判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(299)平成20年 2月 7日 東京地裁 平18(ワ)27974号 報酬金請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(299)平成20年 2月 7日 東京地裁 平18(ワ)27974号 報酬金請求事件
裁判年月日 平成20年 2月 7日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)27974号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2008WLJPCA02078001
要旨
◆医療法人の売却に関する委任契約に基づいて委託業務を遂行したとして原告が報酬金を請求した事案において、医療法人社団のオーナーであった被告から原告への同法人の売却の委任の存在を認定しつつもその後被告から原告に対して委任契約を有効に解約したとして、原告の被告に対する委任契約に基づく報酬金請求ないし商行為に基づく相当額の報酬請求が棄却された事例
参照条文
民法643条
民法648条
民法651条1項
商法512条
裁判年月日 平成20年 2月 7日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)27974号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2008WLJPCA02078001
東京都豊島区〈以下省略〉
原告 株式会社エム・キュー・エム・エス
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 辻千晶
東京都練馬区〈以下省略〉
被告 Y
訴訟代理人弁護士 中本源太郎
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1億2550万円及びこれに対する平成18年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告との間で医療法人の売却に関して委任契約を締結し,これに基づいて,委託業務を遂行した(仮に,遂行していないとすれば,被告の故意による条件不成就にあたる)と主張して,民法648条に基づく報酬金1億2550万円(予備的に商法512条に基づく「相当な報酬」として2850万円)及びこれに対する請求の日である平成18年9月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(争いのない事実等)
(1) 原告は,医療用機器・備品等の販売,医療機関に関する経営コンサルタント業務,市場調査診断に関する業務等を目的とする会社である。
(2) 被告は,税理士であり,医療法人社団真清会東京北部病院(以下「本件病院」という。)の社員持分権の大半を所有する同病院のオーナーであった。
(3) 平成18年3月24日(以下の日付はいずれも平成18年であるため,その記載を省略する。),被告は「原告を代理人と定め次の事項に関して全権を委任します。1 本件病院を継承する為の一切の権限」との記載のある委任状(以下「本件委任状」という。)に署名押印した。
(4) 6月6日,原告の仲介で,被告とB(以下「B」という。)との間で基本合意書を締結したが,Bの側で資金の用意ができなかったため結局不成立に終わった。
7月11日,原告は被告に対して,預かっていた本件病院に関する資料一式を返還した。
(5) 本件病院は,その後,被告から景星会大塚北口診療所(以下「景星会」という。)に売却譲渡された。
原告は,本件病院内の掲示により,このことを知り,原告代理人を通じて,被告に対し,9月25日付けの内容証明郵便にて,原告との契約をどうするのかについての回答を3日以内に文書ですること求め,併せて,解約する場合には,民法648条に基づき,1億プラス2550万円(代金手取額の3パーセント)を2週間以内に支払うよう求める通知書を送付した。(甲5の1及び2)
これに対し,被告は,同月28日付けで,「原告への「委任」はそのだ会への委任であること,被告は,原告に対し,7月に「本件病院承継の話はお断り」の連絡を入れており,同時に原告より資料全部の返還を受けていることから,原告の請求はあり得ないと判断している」旨の回答をした。(甲6)
3 争点
(1) 原告と被告との間での委託契約の成否及び報酬支払の合意の有無
(原告の主張)
被告は,3月ころ,原告との間で以下の内容の委任契約を締結した(以下「本件委任契約」という。)。(甲1)
ア 被告は,原告を代理人と定め,本件病院を売却して,その経営を継承させるために必要な一切の権限を委任する。
イ 委任の成功報酬は,1億プラス総売却代金額の3パーセントとする。
ウ 売却の交渉は,秘密裏に行う。
(被告の主張)
否認する。
甲1は,原告代表者が医療法人苑田会(以下「苑田会」という。)の理事長と会って本件病院の継承について話合うために,何もなしでは困ることから取りあえず作成,交付したに過ぎず,広く本件病院の仲介を委託したものではない。
(2) 委任契約の終了
(被告の主張)
原告は,7月初旬には被告に対し,「病院の譲渡の件に一切関与しないように」と断られ,資料一切の返却を求められ,これに応じており,仮に,委任契約が成立したとしても,終了した。
(原告の主張)
否認する。被告が原告に対して委任関係を「断る」旨の意思表示をしたことはない。
(3) 原告の委任事務の遂行状況
(原告の主張)
原告は,被告との委任契約に従って,本件病院売却の資産・経営内容の調査,買受人探し等の業務を開始した。原告は苑田会,B等の買い受け希望者(本人または代理人)をみつけて被告に紹介し,条件交渉を行った。Bとは基本合意書を締結したが,Bの側で資金の用意ができなかったため結局不成立に終わった。
その後も,原告は買受希望者を探していたところ,7月12日ころ,被告から売却手続きを早く進めるよう催促があったため,原告は早急に交渉を進め,8月18日には鹿島株式会社(以下「鹿島」という。)という新たな買受人を見つけ,同社から9億5000万円の買付証明を得,代金9億5000万円全額について準備ができていることも確認した。原告は,被告に上記の件を報告し,経営継承に必要な書類について相談したところ,被告からは一部の書類については買受人側で作成して欲しい旨答えた。
よって,8月18日の時点で,同病院の経営継承契約成立は確実となり,原告の本件委任契約に基づく業務のうち原告がなすべきことは全て完了した。原告は,被告の留守番電話にその旨の報告を入れておいた。
ところが,同月22日になって,被告は,同病院の売却中止を突然,一方的に通告してきた。原告は,翌日被告事務所を訪問し,買受人は既に資金を用意していて,経営継承契約成立は確実である旨説明して翻意を促したが,被告の意思は固く,同病院を手放す意思がなくなった旨答えた。こうして,同月23日頃,被告は原告に対し一方的に本件委任契約を解約する旨通知した。
(被告の主張)
争う。
(4) 原告の請求できる報酬金額はいくらか。
(原告の主張)
前記のとおり,本件病院の売却代金は9億5000万円であるから,前記主張の報酬合意((1)のイ)によれば,報酬は1億円プラス(9億5000万円-1億)×0.03=1億2550万円となる。
仮に,報酬支払の合意が立証不十分であったとしても,原告は,株式会社であり,業務として,被告のために本件病院売却の代理を行っていたのであるから,商法512条により,「相当な報酬」が発生する。不動産売買の際の代理人報酬・仲介手数料が売却価格の3パーセントが相場であることから,9億5000万円の3パーセントである2850万円が相当な報酬ということになる。
(被告の主張)
争う。前記のとおり,原告主張の契約は成立しておらず,報酬支払の合意はない。
また,本件病院売却代理の業務は原告の営業の範囲に属しない。原告は,いわゆるレセコン業者であって,病院経営の実務についてはずぶの素人であり,病院の資産査定,医師,職員資源の査定などについても全く無知であり,およそ病院の売却を業務として行う資格も能力も欠いている。
(5) 被告が契約の条件成就を妨げた(民法130条)といえるか。
(原告の主張)
本件委任契約は,「被告において原告に対し,本件病院の売却を委託するとともにその委託に対し報酬を支払うことを約束する,ただし,その報酬の支払は媒介により委託者において希望した契約が成立することを停止条件とするという合意」つまり,報酬支払についての特約付きの契約ということができる。
原告は,7月初旬から,鹿島と交渉を開始し,8月10日ころには,合意に至っている。それにもかかわらず,被告は,勝手に本件病院を景星会に売却してしまい,10月1日に正式に発表した。
本件委任契約においては,本件病院が原告の代理活動の結果,鹿島に売却された場合は,被告は原告に対し,合意のとおり1億円プラス総売却代金の3パーセントである2550万円を支払わなくてはならないのであるから,被告は,条件の成就によって不利益を受ける当事者にあたり,被告が本件病院を景星会に売却したことは,条件成就の妨害にあたり,被告は,本件病院を景星会に売却することが本件委任契約の条件成就を妨げることだと認識していた。また,本件病院が原告の代理行為によって鹿島に売却さなかったのは,被告が勝手に景星会に対して売却したという妨害行為だけが理由であり,被告の妨害行為と原告による本件病院売却という条件が不成就に終わったこととの因果関係は明らかである。さらに,本件委任契約において,被告は原告に対して本件病院の売却を専属的に申し入れ,自ら又は他の代理人が勝手に売却することは許されない旨の合意がされていた。被告は,本件委任状を書いた際,「長い付き合いの貴方だから,貴方だけに頼むんだからね。」と延べ,本件病院の売却の委任は原告に専任したものであることを明言している。原告は,遅くとも8月10日までには鹿島という被告のかねてからの希望に合致した買い手を見つけて被告に報告していたのであるから,被告が原告との合意に反して自ら本件病院を他に売却してしまわなければ,鹿島への売却という条件が成就していたことは十分認識していた。それにもかかわらず,被告は勝手に本件病院を景星会に売却してしまった。かかる被告の行為が信義則に反することは明らかである。
(被告の主張)
原告と被告との間に委任関係はない。鹿島との交渉開始は原・被告間に病院の譲渡に関してなんらの委任関係もなくなった後に,原告が勝手に動いたことを意味するに過ぎず,しかも,その時点では被告と景星会との間に病院譲渡に関する基本合意が取り交わされていた。したがって,被告には原告による病院譲渡の仲介行為を妨げようとする故意もなければ,条件成就を妨害した事実もない。また,鹿島との売却合意なるものも,全く具体化されていたわけではなく,原告の主張はでたらめである。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実,証拠(甲9,11,乙2,5,証人C,原告代表者本人(後記採用できない部分を除く。),被告本人(後記採用できない部分を除く。),後記各証拠)に弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。
(1) 原告代表者と被告とは,以前から顔見知りであった。
被告は,2月ころから,本件病院の実務を取り仕切っていたD常務理事の体調が悪いことから,本件病院を引き継いでくれる医師を捜し,売却することを考えるようになり,3月には,株式会社M&Aセンターと連絡を取ったり,同業の税理士に相談したりしていた。
(2) その後,原告代表者から被告に対して,上記の売却の話をまとめたいとの要請があり,被告は原告にこれを依頼することにし,他に相談していた関係には待ってもらうことにし,3月24日,被告は,原告が文案を用意してきた本件委任状に署名押印して交付した。(甲1)
(3) 4月28日,被告は,原告代表者から医療コンサルタントのC(以下「C」という。)を紹介され,Cからは,E医師を紹介するとの話があった。被告は,同年30日,Cとの間で秘密保持契約(乙11)を締結し,本件病院の3期分の決算書一式と融資に必要な書類を渡した。
5月9日,被告は,原告代表者の紹介で,苑田会のF事務長と会った。そして,このころ,被告は,3期分の決算書等の資料を苑田会のF事務長に渡してもらうために,原告代表者に預けた。
また,このころ,被告は,病院の評価額を算出し,5月10日,資産から負債を控除した金額を5億1570万円とする「資産の査定明細」を作成し,これと,3月31日現在の決算資料を原告代表者に渡した。(甲7,甲8の1及び2)
(4) 原告は,医師であるBに対する売却の話を進め,B及びそのコンサルタントであるGと交渉をし,6月6日には,原告の仲介で原告とBとの間で基本合意書を締結した。このときには,原告代表者及びGも立ち会った。この基本合意書の中には,「Bは被告の所有する本件病院の経営権を総額9.5億円で被告から承継するものとする。被告は,6月20日までB以外の第三者と被告の所有する経営権の売却及び本件取引を阻害するいかなる取引も行わないものとする。」などの記載がある。(甲2)
結局,Bの側で資金の用意ができず,断ってきたため,被告とBとの契約は,不成立に終わった。
(5) その後,6月中旬ころから,被告は,原告代表者と連絡をとろうとしたが,原告代表者は電話に出ず,連絡がとれなかった。また,このころまでに,被告は,D常務理事などから本件病院の売却の話が第三者に漏れていることを指摘され,原告から情報が漏れているのではないかと疑って,被告は,原告の事務所に連絡をして,原告代表者に渡した資料を返還するように求めた。
7月11日,原告社員が,被告の事務所に,原告代表者に渡した資料及びBのコンサルタントであったGに渡してあった資料全てを持参して返還した。(乙9)
(6) 同月12日,被告が原告代表者に電話をし,本件病院の売却の話を断る旨伝え,その後,本件委任状を返還するように求めた。(乙8,10)
(7) 8月22日,原告代表者は被告に電話をして,鹿島との契約の話をしたが,被告は,これを断った。翌日には,原告代表者は被告の事務所を訪れ,同様の話をしたが,被告はこれを断り,原告代表者は,鹿島の買付証明書(甲3の1)を被告の事務所に置いていった。
(8) 被告は,本件病院の出資金を景星会に譲渡することにして,8月7日には基本合意書を締結し,8月29日付けで,本件病院内に「業務提携について」という表題で,景星会と業務提携を行うことになった旨などを掲示した。(乙4,甲10)
(9) 原告は,本件病院内の掲示により,被告が景星会に本件病院を譲渡したことを知り,原告代理人を通じて,被告に対し,9月25日付けの内容証明郵便にて,原告との契約をどうするのかについての回答を3日以内に文書ですることを求め,解約する場合には,民法648条に基づき,1億プラス2550万円(代金手取額の3パーセント)を2週間以内に支払うよう求める通知書を送付した。(甲5の1及び2)
これに対し,被告は,「原告への「委任」はそのだ会への委任であること,被告は,原告に対し,7月に「本件病院承継の話はお断り」の連絡を入れており,同時に原告より資料全部の返還を受けていることから,原告の請求はあり得ないと判断している」旨の回答をした。(甲6)
2 争点(1)について
被告が,4月24日に本件委任状に署名押印したことは争いのない事実であるところ,被告は,これは苑田会の院長に会うためのものであって,原告の主張するような契約は成立していないと主張し,被告本人はこれに沿う供述をする。
そこで検討するに,本件委任状には被告の述べるような限定が付されていないこと,被告は,原告が苑田会との交渉の後に,原告がBとの契約に向けて交渉していることを容認し,Bとの基本合意を成立させていること,7月ころまでは,被告は原告ないし原告から紹介されたC以外には,本件病院の売却方を探すことを依頼していないこと,被告がH理事宛に送付したものであるとする乙8に「Aで困ったので,専任の委任はしません。」「Aを断ったので,」との記載があることに照らすと,本件委任状が苑田会の院長に会うためのみのものであったという被告の主張は採用できない。他方,3月24日ころまでの間には,被告において希望する売却代金や売却の条件なども決まっていなかったことや,被告とBとの契約において,原告はBやコンサルタントであったGと交渉をし被告に紹介はしたものの,基本契約書に代理人として署名するなどしているわけではないことに照らすと,本件委任状の作成をもって原告の主張するような,被告が原告に対して,本件病院を売却してその経営を継承させるために必要な一切の権限を与えたとまでは認められず,また,報酬について明確な合意があったとも認めがたい。
原告代表者は,報酬について,被告が「委託報酬は売約価格の3パーセント,あと他に1億くらいは乗せてかまいませんよ。」などと述べていた旨主張するが,被告はこれを否定しているところ,原告の主張を裏付ける客観的な証拠は全くなく,その主張する金額は,その原告が行うべき仕事に対して高額に過ぎ,そのような約束を被告がしていたとは考えがたい。
よって,前記前提事実によると,原告と被告との間には,3月24日ころまでに,原告に対し,本件病院の売却先を探すことを委任する旨の合意がなされたものと認めることができる。なお,原告と被告の間に報酬支払の合意が認められないとしても,原告は,株式会社であるから,上記契約に基づく行為は業務として行われるものというべきであり,商法512条により相当な報酬を請求しうることになる。
3 争点(2)について
原告と被告との間では,上記2記載のような契約が成立したものと認められるが,前記前提事実によると,6月中旬ころから,被告は,原告代表者と連絡をとれなかったこと,また,D常務理事などから病院売却の話が第三者に漏れていることを指摘され,原告から情報が漏れているのではないかと疑ったことなどから資料の返還を求めたこと,7月11日,原告社員が,被告の事務所に資料を持参して返還したこと,同月12日,被告が原告代表者に電話をし,本件病院の売却の話を断る旨伝え,その後,本件委任状を返還するように求めたことが認められるのであって,これによれば,上記の契約は,7月12日には,被告により解除されたものと認めることができる。
原告は,被告からそのような話はなかったと主張し,原告代表者は,7月12日の電話では,被告から「早く売却手続きを進めるように」と言われた旨,鹿島から買付証明が出た時点で,被告に紹介したところ,「会計書類はそっちの方で作ってよ。」と言われた旨の供述をするが,被告がH専務に7月15日に送付したファックス(乙8)には,原告に対して断った旨が記載されているところ,被告がこの中で虚偽の事実を記載する理由は見あたらないこと,他方,原告代表者の述べるところについてはこれを裏付ける資料はなく,被告から資料の返還を求められこれを返還した直後の7月12日に,被告が「早く売却手続きを進めるように」などと言うのは不自然であり,また,その後,被告が本件病院に関する資料を原告側に渡した事実がないことに照らせば,原告代表者の供述は採用できない。
4 以上によれば,原告と被告との委任契約は,7月12日には終了していたものというべきであり,その後に,原告が本件病院の売却先として鹿島等と交渉したとしても,原告は,被告との委任契約に基づいて報酬を請求することはできず,また,被告が本件病院を景星会に売却したことをもって,被告が原告と被告との契約の条件成就を故意に妨げたということもできないのであって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 武藤真紀子)
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