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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(28)平成30年 1月29日 東京地裁 平28(ヒ)112号 株式売買価格決定申立事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(28)平成30年 1月29日 東京地裁 平28(ヒ)112号 株式売買価格決定申立事件

裁判年月日  平成30年 1月29日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  決定
事件番号  平28(ヒ)112号
事件名  株式売買価格決定申立事件
裁判結果  一株に付き560円と決定  上訴等  即時抗告  文献番号  2018WLJPCA01296003

評釈
エドアルド=メスキタ・ジュリ 1536号106頁
寺前慎太郎・金商 1570号2頁
大塚和成・銀行法務21 829号67頁
高橋英治・法教 455号142頁
大塚和成・銀行法務21 840号73頁

参照条文
会社法179条の81項

裁判年月日  平成30年 1月29日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  決定
事件番号  平28(ヒ)112号
事件名  株式売買価格決定申立事件
裁判結果  一株に付き560円と決定  上訴等  即時抗告  文献番号  2018WLJPCA01296003

シンガポール〈以下省略〉
申立人 X社
同代表者ディレクター A
同手続代理人弁護士 川村一博
同 西岡祐介
同 赤木貴哉
同手続復代理人弁護士 清野訟一
大阪市〈以下省略〉
利害関係参加人 Z相互会社
同代表者代表取締役 B
同手続代理人弁護士 荒井紀充
同 門田正行
同 岡野辰也
同 田島弘基
同 桑原聡子
同 渡辺邦広

 

 

主文

1  申立人が有するa株式会社の普通株式の売買価格は,1株につき560円とする。
2  手続費用は各自の負担とする。

 

事実及び理由

第1  申立ての趣旨
申立人が有するa株式会社の普通株式についての売買価格の決定を求める。
第2  事案の概要
1  本件は,利害関係参加人が,a株式会社(以下「対象会社」という。)を子会社化する取引の一環として,対象会社の発行済株式の全部(対象会社が保有する自己株式は含まない。以下に同じ。)の公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)に引き続き実施した会社法179条1項に基づく特別支配株主による株式売渡請求(以下「本件売渡請求」という。)に対し,売渡株主である申立人が,同条の8第1項に基づき,自己が保有する対象会社の普通株式の売買価格の決定を求める事案である。
2  前提事実(後掲の証拠及び審問の全趣旨により認められる事実)
(1)  当事者等
ア 申立人は,シンガポールの投資会社であり,本件売渡請求によって利害関係参加人が対象会社の株式を取得する日である平成28年3月11日時点において,対象会社の普通株式2127万6500株(以下「本件株式」という。)を有していた(甲2,6,10)。
イ 利害関係参加人は,生命保険業を主たる目的とし,昭和22年5月2日に成立した,基金の総額を1兆3000億円とする相互会社である。
ウ 対象会社は,生命保険業を主たる目的とし,昭和22年8月1日に相互会社として成立し,平成16年4月1日に株式会社に組織変更した,資本金の額を1672億8001万円とする株式会社である(甲1,9,12の1)。
対象会社は,非上場会社であるが,株式会社に組織変更した後,株主が多数となったことから,有価証券報告書の提出義務(金融商品取引法24条1項4号,同法施行令3条の6第4項)を負っていた(甲8,78~88,135,136)。
(2)  対象会社の株主構成
ア 対象会社の平成27年3月末日時点における発行済株式数及び株主数は,以下のとおりであった(甲1,8,乙13)。
(ア) A種株式 発行済株式数 108万4000株
株主数 3名
A種株式の内容は,剰余金の配当及び残余財産の分配について普通株式に先立ち,株主総会における議決権を有さず,普通株式への転換を請求できるというものである。
(イ) B種株式 発行済株式数 60万株
株主数 6名
B種株式の内容は,剰余金の配当及び残余財産の分配について,普通株式及びA種株式に先立ち,株主総会における議決権を有さず,普通株式への転換を請求できるというものである。
(ウ) 普通株式 発行済株式数 2億9580万7200株
株主数 2905名
対象会社の平成27年3月末日現在における普通株式,A種株式及びB種株式を合算すると2億9749万1200株になり,A種株式及びB種株式が全て普通株式に転換された場合の普通株式の総数は5億9727万3868株となる。
イ 対象会社の平成27年3月末日時点における主要株主及び保有株式数は,以下のとおりであった。(甲2,3,8)
(ア) 株式会社b(以下「b社」という。)
A種株式 60万3879株
B種株式 22万5000株
普通株式 4150万1400株
持株比率 14.23%
なお,持株比率とは,発行済株式総数(2億9749万1200株)に対する普通株式,A種株式及びB種株式を合算した所有株式数(b社の場合は4233万0279株)の比率のことである(甲8(48頁)。以下に同じ。)。
(イ) 大和証券エスエムビーシープリンシパル・インベストメンツ株式会社(以下「大和証券インベストメンツ」という。)
普通株式 3617万0200株
持株比率 12.16%
(ウ) e株式会社(以下「e社」という。)
A種株式 30万8000株
B種株式 7万5000株
普通株式 2673万1800株
持株比率 9.11%
(エ) 野村フィナンシャル・パートナーズ株式会社(以下「野村フィナンシャル」という。)
普通株式 2659万5700株
持株比率 8.94%
(オ) f株式会社(以下「f社」という。)
B種株式 10万株
普通株式 2132万5000株
持株比率 7.20%
(カ) 申立人(ただし,平成27年3月末日時点の株主名義は,「CITIBANK, N.A. SINGAPORE-BAYTREE INVESTMENTS(MAURITIUS)PTE LTD-JP UNQ」である。甲8(48頁))
普通株式 2127万6500株(本件株式)
持株比率 7.15%
(キ) g株式会社(以下「g社」という。)
B種株式 5万株
普通株式 1203万5700株
持株比率 4.06%
(ク) d株式会社(以下「d社」という。)
B種株式 5万株
普通株式 1200万5000株
持株比率 4.05%
(ケ) 住友生命保険相互会社(以下「住友生命」という。)
B種株式 10万株
普通株式 744万6800株
持株比率 2.54%
ウ 利害関係参加人は,本件公開買付けまで,対象会社の普通株式,A種株式及びB種株式のいずれも有していなかった(甲3)。
(3)  利害関係参加人と対象会社の主要業績
ア 平成27年3月末日時点における利害関係参加人と対象会社の主要業績及び従業員数は,それぞれ以下のとおりであった(甲8(35頁),12の1(4頁)・2(17丁))
(ア) 利害関係参加人
保険料等収入 5.33兆円
基礎利益 6790億円
ソルベンシーマージン比率 930.8%
(「ソルベンシーマージン比率」とは,いわゆる内部留保率のことであり,保険金等の支払余力を示すものである。甲8(33頁),審問の全趣旨)
総資産 62.2兆円
従業員数 7万0783名
(イ) 対象会社
保険料等収入 0.54兆円
基礎利益 590億円
(うち逆ざや額は△462億円。「逆ざや額」とは,想定した運用収益(予定利率)と実際の運用収益との差から生じるもので,「(基礎利益上の運用収支等の利回り-平均予定利率)×一般勘定責任準備金」の算式で算出されたものである。甲8(35頁))
ソルベンシーマージン比率 812.4%
総資産 7.4兆円
従業員数 1万0078名
イ 対象会社は,平成27年5月28日,同年3月末日時点におけるエンベディッド・バリュー(貸借対照表等から計算される修正純資産と保有契約から生じる将来利益の現在価値である保有契約価値を合計した金額をいい,以下「EV」という。EVでは,将来の利益貢献が新契約獲得時に認識されるため,生命保険会社の企業価値を評価する指標の一つとされている。)について,ヨーロッパの主要な大手保険会社を中心に行われているヨーロピアン・エンベディッド・バリュー原則に従って算出した結果(以下「EEV」という。)が7450億円である旨を公表した。なお,保有契約価値の算出に当たって用いられた必要資本維持のための費用を算出するに際しては,上記ア(イ)と異なり,ソルベンシーマージン比率400%に相当する金額が必要資本とされた。(甲7(1頁,6~7頁))
ウ 本件公開買付け前の平成27年6月25日時点における対象会社の取締役は9名であったが,同年10月31日,うち1名の取締役が辞任し,合計8名となった。対象会社の取締役のうち,C取締役(以下「C取締役」という。)とD取締役(以下「D取締役」という。)の2名は社外取締役であり,前者はb社の名誉顧問,後者はd社の常任監査役をそれぞれ務めていた。(甲1,8(53~55頁))
また,同年6月25日時点における対象会社の監査役は5名であり,そのうち公認会計士及び弁護士の資格を有する2名を含む合計3名が社外監査役であった。(甲1,3(11頁),8(53~55頁))
(4)  両社の経営統合に向けた協議と経営統合契約の締結
ア 対象会社は,平成27年3月,利害関係参加人から打診を受け,両社の経営統合(以下「本件経営統合」という。)に向けた協議を開始した。同協議等に際し,対象会社は,c法律事務所を法務アドバイザーに選任し,野村證券株式会社(以下「野村證券」という。)及び大和証券株式会社(以下「大和証券」という。)を財務アドバイザーに選任した。(甲3(5頁),乙1)
イ 利害関係参加人と対象会社は,平成27年9月11日,利害関係参加人が,対象会社の発行済株式の全部を対象とする本件公開買付けを実施するなどして経営統合をする旨の基本合意(以下「本件基本合意」という。)を締結し,同日,その旨を公表した。本件基本合意においては,公開買付けの買付価格を普通株式1株当たり560円(以下「本件買付価格」という。),A種株式1株当たり11万2000円(本件買付価格にA種株式1株が普通株式に転換された場合の普通株式数(200株)を乗じた価格),B種株式1株当たり12万7273円(本件買付価格にB種株式1株が普通株式に転換された場合の普通株式数(当初払込金額10万円を調整価額440円で除して算出される端数を切り捨てない数)を乗じた価格(小数点以下四捨五入))とし(以上の普通株式,A種株式及びB種株式全ての買付価格をまとめて「本件全買付価格」という。),本件公開買付けを実施した後に,本件公開買付けに応募しなかった少数株主を本件買付価格と同額でスクイーズアウトする手続(利害関係参加人が少数株主の保有する普通株式全てを取得する手続。以下「本件スクイーズアウト手続」という。)を実施し,その後,b社その他の○○グループに属する会社が対象会社の株式の合計15%程度を取得する旨が,本件経営統合の方法として盛り込まれていた。(甲3(20頁),12の1,乙1,3)
ウ 利害関係参加人と対象会社は,平成27年11月6日,以下の各事項を主な内容とする経営統合契約(以下「本件経営統合契約」という。)を締結し,同日,その旨を公表した。同公表においては,利害関係参加人が,対象会社の発行済みの普通株式,A種株式及びB種株式の全部を対象とする公開買付け(本件公開買付け)を本件全買付価格によって実施し,公開買付けが成立した後,速やかに,株式等売渡請求,株式併合その他会社法に基づく本件スクイーズアウト手続を実施すること,利害関係参加人は,本件スクイーズアウト手続の完了後,速やかに,以下の各社(以下「本件再取得株主」という。)に対し,本件買付価格と同等の価格で,以下の各割合の対象会社の普通株式を譲渡すること(以下,この譲渡(本件再取得株主の譲受け)を「本件再取得」という。)などが発表された。(甲3,乙1,2,13)
b社 11%
e社 2%
f社,g社及びd社 各1%
(5)  利害関係参加人による本件公開買付けの実施
ア 利害関係参加人は,平成27年11月9日,関東財務局長に対し,買付代金を3344億7352万9920円として本件公開買付けを行う旨の公開買付届出書を提出し,対象会社も,同日,同財務局長に対し,本件公開買付けに賛同意見を表明し,対象会社の株主に対して本件公開買付けへの応募を推奨する旨の決議をした旨の意見表明報告書を提出した(甲3,21)。
イ 利害関係参加人は,平成27年11月9日から同年12月21日まで,本件公開買付けを実施した。その結果,対象会社のA種株式91万1879株,B種株式60万株及び普通株式2億5669万3263株(A種株式及びB種株式を普通株式に転換したとみなした場合の株式数は5億7543万2699株)の応募があり,買付予定数の下限(4億3978万5136株)を上回ったことから,本件公開買付けが成立した。そして,本件公開買付けによって取得されたA種株式及びB種株式が普通株式へ転換された結果,利害関係参加人は,対象会社の総株主の議決権の96.34%を保有するに至った。(甲13,乙1)
(6)  本件申立て
ア 利害関係参加人は,対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を取得したことから,本件スクイーズアウト手続として,平成28年1月27日,対象会社の取締役会における承認決議を経て,本件公開買付けに応募しなかった対象会社の株主に対し,会社法179条1項に基づき,同年3月11日を取得日として,その有する対象会社の普通株式の全部を1株当たり560円で売り渡すことを請求した(甲5)。
イ これに対し,申立人は,平成28年3月8日,当庁に対し,会社法179条の8第1項に基づき,本件株式の売買価格の決定を求める申立てをした。
3  争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は,本件株式1株当たりの売買価格(会社法179条の8第1項)である。
(申立人の主張)
(1) 非上場会社の株式の売買価格の決定方法
ア 申立人が保有する本件株式は非上場会社の株式(以下「非上場株式」という。)であるところ,非上場株式の価格が争われる事案では,一般に公正と認められる手続によって公開買付価格が定められた場合でも,当該価格が株式の価格となるものではない。
この点,最高裁平成23年(許)第21号,同第22号同24年2月29日第二小法廷決定・民集66巻3号1784頁(以下「テクモ最高裁決定」という。)は,相互に特別の資本関係がない会社間において,一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合には,特段の事情がない限り当該株式移転における株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率は公正なものである旨を判示している。また,最高裁平成28年(許)第4号ないし第20号同年7月1日第一小法廷決定・民集70巻6号1445頁(以下「ジュピターテレコム最高裁決定」という。)は,公開買付けを行った多数株主と少数株主の間に利益相反関係が存在したとしても,一般に公正と認められる手続により公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,特段の事情がない限り,裁判所は,株式の取得価格を買付け等の価格と同額とするのが相当である旨を判示する。
しかしながら,これらの最高裁決定は,いずれも上場会社の株式(以下「上場株式」という。)に関する株式等の割当てに関する比率や取得価格が争われた事案における判断であり,本件のように,市場株価という指標が存在しない非上場株式の価格が争われた事案について判断したものではない。
イ 他方で,最高裁平成26年(許)第39号同27年3月26日第一小法廷決定・民集69巻2号365頁(以下「道東SFF最高裁決定」という。)は,非上場株式の価格が争われた事案において,一般に公正と認められる手続を経ていたかどうかを問うことなく,株式価値を具体的に算定して株式の価格を決定している。このように,非上場株式の価格が争われる事案においては,一般に公正と認められる手続によって本件買付価格が定められたかどうかにかかわらず,裁判所は,株式価値を具体的に算定して株式の売買価格を定めなければならない。
(2) 本件買付価格が一般に公正と認められる手続に従い決定されたものであるか
ア 仮にテクモ最高裁決定及びジュピターテレコム最高裁決定の判示に従ったとしても,本件買付価格は,一般に公正と認められる手続に従い決定されたものではないから,本件買付価格をもって本件株式1株当たりの売買価格とすべきではない。
イ まず,本件経営統合においては,以下に詳述するとおり,対象会社の一般株主と,本件再取得株主,財務アドバイザー及び取締役との間に,MBO(経営者による企業買収)類似の構造的な利益相反関係が存在していた。
(ア) 本件経営統合においては,対象会社が利害関係参加人の完全子会社となった後,利害関係参加人から,本件再取得株主に対し,対象会社の株式の譲渡が行われること(本件再取得)が予定されていた。本件買付価格が低廉となれば,利害関係参加人による総買収費用が低くなるため,本件再取得株主が本件再取得をする際の条件が有利になる可能性があった。また,本件再取得株主としては,本件再取得により,本件経営統合によって生み出されるシナジーや「○○」ブランド価値の向上を享受することが可能となるから,本件買付価格が低廉になったとしても不利益を回避することができる。これに対し,対象会社の一般株主は,株式を再取得することができないため,このようなシナジー等を享受することができず,本件再取得株主との間に構造上の問題が存在していた。
(イ) 次に,対象会社は,株式の買付価格の交渉に当たり,野村證券と大和証券を財務アドバイザーに選任し,両社から株式価値算定書を取得しているが,両社はいずれも対象会社の主要株主である野村フィナンシャル及び大和証券インベストメンツの関連会社であり,対象会社と利害関係を有していた。
また,野村證券と大和証券には,本件経営統合に係る成功報酬を獲得するため,対象会社の一般株主にとっては公正な価格といえない価格を買付価格として算定するインセンティブがあり,財務アドバイザーは一般株主と利益相反の関係に立つという構造上の問題が存在していた。
(ウ) さらに,対象会社においては,本件公開買付けに賛同意見を表明し,応募を推奨する取締役会決議や,本件売渡請求を承認する取締役会決議がされた当時,これらの意思決定に関与した6名の取締役のうち3名は,本件再取得株主の取締役又は執行役員の経歴を有していた。しかも,本件経営統合契約においては,対象会社の出身者が経営統合後の対象会社の取締役として3名選任されるものとし,対象会社の代表取締役のうち1名は対象会社の出身者とすることが予定されていた。そのため,対象会社の取締役には,対象会社の取締役又は代表取締役に選任されるべく,利害関係参加人の意向に沿った行動をするインセンティブがあった。
ウ 以上のように,本件経営統合においては,MBO類似の構造的な利益相反関係が存在していたにもかかわらず,以下に示すとおり,本件においては,①独立した第三者委員会が設置されておらず,②フェアネス・オピニオンも取得されておらず,③マジョリティ・オブ・マイノリティが設定されておらず,④一般株主と利益相反関係にある対象会社の取締役会によって財務アドバイザーが選任されており,⑤財務アドバイザーの成功報酬に関する情報が開示されておらず,⑥オークションプロセスも実施されていないといった点で,手続の公正性を担保する措置が講じられなかった。
(ア) 我が国の裁判例においては,独立した第三者委員会の設置や当該第三者委員会の交渉による利益相反性の回避・抑制が,取引の公正性を基礎づける事情の一つとして考慮されている。実際にも,平成25年及び平成26年に公表された支配株主による少数株主の締出し(スクイーズアウト)を伴うM&A取引の多くにおいて第三者委員会が組成され,平成23年9月から平成27年3月までの間に公表されたMBOの全てにおいて,特別委員会が設置されているとの指摘もされている。
本件経営統合は,前記のとおり,利益相反性が高い事案であるにもかかわらず,独立した第三者委員会が設置されていない。
(イ) 対象会社は,本件経営統合において,野村證券及び大和証券から株式価値算定書を取得したものの,本件買付価格の公正性に関する意見書(フェアネス・オピニオン)を取得していない。
(ウ) 利害関係参加人は,本件経営統合において,対象会社の主要株主である本件再取得株主及び住友生命との間で,保有する対象会社の普通株式,A種株式及びB種株式の全てについて,利害関係参加人による本件公開買付けに応募する旨の公開買付応募契約が締結していた。そのため,本件公開買付けは,買付予定数の下限を上回ることが当初から明らかとなっており,その後,少数株主に対して本件スクイーズアウト手続が実施されることも確定していた。このような場合,公開買付けに当たっては,少数株主の適切な判断機会を確保する見地から,公開買付者と利害関係を有しない者が保有する株式の過半数や3分の2以上が応募しないと公開買付けが成立しないような水準を設定すること(いわゆるマジョリティ・オブ・マイノリティの設定)が必要であったのに,本件公開買付けでは同水準が設定されなかった。
(エ) 本件経営統合においては,対象会社の一般株主と利益相反関係にあった対象会社の取締役会が自ら財務アドバイザーを選任しており,そのように選任された財務アドバイザーが作成した株式価値算定書が,独立した第三者機関の算定結果として十分でないことは明らかである。
(オ) 前記のとおり,対象会社が野村證券及び大和証券との間で締結したアドバイザリー契約においては,本件経営統合が成立することを支払条件とする成功報酬が定められていたにもかかわらず,対象会社は,成功報酬の額及び割合はおろか,成功報酬の存在すら開示していない。野村證券及び大和証券としては,一般株主にとって公正な売買価格とはいえない条件であっても,成功報酬を得るため,本件経営統合を成立させようとするインセンティブを有していたはずであり,成功報酬に関する情報の開示を欠いた本件経営統合は,手続の公正性を欠くものといわざるを得ない。
(カ) 対象会社は,○○グループに属し,ブランド力のある大手生命保険会社であった。そして,対象会社の買収は,投資に値する十分な規模を有する会社について,単独で過半数又は全部の株式を取得することができるという唯一の投資案件であった。そのため,仮にオークションプロセスを実施していれば,複数の買収希望者が現れ,その結果,対象会社にとってより有利な条件を引き出すことができたにもかかわらず,本件では,オークションプロセスが一切実施されなかった。
エ さらに,対象会社は,平成27年5月に,対象会社のEEVが同年3月末時点において7450億円であったことを自ら公表していたにもかかわらず,対象会社の取締役会は,本件買付価格の交渉に当たり,自らが公表したEEVの金額を一切無視し,その半額にも満たない金額を基準に算定した本件買付価格を前提に本件公開買付けとその後の本件スクイーズアウト手続を承認した。そして,対象会社の取締役会は,この点につき,申立人を含む一般株主に対し,何らの合理的な説明をしていない。
オ 以上によれば,本件買付価格は,一般に公正と認められる手続によらずに決定されたものであり,本件買付価格をもって本件株式1株当たりの売買価格とすべきではなく,裁判所は,株式の価値を具体的に算定して本件株式1株当たりの売買価格を定めなければならない。
(3) 本件株式の売買価格
ア EVは,保険会社が保有する保険契約及び純資産から生じる株主に帰属する期待キャッシュフローの割引現在価値を表したものであり,いわば保険会社におけるDCF法による企業価値算定に該当するものである。そして,対象会社が公表したEV(EEV)は,現時点におけるEVの算定方法として最も望ましい方法である市場整合的エンベディッド・バリュー(MCEV)と概ね整合的に算出されたものであり,前提条件を変更した場合の影響(感応度)も公表された客観性,信頼性が高いものである。しかも,対象会社のEVは,世界的に著名なアクチュアリー・ファーム(保険数理に関する専門的知識を有する機関)であるミリマン・インクによる検証意見も経ており,極めて信用性が高いものである。
イ そして,日本を含むアジア及びヨーロッパにおいて平成22年以降に行われた生命保険会社のM&A事例では,EVを上回る価格で企業が買収された案件が多く,本件と同規模の大型案件においては,買収価格とEVの倍率を示した指標であるP/EV倍率の単純平均が1.24倍に上っているにもかかわらず,本件におけるP/EV倍率は0.45倍(甲23(57頁))であって,著しく低い。
しかも,利害関係参加人と対象会社は,本件経営統合により,経営資源の相互活用を通じた対象会社の経営基盤の強化及びシナジーの最大化を図ることが可能になると公表し,主要な格付機関も,本件経営統合を契機として,対象会社の格付けを軒並み引き上げており,本件経営統合によってシナジーが発生することは明らかである。
そして,平成27年までの10年間に行われた公開買付けのプレミアムの平均値が約38%であることなどに鑑みると,本件においては,対象会社のEVの40%のシナジー効果が生じることが見込まれる。
ウ したがって,本件株式1株当たりの売買価格は,平成27年3月末日時点における対象会社のEEVである7450億円に40%のプレミアムを加え,これを発行済株式数(ただし,A種株式及びB種株式が普通株式に転換されたとした場合の株式数5億9727万3868株)で除した金額である1746円(=7450億円×1.4÷5億9727万3868株)を下回らないことが明らかである。
(利害関係参加人の主張)
(1) 非上場株式の売買価格の決定方法
ア 非上場会社の株式について,一般に公正と認められる手続によって公開買付けが行われ,その後に特別支配株主が公開買付価格と同額で売渡請求をした場合には,会社法179条の8第1項に定める売買価格を公開買付価格と同額とすべきであり,テクモ最高裁決定及びジュピターテレコム最高裁決定の判断枠組みは,非上場株式の価格が争われる事案についても当てはまる。テクモ最高裁決定及びジュピターテレコム最高裁決定には,いずれも上場会社の株式であることを判断の前提とすることをうかがわせる記載はなく,むしろ,ジュピターテレコム最高裁決定におけるG裁判官の補足意見では,「株式価格の形成には多元的な要因が関わることから,種々の価格算定方式が存する。そのため,株式価格の算定の公正さを確保するための手続等が講じられた場合にも,将来的な価格変動の見通し,組織再編等に伴う増加価値等の評価を考慮した株式価格について一義的な結論を得ることは困難であり,一定の選択の幅の中で関係当事者,株主の経済取引的な判断に委ねられる面が存するといわざるを得ない。」と指摘されており,このことは,その内容からして,上場株式にのみ当てはまる指摘ではなく,むしろ,非上場株式の株価算定にも様々な評価手法が存在していることからすると,非上場株式により強く妥当するといえる。
イ 道東SFF最高裁決定は,グループ会社間の組織再編について,シナジーが特に認められないことから,いわゆる「ナカリセバ価格」(当該組織再編に係る決議がなかったならば有したであろう価格)としての買取価格が問題となり,裁判所による鑑定がされた事案について,価格決定における裁判所の合理的な裁量の範囲が問題となったものである。そして,組織再編に係る決議がなかったならば有したであろう価格の算定にあたっては,当事者間で定められた取引条件が問題となる余地はない。そのため,道東SFF最高裁決定は,一般に公正と認められる手続に言及することなく,鑑定人による鑑定に基づく価格の算定について裁判所の合理的な裁量の範囲について判示したのであり,本件とは事案が異なる。
(2) 本件買付価格が一般に公正と認められる手続に従い決定されたものであるか
ア 本件公開買付けが行われるまで,利害関係参加人と対象会社との間には何らの資本関係もなかった。また,利害関係参加人と対象会社の役員との間にも何らの利害関係はなく,利害関係参加人と対象会社は,構造的な利益相反が生じるおそれのない相互に独立した会社であった。本件経営統合における重要な取引条件である本件買付価格は,利害関係参加人から独立し,株主の利益にかなう判断を行うことが客観的に期待できる状況にあった対象会社の取締役によって検討され,利害関係参加人との交渉を経て定められたものであり,適切な情報開示がされたことなどによって株主の最終的な判断機会も確保された上で,本件公開買付けへの多数の応募という形で株主に受け入れられたものであるから,本件買付価格が一般に公正と認められる手続により定められたことは明らかである。
イ 本件経営統合において,対象会社の一般株主と,本件再取得株主,財務アドバイザー及び対象会社の取締役との間に,申立人が主張するようなMBO類似の構造的な利益相反関係が存在するということはできない。
(ア) 本件再取得株主との間の利益相反関係については,本件再取得は,対象会社が本件経営統合後も「○○」の商号やブランドを維持し,○○グループとの関係を維持・強化する目的で行われたものであり,あくまでも対象会社にとって企業価値を維持・向上するための施策であって,本件再取得株主に対して本件経営統合によって生じるシナジーを享受させることを目的として行われたものではない。
そして,本件再取得株主は,本件再取得によっても持株数を大幅に減らすことになり,本件再取得は本件買付価格と同額で行われるのであるから,本件再取得株主は,実質的にみて,その保有する対象会社の株式の大半を売却しているといえ,一般株主と利害関係を共通にしている。本件再取得が予定されていたことにより,本件再取得株主と対象会社の一般株主との間にMBO類似の構造的な利益相反関係が生じるものではない。
(イ) 対象会社の財務アドバイザーであった野村證券及び大和証券は,いずれも我が国を代表する証券会社であるところ,証券会社が,適切な情報隔離措置を講じた上で,自社の自己勘定投資部門やその関係会社が一定程度の株式を保有している会社に対して財務アドバイザリー業務を提供することは,実務上一般に行われていることである。また,M&Aの財務アドバイザーが依頼会社との間でM&Aの成立を支払条件とする成功報酬を受領することも一般的な実務であって,これらをもって依頼会社の株主との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があることにはならない。
(ウ) 申立人は,対象会社の取締役会決議において,本件再取得株主の取締役又は執行役員の経歴を有する取締役が3名含まれていた点を問題視する。しかし,これらの取締役は,本件経営統合の検討が開始された平成27年3月より約3年から6年も前に本件再取得株主から退社しており,本件再取得株主とは独立した立場にあった。
また,本件経営統合契約において,対象会社の出身者が経営統合後の対象会社の取締役として3名選任され,代表取締役のうち1名は対象会社の出身者とすることが予定されたのは,本件経営統合後の対象会社の事業運営の自主性を尊重し,対象会社の企業価値の維持・向上を図るためであった。そして,経営統合後の取締役の候補となる対象会社の役職員には,役員だけでなく従業員も含まれていた上,実際にどの役職員が取締役又は代表取締役になるかも決まっていなかったのであり,本件経営統合後も対象会社の取締役又は代表取締役の地位が保障されていた事実はない。
よって,申立人が主張する事実をもって対象会社の一般株主との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があることにはならない。
ウ 以上のとおり,本件経営統合に関し,申立人が主張するようなMBO類似の構造的な利益相反関係は存在しないから,それが存在することを前提とする申立人主張の取引の公正性を担保する各措置の確保は,採用する余地がない。
(ア) 申立人は,独立した第三者委員会が設置されていないことをもって,手続の公正性が担保されていない旨主張するが,本件経営統合のような事案において,第三者委員会が設置されることは一般的な実務ではない。
そして,対象会社は,利害関係参加人及び対象会社から独立した法務及び財務の専門家をアドバイザーに選任し,その助言を受けながら本件経営統合の検討及び株式の買付価格についての交渉を進めている。また,対象会社の監査役の中には,公認会計士又は弁護士の資格を有し,財務面又は法務面について高い専門的知見と独立性を有する社外監査役2名が含まれていたところ,両監査役は,本件経営統合契約の締結について異議がない旨の意見も表明している。
以上によると,本件において単に第三者委員会が設置されていないことをもって,本件経営統合等に係る手続の公正性が否定されることはない。
(イ) 申立人は,本件においてフェアネス・オピニオンを取得していないことを問題視するが,MBOや親子会社間取引のような構造的な利益相反関係が存在しない本件経営統合のような事案において,フェアネス・オピニオンが取得されることは一般的な実務ではない。しかも,親子会社間取引の事案でもフェアネス・オピニオンが取得されない場合があるのであり,フェアネス・オピニオンが取得されていないからといって,本件経営統合等に係る手続の公正性が否定されることはない。
(ウ) マジョリティ・オブ・マイノリティの設定は,平成19年9月に経済産業省が制定した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(以下「MBO指針」という。)においても,考えられる実務上の対応の一つとして挙げられているにすぎない。むしろ,公開買付けにおける買付予定数の下限を高く設定することは,公開買付けの成否を著しく不安定にし,妥当ではないとの意見が強いとされている。裁判例においても,親会社による上場子会社の完全子会社化の事案ですら,マジョリティ・オブ・マイノリティの条件が付されていないことで,手続の公正性が否定されるものではないとされている。
(エ) 申立人は,対象会社の取締役会が財務アドバイザーを選任したことを問題であるとするが,対象会社が財務アドバイザーに選任した野村證券及び大和証券は,いずれも我が国を代表する証券会社であり,企業価値評価やM&A助言業務につき優れた知見と豊富な実績を有し,自社の利益相反管理方針に従い,適切な情報隔離措置を採った上で対象会社の財務アドバイザーを務めたものであり,両社が行った株式価値算定結果に何の問題もない。
(オ) 申立人は,財務アドバイザーの成功報酬に関する情報が開示されていないことで手続の公正性を欠くとするが,M&Aの財務アドバイザーに対して成功報酬を支払う旨の契約を締結することは一般的な実務であり,それによって財務アドバイザーの独立性に問題が生じることにはならない。成功報酬の存在やその内容を開示していないからといって,本件経営統合に係る手続の公正性が否定されることにもならない。
(カ) 申立人は,本件において,オークションプロセスを実施していないことを問題視するが,我が国において,本件経営統合のような事案で対象会社にオークションを実施する義務は認められていない。しかも,対象会社の企業価値を維持向上するには,b社をはじめとする○○グループのサポートや監督官庁である金融庁の理解が得られるかといった点が重要であり,対象会社の買収は一般的なオークションになじむものでもなかった。実際にも,本件基本合意が公表された平成27年9月11日から本件公開買付けの期間が終了した同年12月21日までの間に,利害関係参加人以外の第三者から,対象会社に対する具体的な買収提案がされたこともなかった。
エ 対象会社は,本件基本合意の公表後,申立人から,対象会社の株式の買付価格について,対象会社のEVにプレミアムを付した金額を基礎とすべきであるといった主張がされたことから,その当否についても議論を行った。その上で,対象会社は,財務アドバイザーから,対象会社と類似性が高い我が国の上場生命保険会社の株価に関しては,株式市場で1株当たりEVを大きく下回る状況が常態化しており,プレミアムを勘案してもEVの評価をベースとした買収等が起こるとは考えにくいという助言を得たことを踏まえ,本件経営統合契約の締結に至ったものであり,この点について,対象会社の取締役会が自ら公表したEVの金額を一切無視して本件買付価格の交渉に当たったとする申立人の主張は,事実と異なるものである。
オ 以上のとおり,本件買付価格が一般に公正と認められる手続によらずに決定されたものであるとの申立人の主張は失当である。裁判所は,本件買付価格である普通株式1株当たり560円をもって,本件株式の1株当たりの売買価格とすべきである。
(3) 本件株式の売買価格
本件買付価格は,独立当事者間の取引である本件経営統合の過程で一般に公正と認められる手続により価格が決まった公正なものであるが,このことは,複数の独立した第三者算定機関による株式価値算定結果からも裏付けられている。
すなわち,対象会社は,独立した第三者算定機関である野村證券及び大和証券から対象会社の株式価値算定書を取得しており,野村證券からは,類似会社比較法で1株当たり296円から641円,配当割引モデル法(以下「DDM法」という。)で1株当たり359円から695円という算定結果を得た。また,大和証券からも,類似会社比較法で1株当たり321円から630円,DDM法で1株当たり394円から711円という算定結果を得ている。野村證券及び大和証券が対象会社の株式価値の算定に用いた類似会社比較法は,マーケット・アプローチによる算定手法として広く一般に採用されている算定手法であり,DDM法も,インカム・アプローチによる算定手法として広く一般に採用されているDCF法の一種として,主に金融機関の株式価値評価に用いられているものである。そして,これらの算定方法は,いずれの点においても合理的なものである。
したがって,本件株式の1株当たりの価格は,野村證券及び大和証券による算定結果のレンジの範囲内にあり,本件買付価格と同額である560円とすべきである。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記前提事実に加え,証拠(甲3,115の1・2,乙1,26,28のほか,後掲のもの)及び審問の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1)  本件経営統合に至る背景
ア 対象会社は,昭和22年から相互会社形態の生命保険会社として営業を開始したが,平成3年頃,いわゆるバブルが崩壊して多額の株式評価損や売却損が発生し,逆ざや状態(生命保険会社が契約者に約束していた予定利率よりも,実際の運用利回りが下回る状態)が続くなど,厳しい財務状態に追い込まれた。そこで,対象会社は,株主から出資を受けて自己資本を強化することなどを目的として,平成16年,株式会社に移行した。(甲1,9,乙1)
対象会社は,平成18年,1000億円の第三者割当増資を行って自己資本を強化するとともに,支社や営業所の統合・削減やリストラを含む経営の合理化等も行い,株式上場も視野に入れた経営改革を進めた。ところが,平成19年からのサブプライム・ローン問題とリーマンショックの影響により,平成20年度には,基礎利益(生命保険会社の基礎的な期間収益の状況を表す指標)が大幅にマイナスになるなど,財務基盤が大きく毀損され,平成27年3月期においても,逆ざや状態が解消されなかった。(甲8,11,乙1)
イ このような厳しい状況の中で,対象会社は,平成27年3月,同年度から平成29年度にかけての新中期経営計画を策定し,企業価値の向上に向け,営業職員によるサービス体制の拡充強化,強みとなる分野づくり及び業務の効率化と固定費削減によるコスト効率の改善を3つの柱とした取組を進め,営業職員チャネルをコアチャネルとして競争力を強化する一方で,対象会社が○○グループに属することを活かし,○○グループ各社に対して企業のグループ保険への加入を勧めたり,○○グループ各社を通じて全国各地の中小事業所への営業体制を強化したりすることなどを目指した(甲3,8,乙1)。
もっとも,国内生命保険市場は,中長期的には国内人口の減少や少子高齢化が進む中で,外資系生命保険会社を含む多数の競合他社との競争,来店型保険ショップやインターネット等を主要な販売チャネルとする保険会社の新規参入等により競争環境も激化したため,対象会社を取り巻く事業環境は厳しさを増していた。そのため,対象会社は,他社との連携統合等も含めた選択肢を検討することが必要であると考えた。(甲3,8,乙1)
ウ 他方,利害関係参加人も,少子高齢化の進展に加え,顧客のニーズが多様化する中で成長し続けるため,引き続き営業職員をメインチャネルとし,強みを持つ領域を更に伸ばすことに加え,今後の収益の拡大に向けた基軸を構築することが不可欠であるとの認識の下,様々な事業上の可能性を模索していた(甲3)。
(2)  生命保険会社におけるEVの位置づけ
ア EVは,生命保険会社の買収価格の計算から発展したといわれ,当初のEV(Traditional Embedded Value:TEV)は,比較可能性や信頼性に問題があると指摘されたことから,EUにおける大手保険会社のCFO(最高財務責任者)が集まるCFO Forumが,EVの算定方法を標準化する目的で,平成16年5月,EEV(European Embedded Value)原則を公表した。しかし,EEV原則は,保有契約価値の現在価値算定に利用される割引率の決定等に,なお裁量が認められていることなどが問題点として指摘されたため,CFO Forumは,平成20年6月,MCEV(Market Consistent Embedded Value)原則を公表し,割引率等にリスクフリーレートを用いることを強制した。
また,EVの算定に当たって設定する前提条件(保有契約から生じる将来利益の算定条件)の値は生命保険会社によって異なっており,死亡率,入院発生率,罹患率,解約率等の前提条件がEVの算定に与える影響は,比較的大きなものであると指摘されている。
(甲24,25,27,28,33,35,38)
イ 我が国においては,EVの算定や開示に関するガイドラインは定められていない。平成28年1月時点において我が国の生命保険協会に加盟している企業41社のうち,平成27年度にEVを開示した企業は17社存在するが,その内訳は,TEVを開示した企業が1社,EEV原則に従ったEV(EEV)を開示した企業が10社,MCEV原則に従ったEV(MCEV)を開示した企業が6社であった。(甲24(16頁),27(78頁),28)
また,我が国において,EVと株式価値との間の関連性についての研究はほとんど行われていない。しかも,EVは本来的に株式会社について計算されるものであるにもかかわらず,我が国の大手生命保険会社が相互会社の形態を採っていることや,上場している生命保険会社が少ないこと,生命保険会社の耐力尺度あるいは健全性指標としては,ソルベンシーマージン比率や格付けが一般に利用されていることから,我が国においては,EVは主として財務情報の補完機能に限定されるとの指摘もされている。(甲24,27,28,36)
我が国の上場生命保険会社における平成27年9月以前の直近5年間の株価/EV倍率の平均値は,第一生命保険株式会社(以下「第一生命」という。)については0.42倍,株式会社T&Dホールディングス(太陽生命保険株式会社及び大同生命保険株式会社が中核。以下「T&Dホールディングス」という。)については0.47倍となっている(乙10の2(12頁))。
ウ 対象会社は,平成21年3月末より,EEV原則に従ったEV(EEV)を開示している。対象会社は,EEVの開示資料において,EEVは生命保険会社の企業価値を評価する有力な指標の一つとされており,対象会社においても,現行の法定会計を補完する指標の一つとして有用なものと考えていると付記し,対象会社のEEVの算出は,MCEV原則に完全に準拠したものではないが,MCEV原則と概ね整合的であると考えていると記載している。(甲7,58の1ないし5)
(3)  本件経営統合に向けた協議の開始
ア 対象会社は,平成27年3月,利害関係参加人から,本件経営統合に向けた協議の打診を受けた。これを受けて対象会社は,本件経営統合に向けた協議を始めることとし,同月下旬,本件経営統合に係る法務アドバイザーにc法律事務所を選任した。対象会社は,新中期経営計画において○○グループに属することを活かした競争力の強化を目指していたことなどから,本件経営統合に向けた協議に当たっての基本的な方針として,営業職員をはじめとする従業員のモチベーションやロイヤリティを維持するため,本件経営統合後も対象会社の商号や「○○」のブランドが維持される状態を確保する必要があり,そのためには,○○グループとの資本関係を一定程度維持することが重要であると考えていた。そこで,対象会社は,同年4月下旬,このような方針を利害関係参加人に伝えるとともに,c法律事務所の助言に従い,b社における名誉顧問の地位を有するC取締役と,d社における監査役の地位を有するD取締役について,本件経営統合に関する検討や利害関係参加人との協議・交渉には関与させないこととした。
イ 対象会社は,平成27年4月から,利害関係参加人との間で,本件経営統合についての協議を開始した。対象会社は,同月初旬,財務アドバイザーとして野村證券を選任し,野村證券の要請に応じて,同年度から平成29年度にかけての新中期経営計画や平成27年度から10年間の事業計画等の資料を提供するなどした。これらの資料の中には対象会社のEV(EEV)に関するレポートも含まれていたが,野村證券からは,EVの位置づけについて,生命保険会社の株式価値の分析において重要な指標の一つであるものの,対象会社と類似の国内の上場生命保険会社の株価の推移をみると,EVを基礎として算出される価額を大きく下回る状況が常態化していることなどから,生命保険会社のEV自体を株式価値とすることは合理的ではなく,あくまでも対象会社と類似の国内の上場生命保険会社の株価を比較の指標として用いることが合理的であるとの説明を受けた。
ウ 対象会社は,平成27年5月下旬,利害関係参加人から,財務諸表上の数値に加えてEVを重要な指標の一つとし,類似の国内の上場生命保険会社の市場株価も踏まえながら買付価格を検討していること,対象会社のEVの検証のために,アクチュアリー・ファームであるタワーズワトソンを起用し,株価算定を行うことになることについて連絡を受けた。
そして,対象会社は,平成27年6月初旬,利害関係参加人から,普通株式1株当たりの買付価格を490円(以下「本件当初価格」という。)とするなどの提案を受けた。対象会社は,野村證券とc法律事務所に助言を求めたところ,野村證券は,対象会社に対し,株式価値が類似会社比較法で普通株式1株当たり343円から740円,DDM法で普通株式1株当たり330円から666円という試算結果であったところ,本件当初価格はこれらの試算結果のレンジ内に入っており,一概に不合理なものとはいえないが,類似会社比較法とDDM法のいずれのレンジの中央値を下回る金額であるから,利害関係参加人に対し,買付価格の引上げを求めていくべきであると助言した。また,c法律事務所は,対象会社に対し,利害関係参加人との交渉においては,シナジーやコントロール・プレミアムを十分に加味すべきであると主張するよう助言した。
(4)  本件当初価格の引上げ
ア 対象会社は,野村證券及びc法律事務所からの助言を踏まえ,利害関係参加人に対し,普通株式の買付価格を本件当初価格とする提案は受け入れられないことを伝えるとともに,シナジーやコントロール・プレミアムを十分に加味するよう求めた。
これに対し,利害関係参加人からは,本件当初価格はプレミアムも勘案して提示した合理的な価格と考えており,買付価格の引上げを行うことはできないとの説明があり,交渉は難航した。
イ 野村證券は,平成27年6月中旬,利害関係参加人の財務アドバイザーであるシティグループ証券株式会社(以下「シティグループ証券」という。)に対し,本件当初価格の根拠についての説明を求めたところ,シティグループ証券から,本件当初価格は,対象会社の財務諸表上の数値に加えてEVを重要な指標の一つとし,対象会社と類似する国内の上場生命保険会社,特に第一生命の市場株価を用いて検討を行った価格であること,対象会社のEVについては,タワーズワトソンが,第一生命その他の上場生命保険会社がEVの計算に当たって採用している前提条件等を考慮し,対象会社がEVの計算に当たって採用している前提条件の一部を代替的な条件に置き換える調整を行った上で検証したこと,本件当初価格は,そのように算定された対象会社の株式価値にプレミアムを加えた価格であることといった説明を受けた。
本件当初価格は,対象会社が公表していたEEVである7450億円を基準に算出した株式価値を大幅に下回るものであったが,上記説明を受けた野村證券は,対象会社に対し,シティグループ証券が述べるように,EVを指標とする場合,対象会社が公表しているEVを基準とすべきであるが,EVの算出に際して用いられる前提条件の置き方には一定の幅があることから,EVの前提条件に関する詳細な議論に立ち入るのは得策ではなく,タワーズワトソンによる調整後のEVを指標とすること自体は受け入れられないものの,本件当初価格は対象会社の株主の理解を得ることが困難であると思われるため,利害関係参加人に対しては,この価格では本件経営統合の検討を前に進めることはできないとの姿勢を明確にし,買付価格の再考を求めるのが効果的である旨助言した。また,対象会社は,利害関係参加人が対象会社のEVについて行った調整の内容について,対象会社が起用しているアクチュアリー・ファームであるミリマン・インクを交えた検討を行ったところ,ミリマン・インクは,対象会社に対し,EV算定に当たってタワーズワトソンが用いる可能性のあるリスクフリーレート,団体保険の継続年数,死亡率,解約率等についての前提条件を設定してみると,EVの算定結果に相当程度の負の影響が生じ得ると指摘した(乙28(10頁))。
これを受けて,対象会社は,平成27年6月中旬,利害関係参加人に対し,本件当初価格を受け入れることはできず,この水準では本件経営統合を進めることはできない旨伝えた。その結果,同月末までの基本合意の締結というスケジュールは延期されたが,その後も利害関係参加人側からは,本件当初価格の引上げは難しい旨の説明が繰り返された。
ウ 他方で,本件経営統合後の基本方針については,対象会社と利害関係参加人との間で,本件経営統合後も一定期間対象会社の事業運営の自主性が尊重されることや,本件経営統合に際して対象会社の商号や「○○」のブランドの変更を行わないことなどが確認された。また,本件経営統合後の対象会社の株主構成についても,b社その他の○○グループの株主が,対象会社の株式の合計15%程度を保有することとなった。
エ 上記の協議及び交渉を経て,対象会社は,平成27年8月上旬,利害関係参加人に対し,シナジーやコントロール・プレミアムを加味すべきであるとして本件当初価格の引上げを再度求めたところ,同月中旬,利害関係参加人から,対象会社の普通株式の買付価格を本件買付価格(普通株式1株当たり560円)にまで引き上げる旨の提案を受けた。
この頃,野村證券も,シティグループ証券から,本件買付価格は本件当初価格にプレミアムを上乗せしたものであり,これ以上の引上げの余地は一切ないとの連絡を受けた。これを受けて,野村證券は,対象会社に対し,直近の市況等を踏まえて更新された対象会社の株式価値の試算結果は,類似会社比較法で普通株式1株当たり297円から648円,DDM法で普通株式1株当たり354円から687円となっており,本件買付価格は,これらの試算結果のレンジの中央値を上回っていること,これまでの交渉経緯や直近の株式市場の状況を踏まえると,これ以上の買付価格の引上げは難しいと思われる旨を報告した。
また,利害関係参加人は,同月下旬,対象会社の筆頭株主であるb社に対しても本件買付価格を提示したところ,b社は,対象会社に対し,本件買付価格であれば受入れ可能である旨の連絡をした。
(5)  本件基本合意の締結と公表
ア 対象会社は,普通株式の買付価格を本件買付価格とすることを前提に,平成27年9月8日の経営会議のメンバーによる審議を経て,同月11日開催の対象会社の取締役会において,本件基本合意の締結について審議した。同取締役会審議では,取締役9名中,C取締役とD取締役を除く7名の取締役及び3名の社外監査役を含む5名の監査役の全員が出席し,本件経営統合の目的,方法,条件,日程,本件経営統合後の方針等について説明が行われ,野村證券の担当者から,対象会社の株式価値の試算結果の報告が行われた。出席者からは,本件経営統合以外にも上場等の選択肢があったにもかかわらず,本件経営統合を選択した背景や考え方についての質問がされ,利害関係参加人から本件経営統合の打診があり,対象会社の現況及び生命保険市場の環境等を踏まえると,このタイミングで本件経営統合を行うことが適切であると判断したことなどが回答された。さらに,本件経営統合後の○○グループ会社との取引継続,本件経営統合後の方針,本件経営統合による対象会社の中期経営計画への影響等に関しても質疑応答及び意見交換がされた後,出席取締役全員の賛成により,本件基本合意の締結が承認可決された。(乙29)
イ 対象会社と利害関係参加人は,平成27年9月11日,本件基本合意を締結し,以下の内容を公表した(甲12の1・2)。
(ア) 利害関係参加人が,対象会社の発行済株式の全部を対象とする本件公開買付けを実施することを検討しており,これによって対象会社の株式の全てを取得できなかった場合には,公開買付け成立後に,売渡請求や株式併合等により本件スクイーズアウト手続を実施する予定である。
(イ) 対象会社の株主のうち,b社その他○○グループ株主が,本件経営統合後に別途合意する方法により,合計で総議決権の15%程度の対象会社の株式を取得することを協議している。
(ウ) 本件経営統合に係る最終契約の締結及び本件公開買付けの開始を平成27年10月下旬から11月上旬頃に予定し,翌12月下旬から平成28年1月上旬頃に本件公開買付けを終了した後,同年3月末頃までに本件スクイーズアウト手続の効力発生を予定している。
(エ) 利害関係参加人は,対象会社の本件経営統合後の事業戦略について,事業運営の自主性を尊重し,対象会社の沿革及びアイデンティティにも配慮するとともに,本件経営統合後も対象会社の従業員の雇用を維持し,対象会社の商号及びブランドを変更しない方針である。
ウ 本件基本合意及び後記の経営統合契約においては,本件買付価格を含む本件経営統合の取引条件と比べ,対象会社の株主にとって実質的に有利な条件による競合取引の提案等がされた場合には,対象会社は,一定の条件下において,当該提案等に係る提案者と協議することは妨げられない旨が規定された(乙2及び3の各第3,3条2)。
(6)  本件買付価格についての交渉
ア 利害関係参加人は,本件基本合意の締結後,対象会社に対する追加的なデュー・ディリジェンス等を実施し,平成27年10月下旬,対象会社に対し,改めて本件買付価格を提案した。
イ 対象会社は,平成27年10月下旬,野村證券とシティグループ証券との交渉の場を設け,野村證券は,シティグループ証券に対し,コントロール・プレミアムを更に勘案し,買付価格を引き上げるよう求めた。しかし,シティグループ証券は,コントロール・プレミアムは既に十分勘案している旨説明し,これ以上の引上げはできないと回答した。
また,対象会社は,本件買付価格の妥当性を検証するため,本件基本合意の締結後,野村證券に加えて大和証券を財務アドバイザーに選任し,対象会社の株式価値の算定を依頼した。大和証券は,対象会社の株式評価に関し,平成27年11月5日付けで,類似会社比較法で普通株式1株当たり321円から630円,DDM法で普通株式1株当たり394円から711円となる旨の算定結果を記載した株式価値算定書を対象会社に交付した。本件買付価格である普通株式1株当たり560円という額は,同算定書における試算結果においても,レンジの中央値を上回るものであった。(乙11の1・2)
(7)  申立人等の主要株主に対する説明
ア 申立人は,平成27年8月,利害関係参加人が対象会社の株式の80%を総額3000億円から4000億円で取得することを検討している旨の報道に接し(甲46の1・2,甲118),これらの金額が同年3月末日時点における対象会社のEEV(7450億円)を大幅に下回っていたことから,同年8月28日付け書面で,b社及び対象会社に対し,利害関係参加人との取引の詳細に関する説明を求めた。
これに対し,対象会社は,同年9月2日付けで,申立人に対し,現在のところ,対象会社としてはいかなる決定も行っていない旨回答した。
イ 申立人は,本件基本合意締結の公表後,平成27年9月14日付け書面で,b社及び対象会社に対し,EVより低い金額で取引が行われることは相当でない旨を伝えた。
これに対し,対象会社は,同月18日付け書面で,申立人に対し,価格に関する最終合意には至っていない状況であるが,我が国の生命保険市場の現状及び競業他社の株価を現実的に考慮すると,EVを反映する価格は実現不能と考えられる旨を回答した。
ウ 申立人は,平成27年10月14日付け書面で,対象会社の取締役及び監査役の全員に対し,申立人としては,対象会社のEEV7450億円にプレミアムを加えた額が本件経営統合に係る買収代金総額として相当であり,これを下回る金額である3000億円から4000億円で本件経営統合が行われることに反対し,裁判手続を通じて価格を争うことも企図している旨を伝えた(乙12の1)。
エ 申立人の取締役らは,平成27年10月30日,対象会社のH会長及びI社長他と面談し,日本の生命保険市場は世界2位の規模であり,海外の保険会社の立場から見ても非常に魅力的であること,適正な価格を知るための最善の方法はオークション手続の実施であること,買収価格はEV相当額であることを求めること,利害関係参加人が行った提案にはシナジーが反映されていないこと,利益相反関係を考慮すれば,野村證券や大和証券は対象会社の財務アドバイザーとして選任されるべきではないことなどを述べた。その上で,申立人は,対象会社に対し,同年11月2日付け書面でも同様の内容を伝えた。
オ 対象会社は,この間,申立人以外の対象会社の主要株主との間でも面談の機会をもち,本件買付価格を含む本件経営統合の取引条件について説明をしたところ,申立人を除く主要株主からは,いずれも本件経営統合について前向きな返答が得られた。
(8)  本件経営統合契約の締結
ア 対象会社は,平成27年10月27日開催の定時取締役会における審議及び同年11月4日開催の経営会議における審議を経て,同月5日開催の臨時取締役会において,本件経営統合契約の締結と本件公開買付けへの賛同意見表明についての審議をした。
上記臨時取締役会審議では,8名の取締役のうちC取締役とD取締役を除く6名の取締役及び3名の社外監査役を含む5名の監査役全員が出席し,本件基本合意締結後の経緯に関し,利害関係参加人から本件買付価格の提案を受け,その後も利害関係参加人と価格交渉を行ったものの,これ以上の買付価格の引上げはできないとの回答を得ていること,野村證券及び大和証券から取得した株式価値算定書においても本件買付価格は価格レンジに収まっていることなどが報告された。また,本件経営統合後の経営方針等に関し,本件基本合意とほぼ同じ内容であるものの,本件経営統合後の株主構成については,利害関係参加人が株式を100%買い取った後,16%を本件再取得株主へ譲渡するとともに,1%程度をその他の○○グループ会社へ譲渡する方針であること,本件経営統合後も対象会社は○○グループの一員として,○○グループ会社との関係を維持・発展する方針であること,本件経営統合後の経営体制については,取締役は9名とし,利害関係参加人が5名,対象会社が3名を指名し,社外取締役として1名が選任されること,また,代表取締役のうち1名は対象会社が指名することなどが報告された。加えて,申立人との関係について,同年10月30日に面談の機会を持ち,本件経営統合の経緯や対象会社の考え方を説明し,本件経営統合への理解と支援を求めたが,申立人側からは本件買付価格についての不満が表明されたことが報告された。
その後,議場において,申立人の主張に関して審議が行われ,野村證券から,対象会社と類似性が高い日本の上場生命保険会社の株価に関し,株式市場で1株当たりEVを大きく下回る状況が常態化しており,プレミアムを勘案してもEVをベースとした買収等が起こることは考えにくいとの助言がされていること,対象会社の企業価値を維持向上させるには,b社をはじめとする○○グループの株主のサポートを得られるか及び監督官庁である金融庁の理解を得られるかが重要であって,一般的にオークションを行うことに馴染むものではなく,現に,具体的なオファーは認識されていないこと,本件経営統合契約の締結は相互に特別の資本関係のない会社間における取引であり,本件再取得株主との兼務役員である取締役2名は審議から外れるなど,利益相反の疑いを回避するための措置も講じており,また,野村證券及び大和証券については,社内でチャイニーズ・ウォール等の情報隔離措置を適切に講じた上で対象会社の財務アドバイザーとして助言を行っているため,特段の問題はないと思われること,本件買付価格は,利害関係参加人との間での長期間にわたる協議・交渉を経て引き上げられ,合意に至ったものであることなどの意見が出された。
以上のような議論の結果,本件経営統合契約の締結及び本件公開買付けに対する賛同の意見表明について,出席取締役全員の賛成により承認可決され,公認会計士又は弁護士の資格を有する2名の社外監査役を含む監査役全員からも異議がない旨の意見が述べられた。
(乙31)
イ 対象会社と利害関係参加人は,平成27年11月6日,本件経営統合契約を締結し,同日,以下の内容を公表した(乙13)。
(ア) 対象会社と利害関係参加人が経営統合をするための取引の一環として,利害関係参加人が対象会社の普通株式,A種株式及びB種株式の全部を対象とする本件公開買付けを本件全買付価格によって実施する。公開買付期間は同月9日から同年12月21日まで(30営業日)とし,決済の開始日を同月29日とする。買付予定数の下限は4億3978万5136株とする(A種株式及びB種株式が全て普通株式に転換されたとみなした場合の株数。乙2(2頁)。株式総数5億9727万3868株の約73.63%に当たる。)。
(イ) 本件公開買付けが成立した場合には,速やかに,本件スクイーズアウト手続をし,本件公開買付けに応募しなかった株主が保有していた普通株式の対価として,1株当たり本件買付価格と同額の金銭が交付される予定である。
(ウ) 利害関係参加人と対象会社は,本件スクイーズアウト手続の完了後,速やかに,利害関係参加人が,本件再取得株主に対し,対象会社の株式を譲渡する(本件再取得)ことについて合意している。
(エ) 平成28年4月1日に,対象会社に新たな経営体制を発足させ,対象会社の取締役は9名,監査役は5名とし,対象会社の出身者(本件経営統合前において対象会社の役職員である者)が対象会社の取締役として3名選任されるものとし,対象会社の代表取締役のうち1名は対象会社の出身者とする。
ウ 利害関係参加人は,本件経営統合契約締結日である平成27年11月6日,本件再取得株主との間で,本件再取得株主が保有する対象会社の株式全てについて,利害関係参加人による公開買付けに応募する旨の公開買付応募契約を締結した。また,利害関係参加人は,同月19日,住友生命との間で,同様の公開買付応募契約を締結した。(乙4の1・2)
なお,本件再取得株主及び住友生命が保有するA種株式及びB種株式の全てを普通株式に転換した場合に本件再取得株主及び住友生命が保有することになる普通株式の総数は4億3978万5136株であり,本件公開買付けにおける買付予定数の下限と一致する(甲3(3頁))。
(9)  公開買付届出書等の提出
ア 利害関係参加人は,平成27年11月9日,関東財務局長に対し,公開買付届出書を提出し,対象会社は,同日,同財務局長に対し,意見表明報告書を提出した(甲3,21)。
イ 上記公開買付届出書(甲3)には,本件再取得が予定されていること,本件再取得株主及び住友生命との間で公開買付応募契約が締結されていることなどを含む本件公開買付けの概要や,本件公開買付け後の経営方針等が記載されていた。また,本件公開買付け後,速やかに本件スクイーズアウト手続を行うこと,この場合,本件公開買付けに応募しなかった対象会社の株主に対し,保有する普通株式1株当たりにつき本件買付価格と同額の金銭が交付されることなども記載されていた。
また,上記公開買付届出書(甲3)には,利害関係参加人が,本件買付価格の決定に当たり,財務アドバイザーであるシティグループ証券及び三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社から,以下の算定結果を得た旨が記載されていた。
(ア) シティグループ証券は,類似公開会社比較分析及び配当割引分析を行って,以下のとおり,対象会社の普通株式1株当たりの株式価値を算定した。
a 類似公開会社比較分析による算定結果
調整後株価/EV倍率によるもの:351円から538円
調整後株価/純資産倍率によるもの:435円から699円
調整後株価/純利益倍率によるもの:312円から501円
b 配当割引分析による算定結果
株価倍率モデル(調整後純資産倍率)によるもの:518円から592円
株価倍率モデル(調整後純利益倍率)によるもの:536円から622円
永久成長モデルによるもの:527円から652円
(イ) 三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社は,類似企業比較分析,類似取引比較分析及びアプレーザル・バリュー分析を行い,類似企業比較分析では1株当たり290円から743円,類似取引比較分析では1株当たり556円から709円,アプレーザル・バリュー分析(対象会社の平成27年3月31日時点のEVを分析し,同年4月1日以降に新契約から見込まれるキャッシュフローを一定の割引率で現在価値に割り戻した価値の総和である新契約価値をEVに加算した上で,一定の調整を行って対象会社の普通株式の株式価値を分析している。)では1株当たり626円から852円という算定結果が出た。
ウ 対象会社が平成27年11月9日に提出した意見表明報告書(甲21)には,本件公開買付けに関する意見の内容や根拠等が記載されるとともに,利害関係参加人が提出した前記公開買付届出書と同様に,本件公開買付け後に本件スクイーズアウト手続が予定されていること,その場合,保有する普通株式1株当たり本件買付価格と同額の金銭が交付されることなどが記載されていた。
また,上記意見表明報告書には,対象会社が,本件公開買付けに関する意見表明を行うに当たり,財務アドバイザーである野村證券及び大和証券から,以下の算定結果を得た旨が記載されていた。
(ア) 野村證券は,類似会社比較法及びDDM法を用いて株式価値を算定し,類似会社比較法では1株当たり296円から641円,DDM法では1株当たり359円から695円という結果が出た。
(イ) 大和証券も,類似会社比較法及びDDM法を用いて株式価値を算定し,類似会社比較法では1株当たり321円から630円,DDM法では1株当たり394円から711円という結果が出た(認定事実(6)イ)。
(10)  本件公開買付けの成立
利害関係参加人は,平成27年11月9日から同年12月21日まで,本件公開買付けを実施した。その結果,対象会社の普通株式2億5669万3263株,A種株式91万1879株及びB種株式60万株(A種株式及びB種株式をそれぞれ普通株式に転換したとみなした場合の株式数は5億7543万2699株)の応募があり,買付予定数の下限(4億3978万5136株)を上回ったことから,本件公開買付けが成立した。そして,利害関係参加人は,本件公開買付けによって取得されたA種株式及びB種株式の普通株式への転換の結果,対象会社の総株主の議決権の96.34%を保有するに至った。(甲13)
また,本件公開買付けの成立を受け,主要な格付け会社であるR&I社,スタンダード&プアーズ社及びフィッチ・レーティングス社は,同月から平成28年1月にかけて,いずれも対象会社の格付けを引き上げた(甲43~45)。
(11)  本件売渡請求
ア 利害関係参加人は,対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を取得したことから,本件スクイーズアウト手続として想定していた手続のうち,特別支配株主による株式売渡請求を行うこととし,平成28年1月27日,本件公開買付けに応募しなかった対象会社の一般株主に対し,会社法179条1項に基づき,同年3月11日を取得日として,その有する普通株式の全部を本件買付価格と同額で売り渡すことを請求した。
イ 対象会社は,平成28年1月27日付けで,利害関係参加人から,本件売渡請求をする旨の通知を受けた。そこで,対象会社は,同日開催の取締役会において,C取締役及びD取締役を除いて本件売渡請求の承認の可否について審議し,本件売渡請求に係る条件は相当であり,売渡株主の利益にも配慮された合理的なものであると判断し,審議に加わった取締役の全員一致により,本件売渡請求を承認する旨の決議をした。
2  非上場株式の売買価格の決定方法
(1)  前記前提事実及び認定事実のとおり,本件売渡請求は,利害関係参加人と対象会社の間の本件経営統合契約を前提として,利害関係参加人による対象会社の発行済株式の全部を対象とする公開買付けに引き続き実施されたものであるところ,利害関係参加人は,本件経営統合ないし本件公開買付けに至るまで,対象会社の株式を一切保有しておらず,対象会社との間に何らの資本関係がなかったことが認められる。
相互に特別の資本関係がない会社間において,一方の会社が他方の会社と経営統合するための手続として株式の公開買付けを行い,その後に当該会社の株式について会社法179条1項に基づく特別支配株主による株式売渡請求をして,当該会社の株式の全部を取得する場合においては,いわゆる独立当事者間において企業間取引がされた場合と同様に,それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう契約内容や買付価格を決定することが期待できるというべきである。そして,公開買付けに応募しなかった株主の保有する株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど,一般に公正と認められる手続により経営統合の手段たる公開買付けが行われ,その後に公開買付けに係る買付価格と同額で株式売渡請求がされた場合には,株主が公開買付けに応じるか否かを適切に判断することが期待できる以上,上記の手続において基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情がない限り,裁判所は,株式売渡請求に係る株式の売買価格を公開買付けに係る買付価格と同額とするのが相当である。
(2)  また,このような理は,公開買付けの対象となる株式が市場株価を有する上場株式である場合のみならず,非上場株式である場合にも等しく当てはまるというべきである。
この点,申立人は,道東SFF最高裁決定をもって,非上場株式の価格が争われる事案においては,一般に公正と認められる手続によって公開買付けが行われたかどうかにかかわらず,裁判所は,株式価値を具体的に算定して株式の価格を定めなければならない旨主張する。
しかし,道東SFF最高裁決定は,非上場のグループ会社間における組織再編の事案において,当該組織再編がされなかった場合の株式買取請求に係る株式の公正な価値について,鑑定がされた場合の評価手法に関して判断したものであり,非上場株式一般について,裁判所が常に鑑定を行って株式価値を具体的に算定しなければならないとしたものではないから,本件とは事案を異にするものであるといえる。
よって,申立人の上記主張を採用することはできない。
3  本件買付価格が一般に公正と認められる手続に従い,決定されたものであるかについて
(1)  前記のとおり,本件経営統合及びその手段としての本件公開買付けは,特別の資本関係がない対象会社と利害関係参加人との間でされたものであるところ,申立人は,本件経営統合においては,申立人を含む対象会社の一般株主と,本件再取得株主,財務アドバイザー及び対象会社の取締役との間に,いずれもMBO類似の構造的な利益相反関係があり,本件経営統合は,いわゆる独立当事者間における取引であるとはいえない旨を主張するので検討する。
ア(ア) まず,申立人は,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があるとし,本件再取得が予定されていたことから,本件再取得株主としては,本件公開買付けの買付価格が低くなれば本件再取得の条件が有利になる可能性があり,あるいは,本件経営統合によって生み出されるシナジーや「○○」ブランド価値の向上といった利益を享受することで,不利益を回避することができた旨主張する。
(イ) しかし,前記認定事実のとおり,本件再取得株主は,対象会社の38.65%の株式を有していたところ(前提事実(2)イ),本件公開買付けに応募することにより,本件再取得を前提にしたとしても,その保有する対象会社の株式の持株比率を大幅に減らすことになり(b社については14.23%から11%,e社については9.11%から2%,f社については7.20%から1%,g社については4.06%から1%,d社については4.05%から1%。減少後の持株比率の合計は16%),本件再取得が本件買付価格と同額で行われたことからすると,本件再取得株主は,実質的には,利害関係参加人に対し,保有する対象会社の株式の大半を本件買付価格で売却しているに等しいことになる。そうすると,本件再取得株主は,保有する対象会社の株式の多くについて,買付価格が低下すれば損失が拡大するという意味で,一般株主と同様の利害を有するといえる。
この点,申立人は,本件公開買付けの買付価格が低くなれば,本件再取得の条件が有利になる可能性がある旨主張するが,一件記録を精査しても,同主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。
(ウ) もっとも,本件再取得株主は,本件再取得によって保有することになる株式について,一般株主と異なり,申立人が主張するシナジー等の利益を享受する可能性があることは否定されない。
しかし,前記認定事実によれば,本件再取得は,対象会社の営業職員をはじめとする従業員のモチベーションやロイヤリティを維持するため,本件経営統合後も対象会社の商号や「○○」のブランドを維持する必要があり,そのために○○グループとの資本関係を一定程度維持すべく実施されるに至ったものであり,本件再取得株主に対して対象会社の一般株主とは異なる特別の利益を与える目的で実施されたと認めることは困難である。
そうすると,本件再取得が予定されていたことをもって,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に,MBO類似の構造的な利益相反関係があったとまでいうことはできない。
イ(ア) 次に,申立人は,対象会社の一般株主と財務アドバイザーである野村證券及び大和証券との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があるとも主張し,両会社が対象会社の主要株主の関連会社であり,対象会社と利害関係を有していたと指摘する。
この点,前記前提事実に加え,証拠(甲18,19)によれば,野村證券及び大和証券と,対象会社の主要株主であった野村フィナンシャル及び大和証券インベストメンツ(前提事実(2)イ(イ)及び(エ))との間には,野村證券と野村フィナンシャルが共に野村ホールディングス株式会社を100%親会社としており,また,大和証券グループが大和証券インベストメンツの株式の60%を保有しているというように,それぞれ一定の資本関係があったことが認められる。
しかし,野村フィナンシャル及び大和証券インベストメンツは,いずれも一般株主と同様に利害関係参加人に対して自己の保有する対象会社の株式を売却する立場に立つものであり,本件再取得株主のように対象会社の株式を再度取得するものでもない以上,対象会社の一般株主との間で対立する利害関係を有するものではないというべきである。そうすると,野村證券及び大和証券が対象会社の主要株主との間に一定の資本関係を有していたからといって,対象会社の財務アドバイザーであるこれらの会社と一般株主との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があるということはできない。
(イ) また,申立人は,本件経営統合を目的とした成功報酬を獲得するため,対象会社の財務アドバイザーは,対象会社の一般株主にとっては適正な価格とはいえない低廉な価格を対象会社の株式価値として算定するインセンティブがあるとも主張するが,抽象的な可能性を指摘するものに止まり,成功報酬の目的が本件経営統合であるからといって,直ちに本件公開買付けに係る買付価格を不当に低廉なものにするインセンティブが働くということはできない。
そして,前記認定事実によれば,野村證券は,対象会社の財務アドバイザーとして,利害関係参加人から本件当初価格が提示された後,買付価格の引上げを求めていくべきであるとの助言をし(認定事実(3)ウ),その後も買付価格の引き上げの交渉が難航する中で,利害関係参加人の財務アドバイザーであるシティグループ証券に対して本件当初価格の根拠について説明を求め,対象会社に対し,利害関係参加人が主張するようなタワーズワトソンによる調整後のEVを指標とすることは受け入れられないものの,EVの前提条件に関する詳細な議論に立ち入るのは得策ではないから,利害関係参加人に対し,本件当初価格は対象会社の株主の理解を得ることが困難であるなどとして買付価格の再考を求めるのが効果的ではないかといった助言をしている(認定事実(4)イ)。また,一件記録を精査しても,対象会社の財務アドバイザーである野村證券や大和証券が申立人を含む対象会社の一般株主の利益に反する行動をとったことをうかがわせる証拠はない。
(ウ) 以上によると,財務アドバイザーである野村證券及び大和証券と一般株主との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があるということはできない。
ウ(ア) 対象会社の一般株主と取締役の関係について,申立人は,本件公開買付け等に関する取締役会決議がされた当時,決議に関与しなかったC取締役及びD取締役以外の取締役6名のうちの3名は,過去に本件再取得株主の取締役又は執行役員の経歴を有していたと主張する。
しかし,証拠(甲8,88)によれば,上記決議に関与した取締役のうち,H(代表取締役会長),J及びKは,過去に本件再取得株主の取締役ないし執行役員であったことが認められるものの,これらの取締役は,いずれも本件経営統合の打診がされた平成27年3月から起算して約3年から6年以上も前に本件再取得株主の取締役又は執行役員を退任していることが認められ,本件経営統合等に関して本件再取得株主の意向に強く影響されるとまで断定し難いことに加え,前記認定判断のとおり,本件再取得株主と対象会社の一般株主との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があるとはいえないことからすると,これらの取締役が決議に加わっていたことをもって,対象会社の一般株主と取締役との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があるということはできない。
(イ) また,申立人は,本件経営統合契約において,本件経営統合後,対象会社の取締役を9名とし,そのうち対象会社の出身者が3名選任されるものとし,対象会社の代表取締役のうち1名を対象会社の出身者とすることなどが定められていることを指摘し,前記認定事実((8)イ(エ))によれば,同指摘に係る事実が認められる。
しかし,ここにいう「対象会社の出身者」は,本件経営統合前の対象会社の役職員である者とされていたのであり,契約上,対象会社の取締役に限られてはおらず,一件記録を精査しても,本件経営統合に関与した対象会社の取締役ないし代表取締役に対し,本件経営統合後も対象会社の取締役又は代表取締役の地位が保障されていた事実を認めることもできない。
エ 以上によれば,対象会社の一般株主と本件再取得株主,財務アドバイザー及び取締役との間にMBO類似の構造的な利益相反関係が存在していたとはいえず,本件経営統合がいわゆる独立当事者間の取引でないとする申立人の主張は,その前提を欠き,採用することができない。
(2)  以上を前提に,本件経営統合及び本件公開買付けが一般に公正と認められる手続によって行われたかについて検討する。
ア 前記前提事実及び認定事実によれば,本件経営統合及び本件買付価格の交渉に関し,対象会社は,①リーマンショック等の影響によって財務基盤が毀損し,他社との連携統合等も含めた検討をしていたところ,利害関係参加人から,本件経営統合に向けた協議の打診を受け,②本件公開買付けに関する協議及び交渉に当たり,法務アドバイザー,財務アドバイザー及びアクチュアリー・ファームといった外部の専門家から助言を得ながら,利害関係参加人が提示した買付価格の妥当性を検討し,③利害関係参加人との間で,上記打診から本件経営統合契約の締結に至るまで約7か月間に渡り,本件買付価格を含む取引条件の交渉をし,④利害関係参加人から,普通株式の買付価格を本件当初価格とするなどの提案を受けたものの,財務アドバイザーや法務アドバイザーの助言を受けて本件当初価格の引上げを求め,その結果,本件買付価格への引上げに成功し,⑤その後も,利害関係参加人に対し,更なる価格の上乗せを要請したが,本件買付価格は複数の財務アドバイザーによる株式価値の算定結果のレンジ内にあることが確認され,財務アドバイザーからこれ以上の価格の引上げは難しいとの報告を受け,さらに,申立人を除く主要株主からも本件買付価格を含む本件経営統合について前向きな返答を得,利害関係参加人の財務アドバイザーから買付価格の更なる引上げが困難であるとの見解を得たことなどから,本件買付価格を応諾するに至ったものである。
これらの事情に照らせば,本件公開買付けは,対象会社と利害関係参加人との間で,対象会社の一般株主にも配慮した買付価格の模索も含め,実質的な交渉が行われて実施されるに至ったものと評価することができる。
イ そして,本件公開買付けの実施に関しても,⑥対象会社は,本件基本合意の締結後,直ちに,対象会社の発行済株式の全部を対象とする本件公開買付けを実施し,その後,本件スクイーズアウト手続が実施される予定であることや,本件再取得を行う方向で協議していることといった重要事項を公表し,⑦本件経営統合契約の締結後,利害関係参加人は,直ちに,本件買付価格,公開買付期間,決済の開始日,買付予定数の下限,本件公開買付けが成立した場合には本件買付価格と同額でキャッシュアウトされること,本件再取得に関する方針といった,本件公開買付けへの応募の可否を検討するために必要と考えられる事項を公表し,⑧利害関係参加人と対象会社は,本件公開買付けに先立ち,公開買付届出書と意見表明報告書をそれぞれ提出し,本件買付価格の決定に当たって参考にした双方の複数の財務アドバイザーによる対象会社の普通株式の価格の算定過程とその結果を開示した上,⑨利害関係参加人は,30営業日の公開買付期間を定めて本件公開買付けを実施し,⑩その結果,A種株式及びB種株式を普通株式に転換したと見なした場合の株式数5億7543万2699株の応募があり,買付予定数の下限4億3978万5136株を上回り,本件公開買付けが成立している。
これらの事情に照らせば,本件公開買付けに当たっては,対象会社の株主が本件公開買付けに応じるか否かの判断に必要となる情報が適時かつ適切に開示されており,また,当該判断に必要な期間も十分に確保されていたということができる。
ウ 以上によれば,本件公開買付け及びその後の本件スクイーズアウト手続は,一般に公正と認められる手続により行われたということができる。
(3)  これに対し,申立人は,本件において,手続の公正性を担保するための各措置,すなわち,①独立した第三者委員会の設置,②財務アドバイザーからのフェアネス・オピニオンの取得,③マジョリティ・オブ・マイノリティの設定,④一般株主と利益相反関係にない取締役会による財務アドバイザーの選任,⑤財務アドバイザーに対する成功報酬に関する情報の開示,⑥オークションプロセスの実施といった措置がとられていないことに加え,⑦対象会社が自ら公表したEVを大幅に下回る金額を基準として買付代金(本件買付価格)が決められたことから,本件公開買付け等が一般に公正と認められる手続によって行われたとはいえないなどと主張するので,以下,個別に検討する。
ア 申立人は,本件において,独立した第三者委員会が設置されなかったこと(上記①)から,手続の公正性が担保されていないと主張する。
しかし,申立人が証拠として提出する甲20号証においても,我が国のM&A実務における第三者委員会の用いられ方は必ずしも一様ではない旨の記載があることに加え,前記認定判断のとおり,本件においては,対象会社と利害関係参加人との間に特別の資本関係はなく,対象会社の一般株主と取締役等との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があると認めることもできない上,対象会社は,法務アドバイザー,財務アドバイザー及びアクチュアリー・ファームといった外部専門家から助言を得ながら利害関係参加人との間の交渉を進め,対象会社の取締役会では,本件買付価格に反対する申立人の主張も検討した上で,出席取締役の全員一致で本件経営統合契約の締結等が承認され,公認会計士又は弁護士の資格を有する社外監査役を含む監査役全員からも異議がない旨の意見が述べられている。
そうすると,本件において,対象会社から独立した第三者委員会を設置しなければ,株主の利益にかなう契約内容や買付価格を決定することが期待できないとは認め難く,同設置がされなかったことをもって,本件公開買付け等において一般に公正と認められる手続が履践されなかったということはできない。
イ 申立人は,本件において,対象会社が財務アドバイザーからフェアネス・オピニオンを取得していなかったこと(前記②)を指摘する。
しかし,前記認定判断のとおり,対象会社と利害関係参加人との間に特別の資本関係はなく,対象会社の一般株主と取締役等との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があるともいえない。そして,前記認定事実によれば,対象会社は,本件公開買付けに関する意見表明を行うまでに,財務アドバイザーである野村證券や大和証券から対象会社の株式価格の算定結果を複数得ていたのであり,その算定過程についても,本件でこれを一見して明らかに不当であると認めるに足りる証拠はない。本件買付価格はこれらの算定価格のレンジ内にあり,しかも,交渉過程においても,野村證券は,対象会社の株主の利益を確保するための助言をしていたにもかかわらず,最終的に,対象会社に対し,本件買付価格以上の価格の引上げは望めないと伝えている。
そうすると,本件において,対象会社が財務アドバイザーからフェアネス・オピニオンを取得していなかったことをもって,一般に公正と認められる手続が履践されなかったということはできない。
ウ 申立人は,本件公開買付けにおいては,利害関係参加人が本件再取得株主及び住友生命との間で公開買付応募契約を締結していたから,買付予定数の下限を上回ることが当初から明らかであり,少数株主の適切な判断機会を確保すべく,いわゆるマジョリティ・オブ・マイノリティを設定すべきであった(前記③)と主張する。
この点,前記認定事実((8)ウ)によれば,利害関係参加人は,本件公開買付けに先立ち,本件再取得株主及び住友生命との間で,保有する対象会社の株式全てについて公開買付応募契約を締結し,本件再取得株主及び住友生命が保有するA種株式及びB種株式の全てを普通株式に転換した場合に,本件再取得株主及び住友生命が保有することになる普通株式の総数が本件公開買付けにおける買付予定数の下限と一致することも認められる。
しかし,証拠(甲15)によれば,MBO指針において,株主意見の確認を尊重する見地からの実務上の工夫例として,MBOに際しての公開買付けにおける買付け数の下限を高い水準に設定すること(いわゆるマジョリティ・オブ・マイノリティの設定)について記載されているが(甲15(18~20頁)),前記のとおり,本件公開買付け等においては,そもそも対象会社の一般株主と取締役等の間にMBO類似の構造的な利益相反関係は認められないのであり,しかも,上記の記載も工夫例の一つとされているにすぎない。
そうすると,本件公開買付けにおいて,申立人が主張するような,いわゆるマジョリティ・オブ・マイノリティの設定がされなかったことをもって,一般に公正と認められる手続が履践されなかったということはできない。
エ 申立人は,対象会社の取締役会が一般株主と利益相反関係にある以上,対象会社の取締役会が財務アドバイザーを選任したこと(前記④)についても手続の公正性が疑われる旨主張する。
しかし,前記認定判断のとおり,本件再取得株主における名誉顧問又は監査役の地位も有していたC取締役とD取締役については,財務アドバイザーの選任を含む本件経営統合に関する手続に全く関与しておらず,しかも,その余の取締役についても,一般株主との間にMBO類似の構造的な利益相反関係を認めることはできない。そして,一件記録上,対象会社の財務アドバイザーが,申立人を含む対象会社の一般株主の利益に反する行動をとったことをうかがわせる証拠もない。
よって,財務アドバイザーが対象会社の取締役会によって選任されたことをもって,一般に公正と認められる手続が履践されなかったということはできない。
オ 申立人は,対象会社が財務アドバイザーに対する成功報酬の存在,額及び割合について開示しなかったこと(前記⑤)をもって,手続の公正性を欠く旨主張する。
しかし,財務アドバイザーに関する成功報酬の有無及び内容を開示することが,我が国における経営統合上の一般的な実務であることを認めるに足りる証拠はない。そして,前記認定判断のとおり,対象会社の財務アドバイザーが,申立人を含む対象会社の一般株主の利益に反する行動をとったことを認めるに足りない。
よって,本件において,対象会社の財務アドバイザーの成功報酬が開示されていないことをもって,一般に公正と認められる手続が履践されなかったということはできない。
カ 申立人は,本件において,オークションプロセスが実施されなかったこと(前記⑥)をもって,手続の公正性を欠く旨主張する。
しかし,我が国において,経営統合の相手方を決める際,オークションプロセスを実施することが一般的な実務であると認めるに足りる証拠はなく,しかも,前記認定事実((5)ウ)によれば,本件基本合意及び本件経営統合契約においては,競合取引の提案等がされた場合には,対象会社が当該提案者と協議することも許容されていたものの,本件において,本件公開買付けの期間が終了するまでの間に,利害関係参加人以外の第三者から対象会社に対する具体的な買収提案があったことを認めるに足りない。加えて,対象会社は保険業法の規定による免許が必要な生命保険業を営む会社であることなども考慮すると,対象会社につき,オークションプロセスを実施すれば,利害関係参加人に対抗する第三者が現れたと直ちにいえるものでもない。
そうすると,オークションプロセスが実施されていないことをもって,一般に公正と認められる手続が履践されなかったということはできない。
キ(ア) 申立人は,対象会社が自ら公表したEVを大幅に下回る金額を前提にした本件公開買付けとその後の本件スクイーズアウト手続は,一般に公正と認められる手続であるとはいえない旨主張する(前記⑦)。
この点,前記前提事実((3)イ)及び認定事実((4)イ)によれば,対象会社は,平成27年3月末日時点のEEVを7450億円であると公表していたこと,本件当初価格(490円)は,同EEVを基準に算出した株式価値を大幅に下回るものであり,この点は,本件買付価格(560円)についても同様であるといえる。
(イ) しかし,前記認定事実((2))によれば,我が国においては,EVの算定や開示に関するガイドラインは定められておらず,EVの算定に当たって設定する前提条件の値も生命保険会社によって異なっており,死亡率等の前提条件がEVの算定に与える影響は比較的大きなものであるとの指摘がある。そして,我が国の生命保険協会に加盟している企業41社のうち,平成27年度にEVを開示した企業は17社にとどまっており,その割合は4割程度にすぎず,その中でも,TEVを開示する企業,EEVを開示する企業,MCEVを開示する企業とに分かれていることが認められる。しかも,我が国においては,EVと株式価値との間の関連性についての研究がほとんど行われておらず,EVは主として財務情報の補完機能に限定されるとの指摘もされており,このような状況の下,平成27年9月から直近5年間の株価/EV倍率の平均値は,第一生命については0.42倍,T&Dホールディングスについては0.47倍にとどまっている。そうすると,対象会社が自ら公表したEVを基準とした買付価格が採用されず,むしろ同EVを大幅に下回る金額を基準にして本件買付価格が定められたことの一事をもって,手続の公正さが否定されると即断することはできない。
(ウ) 加えて,前記前提事実((1)イ,ウ,(3)ア)及び認定事実((1)ア)によれば,対象会社は,平成3年頃から,いわゆる逆ざや状態が続くなど厳しい財務状態に追い込まれ,サブプライム・ローン問題とリーマンショックにより,平成20年度には,生命保険会社の基礎的な期間収益の状況を表す指標である基礎利益が大幅にマイナスになり,平成27年3月期においても,なお逆ざや状態が解消されなかった中で,保険料等収入や総資産等の規模が約9倍近くであり,従業員数も約7倍にもなる利害関係参加人との間で,本件買付価格を含む本件経営統合の取引条件について交渉している。また,対象会社は,財務アドバイザーやアクチュアリー・ファームから,対象会社と類似の国内の上場生命保険会社の株価の推移をみると,1株当たりEVを大きく下回る状況が常態化しており,生命保険会社のEV自体を株式価値とすることは合理的ではないとの説明を受け,あるいは,EV算定に当たっての前提条件の置き方には一定の幅があり得る旨の指摘を受け,あえてEVの前提条件に関する詳細な議論に立ち入ることなく,利害関係参加人との間で買付価格の引上げ交渉を行い,本件当初価格から本件買付価格への引上げに成功した後,最終的に本件買付価格を受け入れている。
(エ) 以上の経緯等に照らせば,本件買付価格は,対象会社と利害関係参加人との間の実質的な交渉によって決定されたものであり,これが対象会社の公表していたEEVを大幅に下回る金額を前提にしたものであったとしても,本件買付価格について,それぞれの会社及びその株主の利害が適切に調整されたものではないということもできない。
よって,申立人の前記主張に係る事実を考慮しても,本件において,一般に公正と認められる手続が履践されなかったということはできないというべきである。
(4)  小括
以上によれば,本件公開買付けは,一般に公正と認められる手続により行われたといえ,本件において,同手続における基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情も認められない。そして,本件売渡請求は,本件買付価格と同額をもって売買価格として,本件公開買付けの成立後遅滞なく行われたものである。
そうすると,その余の点について検討するまでもなく,本件株式の売買価格は,本件買付価格と同額とすべきであり,1株につき560円とするのが相当である。申立人は,本件株式1株当たりの売買価格が1746円を下回らないとしてるる主張するが,以上の判示に照らし,いずれも採用することはできない。
4  よって,主文のとおり決定する。
東京地方裁判所民事第8部
(裁判長裁判官 岩井直幸 裁判官 岡本陽平 裁判官 久田淳一)

 

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