「営業コンサルタント」に関する裁判例(7)平成31年 3月15日 神戸地裁姫路支部 平25(わ)663号・平26(わ)157号・平26(わ)739号・平27(わ)157号・平27(わ)488号
「営業コンサルタント」に関する裁判例(7)平成31年 3月15日 神戸地裁姫路支部 平25(わ)663号・平26(わ)157号・平26(わ)739号・平27(わ)157号・平27(わ)488号
裁判年月日 平成31年 3月15日 裁判所名 神戸地裁姫路支部
事件番号 平25(わ)663号・平26(わ)157号・平26(わ)739号・平27(わ)157号・平27(わ)488号
事件名
文献番号 2019WLJPCA03156009
裁判年月日 平成31年 3月15日 裁判所名 神戸地裁姫路支部
事件番号 平25(わ)663号・平26(わ)157号・平26(わ)739号・平27(わ)157号・平27(わ)488号
事件名
文献番号 2019WLJPCA03156009
上記の者に対する殺人,生命身体加害略取,逮捕監禁致死,逮捕監禁被告事件について,当裁判所は,検察官飯濱岳出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
被告人を死刑に処する。
理由
【罪となるべき事実】
第1(B第1事件)
被告人は,A1ことA2(以下「A1」という。)と共謀の上,B(当時49歳)(以下「B」という。)を逮捕監禁することを企て,平成21年4月20日頃,兵庫県姫路市a区〈以下省略〉bマンション301号室(以下「a区マンション」という。)において,同所に設置した,鉄パイプ等を組み合わせて作成した檻内にBを入れて閉じ込めた上,その動静を監視することを開始し,その頃から平成22年6月13日頃までの間,a区マンションの檻内及び同市a区〈以下省略〉所在の事務所(以下「a区事務所」という。)に設置した,角材及び合板等を組み合わせるなどして作成した檻内にBを入れて閉じ込めた上,その動静を監視することを継続した。被告人は,さらに同日頃,Bに目隠し及び両手錠をし,両足首をガムテープ様のもので巻き付けて固定し,a区事務所下ガレージに駐車中の被告人が運転する自動車内に横たわらせて,Bを乗せたまま発進させ,同所から同市〈以下省略〉c株式会社d店駐車場まで前記自動車を走行させるなどした。このようにして,被告人は,Bをa区マンション,a区事務所及び前記自動車内のいずれからも脱出できないようにし,もってBを不法に逮捕監禁した。
第2(B第2事件)
被告人は,A1と共謀の上,平成22年6月中旬頃,兵庫県内又はその周辺において,B(当時50歳)に対し,殺意をもって,けん銃を用いて弾丸を発射してその身体に命中させ,よって,その頃,同所において,Bを死亡させて殺害した。
第3(C事件)
被告人は,A1,A3(以下「A3」という。),A4(以下「A4」という。)及びA5(以下「A5」という。)と共謀の上,CことC1(当時57歳)(以下「C」という。)を逮捕監禁することを企て,さらに,被告人及びA1においては,Cの生命に対する加害の目的で,A5においては,Cの身体に対する加害の目的で,平成22年4月13日,兵庫県姫路市〈以下省略〉所在のe店駐車場において,Cに対し,背後からその身体に腕を回して絞め付け,そのままCを同所に駐車中の普通乗用自動車内に押し込み,同車を発進させた。そして,被告人らは,走行中あるいは停車中の同車内において,Cの両手首及び両足首に粘着テープを巻き付け,寝袋に入れるなどしてCの身体を緊縛した上,Cの口に粘着テープを貼るなどして,前記e店駐車場から同市〈以下省略〉所在のf店駐車場を経由して同県三木市〈以下省略〉所在の倉庫(以下「三木倉庫」という。)まで同車を走行させ,同倉庫内にCを運び入れたが,同車内にCを押し込んでからCが死亡するまでの間,Cをいずれからも脱出できないようにした。このようにして,被告人らは,被告人及びA1においては生命に対する加害の目的で,A5においては身体に対する加害の目的で,Cを略取するとともにCを不法に逮捕監禁したが,前記一連の逮捕監禁行為により,その頃,前記e店駐車場から三木倉庫に至るまでの間を走行中又は停車中の同車内若しくは三木倉庫内のいずれかの場所において,Cを死因不詳により死亡させた。
第4(D事件)
被告人は,A1と共謀の上,D(当時30歳)(以下「D」という。)を逮捕監禁することを企て,平成22年8月30日,兵庫県姫路市〈以下省略〉g公園駐車場に駐車中の自動車内において,Dに目隠し及び両手錠をした上,同所から同車を走行させて,前記状態のDを三木倉庫まで連行し,さらに,同倉庫内に設置された木材等を組み合わせて作成した箱様の小室内に押し入れ,同小室の出入口扉を外側からかんぬきで施錠して閉じ込めた上,その動静を監視することを開始し,その頃から同年9月28日までの間,前記小室内又は兵庫県内を走行等していた自動車内等において,その動静を継続して監視するなどして,Dをいずれからも脱出できないようにし,もってDを不法に逮捕監禁した。
第5(E第2事件(殺人))
被告人は,A1と共謀の上,平成23年2月10日午後6時53分頃から同月11日午前2時45分頃までの間に,兵庫県姫路市h区i町〈以下省略〉所在の倉庫(以下「i町倉庫」という。)内又は同所から同市〈以下省略〉j公園付近に至るいずれかの場所に駐車中の普通貨物自動車の荷台コンテナ内において,E(当時37歳)(以下「E」という。)に対し,殺意をもって,その頸部を長さのある幅の広い柔らかい物及び手指で圧迫し,その頃,同所において,Eを頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した。
【証拠の標目】―括弧内は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の標目番号
判示事実全部について
・ 被告人の公判供述
・ 証人A6の公判供述(第2回公判期日におけるものは証拠排除部分を除く。以下,第2回及び第14回公判期日におけるものを「A6①」といい,第43回及び第47回公判期日におけるものを「A6②」という。)
・ 証人Dの公判供述
・ 証人A7の公判供述(第5回公判期日におけるものは証拠排除部分を除く。第46回公判期日におけるものは立証趣旨拡張後の部分。以下,第5回公判期日におけるものは「A7①」という。)
・ 証人A3の公判供述(第6回及び第19回公判期日におけるもの。以下「A3①」という。)
・ 証人A5の公判供述
・ 証人A4の公判供述(第13回公判期日におけるもの。以下「A4①」という。)
・ 証人A8の公判供述(第35回公判期日におけるもの。以下「A8①」という。)
・ 証人A9の公判供述
・ 統合捜査報告書3,16(甲607,620)
・ USBメモリ内のデータの印字物11枚(甲597)
判示第1(B第1事件),第2(B第2事件),第5(E第2事件(殺人))の事実について
・ 証人A3の公判供述(第27回公判期日におけるもの。以下「A3②」という。)
・ 証人A10の公判供述
判示第1(B第1事件),第2(B第2事件)の事実について
・ 証人Fの公判供述
・ 証人A11の公判供述(第38回公判期日におけるもの。以下「A11③」という。)
・ 証人Gの公判供述
・ 証人A12の公判供述
・ 証人A4の公判供述(第44回公判期日におけるもの。以下「A4③」という。)
・ 証人A7の公判供述(第46回公判期日におけるもののうち立証趣旨拡張前の部分。以下,第46回公判期日におけるもの全体を「A7②」という。)
・ A13の検察官調書謄本(甲364)
・ A14の検察官調書(甲375(抄本,採用部分に限る。),376(謄本))
・ A15の検察官調書謄本(甲392)
・ A16の警察官調書(甲380)
・ A4の検察官調書謄本(甲446,447。いずれも採用部分に限る。)
・ 統合捜査報告書44~55,57,59(甲648~659,661,663)
・ 押収してある〈会話 全体の流れ〉と標題のノート用紙1枚(甲592,平成31年押第1号符号1),手帳1冊(甲591,同符号2)
判示第2(B第2事件),第3(C事件),第4(D事件)の事実について
・ 統合捜査報告書8~10,21(甲612~614,625)
判示第3(C事件),第4(D事件),第5(E第2事件(殺人))の事実について
・ 統合捜査報告書4(甲608)
判示第3(C事件),第5(E第2事件(殺人))の事実について
・ 証人A4の公判供述(第29回公判期日におけるもの。以下「A4②」という。)
・ 証人A1ことA2の公判供述(証拠排除部分を除く。)
・ A1ことA2の裁判官面前調書抄本(甲540)及び検察官調書謄本(甲541)
・ A17の検察官調書謄本(甲99)
判示第3の事実(C事件)について
・ 証人Hの公判供述(第10回公判期日におけるもの。以下「H①」という。)
・ 証人A18ことA19の公判供述
・ 証人A11の公判供述(第10回公判期日におけるもの。以下「A11①」という。)
・ 証人Iの公判供述(第12回公判期日におけるもの。以下「I①」という。)
・ 証人A20の公判供述
・ A4の裁判官面前調書抄本(甲665)
・ A3の裁判官面前調書抄本(甲549(採用部分に限る),669)
・ 統合捜査報告書18~20,22~24,27(甲622~624,626~628,631)
・ 微物採取報告書謄本(甲551,558)
判示第4の事実(D事件)について
・ 統合捜査報告書7,12(甲611,616)
判示第5の事実(E第2事件(殺人))について
・ 証人A21の公判供述
・ 証人Iの公判供述(第34回公判期日におけるもの。以下「I②」という。)
・ 証人A22の公判供述
・ 統合捜査報告書28~42,61(甲632~646,671)
なお,C事件の公訴事実中,A5がCに対する生命加害目的を有していたことについては,証拠上これを認めることはできないが,本件に至るまでの経過や略取の態様の粗暴さ等から,A5がCに対する身体加害目的は有していたものと認めた。
【争点に対する判断】
第1 はじめに(争点判断の構成と証拠挙示の方法)
本件の争点は,各犯罪の成否(C事件の逮捕監禁部分を除く)及び各犯罪についてA1との共謀(A1の指示)が認められるかである。当裁判所は,いずれの争点についても検察官の主張を認め,被告人がA1の指示により,各犯行を行ったと認めた。
以下,その理由を詳述するが,各事件は関連している部分も多く,また,被告人には一連の経過の中で既に確定した有罪判決を受けている事件もあることから,初めに,本件全体の経過の概略に関し争いのない事実及び容易に認定できる事実を認定し,その後,C事件,E第2事件(殺人),D事件,B第1事件,B第2事件の順に各争点の判断を示すこととした。なお,C事件及びB第2事件に共通する三木倉庫の焼却炉内から発見された微物の鑑定結果等については,やや説示が長くなるため,本文中に示さずに別紙2に記載した。
また,文中に掲げた証拠は,各証人の公判供述については証人の姓(例外として,罪となるべき事実及び証拠の標目中で略称を定めた者についてはその略称を使用し,また,Fは「F」,A18ことA19は「A19」とする。)を,尋問を複数回行った証人については証拠等関係カード中の証拠の標目欄記載の番号を併記する方法で,それぞれ記載した。被告人の公判供述については,実施順に①(第7回及び第8回公判実施分),②(第23回公判実施分),③(第32回及び第33回公判実施分))の番号を併記した。
第2 本件全体の経過の概略(争いのない事実及び容易に認定できる事実)
1 被告人とA1が知り合った経緯(被告人①)
被告人は,20歳頃に,同じ中学校の4学年下で,当時高校生だったA1と知り合い,一緒に遊ぶようになった。
2 A1の父の死亡(統合4,甲99,540,541,A1)
パチンコ店を経営していたA1の父は,平成11年11月,当時暴力団k会の構成員であったEに襲われ,死亡した。Eは自首し,傷害致死罪で起訴され,懲役5年6月の有罪判決の言渡しを受けた。Eは,裁判で,その動機につき,A1とのけんかが原因で,A1を襲う代わりに父を襲ったと供述していたが,A1は,Eは身代わりに過ぎず,父の死の背後にはk会が関係していると強く疑っていた。また,当時k会の幹部であったCとA1の父との間には,パチンコ店の新規出店をめぐってトラブルがあり,A1は,Cが父の死に関係しているとも考えていた。他方,A1は,Eが供述した動機を信じた家族や親族から,父の死の責任がA1にあると責められて孤立した。
3 A1によるパチンコ店経営
(1) 経営実態と経営状況(統合3,A3①,A7①,A1)
A1は,父の死亡により,父が経営していた2店舗のパチンコ店の経営を引き継ぎ,店名を「l店」及び「m店」と改めて営業を続け,平成18年5月には「n店」を新規出店した。n店の3階にはA1の居室,会議室等が置かれ,A1の活動の拠点となった。
A1は,「裏ロム」や「裏基盤」と呼ばれる機械を使用した違法営業を行い,脱税もすることで大きな利益を上げた。
(2) A1とパチンコ店従業員等の関係(A6①,D,A7①,A9,被告人①)
A1は,パチンコ店の正規の従業員のほかにも,裏ロムの関係者など,表に出せない配下の者を雇っていた。その中には,もともとはパチンコ台等を卸売りする会社の経営者であり,n店に裏ロムを設置するコンサルタントなどとしてA1の下で働くようになったA3や,その息子で元はA3の会社で働いていたA4などがいた。A1は,理不尽な理由で,従業員や配下の者に対し,罵声を浴びせ,暴力をふるった。また,逃げ出した従業員等を探し出し暴力的に連れ戻すこともあった。このような逃げた従業員の連れ戻しのほか,パチンコ店の営業を害するゴト師の排除,パチンコ店のサクラの手配など,専ら「裏仕事」をする者も雇っていた。
(3) 裏仕事のメンバー(A6①,A7①,被告人①)
ア 被告人は,平成15年1月に刑務所を出所後,A1の下で,「L」という偽名を名乗り裏仕事をして毎月30万円から40万円の手当をもらうようになったが,平成17年頃,給料のことでもめA1の下を一旦離れた。
イ A6は,平成13年からA1の経営するパチンコ店で雇われ,金庫番などをしていたが,後に裏仕事をするようになり,被告人と一緒に,逃げた従業員の連れ戻しなどをした。A6は,平成17年頃,A1の指示で連れ戻した従業員に逃げられ,A1の制裁を恐れてA1の下から逃亡した。
4 被告人及びA6らによるo店の立ち上げ(A6①,被告人①)
被告人は,A1の下を去った後にA6と再会し,平成20年12月,A6,A1の弟であるA23ことA24(以下「A23」という。)らと,デリバリーヘルス「o」(以下「o店」という。)を立ち上げ,A6が店長となった。被告人は運転手として働いたが,平成21年2月頃にはo店を辞め,他の会社で営業の仕事をした。
5 A1の東京進出とBとのトラブル,A1と被告人との関係再開,Bの姫路への移動,Bからの連絡と消息不明,G第2事件の発生
(1) A1の東京進出とBとのトラブル(A3②,A9,A7②,G,A12)
A1は,平成19年頃から東京への事業進出を目指し,Bが代表取締役を務め東京に事務所のある株式会社p(以下「p社」という。)と関わりを持つようになった。A1は,平成20年,合計10億円をp社に貸し付けたが,平成21年1月,その一部の返済が遅滞した。その際,B及びp社の取締役Gが経営状況を粉飾してA1に報告していたことも判明し,A1は激怒し,A3及びA1の配下のA14らに見張らせ,B及びGをp社事務所に軟禁状態にして返済業務に従事させた。Bは,いわゆる事件屋のA25に助けを求め,同年3月下旬頃,A25やその周辺者(以下「A25グループ」という。)の介入によりA1の管理下から逃げ出した。
(2) A1と被告人との関係再開(A6①,A8①,A7①,被告人①)
A1は,A25グループに対抗するため,被告人を自分の配下として呼び戻すこととし,被告人は,これに応じて営業の仕事を放り出して上京した。これ以降,被告人は,A1の下で,月40万円程度を得ながら裏仕事に従事した。
被告人は,A1の下に戻った後も,頻繁にo店事務所に顔を出し,A6やo店従業員A8との付き合いを続けていた。
(3) Bの姫路への移動(G,A3②,A9,A4③)
被告人らは,BをA25グループから奪い返したものの,再び奪われるなど,Bの奪い合いが繰り返された。平成21年4月12日,被告人は,A1の秘書的な役割をしていたA9が運転する車にBを乗せ,京都へ向かい,京都でA4の運転する車に乗り換え,翌13日未明姫路に到着し,Bとともにa区マンションに入った。
(4) Bからの連絡と消息不明(A10,A9,A3②,A12,F)
被告人は,その後,A3と協力し,A1が,警察対策として携帯電話の発信地を偽装するためにA9らに開発させたブルートゥースの方法(発信者の携帯電話Aのほかに携帯電話BCを用意し,ABを中継者が持ち,CとB,Aと受信者の電話をそれぞれつないだ状態で発信者にCを用いて通話させ,中継者が,BとAをスピーカーモードにして重ね合わせるなどして受信者に会話をつなぐ方法。Aの発信地が中継地点であるかのように偽装でき,また中継者が発信者と受信者の会話を把握することができる。)を用いて,Bから妻のF等に電話をさせ,Bは,妻に対し,居場所は言えないが債権者から逃げている,警察には連絡しないようになどと話した。しかし,平成22年6月9日を最後に妻への電話はなくなり,以後,Bの消息は不明となった。
(5) G第2事件の発生(乙11,A4①,被告人②)
被告人は,平成21年8月17日,A4らと共謀し,神奈川県鎌倉市内で,Gを車に押し込んで逮捕監禁し,その際にGに怪我を負わせたが逃げられるなどの事件を起こした(G第2事件。被告人は,平成24年3月有罪判決を受けている。)。この際に,A4は被告人の持っていた刃物が腕に刺さり大けがをし,これをきっかけに平成21年10月頃A1のパチンコ店を辞め,別の仕事をするようになった。
6 被告人によるEの拉致監禁の準備(統合4,A6①,A8①,被告人①③)
被告人は,平成21年夏頃から,Eを拉致監禁するため,A6やA8の手伝いも得ながらEの行動確認を始めた。ところが,Eは,同年11月頃,労働者派遣法違反の罪で逮捕,起訴され,平成22年2月,懲役6月の実刑判決の言渡しを受けたため,Eの拉致は延期になった。
7 三木倉庫の賃借,改装工事とその構造(統合8~10,A6①,A8①,A5,被告人①)
被告人は,Eを監禁する場所として,平成21年秋頃,辺ぴなところで周囲に何もなく,周りに音が聞こえないような倉庫を探していたところ,大工である友人のA5に,三木倉庫の賃借とその改装工事を依頼した。A5は,同年11月,三木倉庫を賃借し,被告人の指示に従って改装工事を始め,その結果,別紙1のとおり,4つの小部屋が作られ,さらに北側小部屋及び南側小部屋の中には,人が中腰で入り横になれるくらいの大きさの木材等を組み合わせて作成された箱様の小室が設置され,小部屋と小室は全て外側からかんぬきで施錠できるようになった。また,三木倉庫の外側には,周辺が写るような防犯カメラも設置された。さらに,A5は,被告人から三木倉庫内に焼却炉を設置するよう依頼され,被告人が指定した焼却炉(以下「本件焼却炉」という。)を別紙1の焼却場部屋に設置した。
8 C事件の発生(A3①,A4①,A5,H①,A19,A11①,被告人②)
被告人は,平成22年4月13日,A3,A4及びA5と共に,パチンコ店で遊戯中のCを駐車場に呼び出して車に押し込み,身体を拘束した上で三木倉庫に運び込んだ。Cは,その頃から消息不明である。
9 n店に対する警察の捜索とDの逃亡,D事件の発生(統合12,D,A7①)
平成22年5月26日,いわゆる風適法違反の嫌疑で,n店に警察の捜索が入り,裏ロムの基盤等が押収されたため,n店は営業ができなくなった。n店で設定師(スロット台の出玉確率の設定・調整を行う者)の仕事をしていたDは,n店の営業再開に向け,A1の指示を受けて働いたが,A1の暴言,暴力に耐えかね,同年7月中旬,n店から逃げ出した。
被告人は,A1の指示でDを捜索していたところ,同年8月下旬頃,Dを見つけ出した。被告人は,同年8月30日,Dを三木倉庫まで連れて行き,三木倉庫内の北側小室に入れた。翌日以降,被告人は,ブルートゥースの方法等により,Dに妻や父と会話をさせ,仕事で大阪にいるのでしばらく家に帰れないとの作り話をさせた。Dはその後も北側小室に閉じ込められ続けた。
10 E第1事件の発生とDの解放(甲585~588,統合4,統合7,乙11,D,被告人③)
Eは,平成22年8月に出所した。被告人は,Eの行動確認をし,同年9月28日,A4及びA5と共に,Eを拉致し,三木倉庫まで連行した。被告人は,Dを南側小室に移動させ,Eを北側小室内に監禁した(E第1事件。なお,被告人は前記G第2事件と同時に有罪判決を受けている。)。しかし,Eは,被告人の隙をついて逃げ出した。被告人は,Dを解放し,共に三木倉庫から徒歩で逃げ出し,A6に頼んで車で迎えに来させた。同日以降,三木倉庫は警察の管理下に置かれた。
11 E第2事件の発生(乙11,A22,A3②,A4②,A1,被告人③)
被告人は,その後もEを狙い,平成23年2月10日,A3,A4,パチンコ店「l店」の従業員A22と共に,Eを拉致してi町倉庫まで連行した。この拉致の際,A1は,被告人らがEを乗せてi町倉庫へ行く後を車で追従した(E第2事件(逮捕監禁)。なお,被告人は前記G第2事件,E第1事件と同時に有罪判決を受けている。)。
その後,Eは死亡し,被告人及びA1は逃亡した。
12 被告人の処分状況(統合40,乙11,13)
被告人は,平成23年4月28日に広島市内で逮捕され,平成24年3月,G第2事件(Gに対する逮捕監禁致傷,強盗),E第1事件(Eに対する逮捕監禁致傷)及びE第2事件(逮捕監禁)(Eに対する逮捕監禁)で懲役7年の有罪判決の言渡しを受け,同判決は確定した。
第3 C事件
1 争点
被告人がA3,A4及びA5と共謀の上,Cを拉致し,三木倉庫内に運び入れたことに争いはない。争点は,①Cが逮捕監禁行為によって死亡したか否か,②Cに対する生命加害目的(殺害目的)の有無,③A1との共謀(A1の指示)の有無である。
2 Cが逮捕監禁行為によって死亡したか
(1) 当事者の主張
検察官は,C事件の後に,A6が,被告人から,「三木倉庫に着いたらCが死んでいて,死体を解体して焼却炉で燃やした」と犯行を告白されたことを立証の柱とし,このような犯行告白を受けたとするA6供述及びA6が供述する被告人の告白内容は信用できると主張する。これに対し,弁護人は,被告人はA6に対してCの死亡を告白しておらず,三木倉庫に連れ込んだ時点でCは生きており,被告人は,翌日Cを三木倉庫ごとやくざに引き渡したと主張する。
(2) Cの死亡を推認させる客観的事実及びA6以外の関係者供述
ア 逮捕監禁行為の危険性
(ア) 逮捕監禁の態様
Cは,平成22年4月13日午後6時46分頃,パチンコ店の駐車場で,突然,背後からA4に抱きつかれて身体を持ち上げられ,A4もろとも背中から倒れ込むように車の後部座席の足元に引きずり込まれた。激しく抵抗したものの,A5から,ガムテープで目隠しをされ,後ろ手にした両手と両足にガムテープを巻かれて拘束され,身動きができなくなり,口にもガムテープを貼られて声が出せない状態になった。そして,この状態のまま寝袋に入れられ,遅くともf店駐車場に着いた頃までには,頭まで寝袋に入れられた状態になっていた。その後,f店駐車場でしばらく停車し,おそらく同日午後9時過ぎ頃に三木倉庫に到着したと思われる。以上によれば,Cに対する前記のような拘束状態が2時間程度続いていたと考えられる。(統合19,A5,A4①,被告人②)
(イ) 逮捕監禁行為の危険性
法医学者であるI医師は,前記のようなCの拘束状態を前提に,口にガムテープが貼られ口から息ができない場合,鼻水等が詰まるなど何らかの原因で鼻が塞がれれば窒息死するし,完全に塞がれなくても酸素が不足する状態が続けば死亡する可能性がある,また,興奮しすぎて不整脈を起こし死亡する可能性もある,と述べるところ,その内容は合理的で,異論を差し挟む余地はない。
Cは,口を塞がれ,手も使えず,身動きできない状態で,約2時間程度寝袋に入れられていたのであり,常識的に考えればこれだけでも相当に息苦しい状態にあった。加えて,Cは,数人がかりで手荒に車に押し込まれ体を拘束されるまで暴れていたというのだからその呼吸は乱れていたと思われる。ほこりの影響などで鼻水が出る可能性もあり,さらに寝袋が顔に被さっていたのだから,呼吸がしづらくなる条件は十分あったと考えられる。また,突然複数の男に襲われ拘束される被害に遭ったことで,Cが高度の興奮状態に陥った可能性もある。他方で,Cに突然死を心配するような持病はなかった(統合18,I①)。
そうすると,本件逮捕監禁行為によりCが窒息死等する可能性は十分にあったと認められる。
イ 三木倉庫に到着したときのCの様子に関するA5供述
被告人らがパチンコ店駐車場でCを車に押し込んで発進した後,A4は間もなく降車した。一方,A5は,f店を経由して三木倉庫まで同道し,三木倉庫到着後,被告人とともに寝袋に入ったままのCを車から下ろして三木倉庫内の北側倉庫へ運び入れた(A5,被告人②)。三木倉庫に到着したときのCの様子に関するA5供述はややあいまいではあるものの,Cは大声を出したり暴れたりはしていなかった,小さい声を出したかとか少し身体が動いていたかとかは分からないし覚えていない,というものである。このように,A5が,三木倉庫に到着した際のCの様子について,動いていたとも声を出していたとも述べていないのは,三木倉庫に到着した頃にはCが死亡していたことに沿う事情といえる。
ウ Cの生存痕跡
Cの内妻であったHは,事件発生当夜に警察に行方不明者届出をしたが,その後遺体を含めてCは発見されていない。HやCの兄弟らに対しても,Cからの連絡はない。警察による役所その他関係機関への照会によっても,Cが社会生活を送っている痕跡は見つけられない。また,本件当時,Cは,後に勝訴した約束手形金2000万円の支払を求める民事訴訟を起こしていたのに,C事件発生以降,本人による訴訟活動はなされていない。(統合18,H①,A19,A11①)
偽名を用いて生活するなど,弁護人が指摘する可能性を考慮しても,C事件当日までほぼ毎日一緒におり,事件発生当時もパチンコ店内に一緒にいた内妻にすら,これまで一切連絡しないというのはやはり不自然である。
このように,Cの生存痕跡が途絶えたことは,この頃,Cが死亡したことを推認させる事情である。
エ Cの携帯電話の発信履歴の存在とブルートゥースの不存在
事件翌日以降,Cの携帯電話から,普段はかけない兄の自宅固定電話への発信やCとは全く無関係な者への発信がなされたり,内妻の携帯電話へ内容を記載しないショートメールの発信がされるなど,C本人からの発信と考えるには不自然な発信がある。他方,拉致された後,Cから家族等への連絡はない。(統合18,24,H①,A19,A11①)被告人は,前記第2の5(4)及び9のとおり,DやBを手元に置いた際には,ブルートゥースの方法などで速やかに家族に連絡を取らせている。Cを拉致した後,Cの携帯電話が使用されていたにもかかわらず,Cから家族等への連絡が一切ないことは,Cが拉致されてから間もなく死亡したことを推認させる事情である。
オ 小括
このような客観的事実や関係者供述からすると,Cが拉致されてから遠くない時期に死亡していた可能性はかなり高いといえる。
(3) A6供述の信用性
次に,検察官が立証の柱に据えるA6供述の信用性について検討する。
ア A6が述べる犯行告白の内容
A6は,平成22年春,被告人から,「三木倉庫に着いて,寝袋を開けたらCが死んでいた,倉庫に血が飛び散らないようにブルーシート,毛布を敷き,チェーンソーで解体した,案外すんなり切れた,血がかなり飛び散った,腹の部分を切ったら内臓がぼろぼろ出てきて気持ち悪かった,チェーンソーに服が絡まって壊れたが持ってきてくれた六角レンチで直った,解体した死体を衣装ケースに入れて焼却炉まで運んで燃やした,一気に死体を入れたので,かなり火が上がった,骨や灰がバケツ1杯分くらい出た,川に捨てた,Cの血が飛び散ったので,自分の血を垂らしたり,サンポールやパイプユニッシュを買って撒いた」と打ち明けられたと供述する。
イ A6供述の出方,A6と被告人との関係,他の証拠による裏付け
(ア) A6供述の出方
A6は,平成23年1月,自身が被疑者となった他の事件の勾留中,警察官に対し,C事件,E第1事件,B第1,第2事件,G第2事件について供述をし始めた(統合5,A6①)。C事件については,当初から,少なくとも拉致の実行犯のことや,三木倉庫でCが死亡していることに気付いた被告人が死体を解体し焼却したことを述べていた(A6①)。
A6によれば,被告人やA1,そのグループから縁を切り一からやり直そうと考え,これらの事件について話し始めたというのであるところ,その理由に特に不自然さはない。また,A6が,被告人から聞いてもいないのにCが死んだとの嘘をついて事件をでっち上げる,あるいは警察が誘導するなどして事件をでっち上げさせる可能性もないわけではないが,当時,Cの死亡を直接的に示す証拠はなかった(A11①)ことからすると,その後に真実でないことが発覚した場合のリスクが大きすぎ,A6が自発的に又は警察の誘導等により,虚偽を述べた可能性も乏しい。
(イ) 被告人とA6の関係
被告人とA6は,A1の下で一緒に裏仕事をしたことがあり,双方がA1の下を離れた後もo店を共同経営した(前記第2の3(3)及び4)。さらに,被告人のみがA1の下へ戻った後も被告人はo店事務所に出入りし,A6にEの行動確認を手伝ってもらい(前記第2の5(2)及び6),E第1事件で失敗したときにはA6に迎えに来てもらう(前記第2の10)という間柄であった。このように,両名は親しい間柄であったと認められるから,A6がこれほどの嘘を言って被告人を陥れるとは考えにくい。また,A6は,A1の下での裏仕事のことも知っている上,A1から逃亡中の身であり被告人の話がA1に伝わる恐れもないため,被告人の裏仕事について打ち明けやすい相手でもあった。
(ウ) 他の証拠による裏付け
Cに対する逮捕監禁が行われたことは,平成25年以降に各実行犯が供述し始めたことによって裏付けられている。
そして,被告人の犯行告白の内容は,前記(2)で検討した客観的事実や関係者供述に沿う内容でもある。
加えて,その後の捜査で,被告人のA6に対する犯行告白が真実であることを裏付けたり支えたりする証拠が発見された。すなわち,三木倉庫から採取された血痕の一部につき,平成23年9月,Cの血痕であるとの鑑定結果が出たこと,本件焼却炉内から採取された微物の一部につき,平成28年11月,焼けた人骨である可能性がかなり高いとの鑑定結果(当裁判所はこれに加え,本件焼却炉の設置・管理状況から人骨であると認定した。)が出たことがそれに当たる。以下,順次検討する。
ウ 三木倉庫内の血痕の付着状況等
(ア) 平成22年9月,警察が三木倉庫を管理下に置いた当時,別紙1北側倉庫東西壁面の床に近い場所から高さ約90センチメートルまでの比較的低い位置及び北側倉庫から焼却場部屋に向かう各ドアの内側(約1メートルの高さの場所)に,多数の血痕様のものが多くは点状に付着していた。また,これらに重なるように銀色のスプレー塗料様のものがまだらに吹き付けられ,白色等の液体の付着物や焦げ跡のようなものも認められた。
そして,これら血痕様のものを採取して鑑定した結果,北側倉庫東壁面の4点と各ドアの内側4点(いずれも銀色のスプレー塗料様のものを除去した後に採取したもの)がCのDNA型と一致し,Cの血痕と判明した。また,東壁面の3点と各ドアの内側4点が被告人のDNA型と一致し,被告人の血痕と判明した(このうちドアの4点は流下状ないし上下方向の線状である。)。なお,三木倉庫内からは多量のパイプユニッシュが発見された。(統合21,22)
(イ) このような血痕の付着状況は,北側倉庫内でCの血が低い位置で飛んだことや,焼却場部屋までCの血が付いたものが移動したこと,Cの血痕を隠すための工作がなされたことを示しており,A6の述べる犯行告白に一致する。また,多量のパイプユニッシュが存在したこともA6供述と整合する。
弁護人は,Cの血痕が検出されたことは三木倉庫でCが出血する出来事があったことを示すにとどまり,被告人がCの遺体を処分したことの裏付けにはならないと主張する。しかし,弁護人の主張は,監禁ビジネスの一環でCを拉致し,翌日,Cを倉庫ごとやくざに引き渡したという被告人供述を前提にするものであるところ,後記(4)のとおり監禁ビジネスに関する被告人の供述は全く信用できないから,弁護人の主張は前提を欠く。
(ウ) なお,被告人は,Cに巻いたガムテープをナイフで切ったときに誤って自分の手を切ってしまい,血を押さえた寝袋を焼却場部屋に運ぶ際にドアにその血が付いたと供述する。しかし,ドアに付いた被告人の血は前記(ア)のとおり流下状ないし上下方向の線状であり,何かに付いた血が移動の際に付着したような形状ではない。北側倉庫内の被告人の血も,同じ高さに点々とついており,けがした時の血が飛んだとするには不自然である。この点に関する被告人の供述は信用できない。
(エ) 以上により,これら血痕に関する証拠は,Cの死体を解体し,隠滅工作をしたとの被告人の犯行告白を裏付けるものといえる。
エ 本件焼却炉内から発見された微物の鑑定結果等
別紙2のとおり,鑑定結果等により,本件焼却炉内から焼けた人骨が発見されたと認められる。そして,三木倉庫を管理していたのは被告人であるから,被告人が本件焼却炉で人を焼却したと合理的に推認できる。
もっとも,発見された人骨が誰のものかは不明であるから,Cの遺体を燃やしたという被告人の犯行告白を直接裏付けるものにはなり得ない。しかし,人骨が発見されたとの事実は,焼却炉で人の遺体を燃やすという容易には信じがたい内容の犯行告白に沿う事実であり,この犯行告白に信ぴょう性を与え,その信用性を支える事情にはなり得る。また,本件焼却炉で実際に人を焼くことができ,痕跡を残さないことが可能であるという意味でも,被告人の犯行告白を支える事情になる。
オ その他A6供述の信用性を高める事情(A6が六角レンチを届けたこと)
(ア) A6の供述とその信用性
A6は,遺体の解体に関連して,平成22年春の夜,被告人から電話で「チェーンソーを売っているところを探してほしい」と言われ,A8と共に店に電話するなどして探したが見つからなかった,見つからなかったことを電話で被告人に伝えると,被告人は「チェーンソーに服が絡まって動かなくなった」と言った,被告人に修理できないか聞くと,「六角レンチがあれば修理できると思う」と言うので,o店事務所にあった六角レンチを持って,被告人と決めた待ち合わせ場所へ届けに行った,と述べる。
A6の供述は,A8が,「平成22年4月頃の夜,A6から,被告人がチェーンソーを探せと言ってると言われ,店に電話して探した,o店事務所にあった六角レンチの束がいつのまにかなくなっていた」と供述していることによって裏付けられている。A6供述は信用でき,ひいては,内容がこの点と密接に関連する前記犯行告白に関するA6供述の信用性も高める事情となる。
(イ) A6の供述に対する弁護人の主張
弁護人は,A6の前記(ア)の供述には,①被告人から六角レンチの大きさを特定されてもいないのに届けたこと,②A1を被告人とする裁判で証人として出廷した際には,イケアの商品に付属していた六角レンチを届けたと述べたが,イケアになかったことが判明するやその供述を変えたことなど,不自然な点があると主張する。しかし,①については,A6は,いくつかのサイズが束になっている六角レンチを持って行ったと述べているから,サイズを特定されていなくても不自然ではないし,②についても,A6は,勘違いをしていたと説明しているところ,六角レンチの入手元が供述の重要部分とは解されないから,この点の勘違いがA6供述の信用性を特に低めることにはならない。
その余の弁護人の主張もA6供述の信用性に影響を与えるものではなく,弁護人の主張は採用できない。
カ 弁護人の主張
弁護人は,前記アのA6供述は信用できないと主張し,具体的には,①警察は,E第1事件の発生後に三木倉庫を発見し,ここで人が殺され焼かれたのではないかと疑ったというのだから(B②),CとEの関係性から,Cが三木倉庫で殺害されたと疑っていたとしても何らおかしくなく,また,A6が捜査中の事件で軽い処分(大麻取締法違反で逮捕勾留されたが不起訴処分を受けていること,強盗致傷,逮捕監禁で逮捕勾留されたが傷害,監禁で起訴されていることなど)を受けていることから,警察との間に何らかの取引があった可能性がある,②A1の下での裏仕事など後ろ暗いことをしていたA6が自分への関心をそらすために二度とA1が社会復帰できないような内容でA1を陥れる動機がある,③衝撃的な内容の犯行告白を受けても被告人と付き合い続けるのはおかしく,被告人はA6に対し逮捕監禁の限度でしか打ち明けてないはずである,④A6供述を前提とすると,存在又は発見されてしかるべき証拠(チェーンソー,六角レンチ,毛布,衣装ケースなど)がないなどと指摘する。
しかし,①につき,A6が初めてC事件について供述した平成23年1月の時点では,三木倉庫の血痕がCのものと一致するという鑑定結果は出ておらず(統合22),人を燃やしたと疑って捜査をしていた本件焼却炉から人骨を探すも,骨の主成分すら検出されなかった(A26)。C事件の捜査が大きく前進したのは,平成25年にA5が実行犯であることを認めてからであり(A11②),捜査の進捗状況からしても警察が平成23年1月からA6と取引したというのは無理があるし,取引してまで供述を得ておきながら捜査が進められていないことも不自然である。A6が弁護人の指摘するような処分を受けたのは事実であるが(統合2),それ故に直ちに取引があったと疑われるわけでもない。②についても,自己の保身を図るためとはいえ,殺人事件という重大事犯を付け加えて話すというのは飛躍があるし,前記イ(イ)のとおり親しかった被告人まで無実の罪に陥れることは考えにくい。③についても,過去にA1の下で裏仕事をしてきた被告人とA6の人間関係からすれば,犯行告白を聞いた後も付き合いを続けていることが不自然であるとはいえない。さらに,被告人が逮捕監禁の限度では犯行を打ち明けていたという点についても,被告人自身このようなことは述べておらず,根拠のない主張である(被告人は,検察官の質問にはC事件のほとんどについて打ち明けていないと答え,その後の弁護人の質問には実行犯や拉致現場については打ち明けたかもしれないと述べたものの,結局,C事件について打ち明けたのか否か,打ち明けたならば何を打ち明けたのか,なぜ打ち明けたのかについて,答えられていない(被告人②)。)。④については,いずれの証拠物件も処分するのが困難なものではなく,これらの証拠が存在又は発見されて然るべき証拠であるなどとはいえない。
弁護人の主張は,いずれも採用できない。
キ 小括
以上検討したところによれば,被告人から犯行告白を聞いたとのA6の供述及びその犯行告白の内容は,その後,三木倉庫で採取された血痕の一部がCの血痕であると判明したことにより裏付けられ,また,本件焼却炉から採取された微物の一部が焼けた人骨であると判明したことにも支えられ,その他,客観的事実や関係者供述とも沿う内容であることからすると,弁護人の主張を踏まえても信用できると判断される。
(4) 被告人の供述
被告人は,金をもらって人を監禁する「監禁ビジネス」のためと,A1の父の死の真相に関する情報を聞き出してA1から情報提供料を得るためにCを逮捕監禁した,Cを三木倉庫に連行して一晩尋問し,翌日,拉致の依頼者に三木倉庫ごとCを引き渡した,3日後に三木倉庫を返却されたとき壁に焦げ跡がついていたので,紹介者に相談したところ,サンポールを使って拭いたら落ちると言われたので壁をサンポールやパイプユニッシュで拭き,それでも取れなかったので銀色のスプレーで隠した,本件焼却炉も使われた形跡があった,などと供述する。
しかし,監禁ビジネスとしてCを拉致し,その後依頼者に引き渡したとの被告人の供述は信用できない。すなわち,被告人は,Cを拉致した後,引き渡しの手順を相談するために依頼者と紹介者をf店に呼び出したが,CにA1の父の死の真相を聞かなければならないことを思い出し,明日引き渡すことにして依頼者らを帰らせたと供述している。しかし,そもそも引き渡しの手順を相談するためにCがいる場所に依頼者をわざわざ呼び出すというのは不合理である。また,大阪の暴力団関係者であるという依頼者らを呼び出しておきながら,A1の父の話を聞かなければいけなかったことを思い出してその場でCを引き渡さないことを決断したというのは到底考えられない。呼び出した場所が遠方の姫路であればなおさらである。サンポール等で焦げ跡を拭いたというのも,焦げ跡が薬品で落ちるとは考えられず,不合理である。被告人は,依頼者ばかりか紹介者も全く明かさず,被告人の供述以外に裏付けるものもない。さらに,被告人は,「監禁ビジネス」に関連して,脱税に関する書類等処分したいものを焼却する「焼却ビジネス」もしていたとも述べるが,本件焼却炉の性能は紙の焼却には適さず(統合10),不合理である。被告人は,捜査段階では,三木倉庫は犬の繁殖用として用意したと述べていたのであって,「監禁ビジネス」や「焼却ビジネス」については一切述べていなかったが,話を変えた理由に関する合理的な説明もない。
以上のとおり,被告人の監禁ビジネスに関する供述はおよそ信用できず,したがってCを依頼者に引き渡したとの供述も信用できない。被告人の供述は,前記判断に影響を与えない。
(5) 結論
そうすると,被告人の供述を踏まえてもA6供述に関する信用性の判断は揺るがず,A6供述は信用できるから,これにより,Cは被告人らの逮捕監禁行為により死亡したと認められる。
3 Cに対する生命加害目的(殺害目的)の有無
(1) 当事者の主張
検察官は,C事件の前に,A6が,被告人から,「Eの拉致殺害計画があり,そのターゲットがCに変更された,Cを拉致する以上はCを殺さなければならない」との犯行計画を打ち明けられたことを立証の柱とし,これら打ち明け話を聞いたとのA6供述及びA6が供述する被告人の打ち明け話は信用できるから,Cの略取にあたり被告人には生命加害目的(殺害目的)があったと主張する。これに対し,弁護人は,被告人はA6にこのような打ち明け話はしておらず,Eの殺害計画もなく,Cに対する生命加害目的(殺害目的)もなかったと主張する。
(2) Eの拉致殺害計画の存在
ア A6の供述内容
A6は,遅くとも平成21年秋頃,被告人から,「A1の指示で,Eを拉致監禁し,A1の父が殺された本当の事情や真相を聞き出して殺す,殺したら証拠を残さないために燃やして処分する,Eだけでなく,真犯人や指示した人間(k会幹部のA27,A28の名が可能性として挙がっていた)も殺す,全て終わったらA1から億単位の報酬がもらえる,そのために三木倉庫や焼却炉を用意する」などと聞いたと供述する。
イ A6供述の出方,A6と被告人との関係等
A6は,前記犯行計画についても,前記2(3)イのとおり,平成23年1月頃から警察に話し始めている(A6①)。同記載のとおり,A6の供述の出方は自然であるし,A6に被告人に不利な嘘をつく動機があるとは考えにくい。被告人から犯行計画について話を聞いた経緯についても,A6自身がEの拉致の手伝い(行動確認など)を頼まれていた(第2の6)ことからすれば自然である。
ウ 三木倉庫の存在
(ア) 前記第2の7のとおり,被告人は,平成21年秋頃,三木倉庫を準備し始めている。三木倉庫が,山の中腹の,付近に民家のない,道のほぼ行き止まりに位置していることや(統合8),その構造(統合9)からすれば,被告人も認めるとおり,Eを拉致した後の監禁場所として使うために用意されたことは明らかである。
(イ) そして,三木倉庫内に設置された本件焼却炉は,事業用で燃焼室も大きく,小動物や生ゴミの焼却に適した性能を有している(統合10)。また,前記2(3)エのとおり,本件焼却炉からは焼けた人骨が発見されている。そうすると,本件焼却炉は人を焼却することができる性能を有するだけでなく,実際にも人が焼却された痕跡のある設備である。
(ウ) 以上によれば,Eの監禁用に用意した三木倉庫に,人を焼却することができる性能を有し,実際に人を焼却した痕跡がある本件焼却炉が設置されていたのだから,三木倉庫及び本件焼却炉の存在は,遺体の処分まで見越したEに対する拉致殺害計画があったことを強く推認させる。
エ A1の動機の存在
前記第2の2のとおり,A1は,A1の父が死亡した当時,事件の背後にはk会が関係していると強く疑い,指示役の存在も疑っていた。事件の真相を知りたいと思う気持ちが非常に強かったことは,A1自身も述べている上,A1が,従前から因縁のあったEに対し,恨みを募らせた可能性も十分ある(甲540,541,A1)。
A1には,Eを殺害する動機があったというべきである。
オ 小括
以上によれば,Eの拉致殺害計画を被告人から聞いたとのA6の供述及び被告人の打ち明け話は信用できる。
(3) ターゲット変更と,Cに対する殺害目的
ア A6は,平成22年2月末か3月初め頃,被告人から,「Eが出てくるまで延期になった,おっさんは1回動き出したら止まらんからCをやることになった,拉致ってもうたらもう出されへんから,殺してまわなしゃあない」と,拉致殺害計画のターゲットがEからCに変更されたと打ち明けられたと供述する。
イ 前記第2の2のとおり,Cは,A1の父が死亡した当時,k会の幹部であり,A1は,Cも父の死に直接関与していると疑っていた(甲540,541)から,事件の背景を知る人物としてCが狙われる理由は十分にある。また,被告人は,A5に対し,Cの逮捕監禁にあたり,「(Eの)上司をやることになった」と述べ,EからCに標的が変わったと話していた(A5)。
そして,Cは既に脱退していたとはいえ,k会の元幹部であったから,Cを拉致したことが知られるとk会から報復を受けると考えるのは当然である。実際,A1は,元組員にすぎないEですら,E第1事件で逃げ出した際には,n店にやくざが攻め込んで来るかもしれないと言って,A1の実家を24時間体制でパチンコ店従業員に警備させていた(A7①)。拉致する以上は帰せない,すなわち最終的には殺害するとの考えはごく自然である。
ウ 以上によれば,Eの拉致殺害計画が延期になりターゲットがCに変わったと被告人から聞いたとのA6供述及び被告人の打ち明け話の内容は,信用できる。
(4) 弁護人の主張
弁護人は,A6供述は信用できないと主張し,具体的には,①A6の述べるような拉致殺害計画を実行するとなれば,k会との全面的な抗争は避けられず,A1や被告人がそれを考えていたはずはない,②A6の平成23年2月28日付け警察官調書には,Eを殺害するとの記載はない,③三木倉庫から凶器も発見されておらず,Cを殺害する目的があったとするにはその方法も不明で,人目につく場所で拉致していることも殺害目的とは矛盾する,などと指摘する。
しかし,①につき,被告人らが殺害後の証拠隠滅まで見越して三木倉庫を準備しているのは,k会との抗争を避けて,最終目的すなわち指示役の殺害を達成しようとすることの表れといえる。②についても,弁護人指摘の調書に記載がなくても,それ以前の調書にEの殺害計画に関する記載があることは,A6の公判供述から明らかである(A6①)。③についても,三木倉庫が警察に発見されたのはC事件から5か月以上後のことであるから,その時点で凶器がないとしても何らおかしくはないし,殺害方法についても,被告人がA6にそこまで話していないだけのことであって,不自然ではない。また,拉致の場所も,被告人自身,防犯カメラの場所などを確認し,カメラに映らない死角を選んで車を置く場所を決めたと述べているのだから(被告人②),弁護人の評価は当たらない。
弁護人の主張はいずれも採用できない。
(5) 被告人の供述
被告人は,Cを殺害するつもりはなかったと述べ,Cを拉致した経緯について前記2(4)のとおり述べるが,被告人の供述が信用できないのは,同記載の説示のとおりである。
(6) 結論
したがって,弁護人の主張や被告人の供述を踏まえても,A6供述は信用できるから,これに基づき,被告人にはCに対する生命加害目的(殺害目的)があったと認められる。
4 A1との共謀(A1の指示)の有無
(1) 当事者の主張
検察官は,A1が被告人に対して,Cの逮捕監禁を指示したと主張する。これに対し,弁護人は,被告人がCを逮捕監禁したのは,A1の父の死の真相に関する情報を聞き出す目的もあったが,主として被告人の監禁ビジネスのためであり,A1からの指示はなかったと主張する。
(2) 三木倉庫に要した費用の負担
ア 当事者の主張
検察官は,Cが運び込まれた三木倉庫の賃借や改装等のために必要とした費用はA1が負担しており,この事実はA1の指示を推認させると主張する。弁護人は,三木倉庫に要した費用はA1ではなく,被告人が負担したと主張する。
イ 三木倉庫の賃借,改装等に要したと認められる費用
敷金,礼金等の賃貸借契約の初期費用として平成21年10月頃に25万円,本件焼却炉の代金として同年12月1日頃に76万円,その運搬のためのトラック代金として1万3000円が支払われ,また,A5に対する工事費が前払いで約70万円から80万円かかったことなどが認められる(統合10,A5)。
ウ 裏帳簿(○○)について
(ア) 当事者の主張
検察官は,A1が経営するパチンコ店の売上げ管理をしていたA7が作成した裏帳簿(USBに記録され,A7が「○○」と名付けたファイル)には,平成21年10月に「△△契約料」の項目で28万円,同年11月に「△△へ」の項目で147万3000円を支出したとの記載があるところ,○○に関するA7の供述や○○の記載は信用でき,「△△」とは被告人の偽名の「L」を指すから,この頃,A1が被告人に対してこれらを支払ったことが認められる,そうすると,かかる支払と三木倉庫の準備費用とは,時期及び金額がほぼ一致するから,○○は,A1が三木倉庫準備に要した費用を支出した証拠になると主張する。これに対し,弁護人は,○○に関するA7の供述も,○○の記載自体も信用できないと主張する。
(イ) A7の供述及び○○の信用性
n店の店長でパチンコ店3店舗の売上げや支払の管理をしていたA7は,○○について,A1の指示で,月ごとの3店舗の売上げと金庫(n店に備え付けてあり,3店舗の売上げを集めて保管しておく金庫)からの出金をA1に報告するために作ったもので,A1と毎月の合わせ(n店内の金庫に保管された現金の額と,帳簿上残っているはずの金額を照らし合わせること)を行う際に,プリントアウトしたものをA1に提出して使用した,○○には,パチンコ店の日々の売上げのほか,表に出せない人(裏ロム関係や裏仕事などをする人)の給料や,A1の指示で出した金など,A1の決裁(出金の許可)を受けて金庫から出金したものを記載していたなどと供述するが,A7の供述は,○○の記載内容を合理的に説明できるもので信用できる。すなわち,パチンコ店の売上げ等を記載した部分は1円単位の細かい数字で日ごとに記載されており,この部分が虚偽とは考えにくい。また,出金の費目も,A1が東京で住んでいたマンションの家賃,A1のボクシングトレーナーの費用,配下の者に支払った経費(「□□経費」や「□□立替」等については,A9が,A1から受領した金として心当たりがあると供述している。)など,その多くが実際に支払われたものと確認できる(A1,A9)。このように,○○に関するA7の供述は十分信用でき,○○の記載内容も信用できる。
(ウ) 弁護人の主張
弁護人は,①A7は,平成22年10月A1の下から逃げ出したためA1の報復を恐れており,捜査機関と協力してA1を処罰させ,自らの保身を図る必要があったから,虚偽供述の動機がある,②○○は帳簿であるのに出金欄に日付の記載がなく空欄もあることや,出金を裏付ける資料が存在しないことは不合理である,③○○が作成された頃はA1が本拠地を東京に移していたことから,A7はA1の決裁をもらうことは物理的にできなかった,などと主張する。
しかし,①につき,○○のデータの最終更新日は平成22年5月30日であり(A29),逃げ出す前からA7が捜査機関と協力して帳簿を改ざんすることはあり得ない。②についても,○○の作成理由からすれば,月ごとの入出金が把握できれば足りるから,出金欄に空欄があってもおかしくなく,また,A7によれば合わせの際には日付の入った領収書などの資料もA1の求めに応じて提示していたというのだから,出金欄に日付の記載がないことも不合理ではない。そして,現時点で資料がない点も,A7は,月の合わせが終わった時点で資料を廃棄することになっていたと述べるところ,表に出せない出金が多く記載されている裏帳簿の性質と合致しており,その説明は自然である。③についても,A1が東京に行っている際にも,A7がファックスや電話でA1の決裁を得ていたとA9が供述しており,物理的に不可能ということはできない。弁護人の主張は,いずれもA7供述や○○の信用性に影響するものではない。
なお,A1は○○を見たことはなくその内容は虚偽であり,A7がパチンコ店から金を横領したことをA1から隠すために作成したものだと述べる。しかし,A1は,○○は形式からして明らかに虚偽であることがわかるというのであり,そうであればA1に対し横領を隠すために使うことはできないことになり,矛盾する。そもそもA7が金を横領していたとする根拠も薄弱で,○○が虚偽だとする理由も,結局,表の帳簿に計上できるものが記載されているといったものにすぎない。A1の供述は信用できない。
エ 他方で,当時の被告人の経済状況をみるに,被告人はA1から月々40万円程度を受領していたものの,o店から借金したり(A8①),食事代すら周囲に出してもらうことが多かったから(A5),三木倉庫に要した少額とはいえない金を被告人が持っていたとは考えにくい。
オ 以上によれば,○○に記載されたA1から被告人への支払と三木倉庫の準備費用とは,時期及び金額がほぼ一致しているから,三木倉庫に要した費用はA1が負担したと認められ,この事実は,C事件がA1の指示で実行されたことを推認させるものである。
(3) A3とA4がC事件の犯行に参加した理由
ア A3及びA4と被告人との関係
前記第2の3及び5のとおり,A3はA1の配下,A4もA1の元配下であって,同じくA1の配下である被告人と直接の関係はなく,被告人の指示に従うような関係にはない。A3とA4が,人を拉致するというリスクのある行為にあえて参加していること自体,A1の指示を推認させる事情といえる。
イ A3とA4に対するA1の指示
A3は,平成27年1月,A5を被告人とする裁判に証人として出廷した際に,A1から被告人の仕事を手伝いA4にも手伝わせるよう指示された,Cを拉致した後A1に完了報告をした,その後A1からCを拉致したパチンコ店を見に行くよう指示されA4とパチンコ店へ行って状況を確認し再度A1に報告した,と述べた(甲549)。また,A4も,同裁判に証人として出廷した際,A3からA1が被告人を手伝えと言っていると言われ,被告人の手伝いをする理由はなかったがA3が苦しそうに頼んできたのでまたA1に殴られたり暴言を吐かれるなどひどいことをされたと思い手伝うことにした,Cを拉致した後A3にA1から電話でパチンコ店を見に行くように指示があり,A3と見に行った,などと,A3と同様の供述をした(甲665)。両名のこれらの供述(以下「従前供述」という。)は,その内容が一致し,犯行後のA3とA1との間の連絡状況については,電話の発信履歴(統合23)にも沿っている。また,A1の配下であり被告人とは直接の関係がないA3や,前記第2の5のとおり,G第2事件で被告人から大けがをさせられその後A1の下から離れた経緯のあるA4が,被告人とともに本件に参加したことを合理的に説明する内容である。よって,両名の従前供述は信用できる。
なお,公判では,両名ともA1の指示を否定する趣旨の供述をし,A4は,パチンコ店を事後に見に行ったことすら否定するが,信用できない。A3は,犯行に参加した理由について,被告人から,大金を貸して返さないやくざを捕まえて組事務所に連れていくのを手伝ってほしいと言われ「男気」から了解したなどと述べるが(A3①),頼まれた事柄の内容からして到底納得できるものではないし,A4も,20万円の報酬がもらえるなどの理由で被告人の頼みを引き受けたと述べるが(A4①),当時金には困っていなかったA4が(A4①)前記の経緯があるにもかかわらず犯行に参加した理由としては不合理である。両名の公判供述はその内容が不合理で信用性に乏しい。
両名は,A1を被告人とする裁判が始まる前に,A1の弁護人から,A3やA4がA1から暴力を受けたことや一連の事件に巻き込まれたことなどに関し高額の示談金の支払を提示され,A3は,平成30年3月,受刑中のA4に面会し,A1の無罪に協力する旨言い,さらに,A4の証言内容につき,パチンコ店に行っていないことにすればいいというアドバイスをし,A4はこのとおりに供述を変遷させている(甲666,A3①)。これによれば,両名は示談金を得るなどのため,公判ではA1に不利な供述を回避したと解するのが合理的である。
弁護人は,A3及びA4は,警察の強引な取調べを受け,恐怖心や迎合心が残った状態で従前供述をしたもので,従前供述は信用できず,公判供述こそが信用できると主張する。しかし,従前供述は公判廷における証言であって,取調べの結果直接得られたものではない。また,公判供述の内容が信用できず,虚偽供述の動機もあることは既に述べたとおりである。弁護人の主張は採用できない。
以上の次第で,両名の公判供述は信用できず,従前供述が信用できるから,A3やA4は,A1の指示でC事件に参加したと認められる。
(4) 犯行当時の連絡状況
犯行当時,被告人が「●」,A3が「▲」,A1が「■」と登録され,登録者間でしか連絡を取り合わないいわゆる「直通」の携帯電話を使用し,A1を含めた三者で頻繁に連絡を取り合っている(統合23,A7①)。これは,A1が犯行に深く関与していることを示す事情である。
(5) 弁護人の主張
弁護人は,Eは半年程度で出所する予定であるにもかかわらず,ターゲットを変更してCを拉致すれば,Eに警戒され,本来の目的が果たせなくなってしまうから,A1がそのような指示をするはずがないと主張する。
しかし,Cを拉致したからといってEに警戒されるとは限らない。また,ターゲット変更に関するA6の供述が信用できるのは既に述べたとおりである。
(6) 被告人の供述
被告人は,Cを逮捕監禁したのは,主として被告人の監禁ビジネスのためであり,A1からの指示はなかったと述べ,Cを拉致した経緯について前記2(4)のとおり述べるが,被告人の供述が信用できないのは,同記載の説示のとおりである。
(7) 結論
以上のとおり,犯行に使われた三木倉庫はA1の資金で準備されたことに加え,犯行当時の連絡状況も考慮すると,本件にはA1の深い関与が認められる。また,実行犯のうちA3とA4はA1の指示で参加しており,前記3(3)のとおり,A1にはCを狙う動機がある一方で,被告人にはA1と離れてCを狙う動機はない。これらによれば,C事件はA1が指示したものと認めるのが相当である。
第4 E第2事件(殺人)
1 争点
争点は,殺意の有無及びA1との共謀(A1の指示)の有無である
2 殺意の有無
(1) 当事者の主張
検察官は,Eの遺体の解剖所見等からすれば,被告人は,全く抵抗できない状態のEの頸部を,幅の広い柔らかい物及び手指で,少なくとも4~5分間圧迫して窒息死させたと認められ,この行為は常識的に考えて人が死ぬ危険性が高い行為であるし,被告人はEを殺害する計画を有し,殺害を企図していたから,被告人には殺意が認められると主張する。
これに対し,弁護人は,被告人がEを頸部圧迫により死亡させたこと自体は争わないものの,被告人は,大声を出すEを気絶させて黙らせようとして,その頸部を前腕や手指で圧迫はしたが,幅の広い柔らかい物では圧迫していないし,殺害計画も認められないから,殺意はなかったと主張する。
(2) 遺体の解剖所見等から認められる頸部圧迫の態様
ア Eの死因
Eの遺体を解剖したI医師は,Eの遺体には,頸部が圧迫されたことを示す次の所見,すなわち,①顔面にうっ血がある,②眼瞼結膜や口の粘膜等に多数の溢血点がある,③首の皮膚に圧迫されたような痕跡がある,④喉にある甲状軟骨の一部に骨折があり,皮膚内側の筋肉等に出血があるとの所見があり,かつ,他に死亡するような病変,外傷,中毒等は認められないことから,Eの死因は,頸部圧迫による窒息死と判断する。
I医師の前記判断は,弁護人請求証人であるJ医師も結論として同様の見解を述べていることからも明らかなとおり,その内容は合理的で特に疑うべき事情はないから,Eの死因は,頸部圧迫による窒息死であると認められる。
イ 頸部圧迫の態様
(ア) I医師の見解
前記③の首の圧迫痕についてみると,Eの頸部には,硬いひもで首を絞めた場合に表れる一般的なひも痕(ひもが皮膚を圧迫していた部分が真っ白になってへこみ,その縁の部分が赤く帯状に変色するもの。)は認められなかった。もっとも,I医師は,Eの頸部には,喉仏を中心に首の前面から左右両側面の首の後ろ側の外寄りまで比較的幅の広いまだらのうっ血(強く押されたことを示す蒼白部分とそこから動いてきた血液がたまってうっ血した部分とが混ざっているもの。以下「まだらのうっ血」という。)があり,また,これに重なる位置に皮内出血や表皮剥脱が散在していることから,柔らかい物で圧迫した場合には全体にわたって均等な圧迫力が働かないためまだらなうっ血が生じるとの知見を前提に,Eは,長さのある幅の広い柔らかい物で頸部を圧迫されたと考えられると述べる。また,I医師は,Eの首の左側に丸い皮下出血が,右側に表皮剥脱がそれぞれ存在することから,手指による圧迫も行われたと考えられると述べる。
I医師の前記見解は,解剖時にEの遺体に残されていた痕跡を根拠に,まだらなうっ血が生じるメカニズム等の専門的知見を用いてその圧迫の態様を推認したもので,内容は合理的であり,信頼するに足る。
(イ) 弁護人の主張のうち,I医師がEの首にあると指摘する「まだらのうっ血」の一部は,うっ血ではなく死斑の可能性があるとの主張について
弁護人は,頸部左側面の真ん中及び後頭部寄りの変色部分は,うっ血ではなく,死斑の可能性があり,仮にそうであれば,頸部圧迫の際に外力がかかった範囲は前頸部と右頸部のみであって,長さのある物で絞めたとはいえないと主張する。
この点,I医師も,死斑とは,心臓が動かなくなった後,しばらくは液体のままである血液が,身体の低い位置の血管に移動して溜まってできるものであると説明した上で,後頭部寄りの変色部分には死斑が混ざっている,あるいは死斑である可能性があると述べ,真ん中の変色部分についても,遺体の置かれた姿勢によっては,死斑の影響を受ける可能性があると述べる。しかし,I医師は,一方で,死斑は死亡後点状に現れ,死亡から約5時間経てば一様に広がるとの知見とともに,Eの頸部左側面の変色部分が全て死斑であるとするならば,まだらになる理由を考えないといけないとの留保もつけている。本件では,Eの死亡から解剖まで少なくとも約1日程度を要している(Eが死亡した時刻は遅くとも平成23年2月11日午前2時45分頃(統合38),司法解剖実施日は同月12日(統合61)と認められる。)ことからすると,解剖時において死斑がまだらに出ていたとは通常では考えにくいといわざるを得ない(なお,I医師は皮膚のしわの状態によっては解剖時においても死斑がまだらの状態で残る可能性があるようにも述べているが,あくまでも例外的な事象として述べているものと解される。)。
また,Eは遺体発見時(統合30資料2-5)も解剖時(I②)も仰向けの姿勢だったと認められるほか,I医師によれば,背中や後頭部の真ん中に死斑らしきものが出ていたというのであるから,Eの死後,遺体は頭を含めて上を向いていたと考えるのが自然であり,頸部左側面の広範囲に死斑が出るような姿勢を一定時間とっていたとは考えにくい。さらに,I医師によれば,頸部左側面と頸部右側面の「まだらのうっ血」には直線的な下端があり(統合61資料1-3,I②),それらの下端は首の同じような高さにあるところ,死斑に直線的にたどれるような下端が生じるというのは死斑ができる前記メカニズムからするとやや不自然と思われる上,死斑の下端が頸部右側面に生じたうっ血の下端につながるような位置にできるとも考え難い。
なお,弁護人は,絞頸(人の手の力を用いて,ひも又はひものようなもので首を絞めること)であれば,頸部の中心方向に向けて同じような力がかかるため,Eの頸部左側面の皮膚変色が他の部分に比べて濃いとの事実(I②)を説明できず,頸部左側面に死斑が出ていると考えなければ説明できないと主張する。しかし,弁護人のいう「絞頸」は,ひも等を一周以上首に巻いて絞める態様を想定しているところ,I医師によればひも等が一周しなくても首の動脈,静脈及び気管を圧迫すれば絞頸で死亡させることは可能であるというのだから,弁護人の主張は前提を欠く。
以上検討したとおり,弁護人の主張を踏まえても,頸部左側面に死斑のみが存在する可能性があるとの疑いは残らず,I医師の所見のとおり,頸部左側面には「まだらのうっ血」があったと認められる。
(ウ) 弁護人の主張のうち,頸部圧迫の態様に関する主張について
弁護人は,I医師は,前腕を使って布の上からEの頸部の前面,右側面,左側面を順に圧迫しただけでも,首に「まだらのうっ血」が生じる可能性があることを認めているから,長さのある幅の広い柔らかい物ではなく,被告人の述べるように,被告人が前腕及び手指でEの頸部を圧迫した結果,Eが窒息死した可能性があると主張する。
被告人によれば,被告人は,寝転んだEの上から前腕や手指でその首を押さえたというのであるが(被告人③),被告人が前腕でEの頸部を押した場合には,被告人の衣服やEが被せられていた目出し帽などの布によって均等な圧迫力が働かない状況にあった可能性はある。しかし,当時,Eは,体の前で手首と足首とをそれぞれインシュロックで縛られ,その手首と足首のインシュロックをさらにインシュロックでつながれて,体育座りのような体勢で固定され,その体勢のまま寝袋に入れられていた(統合30,61,A22,被告人③)。各頸部を左右両側面の後頸部寄りのところまで順に圧迫するには,Eの顔の向きだけを変えるのではなく,Eを転がして体の向きを変えた上で頸部の左右及び前面部を順次圧迫する必要があるが,このような体勢のEを左右に転がすのは簡単にはできず,Eが抵抗して身をよじっていた可能性を踏まえても,不自然である。また,頸部の左側面,右側面,前面への圧迫を繰り返したときに,うっ血の下端が,頸部左側面と右側面とが同じ高さになるように,かつ直線的にできるとも考え難い。
したがって,弁護人の主張は採用できず,I医師の見解の信頼性は低下しない。
(エ) 小括
したがって,I医師の見解に基づき,Eは,長さのある幅の広い柔らかい物及び手指で頸部を圧迫されたと認められる。
ウ 頸部圧迫の時間について
検察官は,I医師が,頸部圧迫を開始してから死亡する(不可逆的な呼吸停止)まで,少なくとも4~5分間連続的に窒息状態を続けることが必要であると述べたのを根拠に,頸部圧迫の時間は少なくとも4~5分であると主張する。これに対し,弁護人は,Eの死因が窒息死だとしても頸部圧迫の時間は2分程度の可能性があると主張する。
この点,I医師によっても,実際にEが頸部を圧迫された時間の長さは特定できず,不可逆的な呼吸停止に至る前に呼吸停止期等が2分程度あることやEが暴れていた場合には死亡までの時間が短くなり得ることなどから,頸部圧迫の時間が3分よりも短く,2分程度である可能性も否定はされていない。これによれば,頸部圧迫の時間が最短2~3分であった可能性は否定できないというべきである。
(3) 被告人の殺意の有無に関する検討
以上によると,被告人は,Eの頸部を長さのある幅の広い柔らかい物や手指で圧迫し,そのような圧迫を最短でも2~3分間継続して行ったと認められる。
そして,このときのEの状態は,前記(2)イ(ウ)のとおり,手首・足首を体の前側で固定された上で寝袋に入れられてほとんど体を動かせず,頭には目出し帽を被せられて周りも見えなかったのであり,Eが被告人に抵抗することはほぼできない状態であったといえる。このような状態のEに対し,被告人は,手指を用いたり,長さのある幅の広い柔らかい物を首の右側,前部,左側に当たるようにして,最短でも2~3分間圧迫を加え続け,その力も甲状軟骨が骨折するような強い力にまで至っていたのであるから,この行為はEが死ぬ危険性の高い行為と認められるし,当時被告人がそのように認識していたことも明らかである。
(4) 被告人の供述についての検討
被告人は,i町倉庫においてEと二人きりになった後,倉庫内のトイレに行って戻るとEが大声で騒いでいた,付近に民家もあるので黙らせようと焦り,柔道の落とし技の要領でEの意識を失わせようとして,前腕や手指等で頸部を押さえていたらEが死んでしまったと述べ,頸部を押さえた時間は,前腕で押さえたのが2~3分ほどで,手指で押さえたのが1分ほどであると述べる。
しかし,被告人が述べる圧迫の態様のうち,前腕で頸部を押さえたとの点は,前記(2)イ(ウ)で検討したとおり,頸部にあるうっ血の状況と一致しない。また,大声を出したEを黙らせようとするなら,口を手やガムテープで塞ぐなど他に効果的な方法があるのに,通常の柔道の落とし技とは全く異なる態様で,しかもこれまで被告人自身も行ったことがない方法で人を気絶させようとするのは不自然かつ不可解である。被告人が述べる被告人の行動は不合理としかいいようがない。
被告人の供述は信用できず,前記認定に影響を及ぼさない。
(5) 結論
以上の次第で,その余の主張を判断するまでもなく被告人には殺意が認められると判断した。
3 A1との共謀(A1からの指示)の有無
(1) 当事者の主張
検察官は,Eの殺害は,A1を首謀者とする殺害目的での監禁中に行われたもので,被告人がA1と無関係に独断でEを殺害したとうかがわせる事情はないから,A1との共謀(指示)があったと主張する。これに対し,弁護人は,Eの死亡は意図せぬものであって,A1との共謀はないと主張する。
(2) 殺害に先立つEの逮捕監禁(E第2事件(逮捕監禁))はA1が首謀者であったか
E第2事件(逮捕監禁)については,被告人は既に確定した有罪判決を受けているものであるが,当事者の主張に鑑み本件の争点である殺人の共謀に必要な限度で説示を加える。
ア 事件前後の状況
(ア) 事件前の状況
被告人は,E第1事件でEに逃げられた後も,Eの行方を捜していた。被告人は,平成22年11月下旬から,パチンコ店「l店」の従業員A22を自分の運転手にし,A22に手伝わせてEの居場所を突き止めた。平成23年1月下旬頃からEの行動確認にA3とA4が加わった。被告人は,義弟のA30の名義で,犯行当日までに犯行に使用するレンタカー(セレナ,ダイナ,プリウス)やi町倉庫を借り,また焼却器具(◎◎)を発注した。(統合34,A22,A3②,A4②,被告人③)
(イ) 事件当日の状況
被告人は,同年2月10日午後5時45分頃,A3,A4,A22と共に,帰宅したEを自宅マンションのエントランスで拉致してセレナに乗せ,途中,Eをダイナに乗せ換え,A3,A22と共に,Eをi町倉庫まで連行した。i町倉庫到着後,A22及びA3はi町倉庫から立ち去り,同日午後6時53分以降,i町倉庫には被告人とEの二人が残った。なお,この拉致の際,A1は,プリウスに乗車して,Eが最寄り駅に着いたことを実行犯らに知らせ,さらに,E拉致後は,i町倉庫付近まで追従した。(統合37,A22,A3②,A4②,被告人③)
(ウ) 事件後の状況
その後,翌11日午前2時45分頃までの間にEはダイナの車中で死亡し,被告人は,Eの遺体をダイナに乗せたままi町倉庫近くの路上に乗り捨てて逃亡した。A1も姫路から逃亡した。(統合29,30,38,A22,A3②,A4②,A10,被告人③)
イ 逮捕監禁の首謀者はA1か
(ア) 実行犯らの人間関係
A22はA1経営のパチンコ店従業員,被告人及びA3はA1の配下,A4はA1の元配下である。犯行に参加することになった経緯をみても,A22は,A3の依頼で被告人と行動を共にすることになり(A22,被告人③),A3は,自身がA1の指示で参加したかについてあいまいな供述をしながらも,自分がA4を参加させたのはA1の指示だったことは認めている(A3②)。実行犯らとA1との関係や,実行犯が参加した経緯が前記のようなものであることは,本件逮捕監禁の首謀者がA1であることを推認させる事情となる。
(イ) i町倉庫のチラシからA1の指紋が検出されたこと
平成23年2月11日,A4の妻名義の車から本件犯行に使用されたi町倉庫のチラシが押収されているところ,同チラシから被告人の指紋とA1の指紋が検出された(統合41)。本件逮捕監禁にA1が深く関わっていることを示す事情である。
(ウ) 犯行当日の連絡状況
被告人を含む実行犯4名とA1は,5台のいわゆる「直通」の携帯電話をそれぞれ持ち,犯行当日,A1と被告人,A1とA3が頻繁に連絡を取り合っている(統合33)。A1が,被告人のみならずA3とも頻繁に連絡を取り合っていることは,A1が実行犯らをつなぐ役目を果たしていることをうかがわせ,犯行の首謀者であることを推認させる事情である。
(エ) 平成23年2月6日の出来事
さらに,被告人らは,本件に先立つ同年2月6日,i町倉庫やダイナの準備もできていないのにEの自宅近くに張り込みEの拉致を実行しようとしているが,その理由について,被告人は,その日に実行するとA1に報告してしまっていたからだということをほぼ認める趣旨の供述をしている(被告人③)。これは,犯行の主導権が被告人になく,A1にあることを端的に示す事情である。
(オ) A1の動機
A1が,父の死の真相を知りたいという気持ちが強いことや,従前から因縁のあったEに対し,恨みを募らせた可能性も十分あること,Eの拉致殺害計画があったとのA6供述が信用できるのは前記第3の3のとおりであり,A1には,Eを逮捕監禁する動機がある。本件当日におけるA1の行動を見ても,被告人らが午前中に拉致に失敗(当初は朝に実行する予定だったが被告人らが気付かないうちにEは外出してしまった。(A22,A3②,A4②,被告人③))するや,午後は,最寄り駅で降車するEを見張り実行犯に連絡する重要な役割を果たし,その後i町倉庫まで追従していることからして,Eに対する逮捕監禁について強い意欲があることは明らかである。他方で,後述のとおり,被告人に独自の動機は認められない。
(カ) 小括
以上によれば,本件逮捕監禁の首謀者はA1であると認められる。
ウ 被告人の供述
被告人は,A1が首謀者であることを否定する。すなわち,被告人によれば,被告人は,A1に対し,A1の父の死の事情を知る者を紹介しては情報提供料を得ていたが,Eに関しては,A1からk会ともめ事を起こしたくないとの理由で接触を禁じられていたのに,勝手にEから事情を聞こうと考えてE第1事件を起こした,その後,A1を説得し,Eに金を払って真犯人逮捕への協力を求め,それができなくても金を払って口止めをするという計画を立てた,A1からは短期間でEを帰すこと,Eにけがをさせないことを条件とされていたと供述し,A1もほぼ同様の供述をする。さらに被告人は,被告人自身がEを拉致する動機として,被告人の父がEに800万円をだまし取られたことを苦にして自殺しており,E第1事件の際にEに弁償を約束させ借用書を作らせたとの事情もあったから,再びEを拉致して800万円を返還させようと考えていたと供述する。
しかし,金を払って協力を求め,その口止めもするのであれば,トラックや倉庫を準備してまで拉致監禁をする必要はないし,被告人は,焼却器具や灯油,他人が使用した空き缶やたばこの吸い殻,他人の髪の毛など,証拠隠滅や捜査かく乱のための道具を用意しているところ(統合35,A22,被告人③),これらを準備する必要もない。また,E第1事件を起こした経緯についても,報酬をくれるはずのA1に背いた上,A1が費用を負担した三木倉庫に連れ込んでいることや,Eが三木倉庫から逃げ出した際,被告人が「すみません,逃げられました,私の責任です,死んで償います,絶対に捕まえます」と何者かに報告していること(D)に沿わない。
また,被告人の独自の動機についても,E第1事件でEに弁償の約束をさせたというが,Eは,E第1事件の被害直後の事情聴取の際,被告人から被告人の父のことを聞かれたことも,借用書を書いたことも全く述べていない(甲585~587)。被告人が作成させたという借用書には返済相手すら記載されておらず,さらにはこれを失くしたとも述べており,供述の信ぴょう性は非常に乏しい。さらに,被告人は,A5に対し,被告人の父が自殺した頃その原因について話しているが,その内容は,金融屋(悪質な借金取り)に金を借り追い詰められて自殺したというもので(A5),Eに金をだまし取られたという話はしていない。被告人の父の自殺の原因がEにあるとの供述も信用できない。
エ 以上により,被告人の供述を踏まえても,前記認定のとおりA1がEの逮捕監禁の首謀者であったと認められる。
(3) 殺害に関するA1の指示
ア 本件逮捕監禁がEを殺害する目的でなされたこと
前記第3の3のとおり,A1はもともとEを殺害する計画を有していた。そして,被告人が準備していた焼却器具(◎◎)は,容量が350リットルもあり,被告人が述べるように服など犯行に使用した物を燃やすにしては大きすぎるし,900度の高温燃焼が可能な比較的高性能のものであるから(統合34),被告人が遺体を燃やすことを考えて準備していたとしてもおかしくはない。そうすると,A1はE第2事件(逮捕監禁)当時も変わらずEを殺害する意図を有していたと推認するのが合理的である。
イ 被告人がA1の指示なしにEを殺害することがあり得るか
前記2(3)のとおり,頸部圧迫の態様は,抵抗できないEの首を最短でも2~3分間,場合によればそれよりも長く圧迫するというものであり,強い殺意をもって被告人がこのような行為に及んでいることは明らかである。そして,被告人がこのような行為に及ぶ独自の動機は見当たらない。他方,これまで検討したとおり,Eを殺害する意図を有していたのはA1である。被告人は,A1から億単位の報酬を得ることを期待してA1の指示に従っており(第3の3(2)),A1の承諾なくEを殺害すれば,A1から報酬をもらえなくなるのであって,被告人がそのようなことをするはずはない。また,仮に被告人がA1の指示なくEを殺害したとすれば,A1が被告人を許すはずもなく,被告人の逃亡にあたりホテル代を援助する(A10)ことは考えられないし,A1自身が逃亡していることともそぐわない。
これらによれば,被告人がA1の指示なしにEを殺害することはあり得ないと認められる。
ウ 犯行当時のA1と被告人間の電話連絡
前記(2)イ(ウ)のとおり,A1は,本件当日,主として被告人及びA3と頻繁に連絡を取り合っているが,被告人がEを殺害した時間帯である平成23年2月10日午後6時53分頃から翌11日午前2時45分頃までの間も,A1と被告人との間では,多数回通話がなされている(統合33)。A1が,被告人に対し,殺害の指示をすることも十分可能であった。
エ 小括
以上によれば,Eの殺害は,A1を首謀者とする殺害目的での監禁中に行われたもので,被告人がA1の指示なしにEを殺害することはあり得ず,A1が殺害を指示することも可能であったから,被告人は,A1の指示でEを殺害したと認められる。
(4) 弁護人の主張
弁護人は,Eから話を聞かずに殺害することはありえず,殺害の準備も極めて不十分であるから,少なくとも拉致直後に殺害するという計画はなく,被告人は意図せずにEを死亡させた,早期にEを殺害する切迫した事情もなく,殺害についてA1と共謀したという明確な証拠はないと主張する。
しかし,抵抗できないEの首を長さのある幅の広い物及び手指で最短でも2~3分間継続して圧迫し続けるとの犯行態様からすれば,本件殺害は偶発的な犯行ではあり得ないから,意図せずEを死亡させたという弁護人の見解は採用できない。
また,i町倉庫まで準備した割には早期にEを殺害していることや,殺害後に遺体を処分することなく逃走していることからすると,弁護人が主張するように,拉致直後に殺害する予定ではなかった可能性は高いと思われる。しかし,Eの拉致が予想外に早く警察に発覚した(付近住民の通報からEの拉致が警察に知れて捜査が始まり,拉致の約4時間後にはA3及びA22が職務質問を受けている(統合39))ことから殺害時期が早まった可能性は十分にあって,被告人が強い殺意をもって殺害に及んだとの判断は揺るがない。
確かに,Eを殺害してしまえば,A1の父の死の真相を聞くことができなくなるのはその通りであるが,捜査の手がA1に迫っており,この機会を逃せばEを殺害することも困難になる状況であったことも明らかであり,A1がEの殺害を優先したとしてもおかしくはない。
(5) 被告人の供述
被告人は,Eを黙らせようとして首を圧迫していたら死んでしまったと述べ,A1の指示による殺害を否定するが,これが信用できないことは前記2(4)で検討したとおりである。
(6) 結論
したがって,弁護人の主張及び被告人の供述を踏まえても,被告人は,A1の指示でEを殺害したと認められる。
第5 D事件
1 争点
被告人がDを三木倉庫に閉じ込めていたことに争いはない。争点は,監禁についてのDの承諾の有無及びA1との共謀(A1の指示)の有無である。
2 監禁についての承諾の有無
(1) 当事者の主張
検察官は,監禁の状況から,Dが監禁を承諾することはありえず,承諾していないとするDの供述は信用できると主張する。弁護人は,Dが三木倉庫での監禁を渋々にせよ承諾して受け入れていたと評価すべきで,承諾していなかったとはいえないと主張する。
(2) 監禁の態様とD供述の信用性
ア 監禁に至る経緯と監禁の態様
前記第2の9のとおり,Dはn店から逃げ出していたが,被告人に見つかり,被告人からA1に謝りに行くから車に乗れと言われてg公園まで連れていかれた。そして,同所で車を乗り換える際,携帯電話を含む持ち物を取り上げられ,目隠しと手錠をされて,被告人から「n店には行かない,A1や店とは関係ない,自分が怒っているからやっている」と言われ,行く先も告げられずに三木倉庫に連れて行かれた。三木倉庫の構造は前記第2の7のとおりであり,Dは別紙1北側小室内に,手錠をしたまま(なお,初日は足錠までされていた。)閉じ込められた。そして,翌日ブルートゥースの方法等で家族と連絡をとるために被告人とともに三木倉庫から車で外出したとき以外は,約1か月間,基本的に北側小室に閉じ込められ続けた(なお,被告人が来た時にブルートゥースの方法で電話をするため三木倉庫内の通路等に出たことがあった。)。北側小室の床はコンクリートで布団等はなく,食事として与えられるのは1日に菓子パン2個程度,小便はペットボトル,大便はビニール袋にしなければならず,解放される直前頃には,小室の壁は湿気でカビだらけになった。外部との連絡は,被告人に監視されながらブルートゥースの方法等で妻や父と電話できたのみであった。(統合8~10,D,A5,被告人①)
このような監禁の態様からすれば,Dは,約1か月間,外部と自由に連絡を取ることもできず,劣悪で不衛生な環境の中で生活していたのであり,これらの事情だけでもDが三木倉庫に監禁されることを承諾していたとは考えにくい。
イ D供述
Dは,三木倉庫内の北側倉庫と思われる部屋で初めて目隠しを取ったとき,壁に塗りつぶしたような跡がある異様な光景を見て,拷問されて最後には殺されると思ったなど,三木倉庫に着いた際の恐怖を述べ,監禁中の出来事についても,被告人が1週間くらい来ず餓死しそうになったときの苦痛や,何のために監禁されているのかもわからず,また餓死するような状況が来ないかという不安を抱いていたことなどを述べている。そして,被告人に対して,どうしたらここを出られるのかと聞いており,監禁を承諾したことはないと述べている。
このDの供述は,前記監禁の態様に照らして自然で,信用性は高い。
(3) 弁護人の主張
弁護人は,Dがパチンコ店の営業にとって不可欠な存在でありながら店を逃げ出したことに対する罪の意識があったこと,解放時も被告人から逃げなかったこと,解放後はA1の店で働いていることなどから,Dが監禁されることを渋々ながらも承諾していたことは否定できないと主張する。
なるほど,Dは,n店の再開に向けて,Dだけができる設定の仕事をし,平成22年7月にはn店の運営会社の代表者にもなり,行政との交渉業務もするなど,n店にとって必要不可欠な存在であり,D自身も自分が逃げたことで店や従業員に迷惑をかけることは認識していたと述べている。しかし,Dが罪の意識を抱いていたとしても,前記のような生命の危機を感じるほどの恐怖や苦痛を味わうことまで受け入れるとは考えられない。
解放時に逃げなかったのは,Dも述べるとおり,被告人が解放すると言っているからであり,不自然ではない。
また,解放後に,A1の下で働くことになったのも,A1から,「今日中に県外へ出るか,半年間働いて信用できる人間だとわかったら解放するか,どちらかを選べ」と言われ,妻と乳幼児がいてすぐには県外に出ることができないDに後者を選ばせた結果に過ぎない。
弁護人のその余の指摘を踏まえても,Dが渋々ながらでも監禁されることを承諾していたとみる余地はない。
(4) 被告人の供述
被告人は,Dはg公園で車を乗り換えるときにも抵抗していなかったし,店に迷惑をかけて心苦しかったはずだから,監禁を承諾していたと述べる。しかし,g公園でDが抵抗しなかったのは,逃亡していたところ被告人に見つかりあきらめたからであると解されるし,その後も終始従順な態度であったのも,Dの供述からすれば,よりひどい目に合わされないようにしていたに過ぎないと解すべきである。店に対する罪の意識の点については,(3)で述べたとおり監禁を承諾するような理由にはならない。被告人の供述は採用できない。
(5) 結論
以上により,弁護人の主張や被告人の供述を踏まえても,監禁を承諾していないとのDの供述は信用でき,Dは監禁を承諾していなかったと認められる。
3 A1との共謀(A1の指示)の有無
(1) 当事者の主張
検察官は,A1にはDを監禁する動機があり,A1が監禁中のDの動向を把握するなどもしていたから,監禁はA1の指示であったと主張する。弁護人は,被告人が当時始めていた監禁ビジネスの手伝いができる人間を必要としており,Dが使えるかを確かめるテストのために閉じ込めていただけであって,A1の指示はないと主張する。
(2) A1の関与を推認させる事情
ア Dの捜索状況
被告人は,A1の指示で,A7やA3らが行っていたDの捜索を引継ぎ,Dを探し出している。捜索の方法は,Dの自宅を毎日訪問してDの妻と信頼関係を作る,Dの妻の車にGPS機能付き携帯電話を取り付ける,Dの自宅の向かいのマンションの住民に金を払って監視カメラを設置しD宅を監視する,というものである。(A7①,A3①,被告人①)A1は,約1か月間,費用も手間もかけて,Dを捜索させており,Dに対する執着がうかがえる。このような捜索状況は,これに引き続きなされた本件監禁についてもA1の指示があることを推認させる事情になる。
イ 監禁中のDの動向把握
A1は,ブルートゥースの方法等で,Dと妻らとの少なくとも監禁翌日の電話内容を聞いている。また,Dが解放されたときも,タイミングよくDをn店に呼び出している。(統合12,D,A3①)これらは,A1が監禁中のDの動向をよく把握しており,犯行に関与していたことを推認させる事情である。
ウ 監禁に使用した三木倉庫の費用負担
被告人がDを監禁した三木倉庫は,前記第3の4(2)のとおりA1の費用で準備されたものであり,このことはA1がDの監禁に深く関わっていることを示す事情である。
エ A1の動機
Dは,前記第2の9のとおり,n店の再オープンに必要な人材であったのに,その準備中に逃げ出したのであるから,A1にはDを連れ戻したり,制裁を加えるなどの動機がある。
(3) 弁護人の主張
弁護人は,Dの監禁について,A1の指示があったとは証明されていないと主張する。しかし,弁護人が指摘する点は,これまで検討してきたA1の指示の存在を推認させる事情とは関係がない点に向けられたものか,後述の信用できない被告人の供述を前提とするものであるから,いずれも採用できない。
(4) 被告人の供述
被告人は,A1の指示でDを探し出したものの,A1から,「店で使わないから好きにしたらいい」と言われ,自分の監禁ビジネスの手下として使おうと思い,そのテストのためにDを監禁したと供述する。しかし,前記のとおり,費用も手間もかけて捜索したDに対してA1が興味を失う理由がなく,実際,後にパチンコ店で再び働かせていることからしても,このようなやり取りがあったとは信じがたい。さらに,被告人が監禁の動機とする「監禁ビジネスの手下にするためのテスト」についても,このようなテストのために監禁しなければならない理由が不明であり被告人もこれを説明できない。そもそも「監禁ビジネス」に関する被告人の供述が信用できないことは,前記第3の2(4)で説示したとおりである。被告人の供述は信用できない。
(5) 結論
以上のとおり,A1の指示による捜索に引き続き,A1が費用を負担した三木倉庫でDが監禁され,その後もA1がDの動向を把握していること,A1にはDを監禁する動機もあることからすれば,弁護人の主張や被告人の供述を踏まえても,Dの監禁について,A1の指示があったと認められる。
第6 B第1事件
1 争点
争点は,被告人による逮捕監禁行為の有無と,A1との共謀(A1の指示)の有無である。
2 被告人による逮捕監禁行為の有無
(1) 当事者の主張
検察官は,Bがいたa区マンションやa区事務所には檻があり,Bは逮捕監禁の始期と終期に檻に入れられるなどしていたから,被告人はこの間Bを檻の中に閉じ込めて逮捕監禁していたと推認され,被告人からBを監禁していると聞いたとのA6の供述も信用できるから,Bが被告人により逮捕監禁されていたと主張する。他方,弁護人は,Bがa区マンションやa区事務所に滞在していたことは争わないが,Bは自由に行動しており,被告人はBを逮捕監禁していないと主張する。
(2) Bがa区マンションへ来るまでの経緯
ア p社からの債権回収状況
前記第2の5のとおり,A1は,10億円を貸し付けたp社からの返済が滞った際に,BとGが経営状況を粉飾していたことを知って激怒し,平成21年1月31日以降,BとGを軟禁状態にして,売掛債権全部を貸付名義人であるA3に譲渡するなどの返済業務を行わせ,残債務は3億円余まで減った。Bは,新規事業のうち,最も見込みがあったエリアワンセグ事業を3億円で売却することを試みたが,平成21年3月中旬頃には交渉先に断られ,売却できなかった。(統合45,甲364,375,376,G,A12,A9,A3②)
イ A1らとA25グループとの攻防
前記第2の5のとおり,同年3月下旬頃からA1と被告人らは,Bの依頼でA1らの債権回収に介入してきたA25グループとの間で,Bの奪い合いをしていた。同年4月9日,A3は,B及びGをp社の役員から解任し(貸付の際の約定で,支払遅滞によりp社の全株式がA3に譲渡されていた(A3②,G)。),A3がp社の代表取締役となった。同年4月12日,被告人は,A9が運転し,被告人,A3,被告人の知り合いのA31が乗る自動車にBを乗せた。A3のみ途中で降り,同日夜,車は京都へ向かった。京都で,被告人らはA4の運転する車に乗り換え,その際,被告人は,Bに対し,携帯電話とかばんを置いていくよう指示し,Bは従った。Bと被告人は,同月13日未明,a区マンションに入った。Bの携帯電話とかばんは,後にA1の指示でA9がA3に渡した。(統合45,49,50,A3②,A9,A4③)
(3) a区マンション及びa区事務所におけるBの状況
ア a区マンションの状況及び同所におけるBの状況
(ア) a区マンションの状況
a区マンションは,A1の叔父が所有するマンションであり,平成21年4月13日に被告人がBを連れてくるまでA4が住んでいた。A4は,京都へ向かう前,A7からマンションにはしばらく立入禁止であると告げられた。A4は,被告人から「簡単なものでいいから人が入れる檻を作ってくれ」と言われ,同月19日から20日頃にかけ,a区マンションの一室で,鉄パイプをジョイントでつなげるなどして組み立て,1辺約1mの檻(以下「鉄パイプ檻」という。)を製作した。(統合50,55,A4③)
(イ) A4のB目撃供述
A4は,平成21年4月20日頃から同年5月中旬までの間に,被告人の依頼で,3回にわたり,いずれも被告人が不在の時にa区マンションを訪れ,鉄パイプ檻に入れられたBに弁当を渡した,自分がa区マンションに戻った同年6月1日までにはBはa区マンションからいなくなっていたと述べる(A4③)。A4の供述は,A4がB事件について捜査機関に供述し始めた平成26年当時から一貫している上,a区マンションで撮影された鉄パイプ檻の写真(統合55)の存在とも整合しており,信用できる。
(ウ) なお,A4は,公判で,2日に1度はa区マンションを訪れており,前記(イ)以外のときは,Bはリビングでくつろいだり,布団で寝たりし,ビールも飲んでいたなどとBが自由にしていたと供述するが,この供述は次の理由から信用できない。
A4は,平成26年夏頃,K検察官に対し,Bを京都から姫路に連れてきたこと,檻を作ったことなど,Bの逮捕監禁への関与を自分から話し,その後,同事件の被疑者として逮捕・勾留され,その後も同検察官の取調べを受けたが,この時期には,Bがリビングでくつろいでいたなどの話はしていなかった。しかし,A4が述べるBの生活ぶりが監禁を否定する方向の事実であることは明らかで,A4がこれを述べていないのは不自然である。他方で,前記第3の4(3)のとおり,A4は,A1を被告人とする裁判の前に,A3を通じてA1の弁護人から示談の申入れを受けており,A1に有利な話をする動機がある。
弁護人は,平成26年当時のA4の供述は,A4が警察から脅迫を受けたトラウマのため,A1に不利なことを言わせたい捜査機関に迎合した可能性があるとし,前記公判供述を信用すべきと主張する。しかし,A4が述べる警察からの脅迫はこの約3年前のことであって,影響があるとは考え難い上,K検察官に対し,録音録画を渋る理由としてA1や被告人に見られるのが怖いと述べていたことからすると(K),殊更A1に不利な嘘をついたとも考え難い。
(エ) これらによれば,鉄パイプ檻が完成した平成21年4月20日頃から同年5月末頃まで,a区マンションにおいて,Bは鉄パイプ檻に入れられていたと推認される。
イ a区事務所の状況及び同所におけるBの状況
(ア) a区事務所の状況
a区事務所は,平成21年4月下旬か同年5月上旬頃に被告人の知人によって賃借された。A4は,A1の指示で,同年5月末頃までに,a区事務所で,1辺約180cmの大きさで防音加工をした合板製の箱を作り,その中に,1辺約130cmの金属製の檻を入れ,二重構造の檻(以下「二重檻」という。)を製作した。A4は,人が窒息したり,熱中症になったりしないようにスポットクーラーを設置できる仕様にしたり,中で大声を出して事務所の外から聞こえないかといった実験までしており,二重檻は人を一定期間閉じ込めることを想定して作られたといえる。
また,A4は,同時期,すべての窓を板で塞ぎ,被告人の指示で,a区事務所の入口の鍵を付け替え,a区事務所へ通じる階段の上り口に鍵のかかる階段室を作った。(統合51,甲593,A4③,A5)
(イ) A6のB目撃供述
A6は,被告人からBを殺害するため三木倉庫へ移動させるのを手伝ってくれと言われて承諾し,平成22年6月13日,a区事務所まで車(エルグランド)を運転して行ったところ,二重檻から目隠しと手錠をしたBが出てきた,被告人がBをエルグランドに乗せ,Bの足首を粘着テープで縛った,被告人がエルグランドを運転し,自分は別の車で後をついて行った,ガソリンスタンドでエルグランドに給油した後,d店へ寄った,そこで被告人と別れ,被告人はエルグランドを運転して北へ向かった,と述べる(A6②)。
このA6供述は,次の理由で信用できる。すなわち,A6は,A4が二重檻や階段室について捜査機関に供述を始める3年以上前である平成23年に,二重檻の設置場所やその構造(中に鉄格子があること,出入り口の向き),階段室の存在等につき供述していたが,その内容はA4の供述と一致している。また,二重檻から出てきたBの様子についても,被告人の「おい,出てこい」という呼びかけに対して,「はい」ときびきびした返事が聞こえBが出てきた,目の周りにタオルを巻かれてその上にガムテープがぐるぐる巻きにされ,前手錠をされていた,ひげはぼうぼうで鎖骨が浮き出て手がかなり細く,上はよれよれの白いTシャツを着て下はジーパンをはいていたなどとかなり具体的に述べている。さらに,捜査の結果,A6が述べた給油の状況に一致するガソリンスタンドのジャーナルが発見され,A6の供述を裏付けている。以上に加えて,これまで検討したとおりA6に被告人に不利な嘘をつく動機があるとは考えにくいことも考え合わせれば,A6の供述は十分信用できる。
弁護人は,A6供述は信用できないと主張し,①殺害するためBを三木倉庫に運ぶ手伝いをしたという印象深い出来事について,わずか半年後である平成23年の供述当初にA6がその日付を思い出せなかったことは不自然である,②A6の供述が平成23年当時に変遷している(Bを事務所から出す際,手を引いたのが被告人なのかA6自身なのか),③殺人の手伝いをすることがわかっていながらその前に飲酒をしているのは,検問で引っかかるおそれのある飲酒運転に及ぶことになるから不自然であると指摘する。しかし,①について,印象的な出来事があった日でも,日付自体を思い出せないことは不自然ではなく,A6が説明するように別の出来事と関連付けて日付を特定していくというのはむしろ自然である。②についても,A6の供述の核心的な部分とは解せない上,A6はその供述から間もなく現場で実況見分をした際に勘違いに気付き自ら訂正したと述べており,その経過も不自然ではない。③についても,当時飲酒運転を日常的にしており,飲酒検問で引っかかるとは思っていなかったというA6の説明に特段違和感はない。弁護人の主張はいずれもA6供述の信用性を左右するようなものではない。
ウ ブルートゥースの方法による通話の存在等
前記第2の5(4)のとおり,被告人は,Bを姫路に連れてきた直後から,Bから妻や知人に対し,ブルートゥースの方法で通話をさせている(統合48,A9,F,A12)。妻との会話は,居場所は言えない,警察には連絡するなという内容であり(F,A9),他方,A9は,Bが東京で新生活を始めているように装うため,Bの携帯からホテルなどに電話をかけていた(A9)。もともとブルートゥースが警察対策のために開発されたものであることからすると,被告人がBの居場所を隠すため,ブルートゥースの方法で通話をさせていたと推認される。
さらに,Bは,平成21年12月と平成22年2月に,妻に対し,a区マンションから見つかったBの筆跡で書かれたメモ(甲592)の内容どおりの離婚話をしているが(F),そのメモには「再提出」などと書かれ,B以外の人物の筆跡による書き込みもあることからして,Bが被告人等により,その内容の電話をかけさせられたと推認できる。これに加え,Bからの電話の内容は,いずれもBが一方的に話すもので会話になっておらず,途中で急に話が打ち切られたりする不自然なやり取りであった(統合53,54,F,A12)ことからすると,Bが外部への連絡について被告人に支配されていたことが推認される。
これらの事実はいずれも,Bが行動の自由を奪われていたことを示す事実である。
エ その他,Bが自由に行動できる状態になかったと推認される事情
Bは,京都からの車中,アイマスクをさせられており(A9,甲446。なお,A4は公判ではアイマスクをしていたかどうかわからないと述べるが,A4の公判供述が信用できないことは前記ア(ウ)のとおりである。),Bは,自分がどこにいるのか分からない状態でa区マンションに連れて来られた。携帯電話やかばんも取り上げられていたのだから,Bが自分の意思で自由に行動することは困難な状況にあった。また,姫路に移動して以降,妻や知人は,Bに自由に連絡を取ることができなくなっている(甲364,380,F,G,A12)。
これらは,Bが自由に生活していたとは考えられない事情である。
オ 小括
以上によれば,Bは平成21年4月20日頃から同年5月末頃までa区マンションで檻に入れられていたこと,A4が二重檻を作りa区事務所の改装を終えた時期とBがa区マンションからいなくなった時期が整合していること,A6が平成22年6月13日に二重檻から出てきたBを目撃していること,Bが外部への連絡を含めて自由に行動できる状態になかったと推認される諸事情を合わせ考慮すれば,Bは,平成21年4月20日頃から平成22年6月13日までの間,a区マンション及びa区事務所において,檻に入れられるなどして行動の自由を奪われていたことが強く推認される。
(4) A6供述の信用性
ア A6が述べる犯行告白の内容
A6は,被告人から,平成21年5月か6月頃,「Bを姫路に連れてきている,a区事務所で檻に入れている」と聞いた,その後も何回か「まだおるで」などと引き続き監禁していると聞いた,平成22年6月頃,「A1やA23と,Bを連れて帰ってきて1年以上になるからもう出せないなどと話し合った」と聞いたと供述する。
イ A6供述の信用性
被告人の犯行告白の内容は,前記(3)で検討した諸事情に沿う内容である。また,A6は,前記ア以外にも,p社と関連して起こった出来事や被告人から聞いた話(週刊qにBの失踪に関する記事が載ったときにその内容について会話をしたこと,被告人が鎌倉へGを襲いに行ったこと(G第2事件)など)について述べているが,いずれについても話は具体的で,出来事が起こった時期や内容も正確であり,被告人がこの出来事の中で,Bの監禁の話をしたというのも自然である。A6は,a区事務所の借主を知っており,被告人と借主の間の取次ぎをしていたことから,本件について被告人が話をしやすい相手でもあった。これまで検討したとおり,A6に被告人に不利な嘘をつく動機があるとは考えにくいことも考え合わせれば,被告人から犯行告白を聞いたとのA6の供述及びその犯行告白の内容は十分信用できる。
弁護人は,①A6が,被告人から,Bの糞尿の処理につき小便は垂れ流し大便はちり取りで集めさせていると聞いたと述べた点をとらえ,A6が平成23年6月13日にBを目撃した際にa区事務所やB自身から悪臭はしなかったと供述していることと矛盾する,②1年間も檻に閉じ込められていたはずのBがふらついていなかったと供述しているのもおかしい,と主張する。
しかし,①について,A6が被告人から糞尿の処理について聞いた時期は,週刊qの記事が出た時期(平成21年6月18日発売)よりも前と思うというのであるから,A6がBを目撃した日よりも1年近く前のことであり,その間に処理方法を変えた可能性は十分にある。a区事務所にはトイレや洗面所もあるから,悪臭がしないように処理することも可能である。また,②について,A6が被告人から聞いた話は監禁の一部分でしかなく,Bの状態の詳細は不明である。監禁生活が身体に与える影響にも個人差があると思われ,Bがふらつかずに歩けたというA6の供述が直ちに不合理であるとはいえない。
(5) 弁護人の主張
弁護人は,①a区マンションとa区事務所の檻はゴト師対策のために用いられた可能性があり,Bがa区マンションの檻に入っていたのは,ゴト師対策の檻のテストのためだった可能性がある,②Bは,被告人に匿ってもらっただけで自由に生活しており,携帯電話の発信地を偽装するなどしたことも,A25グループに居場所を察知されないため自発的に工作したものであると主張する。しかし,①について,鉄パイプ檻は平成21年5月末頃までに(A4③),二重檻は平成22年夏頃までに(A5),それぞれ撤去されているが,パチンコ店の日常的な業務であるゴト師対策のために,時期を限定して,あえてBがいる場所に檻を製作することは明らかに不自然である。②については,A25はもともとBが依頼した者であり,A25がp社の苦境につけこみ利益を得たことがあったとしても,代表権のなくなったBを1年以上狙い続ける理由はなく,Bがそれを危惧して自発的に姿を隠していたなどとは考えられない。弁護人の主張はいずれも採用できない。
(6) 被告人の供述
被告人は,Bを檻には入れていない,Bは自由に行動していたと述べるが,これまでの検討に照らし,到底信用することはできない。
(7) 結論
以上によれば,弁護人の主張及び被告人の供述を踏まえても,被告人は,a区マンションやa区事務所等においてBを逮捕監禁していたと認められる。
3 A1との共謀(A1の指示)の有無
(1) 当事者の主張
検察官は,A1が逮捕監禁の首謀者であって,被告人にBの逮捕監禁を指示したと主張し,弁護人は,被告人とA1が逮捕監禁を共謀したといえるだけの事情はないとしてA1の指示を争う。
(2) A1の指示を推認させる事情
ア 関係者の人間関係や費用負担
本件逮捕監禁には,被告人のほか,A4,A9,A3,檻の設計に関与したA10などが関与しているが,全員がA1の配下の者である。A4は,鉄パイプ檻及び二重檻についていずれもA1の指示又は承諾のもと製作し,A1から費用の支払を受けた(A4③)。A1は決裁の際には領収書などと照らし合わせて細かくチェックしていた(A7②,A4③)のであって,内容も分からないまま金を出すことはあり得ない。また,a区マンションはA1の叔父の所有である。A7が述べる被告人がA1から決裁を受けていた「◇◇家賃」(A7②)についても,被告人がBのことを「◇◇」と呼んでいた(A6②)ことからすると,弁護人の主張を踏まえても,a区事務所の家賃である可能性は高い。さらに,ブルートゥースの方法も,A1が指示して開発させたものである上,A1がA3に指示してBの通話を中継させていた(A9,A3②)。
これらによれば,本件にA1の強い関与があることは明白である。
イ A1の動機
当時,A1は,Bとの金銭トラブルで,約3億円余の損失を被っていた。A1が,A25の介入を受けて,p社取締役であったA12にBの奪還を指示したことも認められ(A12),平成21年4月当時,A1がBの身柄を確保しようとしていたのは明らかである。
また,前記2(2)のとおり,エリアワンセグ事業の譲渡も既に頓挫し,Bに現実的な金策の手段は残っていなかったが,Bには,p社を受取人とする3億円余の,妻を受取人とする2億円の生命保険が掛けられており(統合46),A1が生命保険金からの回収を狙っていたこともうかがわれる(Gは,平成21年3月頃,Bが掛けている生命保険金で返済する話が出ていたと述べ,A7も,平成21年4月頃,A1,A3及び被告人の間で,生命保険金で回収できないか話していたと述べている(A7②)。)。
他方で,被告人は,平成21年3月頃,初めてBと会ったものでBとの間に直接の関係はなく,被告人がBを逮捕監禁する固有の動機があるとはうかがわれない。
(3) 弁護人の主張
弁護人は,①A1が債権回収するためにはBに自由に経済活動をさせる方が合理的であり,A1がBを債権回収のために支配下に置く必要はないから,A1に逮捕監禁の動機はない,②Bの生命保険契約は平成21年6月及び7月に任意に解約されており(統合46),A1が生命保険金から回収する目的でBを拉致したことと矛盾する,③被告人は,Bから頼まれてA25グループから匿っており,A1は被告人からその協力を依頼されたにすぎないと主張する。
しかし,①について,A1は既にp社の全ての売掛債権を譲渡させ,A3を代表者にするなど,p社の経済活動の基盤を奪っており,Bに自由に経済活動をさせて回収する意思はなかったと考えられる。②については,解約の時期が,A1が保険金目的でBを拉致した疑いがあるという内容の週刊qの記事(統合52)が出た直後であることからすると,もはや生命保険金で回収することを断念して解約した可能性もあり,当初保険金を狙っていたこととは矛盾しない。さらに,③については,BがA25から逃げる必要性を感じていたとは考えられないことは前記2(5)で述べたとおりであり,被告人からA1への依頼についても推測に過ぎず,採用できない。
以上のとおり,弁護人の主張はいずれも採用できない。
(4) 結論
以上のとおり,A1はBの逮捕監禁に強く関与しており,その動機があるのもA1のみで,被告人に動機はないから,弁護人の主張を踏まえても,A1がこれを指示したと認められる。
第7 B第2事件
1 争点
争点は,被告人による殺害行為の有無と,A1との共謀(A1の指示)の有無である。
2 殺害行為の有無
(1) 当事者の主張
検察官は,客観的状況等から,Bが被告人に逮捕監禁された末に被告人の支配下で死亡したとしか考えられず,A6が,被告人から,「Bを射殺し遺体を解体して焼却した」と聞いたとのA6供述及び被告人の告白内容は十分に信用できると主張する。弁護人は,A6供述の信用性を争い,被告人はBを殺害していないと主張する。
(2) 客観的状況の検討
ア 先行する逮捕監禁行為の存在
前記第6のとおり,Bは約1年2か月の間,被告人によってa区マンション及びa区事務所で檻に入れられるなどして逮捕監禁された。Bを解放すれば,警察に通報されることは必至で,被告人がBを解放するとは考えにくい状況である。そして,Bは,平成22年6月13日,被告人によって檻から出されたのに,目隠し,前手錠,足に粘着テープを巻かれた状態で引き続き自由を奪われ,被告人の運転する車に乗せられている(A6②)。
Bが檻から出された後も,解放されることなく引き続き被告人の支配下に置かれたことが強く推認される。
イ Bの生存痕跡
前記第2の5(4),第6の2(3)ウのとおり,平成22年6月9日以降,それまで時間を置きながらも続いていたBから妻への電話が途絶え,警察が役所等に対する各種照会を行っても,Bが社会生活を送っている痕跡は見当たらない。平成22年6月13日以降,Bと接触した者はおらず,Bは消息不明である。(統合47,F,A11③)
弁護人は,Bが戸籍身分を偽って生活していた可能性もあると指摘するが,Bは,A1との金銭トラブルを抱えてはいたものの,妻子もいるごく一般の社会人である。本人としての痕跡を完全に消し,家族や知人等,それまでの生活で築いた人々との関わりを全て断って生活し続けるのは不可能といってよく,そのようなことをする理由があるとも考え難い。被告人がBを連れ出した日から遠くない時期にBが死亡した可能性は高い。
ウ 小括
このような客観的状況からは,Bが,被告人の支配下で死亡したことが推認される。
(3) A6供述の信用性
ア A6が述べる被告人の犯行告白の内容
A6は,Bを目撃してから1週間経つか経たないかくらいの時期に,o店事務所で,被告人から,「Bをけん銃(ボディーガードという名称のけん銃)を使って射殺した,使った弾は,1発目は先のへこんだ弾,2発目に普通の弾を使った,Bとけん銃の間にクッションをはさんでBを撃った,1発目では絶命せず,2発目を撃ったら,うっと声を出して,目を見開いて,それから目を閉じて死んだ,クッションでけん銃の音はそんなに消えなかった,前回と違って服を脱がせたから絡まずに切れた,死後硬直をかなり待ったので前回みたいに血は飛び散らなかった,周りにブルーシートを張り巡らしたから跡も残っていないと思う,解体後は焼却炉で燃やした,前回は死体を一気に入れたのでかなり燃え上がって焼却炉が真っ赤になるほどになったから,今回は少しずつ入れて燃やした,報酬として,A7を通じ,A1から100万円をもらった」と打ち明けられたと供述する。
イ A6供述の信用性
前記第3の2(3)のとおり,A6がこの点につき初めて警察に話をしたのは平成23年1月頃である。警察は,Bの死亡について把握しておらず,A6の供述の後,初めてBの妻と面会したほどであるから(A11③),警察の誘導は考えられない。そして,この犯行告白は,前記(2)の客観的事情に一致しているほか,後記ウ~カで述べるとおりその信用性を裏付けたり支えたりする事情もある。
また,被告人は,前記第6の2(4)のとおり,A6に対し,Bを監禁していることを打ち明けただけでなく,後述するとおりBを殺害する計画も事前に打ち明けている上,前記第6の2(3)イ(イ)のとおり,殺害を実行に移すためにBを三木倉庫に移動させる手伝いも依頼している。被告人が犯行後にその様子を打ち明けるのは自然なことであり,A6にあえて被告人に不利な嘘をつく動機もないことも前記第3の2(3)イ(イ)のとおりである。
さらに,その内容も,以前A6に見せたけん銃(ボディーガード)を使ったなどの殺害状況や絶命の際のBの様子,犯行後に撃った2発の弾のうち1発が見つからないと相談されたことなど,作り話とは思われない具体性を持っている。
弁護人は,平成23年当時の調書には事前にBを殺害する計画を聞いていたとの記載がないから,A6供述は信用できないと主張する。しかし,A6は,調書になっていなくても事前の計画についても捜査機関に話していると思うと述べているところ,A6は平成23年1月以降,E第1事件,C事件,G第2事件を含む多数の事件の取調べを受ける立場にあり(甲609),捜査機関としては事前の犯行計画の打ち明け話よりも重要性が高い事後の犯行告白を優先して調書を作成してもおかしなことではない。B事件の捜査は,平成26年にA4が供述を始めたときから進展した(A11③)ことからしても,平成23年の時点で,A6の供述調書に事前の犯行計画の打ち明け話が記載されていないのは不自然ではない。
ウ けん銃の存在
A6は,平成21年4月か5月頃,o店事務所で,被告人からボディーガードとマカロフという名称の2丁のけん銃とボディーガードの弾丸(先のへこんだ弾を含む。)を見せられ,これを預かってo店事務所内で保管していた,その1週間後くらいに被告人と一緒に播但連絡道路へ行き走行中の車内から山に向けてボディーガードの試射をした,平成22年5月末頃,A8を介して被告人にけん銃を返したと供述する。A8もo店事務所内でけん銃を目撃し,その後被告人とA6が試射に出かけるのを見送ったこと,A6から指示されて被告人にけん銃を返したことを供述しており(A8②),A6供述を裏付けている。
弁護人は,被告人はガンマニアであるから,先のへこんだ弾が飛ぶか否か確かめるために試射したとのA6の供述は不自然であると主張するが,仮に被告人が先のへこんだ弾について知っていたとしても試射に行くことは不自然ではない。また,弁護人は,A6とA8の供述について,試射の時期が変遷しているなどと指摘し,その信用性を争うが,両名ともに変遷した理由について合理性ある説明をしている。そのほか弁護人が指摘する諸点についても,両名の供述の核心部分の信用性に影響を与えるようなものではない。弁護人の主張は採用できない。
以上により,けん銃に関するA6の供述は信用でき,被告人は,Bの殺害時期と近い時期にけん銃を所持していたと認められる。これは,Bをけん銃で殺害したとの犯行告白を支える事情である。
エ A1からの報酬の支払
(ア) A7は,平成22年6月中旬頃,A1の指示で被告人に100万円を渡したと供述する(A7②)。
A7供述の信用性について検討すると,A7は,第3の4(2)ウにも記載したとおりA1の暴力に耐えかねA1の下から逃げ出した者ではあるが,A1からの報復を恐れる立場にあり,嘘をついてまでA1に不利な供述をするとは考えにくい。
弁護人は,①A7がA1に対して恨みを持っていてもおかしくない,②わざわざA7を使って,人目に付く駐車場で100万円を渡すのは不合理であるなどと指摘し,A7の供述は信用できないと主張する。しかし,①については,今でもA1を恐れていると供述しているA7が(A7②),殊更に虚偽を述べてA1から恨みを買うようなことをするとは考えられない。②については,100万円程度であれば,封筒に入れてしまえばさほど目立つものではなく,外で渡すこともおかしくないし,金庫番であるA7を介することも不自然ではない。他にA7の供述の信用性を疑わせるような事情は存在しない。
(イ) したがって,被告人は,平成22年6月中旬頃,A7を介してA1から100万円を受け取ったと認められる。A6が述べるのと同じ時期に同じ額の金銭がA1から被告人に交付されたことは,被告人がA1からB殺害の報酬をもらったとのA6の供述を裏付ける事情である。
オ 本件焼却炉内から焼けた人骨が発見されたこと
前記第3の2(3)エで検討したとおり,本件焼却炉内から焼けた人骨が発見されたことは,容易には信じがたい内容の犯行告白の信用性を支える事情となり得る。また,本件焼却炉で実際に人を焼くことができ,痕跡を残さないことが可能であるという意味でも,被告人の犯行告白を支える事情となり得る。
カ 三木倉庫のフックの存在
別紙1北側倉庫の壁の上部にはフックが取り付けられていたことが認められる(甲625)。このフックを使用すれば,壁にブルーシートを張り巡らすことができると考えられ,フックの存在は,被告人の犯行告白に沿う事情となり得る。
キ 小括
以上のとおり,被告人から犯行告白を聞いたとのA6の供述及び被告人の犯行告白の内容は,それまでのBの状況やBの生存痕跡が途絶えたことのほか,関係者の供述等に裏付けられ,人骨の発見にも支えられており,信用性が高い。
(4) 弁護人の主張
弁護人は,遺体はおろか,チェーンソー,けん銃や弾丸なども発見されておらず,A6供述は信用できないと主張するが,遺体については既に述べたとおり痕跡を残さずに隠滅することが可能であるし,その余の証拠物件も処分するなどして隠滅することにさほど困難はない。弁護人の主張は採用できない。
(5) 被告人の供述
被告人は,Bを殺害していない,Bは自ら姿を消したと述べるが,これまでの検討に照らし,到底信用することはできない。
(6) 結論
そうすると,弁護人の主張や被告人の供述を踏まえてもA6供述に関する信用性の判断は揺るがず,A6供述は信用できるから,これにより,被告人がBをけん銃で殺害したと認められる。
3 A1との共謀(A1の指示)の有無
(1) 当事者の主張
検察官は,Bの殺害は,被告人が,A1の指示で逮捕監禁していたBをa区事務所から連れ出して行われたものであることを前提に,A6が,被告人から,A1の指示でBを殺害し報酬を受け取ったと打ち明けられたとのA6供述及び被告人の打ち明け話は信用できるから,Bの殺害はA1の指示で行われたと主張する。弁護人は,A6供述の信用性を争うなどして,A1の指示はなかったと主張する。
(2) 客観的状況の検討
前記第6の3のとおり,Bの逮捕監禁はA1の指示で行われたものであり,被告人は,監禁中のBを連れ出して殺害したと認められる。被告人がA1の配下であることからしても,被告人がA1の指示なしにBを殺害することは考えられず,被告人が独断でBの殺害に至るような状況があったことをうかがわせる事情もない。かえって,A1は,平成22年6月中旬頃,A7に対し,被告人を指して,「こいつ今ならなんでもやってまえるからな」と被告人が自分に従う趣旨の発言をしており(A7②),被告人がこの頃にA1の意に沿わない行動をしたとは考えられない。また,前記2(3)エのとおり,被告人がこの頃A1から100万円を受け取っていることも認められ,殺害から近い時期に相当額の金銭がA1から被告人に交付されていることは,A1がBの殺害を指示したことを推認させる。
(3) A6供述の信用性
ア A6が述べる被告人の打ち明け話の内容
A6は,平成22年6月初旬,o店事務所で,被告人から,「A1及びA23と3人で話した際,A1から,◇◇(B)を姫路に連れてきて1年以上になるからもう出せない,夏にはEも帰ってくるから邪魔になる,両方とも片手間ではできない,回収のめども立たない,どう思うか,と聞かれ,この流れではやると言わないとしょうがないので「やらなしゃあないですね」と言った,するとA1が「お前頼めるか」と言うので,「わかりました」と答えた」と聞かされたと述べる。また,その後,被告人から,「Bの殺害と遺体の処分を報告した後にA1から100万円の報酬をもらった」と聞いたと述べる。
イ A6供述の信用性
前記アの被告人の打ち明け話のうち,A1から報酬を受け取ったとの部分が信用できるA7供述に裏付けられているのは,前記2(3)エのとおりである。また,被告人の打ち明け話の内容は,被告人がA1の指示で逮捕監禁していたBを連れ出して殺害したという状況に沿うものである。
後になって失敗したときに相手に責任を押し付けるために相手に問い掛けて自分の求める答えを言わせるのがA1の常とう手段であることは,A1に近かったA9やA7も述べるところであり,被告人の打ち明け話の内容の信ぴょう性を高めている。また,A6は,同じ機会の被告人の打ち明け話として,被告人が,A1から「お前は一線を越えているから,一人も二人も変わらんやろ」と言われたと述べ,A6の前で「一緒なわけあるかい」と腹を立てていたとも供述したが,Cを死なせ,遺体を解体した後の被告人の気持ちとして自然なものである。
さらに,それまでBの逮捕監禁についてA6に話してきた被告人がその殺害計画について打ち明けるのは自然なことであり,A6にあえて被告人に不利な嘘をつく動機もないこともこれまで説示したとおりである。
以上によれば,被告人から打ち明け話を聞いたとのA6の供述及び被告人の打ち明け話の内容は信用できる。
(4) 弁護人の主張
弁護人は,A1の指示はなかったと主張するが,いずれも,Bが逮捕監禁されていないことを前提とするもので,採用できない。
(5) 結論
以上のとおり,被告人から打ち明け話を聞いたとのA6の供述及びその打ち明け話の内容は,弁護人の主張を踏まえても信用できるから,Bの殺害についてもA1の指示があったと認められる。
【確定裁判】
被告人は,平成24年3月27日神戸地方裁判所姫路支部で逮捕監禁致傷,逮捕監禁,強盗罪により懲役7年に処せられ,その裁判は同年4月11日確定したものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。
【法令の適用】
被告人の判示第1及び第4の各所為はいずれも刑法60条,220条に,判示第2及び第5の各所為はいずれも同法60条,199条に,判示第3の所為のうち生命身体加害略取の点は同法60条,225条に,逮捕監禁致死の点は同法60条,221条にそれぞれ該当するところ,判示第3の逮捕監禁致死について同法10条により同法220条所定の刑と同法205条所定の刑とを比較し,重い傷害致死罪の刑により処断すべきところ,判示第3の生命身体加害略取と逮捕監禁致死は,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として重い逮捕監禁致死罪の刑で処断することとし,判示第2及び第5の各罪について各所定刑中いずれも死刑を選択し,以上の各罪と前記確定裁判があった各罪とは同法45条後段の併合罪の関係にあるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示各罪について更に処断することし,なお,判示各罪もまた同法45条前段により併合罪の関係にあるから,同法46条1項本文,10条により,刑及び犯情の最も重い判示第2の罪で死刑に処すので,他の刑を科さないこととして,被告人を死刑に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
【量刑の理由】
1 本件は,A1の配下であった被告人が,いずれもA1の指示を受け,約2年の間に,殺人2件,逮捕監禁致死・生命身体加害略取1件,逮捕監禁2件の各犯罪を,時に並行しながら,連続的に犯した事案である。その概要は,①A1の金銭トラブルの相手方であるBを平成21年4月から約1年2か月間監禁し(B第1事件),平成22年6月頃殺害した(B第2事件),②平成22年4月,他の共犯者らとともにA1の父の死の真相に関わる人物と考えたCを後に殺害する目的で拉致したところ,逮捕監禁行為によりCを死亡させた(C事件),③平成22年8月から9月にかけて,A1が経営するパチンコ店から逃げ出した従業員Dを約1か月間監禁した(D事件),④平成23年2月,A1の父を死に至らしめたEを殺害した(E第2事件(殺人))というものである。
2 各犯行の悪質さ及び結果の重大性等
(1) B第1事件及びB第2事件
被告人らは,A1らの債権回収に介入してきた事件屋からBを引き離すなどの目的で,Bを東京から姫路まで連行し,約1年2か月間にわたって檻の中に閉じ込めるなどし,その後Eの拉致殺害計画の実行の邪魔になるなどの理由で,Bを射殺した。Bは,経営状況を粉飾してA1から10億円を借りたものの,返済期日に遅れるなどして,A1の怒りを買ったが,強引な取り立てを受けて会社財産のほとんどを奪われ,代表者の地位も追われるなど,十分な制裁を受けていた。Bがこのような被害に遭うべき落ち度はない。Bの監禁が長期間に及んだ理由は必ずしも明らかではないが,いずれにせよ酌量すべき事情があるとは考えられない。妻への電話などの偽装工作によって警察を欺きながら,長期間にわたってBを檻の中に閉じ込め,被告人に対して絶対服従の状態にさせるなど,Bの人としての尊厳を踏みにじる扱いをし続けており,逮捕監禁の態様が極めて悪質であることは論を待たない。殺害については,理不尽な理由から,強固な殺意に基づきけん銃を2回発射して殺害しており冷酷な犯行である。被告人は,殺害後,遺体を切断,焼却処分して徹底した隠ぺいを図っており,事後の情状も非常に悪い。Bは,家族らと長期間引き離され,劣悪な環境に置かれ続けた挙句,無慈悲にも命を奪われたもので,その苦痛や無念さは察するに余りある。愛する家族の安否がわからないまま,不安や恐怖,絶望の中,長い日々を過ごした末に,無残な最期を知ることとなった遺族の悲しみは深く,厳しい被害感情や処罰感情を訴えるのも当然である。
(2) E第2事件(殺人)
被告人は,手足を拘束され抵抗できない状態のEの頸部を圧迫して窒息死させたもので,強い殺意が認められる。被告人らは,一度は拉致したEに逃げられたのに,その約4か月半後,新たな倉庫や証拠隠滅のための焼却器具等を用意した上でEを襲い,遂には殺害するに至ったのであって,執拗かつ計画的な犯行である。Eは,A1の父に対する傷害致死事件を起こした者ではあるが,事件については既に服役を終え,その後は家庭を持ち暴力団を辞めるなど更生に向けて歩んでいた。Eに殺害されなければならないような落ち度はなく,幼い子どもを残して命を絶たれたEが感じた無念さや,その恐怖,苦痛はいかばかりかと推察される。残された遺族の心痛は甚大で,被害感情や処罰感情が厳しいのもまた当然である。
(3) C事件
被告人らは,A1の父の傷害致死事件に関する事情を聞き出した後に殺害する目的でCを拉致した。その目的は悪質であるし,Cの行動確認を続けた上,数人がかりで拉致し,あらかじめ監禁及び遺体の処分を見越して用意した三木倉庫に連れ込むなど計画性も高い。両手を後ろ手に拘束し両足も拘束した上,口にガムテープを貼り,さらに寝袋に入れるなどの方法で逮捕監禁しているが,生命の安全への配慮は微塵も感じられない危険な態様であった。Cにこのような被害に遭わなければならない落ち度があるとは考えられない。被告人は,本件においても遺体を切断,焼却処分して隠ぺいを図っており,事後の情状も非常に悪い。Cは,暴力団を辞め,内妻との新しい生活を始める矢先に被告人らから突然襲われ,助けを求めることもできず,身体の自由をほぼ完全に奪われたまま死亡したもので,その苦痛は計り知れない。遺体と対面することすら叶わない遺族の被害感情や処罰感情が厳しいのも当然である。
(4) D事件
被告人は,A1の暴言,暴力等に耐えられずに逃げ出したDを執拗に探し出し,約1か月間,手錠をした上で,灯りも窓もなく狭い三木倉庫の一室に閉じ込めてその自由を奪い,食料もわずかしか与えないなど非人間的な状態に置いた。犯行の動機は,主として逃げ出したことに対する制裁と考えられ,酌量の余地はなく,逮捕監禁の態様は悪質で,Dの苦痛も大きかった。
(5) さらに検討すると,三木倉庫は,A1が,Eを監禁,殺害してこれを隠ぺいし,最終的には暴力団k会の幹部らも殺害するという計画のために被告人に準備させたものである。被告人らは,この三木倉庫を犯行や犯行後の隠滅工作に利用して事件の発覚を免れながら,次々と各犯行に及び,Cを死亡させたわずか2か月後にはBを殺害し,三木倉庫の存在が警察に露見した後にも新たな倉庫等を用意してまでEの殺害に及んでいる。生命を軽視し,法規範を無視する姿勢は極めて強いといえる。
(6) 以上のとおり,本件は,別々の機会に,2名が殺害され,また被告人らの逮捕監禁行為が原因で1名が死亡するという3名の人命が犠牲となった事案を含み,結果は誠に重大で経過も悪質である上,各犯行の悪質性も際立っているといわなければならない。
3 被告人の役割,被告人自身の犯行動機及び被告人と首謀者との関係
(1) 被告人は,A1の犯行計画に沿った準備行為や他の共犯等関係者への指示等を中心になって行い,また,各殺人の実行行為や遺体の処分は被告人一人で実行した。被告人は,A1の指示で動く実行役の中で中核的存在であり,各犯行において被告人が果たした役割は,重要かつ必要不可欠なものであった。
(2) 被告人は,A1の下でいわゆる「裏仕事」をすることでA1から毎月40万円ほどの給料を得ていたほか,B殺害後にはその報酬として100万円を受け取り,また,E拉致殺害から始まりk会幹部らの殺害に終わる一連の計画を全て遂げたときには,A1から億単位の報酬を約束されていた。被告人の供述がないため必ずしも全てが明らかになっているとはいえないが,被告人はこのような経済的利益を得るため,あるいは得ることを期待して,A1の指示に従い各犯行を敢行したものと考えられる。なお,被告人がA1と完全な上下関係にあり,A1から暴言を吐かれたり暴力を受けていたことが関係者の証言から認められるが,被告人は過去に数年間A1の下を離れていた時期もあったし,A6やDに対し,A1から指示されて各犯行を行うことについて愚痴をこぼしたりしていることなどからすると,被告人がA1から精神的に支配されるとか,あるいはA1から暴力等により強制されるとかの理由で,犯行を実行させられたとみることはできず,被告人はあくまで自らの意思で各犯行を実行したものと認められる。
もとより,かかる複数の重大犯罪を立案し被告人らに実行させた首謀者であるA1の責任は重大で,被告人はA1との関係では従的立場で犯行に関与したといえ,また,A1に経済的に依存した被告人がA1に利用されていた面があることも否定できない。しかし,被告人は,既に述べたとおり,自己の意思で,かつ,専ら経済的利益を得るためA1に従い,犯行遂行にとって重要かつ必要不可欠な役割を繰り返し果たしたのであるから,ほかに首謀者がいることが被告人の責任を殊更減じる事情にはならない。
4 結論
以上のとおり,本件では,殺人被害者2名を含む3名の人命が次々と奪われるなど結果が重大で経過が悪質な事案を含むほか,各犯行の悪質性が高いこと,ほかに首謀者がいることが被告人の責任を殊更減じる事情にはならないこと等を考慮すると,被告人の刑事責任は極めて重大であり,過去の量刑傾向に照らしても,死刑の選択が考慮されるべき事案といえる。
加えて,被告人は,関連事件も含めて複数の罪で服役したにもかかわらず,公判では不合理な弁解を繰り返し,事件に向き合おうという姿勢や反省の情が全く見受けられないことも考慮すると,被告人に更生の兆しを認めることもできない。
死刑が究極の刑罰であって,その選択が慎重でなければならないのは当然であるが,これまで検討したとおり,被告人の刑事責任は極めて重大であり,死刑を回避すべき事情も見いだせないことからすれば,罪刑均衡の見地からも,一般予防の見地からも,被告人に対しては極刑をもって臨むほかないとの結論に至った。
(求刑 死刑)
神戸地方裁判所姫路支部刑事部
(裁判長裁判官 藤原美弥子 裁判官 世森ユキコ 裁判官 田中佐和子)
〈以下省略〉
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