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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(22)平成30年 3月26日 東京地裁 平27(ワ)35367号 弁護士報酬請求事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(22)平成30年 3月26日 東京地裁 平27(ワ)35367号 弁護士報酬請求事件

裁判年月日  平成30年 3月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)35367号
事件名  弁護士報酬請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2018WLJPCA03268008

要旨
◆被告から遺産分割調停申立事件等を共同受任した弁護士である原告X1ないし原告X3が、原告らの責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、被告により本件各委任契約を解除されたなどと主張して、被告に対し、それぞれ弁護士報酬等の支払を求めた事案において、本件各委任契約の解除について、原告らの責めに帰すべき事由は認められないとしたが、被告が本件各委任契約の終了という条件成就を妨害するために故意に同各委任契約を解除したとか、故意又は重大な過失により委任事務処理を不能にするなど重大な責めに帰すべき事由があるなどということもできないとし、また、本件各委任契約における本件中途報酬規定を有効とした上で、減額した着手金分を報酬支払時に加算する旨の合意に係る原告らの主張を否定する一方、遺産分割審判移行時に生じた新たな着手金の額を算定するとともに、着手金以外の報酬金の算定については本件各委任契約書記載の報酬算定方法によるものとして、原告らの事務処理の程度に応じた各報酬額を算定するなどし、請求を一部認容した事例

参照条文
民法130条
民法643条
民法648条
消費者契約法9条

裁判年月日  平成30年 3月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)35367号
事件名  弁護士報酬請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2018WLJPCA03268008

東京都足立区〈以下省略〉
原告 X1
広島市〈以下省略〉
原告 X2
同所
原告 X3
原告X2及び原告X3訴訟代理人弁護士 X1
広島市〈以下省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 杉田誠
同 寶田圭介
同 榊原新也

 

 

主文

1  被告は,原告X1に対し,159万3735円及びこれに対する平成27年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告は,原告X2及び原告X3に対し,141万5295円及びこれに対する平成27年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4  訴訟費用中,原告X1に生じた費用はこれを3分し,その1を同原告の,その余を被告の負担とし,原告X2及び原告X3に生じた費用は,それぞれ5分し,そのそれぞれ2を各原告各自の,その余をいずれも被告の負担とし,被告に生じた費用はこれを47分し,その30を被告の,その8を原告X1の,その余を原告X2及び原告X3の負担とする。
5  この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告は,原告X1(以下「原告X1」という。)に対し,243万9738円及びこれに対する平成27年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告は,原告X2(以下「原告X2」という。)及び原告X3(以下「原告X3」という。)に対し,226万1298円及びこれに対する平成27年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,被告から遺産分割調停申立事件等を共同受任した弁護士である原告らが,原告らの責めに帰すべき事由がないにもかかわらず,被告により委任契約を解除されたなどと主張して,被告に対し,それぞれ弁護士報酬(原告X1は,委任事務処理費用も含む。)及びこれらに対する委任契約解除日の後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1  前提事実
(1)  原告らは,弁護士である。
従前は3名とも広島県弁護士会に所属し,原告X2及び同X3の肩書地であるa法律事務所に勤務していたが,その後原告X1が独立して東京都内に同原告の肩書地であるb法律事務所を開いたことから,現在は,原告X1が東京弁護士会,原告X2及び同X3は広島県弁護士会に所属して,それぞれ弁護士として活動している。(争いがない,弁論の全趣旨)
(2)  被告(昭和31年○月○日生)は,A(以下「A」という。)及びB(以下「B」という。)の夫婦の間の二男である。
Aは,遺言を残すことなく平成19年9月25日に死亡し,同人の相続が開始した。
Aには,被告のほかに,長男であるC(昭和26年○月○日生。以下「C」という。),長女であるD(昭和42年○月○日生。以下「D」という。)の2人の子がおり,法定相続人は,B,C,D及び原告の4名である。(以上,争いがない,甲4)
(3)  Aには,遺産として,別紙遺産目録記載の資産(ただし,評価額部分は除く。)があった。
そのうちの不動産には,「cビル」という名称の共同住宅の共有持分(広島市〈以下省略〉所在の区分所有建物。以下,その敷地権地上権も含めて,単に「本件建物」という。)があった。(以上,甲11)
本件建物は,もともとはAが持分1億分の6889万4710,同人が経営していた株式会社d(以下「d社」という。)が1億分の3110万5290をそれぞれ有していたところ,そのAの持分の10分の1につき,平成18年12月11日付け売買を原因としてd社への所有権移転登記手続がされた結果,Aの持分は,登記上,1億分の6200万5239となっていた。(甲4)
(4)  D及びBは,自己のAからの相続分について,平成20年1月11日及び同月29日に,いずれもその全部をCに譲渡する旨の譲渡証書を作成した。(甲32,甲37)
(5)  被告は,平成20年4月18日,Cを相手方として遺産分割調停を申し立てたものの,その前提問題として,本件建物のAの持分割合を巡って,上記(3)のd社への売買の有効性に争いがあり,また,上記(4)のDによる相続分譲渡の有効性にも争いがあったことから,まずはそれらの前提問題に関する紛争を確定すべく,平成21年12月4日にこれを取り下げた。(弁論の全趣旨)
なお,この調停の間,Bは,平成20年6月20日,自己の所有不動産のうち被告の自宅土地建物の持分を被告に相続させ,被告に対する貸金債権を免除ないし遺贈するほかは,その余の自己の財産の全てをCに相続させる旨の公正証書遺言を残し,平成21年2月2日に死亡した。(争いがない,乙10)
被告は,上記遺言が遺留分を侵害するものであるとして,Cに対し,平成21年3月28日,遺留分減殺の意思表示をした。(甲40,甲41)
(6)  被告は,平成22年4月8日頃,広島地方裁判所に対し,C及びDを被告として,以下の請求の趣旨を掲げる訴えを提起した(広島地方裁判所平成22年(ワ)第706号。以下「無効確認訴訟」という。)。(甲4)
ア 原告と被告らの間において,CとDとの間のAの相続分に係る譲渡契約(上記(4))が無効であることを確認する。(被告Dの要素の錯誤を理由とするもの)
イ 原告と被告らの間において,Aとd社との間の本件建物に係るAの持分10億分の6889万4710の共有持分の売買契約(上記(3))が無効であることを確認する。(賃借人である広島駅南口開発株式会社(以下「南口開発」という。)に無断で行われたことを理由とするもの)
ウ Cは,被告に対し,1492万4637円及びこれに対する年5分の割合による遅延損害金を支払え。(相続不動産に由来する賃料収入等のうち,被告が相続により取得した持分及びCに対する遺留分減殺請求により取得した持分に対応する額の支払を求めるもの)
エ Cは,被告に対し,平成24年1月1日から被告とC及びDとの間においてAに係る遺産分割が確定するまで,1か月29万3478円及びこれらに対する各月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払え。(根拠はウ同様であるが,将来給付を求めるもの)
(7)  被告は,当初,E弁護士(以下「E弁護士」という。)を訴訟代理人として無効確認訴訟を追行していたが,同人は平成23年8月1日頃に辞任した。(乙9)
(8)  被告は,原告らに対し,平成23年8月19日,E弁護士の後任として無効確認訴訟を委任するほか,遺産分割調停申立事件も委任することとし,原告らと被告は,平成23年8月19日付けで,b法律事務所に所属する原告X1と,a法律事務所に所属する原告X2及び同X3らとで,事務所ごとに1通ずつ,2通の委任契約書を作成して,委任契約を締結した。(以下,この各委任契約書を「本件各委任契約書」といい,これにより締結した各委任契約を「本件各委任契約」という。)
本件各委任契約書には,次のような記載がある。
なお,以下のイ①の着手金のうち各26万2500円(合計52万5000円)は支払済みである。
ア 1条において,「事件等の表示」として,相手方をCとする,広島家庭裁判所における遺産分割調停事件と記載され,「受任範囲」の事件種ごとのチェックボックスのうちの「調停」にチェックがされ,「審判」にはチェックがされていない。
イ 2条において,「弁護士報酬」として,原告らの弁護士報酬基準に定めるもののうち,以下の①ないし③のとおり選択し,金額ないし算定方法を合意した旨の記載がある。
① 着手金
(法律事務所ごとに)26万2500円(消費税込み)とし,特約なき場合は委任のときに一括払する。
なお,各法律事務所の着手金の基本料金は,被告の得る経済的利益が,300万円以下のときは,その8.4%,300万円から3000万円のときは,その5.25%+9万4500円,3000万円から3億円のときは,その3.15%+72万4500円である。
本件が上訴等により受任範囲とは異なる手続に移行したときは,原則として新たな着手金が発生することを確認する。
② 報酬金
その算定方法は,被告の得た経済的利益が,300万円以下のときはその16.8%,300万円から3000万円のときはその10.5%+18万9000円,3000万円から3億円のときは,その6.3%+144万9000円(ただし,法律事務所ごとにその2分の1ずつ)とし,本件の処理の終了したときに支払う。
上記「着手金の基本料金」に照らして減額した着手金分の加算あり。
③ 旅費・日当(ただし,原告X1との間の委任契約のみ)
出張日当を5万2500円とし,旅費は日当に含めない。旅費日当を予納しなかった場合は,その都度支払う。
ウ 原告らは,被告から本件の事務遂行に必要な事実の調査・報告,その他の事項を求められた場合には,迅速かつ誠実にこれに応じなければならない。(6条)
エ 原告と被告らは,やむを得ない事情のあるときは,本委任契約を解除できる。
本委任契約に基づく事件等の処理が,解任,辞任又は継続不能により中途で終了したときは,原告らの処理の程度に応じて精算を行うこととし,処理の程度についての原告及び被告らの協議結果にもとづき,弁護士報酬の全部若しくは一部の返還又は支払を行う。(9条又は11条。以下,この約定を,「本件中途報酬規定」という。)
オ 原告らと被告は,原告らの弁護士報酬基準の説明に基づき本委任契約の合意内容を十分に理解したことを相互に確認し,その成立を証するために本契約書を2通作成し,相互に保管する。(以上,甲3の1・2)
(9)  原告らは,被告を代理して,平成23年12月21日,A及びBの遺産について,それぞれC及びDを相手方として,遺産分割調停を申し立てた(広島家庭裁判所平成23年(家イ)第1937号,同第1938号)。(争いがない,甲30,甲31,乙2の1,乙11)
Bの遺産に係る遺産分割調停は,平成24年8月10日に取下げにより終了した。(乙11)
Aの遺産に係る遺産分割調停は,平成24年8月9日に調停不成立となって審判に移行した。(平成24年(家)第1305号。争いがない,乙2の1ないし3)
(10)  平成24年12月11日,無効確認訴訟の第1審判決が言い渡された。
その内容は,上記(6)アの相続分譲渡無効確認請求と,エの将来給付の請求は,いずれも訴えの利益がないものとして却下し,同イの請求は,無効原因がないものとして棄却し,同ウの賃料収入等の現在給付の請求は,その一部を認容するというものであった。
無効確認訴訟はその後双方から控訴の提起がなく確定し,同訴訟に係る原告らと被告との訴訟委任契約については,着手金,報酬金及び委任事務処理費用等の精算が完了した。(以上,争いがない,甲4)
(11)  原告らは,原告X1及び同X2を中心に,Aの遺産分割審判の手続において,平成24年10月18日から平成26年12月9日までの計4回の審判期日に出頭するなどして,代理人として活動した。(甲28の1から4まで)
ところで,被告は,Aの遺産のうちの本件建物のA共有持分について,法定相続分である6分の1を超える4分の1を共有分割により取得することを一貫して希望していた。
被告は,平成26年10月14日の第3回審判期日において,家事審判官より,「希望する遺産を取得した場合及び取得できない場合の遺産分割案」を提出するよう指示を受けた。(甲28の3,乙4の3)
この審判期日の後,被告は,遺産分割審判において本件建物のAの持分の4分の1の取得を諦め,法定相続分6分の1の限度で取得した上で,別途,BのCに対するA相続分の譲渡(生前贈与)について,遺留分減殺請求訴訟を提起することにより,BがAから相続した本件建物のA持分の2分の1に被告の遺留分割合6分の1を乗じた12分の1を取得し,結果的に,合計して本件建物のA持分の4分の1を取得することができるのかどうかに関し,同日付で,「遺留分の物件選択権について」という件名の,以下のメール(以下「本件メール」という。)を,原告X1及び同X2に宛てて送信した。(甲19の1)
「遺留分についての判例を見つけたので,確認して下さい。やはり,遺留分権者には,物件を選択する権利はないようです。いうことは,今回の審判で4分の1を請求しないと,遺留分減殺請求権(12分の1)の裁判と審判(6分の1)とを足して,4分の1になるとは限らないと言うことになります。cビルの経過については,今週の土日で作成する予定です。取りあえず,簡単に報告まで」
このメールには,受遺者又は受贈者が,遺留分減殺の対象とされた贈与又は遺贈の目的である各個の財産について,民法1041条1項に基づく価額弁償をすることができると判示した最高裁平成11年(受)第385号同12年7月11日第三小法廷判決・民集第54巻6号1886頁の判決書の文面が添付されていた。(弁論の全趣旨)
これに対し,原告らは,何らの応答もしなかった。(争いがない)
(12)  被告は,第5回審判期日として指定された平成27年3月4日が迫っていた同年2月16日,原告X1及び同X2に対し,本件各委任契約を解除したい,ついては,翌17日か18日にa法律事務所において原告X2と面談をし,その際辞任届の写しと裁判資料を受け取りたいとの電子メールを送信した。(甲14の1)
その解任の理由として,被告は,①Bの遺留分についての本件メールに対し,その後原告らから何の説明もなく,かつ,将来Cに対する遺留分減殺請求訴訟を提起したときに,本件建物のAの持分12分の1を登記できることを示す判例をもらえなかったこと,②Aの一次相続に係る遺産分割が済む前にBの二次相続に関して遺留分減殺請求訴訟を提起することができるにもかかわらず,これを放置していること,以上により,このままでは裁判に10年以上かかるし,本件建物のA持分のうちの4分の1を取得できるかどうかもわからないこと,などを挙げた。(甲14の1)
(13)  被告からの上記メールを受け,原告X1は,原告X2は翌17日も18日も都合がつかないので,面談の日程は再度原告X2から連絡する旨を伝え,併せて,書類等の返還は,弁護士報酬等の支払後になることを伝えた。(甲18の1)
その後,原告X1は,翌18日,同月25日にa法律事務所で面談を設けられないかと連絡したところ,被告は同日午後6時半頃に訪問する旨返答した。(甲18の3,甲14の3)
(14)  ところが,被告は,同月25日に予定されていた面談の2日前に至って,代理人弁護士を通じて,改めて委任契約を解除する旨の通知書を原告らに送付した。(甲15の1)
これを受けた原告X1は,予定されていた面談をどうするのかを被告の代理人に尋ねたところ,被告の代理人は面談の中止を要請した上で,同月27日,解任理由を記載したファックス文書を送信した。(甲15の2・3,甲16の1)
上記ファックス文書には,解任の理由として,被告は,広島駅南口の再開発事業を担当していた経緯があること及び収益物件として魅力的であることから本件建物のA持分の4分の1の取得を強く希望していたところ,原告らが,遺留分減殺請求訴訟においてA持分の12分の1を取得できるとの誤った法的知識に基づく助言を行い,被告がこの点に疑問を投げかけたにも関わらず取得できる旨を断言した。そして,被告から本件メールにより受遺者の物件選択権に関する判例を示されて誤りを指摘されたのであるから,本来であれば,謝罪の上で受遺者の物件選択権を前提とした審判の追行をすべきであったのに,自らの無知を棚に上げて被告を無視し続けた結果,重要視している本件建物の持分取得に関し,誤って譲歩する危険にさらされた,などと指摘されていた。
(15)  原告らは,被告の最終的な意向を確認した上,同年3月2日,広島家庭裁判所に辞任届を提出した。(甲16の3)
原告X1は,平成26年10月13日及び同年12月9日の審判期日の日当及び旅費として17万8440円を支出していたが,未精算である。(甲20,弁論の全趣旨)
(16)  被告は,F弁護士及びG弁護士(以下「後任代理人ら」という。)を原告らの後任として,Aの遺産分割審判を委任した。(甲2,乙7,弁論の全趣旨)
後任代理人らは,上記のとおり予定されていた平成27年3月4日の第5回審判期日を含めて,平成28年4月22日の第12回審判期日まで審判期日に出頭し,代理人として主張立証活動をした結果,同年5月頃に遺産分割審判がなされるに至った。(乙18の1から8まで,弁論の全趣旨)
2  争点及び当事者の主張
本件の争点は,本件委任契約に基づく報酬請求権(着手金及び成功報酬を含む。)が発生しているか否か及びその額であるが,詳細を述べれば,次のとおりである。
(1)  本件各委任契約の解除について,原告らの責めに帰すべき事由があるか(争点1)
(被告の主張)
本件各委任契約は,法令精通義務及び説明義務違反という原告らの責めに帰すべき重大な事由があったために,原告らに対する信頼を失くした被告がこれを解約したものである。したがって,民法648条3項により,本件の報酬請求は認められない。
すなわち,弁護士は,事件の処理に当たり必要な法令等の調査を行い,それらについて精通しておくべき法令精通義務があり(弁護士法2条,弁護士職務基本規程7条及び37条1項),また,その高度な専門的知識に基づき,依頼者に対して,正確な法的助言を含め,適切に弁護士業務を行う義務を負っている。
しかるに,被告は,A及びBの相続を通じて本件建物のAの持分の4分の1を取得することを強く要望していたところ,平成26年10月14日の第3回審判期日において,家事審判官から,本件建物のAの持分4分の1を取得する案以外の別の分割案を示すよう指示を受けたことから,同日,広島家庭裁判所のロビーにおいて,原告X1及び同X2に対し,Aの相続により本件建物の同人の持分のうち法定相続分である6分の1を取得し,かつ,BがCに対して譲渡したAの相続分について,遺留分減殺請求訴訟を提起することにより,Bの相続したAの持分のうち12分の1を取得することで,結果的に,本件建物のAの持分の4分の1を合計で取得することが可能かどうか尋ねたところ,原告X2は,本件建物は賃貸物件だから遺留分で取れると回答し,被告が,遺留分で必ずしも物がとれるとは限らないという税務判例を見たことがあるとの趣旨を述べたところ,原告X2は,そのような判例があるなら見せて欲しいと述べた。
そして,被告は,その日のうちに,原告X2の説明が誤っていることを示す判例を添付した本件メールを送信したにも関わらず,原告らはこれに対して何の回答もしなかったばかりか,遺留分減殺請求に対しては,受贈者の立場にあるCから価額賠償の抗弁が主張されることが十分予想され,この抗弁は被告の最大の関心事である本件建物の持分取得に直接かかわるものであるにもかかわらず,価格弁償の抗弁を主張された場合の帰趨について何の回答もしなかった。このように,原告らは,弁護士であれば当然把握している知識について法令精通義務及び説明義務を怠り,これを被告が指摘しても,何らの説明も謝罪もしなかった。
また,原告らは,Bが一部を除き一切の財産をCに相続させる旨の遺言書を残している以上,Bの遺産についての遺産分割調停を申し立てる合理的な理由はないことから,遺留分減殺請求訴訟を提起することが当然選択肢として浮かぶところであるはずであり,かつ,被告が,Aの一次相続に係る遺産分割が終わらない限りBの二次相続に関する遺留分減殺請求訴訟の提起が不可能であるとの誤った理解を示していたにもかかわらず,遺留分減殺請求訴訟の提起が可能であると告げることなく,無意味にBの相続に関する紛争を遅延させた。このように,遺留分減殺請求訴訟の提起の可否についての説明義務も怠った。
(原告らの主張)
遺留分減殺請求により本件建物のAの持分の12分の1が取得できるか否かについての説明義務違反等をいう点に関しては,そもそも第3回審判期日の後に,その取得を断言するような説明をしたことはなく,このときは,遺留分減殺請求の基本的効力,減殺の順序,不動産の場合には持分移転登記請求を求めることになり,判例でもそのような請求が認められた事例は存在することなど一般的な事項を伝えたにすぎず,その際,遺留分権利者の側に物件選択権はないことについてもきちんと伝えている。
Cの側から価格弁償の抗弁を主張された場合についての質問もなかったので,この点について特に説明はしていないが,遺留分減殺請求訴訟を提起する予定もなく,正式な依頼も受けていないこの時点において,本件各委任契約に係る遺産分割審判において求められる訴訟活動の内容に影響がないにもかかわらず,価格弁償の抗弁について先回りして説明する義務があるはずもない。
また,被告は,本件メールに回答しなかったことも問題にするが,本件メールにおいては,その本文で,遺留分権利者の物件選択権に言及しておきながら,誤って受遺者又は受贈者から価額賠償を求めることができることに関する判例を添付しており,判例の提示が適切なものであったとはいいがたいし,この点を措くとしても,単にメールに添付した判例を確認するよう求めたにすぎず,その後に自ら本件建物のAの持分6分の1を取得する内容の分割案を提案しているのであるから,本件メールに対する回答をしなかったからといって,被告が本件建物のAの持分12分の1を譲歩してしまう可能性があったということもできない。
次に,Bの相続紛争の解決を遅延させたという点については,遺留分減殺請求訴訟をその時点で提起する予定があったものではなく,その正式な依頼も受けてないし,被告自身が一次相続の審判後に二次相続の裁判を提起すると決めていた以上,無理に訴訟提起を促すことなどできるはずもない。
以上を前提とすれば,被告は,Aの相続に係る遺産分割審判を,これとは本来無関係であるはずのBの相続に係る遺留分減殺請求と関連付け,その取得の蓋然性がもともと低い本件建物のAの持分4分の1の共有分割を受けるという不合理な審判活動を求め,そうした意向に沿う審判活動をしなかったことを理由に不当に解任したとすら評価できるのであって,原告らの責めに帰すべき事由がないことは明らかである。
(2)  被告が故意又は重過失により本件各委任契約を解除して委任事務処理を不能にしたか(報酬の全額請求の可否,争点2)
(原告らの主張)
原告らは,受任事件につき約3年半にわたり誠実に職務を行い,その終盤に差し掛かっていたにもかかわらず,被告は,原告の責めに帰すべき事由がないのに,本件各委任契約を解除した。したがって,被告には,故意又は重大な過失により委任事務処理を不能にしたこと,その他解任についての重大な責任があることから,日本弁護士連合会の旧報酬基準(以下「旧日弁連報酬基準」という。)によれば,本件各委任契約上の弁護士報酬の全額を請求することができる。
また,条件成就により不利益を受ける当事者が故意にその条件成就を妨げた場合には,その条件が成就したものとみなすことができるとの規定(民法130条)によっても,同様に弁護士報酬全部を請求することができる。
(被告の主張)
上記(1)のとおりであるから,解除について被告に故意又は重大な過失はないし,条件成就を故意に妨げたということもできない。
(3)  本件中途報酬規定の有効性(争点3)
(原告らの主張)
民法においても,委任が受任者の責めに帰すことができない事由によって履行の途中で終了したときは,すでにした履行の割合に応じて報酬を請求することができると定められており(民法648条3項),本件中途報酬規定は,その趣旨を明記するものである。
被告は,本件中途報酬規定が無効であると主張するが,いわゆるみなし報酬規定の場合,すなわち,受任者の責めに帰すべき事由がある場合にも報酬請求を認めたり,履行割合に応じた報酬額を超える報酬請求を認める規定については,その履行の程度を超える報酬部分について無効と解する余地はあるが,本件中途報酬規定は,いわゆるみなし報酬の規定ではなく,事務処理の程度に応じて報酬の全部若しくは一部の返還又は支払を行うというものにすぎないことから,有効であることに疑いの余地はない。
(被告の主張)
委任契約における報酬は,委任事務処理の結果に成功不成功があるものについて,その成功の程度に応じて受ける委任事務処理の対価であり,本来は事件等の処理が終了したときに払われるべきものである。
仮に,本件中途報酬規定が,原告らの責めに帰すべき事由により解任された場合に報酬請求を認める趣旨であればもとより無効であるし,そうでない場合であっても実質的に違約金として機能することは否定しがたいことから,消費者契約法9条1号の損害賠償額の予定ないし違約金を定める条項に当たり,かつ,事件処理に費やした時間及び労力は着手金によって賄うことが予定されている以上,それ以上の平均的損害もないことからすると,同条により無効である。
(4)  遺産分割調停事件の着手金の差額請求の可否(争点4)
(原告らの主張)
原告らは,本来事件依頼時に着手金全額を支払ってもらうべきところを,被告の経済的負担等を考慮して,各事務所26万2500円の合計52万5000円を除く残額は,事件終了時に報酬と併せて支払ってもらうこととした。このことは,本件各委任契約書において,着手金の基本料金に照らして減額した着手金分を加算する旨明記されているところである。
Cの側が明らかにした遺産目録によれば,Aの相続財産は少なくとも4億5411万5345円以上であり,被告は法定相続分であるその6分の1に当たる7568万5891円以上を得られることが可能であった。
そして,旧日弁連報酬基準によれば,遺産分割請求事件の経済的利益の額は相続分の時価相当額とし,遺産分割の対象となる財産の範囲及び相続分に争いがない部分は時価相当額の3分の1とされていることから,特に分割対象となる財産の範囲及び相続分に争いがなかった本件においては,上記利益のうちの3分の1に当たる2522万8630円が被告の得られるべき経済的利益となる。
これを前提に計算すると,すでに支払われた52万5000円を除く差額としては,89万4003円を請求することができる。(=〔2522万8630円×5.25%〕+9万4500円-52万5000円)
(被告の主張)
本件各委任契約書においては,着手金は各法律事務所の受任弁護士において26万2500円と定められており,差額分の着手金の約定はない。
(5)  遺産分割審判移行時の新たな着手金請求の可否(争点5)
(原告らの主張)
遺産分割審判について委任契約書は改めて作成されていないものの,弁護士が提供する委任事務は有償であるから,契約書が作成されていないことをもって報酬が発生しないということはできない。
本件各委任契約書においては,調停と審判が明確に区別され,受任の範囲の事件種のうち調停の欄にしかチェックがない上,本件が上訴等により受任範囲とは異なる手続に移行したときは,原則として新たな着手金が発生することを確認するとも定められている。
そして,報酬額についての別段の定めがなかった場合には,事件の難易,訴額及び労力の程度,依頼者との平生からの関係,所属弁護士会の報酬規程等その他諸般の状況をも審査し,当事者の意思を推定して相当報酬額を算定すべきであるところ,原告らと被告との間では,無効確認訴訟,遺産分割調停事件の委任契約において旧日弁連報酬基準に依拠した報酬基準を使用していたことから,同基準に基づく報酬額を算定することが,当事者の意思に合致する。
そして,旧日弁連報酬基準は,審判における着手金は調停における着手金の2分の1と定めていることから,70万9501円が相当である。(=〔2522万8630円×5.25%〕+9万4500円の2分の1)
なお,被告は調停における着手金を審判における着手金とする旨の合意があったと主張するものの,そのような合意はない。
(被告の主張)
弁護士の報酬に関する規程5条2項は,弁護士が法律事務を受任した際には遅滞なく報酬について定めた委任契約書を作成しなければならないと定め,同条4項は,この委任契約書には受任する法律事務の表示及び範囲,報酬の種類,金額,算定方法等を記載しなければならないと定めている。
ところが,本件各委任契約書には,上訴等により受任範囲とは異なる手続に移行したときは原則として新たな着手金が発生することを確認するとの定めがあるものの,それ自体漠然とした文言であって着手金請求の根拠とはなり得ないし,上記規程の趣旨に鑑みれば,新たな着手金が発生する場合は,別途報酬について定めた委任契約書を作成しなければならないことが,原被告間の合意内容となっていたというべきである。
そうでないとしても,調停と審判は,同じAの遺産分割を内容とするものであること,特段難易度の高い事件ではないこと,被告は,原告らに対し,遅くとも本件各委任契約締結時までに,調停は不成立とし,審判に移行するよう原告らに対して告げていたこと,着手金については,前任のE弁護士のときの金額を踏襲しただけでそれ以上に説明はなく,本件各委任契約書の内容の説明や事件処理の方針に関する意見もなかったことなどから,被告としては,調停と審判をセットにした委任契約であり,審判において別途着手金などは発生しないものと理解していた。加えて,調停が短期間に不成立となっていること,改めて委任契約書が作成されていないこと,本件訴訟提起までは審判の着手金の請求もなかったこと,審判の労力の程度なども併せ考えれば,調停の着手金をもって,審判の着手金とする合意があったとみるのが合理的である。
(6)  着手金を除く報酬金の額(争点6)
(原告らの主張)
本件各委任契約によれば,報酬の算定方法は,経済的利益の額の10.8%(消費税8%として計算)+19万4400円(消費税8%として計算)であり,291万9092円となる(=〔2522万8630円×10.8%〕+19万4400円)。本件各委任契約上,その2分の1ずつをb法律事務所及びa法律事務所の各受任弁護士で折半することになっていたから,各145万9546円となる。
この点,旧日弁連報酬基準は,事件等の処理が解任,辞任又は委任事務の継続不能により中途で終了した場合において,弁護士のみに重大な責任があるときは,弁護士は受領済みの弁護士報酬の全部を返還しなければならず,他方で,弁護士に責任がないにもかかわらず,依頼者が弁護士の同意なく委任事務を終了させたとき,依頼者が故意又は重大な過失により委任事務処理を不能にしたとき,その他依頼者に重大な責任があるときは,弁護士報酬の全部を請求することができると規定している。そのため,争点2において被告に上記事由が認められるとの結論に至るのであれば,上記報酬額が請求できる。
また,本件は相続人の範囲に争いがなく,特別受益や寄与分の主張もない事案である上,遺産の範囲については原告らが辞任する時点ではほぼ争いがなくなっていて,Cも,7568万5891円の取得分を認める段階に至っていたことからすれば,事務処理の程度に応じた報酬を請求できるにとどまるとしても,やはり同額の報酬が認められるべきである。
(被告の主張)
原告らによる事件処理は,期間的にも内容的にも,報酬を請求しうるような事務処理の程度にあったものではなく,すでに支払われた着手金で賄われる限度を超えるものではないというべきである。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
原告X2及び被告の各陳述(甲38,乙16)及び尋問供述のほか,掲記する証拠によれば,次の事実を認めることができる。
(1)  本件各委任契約締結に至る経緯
被告は,E弁護士に委任して無効確認訴訟を提起した後,その直後の平成22年6月23日から2度にわたり,原告らの当時所属していたa法律事務所にA及びBの遺産相続をめぐる事柄について相談に訪れ,原告X1と面談をした。(乙12の1・2)
その後,原告X1は,平成23年4月,a法律事務所を独立して上京し,弁護士法人bを開いた。
被告は,同年7月29日,a法律事務所を訪問し,原告X1に対し,E弁護士を引き継いでの無効確認訴訟の追行を依頼した。
同月31日,被告は,E弁護士に対し,年齢的に大変であろうから相続事件をバトンタッチすることを考えてはどうか,現在,人伝に相続に詳しい弁護士も探しているなどと告げたところ,同年8月1日,E弁護士は代理人を辞任する意向を示し,その後辞任届を提出するに至った。(甲35,乙9,乙12の3,弁論の全趣旨)
こうして原告らへの重ねての相談を経て,被告は,原告らに対し,無効確認訴訟のほかに遺産分割調停も依頼することとし,平成23年8月19日付けで,本件各委任契約を締結することとなった。もっとも,この時点においては,Bの相続についての遺留分減殺請求訴訟を提起することは,話題にのぼっていなかった。(以上,前提事実,乙12の3)
この委任契約後の方針を協議する段階において,被告は,原告らに対し,平成23年10月31日,取得を希望する財産について,次のような電子メールを送信している。(甲36)
「A固有の財産については,もともと6分の1になりますが,Bが遺言を書いていて,BがCに譲渡したAの財産については,12分の1(1/2×1/3×1/2)になるので,A固有の財産は4分の1(1/6+1/12)になると思います(1/12は遺留分なので代償金になるでしょう)。」,「B固有の財産については遺留分で6分の1になると思います。」
(2)  遺産分割調停の経過
ア 原告らは,平成23年12月21日,被告を申立人,C及びDを相手方として,A及びBを被相続人とする遺産分割調停をそれぞれ申し立てた。(前提事実)
Bの遺産分割申立書には,申立ての実情として,被相続人による有効な遺言があること,Aの遺産分割が未了であるためいまだ話合いができていないこと,取得を希望する遺産についてが挙げられている。(甲31)
なお,この申立直前の同月9日に,Dは,Cとの間で,条件付きではあるが,AからのDの相続分の譲渡が有効であることを認める旨の合意をしていた。(甲33)
イ 原告X1及び同X2は,平成24年3月15日の第1回調停期日に出頭し,次回期日は同年5月18日と指定された。(乙2の1)
この第1回と第2回の調停期日の間に,原告X1は,取得を希望する財産を協議する中で,被告に対し,「不動産の価格を高く評価するとその不動産を取得する場合,逆に他の財産を余りもらえなくなってしまう場合も考えられ,不動産評価を高くすることがいいと断定できないところも悩ましいところと思います。」とのメールを送信した。(乙8)
ウ 原告X1及び同X2は,平成24年5月18日の第2回調停期日に出頭し,次回期日は同年8月9日と指定された。(乙2の2)
エ 原告X1及び同X2は,平成24年8月9日の第3回調停期日に出頭したが,この期日において,Aの遺産分割調停は不成立に終わり,審判に移行した。(乙2の3)
他方で,原告らは,調停委員からの示唆を受けて,平成24年8月10日,並行して行われていたBの遺産分割調停を取り下げた。(乙10)
(3)  遺産分割審判の経過(審判期日調書に記載された部分は,甲28の1から4まで)
ア 原告らは,平成24年9月28日付けの主張書面1を作成し,これを裁判所に提出した。(甲5)
その内容は,Cより受領した相続税申告書をもとに作成した遺産目録を添付し,そのうちの土地,建物及び株式については,その評価額について鑑定を求める旨,Cに対して,その他の同申告書記載の財産や債務についての釈明を求める旨,被告から特別受益及び寄与分の主張はしない旨を記載するとともに,希望する資産として,①本件建物のAの持分の4分の1(下線を引いて,この割合の部分の数値を強調している。),②被告の自宅土地建物についてのA持分の全部,③被告に対する貸付金228万円,④広島市中区白島の建物のA持分全部,⑤代償金を挙げ,とりわけ①の本件建物の4分の1の持分取得については,絶対に譲れない条件である旨記載するものであった。
イ 原告X1及び同X2は,平成24年10月18日の第1回審判期日に出頭した。
同期日においては,遺産の範囲及び分割の対象財産についての確認,被告が特別受益の主張をしないことなどの確認が行われ,Cの側で,一定の財産について遺産分割の対象財産に含めるかどうかを検討することとされ,平成25年1月17日の第2回審判期日が指定された。
ウ 原告らは,平成25年1月16日付けの主張書面2を作成し,裁判所に提出した。(甲6)
その内容は,確定した無効確認訴訟の判決に従って主張書面1添付の遺産目録を訂正した目録を添付した上で,Cに対し,遺産である絵画の所在や時価を釈明するよう求める旨,遺産である有限会社e及びf有限会社の株式の評価額を算定するために,各社の直近の決算書等を開示するよう求める旨のほか,Cに寄与分はないことなどを記載するものであった。
寄与分に関しては,Cから,平成24年12月17日付けで,自己の寄与分を主張する書面が提出されていたことに対応するものである。(甲34)
エ 原告X1及び同X2は,平成25年1月17日の第2回審判期日に出頭した。
同期日においては,無効確認訴訟が確定したこと及び前回の期日以降のCの検討結果を踏まえて,遺産の範囲及び分割の対象財産の範囲を合意するとともに,不動産についてはそれぞれ相続分に応じた鑑定費用を出し合って鑑定を行う方針とすることなどが確認され,次の審判期日は追って指定するものとされた。
Cは,この期日において,近日中に寄与分の申立をすると述べたものの,結局申立てはしていない。(弁論の全趣旨)
オ その後,不動産についての価格鑑定を経たために審判期日が空いたが,原告らは,被告から情報提供を受けた不動産の現況を報告する事務連絡文書(甲7)の作成提出,鑑定の対象物件及び見積額を了承する旨並びに被告から情報提供を受けた不動産の現況を報告する事務連絡文書(甲8)の作成提出,遺産の範囲に変更はない旨の主張書面3(甲9)の作成提出,鑑定人から依頼を受けた鑑定に必要な文書についての文書送付嘱託の申立書(甲10)の作成提出などを行った。
そして,原告らは,平成26年2月4日付けで鑑定人が作成した不動産鑑定評価書を踏まえて,平成26年10月6日付けの主張書面4を作成提出した。その内容は,鑑定結果等に従って遺産目録を改めたものを添付し,Cに対し,預貯金や株式の評価額の算定のための最新の残高証明書や決算書の提出を求める旨を記したものであった。(甲11,甲13)
この長らく期日が空いていた時期の平成25年10月8日,被告は,Cとの関係において地方裁判所で訴訟をすべき事項として,Bの遺産についての遺留分減殺請求権だけでなく,管理費用の負担と絵画についての訴訟を考えていると述べた上で,「どちらにしても一時(ママ)相続の審判が済まない限り,二次相続の裁判が地裁で出来ないので,審判が済んだ後に」上記訴訟を「地裁で一体的にすることになると思います。」との内容のメールを原告X1及び同X2に送信した。(甲22)
カ 原告X1及び同X2は,平成26年10月14日の第3回審判期日に出頭した。
同期日において,被告とCは,家事審判官から,「希望する遺産を取得した場合及び取得できない場合の遺産分割案」を,いずれも提出するよう求められ,第4回審判期日は同年12月9日と指定された。
被告は,この第3回審判期日の後,広島家庭裁判所のロビーで,原告X1及び原告X2と打合せをした。このとき,BのCに対する生前贈与ないし遺贈に対する遺留分減殺請求が話題になった。
被告は,帰宅後,本件メールを原告X1及び同X2に送信した。(甲19の1)
キ 被告は,平成26年11月25日,本件建物に関する事情を記載した主張書面5の原案と,これと併せて提出すべき書証とを,メールに添付して原告らに宛てて送信した。
被告は,そのメールの本文において,この原案の体裁を整えるほか,法律的に見ておかしいところを修正して欲しいなどと依頼し,かつ,添付した書証の提出方法(印刷サイズ,マーカー部分など)を具体的に指示するほか,家事審判官に指示された分割案2つを記していた。
その分割案の第一希望は,①本件建物のAの持分の4分の1,②被告の自宅土地建物のA持分の全部,③Aの被告に対する貸付金228万円,④南口開発に対する敷金債務と保証金債務,⑤代償金を取得する案,第二希望は,①本件建物のAの持分の6分の1,②白島九軒町の建物のA持分全部,③被告の自宅土地建物のA持分の全部,④Aの被告に対する貸付金228万円,⑤南口開発に対する敷金債務と保証金債務,⑥白島九軒町の敷金債務,⑦代償金を取得する案であった。(甲19の2,乙5の1・2)
原告らは,平成26年12月2日付けの主張書面5を作成,提出したほか,被告から提出方法の指示を受けた書証も提出した。
この主張書面5は,被告の上記原案に原告らが一部修正を加えたものについて,被告側からの指摘による修正を加えた部分,すなわち,被告が本件建物の共有持分を取得することについて何らの問題もないこと,それを示す事情として,被告が広島駅南口の再開発事業の一環として建設された本件建物の資産価値の向上に多大な貢献をしたこと,Aの持分を被告が取得しても,d社の持分である店舗部分の営業には支障がないことなどを記載する部分と,被告が示した分割希望案を記載する部分からなるものである。(甲12,甲19の3から6まで,乙5の2)
ク 原告X1及び同X2は,同年12月9日の第4回審判期日に出頭した。
同期日においては,遺産分割の対象について,出資金の配当金を分割対象とすること,家庭内動産100万円及び電話加入権を遺産分割の対象から除外することなどについて合意をしたほか,Cの側で,株式評価額を算定するために,f有限会社及び有限会社eの決算書を,預貯金額の変動を確認するために,最新の預貯金通帳の写しを各提出することとされ,第5回の審判期日は平成27年3月4日と指定された。
Cは,第4回審判期日の後に,預貯金の最新の残高証明書,配当金明細,上記各社の最新の決算書を提出した。(甲29)
ケ 被告は,平成27年2月16日に,原告らに対し,本件各委任契約を解除する旨を通知し,その後の経過は,概ね前提事実のとおりである。
(4)  原告ら解任後の遺産分割審判等の経過
ア 後任代理人らは,平成27年2月27日付けの主張書面6を作成し,裁判所に提出した。(甲2)
その内容は,Cがこれまで提出した主張書面に対する反論を主とするもので,本件建物の分割方法に関していえば,Cの希望する分割案に反対する趣旨をいうにとどまるものであった。
イ 後任代理人らは,平成27年3月4日の第5回審判期日に出頭した。
ウ 後任代理人らは,平成27年5月13日付けの主張書面7を作成提出した。
その内容は,本件建物を共有分割することについては,もともと共有だったことに加え,被告が取得することとしてもd社の営業に何らの影響を及ぼさないこと,他方で,現物分割は困難であるし,代償分割により経営能力のないCに取得させることは相当でなく,換価分割はCも望んでおらず相当でないこと,などを主張するものであった。(乙7)
エ その後,平成27年5月19日,同年7月27日,同年9月25日,同年11月6日,同年12月18日,平成28年1月22日,同年4月22日と,第12回審判期日までの各期日を経て,審判に至った。(前提事実)
この各審判期日においては,日を追うごとに変動のありうる預貯金及びその経過利息や決算書などの調査,提出は措くとして,その他の事項として,①葬儀費用の金額,②不動産の修繕費と評価額の関係,③代償金の資力に関する主張立証,④広島銀行の預金を分割対象に含めるかどうか,⑤出資金の配当及び債務を分割対象に含めるかどうか,などが議論,検討され,BのCに対するA相続分の譲渡が遺留分減殺されないことが確認された。(乙18の1から8まで)
(5)  遺留分減殺請求訴訟の提起
後任代理人らは,被告を代理して,平成27年8月28日,Cに対し,遺留分減殺請求の訴えを提起した。
その訴状においては,減殺対象となる財産について,Bの遺言により指定された減殺順序に従い,まず遺贈された財産のうち不動産及び株式以外の財産,次いで遺贈された不動産である白島九軒町の土地の順で減殺されるとするものであり,BがAの相続分を譲渡することにより生前贈与していた本件建物のAの持分については,減殺の対象に含まれていなかった。(乙17の1)
2  争点1について
(1)  被告は,本件各委任契約の解除には,原告らの責めに帰すべき事由があると主張し,主に,①第3回審判期日後の打合せにおいて,原告X2が,本件建物のAの持分のうち12分の1について,BがCにしたA相続分の譲渡(生前贈与)を遺留分減殺請求権に基づき減殺することによって取得できるのかどうかについて,これを取得できるとの誤った説明をし,その説明に疑問を呈する被告からの本件メールにも回答せず,かつ,予期されたはずのCからの価額弁償の抗弁についても説明をしなかったことから,Aの遺産分割審判において,本件建物の持分取得について譲歩するおそれがあったこと,②Aの遺産分割を終えなくてもBの相続に関してCに対する遺留分減殺請求訴訟を提起することができるにもかかわらず,これを被告に告げることなく,紛争解決を遅延させたこと,という2点を挙げて,原告らの側の責めに帰すべき事由があると主張している。
(2)  ①の点について,まず,第3回審判期日の後に行われた広島家庭裁判所における打合せ時のやり取りについて,被告は,本件建物のAの持分の6分の1を取得する案を選択した場合,遺留分減殺請求により残りの12分の1をとれるかどうかを原告X2に尋ねたところ,同人は,本件建物は賃貸物件だから遺留分の裁判で取れると答え,これに対し,被告が,遺留分減殺請求をしても必ずしも物がとれるとは限らないという趣旨の判例を税務判例か何かで見たことがあると疑問を述べると,同原告は,そのような判例があるなら見せて欲しいと述べ,原告X2が遺留分減殺請求訴訟により本件建物のAの持分12分の1を取得できる旨を断言したとの趣旨を述べている。
これに対し,原告X2は,そのときは遺留分減殺請求権についての一般的な話,すなわち,遺留分減殺請求により共有関係が生じること,遺贈が複数ある場合はその価額の割合に応じて減殺されること,不動産の場合には持分移転登記請求を求めることになるが,そのような請求が認められた裁判例もあることなどを伝えたにすぎず,当該事案に即した話はほとんどしていないなどと述べて,これを否定している。
第3回審判期日においては,家事審判官から,希望する遺産を取得した場合と取得できない場合のそれぞれの分割案を示すよう指示されており,そのような期日の後の打合せにおいて遺留分減殺請求が話題にのぼったとすれば,それは,被告が希望する本件建物のAの持分4分の1を取得できず,法定相続分6分の1のみしか取得できなかった場合に,BがCに対してしたAの相続分の譲渡(生前贈与)についての遺留分減殺により残りの12分の1(=Bの相続分2分の1×遺留分割合6分の1)を取得することで,結果的に合計4分の1の持分取得という目的を達せられるかどうかという文脈において話題にのぼったものと考えるのが自然であるから,およそ事案を離れて一般的な説明しかしなかったという趣旨をいうのであれば,原告X2の供述を直ちに信用することはできない。
しかしながら,遺留分減殺請求の効果としては,遺留分侵害額の限度において,減殺対象となる受遺財産ないし贈与財産が法定の順に減殺され,減殺対象が不動産である場合には,その共有状態が生じうることからすると,原告X2において,本件建物のA持分が減殺対象となる場合においては当該持分について減殺割合に応じた共有持分を取得することができるという趣旨の説明をしたのだとすれば,別段誤った説明をしたものとはいえない。被告の供述によっても,いかなる場合においても必ず持分12分の1を取得できるという意味において原告X2が断言したとまでは認められないのであって,この打合せ時の原告X2の説明について,被告のいう義務違反があったということはできない。
次に,原告X1及び同X2が本件メールに対して何ら回答しなかった点についてみると,そのメールの本文において,遺留分権利者に物件選択権はないという趣旨を述べ,かつ,受贈者又は受遺者が,民法1041条1項に基づき,減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について価額を弁償してその返還義務を免れることができる旨判示した最高裁判例を添付していることからして,このメールの文面と添付判例を併せ読めば,原告X1及び同X2においては,遺留分減殺請求による本件建物の持分取得が絶対のものではないということを被告が懸念している旨,容易に気付き得たといえ,そうであれば,両原告としても,依頼者に不安を与えないために,遺留分減殺により絶対に取得できるものではないことはそのとおりであるから,第2希望を提示する際にはそのことに留意する必要があるなど,本件メールに対して何らかの応答をしておくことが望ましかったとも考えられる。
もっとも,その反面,本件メールの本文をみると,「やはり遺留分権者には,物件を選択する権利はないようです。」などと,価額弁償の抗弁が主張されれば持分を取得できなくなるとの結論については被告も十分に理解していることが示されているし,従前,被告が,Aからの固有の相続分としては6分の1を取得するが,遺留分減殺によりBの相続分から取得する12分の1は代償金の形になるという理解を前提としたメールを原告らに送信していたこと(上記1(1))を併せ考えると,本件メールに対して回答することまでは不要と考えたとしても,直ちに原告X1及び同X2の側に責められるべき事由があるとはいえない。
(3)  ②の点についていえば,被告は,遺産分割調停申立ての時点ですでに遺留分減殺の意思表示をしていたことから,遺留分減殺請求権の時効消滅のおそれはなく,いつの時点で訴訟を提起するかは,基本的には被告の選択に委ねられている状況にあったというべきである。
しかるに,遺留分減殺請求の事件については,家庭に関する事件として,家事調停の対象となり(家事事件手続法244条),かつ,調停を行うことができる事件については調停前置主義が働くこと(同法257条1項)から,いきなり訴訟を提起するのではなく,調停手続を先行したことについては,むしろ原告らが手続法に則った進行を図ったものであるといえる。
また,遺留分減殺に関する事件について,判決により,一定の減殺割合に従った共有状態を生じさせるよりは,調停委員による積極的な関与により,柔軟な解決方法を見出す方が望ましい場合も多いと考えられるのであって,早急に訴訟を提起することが必ずしも望ましいものとはいえない。
とりわけ本件においては,BがAの相続分を譲渡していたことから,Bの遺産についての遺留分減殺の対象にAの遺産が含まれる可能性があるという点において,両事件は密接に関連するものであるから,別々にではなく,併せて調停における解決を図ることも十分考えられるし,仮に訴訟を提起するにしても,Aの遺産分割審判を先行させてAの遺産の範囲及び額を確定した上で,これを前提に遺留分減殺請求訴訟を提起するという選択も考えられる。
これらの選択は,基本的には依頼者である被告の意向によりなされるものと思われるものの,本件において,被告が原告らに対し,遺留分減殺請求訴訟を提起することを依頼したことがないことは明らかであるし,調停手続を経ることなく,あるいは調停を早急に取り下げて遺留分減殺請求訴訟を提起することを希望していたなどという事情を認めるに足りる客観的な証拠もない。かえって,被告は,Aの遺産分割の解決後にBの遺産についての遺留分減殺請求訴訟を提起することを検討していたことがうかがわれる(上記1(3)オ)。
そうすると,原告らが遺留分減殺請求を被告に進言しなかった対応によりBの相続に関する紛争を遅延させたかのような被告の指摘は当たらず,②の点において,原告らの責めに帰すべき事由があるとはいえない。
3  争点2について
(1)  原告らは,被告が,本件各委任契約の終了という条件成就を妨害するために故意に本件各委任契約を解除した(民法130条)か,あるいは被告には故意又は重大な過失により委任事務処理を不能にするなどの重大な責任があると主張し,それゆえ約定報酬全額が請求できる旨を主張する。
(2)  しかしながら,上記2のとおり,本件各委任契約が原告らの責めに帰すべき事由により解除されたものということはできないものの,他方で,被告としては,原告らの代理人としての活動に疑問を持ち,原告らに対する信頼を寄せられなくなったことを理由に本件各契約を解除するに至ったものと認められるところ,本件建物のAの持分のうち4分の1を取得することに強いこだわりを見せていた被告の意向を考えれば,同人が指摘する2つの点に起因して原告らに対する信頼を寄せられなくなったという心情は十分に理解できるところであるし,原告らとしても,審判の結論として被告の望むような共有分割が実現できるかどうかはともかく,被告のそのような意向に応えるべく,前記のとおり,本件メールにより示されている不安や疑問に対してより丁寧な対応を取る手立ても取り得たと考えられるところであって,そうであれば,少なくとも被告の側が条件成就を妨害するために故意に本件各委任契約を解除したとか,故意又は重大な過失により委任事務処理を不能にするなど重大な責めに帰すべき事由があるなどということはできない。
(3)  以上によれば,原告らの主張を採用することはできない。
4  争点3について
被告は,本件各委任契約における本件中途報酬規定は,いわゆるみなし報酬規定に当たり無効であるか,そうでないとしても,違約金として機能するものであるから,消費者契約法9条1号により無効である旨主張する。
しかしながら,委任事務処理の程度いかんにかかわらず,又は受任者である弁護士の責めに帰すべき事由により解任がなされた場合であっても約定報酬全額を支払うという趣旨の報酬規定であれば,その全部又は一部につき効力を生じないと解する余地はあるものの(最高裁昭和47年(オ)第342号同48年11月30日第二小法廷判決・民集第27巻10号1448頁参照),本件中途報酬規定は,あくまで履行を遂げた程度に応じた報酬請求を認めるにとどまるものであり,また,民法648条3項に反して受任者の責めに帰すべき事由がある場合にまでその報酬請求を認める趣旨の規定であるとは解されないことから,被告の主張は前提を異にするものといえる。
また,このような本件中途報酬規定の趣旨に鑑みれば,割合報酬の支払を義務付けたとしても,それが違約金として機能するなどということもできず,消費者契約法9条1号に違反する旨の被告の主張も採用することはできない。
したがって,上記2のとおり,原告らの責めに帰すべき事由がなく解除に至った本件において,原告らは,被告に対し,本件各委任契約の事務処理の程度に応じた報酬を請求することができる。
5  争点4について
本件各委任契約書には,着手金26万5000円という記載があるほかには,報酬支払時に着手金の基本料金に照らして減額した着手金分の加算がある旨が記載されているだけである。
被告が上記26万5000円以外にこの加算分の着手金の支払を合意したといえるかどうかは,「減額した着手金」があったのかどうかという点に関わる問題であり,この合意の有無を本件各契約書のみから直ちに判断することはできず,原告らから,契約書作成当時,具体的にどのような説明があり,被告がどのように応答したのかにより判断されるべきである。
この点,原告X2は,本件各委任契約書の内容を読み上げて確認した旨述べるものの,上記のとおり,委任契約書の文面を読み上げて同意を得たというだけでは,当初支払った着手金が「減額した」ものであることを合意したということはできない。
他方で,被告は,本件各委任契約書の作成に当たって,着手金はE弁護士と同様の52万5000円のみでよいという点と,日当5万円という点は聞いたものの,それ以外に特段の説明はなかった旨述べているところ,少なくとも,契約書に26万2500円と明記された着手金について,それが「減額した」結果であるということを,原告らが被告に説明し,その了承を得たこと,言い換えれば,成功報酬の支払時に着手金が加算されるべきことについて了承得たことを認めるに足りる証拠はなく,着手金の基本料金に照らした差額分についてまで,着手金の支払を合意したと認めることはできない。
したがって,原告らの主張を採用することはできない。
6  争点5について
(1)  被告は,遺産分割審判についても原告らに委任したこと自体は争わないものと考えられるところ,弁護士と訴訟依頼者との法律関係は,明示の約定がなくても,相当の報酬を支払うべき暗黙の合意があるものと解すべきであることに加えて,本件各委任契約書においては,「受任範囲」の事件種ごとのチェックボックスのうち「審判」のチェックボックスにチェックがされていないこと,上訴等により受任範囲とは異なる手続に移行したときは原則として新たな着手金が発生する旨明記されていることなどからすると,特段の事情がない限り,審判に移行した場合において,別途新たに着手金が生じることについては,原告らと被告との間で合意されていたものというべきである。
(2)  もっとも,本件各委任契約書においても,報酬の基準について,「乙(原告ら)の弁護士報酬基準」が適用されることと,「乙(原告ら)の弁護士報酬基準の説明に基づき本委任契約の合意内容を十分に理解したことを相互に確認」したとあるのみで,具体的にいかなる基準によることを合意したのかは,契約書のみからは明らかでない。
この点,平成16年4月1日に廃止された旧日弁連報酬基準は,事件類型ごとの弁護士報酬の基準として,家事審判事件の着手金については,依頼者が受けた経済的利益が300万円から3000万円のときは,その5%+9万円(ただし,消費税の額に相当する金額は含まない。)と定め,調停事件については上記に準じるものとし,調停からその他の事件を受任するときの着手金は上記の額の2分の1とする旨,また,経済的利益の算定として,遺産分割請求事件については,対象となる相続分の時価とするが,財産の範囲及び相続分について争いがない部分は,相続分の時価相当額の3分の1とする旨定めている。(甲17)
弁論の全趣旨によれば,原告らと被告は,少なくとも無効確認訴訟については,旧日弁連報酬基準によって報酬の精算をしたものと推認でき,無効確認訴訟の訴訟委任契約とほぼ同じ時期に締結された本件各委任契約においても,特段の反証がない限り,旧日弁連報酬基準により請求された報酬額を支払う旨を黙示的に合意したものというべきである。
仮にそのような合意がなかったとしても,弁護士の報酬額につき当事者間に別段の定めがなかった場合において,裁判所がその額を認定するには,事件の難易,訴額及び労力の程度だけからこれに応ずる額を定めるべきではなく,当事者間の諸般の状況を審査し,当事者の意思を推定して相当報酬額を定めるべきであるところ(最高裁昭和36年(オ)第5号同37年2月1日第一小法廷判決・民集第16巻2号157頁),上記の事情に鑑みれば,やはり旧日弁連報酬基準を参考に定めるのが相当というべきである。
(3)  このことを前提に,旧日弁連報酬基準に依拠して検討すると,次の7で示すとおり,被告が遺産分割審判により得た額は少なくとも7162万2897円であると認められ,対象となる財産の範囲及び相続分に争いがない本件における経済的利益の額は上記の時価相当額の3分の1の2387万4299円であり,この場合家事審判事件の着手金は,134万7900円(=〔2387万4299円×0.05×1.05〕+〔9万円×1.05〕)となり,調停から審判に移行しているから,その2分の1の67万3950円(各事務所33万6975円)となる。
7  争点6について
(1)  弁論の全趣旨によれば,被告も,調停が不成立になって審判に移行した場合の報酬金の算定についても,本件各委任契約書に沿って計算する旨合意したことについては,特段これを争うものではないと解されるから,着手金以外の報酬金の算定については,本件各委任契約書記載の報酬算定方法によるものとする。
(2)  Aの遺産である別紙遺産目録記載の遺産について,平成27年2月24日の時点でCの側で認めていた評価額は,原告らが主張するとおり4億5411万5354円であるが(甲21),その後の同年8月28日の遺留分減殺請求訴訟提起の時点において被告が計算していた評価額は4億2973万7387円であり(訴状,乙17の1),この間の審判期日を経て,一部遺産の評価額等が変動したものとみられる。
Aの遺産分割審判の内容は被告の側から明らかにされていないが,少なくとも上記の6分の1の7162万2897円の限度においては,被告が遺産分割審判により取得したものと推認でき,その場合,旧日弁連報酬基準に従えば,その3分の1に当たる2387万4299円の経済的利益を得たものと認められるから,この経済的利益の額を前提に,本件各委任契約書記載の算定方法に従って報酬金を計算すると,その額は269万5801円となる(=〔7162万2897円×1/3×0.105〕+18万9000円)。
そうすると,原告らは,本件各委任契約に基づく事務の履行を終了した場合には,上記の報酬金を請求することができたことになるが,本件において約定の全額報酬を請求することはできず,事務処理の程度に応じた報酬を請求することができるにとどまることは上記3,4で示したとおりであるから,以下,原告らの事務処理の程度について検討する。
(3)  Aの相続に関する遺産分割調停及び審判は,原告らによる書面の作成提出や原告X2及び同X1が出頭しての審判期日が重ねられた結果,被告が解任の意思を示した平成27年2月16日の時点においては,特別受益や寄与分を考慮に入れる必要はないことが明らかとなっていたこと,評価額が問題となる不動産についてもその鑑定が終了してその評価額に特段の争いもない状態に至っていたこと,遺産の範囲ないし分割対象財産の範囲についても概ね合意ができていたことなどが認められ,預貯金の額及び株式の評価額は変動し得る状態にあったものの,少なくともその時点における各算定資料もCの側から提出され,裁判所において評価額を算定しうる状態に至っていた。
そして,被告にとって最大の関心事であった本件建物の共有分割によるA持分の4分の1の取得の点についても,その正当性を基礎付ける事実関係や基本的な主張は,原告らが提出した主張書面5により,概ね裁判所に伝わっていたものと思われる。
その後,後任代理人らに代わってから,遺産分割の対象に含めるかどうかについていったん合意をみたと思われる財産についても再度議論,検討されたり,遺産の評価についての新たな問題も議論,検討されていたようではあるが,それまで確認されていた枠組みを大幅に逸脱するような展開があったとはみられないことからすると,上記(1)の額の遺産の取得に向けての委任事務処理は,原告らにおいてほとんどの部分を終えていたものと評価できる。
もっとも,上記1(4)のとおり,後任代理人らは,原告らの後を受けてから審判に至るまでの間,原告らを上回る8回の審判期日に出頭し,議論や検討を重ねていること,そして,その議論や検討の中には遺産の範囲や評価についての新たな問題も含まれており,無意味に期日が重ねられたものとはいえないことなども考慮すると,原告らによる本件各委任契約に基づく事務処理の履行の程度は,8割程度とみるのが相当である。
その報酬額は,上記(2)の269万5801円の8割に当たる215万6640円(各事務所107万8320円)が相当である。
(4)  これに対し,被告は,遺産の範囲や相続分について争いのない事案であり,大きな労力を要していないこと,鑑定を挟む審判期日の間に1年9か月もの間があり,その間特段の訴訟活動を行っていないこと,原告らが不動産の鑑定に反対する立場を示していたこと,被告が作成した書面をほぼそのまま引用して主張書面を作成していること,本件建物の持分を共有分割により取得すべき根拠を具体的に裁判所に示していないことなどを問題にして,依頼者の意思に反するだけでなく,客観的に不合理な判断に基づく業務を行っていたのであるから,報酬に値するほどの事務処理を行っていないなどと主張する。
しかしながら,本件において遺産の範囲や相続分に争いがないという事情は,経済的利益を時価の3分の1とみることによりすでに減額評価されていること,鑑定期間中も,上記1(3)オのとおり代理人として行うべき活動はしていること,原告らは,主張書面1において当初より不動産については鑑定によるべきである旨主張し,鑑定に反対の立場をとっていたものではないし,それ以前に,原告X1において,取得できる代償金が少なくなることから必ずしもその不動産の評価額が高くなるのがよいとはいえないと助言したこと(上記1(2))に誤りはないこと,被告が作成した原案をもとに主張書面5を作成したことは事実であるが,その原案は本件建物の建築に関わる経緯等をいう部分が中心であり,本来的に被告本人の事実認識に即して主張書面を作成せざるをえない側面があるし,被告の側が,この原案を修正して提出することを明確に要望している以上,その要望に即して主張書面を作成したことに問題があるとはいえないことなどからすれば,いずれも代理人活動の評価を減ずる事情であるとはいえず,上記の結論を左右するものではない。
被告が縷々指摘する事情は,上記(1)の遺産の取得に向けた委任事務処理の進捗の度合いではなく,その間の委任事務処理の質を問うものにすぎず,事務処理の程度の評価に直結する事情とはいいがたいところである。
8  よって,原告らの請求は,原告X1において旅費日当17万8440円,遺産分割審判の着手金33万6975円及び報酬金107万8320円の合計159万3735円及びこれに対する平成27年2月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,原告X2及び同X3において遺産分割審判の着手金33万6975円及び報酬金107万8320円の合計141万5295円及びこれに対する平成27年2月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれらを認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第48部
(裁判官 池田幸司)

 

〈以下省略〉

 

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