
「営業 スタッフ」に関する裁判例(11)平成24年10月16日 東京地裁 平23(ワ)22873号 損害賠償本訴請求事件、委託料反訴請求事件
「営業 スタッフ」に関する裁判例(11)平成24年10月16日 東京地裁 平23(ワ)22873号 損害賠償本訴請求事件、委託料反訴請求事件
裁判年月日 平成24年10月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)22873号・平23(ワ)33181号
事件名 損害賠償本訴請求事件、委託料反訴請求事件
文献番号 2012WLJPCA10168004
事案の概要
◇原告が、被告との間で業務委託契約を締結したが、被告において、同契約に基づく職務専念義務に違反し、業務時間内に委託された業務を遂行せず、自己のビジネスであるキャリアカウンセラーとしての活動を積極的に行ったなどと主張して、同契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、同契約の業務委託料相当額640万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに(本訴第1請求)、被告において、自己の開設したブログ上で、原告の財務状況に係る虚偽の風説を流布し又は原告の信用を毀損する虚偽の事実を摘示したと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告の被った損害300万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(本訴第2請求)ところ、被告が、原告に対し、業務委託契約に基づき、平成22年11月及び同年12月分の業務委託料80万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(反訴)事案
裁判年月日 平成24年10月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)22873号・平23(ワ)33181号
事件名 損害賠償本訴請求事件、委託料反訴請求事件
文献番号 2012WLJPCA10168004
平成23年(ワ)第22873号 損害賠償本訴請求事件
平成23年(ワ)第33181号 委託料反訴請求事件
東京都渋谷区〈以下省略〉
本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。) 株式会社X
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 根井真
東京都新宿区〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。) Y
同訴訟代理人弁護士 堀口昌孝
主文
1 被告は,原告に対し,120万円及びこれに対する平成23年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
3 被告の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴・反訴を通じて,これを5分し,その4を原告の,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
(本訴)
被告は,原告に対し,940万円及びこれに対する平成23年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(反訴)
原告は,被告に対し,80万円及びこれに対する平成23年10月14日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件本訴請求のうち第1請求は,原告が,被告との間で業務委託契約を締結したが,被告において,同契約に基づく職務専念義務に違反し,業務時間内に委託された業務を遂行せず,自己のビジネスであるキャリアカウンセラーとしての活動を積極的に行ったなどと主張して,同契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,同契約の業務委託料相当額640万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年7月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であり,第2請求は,原告が,被告において,自己の開設したブログ上で,原告の財務状況に係る虚偽の風説を流布し又は原告の信用を毀損する虚偽の事実を摘示したと主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,原告の被った損害300万円及びこれに対する不法行為の後である平成23年7月15日から支払済みまで上記と同様の遅延損害金の支払を求めた事案である。
本件反訴請求は,被告が,原告に対し,業務委託契約に基づき,平成22年11月及び同年12月分の業務委託料80万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成23年10月14日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(証拠等によって認定した事実は,証拠等を掲げた。その余は当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,求人情報誌(求人広告)を利用した人材採用の提案,全国各地の求人メディアを利用した人材採用の提案,採用戦略のコンサルティング,採用関連ツール(ホームページ,パンフレット,ポスター,チラシ等)の作成等,組織の人材採用に係る幅広いサービスを業とする株式会社である。
(2) 原告は,被告との間で,平成21年10月1日以降,原告が後述する本件業務等を被告に委託し,被告がこれを受託する業務委託契約を締結した(以下「本件第1業務委託契約」という。)。
原告は,その後,被告との間で,本件第1業務委託契約に係る平成21年9月30日付け「業務委託契約書(営業及び営業管理業務)」(甲2)を取り交わしたが,同契約書には次の記載がある。(本件業務の内容についての記載は争いがない。その余の記載内容は甲2によるが,この通りの合意が成立していたかどうかについては争いがある。)
ア 原告は,被告に対し,①原告の取り扱うa社発行求人広告及び原告指定求人広告営業(企画・制作・発行する印刷物,情報誌等の媒体へ掲載する広告の営業業務(以下「本件業務」という。)),及び②営業スタッフ指導・教育・管理業務,営業部売上管理業務を委託し,被告はこれを受託する(上記契約書1条)。
イ 本件業務は次のとおりとする(上記契約書2条1号ないし5号)。
(ア) 原告の指定する顧客及び被告が新たに開拓した顧客に対する,対象媒体を利用した人材採用に関する提案,広告掲載申込みの取次ぎ
(イ) 掲載原稿制作及び制作担当者への原稿作成発注取次ぎ
(ウ) 全営業スタッフに対する営業動向・レボ・指導・教育を通し,その育成を図る。
(エ) 売上げ・利益管理及び売上拡大のための営業推進業務
(オ) 被告は,原告の指定した業務を遂行するため,原告が指定する出社日の午前9時から午後6時まで(休憩1時間,実働8時間),本件業務を専ら遂行し,原告指定以外の業務を行ってはならない。
ウ 被告は,原告に対し,本件業務に従事した時間及び業務内容を記載した業務日報及び月報を,月末より3営業日以内に報告し,その承認を得ることで,業務委託料の申請根拠とする。原告は,本件業務委託料を1時間当たり2500円の割合で計算し,被告に対し,業務委託翌月末日までに銀行振込により支払う(同契約書3条1項)。
エ 原告及び被告は,相手方が,①本件業務委託契約に違背したとき,②継続して本件業務を自ら行わないときは,本件業務委託契約の全部又は一部を何らの催告なく直ちに解除することができる(同契約書20条1項1号,2号)。
(3) 原告は,その後,被告との間で,平成22年9月30日付け「業務委託契約書(営業)」(甲3)を取り交わした(以下,これによる業務委託契約を「本件第2業務委託契約」といい,本件第1業務委託契約と併せて「本件各業務委託契約」という。)が,同契約書には,上記(2)ア,イ及びエと概ね同内容の記載がある。(本件業務の内容についての記載は争いがなく,その余の記載内容は甲3)
(4) 被告は,平成22年7月13日,株式会社bの運営する○○上のサイトにおいて,「c学校」と題するブログ(以下「本件ブログ」という。)を開設し,キャリアカウンセラーと称して,①同日付けで,平成22年4月に起業し,学生の就職支援を行う事業を開始した旨を,②同年7月14日付けで,キャリアカウンセリングを行う旨及び連絡先のメールアドレスを,③同月15日付けで,d専門学校において「新卒採用の現状と就職活動に臨む心構え」と題するセミナーを行う旨を,④同月16日付けで,同日上記セミナー等を行った旨を,⑤同月21日付けで,自分たちが提供している「c学校」卒業生に対して「就職して欲しい」というオファーも増え始めており,日本の接客・ホテルマナーを身に付けたい人は是非相談してほしい旨を,⑥同月27日付けで,東京都の「若者ジョブサポーター」制度に応募した旨を,⑦同月30日,東京都に申請していたジョブサポーター企業に認定された旨を,⑧同年8月3日付けで,文部科学省認定のセミナー(テーマは「履歴書の書き方」,「自己アピールの仕方」,「外国人留学生が間違いやすいビジネス上の一般常識(社内外)」)を行う旨を,⑨同年9月6日付けで,e社が運営している△△塾においてキャリアガイダンスを行った旨を,⑩同月22日付けで,エステティシャンを育成する事業を始める旨を,⑪同年10月1日付けで,文部科学省と連動した外国人留学生向けの就職セミナーを,d学園において開催する旨を,⑫同月5日付けで,フェイスブックに登録し,キャリアカウンセリングを行うので是非訪問してほしい旨を,⑬同月19日付けで,翌日,d学園において外国人留学生向けの就職セミナーを開催する旨を,⑭同年11月17日付けで,翌日,◎◎団体において,「仕事が楽しいと,人生はもっと楽しい!営業の達人編」とのタイトルでセミナーを行う旨をそれぞれ掲載して,宣伝活動を行った。
(5) 被告は,この間,本件ブログにおいて,①平成22年9月7日付けで,「私は現在,某企業の再生を請け負っています。約1年になるのですが,ボロボロの状態から脱し,利益を出すまでに回復しました。」との記事を,②同年11月29日付けで,「私は現在,a社系企業の経営再生を行っております。昨年10月に事業部長として企業の中に入って再生を行っておりました。そのプログラムも12月を持って終了。1年3ヶ月で約2年半に及ぶ赤字体質は改善され,今期は大幅な黒字転換を果たす事もできました。」との記事を,③同年12月3日付けで,「a社系販社の再生終了まで,あと1ヶ月」との記事をそれぞれ掲載した(以下,これらの記事を「本件名誉毀損等記事」という。)。
(6) 被告は,平成22年12月24日,契約解除合意書(以下「本件解除合意書」という。)に署名・指印の上,これを原告に差し入れ,本件第2業務委託契約は合意解除された。本件解除合意書には,被告が,本件契約書20条1項3号の「相手方の信用を傷つけ,または不利益を与えるような行為をしたとき」に当たるので,業務委託契約を同日の面談時に解除されることに同意する旨の記載がある(本件第2業務委託契約が解除されたことには争いがなく,その余は甲13)。
3 争点
[本訴第1請求(本件各業務委託契約の不履行による損害賠償請求)関係]
(1) 被告には,本件各業務委託契約上の任務違背行為があり,その結果,原告に損害を与えたといえるか。
(原告の主張)
ア 原告と被告は,平成21年9月30日付け「業務委託契約書(営業及び営業管理業務)」(甲2)及び平成22年9月30日付け「業務委託契約書(営業)」(甲3)を取り交わしているが,いずれもその日付において,口頭の合意により,その記載内容のとおりの業務委託契約を締結した。上記各契約書は,平成22年10月ないし同年11月ころ,それぞれの合意内容を書面化したものである。
イ 被告は,本件各業務委託契約上,本件業務等への専念義務を負っているにもかかわらずこれに違反し,次のとおり,業務時間内に自己のビジネスであるキャリアカウンセラーとしての活動を積極的に行い,本件業務等を履行しなかった。
(ア) 被告は,平成21年10月14日,株式会社e(以下「e社」という。)の執行役員B(以下「B社長」という。)の下を訪問し,その後のメールのやり取り等において,同社に対し「△△塾」に関する支援をする旨申し伝えた。
(イ) 被告は,平成21年10月23日,株式会社f(以下「f社」という。)の代表取締役C(以下「C社長」という。)と面談し,日本語学校の支援の一環として,外国人留学生を対象とした就職支援サービスの提供を申し入れた。
(ウ) 被告は,株式会社g(以下「g社」という。)の代表取締役として,原告に所属して原告の基盤を用いつつ,外国人留学生を対象とした教育及び就業支援を業として行った。
ウ 被告は,本件契約書3条において,業務日報の提出を義務付けられているにもかかわらず,これを無視してその提出を怠り,原告に対し,本件業務等の遂行状況を一切報告していない。
エ 原告は,こうした被告の任務違背行為により,少なくとも本件各業務委託契約による業務委託料相当額640万円の損害を被った。
(内訳)
平成21年10月~平成22年9月分 月額50万円×12か月=600万円
平成22年10月分 月額40万円×1か月=40万円
(被告の認否及び反論)
ア 原告の主張アは否認する。
イ 原告の主張イは否認する。
本件各業務委託契約の内容は,同契約に係る契約書のとおりではない。すなわち,原告の指定した業務を遂行するため,原告が指定する出社日の午前9時から午後6時まで(休憩1時間,実働8時間),本件業務等を専ら遂行し,原告指定以外の業務を行ってはならない旨の条項は,平成22年12月に本件各業務委託契約に係る契約書(甲2,甲3)が作成された段階で,被告に対して明示されたものであって,このような合意は原被告間には存在しない。被告は,原告との間で,時間的拘束を受けないで自由な営業活動を行うことを合意したが,実際には,毎日午前9時には出社するとともに,原告社内の「スケジュール共有シート」に訪問先を記載して,本件ブログに記載された場所に赴くことについて,包括的な承認を得ていたものである。
(ア) 被告は,e社が「△△塾」の業務を行うに当たり,B社長との個人的な関係から,無償で,業務支援,アドバイス等をしたにとどまる。e社は,その後,原告に対し,求人広告の発注をしたのであるから,被告は原告の顧客を獲得する実績を挙げたものである。
(イ) 被告とf社との関係も,上記と同様,無償でアドバイス等を行う関係である。
(ウ) g社が実際に法人登記を経由したのは平成23年6月であり,その業務を開始したのは,被告が原告と本件各業務委託契約をしていた期間とは重ならないものである。
ウ 原告の主張ウは否認する。
前記前提事実記載のとおり,平成21年9月30日付け「業務委託契約書(営業及び営業管理業務)」(甲2)は本件第1業務委託契約締結後にを取り交わされたものであり,同契約締結時点においては,業務日報の提出は契約の内容となっていない。
エ 原告の主張エは否認する。
被告は,原告のために営業活動を行った結果,原告をして純利益を上げるに至らせたものであり,原告には損害が発生していない。
[本訴第2請求(名誉毀損等による損害賠償請求)関係]
(2) 名誉毀損等による損害賠償請求権の有無
(原告の主張)
ア 被告は,本件ブログ上に前記前提事実(5)記載のとおりの記事を掲載し,原告の財務状況が長期間にわたって悪かったかのような虚偽の風説を流布するとともに,原告の信用を著しく毀損した。
イ その結果,原告は,その取引の9割以上を占める相手先である株式会社a(以下「a社」という。)から,原告の財務状況を説明するよう求められたため,平成22年12月24日,財務諸表等を持参してa社を訪問し,本件ブログに掲載された上記記事の内容が事実に反することを説明せざるを得なくなった。
これによる原告の損害は300万円を下らない。
(被告の認否及び反論)
ア 原告の主張アは否認する。
本件名誉毀損等記事は,そもそも「原告の財務状況が長期間にわたって悪かった」との表現を用いておらず,また,前記のとおり,被告は,原告のために営業活動を行った結果,原告をして純利益を上げるに至らせたことをもって,「利益を出すまでに回復」と表現したものであって,本件名誉毀損等記事は事実と異なるところがない。
被告は,本件名誉毀損等記事の対象として原告名を明示していないから,同記事が原告の名誉や信用を毀損することはない。
さらに,本件ブログ中の本件名誉毀損等記事の読者は4名にすぎず,同記事は特定少数の者に対して発信されたにとどまる。
イ 原告の主張イは否認する。原告は,人件費支援制度を利用するためにa社に対して財務諸表を提出する必要があったものであり,本件名誉毀損等記事の掲載により,これが必要となったものではない。
[反訴請求(未払業務委託料の請求)関係]
(3) 未払業務委託料の有無
(被告の主張)
ア 原告と被告は,平成21年10月1日以降,被告が原告のために前記前提事実イ(ア)ないし(エ)記載の本件業務を行い,原告は被告に対し毎月50万円(源泉徴収分は除く。)を業務委託料として支払う旨の本件第1業務委託契約を締結した。その後,原告と被告は,平成22年10月分以降の業務委託料を40万円(源泉徴収分は除く。)とする旨合意した。
イ 被告は,本件各業務委託契約に基づき,平成21年10月1日から平成22年12月24日までの間,原告のために業務を遂行した。原告は,被告に対し,平成21年10月分から平成22年10月分までの業務委託料を支払ったが,同年11月分及び同年12月分の業務委託料合計80万円を支払わない。
(原告の認否及び反論)
ア 被告の主張アは否認する。
イ 被告の主張イのうち,原告が被告に対し,平成22年11月分及び同年12月分の業務委託料を支払っていないことは認めるが,その余は否認する。前記のとおり,被告は,業務専念義務に違背して自らのビジネスに専念しており,契約期間中の被告の行為は,大半において「原告のために」されものではない。また,被告は,業務委託料の請求根拠である業務日報及び業務月報を提出していないため,原告は被告に対し,業務委託料を支払う義務を負わない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告には,本件各業務委託契約上の任務違背行為があり,その結果,原告に損害を与えたといえるか。)について
(1) 前記前提事実,証拠(甲1の1・2,2~8,9の1・2,10の1・2,11,13~18,乙1,2,原告代表者本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア(ア) 原告代表取締役であったA(以下「A社長」という。)は,株式会社h(以下「h社」という。)代理店部において原告との間の取引に係る連絡業務を担当していた被告が,同社を退職する希望を有していることを聞き及び,被告に対し,原告に転職することを持ちかけた。その際,A社長は,被告と雇用契約を締結することを念頭に置いて,被告に対し,プレーイング・マネジャーとして,自ら営業活動を行って新規顧客を開拓しつつ,売上管理や若手指導を行い,代理店マネジャー会議等に出席すること等を業務内容とすること,勤務時間は午前9時から午後6時とするが,午後6時以降もマネジメント業務を行うこと,月額給与は基本給25万円,職務手当25万円の合計50万円を支払うことを申し入れ,被告もこれを承諾して,契約開始時を平成21年10月1日とする合意が成立した。
原告は,平成21年10月初め,被告と雇用契約書を取り交わそうとしたが,被告から,雇用契約をすると原告において社会保険に加入することになるが,当面は,h社の健康保険を任意継続したいとの申入れがあったため,被告との間で,雇用契約ではなく業務委託契約の形をとることを合意した(本件第1業務委託契約。もっとも,契約書は作成しなかった。)。その後,原告は,被告に対し,平成21年10月から平成22年9月までの間,月額50万円(源泉徴収後は45万円)の業務委託料を支払った。
(イ) 本件第1業務委託契約を締結するに先立ち,被告は,A社長に対し,転職後,原告の業務として,自らが興味を持っていた外国人留学生の就職支援サービスをしたいと提案したが,A社長から,原告の業績はリーマン・ショック後低迷しており,現在,回復基調にある段階にあるので,本業以外の仕事は一切手掛けないなどとして断られた。
イ 被告は,プレーイング・マネジャーとして本件業務等に従事し,部下職員の育成・指導等にも当たっていたが,他方で,原告において委託された業務を遂行するようになった直後から,勤務時間中に外出することがあり,A社長から外出の用向きを尋ねられても,原告のために(あるいは,原告の利益になるので)やっているなどと述べるのみで,それ以上の説明はせず,業務日報の提出もしなかった。これに対し,A社長は,プレーイング・マネジャーとして採用した以上,一定程度被告に仕事を委ねるべきであり,あまりに管理しすぎてはいけないなどと考え,厳しく説明や報告を求めなかった。
また,被告は,原告において委託された業務を遂行するようになった直後から,第三者を原告社内に連れて来て,会議室で打合せをすることが何度かあった。A社長は,被告に対し,その度に,新しい顧客であれば挨拶をするから紹介するよう申し入れたが,被告がこれに応じなかったので,被告との軋轢が生じることを避けるため,それ以上強く指示することはしなかった。
ウ その間,被告は,①平成21年10月14日,e社のB社長と社外で面談し,その後も電子メール(原告から職務上貸与を受けていたパソコン端末による。)のやり取り等をして,同社の新規事業である「△△塾」を支援する旨を伝え,また,②同月23日,f社のC社長と社外で面談し,日本語学校の支援の一環として,外国人留学生を対象とした就職支援サービスの提供を申し入れるなどした。被告がこのようにe社との関係を構築した結果,原告は,e社から広告掲載の依頼を受注する(広告掲載料36万7500円)に至った。
エ 被告は,自らが代表取締役となってg社を設立した上,同社において留学生の採用支援等の事業を行うことを企図し,平成22年3月29日までにi株式会社との間で,電子メールで連絡を取り合って□□シティのバーチャルオフイス利用契約(利用開始日は同年6月1日)を締結し,同年4月ころには,日本及びハワイにおいてg社を起業し(もっとも,g社が設立による商業登記をしたのは,平成23年6月15日であった。),平成22年5月からは,法人を設立することができたことなどを報告する電子メールを第三者に対して送付するようになった(これらの電子メールは,被告が,原告から職務上貸与を受けていたパソコン端末を用いて送信されたものである。)。
他方,被告は,平成22年7月13日に本件ブログを開設し,自らをキャリアカウンセラーと称して,学生の就職支援を行う事業を開始した旨を掲載し,その後も,本件ブログ上で,セミナーを開催するとの予告をしたり,自らの活動状況を報告したりした。
オ 被告は,平成22年8月ころ,A社長と面談し,業務受託後1年弱の間の業務遂行状況についての評価を尋ねたところ,A社長から,それ程評価していないと言われ,原告の業務以外の仕事に従事しているのは問題であるといった指摘を受けた。
カ 原告は,公認会計士から,被告に報酬を支払っているのであれば契約書を作成すべきであるとの指摘を受けたため,平成22年9月中旬ころ,被告に対して,本件第1業務委託契約の締結時に遡った日付である平成21年9月30日付け業務委託契約書案を交付し,内容を確認した上,不備や間違いがあれば申し出るよう付言した。その後,平成22年10月に入って,被告から,特段の訂正申入れ等がないまま,署名押印された上記契約書案が返戻されたため,本件第1業務委託契約に係る契約書(甲2)を取り交わした。
原告は,平成22年9月中旬ころに上記契約書案を交付した時に,これと併せて同月30日付け業務委託契約書案を交付し,同年10月に入ってから,被告より,署名押印された上記契約書案が返戻されたため,本件第2業務委託契約に係る契約書(甲3)を取り交わした。その際,被告は,上記オのとおり,A社長が,被告が原告の業務以外の仕事に従事していることを問題視していることを考慮し,今後もそのような働き方は継続したいが,その分を時間数で換算すると月額10万円程度になるので,業務委託料は40万円として欲しいと申し入れ,A社長もこれを了承した。
キ 原告は,被告に対し,平成22年10月分の業務委託料として40万円(源泉徴収後は36万円)を支払ったが,同月以降も,被告が,契約書に明記された義務である業務日報の提出をしないばかりか,前記前提事実(5)記載のとおり,本件ブログ上で原告の再生を請け負っているといった記事を掲載し,さらには,部下職員に対して,原告からの退職を慫慂するなどしていることが発覚するに及び,被告を退職させることを決意し,平成22年12月24日,被告と面談し,本件解除合意書に署名指印させて,本件第2業務委託契約を合意解除した。
以上の事実が認められる。これに対し,被告は,本件各業務委託契約の内容は,同契約に係る契約書(甲2,甲3)のとおりではなく,原被告間では,時間的拘束を受けないで自由な営業活動を行うことを合意した旨主張する。しかしながら,原告は,当初,雇用契約を締結することを念頭に置いて,被告に対し勤務条件等を提示したが,被告の申入れを受けて業務委託契約とする旨合意したこと,その後,本件第1業務委託契約に係る契約書(甲2)を取り交わした時点においても,被告は,結局は,職務専念義務を明記した条項(同契約書2条5号)を修正することのないまま,同契約書に署名押印していることは前記認定のとおりであり,業務委託契約とする旨合意した際に,当初,原告が提示した勤務条件等を変容する旨合意したことを認めるに足りる的確な証拠はないことをも考慮すると,被告は,本件第1業務委託契約上,勤務時間中は本件業務等に専念し,原告が指定する業務以外の業務に従事しない義務を負っていたと認めるのが相当である(これに対し,本件第2業務委託契約において,被告が本件業務等以外の業務に従事することを前提に業務委託料を40万円に引き下げたことは,前記認定のとおりであるから,同契約においては,職務専念義務は一定程度緩和されたことになる。)。
(2)ア 原告は,被告が,本件各業務委託契約上,本件業務等への専念義務を負っているにもかかわらずこれに違反し,業務時間内に自己のビジネスであるキャリアカウンセラーとしての活動を積極的に行い,本件業務等を履行しなかったと主張する。
イ 前記認定事実及び上記認定事実によれば,①被告は,本件第1業務委託契約上,勤務時間中は本件業務等に専念し,原告が指定する業務以外の業務に従事しない義務を負っていたこと,②被告は,自らが興味を持っていた外国人留学生の就職支援サービスを原告の業務として行いたいと提案したが,A社長から,これを却下されたこと,③それにもかかわらず,被告は,本件第1業務委託契約締結直後から,他社の代表者と面談したり,原告から職務上貸与を受けていたパソコン端末を使用して電子メールをやり取りしたりして,他社の就職支援サービス等を支援する旨を申し入れたこと,④被告は,勤務時間中に外出したり,第三者を原告社内に連れて来て会議室で打合せをすることが複数回に及んだりし,A社長から外出の用向きや打合せ相手を訪ねられても明確に報告しなかったこと,⑤被告は,自らが代表取締役となって会社を立ち上げ,留学生の採用支援等の事業を行うことを企図し,貸与されたパソコン端末を用いて開業準備行為を行うなどしたことが認められるから,これらの事実に徴すると,本件第1業務委託契約上の義務である職務専念義務に違反したと認定するのが相当である。
(原告は,さらに,被告が,本件各業務委託契約に係る契約書3条において,業務日報の提出を義務付けられているにもかかわらず,これを怠り,原告に対して本件業務等の遂行状況を一切報告していないと主張する。本件第1業務委託契約に係る契約書(甲2)3条には原告の主張に沿う条項があること,被告は業務日報の提出もしなかったことは上記認定のとおりであるが,他方,平成22年10月に同契約書を取り交わす前の段階において,原告が,被告に対して業務日報を提出するよう厳しく指導,督促したことを認めるに足りる的確な証拠はなく,原被告間に,業務日報を提出すべき合意が成立していたことを認めるに足りる証拠もないから,この点に係る原告の主張は採用しない。)
(3)ア 原告は,こうした被告の任務違背行為により,少なくとも本件各業務委託契約による業務委託料相当額640万円の損害を被ったと主張する。
イ 被告が,勤務時間中に,職務専念義務に違反して,外出や打合せをし,職務上貸与されたパソコン端末を用いて本件業務等以外の業務に従事したことは上記認定・説示のとおりであるが,他方,被告は,プレーイング・マネジャーとして本件業務等に従事し,部下職員の育成・指導等にも当たっていたこと,被告がe社との関係を構築した結果,原告は,e社から広告掲載の依頼を受注するに至ったことは上記認定事実記載のとおりであり,さらに,弁論の全趣旨によれば,被告が職務上原告から貸与を受けていたパソコン端末には,送受信された2468通の電子メールが残されていたが,これらのうち,原告から職務専念義務に違反するものとして提出があったのは,甲4,5,9の1・2,10の1・2,14ないし17にとどまることが認められる。これらの事実によれば,原告が,被告の職務専念義務違反行為により,一定の損害を被ったことが認められるものの,この損害を具体的に算出することは極めて困難であり,本件は,損害の性質上その額を立証することが極めて困難である場合に当たるから,民訴法248条に従い,相当な損害額を認定するのが相当である。
そして,被告が,勤務時間中に,職務専念義務に違反して,外出や打合せをした回数・内容,職務上貸与されたパソコン端末を用いて送受信した電子メールの回数・内容,上記認定のとおり,原告と被告は,本件第2業務委託契約において,被告が本件業務等以外の仕事に従事することを容認する代わりに,その分を時間数で換算した月額10万円を業務委託料から減額し,業務委託料を40万円と改定したこと,その他本件に顕れた委細の事情を総合考慮すると,被告の職務専念義務違反により原告が被った損害は,平成21年10月から平成22年9月までの間,1か月につき10万円(合計120万円)と認定するのが相当である(平成22年10月の業務委託料は既に40万円に減額されているので,原告が損害を被ったとは認められない。)。
(4) 以上より,原告の本訴第1請求は,被告に対し,120万円の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。
2 争点(2)(名誉毀損等による損害賠償請求権の有無)について
(1) 被告が,本件ブログ上に本件名誉毀損等記事を掲載したことは,前記前提事実(5)に記載のとおりである。
(2) 原告は,本件名誉毀損等記事が掲載された結果,a社から原告の財務状況を説明するよう求められ,同記事の内容が事実に反することを説明せざるを得なくなったところ,これによる原告の損害は300万円を下らないと主張する。
証拠(甲18,19,原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,たしかに,原告は,a社の業務委託先であるh社代理店部のDマネジャーから,本件ブログ上に本件名誉毀損等記事が掲載されたことを受けて,財務状況等について説明をした方がよい旨促されたため,平成22年12月24日,同社代理店部E・EM(エグゼクティブ・マネジャー)と面談し,原告の財務諸表を提出して財務状況を説明するとともに,本件名誉毀損等記事の内容が虚偽であることなどの説明を行ったことが認められるが,他方,証拠(甲12の1~3,原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告の損益計算書上の損益は,平成19年度(平成19年10月1日~平成20年9月30日)が50万9404円の純利益,平成20年度(平成20年10月1日~平成21年9月30日)が2440万4611円の純損失,平成21年度(平成21年10月1日~平成22年9月30日)が569万4453円の純利益であったことが認められ,これらの事実に徴すると,(A社長が,古巣であるa社グループに属し取引の太宗を占める相手方であるh社に対し,自己の財務状況をせざるを得なくなったことにより,精神的な苦痛を被ったことは窺われるものの)原告が,本件名誉毀損等記事の掲載により,経済的な損害を被ったことを認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上より,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴第2請求は理由がない。
3 争点(3)(未払業務委託料の有無)について
(1) 前記前提事実及び上記認定事実によれば,原告は,平成22年9月中旬ころ,被告に対し,同月30日付け業務委託契約書案を交付し,同年10月に入ってから,被告より,署名押印された上記契約書案が返戻されたため,本件第2業務委託契約に係る契約書(甲3)を取り交わしたというのであり,また,証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,同契約書3条1項1号には「乙(注;被告)は業務日報を甲(注;原告)に報告することで業務委託料の申請根拠とする。」との条項があることが認められるから,この業務日報の提出による委託業務の遂行状況の報告は,本件第2業務委託契約上の被告の義務であったものと認められる。そして,本件第2業務委託契約において,被告が本件業務等以外の業務に従事することを前提に業務委託料を40万円に引き下げられたことは,前記認定のとおりであるが,このように職務専念義務が一定程度緩和された以上,被告が本件業務等を確実に遂行しているのか否かを原告が確認,判断するため,業務日報の提出による委託業務の遂行状況の報告は,必要不可欠の役割を果たすことになったものである。
それにもかかわらず,被告が,平成22年11月以降,原告に対し,業務日報を提出して委託業務の遂行状況を報告したことを認めるに足りる的確な証拠はないから,被告は,同年11月分及び同年12月分の業務委託料を請求する権利を有しないというほかはない。
(2) 以上より,その余の点につき判断するまでもなく,被告の反訴請求は理由がない。
第4 結論
よって,原告の本訴第1請求は,被告に対し,120万円及びこれに対する平成23年7月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し,その余は理由がないのでこれを棄却し,本訴第2請求は理由がないのでこれを棄却し,被告の反訴請求は理由がないのでこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 大竹昭彦)
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