判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(205)平成24年 4月27日 東京地裁 平23(ワ)15542号 業務委託報酬本訴請求事件、不当利得返還反訴請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(205)平成24年 4月27日 東京地裁 平23(ワ)15542号 業務委託報酬本訴請求事件、不当利得返還反訴請求事件
裁判年月日 平成24年 4月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)15542号・平23(ワ)30890号
事件名 業務委託報酬本訴請求事件、不当利得返還反訴請求事件
裁判結果 本訴請求認容、反訴請求棄却 文献番号 2012WLJPCA04278014
要旨
◆原告が、被告との間で、被告の資本政策作成に関する客観的な事実確認作業及びそのソリューションの提案等の業務を受託する旨の契約を締結した上、これに基づき事業を遂行したにもかかわらず、被告が報酬を一部支払わないなどとして、原告に対し、本件契約に基づき、未払報酬等の支払を求めた(本訴)のに対し、被告が、原告は本件契約に基づく業務を遂行していない、原告は、資金繰りに窮していた被告の状況に乗じて、金融商品取引法に反する業務の対価として、著しく高額の報酬の支払を内容とする本件契約を被告に締結させたものであり、本件契約の報酬規定は、公序良俗に反して無効であるとして、原告に対し、不当利得返還請求権に基づき、支払済みの報酬の一部の返還を求めた(反訴)事案において、原告は本件契約に基づく業務を遂行したと認められ、また、本件契約の報酬規定は公序良俗に反して無効であるとはいえないとして、本訴請求を認容し、反訴請求を棄却した事例
参照条文
民法90条
民法643条
民法648条
民法703条
裁判年月日 平成24年 4月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)15542号・平23(ワ)30890号
事件名 業務委託報酬本訴請求事件、不当利得返還反訴請求事件
裁判結果 本訴請求認容、反訴請求棄却 文献番号 2012WLJPCA04278014
平成23年(ワ)第15542号 業務委託報酬本訴請求事件
同年(ワ)第30890号 不当利得返還反訴請求事件
東京都江東区〈以下省略〉
本訴原告・反訴被告 株式会社クイーンズゲイトコンサルタンツ
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 菅谷幸彦
東京都港区〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告 株式会社プリンシバル・コーポレーション
(旧商号) 株式会社アイビーダイワ
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 河津博史
同 石村信雄
主文
1 本訴被告・反訴原告は,本訴原告・反訴被告に対し,1804万1100円及びこれに対する平成23年4月2日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 本訴被告・反訴原告の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,本訴被告・反訴原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
以下,本訴原告・反訴被告を「原告」と,本訴被告・反訴原告を「被告」という。
第1 請求
1 本訴
主文第1項と同旨。
2 反訴
原告は,被告に対し,1139万6000円及びこれに対する平成23年9月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件本訴事件は,原告が,被告との間で,被告の資金調達に当たり,被告のために,そのスキームの提案,計画立案及び実行をすることを目的として,被告の資本政策作成に関する客観的な事実確認作業及びそのソリューションの提案等の業務を受託する旨の契約を締結した上,これに基づき業務を遂行したにもかかわらず,被告が当該契約に基づく報酬を一部支払わないなどとして,原告が被告に対し,当該契約に基づき,未払報酬1804万1100円及びこれに対する弁済期の後の日である平成23年4月2日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
本件反訴事件は,①原告は,上記契約に基づく業務を遂行していない,②原告は,資金繰りに窮していた被告の状況に乗じて,金融商品取引法(以下「金商法」という。)に反する業務の対価として,著しく高額の報酬の支払を内容とする上記契約を被告に締結させたものであり,上記契約の報酬規定は,公序良俗に反して無効であるなどとして,被告が原告に対し,不当利得返還請求権に基づき,支払済みの報酬の一部1139万6000円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成23年9月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提となる事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)
(1) 原告は,企業の買収,合併及び資本提携等の企画立案及び斡旋等並びにこれらに関するコンサルティング業務等を目的とする会社である。
被告は,天然資源及びエネルギー関連事業並びに食料品販売等を目的とする会社である。
(2) 原告と被告は,平成21年11月30日,次の内容のアドバイザリー業務委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
ア 被告は,原告に対し,被告の資金調達に当たり,原告が被告のために,そのスキームの提案,計画立案及び実行をすることを目的として,以下の業務を委託し,原告は,これを受託する。
(ア) 被告の資本政策作成に関する客観的な事実確認作業及びそのソリューションの提案
(イ) 被告に対する融資及び資本提供者との交渉に関し,その戦略及びスキームの提案等についての計画立案,助言及び当該交渉の代理及び参加
(ウ) 被告の資本政策作成及び資金調達の実現に要する取引形式及びストラクチャーに関する手続及び手順についての助言及び支援
(エ) 被告の資本政策作成及び資金調達に関連する被告に必要な諸手続の実行に関する助言及び援助
イ 上記アの業務による原告の報酬は,以下のとおりとする。
(ア) 本件契約に定める業務によって,資本調達に向けた資金調達が実現した場合,資金移動総額の5%相当分(消費税を含まない。)とし,融資に向けた資金調達が実現した場合,資金移動総額の4%相当分(消費税を含まない。)とする。
(イ) 本件契約の終了後1年以内に,原告の紹介による資金提供者,業務提携者によって,被告の資金調達が実現した場合も上記(ア)と同様とする。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の報酬の支払期日は,本件契約に定める原告の業務による資金調達が実現した場合において,資金移動後2日以内とする。
(3) 被告は,原告の関連会社であるクリブデン・マネージメント株式会社(以下「クリブデン」という。)から,平成21年12月4日に1億6000万円,同月9日に1億4000万円の融資を受けるとともに,同融資額全額に係る貸付債権をもって,現物出資の目的とし,これに対して新株の発行をした(デットエクイティスワップ(債務の株式化。以下「DES」という。)。以下,上記DES等による資金調達を「本件資金調達Ⅰ」という。)。
(4) また,クリブデンは,被告の第5回新株予約権2578個の割当てを受けた。その後,クリブデンは,同新株予約権について,ウィザードインベストメント株式会社(以下「ウィザード」という。)に対し,平成22年2月10日付けで200個,同年4月26日付けで477個,C(以下「C」という。)に対し,同日付けで137個,ジェイサイト株式会社(以下「ジェイサイト」という。)に対し,同年2月8日付けで230個をそれぞれ譲渡した。
そして,上記新株予約権が行使されることにより,被告は,以下のとおり資金を調達した(以下,上記新株予約権の行使による資金調達を「本件資金調達Ⅱ」という。)。
① 同年2月17日付け新株予約権行使
クリブデン 100個(4400万円)
ウィザード 100個(4400万円)
同月18日 8800万円入金
② 同月25日付け新株予約権行使
ウィザード 28個(1232万円)
同月26日 1232万円入金
③ 同年3月1日付け新株予約権行使
クリブデン 50個(2200万円)
同日 2200万円入金
④ 同月2日付け新株予約権行使
クリブデン 50個(2200万円)
同日 2200万円入金
⑤ 同年4月13日付け新株予約権行使
クリブデン 100個(4400万円)
同日 4400万円入金
⑥ 同年6月7日付け新株予約権行使
ウィザード 50個(2200万円)
同日 2200万円入金
⑦ 同月28日付け新株予約権行使
ウィザード 40個(1760万円)
同日 1760万円入金
⑧ 同年10月13日付け新株予約権行使
ウィザード 200個(8800万円)
同日 8800万円入金
⑨ 同月18日付け新株予約権行使
ウィザード 246個(1億0824万円)
ジェイサイト 213個(9372万円)
同日 2億0196万円入金
⑩ 同月29日付け新株予約権行使
ウィザード 13個(572万円)
同日 572万円入金
⑪ 同年11月4日付け新株予約権行使
ジェイサイト 17個(748万円)
C 50個(2200万円)
同日 2948万円入金
⑫ 同年12月2日付け新株予約権行使
C 10個(440万円)
同日 440万円入金
⑬ 同月6日付け新株予約権行使
C 10個(440万円)
同日 440万円入金
⑭ 同月16日~同月24日付け新株予約権行使
C 22個(968万円)
同月16日~同月24日 968万円入金
(5) 被告は,原告に対し,本件契約に基づく報酬として,以下のとおり支払った。
ア 本件資金調達Ⅰについて
(ア) 融資金3億円の調達 1200万円
(イ) 同融資金のDESによる資本調達 1500万円
イ 本件資金調達Ⅱについて
(ア) 同①の報酬 440万円
(イ) 同②の報酬 61万6000円
(ウ) 同③の報酬 110万円
(エ) 同④の報酬 110万円
(オ) 同⑤の報酬 220万円
(カ) 同⑥の報酬 110万円
(キ) 同⑦の報酬 88万円
2 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) 原告は,本件資金調達Ⅱについて,本件契約に基づく業務を遂行したか。
(原告の主張)
原告は,本件契約に基づき,被告の資金繰り,負債内容その他客観的事実を被告から聴取して確認した上,本件資金調達Ⅰ及びⅡに関する具体的な方法を提示した。また,原告は,原告の関連会社であるクリブデンに対し,第三者割当の方法により新株予約権を割り当て,被告の資金調達の要請に応じて,クリブデンに新株予約権を行使してもらう(その資金は,投資家から新たに借入れをする。)という方法を被告に提案し(被告からの当初の要望は,ブリッジローンとDESのみであった。),そのアドバイスをした。これらにより,被告は,本件資金調達Ⅱを達成することができたものであり,原告は,本件契約に基づく業務を遂行している。
(被告の主張)
原告は,本件資金調達Ⅱについて,本件契約に定められた業務を何ら行っていない。
なお,原告が,第三者に新株予約権を取得させる行為又は実質的に自ら引き受ける行為が違法であることは後記のとおりである。仮に,原告が被告に対し,「新株予約権の発行」というごく普遍的な方法を提案したものであるとしても,その実態は,原告の新株予約権の募集の取扱い又は引受けに該当する行為を「アドバイス」などと言い換えたにすぎない。また,仮に,被告が作成した契約書に原告が数行書き加えたり,被告が作成した資料の一部を原告が確認したとしても,いずれも実質的には,被告自身が当事者となった交渉過程における作業にすぎず,何の付加価値もない。いずれも「受託業務を遂行した事実がない」という実態を糊塗する主張にすぎない。
(2) 本件契約の報酬規定は,公序良俗に反して無効か。
(被告の主張)
ア 原告は,金商法29条に基づく内閣総理大臣の登録を受けておらず,金商法に基づく金融商品取引業者の資格を有する者ではない。金融商品取引業は,上記登録を受けた者でなければ行うことができないから(金商法29条),原告は,金融商品取引業に該当する有価証券の引受け(金商法2条8項6号),有価証券の募集の取扱い(同項9号)及び有価証券の売買の媒介・取次・代理(同項2号)の業務を行うことはできない。
イ 原告がクリブデンに新株予約権を取得させたというのであれば,このような行為は,有価証券の募集の取扱いに当たり,無登録での金融商品取引業に当たる違法な営業である。この点,原告は,クリブデンが新株予約権を引き受けたのは,被告が取締役会決議によりクリブデンへの割当てを決めたことに基づくものであるなどと主張するが,有価証券の発行者が法定の手続を採ったか否かは,金融商品取引業の該当性の判断においては何ら関係がない。
また,原告が主張するように原告とクリブデンが実質的に同一の存在であるとしても,譲渡を目的として新株予約権の割当てを受ける行為は,有価証券の引受けに当たり,無登録での金融商品取引業に当たる違法な営業である。この点,原告は,クリブデンによる新株予約権の引受行為は,「他人に取得させることを目的」としていないし,クリブデンは,「業として」新株予約権を引き受けたものでもないなどと主張する。しかし,原告がその内容をチェックしたという「第三者割当による新株式(デットエクイティスワップ)および新株予約権発行に関するお知らせ」と題する書面(甲2)には,「本新株予約権の行使のための資金については,クリブデン社は,投資家との幅広い人脈を駆使し・・・さらに他の投資家を参加させることを計画しており,すでに,複数の投資家に対してコンタクトを開始しております。」との記載があるのであり,原告は,クリブデンという実体のない会社を受け皿として,正に,「有価証券を取得させることを目的として当該有価証券の全部又は一部を取得」し,「他にこれを取得する者がない場合にその残部を取得することを内容とする契約」を行って(金商法2条8項6号,同条6項),法外な報酬を請求しているのである。
さらに,クリブデンが新株予約権を譲渡した際に,原告が譲受人らを斡せんしたというのであれば,このような行為は,有価証券の売買の媒介に当たり,無登録での金融商品取引業に当たる違法な営業である。この点,原告は,クリブデンの新株予約権の譲渡に当たって原告がしたことは,クリブデンに対してアドバイスをしたこと及び買受予定の投資家に新株予約権の早期の行使を促したことにすぎないなどと主張するが,クリブデン,すなわち,その実体たる原告が,仮に投資家との人脈を駆使して投資家を参加させることを計画し,複数の投資家にコンタクトして,投資家を斡せんした実績があり,その結果として法外な報酬を請求しているのだとすれば,それを「事実上」と呼ぶか否かは,法解釈には関係がない。
なお,原告は,本件資金調達Ⅱに係る自らの行為について,「業として」行ったものではないと繰り返し主張しているが,原告は,他方において,「通常は,原告はアレンジャーとして,募った投資家に対して投資事業組合等の組成を助力し,一旦,当該投資事業組合において第三者割当増資の準備手続が完了した段階で,新株を引き受けてもらうという流れとなる。」などと主張しているのであって,原告自身が,金融商品取引業に該当する行為を,無登録で,日常的・反復継続的に,外部投資家に対して行う脱法的ファイナンス・アレンジャーであることを自認しているのである。
原告は,資金繰りに窮していた被告の状況に乗じて,金商法に反する業務の対価として,著しく高額の報酬の支払を内容とする上記契約を被告に締結させたものであり,本件契約の報酬規定は,公序良俗に反して無効である。
(原告の主張)
原告が本件資金調達Ⅱに関して行った本件契約に係る業務は,金商法に何ら違反するものではない。
すなわち,クリブデンが新株予約権を引き受けたのは,被告が取締役会決議によりクリブデンへの割当てを決めたことに基づくものである。もちろん,これは原告のアドバイスに基づくものであるが,クリブデンに対して新株予約権を割り当てたのは被告に外ならないのであって,原告は,何ら有価証券の募集の取扱いをしていない。
また,クリブデンによる新株予約権の引受行為は,当初は,クリブデンにおいて取得した新株予約権を被告が投資すべき新規事業につき決定をした都度,クリブデンに対して行使を依頼し,クリブデンが,当該新規事業に賛同して新株予約権を行使することにより,被告の資金調達を図ることを目的としていたのであるから,「他人に取得させることを目的」としていないし,クリブデンは,「業として」新株予約権を引き受けたものでもない。したがって,クリブデンによる新株予約権の引受行為は,有価証券の引受けにも当たらない。
さらに,金商法上の「有価証券の売買の媒介」とは,業として,他人間の売買の成立に尽力することにより手数料を得ることを目的として,売買の一方当事者のために当該売買を成立させようとする行為を指すところ,クリブデンの新株予約権の譲渡に当たって原告がしたことは,クリブデンに対してアドバイスをしたこと及び買受予定の投資家に新株予約権の早期の行使を促したことにすぎず,当該売買に当たって,クリブデン及び投資家のいずれかのために行動したわけではなく,いずれからも手数料を受け取っていないし,業としてこれを行ったわけでもない。したがって,原告がクリブデンに対して新株予約権の譲渡を促すアドバイスをした行為は,「有価証券の売買の媒介」には当たらない。そもそも,本件契約における原告の業務自体は,クリブデンが新株予約権を取得し,払込みをした平成21年12月25日に完了していたのであり,クリブデンの新株予約権を投資家に譲渡することに関連して,原告が行ったことは,本件契約において約定された業務には当たらないのである。
また,本件契約に基づく業務に対する報酬を成功報酬にしたのは,被告側からの要望であった。原告としては,本件契約に基づく業務は,極めて厳しいものであり,結果的に「ただ働き」になる可能性も相当程度あったものの,その危険を覚悟の上で,現実の調達額に応じての成功報酬という被告の上記要望に応じたのである。
以上によれば,本件契約の報酬規定が公序良俗に反するなどといえないことは明らかである。
第3 争点に対する判断
1 前記前提となる事実に,証拠(甲1~11,13~18,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告は,企業の買収,合併及び資本提携等の企画,立案及び斡旋等並びにこれらに関するコンサルティング業務等を目的とする会社であり,D(以下「D」という。)が代表取締役を務めている。なお,原告は,金商法29条に基づく内閣総理大臣の登録を受けておらず,金商法に基づく金融商品取引業者の資格を有する者ではない。
被告は,天然資源及びエネルギー関連事業並びに食料品販売等を目的とする会社であり,平成21年11月当時,E(以下「E」という。)が代表取締役を務めていた。
クリブデンは,平成21年11月当時,休眠会社であったものであり,原告と同じ住所地に所在し,役員構成等も相当程度重なっている。
(2) 被告は,平成21年11月当時,ADM Galleus Fund Limited(以下「ADM社」という。)に対して約1億円の借入金債務を負担しており,かつ,営業キャシュフローが数期にわたりマイナスの状況にあった。
被告の代表取締役であったEと専務取締役であったFは,知人から,原告の代表取締役であるDの紹介を受け,同月19日,Dと会って,同月30日までに,ADM社に対する返済資金約1億円と運転資金として2億円が必要であると話した。Dは,Eらから,被告の状況について聴取するとともに,被告の有価証券報告書等の情報を集めた。その後,Eらは,自ら,投資家に対して資金提供を求めていたものの,結局,金策をすることはできなかった。そのため,Eは,同日,Dに対し,本件契約を締結して,被告が資金提供を得られるようにしてほしいと要望した。そして,被告は,本件契約書を作成した上,押印し,これをDに渡した。Dは,これを持ち帰り,原告の押印をした上,翌日,被告に交付した。
(3) ADM社に対する返済は,平成21年12月4日まで猶予されることとなったが,いずれにせよ時間的余裕がなかったことから,Dは,休眠会社であったクリブデンを活用することとし,クリブデンに対して投資家から貸付けをしてもらい,クリブデンが被告に対して当該借入金を貸し付けることにより,被告の資金調達を実現することとした。そして,クリブデンは,被告との間で,同日,1億6000万円を同日に,1億4000万円を同月8日にそれぞれ被告の口座に振り込むとともに,同融資額全額に係る貸付債権をもって,現物出資の目的とし,これに対して被告の新株を発行する旨の契約を締結した。原告は,Dの人脈を用いて,クリブデンに対して貸付けをする投資家5社をアレンジし,これにより,クリブデンは,上記契約に従い,被告に対し,融資を実行した。そして,同月25日に,DESにより発行される新株の払込みが完了した。被告は,原告に対し,本件契約に基づく報酬として,融資金3億円の調達につき1200万円を,同融資金のDESによる資本調達につき1500万円をそれぞれ支払った。
(4) また,被告からの当初の要望は,ブリッジローンとDESのみであったものの,被告において必要な資金を借入金だけで賄うことは困難であると考えられたことから,原告は,被告に対し,DESによる資金調達だけでなく,クリブデンに対する新株予約権の発行とその行使による資金調達を提案し,上記契約において合意した。そして,クリブデンによる新株予約権の行使は,被告が投資すべき新規事業につき決定をする都度,クリブデンに対して行使を依頼し,クリブデンが当該新規事業につき賛同する場合,必要な資金につき被告が調達を行えるよう行使がされることが原則とされており,クリブデンは,被告の第5回新株予約権2578個の割当てを受けた。このように新株予約権を引き受け,これを行使するのはクリブデンとされていたものの,クリブデンに投資をする投資家(関口の人脈に係る者)が,新株予約権の譲渡を受け,これを自ら行使したいと要望したことから,クリブデンは,被告の承認を得た上,上記投資家に対し,新株予約権を一部譲渡することとした。すなわち,クリブデンは,上記新株予約権について,ウィザードに対し,平成22年2月10日付けで200個,同年4月26日付けで477個,Cに対し,同日付けで137個,ジェイサイトに対し,同年2月8日付けで230個をそれぞれ譲渡した。
そして,上記新株予約権が行使されることにより,被告は,以下のとおり資金を調達した。
① 同年2月17日付け新株予約権行使
クリブデン 100個(4400万円)
ウィザード 100個(4400万円)
同月18日 8800万円入金
② 同月25日付け新株予約権行使
ウィザード 28個(1232万円)
同月26日 1232万円入金
③ 同年3月1日付け新株予約権行使
クリブデン 50個(2200万円)
同日 2200万円入金
④ 同月2日付け新株予約権行使
クリブデン 50個(2200万円)
同日 2200万円入金
⑤ 同年4月13日付け新株予約権行使
クリブデン 100個(4400万円)
同日 4400万円入金
⑥ 同年6月7日付け新株予約権行使
ウィザード 50個(2200万円)
同日 2200万円入金
⑦ 同月28日付け新株予約権行使
ウィザード 40個(1760万円)
同日 1760万円入金
⑧ 同年10月13日付け新株予約権行使
ウィザード 200個(8800万円)
同日 8800万円入金
⑨ 同月18日付け新株予約権行使
ウィザード 246個(1億0824万円)
ジェイサイト 213個(9372万円)
同日 2億0196万円入金
⑩ 同月29日付け新株予約権行使
ウィザード 13個(572万円)
同日 572万円入金
⑪ 同年11月4日付け新株予約権行使
ジェイサイト 17個(748万円)
C 50個(2200万円)
同日 2948万円入金
⑫ 同年12月2日付け新株予約権行使
C 10個(440万円)
同日 440万円入金
⑬ 同月6日付け新株予約権行使
C 10個(440万円)
同日 440万円入金
⑭ 同月16日~同月24日付け新株予約権行使
C 22個(968万円)
同月16日~同月24日 968万円入金
被告は,原告に対し,本件契約に基づく報酬として,上記①につき440万円,上記②につき61万6000円,上記③につき110万円,上記④につき110万円,上記⑤につき220万円,上記⑥につき110万円,上記⑦につき88万円をそれぞれ支払った。しかし,被告は,原告に対し,上記⑧~⑭の報酬を支払っていない。
2 争点(1)(原告は,本件資金調達Ⅱについて,本件契約に基づく業務を遂行したか)について判断する。
上記認定事実によれば,資金調達に係る被告の当初の要望は,ブリッジローンとDESのみであったものの,原告は,被告において必要な資金を借入金だけで賄うことは困難であると考え,被告に対し,借入金とDESによる資金調達だけでなく,クリブデンに対する新株予約権の発行とその行使による資金調達(本件資金調達Ⅱ)というスキームを提示し,これにより被告の資本政策に関するソリューションを提案したこと,そして,原告は,本件資金調達Ⅱを実現すべく,被告のために,Dの人脈を用いて,投資家と交渉し,休眠会社であったクリブデンという受け皿を用いて,投資家から資金を集めた上で,被告の新株予約権を引き受けることとし,これにより,被告の資本政策作成及び資金調達の実現に要する手続について支援するなどしたこと,原告の上記一連の行為により,被告は,本件資金調達Ⅱを実現することができ,本件契約を締結した目的を達したことなどが認められる。
そうすると,原告は,本件資金調達Ⅱについて,本件契約に基づく業務を遂行したものというべきである。
3 争点(2)(本件契約の報酬規定は,公序良俗に反して無効か)について判断する。
上記認定のとおり,原告は,本件資金調達Ⅱについて,被告のために,Dの人脈を用いて,投資家と交渉し,休眠会社であったクリブデンという受け皿を用いて,投資家から資金を集めた上で,被告の新株予約権を引き受け,クリブデンに新株予約権を行使させた上で,被告の資金調達を実現するというスキームを組成したものであり,「他人に取得させることを目的」として新株予約権を引き受けたものではないから有価証券の引受け(金商法2条8項6号)には当たらないし,その他,被告が主張する有価証券の募集の取扱い(同項9号)や有価証券の売買の媒介(同項2号)にも当たらない。したがって,確かに,原告は,金商法29条に基づく内閣総理大臣の登録を受けてはいないものの,原告の行った業務は,上記のとおりであるから,被告が主張する金商法の各条項には違反しないというべきである。もっとも,クリブデンからウィザードらに対して新株予約権を譲渡した行為は,有価証券の売買(金商法2条8項1号)に当たるとみる余地もあるが,金融商品取引業とは,有価証券の売買等を業として行うことをいうところ(金商法2条8項),上記認定のとおり,新株予約権の譲渡は,公衆を相手方としたものではなく,Dの人脈に係る少数特定者を相手方として行われたものであるから,業として行われたものということはできず,結局,金商法には違反しないというべきである。
さらに,被告は,本件契約の報酬規定に係る報酬が著しく高額であるとも主張するが,原告が行った業務の内容やその報酬が成功報酬に限られていること並びに被告が受けた利益等に照らし,上記報酬規定に係る報酬が一概に過大であるとまではいえない。
以上によれば,本件契約の報酬規定は,公序良俗に反して無効であるということはできない。
4 以上の次第であり,原告の本訴請求は理由があるが,被告の反訴請求は理由がない。
(裁判官 志田原信三)
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