判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(278)平成21年 1月28日 東京地裁 平19(ワ)31644号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(278)平成21年 1月28日 東京地裁 平19(ワ)31644号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年 1月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)31644号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2009WLJPCA01288013
要旨
◆太陽光発電を業とする被告Y2において新規顧客開拓のためのテレフォンアポイントメント業務を被告Y1に業務委託し、また、被告Y1において上記テレフォンアポイントメント業務を原告に再委託していたところ、被告Y2が被告Y1の業務委託契約を解除したことから、被告Y1と原告との業務委託契約も解除されるに至り、原告が被告らに損害賠償の支払を求めた事案につき、被告Y2は原告に対し、被告Y2と被告Y1との間の業務委託契約を不当に解除しない信義則上の義務を負っていたところ、被告Y1及び原告には債務不履行はないから、被告Y2は不当に契約を解除したものとして、原告に対して損害賠償支払義務を負うとされた事例
参照条文
民法1条2項
民法415条
裁判年月日 平成21年 1月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)31644号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2009WLJPCA01288013
東京都中央区〈以下省略〉
原告 株式会社大江戸コンサルタント
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 小澤信一
東京都杉並区〈以下省略〉
被告 株式会社アルカディア・イーエックス
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 里村七生
同 小野智彦
東京都新宿区〈以下省略〉
(送達場所 東京都豊島区〈以下省略〉)
被告 株式会社五輪ハウス
同代表者代表取締役 C
主文
1 被告株式会社五輪ハウスは,原告に対し,1527万7500円及びこれに対する平成19年12月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告株式会社アルカディア・イーエックスに対する請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,それぞれを原告及び被告株式会社五輪ハウスの負担とする。
4 この判決は,1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告らは,原告に対し,連帯して1527万7500円及びこれに対する被告株式会社アルカディア・イーエックス(以下「被告アルカディア」という。)については平成19年12月6日から,被告株式会社五輪ハウス(以下「被告五輪ハウス」という。)については同月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等(末尾に証拠の記載のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
原告は経営コンサルタント業を主たる業務とする株式会社であり,被告アルカディアはコールセンター又は顧客対応窓口関連のコンサルティングやその業務請負を主たる業務とする株式会社であり,被告五輪ハウスは太陽光発電事業の企画,設計,施工等を主たる業務とする株式会社である。
(2) 各業務委託契約の成立
ア 被告五輪ハウスは,平成19年6月12日,被告アルカディアとの間で,以下の内容で被告五輪ハウスが被告アルカディアに対して被告五輪ハウスの取り扱う商品である太陽光発電・オール電化住宅システムの新規顧客開拓のためのテレフォンアポイント業務(営業担当者による訪問販売の約束を電話によって取り付ける業務,以下「本件業務」という。)及びその関連業務を委託するとの契約(以下「本件契約1」という。)を締結した。
(ア) 業務の内容
a テレフォンアポイントメントセンターで行うテレフォンアポイント業務
b テレフォンアポイントメントにかかわる運営管理業務
c 被告五輪のテレアポイントメント業務の改善のためのコンサルティング業務
d 前各号に付帯又は関連する業務
(イ) 業務遂行場所
沖縄県中頭郡〈以下省略〉の原告の開設するテレフォンアポイントメントセンター(以下「原告センター」という。)
(ウ) 業務実施時間等
基本業務時間 午前9時30分から午後零時30分,午後1時30分から5時30分まで
休日 毎月曜日
担当要員勤務体制 週休2日
土曜,日曜,祝祭日 基本25名体制
火曜日から金曜日まで 基本20名体制
(エ) 担当要員の数
担当要員は,同日から30日までは25名を上限とし,適切な人材の採用が可能な範囲で業務を行い,同年7月1日以降は25名とする。
(オ) 業務の数値目標
後記第1期間中の具体的な数値目標としての担当要員1名当たりの1日の下限アポイントメント数については,同年6月はなし,同年7月は0.8とし,8月は1.0とし,9月は1.2とするが,各月末時点において平均値がこの目標に達しない場合には,翌月初めに被告ら双方で協議する。
(カ) 業務委託料金
a 業務推進・管理運営費 月額150万円(消費税相当額は別途)
b テレフォンアポイントメント料金については,オペレーター給与分月額525万円(消費税相当額は別途)とインセンティブ給与とする。オペレーター給与の月額料金は,1日の稼働時間を7時間とし,1か月の基本稼働日を20日とした場合であり,稼働オペレーター数,稼働時間数,稼働日数に増減が生じた場合,オペレーターの時給を1500円(消費税相当額は別途)として計算する。
コール通信費については,別途実費を請求する。
(キ) 支払条件 毎月末日を請求の締切日とし,翌月末に現金で支払う。
(ク) 有効期間
a 第1期間 同年6月12日から9月30日まで
第1期間の満了の1か月前までに被告五輪から本件契約1の終了の申出がされた場合,第1期間の満了によって本件契約1が終了する。
b 第2期間 同年10月1日から6か月間
第2期間の満了の2か月前までに被告らのいずれからも本件契約1の終了の申出がされなかった場合,本件契約1はさらに3か月更新されるものとし,以後同様とする。
(ケ) 本件契約1の解除
被告五輪ハウス又は被告アルカディアが本件契約1に違反したときはその相手方が,その他本件契約1の履行が困難と認められる相当の事由があるときは,被告五輪ハウス又は被告アルカディアが,いずれも催告をすることなく本件契約1の全部又は一部を即時に解除することができる。
イ 被告アルカディアは,同年6月12日,原告との間で,以下の内容で被告アルカディアが被告五輪ハウスから本件契約1に基づいて受託した本件業務を原告に対して委託するとの契約(以下「本件契約2」という。)を締結した。
(ア) 本件業務の内容等
a 本件業務は,被告五輪ハウスの取り扱う商品の新規顧客開拓のための販売促進のため,あらかじめ被告五輪ハウスが作成したリストに記載された法人及び個人に対して電話をかけて行うテレフォンアポイント業務とする。
b 被告アルカディアは,被告五輪ハウスが別途定める業務上の目標達成のため,原告に対し,原告の要請により管理者1名を原告センターに1か月間のうち5から10日以内出向させ,本件業務に関する指導を行い,また,被告五輪ハウスとの連絡,調整等も行うものとする。
c 原告は,被告アルカディア又は被告五輪ハウスの代理人として業務を行っているので,業務の遂行に当たって電話をかけた先からクレームがあった場合には,原告に故意又は重大な過失がない限り,被告アルカディア又は被告五輪ハウスが対応するものとする。
(イ) 本件業務の業務遂行場所
原告センター
(ウ) 本件業務の業務実施時間等
基本業務時間 午前9時30分から午後零時30分,午後1時30分から5時30分まで
休日 毎月曜日
担当要員勤務体制 週休2日
土曜,日曜,祝祭日 基本25名体制
火曜日から金曜日まで 基本20名体制
(エ) 担当要員の数
担当要員は,同日から30日までは25名を上限とし,適切な人材の採用が可能な範囲で業務を行い,同年7月1日以降は25名とする。
(オ) 業務委託料金
テレフォンアポイントメント料金については,オペレーター給与分月額525万円(消費税相当額は別途)とし,インセンティブ給与は別途取り決めるものとする。オペレーター給与の月額料金は,1日の稼働時間を7時間とし,1か月の基本稼働日を20日とした場合であり,稼働オペレーター数,稼働時間数,稼働日数に増減が生じた場合,オペレーターの時給を1500円(消費税相当額は別途)として計算する。
コール通信費については,別途実費を請求する。
(カ) 支払条件 テレフォンアポイントメント料金については毎月末日を請求の締切日とし,翌々月第2営業日までに現金で支払い,コール通信費については月末日を請求の締切日とし,翌々々月第2営業日までに現金で支払う。
(キ) 有効期間
a 第1期間 同年6月12日から9月30日まで
第1期間の満了の1か月前までに被告アルカディアから本件契約2の終了の申出がされた場合,第1期間の満了によって本件契約2が終了する。
b 第2期間 同年10月1日から6か月間
第2期間の満了の2か月前までに原告,被告アルカディアのいずれからも本件契約2の終了の申出がされなかった場合,本件契約2はさらに6か月更新されるものとし,以後同様とする。
(ク) 本件契約2の解除
被告アルカディア又は原告が本件契約2に違反したときはその相手方が,その他契約の履行が困難と認められる相当の事由があるときは,被告アルカディア又は原告が,いずれも催告をすることなく本件契約2の全部又は一部を即時に解除することができる。
(3) 被告五輪は,同月5日,被告アルカディアに対し,本件契約1が今後約束どおりに履行される見込みがないことを理由に同月2日付けで本件契約1を解除するとの意思表示をした。
(4) 被告アルカディアは,同月5日,原告に対し,同月3日付けで,被告五輪ハウスが本件契約1を解除したことを理由に本件契約2を解除するとの意思表示をした。
2 原告は,被告アルカディアに対し,被告五輪ハウスが本件契約1を不当に解除することがないように調整すべき義務の違反を理由に債務不履行又は不法行為に基づき,被告五輪ハウスに対し,本件契約1を不当に解除することで,本件契約2の解除に至らせないようにすべき義務の違反を理由に不法行為に基づき,前記第1期間の業務委託金月額525万円の3か月分1575万円から既払額47万2500円を控除した1527万7500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である被告アルカディアについては平成19年12月6日から,被告五輪ハウスについては同月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
3 争点及びこれに関する当事者双方の主張
(1) 被告五輪ハウスによる本件契約1の解除の正当性(争点(1))
(原告の主張)
原告は,被告五輪ハウスから直接本件業務を受託する予定であったが,被告五輪ハウスは,被告アルカディアのテレフォンアポイントメントに関する責任のあるコンサルタントによって成果が上がることを期待して本件契約1及び本件契約2を締結した。本件業務の続行については被告五輪ハウスにのみ決定権があり,被告五輪ハウスが本件契約1を解除すれば,本件契約2の履行が不能になるのであるから,被告五輪ハウスは,原告に対して信義則上本件契約1を不当に解除しない義務を負っていたというべきである。
本件契約1及び本件契約2による原告の債務は,必要な施設及び人員の確保とあらかじめ被告五輪ハウスの提出したリストに基づいて電話をかけることであり,また,6月は,体制の構築運用期間であって,一定のアポインメント率を確保することが契約の内容とはなっていない。一定の成果を上げるか否かは,被告アルカディアの指導や運用体制の構築にかかっている。
したがって,原告には何らの債務不履行がないのであるから,被告五輪ハウスによる本件契約1の解除は不当である。
(被告アルカディアの主張)
本件契約1及び本件契約2は,テレフォンアポインターの質の確保ができること,テレフォンアポインターは,午前9時30分から午後5時30分まで実働7時間を基本とし,土曜,日曜及び祭日は必ず出勤し,週5日以上,月120時間以上勤務することという被告五輪ハウスの方針に準ずることが前提条件であった。
しかし,原告の確保したテレフォンアポインターは,テレフォンアポイントメントの経験が皆無の者がほとんどであり,人材としての質も劣っていた。シフト制で勤務するテレフォンアポインターも多かったし,土日に勤務していないテレフォンアポインターもいた。被告五輪ハウスの運営していた池袋のテレフォンアポイントメントセンターでのテレフォンアポインターは1人当たり1日0.8程度,新人でも1日0.3程度のテレフォンアポイントメントを取っていたが,原告の場合,1人当たり1日平均0.06のテレフォンアポイントメントしか取っていなかった。
したがって,原告に債務不履行があることは明らかであり,被告五輪ハウスによる本件契約1の解除は正当である。
(被告五輪ハウスの主張)
本件契約1及び本件契約2においては,テレフォンアポインターの質の確保が前提条件となっていたところ,原告の確保したテレフォンアポインターは,人材的にも質が低く,決められた勤務時間さえ守らない者が多数おり,被告アルカディアの優秀な指導能力を持ってしても本件契約1が履行される見込みがなかった。したがって,被告アルカディアが本件契約1に違反したとき又はその他本件契約1の履行が困難と認められる相当の事由があるときに当たるので,被告五輪ハウスによる本件契約1の解除は正当である。
(2) 被告アルカディアには,被告五輪ハウスが本件契約1を不当に解除することがないように調整すべき義務の違反があるか(争点(2))
(原告の主張)
本件業務の続行については被告五輪ハウスにのみ決定権があるが,被告アルカディアは,原告の確保したテレフォンアポインターに対して十分な指導を行わず,被告五輪ハウスが本件契約1を不当に解除することがないように調整すべき義務を果たさなかった。
(被告アルカディアの主張)
本件業務の続行については被告五輪ハウスにのみ決定権があり,被告アルカディアは,原告の確保したテレフォンアポインターに対して十分な指導を行ったが,質が悪いために成果を上げることができず,かつ,原告が本件業務の委託につき何らの譲歩もしないため,被告五輪ハウスが本件契約1を解除するに至ったのであり,被告五輪ハウスが本件契約1を不当に解除することがないように調整すべき義務を果たした。
第3 当裁判所の判断
1 本件の経緯について
第2の1の争いのない事実,証拠(甲5,甲7の1から28まで,甲7の30から39まで,甲8[相反する部分を除く。],乙1の1から5まで,乙2,乙3,乙7,乙8,乙9の1から4まで,乙10,乙12,乙15,乙16,乙18から21まで,乙38から40まで,証人D,同E,原告代表者[相反する部分を除く。],被告アルカディア代表者)及び弁論の全趣旨(平成20年11月28日の本件口頭弁論調書に添付した時系列表を含む。)によれば,本件の経緯につき,以下の事実が認められる。
(1) 原告は,労務・人事に関するコンサルタントを主たる業務としており,原告代表者は,平成18年7月24日,被告五輪ハウスの株式公開についてのコンサルタント業務の受注のために被告五輪ハウスのF副社長と会ったことがきっかけで被告五輪ハウスと知り合った。被告五輪ハウスは,太陽光発電・オール電化住宅システムを販売しており,東京都豊島区池袋のワールドインポートタワービルにテレフォンアポイントメントセンターを賃借した上で,100人以上のテレフォンアポインターを雇用し,そこで上記システムの販売に係るテレフォンアポイントメント業務(営業担当者による訪問販売の約束を取り付ける業務)をさせていた。上記太陽光発電・オール電化住宅システムは400万円から500万円する高額なものであったので,テレフォンアポインターは1人当たり1日0.8程度,新人で0.3程度のテレフォンアポイントメントを取っていたが,上記5%のテレフォンアポインターのみが売上げを伸ばしている状況であった。
(2) 原告は,新規事業としてテレフォンアポイントメントセンター事業を行うことを計画し,平成19年1月ころ,原告センターを開設した。
原告代表者は,被告代表者と異業種交流会で知り合い,被告アルカディアがテレフォンアポイントメントのコンサルティング業務を行っていることを知ったことから,平成19年3月13日ころ,被告五輪ハウスにテレフォンアポイントメントセンターの効率の改善を提案する業者として被告アルカディアを紹介した。被告五輪ハウスは,当時その売上げが下降気味であったことから,被告アルカディアに上記テレフォンアポイントメントセンターにおけるテレフォンアポイントメント業務についてのコンサルティングを委託し,被告アルカディアから具体的な数字の分析に基づく問題点の指摘や改善案を提案してもらった。その結果,被告五輪ハウスの売上高は伸びなかったものの,現状維持がされ,被告五輪ハウスは,被告アルカディアのコンサルティング業務を高く評価した。
被告五輪ハウスは,テレフォンアポイントメントのコストの削減を考えていたところ,被告アルカディアは,原告に対し,被告五輪ハウスに紹介してもらったことに恩義を感じていたこともあり,被告五輪ハウスに対し,原告センターを活用することを提案した。
そこで,同年4月5日,原告と被告らとが会談し,原告代表者が被告らに対し,プレゼンテーションを行ったが,原告代表者は,その中で,原告が原告センターを開設していること,沖縄県は,テレフォンアポイントメントセンターの誘致活動が非常に活発で補助金や助成金を支給しながら,県外企業の誘致活動をしており,県を挙げてオペレーター要員の育成のための施策等を実施していること,沖縄は,人材の宝庫であり,良い人材が容易に集まり,テレフォンアポイントメントの経験を有する人材も集まり安いこと,賃料及び人件費が安いことなど沖縄でテレフォンアポイントメントセンターを行うことの優位性を強調し,原告が人事のプロであるとの説明もした。その後,テレフォンアポイントメントセンターの要員数,ブース数,業務委託料金等の交渉の結果,原告及び被告らは,原告センターで本件業務を行うことを合意した。原告は,被告五輪ハウスと直接契約を締結することを望んだが,被告五輪ハウスは,テレフォンアポイントメント業務がうまくいくためには,テレフォンアポインターの質とその指導者の力量が必要であると考えており,原告のテレフォンアポイントメント業務の実績を確認しておらず,原告代表者の上記プレゼンテーションを必ずしも信用していなかったし,原告の能力を必ずしも評価していなかったので,原告と直接契約することには応じなかった。そして,被告五輪ハウスは,被告アルカディアと原告との信頼関係が強いと判断し,被告アルカディアがテレフォンアポインターの指導のみならず,その採用についてまで指導監督することを期待していたので,被告アルカディアと契約し,被告アルカディアが原告と契約することを希望し,原告は,これに応じた。被告アルカディアも,原告のテレフォンアポイントメント業務の実績を確認していなかったが,管理者として被告アルカディアの取締役であるE(以下「E取締役」という。)を原告センターに1か月間のうち5から10日以内出向させ,本件業務に関する指導を行えば,本件業務を行い,十分な成果が得られることができるものと判断し,また,銀行の与信との関係で売上げを伸ばすために,被告五輪ハウスと被告アルカディアとが契約を締結することを希望していたので,これに応じることにした。
そこで,同年6月12日,被告らの間で本件契約1,被告アルカディアと原告との間で本件契約2がそれぞれ締結された。本件契約1の契約書は,被告五輪ハウスの取締役であるD(以下「D取締役」という。)が作成した原案をもとにそれを修正したものであり,本件契約2は,上記本件契約1の原案をもとにそれを修正したものである。被告アルカディアは,原告に対し,本件契約2の締結前にテレフォンアポインターにつき,できる限り経験者を集めてほしいこと,シフト制(交代勤務制)は好ましくないこと,週5日以上,電話をかける先にその家の主人がいる可能性が高い土曜日,日曜日及び祝日に必ず勤務し,月120時間以上勤務することが望ましいことは伝えていたが,本件契約1及び本件契約2には,いずれもテレフォンアポインターが経験者であることを要すること,テレフォンアポインターのシフト制を採用しないこと,テレフォンアポインターが週5日以上,土曜日,日曜日及び祝日に必ず勤務し,月120時間以上勤務することを要することは定められていないし,被告アルカディアがテレフォンアポインターの採用についてまで指導監督することができるものとはなっていなかったし,本件契約1につき,同年7月以降の具体的な数値目標としての担当要員1名当たりの1日の下限アポイントメント数は定められているが,同年6月については,本件業務の開始後直ちに成果を上げることは困難であることを理由に定められていなかった。また,被告アルカディアは,人材派遣会社からの派遣従業員を採用することについては,本件契約2の締結直前に原告から告げられ,これを渋々承諾した。
(3) E取締役は,被告五輪ハウスの使用していたトークスクリプト(テレフォンアポインターがテレフォンアポイントメントを行う際のせりふ)をもとに本件業務に使用するためのトークスクリプトを同月8日に作成し,D取締役が対象商品である太陽光発電・オール電化住宅システムの講義のために使用する資料と共に,同月11日,原告センターに宅急便で送付した(上記トークスクリプトと資料が乙16である。)。
同月12日,原告センターの各テレフォンアポインターに対し,上記トークスクリプト及び資料のコピーを配布した上で,午前中はD取締役による太陽光発電・オール電化住宅システムの講義,午後はE取締役によるアポイントメントトークに関する研修が行われた。E取締役は,会話の応酬例についてのトークスクリプトも作成した(それが乙7であり,その改訂版が乙21である)。
原告センターの所長であるG(以下「G」という。)は,上記トークスクリプトをもとに自らのフォーマットに当てはめたもの(乙18)を作成したが,E取締役がその後大幅に改訂した(それが乙20であり,その改訂版が乙8である)。
(4) 原告は,原告センターのテレフォンアポインターにつき,シフト制を採用していたし,素直で真面目な者が多かったものの,十分な経験者を集めておらず,土曜日,日曜日及び祝日に勤務できない者や敬語がまともにできない者や常識的な漢字も読めない者も採用していた。E取締役は,同月11日から17日まで,同月26日から同年7月6日まで沖縄に滞在し,本件契約2で定められた日数を超えて上記テレフォンアポインターの指導に当たり,テレフォンアポインターの配置転換等も提案したが,Gはこれに応じず,同年6月13日から同月26日までに獲得したアポイントメントの数は3本にとどまっており,被告五輪ハウスの運営していた上記池袋のテレフォンアポイントメントセンターでの実績に比して十分な成果しか上げられなかった。
原告代表者も,このことにつき危機感を持ち,テレフォンアポイントメントを取った者に対し,原告代表者のポケットマネーから成功報酬を支払うことを行ったりもした。
(5) 被告五輪ハウスの営業本部長森某及び次長Hは,同月27日,原告センターでの本件業務の指導に赴いたが,その際に原告センターに対して下した評価が非常に悪かったため,D取締役が同月30日に原告センターに視察に赴くことになり,その旨の連絡を受けた被告アルカディア代表者も,同日に原告センターに赴いた。
上記視察の結果,D取締役は,被告アルカディアに対し,3週間経過しても1人当たり0.1本程度のテレフォンアポイントメントしか取れていないこと,テレフォンアポイントターが週5日以上,土曜日,日曜日及び祝祭日に必ず勤務し,月120時間以上勤務するとの条件が守られていないこと,テレフォンアポイントメント業務の未経験者や経験の浅い者が多いことなどを理由に同年7月以降の業務を中止するか,中止しない場合は,同月には,担当要員1名当たりの1日の下限アポイントメント数0.8を達成することを約束し,達成しない場合には,達成した成果分しか業務委託料金を支払わないこと申し入れる内容の「沖縄テレアポセンターの評価と今後の事業継続の可否について」と題する書面(乙2)を交付し,被告アルカディアは,直ちに原告にこれをファクシミリで送付した。また,被告アルカディア代表者は,原告センターに赴いている原告代表者に電話でひっ迫した状況を伝えた。被告アルカディア代表者は,被告五輪ハウスによる本件契約2の解除は時期尚早と判断しており,原告代表者と会って被告五輪ハウスの意見を伝え,打開策を見つけるために原告センターに赴くことになった。
同月3日,被告五輪ハウスから原告センターに対し,上記テレフォンアポイントメント業務として電話をかける先のリストが送付されてこなかったため,原告代表者は,E取締役に上記リストを送付するように被告五輪ハウスに電話をかけるように依頼したので,E取締役は,D取締役にその旨の電話をかけた。しかし,D取締役は,これに応じず,原告代表者がテレフォンアポインターが出社しているので何とかしてほしいとE取締役に頼んだので,E取締役がD取締役に再度依頼しても,E取締役の判断で先週分のリストに再コールすることにすればどうかと言うのみでとりつくしまがなかった。被告アルカディア代表者は,同日午後,原告センターに到着し,原告代表者に対し,上記「沖縄テレアポセンターの評価と今後の事業継続の可否について」と題する書面を受けて被告アルカディアにおいて作成し,上記書面と同様に人材と勤務形態の問題を指摘する「沖縄コールセンターについて」と題する書面(乙3)を交付し,これらの書面に基づいて完全出来高による契約の延長を提案したが,原告代表者は,被告五輪ハウスの指摘した事項が本件契約2には含まれていないとの主張に終始した。その際,原告代表者は,被告アルカディア代表者に対し,被告らの間に不透明なつながりがあるのではないかと疑念を示唆したところ,被告アルカディア代表者は,原告代表者に対し,被告五輪ハウスを交えた三者会談を提案したこともあったが,原告代表者は,被告五輪ハウスのD取締役を外した役員レベルの交渉を望み,D取締役を含めた交渉は断った。結局,三者会談は,実現しなかった。
原告代表者は,同月4日,被告アルカディア代表者に対し,7営業日のテレフォンアポインターの給与(テレフォンアポインターの解雇するまでの給与)を負担するという条件付きで完全出来高制への移行を承諾した。そこで,同日,被告アルカディアは,被告五輪ハウスに対し,原告代表者のこの意向を伝えたところ,被告五輪ハウスは,被告アルカディアに対し,7営業日のテレフォンアポインターの給与を保証することには応じられない,テレフォンアポイントメントを獲得するための具体策を示すべきであると申し入れたので,被告アルカディアは,同日午後6時31分,原告に対し,メールにより,被告五輪ハウスのこの申入れを伝えるとともに,被告アルカディアは,被告五輪ハウスから同月2日以降の業務委託料金を支払ってもらえないので,原告に本件業務の停止をお願いするしかないと申し入れた。これに対し,原告は,同日午後8時49分,被告アルカディアに対し,メールにより,上記申入れが本件契約2の解除の意思表示であるのか,そうであれば,正式にいつをもって解除とするのか通知書を送付するように依頼したが,テレフォンアポイントメントを獲得するための具体策を示すことはなかった。被告アルカディアは,同月5日午前9時44分,原告に対し,メールにより,直ちに本件業務の停止を行うこと,テレフォンアポイントメントを獲得するための具体策を示さなくても,原告の判断で完全出来高制への移行は可能であると連絡し,これに対し,原告は,同日午前9時53分,被告アルカディアに対し,メールにより,本件契約2の解除でなければ,本件業務の再開に備える必要があるので,再開の目処があるのであればそれがいつであるのか,本件契約2の解除の意思表示であれば書面で通知するように申し入れた。
被告五輪は,同日,被告アルカディアに対し,本件契約1が今後約束どおりに履行される見込みがないことを理由に同年7月2日付けで本件契約1を解除するとの意思表示をした。そこで,被告アルカディアは,同月5日午後5時49分,メールで,同月3日付けで,被告五輪ハウスが本件契約1を解除したことを理由に本件契約2を解除するとの意思表示をし,さらに,改めてその旨書面で通知した。
原告代表者の陳述書(甲8)及び代表者尋問の結果中,E取締役による原告センターにおけるテレフォンアポイントメント業務に関する指導につき上記認定に反する部分は,原告代表者において,E取締役が同月11日に原告センターに宅急便で送付したものすら確認しておらず,Gから聞いたことを十分な裏付けをも得ずに供述しているにすぎないのであり,E取締役の作成したトークスクリプト(乙7,乙8,乙16の一部,乙18,乙20,乙21),業務手順書(乙10)の存在,E取締役の陳述書(乙38,乙40),反対証言の存在に照らして採用することができ,本件契約2の解除に至る経緯につき上記認定に反する部分は,乙39(被告アルカディア代表者の陳述書),被告アルカディア代表者尋問の結果に照らして採用することができない。
上記認定事実に基づき,各争点について判断する。
2 被告五輪ハウスによる本件契約1の解除の正当性(争点(1))について
被告五輪ハウスは,原告に直接本件業務を委託する代わりに,被告アルカディアよる原告に対する指導監督に期待し,被告アルカディアとの間で被告五輪ハウスが被告アルカディアに対して本件業務を委託する内容の本件契約1を締結し,被告アルカディアが原告との間で被告アルカディアが原告に対して本件業務を委託する内容の本件契約2を締結することにしたのであり,本件業務の続行については被告五輪ハウスにのみ決定権があり,被告五輪ハウスが本件契約1を解除すれば,本件契約2の履行が不能になるのであるから,被告五輪ハウスは,原告に対して信義則上本件契約1を不当に解除しない義務を負っていたというべきである。
原告は,原告センターのテレフォンアポインターにつき,シフト制を採用していたし,素直で真面目な者が多かったものの,十分な経験者を集めておらず,土曜日,日曜日及び祝日に勤務できない者や敬語がまともにできない者や常識的な漢字も読めない者も採用していたこと,E取締役は,同月11日から17日まで,同月26日から同年7月6日まで沖縄に滞在し,本件契約2で定められた日数を超えて上記テレフォンアポインターの指導に当たり,テレフォンアポインターの配置転換等も提案したが,Gはこれに応じず,同年6月13日から同月26日までに獲得したアポイントメントの数は3本にとどまっており,被告五輪ハウスの運営していた上記池袋のテレフォンアポイントメントセンターでのテレフォンアポインターは1人当たり1日0.8程度,新人でも1日0.3程度のテレフォンアポイントメントを取っていたことに比して不十分な成果しか上げられず,このままでは,原告は,被告五輪ハウスから被告アルカディアを介して業務委託料金の支払を受けることができるが,被告五輪ハウスにとっては,業務委託料金を負担するだけで売上げにはつながらないこと,被告五輪ハウスのD取締役が原告センターにおける体制等の上記の問題点を指摘した際にも,被告五輪ハウスの指摘した事項が本件契約2には含まれていないとの主張に終始し,最終的には,7営業日のテレフォンアポインターの給与を保証するという条件付きで完全出来高制への移行を承諾したものの,テレフォンアポイントメント獲得のための具体策を示すことがなかったことに照らすと,被告五輪ハウスが本件契約1の解除に踏み切ったことも理解できないではない。しかし,被告アルカディアは,原告に対し,本件契約2の締結前にテレフォンアポインターにつき,できる限り経験者を集めてほしいこと,シフト制(交代勤務制)は好ましくないこと,週5日以上,土曜日,日曜日及び祝日に必ず勤務し,月120時間以上勤務することが望ましいことは伝えていたが,本件契約1及び本件契約2にはいずれも,テレフォンアポインターが経験者であることを要すること,テレフォンアポインターのシフト制を採用しないこと,テレフォンアポインターが週5日以上,土曜日,日曜日及び祝日に必ず勤務し,月120時間以上勤務することを要することは定められていないし,本件契約1につき,同年7月以降の具体的な数値目標としての担当要員1名当たりの1日の下限アポイントメント数は定められているが,同年6月については本件業務の開始後直ちに成果を上げることは困難であることを理由に定められていなかったのであるから,原告には本件契約2の債務不履行はないし,したがって被告アルカディアには本件契約1の債務不履行がないのであるから,本件契約1の履行が困難と認められる相当の事由があるということはできず,被告五輪ハウスが本件契約1を解除することは不当であったというべきである。
したがって,被告五輪ハウスは,本件契約1の解除により,原告の失った同年99月30日までの業務委託料金を賠償すべき責任を負うというべきである。
3 被告アルカディアには,被告五輪ハウスが本件契約1を不当に解除することがないように調整すべき義務の違反があるか(争点(2))について
被告アルカディアのE取締役は,本件業務のためのトークスクリプトや業務手順書を用意し,本件契約2で定められた日数を超えて原告の採用したテレフォンアポインターの指導に当たっており,その点で被告アルカディアに落ち度があったということはできない。また,被告五輪ハウスによる本件契約1の解除を避けるべく,被告五輪ハウスと原告との間を調整すべく尽力したが,これがかなわず,被告五輪ハウスが本件契約1を解除するに至ったものであり,本件契約1が解除された以上,本件契約2に係る債務は履行不能であり,被告アルカディアには,被告五輪ハウスが本件契約1を不当に解除することがないように調整すべき義務の違反があったということができない。
4 結論
以上の次第で,原告の被告五輪ハウスに対する請求は理由があるからこれを認容し,被告アルカディアに対する請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 中村也寸志)
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