「営業会社 成功報酬」に関する裁判例(20)平成30年 5月18日 大阪高裁 平29(ネ)610号 損害賠償請求控訴事件
「営業会社 成功報酬」に関する裁判例(20)平成30年 5月18日 大阪高裁 平29(ネ)610号 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成30年 5月18日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ネ)610号
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判結果 棄却 文献番号 2018WLJPCA05186009
要旨
◆4-1〔編注:京都地判平成30年2月2日先物取引裁判例集 79号141頁〕の控訴審。一審被告が控訴したが、いずれも棄却。
裁判経過
第一審 京都地裁 判決 平28(ワ)2968号
出典
先物取引裁判例集 79号164頁
裁判年月日 平成30年 5月18日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ネ)610号
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判結果 棄却 文献番号 2018WLJPCA05186009
大阪市〈以下省略〉
控訴人(1審被告) 株式会社リスクマネジメントブレイン(以下「控訴人会社」という。)
同代表者代表取締役 A
静岡県〈以下省略〉
控訴人(1審被告) Y1(以下「控訴人Y1」という。)
横浜市〈以下省略〉
控訴人(1審被告) Y2(以下「控訴人Y2」という。)
控訴人ら代理人弁護士 萱野一樹
京都市〈以下省略〉
被控訴人(1審原告) X
同訴訟代理人弁護士 加藤進一郎
中島俊明
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要(以下,略語は,特記しない限り原判決の例による。)
1 事案の要旨
本件は,控訴人会社を無限責任組合員とする投資事業有限責任組合(本件各組合)に対し,平成22年7月から平成23年1月までの間(以下「本件当時」という。)に出資金として4回にわたり合計400万円を支払った被控訴人が,控訴人会社は,株式会社Modesty(以下「Modesty」という。),株式会社ビバーチェ(以下「ビバーチェ」という。),日本ビジネス・ネット株式会社(以下「日本ビジネス・ネット」といい,ビバーチェと併せて「ビバーチェら」という。)らと共謀し,実際には顧客から預かった出資金のうち約定の手数料等を除く大部分をビバーチェらに未上場企業の株式購入代金名目で送金し,これを直ちにコンサルタント料名目で控訴人会社に還流させるという方法を用いて,出資金の大部分を控訴人会社の人件費や交際費等の経費として費消していたにもかかわらず,被控訴人には出資金が適切に運用される投資商品である旨の説明をして出資金を支払わせるという詐欺行為を行い損害を生じさせた,控訴人Y1(本件当時の控訴人会社及びModestyの取締役)並びに控訴人Y2(本件当時の控訴人会社及びModestyの監査役)は,上記詐欺行為を中心になって推進したと主張して,控訴人会社に対しては共同不法行為に基づき,控訴人Y1及び控訴人Y2に対しては共同不法行為又は会社法429条1項(選択的併合)に基づき,損害賠償金元金440万円及びこれに対する平成23年1月4日(最後の損害が発生した日の前日)時点における遅延損害金4万9999円(以上の合計444万9999円)並びに上記損害賠償金元金に対する同月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
控訴人らは,いずれも原審の口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しなかったので,原審は,控訴人らが請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして,これを自白したものとみなし,被控訴人の請求を全部認容したところ,控訴人らが本件控訴を提起した。
なお,被控訴人は,上記の共謀には,控訴人ら,ビバーチェら及びModestyのほか,B(本件当時の控訴人会社及びModestyの取締役。以下「B」という。),C(本件当時の控訴人会社及び日本ビジネス・ネットの取締役),D(本件当時の控訴人会社の取締役)及びE(本件当時のビバーチェの取締役。以下「E」という。)も加わっていたと主張しており,本件の訴え提起当初は,被控訴人のビバーチェら及びModestyに対する共同不法行為に基づく各請求並びにB,C,D及びEに対する共同不法行為又は会社法429条1項に基づく各請求が本件と併合されていたが,原審において,控訴人らによる移送申立てを経て,被控訴人の控訴人らに対する請求について弁論が分離されたという経緯がある。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 当事者等
ア 控訴人会社は,平成18年9月15日に設立された,投資事業有限責任組合財産の運用・管理等を目的とする株式会社であり,その発行済株式1000株のうち750株はBが,その余は控訴人会社が保有している。Bは,控訴人会社の設立当初から平成26年4月30日までその代表取締役であったが,同日,代表取締役を辞任し,A(以下「A」という。)が控訴人会社の代表取締役に就任した。控訴人会社は,投資事業有限責任組合契約に関する法律2条2項の投資事業有限責任組合である2号組合(RMBセレクト第2号投資事業有限責任組合。組合の存続期間は平成22年4月5日から平成27年8月31日まで),3号組合(RMBセレクト第3号投資事業有限責任組合。組合の存続期間は平成22年8月4日から平成27年8月31日まで)及び5号組合(RMB第5号投資事業有限責任組合。組合の存続期間は平成22年10月5日から平成27年8月31日まで)の無限責任組合員であった。(甲5~7,12)
イ Modestyは,平成19年5月24日に設立された,税務・財務全般におけるコンサルティング業務等を目的とする株式会社であり,その発行済株式900株のうち800株はBが,その余は控訴人Y2とEが50株ずつ保有している。Bは,Modestyの設立当初からの代表取締役である。(甲11,12)
ウ ビバーチェは,平成10年8月12日に設立された,株式の保有,売買並びにその他の投資事業等を目的とする株式会社であり,その発行済株式60株は,全て設立当初からの代表取締役であるEが保有している。(甲3,4,12)
エ 日本ビジネス・ネットは,平成15年12月3日に設立された,企業経営に関する助言,指導及び研究等を目的とする株式会社であり,Modestyの100%子会社である。(甲12,13)
オ 株式会社SRIブレイン(以下「SRIブレイン」という。)は,平成17年10月11日に設立された,投資事業有限責任組合財産の運用・管理等を目的とする株式会社であり,その発行済株式1000株のうち900株はBが,その余はModestyが保有している。Bは,SRIブレインの設立当初から平成26年4月30日までその代表取締役であったが,同日,代表取締役を辞任し,AがSRIブレインの代表取締役に就任した。(甲10,12)
カ 控訴人Y1は,①平成19年3月20日から平成20年11月18日までの間は控訴人会社の監査役,②本件当時を含む平成19年5月24日から平成25年1月21日までの間はModestyの取締役,③本件当時を含む平成20年11月19日から平成23年3月18日までの間及び平成24年1月21日から平成25年1月21日までの間は控訴人会社の取締役,④平成23年3月22日から平成24年1月20日までの間はSRIブレインの取締役であった。
キ 控訴人Y2は,①本件当時を含む平成21年2月20日から平成23年3月18日までの間は控訴人会社の監査役,②本件当時を含む平成20年12月1日から平成25年1月21日までの間はModestyの監査役,③平成23年3月18日から平成24年1月20日までの間は控訴人会社の取締役,④平成24年1月21日から平成27年8月25日までの間はSRIブレインの取締役,⑤平成25年1月21日から平成28年3月31日までの間はModestyの取締役であった。
(2) 本件各組合契約の締結等
ア 控訴人会社と被控訴人は,平成22年7月12日,控訴人会社の勧誘により,控訴人会社を2号組合の無限責任組合員,被控訴人を有限責任組合員とする投資事業有限責任組合契約(2号契約)を締結し,被控訴人は,同日,2号組合に対し,出資金として100万円を支払った。(甲14,17,21)
イ 控訴人会社と被控訴人は,平成22年9月7日,控訴人会社の勧誘により,控訴人会社を3号組合の無限責任組合員,被控訴人を有限責任組合員とする投資事業有限責任組合契約(3号契約)を締結し,被控訴人は,同月10日,3号組合に対し,出資金として100万円を支払い,同年10月26日にも,3号組合に対し,追加の出資金として100万円を支払った。(甲15,18,19,22,23)
ウ 控訴人会社と被控訴人は,平成22年12月27日,控訴人会社の勧誘により,控訴人会社を5号組合の無限責任組合員,被控訴人を有限責任組合員とする投資事業有限責任組合契約(5号契約)を締結し,被控訴人は,平成23年1月5日,5号組合に対し,出資金として100万円を支払った。(甲16,20,24)
エ 上記ア~ウの各契約(本件各組合契約)では,いずれも,無限責任組合員である控訴人会社が,有限責任組合員の出資した金銭をもって株式の取得及び保有等の投資事業を行い,有限責任組合員が,そこから生ずる収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることができるとされていた。また,本件各組合契約では,①組合決算に係る監査費用等を含む決算書費用,②無限責任組合員の投資委員会が投資対象資産の選定及び決定を行う際,投資判断の客観性を高めるものとして必要がある場合における弁護士又は公認会計士に対する相談料並びに当該投資対象資産に対する調査分析料,③組合の事業に関連する法令等を遵守するための費用又は組合の事業に係る法的手続に要する費用は,いずれも組合財産より支払われるものとされ,また,無限責任組合員(控訴人会社)は,④投資資産の保管・管理報酬(初年度は出資約束金額の3%,次年度以降は各年2%(5年間で合計11%)に相当する額),⑤償還時において純益が発生した場合の成功報酬(当該純益分の20%に相当する額),⑥組合の組成及び設立に係る報酬(出資約束金額の5%に相当する額(上記④の5年分の保管・管理報酬との合計は16%))を組合財産から受け取ることとされている(以下,上記④~⑥を「約定報酬」といい,約定報酬と上記①~③を併せて「約定手数料等」という。)。なお,本件各組合契約の契約書には,約定手数料等以外に控訴人会社が組合財産から金銭を収受することができる旨の記載はない。(甲14~16)
オ 本件各組合契約における約定手数料等の内容(上記エ)は,本件各組合契約の勧誘時に控訴人会社の営業員が顧客に交付していた説明資料にも明記されていた。(乙1~3)
(3) 本件各組合の解散等
ア 控訴人会社は,平成24年6月,投資事業有限責任組合に係る投資の募集を停止した。(甲39)
イ 本件各組合は,平成27年9月1日,いずれも存続期間の満了により解散した。本件各組合がこれまでに被控訴人に支払った金銭は,2号組合が7611円,3号組合が12万1904円,5号組合が5万0317円である。(甲5~7,25~27)
(4) 証券取引等監視委員会の申立て等
ア 証券取引等監視委員会は,平成27年8月7日,東京地方裁判所に対し,SRIブレイン及びA(以下「SRIブレインら」という。)が,金融商品取引契約(投資事業有限責任組合契約)の締結又はその勧誘に関して,顧客に対して虚偽のことを告げており,これは金融商品取引法38条1号に違反すると主張して,同法192条1項に基づき,SRIブレインらに対し,同法63条1項1号に掲げる私募に係る業務を行うに当たり,金融商品取引契約の締結又はその勧誘に関して,顧客に対し虚偽のことを告げる行為の禁止及び停止を命ずることを求める申立てをした。(甲1,3)
イ 東京地方裁判所は,平成27年12月4日,上記アの申立てについて,SRIブレインの顧客に対する説明に虚偽告知があったとして,SRIブレインらに対し,金融商品取引契約の締結又は勧誘に関して顧客に対して虚偽のことを告知してはならないとの決定をした。SRIブレインらは,上記決定を不服として抗告したが,東京高等裁判所は,平成28年3月3日,SRIブレインらの上記抗告を棄却する決定をした(以下,東京地方裁判所と東京高等裁判所の上記各決定を「別件各決定」という。)。(甲3,4)
3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 控訴人会社の被控訴人に対する虚偽告知の有無
【被控訴人の主張】
ア 控訴人会社は,平成20年頃から平成24年7月頃まで,ビバーチェら及びModestyと共謀の上,本件各組合契約に基づき顧客から預かった出資金のうち約定報酬相当額を除いた大部分を本件各組合の口座からビバーチェらに送金し,ビバーチェらから控訴人会社にこれを直ちに還流させて受領し,当該受領した金銭を控訴人会社の人件費,交際費等の経費に費消するという方法により,組合財産から約定手数料等以外の多額の金銭を収受していたにもかかわらず,本件各組合への出資は投資資金が適切に運用されるまっとうな投資商品である旨の虚偽告知をして勧誘するという,別件各決定が認定したSRIブレインの虚偽告知による勧誘と同様の手口による勧誘を行っていた。被控訴人は,出資金の大部分が控訴人会社の人件費,交際費等に費消されるということが分かっていれば本件各組合に出資をしなかったから,控訴人会社が本件各組合への出資を勧誘して出資金を支払わせた行為は詐欺行為に当たり,これにより被控訴人は上記出資金額相当の損害を被った。
イ 控訴人Y1及び控訴人Y2は,Bほかとともに上記アの一連の詐欺行為を中心となって推進した。また,控訴人Y1は控訴人会社及びModestyの取締役として,控訴人Y2は控訴人会社及びModestyの監査役として,それぞれ控訴人会社やModestyによる上記一連の詐欺行為を阻止する義務があったが,いずれも上記の義務を怠った。
ウ 控訴人らは,①本件各組合からビバーチェらへの送金は,未公開株式の取得代金の前渡金であり,②ビバーチェらから控訴人会社への送金は,ビバーチェらが株式を取得するに当たり,投資対象企業の財務状況等の調査(デューデリジェンス)等の業務委託の対価として,ビバーチェらの自己資金から支払っていたものであると主張するが,別件各決定が認定するとおり,ビバーチェらに対する業務委託は実態を伴うものではなかったのであり,このことは,別件各決定の事案に係る証券取引等監視委員会の調査(以下「証券取引等監視委員会の調査」という。)における控訴人会社関係者の供述によっても裏付けられる。
【控訴人らの主張】
ア 控訴人会社が,本件各組合の組合財産から約定手数料等以外の金銭を収受した事実はなく,被控訴人の主張する虚偽告知の事実は存在しない。このことは,平成24年に行われた近畿財務局による調査(以下「近畿財務局の調査」という。)の結果,被控訴人が還流と指摘する点も含めて問題なしとされたことや,証券取引等監視委員会の調査の結果,SRIブレインについては金融商品取引法192条1項による申立てがされたが,控訴人会社については同項の申立てがされなかったことからも裏付けられる。
イ 本件各組合からビバーチェらへの送金は,未公開株式の取得代金の前渡金であり,ビバーチェらから控訴人会社への送金は,ビバーチェらが株式を取得するに当たり,投資対象企業のデューデリジェンス等の業務委託の対価として,ビバーチェらの自己資金から支払っていたものである。控訴人会社は,本件各組合の投資先企業を選定するに当たっては,当該企業から大量の資料の提出を求めてデューデリジェンスを厳正に行い,適正な価格で株式を取得していたところ,上記デューデリジェンスの対価が本件各組合の財産からビバーチェらに支払われたと認められるとしても,当該費用が組合財産から支出されることは本件各組合契約で認められているのであるから,ビバーチェらにおいて上記対価を受領することは合理的である。ビバーチェらに対する業務委託は実態がないとの被控訴人の主張は理由がない。
ウ 被控訴人は,控訴人会社とSRIブレインを同一視し,控訴人会社がSRIブレインと同一の組織・手法により投資勧誘を行い,顧客に損害を被らせたと主張するが,控訴人会社とSRIブレインは別法人であり,被控訴人の上記主張は証拠の裏付けを欠く。
エ 証券取引等監視委員会の調査の際に作成されたAの質問調書(特に甲40)には,虚偽告知が存在したとの被控訴人の主張を裏付けるかのような供述があるが,営業畑を経て代表取締役に就任したAは上記調査当時,財務・運用ないし資金の流れについての知見を有していなかった。上記質問調書に記載のAの供述は,長時間にわたって理詰めで追及され疲労困憊した状況の下,証券検査官のいいなりで,Aには理解できない内容の調書に署名押印させられたものに過ぎず,上記調書の任意性信用性には疑問がある。また,控訴人Y2の質問調書(甲44)における供述は,実態のないコンサルティング報酬を受け取り,売買差益を控訴人会社に還流させたという評価を認めるものではなく,被控訴人の主張を裏付けるものではない。
(2) 損害の発生及び数額
【被控訴人の主張】
ア 被控訴人は,控訴人らによる詐欺行為により,前提事実(2)ア~ウのとおり,合計400万円を本件各組合に支払い,同額の損害を被った(なお,被控訴人は,控訴人らの悪質な詐欺行為によって損害を被ったのであるから,前提事実(3)の本件各組合から被控訴人に支払われた金額を損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反し,許されない。)。
イ 控訴人らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は40万円が相当であり,最後の損害が発生した日の前日である平成23年1月4日における遅延損害金は4万9999円である。
【控訴人らの主張】
争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実並びに証拠(甲29,40)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(1) 平成26年4月30日まで控訴人会社及びSRIブレインの代表取締役を務め,両社の発行済株式の各90%を保有するBは,平成27年7月21日,証券取引等監視委員会統括検査官に対し,以下の内容の供述をした。
ア SRIブレイン又は控訴人会社では,投資事業有限責任組合に興味を持った顧客に対し,リスク等が記載された重要事項説明書等の販売用資料一式を送付し,営業員がそれを基に説明をして取得勧誘をしている。
イ これにより投資事業有限責任組合に集まった出資金は,重要事項説明書記載のSRIブレインや控訴人会社への手数料等一部を除いて,投資先企業である未上場企業株式の取得のため,ビバーチェらに前渡金として送金し,その後,ビバーチェらが投資事業有限責任組合に対し,業務委託契約に基づいてSRIブレイン及び控訴人会社へコンサルティング料名目で支払い,SRIブレイン,控訴人会社及びModesty等の運転資金として利用している。
ウ このように,投資事業有限責任組合の出資金を,ビバーチェらを介し,SRIブレイン及び控訴人会社へ送金することを決めたのは,B,控訴人Y2及び控訴人Y1であり,少なくとも平成20年4月からそのような形態で行っていた。
(2) 平成26年4月30日に控訴人会社及びSRIブレインの代表取締役に就任したAは,平成27年8月3日,証券取引等監視委員会統括検査官に対し,以下の内容の供述をした。
ア Aは,SRIブレイン及び控訴人会社の代表取締役就任以降,SRIブレイン及び控訴人会社が設定した投資事業有限責任組合の事業に関し,投資家が入金した出資金をビバーチェらに前渡金として送金し未上場企業株式を取得する方法,投資事業有限責任組合の運用に関する業務及び運営など,投資事業有限責任組合の無限責任組合員であるSRIブレイン又は控訴人会社の全ての業務運営の最終的な指示,決定を行っている。なお,Aが行っている上記業務運営の指示,決定は,B前代表取締役時代から引き継いだものであり,基本的に,それまで同様に両社の業務運営を行っている。
イ SRIブレイン及び控訴人会社は,投資事業有限責任組合契約や重要事項説明書では,管理報酬などの手数料等は合計16%しか徴収しない旨顧客に説明しているところ,上記の手数料等だけでは会社の運転資金が賄えないため,ビバーチェらを介し出資金を還流させ,SRIブレイン,控訴人会社及びModestyの運転資金として充当していた。
ウ 上記の還流された出資金は契約書などでは記載されていないものであることから,Aは,このような投資事業有限責任組合の運営が顧客と締結した投資事業有限責任組合契約の内容に反することになり,顧客に対して虚偽のことを告げていることになると,少なくとも社長に就任後の平成26年10月頃から承知していたが,このような運営を行っていることについて,出資者である顧客には,取得勧誘の際にも,出資していただいた後も,一切説明してない。
2 争点(1)(控訴人会社の被控訴人に対する虚偽告知の有無)について
(1) 上記1認定のB及びAの証券検査官に対する各供述は,客観的証拠により認定し得る出資金のビバーチェらへの送金状況及び同社らからの還流状況等の事実と符合し,その内容も不自然なものではないから,十分信用することができるところ,上記供述に係る事実によると,①控訴人会社は,本件当時,顧客から預かった本件各組合への出資金のうち約定報酬相当額を除いた大部分を本件各組合の口座からビバーチェらに送金し,ビバーチェらから控訴人会社にこれを直ちに還流させて受領するという方法により,組合財産から約定手数料等以外の多額の金銭を収受し,これを控訴人会社やその関係会社の運転資金に充てていたこと,②控訴人会社は,被控訴人に本件各組合への出資を勧誘するに当たり,上記①の事実を説明せず,出資金のうち約定手数料等相当額以外の部分は全て投資資金として適切に運用される旨の虚偽告知をしていたこと,③控訴人Y1及び控訴人Y2は,Bとともに,上記①のような本件各組合の運営や,上記②の虚偽告知を中心となって推進していたことがそれぞれ認められる。そして,弁論の全趣旨によれば,被控訴人に上記の虚偽告知がされていなければ,被控訴人において,出資金の大部分が控訴人会社等の運転資金に費消されることになる本件各組合契約を締結することはなかったと認められるから,控訴人会社が上記の態様で本件各組合への出資を勧誘し,出資金を支払わせた行為は,詐欺行為に当たるというべきである。したがって,控訴人らは,共同不法行為に基づき,上記詐欺行為により被控訴人が被った損害を賠償する責任を負う。
(2) 控訴人らは,控訴人らが,本件各組合の組合財産から約定手数料等以外の金銭を収受した事実はないから上記(1)で認定した虚偽告知の事実は存在せず,そのことは,①近畿財務局の調査の結果では問題がないとの判断がされたことや,②証券取引等監視委員会の調査の結果,金融商品取引法192条1項による申立てがされなかったことにより裏付けられると主張する。しかし,近畿財務局や証券取引等監視委員会が,上記各調査の結果,控訴人会社の勧誘方法について問題がないと判断したと認めるに足りる証拠はなく,上記各調査の際には,控訴人会社は既に投資事業有限責任組合に係る投資の募集を停止していたこと(前提事実(3)ア)も考慮すると,近畿財務局や証券取引等監視委員会が上記調査の際に控訴人会社に対する処分等をしなかったとしても,そのことから直ちに近畿財務局や証券取引等監視委員会が控訴人会社の勧誘方法を是認したと認めることはできない。控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(3) 控訴人らは,Aの質問調書(甲40)は,長時間にわたる理詰めの追及で疲労困憊した状況の下,証券検査官のいいなりにAには理解できない内容の調書に署名押印させられたものであり,任意性信用性に疑問があると主張する。しかし,控訴人らの主張する上記事実を認めるに足りる証拠はなく,かえって,上記質問調書は別件各決定の手続において証券取引等監視委員会から書証として提出されていたにもかかわらず,上記手続においてAが上記質問調書の任意性を争った形跡がないことに照らすと,控訴人らの主張する上記事実はなかったことが推認される。したがって,控訴人らの上記主張は,その前提を欠くというほかなく,これを採用することはできない。
(4) 控訴人らは,控訴人会社は本件各組合の投資先企業を選定するに当たってデューデリジェンスを厳正に行っており,控訴人会社のビバーチェらに対する業務委託は実態がないものではないとも主張するが,前記1認定の事実に照らせば,上記業務委託には実態がなかったと推認され,他に控訴人らの上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。控訴人らの上記主張を採用することはできない。
3 争点(2)(損害の発生及び数額)について
前記前提事実(2),上記1,2の認定事実及び弁論の全趣旨によると,控訴人らによる共同不法行為の結果,被控訴人は,被控訴人が本件各組合に支払った出資金の額に相当する400万円の損害を被ったことが認められる。
また,上記共同不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は40万円である。
第4 結論
以上によると,被控訴人の控訴人らに対する請求はいずれも理由があるからこれらを認容すべきである。よって,上記判断と同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中俊次 裁判官 竹内浩史 裁判官 大畑道広)
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