「営業コンサルタント」に関する裁判例(19)平成30年12月26日 東京地裁 平28(ワ)13984号 損害賠償請求事件
「営業コンサルタント」に関する裁判例(19)平成30年12月26日 東京地裁 平28(ワ)13984号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成30年12月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)13984号
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2018WLJPCA12268022
裁判年月日 平成30年12月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)13984号
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2018WLJPCA12268022
東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 X1
埼玉県川越市〈以下省略〉
原告 X2
原告ら訴訟代理人弁護士 助川裕
同 中谷冴一
同 佐々木佳高
同 北郷貴史
同 馬場裕
同訴訟復代理人弁護士 岩田夏樹
同 橋田健
同 齋藤魁
東京都港区〈以下省略〉
被告 株式会社Y
同代表者監査役 A
同訴訟代理人弁護士 中野厚徳
同 幡田宏樹
同 吉藤真一郎
主文
1 被告は,原告X1に対し,3750万円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,1050万円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告X1と被告との間においては,7分の1を原告X1の,7分の6を被告の各負担とし,原告X2と被告との間においては,2分の1を原告X2の,2分の1を被告の各負担とする。
5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告X1に対し,4400万円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,1940万円及びこれに対する平成28年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,平成27年6月26日開催の定時株主総会において被告(平成30年2月9日に商号変更する前の商号は,「a株式会社」であった。)の取締役及び代表取締役に選任され,平成28年4月2日に被告の取締役を解任された原告X1(以下「原告X1」という。同人は,同日に被告の代表取締役を退任した。)並びに上記定時株主総会において被告の取締役に選任され,平成28年4月2日に被告の取締役を解任された原告X2(以下「原告X2」という。)が,上記各解任には正当な理由があるとはいえないと主張して,被告に対し,会社法339条2項に基づき,得べかりし取締役報酬等相当額(原告X1については4400万円,原告X2については1940万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年5月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 原告らは,被告の元取締役である。
イ 被告は,不動産賃貸業を主要な事業とする株式会社であり,一人株主である株式会社b(以下「b社」という。)の完全子会社である。
(2) 原告らの役員選任等
ア 原告X1は,平成27年6月26日開催の定時株主総会において被告の取締役及び代表取締役に選任された。原告X1の取締役報酬は,月額250万円であった。
イ 原告X2は,平成27年6月26日開催の定時株主総会において被告の取締役に選任された。原告X2の取締役報酬は,月額70万円であった。
ウ 原告らの役員任期は,選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであるとされていたから,平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度(以下「平成28年事業年度」という。)に関する定時総会の終結の時(平成29年6月)までであった。
(3) 原告らの役員解任
b社は,平成28年4月2日,被告の一人株主として,原告らの取締役解任についての提案書を発し,当該提案について書面で同意の意思表示をした。
したがって,原告らは,同日,会社法319条1項に基づき,原告らの取締役解任について承認可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされ,解任された(以下「本件解任」という。)。
2 争点
(1) 本件解任に正当な理由があるか否か
(被告の主張)
本件解任には,以下のアないしエのとおり正当な理由が存在する。
ア 有限会社cに係る案件
(ア) d株式会社(以下「d社」という。)は,平成26年10月3日,合同会社eに対し,横浜市都筑区所在の商業施設f(以下「f施設」という。)に係る信託受益権等を代金21億5000万円で売却した。
また,d社は,同日,合同会社gに対し,川崎市宮前区所在のパチンコ店h店(以下「h店」という。)等の土地建物を代金38億5411万2000円で売却した。
(イ) 原告らは,上記(ア)のとおりd社が信託受益権等ないし土地建物を売却するに当たり,d社の特別顧問であるB及びd社の店舗開発担当者であるCが取締役を務める有限会社c(以下「c社」という。)に利益を取得させる目的で,d社と被告との間及び被告とc社との間で,f施設ないしh店に関する架空の業務委託契約書等(乙4の1,5の1,6の1,7の1,8の1)を複数作成した。
(ウ) 原告らは,上記(イ)に基づきd社から被告に平成26年10月3日に支払われた1億9278万円及び3456万円について,売上げの実体がなく架空のものであるにもかかわらず,被告の売上げとして計上して虚偽の会計帳簿を作成した。
(エ) 原告らは,上記(イ)に基づき被告からc社に平成26年10月3日に支払われた6426万円及び2160万円,平成27年6月2日に支払われた1億2744万円並びに平成28年3月31日に支払われた6480万円について,経費の支払としての実体がなく架空のものであるにもかかわらず,被告の経費として計上して虚偽の会計帳簿を作成した。
(オ) 原告らは,上記(イ)の契約書等及びこれに基づく支払が架空のものであることの発覚を免れるため,架空の業務委託契約(乙6の1)を合意解約した(乙9の1)上,成果物があると原告らが主張する業務委託契約書(乙10の1)を別途作成した。
(カ) 原告らは,原告X2,D及びE(以下「E」という。)のb社からの退職に係る退職金相当額を捻出する目的で,平成27年6月1日付けで,業務委託料を6000万円とする,岐阜県本巣市所在のiショッピングセンターに係る架空の業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)をc社と締結し,6000万円を社外に流出させた。
本件業務委託契約は,iショッピングセンターの再開発についての,パチンコ店出店可能性の特殊市場性調査業務等の有効活用コンサルタントに関する業務,パチンコ店出店に関して発生した法律事案への対応に関する補助助言業務等の庶務関連業務等を業務内容とするものとされている。
(キ) 仮に,原告らが主張するとおり,本件業務委託契約が実体を伴うものであったとしても,原告らは,業務委託料6000万円もの本件業務委託契約を締結するに際し,相見積りを取るなど通常取締役として入手すべき情報を入手することなくc社の言い値で本件業務委託契約を締結して6000万円の支払を行った。
(ク) 原告らは,2億円以上の金員を被告の預金口座を通じてd社からc社に移した行為について,d社の代表者の同意があることを確認していない。
(ケ) 原告らの上記(イ)ないし(ク)の行為は,被告の取締役としての忠実義務(会社法355条)及び善管注意義務(会社法330条,民法644条)に違反する違法な行為である。
また,原告らの上記(ウ)及び(エ)の行為は,粉飾決算を行うものであり,会社法431条,432条1項に違反する違法な行為である。
イ 有限会社jに係る案件
(ア) 原告らは,平成27年3月期の被告の売上げを加算し,被告に現金を還流させる目的で,原告X1が個人的に懇意にしている業者である有限会社j(以下「j社」という。)を利用して同社から被告に3240万円(消費税込み)を振り込ませることを企図して,平成27年12月22日付けで,被告とj社との間で架空の業務委託契約書(乙47)を作成した。
その内容は,j社が,被告に対し,東京都千代田区○○三丁目の再開発に関し,マーケティング調査等を行う基本構想業務,行政対応等を行う基本計画業務,広告宣伝計画等を行う総合監修業務を代金3240万円で委託するというものであった。
(イ) 原告らの上記(ア)の行為は,被告の取締役としての忠実義務(会社法355条)及び善管注意義務(会社法330条,民法644条)に違反する違法な行為である。
ウ 株式会社kに係る案件
(ア) 原告らは,被告に架空の利益を計上する目的で,株式会社l(以下「l社」という。)と株式会社k(以下「k社」という。)との間で福島県内における作業員宿泊所新築計画事業に関する架空のコンサルタント業務,デザイン等関連業務に係る業務委託契約書(乙79)を作成させ,k社と被告との間で上記業務に係る紹介料としてk社が被告に4212万円(消費税込み)を支払う旨の平成27年11月末日付けの架空の取引約定書(未押印。乙56)を作成した。
(イ) 原告らは,上記(イ)〈原文ママ〉に基づきk社から被告に平成28年3月15日に振り込ませた4212万円について,売上げの実体がなく架空のものであるにもかかわらず,被告の売上げとして計上して虚偽の会計帳簿を作成した。
(ウ) 原告らの上記(ア)及び(イ)の行為は,被告の取締役としての忠実義務(会社法355条)及び善管注意義務(会社法330条,民法644条)に違反する違法な行為である。
また,原告らの上記(イ)の行為は,粉飾決算を行うものであり,会社法431条,432条1項に違反する違法な行為である。
エ 株式会社mに係る案件
(ア) 原告X1は,被告の代表者として,株式会社m(以下「m社」という。)との間で,千葉県松戸市内の矢切温浴施設新築計画に係る開発準備金として無担保で1億5000万円を消費寄託する旨の平成28年3月24日付けの消費寄託契約(以下「本件消費寄託契約」という。乙30)を締結し,同年4月4日に合同会社n(以下「n社」という。)に対して同額を振り込んだ。
(イ) 原告X1は,株式会社o(以下「o社」という。)の取締役であるF(以下「F」という。)との間で,平成28年3月頃,iショッピングセンターに係る収用補償折衝アドバイザリー契約(以下「本件アドバイザリー契約」という。)の報酬について,被告にとって不利になるような原価の見直しを含めた再協議を行った。
(ウ) 原告X1は,本件消費寄託契約を締結するに当たり,その判断の前提として,事業の内容,進捗状況,m社及びn社について適切に情報の収集を行っていない。それにもかかわらず,原告X1は,平成28年3月の取締役会において,上記(ア)の温浴施設の建設事業が進められるかのような説明をして,本件消費寄託契約を締結した。
本件消費寄託契約に基づく金銭の返還期限は平成29年3月31日であるが,金銭はいまだに返済されていない。
(エ) 原告らの上記(ア)ないし(ウ)の行為は,被告の取締役としての忠実義務(会社法355条)及び善管注意義務(会社法330条,民法644条)に違反する違法な行為である。
(原告らの主張)
ア c社に係る案件について
(ア) 原告らが,d社と被告との間及び被告とc社との間で,f施設ないしh店に関する架空の業務委託契約書等(乙4の1,5の1,6の1,7の1,8の1)を作成したことは認める。
しかし,d社が一旦支払った仲介手数料を同社の関連会社であるc社に返還することは,f施設及びh店に係る取引に関してd社から提示された条件であり,不動産投資ファンドを組織して上記取引を行うことを望んでいた,被告の完全親会社であるb社の代表取締役であるG(以下「G」という。)の指示により,上記の架空の業務委託契約書等が作成されたものである。
また,上記の取引により,被告は,d社から被告に支払われた金額と被告からc社に支払われた金額との差額として,約200万円の手数料を取得しており,被告には何らの損害も生じていない。
(イ) 被告は,本件業務委託契約が実体のないものであり,被告がc社に支払った6000万円という業務委託料は不相当である旨主張する。
しかし,本件業務委託契約の対象であるiショッピングセンターの再開発は,百億円単位の売上げを想定した大規模事業であり,そのために,被告は,高い利益率を見込めるパチンコ店を中心とした再開発を試みることとし,h店という日本屈指の売上げを誇るパチンコ店のコンサルティングを手掛けた実績のあるc社との間で本件業務委託契約を締結したものである。したがって,本件業務委託契約は実体のあるものであり,6000万円という業務委託料は不相当とはいえない。
また,被告は,本件業務委託契約の締結に当たり相見積りを取らなかったことを問題視するが,パチンコ店を中心としたショッピングセンターの再構築という特殊かつ大規模な案件について,既に経験・実績と共にビジネス上のつながりがあるc社という業者が存在する状況で,他の業者の相見積りを取らなかったとしても,その判断は,経営判断として合理的であるというべきである。
イ j社に係る案件について
(ア) 被告とj社との間で業務委託契約が締結されたことは認めるが,j社の代表取締役であるH(以下「H」という。)は,上記業務委託契約の締結について,Eが単独で行ったものである旨陳述しており,原告らが当該案件に直接関与していないことは明らかである。
(イ) 原告らが取締役として他の取締役の職務執行を監督する義務を負っていることを踏まえても,各案件についてその実在性のレベルから詳細な根拠資料や報告を求めることは現実的ではなく,Eによる架空の契約を看破することは不可能である。
ウ k社に係る案件について
(ア) 上記被告の主張ウ(ア)及び(イ)の事実経過については認める。
福島県内における作業員宿泊所新築計画事業においては,被告,l社らが同事業からの利益を分配することが合意されており,平成28年3月15日にl社からk社を経由して被告に支払われた4212万円についても,原告X1とl社の実質的代表者であるIが協議した上で,利益分配の最初の支払時期を早めてもらったにすぎず,支払われた金銭は被告にとって確定的な売上げであり,帳簿上も売上げとして計上することに何ら問題はない。
(イ) その結果,被告は当該事業年度の決算を黒字化させ,ひいてはb社グループ全体の連結決算においても利益となった。
エ m社に係る案件について
(ア) m社から本件消費寄託契約に係る1億5000万円が返金されない理由は,m社の資金不足ではなく,本件アドバイザリー契約の残報酬債権を自働債権として相殺が主張されているためであるから,m社らに対する与信管理を怠ったとの被告の主張は,前提を欠いている。
(イ) 本件アドバイザリー契約の報酬額は,iショッピングセンターの再構築に関する原価が未確定であったことから,本件解任時においても確定していなかったのであり,「被告にとって不利になるような原価の見直しを含めた再協議」という被告の認識自体が誤っている。
(ウ) 本件消費寄託契約は,事業の進捗にかかわらず,平成29年3月31日には1億5000万円に開発益金として固定金額1500万円を付加して返還を受けるというものであり,被告からすれば,m社の信用状態自体に不安が生じない限り,事業の進捗を逐一把握すべき立場になかった。
オ 以上によれば,被告が主張する本件解任の理由は,「正当な理由」(会社法339条2項)には当たらない。
本件解任は,b社の代表取締役であるGが,①原告らが独自に被告の業績を回復,発展させたことに嫉妬したこと,②Gの関与した△△三丁目の一団の土地に係る再開発事業に関して,Gを被疑者とする警察の捜査に原告X1が協力したことに悪感情を抱いたこと,③被告に入ったiショッピングセンターの収用補償金を自由に使いたいと考えたこと,を実質的な理由とするものであり,正当性は認められない。
(2) 本件解任により原告らに生じた損害
(原告らの主張)
ア 原告らは,本件解任がされなければ,任期満了となる平成29年6月に開催される予定の平成28年事業年度に関する定時株主総会まで取締役報酬を支給されるはずであった。
イ 原告X1の取締役報酬は,月額250万円であり,平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度(以下「平成27年事業年度」という。)の業績が好調であったこと,平成28年事業年度が黒字見込みであったことから,平成28年6月から月額300万円に増額する予定であり,既に予算も組んでいた。
したがって,原告X1は,本件解任がされなければ,任期満了までの間に,下記のとおり取締役報酬として合計4400万円の支給を受けていたはずであり,本件解任により,同額の損害を被った。
平成28年4月から5月まで 250万円×2月=500万円
同年6月から平成29年6月まで 300万円×13月=3900万円
ウ 原告X2の取締役報酬は,月額70万円であり,平成27年事業年度の業績が好調であったこと,平成28年事業年度が黒字見込みであったことから,平成28年6月から月額100万円に増額し,また,同月に500万円の一時賞与を支給する予定であり,既に予算も組んでいた。
したがって,原告X2は,本件解任がされなければ,任期満了までの間に,下記のとおり取締役報酬として合計1940万円の支給を受けていたはずであり,本件解任により,同額の損害を被った。
平成28年4月から5月まで 70万円×2月=140万円
同年6月から平成29年6月まで 100万円×13月=1300万円
平成28年6月 一時賞与500万円
(被告の主張)
原告らの任期,原告X1の取締役報酬が月額250万円であったこと及び原告X2の取締役報酬が月額70万円であったことは認める。
しかし,原告らの取締役報酬の増額や原告X2の一時賞与については,被告の親会社であるb社の取締役会等を経て最終的に決定されるものであり,損害賠償の対象とならないし,k社案件等において被告に計上された売上げ,利益等は架空のものでありそもそも増額の前提を欠くから,損害賠償の対象とならない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件解任に正当な理由があるか否か)について
(1) c社に係る案件について
ア 架空の契約書を作成し,それに基づいて会計帳簿を作成した行為について
被告は,原告らが,d社と被告との間及び被告とc社との間で,f施設ないしh店に関する架空の業務委託契約書等(乙4の1,5の1,6の1,7の1,8の1)を作成し,これに基づきd社から被告に支払われた金員を被告の売上げとして計上し,被告からc社に支払われた金員を被告の経費として計上して虚偽の会計帳簿を作成した行為や,後に架空の業務委託契約を合意解約した行為(乙9の1)について,取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反し,粉飾決算に該当する違法な行為であり,本件解任には正当な理由があると主張する。
原告らも,上記行為自体は争わないところ,原告らの上記行為により被告に損害が発生したことや上記粉飾決算により被告の対外的な信用が低下したことを認めるに足りる証拠はないこと,被告がb社を一人株主とする非公開会社であったこと(甲1,弁論の全趣旨),被告の一人株主であるb社の代表取締役であるGが本件解任の当時原告らの上記行為を問題視していなかったこと(甲16の1・2,乙125,証人G)に照らすと,原告らの上記行為をもって本件解任に正当な理由があるとは認め難い。
また,被告は,原告らが,2億円以上の金員をd社からc社に移した行為についてd社の代表者の同意があることを確認していないことをもって,被告の取締役としての忠実義務違反及び善管注意義務違反を主張するが,原告らがd社の特別顧問であるB及びd社の店舗開発担当者であるCの意思に基づいて業務委託契約書等(乙4の1,5の1,6の1,7の1,8の1)を作成していること(弁論の全趣旨),同業務委託契約書等にはd社の社印が押されていること(乙4の1,乙7の1)に照らすと,原告らがd社の代表者の同意があることを確認していないことをもって,原告らに被告の取締役としての忠実義務違反ないし善管注意義務違反があるとは認められない。
イ 本件業務委託契約について
被告は,原告らが,架空の本件業務委託契約を締結して6000万円を社外に流出させた行為や,仮に本件業務委託契約が実体を伴うものであったとしても,業務委託料6000万円もの本件業務委託契約を締結するに際して相見積りを取るなど通常取締役として入手すべき情報を入手することなくc社の言い値で本件業務委託契約を締結して6000万円の支払を行った行為について,取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反する行為であり,本件解任には正当な理由があると主張する。
しかしながら,①本件業務委託契約の成果物の内容(乙59,60),②本件業務委託契約の対象であるiショッピングセンターの再開発においてパチンコ店を出店したとすれば,10年間の累計で70億円余りもの売上げ,20億円余りもの営業利益が予想されたこと(乙59),③一般的にパチンコ店の利益率が10パーセントから15パーセントと高いこと(乙59,原告X2本人,弁論の全趣旨),④本件業務委託契約の相手方であるc社が,h店等の繁盛店を手掛けるなど,パチンコ店の出店や経営について相応の実績を有していたこと(甲27,原告X2本人,弁論の全趣旨),⑤本件業務委託契約の被告側の主たる担当者である原告X2が従前からc社と仕事上のつながりを有していたこと(原告X2本人,弁論の全趣旨),⑥c社の被告に対する助言等の対象がパチンコ店の出店のみならずその後の経営にまで及んでいたこと(原告X2本人)に照らせば,本件業務委託契約は架空のものではなく実体のあるものであったというべきであり,6000万円という業務委託料が不相当に高額であるとも断じ難い。また,上記①ないし⑥の事情を考慮すると,相見積りを取ることなくc社と6000万円という業務委託料で本件業務委託契約を締結し,同契約に基づいて同社に同額を支払った原告らに被告の取締役としての忠実義務違反ないし善管注意義務違反があるとまでは認められない。
(2) j社に係る案件について
被告は,原告らが,平成27年3月期の被告の売上げを加算し,被告に現金を還流させる目的で,j社から被告に3240万円を振り込ませるために架空の業務委託契約書(乙47)を作成した行為について,取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反する行為であり,本件解任には正当な理由があると主張する。
しかしながら,j社の代表取締役であるHは,被告の取締役であるEからの依頼で上記の架空の業務委託契約書を作成したと陳述するものの,原告らの同契約書の作成への関与を否定する陳述をしており(甲13),他に,原告らが上記の業務委託契約書の作成に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
また,原告らは,被告がj社と業務委託契約を締結するに当たり稟議書の決裁を行っている(乙48)が,同契約が被告に利益をもたらす内容のものであること,同決裁の時点で同契約が架空のものであることを疑わせるような事情があったと認めるに足りる証拠もないことからすれば,原告らについてEに対する監督・監視義務違反を認めることも困難である。
したがって,j社に係る案件について原告らの忠実義務違反及び善管注意義務違反をいう被告の主張は,理由がない。
(3) k社に係る案件について
被告は,原告らが,l社とk社との間で架空の業務委託契約書(乙79)を作成させ,k社と被告との間でその紹介料としてk社が被告に4212万円を支払う旨の架空の取引約定書(乙56)を作成し,これに基づきk社から被告に支払われた4212万円を被告の売上げとして計上して虚偽の会計帳簿を作成した行為について,取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反し,粉飾決算に該当する違法な行為であり,本件解任には正当な理由があると主張する。
原告らも,上記事実経過は争わないところ,原告らの上記行為により被告に損害が発生したことや上記粉飾決算により被告の対外的な信用が低下したことを認めるに足りる証拠はないこと,被告がb社を一人株主とする非公開会社であったこと(甲1,弁論の全趣旨)に照らすと,原告らの上記行為をもって本件解任に正当な理由があるとまでは認め難い。
(4) m社に係る案件について
被告は,m社との間で矢切温浴施設新築計画に係る開発準備金として無担保で1億5000万円を消費寄託する旨の本件消費寄託契約を締結して同額を振り込んだが,同額がいまだに返還されていないことについて,原告X1が,本件消費寄託契約を締結するに当たり,事業の内容,進捗状況,m社の資力等について情報の収集を怠り,被告の取締役会において上記温浴施設の建設事業が進められるかのような説明をした点をもって,取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反する旨主張する。
被告の上記主張は,m社の返還資力がないにもかかわらず,無担保で本件消費寄託契約を締結して1億5000万円を振り込んだ行為を問題にするものであるところ,証拠(乙121)及び弁論の全趣旨によれば,m社が同額を返還していないのは,m社が被告に対して有する別の債権を自働債権とする相殺を主張して紛争になっているためであることが認められ,m社の返還資力がないことを認めるに足りる証拠もないから,被告の上記主張は,前提において当を得ないものというべきである。
また,原告X1は,平成28年3月の被告の取締役会において上記温浴施設の建設事業計画の存在を裏付ける資料(乙123の1・2)に基づいて同事業計画について説明しているところ,本件消費寄託契約が締結された同月の時点で,同事業計画が実現可能性の乏しいものであったことを認めるに足りる証拠はないから,原告X1が,事業の内容,進捗状況等について情報の収集を怠り,取締役会において同事業計画が進められるかのような誤った説明をしたものと認めることはできない。
さらに,被告は,原告X1が,平成28年3月頃,o社の取締役であるFとの間で,本件アドバイザリー契約の報酬について,被告にとって不利になるような原価の見直しを含めた再協議を行ったことをもって,取締役としての忠実義務違反及び善管注意義務違反を主張する。しかし,証拠(乙121)によれば,上記再協議は,本件解任により中断されたまま現在に至っていることが認められ,原告X1がFとの間で被告にとって不利な合意をしたことを認めるに足りる証拠はないから,上記再協議を行ったことそれ自体をもって取締役としての忠実義務違反及び善管注意義務違反をいう被告の上記主張は,理由がない。
(5) 以上によれば,被告の主張する本件解任の理由はいずれも採用することができず,本件解任について「正当な理由」(会社法339条2項)があると認めることはできない。
2 争点(2)(本件解任により原告らに生じた損害)
(1) 本件解任には正当な理由が認められないから,原告らは,会社法339条2項に基づき,被告に対し,得べかりし取締役報酬相当額の損害賠償請求権を有するというべきである。
(2) 原告らの残任期が平成28年4月から平成29年6月までの15か月間であったこと,原告X1の取締役報酬が月額250万円であったこと及び原告X2の取締役報酬が月額70万円であったことは,争いがない。
原告らは,原告X1の取締役報酬が本件解任後の平成28年6月から月額300万円に増額される予定であり,また,原告X2については,取締役報酬が同月から月額100万円に増額され,同月に500万円の一時賞与が支給される予定であったと主張し,これを前提とした損害を主張する。
しかしながら,原告らが主張する取締役報酬の増額及び原告X2への一時賞与の支給について,被告の一人株主であるb社の取締役会等における意思決定が行われたことを認めるに足りる証拠はなく,本件解任の時点において,原告らが主張するような取締役報酬の増額及び原告X2への一時賞与の支給が行われる高度の蓋然性があったとまで認めることはできないから,損害額の算定に当たって原告らの取締役報酬の増額及び原告X2への一時賞与の支給を考慮することは相当ではないというべきである。
(3) そうすると,原告X1の得べかりし取締役報酬相当額は,次の計算式のとおり,3750万円となる。
250万円×15月=3750万円
また,原告X2の得べかりし取締役報酬相当額は,次の計算式のとおり,1050万円となる。
70万円×15月=1050万円
第4 結論
よって,原告らの請求は,主文記載の限度でいずれも理由があるから認容するが,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第8部
(裁判官 坂田大吾)
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