判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(37)平成29年10月31日 東京地裁 平28(ワ)2262号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(37)平成29年10月31日 東京地裁 平28(ワ)2262号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成29年10月31日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)2262号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2017WLJPCA10318014
要旨
◆原告が、被告と締結した顧問契約(本件契約)につき、被告から委託を受けた顧問Cは原告に取引先を紹介しなかった、実際にCから受けた助言及び指導に誤りがあった、Cは当該助言及び指導以外に一切の助言及び指導をしなかったとして債務不履行による損害賠償を求めた事案において、本件契約の業務内容は「経営全般に関する助言及び指導」とされており、取引先の紹介を被告(あるいは顧問)の業務内容とする条項は存在せず取引先紹介が本件契約の内容となっているとはいい難いから、取引先紹介を本件契約の内容とする原告の主張は前提を欠き、また、Cの助言及び指導の内容が誤っていたとはいえないとした上で、被告の主張によっても、Cが同助言以降、特段具体的な助言や指導を行ったとはいえないからこの点につき債務不履行の可能性はあるものの、被告あるいはCの行為によって原告に損害が発生したとはいえないとして、請求を棄却した事例
参照条文
民法415条
民法643条
裁判年月日 平成29年10月31日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)2262号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2017WLJPCA10318014
東京都西多摩郡〈以下省略〉
原告 上高運輸株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 深沢清人
東京都中央区〈以下省略〉
被告 レイスマネジメントソリューションズ株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 緒方彰人
同 青山雄一
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1764万5503円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告との間で締結した顧問契約につき,被告から委託を受けた顧問が原告に対して取引先を紹介しなかった,実際に顧問から受けた助言及び指導に誤りがあった,当該助言及び指導以外に一切の助言及び指導をしなかったと主張して,債務不履行に基づき,損害賠償及び訴状送達の日の翌日(平成28年2月16日)から支払済みまでの商事法定利率による遅延損害金の支払を求める事案である。
第3 前提事実(末尾掲記の証拠等によるもの以外は争いがない)
1 原告は,貨物自動車運送等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
2 原告と被告は,平成27年2月17日,原告が被告に経営全般に関する助言及び指導(月2回程度の原告オフィスへの訪問,メールや電話による相談は随時)を委託すること,被告が,被告の業務を顧問であるC(以下「C顧問」という。)に依頼すること,顧問紹介報酬の額を68万0400円(月額顧問活動料の12か月分に15%を乗じた額)とすること,顧問活動料を月額37万8000円とすること等を定めた顧問契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲1。なお,上記以外の契約内容については当事者間に争いがある。)。
3 原告は,被告に対し,平成27年10月22日付け通知書において,本件契約を解除する旨の意思表示をし,同意思表示は,同月23日に被告に到達した(甲2の1,2)。
第4 争点及びこれに関する当事者の主張
1 被告に本件契約の債務不履行が認められるか(争点1)
(原告の主張)
(1) 原告に対する助言及び指導をしなかったこと
原告は,平成27年3月頃,C顧問から,取引先の紹介,見込み顧客との商談の設定,実施のためには,①都心に事務所を開設すること,②開設する事務所の設備として,パソコン,コピー機,電話等の什器備品及び保管用の冷蔵庫を設置した屋内積込み場を用意することを要求(指導)された。上記①及び②の事務所を開設しないと,取引先の紹介,見込み顧客との商談の設定,実施はできないとの説明を受けた。
原告は,同年5月22日,同日から3年間の期間で東京都江東区〈以下省略〉所在の鉄骨造3階建冷蔵庫3基付き倉庫(月額64万8000円)を賃借し,同倉庫内に指示された備品を設置した。また,原告は,同年7月25日,同月30日から1年間,隣地の駐車場を賃借した(賃料月額5万円)。
原告が,同年6月頃,上記指導に基づき上記倉庫等を用意し,その旨連絡したにもかかわらず,被告は,一切の助言,指導を拒絶し,助言,指導する義務を履行しなかった。
(2) 取引先の紹介をしなかったこと
本件契約の業務内容には,取引先の紹介も含まれるところ,C顧問は,取引先の紹介を一切しなかった。
(3) 新事務所設置の助言及び指導が誤りであったこと
都心に事務所がなくても,都心を含め関東近円の野菜納め事業を行っている業者は存在している。原告においても,都心に事務所を開設しなくても,大型冷蔵庫を保有している東京都西多摩郡瑞穂町所在の本社を利用して,都心向けの野菜納め事業をすることは十分可能であった。
しかし,C顧問は,取引先を紹介するには,不要な設備投資に当たる,都心に事務所を開設するという誤った要求(指導)をした。
(4) C顧問が被告の履行補助者に当たること
C顧問は,被告が原告に対する顧問契約に基づく業務の履行を依頼された者であり,被告の債務の履行に従事する者であるから,被告の履行補助者に当たり,その故意・過失は,原告との関係では,信義則上,被告の帰責事由と同視される。
(被告の主張)
(1) 助言及び指導をしなかったとの主張について
原告においては,平成27年2月18日のキックオフミーティングで,都心向けの農業食品卸事業への新規参入を考えており,既に東京都内に事務所を開設する予定であるとのことであったため,本件契約に基づく被告の業務の依頼を受けたC顧問は,原告に対し,原告が都心向け農業食品卸売事業への参入を考えているのであれば,都心近くに冷蔵庫を確保する必要がある旨を助言したことはある。しかし,上記は飽くまでも原告の要望を踏まえての助言にすぎず,冷蔵庫の用意を強制するかのごとき指示をしたものではない。
C顧問は,原告に対して助言を行ったにすぎず,備品の設置等について指示をしたものではない。
また,原告が,平成27年5月22日に借り入れた物件は,冷蔵庫付きのものであるかどうかは定かではない。
上記のとおり,C顧問は原告に対して助言を行ったにすぎず,倉庫等の用意について指示をしたものではない。
(2) 取引先の紹介をしなかったとの主張について
本件契約の内容には,取引先の紹介は含まれない。
(3) C顧問の助言及び指導が誤りであったとの主張について
C顧問は,原告が都心向け農業食品卸事業へ参入し,いずれは大手の会社とも取引を行うことを希望するのであれば,野菜等の鮮度を保つため,都心の事務所や冷蔵庫等の設備を用意した方がよい旨を助言したにすぎず,都心の事務所等を用意しなければ都心向け農業食品卸事業への参入が不可能であると指導したわけではなく,鮮度等の観点から望ましい旨アドバイスしたにすぎない。
(4) C顧問が被告の履行補助者であるとの主張について
履行補助者であるためには,債務者がその意思により債務を履行するために配置したものでなければならないところ,C顧問は原告の意思によって選定されたのであり,被告がその意思によって配置したものではないから,被告の履行補助者には該当しない。
2 被告の債務不履行による原告の損害の発生及び金額(争点2)
(原告の主張)
原告は,被告の債務不履行に基づき,下記のとおり,合計1764万5503円の損害を被った。
(1) 顧問紹介報酬 68万0400円
(2) 引越費用 80万5664円
(3) 倉庫賃料等 758万4000円
(4) 駐車場賃料等 35万3225円
(5) 備品代 22万8529円
(6) 水道光熱費 35万0021円
(7) ネットワーク保守代金 9396円
(8) 自動車 221万4828円
(9) ファイアウォールリース代 68万0400円
(10) コピー機リース代 163万2960円
(11) 青果問屋ソフトリース代 227万4480円
(12) 業務委託報酬 69万1200円
(13) パンフレット製作代等 14万0400円
(被告の主張)
被告が原告から本件契約に基づく顧問紹介報酬68万0400円の支払を受けたことは認めるが,顧問紹介報酬は,債務が履行された場合であっても発生する費用であるから,債務不履行に基づく損害とはならない。
原告の主張によれば,被告の債務不履行とは平成27年6月以降の助言・指導業務の不履行を指すようであるが,その一方で,原告の主張する損害の多くは,原告が甲5の1の賃貸物件(以下「本件物件」という。)を借りたことに伴い発生した費用のようである。しかし,原告が本件物件に係る賃貸借契約を締結したのは平成27年5月22日である。すなわち,原告は,原告の主張する被告の債務不履行より前の原告の行為によって発生した費用を損害として主張しているようであるが,なぜ,それらが原告の主張する被告の債務不履行に基づく損害となるのか全く明らかでない。
また,原告は,被告との間で本件契約を締結する以前から,都心向けの農業食品卸事業への新規参入を考えていたのであるから,本件物件を借りたことも,こうした原告の経営意思に基づくものというべきである。実際,原告は,被告の債務不履行があったとする平成27年6月以降も,本件物件において営業を続けているようであるが,このことは,原告が本件物件を借り入れたことが,原告の主張するところの被告の債務不履行に基づくものではなく,都心向けの農業食品卸事業へ新規参入するという原告自身の経営意思に基づくものであったことの証左である。
また,原告にとってC顧問は顧問という立場にすぎず,「経営全般に関する助言及び指導」を行うにすぎない。したがって,C顧問は,原告の経営上の意思決定を行う権原がないことはもちろん,関与もしておらず,また,原告がC顧問の助言及び指導に従わなければならない必要も義務もない。仮に被告に債務不履行があるとしても,原告の主張する損害は,当該債務不履行との相当因果関係を欠く。
原告の請求は,被告の債務不履行と損害との間に相当因果関係がないことが明らかである。
また,この点をおいたとしても,原告の主張する費用等はその対価としての反対給付(江東営業所や駐車場の賃借権,リース品の使用権等)を受けているのであるから,そもそも,原告には損害が発生していない。
第5 当裁判所の判断
1 争点1について
(1) この点,証拠(甲1)によれば,本件契約の業務内容は,「経営全般に関する助言及び指導」とされており,取引先の紹介を被告(あるいは顧問)の業務内容と明記する条項は存在しない。かえって,本件契約の顧問契約書(甲1)第4条には,被告又は顧問から紹介された見込み顧客から原告が報酬を受け取った際の成功報酬について,被告に支払うべき報酬額を0%としていることからすれば,むしろ,取引先の紹介ということがあり得るとしても,それを当然の前提としていないものといえる。このことは,重要事項確認書(乙1)において,本件契約が成果(売上,成約数等)を保証するものではないと定められていることからも読み取ることができる。これらの事情に照らせば,取引先を紹介することが,本件契約の内容となっているとはいい難い。この点,原告は,顧問候補者情報(甲16)の記載内容等から,本件契約の内容に取引先の紹介が含まれると主張するが,紹介できる取引先があるかどうかと,それを紹介しなければならないかは別の問題であって,顧問契約書においてその旨が被告や顧問の業務内容として記載されていないことに照らせば,上記結論を左右するものではない。したがって,取引先の紹介を本件契約の内容とする原告の主張は,その前提を欠くというべきであり,原告の主張は理由がない。なお,原告は,被告ないしC顧問が,都心の取引先を紹介できないことを認識ないし容易に予見し得たにもかかわらず,被告において,取引先を紹介可能かどうかの確認を怠り,C顧問を通じて事務所設立を指示し,かつ,そのための準備行為を止めることを怠ったことをも,被告の債務不履行であるとも主張しているが,上記のとおり,取引先の紹介が被告の債務の内容とならない以上,やはり,その主張には理由がない。
(2) また,原告は,C顧問の助言及び指導の内容が誤っていた旨主張するが,仮に,都心に事務所を構えなくても都心で事業が行えるといえたからといって,都心に事務所を構えることが,全くの無意味であるといえなければ,そのような判断が誤りであるとはいえない。しかし,原告は,そのような点について,具体的に主張,立証しているとはいえない。したがって,本件において,直ちに都心に事務所を構えることが誤りであるとはいえない。
(3) そして,C顧問が助言及び指導をしてないとの点については,確かに,被告の主張によっても,平成27年2月頃に助言をしたという以降,特段具体的な助言や指導を行ったということはできない。そうすると,この点については,被告の債務不履行となる可能性はある。
そこで,これを踏まえて,争点2について,以下検討する。
2 争点2について
(1) 上記のとおり,被告とC顧問の関係については別途考慮が必要であるとして,被告の債務不履行の可能性は残るが,それを前提としても,以下のとおり,本件においては,被告あるいはC顧問の行為によって,原告に損害が発生したということはできない。
(2) まず,原告の主張する顧問紹介報酬68万0400円については,これを被告が受け取ったことについて当事者間に争いはないが,これは,まさに,顧問を紹介したことに対する対価であり,顧問活動料とは別途設定されているものである(甲1)。そうであれば,その後の指導や助言の有無や内容とは直接関係しないというべきである。
(3) 次に,引越費用等,C顧問の発言を踏まえて原告が支出した費用についてであるが,これらの費用は,C顧問が述べたことを踏まえて,原告が支出した費用であり,C顧問が助言や指導をしなかったことによって生じた費用ではない。すなわち,その後にC顧問から具体的な助言や指導があれば生じなかった費用というものではなく(あれあればこれなしの関係にない。),仮に,上記1で述べた点が被告の債務不履行に当たるとしても,当該債務不履行とは因果関係がないというほかない。また,飽くまでも,C顧問の助言や指導は,原告に対する強制力を持つものではなく,最終的には原告の経営判断によって支出されたものであり,結果として,原告の事業にどの程度活かされたかによって,誰かに損害として請求できるというものでもない。
したがって,これらについても,原告の損害ということはできない。
3 まとめ
以上のとおりであるから,その余について検討するまでもなく,原告の請求には理由がないということになる。
第6 結論
以上のとおり,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第24部
(裁判官 奥田大助)
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