活動を嫌悪して行ったものというべきである。したがって,原告がHら3名に対して行った本件賃金減額は,労組法7条1号の不当労働行為に当たる。
【原告の主張】
(1)原告は,平成16年11月1日に本件就業規則変更を行い,職能給制度(成果主義による賃金の決定)を導入した。職能給は,従業員各人の職務遂行能力を評価して支給されるものであり(賃金規程15条),原告は,従業員各人の職務遂行能力の評価を合理的かつ公平に実施するために人事考課規程を定めた。人事考課規程では,人事考課は業績考課と態度考課に大別し,前者については,目標達成度,量的考課,質的考課,後者については,規律性,協調性,積極性,責任感の評価項目を定め,これらを踏まえて職能給の人事考課表を作成している。原告は,職能給制度の実施に当たり,平成17年12月までを準備期間とし,社会保険労務士の指導を受けながら慎重な準備を行い,平成18年1月から同制度を実施した。
(2)原告は,職能給制度の実施に当たり,平成17年11月ころ,従業員全員に業務調査票を作成してもらい,面接を実施し,平成18年1月時点での月例賃金がそれ以前の月例賃金と比べて減少したものとならないように,平成17年12月分給料を調整(増額)した。
また,一般従業員の職能給の査定は,直属の上司が1次考課者,役員が2次考課者となっているところ,原告は,査定が公正公平に行われるようにするため,職能給制度実施前の同年中に,考課者となる者に対し,研修会を実施した。
(3)職能給制度導入後の賃金査定の方法
賃金査定を行う1次考課者(本社はN部長とR,東営業所はN部長とT所長,美祢営業所はU所長(以下「U所長」という。),山口営業所はO所長)は,基本的に7月と12月の年2回,従業員と個人面談をする。1次考課者は,1回目の個人面談までに,人事制度運用の手引きを参考にして,人事考課表の上半期の部分を作成し,個人面談時に,個々の評価事項について各従業員の意見を聞きながら指導等をする。次いで,1次考課者は,2回目の個人面談までに,人事考課表の下半期の部分を作成し,個人面談時に,個々の評価項目について各従業員の意見を聞きながら指導等をする。以上を踏まえて,1次考課者は,評価基準書を作成し,2次考課者との間で調整を行った上,職能給の等級が決定される。その際,1次考課者の査定(評価)が修正されることがあり得る。その後,1次考課者から従業員に対し,個別に決定された職能給の等級が通知される。
(4)Hら3名に係る平成19年1月からの月例賃金の査定は,以下のとおり,適正に行われている。
ア Hの1次考課者であるN部長,Iの1次考課者であるU所長及びJの1次考課者であるO所長は,それぞれHら3名について上記(3)の人事考課表を作成した上で,平成18年7月27日及び同年12月7日にHら3名との個人面談を実施した。
イ Hについて
(ア)平成18年1月に決定されたHの職能給は,3等級94号である。このうち等級は,Hの年齢,勤務年数等を考慮して,仕事の工夫や周りの人間に対する指導をすることや提案をすることが求められる3等級のレベルの業務遂行を期待して3等級に,号俸は,平成17年12月の月例賃金額を基に,年齢給及び勤続給を勘案して,94号(14万3000円)とすることが決定された。
(イ)平成19年1月賃金の査定
a Hに対して平成18年中に行われた人事考課の結果は,Dランク(特に努力を要する)であり,総合所見として,①生産の向上に対しての工夫がない,②日報の書き方が乱雑で人に見てもらうような気持ちになって記入してほしい,③レベルアップしようという意識がない,④人の意見を素直に聞くこと,以上のことが指摘されている。
このような結果になった理由は,以下のとおりである。
(a)Hが,他の従業員と同様の勤務成績を上げていないことは,上記1【原告の主張】(3)ア,イで述べたとおりである。
(b)Hは,評価基準書にあるとおり,「客先の管理を工夫できる」,「取引先を分析し,受注量の拡大を常に考えている」,「新商品等の知識を吸収し,営業活動に積極的に取り組んでいる」,「電話,接客対応を通して顧客の信頼を得ることができ,企業のイメージアップに貢献できる」,「業務において常にコスト意識をもち,その低減や削減に努めている」,「取引先を重要度に応じてランク付けし,それに応じて適切にアプローチしている」,「常に新規取引先の開拓を念頭に置いた行動をしている」,「改善案への積極的対応ができる」,「提案営業ができる」,「営業の基本業務の指導ができる」といった評価事項が達成できていなかった。
(c)1次考課者であるN部長による個人面談の際,Hは,N部長から「自分で営業して売った物件は何かありますか」と尋ねられたのに対し,「別にやっていない」という返答をしており,営業に対して消極的姿勢であり,営業に対する工夫や提案のない者であった。
b 上記aの人事考課の結果を踏まえて,Hの平成19年1月の月例賃金における職能給は,3等級94号から号俸が14号に下がった。
(ウ)本件就業規則変更によりそれまでの年功的な賃金体系に代えて職能給制度(成果主義)が導入され,賃金についても査定が実施されることとなり,その結果が悪いときには職能給が減額変更されることはやむを得ないものであり,Hの上記賃金減額は,Hの業務実績が悪いという人事考課の結果によるものである。
H以外にも,平成19年1月の月例賃金の査定において人事考課の結果が悪かったため,3等級85号から号俸が7号下げられた従業員がおり,Hのみが賃金を下げられているわけではない。また,原告は,Hが組合員だからという理由で主観的恣意的な査定はしていない。
ウ Iについて
(ア)平成18年1月に決定されたIの職能給は,4等級33号である。このうち等級は,Iの経歴,経験年数等を考慮し,また,評価基準書の4等級に係る評価事項で上げられていること(見積りができる程度の情報をききだせる,顧客の要望事項への対応についてアドバイスできる,常に会社の経営理念を念頭に置き,会社の目標を達成するための行動をしている,商品,市場,経済,技術等営業に必要な新しい知識の吸収に努めている,担当業務についても手際よく対応し,ほぼ独自で処理できる,状況に合わせて対応ができ後輩・部下に対して助言・指示ができる,受注増加が図れるよう客先と折衝することができる,作業内容の行程を把握し,「ムリ・ムダ・ムラ」のない作業を工夫できる,収益強化の構築ができる,担当業務全般の作業手順等の説明ができる。)をやり遂げてくれることについての期待を持って4等級に,号俸は,平成17年12月の月例賃金額を基に,年齢給及び勤続給を勘案して,33号とすることが決定された。
(イ)平成19年1月賃金の査定
a Iの平成18年中に行われた人事考課の結果は,Dランク(特に努力を要する)であり,総合所見として,①努力するが,仕事の優先順位を考えること,②行動も機敏さをつけること,③営業努力をもっとすること,考えること,以上のことが指摘され,さらに,目標設定として,「調査票での自分の仕事の内容は1年生クラスがすべき仕事,20年以上年数(キャリア)の考え方ではない。みんなを引っ張っていくような行動と信頼できる発言をしてもらいたい」と指摘されている。
このような結果になった理由は,以下のとおりである。
(a)個人別売上額から明らかなとおり,Iの販売実績は,Iより経歴の浅い従業員と比べても著しく悪く,Mと比較すると,約10分の1の販売実績しか上げていない。
(b)Iは,自分よりも年齢が若くキャリアも少ないMが先に所長代理になったことが面白くなかったこともあり,所長代理の権限を否定する発言をし,職場の秩序を乱す行為を行った。
b 上記aの人事考課の結果を踏まえて,Iの平成19年1月の月例賃金における職能給は,4等級33号から4等級25号に下がった。
(ウ)以上のとおり,Iに係る本件賃金減額は,平成18年当初のIに対する評価が期待はずれであって,同年中のIの仕事ぶりが4等級のものではなかったことによるものであり,原告は,Iが組合員であるからという理由で主観的恣意的な査定はしていない。
エ Jについて
(ア)平成18年1月に決定されたJの職能給は,2等級55号である。このうち等級は,Jの経歴,経験年数等を考慮して2等級に,号俸は,平成17年12月の月例賃金額を基に,年齢給及び勤続給を勘案して,55号とすることが決定された。
(イ)平成19年1月賃金の査定
a Jの平成18年中に行われた人事考課の結果は,上半期がCランク(努力を要する),下半期がDランク(特に努力を要する)であり,総合所見として,①再三指導している業務日報を遅延なく,正確に提出して下さい,②業務に対する改善提案・工夫を積極的に行い,成果向上の努力をして下さい,③社員と同じ制服を着用し,清潔感ある服装をして下さい,④必要に応じて伝票記入・発行などの事務的処理を行って下さい,以上のことが指摘されている。
このような結果になった理由は,以下のとおりである。
(a)Jの評価基準書における2等級に関する評価事項のほとんどが達成できていないことを示すチェックがされている者であり,Jは,成果,勤務態度,能力の各点において,2等級に位置付けられる従業員が行うべき事項を達成できていない。
(b)Jは,業務日報の記載方法が分からないとして,その提出をしないか,記載すべき事項を未記入のまま提出している。このことは,Jの職場におけるコミュニケーション能力及び業務に対する積極性の欠如を示すものである。
b 上記aの人事考課の結果を踏まえて,Jの平成19年1月の月例賃金における職能給は,2等級55号から2等級41号に下がった。
(ウ)以上のとおり,Jに係る本件賃金減額は,Jの成果,勤務態度,能力が悪いという人事考課の結果によるものであり,原告は,Jが組合員だからという理由で主観的恣意的な査定はしていない。
第4  争点に対する当裁判所の判断
1  判断の前提となる事実関係
上記第2の2の前提事実(以下,単に「前提事実」という。)並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨(当事者間に争いのない事実を含む。)によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告と組合との対立関係の状況
ア Kは,平成14年8月31日,原告の会長に対する暴言等を理由として解雇され,平成15年1月15日,同解雇の無効確認等を求める訴訟(以下「第1次K解雇訴訟」という。)を提起した。
イ H及びJは,同年11月,第1次K解雇訴訟において,K側の証人として出廷し,原告に不利となる証言をした。
ウ K及びHら3名は,平成16年4月14日,Kを執行委員長として組合を結成し,Hは書記長に,I及びJは副執行委員長にそれぞれ就任した。
エ 原告と組合は,組合が結成された平成16年4月14日以降,継続的に対立している状況にある。このうち,組合結成後から平成18年までの間の主な事実経過は,別紙6の対立経過一覧表のとおりである。
(2)就業規則の変更による人事考課制度の変更(賞与)及び導入(賃金)
前提事実(2)のとおり。
(3)本件係争年の賞与の査定に関する事情
ア 賞与の査定結果
Hら3名及び組合員でない原告の従業員A1~A12及びA20の13人(別表1及び2にA1~A12及びA20で表示している者。以下「従業員A1ら13名」という。)の平成16年夏季から平成18年冬季の各賞与の査定結果は,別表2のとおりであり,Hら3名の平成17年夏季から平成19年夏季の各賞与の査定結果の内訳は,別表3のとおりである。
このうち,Hら3名の本件係争年の賞与の査定結果(90点満点)は,Hが,順に15点,20点,18点,Iが,順に30点,38点,30点,Jが順に10点,11点,12点である。
(甲E4の1~3,5の1~9,38の1,42の1,44の1)
イ 支給額
Hら3名及び従業員A1ら13名の平成13年夏季から平成18年冬季の各賞与額及び平成18年当時の職能給の等級は,別表1のとおりである。(乙B6及び上記アで認定した平成18年冬季賞与の査定結果。なお,甲E11には,Hら3名以外の従業員の平成18年冬季の賞与額が記載されているが,同号証のA1~A12及びA20で表示されている者と同別表のA1~A12及びA20で表示している者とがそれぞれ同一人物であることを確認し得る証拠がないので,従業員A1ら13名の同季の賞与額は不明というほかない。)
このうち,Hら3名に係る本件係争年の賞与額は,Hについては,平成15年夏季は32万円,同年冬季は20万円であったのが,平成18年夏季は10万円,同17年及び同18年冬季は8万円~9万円に,Iについては,平成15年夏季は22万円,同年冬季は20万円であったのが,平成18年夏季は19万円,同17年及び同18年冬季は15万円に,Jについては,平成15年夏季は16万円,同年冬季は14万円であったのが,平成18年夏季は5万5000円,同17年及び同18年冬季は5万円~6万円であった。
なお,Hの平成16年夏季賞与額は18万円であったが,原告は,第1次救済申立てに関する山口県労委の救済命令(別紙6の平成17年2月24日欄参照)及びこれを支持する中労委の同年12月7日付け再審査棄却命令に基づき,平成18年3月10日,Hに対し,14万円を追加支給した。
ウ Hら3名の勤務状況
(ア)Hの査定に関係する事実関係
a 本件係争年の賞与の査定対象期間(平成17年8月~平成18年11月)におけるHの業務等
Hは,平成16年5月11日,プロパン部から本社営業部高圧ガス担当係(営業グループ)への異動を命じられ,翌12日から,高圧ガスの配送や上長の営業活動に同行するなどの業務に従事し,同年8月5日,業務部の耐圧試験場への異動を命じられ,主に高圧ガスボンベの耐圧試験等の検査業務に従事し,平成18年8月11日から,本件支援命令を受けて,美弥営業所での営業支援業務に従事した。耐圧試験場での業務は,基本的にHが1人で行った。
b 業務調査票
Hは,平成17年11月24日,原告の指示に基づき,原告に対して業務調査票を提出した。
同業務調査票には,「毎日の仕事」の欄に「会社から指示された通り耐圧検査の仕事を確実に行う事」,「消耗品の節約に努めている」と,「週でする仕事」,「月単位の仕事」及び「年単位の仕事」の各欄には,それぞれ「無し」と記載されていた。
c 勤務状況及び業務成績(平成17年下半期から平成18年末までの間)
(a)Hは,上記aのとおり,平成16年5月から耐圧試験場における業務に従事しており,平成18年8月11日に本件支援命令を受けて美弥営業所での営業支援業務に就くまで,営業活動は主な業務ではなかった。
(b)Hは,平成18年8月17日から,本件支援命令に基づき,美祢営業所での営業支援業務に就いた。Hは,美祢営業所において,主に本社で製造した酸素や高圧ガスボンベの納品,管内におけるガスボンベの配達に従事し,営業はあくまで応援として行っていた。Hの美弥営業所における業務の概況は,本社に午前7時45分ころに出勤し,午前7時50分ころから始まる朝礼に参加した後,美祢営業所へ搬送する酸素や高圧ガスボンベの積込作業等を行い,午前8時20分ころに社用車で本社を出発し,午前9時過ぎに美祢営業所に到着した後,主に本社で製造した酸素や高圧ガスボンベを納品し,管内にガスボンベを配達するなどの業務を行うほか,営業部門の業務を応援として行い,原告の指示に基づき,午後4時過ぎに美祢営業所での業務を終え,午後5時ころに本社に到着し,酸素や高圧ガスボンベの空容器を降ろす作業等を行った後,定時に退社するというものであった。
美祢営業所のU所長は,Hの営業支援が始まった当初,Hに対し,前任者のPの売上額であった月額200万円を目標にするように指示し,Hは,同年8月以降の営業月報に,当月の売上目標を200万円と記載して提出した。Hの同年9月の売上実績は218万円余であった。なお,同年冬季の賞与が支給された後の平成19年3月の売上実績は204万円,同年4月の売上実績は160万円であった。
(c)N部長は,平成19年4月ころ,Hの給料,勤務年数からみて月額200万円という売上目標は低すぎるとして,Hに対し,同年5月23日付け書面で,売上目標を月額460万円以上として同年4月の業務月報を再提出するよう通知した。
d 業務上の問題事象
(a)Hは,平成16年1月20日午前8時30分ころ,Hの賞与の減額に抗議したKがQ部長の頸部をつかみ,「お前もやっちゃるけえの」,「告訴しちゃるけえの」などと発言した際,「金払え」,「金払え」などと発言し,Kに加勢した(以下「H16.1.20出来事」という。)。
Hは,同月30日,社長宛てに,H16.1.20出来事は社員としてあるまじき行為であり,社内秩序を乱す行為であったことを反省し,詫びる旨の始末書を提出した。
(乙A34,乙B7)
(b)原告は,平成17年7月ころから,従業員に対し,作業時にヘルメットを着用するように指示していたところ,会長は,同年11月7日午後3時50分ころ,ヘルメットを着用しないで耐圧試験作業をしていたHに対し,ヘルメットを着用するように注意した。これに対し,Hは,他の従業員も着用していないとして抗議した(以下「H17.11.7出来事」という。)。
原告は,HのH17.11.7出来事が,正当な理由なく会長や上長に反抗し,命令を守らなかったときに該当するとして,同月15日付けで,Hを戒告とする旨の戒告書を交付した。なお,この戒告は,原告の就業規則が定める懲戒処分ではない。
なお,原告では,夏場の場内作業は暑く,高温になり,作業能率も悪くなることから,同年8月ころから,作業時にヘルメットを着用する従業員はいなくなっていた。原告は,H17.11.7出来事の翌日,従業員に対し,改めて,作業時にヘルメットを着用することを指示した。
(乙A6,22,乙B3の1・2)
(c)原告では,平成18年4月21日ころから,業務連絡や配送業務の段取り等を話し合う朝ミーティングを行っていた。Hは,朝ミーティングが始まった当初から,その必要性に疑問を抱くとともに,始業時間前に開始されることに不満を抱いており,同年7月以降,朝ミーティングにおいて,顔を下に向け,椅子に浅く腰掛けて後ろの机に片肘を付く姿勢をとるようになった。原告は,N部長らを通じて,Hに対し,上記態度について度々注意していたが,Hが態度を改めなかったため,同年8月8日,朝ミーティングにおけるHの態度が人の話を聞こうというものではなく,注意した後の態度が反抗的で上司に対する態度ではないことを指摘し,今後上記のような態度を改めるよう注意する旨の注意書を交付した。
なお,同日の朝ミーティングにおいて,Hが朝ミーティングが始業時間前に開始されていることなどを指摘したところ,N部長は,翌9日,朝ミーティングを始業時間である午前8時から始める旨を発表した。
(イ)Iの査定に関連する事実関係
a 本件係争年の賞与の査定対象期間(平成17年8月~平成18年11月)におけるIの業務等
Iは,入社後,美祢営業所でリース部門の業務を担当していたが,平成9年11月から平成11年6月までの間,本社及び山口営業所で勤務し,同年7月から,再び美祢営業所でリース部門の業務を担当し,併せて営業部門の応援も命じられていた。
美祢営業所のリース部門における主な業務は,リース機械の配達,修理であり,平成17年5月まではIを含む従業員2人で,同年5月以降はIが1人で,同業務を担当した。
b 業務調査票
Iは,平成17年11月24日,原告の指示に基づき,原告に対して業務調査票を提出した。
同業務調査票には,「毎日の仕事」の欄に「黒板に書いてあるリース機の持込・引取りをする。」,「黒板に書いてある予約分のリース機を準備する。」,「事務所に来る客にリース機の積みおろしをする。」,「リース機や客の機械の整備や修理をする。」,「客にリース機を借りてもらうように営業する。」,「客に商品を購入してもらうように営業する。」,「業務日報を毎日出す。」と,「週でする仕事」の欄に「営業週報を遅れないように出す。」と,「月単位の仕事」の欄に「月末にリース機の在庫を確認する。」と,「年単位の仕事」の欄に「リース機の整備(オイル交換等)の時期を考える。」と,それぞれ記載されていた。
(乙B22の1)
c 勤務状況及び業務成績(平成17年から平成18年までの間)
(a)リース部門の業務一般
Iは,美祢営業所のリース部門の業務については,上司の指示する業務を適正に遂行していた。
(b)リース部門の売上額は,販売部門と異なり,売上げのあった日に必ずしも全ての売上額を把握することができない場合があり,Iも,業務日報の「売上金額」欄にその日の売上額の全てを記載しないことがあった。Iが平成17年8月から平成18年11月までに提出した業務日報に記載されていた売上額を集計すると,別表4の「日報の売上累計」欄記載のとおりであり(なお,このうち「不明」と記載されている箇所は,証拠がないことによるものであるが,0円であったとする証拠もない。),Iの上記期間におけるリース部門及び営業部門の業務に係る売上額は,別表4の「日報の売上累計」欄記載の金額を上回る額であった。
(乙B8の5・6,43,55,乙C4)
d 業務上の問題事象
Iは,平成18年5月22日,所長代理には権限はない旨の記事が掲載された組合ビラ(乙A15)を配布した。同記事には,「所長代理はただの名称」との見出しが付けられ,個人名を特定する記載はないものの,「会社は,『ひら社員』に適当に役名をつけ,(中略)巧みにただ働きをさせています。」,「一部には昇格したと勘違いをして,(中略)指導や指揮・命令する者がいます。」などといった文章が記載されていた。
M所長代理は,同日,Iに対し,「記載された所長代理とは,自分のことであるのか。所長代理を辞めたらいいのか。」などと尋ねた。これに対し,Iは,「自分でそのように思うのであれば,そうだろう。自分で決めたらいいのでは。」と答えた。
U所長は,同月23日,美弥営業所の従業員全員を集めて営業会議を開いた。同会議では,上記組合ビラの記事の内容が話題となり,U所長は,上記組合ビラの記事はM所長代理のことを述べるものであることを前提として,Iに対し,M所長代理は他の従業員の信頼を得て所長代理の職にあるとの認識を示し,I自身に所長代理が務められるか否かを尋ねるなどした。これに対し,Iは,原告から命じられれば所長代理を務めるなどと答えた。
U所長は,同月27日,Iに対し,「あなたは,5月24日の営業会議の中でM所長代理の権限を否定したことは当営業所の方針等を妨害した事となり,協調性に欠けています。営業所の運営に支障が生じることを回避するため今後,このようなことが無いように警告いたします。」と記載された戒告書と題する書面を交付した。
(乙A7)
(ウ)Jの査定に関連する事実関係
a 本件係争年の賞与の査定対象期間(平成17年8月~平成18年11月)におけるJの業務等
Jは,入社後,山口営業所のリース部門において,リース機械の配達,メンテナンス,修理等の業務を1人で担当していた。なお,Jは,手形,小切手を取り扱う集金業務や商品の仕入れ,在庫管理業務を担当したことはなかった。
b 業務調査票
Jは,平成17年11月28日,原告の指示に基づき,原告に対して業務調査票を提出した。
同業務調査票には,「毎日の仕事」の欄に「1.予定を見てリース品の配達,引取」,「2.リース品の入出庫点検,修理」,「3.客先修理品の修理」と,「月単位の仕事」の欄に「在庫チェック」と記載され,「週でする仕事」,「年単位の仕事」の各欄には何も記載されていなかった。
(乙B22の5)
c 勤務状況及び業務成績(平成17年から平成18年までの間)
Jは,上記aのとおり,山口営業所のリース部門におけるリース機械の配達,メンテナンス,修理等の業務を1人で行っており,業務日報を提出していない日においても,当該業務を行っていた。Jが提出した業務日報のうち売上額を記入したものは平成17年2月から同年4月までの3か月分あり,その額は,順に62万円余,156万円余,50万円余であり,これらの1か月平均は約90万円となる。(乙A44,乙B8の4・7)
d 業務上の問題事象
(a)原告は,平成16年9月から,従業員に対し,業務日報の提出を義務付けた。しかし,Jは,業務日報の「売上金額」欄に記載すべき売上額をどのように把握し,記載すればよいのか分からないという理由で,業務日報を提出しなかった。山口営業所では,Jが従事していたリース部門における売上額は,経理事務員が把握していた。
Jは,平成17年1月16日,同年5月9日及び同年7月11日に,O所長から,業務日報を提出しないことについて注意を受けた。Jは,注意を受ける都度,O所長に対し,業務日報の「売上金額」欄の金額の記載方法を尋ねたが,O所長は,具体的な説明をしなかった。
O所長は,平成17年8月23日,Jに対し,未提出の業務日報を3日以内に提出するように求める「業務日報提出について」と題する書面を交付した。Jは,未提出であった業務日報をまとめて提出したが,ほとんどが未記入のものであったため,原告は,同年9月21日付けで,これまでの提出分も含めて整理した上で,3日以内に再度提出することを求め,守られない場合は懲戒の対象になる旨記載した「業務日報提出について」と題する書面を交付した。
Jは,同年9月以降,ほぼ当月中に複数回に分けて業務日報を提出するようになったが,「売上金額」欄については,記載方法が分からないとして,未記入のまま提出した。原告は,同年10月7日付けで,Jに対し,同月15日までに正確な業務日報を提出しない場合には,就業規則に基づき解雇する旨の最後通告をした「通告書」と題する書面を交付した。
組合は,平成19年4月5日に行われた原告との団体交渉において,Jに業務日報の記載方法を説明するよう要求したところ,原告は,同年5月21日,Jに対し,N部長をして,リース部門の売上額の記載方法を説明した。その後,Jは,業務日報に売上額を記載して提出するようになった。
本件で書証として提出されているJが提出した本件係争年に係る業務日報は,平成17年1月から平成18年9月までのものがあるところ,そのうち,平成17年2月から同年4月のものについては,売上額が記載されているが,その余には売上額の記載はない。(甲E6の1~22,7の1~25,8の1~21,乙A5,乙B9,10の1~4,14,33の1~12,37の1~9,乙C2,6)
(b)Jは,①平成14年6月4日,交差点で停車中に脇見をしてブレーキペダルから足が離れ,自車の前に停車中の他車に接触する事故を起こし,②平成16年3月15日,リース品である建設機械を運搬した際,同建設機械のブームをしまい忘れて走行したため,ブーム部分を高架に接触させた事故を起こし,③平成17年4月13日,仮設トイレを運搬した際,上方の有線に気付くのが遅れ,有線を切る事故を起こし,④平成18年3月16日,作業現場から車を運転して出ようとした際,周囲の確認を怠り,車を電柱に接触させる事故を起こした。同事故による被害の程度は,車に接触痕がついた程度であり,損傷箇所の修理等は行われなかった。上記各事故のうち本件係争年の賞与の査定対象期間内のものは④のみであり,これ以外に同査定期間中の事故はない。
(4)平成19年1月の月例賃金に係る査定(平成18年人事考課)の内容等
ア 職能等級及び支給賃金額
(ア)Hら3名
Hら3名の平成18年12月時点の職能等級及び職能給の額は,別表5の「平成18年」欄のHら3名に係る記載のとおりであり,同月の月例賃金額(職能給に年齢給及び勤続給を合計したもの。以下同じ。)は,Hが30万0920円,Iが28万4460円,Jが21万4460円であった。
Hら3名の平成19年1月の月例賃金に係る査定の結果,原告は,Hら3名いずれについても職能等級を下げ,Hら3名の同月の月例賃金は,平成18年12月の月例賃金と比べて減額となった。職能等級が下げられた後のHら3名の職能等級及び職能給の額は,別表5の「平成19年」欄のHら3名に係る記載のとおりであり,月例賃金の減少額は,Hが1万4500円,Iが9150円,Jが8870円である(なお,月例賃金の減額分と職能給の減額分との差額は,本人給の増額分である。)。
(イ)他の従業員
Hら3名以外の組合員でない原告の従業員34人(別表5にA1~A26及びⅠ~Ⅷで表示している者。以下「従業員A1ら34名」という。)に係る平成18年12月時点の職能等級及び職能給の額は,別表5の「平成18年」欄の従業員A1ら34名に係る記載のとおりである。
従業員A1ら34名の平成19年1月の月例賃金に係る査定の結果に基づく職能等級の変動及びその職能給の額は,別表5の「平成19年」欄の従業員A1ら34名に係る記載のとおりであり,職能等級が下げられて職能給が減額になったのは,従業員A1ら34名のうち従業員A2のみである。
(甲E12の1,乙B24,56の1~3,58の1~3,62)
イ 査定の結果
(ア)H
a 人事考課表(賃金)
Hの平成18年人事考課においては,3等級・4等級用の人事考課表(賃金)が用いられた。Hの人事考課表(賃金)(乙B63の1)によれば,1次考課者の評価は,上半期と下半期とで着眼点に関する評価が若干異なっているものの,いずれも成果についてD(50点満点中30点),勤務態度についてC(20点満点中14点),能力についてC(30点満点中21点)であり,考課点は65点,評語はD(特に努力を要する)であった。
また,総合所見欄には,「生産の向上に対しての工夫が無い。」,「日報の書き方が乱雑で人に見てもらうような気持ちを持って記入して欲しい。」,「レベルアップをしようとする意識がない。」,「人の意見を素直に聞く。」と記載されていた。
b 新評価基準書
N部長が作成したHの営業・配送評価基準書には,「知識・人格」欄の1等級から3等級の各区分の評価事項について,上司や同僚との人間関係,営業活動に必要とされる能力に関する複数の評価事項に,達成できていない事項又は今後達成することが望まれる事項であることを意味するチェックが多数付けられており,また,「判断力」欄の3等級の区分内の3つの評価事項のうち2つにチェックが付けられている。
(乙B64の1)
c 関連する事情
人事考課表(賃金)によれば,平成18年上半期の評価項目「成果」中の評価要素「顧客満足」はCと評価されていたが,当時Hが配属されていた耐圧試験場では,顧客に対応する機会はほとんどなかった。また,同評価項目「成果」中の評価要素「部下の育成」と評価要素「リーダーシップ」についてDと評価されていたが,当時,Hに部下はいなかった。
(イ)I
a 人事考課表(賃金)
Iの平成18年人事考課においては,3等級・4等級用の人事考課表が用いられた。Iの人事考課表(賃金)(乙B63の2)によれば,1次考課者の評価は,上半期と下半期とで着眼点に関する評価が若干異なっているものの,いずれも成果についてD(50点満点中30点),勤務態度についてB(20点満点中16点),能力についてD(30点満点中18点)であり,考課点は64点,評語はD(特に努力を要する)であった。
また,総合所見欄には,「努力はするが,仕事の優先順位を考える事」,「行動も機敏さをつける事」,「営業努力をもっとする事,考える事」と記載されていた。
b 新評価基準書
U所長が作成したIの営業・配送評価基準書には,「知識・人格」,「判断力」,「折衝力」,「企画力」及び「指導力」の各欄の3等級~4等級の各区分の評価事項について,達成できていないと評価したことを意味する下線が多数付けられている。他方,Iは,上記各欄の1等級~4等級の各区分の評価事項のほとんどについて,出来ていると考えて,その意味のレ点チェックを付けている。
(乙B64の2,乙C4)
(ウ)J
a 人事考課表(賃金)
Jの平成18年人事考課においては,1等級・2等級用の人事考課表が用いられた。Jの人事考課表(賃金)(乙B63の3)によれば,1次考課者の評価は,上半期は,成果がC(40点満点中28点),勤務態度がD(40点満点中24点),能力がC(20点満点中14点)であり,考課点は66点で,評語はC(努力を要する),下半期は,成果がD(40点満点中24点),勤務態度がD(40点満点中24点),能力がC(20点満点中14点)であり,考課点は62点で,評語はD(特に努力を要する)であった。
また,総合所見欄には,「再三指導している業務日報を遅延なく正確に提出してください。」,「業務に対する改善提案・工夫を積極的に行い,成果向上の努力をして下さい。」,「社員と同じ制服を着用し,清潔感ある服装をして下さい。」,「必要に応じて伝票記入・発行などの事務的処理も行って下さい。」と記載されていた。
b 新評価基準書
O所長が作成したJの営業・配送評価基準書には,「知識・人格」,「判断力」,「折衝力」及び「企画力」の各欄の1等級及び2等級の各区分の評価事項について,達成できていない事項であることを意味するチェックが多数付けられている。しかし,「交通ルールを守り安全運転を心掛けている」との項目にはチェックが付けられていない。また,Jが直接関わっていない商品の在庫管理や高圧ガス販売等に関する項目にも,多数チェックが付けられている。
(乙B64の3)
(エ)その他査定に関して認められる事情(人事考課表(賃金)に関して)人事考課表(賃金)の各評価項目内の各4つの評価要素について異なる水準の評価がされた場合,Hら3名の人事考課表(賃金)においては,一部の例外(Iの「勤務態度」)を除き,上位と下位の評価を与えられた評価要素が2つずつある場合は低い評価に合わせて当該項目全体の評価が与えられ,B以上の評価要素を含む項目についても全体の評価ではC以下の評価しか与えられていない。他方,証拠中にある他の従業員3人(別表5のA22,A19及びA7)の人事考課表(賃金)をみると,上位と下位の評価を与えられた評価要素が2つずつある場合は高い評価に合わせて当該項目全体の評価が与えられ,評価要素ごとに評価にばらつきがある場合は中間位の評価が与えられている。
(乙B63の1~6)
2  争点(1)(Hら3名の本件賞与減額は労組法7条1号の不当労働行為に当たるか)について
(1)本件賞与減額の労組法7条1号にいう「不利益な取扱い」該当性について
ア 前提事実(2)アによると,原告の本件係争年における賞与額の決定は,本件就業規則変更に基づき導入された新査定方法により行われており,これにより定まる考課点の合計に考課係数である5000円を乗じた額が賞与額になっている。Hら3名の本件賞与減額も,本件係争年の賞与の査定結果によるものである。
前提事実(2)ア(イ)bによれば,新査定方法は,評価項目として「意欲・態度」と「業績」という2つの大項目を設け,さらに,「意欲・態度」については,「積極性」,「協調性」,「責任感」,「規律性」,「態度」及び「自主性」という6つの小項目に分け,「業績」については,「仕事の質」,「仕事の量」及び「連絡報告」という3つの小項目に分け,各小項目に2~13個の考課事項を設定し,小項目ごとに0点から10点の考課点を付けるというものであり,考課事項の具体的内容は,別紙3の人事考課表(賞与)のとおりである。
以上の新査定方法は,その内容及び査定事項からすると,個々の従業員によりその結果に差が生じるのが常態のものといえるから,本件賞与減額が労組法7条1号の「不利益な取扱い」というためには,Hら3名に係る本件係争年の賞与の査定が不相当であることが立証されなければならないが,その立証責任は,労組法7条1号の規定に照らすと,被告にあると解される。もっとも,使用者と組合との間にある査定に関する情報量の差を考慮すれば,組合ないし被告が査定の相当性に多大な疑問があることを指摘し,それについて一応の立証がされているのに,原告から的確な査定の相当性についての反証がなければ,上記の立証がされたものと評価し得るというべきである。
イ 賞与額及び査定結果について
前提事実(3)及び上記1で認定した判断の前提となる事実関係(以下「認定事実」という。)(3)ア,イによれば,Hら3名及び従業員A1ら13名の平成13年夏季から平成18年冬季の各賞与額は別表1のとおりであり,同平成16年夏季から平成18年冬季の各賞与の査定結果は別表2のとおりであり,Hら3名の平成17年夏季から平成19年夏季の各賞与の査定結果の内訳は,別表3のとおりである。
これによれば,Hの賞与額については,平成15年夏季賞与までは30万円又は32万円のいずれかであったものが,同年冬季賞与から減額傾向となり,本件係争年の賞与額は,減額が始まる前の同年夏季賞与以前の賞与額と比べて約3分の1の額になっており,以上の最大賞与額と本件係争年中の最少賞与額との差額は24万円である。Iの賞与については,同年夏季賞与までは21万円又は22万円であったものが,同年冬季賞与から減額傾向となり,本件係争年の賞与額は,減額が始まる前の同年夏季賞与以前の賞与額と比べて約4分の3の額になっており,以上の最大賞与額と本件係争年中の最少賞与額との差額は7万円である。Jの賞与額については,平成13年夏季賞与が10万円であった後,同年冬季賞与から平成15年夏季賞与までは15万円又は16万円であったものが,同年冬季賞与から減額傾向となり,本件係争年の賞与額は,減額が始まる前の同年夏季賞与以前の賞与額と比べて約3分の1になっており,以上の最大賞与額と本件係争年中の最少賞与額との差額は10万円である。他方,従業員A1ら13名の賞与額については,平成13年夏季賞与から平成18年冬季賞与にかけて,A3,A4及びA12を除き,いずれも増加ないし横ばいの状態である。A3については,平成13年夏季賞与から平成14年夏季賞与までは20万円を超える賞与額であったが,同年冬季賞与以降10万円台に下がっているものの,平成18年冬季までほぼ横ばいの状態である。A4及びA12については,平成13年夏季賞与から平成18年冬季賞与まで漸減傾向にあるが,その間の最高賞与額と本件係争年中の最少賞与額との差額は4万円である。
以上によると,Hら3名の賞与額は,平成15年冬季賞与から減額が始まり,その後多少の増減がみられるが,低い水準の金額で推移し,本件係争年の賞与額は,それ以前の賞与額や,職能等級を同じくする他の従業員の賞与額と比較して,いずれも相当に低額なものであったということができる。
ウ 査定結果の相当性について
(ア)証拠(甲E4の1,32の1,33の1,35の1,36の1,38の1,52の2~5,53の1~4,54の1~3,63の1,乙B17の41・45・48・57・61・63・71)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,以下の事実は,Hら3名に係る本件係争年の賞与の査定結果の合理性を疑わせるものである。
a H関係
(a)原告は,平成18年夏季賞与の査定対象期間中に生じた賞与減額事由として,Hがヘルメットの着用指示に従わず反抗的な態度をとったことを挙げているが,同賞与の査定における「意欲・態度」中の「協調性」の考課点は,そのような賞与減額事由の指摘がない平成17年冬季賞与の査定における当該評価項目の考課点を下回る数値ではなく,逆に1点から3点に上がっている。
(b)Hの平成18年冬季賞与の査定対象期間における売上額は580万円余り(1月平均約145万円)であり,同年夏季賞与の査定対象期間の売上額192万円余り(1月平均約24万円)を大幅に上回るものであったが,「業績」に関する各評価項目(仕事の質,仕事の量及び連絡報告)の考課点の合計は,どちらも9点が付けられている。
(c)Hは,平成19年夏季賞与の査定対象期間において1616万円余り(1月平均約202万円)の売上額を上げているが,同賞与の査定対象期間における「業績」中の「仕事の量」の考課点は,580万円余り(1月平均約145万円)の売上額であった平成18年冬季賞与の5点から4点に下がっている。
b I関係
(a)Iの平成17年冬季賞与の査定対象期間における売上額は122万円余り(1月平均約30万円)であり,同年夏季賞与の査定対象期間における売上額386万円余り(1月平均約48万円)より相当減少していたが,「業績」中の「仕事の量」の考課点は,どちらも4点で変化はなく,「仕事の質」の考課点は,同年夏季賞与の査定結果が3点であったものが,同年冬季賞与の査定では4点に上がっている。
(b)Iの平成18年夏季賞与の査定対象期間における売上額は266万円余り(1月平均約33万円)であり,平成17年夏季賞与の査定対象期間における売上額386万円余り(1月平均約48万円)を相当下回っていたが,「業績」中の「仕事の量」の考課点は,平成18年夏季賞与の査定結果では,平成17年夏季賞与の査定結果より下がっておらず,逆に4点から5点に上がっている。
(c)原告は,平成18年夏季賞与の査定対象期間中に生じた賞与減額事由として,Iが上司の権限を否定する趣旨の発言をしたことを挙げているが,同賞与の査定における「意欲・態度」中の「協調性」の考課点は,平成17年冬季賞与における3点から4点に,「態度」の考課点は,同賞与における3点から8点にそれぞれ上がっており,「規律性」の考課点は,いずれも3点である。
(d)原告は,Iの平成18年夏季賞与について所長代理の権限を否定する発言をしたという賞与減額事由を指摘している一方,同年冬季賞与の査定対象期間における賞与減額事由は特段指摘していないにもかかわらず,両賞与の「意欲・態度」全体の考課点を比較すると,賞与減額事由が指摘されている同年夏季賞与については24点であるのに対し,賞与減額事由の指摘がされていない同年冬季賞与については18点に下がっている。
c J関係
(a)Jは,平成17年夏季賞与の査定対象期間内に一時的に売上額を記載した業務日報を提出していたのに対し,同年冬季賞与の査定対象期間中は売上額を記載した業務日報を提出していなかったところ,上記両賞与の査定における「業績」中の「連絡報告」の考課点は,同年夏季賞与の0点が同年冬季賞与は1点に上がっている。
(b)原告は,Jの平成17年冬季賞与の査定対象期間における売上額を0円とし,これに対して同年夏季賞与の査定対象期間中には269万円の売上額を認めているところ,上記両賞与の査定における「業績」中の「仕事の量」の考課点は,同年夏季賞与では1点であったものが同年冬季賞与では2点に上がっている。
(c)原告は,Jが,平成18年夏季賞与の査定対象期間において,それ以前から引き続いて適正な業務日報を提出せず,勤務態度の改善がなかったことを指摘しているが,「積極性」,「規律性」及び「態度」のそれぞれの考課点は,平成17年冬季賞与における1点が平成18年夏季賞与ではいずれも2点に上がっている。
(イ)以上の点に関して,原告は,原告における人事考課表(賞与)の考課点のつけ方について,社会保険労務士の指導を受けて,A(10点~7点),B(7点~3点)及びC(3点以下)の三段階評価方式により,客観的かつ公正公平に考課点を付けた旨主張する。
しかし,以下a~dの事情に鑑みると,原告が三段階評価方式により査定をしたとは認め難い。
a 原告は,本件初審事件及び本件再審査事件において,本件係争年の賞与の査定を三段階評価方式によって行った旨の主張及びその立証を全くしていない。
b Lは,新査定方式を導入するについて原告を指導していた社会保険労務士であるが,原告が本件初審事件及び当審で提出したLの陳述書(乙B23,甲E10の1)には,三段階評価方式の存在や内容についても,Lが三段階評価方式を原告の考課者となる者に指導したことについても一切陳述しておらず,当審におけるLの証人尋問においても,労働委員会における審理の際に三段階評価方式の説明がされていないことについて,「私はこの場では分かりません。」と述べている。
c 原告が平成17年夏季賞与の査定に用いた人事考課表(乙B17の29~44),同年冬季賞与の査定に用いた人事考課表(乙B17の45~60),同18年夏季賞与の査定に用いた人事考課表(乙B17の61~74),同年冬季賞与の査定に用いた人事考課表(甲E4の1~3,5の1~9)には,三段階評価方式に沿って査定が行われたことをうかがわせる形跡が全くない。
d Hら3名に係る本件係争年の賞与の査定における1次考課者であった原告申請の証人であるN,同O及び同Uの証言中には,いずれも三段階評価方式についての具体的な説明がない。
なお,付言するに,前提事実(2)ア(ア)によれば,原告は,本件就業規則変更前においても,毎年8月(夏季)と12月(冬季)に賞与を支給しており,賞与の支給額は,会社の業績と従業員の勤務成績を勘案して決定することとしていたこと,平成16年夏季賞与及び同年冬季賞与は,旧評価基準シートを用いて勤務成績を査定し,賞与額を決定したことが認められるが,この両季の賞与額についても,別表1と別表2を比較すると,平成16年夏季賞与のA20(193点,18万円)とA5(180点,22万円),A20(前同)とA7(149点,20万円)のように,考課点の低い者が考課点の高い者よりも高額の賞与を支給されていることが認められ,勤務成績を査定した結果である旧評価基準シートにおける考課点と各従業員の賞与額との間の関連性には疑問が持たれる事情があり,原告における賞与額の決定においては,人事考課ないし勤務成績以外の要素が含まれていることがうかがわれる。
エ Hら3名に係る賞与減額事由の有無について
(ア)Hについて
原告は,Hの賞与減額事由として,①業務調査票の提出態様の不良,②営業成績の不良,③朝ミーティングにおける態度の悪さ,④ヘルメット着用を注意されたことに対する反抗的態度を挙げるので,以下検討する。
a 業務調査票の提出態様の不良について
原告は,従業員から提出させている業務調査票を今後の営業展開を企図するための重要な資料になるものとして扱っているところ,Hが提出した業務調査票は,内容のないものであった旨主張する。
前提事実(2)ウ(イ)及び認定事実(3)ウ(ア)bによれば,原告は,職能給制度を導入する際,従業員に対して業務調査票の提出を求めたこと,Hが平成17年11月24日に原告に提出した業務調査票は,「毎日の仕事」の欄には「会社から指示された通り耐圧検査の仕事を確実に行う事」,「消耗品の節約に努めている」と記載され,「週でする仕事」,「月単位の仕事」及び「年単位の仕事」の各欄には「無し」と記載されたものであったことが認められる。
確かに,同時期に原告に提出された配送や営業の業務に従事していた他の従業員の業務調査票(乙B22の2・4・6)と比較すると,Hの業務調査票は,記載していないのとほぼ同じと評価できるような内容のものであり,一般的にみて,その提出の趣旨にそぐわないものというべきであるから,原告において,査定上,これをマイナス要因として扱うことが不相当とはいえない。
しかし,認定事実(3)ウ(ア)aのとおり,Hは,平成16年8月5日以降,耐圧試験場において,主に高圧ガスボンベの耐圧試験等の検査業務に従事しており,その業務内容は,耐圧試験場に持ち込まれるガスボンベ等の耐圧試験等を行うという受動的で定型的なものであって,営業担当者のように能動的で臨機応変的なものでないことは,原告において当然に認識していたと考えられることからすると,上記の配送や営業の業務に従事していた他の従業員が提出した業務調査票の内容とHが提出した業務調査票の内容との単純比較により,Hの上記態様の業務調査票の提出行為を見過ごすことのできない大きなマイナス要因として評価するのは,相当でないというべきである。
また,原告は,Hは3等級に位置付けられる従業員であるから,「業務に精通し,かつ部下の指導・育成ができる監督職」が期待されていると主張する。
しかし,認定事実(3)ウ(ア)aのとおり,Hは,基本的に1人で耐圧試験場での検査業務に従事していたのであるから,当該業務に従事しているHに対し,部下の指導・育成が特に期待されていたとは認め難く,このことをマイナス要因として評価することは,相当でないというべきである。
以上によれば,Hの業務調査票の提出態様は,問題のないものとはいえないが,賞与減額を必然とする事由として扱うのは相当とはいえない。
b 営業成績の不良について
(a)原告は,Hの営業活動について,実績が上がっておらず,成績が悪い,このことは個人別年度売上額(乙B8の1・2・4・7,甲E15の2)だけを見ても明らかであると主張する。
Hの個人別年度売上額を示す証拠としては,乙B8の1・2・4・7,甲E15の2,35の1があるところ,原告は,このうちの本件係争年の賞与の査定対象期間に含まれる平成17年8月分及び同年9月分の売上額を「本人の記入なし」を理由として0円として処理しているが,それ以外の月の売上実績に照らし,上記処理は採用し難い。それ以外の査定対象期間の売上額については,認定事実(3)ウ(ア)aのとおり,Hは,平成16年8月5日から平成18年8月までの間は耐圧試験場での業務に従事していて,営業を主たる業務とはしていなかったのであり,耐圧試験場での業務内容は上記aで述べた態様のものであるから,同月までのHの個人別年度売上額が耐圧試験業務以外の業務を担当している他の従業員と比較して低額にとどまるのはむしろ当然といえる。さらに,原告は,耐圧試験作業1本当たり1000円の販売実績があったものとする換算方法によりHの売上額を算出しているところ,証人Nの証言によれば,原告が扱うガスボンベには多くの種類があり,それぞれ単価も違うことが認められるところ,そのような多種類の商品を扱う耐圧試験作業の売上額を上記換算方法のように一律1000円とすることの合理性について,納得できる説明がない。したがって,以上の処理及び換算方法により算定されたHの売上額を基にHの営業成績が不良であるとする評価は,採用することができない。
また,Hが本件支援命令を受けた後の営業成績は,平成18年冬季賞与の査定対象期間(同年8月から同年11月)における査定対象となるものであるところ,認定事実(3)ウc(b)のとおり,Hの営業支援が始まった当初,U所長はHに対し,前任のPの売上額である月額200万円を目標にするよう指示したこと,Hは,平成18年9月,上記目標額を上回る月額218万円余の売上額を上げていること,同年10月及び同年11月は,いずれも200万円には届いていないが,順に170万円弱,180万円余の売上額を上げていること,Hは,美祢営業所においては,主に本社で製造した酸素や高圧ガスの納品,管内におけるガスボンベの配達に従事し,営業はあくまで応援として行っていたにとどまるものであったこと,Hは,原告から,いったん本社に出勤してから美祢営業所に赴き,午後5時ころまでには本社に戻るよう指示されていたことから,Hの稼働時間は,美弥営業所に到着する午前9時過ぎから午後4時過ぎに美祢営業所での業務を終えるまでの間であり,他の従業員と比較して短い稼働時間であったことが推認されることからすると,美弥営業所で営業支援業務に従事していた間のHの営業成績が良くなかったとする原告の評価は,採用することができない。
なお,原告は,原告がHについて設定した売上目標額は月額460万円であり,月額200万円という売上目標は低すぎるし,Pよりも多くの成果を期待するのは当然であると主張する。
しかし,原告は,月額460万円がHの売上目標として合理的な金額であることについて,Hの勤務年数や月例賃金額からすれば相当であると主張するにとどまり,証人Nの証言においても,それ以上の説明はないこと,Hが美弥営業所において営業支援を始めた当初,U所長がHに対し,前任のPの売上額である月額200万円を目標にするよう指示したことからすると,原告が設定した上記売上目標額が合理性のある相当なものと解することはできない。したがって,上記売上目標額と比較して重森の営業成績が不良であるとする原告の評価は,採用することができない。
以上によれば,Hの業務成績について,不良であると評価した原告の査定結果を採用することはできないというべきである。
(b)さらに,原告が行ったHに係る本件係争年の賞与の査定のうち営業成績に関係するものをみてみると,Hの平成18年夏季賞与の査定対象期間(平成17年12月から平成18年7月までの8か月間)における原告が把握するHの売上額は192万7000円(1月平均約24万円)であり(甲E35の1,乙B8の7),平成18年冬季賞与の査定対象期間(同年8月から同年11月までの4か月間)における同売上額は580万2383円(1月平均約145万円)であり(甲E15の2,35の1,乙B8の7),後者は前者を大幅に上回っているが,両季の賞与の査定結果は,売上額に関係する評価項目であると考えられる「業績」中の「仕事の質」及び「仕事の量」の考課点の合計はいずれも8点とされている(別表3)。また,平成19年夏季賞与の査定対象期間(平成18年12月から平成19年7月までの8か月間)における原告が把握するHの売上額は1616万9739円(1月平均約202万円)であるところ(甲E35の1),これは平成18年冬季賞与の査定対象期間(平成18年8月から同年11月までの4か月間)における同売上額580万2383円(1月平均約145万円)を相当上回っているが,両季の賞与の査定結果は,売上額に関係する評価項目であると考えられる「業績」中の「仕事の量」の考課点は,平成18年冬季賞与の査定では5点であったのが,平成19年夏季賞与の査定では4点に下がっている(別表3)。これらの事情からすると,原告が把握する売上額と賞与の査定における考課点との間に関連性はないとみざるを得ない。
c 朝ミーティングにおける態度の悪さについて
認定事実(3)ウ(ア)d(c)によれば,朝ミーティングは,平成18年4月21日ころから行われていたものであり,始業時間前から開始され,業務連絡や配送業務の段取り等が話し合われていたこと,Hは,朝ミーティングが始まった当初からその必要性に疑問を抱き,始業時間前から開始されることに不満を抱いており,平成18年7月以降,朝ミーティングにおいて,顔を下に向け,椅子に浅く腰掛けて後ろの机に片肘を付く姿勢をとるようになったこと,原告(N部長)は,Hの上記態度を度々注意していたが,Hが態度を改めなかったため,同年8月8日,同日の朝ミーティングにおけるHの態度が不良であったことなどを理由として,注意書を交付したことが認められる。
確かに,Hの朝ミーティングにおける上記の態度は,一般的にみて好ましいものではなく,これを,査定上,マイナス要因として扱うことが不相当とはいえない。
しかし,Hが朝ミーティングにおいて上記態度をとったことにより,朝ミーティングに支障が生じたことについては何ら主張,立証がないことからすると,Hの上記態度が朝ミーティングの進行自体に影響を及ぼすほどのものではなかったことがうかがわれ,Hの上記態度を見過ごすことの出来ない大きなマイナス要因として評価するのは,相当とはいい難く,Hの上記態度は,問題のないものとはいえないが,賞与減額を必然とする事由に当たるものとして扱うのは,いささか行き過ぎであると解される。
d ヘルメット着用を注意されたことに対する反抗的態度について
(a)認定事実(3)ウ(ア)d(b)によれば,原告は,平成17年7月ころから,従業員に対し,作業時にヘルメットを着用するよう指示していたところ,同年11月7日午後3時50分ころ,会長が,ヘルメットを着用しないで耐圧試験作業をしていたHに対し,ヘルメットを着用するように注意したのに対し,Hは,他の従業員も着用していないとして抗議したこと,原告は,同月15日付けで,Hに対し,Hが正当な理由なく会長や上長に反抗し命令を守らなかったときに該当するとして,Hを戒告とする旨の戒告書を交付したことが認められる。
他方,同認定事実によれば,原告では,夏場の場内作業は暑く高温になり作業効率も悪くなることから,同年8月ころから,作業時にヘルメットを着用する従業員がいなくなっていたことが認められ,会長のHに対する上記注意がされた当時は,このような作業実態にあったことが推認される。そうすると,会長の注意はその内容において正当であるとしても,これに対してHが他の従業員もヘルメットを着用していないとして抗議したことが全く理由のない不当な抗議であるとはいえないこと,Hが,会長に対し,上記の抗議以上に暴言を吐くなどの言動に出たことを認めるに足りる証拠がないことからすると,上記の態様によるHの抗議行為について,Hのみを戒告し,これを賞与減額を必然とする事由として扱うのは,相当性を欠く対応であるということができる。
なお,原告は,Hが起こしたH16.1.20出来事と上記抗議行為とは,Hが原告に対して反抗ないし抵抗する姿勢,態度をとり続けていることを示すものである旨主張する。
しかし,上記両事象の間には約1年半以上の期間があり,また,H16.1.20出来事は,本件係争年の賞与の査定対象期間外の事象であるから,これと関連付けてHの上記抗議行為の賞与減額事由該当性を評価するのは相当とはいえない。
(b)さらに,原告が行ったHに係る本件係争年の賞与の査定のうち業務態度に関係するものをみてみると,平成18年夏季賞与の査定対象期間中に行われたHの上記抗議行為が問題として取り上げられる評価項目であると考えられる「意欲・態度」中の「協調性」の考課点は,平成17年冬季賞与の査定が1点であったものが,平成18年夏季賞与の査定では3点に上がっており,「態度」及び「規律性」の各考課点は,いずれも1点とされている(別表3)。これによると,Hが会長からのヘルメット着用指示に対して抗議したことと査定における考課点との間に関連性はないとみざるを得ない。
e 以上によれば,原告が挙げる上記①~④の賞与減額事由は,Hの本件係争年の賞与の査定において賞与減額事由として考慮する合理的理由となるものではない,又は相当性がないというべきである。
(イ)Iについて
原告は,Iの賞与減額事由として,①営業成績の不良,②業務調査票の提出態様の不良,③M所長代理の権限を否定するような発言を挙げるので,以下検討する。
a 業務成績の不良について
(a)原告は,Iの売上額は別表4の「日報の売上累計」欄に記載の金額であって,これを上回る売上額はなく,MやPの売上額と比較して著しく劣っており,他の従業員の売上額と比較しても同等のものではないと主張する。
しかし,Iの売上額が別表4の「日報の売上累計」欄記載の金額を上回る額であったことは,認定事実(3)ウ(イ)c(b)で説示したとおりである。そして,原告が比較対象としているM及びPは,いずれもIの業務内容とは異なる営業関係の業務に従事していた者であるから,これらの者の売上額とIの売上額とを単純比較してIの業務成績が悪いとする原告の評価は,採用することができない。この点は,その他の従業員との売上額の比較に基づくIの業務成績に係る原告の評価についても,同様である。
また,原告は,仮にIがリース部門の売上額を当日に把握することができない事情があったとしても,把握した時点で速やかに業務日報に記載できたはずであると主張するが,証拠(乙C4)によれば,Iは伝票にリース料金を記入する役割を担当しておらず,必ずしもリース料金を後日把握できるようにはなっていなかったことが認められるから,原告の上記主張は採用できない。
以上の点及び認定事実(3)ウ(イ)a,c(a)によれば,Iは,平成17年5月以降,美祢営業所におけるリース部門の業務を1人で担当し,その主な業務はリース機械の配達,修理であり,上司が指示する業務は全うしていたことが認められることからすると,Iの業務成績が不良であるとする原告の評価は,採用することができない。
(b)さらに,原告が行ったIに係る本件係争年の賞与の査定のうち業務成績に関係するものをみてみると,平成17年夏季賞与の査定対象期間(平成16年12月から平成17年7月までの8か月間)における原告が把握するIの売上額は386万1077円(1月平均約48万円)であり(乙B8の5),同年冬季賞与の査定対象期間(同年8月から11月までの4か月間)における同売上額は122万8850円(1月平均約30万円)であり(乙B8の5,8の6),後者は前者より相当低額になっていたが,両季の賞与の査定結果は,「仕事の量」の考課点はいずれも4点で同じであり,「仕事の質」の考課点は,同年夏季賞与の査定結果では3点であったのが,同年冬季賞与の査定結果では4点に上がっている(別表3)。また,平成18年夏季賞与の査定対象期間(平成17年12月から平成18年7月までの8か月間)における原告が把握するIの売上額は266万6250円(1月平均約33万円)であり(乙B8の6),これは前年同季である平成17年夏季賞与の査定対象期間(平成16年12月から平成17年7月までの8か月間)における同売上額386万1077円(1月平均約48万円)を相当下回っているが,両季の賞与の査定結果は,「仕事の量」の考課点は,平成17年夏季賞与の査定結果では4点であったものが,平成18年夏季賞与の査定結果では5点に上がっている(別表3。この点に関して,Iの1次考課者であった証人Uは,仕事量の考課点が4点から5点に上がったのは,Iの動きが普通よりか多く感じられたというので1点上がっていると思う旨証言しているが,その内容は抽象的かつ曖昧であり,同証言を採用することはできない。)。これらの事情からすると,原告が把握する売上額と賞与の査定における考課点との間に関連性はないとみざるを得ない。
b 業務調査票の提出態様の不良について
Iが原告に提出した業務調査票の記載内容は,認定事実(3)ウ(イ)bのとおりであり,その内容は,Iの業務をほぼ網羅的に記載していると認められるものである。なお,同時期に提出された他の従業員の業務調査票(乙B22の2・4・6)と比較すると,記載内容の量において見劣りがするものであり,原告が望ましいとするレベルには至っていないものであるかもしれないが,上記記載内容をもってIに意欲,自覚がないことが明らかであるとはいい難く,これを賞与減額を必然とする理由にするのは,相当ではないというべきである。
c M所長代理の権限を否定するような発言をしたことについて
(a)原告は,Iが,平成18年5月22日,所長代理には権限がない旨の記事が掲載された組合作成のビラ(乙A15)を配布したことに関して,上司に対して不適切な言動をしたと主張する。
しかし,原告が問題とするIのM所長代理の権限否定発言に関する事実関係は,認定事実(3)ウ(イ)dのとおりである。この事実関係によれば,Iが配布した組合作成のビラは,Mが実質的に所長代理としての権限を有していないことを意味する内容のものと認められるが,Iが,同ビラを配布したことをもって,同ビラの内容の発言をしたとみることはできないし,また,上記事実関係の中で認定されるIの発言内容からは,IがMの所長代理としての権限を否定するような発言をしたものと解することもできない。
したがって,Iの同ビラ配布に関する行為が賞与減額事由に当たるとする原告の主張は,採用することができない。
(b)さらに,原告が行ったIに係る本件係争年の賞与の査定のうち業務態度に関係するものをみてみると,平成18年夏季賞与の査定対象期間中に行われたIの上記行為が問題として取り上げられる評価項目であると考えられる「意欲・態度」欄中の「協調性」の考課点は,平成17年冬季賞与の査定結果では3点であったものが4点に上がっており,「態度」の考課点は,同賞与の査定結果では3点であったものが8点に上がっており,「規律性」の考課点は,同賞与の査定結果と同じく3点とされている(別表3。なお,この点に関して,Iの1次考課者であった証人Uは,平成18年夏季賞与の査定における「態度」の考課点を8点とした理由について,1人でも頑張っていこうという態度がすごく感じられたなどと証言しているが,その内容は抽象的かつ曖昧であり,また,証人Uの上記証言からすると,Iの当該態度は「責任感」の考課においてプラス要因となると考えられるにもかかわらず,同評価項目の査定結果は,平成17年冬季賞与では3点であったものが,平成18年夏季賞与では2点に下がっている(別表3)ことを併せ考えると,同証言を採用することはできない。)。これらの事情からすると,IがM所長代理の権限を否定するような発言をしたことと査定における評点との間に関連性はないとみざるを得ない。
d 以上によれば,原告が挙げる上記①~③の賞与減額事由は,Iの本件係争年の賞与の査定において賞与減額事由として考慮する合理的理由となるものではない,又は相当性がないというべきである。
(ウ)Jについて
原告は,Jの賞与減額事由として,①業務調査票の提出態様の不良,②業務日報に売上額の記載がないこと,③交通事故を再三起こしていることを挙げ,Jは意欲,自覚に欠け,営業成績が不良であると主張するので,以下検討する。
a 業務調査票の提出態様の不良について
原告は,従業員から提出させている業務調査票を今後の営業展開を企図するための重要な資料になるものとして扱っているところ,Hが提出した業務調査票は,内容のないものであった旨主張する。
前提事実(2)ウ(イ)及び認定事実(3)ウ(ウ)bによれば,原告は,職能給制度を導入する際,従業員に対し,業務調査票の提出を求めたこと,Jが平成17年11月28日に原告に提出した業務調査票には,「毎日の仕事」の欄,「1.予定を見てリース品の配達,引取」,「2.リース品の入出庫点検・修理」,「3.客先修理品の修理」と記載され,「週でする仕事」及び「年単位の仕事」の各欄は空欄となっており,「月単位の仕事」には,「在庫チェック」と記載されたものであったことが認められる。
確かに,同時期に原告に提出された配送や営業の業務に従事していた他の従業員の業務調査票(乙B22の2・4・6)と比較すると,Jの業務調査票は,記載していないのとほぼ同じと評価できるような内容のものというべきであるから,原告において,査定上,これをマイナス要因として扱うことが不相当とはいえない。
しかし,認定事実(3)ウ(ウ)aのとおり,Jは,平成12年12月に入社した後,山口営業所のリース部門において,リース機械の配達,メンテナンス,修理等の業務を1人で担当しており,この業務は定型的なものであると考えられることからすると,上記の配送や営業の業務に従事していた他の従業員が提出した業務調査票の内容とJが提出した業務調査票の内容との単純比較により,Jの上記態様の業務調査票の提出行為を見過ごすことのできない大きなマイナス要因として評価するのは,相当でないというべきである。
以上によれば,Jの業務調査票の提出態様は,問題のないものとはいえないが,賞与減額を必然とする事由として扱うのは相当とはいえない。
b 業務日報に売上額の記載がないことについて
原告は,Jが作成した業務日報には売上額の記載がないところ,Jが売上額の記載方法がわからないということはあり得ず,Jが原告を困らせるために意図的に原告の指示に従わなかったものであると主張する。
従業員が業務日報を提出しない,あるいは,提出された業務日報の記載が不十分であることは,当該従業員の業務態様についてマイナス評価すべき要因であるということができる。しかし,認定事実(3)ウ(イ)c(b),(ウ)cによると,Jは,山口営業所のリース部門における業務を1人で行っていたところ,Iが担当していた美弥営業所におけるリース部門の売上額は,販売部門と異なり,売上げのあった日に必ずしも全ての売上額を把握することができない場合があることが認められ,この点は,山口営業所においても同様であると推認できる。そうすると,Jにおいても,1人で担当していた山口営業所におけるリース部門の業務に係る売上額を,必ずしも毎日把握することができない状況にあったということができ,このような状況の下では,Jが業務日報に必ず売上額を記載することは困難であり,また,Jが,後日,売上額を把握したときに,当該売上額をいつの業務日報に記載するのか,当日に把握できる売上額と区別して記載するのかなど色々な問題が考えられ,これらの点が解決しないと業務日報に売上額を記載する方法が定まらないということができる。Jが業務日報の記載方法が分からないというのは,この意味のことをいうものと解することができ,この点は,上記マイナス要因を減弱する事情に当たるというべきである。また,原告が従業員に業務日報の提出を求めた趣旨は,原告において各従業員の売上額を把握することを目的としたものと解されるところ,認定事実(3)ウ(ウ)d(a)によると,山口営業所のリース部門における売上額は経理事務員が把握していたというのであるから,Jの売上額については,Jがその業務日報に売上額を記載するかどうかにかかわらず,原告において業務日報の提出を求める目的は達成されていた状態にあり,経理上の支障はなかったものということができる。そして,Jは,O所長から業務日報を提出しないことについて注意を受ける都度,O所長に対して業務日報の記載方法を尋ねたが,O所長は具体的な説明をしなかったこと,組合が,平成19年4月5日に行われた原告との団体交渉において,Jに業務日報の記載方法を説明するよう要求したところ,Jは,同年5月21日,N部長からリース部門の売上額の記載方法について説明を受け,その後は,業務日報に売上額を記載して提出するようになったことを併せ考えると,Jは,業務日報に記載する売上額の把握及びその記載方法をそれ以前から知っていたにもかかわらず,原告を困らせるため意図的に原告の指示に従わなかったものと直ちに認めることはできない。
なお,認定事実(3)ウ(ウ)d(a)によると,Jは,平成17年2月から同年4月までの3か月間に限って,一時的に売上額を記載した業務日報を提出しているのであるが,証拠(乙C2)によれば,以上の業務日報の提出は,Jが独自に他の従業員に問い合わせをして,当該従業員が行っていた記載の仕方に習って売上額を記載したというものであり,原告から正しい売上額の把握及び記載方法を説明され,これを理解した上で作成したものではないことが認められることからすると,上記の3か月間に売上額が記載された業務日報の提出があった事実から,Jが業務日報の売上額の把握及びその記載方法をそれ以前から知っていたということもできない。
さらに,原告が不良であるとして問題とするJの業務日報の提出態様が問題となると考えられる評価項目である「業績」中の「連絡報告」の考課点をみると,査定対象期間中にJが一時的に売上額が記載された業務日報を提出した時期があった平成17年夏季賞与においては0点であったのに対し,査定対象期間中にJが売上額を記載した業務日報を提出していない同年冬季賞与では1点が付けられている(別表3。この点に関して,Jの1次考課者であった証人Oは,同年夏季賞与においては,提出された業務日報は一部にとどまり,提出期限も過ぎていたので0点としたが,同年冬季賞与については,Jが業務日報を提出する姿勢を示したので期待を込めて1点を付けた旨証言しているが,同年冬季賞与の査定対象期間中の同年8月23日には,原告は,Jに対し,「業務日報提出について」と題する書面(乙B9)を交付して,未提出分の業務日報を3日以内に提出しない場合には懲戒の対象となる旨を予告していることに照らすと,上記証言は不自然であり,にわかに採用し難い。)。このような事情からすると,原告が主張する業務日報に売上額の記載がないことと賞与の査定における考課点との間に関連性はないとみざるを得ない。
c 交通事故を再三発生させていることについて
認定事実(3)ウ(ウ)d(b)によれば,Jは,本件係争年の賞与の査定対象期間中である平成18年3月16日に,原告の業務として自動車を運転中,不注意により物損事故を起こしていることが認められる。Jが同事故を起こしたことは,Jの業務態度ないし業務における規律性の観点において,マイナス要因として扱うことは不相当ではない。
しかし,上記事故は軽微なものであり,Jは,本件係争年の賞与の査定対象期間中にこれ以外の物損事故は起こしていないこと,Jが起こした物損事故は,同査定対象期間以前の3度の物損事故を含めて考慮しても,高頻度のものとまではいい難いことからすると,上記事故が賞与の減額を必至であるとするほどの重大なものとして扱うことができるものとはいえない。
そして,Jは,平成17年冬季賞与の査定対象期間中には物損事故を起こしていないが,平成18年夏季賞与の査定対象期間中である同年3月16日に上記の物損事故を起こしているところ,これが査定上問題となると考えられる評価項目である「意欲・態度」中の「規律性」及び「態度」は,いずれも平成17年冬季賞与の査定では1点であったものが,平成18年夏季賞与の査定では2点に上がっており(別表3),また,Jの1次考課者であったO所長は,Jの月例賃金(職能給)に関する評価基準書(乙B64の3)において,「交通ルールを守り安全運転を心掛けている」の項目に達成できていないことを示すチェックを付けていない(乙B64の3。この点に関して,原告は,1次考課者のO所長は,Jの交通事故歴を評価基準書に記載するのをうっかり漏らしていただけであり,2次考課者においてJの交通事故歴をマイナス評価の対象としたと主張するが,同主張に係る2次考課者による査定の経過を具体的に認めるに足りる証拠はなく,原告の同主張は採用できない。)。これらの事情からすると,Jの上記各事故歴と査定における考課点との間に関連性はないとみざるを得ない。
d 営業成績が不良であることについて
(a)認定事実(3)ウ(ウ)a,cによれば,Jは,原告に入社した後,山口営業所のリース部門において,リース機械の配達,メンテナンス,修理等の業務を1人で行っており,業務日報に売上額を記載していた平成17年2月から同年4月の3か月間には合計269万4900円の売上額(1月平均90万円弱)を上げていたことが認められる。そして,Jの上記業務実態に照らすと,Jがその業務日報に売上額を記載していない月における売上額が0円であったとは考えられず,上記3か月と同等程度の売上額があったものと推認することができる。そして,Jと他の従業員の担当業務が異なることからすると,他の従業員の売上額との単純比較だけで,Jの営業成績が悪かったと直ちにいうことはできない。
(b)さらに,原告は,Jの平成17年冬季賞与の査定対象期間における売上額を0円としているが,売上額に関係する評価項目であると考えられる「業績」中の「仕事の量」の考課点は,その前季の同年夏季賞与における1点より多い2点を付けている(別表3。この点に関して,Jの1次考課者であった証人Oは,仕事ぶり,姿勢等を見て決めたなどと証言しているが,その内容は抽象的かつ曖昧であり,同証言を採用することはできない。)。これによると,営業成績と査定における考課点との間に関連性はないとみざるを得ない。
e 以上によれば,原告が挙げる上記①~③の賞与減額事由は,Jの本件係争年の賞与の査定において賞与減額事由として考慮する合理的理由となるものではない,又は相当性がないというべきである。
オ 以上イ~エの検討によると,Hら3名に係る本件係争年の賞与の査定結果については,その相当性に疑問が持たれるところ,これに対し,原告による査定結果の相当性についての的確な反証はできていない。したがって,原告が行ったHら3名に係る本件賞与減額を来す本件係争年の賞与の査定は不相当というべきであり,本件賞与減額は労組法7条1号の「不利益な取扱い」に該当するものというべきである。
(2)上記(1)で説示したとおり,原告が行った本件賞与減額が不相当なものであり,これについて他に合理的理由を認め得る証拠がないこと,原告とHら3名が所属している組合とは,認定事実(1)のとおり,組合結成後継続的に対立関係にある状態であったこと,Hら3名は組合の役員であることに鑑みると,原告は,Hら3名が組合員であること又はその組合活動を嫌悪し,Hら3名に対して経済的不利益を課す意図に基づいて本件賞与減額を行ったものと認めるのが相当である。
(3)以上によれば,原告がHら3名について本件賞与減額をしたことは,労組法7条1号の不当労働行為に該当するというべきである。
3  争点(2)(Hら3名の本件賃金減額は労組法7条1号の不当労働行為に当たるか)について
(1)本件賃金減額の労組法7条1号にいう「不利益な取扱い」該当性について
ア 前提事実(2)イによれば,本件就業規則変更により導入した原告の賃金体系は,職能給制度を主として,これに年齢給及び勤続給を合計したものを支給するというものである。原告が導入した職能給制度の内容は,前提事実(2)イ(イ)のとおりであり,新たに定めた人事考課規程に基づいて1年ごとに,目標達成度,量的考課及び質的考課を考課項目とする業績考課と仕事に取り組む姿勢・規律性,協調性,積極性及び責任感を考課項目とする態度考課により人事考課(定期評価)を行い,その結果に基づいて,従業員全員をその能力に応じて6階級ある職能等級に格付する(決定及び変更)というものである。考課の対象期間は1年であり,1月1日から6月30日までの上半期と7月1日から12月31日までの下半期に区分して,それぞれの期間ごとに1次考課者が評価項目の評価をした結果を記載した人事考課表(賃金)が考課の資料となる。
以上のとおり,職能等級の格付は,従業員の成果,態度等を考課した結果に基づいて定められるものであることからすると,個々の従業員により格付結果に差が生じるのが常態のものであるといえるから,本件賃金減額が労組法7条1号の「不利益な取扱い」といえるためには,Hら3名の本件賃金減額に係る人事考課が不相当であることが立証されなければならないが,その立証責任については,上記2(1)アで説示したことがそのまま妥当するものと解される。
イ 賃金額について
Hら3名の本件賃金減額の内訳は,前提事実(4)のとおりであるところ,これは,平成19年1月時点でそれぞれの職能等級の号俸が下げられ,同月の月例賃金のうち職能給が減額されたことにより生じたものである。そして,認定事実(4)アによれば,Hら3名及び従業員A1ら34名の平成18年12月時点及び平成19年1月時点の各職能等級及び職能給の額は,別表5記載のとおりである。
これによれば,Hら3名及び従業員A1ら34名のうち平成19年1月時点で職能等級の号俸が下げられ,同月の月例賃金が減額になったのは,Hら3名を含む4人しかおらず,しかも,Hら3名の減額幅が他の1人のそれより大きいものである。
ウ 人事考課の相当性について
証拠(乙B62)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,乙B62の職能給表に定める内容で従業員の職能等級を定めていることが認められるが,どのような基準で従業員の職能等級が変更されるかについては,原告から具体的な主張,立証はない。そして,証拠(甲E9,乙B63の1~6)によれば,以下の事実が認められ,以下の事実は,Hら3名に対する本件賃金減額における人事評価の結果の合理性を疑わせるものである。
(ア)Hについて
Hの平成18年人事考課の結果は,認定事実(4)イ(ア)のとおりであり,証拠(乙B63の1)によれば,上半期及び下半期ともに,業績に関する評価項目である「成果」中の評価要素「顧客満足」はSからDまでの5段階の評価のうちC評価とされ,「部下の育成」及び「リーダーシップ」はいずれもD評価とされている。
しかし,上記2(1)エ(ア)bで説示したとおり,平成18年人事考課の査定対象期間である同年中のHの業績が特に悪かったとは認められない。また,認定事実(3)ウ(ア)aのとおり,Hは,平成18年上半期の間は部下のいない耐圧試験場で業務を行っていたこと,同業務では顧客と対応する機会がほとんどないことからすると,この間における上記評価要素に対する評価結果の適正さには疑問が持たれる。
この点について,Hの1次考課者であるN部長は,本件再審査事件での証人尋問(乙C6)及び当審での証人尋問において,重森について,昼休み等勤務時間外で同僚に対する指導ができていないと評価した,同じ敷地内にいる他の従業員に対するアドバイスができて当然であるにもかかわらず,アドバイスを全くしなかったことに対する評価である旨証言しているが,部下でない他の部署にいる従業員に対して業務上の指導等を行うことがHに求められる理由は通常ないと考えられること,勤務時間外における他の従業員への対応を査定対象とすることは相当とはいえないことなどを考慮すると,Nの上記証言内容は,Hに係る上記評価結果の適正さを裏付けるものとはいえない。
(イ)Iについて
Iの平成18年人事考課の結果は,認定事実(4)イ(イ)のとおりであり,証拠(乙B63の2)によれば,上半期及び下半期ともに,業績に関する評価項目である「成果」中の評価要素「部下の育成」及び「リーダーシップ」のいずれもD評価とされている。
しかし,上記2(1)エ(イ)aで説示したとおり,平成18年人事考課の査定対象期間である同年中のIの業績について,他の従業員の業績と単純比較して悪いと評価することができないこと,I自身の業績についても,少なくとも不良であると評価することはできないものであることが認められる。また,認定事実(3)ウ(イ)aのとおり,Iは,平成18年中は美弥営業所のリース部門の業務を1人で行っていたことからすると,この間における上記評価要素に対する評価結果の適正さには疑問が持たれる。
(ウ)Jについて
a Jの平成18年人事考課の結果は,認定事実(4)イ(ウ)のとおりであり,証拠(乙B63の3)によれば,上半期と比べて下半期の評価が下がっている評価要素は,「成果」中の「計画性」(B→C),「整理整頓」(C→D),「勤務態度」中の「協調性」(A→B),「能力」中の「管理」(B→C)があり,上半期及び下半期ともに,「勤務態度」中の「清潔感」及び「能力」中の「事務処理」はいずれもD評価とされており,総合所見欄に,服装に関して,「社員と同じ制服を着用し,清潔感ある服装をして下さい。」と記載されている。
しかし,上記の評価の低下の原因事実については,具体的な主張,立証がない。Jの服装に対する低評価については,証人Oの証言によると,Jは,原告から新しい青色の作業着が支給されたのに,それまでに支給していたねずみ色の作業着を着用し続け,O所長から,新しい作業着を着用するよう指導されたが,これに従わなかったという点を問題にしたものであることが認められるが,Jが着用していた作業着は,原告支給の作業着であったというのであるから,そのこと自体が原告にとって不都合なものとは考え難く,この点をもって低評価をするのは相当とはいえない。
b 原告は,Jが,業務日報の記載方法がわからないとしてこれを提出しなかったことや未記入で提出した事実から,職場でのコミュニケーション能力や積極性の欠如を推認できると主張する。
しかし,証拠(乙B63の3)によれば,Jの平成18年人事考課における人事考課表(賃金)の評価項目「勤務態度」中の評価要素「協調性」は,上半期がA評価,下半期がB評価となっており,総合所見欄にも,他の従業員との協調性に関する指摘はないことが認められる。以上の事情は,Jのコミュニケーション能力と人事考課表(賃金)の評価との間に関連性がないことをうかがわせるものであり,上記主張事実をもって低評価を裏付ける根拠とすることはできない。
c 証拠(乙B64の3)によれば,Jの人事考課表(賃金)における考課の資料となるJの評価基準書には,Jが達成できていない事項として,高圧ガス販売主任者(1種及び2種)の資格にチェックが付けられていることが認められ,これが低評価の理由の1つにされているものと推認される。
しかし,Jは,上述のとおり,リース機械の配達,修理等の業務に従事していた者であって,同業務を行うについて上記資格を有することを必要とするものではないから,同資格を有していないことを低評価の理由とすることは相当ではない。この点について,Jの1次考課者であるO所長は,当審における証人尋問において,原告は高圧ガスの販売を主な業務としているので,上記の項目がJの業務と無関係であるというのはおかしいなどと証言するが,同証言内容は,Jにおいて上記資格を有する必要性があることの理由になるものではない。
(エ)その他
人事考課表(賃金)において,各評価項目内の4つの評価要素に関して異なる評価がされた場合に,全体評価がどうなるかについて,Hら3名の各人事考課表(賃金)では,Iの人事考課表の「勤務態度」の項を除いて,上位と下位の評価を与えられた評価要素が2つずつある場合には,下位の評価に合わせて当該項目全体の評価が付けられ,B以上の評価要素を含む項目についても,全体としてはC以下の評価が付けられている。
他方,Hら3名と対比する趣旨で提出されている他の従業員の人事考課表(賃金)をみると,上記と同様の評価をした例が1例あるものの,それ以外は,上位と下位の評価が与えられた評価要素が2つずつある場合には,上位の評価に合わせて当該評価項目全体の評価を付けられ,評価要素ごとにばらつきがある場合には,中間位の評価が付けられている。
以上のとおり,Hら3名とその余の従業員との間では,評価項目全体の評価の仕方が異っている。
エ 以上イ及びウの検討によると,Hら3名の本件賃金減額に関する人事考課の内容については,その相当性に疑問が持たれるところ,これに対し,原告による人事考課の内容の相当性についての的確な反証はできていない。したがって,原告が行ったHら3名に係る本件賃金減額を来す平成18年人事考課は不相当というべきであり,本件賃金減額は労組法7条1号の「不利益な取扱い」に該当するものというべきである。
(2)上記(1)で説示したとおり,原告が行った本件賃金減額が不相当なものであり,これについて他に合理的理由を認め得る証拠がないこと,原告とHら3名が所属している組合とは,認定事実(1)のとおり,組合結成後継続的に対立関係にある状態であったこと,上記2で説示したとおり,Hら3名に係る本件係争年の賞与の査定が労組法7条1号の不当労働行為に当たると判断されるものであることに鑑みると,原告は,同査定に引き続いて行われた関係にある本件賃金減額についても,Hら3名が組合員であること又はその組合活動を嫌悪し,Hら3名に対して経済的不利益を課す意図に基づいて行ったものと認めるのが相当である。
(3)以上によれば,原告がHら3名について本件賃金減額をしたことは,労組法7条1号の不当労働行為に該当するというべきである。
第5  結語
以上によれば,原告のHら3名に対する本件賞与減額及び本件賃金減額がいれも労組法7条1号の不当労働行為に該当するとした本件命令における中労委の判断は相当であり,当該不当労働行為に対して本件命令が命ずる救済の内容(別紙1)も相当であるというべきである。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 伊良原恵吾 裁判長裁判官青野洋士は転補のため,裁判官鈴木理紗は差し支えにつき,署名押印することができない。裁判官 伊良原恵吾)

 

〈以下省略〉

 

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