判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(69)平成28年10月31日 東京地裁 平27(ワ)18118号 業務委託料等請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(69)平成28年10月31日 東京地裁 平27(ワ)18118号 業務委託料等請求事件
裁判年月日 平成28年10月31日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)18118号
事件名 業務委託料等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA10318002
要旨
◆歌手等のタレントの育成・マネジメントを主たる業とする会社である原告が、所属タレントのマネジメントを主たる業とする会社である被告に対し、被告所属の本件タレントのプロモーション活動に関する業務委託契約(本件契約)に基づき、月額30万円の業務委託料合計額及び配分利益の総合計の一部等の支払を求め、予備的に、原告は被告のために本件タレントのプロモーション活動をしたと主張して、商法512条に基づき、相当な報酬の一部等の支払を求めた事案において、被告が原告に交付した「合意書」と題する各書面は、被告が原告に対して平成27年2月20日をもって本件契約を終了させる旨の意思表示をしたというに十分であり、これにより本件契約は同日をもって終了したものと認めるとともに、原告が本件タレントのプロモーション活動をしていた時期、被告は相当額の営業損失を計上していたことなどから、本件配分利益は発生せず、原告に支払われた業務委託料には原告の費用のみならず報酬も含まれているなどとして、いずれの請求も棄却した事例
参照条文
民法648条
民法656条
商法512条
裁判年月日 平成28年10月31日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)18118号
事件名 業務委託料等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA10318002
埼玉県戸田市〈以下省略〉
原告 株式会社スパーク・スタッフ
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 弘中章
細田健太郎
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 トーアエンタテインメント株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 原秋彦
小川尚史
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成27年7月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,①芸能タレントのプロモーション活動に関する業務委託契約に基づき,1000万円(平成27年3月から本件判決確定の日が属する月までの月額30万円の業務委託料合計額及び配分利益1800万円の総合計の一部)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年7月11日(本件記録上明らかである。)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,②予備的に,原告が被告のために芸能タレントのプロモーション活動をしたと主張し,商法512条に基づき,相当な報酬1800万円の一部である1000万円及びこれに対する上記同日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,音楽著作権の管理,歌手等のタレントの育成・マネジメントを主たる業とする会社であり,被告は,所属タレントのマネジメントを主たる業とする会社である。
(2) 原告は,平成25年2月,被告との間で,被告所属のタレントであるC(昭和63年生まれの舞踏家(甲4)。以下「C」という。)についての原告が行うマスメディア向けプロモーションに関し,以下の内容の業務委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
ア 業務内容 Cの活動に関するスケジュール調整,出演交渉,プロモーション等の業務
イ 契約期間 平成25年2月21日から平成26年2月20日まで
ウ 契約更新 当事者の一方が相手方に対して文書による契約終了の意思表示をしない限り更新される。
エ 委託料 月額30万円(消費税込み)。ただし,テレビ関係出演契約獲得については,出演料収入の20%とする。(以下,毎月の委託料を「本件委託料」という。)
オ 委託料支払日 毎月20日締め当月25日支払
カ 利益配分 原告の本業務遂行に伴い,被告の収益計画が達成されたときには,被告は,原告に対し,利益配分を行う(以下「本件利益配分条項」といい,同条項に基づき配分される利益を「本件配分利益」という。)。
(3) 本件契約は,平成26年2月20日に更新された。
(4) 本件委託料について,被告は,原告に対し,平成27年2月分までの支払はしたが,同年3月分以降の支払をしていない。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 争点1
本件契約は,平成27年2月20日又は同年3月29日に終了したか。
ア 被告の主張
被告は,原告に対し,平成26年9月及び同年11月21日,本件契約を平成27年2月20日をもって終了する旨の意思表示を文書により行ったから,本件契約は同日終了した。
仮に本件契約が上記同日終了していないとしても,被告は,原告に対し,平成27年3月29日,本件契約を終了する旨の意思表示を文書により行ったから,本件契約は同日終了した(本件契約が更新された場合の契約期間は当然に1年となるものではない。)。
イ 原告の主張
平成27年2月20日の更新に際し,原告又は被告からの相手方に対する文書による契約終了の意思表示はなかったから,本件契約は同日更新された。また,その後も,原告又は被告からの相手方に対する文書による契約終了の意思表示はなかった。なお,本件契約が更新された場合の契約期間は当然に1年となる。
(2) 争点2
原告は,被告に対し,本件配分利益を請求することができるか。それができる場合,その額はいくらか。
ア 原告の主張
原告は,本件契約を締結した以降,テレビ局,ラジオ局をはじめとするマスメディアと折衝するなどCの出演交渉を進め,同人のメディア露出の機会を増やして行った。その結果,Cは多数のテレビ番組や新聞,雑誌等で取り上げられ,その認知度は増大した。
本件契約の目的は,ほぼ無名舞踏家であるCのアーティストとしての商業的価値を生み出し,高めることにあったところ,この目的に鑑みると,本件利益配分条項の「被告の収益計画が達成されたとき」とは,Cのアーティストとしての商業的価値が発生あるいは増大したことを意味し,具体的には,全国ネットの番組を有するメディアから積極的にCに対する出演オファーが入るようになることを意味する。そして,上記のとおり,原告の業務遂行の結果,Cのアーティストとしての商業的価値が発生あるいは増大したから,原告は,被告に対し,本件配分利益を請求することができる。
ところで,本件利益配分条項には利益の配分割合について明確な規定はないが,本件契約上の「テレビ関係出演契約獲得については,出演料収入の20%とする」との定めを準用し,Cに関する被告の売上の20%を原告の取り分と解釈することが当事者間の合理的意思に合致するものと解される。そして,現時点におけるCに関する被告の売上は,少なくとも月額150万円程度発生していると考えられるところ,少なくとも今後5年間はアーティストとしての収益活動を継続できる蓋然性が高い。したがって,原告は,被告に対し,本件配分利益として1800万円(150万円×5年×20%)を請求することができる。
イ 被告の主張
本件利益配分条項は,原告によるCのプロモーション活動が大きな成果を上げて,被告の収益が大幅な黒字となるという想定が現実化した場合に,被告に発生した利益の一部を原告に支払うことを意図したものである。しかし,原告によるCのプロモーション活動の成果は期待を下回るものであり,被告の収支は赤字(営業損失が発生している。)の状況にある。したがって,原告は,被告に対し,本件配分利益を請求することはできない。
また,本件利益配分条項は,「被告の収益計画が達成されたとき」に,被告の判断により,具体的な配分利益の額を決定することを想定したものであるから,Cに関する被告の売上の20%を原告の取り分と解釈することが当事者間の合理的意思に合致するとはいえない。そもそも,「利益」を配分するとの定めに照らせば,「利益」ではない「売上」を基準として原告の取り分を算定することは,本件契約の文言に反する。
(3) 争点3
原告は,被告に対し,商法512条に基づき,相当な報酬を請求することができるか。それができる場合,その額はいくらか。
ア 原告の主張
原告は,被告のために,営業としてCのプロモーション活動を行っていたから,原告は,被告に対し,商法512条に基づき,相当な報酬を請求することができる。そして,一般的に,テレビ出演による露出獲得は極めて難易度が高いとされていること,業界においては,成功報酬として1番組当たり100万円程度が支払われることもあること,原告によるCのプロモーション活動が大きな成果を上げていることに照らせば,相当な報酬は1800万円を下らない。
イ 被告の主張
被告は,原告に対し,Cのプロモーション活動の対価として,本件委託料合計720万円及び出演料収入である19万6719円の20%を支払っており,これらの報酬は,本件契約に基づく業務委託に関する報酬として十分な金額であるから,これに加えて1800万円もの報酬請求権が発生することはない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
争いのない事実,前提事実及び証拠(甲32の1及び2,甲36,乙1,3,乙4の1ないし5,乙5,乙14の1及び2,乙15,証人D,原告代表者本人(なお,甲36及び原告代表者本人のうち,以下の認定に反する部分を除く。))によれば,以下の事実が認められる。
(1) 平成25年2月に本件契約が締結されたところ(前提事実),本件契約締結前である平成24年のCのメディア露出状況は,別紙「メディア露出状況(平成24年)」記載のとおりであった(乙3)。
(2) 本件契約締結後のCのメディア露出状況は,別紙「メディア露出状況(平成25年~平成27年)」記載のとおりであった(争いのない事実)。
上記期間中,原告が被告に対して請求した,本件契約上のテレビ関係出演契約獲得についての委託料の元となる出演料収入(出演件数は,テレビ3件(平成25年5月4日分,平成26年3月12日分,同年7月27日分),ラジオ3件(平成25年10月16日分,同年11月10日分,平成26年5月21日分)であった。)は19万6719円であった(乙4の1ないし5)。
(3) 被告は,原告のプロモーション活動の方針や成果に不満を抱き,平成26年8月頃,原告に対し,同年10月をもって本件契約を終了したい旨口頭で伝えた。これに対し,原告が平成27年2月までの本件契約の継続を希望したことから,被告はこれを了承したが,その話の中で,被告は,本件委託料を同年11月以降30万円から20万円に減額したい旨伝えた。もっとも,その減額については合意に至らなかった。この話合いを踏まえ,被告は,平成26年9月,原告に対し,要旨次の①及び②の内容の「合意書」と題する書面を交付し,同書面への記名・押印を求めた。①本件契約の契約期間を,平成27年2月20日をもって終了するものとする。②本件契約の終了を前提として,月額委託料を平成26年11月分から平成27年2月分まで,引き続き30万円(消費税別途)とする。しかし,その後,原告が上記書面に記名・押印して被告に交付することはなかった。(甲36,乙1,3,証人D,原告代表者本人)
(4) 被告は,原告が前記書面を被告に交付しなかったことから,平成26年11月21日,原告に対し,どうなっているのか尋ねた。それに対し,原告は,本件契約が平成27年2月20日をもって終了することは受け入れられないと述べると共に,前記書面をなくした旨述べた。そのため,被告は,同日,原告に対し,再度前記書面と同じ内容の書面を交付し,同書面への記名・押印を求めた。さらに,被告は,平成26年11月終わり頃,原告に対し,要旨「本件契約に基づいて,被告より原告に対し,本件契約の終了を申し入れ,話合いの結果,次のとおり合意した。本件契約の期間満了(平成27年2月20日)をもち,本件契約を終了する。」との内容の「合意書」と題する書面を交付し,同書面への記名・押印を求めた。しかし,原告が上記各書面に記名・押印して被告に交付することはなかった。(甲32の1,甲36,乙3,証人D,原告代表者本人)
(5) 上記のとおり,原告は,平成27年2月21日以降の本件契約の継続を希望していたことから,被告は,同年2月半ば,原告に対し,要旨次の①ないし③の内容の「合意書」と題する書面を交付し,その内容による合意を提案した。①本件契約の契約期間を,平成27年2月21日より平成28年2月20日までの1年間とする。②月額委託料を20万円(消費税別途)とする。③原告は,委託業務を遂行するために被告より被告の事務所内に提供されていた机及び電話装置を撤収し,今後は,基本的には毎週月,水,金の午前中に,連絡,打ち合わせのため,被告の事務所に出向くものとする。また,原告は,常に委託業務が円滑に遂行できるよう連絡を密に取るものとする。さらに,被告は,上記書面の日付が平成26年11月21日となっていたことから,原告に対し,日付を平成27年2月20日とする上記書面と同じ内容の書面を交付した。これに対し,原告は,上記契約内容の変更は承諾できないとして,上記提案を拒絶した。(甲32の2,甲36,乙3,5,証人D,原告代表者本人)
(6) 被告は,平成25年10月期,平成26年10月期及び平成27年10月期のいずれにおいても,約900万円ないし約1800万円の営業損失を計上した(乙14の1及び2,乙15)。
2 争点1について
前提事実のとおり,本件契約は「当事者の一方が相手方に対して文書による契約終了の意思表示をしない限り更新される。」,すなわち,文書による契約終了の意思表示をした場合には更新されずに終了するものとされているところ,前記認定事実によれば,被告が原告に対して平成26年9月及び同年11月に交付した「合意書」と題する各書面は,その内容に照らせば,被告が,原告に対し,平成27年2月20日をもって本件契約を終了させる旨の意思表示をしたというに十分であり,これにより,本件契約は,更新されずに同日をもって終了したものと認められる。そして,前記認定事実によれば,被告は,同月半ば,原告に対し,本件契約の契約期間を同月21日より平成28年2月20日までの1年間とするとの提案をしていることが認められるが,これは原告の承諾を前提とする被告の提案であり,原告がこの提案を拒絶したことからすれば,被告の上記本件契約を終了させる旨の意思表示が撤回されたものということはできない。
これに対し,原告代表者は,被告から平成26年9月及び同年11月に上記「合意書」と題する各書面を交付されていない旨供述(同人の陳述書(甲36)の供述記載部分を含む。以下同じ。)する。しかしながら,原告代表者は,上記のとおり供述する一方で,同年11月には何らかの書面を交付されたことがあった旨供述しており,この限度では前記認定事実と符合する。原告代表者は,上記書面は下書き程度のものであり,本件契約を終了させる旨の記載はなく,しかも,その書面は紛失した旨供述するのであるが,その供述は,本件契約終了との文言が記載された文書を見ていないと強弁せんがためにしている感が否めず,原告代表者の供述は,これを信用することができない。また,これに関連して,原告代表者は,被告からの申入れは,被告の経営状態の悪さに起因する本件委託料減額のお願いのみであった旨供述するが,その一方で,原告代表者は,そのようなお願いをされていた同時期に,原告が被告からプロモーション活動に関して強い非難を受けた旨供述しているのであるが,自己都合により本件委託料減額のお願いをしている被告が原告代表者を強く非難するなどということは通常考え難いのであって,このことからすれば,被告からの申入れが,被告の経営状態の悪さに起因する本件委託料減額のみのお願いであった旨の原告代表者の供述も信用することができない。
以上によれば,原告は,被告に対し,平成27年3月以降,月額30万円の業務委託料の請求権を有しない。
3 争点2について
原告は,本件利益配分条項の「被告の収益計画が達成されたとき」とは,Cのアーティストとしての商業的価値が発生あるいは増大したことを意味し,その場合の本件配分利益は,売上を基準に,本件委託料に関する規定を準用して,Cに関する被告の売上の20%を原告の取り分と解釈することが当事者間の合理的意思に合致する旨主張する。しかしながら,「被告の収益計画が達成されたとき」とは,その文言からすれば,Cのアーティストとしての商業的価値が発生あるいは増大しただけではなく,その結果,被告の収益が上がり,将来的にその状態が継続することが予想される状態を意味するというのが自然である。また,このことからすると,本件配分利益について売上を基準に計算すべき理由はない。
そもそも,本件利益配分条項は,本件配分利益の発生原因についての記載が極めて抽象的であり,本件配分利益の計算方法に至っては何らの記載もないのであって,このことからすると,同条項は,Cがアーティストとして売れて被告が儲かったら原告に利益の一部を与える程度の話があったことを記載したにすぎないものというべきである。このことは,原告代表者が,本件契約に本件利益配分条項を入れることとなった経緯として,「原告代表者は,被告代表者に対し,活動のインセンティブを加味して欲しいと希望しました。原告代表者は,『売れたときには,必ず相応の報酬をお願いします。』という提案をし,被告代表者からも『分かりました。』という了承を得ました。」と供述しており,このとおりの事実が存したかはともかく,少なくとも原告代表者自身がその旨認識していることからも明らかである。
そして,前記認定事実のとおり,原告がCのプロモーション活動をしていた時期,被告は相当額の営業損失を計上していたことが認められるところ,Cのアーティストとしての営業に限り,被告が相当程度の収益を上げたことを認めるべき証拠はない。
以上によれば,原告は,被告に対し,1800万円の本件配分利益の請求権を有しない。
4 争点3について
原告は,本件契約に基づく1800万円の本件配分利益の請求が認められない場合として,予備的に,商法512条に基づき,相当な報酬として同額の請求をするが,争点2における認定・説示のとおり,本件契約においては,原告及び被告間に報酬の特約がなかったものではなく,本件利益配分条項が存在し,ただし同条項に基づく本件配分利益(原告は,本件配分利益を報酬と同義のものとして主張している。)は発生せず,同契約に基づく1800万円の本件配分利益の請求が認められないのであり,しかも,原告がCのプロモーション活動を行ったことに対しては業務委託料(本件委託料及び出演料収入の20%)が支払われており,この業務委託料には,原告の費用のみならず原告に対する報酬も含まれているものというべきであって,その額が不相当である証拠も認められないから,本件において,商法512条を適用して,原告に業務委託料の他に報酬請求を認める余地はない。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤重憲)
〈以下省略〉
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