「営業支援」に関する裁判例(151)平成16年 3月25日 東京地裁 平11(ワ)28168号 取締役に対する損害賠償請求事件 〔長銀ノンバンク支援事件〕
「営業支援」に関する裁判例(151)平成16年 3月25日 東京地裁 平11(ワ)28168号 取締役に対する損害賠償請求事件 〔長銀ノンバンク支援事件〕
裁判年月日 平成16年 3月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平11(ワ)28168号
事件名 取締役に対する損害賠償請求事件 〔長銀ノンバンク支援事件〕
裁判結果 一部認容、一部棄却 上訴等 控訴後、和解 文献番号 2004WLJPCA03250003
要旨
◆経営危機状況にある企業を支援するに当たって、銀行の取締役が負担する注意義務
◆経営危機状況にある企業を支援する行為について、取締役の責任を問うためには、取締役の判断に許容された裁量の範囲を超えた善管注意義務違反があったか否か、すなわち、意思決定が行われた当時の状況下において、支援銀行と同程度の規模を有する銀行の取締役に一般的に期待される水準に照らして、当該判断をするためになされた情報収集・分析、検討が合理性を欠くものであったか否か、これらを前提とする判断の推論過程及び内容が明らかに不合理なものであったか否かが問われなければならないとされた事例
◆銀行のグループノンバンクに対する損益支援(贈与)に際し、取締役がした経営判断は、その情報収集・分析、検討に欠ける点はなく、かつ、これに基づく衡量判断についても相応の理由を伴うものであるとして、取締役の善管注意義務違反が否定された事例
◆銀行の融資が、グループノンバンクの子会社ないしグループ会社に対する債権を受皿会社に明らかに時価を上回る簿価で引取りさせるための融資であり、損益支援(贈与)に該当するところ、取締役会の決議を経ておらず、公共性にも反することなどから、本来の融資の在り方から著しく逸脱した不相当なものであるとして、融資の実行に関与した取締役の善管注意義務違反が肯定された事例
◆銀行の融資が、当初から償還可能性のないことが明らかな融資であり、損益支援の実質を有しているにもかかわらず、取締役会の承認を経ていないこと、金融当局や税務当局のチェック等を免れることを意図して実行されていることなどから、不健全なものであるとして、融資の実行に関与した取締役の善管注意義務違反が肯定された事例
新判例体系
民事法編 > 商法 > 商法〔明治三二年法律… > 旧第二編 会社〔平成… > 第四章 株式会社 > 第三節 会社ノ機関 > 第二款 取締役及取締… > 第二六六条 > ○取締役の会社に対す… > (二)法令、定款違反の行為
◆経営危機にある企業を支援するに当たって、銀行の取締役の経営判断に誤りがなく、かつ、社会的相当性の逸脱がないときは、善管注意義務違反はない。
出典
判タ 1149号120頁
判時 1851号21頁
新日本法規提供
評釈
稲庭恒一・判タ 1208号57頁
青竹正一・判評 552号30頁(判時1876号192頁)
山田和彦・金商 1411号16頁(増刊:融資責任を巡る判例の分析と展開 西口元・鎌野邦樹・金丸和弘編)
参照条文
商法254条3項
商法254条の3
商法266条1項5号
民法415条
民法644条
裁判年月日 平成16年 3月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平11(ワ)28168号
事件名 取締役に対する損害賠償請求事件 〔長銀ノンバンク支援事件〕
裁判結果 一部認容、一部棄却 上訴等 控訴後、和解 文献番号 2004WLJPCA03250003
原告 株式会社新生銀行(旧商号株式会社日本長期信用銀行)
上記代表者監査役 A
同上 B
上記代表者監査役兼訴訟代理人弁護士 保田眞紀子
原告訴訟引受人 株式会社整理回収機構
上記代表者代表取締役 C
原告訴訟引受人訴訟代理人弁護士 保田眞紀子
原告及び原告訴訟引受人訴訟代理人弁護士 川端和治
同上 高井康行
同上 松尾眞
同上 内藤順也
同上 田中豊
同上 光前幸一
同上 桜井健夫
同上 松田耕治
同上 澤野正明
同上 田中宏明
同上 松田隆次
同上 田中克幸
同上 藤ヶ崎隆久
被告 Y1
被告 Y2
上記被告2名訴訟代理人弁護士 須藤英章
同上 小澤徹夫
同上 古里健治
被告 Y3
上記訴訟代理人弁護士 廣田富男
同上 中村嘉宏
被告 Y4
上記訴訟代理人弁護士 那須弘平
同上 倉科直文
同上 横田高人
被告 Y5
被告 Y6
上記被告2名訴訟代理人弁護士 大西昭一郎
同上 松村龍彦
同上 野元学二
同上 大西千枝子
上記訴訟代理人大西昭一郎訴訟復代理人弁護士 安藤知史
被告 Y7
上記訴訟代理人弁護士 更田義彦
被告 Y8
上記訴訟代理人弁護士 國廣正
同上 五味祐子
同上 坂井眞
上記訴訟代理人國廣正訴訟復代理人弁護士 青木正賢
被告 Y9
上記訴訟代理人弁護士 三宅能生
同上 山崎順一
同上 長屋憲一
同上 山田昭
同上 牛嶋龍之介
同上 小林秀彦
同上 中田肇
上記訴訟代理人三宅能生訴訟復代理人弁護士 小野吉則
同上 新井由紀
同上 山谷耕平
上記訴訟代理人長屋憲一訴訟復代理人弁護士 渡邉淑彦
同上 三輪健志
主 文
1 被告Y9は、原告訴訟引受人に対し、金8億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y7は、原告訴訟引受人に対し、金3億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告の請求全部及び原告訴訟引受人のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告及び原告訴訟引受人に生じた費用の100分の16と被告Y9に生じた費用の100分の47を被告Y9の負担とし、原告及び原告訴訟引受人に生じた費用の100分の6と被告Y7に生じた費用の100分の7を被告Y7の負担とし、原告及び原告訴訟引受人に生じたその余の費用と被告らに生じたその余の費用を原告及び原告訴訟引受人の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 原告
(1) 被告らは、原告に対し、連帯して金9億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告Y5を除く各被告らにつき平成11年12月30日、被告Y5につき平成12年2月26日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y1、同Y4、同Y5、同Y7、同Y6、同Y8及び同Y2は、原告に対し、連帯して金21億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告Y5を除く各被告らにつき平成11年12月30日、被告Y5につき平成12年2月26日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告Y9は、原告に対し、金8億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告Y7は、原告に対し、金3億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告Y1、同Y3、同Y4、同Y7、同Y6及び同Y2は、原告に対し、連帯して金1億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告Y4及び同Y7は、原告に対し、連帯して金4億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 被告Y4及び同Y7は、原告に対し、連帯して金3億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告訴訟引受人
(1) 被告らは、原告訴訟引受人に対し、連帯して金9億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告Y5を除く各被告らにつき平成11年12月30日、被告Y5につき平成12年2月26日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y1、同Y4、同Y5、同Y7、同Y6、同Y8及び同Y2は、原告訴訟引受人に対し、連帯して金21億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告Y5を除く各被告らにつき平成11年12月30日、被告Y5につき平成12年2月26日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 主文第1項同旨
(4) 主文第2項同旨
(5) 被告Y1、同Y3、同Y4、同Y7、同Y6及び同Y2は、原告訴訟引受人に対し、連帯して金1億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告Y4及び同Y7は、原告訴訟引受人に対し、連帯して金4億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 被告Y4及び同Y7は、原告訴訟引受人に対し、連帯して金3億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告が、旧商号の株式会社日本長期信用銀行であった当時、グループノンバンクに対して行った各支援行為により、損害を被ったと主張して、当時の取締役に対して、善管注意義務違反ないし忠実義務違反による各損害賠償請求権に基づく訴訟を提起し、その後、原告から本件各損害賠償請求権を譲り受けた株式会社整理回収機構に訴訟引受けがなされた事案である。
第3 争いのない事実等
以下の事実は、当事者間に争いがないか、あるいは証拠(後掲)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
1 当事者等
(1) 原告及び原告訴訟引受人
原告は、商号を株式会社日本長期信用銀行として、長期信用銀行法(昭和27年法律第187号)に基づいて設立された長期信用銀行であったが、平成10年10月23日、「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律」(平成10年法律第132号)(以下「金融再生法」という。)36条1項に基づく特別公的管理の開始決定を受け、特別公的管理を経て、株式会社新生銀行に商号変更された。
原告訴訟引受人(以下「原告引受人」という。)は、預金保険機構の全額出資により設立され、預金保険機構からの委託等により破綻金融機関等からの貸付金債権等の買取り及びその管理・回収業務等を行う株式会社である。
(2) 被告ら
被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、昭和51年6月29日に原告の取締役に就任し、平成10年8月21日に退任するまで取締役の地位にあった。その間の平成3年4月5日から平成10年8月21日まで取締役会長であった。
被告Y3(以下「被告Y3」という。)は、昭和51年6月29日に原告の取締役に就任し、平成8年6月26日に退任するまで取締役の地位にあった。その間の平成元年6月29日から平成7年4月28日まで取締役頭取であった。
被告Y4(以下「被告Y4」という。)は、昭和61年6月27日に原告の取締役に就任し、平成10年9月28日に退任するまで取締役の地位にあった。その間の平成元年2月10日から平成4年6月26日まで常務取締役、平成4年6月26日から平成5年6月29日まで専務取締役、平成5年6月29日から平成7年4月28日まで取締役副頭取、平成7年4月28日から平成10年9月28日まで取締役頭取であった。
被告Y5(以下「被告Y5」という。)は、昭和63年6月29日に原告の取締役に就任し、平成9年10月1日に退任するまで取締役の地位にあった。その間の平成3年2月8日から平成7年4月28日まで常務取締役、平成7年4月28日から平成9年10月1日まで取締役副頭取であった。
被告Y7は、平成元年6月29日に原告の取締役に就任し、平成10年4月1日に退任するまで取締役の地位にあった。その間の平成4年6月26日から平成8年12月2日まで常務取締役、平成8年12月2日から平成9年10月1日まで専務取締役、平成9年10月1日から平成10年4月1日まで取締役副頭取であった。
被告Y6(以下「被告Y6」という。)は、平成元年6月29日に原告の取締役に就任し、平成8年6月27日に退任するまで取締役の地位にあった。その間の平成4年6月26日から平成7年4月28日まで常務取締役、平成7年4月28日から平成8年6月27日まで専務取締役であった。
被告Y8(以下「被告Y8」という。)は、平成元年6月29日に原告の取締役に就任し、平成10年11月4日に退任するまで取締役の地位にあった。その間の平成4年6月26日から平成7年4月28日まで常務取締役、平成7年4月28日から平成9年10月1日まで専務取締役、平成9年10月1日から平成10年8月21日まで取締役副頭取であった。
被告Y9(以下「被告Y9」という。)は、平成2年6月28日に原告の取締役に就任し、平成8年6月27日に退任するまで取締役の地位にあった。その間の平成5年6月29日から平成8年6月27日まで常務取締役であった。
被告Y2は、平成4年6月26日に原告の取締役に就任し、平成10年11月4日に退任するまで取締役の地位にあった。その間の平成7年1月4日から平成10年8月21日まで常務取締役、平成10年8月21日から同年9月28日まで取締役副頭取、平成10年9月28日から同年11月4日まで取締役頭取であった。
2 原告における業務執行決定権限の所在及び経営組織
(1) 融資業務
原告においては、融資業務は取締役会から委任された常例の業務として、代表取締役頭取がこれを決定し、執行することとされ、同権限は代表取締役頭取から取締役に各融資業務ごとに委譲されていたが、その権限及び所在については時期によって変遷があった。なお、原告においては、融資につき最終的にその可否を決定できる権限を与信専決権限と呼んでいた。
(2) 損益支援
他方、原告においては、損益支援、つまり金利減免、債権放棄、贈与など原告が直接損失を負担することにより支援先に対して財産上の利益を与える支援行為の決定権限は取締役会に留保されていた。すなわち、平成8年4月1日以前において、損益支援は、昭和27年12月制定の取締役会規則第8条19号の「重要な財産の処分および譲受」又は同条22号の「前各号の事項以外の業務執行に関する重要事項」として取締役会の付議事項とされていた。その後、平成8年4月1日に取締役会付議基準が制定され、取締役会規則第8条19号の規定に基づき「一件あたりの金額が1億円を超える寄付または出捐」は取締役会の付議事項とすることが明示された。
(3) 経営組織
原告には、取締役会の外に、以下のような経営組織が置かれていた。すなわち、取締役会において業務執行を決定するに当たっての経営の基本方針の立案及びその実施方針を策定するための機関として、経営会議と呼ばれる組織があり、会長、副会長、頭取、副頭取、専務取締役及び常務取締役を構成員とし、会長が議長を務めるものとされていた。
また、取締役会の定める営業の基本方針に基づいて頭取が業務を執行するに当たっての諮問機関として、頭取を議長とし、副頭取、専務取締役及び常務取締役を構成員とする常務会が設けられていた。
さらに、クレジットリミットを含む内外与信案件に係る重要事項を協議調整する機関として、審査部担当役員(委員長)、法人業務グループ担当役員(副委員長)、国際業務グループ担当役員、法人業務部長及び事業推進部長等を構成員とする業務運営委員会(平成元年10月設置、平成9年4月以降与信政策委員会に変更)が設けられていた。
(甲A82号証ないし同98号証、甲B37号証の1及び2、甲C42号証の1及び2)
3 関連・親密先
(1) 原告のグループ会社
原告は、リース、ベンチャーキャピタル(ベンチャー企業に対する資金提供等を行って株式公開まで導く業務)、住宅金融、信販、不動産担保金融等の各種業務分野において、人的・物的に密接な関係を有する「関連先」、あるいは「親密先」と呼ばれるグループ企業群(両者を併せて「関連・親密先」などと呼ばれていた。)を有し、これらの企業との連携により業務を展開してきた。
(2) 株式会社日本リース
株式会社日本リース(以下「日本リース」という。)は、昭和38年8月に設立され、各種動産、不動産、工業所有権・著作権等の財産権のリース等や各種金融業務を営む総合リース会社であり、原告の親密先とされていた。
(3) 日本ランディック株式会社
日本ランディック株式会社(以下「ランディック」という。)は、昭和49年12月に設立され、ビルの賃貸、マンション・住宅の分譲、不動産担保融資、不動産仲介、不動産鑑定等の総合不動産業務を営む会社であり、原告の関連先とされていた。
(4) エヌイーディー株式会社
エヌイーディー株式会社(以下「NED」という。)は、昭和47年11月に設立されたベンチャーキャピタル等を業とする会社であり、原告の関連先とされていた。
(甲A5号証、同6号証の2、同7号証の2、同8号証の2、同9号証、甲B1号証、同2号証、甲E5号証、甲F1号証の1)
4 日本リースに対する支援行為
(1) 損益支援
原告は、平成7年3月27日開催の取締役会決議に基づき、同月30日、日本リースから同社の有する債権(簿価698億1431万1743円)を買い取って、同日、株式会社共同債権買取機構(以下「共同債権買取機構」という。)に207億2680万8043円で売却し、その差額490億8750万3700円を日本リースに対して損益支援(贈与)した。
上記取締役会には、被告ら全員が出席した。
また、原告は、平成8年3月27日開催の取締役会決議に基づき、同月28日、日本リースから同社の債権(簿価1311億0681万2130円)を買い取って、同日、共同債権買取機構に213億1454万5239円で売却し、その差額1097億9226万6891円を日本リースに対して損益支援(贈与)した(以下、上記各損益支援を「本件損益支援」と総称する。)。
上記取締役会には、被告Y1、被告Y4、被告Y5、被告Y7、被告Y6、被告Y8及び被告Y2が出席した。
(甲B19号証の1及び2、同20号証の1及び2、同21号証の1及び2、同33号証の1及び2、同34号証の1及び2、同35号証の1及び2)
(2) 受皿会社に対するビルプロ関連債権の簿価譲渡のための融資
原告は、日本リースが日本ビルプロヂェクト株式会社(以下「ビルプロ」という。)及びそのグループ会社に対して有する債権を、受皿会社(不良債権や収益を生じていない不稼働資産などを保有することを目的として設立された会社)に簿価で買い取らせるため、平成6年3月31日、いずれも債権買取資金として、四谷プランニング株式会社(以下「四谷プランニング」という。)に対して187億8000万円、木挽町開発株式会社(以下「木挽町開発」という。)に対して115億5000万円及び竜泉エステート株式会社(以下「竜泉エステート」という。)に対して166億9000万円の各短期専決極度(1年以内で定められる専決期間内に反復継続的に短期貸付取引を実行するため、取引先ごとに設定される与信枠)を設定し、それぞれ同額の融資をした(以下「本件融資〈1〉」という。)。
上記各融資の与信専決権者は、営業企画グループの担当役員であったが、部店担当役員であった被告Y9はこれらに関与した。
(甲A86号証ないし同88号証、同94号証、甲C14号証ないし19号証、甲F36号証)
(3) フィットニア商事を介した債権肩代わり資金の融資
原告は、日本リースが受皿会社である株式会社箱崎シティ開発(以下「箱崎シティ開発」という。)及び博多総合開発株式会社(以下「博多総合開発」という。)に対して有する債権を肩代わりする目的で、原告から融資を受けた株式会社フィットニア商事(以下「フィットニア商事」という。)が箱崎シティ開発及び博多総合開発に融資を行い、その融資金により日本リースが債権の回収を行うとのスキームの下で、平成9年3月26日、フィットニア商事に対して、195億円の短期専決極度を設定し、同月31日、同額の融資(以下「本件融資〈2〉」という。)をした。
本件融資〈2〉の与信専決権者は、営業企画グループ(事業推進部)の担当役員である被告Y7であり、同被告は、同月26日、上記短期専決極度の設定を決裁した。
(甲A86号証ないし同88号証、同96号証、甲D6号証、同7号証、乙D3号証及び4号証)
5 ランディックに対する支援
(1) 神谷町土地建物に対する物件引取資金の融資
原告は、ランディックが所有ないし共有する物件を受皿会社である神谷町土地建物株式会社(以下「神谷町土地建物」という。)に引き取らせる目的で、同社に対して、平成7年6月15日、10億円の短期専決極度を設定し、同月19日に6000万円を、同年7月6日に2億7000万円を、同年9月5日に2億3500万円を、いずれも物件買取資金として、貸し付けた(以下「本件融資〈3〉」という。)。
上記融資の与信専決権者は、営業企画グループ担当役員であった被告Y6であり、同被告は、同年6月15日、上記の短期専決極度の設定を決裁した。
被告Y2は、営業企画グループ統括部長として、本件融資〈3〉に関与した。また、本件融資〈3〉は、平成7年3月17日に開催された経営会議において、決定された方針に基づくものであるが、この経営会議には、被告Y1、被告Y3、被告Y4及び被告Y7が出席した。
(甲A86号証ないし同88号証、同95号証、甲E17号証、同21号証、同24号証の1、同25号証)
(2) ランディックに対する平成9年の融資
原告は、平成9年10月29日、ランディックに対して、同年11月1日以降の短期運転資金の極度額について、従前設定していた2300億円と同額で更新した。
原告は、ランディックに対し、上記極度額に基づき、平成9年11月28日に40億円、同年12月15日に20億円、同年12月19日に10億円、同年12月30日に90億円、平成10年1月16日に30億円、同年1月27日に10億円、同年1月30日に50億円、同年2月12日に10億円、同年2月20日に10億円、同年2月27日に30億円、同年3月31日に50億円及び210億円の合計560億円の新規融資(以下、これらの融資を「本件融資〈4〉」という。)を実行した。
上記極度額の同額更新についての与信専決権限者は、当時事業推進グループの担当役員であった被告Y7であり、同被告は、平成9年10月29日、これを決裁した。
本件融資〈4〉は、平成9年11月10日に開催された常務会において決定された関連・親密先に対する新規融資の基本的な方針に基づくものであるが、被告Y4及び被告Y7は、この常務会に出席した。
(甲A85号証、同87号証、同97号証、甲E1号証の1、同34号証の1ないし3、同35号証の2、同36号証)
6 NEDに対する支援
原告は、平成9年10月29日、NEDに対して、同年11月1日以降の短期運転資金の極度額について、従前設定していた1800億円と同額で更新した。
原告は、NEDに対し、平成9年11月28日に18億円、同年12月30日に60億円、平成10年3月31日に34億円、同年5月29日に45億円及び同年6月30日に50億円の合計207億円の新規融資(以下、これらの融資を「本件融資〈5〉」という。)を実行した。
上記極度額の同額更新についての与信専決権者は、当時事業推進グループの担当役員であった被告Y7であり、同被告は、平成9年10月29日、これを決裁した。
本件融資〈5〉は、平成9年11月10日に開催された常務会において決定された関連・親密先に対する新規融資の基本的な方針に基づくものであるが、被告Y4及び被告Y7は、この常務会に出席した。
(甲A85号証、同97号証、甲F38号証の1及び2、同39号証、同44号証の2)
7 本件損害賠償請求権の債権譲渡及び訴訟引受け
(1) 本件損害賠償請求権の債権譲渡
原告は、平成12年2月28日、被告らに対する本件訴訟に係る損害賠償請求権を原告引受人に譲渡し、同日付けの書面で被告らに対して譲渡を通知し、同通知は、被告Y5を除く被告らには同月29日に、被告Y5には同年3月2日に、それぞれ到達した。
(甲A27号証の1の1及び2、同号証の2の1及び2、同号証の3の1及び2、同号証の5の1及び2、同号証の6の1及び2、同号証の7の1及び2、同号証の8の1及び2、同号証の9の1及び2、同号証の10の1ないし3、甲A28号証)
(2) 訴訟引受け
原告は、平成12年4月12日、原告引受人に本件訴訟の引受けを命ずる旨の裁判の申立てをなし、当裁判所は、同年6月13日、原告引受人に本件訴訟の引受けを命ずる旨決定し、原告引受人が本件訴訟を引き受けた。
なお、被告らは、原告の本件訴訟からの脱退に異議をとどめている。
第4 争点及びこれに関する当事者の主張
1 本件損益支援についての被告らの善管注意義務違反ないし忠実義務違反による損害賠償責任の有無(争点1)
(1) 原告及び原告引受人
ア 銀行取締役の善管注意義務の内容
原告は、長期信用銀行として、資金需要者と資金供給者との間に立って、供給者から資金を受け取り需要者に長期資金を供給すること(金融仲介機能)を主たる業務とし、我が国の金融信用システムの一翼を担っている。原告は、営利企業であるが、金融債等債券を保有する債権者の保護、信用秩序の媒体としての機能維持、適正な信用供与等の必要性から、その業務は強い公共性を有し、経営・財務の健全性を維持する責務を負っている。
このような業務の公共性、経営・財務の健全性維持の要請から、原告は、長期信用銀行法に基づき、金融当局による様々な規制、監督を受けている。
したがって、原告の取締役は、会社に対して負う善管注意義務の内容として、業務の公共性及び経営・財務の健全性を維持する義務を負う。しかも、原告の取締役は、いずれも銀行業務に関して数十年の経験と高度の知識を有する専門家として、その注意義務については、より厳密な考慮がなされるべきである。
損益支援は原告が支援先に金銭を贈与する形態であり、贈与額が原告の損失額となるため、被告らは本件損益支援の必要性・合理性(支援目標設定の合理性、支援目標の実現可能性、原告の償却体力及び負担の性質と程度等)、社会的相当性に関する情報の収集・分析、検討を行い、その検討に基づく判断を慎重に行わなければならなかった。しかし、被告らは、以下に述べるとおり、これらの検討を怠り、著しく不合理かつ社会的相当性に反する本件損益支援を決定し、これを実行したものである。
イ 本件損益支援の必要性
被告らの本件損益支援を行うに当たっての必要性の分析・検討には、以下のとおり不足・不備があった。
(ア) 原告と日本リースの関係
原告は日本リースの母体行ではなく、メインバンクにすぎなかった。
日本リースは、株式会社リコー(以下「リコー」という。)が母体となって設立されたリース会社であり、本件損益支援の当時、リコーが日本リースの5.2パーセントの持株を保有する筆頭株主であったこと、日本リースの借入残高のうち原告が圧倒的な融資シェアを占めていたわけではなく、原告と他の金融機関(他行)の融資残高のシェアはほぼ拮抗していたこと、日本リースの経営陣のうち原告出身者は過半数に達していなかったことなどから、資本、融資及び人的関係は、他の系列ノンバンクと親銀行の関係に比較して、いずれも密接なものでなかった。
また、本件損益支援の当時、原告は日本リースを原告の関連会社や直系会社であると称したことはなく、日本リースに融資していた他行は、原告が日本リースの母体行であったと認識しておらず、原告の信用に依拠して日本リースに融資していたわけではなかった。
さらに、原告が母体行かどうかについては、支援先が大蔵省銀行局長通達(昭和50年7月3日蔵銀1968号)「金融機関とその関連会社の関係について」(以下「関連会社通達」という。)や同通達に付随する事務連絡(以下「関連会社事務連絡」という。)にいう「関連会社」とされているか否かが重要な判断要素となるところ、日本リースは明らかに同通達にいう関連会社とされていなかった。
また、本件損益支援の時点において、原告における日本リースを所管する部署は、関連先を所管する関連事業部ではなく、日本リースは系列ノンバンクではないというのが原告内部の認識であった。
(イ) 母体行責任
母体行責任は、本件損益支援の当時、絶対的な原則ではなかった。
銀行の系列ノンバンクに対しては親銀行が単独支援をするべきであるとする母体行責任は、法的根拠のない事実上のものにすぎない。原告は日本リースに対する融資を保証しておらず、また原告の依頼により他行が日本リースに融資したわけでもないから、原告が日本リースの経営等について法的責任のみならず道義的責任を負ういわれもない。
特に、金融界は、いわゆる住専問題について、融資残高に応じて按分して責任を負うべきとするプロラタ責任を主張していたのであるから、プロラタ支援もあり得ることも認識されていた。
また、日銀考査等において、親金融機関一括査定(系列ノンバンク関連貸出しについて親銀行と一括査定を行うこと)が行われていたことは必ずしも母体行責任を認める根拠とならない。
さらに、被告らは、本件損益支援を実施しない場合、他行が日本リースの信用状態に疑念を持ち、日本リースに対する折り返し融資(返済期限の到来した融資について、返済後新規に融資すること)を拒絶し資金繰り破綻を来し、さらには原告の信用を毀損し金融債の発行に影響したと主張するが、原告は、他行の系列ノンバンクに対して融資しており、ある金融機関が折り返し融資を拒否しても、原告はその金融機関の系列ノンバンクに対する折り返し融資を拒絶することができる以上、原告が他行にプロラタ支援を要請しても、直ちに折り返し融資の拒否や原告の信用毀損による金融債の購入拒絶という事態は生じなかった。仮に、本件損益支援を実行しなかった場合、折り返し融資が拒絶され、日本リースが破綻に至る状況にあったのであれば、これを回避するため、他行は折り返し融資を拒絶することもなく、融資を継続するはずである。しかも、当時金融債はいわゆるセーフティーネットが存在せず、発行銀行が破綻した場合、これを保護する制度はなかったから、原告の破綻により多額の損失を被るおそれのある金融債の購入金融機関が、原告が本件損益支援を実行しなかったからといって、原告の破綻を招く行動に出たとは考えられない。
実際に住専問題においては、原告自身が、金融債の引受先である農林系金融機関に対して、プロラタ責任を主張していた。
したがって、他行と原告及び日本リースとの関係は様々であり、折り返し融資の拒絶や金融債の購入拒絶といった事態に至ることまで考えられず、個々の銀行がどのような行動に出るかについて、被告らは十分な情報を収集し分析・検討すべきであったのにこれを怠って、単独支援を選択した。
(ウ) 日債銀の事例
被告らは、株式会社日本債券信用銀行(以下「日債銀」という。)が平成4年5月に系列ノンバンクを支援する際、他行に負担を求めたため、その信用が毀損されたと主張するが、日債銀による系列ノンバンクに対するプロラタ支援が日債銀の金融債の販売に影響を与えた事実はない。仮に、金融債の販売に支障が生ずることがあったとしても、これは、プロラタ支援に起因するものではなく、日債銀の系列ノンバンクの不稼働資産の拡大は日債銀の紹介融資によるものであったことから、日債銀が支援についても全責任を負うべきであるとする他行の認識や日債銀自体の財務内容等の脆弱さを反映してのものである。
他方、日本リースの不稼働資産は日本リースが独自に不動産融資を拡大した結果によるものであり、日債銀と同列に論ずべき事情になく、当時の金融界もそのように認識していた。
さらに、日債銀は、系列ノンバンクの不稼働資産の一部を受皿会社へ移管して隠ぺいしていたこともあって、これに不信感を抱いた他行が、プロラタ支援に反発したのであった。
したがって、十分な検討を経ていれば、日債銀による系列ノンバンクの支援の場合とは事情が異なることが明らかであり、被告らにはかかる検討を怠った点に問題がある。
ウ 本件損益支援の合理性
本件損益支援は、以下に述べるとおり支援の内容が明らかに合理性を欠くものであった。
(ア) 本件損益支援の目標設定の合理性
日本リースがリース業を営む上で、折り返し融資を受け資金調達ができなければ、自立した経営を継続することはできないことから、資金調達を可能とするため、近い将来において日本リースが実質債務超過の状態を解消することが支援の目標とされるべきである。
しかし、本件損益支援における計画は、日本リースの不稼働資産約1兆2000億円のうち、6908億円のみを処理対象として3600億円を処理し、これ以外に存在した5400億円の不稼働資産を処理対象としておらず、支援終了後も日本リースに8000億円以上の不稼働資産が残存する計画となっていた。そこで、本件損益支援後に想定した年間175億円の日本リースの基礎収益力(資金調達コスト等を控除した償却原資とすることができる利益。元加利息(返済金利分を追加融資することにより元本に加えられる部分)などの未収利息を計上しない、実態としての経常利益にほぼ相当するもの)が継続すると仮定しても、残存する不稼働資産を全部償却するまで35年から40年という長期間がかかる(被告らの主張する複利効果を期待しても20年以上かかる。)ことから、到底近い将来に実質債務超過状態を解消できたといえない。
また、他行が、このような日本リースの財務状態を認識した場合、折り返し融資を拒否するのは明白であって、日本リースの資金調達は困難となるから、基礎収益力175億円の継続という前提も成り立たないこととなる。
したがって、本件損益支援は、不稼働資産の一部のみを処理して、表面のみを取り繕うものであり、その目標設定に合理性はないといえる。
(イ) 再建の実現可能性
a サイレントベースの不稼働資産の看過
本件損益支援の計画の検討策定をした当時、日本リースには「サイレントベース」と称される不稼働資産5400億円が存在していた。
しかし、被告らは、このサイレントベースの不稼働資産の処理を十分考慮・検討しないまま放置しており、そのこと自体本件損益支援の内容の不合理性を基礎づけるものというべきである。
すなわち、サイレントベースの不稼働資産のうち、日本リースの受皿会社に対する営業貸付金4200億円は、もともと日本リースの不動産プロジェクト案件融資であり、その事業化に失敗して貸付金の回収ができなくなっていたものを受皿会社に移管したのであるから、今後も事業化の見通しはなく、事業化による回収は不可能であった。
また、日本リースは、サイレントベースの不稼働資産を正常債権のように装うため、受皿会社に返済金利分を追加融資(いわゆる追い貸し)していたが(当時の不良債権の定義は、利息延滞3か月超又は元本延滞1か月超の債権の元本総額であり、約定金利が返済される限り不良債権の分類を免れることができた。)、サイレントベースの不稼働資産を放置した結果、不良債権化を免れるために、日本リースが追い貸しを継続する限り、毎期150億円以上の金利負担を生じさせ、前記の計画の期間損益(175億円)のほとんどが金利負担に費消される結果となり、計画自体の前提が成り立たないものであった。
次に、サイレントベースの不稼働資産のうち、1200億円の債権は、飛島建設株式会社(以下「飛島建設」という。)の関係会社4社に対する貸付金であり、飛島建設の連帯保証が付されていたが、飛島建設は株式会社富士銀行(以下「富士銀行」という。)の下で再建中であって、飛島建設及び関係会社4社に支払能力はなく、この飛島関連の不良債権の回収の見込みは全くなかった。
以上の点に加えて、本件損益支援は、当初期間を10年とする日本リースの再建計画を前提として、原告による日本リースの不稼働資産を共同債権買取機構に持ち込んで処理することとし、その処理分について、無税扱いの承認を得るために、国税当局に対して、日本リースの不稼働資産を7600億円と申告していたが、国税当局から10年の再建計画が長期すぎると指摘されたため、期間を5年に短縮の上、国税当局に申告する不稼働資産額を6908億円(オープンベースの不稼働資産)に減縮し、残り5400億円をサイレントベースの不稼働資産として、これを受皿会社に「塩漬け」し、処理を先送りする予定とされていたものである。すなわち、被告らは、国税当局に対して、無税扱いの承認を得るに当たって、不稼働資産の額を操作し、国税当局に申告し対外的に公表することを予定するオープンベースの部分と受皿会社に「塩漬け」とし対外的に隠ぺいするサイレントベースの部分とを恣意的に分類したものであり、このような計画に合理性がないことは明らかである。
他方、被告らは、上記営業貸付金4200億円について、新たな受皿会社による物件引取りを予定しており、放置していたわけではないと主張するが、せいぜい1000億円から2000億円程度の物件引取りが検討され、しかも実際に行われた物件引取りの規模は総額1016億円(引取価格546億円)と不十分な処理であり、十分な対策がとられていたとは到底いえないものであった。
b 不良債権の開示を免れる目的での支援の早期打切り
原告は、本件損益支援について当初約2440億円の損益支援を予定していたにもかかわらず、2年間で約1600億円の支援を実施し同額の支援損を計上しただけで支援終了宣言をした。これは、公表不良債権の開示基準が拡大し、平成8年3月期末から支援損計上先に対する与信残高も開示対象となったことから、日本リースが支援損計上先となり与信残高が公表されると、原告の不良債権額7000億円が開示されるため、これを回避しようとしたことに基づく。
このことからも、本件損益支援が日本リースの再建を目指したものでないことは明らかである。
c 本件損益支援の実際上の効果
日本リースは、本件損益支援終了後も、未処理の不稼働資産(オープンベース及びサイレントベースを合わせたもの)を保有していた。
そのため、本件損益支援は、日本リースの再建の観点からみて、その効果が全くなかった。
そして、本件損益支援が、日本リースの表面上の信用を取り繕うだけの実体を伴わないものであることは、他行や市場から認識されており、日本リースに隠ぺいされた不稼働資産約7000億円の存在が他行や市場の不信を招き、原告の信用をも傷つける結果となった。
(ウ) 原告の償却体力
本件損益支援は、以下に述べるとおり原告の償却体力に照らして過大な支援であった。
原告が、自らの不良債権及び関連・親密先ノンバンクの不良債権を処理(償却)する際の原資としては、有価証券の含み益、剰余金や業務純益などがある。ただし、償却原資とすべき業務純益の範囲は、名目上の利益の嵩上げにすぎないスワップキャンセルフィーや公社債のクロス売買などの含み益の益出し等の特殊要因を除外した実態業務純益であるべきである。
本件損益支援の決定当時、原告は、関連・親密先全てを支援することができる償却原資すなわち償却体力を有していなかったのであるから、原告は不良債権の全容、その処理方法及び処理財源を市場に正確に開示し、これに基づいて支援策を検討する必要があったが、被告らは、これらについての検討を怠っており、本件損益支援は、償却体力の観点からも、許されないものであった。
すなわち、原告が関連・親密先を再建するための支援を実施する場合、少なくとも、その不良債権の含み損(ロス)額(不良債権の回収を担保処分により行う場合の担保価値下落分の評価損)を処理しない限り、再建できないのであり、関連・親密先全体の含み損額が、原告の剰余金や有価証券含み益などの償却体力を上回った場合、もはや関連・親密先全体の支援を行うことは、償却体力の観点から不可能となる。そして、原告による支援を受けない限り、関連・親密先の多くは、自立した経営を行い得ない状況であり、実質的には経営破綻先であって、原告の関連・親密先に対する融資は全て潜在的な不良債権であった。
原告は、平成6年度末(平成7年3月末)において、一般先に対して7844億円の不良債権を抱え、また、上記の潜在的不良債権というべき関連・親密先に対する融資残高は2兆3322億円に達し、その含み損額は、当時の含み損率の実績60パーセントを乗じた額と推計されるから、日経平均株価の下落により減衰していた原告の償却体力(有価証券含み益4380億円、取崩可能剰余金1225億円等)を明らかに超えていた。また、原告の同年度末の実態業務純益は69億円にすぎず、償却体力として考慮するには、ほとんど無意味であった。
また、その後の経過をみれば、本件損益支援により償却体力を無駄に費消したことが原因の一つとなって、原告は破綻するに至った。このことからも本件損益支援が原告の償却体力に比して過大であったということができる。
すなわち、平成6年度末において、原告が損失を計上して処理すべき案件を多数抱えていたことも考えると、本件損益支援として491億円の損失を負担し、また、平成7年度末(平成8年3月末)においては、償却体力が減衰した状況の下で、関連・親密先支援損の計上や住専の処理等による約5400億円の不良債権処理を行い、これに加えて本件損益支援として平成6年度末時点の有価証券含み益4380億円の4分の1にあたる1098億円の損失を負担したのであるから、過大な支援であったことは明白である。
加えて、本件損益支援の結果、原告が、日本リースの不稼働資産全額を支援しなければならなくなり、原告の償却体力を上回る負担を引き受けることとなったのであるから、明らかに不合理な判断であったといえる。
(エ) 本件損益支援により予想される原告のその他の損失
本件損益支援は、不稼働資産の大半の処理を放置し、あるいは受皿会社に移管してその処理を先送りするものであり、地価の下落による含み損の拡大、キャリングコストの発生により、結局原告の損失を拡大させるものであったといえるから、明らかに不合理な内容であった。
すなわち、本件損益支援の当時、地価はさらなる下落が見込まれ、バブル経済の崩壊による不動産市場の低迷が継続することは明らかな状況であった。にもかかわらず、本件損益支援は、地価下落のリスクを考慮せず、かえって根拠のない地価の上昇期待のみに依拠して計画されたものであった。
そして、不稼働資産の多くを占めていた、日本リースの受皿会社に対する営業貸付金は、既に述べたとおり、事業化に失敗した日本リースの不良債権について、日本リースが、受皿会社に買取資金を融資して担保付不良債権又は不稼働不動産(不良債権の担保となっている不動産であり、収益を生じていないもの)を買い取らせたものであり、債権の回収は期待できないものであった。しかも、受皿会社は簿価又は高値買取りを行っていたことから、日本リースの受皿会社に対する債権は、当初から含み損を抱えており、地価の下落によりさらにこの含み損が拡大することが見込まれた。また、受皿会社には、その保有不動産につき、新たな損失として管理費用・固定資産税等のいわゆるキャリングコストが発生し、さらに受皿会社に対する約定金利の追い貸しが必要となり、その分が元加されることにより、不稼働資産は一層増大することが見込まれた。
また、被告らは、サイレントベースの不稼働資産に対する処理として、物件引取りが予定されていたと主張する。しかし、この物件引取りは、原告が、日本リースの受皿会社の保有する不稼働不動産を、原告の受皿会社に買取資金を融資して買い取らせ、結局、原告が上記の含み損の拡大やキャリングコストの負担を抱える結果となるものであった。このような不稼働資産の処理の先送りは、原告に損失をもたらすものであった。
さらに、被告らは、本件損益支援は金融当局が示していた不良債権の計画的・段階的処理方針に従ったものであると主張するが、被告らは、金融機関の経営者として当時の状況に照らして、明らかに不合理な不良債権の処理の先送りをすべきではなかったことから、このような被告らの主張は何ら免責の理由とならない。
(オ) 弁護士からの意見徴求等
被告らは、国税当局が本件損益支援の無税扱いの承認をしたことや弁護士から本件損益支援の適法性について意見を得ていたことを本件損益支援の合理性の論拠とするが、前記のとおり、オープンベースとサイレントベースの不稼働資産を操作調整して、国税当局や法律事務所にサイレントベースの不稼働資産の存在を隠ぺいしていたこと、原告の償却体力等についても十分な説明がされていたかどうか疑問であることからして、国税当局の無税扱いの承認がなされたことや弁護士の適法意見の存在が合理性の根拠とならないことは明らかである。
エ 本件損益支援の社会的相当性
本件損益支援は、サイレントベースの不稼働資産の一部を受皿会社に移管して「塩漬け」する方式を組み合わせて、日本リースの財務状況を隠ぺいするとともに原告の日本リースに対する貸出債権の不良債権の分類化を回避するという目的に出たものであり、支援手段が、銀行業務の公共性及び企業会計原則の趣旨に反し、社会的相当性を欠くものである。
(ア) サイレントベースの不稼働資産の隠ぺい
日本リースは、受皿会社に対して、追い貸しを継続することにより、不良債権の実態を有するサイレントベースの不稼働資産を正常債権のように装っていた。
そして、原告は、日本リースのサイレントベースの不稼働資産を国税に申告せず、また一切公表しないことにより、市場から日本リースの不稼働資産を実態より過少に認識させることを意図して、本件損益支援を実施したものであって、ディスクロージャーの要請に反して、市場の信用を損なった。
(イ) 受皿会社の利用による隠ぺい
受皿会社は、原告及び関連・親密先が、組織的かつ継続的に、その不稼働資産を隠ぺいするための道具として設立され、利用されていた。例えば、原告は、不良債権について、これを受皿会社に買い取らせる場合、受皿会社は、原告から不良債権の譲受代金の融資を受けて、貸付先からその不良債権を買い取って、原告がその代金により貸付先から返済を受ければ、不良債権は回収される。しかも、原告の受皿会社に対する貸付債権は、新規の貸付債権であり、返済金利分の追い貸しを継続する限り、平成8年度末までこれを不良債権として公表する必要がなかったのであり、原告及び関連・親密先は、受皿会社に対する不良債権の移管と追い貸しによって、不良債権を隠ぺいしていた。
このような不良債権の隠ぺいは、商法及び証券取引法が原告に求める公正なる会計慣行に基づく財務状況の開示要請に実質上反するものであり、原告の業務の公共性及び経営の健全性の見地から、原告が自らの不良債権を隠ぺいし、あるいは日本リースの不良債権の隠ぺいに加担することは著しく不相当な支援方法であるといえる。
(ウ) 情報開示の重要性
原告及び関連・親密先が一時的に市場や金融当局から不良債権を隠ぺいしてその信用を維持したとしても、一旦市場や金融当局が原告の信用に疑念を抱くや、かえって、原告の信用等を大きく損なう結果となることは容易に想像し得るところであった。
このことは、原告が、組織的かつ継続的な不良債権を隠ぺいし、その結果として、平成10年に不良債権の隠ぺいが表面化して、原告の信用が失墜し、その後の合併交渉等も不良債権の隠ぺいが原因で失敗し、最終的には、原告が経営破綻に追い込まれたことからも明白である。
オ 被告らの善管注意義務違反
以上の事情を考慮すれば、本件損益支援が不必要かつ不合理であることは明白であり、被告らがその必要性、合理性及び社会的相当性を十分に検討しないまま支援を決定した判断には明白な誤りがあるから、取締役としての裁量を逸脱したことは明らかであり、本件損益支援の決定に関与した被告らには善管注意義務違反があったといえる。
(ア) 被告Y9及び被告Y2
本件損益支援の検討決定をした、平成6年度の当時、被告Y9は営業企画担当の常務取締役として、被告Y2は取締役営業企画部長として、同支援計画を策定するとともに、平成6年度実施分の本件損益支援について、経営会議及び取締役会における支援の決定に関与したものであり、善管注意義務違反が認められる。また、上記被告らは、経営会議及び取締役会における平成7年度実施分の本件損益支援の決定に関与しており、善管注意義務違反が認められる。
(イ) 被告Y3
被告Y3は、平成6年度の当時、代表取締役頭取であって、原告の最高業務執行責任者であって、本件損益支援の検討状況や、関連・親密先全体の不稼働資産の状況について報告を受けており、さらに経営会議及び取締役会における平成6年度実施分の本件損益支援の決定に関与したものであり、善管注意義務違反が認められる。
(ウ) 被告Y7
被告Y7は、平成6年度以前から、ノンバンクチームを統合し、関連・親密先ノンバンクの不稼働資産の全体像を把握しており、平成6年度実施分の本件損益支援の決定に、経営会議及び取締役会の構成員として関与しており、善管注意義務違反が認められること、また、平成7年度実施分の本件損益支援については、常務取締役営業企画グループ(事業推進部)担当役員として直接担当しており、また、経営会議及び取締役会の構成員として、その決定に関与しており、善管注意義務違反が認められる。
(エ) その余の被告ら
その余の被告らは、経営会議及び取締役会の構成員として、本件損益支援の決定に関与しており、その内容を十分に検討しないまま、必要性及び合理性が認められず、かつ社会的相当性を逸脱した本件損益支援を承認しており、善管注意義務違反が認められる。
カ 損害
平成6年度の本件損益支援により、原告は、売却損490億8750万3700円の損害を被った。
平成7年度の本件損益支援により、原告は、売却損1097億9226万6891円の損害を被った。
キ まとめ
原告及び原告引受人(以下、併せて「原告ら」という。)は、被告ら全員に対し、原告が被った平成6年度支援の損害賠償金の内金9億円の支払を求め、また、被告Y3及び被告Y9を除く被告らに対し、平成7年度支援の損害賠償金の内金21億円の支払を求める。
(2) 被告ら全員
ア 経営判断の原則
取締役は会社経営上広い裁量権が与えられており、取締役の過去の経営上の措置については、当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会、経済、文化の情勢に基づき、当該会社の属する業界における通常の経営者が有すべき知見及び経験を基準に、当該行為をするにつき、その目的に社会的非難可能性がないか否か、その前提としての事実調査に遺漏がなかった否か、調査された事実の認識に重要かつ不注意な誤りがなかったか否か、その事実に基づく行為の選択決定に不合理な点がなかったか否かなどの観点からみて、当該行為をすることが特に不当といえないと評価されるときは、取締役の当該行為に係る経営判断は裁量の範囲を逸脱するものではなく、善管注意義務ないし忠実義務の懈怠はないというべきである。
そして、判断の前提となる事実の調査、資料の収集、分析等につき、担当役員の下に整備された組織によってもたらされる情報に信頼を置くことが許されるべきである。
イ 本件損益支援の必要性
(ア) 原告と日本リースの関係
原告は、本件損益支援の当時、日本リースの母体行であった。
銀行がノンバンクに対して母体行責任を負う関係にあるかどうかは、銀行のノンバンクに対する人的・物的支配の有無及び他行の認識により判断されるべきである。
原告は、グループ全体で、日本リースの株式の16パーセントを保有し、実質的に原告が日本リースの筆頭株主であり、日本リースの会長及び社長を含む代表取締役は全て原告の出身者で占められていた。また、平成6年10月時点で、原告の日本リースに対する融資残高は、全体の9.8パーセントに達し、最大の融資シェアを占めていた。
さらに、日本リースに融資していた金融機関には、それぞれ他に系列ノンバンクが存在していたが、原告は、平成4年4月に長銀インターナショナルリース株式会社(以下「長銀リース」という。)のリース部門を日本リースに営業譲渡して以降、日本リース以外に系列ノンバンクと呼ぶべきリース会社は存在せず、加えて、原告は都市銀行と比較して店舗数が少なく、決済機能が不十分であり、都市銀行との競争上不利な側面があることから、関連・親密先を含めた原告グループ全体としての総合金融サービス機能に依存する比重が相対的に大きく、原告にとって日本リースは不可欠の存在であった。
このように人的・物的に密接な関係を有していたことから、原告が日本リースの母体行であって日本リースの経営に責任を負うことは対外的にも明らかであった。
なお、原告らは、日本リースは関連会社通達にいう関連会社ではないから母体行関係にはないと主張するが、同通達は、銀行が関連会社に行わせることができる業務範囲を整理するものであって、当該ノンバンクの母体行がどの銀行かという金融界の慣行の判断と全く無関係であり、関連会社通達から母体行かどうかを決定することはできない。
(イ) 本件損益支援を行わない場合に想定された事態
原告が日本リースに対して支援をしない場合には、以下のような重大な事態が生ずることが懸念された。
日本リースは、平成5年度末において、実質1400億円の債務超過の状態にあって自主再建は困難な状態であり、他行は、日本リースに対する融資回収の圧力を強めていたことから、母体行責任による支援姿勢が、他行による折り返し融資の継続の有無を決定するところ、仮に、原告の日本リースに対する支援姿勢に疑念を持たれる場合には、他行は日本リースに対する融資を一斉に引き上げ、原告単独では日本リースの資金繰りを支えることは到底不可能となり、日本リースが資金繰り破綻する危険があった。
そして、日本リースが、多数の従業員及びリース取引先を抱え、地方銀行の中位行程度の借入規模を有していたことから、その破綻による社会・経済的影響は極めて大きいものがあった。
さらに、この場合、原告の他の関連・親密先ノンバンクに対する支援姿勢にも疑念を持たれ、関連・親密先全体に信用不安が及んで、他行から一斉に融資の引揚げがなされる危険があった。
加えて、原告の関連・親密先に融資をしていた他行は、原告の資金調達の中核である金融債の大口購入者であり、原告の日本リースに対する支援姿勢が不明確な場合、原告が支援可能な財務状況にないとの疑念を与え、その結果、原告の資金調達に重大な支障が生ずるおそれがあった。
(ウ) プロラタ支援の可能性
被告らは、プロラタ支援の可能性も検討したが、原告が日本リースの母体行であるにもかかわらず、プロラタ支援を求めることにより原告の信用が崩壊するおそれがあること、プロラタ支援の同意を他行から取り付けることが困難であることなどから、プロラタ支援は不可能と判断した。
特に、日債銀が平成4年に系列ノンバンクの支援を行った際、他行に反発を受け、その後日債銀の金融債の流通利回りが他の長信銀との間で格差を生じ、その資金調達に支障が生ずるに至ったことからも、本件損益支援の当時において、他行にプロラタ支援を要請することは到底不可能な手法であった。
なお、原告らは住専処理において金融界がプロラタ処理を主張したこと及びその処理方法が融資残高を上限とする修正母体行主義で行われたことから、プロラタ支援も不可能ではなかったと主張するが、住専処理は清算の場面の責任分担の問題であって、本件損益支援の局面には妥当しない。
また、原告らは、本件損益支援により、原告が日本リースの不稼働資産全部の処理について責任を負うこととなったと主張するが、原告は本件損益支援の以前から日本リースに対して母体行責任を負っていたのであり、本件損益支援によって、このような負担を引き受けることとなったのではない。
ウ 本件損益支援の合理性
(ア) 支援目標設定の合理性
企業は、本業において収益力を保ち、金融機関から資金調達を受けて資金繰りを維持していれば、一時的に債務超過に陥っても、企業体としての経営を維持することは可能であり、支援の目標としては、収益により自転できる体制を構築することに置くべきである。したがって、原告らの主張するようなバランスシート上の不稼働資産全てを解消するための額を支援しなければならないという考え方は、会社を清算する場合の必要額を算定することと全く同じであり、会社存続を前提とする支援の場合には妥当しない。そして、本件損益支援の目標は、日本リースの営業貸付部門の不良債権を早期に処理し、本業のリース・割賦部門の基礎収益力を強化し、同社が他行から融資を受け自立した経営を行うことができる自転可能な体制を整えること、すなわち、日本リースの基礎収益力を175億円に向上し、キャリングコストを139億円に引き下げ、年36億円の償却余力を発生させ、収益力の範囲内で不良債権を償却し得る体制を構築することにあったのであるから、合理的な内容であるといえる。
(イ) サイレントベースの資産
サイレントベースの資産5400億円は、不稼働資産ではなく、日本リースの不稼働資産はオープンベースの6908億円のみであった。
まず、本件損益支援は国税当局の無税扱いの承認が得られることが前提となっており、したがって損益支援の対象となる不稼働資産の範囲も国税当局において不良債権の定義である利息延滞3か月超又は元本延滞1か月超の債権の元本総額に該当するものとして、6908億円としたものである。
そして、サイレントベースの資産のうち受皿会社に対する営業貸付金4200億円は、事業化の可能性があり、約定金利の支払も継続されていたから、不稼働資産というべきものでなかった。
また、飛島関連の1232億円の債権も、上記の不良債権の定義に該当しないものであり、また、富士銀行が飛島建設の再建に取り組んでおり、実質的にも不良債権には当たらなかった。
加えて、サイレントベースの資産についても、経営会議において、物件引取支援を行うこととされ、対策がとられていた。すなわち、原告が新たに設立する受皿会社により、日本リースの受皿会社が保有する物件を、1000億円ないし2000億円の範囲で引き取ることとされ、引取対象物件は選別されていた。買取りに伴う受皿会社の含み損の額なども試算されており、サイレントベースの資産も経営会議に情報提供され、これに対する検討及び処理策は示されていた。
(ウ) 償却体力
原告は、本体損益支援の当時、原告は関連・親密先の全てを支援する体力を有していなかったのであるから、本件損益支援を行うことは許されなかったと主張する。
しかしながら、不良債権とされる債権も、その全てが回収不能なわけではなく、債務者の経営や担保の状況等に応じて、回収不能額も相違し、しかも支援を行う場合には、前記のとおり、支援先の自転を可能とする支援を行えば足り、必ずしも回収不能額全額の支援が必要となるものではなく、一定の時間をかけて支援をしていくことが許される。
したがって、原告に関連・親密先を支援するだけの支援体力があるかどうかを判断する上では、支援体力としては一定期間内に生ずる将来の業務純益を考慮でき、他方、支援所要額は回収不能額ではなく、支援先の自転体制を整えるために必要な額であるというべきである。
なお、原告らは、償却体力に算入される業務純益は特殊要因を除いた実態業務純益であると主張するが、特殊要因はいわば有価証券含み益と同様に含み益の実現であり、原告の実力による利益であるから、業務純益が償却体力として考慮されるべきである。
しかるに、原告らは、個別要素を無視して一律にその不良債権の総額の6割が含み損額であり、しかも関連・親密先に対する融資残高全部を不良債権とみて、その含み損全てを一括して償却するだけの償却原資を保有していない限り償却体力を超えると主張しており、明らかに不当である。
例えば、平成7年3月期において、原告には、有価証券含み益4380億円、貸倒引当金3968億円及び取崩可能剰余金1225億円の合計9573億円が存在し、さらに今後5年間において年間業務純益を最低1000億円見込むことができたから、5年間で5000億円であり、平成7年3月期から5年間の償却体力として1兆4573億円を見込むことができた。他方、原告の同期における一般先に対する不良債権は7844億円(破綻先債権2084億円、延滞先5796億円)であり、概ね含み損3185億円と試算され、5年間において関連・親密先の自転体制を整えるために必要な支援額は8000億円程度であったから、償却必要額は1兆1185億円であり、原告は十分な償却体力を保有していた。この点、原告の業務純益は、平成7年度以降高利の金融債の償還も終了し2000億円程度に増加することが見込まれ、現実にも平成7年度以降業務純益は1600億円を超えていたことからも、5年間で5000億円という試算には全く無理がなかった。
さらに、原告らは、本件損益支援による損失負担の額自体が当時の原告の償却体力に比して過大であり、経営を危殆化させた旨主張する。
しかし、原告は、平成6年3月期において、当初償却体力2兆6456億円(有価証券の含み益1兆2559億円、資本勘定及び貸倒引当金の合計額)を有し、本件損益支援を含めて合計約3433億円の不稼働資産を処理したが、平成7年度3月期における原告の償却体力は1兆9108億円であり、将来の業務純益も考慮した場合、本件損益支援程度の額が過大とはいえず、原告の存立を危うくするものでなかった。
また、原告は、平成7年3月期において、当初償却体力が1兆9108億円に減少し、本件損益支援を含む約6499億円の不稼働資産を償却したが、それにもかかわらず、原告の償却体力は平成8年3月期に2兆0207億円に増加しており、原告の経営を危殆化させるものではなかったことは明らかである。
以上から、本件損益支援が原告の存立を危うくするものでなかったことは明白である。
(エ) 本件損益支援の効果
日本リースは、本件損益支援を受けて、不稼働資産を処理し、また、国内新規リース資産を順調に積み上げて、収益の強化も順調に進展した。
すなわち、基礎収益力は、平成8年度末において175億円、平成9年度末において182億円と明らかに回復した。
多数の金融機関は、日本リースの再建計画を了承して、本件損益支援後において、融資の残高を維持し、さらに、相当数の金融機関が、日本リースからの利ざや(スプレッド)の縮小要請にも応じるなど、本件損益支援は日本リースの取引金融機関からも評価された。
(オ) 不良債権処理の先送り批判に対する反論
まず、本件損益支援は、これまでの日本リースの支援が対処的であったとの反省を踏まえ、抜本的な対策として実行された。不稼働資産の表面上の処理額を増額させる手法としては、日本リースの不稼働資産について引当を行う間接償却の手法もあったが、これでは最終処理とならないため、最終処理を可能とする共同債権買取機構の活用による本件損益支援が選択されたのであって、先送りしたのでないことは明白である。
次に、銀行は、資産価値の下落による不良債権の大量発生と内部留保の減少という当時の経営状況から、不良債権の処理を計画的段階的に行うほかない状況であり、大蔵省もこれを指導していた。また、バブル崩壊により、不良資産を抱えた企業も、本業は正常に稼働し、時間をかけて本業の収益により不良資産を償却することが可能であると考えられ、銀行はこのバブルの傷跡をいやす時間的余裕を与えるための防波堤と考えられ、当時はソフトランディングの手法が最も適切な方法とされていたのである。ただ、その後の急激な景気の後退を受けて、ソフトランディングが困難となったにすぎない。
さらに、平成6年当時、地価及び株価の見通しは、長期的には安定し現在まで下落が継続するとはみられていなかった。本件損益支援は、このような当時の情勢を踏まえて実施されたものであり、何ら不当なものではない。
受皿会社を利用して、物件の事業化を図って不良債権を処理する手法も、格別不合理でない。受皿会社は、原告から融資を受けて、関連・親密先ノンバンクの保有する物件を時価で引き取り、これを事業化の上、キャッシュフローが得られる状態として、利払いを行ったり、また、売却の上不良債権の回収を図るものである。
物件の時価引取りがされる限り、融資額はこれに見合うものであるし、また、融資後事業化までの間、原告は、受皿会社に対して、人件費、金利、キャリングコストに見合う資金を追加融資するが、これは、立ち上がりの運転資金として貸し付けるのであり、その大半はバランスシート上の建中費用に分類され減価償却の対象となるべきものであって、不健全な赤字運転資金や金利の追い貸しとは全く性格を異にする。
また、事業化会社への追い貸しは金利だけではなく、建中費用分を含むものであることから、不良債権が元加により著しく増大していくこともない。
その後の景気後退の結果、受皿会社には含み損が発生し、事業化の利回りがわずかに止まった物件もあったが、これは、予期できない地価下落の継続、急激な景気後退の影響によるもので、このことから当時の施策が合理性を欠くとはいえない。
(カ) 国税による無税扱いの承認等
法人税法基本通達(9-4-2)は、法人が子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等をした場合、その無利息貸付け等について相当な理由が認められるときは、寄付金に該当しないものとし、損金算入を認めている。
具体的には、〈1〉損失負担等を受ける者が子会社かどうか、〈2〉子会社等は経営危機(倒産の危機)にあるか、〈3〉損失負担等を行うことは相当か(支援者にとって相当な理由はあるか)、〈4〉損失負担額(支援額)は合理的であるか(過剰支援になっていないか)、〈5〉再建管理はなされているか、〈6〉損失負担等をする支援者の範囲は相当であるか、〈7〉損失負担等の額の割合は合理的であるか等の要件を検討することとなるが、国税当局は、これらの基準に照らし、本件損益支援の無税扱いを承認したのであるから、本件損益支援が合理性を有することは明らかである。
また、本件損益支援は、平成6年4月ころから同年11月ころまで約8か月間の期間をかけて原告の担当部署における十分な検討を踏まえ、数度の経営会議及び取締役会における議論を行うとともに、弁護士の適法意見も聴取して決定されたものであり、手続的にみても適正なプロセスを経て行われたものである。
エ 社会的相当性
(ア) サイレントベースの資産の扱い
既に述べたとおり、サイレントベースの資産は、国税当局が支援について無税承認の対象とする不良債権の定義に当てはまらず、本件損益支援の対象とならなかった資産であるにすぎない。国税当局は、無税扱いの承認を行うに当たっては、原告に対して、日本リースの実態、不良資産の全体、日本リースグループの不動産保有状況について詳細な説明を求め、これに基づき判断するのであるから、国税当局がサイレントベースの不稼働資産の存在を知らなかったことなどあり得ないし、被告らがこれを隠ぺいした事実もない。
原告及び関連・親密先の財務状況、信用状態については、所定の方法により会計処理の結果が公表され、不良債権の開示もその時々の開示基準に従い開示されており、開示の点に欠けるところはない。
また、原告とスイスバンクコーポレーション(以下「SBC」という。)や住友信託銀行株式会社(以下「住友信託」という。)の提携解消は、原告らの主張するように不良債権の隠ぺいが原因ではなく、原告は平成9年9月以降SBCとデューデリジェンスを行った上で業務提携を進めてきたが、平成10年6月に住友信託との合併の話が持ち上がったため両立が困難であってSBCとの提携を解消したのであり、また、住友信託との合併はデューデリジェンス以前にいわゆる金融国会での政争の中で解消されたものであり、不良債権の隠ぺいの発覚が問題とされたわけでない。
(イ) 受皿会社の利用
受皿会社が、日本リースの債権を簿価で譲り受け、その資金を原告が受皿会社に融資する場合、日本リースの営業貸付金はバランスシートから減少し、原告の受皿会社に対する債権が原告のバランスシートに計上され、会計上正確に処理反映されるから、不良債権を隠ぺいすることとならない。
このような受皿会社の利用は、原告及びその関連・親密先ノンバンクだけではなく、当時の銀行が母体行となっているノンバンクにおいて取られていた手法であり、税務当局も当初承認していた。その後簿価譲渡は認められなくなったが、それ以降原告は債権の受皿会社を利用していない。
受皿会社が、担保物件を時価で買い取る場合、債権額と時価との差額が日本リースの残債権額となり、原告は時価買取資金を受皿会社に融資し、会計上、残債権は日本リースのバランスシートに計上されたままであり、原告の融資は、原告のバランスシートに計上するから、会計上正確に処理され、何ら隠ぺいすることとならない。
被告らは、担保物件を不当に高く評価したこともない。物件の価値は適正に評価して取得価格を決定しており、このような仕組み自体は、いわゆる共同債権買取機構による不良債権の買取りと全く同じである。
受皿会社は、不良債権を事業化により処理することを目的として設立されており、何ら不良債権を隠ぺいする手段でない。
(3) 被告Y6及び被告Y5
仮に、サイレントベースの不稼働資産5400億円が、処理の対象とされるべき不稼働資産であったとしても、被告Y5及び被告Y6は、不良債権の処理等を担当する役職になく、オープンベースとサイレントベースに振り分けられた経緯を十分に把握していなかったのであった。
そして、原告のような組織において、個々の取締役が自ら判断の前提となる事実の調査、資料の収集にあたる必要はなく、担当役員の下に整備された組織によってもたらされる情報に信頼を置くことが許されるのであるから(信頼の権利)、これを把握していなかった被告Y5及び被告Y6の責任を問うことはできない。
2 本件融資〈1〉についての被告Y9の善管注意義務違反ないし忠実義務違反による損害賠償責任の有無(争点2)
(1) 原告ら
ア 本件融資〈1〉の違法性
原告は、既に述べたとおり、長期信用銀行としての業務の公共性及び健全性の見地から、貸付金の保全・回収の確保を図ることに格別の配慮をしなければならない。
したがって、原告の取締役が、融資の決裁権者として極度額の設定や融資の実行を決裁する場合、あるいはその極度額の設定や融資の実行に実質的に関与する場合、現在及び将来予想し得る経済情勢を踏まえて、貸出先の財務・経営状況、経営者の能力、保有資産、従前の与信状況、貸付額及び資金使途、返済能力、予定されている弁済資金の調達方法とその見込み、提供し得る担保の性質及び価値等について、十分な調査を行った上で、融資の償還可能性について的確な判断を行うべき義務がある。
また、当該融資が、経営困難に陥った会社に対する支援を目的とする場合、既に述べたとおり、支援の必要性、支援の合理性及び支援方法の社会的相当性が要求される。
しかしながら、本件融資〈1〉は償還可能性がなく、また、支援としては、必要性、合理性及び社会的相当性を欠くものであり、違法なことは明らかであるから、本件融資〈1〉に実質的に関与した被告Y9は善管注意義務違反に基づく損害賠償責任を負う。
イ 本件融資〈1〉の償還可能性
(ア) 受皿会社3社からの償還可能性
本件融資〈1〉は、日本リースのビルプロ及びそのグループ会社に対する貸付債権(ビルプロ向け債権)を簿価で譲り受けるために設立された四谷プランニング、木挽町開発及び竜泉エステート(以下「受皿会社3社」という。)に対して、買取資金を融資するものであるが、受皿会社3社は、いずれもみるべき資産も事業能力も有しない会社であった。
また、本件融資〈1〉の資金使途は、不動産事業化のための融資金であるとされ、ビルプロ向け債権に係る担保物件について賃貸ビルを設立するなどの事業化計画が策定されていたが、この事業化計画は債権簿価譲渡に関する税法上の問題を回避するため、不動産の事業化に対する融資であるとの体裁を取ればよいという理由から作成された名目上のものであるから、事業化による償還可能性のないことは明白であった。
実際、後述する担保物件は、追加買収を要するものや、物理的に事業化を進めることが困難であるものや、開発許可が得られていないものや、地元住民が開発に反対しているものなど様々な事情から、いずれも事業化は事実上不可能であった。
(イ) 担保物件の評価
そこで、本件融資〈1〉の回収は、受皿会社3社が買い取ったビルプロ向け債権に係る担保物件の処分によるしかなかったが、その価値は以下のとおり融資額の約3割程度であり、担保物件の処分により本件融資〈1〉を回収する可能性はなかった。
まず、原告から四谷プランニングに対する買取資金の融資が実行された際、原告は、その債権の担保物件(新宿区左門町所在の土地及び建物であり、以下「左門町物件」という。)について根抵当権を設定し、日本リースから、同物件に設定されていた第1順位の根抵当権を抹消する旨の念書を交付させた。しかし、同物件の担保評価額は、その融資額の約23.1パーセントにすぎなかった。
次に、原告から木挽町開発に対する買取資金の融資が実行された際、原告は、その債権に係る担保物件(中央区銀座8丁目所在の土地及び建物であり、以下「銀座8丁目物件」という。)に設定されていた根抵当権の一部を譲り受け、かつ、原告は日本リース及び木挽町開発との間で同根抵当権について原告が優先する旨の合意を締結していた。しかし、同物件の評価額は、その融資額の27.6パーセントにすぎなかった。
さらに、原告から竜泉エステートに対する買取資金の融資が実行された際、原告は、その債権に係る担保物件(新宿区内藤町〈以下省略〉所在の土地であり、以下「内藤町物件」という。)について根抵当権を設定し、日本リースから同物件に設定されていた第1順位の根抵当権を抹消する旨の念書を交付させた。これに加えて、上記貸付債権の別の担保物件(台東区竜泉2丁目所在の土地及び建物であり、以下「竜泉物件」という。)に設定されていた根抵当権の一部を譲り受け、原告は、日本リース及び竜泉エステートとの間で、同根抵当権につき原告が優先する旨の合意を締結していた。しかし、上記各物件の担保評価の合計額は、その融資額の46.6パーセントにすぎなかった。
実際、左門町物件は平成13年3月に30億5000万円、銀座8丁目物件は平成13年5月に7億4000万円、竜泉物件は平成12年10月に25億6100万円、内藤町物件は平成11年9月に4億3124万4000円でそれぞれ売却され、平成6年3月以降の地価下落を考盧しても、大幅な担保割れであったことは明白である。
本件融資〈1〉は、上記のとおりいずれも大幅な担保割れであり、また、原告が設定した根抵当権は登記を経由していないものがあり、さらに原告は、受皿会社3社からビルプロ向け債権について、債権譲渡担保契約(債権担保譲渡予約)証書を受け取っていたが、この譲渡予約は第三者対抗要件を具備していなかったものであり、法的な点からも、保全措置が不十分であった。
(ウ) 経営指導念書
被告Y9は、本件融資〈1〉について日本リースから経営指導念書を徴求しており、これは実質上保証と同様の機能を有するから、本件融資〈1〉の償還可能性に問題がなかったと主張する。
しかし、経営指導念書は法的な保証と異なりその効力が曖昧なものであったこと、仮に保証予約と同様の機能があったとしても、当時日本リースは実質債務超過の状態にあり、かつ、既に本件損益支援が検討されていた以上、日本リースには返済能力がなかったといえるから、日本リースの保証は十分な担保力が認められないものであった。
ウ 本件融資〈1〉の支援としての当否
(ア) 支援の必要性
既に述べたとおり、本件融資〈1〉の時点において、原告が単独で日本リースを支援する必要はなかった。
むしろ、本件融資〈1〉の実行は、原告が日本リースを全面的に支援するという期待を日本リースに融資していた他行に抱かせる結果となり、その後、原告が日本リースを全面的に支援することを余儀なくさせて将来原告に大きな損害をもたらすことが容易に予想されるものであった。
また、被告Y9は、日本リースのビルプログループ向け融資残高の圧縮が日本リースに対する三菱信託銀行株式会社(以下「三菱信託」という。)の折り返し融資の条件であったと主張するが、三菱信託による折り返し融資の拒絶から引き起こされる他行の追随的融資の引揚げ、さらにこれによる日本リースの破綻ひいては原告に対する致命的な打撃という連鎖が、日本リースのビルプログループ向け貸付債権の圧縮をするという約束を守らないだけで起こり得たかどうか具体的な検討が行われていたわけでもなかった。
(イ) 本件融資〈1〉の目的
本件融資〈1〉の目的は、日本リースのビルプログループ向け融資残高を圧縮し日本リースの表面上の財務内容を改善することにあったが、これは日本リースの真の財務内容を隠ぺいするものであり、不良債権の最終的な償却処理を先送りするにすぎないものであったから、合理性がない。
仮に、同融資の目的が、日本リースの不良債権を簿価で引き受けて原告が実質上含み損を負担し、日本リースの実質的な財務内容を改善するものであったとしても、これにより、日本リースの財務内容が改善される見通しはなかったから、このような目標設定には合理性がない。
被告Y9は、本件融資〈1〉が日本リースの破綻回避のため暫定的な措置を目的として行われたと主張するが、その場合、日本リースが譲渡対象債権を買い戻すことが前提であり、実際には、約1兆2000億円の不良債権を保有する日本リースが買い戻すことは不可能であった。すなわち、本件融資〈1〉は、貸倒償却することが想定され、当初から原告が最終的な損失を負担することを見込んだ融資であり、上記のとおり日本リースの不良債権を抱え込んで、最終的な償却処理を先送りするために、暫定的という名目が付けられたにすぎない。
(ウ) 原告の償却体力
原告は、本件融資〈1〉が行われた平成6年3月期末において、7451億円の公表不良債権及び約1兆9000億円の潜在的不良債権を抱えており、他方、同期における原告の有価証券の含み益は1兆2559億円であり、原告の償却体力は相当程度減衰していた。
また、平成6年3月期においては、地価はさらなる下落傾向にあり、原告の不良債権は増加するおそれがあった。
本件融資〈1〉は、当時の担保評価額でも担保割れが67.4パーセントに達し、約317億円が回収不能となることが予想され、地価の上昇がない限り、将来原告が大きな損失を負担することとなり、相当程度減衰していた原告の償却体力からみて、明らかに過大な支援であった。
(エ) 本件融資〈1〉により予想されるその他の損失
本件融資〈1〉は、担保物件により保全されている部分を除き、償還可能性がなかったことは既に述べたとおりであるから、本件融資〈1〉は回収不能部分についての含み損を原告に抱えさせるものであり、地価の下落により含み損が拡大することも容易に予想されるものであった。
また、本件融資〈1〉が不良債権に分類されることを回避するためには、受皿会社3社が金利の支払を継続しなければならないが、事業化の見込みも全くなかった以上、金利の支払の継続のためには、金利分の追い貸しをしなければならないのであり、本件融資〈1〉の実行時において、追い貸しによる拡大損失も見込まれた。
加えて、本件融資〈1〉は原告が日本リースの支援を取りやめて撤退することを困難とさせるものであり、原告が日本リースの不良債権全てを処理しなければならない事態を招来させるものであったから、仮に、同融資により、一時的に日本リースひいては原告の信用が維持されたとしても、その後に原告が被ると予想される損害が圧倒的に大きく、比較考量の点から、同融資の不合理性は明らかである。
(オ) 本件融資〈1〉の社会的相当性
a 原告が日本リースの不良債権を受皿会社3社に移管した点は、日本リースの財務状況を隠ぺいする目的によるものであり、社会的相当性を欠くものであることは既に述べたとおりである。
特に、債権の簿価譲渡のための資金融資は、税法上寄付金課税の問題があり、原告が平成3年から平成4年にかけてNED及び長銀リースの保有する不良債権を受皿会社に簿価で譲り受けさせた際に、国税当局は不良債権の簿価譲渡について税法上問題があることを指摘していた。
そこで、原告は、NED及び長銀リースが3年間の更正期間内に上記譲渡債権を買い戻すことを約束していた。
したがって、国税当局が承認しないおそれのある債権簿価譲渡のために、本件融資〈1〉を実行したのは、税法上の観点から問題であり、社会的相当性を逸脱する。
b 本件融資〈1〉の実質は、日本リースに対する損益支援であり、本件融資の回収不能額すなわち将来の要償却額は当時約317億円と予測されていた。これは、当時の原告の自己資本額1兆2000億円の約2.6パーセントに達するから、本件融資〈1〉は、商法260条1項2号所定の「重要な財産の処分」に該当すると考えられ、原告の内規上も、その損失額が自己資本の1パーセントを超えると見込まれる貸出金の償却については、取締役会の付議事項とされていた。
しかし、被告Y9は、本件融資〈1〉の実質が原告による損益支援となりうることを認識しながら、融資という形式を取ることにより、取締役会への付議を回避したのであって、本件融資〈1〉は履践すべき手続に違反したものである。
c 本件融資〈1〉は、不動産事業化のための転貸資金としての体裁が取られているが、実際には債権簿価譲渡のための買取資金であって、融資稟議書にはその旨の記載を欠いており、虚偽の稟議であるから、このような稟議に基づく同融資には手続上の瑕疵があるといえる。
また、本件融資〈1〉に係る専決極度の設定の際に回付された稟議書には、虚偽の事業化計画が添付されており、償還可能性がない本件融資〈1〉について償還可能性があるかのように装っていたこと、原告内部において本件融資〈1〉に償還可能性のないことを認識しながら、これを金融当局による検査から隠ぺいするため、本件融資〈1〉に関する検討資料を改ざんしたことなどからも、本件融資〈1〉は社会的相当性を欠くものであった。
エ 損害
本件融資〈1〉のうち、四谷プランニングに対する融資額のうちの187億6673万3057円、木挽町開発に対する融資額のうちの110億7648万0114円、竜泉エステートに対する融資額のうちの149億4186万7743円が回収不能額であり、本件融資〈1〉により原告は同回収不能合計額447億8508万0914円の損害を被った。
他方、被告Y9は、日本リースは本件融資〈1〉にかかる融資金を受け取って、これをそのまま日本リースの原告に対する借入金の返済に充てているから、原告は本件融資〈1〉による損害を被っていないと主張する。
しかし、仮に日本リースの原告に対する借入金の返済に充てられたとしても、これ自体は本来返済されるべき借入金の返済を受けたにすぎないものである。本件融資〈1〉は明らかに原告に新たな信用リスクを負担させるものであった。
そこで、原告らは、被告Y9に対し、上記損害の内金8億円の賠償金の支払を求める。
(2) 被告Y9
ア 本件融資〈1〉の違法性
本件融資〈1〉は、本件損益支援に先立つ暫定的措置として行われたものであり、日本リースに対する支援の必要性、支援内容の合理性が前提となるので、その主張を援用する。
さらに、本件融資〈1〉自体についても、以下のとおり融資としての償還可能性、支援の必要性及び合理性があったものである。
イ 本件融資〈1〉の償還可能性
(ア) ビルプロ融資の暫定性
本件融資〈1〉は、ビルプロ向け債権を買い取るための資金を融資するものであるが、日本リースによる譲渡債権の買戻しとこれに伴う譲渡債権の共同債権買取機構への持込みを前提とする暫定的な措置であり、原告は容易に本件融資〈1〉を回収することができた。
(イ) 経営指導念書の徴求
原告は、本件融資〈1〉を実行する際、日本リースから経営指導念書を徴求していた。これは、実質的に日本リースが本件融資〈1〉を保証する内容であり、日本リース本体に対する融資と与信リスクの点において全く異なるところはなかった。
むしろ、本件融資〈1〉はビルプロ向け債権にかかる物的担保が付けられた点で、従前の無担保による日本リースに対する融資と比較して、債権保全の観点から有利になったともいえる。
(ウ) 事業化計画
金融支援として過剰支援が許されない以上、本件融資〈1〉にかかる物件の事業化が可能である限り、直ちに償却処理することなく、事業化することが想定されていた。本件融資〈1〉の対象債権は共同債権買取機構への持込みが予定されていたが、仮にこれができない場合に備えて日本リースが買い戻す場合、対象物件を全く事業化しないで放置しておくことはできないから、事業化計画は虚偽のものではなく、事業化の場合に備えて策定されたのである。
ウ 本件融資〈1〉の支援融資としての当否
(ア) 支援の必要性
原告が日本リースの母体行として認識され、日本リースへの支援が原告の信用維持の観点から必要であったことは既に述べたとおりである。
本件融資〈1〉は、ビルプロの実質破綻に伴い、日本リースが、当時日本リースに対する融資残高が第3位であった三菱信託から、ビルプロ向け貸付債権を1500億円から1000億円に減額するよう要求されたことに起因するものである。三菱信託は、日本リースが自力でビルプロ向け貸付債権の500億円の圧縮ができないことを前提に、実際には、日本リースの母体行であった原告に対し、債権圧縮の要請をしたものであり、原告が母体行責任による支援をする意思があるかどうかの確認を求められていたのである。
したがって、この主要な取引金融機関である三菱信託の要請を拒絶した場合、原告による母体行責任の放棄と受け取られ、同行による折り返し融資の拒否、これに伴う他行の追随的な折り返し融資の拒絶という事態を生じ、その結果日本リースの破綻とこれによる原告への致命的な打撃が連鎖的に生じたのであり、本件融資〈1〉は、日本リースのビルプロ債権を圧縮し、日本リースの破綻を回避するものであり、究極的には原告の信用を維持するために行われたのである。
(イ) 本件融資〈1〉の合理性
本件融資〈1〉は既に述べたとおり、本件損益支援までの暫定的措置であり、原告が同融資を行う合理性があった。
すなわち、三菱信託は平成6年3月期までにビルプロ向け債権500億円の圧縮を要請し、これを受けて、原告及び日本リースは当初ビルプロ向け債権に係る担保物件を受皿会社に買い取らせて債権を圧縮する方法を検討していたが、国土利用計画法上の届出価格(いわゆる国土法価格)が予想以上に下落し、物件引取りでは三菱信託が求める500億円の融資圧縮に満たない結果となった。
そこで、原告は、日本リースの破綻回避のための緊急避難として、日本リースのビルプロ向け債権の簿価譲渡という形式で、支援を実行することを決定し、本件融資〈1〉は、本件損益支援において最終的な処理を定める暫定的措置として実行された。
本件融資〈1〉は、本件損益支援の中で処理する方法、日本リースが譲渡債権を買い戻す方法や日本リースが受皿会社3社に融資し、この融資金により受皿会社3社から原告に返済させる方法などにより、何らかの対応を行うことを当初から予定していた。
実際、原告は日本リースの母体行であり、原告の日本リースに対する影響力から、日本リースに対し、買戻しを要請してこれを受け入れさせることは困難でなかったといえるし、そのため、本件融資〈1〉に当たり、原告は日本リースから実質保証に該当する経営指導念書を徴求したのである。
その後、日本リースによる譲渡対象債権の買戻しは実行されていないが、原告の償却原資の観点から、平成7年3月時点においてその支援の内容から外されただけであり、その後の支援過程で処理することが予定されていた。
被告Y9は、平成7年4月28日付けで大阪支店長に転任し、平成7年度実施の本件損益支援においては同案件から外れていたが、被告Y9は異動前に本件融資〈1〉について必要な引継を行っており、これをそのままにして放置したことはない。現に、その後、平成8年12月11日開催の特定債権対策委員会において本件融資〈1〉の暫定性をふまえた対策が検討されたものであり、ただ現実には本件融資〈1〉を最終的に処理するとの決定が行われなかったにすぎないのである。
したがって、最終処理がされなかったからといって、被告Y9について善管注意義務違反を問うことはできない。
(ウ) 償却体力
本件融資〈1〉は原告の償却体力を損なうものではなかった。
(エ) 本件融資〈1〉の社会的相当性
a 原告らは、ビルプロ向け債権の簿価譲渡が税法上問題があると主張して、本件融資〈1〉が社会的相当性を逸脱するなどと主張するが、本件においては、税務会計上一時的な問題が生ずるが、税のほ脱の問題を生ずるわけではない。
b 本件融資〈1〉は、暫定的措置として業務運営委員会の組織決定を経て実行されており、必要な手続については履践されていた。
c また、本件融資〈1〉の資金は、当初から日本リースのビルプロ向け債権の買取資金として利用されることは明白であった。この点、同融資は短期の極度枠として条件設定され、融資稟議書には短期運転資金との記載しかないが、これは貸出極度の枠組みから当然であり、稟議書に記載がないからといって、債権買取の資金として利用するという融資の目的が変化するものではなく、融資決裁権者もその目的を十分に認識して決裁したのであるから、手続的に何ら問題のない融資であった。
エ 損害の不発生
本件融資〈1〉の資金は、平成6年3月末に受皿会社3社から日本リースに買取代金として支払われ、日本リースは、この資金を直ちに原告に弁済しており、実際上資金は環流され、原告に損害はない。これは、日本リースの原告に対する借入残高は、平成5年3月末に2859億円であり、平成6年3月末には2399億円であって、前年より約460億円減少していることから明らかである。すなわち、この借入減少額は、本件融資〈1〉の融資額とほぼ同額であり、日本リースの原告に対する弁済として、日本リースが、受皿会社3社から受け取った債権簿価譲渡の代金を原告に返済したことを示すものであるから、原告は実質上損害を受けていないのである。
3 本件融資〈2〉についての被告Y7の善管注意義務違反ないし忠実義務違反による損害賠償責任の有無(争点3)
(1) 原告ら
ア 本件融資〈2〉の違法性
本件融資〈2〉は、融資としての償還可能性がなく、支援融資としては、必要性、合理性及び社会的相当性が認められないから、違法な融資である。
イ 本件融資〈2〉の償還可能性
(ア) フィットニア商事等からの償還可能性
フィットニア商事は日本リースグループのファイナンス会社であり、利ざやによる少額の収益はあったが、これ以外の収益力はなく、また担保とすべき資産なども存在していなかったから、フィットニア商事から、本件融資〈2〉に係る債権を回収できる見込みはなかった。
箱崎シティ開発及び博多総合開発は、それぞれが保有する蛎殼町物件(東京都中央区日本橋蛎殼町〈以下省略〉所在の宅地)及び博多駅前物件(福岡市博多区博多駅前〈以下省略〉所在の宅地)以外に返済原資となるべき資産を保有しておらず、かつ、他に事業収益があったわけでもないことから、上記各社から回収する可能性もほとんどなかった。
(イ) 事業化計画に基づく償還可能性
本件融資〈2〉は、蛎殼町物件及び博多駅前物件の事業化計画のための資金とされていたが、実際には箱崎シティ開発及び博多総合開発に対する融資金は日本リースの営業貸付金に対する返済に充てられており、事業化計画は資金面から実現不可能であった。また、博多駅前物件に予定されていたビジネスホテルの建築はその地形等からみて困難であり、ビジネスホテルの収益性についての検討自体不十分であり、およそ実現可能性がなかった。蛎殼町物件についてもオフィスビルの建築という事業化計画自体は、追加投資や追加買収を必要としており、これらについて真摯に検討された形跡がなく、実現可能性がないものであった。
なお、被告Y7は、現在上記各物件について事業化が進められていると主張するが、現在進められている事業化の内容は、本件融資〈2〉において計画された内容と全く異なるものであり、むしろ当初の事業化計画が虚偽であったことを窺わせる。
(ウ) 担保物件からの償還可能性
本件融資〈2〉の担保である蛎殼町物件及び博多駅前物件の評価を検討するに、原告は3パーセントの収益還元法により蛎殼町物件の担保価値を約174億5800万円、博多駅前物件の担保価値を約46億2400万円としていた。
しかし、これは収益還元法による利回り3パーセントを根拠とする評価額であり、路線価と担保評価額が大きく乖離していること、原告における収益還元利回りの基準は本来5パーセントであるが、蛎殼町物件及び博多駅前物件は担保価格を水増しするため3パーセントの利回りで計算されていること、この収益評価自体は前記の実現可能性のない事業化計画に基づき算出したものであることなどから、担保価格の作為的な水増しがあることは明白であり、この価格による回収は全く期待できなかった。
結局、本件融資〈2〉の回収は、事業化を前提としない担保物件の価格評価によるしかないが、本件融資〈2〉が行われた平成8年当時の路線価による評価額は、蛎殼町物件22億1600万円、博多駅前物件6億3300万円であるにすぎず、貸付金195億円に対し、担保価格は合わせて14.6パーセントしかなく、それを超える部分については明らかに回収不能であった。
(エ) 日本リースからの償還可能性
被告Y7は、本件融資〈2〉について、日本リースから回収可能であったと主張するが、日本リースが本件融資〈2〉について保証をした事実はなく法的にみて保全措置がとられていたわけでないこと、実際上も既に述べたとおり(20頁の(イ))、日本リースには再建の見込みが全くなかったことから、日本リースの資金繰りから回収を受ける見込みもなかった。
ウ 本件融資〈2〉の支援としての当否
(ア) 支援の必要性
既に述べたとおり(16頁の(ア))、原告が日本リースの母体行であった事実はないから、本件融資〈2〉を支援として実施する必要はなかった。
また、原告は、対外的に平成7年度損益支援時に日本リースに対する支援終了を宣言しており、その後も支援として本件融資〈2〉を実施したこと自体無意味であったといえる。
(イ) 本件融資〈2〉の目的
本件融資〈2〉の目的は、原告が日本リースの保有する不良債権約200億円を肩代わりして、日本リースの表面上の財務内容を改善することにあったが、このような日本リースの真の財務内容を隠ぺいすることを目的とする融資は、不良債権の最終処理を先送りするためのものにすぎないから、合理性がない。
仮に本件融資〈2〉の目的が日本リースの不良債権を簿価で引き受けて実質上含み損を原告に負担させて日本リースの実質的な財務内容を改善するものであった場合でも、日本リースの不良債権が約1兆円であったのに対してわずか200億円の肩代わりであり、これにより日本リースの財務内容を改善できる見通しはなかった。
特に、原告は本件損益支援後に日本リースに対する支援の終了を宣言したにもかかわらず、日本リースに対する支援として本件融資〈2〉を実行しており、本件融資〈2〉は、表面的な支援終了宣言の綻びを繕うために行われたのである。すなわち、この支援は「対金融機関説明における長銀支援継続の象徴」という程度の意義しかなく、日本リースの再建を目標としない支援の名に値しないものであった。
かえって、本件融資〈2〉は、上記支援終了宣言に矛盾するものであり、日本リースに不良債権が隠ぺいされているとの疑念を他行に抱かせ、日本リースひいては原告の信用を損なうおそれがあった。
(ウ) 原告の償却体力
本件融資〈2〉が行われた平成9年3月末時点において、関連・親密先に対する要処理不良債権額は約1兆7063億円であったのに対して、同期における原告の有価証券の含み益は約1090億円まで減少し、原告の償却体力は著しく減退していた。
本件融資〈2〉は、当時の担保評価額でも担保割れが85.4パーセントに達し、約167億円が回収不能となることが予想され、実質的に原告による167億円の損失負担であり、これは、原告の自己資本の1パーセントを上回る金額であり、同支援による原告の負担は著しく過大であった。
(エ) 支援方法の社会的相当性
a 本件融資〈2〉は、原告が黒字会社を迂回して受皿会社に対して融資し、この融資金を日本リースの受皿会社に対する債権の返済に充てるものであったが、このような受皿会社を利用した支援の方法それ自体が日本リースの財務状況を隠ぺいする目的によるものであり、社会的相当性を欠くものである。
b また、黒字会社に対する融資であれば、金融当局の検査が甘く、不良債権に分類されることを回避することができることから、黒字のファイナンス会社であるフィットニア商事への迂回融資を実施し、しかも、名目上の事業化計画を作成し、適正な事業融資であることを装った点は、原告の株主や金融・税務当局の監視を免れようと意図したものであることから、明らかに社会的相当性を欠くものである。これは、「貸出金額は法定監査を回避すべく200億未満とする」との本件融資〈2〉に関する資料の記載から、商法上の監査を回避しようとする趣旨が窺われ、被告Y7は日本リースの不良債権を原告が抱えることとなる後向きの融資であると十分認識していた。
c 本件融資〈2〉の実質は、融資の形式を取るが、実質は日本リースに対する損益支援であって、同融資の回収不能額すなわち将来の要償却額は約167億円と予測されていた。これは、当時の原告の自己資本額1兆4700億円の約1.1パーセントに達するから、同融資は、商法260条1項2号所定の「重要な財産の処分」に該当する。
また、原告の内規においても、その損失額が自己資本の1パーセントを超えると見込まれる貸出金の償却は取締役会付議事項とされていた。
しかし、被告Y7は、本件融資〈2〉の実質が原告の損失負担支援となりうることを認識しながら、実現可能性の低い事業化計画を作成して融資の形式を取り、取締役会決議を回避したのであるから、本件融資〈2〉は履践すべき手続に違反し、銀行経営の公共性、健全性に反するものであった。
エ 損害
原告らは、本件融資〈2〉により、その未回収額195億円の損害を受けたものであり、被告Y7に対し、その内金8億円の賠償金の支払を求める。
(2) 被告Y7
ア 本件融資〈2〉の違法性
本件融資〈2〉は、以下に述べるとおり償還可能性が認められるとともに、日本リースに対する支援の一環としてなされたものであって、支援の必要性があり、かつその内容は合理的かつ相当なものであるから、取締役としての裁量判断を逸脱するものでない。
イ 本件融資〈2〉の償還可能性
(ア) 事業化による償還可能性
原告は、本件融資〈2〉につき、蛎殼町物件及び博多駅前物件に設定した根抵当権全部を譲り受け、また、フィットニア商事との間で、フィットニア商事の箱崎シティ及び博多総合開発に対する貸付金債権の譲渡予約を締結した。
上記各物件の担保価値は、原告の評価基準に従い、事業化を前提とした収益還元法を適用して、十分な担保力があると認められた。特に、原告は、約1年かけて肩代わりする物件を選定し事業化対象物件の絞り込みを行い、上記各物件の事業化資金として、195億円の本件融資〈2〉の実行を決定したのであり、物件特性に合致した適正な事業化計画の推進により、同計画完成段階では、上記各物件の転売が可能であり、同融資の当時その回収に懸念がないと判断されていた。
なお、日本リースは、不動産開発について豊富な経験を有しており、事業化のノウハウが存在しており、また不動産市場の低迷が継続し売却による回収より事業化の方が有利な状況も存在しており、キャリングコストの圧縮等の要請から事業化を企図する方策を採用したのであり、名目であったということは全くなかった。
実際上も、現在、上記2物件については、事業化が進められている。
また、原告は、当時の金利水準を考慮し還元利回り3パーセントとしたのであるから、不当な水増し評価をしたわけではない。
(イ) 日本リースからの償還可能性
本件融資〈2〉は、日本リースの資金繰りからの返済も可能であった。
日本リースは、原告からの支援を受けて、平成9年3月期において、未処理不稼働資産のキャリングコストを吸収し、年間200億円の基礎収益力を挙げうる水準まで回復していた。
ウ 本件融資〈2〉の支援としての当否
(ア) 支援の必要性
原告は日本リースの母体行であり、原告による日本リースの支援が必要なものであったことは既に述べたとおり(30頁のイ)である。
本件損益支援は、日本リースに融資していた金融機関から高い評価を受けていたが、住友信託などの主力銀行は、本件損益支援に加えて日本リースの資金負担軽減のための資金支援を期待しており、原告は日本リースの母体行として他行の信頼を維持し、日本リースの借入残高の維持を図ることが最大の課題であった。
日本リースに対する資金支援の実施により、同社の財務状況はその分好転し、また、日本リースに対する原告からの追加出資や、日本リースの資金負担軽減のための支援を求める取引金融機関の要請にも応えることができた。特に、日本リースの取引金融機関は、日本リースの不動産保有事業化会社に対する融資金の圧縮を求めており、原告がこれに応じない場合、取引行は日本リースへの取引を消極に移行させ、原告の母体行としての信頼が喪失する危険があった。
さらに、日本リースは事業化可能不動産を抱え、その一部を肩代わりし、日本リースの資金負担を軽減し、かつ、受皿会社への移転により事業化を可能とするなど、その必要性は高いものであった。
(イ) 本件融資〈2〉の目的
本件融資〈2〉の目的は、本件損益支援に引き続いて、日本リースを短期間に自転させて、実質債務超過状態の解消に向けて自転体制を軌道に乗せるものであった。すなわち、本件損益支援と一体となって、日本リースの受皿会社に対する営業貸付金を圧縮し、日本リースの資金調達基盤を保持することを目的としていた。
日本リースが自転可能な経営状態となれば、日本リースは、他行からの借入残高を維持し、資金調達の安定化を図ることができるから、その目的は合理的なものであった。
(ウ) 支援体力
本件融資〈2〉は資金支援であり、償却体力は問題とならない。
(エ) 受皿会社の利用の相当性
a 既に述べた被告らの主張(39頁の(イ))を援用する。なお、受皿会社の枠組みは共同債権買取機構の枠組みと基本的な枠組みは同一であり、不良債権を隠ぺいする手法でないことは明白である。
b また、本件融資〈2〉は、原告の日本リースに対する資金支援として行われたものであり、損益支援とは全く異なるものであるから、手続の履践を怠った事実もない。
被告Y7は、常務役員連絡会及び特定債権対策委員会において担当所管部の検討結果に基づき、慎重に情報を分析し、本件融資〈2〉の決定に至ったものであり、その決定の過程には瑕疵はない。
4 本件融資〈3〉についての被告Y1、被告Y3、被告Y4、被告Y6、被告Y7及び被告Y2の原告に対する善管注意義務違反ないし忠実義務違反による損害賠償責任の有無(争点4)
(1) 原告ら
ア 本件融資〈3〉の違法性
本件融資〈3〉は、以下に述べるとおり、償還可能性がないのみならず、支援融資としても、支援の必要性及び支援内容の合理性を欠き、また支援方法が著しく社会的相当性を欠いたものであり、このような融資を行うことは取締役の善管注意義務に反する。
イ 本件融資〈3〉の償還可能性
(ア) 神谷町土地建物からの償還可能性
神谷町土地建物は、何ら事業収益のない、埼玉県児玉郡児玉町〈以下省略〉の土地(以下「児玉物件」という。)、長野県北佐久郡軽井沢町〈以下省略〉の土地(以下「軽井沢物件」という。)及び広島県福山市〈以下省略〉の土地(以下「福山物件」という。)を引き取って管理するだけの、いわばペーパーカンパニーにすぎないものであり、同社の事業収益から本件融資〈3〉が回収される可能性は全くなかった。
(イ) 本件3物件の事業化計画による償還可能性の欠如
児玉物件、軽井沢物件及び福山物件(以下「本件3物件」という。)は、開発に時間を要する物件として、神谷町土地建物に移管されており、上記各物件を開発しその事業化による収益から償還を受けることも不可能であった。
(ウ) 本件3物件の担保価値
本件3物件の買取価額は、ランディックが原告に提示した買取希望額を下回ることのないように作為的に行われた鑑定評価額を基準とした、通常の市場価額より明らかに高値で買取りが行われており、これらの物件を換価処分して、本件融資〈3〉の回収を受けることも不可能であった。
しかも、地価は平成3年以降一貫して下落傾向にあり、本件融資〈3〉の時点においても、地価は全く回復する傾向をみせておらず、さらに下落する可能性もあり、近い将来地価が回復して買取価額以上で換価処分できるという予想を立てることもあり得なかった。
ウ 本件融資〈3〉の支援融資としての当否
本件融資〈3〉は、平成7年3月に決定された支援方針の一環とみてもこれを是認することはできない。すなわち、支援融資として銀行が損失を甘受することが許されるのは、支援の必要性、支援内容の合理性(支援目標設定の合理性、支援目標の実現可能性、償却体力及び負担の性質と程度)及び支援方法(手段)の社会的相当性の3要件を満たすものであることが必要であるところ、本件支援はこれらの点について情報収集・分析、検討がなされておらず、かつ支援についての判断内容も著しく合理性を欠くものである。
(ア) 本件支援の必要性
前記の関連会社通達によれば、ランディックは、「適正化措置済み会社」(不動産業務など関連会社通達にいう関連会社に行わせてはならない業務を既に行わせていた場合に、当該会社と金融機関との関係を適正化するため、通達等所定の措置を講じられている会社)であり、関連会社には該当しなかったのであるから、原告はランディックに対して母体行責任を負っていなかった。また、仮に、原告が関連・親密先ノンバンクに対して母体行責任を負っていたとしても、これ自体法的な責任ではなく、放棄することも可能であったのであり、支援する場合と支援しない場合における、原告の経営に対する影響や損失の程度を十分に検討すべきであったところ、これらの検討が全く行われておらず、支援の必要性について十分な情報の収集・分析、検討が行われていなかった。
(イ) 支援の合理性
支援の合理性ありというためには、少なくとも支援時から5年程度の期間内に支援先企業が自転可能になるという目標を合理的に設定することができる場合であることが必要であるところ、本件支援はランディック本体の黒字維持のみを目標としたものであって、ランディックをどのような内容の会社として再建させるのかについての検討はほとんどなされておらず、展望のない先送りに過ぎないものであって、支援により発生する原告の損失ないし負担は結局は水泡に帰するものであり、これに見合う長期的利益を見込めるものではなかった。
実際にも、本件融資〈3〉を含む支援計画により、合計1879億円の資金支援を受けて、その結果46億円の支払金利等のキャリングコストの軽減を受けたにもかかわらず、財務状況は悪化し、平成7年度末において実質債務超過となっており、上記支援は何の効果もなかった。
(ウ) 償却体力
本件支援はランディックの再建について完全母体行責任を認めることとなるものであるが、本件支援を決定した平成7年3月17日の時点では、原告の業務純益は809億円で、しかも実力業務純益は610億円の赤字であり、有価証券の含み益は4380億円まで落ち込んでいたが、他方、支援の対象となる原告の関連・親密先の不稼働資産の要処理額は、平成7年3月末には営業貸付金のみを対象とした不稼働資産(延滞債権、固定化債権及び要注意先債権)が9905億円で回収不能見込額が6327億円であり、その他の不動産含み損等の要処理額は8837億円に達していたのであるから、当時の原告の体力に照らして、原告が抱える他の関連・親密先ノンバンクの支援と並行処理することが可能であるかどうかが重要な問題となるところ、この点についての検討を行っていない。
また、平成3年以降の地価の下落傾向の定着した時期に受皿会社により大規模な不動産引取りを行うことは、原告自体が不動産価格下落のリスク及び将来発生するキャリングコストを全て負担することになり、原告に多大な損害を与えるおそれがあったにもかかわらず、原告自体に発生する将来リスクの分析・検討が行われていない。
(エ) 本件融資〈3〉による損失の拡大
本件融資〈3〉は、神谷町土地建物がペーパーカンパニーである以上、神谷町土地建物が本件3物件を保有することによる、会社の維持費用、本件3物件にかかる公租公課や管理費用などのキャリングコスト、さらには上記融資に係る利息等の全てのコストを、原告が追い貸しにより負担しなければならないものであった。さらに、地価の下落により本件3物件に発生する含み損は全て原告が負担しなければならず、上記のとおり地価の下落傾向は顕著であって、本件融資〈3〉の時点において、原告がさらなる損害を負担しなければならなくなることは明らかであった。
(オ) 支援の社会的相当性(受皿会社方式の相当性)
受皿会社を利用して不稼働資産を移転する目的は、不稼働資産の実態がランディックの債権者を含む利害関係者に知られることを避けるところにあり、銀行業務の公共性、健全性の要請に照らし、その方法において著しく不当である。すなわち、原告の連結対象会社ではなく財務内容の開示が不要とされる受皿会社を利用してランディックの財務状況を好転させることにより、ランディックの見せかけ上の資産健全化がなされ、問題が先送りされ、不良債権処理が解決したかのように認識されるが、ランディックの不稼働資産の含み損の解消は原告の受皿会社の負担の下で行われており、その意味で真実不稼働資産の含み損を解消したことにならず、表面的にランディックの決算に顕れないように化粧したにすぎないものであって、著しく相当性を欠く。
とりわけ、受皿会社による本件3物件の取得価額は、取得時の路線価価額と比較しても、約1.5倍から約22.2倍と著しく高額であり、意図的に実勢価格よりも高値で取引をしており、人為的な価額評価を行って、不良債権を隠ぺいしようとしたことは明白である。また、このような正常な商取引ではあり得ない高値による物件の取引を時価による取引であると装うことは、実質上会計書類に虚偽の記載をすることとなり、会計処理上も許されない。
さらに、神谷町土地建物が本件3物件を引き取るという枠組みは、原告がその支配下にある受皿会社を介して不動産業を営むこととなり、長期信用銀行法の許容する範囲を超えて業務を営むこととなることからも、本件支援は許容されないものというべきである。
エ 被告らの関与
被告Y6は、本件融資〈3〉に係る専決極度を決裁しており、同融資の実行を承認した点について、また、被告Y2は、当時営業企画グループの統括部長であり、本件融資〈3〉の枠組みを十分に認識して、その実行に実質的に関与した点について、善管注意義務違反ないし忠実義務違反がある。
被告Y4は、当時ランディック及び神谷町土地建物を所管していた関連事業部の属する企画グループを担当する、原告の代表取締役副頭取として、被告Y7は、同企画グループを担当する同代表取締役副頭取として、本件融資〈3〉の枠組みを実質的に策定した点について、善管注意義務違反ないし忠実義務違反がある。
被告Y1は、原告の代表取締役会長として、被告Y3は、代表取締役頭取として、原告の業務執行を統括的に執行あるいは監督する立場にあったところ、被告Y1は、本件融資〈3〉の枠組みについて協議した経営会議を主宰し、被告Y3は、上記経営会議に出席するとともに、神谷町土地建物を含む受皿会社の設立を決裁し、本件融資〈3〉に関わったものであり、本件融資〈3〉の実行を阻止すべき義務があったのに、これを怠った点について、善管注意義務違反ないし忠実義務違反がある。
オ 損害
本件融資〈3〉は、その全額が未回収であり、原告はこれにより融資と同額の5億6500万円の損害を被った。
そこで、原告らは、被告Y1、被告Y3、被告Y4、被告Y7、被告Y6及び被告Y2に対し、上記損害の内金1億の賠償金の支払を求める。
(2) 被告Y1、被告Y3、被告Y4、被告Y6、被告Y7及び被告Y2
ア 本件融資〈3〉の違法性
本件融資〈3〉は、以下に述べるとおり償還可能性が認められるとともに、ランディックに対する支援の一環としてなされたものであって、支援の必要性があり、かつその内容は合理的かつ相当なものであるから、取締役としての裁量判断を逸脱するものでない。
イ 本件融資〈3〉の償還可能性
本件融資〈3〉は、ランディックに対する支援の一環として原告が一定の負担をすることを想定したものであり、通常の融資による償還可能性と判断の過程が異なるが、以下のとおり一応の回収の見込みが存在した。
(ア) 事業化による償還可能性
本件融資〈3〉の回収原資は事業化後の物件売却であり、同融資の時点において、地価が必然的に下落することを予見できず、事業化が不可能なことも確定されていないのであるから、物件引取後の短期間内に元利金の回収ができなかったからといって、償還可能性がないということはできない。
(イ) 本件3物件の担保価値
本件3物件の鑑定評価額は、買取希望額に見合うように作為的に行われたものではなく、各物件の特性に応じて、許容される幅の中で適正に時価評価を行った鑑定結果であり、正当な価格であるといえる。
また、当時不動産市場は完全に機能を喪失し、物件の取引がほとんど行われず、不動産に対する市場価格は存在していなかったのであり、適正な鑑定価格を時価とみることは何ら不合理ではなく、路線価はそのまま市場価格を示すものでもなかった。
ウ 本件融資〈3〉の支援としての当否
(ア) 本件支援の必要性
ランディックは原告グループにおける不動産関連業務の中核を担う存在であって、原告と一体となって取引先の不動産関連ニーズに対応する役割を果たしており、原告の今後の経営戦略上不可欠の存在であった。原告がランディックの母体行であることは明白であり、原告が母体行としての支援姿勢を明確にすることをランディックの取引金融機関等は強く求めており、原告がこれに応えない場合は、各金融機関等がランディックに対する融資の回収に走ることが懸念され、その場合原告単独でこれを支えることは不可能であるのみならず、原告グループの他のノンバンクの支援に対する協力も得られなくなり、原告自体の信用が大きく毀損されることは明らかであった。さらに、金融機関等から原告が発行する金融債の引受けを拒絶され、原告の資金調達が窮地に陥ることが必至であった。そして、セーフティネットが存在しない当時の状況においては、このような金融システムを崩壊させる危険のある事態はなんとしても回避しなければならないと考えられており、本件において支援を行う必要性があったことは明らかである。
なお、ランディックは、関連会社通達において、適正化措置済み会社であったが、前記のとおり(30頁の(ア))、同通達により母体行かどうかが決定されるものではない。
(イ) 支援の合理性
本件支援の目的は、原告の支援姿勢を鮮明にすることにより、他行からの返済圧力をかわし、融資を繋ぎ止めるために実施されたものであり、それに見合う成果が出ている。
本件支援は、資金支援、受皿会社による不動産引取り、損益支援及びランディックの自助努力から成り立っていたが、このうち損益支援は国税当局の了解を得て後日実施するものとされていた。
また、受皿会社を用いた支援は、キャリングコストを押さえてランディックの赤字の累増を止め、受皿会社に移した不動産については時間をかけて活性化することを目的としたものである。そして、資金支援や受皿会社による物件取得によるキャリングコストの軽減や金利の削減により、ランディックに年間46億円の収益改善効果があるものと試算されていた。
さらに、当時、地価は下げ止まりの感があり、行政当局も不良債権の処理は時間をかけて段階的に行うとしていたことに照らしても、本件支援は合理的であった。
(ウ) 償却体力
本件融資〈4〉は資金支援であり、償却体力は問題とならない。
原告は、平成7年3月期に3433億円の不稼働資産の処理を行ったが、なお1兆9000億円余りの償却体力を有しており、平成8年3月期からは、高利率の金融債の償還も終わり、業務純益は2000億円台に達することが見込まれていた。そして、同期は実際に2036億円の業務純益を計上し、償却体力も6500億円の不良債権を処理したにもかかわらず、2兆0200億円台に増加しているのであって、このような原告の体力からすると本件支援を行うことにより原告の存立を危うくする懸念はなかったものというべきである。
(エ) 本件融資〈3〉による損失拡大
本件融資〈3〉の時点において、景気は回復基調にあり、地価も下げ止まるという予想が立てられていたのであって、必然的に地価が下落することなど全く予見することはできなかったのである。
さらに、原告がキャリングコストを負担する点や、地価の下落による含み損の発生によるリスクを負担する点は、本件融資〈3〉が支援融資としての性格を有する以上当然のことであり、また、原告がキャリングコスト等を追い貸しする点も、立ち上がり時の運転資金を貸し付けるのであって、単なる赤字運転資金の補てんやそのための資金の追い貸しとは全く性格を異にするものである。
(オ) 本件支援の社会的相当性
神谷町土地建物の本件3物件の買取価格は鑑定評価に基づいており、原告らの主張するように時価を大きく上回る価格で引き取ったわけではない。
そして、このように時価による取引であることから、ランディックにおいて生じていた取得価格と時価との差額(含み損)は、従来会計上顕在化しないでいたが、時価をベースとした取引をすることにより、譲渡損失として表面化して計上され、会計帳簿上健全化されることから、ランディック及び原告のいずれにおいても隠ぺいがないことは明白である。したがって、支援の方法としても相当性に欠けるところはない。
また、神谷町土地建物の株主構成は、日比谷総合開発株式会社(以下「日比谷総合開発」という。)が40パーセント、新橋総合開発株式会社(以下「新橋総合開発」という。)が30パーセント、有楽町総合開発株式会社(以下「有楽町総合開発」という。)が30パーセントであり、原告は直接の株主ではなかったのであるから、原告が実質的に不動産業を営むということはできない。むしろ、当時、行政当局は特別目的会社を用いて流動化手法の活用による不良債権処理を進めることを奨励しており、このことからも、本件融資〈3〉の枠組みが社会的にみて相当な方法であったことは明らかである。
(3) 被告Y3
被告Y3は、神谷町土地建物の設立について決裁したが、本件融資〈3〉はこの決裁行為とは無関係であり、上記設立自体の決裁と本件融資〈3〉による損害との間には何らの因果関係もない。また、被告Y3は、本件融資〈3〉の当時、既に辞任しており、同融資の決定実行には全く関与しておらず、善管注意義務違反はない。
5 本件融資〈4〉についての被告Y4及び被告Y7の善管注意義務違反による損害賠償責任の有無(争点5)
(1) 原告ら
ア 本件融資〈4〉の違法性
本件融資〈4〉は、償還可能性がなく、支援融資としても必要性及び合理性を欠き、さらに原告自体の破綻回避を目的とした融資としても、原告の破綻の危険を除去するための具体的な見通しもないままその健全性を装うためだけの問題先送り融資であり、違法な融資である。
イ 本件融資〈4〉の償還可能性
本件融資〈4〉は、ランディックの当時の収益及び財務状況、さらには原告自身が債権放棄を予定していたことからして、償還可能性のないことは明らかであり、現実にも、平成9年度において、ランディックに対して、予定されていた1973億円の損益支援が実行されたが、その半年後の平成10年8月にランディックから1100億円の債権放棄という追加支援を求められ、ランディックの収益状態が著しく悪化していたことは明らかである。
ウ 本件融資〈4〉の支援融資としての当否
本件融資〈4〉は支援のための融資あるいは破綻回避のための融資であったとしても、その必要性及び支援内容の合理性を欠くものであった。
(ア) 必要性
ランディックは、既にバブル期における不動産戦略の失敗によって、原告の関連・親密先及び受皿会社の不稼働資産を事業化のため抱え込んでいたが、その不稼働不動産の事業化・活用も破綻しており、被告らとしては、不動産会社としてランディックを存続させることの可能性や利害得失も含めて検討すべきであったが、全くこれをしなかったのであり、本件融資〈4〉によりランディックを再建できるという見通しがなかった以上、本件融資がランディック再建のための適法な融資ということはできない。
なお、被告らは、本件融資〈4〉の必要性として、金融システム全体の安定を主張するが、このような点が実際に本件融資〈4〉の当時に考慮されたかどうか疑問であり、必要性の根拠となり得ない。
(イ) 合理性
本件融資〈4〉は、他行による回収資金を肩代わりするものにすぎず、ランディックの収益状態の改善をもたらすものでなかった。
また、本件融資〈4〉を含む関連・親密先ノンバンクに対する肩代わり融資を決定した平成9年11月10日の常務会においては、これらの融資の目的を他行からの資金回収の圧力回避のためとするが、実際上積極的な肩代わりを行うことにより、原告の肩代わり融資がどの程度減少するか検討された形跡もなく、その点からも不合理な内容であった。
(ウ) 原告の償却体力
原告の収益状況は、平成10年3月期に業務純益1647億円を計上したが、これは既に述べたとおり(23頁の(ウ))、利益の先取りによって嵩上げされたものであり、いわゆる早期是正措置導入に伴う自己資本比率達成のための急激な貸出金などの資産圧縮による利息収入の減少やスワップ手数料の減少により収益が先細りする状況であった。
加えて、原告の資金繰りは、原告の主要な資金調達源である金融債の発行残高が減少し、平成9年以降月間平均約1000億円ずつ減少しており、原告は、短期市場性資金(金融機関相互の短期間の資金の過不足を調整するいわゆるコール市場における貸し借り)の調達に依存するようになり、手許資金の余剰がいつ枯渇してもおかしくない状況であった。
本件融資〈4〉は、ランディック本体の収益が改善されることを期待することができなかったばかりか、中途半端な支援により原告の体力をさらに消耗させ、自立して業務を遂行し得る状態を維持するのに危険を及ぼすおそれすらあったのである。
(エ) 小括
以上のとおり、本件融資〈4〉が支援融資であるとしても、支援の必要性及び支援内容の合理性を欠くものであったというべきである。
エ 本件融資〈4〉の破綻回避融資としての当否
本件融資〈4〉が破綻回避の融資として合理性が認められるためには、〈1〉当該融資により相当な期間内に原告の破綻を回避することのできる具体的・客観的目途が存する場合、又は〈2〉かかる破綻回避の具体的・客観的目途が存在しない場合には、当該融資を行うことなく原告が破綻する場合に比べて、原告の資産状況が改善される具体的・客観的目途が存在する場合でなければならない。なぜなら、このような具体的な見通しもないまま、自らの健全性を装い、ただ延命を図るために一時しのぎの融資を継続することは、銀行業務の公共性に反するのみならず、銀行自体の破綻回避にもつながらず、結局は破綻時の損害を拡大することになるからである。
原告は、当時大手格付機関により格付が引き下げられ、株価も一貫して下落し、既に市場における信用が著しく低下しており、原告自体の経営状態を改善するための具体的再建計画も存在していなかった。
本件融資〈4〉の決定は、原告自体の破綻の危険を除去し得る合理的かつ具体的施策を伴わない融資であり、具体的な見通しもないまま、その健全性を装い、いたずらに延命を図るため、一時しのぎの融資を継続するとの経営判断であったにすぎないと評価すべきであり、著しく不合理なものであったといわざるを得ない。
なお、被告らは、SBCとの提携やこれに伴う経営再建計画があったと主張するが、原告の再建計画自体その場のしのぎの内容であり、関連・親密先ノンバンクの不稼働資産について抜本的な処理を回避するものであって、再建というに値しない内容であった。
したがって、本件融資〈4〉は破綻回避融資とみても、問題の先送りにすぎず、何ら意味のないものであった。
オ 損害
本件融資〈4〉については、少なくとも、純増分のうち210億円がその後に債権放棄され、回収不能が確定しており、少なくとも同額の損害を被った。
そこで、原告らは、被告Y4及び被告Y7に対し、上記損害の内金4億円の支払を求める。
(2) 被告Y4及び被告Y7
ア 本件融資〈4〉の違法性
本件融資〈4〉は償還可能性が認められ、しかも、関連・親密先に対する支援融資であり、かつ原告自体の破綻回避を目的として行われたものであるから、合理的なものであった。
イ 本件融資〈4〉の償還可能性
原告は、平成9年3月に、ランディックに対する5年間で2100億円の損益支援を主体とする支援方針を決定し、ランディックの財務内容の抜本的改善・自転体制の構築を進めていた。すなわち、平成9年3月に約300億円の債権放棄を実施し、他行の信頼を繋ぎ止め、折り返し融資が実現できた。さらに、平成9年度においては、早期是正措置の導入を控え、他行は、不稼働資産に対する償却・引当、自らのグループ企業に対する支援を強化しており、ランディックに対する損益支援は、平成10年3月に支援計画の全額を前倒しして実行された。
これにより、ランディックの収益状態は改善される見通しであり、本件融資〈4〉には回収の見込みがあった。
ウ 本件融資〈4〉の支援又は破綻回避融資としての当否
(ア) 本件融資〈4〉の必要性
平成9年11月には、三洋証券株式会社(以下「三洋証券」という。)、株式会社北海道拓殖銀行(以下「拓銀」という。)、山一證券株式会社(以下「山一證券」という。)が相次いで破綻し、金融機関に対する信用不安は、日本発の世界恐慌を引き起こす危険性があった。仮に、原告が、ランディックに対し、本件融資〈4〉を実行せず放置すれば、同社の資金繰り破綻は避けがたく、これを契機に他の関連・親密先ノンバンクから他行資金が引き揚げられて、これらのノンバンクが連鎖的に破綻する危険があった。その結果、原告自体の信用失墜や原告の発行する金融債の購入停止など原告の資金繰りに対する致命的な影響ひいては原告の破綻が予想される状況であった。
(イ) 本件融資〈4〉の合理性
本件融資〈4〉は、このような事態を回避するとともに平成9年3月からの損益支援により再建途上にあるランディックが資金繰り破綻をきたさないためのつなぎ融資として供与されたものであった。
また、原告は、当時、いわゆる中期計画及びSBCとの提携を通じて、原告のグループ全体の投資銀行としての立ち上げを図っており、本件融資〈4〉は、原告グループ全体の再建が前提となっていた。
さらに、原告の資金繰り面においても、能動的な資金繰りの結果、受動的な資金繰りと比較して、半分程度の資金繰りの手当で済むと予想されていた。
(ウ) 原告の償却体力
原告は、平成10年3月期において、業務純益1647億円を計上し、上記の投資銀行業務の立ち上げなどにより、今後収益の増加が見込まれていた。
また、原告は、平成10年1月以降の円貨手許資金余剰は計画を上回る十分な余剰があり、原告として、当時、資金繰り破綻が懸念されるような状況ではなかった。
(エ) 小括
以上の点から、本件融資〈4〉が支援融資として合理性があることは明らかであった。
6 本件融資〈5〉についての被告Y4及び被告Y7の善管注意義務違反ないし忠実義務違反による損害賠償責任の有無(争点6)
(1) 原告ら
ア 本件融資〈5〉の違法性
本件融資〈5〉は、償還可能性がなく、また、原告自体の破綻回避の目的であっても、原告の破綻の危険を除去するための具体的な見通しもないまま、先送りとして行われたものであって、違法な融資である。
イ 本件融資〈5〉の償還可能性
NEDは、平成2年度以降継続的に業況が悪化し、同社の本業のベンチャーキャピタル部門は、総資産に比し10パーセントに満たない規模であって、収益がほとんど挙げられない状態であったから、同事業によって、NEDの業況が好転することは到底期待できない状況であった。
また、当時、営業貸付事業のうち消費者金融向け融資はNEDの数少ない収益源であったが、平成9年11月10日の常務会において、同事業は資産圧縮対策の対象と明確に位置づけられ、同事業による収益性の向上も見込める状況にはなかった。そして、本件融資〈5〉の使途は、収益性の高い優良資産取得に向けられたものではなかったから、当時、NEDの業況を好転させる要因は全くなかった。
特に、原告は、平成9年11月10日時点において、NEDを将来清算するしかない会社であると評価しており、同社の業況が客観的に見て清算するしかないほど悪かったこと及び原告がNEDの業況の好転を図って本件融資〈5〉を回収する意思を有していなかったことのいずれもが明らかである。
さらに、平成7年10月末以後、NEDに対して実施された融資について、平成9年11月の時点でその返済を全く受けていないこと、上記常務会においてNEDに対する資金支援として平成11年度までに1004億円を融資するとの前提に基づき、本件融資〈5〉が行われたが、他方、原告のNEDに対する債権について平成13年度までに合計2950億円放棄することが決定されていたことなどを考慮すると、平成9年11月以降、本件融資〈5〉を実施した場合には、その回収が見込まれなかったことは明らかであり、本件融資〈5〉は全く償還可能性がなかった。
ウ 本件融資〈5〉の支援又は破綻回避融資としての当否
本件融資〈5〉は、支援又は破綻回避のためであっても、必要性及び合理性を欠くものであった。
(ア) 本件融資〈5〉の必要性
本件融資〈5〉が、NEDの破綻に起因する原告の破綻を回避することなどを目的として行われたものである場合、NEDの破綻が原告の破綻へ連鎖するという関係が必要であるが、NEDは親密取引先であって原告の関連会社でないこと、NEDの破綻が他の関連・親密先ノンバンク及び原告の破綻への連鎖したことを示す客観的状況は存在しなかったから、本件融資〈5〉は、破綻回避の必要性自体が認められない。
さらに、本件融資〈5〉は、原告以外にNEDに対して母体行責任を負担する可能性のある株式会社第一勧業銀行(以下「第一勧銀」という。)に対して、何ら支援要請がされることなく実施されており、必要性の検討及びその存在が不十分であったことが明らかである。
(イ) その他の主張
前記の原告らの主張(69頁の(1))を援用する。
エ 損害
原告は、平成9年10月1日以降、〈1〉NEDから直接原告に弁済された2億5172万6917円、〈2〉NEDの預金と相殺して回収された5665万8901円、〈3〉担保株式の処分により回収された20億1868万6700円の合計23億2707万2518円を回収しているが、少なくとも、本件新規融資分207億円から、上記回収金合計23億2707万2518円を差し引いた残額183億7292万7482円に相当する損害が原告に生じていることは明らかである。
そこで、原告らは、被告Y4及び被告Y7に対し、上記損害の内金3億円の支払を求める。
(2) 被告Y4及び被告Y7
ア 本件融資〈5〉の違法性
本件融資〈5〉は償還可能性が認められ、しかも、関連・親密先ノンバンクに対する支援融資として、原告自体の破綻回避の目的として行われたものであるから、合理的なものであった。
イ 本件融資〈5〉の償還可能性
NEDについては、完全に清算するのではなく、追加の損益支援により、不稼働資産を処理し、不採算部門を整理して、本業のベンチャーキャピタル部門によって再生する計画が立てられており、本件融資〈5〉は一応回収が見込まれていた。
ウ 本件融資〈5〉の支援又は破綻回避融資としての当否
原告はNEDの母体行であり、これを支援する必要があった。また、原告が母体行と認識されていた以上、第一勧銀に負担を求めることは不可能であった。その余の点については、前記の被告Y4及び被告Y7の主張(73頁のウ)を援用する。
7 訴訟要件等(訴訟引受けの効力、訴権濫用)の有無(争点7)
(1) 被告ら
権利の被承継人である原告が、権利の承継人である原告引受人に対して行った本件訴訟引受けの申立ては法律上許されず、原告引受人は当事者適格を欠くから、同引受人による訴えは却下されるべきである。
(2) 被告Y8
原告は、勝訴の見込みがあり、かつ資力に問題なく回収確実な別件の更正処分取消訴訟を取り下げて、他方、資力に乏しい被告Y8を相手に本件訴訟を提起しており、訴訟上の信義則に違反し、権利の濫用である。
(3) 原告ら
争う。
第5 当裁判所の判断
1 経営危機状況にある企業を支援するに当たっての銀行の取締役の責任
(1) 注意義務の内容
銀行も営利を目的とする法人であることから、銀行の取締役は経営を行うに当たっては収益の増大に努める義務があるが、他方で、銀行が不特定多数から借り入れた資金を自らリスクを負担して他に貸与するという金融仲介機能を果たすなど、信用秩序の根幹を担う公共性を有することから、銀行法を始めとする各種規制に服している趣旨に鑑み、その経営の健全性及び安全性に格段の配慮を払うことが求められている。
本件訴訟においては、いずれも経営危機状況にある融資先に対する支援の在り方が問われているが、このような局面においては、まさに損失の発生が見込まれる状況であることから、銀行の取締役としては損失を如何にして最小化し、経営の安全性を確保するかという観点から最善の努力を行うことが期待されているというべきである。
すなわち、このような状況において、銀行の取締役は、金融・経済情勢、融資先の財務・経営状況、融資先と銀行との間の関係の濃淡、他の取引債権者の状況等を踏まえた上で、支援をしない場合に見込まれる損失、すなわち、融資先の破綻により回収不能が見込まれる既存の貸付金や出資金、さらには他の取引債権者との間で銀行が負担を求められる可能性のある損失などの直接的損失(破綻処理コスト)のみならず、融資先を支援せずに破綻させたことにより銀行が被るおそれのある社会的批判や信用失墜、銀行の系列会社の取引や銀行の資金調達コストに与える悪影響、さらには既存の取引先の離反や将来の取引機会の喪失などの2次的・間接的な損失をも的確に把握し、これらを最小化する方策を検討する必要がある。他方で、支援を行う場合の想定として、融資先の再建計画の実現可能性、再建のために必要となる総資金量、支援先及び他の債権者等との間の分担の可否及び負担の方法を検討の上、支援によって負担することが相当と考えられる必要最小限度の救済コスト及び支援先に対して残存する貸付金等についての回収不能リスクを把握しなければならない。そして、以上のような観点から、支援をしない場合と支援を行う場合に見込まれる損失を幅広く情報収集・分析、検討した上で、後者が前者よりも小さい場合、すなわち支援により負担する損失を上回るメリットが得られる場合にのみ、支援を行うことが許されるものというべきである。
さらに、上記のとおり、銀行業務が公共性を有し、その経営に健全性と安全性が求められていることからすると、支援により銀行が負担する損失が余りにも大きく、支援を行うこと自体が銀行の経営の安定性を揺るがす場合には、支援を行うことが許されず、また支援の方法も銀行業務の公共性に照らし社会的相当性を備えたものでなければならない。
(2) 経営判断の原則
しかしながら、このような判断は、情報の非対称と多数の経済主体間の複雑な相互依存関係の中において、これを取り巻く諸情勢を踏まえた専門的かつ総合的判断であることから、情勢分析と衡量判断の当否は、意思決定の時点において一義的に定まるものではなく、取締役の経営判断に属する事項としてその裁量が認められるべきであり、いわゆる経営判断の原則が妥当する。
したがって、本件各支援行為について取締役の責任を問うためには、取締役の判断に許容された裁量の範囲を超えた善管注意義務違反があったか否か、すなわち、意思決定が行われた当時の状況下において、原告と同程度の規模を有する大銀行の取締役に一般的に期待される水準に照らして、当該判断をするためになされた情報収集・分析、検討が合理性を欠くものであったか否か、これらを前提とする判断の推論過程及び内容が明らかに不合理なものであったか否かが問われなければならない。
上記判断においては、金融の専門家たる銀行の取締役としての幅広い観点からの分析が求められているというべきであるが、それはあくまでも意思決定の行われた時点における情勢を前提とした予測的判断であるべきであり、特に本件のように意思決定の時点から今日までの間に金融環境等の諸情勢に著しい変化の見られる事案においては、今日的視点からの回顧的判断は慎まなければならない。
(3) 個々の支援行為についての経営判断の背景となる事情
既に述べたとおり、本件各支援行為の経営判断の当否を判断するに当たっては、個別案件に特有の事情とともに、その背景となった金融・経済情勢の推移等をも勘案する必要があるが、このような観点から関連性を有する事情につき、証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり認めることができる。
ア バブル経済の崩壊と不良債権の増加
昭和60年9月22日のプラザ合意により、急激な円高・ドル安が進行したことから、円高による不況を回避するために、公定歩合の引下げ等の金融緩和が行われ、公定歩合は昭和62年2月23日には2.5パーセントまで引き下げられた。このような金融緩和策等により、いわゆるバブルが発生し、株価は、上記プラザ合意の時点で1万5000円を下回っていたが、その後急激に上昇し、ピーク時の平成元年12月29日には日経平均株価は3万8915円87銭にまで上昇するとともに、地価も著しく上昇し、全国の公示地価は昭和60年から平成2年までの間に約2倍に達し、東京・大阪・名古屋の大都市圏において3倍近くにまでなった。
昭和50年代に入って、経済の安定成長化及び金融自由化による企業の資金調達方法の多様化を背景として、大企業の銀行離れが見られる中で、銀行は、バブル期においては、収益拡大のために中小企業や個人マーケットを重視し、不動産担保に依存した融資を競って拡大させた。さらに、銀行と比較して規制の緩やかなノンバンク(預金の受入れを行わないが、貸出機能を有する会社)による不動産関連融資も急激に増加した。
しかし、資産インフレの進行に対する懸念や地価上昇が社会問題化したこと等から、日銀は平成元年5月31日から平成2年8月10日までの間に6回の公定歩合の引上げを実施し、公定歩合は6パーセントまで引き上げられ、また大蔵省は、平成2年3月27日、銀行等の不動産業向け貸出額の増勢を総貸出の増勢以下に抑制する銀行局長通達(「土地関連融資の抑制について」)を発出し、いわゆる総量規制を導入した。さらに、平成3年5月に地価税法が制定され、土地保有税が強化されるなど、政策は、金融引締め策、地価抑制策に転じた。これにより、株価は、平成2年10月には日経平均株価が2万円台を割り、平成4年8月28日に1万4309円まで下落し、地価も次第に下落し、資産価格のバブルが崩壊した。これを受けて、日銀は、平成5年2月4日までに公定歩合を2.5パーセントまで引き下げ、大蔵省は、平成3年12月20日に、総量規制を解除した。
しかしながら、総量規制の解除や公定歩合の引下げによっても、地価の下落は依然継続し、公示地価の全国平均(全用途)は、前年度との比較において、平成4年4.6パーセント、平成5年8.4パーセント、平成6年5.6パーセントと下落を続けた。このため、経営基盤の脆弱な不動産業者等の資金繰りが急激に窮迫し、相次いで経営が破綻したため、都市圏で不動産関連融資を拡大してきた金融機関やノンバンクは、大量の不良債権を抱える結果となった。
原告も、大企業の資金需要の減少や間接金融の優位から直接金融の拡大という金融情勢の変化の中で、Y3頭取の下で、平成元年3月、平成6年3月までの5年間の経営計画を定める第6次長期経営計画を策定し、ミドルマーケットと呼ぶ中堅・中小企業向け融資や不動産関連融資を積極的に拡大するという経営方針を定め、このような経営方針を支え、機動的な融資の実行を行う目的で組織改編を行い、大グループ制を導入した。すなわち、大企業取引・国際取引を担当する営業グループと中堅・中小企業取引を担当する業務グループを設け、それぞれのグループ内に審査部を取り込むとともに、営業部店の担当者に事実上無制限の与信専決権限を与えた。さらに、第6次長期経営計画は、グループ会社の機能及び営業の飛躍的拡大やグループ統合力の強化を掲げており、関連・親密先による融資の拡大にも積極的な取組みを行った。このため、原告及び関連・親密先とともにバブル期に融資を大幅に拡大し、バブルの崩壊とともに大量の不良債権を抱える結果となった。
(甲A1号証、同2号証の1及び2、同3号証、同55号証、同56号証、乙A36号証、同40号証ないし43号証、同77号証、同85号証の1ないし3、同112号証、同115号証、被告Y4本人)
イ 平成6年度から平成9年度までの経済情勢等
政府は、平成6年2月、いわゆる総合経済対策(総額15兆2500億円。うち所得税減税等5兆4700億円。)を打ち出した。平成6年の経済成長率(実質GDPベース)は0.6パーセント程度であったが、日経平均株価は概ねバブル前の水準である1万9000円から2万円台に回復し、同年6月に日銀の企業短期経済観測(日銀短観)において製造業・非製造業の業況判断指数が好転したのと見方が示され、同年9月に景気の緩やかな回復方向という判断を内容とする経済企画庁長官の月例報告が提出されるなど、平成6年度には景気が回復基調に入ったとの見方が示されていた。
また、「平成6年度経済白書」によれば、地価については、土地の利用価格に着目した価格形成に向かいつつあり、地価に大幅な変動をもたらしたバブルは概ね終了したとされていた。
その後、平成7年初めの阪神大震災や円高などの影響により、景気の後退が見られ、平成7年3月の日経平均株価は、1万6139円95銭となったが、政府は、平成7年4月及び同年6月に為替協調介入等の緊急円高対策を実施して円高是正を図り、同年9月には事業規模14兆2000億円の経済対策を決定し、さらに、日銀による2回の公定歩合の引下げが実施され、公定歩合は0.5パーセントになった。
その結果、公共投資は増加し、個人消費や民間設備投資に緩やかな回復がみられ、景気は平成7年後半から回復基調を示し、平成7年の経済成長率(実質GDPベース)は1.5パーセントとなった。
その後も、景気の回復基調は継続し、政府の公共投資に加え、設備投資、個人消費、在庫投資、住宅投資及び民需の好調が景気を押し上げ、平成8年の経済成長率(実質GDPベース)は5パーセントに達し、日経平均株価は概ね2万円台で推移した。
もっとも地価については、公示地価の全国平均(全用途)は、前年度との比較において、平成7年3パーセント減、平成8年4パーセント減と下落し続けた。
以上のとおり、平成8年ころまで景気は回復の基調を示していたが、平成9年に入り、財政再建の観点から、同年4月に消費税率が5パーセントに引き上げられ、特別減税の廃止、社会保険料の引上げ等が実施され、また後述する早期是正措置を睨んだ金融機関によるいわゆる貸し渋り、貸し剥がしと呼ばれる現象が生じ、さらに同年7月アジア通貨危機の発生などにより、日経平均株価も、同年12月には1万5258円74銭まで下落するなど、景気は以降大きく後退することとなった。
(甲A3号証、甲B48号証、同53号証、乙A34号証、同40号証ないし42号証、同46号証、同79号証ないし82号証、同110号証、乙A85号証の3、乙B8号証の1ないし7、同9号証)
ウ 経営危機企業の救済を巡る金融慣行等
(ア) メインバンク制
我が国においては、〈1〉ある企業と長期・固定的な総合取引関係を有し、〈2〉当該企業に対する融資シェアが取引銀行中第1位であり、〈3〉当該企業の大口株主であるとともに、〈4〉当該企業に役員等の人材を派遣している銀行をメインバンクと称し、当該企業及びこれに対する他の取引銀行を含めた関係において、メインバンク制と呼ばれる金融慣行が存在してきた。すなわち、メインバンク、メイン先の企業及びこれに融資している他の金融機関との間には、〈1〉メインバンクはメイン先企業に対して安定的な資金供給を行う代わりに、当該企業の預金、為替及び社債管理業務などを独占的に引き受け、これらの手数料や当座預金口座に滞留する無利息の資金の運用による収入を得ることができること、また、〈2〉メインバンクは最大の融資者であり、メイン先企業の決済口座の出入金のチェックや人材派遣等により、他の債権者よりも優位な立場に立って信用状態の審査及びモニタリングを行えること、さらに、〈3〉メインバンクは平時には声なき大株主としてメイン先企業の経営の安定化に資するとともに、いざという時には企業経営権へ介入し得る権限を留保していること、他方で、〈4〉他の債権者はメインバンクによるメイン先企業の経営状況や信用度についての情報収集・蓄積や経営監視に依拠して融資を行うこと、そして、〈5〉これによりメイン先企業は必要な資金需要を満たすことができるとともにメインバンクも特定企業への融資の過度の集中を避けることができること、しかし、〈6〉これらのことの裏返しとして、メイン先企業の経営が悪化した場合にはメインバンクがその再建等の危機管理にイニシアチブをとることが期待されることなどを内容とする暗黙の関係が成立しているとされてきた。そして、現実にも、メインバンクによる経営危機企業に対する救済支援が行われてきたが、メインバンクが実際に救済支援を行うかどうかは、あくまでも救済支援のコストとこれによる便益との衡量によることとされ、その際、救済支援の便益としては、将来のメインバンク取引の維持・拡大による中長期的利益、すなわちメインバンクの名声の維持、さらには銀行の社会的・公共的使命の達成などが重要視されるものと解されてきた。
(乙A37号証、同43号証)
(イ) 母体行責任
他方で、バブル経済の崩壊後、少なくとも本件各支援行為の当時、金融界において、銀行の系列ノンバンクの支援について、母体行責任という考え方が形成され、金融機関の間における暗黙の了解となっていた。すなわち、母体行責任とは、銀行の系列ノンバンクの経営が悪化した場合には、その親銀行が体力の許す限り全面的に責任を持って単独支援を行うことにより、そのノンバンクの破綻を極力回避し、当該ノンバンクに融資している他の金融機関に迷惑をかけないようにするという考え方であった。
このような考え方が当時において形成され支配的となった背景には、各銀行が系列ノンバンクを有し、それらがいずれもバブル経済の崩壊による不良債権の急増により経営悪化に直面していたことと、各系列ノンバンクに対して各銀行がたすき掛けのように巨額の融資を積み上げており、各銀行が自行の系列ノンバンクの母体行であると同時に他行の系列ノンバンクの非母体行の立場とを併せ持つ関係にあったことから、各銀行がそれぞれ自行の系列ノンバンクに対して母体行責任を果たすことにより全体として公平な責任の分担が図られるとともに、一行でも母体行責任を放棄するとお互いが他行の系列ノンバンクから融資を引き揚げ、ノンバンクの連鎖破綻を引き起こし、親銀行の経営危機をも生じかねないという相互依存関係の存在があった。
そして、平成4年ころの大蔵省検査及び日銀考査においても、銀行の系列ノンバンクの不良債権全額を親銀行の不良債権とみなす査定方針がとられ、検査等の際に親銀行に対して系列ノンバンクの経営を全面的に支援する意思の確認が行われるなど、金融当局も母体行責任の考え方を是認する立場をとっていた。
母体行責任が金融界の暗黙のルールであることを改めて想起させた事件として、日債銀による系列ノンバンクの支援がある。すなわち、平成4年5月に、日債銀が経営悪化した同行の系列ノンバンク3社(クラウンリーシング株式会社、日本信用ファイナンスサービス株式会社及び日本トータルファイナンス株式会社)を支援するに際して、これらのノンバンクに融資している全ての金融機関に対して、金利の減免等による支援の分担を要請したことから、各金融機関から母体行責任を果たさないものとして猛反発を受け、交渉が長期化し、日債銀の当時の会長が事実上責任をとって辞任するなどし、ようやく同年9月に各行から支援計画についての同意を得ることができた。しかし、日債銀は金融界のルールを破るものとして様々な形で不利益を受けるとともに、それまで同じ長期信用銀行に属する原告や株式会社日本興業銀行(以下「興銀」という。)と同一の流通利回りであった利付金融債の発行金利について、日債銀の金融債の方が日によっては、0.5パーセント高くなるという形で格差が生じ、その販売にも支障が生ずることとなった。そして、このような出来事は、母体行責任が金融界において親銀行が遵守すべき了解事項であることを銀行経営者に再認識させることとなった。なお、日債銀は、その後平成9年4月に上記ノンバンク3社の破産申立てを行ったが、その結果、平成9年3月末における日債銀の金融債の発行残高は8兆3270億円であったのに対し、その後、月間数千億円程度減少し、蓼成10年9月末には4兆3765億円となり、約半分程度まで落ち込んだ。さらに、既発行の金融債の流通利回りは、平成9年3月以降、興銀と比較して4パーセント台まで格差が広がり、日債銀は、資金調達に重大な支障を来すこととなった。
現実にも、平成3年の東海銀行によるセントラルファイナンスに対する債権放棄に始まり、平成5年以降、三菱銀行(ダイヤモンドファクター、ダイヤモンド抵当)、第一勧銀(DKBファクタリング)、東京銀行(東銀リース)、富士銀行(芙蓉総合リース)、野村證券(野村ファイナンス)及び大和証券(大和ファイナンス)など、大手銀行等による系列ノンバンクに対する損益支援が本格化したが、いずれも母体行責任に基づく単独支援であり、これらの系列ノンバンクに対する支援は平成8年ころには峠を越すものと見られていた。
他方で、平成6年3月から4月にかけて、福徳銀行、阪和銀行及び大阪銀行が系列ノンバンク11社を会社整理ないし特別清算により処理するなど、体力に乏しい第二地銀において系列ノンバンクをプロラタで処理する例も見られた。
さらに、平成6年に住宅金融専門会社(いわゆる住専)の不良債権処理が政治問題化したが、その際に母体行の損失負担の在り方を巡って修正母体行主義という言葉が生まれた。すなわち、住専は、昭和45年ころから、金融機関の共同出資により、当時旺盛となった住宅資金需要に応えるため、個人向け住宅ローンの提供を主な目的として設立されたが、その後、銀行自身が個人向けの住宅金融に前向きに取り組むようになったことから、住専は当初の目的である個人向け住宅ローン業務を失い、次第に住宅開発業者や不動産業者への融資に傾斜していった。バブル期において金融機関は住専に対する融資を一層拡大させたが、平成2年3月に不動産関連融資の総量規制が行われて以降は、同規制の対象から外されていた農林系金融機関が金融機関に肩代わりして住専に対する融資を急速に積み上げることとなった。バブルの崩壊により住宅開発業者や不動産業者への融資が不良債権化し、住専の経営を圧迫することとなったため、平成5年に母体行が主体となって金利減免を中心とする再建計画が策定されたが、金利の低下や地価の一層の下落により住専の経営はさらに悪化し、住専7社で平成6年9月末時点で総資産約13兆2775億円のうち、6兆1859億円が不良債権に分類されるなど抜本的な見直しを迫られる状況となった。そして、その損失の負担処理を巡って、農林系金融機関は母体行が責任を持って処理するよう主張し、金融機関は貸手責任に基礎を置いたプロラタによる処理を主張し、両者の損失負担に関する協議は平行線をたどった。最終的には、政府の主導により、母体行は出資金に加えて融資の全額約3兆5000億円を放棄し、母体行以外の一般行は融資のうち約1兆4000億円を放棄し、農林系金融機関は約5300億円を贈与し、不足する約6850億円を財政支出により負担するという形で解決が図られた。このように母体行が清算処理に際して融資額を限度として損失負担する責任分担の方法は修正母体行主義と称せられた。
(甲A52号証の2ないし8(ただし、前記認定に反する部分を除く。)、同71号証、同77号証(ただし、前記認定に反する部分を除く。)、同105号証、同106号証、甲B26号証の2、乙A4号証、同6号証、同8号証ないし17号証、同22号証、同40号証ないし42号証、同47号証、同74号証、同75号証の1ないし6、同112号証、同129号証、同131号証、被告Y4本人、被告Y8本人)
エ 不良債権処理を巡る制度的環境
(ア) 不良債権の計画的・段階的処理の方針
以下のとおり、大蔵省は、バブルの崩壊後平成7年にかけて、金融機関の不良債権については、計画的・段階的に処理するという方針を明らかにしていたが、これは、直ちに相手先企業を倒産させて不良債権を処理するのではなく、将来の経済情勢の回復に期待して再建可能性のある相手先企業に再建のための時間を与えて再建を果たさせ、ある程度時間をかけて不良債権を回収・処理していくというソフトランディングの考え方に依拠するものであった。
(乙A40号証、同47号証、同72号証)
a 大蔵省「金融行政の当面の運営方針」(平成4年8月18日)
大蔵省は、バブル崩壊への金融行政の対応方針として、平成4年8月18日、「金融行政の当面の運営方針-金融システムの安定性確保と効率化の推進」を公表した。同方針は、「いわゆるバブル経済の崩壊が金融機関に与えた影響は極めて大きく、その克服には厳しく真剣な取組み努力が必要であり、かつ、相当の調整期間を要することは事実である。しかしながら、今日の我が国金融システムを取り巻く基礎的諸条件は、高い水準にある産業の国際競争力、増大した資産の蓄積、整備された制度的枠組み等に見られるように、かつてとは比較にならない程強固なものとなっている。したがって、金融システムが機能障害を生じ、これによって国民経済に過重な負担を余儀なくさせるようなことはないと確信している。状況を徒に悲観視することなく、冷静にして沈着、着実にして真剣な対応努力を積み重ねることによって問題を解決していくことが可能である」との基本認識を示した上で、〈1〉金融システムの安定性確保のための株価低迷への当面の対応として、金融機関による決算対策のための安易な益出しを極力抑制するよう求めること、〈2〉金融機関の融資対応力を確保するため、期限付劣後ローンや永久劣後債の活用による自己資本の充実や債権流動化の手段の活性化や多様化を図ること、〈3〉不良資産の処理について、「不良資産の処理方針の早期確定と計画的・段階的処理を図り、併せて不動産の流動化に資するため、民間金融機関の協調による、担保不動産の流動化のための方策につき早急な検討を行う」こと、「不良資産の処理が円滑に促進」されるため、「税務上の取り扱いをも含め、必要な環境整備に努める」こと等の方針を定めていた。
前記方針に従い、債権償却特別勘定への無税による繰入対象を広げ、償却を容易にするとの運用改善が行われた。
(甲A77号証、乙A7号証、同19号証)
b 共同債権買取機構の設立
さらに、同方針の担保不動産流動化策の一環として、平成5年1月27日、金融機関162社の出資により、共同債権買取機構が、資本金約79億円で設立された。
共同債権買取機構は、金融機関から不動産担保付不良債権の買取依頼を受けた場合、部外の専門家から成る価格判定委員会等に諮問して買取価格を決定するが、金融機関は、同機構に対して、買取資金を融資するとともに、同機構において買い取った債権を回収するまでの間の金利等及び買取価格と回収額の差額(いわゆる2次ロス)を負担することとされていた。
他方で、金融機関は、同機構に譲渡した不良債権について、売却額と債権簿価の差額(損失額)を無税で償却することが認められていた。
買取対象債権は、原則として出資金融機関の保有する不動産担保付債権とされたが、出資金融機関の系列ノンバンクの保有する不動産担保付債権も合理的な再建計画があるなどの一定の条件の下に買取対象とされていた。
(乙A123号証ないし同125号証)
c 大蔵省「金融機関の不良資産問題についての行政上の指針」(平成6年2月8日)
大蔵省は、平成6年2月8日、「金融機関の不良資産問題についての行政上の指針」を公表した。
同指針は、金融機関の不良資産問題を解決するためには、厳しく真剣な取組み努力と相当な調整期間が必要であることは、前記「金融行政の当面の運営方針」において述べたとおりであるとした上で、金融機関の保有する資産のうち、問題とされ得るものにはいくつかのレベルがあり、破綻先債権、延滞債権のみならず、通常に比べて留意を要する債権や金利減免等債権についてもそれぞれの性格に応じた対応が求められるが、これらを同一視し、そのすべてについて償却等による処理が必要であるかのように論ずることは適当ではなく、「このような資産内容の実態に即した適切な対応を行っていく必要があり、償却等による処理が必要となるものについては、早期に処理方針を確定させ、計画的、段階的に処理を進めていくことが重要な課題であ」るとし、「この課題は、金融機関が、徹底した経営努力を前提に毎期の業務純益を主たる財源として、実質的な引当金である含み益などの内部蓄積も長い目で考慮しながら、所要の償却等を積極的に進めることにより、十分に解決できるものであ」り、大蔵省としてはこうした観点から金融システムの安定性を確保しつつ、金融機関が期待される役割を十分に発揮できるようにするため、次のような行政上の運営指針に沿って適切な対応を行うとしていた。そして、行政上の運営指針は、不良債権についての償却・引当制度の活用として、「無税償却について、不良債権の実態に即した貸倒れ等の事実の認定を通じ、必要な償却を行うとの趣旨を徹底し、ノンバンク向け債権を含め、償却の一層の促進を図るとともに、そのための当局の体制についても引き続き充実強化に努め」、「有税引当については、最近における不良債権の実態に鑑み、引当制度の運用を改善し、貸倒れには至っていないものの回収に危険のある債権についても、金融機関自らの判断により、将来の回収についてのリスクに応じた必要な引当が行われるようにして、回収不能とはまだ判定されていないがリスクが高まっている延滞債権等についても、有税引当が行われることが期待され」るとしていた。他方で、「元本が回収されることを前提に合理的な再建計画が実施されている先に対する債権については、この有税引当を行うことは、当面、企業会計上の合理性がない」とされ、このような金利減免債権については流動化が検討対象となるとされていた。そして、「多額の不動産関連融資を抱えて資産内容が悪化し、経営上の困難に直面しているノンバンク等について、関係金融機関は金融システムの安定性確保の重要性を認識した上で、長期的な展望のもとに、自主的に適切な対応を行っていく必要があ」るとし、これらのノンバンク等に対し、「複数の金融機関による再建計画が実施されている場合に、金利減免債権をまったくの第三者に売却すること(アメリカの金融機関が用いた債権流動化の手法)は、再建計画の円滑な進捗を阻害することにもなりかねない」ので、「ノンバンク等の経営再建を進めるなかで、関係金融機関が各ノンバンク等の再建計画との整合性をとりつつ、財務体質の改善を図るため、特別目的会社(再建計画の実行を管理する会社)を設立し、これに対して金融機関が抱えるノンバンク等向け金利減免債権を流動化することについて検討」することとし、「これにより、金融機関は、金利減免債権を市場実勢価格で現物出資し、簿価(金利減免前の債権の帳簿価格)と時価(金利減免後の債権を市場実勢利率に基づく割引率で現在価値に割り戻した市場実勢価額)との差額をロスカットすることとなる」等としていた。
(乙A20号証)
d 大蔵省「金融システムの機能回復について」(平成7年6月8日)
平成6年12月、東京協和信用組合及び安全信用組合が破綻し、新たに民間金融機関及び日銀の出資により設立された東京共同銀行が資産及び負債を譲り受ける形で処理されたが、預金全額保護のために東京都の財政支援等をめぐって政治問題化した。さらに、平成7年に入って、コスモ信用組合、木津信用組合、兵庫銀行の破綻が生じ、また住専処理の在り方をめぐって政治問題となったが、同年12月に住専の処理方針が最終決着した。
このような動きの中で、大蔵省は、平成7年6月8日、「金融システムの機能回復について」を公表した。同指針は、「健全で活力ある金融システムは、我が国経済の安定的発展のため必要不可欠な前提である。我が国経済が今後21世紀に向けて、豊かで創造的な経済社会を築いていくために、残された概ね5年の間に、金利減免等を行っている債権をも含め、従来の発想にとらわれることなく金融機関の不良債権問題に解決の目処をつけることとする。このため、金融制度調査会においても基本的考え方について審議される予定であるが、大蔵省としては、当面次のような考え方により不良債権問題の早期解決に取り組み、金融システムの機能回復を図ってまいりたい。」としていた。
さらに、基本的な方針として、〈1〉経営の健全化を確保するための金融機関の真摯な経営努力の促進、〈2〉金融機関の破綻処理に対する対応と5年以内のペイオフを実施し得る環境の整備、〈3〉検査・監督の充実と客観的な指標に基づき、金融機関の経営の早期是正を求める措置の導入などを挙げていた。
そして、上記〈1〉に関しては、「金融機関から金利減免等の支援を受けているノンバンク・住宅金融専門会社等については、再建計画の進捗状況の的確な把握が行われるとともに、必要に応じ再建計画の抜本的見直しを含む適切な措置が講じられるよう」にすること、「金利減免等債権を含む不良債権の処理に際し、金融機関の体力や収益環境に応じて弾力的に対応できるよう、段階的な処理方策を検討」すること、担保不動産の流動化等に向けた努力が一層要請されることなどが指摘されていた。
その後、大蔵大臣の諮問機関である金融制度調査会の金融システム安定化委員会は、平成7年12月22日、「金融システム安定化のための諸施策-市場規律に基づく新しい金融システムの構築-」を答申したが、これは、「金融機関の不良債権を早期に処理し、バブル経済の崩壊で低下した金融システムの機能回復を図ることは我が国経済の今後の持続的な発展にとって不可欠の前提であるが、こうした問題の解決のため、当面する不良債権問題に取り組む一方で、より基本的には、金融自由化以後にふさわしい、市場規律に立脚し、透明性の高い金融システムが早急に構築される必要がある。」とした上で、「不良債権問題の早期処理は現下の喫緊の課題であり、今後5年以内のできる限り早期にその処理に目処をつける必要があ」り、「各金融機関は先ず自助による最大限の合理化努力や早期の引当、償却等の実施により、迅速にその処理を行っていく必要が」あること、金融機関経営の健全性確保のための方策として、さらにディスクロージャーを推進していくこと、「金融機関経営の健全性を確保していくための新しい監督手法として、自己資本比率等の客観的な指標に基づき業務改善命令等の措置を適時に講じていく早期是正措置を導入することが適当であ」ること、「早期是正措置の導入に当たっては、不良債権を勘案した、自己資本比率等の正確な把握が前提」となることから、「検査・モニタリング体制の整備・充実が必要であるが、金融機関の自己責任原則の徹底等の観点からは、資産査定は先ず各金融機関自らが厳正に行うことが必要である。」ことなどを答申するものであり、前記「金融システムの機能回復について」と同趣旨のものであった。
(乙A21号証、同22号証、同40号証)
(イ) 早期是正措置導入以前の不良債権の償却引当の運用状況
早期是正措置導入以前の少なくとも本件各支援が行われた当時、不良債権の償却・引当については、法人税法上の損金として扱われる場合(無税による償却・引当)と損金算入できない場合(有税による償却・引当)とがあり、無税による償却引当については、法人税基本通達がその要件を厳格に定めるとともに、国税当局の委任を受けた大蔵省金融検査部が、「不良債権償却証明制度等実施要領について」(平成5年11月29日蔵検第439号)により、無税による償却・引当の要件認定を行い、これを証明する不良債権償却証明制度が存在したことから、金融機関は、無税償却・引当の要件を満たす場合には前記証明を得て償却・引当を行う一方、有税による償却・引当については、金融検査部に届けて償却・引当を行うものとされていたが、これを行うかどうかは金融機関の任意であるとの扱いが行われていた。このため、無税による償却引当の基準、すなわち税法基準が事実上の償却・引当の基準となっており、有税による償却・引当の例は少なかった。
前記のとおり、「金融行政の当面の運営方針」に従い、平成5年決算期以降、無税による償却・引当(債権償却特別勘定への繰入れ)の枠が拡大される(89頁のa)とともに、前記「金融機関の不良資産問題についての行政上の指針」は、有税引当を促している(91頁のc)が、いわゆる税効果会計制度が導入されていなかったこともあって、低調であった。
また、同指針が、「元本が回収されることを前提に合理的な再建計画が実施されている先に対する債権については、この有税引当を行うことは、当面、企業会計上の合理性がない」としており、また、償却引当の実務において、債務者に対して追加融資が予定されている場合、有税償却を行えば背任等の問題を生ずるとの指摘もされるなど、親銀行が支援先に対する債権について回収不能を前提とした償却・引当を実施すること自体背理であるとの考え方がとられていた。さらに、既に述べたとおり(85頁の(イ))、大蔵省検査及び日銀考査において親銀行が支援意思を有する系列ノンバンクの不良債権全額を親銀行の不良債権とみなす査定方針がとられていたことから、このようなノンバンクに対して他の金融機関が有税による償却・引当を実施することもなかった。
以上のような償却・引当の運用は、母体行責任の下でノンバンクに対する融資の損切りを急がず、親銀行が責任を持って支援していくというシステム及びこのような状況を前提とした前記の不良債権の計画的・段階的処理方針を支えるものであった。
(甲A77号証、甲F58号証、乙A7号証、同23号証、同32号証、同38号証)
(ウ) 早期是正措置の導入
平成8年6月18日、「金融機関等の経営の健全化確保のための関係法律の整備に関する法律」(以下「健全性確保法」という。)(平成8年法律第94号)、「金融機関等の更生手続の特例等に関する法律」(平成8年法律第95号)及び「預金保険法の一部を改正する法律」(平成8年法律第96号)(以下「金融3法」という。)が可決成立し、健全性確保法において、銀行法26条を改正し、平成10年4月1日以降早期是正措置制度を導入すると定められていた。
早期是正措置は、透明性の高い手続で適時に行政措置を発効できるようにする新しい金融機関の監督手法である。
大蔵省銀行局長の私的研究会である「早期是正措置に関する検討会」が平成8年12月26日に公表した中間とりまとめによれば、早期是正措置は、自己資本比率という客観的指標に基づき、金融行政当局が金融機関に対して業務改善計画の提出などの是正措置を適時適切に発動することを目的とするものであり、金融機関が、自己責任において、企業会計原則等に基づき、適正な償却・引当を行い、資産内容の実態をできる限り客観的に反映した財務諸表を作成することが前提とされていた。すなわち、金融機関が行う資産の自己査定は、適正な償却・引当のための準備作業として重要な役割を果たすこととなり、この際、会計監査人は、財務諸表の適正について深度のある監査を行うことが求められ、こうした一連の作業を経て作成された財務諸表が開示されることにより、金融機関の経営の透明性の向上に資するとともに、市場規律による経営の自己規正効果が働くことが期待されていた。
そして、大蔵省大臣官房金融検査部長は、平成9年3月5日、金融検査官等に宛てていわゆる自己資産査定通達(「早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定通達」)を発出し、その後、全国銀行協会連合会(以下「全銀協」という。)の融資業務専門委員会は、同月12日、自己資産査定通達に関する「Q&A」等を全金融機関に送付し、また、日本公認会計士協会は、前記中間とりまとめに基づき、同年4月15日、「銀行等金融機関の資産の自己査定に係る内部統制の検討並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」を公表し、同年7月4日前記不良債権償却証明制度が廃止された。
その上で、同年7月31日には、長期信用銀行法17条において準用される銀行法26条2項(早期是正措置に関する)等の規定に基づき、大蔵省令等の改正が行われた。
その内容は、原告のような海外拠点を有する長期信用銀行について、国際統一基準による自己資本比率(いわゆるBIS基準)が用いられ、早期是正措置発動の基準及び措置の内容として、大蔵大臣は、自己資本比率が4パーセント以上8パーセント未満となれば、経営改善計画の作成・実施命令を、同比率が0パーセント以上4パーセント未満となれば、個別措置の実施命令を、同比率が0パーセント未満となれば、業務停止命令を発することができるとされた。
以上の経過から、早期是正措置は、予定どおり、平成10年4月1日以降導入された。
(甲F58号証、乙A23号証、同24号証、同42号証、同107号証ないし109号証)
(エ) 不良債権のディスクロージャーの制度の推移
銀行のディスクロージャーについては、昭和62年7月に全銀協の理事会で決定された統一開示基準に基づき個々の銀行が自主的に行うという扱いがとられていたが、銀行法21条但書において「信用秩序を損なうおそれのある事項」については開示しなくてもよいとされていたこともあり、不良債権の公表は「統一開示基準」に含まれておらず、開示もなされていなかった。
金融制度調査会は、平成4年1月、「金融システムの安定性・信頼性の確保について」をまとめ、不良債権の状況を含めたより広範なディスクロージャーが必要であるとの方向を示し、さらに金融制度調査会のディスクロージャー作業部会が、同年12月、「金融機関の資産の健全性に関する情報開示について」と題する中間報告をとりまとめた。中間報告の内容は、〈1〉経営破綻先に対する債権額(破綻先債権額)はすべての銀行が開示する、〈2〉未収利息不計上債権額(延滞債権額)は都市銀行、長期信用銀行及び信託銀行は開示し、地域金融機関については当面開示を求めない、〈3〉金利減免・棚上げ先に対する債権額は当面開示を求めないとするものであった。これを受けて、全銀協は、上記中間報告に沿った形で、平成5年3月期決算から、都市銀行、長期信用銀行及び信託銀行については、破綻先債権額及び延滞債権額(6か月以上の利息未払い債権額)を、それ以外の金融機関については破綻先債権額を、それぞれ開示することとし、同決算からこれに従った開示が開始された。
平成7年1月、経営破綻した東京協和信用組合及び安全信用組合の処理のため東京共同銀行が設立され、この処理を巡る議論を通じて一層のディスクロージャーの拡充を求める声が高まり、同年5月、金融制度調査会のディスクロージャー作業部会は、「金融機関の資産の健全化に関する情報開示範囲の拡大について」と題する報告書をとりまとめ、平成8年3月期から、都市銀行、長期信用銀行及び信託銀行について、新たに「金利減免等債権」の額を開示すべきこととした。さらに、大蔵省は、同年9月27日、「金融機関の不良債権の早期処理について」を発表し、平成8年3月期決算から、全銀協加盟行は、都市銀行、長期信用銀行及び信託銀行に限らず、すべて延滞債権額の開示を行うこととした。このような動きの中で、都市銀行、長期信用銀行及び信託銀行は、平成7年9月期の中間決算時に口頭ベースで「金利減免等債権額」を自主的に公表した。また、全銀協は、新しい「統一開示基準」を決定し、都市銀行、長期信用銀行及び信託銀行は、破綻先債権額、延滞債権額及び金利減免等債権額を、それ以外の金融機関は、破綻先債権額及び延滞債権額を開示することとし、平成8年3月期の決算からこれに従った開示が行われた。
さらに、平成10年3月期決算からは、これまでの間、不良債権から除外されていた利息の支払が30日以上滞っている貸出金、変更時の貸出金利が公定歩合を上回っている金利減免等債権についても公表不良債権に含まれることとなった。そして、平成10年12月から施行された改正銀行法においてディスクロージャーに関する規定が罰則付で定められ、全銀協の統一開示基準は廃止された。
(乙A71号証)
オ 原告の経営及び資金調達構造の特色
(ア) 原告の経営の特色
我が国の金融制度は、戦後の復興期における大幅な資金不足の状況の中で資金の効率的な配分と信用秩序の維持安定を図るために、業務分野規制(長短金融の分離、銀行・信託の分離、銀行・証券の分離)、金利規制、内外市場の分断規制などの金融業務に関する各種規制が設けられていた。原告は、長短金融の分離の制度の下に、長期信用銀行法に基づき設備投資資金等の長期資金を円滑に供給する役割を担って設立された長期信用銀行であり、普通銀行には認められない金融債による資金調達が認められたが、反面、預金又は定期預金の受入れは国若しくは地方公共団体又は貸出先、社債の管理の委託会社その他の取引先に限られる外、短期貸出しは預金の範囲内とされ、また店舗数にも制限が設けられ、平成4年当時で国内に23店舗しかなかった。
戦後復興から高度成長期である昭和30年代までは、原告は旺盛な資金需要に支えられ、長期金融の専門銀行として業容を拡大した。しかしながら、昭和40年代に経済が安定成長に入り、大企業の資金需要が落ち着きを見せ、これに伴う資金調達方法や運用方法の多様化の要請の高まり、さらには国債の発行開始や国際化の進展等を原因として、金融の自由化が段階的に進行していく中で、都市銀行等が定期預金の長期化を背景として長期資金の貸出しを拡大するなどして長短金融の分離がなし崩し的に撤廃されていくとともに、原告の主力資金調達手段である利付金融債の競合商品である国債が大量に発行されるなど、原告の経営環境は大きく変化することとなった。このような状況の中で、原告は、店舗数の制限等の営業基盤の脆弱さをカバーしつつ、経済の動向に対応して取引先の多様なニーズに応えるとともに、利付金融債の主たる購入先である地銀、第二地銀等の地方金融機関の求めるサービスを提供していくことが、営業及び資金調達の両面における最重要課題とされてきた。
このような観点から、原告は、証券、リース、ベンチャーキャピタル、不動産担保融資、信販等の機能を行う企業を設立しあるいはグループ内に取り入れることにより、原告の機能を補完し、取引先との関係の総合化・強化を図る経営戦略をとってきた。これらの企業には、原告においては関連先とされていた長銀リース、ランディックやNED等、親密先とされていた日本リース、第一住宅金融株式会社(以下「第一住金」という。)やライフ等の企業群があり、いずれも原告のグループ企業として位置づけられていた。なお、関連・親密先の所管は、平成4年6月から平成7年7月までの間は、企画グループ内の関連事業部が関連先の日常の管理・再建策等の立案を、営業企画グループ内の営業企画部が関連先及び親密先の融資案件の検討を、営業企画グループ内の事業推進部が親密先の再建策等の立案を行うこととされていた。そして、平成7年7月以降は、関連先融資案件の検討及び日本リースの所管並びに関連先の再建策の立案・管理機能が事業推進部に一元化されることとなった。
(甲A2号証の1及び2、同56号証、乙A43号証、同112号証、同115号証、被告Y4本人)
(イ) 原告の資金調達構造の特色
原告の発行する金融債には、期間5年あるいは2年の利付金融債と期間1年の金利変動に応じた割引金融債の2種類があった。金融債は、市場の評価により流通価格の定まる無記名・譲渡可能な市場性のある商品であり、その購入者の大部分は金融法人等の機関投資家であった。さらに、金融債は平成9年12月までは預金保険の対象となっておらず、金融債の発行条件や消化量は発行体の信用に大きく左右される性質のものであった。そして、これらの点において、預金保険の対象とされ、しかも本件各支援行為の当時においてペイオフが凍結されていた預金という形で不特定多数から資金の調達を行う都市銀行と比較してその資金調達構造において大きな特色を有していた。
原告の金融債による資金調達は利付金融債が主体であり、例えば発行残高で見ると、平成2年3月時点では全体で13兆6861億円のうち、利付金融債が9兆5696億円、割引債が4兆1165億円、平成7年3月時点では全体で17兆5106億円のうち、利付金融債は、期間5年のもの11兆0443億円、期間2年のもの1兆2766億円、割引債5兆1897億円、平成8年3月時点では全体で15兆8451億円のうち、利付金融債は、期間5年のもの8兆6543億円、期間2年のもの1兆3985億円、割引債5兆7923億円となっていた。そして、利付金融債の購入先のうち概ね約8割が都銀、地銀、第二地銀、信金等の金融機関、生損保並びに農林系、労金、共済等の機関投資家であった。
このため、原告は、安定的な資金調達を確保するために、地銀、第二地銀等の地方金融機関との間で、長期にわたって、以下に述べるような相互取引関係を築き上げてきた。すなわち、地方金融機関は、数十年にわたる金融債の定例応募や原告グループで引き受けた債券の購入、原告の関連・親密先に対する融資、さらには原告の株式・劣後債の保有などにより、原告に対する資金の供給主体となる一方、原告は、地方金融機関等の系列ノンバンクやメイン先に対して原告や関連・親密先ノンバンクを通じて融資を行い、また、代理貸出しによる融資(地方金融機関の取引先企業に対して地方金融機関の支払保証の下で原告が長期資金を貸し出す仕組み)、原告から地方金融機関への預金の預入れ、海外支店での外貨の供給などにより、地方金融機関に対する資金供給主体になるなど営業面・資金面において密接な相互依存関係を形成してきた。
(乙A36号証、同43号証、同77号証、同112号証、被告Y4本人、被告Y8本人)
カ 原告における不良債権の把握及び処理の状況
(ア) 不良債権処理の検討体制
原告は、平成3年3月、原告及び関連・親密先ノンバンク全体の不良債権問題に対応するため、営業企画グループを新設し、その下に関連・親密先及び一般先の融資案件の検討を所管する営業企画部を置き、Y7が営業企画部長となった。そして、Y7を中心として「Nチーム」を結成し、同年9月ころから12月にかけて、原告及び関連・親密先の不良債権の実態調査を行った。当時、審査部長であったY2もNチームの検討に参加した。
さらに、原告は、平成4年6月、不良債権の処理を専門に担当する部署として事業推進部を創設し、Y2が初代の部長となった。これにより、既に述べたとおり(100頁の(ア))、原告においては、平成7年7月までの間、関連先(長銀リース、NED、ランディックなど)の日常の管理及び再建策等の立案は企画グループ内の関連事業部が所管し、関連先、親密先(日本リース、第一住金、ライフなど)及び一般先の融資案件の検討は営業企画グループ内の営業企画部が所管し、親密先の再建策等の立案並びに一般延滞先の融資案件の検討及び再建策の立案は事業推進部が所管することとなった。また、原告は、平成4年11月、営業企画部を事務局として、関連事業部、事業推進部及び審査部など関連・親密先のノンバンクに関わる部署が、再建リストラに関して意見交換を行うために、「ノンバンク関連部連絡会」を設置し、平成6年ころまでの間、同連絡会で関連・親密先の不良債権問題の検討を行った。
Y3が、平成7年4月に頭取を退任し、その後任の頭取に就任したY4は、同月、Y7を不稼働資産問題処理の担当取締役に任命するとともに、同年5月に、営業企画グループと事業推進部の担当役員の兼務制を廃止し、不稼働資産問題の処理に当たる事業推進部の専任の担当役員を新設し、Y7をこれにあてた。また、同月19日、原告の関連・親密先ノンバンクの不稼働資産処理方針の策定等を目的として、企画部長、管理部長、営業企画部長、事業推進部長等をメンバーとする特定債権対策委員会が設置され、Y7が委員長に任命された。さらに、同年7月に、事業推進部は、関連事業部が所管していた関連先の管理及び再建策の立案、営業企画部の所管していた関連先の融資及び日本リースの融資案件検討の権限を引き継ぐこととなり、関連・親密先の不良債権を一元的に管理することとなった。
(甲A4号証、同12号証、乙A115号証)
(イ) 原告の償却・支援体力の推移
銀行が不良債権を償却し、あるいは支援先に対して支援損を負担する場合の原資としては、資本金及び準備金から成る資本勘定、有価証券の評価益(含み益)、貸倒引当金(当時の一般貸倒引当金、債権償却特別勘定及び特定海外債権引当勘定の合計額)及び業務純益が存在する。
ただし、原告は海外営業を行っていることから、平成6年3月期以降はBIS規制により自己資本比率8パーセント以上を保持しなければならず、海外における営業を継続する限り、資本勘定のうちの任意準備金から取り崩すことのできる金額は限定されていた。
したがって、原告が従来の業務の継続を前提として現実に不良債権の償却及び支援損の負担に当てることができる財源(以下「償却・支援体力」という。)は、業務純益、貸倒引当金、有価証券含み益及び自己資本比率8パーセントを前提とした剰余金取崩可能額の合計額となり、その推移は別表1のとおり認められる。
(ウ) 原告の不良債権の処理及び関連・親密先に対する支援の状況
平成5年度から平成9年度における、原告の一般取引先に対する不良債権処理及び関連・親密先に対する損益支援の状況、原告の公表不良債権、関連・親密先に対する融資残高の推移は別表1、3ないし5のとおり認められる。
原告は、バブル崩壊後、関連・親密先に対し、これらが一般取引先に対して有する不稼働債権それ自体あるいはこれに係る担保物件を受皿会社に移管するための資金融資等の資金支援を中心とした支援を実施していたが、関連・親密先の経営状況が悪化し続けていたため、平成5年度に、経営状態が悪化していたNED及び長銀リースに対して、事後に国税当局の無税扱いの承認を受けて、5か年計画に基づき、債権放棄等の損益支援を開始し、平成5年度から平成9年度までに、長銀リースに対して946億円(平成10年度分も含めると約1303億円)の損益支援を実施し、NEDに対して約1253億円の損益支援を実施した。
原告は、平成5年度までは、日本リースに対しては、物件引取りの支援等を実施していたが、その後、日本リースの再建のため、平成6年度及び平成7年度においてそれぞれ、国税当局の無税扱いの承認を受け、本件損益支援を実施した。
さらに、原告は、平成7年度において、いわゆる往専の一社であった第一住金が清算処理された際に、その貸出残高2367億円を限度とする修正母体行主義による責任を負担(債権放棄)した。
また、原告は、平成6年度において、これまで不動産含み益等により自力決算をしてきたランディックに対して、損益支援を検討していたが、第一住金及び日本リースを先行させることとし、平成8年度に国税当局の無税扱いの承認を受け、共同債権買取機構に対する物件持込みの方式により、平成8年度302億円、平成9年度1221億円、平成10年度450億円の1973億円の損益支援を実施した。
(甲A19号証、同20号証、同37号証ないし同40号証、同112号証、被告Y4本人)
2 争点1
(1) 本件損益支援の経緯
証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、本件損益支援の経緯について、以下のとおり認めることができる。
ア 日本リースの設立及び会社更生手続の申立て
日本リースは、昭和38年8月13日、リコー、原告、都市銀行5行、信託銀行6行、損害保険会社8社及びメーカー22社の出資により設立された我が国最初の総合リース会社である。
日本リースは、昭和60年代に入り、リース業界におけるリース料率の競争激化に伴い、新たな収益源を得るために営業貸付けの分野に積極的に乗り出し、不動産業向け融資を拡大し、営業貸付金は昭和62年3月期末から平成3年3月期末までの3年間で約4000億円から約1兆3955億円まで急増した。
しかしながら、日本リースの営業貸付けは、大都市圏の地上物件及びリゾート物件を対象とする大型プロジェクト融資が主体であったことなどから、バブル経済の崩壊に伴い、同社の営業貸付金は大部分が不稼働化し、同社の経営は悪化していった。
このため、日本リースは、後記のとおり平成3年以降原告から度重なる支援を受けたが、不稼働資産の処理の遅れや原告の信用低下などが原因となり、平成10年9月27日、会社更生手続の申立てをするに至った。
(甲B1号証、同13号証、同15号証の2)
イ 原告と日本リースの関係
原告は、日本リース設立時の出資金融機関の一つであり、設立直後から日本リースとの取引を開始し、その後、日本リースとの関係を深めていった。すなわち、日本リースの歴代の代表取締役社長は、昭和49年以降、原告の出身者が占め、出資面においても、原告は、単体ではリコーに次いで第2位であったが、原告グループ全体では昭和62年以降筆頭株主となっており、また融資残高も、昭和43年以降原告が第1位のシェアを占めていた。
(甲B3号証、同15号証の2)
ウ 第1次支援(平成3年11月から平成5年3月まで)
(ア) 日本リースの経営の悪化
日本リースは、平成3年初めにナナトミ(貸付残高555億円)、有豊化成(貸付残高40億円)、ジェーシーエル(貸付残高390億円)などの大口融資先の相次ぐ倒産による引当の増加により収益が悪化したが、さらに不稼働資産の拡大による大幅な減収と借入金利の上昇による資金調達コストの大幅増加により収益状況が急速に悪化し、平成3年8月時点で、何らかの対策を行わなければ赤字転落が不可避な状況となった。
(甲B4号証、同13号証)
(イ) 日本リースからの支援要請
そこで、日本リースの当時のD副社長は、平成3年11月22日、原告を訪れ、当時原告の常務であったE(以下「E」という。)と面談し、日本リースの平成3年上期の決算状況を報告するとともに、不良債権処理計画(第1次対策)を説明し、これに対する原告の支援を求めた。
すなわち、日本リースの平成3年上期の決算については、資金調達コストが上昇している中、不稼働資産の増加によるファイナンス部門の利益の減少により、平成2年下期には10億円の黒字であった「実態利益」(益出しや決算対策を行う前の実際上の利益)は、42億円の赤字に転落し、これに有価証券評価損等を加えた決算対策前経常利益は過去最悪の83億円の赤字となることが見込まれたことから、不動産や有価証券の益出しにより、181億円の利益対策を行い、ようやく黒字決算を行うことができた。平成3年下期は、資金調達コスト減少によるリース部門の利ざやの改善、諸経費の削減等により、実態利益は14億円が見込まれるが、不良債権を償却しなければならないことから、黒字決算を行うためには60億円程度の利益対策を行う必要があるとのことであった。
また、日本リースの金融機関からの資金調達状況については、都銀、信託銀行などから借入金の約定弁済の折り返しすなわち融資の継続を確保することは厳しい状況であるということであった。
日本リースの考える不良債権処理案(第1次対策)は、円滑な資金調達のために必要な公表利益25億円を確保するとともに、平成8年4月期以降の速やかな上場を前提に、平成8年3月までに不良債権処理を完了させるという考え方に立った上で、日本リースグループの要処理債権6174億円(日本リース本体4094億円、日本リースレック2080億円)のうち、950億円を担保不動産等の事業化により有利息化(収益を挙げて利息の支払可能な状況とすること)し、3254億円を担保不動産の売却等により回収し(売却損256億円)、残り1970億円を日本リースにおいてあるいは受皿会社に移管して凍結することとし、日本リース本体で凍結する分を333億円、日本リースグループの受皿会社で凍結する分を710億円、原告と日本リースの共同出資による受皿会社で凍結する分を926億円とするものであった。
そして、原告に対しては、この計画の実行に当たり、借り換えによる原告の日本リースに対する既往の融資の利下げ、事業化資金150億円及び追い貸しする利息分の融資、資産を凍結する受皿会社への500億円の融資、同受皿会社への出資(1000万円から2000万円)及び凍結資産処分時の損失負担について、協力依頼がされた。
日本リースからは、第1次対策の実施により、営業努力と経費削減による収益向上、保有不動産等の売却による益出し(平成5年度まで約500億円)、保有固定資産の事業化による不稼働債権の有利息化(平成5年度まで約60億円)、資産を凍結する受皿会社向けの債権について未収利息の計上(平成5年度及び平成6年度で約250億円)などにより、平成4年度及び平成5年度は何とか決算対策を行うことが可能であるが、第1次対策は、資産凍結する受皿会社へ将来の損失を先送りするにすぎず、その含み損は概ね350億円及び追い貸しする利息分となり、これを日本リースの含み益の残り250億円及び平成6年度以降の余剰利益で吸収することとなるが、収益の向上が図れなかったり、不良債権がさらに増加したり、不動産市況が悪化したり、金利が大幅上昇するなど前提が変化すると計画の見直しが必要となることなどが説明された。
(甲B5号証、同6号証)
(ウ) 原告における第1次支援の検討
さらに、平成3年11月26日、日本リースのF社長及びD副社長が原告を訪れ、被告Y3(当時頭取)及びG副頭取に面談し、上記の日本リースの状況及び第1次対策を説明するとともに、これに対する原告の支援を求めた。
なお、上記面談の時点における、日本リースの第1次対策に対する原告の検討は、自己努力を最大限に積み上げた上で、不足分につき支援を依頼するものであり、姿勢として評価し得るとしながらも、その前提となる収益の確保及び500億円の含み益の実現が可能であるかどうかが問題となること、計画対象となっていない数百億円の要注意先債権があり、要処理対象資産が増加する懸念があること、担保不動産の処分による売却損の拡大のおそれがあること、原告の負担し得る額の行内調整を行う必要があることなどを指摘するものであった。
(甲B7号証)
(エ) 第1次支援の実施
日本リースは、平成5年3月までの間に、約2400億円の不良債権の受皿会社への移管を行い、原告は、日本リースの第1次対策を支援することとし、150億円の事業化資金の融資及び金利追い貸し、原告の斡旋により、ライフから日本リースの受皿会社に対する176億円の融資、原告の長期貸付金利の引下げ、短期貸付けの期限前返済の受入れ等の支援を実施した。
原告においては、これらの支援の評価として、受皿会社に移管した不稼働資産に対する金利の追い貸しによる収益計上効果があったほか、大口貸出先の倒産にもかかわらず、引当負担を回避することができ、また倒産先の大口債権者として日本リースの名前が挙がらずにすむなど、日本リースの決算確保、信用維持に寄与したが、移管した資産の劣化は着実に進んでいるにもかかわらず、回収は進まず、不稼働資産は増加しており、最終段階における償却の展望が見えないなど、今後に大きな課題を残しているとしていた。
(甲B8号証)
エ 第2次支援(平成5年5月ころから平成6年3月期まで)
(ア) 日本リースからの更なる支援の打診
日本リースは、平成5年1月、原告に対し、以下のとおり、既に実施中の不良債権処理計画では黒字決算の維持は不可能であるとして、さらなる対策及びこれに対する原告の支援について打診してきた。
すなわち、日本リースの平成4年度の収益状況については、本業であるリース部門の利ざや改善や資金コストの低下により基礎収益力は大幅改善したものの、実態ベースとしては不稼働資産が累増しており、延滞未収利息の計上や金利追い貸し等を控除すると年間約300億円の実質赤字であり、加えて株式評価損66億円、管理引当68億円が見込まれる状況であった。
さらに資産状況については、平成4年9月時点において、日本リースグループの営業資産約3兆1000億円のうちの45パーセントに当たる約1兆4000億円が実質的に不稼働資産あるいはその懸念のある債権となっており、特に国内営業資産1兆3229億円のうちの9割近くが不良債権化していたが、これらの債権の担保不足額は約5600億円に達しており、他方、日本リースの体力は、自己資本779億円、貸倒引当金264億円、不動産含み益560億円の合計1603億円であり、このほかリース資産含み益430億円、子会社の不動産含み益200億円があるとされていたが、実現方法や評価等に問題があり、実質的には3000億円を超える債務超過状態に陥っていると評価し得る状況となっていた。
これに対する日本リースの対策(第2次対策)は、赤字転落を回避し、少なくとも3年程度は黒字決算を維持し得るとの前提で、〈1〉1583億円の不稼働資産の受皿会社に対する追加的移管による凍結、〈2〉国際部門のリストラ、〈3〉経費削減、〈4〉金融機関からの借入金の利下げ努力による資金調達コストの引下げ等を内容とするものであり、原告に対しては、不稼働資産の移管のために受皿会社に対して1500億円の融資を求めるものであった。
(甲B8号証、同9号証、同48号証、乙A5号証の1)
(イ) 原告における第2次支援の検討
原告は、平成5年3月17日、業務運営委員会を開催し、日本リースからの第2次対策への支援要請を検討した。
業務運営委員会の資料によれば、支援要請に対する原告の基本的な考え方は以下のとおりであった。すなわち、日本リースは原告にとって最大の与信先であり、日本リースが経営破綻に陥れば、原告への直接・間接の影響は甚大であるが、他方で、日本リースの不稼働資産は原告の与信規模をはるかに超えるものであり、原告単独支援での再建は不可能である。また、日本リースに対する大口融資規制枠の残枠も800億円程度であり、日本リースの半期の約定弁済額3000億円及び短期借入額6000億円との比較からも、日本リースが信用不安により資金調達が不能となった場合、ほとんどなす術もない事態が想定される。このような現状認識と短期間に不稼働資産の処理が不可能な現実の中で、今後、原告がとり得る選択肢としては、〈1〉日本リースの考え方に即し、不稼働資産の本体からの移管を柱に、対外的には経理のテクニックを駆使して黒字維持、信用維持を図りつつ、環境の回復を待つ方法(実質塩漬け)、〈2〉現企業形態を保持しつつ、まずは不稼働資産保有負担を主要行を巻き込んだ金融支援により吸収する方法(金利減免措置)、〈3〉自力再建困難とみなして、他の金融機関の支援を仰ぎ企業分割等の本格的再建措置を講ずる方法(支援償却、金利減免措置)に限られ、各選択肢とも一長一短あるが、現時点では、〈2〉、〈3〉の方法については原告への跳ね返りリスクが大きいことや、原告の収益との兼ね合い、さらには相当の準備期間を要することを勘案すれば、現実には困難と考えざるを得ない。したがって、消去法によれば、当面は〈1〉とせざるを得ないが、あくまで「やむを得ざる選択」であり、含み損(将来の原告の損失)の天文学的拡大懸念、益出しによる日本リースの体力の衰退、商法・税務上の問題等を内包していることを十分認識しておく必要があるとするものであった。
さらに、同資料は、日本リースの第2次対策に対する評価として、第2次対策により、次期以降大幅な赤字転落に陥る危機的状況は一応回避し得るが、本対策は、当面のフローベースの収益を金利追い貸しにより表面上確保するにすぎず、ストックの損失処理がほとんど手つかずであり、また、キャリングコストの付加による含み損の拡大を将来の地価値上がりによりカバーするという不確定要素に依存する将来展望に欠けた対策であるといわざるを得ないとしていた。
そして、第2次対策への支援を行うに当たっての留意点として、〈1〉受皿会社への原告の融資が他行からの借入金の返済に回り、原告の与信リスクの拡大につながらないよう日本リース本体からの融資回収を極力図ること、〈2〉将来の原告の損失を極小化するとともに、大蔵省検査等への対策の観点からも、受皿会社の自立回転シナリオの準備(事業化計画の準備及び利払い原資の別途確保)及び確実な担保徴求などの十全な債権保全を講じること、〈3〉本対策が問題の抜本的解決にならないことを踏まえ、環境等を見極めつつ、外科的対応を含む次なるステップのシナリオ作成の検討に早急に着手する必要があること等を挙げていた。
(ウ) 日本リースからの第2次支援の正式要請
日本リースのF社長は、平成5年3月25日、被告Y3(当時頭取)と面談し、第2次対策に対する支援として、不稼働資産の移管のための受皿会社に対する1500億円の融資を要請した。被告Y3は、不稼働資産の額が1兆円を超えるとの日本リース側の説明に驚きを示した。
(甲B11号証)
(エ) 原告における第2次支援の決定
原告は、平成5年3月26日に臨時常務会を開催し、前記のような日本リースの現状を確認し、日本リースの第2次対策に対する支援の要否を検討し、日本リースは原告にとっての最大の与信先であることから、日本リースの経営安定化を図ることが極めて重要であり、原告の収益との兼ね合いから、現時点で資産移管を中心とした決算・信用維持対策すなわち日本リースの第2次対策が当面妥当であるとして、日本リースに対する支援を行うことを承認した。
上記常務会には、被告Y1(当時会長)、被告Y3(当時頭取)、被告Y4(当時専務)、被告Y5(当時常務)、被告Y7(当時常務)、被告Y6(当時常務)及び被告Y8(当時常務)が出席した。
(甲B10号証の1及び2)
(オ) 第2次支援の実施
日本リースは、第1次対策及び第2次対策により3736億円の不稼働資産について受皿会社への移管あるいは事業化遂行による対策を実施し、原告は、第2次対策への支援として、平成5年3月から平成6年3月にかけて、日本リースの受皿会社15社に対し、日本リースからの不稼働資産譲渡の譲受資金として、合計844億円の貸付けをした。
さらに、平成5年11月に日本リースの大口融資先であるビルプロの経営破綻が表面化したことから、これによる日本リースの信用不安を回避するため、原告は、平成6年3月、日本リースのビルプロに対する1500億円の債権のうち、470億円の債権を原告の受皿会社が簿価で譲り受けることとし、そのための資金を受皿会社に融資することにより、肩代わりをした。
(甲B12号証の1)
オ 本件損益支援(平成6年度支援)の経緯
(ア) 日本リースからの本件損益支援の打診
しかしながら、日本リースの経営状況は、第2次支援にもかかわらず、その後も悪化し、日本リースは、平成6年3月ころに自力再建は不可能であるとして、原告に対して、支援を打診してきた。
すなわち、日本リースの平成5年度の決算状況は、表面計算上の利益額82億円、当期利益10億円を確保してはいるものの、実態は問題債権に対する金利の元加や追い貸しによる未収利息の計上が400億円あり、これらを控除した実力ベースでの損益は、306億円の大幅赤字となっていた。
また、資金面でも、大口融資先であるビルプロの経営破綻表面化等により日本リースの準主力行である三菱信託を始めとして同社の信用に不安を抱く金融機関が増加しつつあり、約定弁済の折り返しの確保等への支障が懸念される状態となっていた。
さらに、資産状況は、営業貸付金のうち約8割に当たる1兆2100億円が問題債権であり、不動産価額の大幅な下落により担保不足額は6500億円に達する一方、日本リースの体力は、自己資本780億円、貸倒引当金300億円、有価証券及び不動産の含み益310億円の合計1400億円程度であり、実質的に大幅な債務超過の状態となっていた。
(甲B12号証の1)
(イ) 日本リースからの支援要請の内容
日本リースの再建計画及び原告への支援要請の内容は以下のとおりであった。
すなわち、日本リースグループ全体の不稼働債権が総額1兆2100億円(本体5340億円、受皿会社分6760億円)であり、これを、要処理対象7600億円(本体分4300億円、受皿会社分3300億円)と事業化可能分4500億円(本体分1040億円、受皿会社分3460億円)に分ける。そして、処理対象7600億円のうち、4000億円については原告がこれを買い取って、共同債権買取機構に持ち込んで一括処理を行い、その余の3600億円は、日本リースが10年間かけて期間収益(2080億円)及び含み益750億円の実現により償却し、700億円まで減少させることとしていた。なお、この計画においては、日本リースの営業努力等によりリース部門の年間収益を110億円から170億円に引き上げること及びファイナンス部門の年間利益を30億円とすることが前提とされていた。
次に、受皿会社へ分離する4500億円については、既に分離済の3460億円に加えて、日本リース本体分1040億円を受皿会社へ移管するという内容であった。
そして、原告に対する支援要請の内容は、共同債権買取機構を利用した損益支援(元本額4000億円に対して、原告の支援損の負担2400億円)、受皿会社に対する追加融資2000億円、原告グループによる日本リースの増資の引受け(150億円ないし200億円)というものであった。
(ウ) 10年計画案
これを受けて、原告営業企画部は、日本リースに対する今後の対策を検討し、平成6年6月、副頭取のEに対して、その説明を行った。
当該検討資料は、対策に向けての基本的認識として、〈1〉日本リースは問題債権総額及びこれに伴う含み損の額から判断して自力再建は不可能な状況に陥っており、また従来同様の諸対策(サイレント方式)は含み損を増加させるだけで抜本的な対策となり得ない、〈2〉現時点で考えられる対策を総合的に判断すると、原告が単独支援でスタートせざるを得ないが、将来の環境変化次第では計画の抜本的な見直しを考慮しておく必要があるとしていた。そして、現時点では、考えられる対策について、以下のとおり分析していた。
まず、単独支援(原告単独で共同債権買取機構の活用により日本リースの不良資産の肩代わり償却を行う方式)では、原告の負担は、損益負担2430億円(増資分60億円は業務純益からの支出)と受皿会社に対する融資による資金負担2000億円となるが、メリットとしては、不良資産処理が前進すること、金融機関の理解が得られやすく原告との取引に影響しないこと、極力一括処理を行うことにより日本リースの営業基盤の維持が可能なこと、問題点としては、原告の支援負担が大きいこと(ただし、業務純益への影響はない。)及び単独支援の合理的根拠を構築する必要があること、支援額が大きく原告の信用基盤への波及が懸念されることが挙げられており、考えられる対策中最も高い総合評価が与えられていた。
次に、協調金融支援(主要行による金利減免を中心とした金融支援体制を構築する方式)では、原告の負担は、損益負担900億円(減免後金利1パーセントを想定し、業務純益による負担)と受皿会社に対する融資による資金負担2000億円であるが、メリットとしては、原告の負担が軽減されること(ただし、業務純益には大きな影響がある。)及び比較的緩やかな減免で吸収可能なことであり、問題点としては、金融機関の同意取付けが非常に困難なこと、原告に対する責任追及による取引への影響が大きいこと、不良資産処理が前進しないことから再建の可能性への懸念が発生し、日本リースの営業基盤への影響が生ずるおそれのあることが指摘されており、総合評価は単独支援に次ぐものであった。
さらに、私的整理のうち、不良資産を分離凍結して、原告の責任で処理する方式(原告の責任による私的整理)については、損益負担は3800億円(業務純益外からの支出)、融資による資金負担は7100億円であり、メリットとしては不良資産処理体制の明確化、日本リースの営業基盤の維持が可能であること、問題点としては、原告の負担が巨大となることが挙げられていた。また、不良資産を分離凍結して、全金融機関が責任を分担して処理する方式(全行責任による私的整理)については、原告の負担は損益負担380億円(業務純益外からの支出)及び資金負担2000億円であり、メリットとしては、原告単独による私的整理と同じであるが、問題点として、事実上会社更生と同様の処理を私的に行うこととなり、金融機関の同意の取付けが非常に困難であること、原告に対する責任追及による原告の取引への影響が大きいこと等が挙げられていた。そして、私的整理による方式は、いずれも総合評価は他の方策よりも低い位置づけがなされていた。
そして、同資料は、日本リースからの支援依頼に応じる問題点等を検討の上、日本リースの経営破綻が表面化すれば原告の信用基盤を揺るがすことになりかねないことを勘案し、前記の日本リースからの支援依頼内容を織り込んだ10年計画による再建計画に協力することとしたい旨結論づけていた。
これに対して、Eは、支援方式としては、単独支援・プロラタ支援の二つの方法があり得るが、現時点では単独支援でスタートせざるを得ないこと、原告の償却予定額が急速に積み上がっており、日本リースの支援にどの程度回せるかが問題であり、一度大きな支援に踏み込めば後戻りできないので、何とか従来同様のサイレントの支援で凌げないかもう一度考えてみることも必要であるが、全くのサイレント支援で日本リースが本当に大丈夫なのかということも大いに不安が残ることから、共同債権買取機構を利用して1000億円、1000億円及び2000億円と3回に分けて処理するのが現実的な落ち着きどころと思われること等を指摘し、管理部と折衝するよう指示した。
これに対するH管理部長の対応は、管理部としてはこの2年間毎年3000億円の償却ピッチは早すぎたといわざるを得ない状況であり、既に株式含み益も中位行並の水準である1兆2500億円まで減少しており、さらに今期3000億円の償却を実施すれば、日債銀並の水準まで落ち込むことにより、様々な弊害を生ずることは必至であること、現在向こう10年間の業務純益を株価動向の予測に基づき、適正な償却規模を再計算しているが、年間2000億円が許容範囲であること、このような状況下において、日本リース支援を前倒しし、しかも年間1000億円もの規模で行うのは不可能といわざるを得ないこと、原告本体での要償却額に加え、長銀リース、NEDの支援額も当初予算に比較して大幅に積み上がっており、これについても極力圧縮するよう要請していること、そうは言っても、優先順位をつけて実行していかざるを得ないとの認識を有しており、日本リースについていえば今年度償却額500億円+α程度はコミットできるが、来年度以降の共同債権買取機構への持込ベース1000億円、2000億円は方針としては理解できても、どのような事態が発生するかどうか分からず、はっきりコミットすることはできないこと等を指摘するものであった。
(甲B12号証の1ないし3、同47号証)
(エ) 5年計画案への修正
その後、原告は、日本リースからの要請を踏まえた原告単独支援による10年計画案について、法人税法基本通達による無税扱いを国税当局に打診したところ、原告の単独支援の必要性は国税当局の理解を得られたが、計画期間が長すぎると指摘され、再建計画を5年間に短縮する修正案を策定し、国税当局に持ち込んだ。すなわち、平成6年9月時点における案(5年計画案)は以下のとおりであった。
全体の不良資産1兆1116億円のうち、処理対象とするもの6908億円(日本リース本体分4498億円、受皿会社分1728億円及びビルプロ分471億円の国内営業貸付合計6697億円と国際割賦211億円)と、受皿会社に分離し実質塩漬けとするもの5400億円(飛島関連融資1232億円、受皿会社約4200億円)に分ける。
そして、処理対象の6908億円のうち、4250億円は原告が買い取って共同債権買取機構に持ち込んで処理し(原告の支援損の負担2440億円)、その余の1660億円は日本リースが含み益の活用及び剰余金の取崩し(本体決算を4年間収支均衡とし、5年目に剰余金を取り崩す。)により処理し、5年後には998億円まで減少させるというものであり、この6908億円を不良債権として国税当局に申告するというものであった。
すなわち、5年計画案においては、10年計画案と比較して計画期間が10年間から5年間に短縮され、処理対象とする不良債権の額は7600億円から6908億円に減少させるとともに、受皿会社等に実質塩漬けとする不良債権の額は4500億円から飛島関連の不良債権1200億円を含めて5400億円に増加した。
(甲B13号証、同47号証)
(オ) 5年計画案についての原告の検討
原告の営業企画部は、平成6年10月、日本リースに対する支援について、国税当局から無税扱いの了解が得られる見込みがあるとして、支援計画の内容について検討を加えた。
それによると、支援に当たっての基本的考え方は、原告の体力では、単独での日本リースの抜本的再建は不可能であり、他方、プロラタ方式の金融支援又は何らかの会社整理は原告の信用上の問題あるいは他行からの同意を得ることが困難であることから不可能であるという前提条件の下で、やむを得ざる選択として、原告の体力の範囲での単独支援しかないとした上で、不良債権の抜本的な処理はできないが支援の範囲内で不良債権を最大限圧縮し早期の再建を目指す考え方と日本リースの企業維持、対外的信用維持に重点を置いて原告の体力回復後日本リースの再建を検討する考え方があるとしていた。
すなわち、前者の考え方は、国税当局に対して処理対象の不良資産として届け出るオープンベースの対応は、共同債権買取機構を活用し、不良債権の現金回収及び営業貸付金の圧縮を図り、国税当局に処理対象として届け出ないサイレントベースの対応は、受皿会社に実質塩漬け中の不良資産を原告が引き取って極力資産の圧縮を図るものであり、その評価としては、共同債権買取機構中心では、含み損額が大きく不良債権処理額に限界があり、日本リースの自転可能なまでの処理額の積み上げは困難であるが、物件引取りを併用すれば、ギリギリ日本リースの自転のめどを立て得るとされていた。
他方、後者の考え方は、オープンベースの対応は、共同債権買取機構の活用によるよりも同額の負担で処理額が積み上がる認定償却を利用し、処理額を最大限積み上げて対外的にアピールし、サイレントベースの対応は、日本リースの受皿会社分については原告が可能な範囲で肩代わり貸付けを行って営業貸付金の圧縮を図るものであるが、その評価としては、間接償却によるキャリングコストの負担及び利息追い貸しによる含み損の増大等により、将来日本リースの再建のため再度抜本処理を要する懸念が大きく、また、原告による受皿会社への追い貸しは、担保等の制約から限界があるとしていた。
そうした上で、基本的には前者の考え方に立った上で、オープンベースの不良資産の処理額は原告の償却財源から逆算して、国税当局への申告分である4250億円よりも少ない3134億円とし、サイレントベースでの不良債権の処理は、原告が物件を引き取る形で2000億円の支援を行う計画でシミュレーションを行っていた。
これによると、資産面では、日本リースの支援前の不稼働資産は1兆1116億円であったのが、支援により、5年後には5791億円に減少することとなっていた。さらに、収益面では、支援前は日本リースの基礎収益力は年間118億円、日本リース本体の不稼働資産のキャリングコストは432億円であり、毎期314億円の含み損が発生することとなっていたが、5年間で基礎収益力を85億円(リース資産入替による49億円及び経費削減等の自助努力による36億円)上昇させ、平成11年3月期において基礎収益力203億円を達成するとともに、日本リース本体の不稼働資産の圧縮によりキャリングコストが102億円まで圧縮されるので、支援後には年間101億円の償却余力が生ずる計算となっていた。
この支援により、原告が負担すべき損失額は、共同債権買取機構への持込分の支援損2012億円、日本リース本体に戻す受皿会社償却分240億円であり、またサイレントベースでの物件引取りによる含み損を5年間で667億円として、合計2919億円と想定していた。
そして、本件支援の対外的説明のスタンスとしては、今回の原告の単独支援により日本リースの不良資産は相当程度処理され、4ないし5年で日本リースのリストラは概ね完了するとし、公表する数字は国税当局への申告のとおり不良資産の額は約6900億円(不良資産比率54パーセント)とし、これを共同債権買取機構等で処理して5年後には約1000億円まで減らすこととし、他の数字は一切公表不可としていた。
(甲B13号証、同47号証)
(カ) 3年計画案への修正
その後、原告サイドは、公表ベースでみても日本リースの不良債権額6000億円、原告の支援損の負担額2000億円は額が大きすぎることから、日本リースのみならず原告の信用問題に波及するおそれがあること、株主代表訴訟を惹起する可能性があること、さらに住専処理等大口償却を念頭に置くと償却財源の確保への懸念があることなどの問題があるとして、前記5年計画の大枠の範囲内で「3年+2年」の計画に組み替え、対外発表は3年計画の部分のみを公表することとした。
すなわち、国税当局へ申告する計画は、不良債権額6908億円とし、3年間の処理額は原告の共同債権買取機構の利用による2100億円(原告の支援損の負担1025億円)及び日本リースの自助努力による1500億円の合計3600億円とし、3年後の不良債権残高を3308億円とした上で、次に4年目以降に第2段階処理として、原告は2200億円(支援損の負担1000億円)、日本リースの自助努力による160億円の処理を行い最終的には948億円の不良債権が残る計画とする。これに伴い、対外発表は日本リースの不良債権を約4000億円とし、3年後には不良債権の残額は400億円に減少するとの説明を行うこととするというものであった。
しかしながら、実態ベースでの計画は、不良債権額1兆1116億円のうち、3年間で原告が共同債権買取機構を活用して、1579億円(原告の支援損の負担1025億円)、物件引取りにより2000億円、さらに日本リースが益出し及び剰余金の取崩しにより1089億円の処理を行うことから、これらにより不良債権の残額は7283億円となり、さらに第2次段階として、4年目以降2年間で原告が1800億円(支援損の負担1000億円)、日本リースが130億円の処理を行い、5年後の不良債権残額は5639億円となるというものであった。
E副頭取、被告Y2(営業企画部長)は、平成6年10月12日、日本リースのF社長及びD副社長に対し、上記方針を伝えた。その際、被告Y2は、原告及び日本リースのごく限られたもの及び国税当局以外には、再建計画は3年で完了するという説明をしていくこととなるとして、情報管理に注意するよう求めた。
(甲B14号証)
(キ) 平成6年10月28日開催の経営会議
原告は、平成6年10月28日開催の経営会議において、日本リースの支援方針を検討し、原案のとおり了承した。同経営会議には、被告Y1(当時会長)、被告Y3(当時頭取)、被告Y4(当時副頭取)、被告Y5(当時常務)、被告Y7(当時常務)、被告Y6(当時常務)、被告Y8(当時常務)及び被告Y9(当時常務)が出席した。なお、主管部は営業企画部であり、被告Y2は同部長として出席した。
同会議の資料には、支援の具体的内容は以下のとおり記載されていた。すなわち、支援の基本スタンスは、原告単独支援による不稼働資産の最大限の処理(従来の資金支援方式から共同債権買取機構の活用等損益支援を含めた抜本的再建への転換、物件引取りも積極的活用)及び増資引受けによる財務内容強化とされていた。
そして、具体的支援内容は、3年計画で、営業貸付金1兆2808億円のうち、不稼働資産の額を6908億円とした上で、原告支援による共同債権買取機構への持込み等により2100億円(原告の支援損の負担1025億円)及び日本リースの自助努力により1500億円の合計3600億円を処理し、不稼働債権の残額を3308億円とし、物件引取りは1000億円から2000億円の範囲で検討するというものであった。
これにより、収益面では、支援前の日本リースの基礎収益力は年間118億円(リース・割賦部門110億円及びファイナンス部門8億円)、日本リース本体の不稼働資産のキャリングコストは301億円であり、毎期183億円の含み損が発生することとなっていたものが、3年間で基礎収益力を57億円(リース資産の入替による36億円及び経費削減等の自助努力による21億円)上昇させ、4年目で基礎収益力175億円を達成し、上記支援による不稼働資産の減少によりキャリングコストは139億円まで圧縮されるので、年間36億円の償却余力を生ずるとしていた。そして、不稼働債権の残額3308億円はこれをそのまま抱えてもキャリングコストは日本リースの基礎収益力で吸収可能であり、その処理については、不動産市場、債務者の状況等をみながら、追加支援の必要性を検討するとされていた。
また、本件支援の対外的な説明として、原告の単独支援により日本リースの不稼働資産について相当程度処理され、3年で日本リースのリストラは概ね完了すると説明し、公表数字はあくまで処理額のみとし、その金額は約4000億円(不稼働率31パーセント)とし、他の数字は一切公表不可とされた。
次に、支援の必要性及び意義については、〈1〉日本リースの決算対策にも限界があり、経営実態が表面化するにつき、信用力に対する不安感が増加することは避けられず、その後に期待されているメインバンクである原告の支援が行われないことが明白となれば一気に信用不安を起こすことが必至の情勢であり、他方、日本リースの借入残額に占める原告のシェアは10パーセント弱であり他行からの融資引揚げという事態が発生した場合、原告単独では支えることは事実上不可能であること、〈2〉日本リースは事実上原告のグループ会社的位置づけであり、日本リースの経営破綻による原告への影響は、日本リースに対する貸付金の回収懸念にとどまらず、原告が支援しない(すなわち、できない。)となれば、NED、ランディック、長銀リース等の原告のグループノンバンクひいては原告自身の信用問題へ一挙に波及する可能性が強いこと、〈3〉日本リースの規模(借入金総額約3兆円、従業員数約1600人、取引先4万5000社)から、同社が破綻した場合に日本の金融システム全体に与える影響は非常に大きく、このような事態を回避するため原告が支援することはメインバンクとしての社会的責任を果たし、ひいては金融秩序の維持に資するものであることが挙げられていた。
そして、支援の形態については、理論的にはプロラタ支援もあり得るが、日本リースは事実上原告グループ会社として位置づけられ、他行も原告への支援期待を織り込み済みであること、日債銀以来大手の直系・親密ノンバンクに関してプロラタ支援の動きがないことから、金融機関の同意を得られない可能性が非常に高く、結果的に日本リースの破綻及び原告グループノンバンクの信用問題につながることから、単独支援を選択するものとしていた。
さらに、支援の意義としては、日本リースは業界の老舗として本業のリース部門に一定の基礎収益力があり、営業貸付部門の不良債権を処理すれば再建は十分可能であること、日本リースは今回の支援により名実ともに原告のグループ会社となり、今後のリースマーケットの多角的展開を考えれば、原告及びグループの機能として大手リース会社の直系化のメリットが大きいこと、さらに、今回の支援を契機に今後原告の持株シェア引上げや長銀リースとの一体化等を行い、日本リースの経営権の完全な掌握を図ることにより、原告グループとの一体的な業務の展開が可能となる外、再建完了後の株式公開によるキャピタルゲイン等も期待できることなどが挙げられていた。
経営会議において原案が了承されたが、被告Y4(当時副頭取)からは、数字上再建できるといっても、具体的にはどのように再建していくのか、人的支援、営業支援を今後どうするのか、原告にとってリース業の展開をどのようにするのかということについて検討する必要があるとの発言がなされた。
(甲B15号証の1及び2、同47号証)
(ク) 平成6年11月25日開催の経営会議
原告は、平成6年11月25日経営会議を開催し、前記支援方針を前提に、同年10月28日の経営会議における被告Y4の問題提起に応える形で、日本リースを原告の直系化した後の日本リースの業務展開、原告及びグループ企業との役割・機能分担の在り方について検討を行った。同経営会議には、被告Y1(当時会長)、被告Y3(当時頭取)、被告Y4(当時副頭取)、被告Y5(当時常務)、被告Y7(当時常務)、被告Y6(当時常務)、被告Y8(当時常務)及び被告Y9(当時常務)が出席した。主管部は営業企画部であり、被告Y2は同部長として出席した。
同会議の資料には検討事項として、〈1〉日本リースの社内に経営改善委員会を設置し、収益改善、経費削減等の日本リースの自助努力及び不稼働資産の処理の進捗状況を管理すること、〈2〉支援の一環としての第三者割当増資の引受けについては原告及びグループの持株比率を3分の1以上50パーセント未満とし、必要に応じて増加を検討すること、〈3〉今回の支援をてこにして、金融機関に対して新規融資の金利引下げを求めるなど資金コストを削減すること、〈4〉物件引取会社を設立し、日本リースの受皿会社で保有している物件について、対象物件を選別して引取り、日本リースの営業貸付金の圧縮を図ること、〈5〉長銀リースの不良債権の処理を進めるとともに、2年ないし3年のうちに日本リースに統合すること等が挙げられていた。
なお、原告は、顧問弁護士に対し、日本リースの支援に対する取締役の法的責任について意見を求めていたが、顧問弁護士から平成6年11月24日付けで「貴行の日本リース支援方針の決定は、貴行取締役について法的責任を生じさせることはないものと考える。」との回答を得ており、これも会議の資料として提出された。
(甲B16号証の1及び2)、
(ケ) 平成6年12月2日開催の経営会議及び取締役会
日本リースから、平成6年12月2日、原告に対し、不稼働資産約4000億円の処理を柱とする経営改善3か年計画について、不稼働資産処理についての損益支援及び財務内容強化の観点からの第三者割当増資への引受け等を内容とする支援依頼が正式に行われた。
これを受けて、原告は、同日、経営会議を開催し、日本リースからの支援要請に対し、不稼働資産の処理に際して、原告が必要と認める範囲内で損益支援を行うこと、日本リースが財務内容強化の観点から今後行う第三者割当増資に際しては、原告が必要と認める範囲内で引受支援を行うこと、具体的な支援の実施については、別途機関決定を行うものとすることを了承するとともに、さらに同日、取締役会を開催し、経営会議の了承事項を決定した。経営会議及び取締役会には、被告Y1(当時会長)、被告Y3(当時頭取)、被告Y4(当時副頭取)、被告Y5(当時常務)、被告Y7(当時常務)、被告Y6(当時常務)、被告Y8(当時常務)、被告Y9(当時常務)及び被告Y2(主管部の営業企画部部長)が出席した。
(甲B17号証の1ないし3、同18号証の1及び2)
(コ) 平成7年3月27日開催の経営会議及び同日開催の取締役会(平成6年度損益支援の決定)
原告は、平成7年3月27日開催の経営会議において、日本リースに対する支援計画に基づく平成6年度分の損益支援額を490億8750万3700円とし、共同債権買取機構の利用により日本リースの不稼働資産698億円を処理することを了承した。
同会議の資料によれば、当初計画では1000億円の処理が予定されていたが、不動産市況の低迷により平均含み損率が当初より大きく、処理額は減少したこと、平成7年3月期の日本リースの基礎収益(金利低下、調達コストの削減努力等により当初計画より20億円増大)は180億となる見込み(平成6年3月期110億円)であること、平成7年3月期の当期利益はほぼ収支均衡する見込みであることなどが記載されていた。
原告は、同日、引き続き取締役会を開催し、経営会議で了承された損益支援を実施することを決定した。
経営会議及び取締役会には、被告Y1(当時会長)、被告Y3(当時頭取)、被告Y4(当時副頭取)、被告Y5(当時常務)、被告Y7(当時常務)、被告Y6(当時常務)、被告Y8(当時常務)、被告Y9(当時常務)及び被告Y2(当時常務かつ営業企画部長)が出席した。
(甲B19号証の1及び2、同20号証の1)
(サ) 平成6年度損益支援の実行
原告は、平成7年3月30日、前記取締役会の決議に基づき、日本リースの営業貸付金債権698億1431万1743円(元本及び利息)を譲り受け、同日付けで、共同債権買取機構に売却した。
これによる支援損490億8750万3700円は原告が負担した。
(甲B21号証の1及び2)
カ 本件損益支援(平成7年度支援)の経緯
(ア) 支援計画の前倒し実行による早期打切りの検討
その後、原告は、日本リースに対する損益支援の早期終結を模索し、平成8年3月期に1100億円の支援損を伴う損益支援を行うことにより、支援を打ち切る方針を打診していたところ、平成8年2月21日、日本リースから、これを前提とした不良債権処理計画が、原告に提示された。
この計画は、原告による共同債権買取機構を活用した支援と日本リースの受皿会社に対する貸付金肩代わり(400億円)により、平成8年3月期をもって原告の支援は終了するとの前提で、原告の支援損1100億円、日本リースの財源950億円(利益剰余金等405億円、資本準備金178億円、資産処分益125億円、期間収益240億円)により、3360億円(原告支援による処理額1460億円、日本リース自助努力による処理額1900億円)の不良債権を処理するとしていた。
この計画の支援終了の対外的な説明は、日本リースが公表していた不良債権額4000億円に、ビルプロ向け営業貸付金1200億円を加えると不良債権額は5200億円となるが、上記財源により3360億円の不良債権を処理し、さらに、これに平成7年3月期に行った不良債権処理額1100億円を加えると4460億円が処理されたこととなり、残額740億円のうち400億円は、原告が別途肩代わりし、残り360億円は期間収益(250億円)により1、2年で償却するというものであった。
しかしながら、日本リース側からは、支援の終了によっても、実態ベースでは飛島関連の融資を含めて8500億円の問題資産が残り、今回の計画により資本準備金まで取り崩すことにより、今後の償却財源の余力はなく、また、金利水準が上昇すれば実態利益はマイナスとなる可能性があることから、原告に対して、増資引受けによる資本増強、損益支援以外の方法による不稼働資産処理への協力、収益面でのバックアップに期待するなどの要望が付されていた。
(甲B29号証、同50号証)
(イ) 平成8年2月22日の原告と日本リースの打合せ
これを受けて、被告Y4(当時頭取)及び被告Y7(当時常務)は、平成8年2月22日、日本リースのD社長の来訪を求め、日本リースに対する支援について協議した。
原告は、日本リースに対して、住専処理の問題もあり原告の含み益等がかなり減少するなか、日本リースには1100億円の支援損を伴う損益支援をし、不良債権の抜本的処理及び自転体制の確保を図り、もって支援完了の宣言をすることから、日本リースも経費削減、本業回帰の徹底等を骨子とした3年ないし5年のリストラ計画を策定し実行するように求めた。
これに対し、日本リースは、リストラ計画の策定及び実行を約するとともに、自転の可能性については、金利の上昇による資金調達コストの上昇(現在3パーセントであるが、4パーセントが限界)、飛島関連の不良債権1233億円の動向など不安材料があるとして、原告に対し、日本リースの受皿会社向け貸付けのうち400億円ないし500億円の肩代わり、増資引受けの実施などを要望した。
(甲B30号証の1ないし3)
(ウ) 平成8年2月23日の常務役員連絡会議の検討
原告は、平成8年2月23日、常務役員連絡会議(常務取締役以上を構成員とする非公式な会議)を開催し、日本リースの現状と今後の支援について、検討を行った。
なお、同連絡会議には、被告Y4(当時頭取)、被告Y5(当時副頭取)、被告Y7(当時常務)及び被告Y2(当時常務)が出席した。
会議資料によると、支援の実績について、平成6年度の損益支援による不稼働資産の処理額は1000億円を目標にしていたが、含み損率が高く共同債権買取機構への持込みによる処理額は698億円(うち元本額615億円)に止まったことから、有楽町総合開発による物件引取り(528億円)を実施し、合計1226億円(うち元本額1143億円)の処理額を積み上げたとしていた。
日本リースの平成8年3月期の収益見通しについては、リース・割賦販売の本業部門についてのリース利回りの低下、ファイナンス部門の実収低下などにより粗利は984億(前年度1134億円)に減少するが、資金調達コストの低下により、リース・割賦販売部門では「実態利益」(19頁の基礎収益力と同義である。)は250億円(前年度205億円)に達し、日本リース全体でも、不稼働資産のキャリングコストを含めても、実態利益は22億円の赤字(前年度241億円の赤字)まで回復するとされていた。
「基礎収益力」(リース・割賦部門及び国際部門の「実態利益」からファイナンス部門の販管費を控除したものである。)は、平成6年3月期170億円、平成7年3月期273億円であったのが、平成8年3月期324億円へと増加し、他方、不稼働資産のキャリングコストは、平成6年3月期555億円、平成7年3月期513億円であったのが、平成8年3月期346億円へと減少していく見込みとされていた。
銀行取引状況は、原告の支援能力に対する懸念、ノンバンクの選別取引の強化、不振金融機関の支援圧縮の動きなどにより、約定弁済の折り返しの確保に厳しい状況があるとされていた。
不良債権の状況については、日本リースの平成7年3月期の営業貸付金残高は、1兆2193億円であり、その内訳は本体健全2159億円、飛島関連1233億円、要処理対象額5522億円(うち固定化営業債権545億円、引当金169億円、債権保有受皿会社22社分1164億円)、不動産保有受皿会社24社分3279億円と整理した上で、債権保有受皿会社への飛ばし債権や不動産保有会社向け大口営業貸付金が多数残り、不動産保有会社向け与信が利息追い貸しにより増加し、その含み損も累積しているとされていた。
これらを踏まえた課題としては、要処理対象額につき、公表リストラ計画に基づき4000億円を処理して収束感を出せないか、不動産保有受皿会社向けについては大口貸出のクローズアップを回避し、追い貸しがなくても自転できる体制を構築できるかどうか、原告の支援表明後も融資継続に慎重・警戒的なスタンスをとる主力行の信頼感を回復し残高の維持を図れるかがポイントであるとしていた。
以上を前提に、今後の支援の基本的な考え方としては、金融機関の不良債権の開示対象について、平成7年9月の金利減免債権の開示の追加に加え、平成8年3月期より支援損計上先の与信残高の開示も検討されていること、金融機関の不良債権処理は住専処理が最大の山場と見られていることから、平成8年3月期以降の不稼働資産の額は処理終了組と未処理組との格差を際立たせ、原告の処理の遅れが注目を集めるおそれがあること、原告のBIS基準の達成や資金繰り対策上、日本リースに対する融資残高の増加を最低限に抑える必要があることなどを踏まえ、原告による最大規模1100億円の一括投入、日本リースの剰余金、資本準備金の取崩しを含む赤字決算、リストラ推進により償却財源を集中的に前倒し投入し、リストラ終了宣言による収束感を打ち出す必要があるとしていた。
その上で、平成8年3月期に、原告の損益支援により日本リースの不稼働資産1460億円を処理するとともに、日本リースの自主償却により1908億円を処理することとし、原告は支援損として1100億円を、日本リースは、不動産株式売却による125億円、元加260億円、剰余金準備金の取崩し584億円の合計949億円を、それぞれ負担するとしていた。
支援後の資産及び収益の見通しとしては、日本リースの貸付金残高は、平成8年3月期において1兆0709億円に減少し、要処理対象額は4178億円(固定化債権2456億円、引当金1118億円、債権受皿150億円)に圧縮され、不動産受皿会社分は3139億円に減少し、実態収益は、現行金利(長期3パーセント)が継続する限り、平成10年3月期に98億円、平成11年3月期に115億円となり、収益を償却原資として活用できるから、未処理資産1722億円(前記要処理対象額4178億円から固定化債権2456億円を控除したもの)を15年程度で処理でき、追い貸し、元加という決算調整が今後不要となるが、金利急上昇(長期5パーセント)の場合、決算表面上収益をバランスさせるためには、元加等の対策が必要となると分析していた。すなわち、対外公表不良債権額4000億円の処理を達成し、営業貸付金も1兆円を下回る8253億円(固定化債権控除後)となることから、不稼働資産は約7300億円存在するが、金利が現状水準で大型倒産がない限りキャッシュフローは自転可能であり、収束感を打ち出すことができると期待していた。
なお、検討事項として、日本リース側から要望のあった営業貸付金の肩代わりについて、受皿会社保有不動産を路線価で評価し、その範囲内で実行すること、事業化の早期着手により「飛ばしイメージ」を払拭すること、実行は極力大蔵省検査後とすることとされていた。
(甲B45号証、同47号証、甲D2号証)。
(エ) 平成8年2月27日開催の経営会議及び取締役会における検討
原告は、平成8年2月27日開催の経営会議において、日本リースに対する平成7年度支援の件を検討し、原案のとおり了承した。
付議事項は、平成6年12月2日開催の取締役会で承認した日本リースに対する3年計画の支援を前倒して実施し、日本リースの不稼働資産処理を終了させるため、原告が1100億円の支援を行うこと(具体的な支援の実施には別途機関決定を行うこと)であり、付議理由は、原告の前年度支援及び日本リースの収益が向上しており、本支援の実施により原告の損益支援は終了し、日本リースはリストラの根幹部分が終了するものと認められるとされていた。
なお、経営会議の資料には、日本リースの「基礎収益力」(常務会資料に記載された「基礎収益力」と同義である。131頁の(ウ)参照)は、平成7年3月期の実績は197億円(当初計画160億円)、平成8年3月期の見込みは258億円(当初計画182億円)、平成9年3月期の見込みは260億円(当初計画169億円)と順調に推移しており、本件支援により、日本リースは自力収益によるフローで自転化が可能となるとされていた。
さらに、原告は、同日引き続き取締役会を開催し、日本リースに対する平成7年度支援の件を検討し、経営会議での了承のとおりに決定した。
同経営会議及び同取締役会には、被告Y1(当時会長)、被告Y4(当時頭取)、被告Y5(当時副頭取)、被告Y6(当時専務)、被告Y8(当時専務)、被告Y7(当時常務)、被告Y9(当時常務)、被告Y2(当時常務)及び被告Y3(当時相談役)が出席した。
(甲B31号証の1ないし3、同32号証の1ないし3)
(オ) 平成8年3月27日開催の経営会議及び同日開催の取締役会(平成7年度損益支援の検討)
原告は、平成8年3月27日経営会議を開催し、日本リースに対する平成7年度分の損益支援を、原告が、日本リース保有の貸付金債権を譲り受けて共同債権買取機構に売却することにより、支援損1097億9226万6891円を負担する形で実施することを了承した。
さらに、原告は、同日引き続き取締役会を開催し、同経営会議の了承のとおりこれを決定した。同経営会議及び同取締役会には、被告Y1(当時会長)、被告Y4(当時頭取)、被告Y5(当時副頭取)、被告Y6(当時専務)、被告Y8(当時専務)、被告Y7(当時常務)、被告Y9(当時常務)及び被告Y2(当時常務)が出席した。
(甲B33号証の1及び2、同34号証の1及び2)
(カ) 平成7年度損益支援の実行
原告は、平成8年3月28日、前記取締役会の決議に基づき、日本リースの営業貸付金債権1311億0681万2130円(元本及び利息)を譲り受け、同日付けで、共同債権買取機構に売却した。これによる支援損1097億9226万6891円は原告が負担した。
(甲B35号証の1及び2)
キ 有楽町総合開発による物件引取り
原告は、日本リースに対する本件損益支援の一環としての物件引取り支援のため、平成7年1月、日比谷総合開発、ジャリック、長友、及び日本リースの関連会社2社の出資により有楽町総合開発を設立した。
原告は、営業企画グループ担当役員である被告Y9の決裁により、平成7年3月8日、有楽町総合開発に対して短期運転資金として600億円の専決極度貸出枠を設定し、同被告の決裁により、平成7年3月30日、有楽町総合開発に対して、日本リース関連の物件引取資金として540億4000万円を貸し付けた。
さらに、原告は、平成8年3月15日、営業企画グループ担当役員被告Y7の決裁により、有楽町総合開発に対する極度額100億円の貸出枠を設定する当座貸越極度枠を設定し、同被告の決裁により、平成8年3月末までに、有楽町総合開発に対し、16億1000万円を融資した。
有楽町総合開発は、日本リースグループから、平成7年3月に11物件を、平成9年2月及び3月に2物件を、引取価額合計546億円(簿価合計1016億円)で買い受けた。
(甲B22号証、同23号証、同36号証)
ク 本件損益支援実施後の日本リースの状況
(ア) 日本リースの収益状況
日本リースは、本件損益支援後、不稼働資産のキャリングコストの削減、新規融資の金利引下げ交渉に成功したことや金利の低下による調達コストの減少により、実力基礎収益は、平成7年3月期に230億円の赤字、平成8年3月期には3億円の赤字であったのが、平成9年3月期には175億円の黒字、平成10年3月期には182億円の黒字に回復した。
(甲B46号証、同48号証ないし同50号証)
(イ) 日本リースの資金繰り状況
日本リースの借入残高、原告及び原告を除く主要10行の融資残高並びにシェアは、それぞれ、平成7年3月期に、約2兆3052億円、約2255億円(9.78パーセント)、約8454億円(36.68パーセント)、平成8年3月期に、約2兆1944億円、約2429億円(11.07パーセント)、約8180億円(37.28パーセント)、平成9年3月期に、約2兆0984億円、約2556億円(12.18パーセント)、約8141億円(38.80パーセント)、平成10年3月期に、約1兆9126億円、約2556億円(13.37パーセント)、約7557億円(39.51パーセント)と推移し、日本リースの資産圧縮により借入残高は全体で減少する中、原告の融資残高及びシェアは増加しているが、主要10行も撤退方針であった三井信託銀行以外は取引を継続し、融資残高のシェアは従来のシェアを維持していた。
このように、本件損益支援以降も、日本リースと各金融機関との間の取引の継続は図られたが、各金融機関は日本リースが受皿会社等に多額の不稼働資産を抱えていることに懸念を抱き、融資の折り返しについては厳しい対応をとっていた。
特に、平成9年度に入ってからは、平成10年3月に導入予定の早期是正措置に備えて各金融機関が一斉に資産圧縮に動き、貸し渋り、貸し剥がしが生ずるとともに、日債銀系ノンバンクの破綻により銀行系列ノンバンクに対する選別が進む中、日本リースに対してもリストラの不十分等を理由とする返済圧力が強まった。
そして、日本リースは、平成9年7月時点では、平成10年3月期の手元資金が減少し、資金繰り的に危機的な状況に陥る可能性が懸念され、「リース聖域論」を見直し、本業であるリース部門についても資産圧縮が検討されるような状況となった。
グループノンバンク全体に対する返済圧力が高まる中で、原告は、平成9年11月10日、常務会を開き、資金調達問題を中心としたグループ会社対策の基本方針を決定したが、この中で、グループ会社について、このままでは他行の残高維持が困難であり、原告がグループ会社の資金繰り破綻回避のために受け身の状態で他行融資の肩代わりに追い込まれる懸念が大きいことから、思い切った資産圧縮と原告からの資金供給による計画的返済という積極策を実施する必要があるとし、日本リースについては今後3年間の資金需要4000億円のうち、日本リースの自助努力による2000億円を除く2000億円を原告が新規に資金供与することとした。
しかしながら、平成9年11月に、三洋証券、拓銀、山一證券が相次いで破綻し、日本の金融システムそのものに対する不安が急激に拡大し、さらに、同月20日には大手格付け機関の一つであるS&Pが原告の長期債の格付けをBBB+からBBBに格下げしたことなどから、原告自身の資金調達も困難になった。
そこで、原告は、平成9年12月、日本リースに対して、新規融資が困難になったことを伝え、リース部門を含めた資産圧縮により資金繰りを乗り切るように求めた。これを受けて、日本リースは、平成10年1月から3月までのリースの新規成約の抑制による資金流出の防止、有価証券の売却及びリース資産の流動化(リース債権を担保付証券化したアセット・バックド・セキュリティ(ABS))による資金調達等を内容とする資金繰り対策をとることとした。しかし、このような対策によっても、平成10年3月期の手元資金は約100億円となり、平成10年4月以降の約定弁済に対応できないことが見込まれたことから、日本リースは、原告に対して資金支援を求めた。
もっとも、リースの新規成約の抑制は日本リースのみではなく、厳しい金融環境を反映して、他のリース会社においても同様に営業を抑制する動きがみられた。
日本リースは、平成10年1月以降、原告の協力による折り返しの交渉が功を奏したことやABSによる資金調達などにより、平成10年3月期の資金繰りを乗り切ることができた。
その後の日本リースの資金繰り状況は、平成10年4月期の実質手元預金703億円、同年5月期833億円、同年6月期214億円と推移した。
(甲B48号証、乙A5号証の1、同86号証の3ないし6)
ケ 原告の経営破綻と日本リースについての会社更生手続の申立て
政府は、金融不安による貸し渋り解消などのために、平成10年2月に成立した「金融機能の安定化のための緊急措置に関する法律」(平成10年法律第5号)(以下「金融安定化法」という。)に基づき、金融機関の劣後債発行などによる資金調達に公的資金を投入することを閣議決定し、公的資金の投入を申請した原告を含む大手銀行、地銀の21行に同年3月末までに合計1兆8156億円の公的資金が投入されることとなり、原告には1766億円の公的資金が投入された。これにより、当面の金融危機は一応落ち着きを見せることとなった。
その後、平成10年6月5日発売の雑誌に原告が資金繰りの悪化や不良債権処理の難航により破綻の可能性があるとの記事が掲載されたことに端を発して、それまで200円前後で推移していた原告の株価は、同月8日に前日比18円安の181円となり、さらに同月9日には、原告と提携先であったスイスユニオンバンク(以下「UBS」という。)の合弁会社である長銀ウォーバーグ証券が原告株を売却したことから、原告株の大量売却を誘い、株価は断続的に下落し、同月19日には100円台を割り込み、同月25日には額面割れのおそれすら生じた。
このような事態を受けて、原告は、住友信託との合併交渉に入り、同月26日、住友信託との合併構想を発表した。しかし、その後も原告の株価は下落していた。
原告は、同年8月21日、住友信託との合併を前提に、関連・親密先に対する債権放棄などの不良債権処理、海外業務からの全面撤退、被告Y4ら経営陣の総退陣、人員削減などの経営合理化策を発表するとともに、自己資本の減少を補うため同年8月中に金融安定化法に基づく公的資金の注入申請をすることを明らかにした。
これを受けて、日本リースは、同社の含み損約6000億円を処理するために、自助努力による1200億円及び金融機関からの債権放棄や金利減免による4800億円の合計6000億円の損失処理を内容とする経営改善計画を策定し、原告からの融資残高2557億円の放棄を前提に、その他の金融機関に対して債権放棄や金利減免などの支援要請を行った。
しかし、原告に対する公的資金の注入の是非が政治問題となり、膠着化したが、その後、同年9月26日に、国が普通株を取得する公的管理の方向で処理することで政治的決着がつけられた。
このような状況の中で、日本リースの再建計画に対して不安を抱く一部の金融機関が、日本リースに対してリース債権の譲渡担保を実行し(リース債務者に対する債権譲渡の通知)、他の金融機関も追随して譲渡担保を実行したため、日本リースは、同年9月27日、会社更生手続の申立てを行った。
原告についても、同年10月16日に成立した金融再生法36条1項に基づき、同月23日、特別公的管理の開始決定がなされた。
(甲A69号証、同70号証、甲B48号証、同53号証、乙A5号証の1、同35号証、同41号証、同45号証、同47考証、同112号証)
(2) 被告らの経営判断
既に認定したところによれば、本件支援を行うに当たっての被告らの経営判断の内容は概略以下のとおりである。
ア 支援を行わない場合の利益状況
原告が支援を行う必要性、すなわち、支援を行わない場合に想定された利益状況としては、〈1〉原告の支援がなければ日本リースの破綻が避けられないこと、〈2〉原告が事実上のグループ会社的位置づけにある日本リースを支援しないで破綻させた場合には、NED、ランディック、長銀リースなどの原告グループノンバンクひいては原告自体の信用問題に一挙に波及する可能性が強いこと、〈3〉日本リースが破綻した場合に、日本の金融システム全体に与える影響は非常に大きく、社会的な影響も決して看過できる規模ではないことなどが考慮された。
イ 支援を行う場合の利益状況
次に、支援を行う場合に想定された利益状況として、支援の方法については、理論上はプロラタ支援も考えられるが、日本リースは事実上原告グループとして位置づけられており、金融機関の対応にも原告への支援期待が既に織り込み済みであること、また、日債銀によるノンバンクのプロラタ支援以来、大手銀行の直系・親密ノンバンクに関してプロラタ支援の動きがないことなどから、プロラタ支援について金融機関の同意を得られない可能性が非常に高く、結果的に日本リースの破綻及び原告グループノンバンクの信用問題につながるとして、単独支援を選択することとされた。
さらに、支援の内容については、日本リースはリース業界の老舗として本業のリース部門には一定の基礎収益力があり、営業貸付部門の不良債権を処理すれば十分に再建が可能であるとして、日本リースの不稼働資産の一部を処理し、そのキャリングコストを下げるとともに、基礎収益力の向上を図り、収益により残存する不稼働資産を自ら償却できる自転体制を構築し、これと原告の信用により他の金融機関の融資の折り返しを確保できる状態にするというものであった。そして、支援を行わない場合に生ずる事態を回避するとともに、日本リースを直系化することのメリットも勘案の上、本件支援を行う必要があるとするものであった。
ウ 本件損益支援の計画及び実施状況
本件損益支援の意思決定は、平成6年度及び平成7年度にそれぞれ行われているが、いずれも上記の経営判断に基づくものであり、本件損益支援の計画及び実施状況を整理すると以下のとおりとなる。
まず、平成6年度支援計画は、日本リースの営業貸付金1兆2808億円のうち不稼働資産の額を6908億円として、これを3年間で3600億円処理し、3308億円まで減少させるもので、その方法としては、原告が日本リースの不稼働貸付金を買い取り、これを共同債権買取機構に売却することにより、初年度1000億円、2年目1100億円の合計2100億円の不稼働資産を処理し、これに伴い原告は支援損1100億円を負担し、日本リースが3年目に含み益の活用や剰余金の取崩しにより1500億円の不稼働資産を処理することとされていた。これにより、支援前においては、日本リースの基礎収益力は年間118億円であり、不稼働資産のキャリングコストが年間301億円かかることから毎年183億円の含み損が発生する状態であったのが、基礎収益力を4年後に195億円まで向上させるとともに不稼働資産のキャリングコストを131億円まで減少させ、毎年36億円の償却余力が生ずる状態に改善されるとするものであった。さらに、不稼働資産としては明示されていないが、受皿会社の保有する物件を1000億円から2000億円の範囲で引き取ることや日本リースの増資を引き受けることも、本件支援の一環として検討することとされていた。そして、平成6年度計画に基づき、共同債権買取機構への持込みにより約698億円(原告の負担する支援損約490億円)の不稼働資産の処理が行われた。
次に、平成7年度支援計画は、平成6年度支援計画と同様の前提のもとに3年計画を前倒しで終了することとし、原告が共同債権買取機構への持込みにより1460億円(原告の支援損1100億円)及び日本リースが期間損益、含み益及び剰余金の取崩しなどの自助努力により1911億円の合計3377億円の不稼働資産を処理するというものであった。そして、実際には、共同債権買取機構への持込みにより1311億円(原告の支援損1098億円)及び日本リースの自助努力により1911億円が処理された。
なお、上記のとおり平成6年度及び平成7年度のいずれにおいても共同債権買取機構による不稼働債権の処理額が、計画と実行との間で違いが生じたのは、共同債権買取機構の買取価格が想定よりも低かったことによるものである。
さらに、原告は、有楽町総合開発に買付資金を融資して、日本リースの受皿会社が保有する不動産を、平成7年3月に11件、平成9年2月及び3月に2件、合計約546億円(簿価合計1016億円)で引き取らせた。
以上により、本件支援により、合計4936億円の不稼働資産が処理され、原告は1591億円の支援損を負担したこととなる。
エ サイレントベースの不稼働資産の内容及び被告らの認識
本件損益支援についての経営会議及び取締役会の資料には、健全債権に含められていたが、本件損益支援の検討過程の資料では、国税当局に申告されオープンベースと称された6908億円の不稼働資産の外に、サイレントベースの不稼働資産と称された、受皿会社に対する営業貸付金約4200億円及び飛島建設関連融資約1200億円の合計約5400億円の債権があり、これは後で述べるように、不稼働債権の実態を有するものであった。
そして、証拠(甲A6号証の2、甲B10号証の2、同15号証の2、同16号証の2、甲D2号証)によれば、被告らは、以下に述べるとおり、少なくとも受皿会社に対する約4200億円の営業貸付金については、問題のある債権であることを認識し、あるいは当然にこれを認識し得る状況で、本件損益支援の判断を行ったものと認められる。
すなわち、被告Y2は、平成6年6月29日から平成7年7月2日までの間、本件損益支援の所管部である営業企画部の部長の職にあり(甲B39号証の1)、この間本件損益支援の立案を主導し、平成6年度の損益支援計画を経営会議及び取締役会に上程したのであるから、当然に日本リースの不稼働資産の内容を把握していたものと認められる。また、被告Y9は、被告Y2の前任の営業企画部長であり(甲B39号証の1)、日本リースの第2次支援及びビルプロ関連融資の簿価譲渡を立案したものであることから、日本リースの不稼働資産の状況を知っていたものと認められる。
さらに両被告以外の被告らについても、〈1〉これらの被告は日本リースに対する第2次支援を了承した平成5年3月の常務会に出席しているところ、同会議の資料には、日本リースグループの約3兆1000億円の営業資産のうち約30パーセント強に当たる約9000億円が実質不稼働あるいは問題債権化しており、不稼働資産の受皿会社移管を中心とした決算・信用維持対策を図ると記載されており、それ以降本件損益支援に至るまでの情勢の変化は当然に不稼働資産の増加及び受皿会社における滞留を想定させ得るものであったこと、〈2〉本件損益支援についての平成6年11月25日の経営会議の資料は、物件引取対象として、受皿会社保有の68物件、簿価合計約4400億円の物件について、事業化完了物件、長期化予想物件、条件物件に分類して記載しているが、路線価による引取りにより受皿会社に2000億円を超える損失が生ずることとされていたこと、〈3〉サイレントベースという用語は、その言葉が用いられた経緯からすると、その実施が対外的に公表される損益支援と対比して、これを明かすことなく実施される不稼働資産を受皿会社に移管するための資金支援を指すものとして用いられていたところ、損益支援について国税当局の無税承認を受けるに当たり、法人税基本通達の要件を満たす必要があり、当時国税当局において、不良債権を「利息延滞3か月超又は元本延滞1か月超の債権の元本総額」であると定義していたことから、国税当局の承認を前提に損益支援の実施を求める経営会議及び取締役会の資料には、国税当局との関係で不良債権に該当するものを不健全債権と表示したにすぎず、ことさらサイレントベースの不稼働資産を隠ぺいする趣旨であったとは認められないこと、〈4〉現に被告Y6及び被告Y8を除く被告らが出席した平成8年2月23日の常務役員連絡会の資料には、平成7年度損益支援実施後も約7300億円の不稼働資産の存在があると記載しており、この額は要処理対象債権と受皿会社分の合計であるところ、これについて出席した被告らから何らの異議も出されなかったことが認められ、これらの事実を総合すると、被告Y2及び被告Y9を除く被告らも少なくとも、受皿会社に対する営業貸付金には問題債権が存在することを前提として経営判断を行ったことを認めることができる。
そこで、以上を前提として、以下に被告らの経営判断の前提となった情勢分析及びこれに基づく衡量判断に不注意な誤りがあったかどうかについて検討する。
(3) 支援を行わない場合の利益状況
ア 日本リースの状況
日本リースは、原告による数次の支援にもかかわらず、既に述べたとおり(114頁の(ア))、平成6年3月末時点において、収益面では、表面上は利益を計上しているが、金利の元加や追い貸しあるいは未収利息の計上分を控除すると、実態は300億円強の大幅赤字となっており、資産状況も、営業貸付金における問題債権の残高は1兆2100億円で、その担保不足額は6500億円に達し、これに対する日本リースの体力は自己資本・貸倒引当金及び含み益を合わせても約1400億円にとどまっていたことから、実質5000億円を上回る債務超過状態であった。以上のとおり、日本リースは大量の不稼働資産を抱え、大幅な債務超過の状態にあり、かつ赤字が累積する状況となっていたことから、自力再建の不可能な状態にあり、何らかの支援がなされなければ、金融機関からの融資の折り返しの確保に支障を来し、早晩資金繰り破綻することが見込まれる状態にあったということができ、この点に関する被告らの認識に誤りはなかったものと認められる。
イ 原告による支援の必要性
次に、被告らは、原告が日本リースに対して母体行責任を負うことを前提に支援の要否を判断していることから、当時、原告がこのような状況にあったかどうかを検討する。
(ア) 原告と日本リースの関係
原告と日本リースの関係について、以下の事実を認めることができる(甲A43号証、甲B14号証、同15号証の2、乙A86号証の2、乙B10号証の2、同12号証)。
日本リースは、昭和38年にリコーの呼びかけにより、原告、都市銀行5行、信託銀行6行及び損害保険会社8社等が出資して設立された国内初のリース会社であり、設立主体はリコーであった。しかし、都市銀行5行はそれぞれ直系のリース会社を設立し、リコーも昭和51年に株式会社リコーリースを設立したことから日本リースとの関係は希薄となり、代わって原告が日本リースとの関係を深めることとなった。すなわち、日本リースの社長は、昭和49年以降は原告の出身者が就任し、平成3年以降は代表権のある取締役は全て原告の出身者が占め、平成6年7月時点において、常勤の取締役19名のうち8名が原告出身者あるいは出向者であった。さらに、企画、財務、営業などの枢要ポストは原告の出向者が占めていた。また、営業面においても、原告は日本リースとの間において業務提携契約を締結の上、原告の営業部店において顧客紹介体制を確立していたほか、原告が昭和61年に主に国際リース業務を行うために設立した長銀リースの国内営業資産を平成4年に日本リースに譲渡するなど連携を強めていた。原告の日本リースへの出資シェアは、単体ではリコーに次ぐ第2位であったが、原告のグループ会社の保有分も含めると昭和62年以降第1位であり、平成6年3月時点において原告グループが16パーセント(うち原告4.86パーセント)、リコーグループ6.8パーセント(うちリコー5.23パーセント)となっていた。次に、融資シェアでは、原告は昭和43年以降第1位を占めており、平成6年3月時点の日本リースの総借入金残高約2兆4596億円のうち、原告は約2399億円の融資残高を有し、そのシェアは約9.8パーセントであった。
(イ) 原告と日本リースとの間の母体行関係の存否
以上によれば、原告は、日本リースに対して長期間、最大の融資残高を維持しているほか、資本及び人的な関係においても密接なつながりを有していることから、原告が日本リースのメインバンクであったことは明らかであるが、さらに進んで、原告が日本リースに対して母体行責任を負担すると考えられるような関係が存在していたかどうかが問題となる。しかるところ、既に述べたとおり(85頁の(イ))、母体行責任自体が、金融界における暗黙の了解事項としての性格を有するものであることから、母体行責任の対象となるべき企業の範囲についても明確な基準が存在したわけではないが、母体行という言葉が親銀行を示唆することや母体行責任の考え方の背景にある前記のような相互依存関係などを考慮すると、その認定に当たっては、経営責任の根拠となるような経営支配の有無及びこれに基づき他の金融機関が支援の責任分担に対して有する認識・期待を勘案して判断すべきものと考えられる。
そうすると、いずれも、既に認定したところ及び証拠(後掲)により認められる事実である、〈1〉原告は日本リースの常勤取締役19名のうち8名を派遣し、代表権を有する取締役を独占していた外、グループ企業の保有株式も含めると日本リースの筆頭株主であったこと、〈2〉銀行業務の展開におけるリース営業の重要性から大手都市銀行が直系リース会社を設立する中、原告の営業政策においても、その営業基盤の脆弱性をカバーしつつ長期金融サービスを補完するものとしてリース等の周辺業務との連携に特に重点が置かれて来たところ、原告にとってグループ企業と呼べるリース会社は日本リース以外になく、現実にも日本リースとの間で営業面等における連携を深めてきていたこと、〈3〉原告は平成4年の大蔵省検査及び日銀考査において日本リースに対して母体行責任を負う旨を表明し、他行における大蔵省検査及び日銀考査もこれを前提として行われたものと推認されること(甲B77号証の3、乙A6号証、同112号証)、〈4〉原告は、日本リースに対して第1次支援、第2次支援を行うとともに、日本リースの準主力行からのいわば原告の支援意思を確認する趣旨での日本リースに対するビルプロ向け融資の圧縮要求に応じて、日本リースのビルプロ向け債権を受皿会社に対して簿価譲渡していること(181頁のエ以下)、〈5〉日本リースの経営陣も本件損益支援に先立つ原告のE副頭取との面談において、D副社長が「長銀直系化については既に長銀リースの国内リース資産の譲渡を受けた時点から事実上の直系と認識している。リコーとの関係については、既に長期間にわたって事実上関係が切れている。」旨、F社長が「リコーについてはリコーリースを設立した時点から当社の経営から離れていっている。」旨それぞれ述べているほか、被告らを含む原告や日本リースの従業員が別件刑事事件の捜査段階で異口同音に、原告が日本リースに対して母体行責任を負っていたとの前提での供述をしていること(甲B12号証の2、同45号証ないし同53号証)、〈6〉法人税基本通達9-4-2は、法人がその子会社等に対して債権放棄等をした場合において、合理的な再建計画に基づくものであるなど相当な理由があると認められるときには、損失負担等により供与する経済的利益額は、寄付金の額に該当しない旨定めているところ(乙A1号証)、本件損益支援は同通達により国税当局から無税扱いの承認を得て実施されたものであり、国税当局も、日本リースが原告の子会社等に当たると認定していたことなどからすると、経営会議の資料(甲B15号証の2)に「事実上のグループ会社の位置づけであり、各行も当行の支援を織り込み済みである。」旨記載されているとおり、日本リースはその設立の経緯からすると原告の直系のリース会社ではなかったが、その後の事情により原告の事実上のグループ会社として、他の金融機関から母体行責任を果たすことが期待されるような状況が形成されていたものと認められる。
(ウ) 原告らの主張の検討
原告らは、原告は日本リースのメインバンクにすぎず、日本リースに対して母体行責任を負うような関係にはなかった旨主張し、〈1〉日本リースは銀行の関連会社について定める関連会社通達等にいう関連会社としては扱われておらず、原告において親密先とされ、関連会社を所管する関連事業部ではなく、営業企画部の所管とされていたこと、〈2〉原告の日本リースに対する融資残高は全体の約10パーセントにとどまり、他の銀行と比較して高くないこと、〈3〉原告の本件損益支援の検討資料の中に、課題として、原告は格付け会社に対して、日本リースがグループ会社であるとの説明をしてきていないので対外説明をどうするか、本件損益支援について国税当局から無税扱いの承認を得るために、直系でもなく一親密先にすぎない日本リースを単独で支援する合理的な理由付けが可能か、独立系としての位置づけが大きく変化することに対する社員の心情的反発にどのように対応するかが挙げられていること、〈4〉本件損益支援を検討した経営会議において被告Y2は本件損益支援を「リース業務を1000億円で買取る。」との発言をしていること、〈5〉日本リースの不良債権は原告の紹介融資によるものではなく、日本リースの当時の経営陣による積極経営の結果積み上がったものであること、〈6〉本件損益支援後の新聞報道においても、本件損益支援は主力行による支援であり、日本リースは本件支援により原告の傘下に入る旨の報道がなされており、他の銀行による支援が系列ノンバンクに対する支援と報道されているのと異なる扱いがなされていることなどを指摘する。
そこで、以下に順次検討するに、まず第1に、上記通達は、銀行については、銀行法等により、銀行業務に専念し他業を営むことが禁止されるとともに株式の保有が制限されていることから、その趣旨を徹底させるために銀行の子会社や関連会社を通した業務展開に対して規制を設けるものである。すなわち、同通達は、金融機関が出資する会社で、その設立経緯、資金的、人的関係からみて、金融機関と密接な関係を有する会社を関連会社と定義した上で、関連会社に行わせることができる業務を金融機関の代理店業務、金融機関の業務のうちその業務の基本に関わることのないもので主として当該金融機関のために行うもの、金融機関の業務に付随する業務、金融機関の業務に付随する業務に準ずる業務(いわゆる周辺業務)に制限した上で、関連会社にこれらの業務を行わせる場合にも、これに出資する金融機関の経営の健全性を損なわれることなく、かつ関係業界に著しい影響を与えることのないよう留意するとともに、当該関連会社の態様、業務の内容等については、具体的ケースごとに当局の指導に従うものとすると定めていた。そして、上記通達と同時に発出された大蔵省銀行局の事務連絡には、上記通達の定める付随業務として、クレジットカード、信用保証業務、ファクタリング業務、抵当証券業務、プリペイドカード業務などを、周辺業務としては、リース業務、ベンチャーキャピタル業務、経営相談業務、投資顧問業務などを例示するとともに、関連会社の新設に当たってはあらかじめ大蔵省銀行局に届出をすることや関連会社については毎年その営業状況報告等を提出すべきことを定めていた。そして、日本リースは、上記事務連絡にいう周辺業務を行う会社ではあったが、通達等にいう関連会社としては取り扱われていなかった(甲B2号証)。しかしながら、上記通達にいう関連会社は、銀行における他業禁止の趣旨等を徹底するという行政目的の観点から定められているのに対して、母体行責任という考え方は、親銀行の支援責任の所在を定める観点から金融界において暗黙の了解として形成されてきたものであり、両者はその趣旨を異にすることから、上記通達にいう関連会社として扱われていないということをもって直ちに母体行責任を負わないということにはならないものというべきである。また、日本リースは関連事業部ではなく営業企画部で所管されていたという点も、日本リースの設立の経緯から所管が定められたものと見ることもでき、かえって、関連事業部が作成し、同部所管のノンバンクを中心に記述されている「関連会社活用の手引き」においても、グループ総合力の時代として、グループ企業との連携強化の重要性を訴えるとともに、原告のグループ企業群に日本リースが含まれることが明示されているところである(甲B2号証)。
次に、原告の日本リースに対する融資残高は全体の約10パーセントではあったが、他の銀行系列ノンバンクの融資残高に占める親銀行の融資残高の割合と比較しても、ダイヤモンドリース8.5パーセント、オリックス8.8パーセント、セントラルリース10パーセント、東京リース15.1パーセントとなっており(甲B13号証、同15号証の2)、原告の日本リースに対する融資残高が低いということはいえない。さらに、原告の指摘する本件損益支援の検討資料における記載も、日本リースが設立の経緯から原告の直系ではなく事実上のグループ会社の位置づけであることや原告が従来は経営の細部にまで干渉してこなかったと認められること(甲B49号証、乙A112号証、被告Y4本人)から、本件損益支援を行うに当たっての問題点を幅広く検討するとの観点において指摘されているにとどまるものとみることができ、現実にもこれらの点が本件損益支援の実施に大きな障害になったことは証拠上も窺えない。また、日本リースの不良債権は、日債銀のケースと異なり、日本リースの経営陣がバブル期に勝手に積み上げたものであるという点についても、日本リースの不良債権の増加の原因はバブル期における日本リース経営陣の積極経営によるものであることが認められる(甲B49号証、同78号証)が、バブル期においては各ノンバンクが競い合って融資の拡大に走ったことからすると、母体行責任という考え方は経営を支配し得る状況にあったかどうかということを超えて、個々の融資の責任の所在までも踏まえて成り立っていたものとは認められない。本件支援についての新聞報道の点も、原告も日本リースを直系ではないが事実上のグループ会社と位置づけており、本件支援により名実ともにグループ会社となるとしていたのであり、このような観点からマスコミへの対応を行ったものと認められること(甲B47号証)からすると、この新聞報道をもって金融界において原告が日本リースの母体行であると認識されていなかった根拠とすることはできない。
したがって、上記の各点はいずれも原告が日本リースに対して母体行責任を負うものと考えられるような関係が当時存在していたとの前記の認定を左右するものではないというべきである。
ウ 原告が単独支援を行わない場合に想定された事態
(ア) 母体行責任による制約
そこで、原告が母体行責任を果たさない場合に被告らが予測したような事態が生ずるおそれがあったか否かについて検討する。既に述べたとおり(84頁の(ア))、メインバンクと融資先との関係においては、融資先の経営危機に際して、メインバンクが支援を行い、他の債権者に比して支援コストを傾斜的に引き受ける傾向が見られるが、メインバンクが支援を行うかどうか、どの程度の支援コストを負担するかは、これにより既存及び将来の取引機会の維持・確保という中長期的利益、すなわちメインバンクの名声の維持に資するかどうかという観点からの損益判断によるものであり、その対応は事案に応じて様々であり得るものと認められる(もっとも、原告の場合は、既に述べたとおり(101頁の(イ))、資金調達方法が、都市銀行と異なり、不特定多数の預金ではなく、金融債であり、資金調達先がメイン先の下位行と重複する場合が多いことから、支援に当たっては、資金調達の安定性確保といった考慮が必要となる場合が多いものと思われる。)。
これに対して、銀行と融資先との関係が母体行関係である場合には、本件損益支援当時のように、母体行は体力の許す限り当該企業に対して単独で支援を行うべきであるという考え方が支配的な状況下では、母体行が、単独で支援を行わない場合には、そのこと自体によって母体行に体力がないとの推論を呼び、母体行の資金調達に影響を及ぼす外、当該銀行が母体行責任を負う他のグループ企業に対しても信用不安が波及するとともに、当該企業の支援を巡る他行との交渉の長期化あるいは決裂により当該企業の破綻に至る危険性を有することから、支援の有無・方法をめぐって親銀行の選択の幅が制限されていたものと認められる。
(イ) 原告らの主張の検討
この点、原告らは、本件当時において、母体行責任の考え方は必ずしも絶対的なものではなかったとして、〈1〉平成4年に日債銀が系列ノンバンク3社の支援に際して、他行に対して金利減免の要請を行った例、〈2〉平成6年に福徳銀行等3行が系列ノンバンクを会社整理ないし特別清算により法的整理した例、さらには、〈3〉同じく平成6年に住専処理において、銀行側が貸し手責任による損失分担を主張し、結局、修正母体行主義によることで決着がついた例を挙げる。しかしながら、日債銀による系列ノンバンクの支援は、既に述べたとおり(85頁の(イ))、他の金融機関から金融界のルールを破るものとして激しい反発を受けるとともに、それ以降に相次いで行われた大手銀行による系列ノンバンクの支援がいずれも母体行責任に基づき行われたことからすると、日債銀の例はあくまでも例外と受け止められ、かえって日債銀の例を契機として母体行責任が金融界のルールであることが明確に意識されるようになったものと見ることができる。また、福徳銀行等による系列ノンバンクの法的整理の例は、あくまで小規模な地方銀行の事例であって大手銀行においては日債銀の例を除いてプロラタ支援の例はなかったのであるから、これをもって原告についての先例とすることはできないものというべきである。さらに、住専処理の過程で、銀行が貸し手責任を主張したとの点についても、住専処理があくまでも清算処理における責任分担であり、しかも、各銀行の利害が一致し、足並みをそろえて農林系金融機関と損失の分担の在り方について交渉した事例であること(甲A52号証の3ないし8)から、このような例が金融界の中における系列ノンバンクの支援の責任分担の在り方のルールに直ちに影響を与えるようなものであったとは認められない。
したがって、原告ら指摘の点は、本件損益支援当時においては、母体行責任の考え方が支配的であり、これに反する行動をとる場合には、親銀行の体力についての不信を引き起こすとともに、金融界のルールを破るものとして反発を招くおそれがあったとの前記の認定を覆すものではないというべきである。
(ウ) 本件損益支援を実施しない場合の原告に対する具体的影響
まず、原告のグループノンバンクの状況については、長銀リース、NED、ランディックは、いずれも多額の不稼働資産を抱え、業況が悪化し、以下のとおり原告による支援が行われつつある状況にあった。すなわち、長銀リースについては、平成4年度の収益状況は実力損益が87億円の赤字、資産状態は不稼働、要注意債権が1828億円、含み損見込が759億円となっており、NEDについても、収益状況は実力損益が264億円の赤字、不稼働、要注意債権が3970億円、含み損見込が1631億円となっていたことから、平成5年3月26日の経営会議において、長銀リースに対しては平成5年度から4年間で合計106億円、NEDに対しては同じく合計235億円の債務免除方式による支援を実施することが決定されていた。その後、両社の業況が一段と悪化したことから、平成6年9月の臨時経営会議で支援計画を大幅に見直すこととし、長銀リースについては、平成6年3月から平成10年3月までの5年間で798億円、NEDについては同期間で1900億円の損益支援を行う方針を決定していたところであった。他方で、ランディックについては、平成6年3月期の収益状況は、本体で実質148億円の赤字、グループ全体で324億円の赤字となっており、資産状況もグループ全体で総資産1兆1026億円のうち2275億円の含み損を抱える状態となっており、平成7年3月17日の経営会議において、10年間で2100億円の損益支援を実施するが、当面3、4年は債権の肩代わりや物件引取支援を主体とすることが決定されているところであった。しかるところ、長銀リース、NED、ランディック及び日本リースの平成6年3月末における借入残高は4兆1847億円であるのに対して、原告の融資残高は6120億円にとどまっていたことから、原告の信用不安がこれらのノンバンクへ波及し、各銀行が一斉に融資の引揚げに動いた場合には、原告において到底資金繰りを支えることができる状況ではなく、これらのノンバンクの資金繰り破綻に至る危険性があったものと認められる(甲A14号証の3、同15号証の2、同41号証、甲B15号証の2、甲E1号証の1及び2、甲F19号証の1及び2、乙A77号証、同86号証の2ないし7、同88号証の2ないし7、同89号証の2ないし7、同90号証の2ないし7、同92号証の2ないし7)。
次に、原告の資金調達に与える影響についてみるに、日本リースに対して融資を行っていた金融機関は約200あったが、これらの金融機関の中には、地銀40行、第二地銀22行、損保15社、生保20社、都道府県信連7、共済連48の合計170余りが含まれるなど、その大部分が、前述のとおり(101頁の(イ))、原告が利付金融債の安定的かつ継続的な購入先として営業面・資金面において密接な相互関係を築き上げてきた地方金融機関によって占められており、このような状況は長銀リース、NED、ランディック等の借入先についても同様であった(乙A86号証の2ないし7、同88号証の2ないし7、同89号証の2ないし7、同90号証の2ないし7、同92号証の2ないし7)。
したがって、仮に、原告が、日本リースを支援せず、あるいは支援するとしても単独支援によらずに利付金融債の有力な購入先であるこれらの金融機関を含めた日本リースの全債権者に損失の分担を求める場合には、日債銀の系列ノンバンク支援の場合に生じたと同様に、原告の信用に対する不安と金融界のルールを破ることへの反発から、原告の利付金融債の購入を拒否され、あるいは利付金融債の金利の上昇により、原告の資金調達に深刻な影響が生ずる可能性があったものと認められる。
最後に、日本リースは、営業資産約2兆4000億円を擁する我が国のリース業界におけるリーディングカンパニーであり、借入額約2兆5000億円は中位地銀クラスに相当し、従業員はグループ企業含めて約2000人、店舗網は国内41か所、海外9カ国14拠点を有し、取引先も4万5000社にのぼる企業であったのであるから、仮に日本リースが破綻する場合にはこれにより多大な社会的影響を与えることが予想されたものと認められる(甲B15号証の2)。
以上によれば、被告らが経営判断において、本件損益支援を行わない場合に想定した事態には、いずれも相応の裏付けがあったものと認められる。
(4) 支援を行う場合の利益状況
支援を行う場合の原告の負担の観点から、本件日本リースの再建計画の実効性を以下に検討する。
ア 日本リースの不稼働資産の額
まず、本件損益支援当時に日本リースが有していた不稼働資産の額について検討する。既に認定したとおり本件損益支援のための経営会議及び取締役会の資料においては、いずれも日本リースの不稼働資産の額を6908億円としていた。しかしながら、原告の営業企画部において、当初検討されていた10年計画においては、不稼働資産の総額は1兆2100億円であり、このうち7600億円を処理対象とし、損益支援の無税扱いの承認を得るために国税当局に申告し、残り4500億円については受皿会社に分離して事業化を検討することとされていた。また、その後に国税当局の指示により計画期間を短縮した5年計画案においては、国税当局に申告する不稼働資産はオープンベースと称して6908億円あり、これを損益支援の対象とすることとし、残り5400億円の不稼働資産はサイレントベースと称して受皿会社で実質塩漬けにすることとされていた。そして、このサイレントベースの5400億円は、受皿会社に対する債権約4200億円と飛島関連の融資約1200億円からなっていた。
そこで、まず、受皿会社に対する債権についてみるに、証拠(甲B45号証、同49号証、同78号証)によれば、これらの債権は、そもそも日本リースが一般貸出先に対して有していた不稼働化した営業貸付金を回収した形にするために、日本リースが受皿会社に対して融資して、貸出先が保有する担保不動産を買い取らせることにより受皿会社に対する貸付金に付け替えたものであった。そして、平成8年4月に大蔵省検査がなされることを想定して、その対応準備のために原告営業第6部が日本リースの資産内容を調査し、把握していたところによれば、日本リースの受皿会社向け債権額は4600億円であったところ、保有不動産による収入は年間49億円(簿価利回り1.1パーセント)にすぎず、事業化達成後も年間98億円(簿価利回り2.1パーセント)を見込めるにすぎない状況であった(甲B46号証、甲D3号証の3)。さらに、受皿会社分をサイレントベースの不稼働資産に含めていた5年計画案においても、受皿会社に対して計画期間中に総額1120億円の利息の追い貸しが必要であり、これを元加することを想定していた(甲B13号証)。
次に、飛島関連の融資は、日本リースがいずれも飛島建設の開発事業会社に対して有していた営業貸付金合計約1233億円であり、湖南シティプランニングに対する663億2300万円、青山シティプランニングに対する263億4700万円、いわきリゾートサービスに対する258億円、磐城グリーンヒルズに対する48億1400万円の合計からなっていた。これらの会社は、いずれも実質債務超過かつ赤字の状態であり、金利の支払いも一部にとどまっていた。そして、青山シティプラニングを除いては飛島建設の保証がなされていたが、飛島建設自体が富士銀行の管理下で再建計画を策定中であった(甲B45号証、同46号証)。
以上によれば、サイレントベースの5400億円の債権は、損益支援について、国税当局が無税扱いの承認の対象として定義する不良債権である「利息延滞3か月超又は元本延滞1か月超の債権の元本総額」には該当しないとしても、日本リースの再建策を検討するに当たっては、当然に考慮に入れられるべき不稼働債権の実態を有していたものと認められる。そして、被告らも少なくとも受皿会社に対する営業貸付金についてはこのような認識を有し、あるいは当然に有すべきであったことは既に認定したとおり(143頁のエ)である。
イ 本件損益支援後の日本リースの不稼働資産の額及び含み損の見込み
(ア) 支援後に残存する不稼働資産の額
そうすると、日本リースにおける再建計画の実行後の不稼働資産の残額は、オープンベースの不稼働資産6908億円については、共同債権買取機構の利用による2009億円及び日本リースの自助努力による1911億円の合計約3900億円が処理されて、約3000億円が残り、サイレントベースの不稼働資産5400億円については、平成9年3月までに有楽町総合開発による物件引取りが1016億円なされたことになることから残額が約4400億円となり、平成8年3月時点では少なくとも(一部物件引取りが未了のため)合計約7400億円の不稼働資産が残った計算となる。そして、現実にも、平成7年度支援計画について審議した平成8年2月23日の常務連絡会の資料には、「本件実施後も約7300億円の不稼働資産の存在があるが、金利現水準、大型倒産がない限りキャッシュフローは自転可能」とされていたこと、また、同月22日に、平成7年度支援計画について原告の頭取であった被告Y3と日本リースのD社長が面談した際に、日本リース側がD社長用に準備した資料には、本件支援の問題点として、「いわゆる問題資産は8500億円程度残る。資本準備金まで取り崩すことにより、今後の償却財源は何もない(丸裸=飛島・ビルプロ関連会社等)。金利水準が上昇すれば『実態損益』はマイナスになる可能性もある。」としていたことからも、本件支援後も日本リースには7000億円を上回る不稼働資産が残存していたことが認められる(甲B49号証、同50号証、甲D2号証)。
(イ) 残存不稼働資産の損失見込額
そこで、次に、この不稼働資産中の損失見込額について検討する。
証拠(甲B45号証ないし同47号証、同52号証)によれば、以下の各事実が認められる。
すなわち、原告では、平成8年4月に大蔵省検査が行われることを予測し、その対策として、事業推進部が中心となって同年3月に関連・親密先について実態調査を行い、資産分類予測を行ったが、日本リースについては平成8年3月に支援終了をしていることから極力分類を避ける方針としながらも、実態ベースでは一般の営業貸付金に発生した含み損及び受皿会社に対する貸付金に関して保有不動産に生じている含み損などの不稼働資産の含み損額が6000億円ないし7000億円に上ることが把握されており、この結果については、他の関連・親密先の資産分類予測とともに平成8年4月8日に開催された円卓会議において経営陣に報告された。そして、平成8年4月の大蔵省検査に原告側で対応した営業第6部次長のIも、平成8年3月末時点における日本リースの資産の損失見込みについて、公表されている不良債権及び固定化営業債権の担保割れ額1967億円、飛島関連の融資の担保割れ額1101億円、不動産事業会社の資本欠損金475億円及び含み損2554億円、さらにビルプロ3社向け融資470億円の合計6500億円が見込まれたとしている。また、事業推進部が平成8年11月11日に、被告Y4、被告Y5及び被告Y7に対して、関連・親密先の不稼働資産の状況を説明した「今後の不良債権処理について」と題する書面には、日本リースの総資産額2兆9598億円、延滞債権に見込まれる含み損が3004億円、不動産等の含み損が2501億円、資本勘定のマイナスが553億円で、最終要処理額は6056億円であるとしていた。さらに、平成9年4月28日に開催された原告の経営陣と日本リースの経営陣との協議の場である経営問題協議会においても、被告Y4が日本リースのトータルの含み損の額を質問したのに対して、日本リースのD社長が7000億円前後であると答えていた。同様に、事業推進部が平成9年11月10日に開催された常務会の資料として作成した「今後の当行グループ会社の管理運営について」と題する書面においても、日本リースの平成9年上期の公表上の資産総額が2兆3400億円であるのに対して、含み損が7200億円であるとされている。
以上のとおり認められ、これらの事実を総合すると、本件再建計画実行後も残存した日本リースの不稼働資産には6000億円から7000億円の含み損が見込まれ、日本リースは少なくとも6000億円近くの実質債務超過状態となっていたことが認められる。
ウ 日本リースの再建計画の実効性
本件再建計画は、既に述べたとおり(124頁の(キ))、日本リースの基礎収益力を4年後に175億円に向上させるとともに不稼働資産のキャリングコストを139億円に減少させることにより毎年36億円の償却余力が生じ、残存するオープンベースの不稼働資産約3300億円(実際の実行においては約2900億円)は、毎年の償却余力で処理して行くとともに、サイレントベースのうち受皿会社分については、上記のキャリングコストの中に受皿会社分が含まれていることから、原告による物件引取りと事業化により対応することが想定されていた。そして、その前提として、被告らは、ノンバンクは、いわば資金を仕入れて他に貸し出すことを業としているのであるから、仕入れが継続できること、すなわち借入金の折り返しが確保できれば企業を継続することができるところ、本件再建計画の実行による収益の黒字化と親銀行たる原告の信用により日本リースについての融資の折り返しを確保することが可能であると見込んでいた。そして、既に認定したとおり、現実にも、不稼働資産の処理や金利の低下による調達コストの減少により日本リースの実力基礎収益(金利追い貸しにより費消される部分は除いたもの)は、証拠(甲B50号証)によれば、平成6年3月期には254億円の赤字、平成7年3月期は230億円の赤字であったのが、平成8年3月期に3億円の赤字、平成9年3月期には175億円の黒字、平成10年3月期には182億円の黒字に回復し、さらに、本件損益支援後に日本リースは、金融機関からの融資の折り返しを確保することができ、また、新規融資の金利の引下げにも相当数の金融機関から承諾を得ることができたことが認められる。
しかしながら、既に認定したとおり、本件再建計画は、計画実行後も日本リースに7000億円を上回る不稼働資産と少なくとも6000億円近くの実質債務超過額が残ることを前提とするものであった。そして、オープンベースの残存不稼働資産約2900億円についてみても、これを計画で想定された年間36億円の償却余力で処理して行くには極めて長期間を要するものであった。さらに、受皿会社分についてみても、既に述べたとおり、これらは、もともと日本リースの一般貸付先への融資が不稼働化したことから、受皿会社で担保不動産を引き取り、事業化の検討はなされていたものの、大きな進展が見込まれなかったものであるところ、本件再建計画においても、検討過程での「塩漬け」という言葉が物語るように、事業化をこれまで以上に格段に進展させる具体的な施策を伴うものであったことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(甲B50号証)によれば、平成10年4月20日の経営問題協議会において、日本リース側からは受皿会社向けの不稼働資産が約4000億円あり、事業化済みが約2200億円、済んでいないものが約2000億円となっており、事業化未済の物件は将来処分して行かざるを得ないが、その時には含み損が生ずる見込みであること、要処理の含み損としては事業化未済部分に1400億円、受皿会社の債務超過額900億円があるとの説明がなされており、原告側からの事業化はまだやれるのかとの質問に対して、日本リースのD社長から、「残っているのは開発途上とか、金がかかりすぎてどうにもならないのとかで、ほとんどない。」と答えていることなどからも明らかなように、事業化物件に生じていた含み損は本件支援直後の平成8年3月時点からほとんど減少しておらず、事業化自体行き詰まりを見せていたことが認められる。
このように、本件再建計画には、計画実行後も残存する不稼働資産の処理に対して、実効性のある対策はとられておらず、仮に平成8年度の実績である年間175億円の実力基礎収益が維持されるものとし、不稼働資産が減少するにつれキャリングコストが減少するという相乗効果(複利効果)を考慮に入れるとしても、日本リースの債務超過状態を解消するためには20年近くかかるものであったことが認められる。そして、実際にも、平成9年4月28日の経営問題協議会において日本リースのJ常務が、「他社と話していると、10年くらいかかると見ている先が多く、したがって、当社の収益力が250億円はあるのではないかという感じが浸透してきているようですから、5000億円程度と見ているのではないでしょうか。シビアに見ているのが生保、信託、都銀の一部。」と発言していること(甲B50号証)や、平成9年4月に原告の事業推進部のK参事役が住友信託と日本リースの融資の折り返しについて交渉した際に、先方の対応は、「問題は営業貸付金であるが、その行き先がよく見えない。良く見えない中で大変勝手に当行サイドで要処理額を計算すると6000億円という数字が出てきてしまい、250億円の収益でも相当の年数を要することになる。通常これでは取引方針として資金は出せない。出すとすれば確実な担保ということとなり、部店サイドでも大変強い交渉をさせていただいたのが実情。」というものであったこと(甲B78号証)などからも、日本リースに対する支援終了が宣言されたにもかかわらず、他行はなお日本リースに5000億円から6000億円の処理を要する不稼働資産があると見ており、その処理に長期間を要することに警戒感を有し、早期是正措置の導入を控えた貸し渋りが行われていた時期であることを考慮に入れても、折り返しに厳しい対応をとっていたことが認められる。
以上によれば、本件再建計画は、〈1〉計画実行後も日本リースに巨額の不稼働資産及び実質債務超過が残り、仮に年間175億円の基礎収益を前提としても債務超過状態を解消するまでに20年を要するものであり、経済情勢の変化のスピード等を考えると余りにも不稼働資産の処理に長期間を要すること、〈2〉175億円のキャッシュフローが20年間継続する保障はなく、現に、原告及び日本リースの経営陣も金利の上昇により調達コストが上昇したり、取引先の大型倒産が生ずると、キャッシュフローがマイナスになる危険があることを認識していたこと、〈3〉受皿会社における事業化の具体性に乏しく、当時において一部に地価の上昇期待はあったにせよ、地価下落に対する備えは全くなかったこと、〈4〉金融機関からの借入金が元手であるノンバンクの性質からすると、総資産2兆円余りのうち、3分の1を超える7000億円が不稼働資産であり、資金が固定化され新しい収益機会に振り向けることができず、調達コストすらまかなえない状況となっており、償却・引当の原資は日本リースに還流するとはいえ、追い貸しによる元加により不稼働資産の額はさらに増加する悪循環となっていたこと、〈5〉他の金融機関も支援計画の終了宣言にもかかわらず、日本リースには5000億円ないし6000億円の不稼働資産が残り、その処理に長期間を要するという実態を見透かしており、融資の折り返しに対して警戒感を抱いていたことなどからすると、親銀行の信用によって補完されているとはいえ、再建計画として不十分であり、情勢の変化等により、原告からの資金繰り支援や損益支援などの追加的支援が当然に必要になるものであったといわざるを得ない。
(5) 本件損益支援の合理性
ア 母体行責任のもとにおける支援の合理性の判断
以上のとおり、原告は日本リースに対して母体行責任を負っており、これを果たさない場合には原告の信用に対して甚大な影響が生ずることが見込まれた一方で、本件再建計画は日本リースの再建策としては不十分であり、本件損益支援の実行にも関わらず、今後も情勢の変化により原告からの追加的支援の必要性が見込まれるようなものであった。そこで、これを前提として、本件損益支援を実施した被告らの情勢分析及び衡量判断に誤りがあったかどうかを検討する。
本件当時のように母体行主義の考え方が支配的な状況下においては、母体行責任を果たさないことにより想定される影響は、グループ企業全体さらには親銀行の信用不安に直結するものであり、極めて甚大であることから、親銀行の取締役としては、このような事態を極力回避すべき義務があるものというべきである。しかしながら、母体行責任を負っている場合は、親銀行の取締役は、企業を破綻させない限りどのような支援でも許されるというわけではなく、具体的支援行為の当否の判断に当たっては、以下のとおり考えるべきである。すなわち、第1に、企業が収益性等の観点から再建の見込がない場合には、いずれ破綻処理を行うことが避けられないのであるから、親銀行の取締役としては、他のグループ企業や親銀行への波及を抑えながら、破綻処理にスムーズに移行するために、手順と総処理コストを想定の上、一定期間に限って支援を行うことは格別、このような計画なく、資金繰り破綻を避けるために赤字補てん資金を供給し続けることは、結局のところ最終処理コストを増大させるだけであり、許されないものと考えられる。第2に、企業に再建の見込みがある場合であっても、母体行責任の名の下に、親銀行の体力を超える支援を行うことは、親銀行の経営自体を危険にさらすこととなり、許されないものというべきである。第3に、上記以外の場合は、母体行責任に基づく支援を行わないことにより生ずる損失が極めて大きいことから、これを回避することが不可欠であるとの前提に立った上で、その当否については、当該支援行為がこのような損失の回避策として見た場合に親銀行が負担すべき総支援コストを最小化するものであったかどうかという観点から判断すべきものと考えられるが、その判断に当たっては、母体行主義の下で親銀行のとり得る選択肢自体が制限された状況にあることを踏まえ、当該支援行為よりも明らかに優れた現実的に実行可能な選択肢があったかどうかの検討が重要であるというべきである。
イ 日本リースの再建可能性
以上の観点から、本件損益支援の当否を判断するに、日本リースはリース部門の収益性があり、不稼働資産の処理ができれば企業として再建可能であり、また、本件損益支援は日本リースの自転体制を確立し、赤字補てん資金の供給の必要性を絶つことを狙いとしていたことが認められることから、本件損益支援は、日本リースの再建可能性を前提としたものであり、上記第1の場合には該当しない。
ウ 本件損益支援と原告の償却・支援体力の関係
原告らは、〈1〉本件損益支援による原告の損失負担額1600億円は、当時既にかなり減少していた原告の償却体力からみて、過大であり、原告の経営を危険にさらすおそれがあったこと、〈2〉平成7年3月期において、原告には自ら償却すべき不良債権及び支援すべき関連・親密先が多数存在しており、その要償却額及び支援額が、当時の原告の償却体力を上回っていたことなどから、原告が本件損益支援をすることは許されなかったと主張する。
(ア) 本件損益支援の支援損と各期の償却・支援体力
原告ら主張〈1〉については、原告が、別表1のとおり平成7年3月期において、平成6年度の本件損益支援額491億円を含む関連・親密先支援損負担額1137億円及び原告の一般先に対する不良債権処理額2296億円の合計額3433億円を処理したにもかかわらず、同期における償却・支援体力は別表1のとおり1兆0382億円存在し、別表2のとおり自己資本比率8.51パーセントを維持していたのであるから、本件損益支援による上記支援損の負担は、原告の経営を危険にさらすものであったということはできない。
次に、原告は、別表1のとおり平成8年3月末において、平成7年度の本件損益支援額1098億円を含む関連・親密先支援損負担額1491億円及び原告の一般先に対する不良債権処理額5008億円の合計額6499億円を処理したにもかかわらず、同期における償却体力は1兆3828億円存在し、別表2のとおり自己資本比率8.85パーセントを維持しており、原告の償却・支援体力は平成7年3月期と比較して増加していたことから、本件損益支援による上記支援損の負担は、原告の経営を危険にさらすものであったということはできない。
(イ) 原告の支援原資と関連・親密先に対する支援所要額
a 次に、原告らの主張〈2〉について検討するに、原告らは、平成7年3月期において、原告の一般先に対する不良債権額(破綻先債権及び延滞先債権の総額)は7844億円であり、原告の関連・親密先は実質債務超過状態にあったことから、原告の関連・親密先に対する貸出残高2兆3321億円も全て潜在的に不良債権であったところ、当時の原告の内部資料によると不良債権の含み損の率の平均は6割であることから、原告の処理必要額は約1兆8700億円となり、当時の原告の償却・支援体力1兆0382億円を上回っていたことから、本件損益支援は支援を許されないと主張する。
しかしながら、原告らの主張は、関連・親密先の再建可能性を問わずに全てを破綻させることを前提として、清算価値に基づき、償却必要額を算出している点と一定時点でこれに見合う原資が確保されなければならないとする点において、誤っているというべきである。
すなわち、企業の再建のためには、継続企業価値を前提として実質債務超過額の解消が前提となることから、支援所要額は実質債務超過額をベースとして支援先の自助努力を考慮した額となるべきである。
他方で、企業に収益力がある場合には、単年度に実質債務超過額を一掃する必要はなく、一定期間かけてこれを解消することにより再建を図ることができ、したがって、支援の原資も一定期間内に分けて勘案することができるというべきである。
特に、支援先ごとに支援の必要性や緊急性の程度に格差があるのであるから、現在及び将来の支援の原資を勘案の上、優先順位を付け、順番に支援を行うことが許されるべきことは当然であり、全ての支援先に対して一括して支援しなければならないということはできない。けだし、原告らの主張のように、仮にある時点において、全ての支援先に対する必要額に見合う原資がない場合、一切の支援を実施できないとすると、再建可能性のある企業の再建の途を閉ざし、母体行責任を前提とする限り、関連・親密先全体の破綻ひいては原告の信用への波及、さらには原告自体の破綻まで招来する危険があったというべきである。また、このような場合には、支援先と破綻させる先を選別しなければならないとすることも、母体行責任のもとでは親銀行自身への信用問題の波及を遮断することが極めて困難であったことは後に述べるとおり(173頁のエ)である。
さらに、以上のような支援所要額と償却・支援体力についての考え方は、不良債権処理についてのソフトランディングの考え方や行政当局においてとられていた不良債権の計画的段階的処理の方針とも合致するものである(89頁の(ア))。
b そこで、以上の考え方に立って、関連・親密先の支援所要額と原告の支援原資との関係を検討することとする。
平成7年7月10日付けの原告の常務会資料(甲A7号証の2)において、平成7年3月期における原告の関連親密先6社(長銀リース、NED、ランディック、ファーストクレジット、第一ファイナンス及びジャリック)の実質債務超過額は8837億円と試算されており、これに平成6年3月期(平成7年3月期の証拠がないことから平成6年3月期とほぼ同様の額であったと推計する。)の日本リースの実質債務超過額約5000億円(146頁のア)を加えると、関連・親密先の実質債務超過額は約1兆4000億円程度であったと認められる。また、平成8年8月19日付け常務会資料(甲A8号証の2)によれば、平成8年3月期において、関連・親密先7社(長銀リース、NED、ランディック、ファーストクレジット、第一ファイナンス、ジャリック及び日本リース)の実質債務超過額は総額1兆4714億円に達すると試算されていたことが認められる。さらに、平成8年3月期において、受皿会社等の実質債務超過額は約2800億円に達していた(甲A9号証)ことから、これら受皿会社の実質債務超過額を上記関連・親密先に加えると、その合計額1兆7514億円となる。したがって、関連・親密先に対する支援所要額は、これらの実質債務超過額から関連・親密先の自助努力を控除した額となる。
他方、関連・親密先に対する支援により、実質債務超過額の解消を一定期間内に行う場合、原告のある時点における支援原資(当該年度の業務純益、有価証券含み益及び剰余金取崩可能額)に加えて、その期間内における業務純益の合計額を支援の原資として見込むことが可能である。なお、償却・支援体力の中から貸倒引当金を控除するのは、貸倒引当金は原告の一般先に対する不良債権の償却に用いられるためである。
そこで、仮に5年間の期間を想定すると、原告の支援原資としては、有価証券含み益及び剰余金取崩可能額に加えて、5年間に見込まれる業務純益を考慮することが可能となる。証拠(乙A77号証、同95号証、同96号証、同112号証)によれば、平成7年度において、高利回りの金融債であるワイドの償還が終了し、その資金コスト約2000億円から解放されることにより、業務純益が同程度回復することが見込まれ、実際上も、原告の業務純益は、別表1のとおり、平成7年度2036億円、平成8年度1966億円、平成9年度1647億円となっていることから、平成7年3月期において、今後5年間の業務純益として約1兆円を見込むことは、必ずしも不合理な想定ではなかったと認められる。
そうすると、平成7年3月期において、今後5年間の原告の支援原資は、同期における業務純益、有価証券含み益及び剰余金取崩可能額の合計額6414億円に業務純益1兆円を加えた1兆6414億円となり、また、平成8年3月期において、今後5年間の原告の支援原資は、同期における業務純益、有価証券含み益及び剰余金取崩可能額8852億円に業務純益1兆円を加えた1兆8852億円となる。確かに、この間も、原告の一般先に対する不良債権の償却・引当の必要性があり、業務純益の全てを支援に当てることができるわけではなく、また地価の下落による含み損の拡大に対する手当も必要であり、さらに原告の有する有価証券含み益自体が株価変動のリスクを負うものであるが、これらの事情を考慮しても、本件損益支援の各時点で、原告が想定し得る支援原資が関連・親密先の支援所要額に比較して、格段に不足していたと断ずることはできないものというべきである。
そして、このような支援所要額と支援原資の状況を前提とすると、情勢の変化によっては、自己資本を取り崩したり、他から増資を受けるなどして、支援を実施するなどの途もないわけではないから、このような将来における選択肢を残すことなく、本件損益支援の各時点において、一切の支援を打ち切るべきであった、すなわち支援先ひいては原告本体を破綻させることまで考慮すべきであったなどとは、およそいうことはできないものであったと考えられる。
原告らは、業務純益は会計上嵩上げされた名目的なものにすぎず、業務純益の額それ自体は償却原資とならず、原告内部において使用されていた実態業務純益を償却原資の基準とするべき旨主張する。
しかし、証拠(甲A53号証、乙A114号証、同115号証)によれば、平成元年以降銀行の経理一般において、業務純益という指標が銀行の収益指標とされ、原告の業務純益も当然これによっていたこと、実態業務純益という概念は、業務純益においては当該年度の営業成果と前年度までの営業成果のうち今年度に実現したとみられる部分とがあわせて計上されることから、当該年度の営業成果になじまないもの(スワップキャンセルフィー、公社債の含み損益等)を除き、当該年度の営業成果と含み損益を区別して把握し、部門別の収益管理に役立てるために原告内部において考案された概念であること、実態業務純益を求める際に業務純益から特殊要因として控除されたスワップキャンセルフィー(金利スワップなどを中途で解約して益出しをする手法)や特定金銭信託のコストレート(銀行の一般の調達コストと特定金銭信託の調達コストとの間に乖離がある場合に、調達コストの差額分だけ過大な経費が計上されるので、その差額部分を業務純益に計上すること)などは、前年度までの営業成果が当該年度に実現されたものであり、銀行の利益として正当に評価し得るものであることなどから、償却・支援体力を勘案するに当たって、銀行経理上の基準に則って算出された業務純益を前提とすることに何ら問題はなく、原告らの主張は採用できない。
(ウ) 小括
以上によれば、原告らの主張〈1〉については、本件損益支援は、支援額と原告の当該年度の償却・支援体力を単純に比較した場合、明らかに原告の経営の安定性を損なうものではなく、また、原告らの主張〈2〉については、関連・親密先全体の支援ということを考慮しても、再建のための相当な期間を想定した場合に、原告は関連・親密先を支援するだけの体力を有していなかったと断ずることはできないから、原告らの主張は採用できず、本件損益支援は、上記第2の場合(165頁のア)にも該当しないといえる。
エ 実効性のある再建計画をベースとした支援の可能性等
そこで、本件は上記第3の場合(165頁のア)に当たるところ、原告らは、本件損益支援に代わるべきどのような選択肢があったのか明示していないが、本件再建計画の不十分性を主張していることから、まず、日本リースについて実効性のある再建計画をベースとした支援が可能であったかどうかを検討する。本件当時において実効性のある再建計画といい得るためには、本件損益支援実行後の金融機関の対応(161頁のウ)に照らしても、具体的に先を予測し得る程度の期間、すなわち当時においても5年程度の期間内に不稼働資産の大半の処理の見通しを立てられるような計画であることが必要であったというべきである。
ところで、原告の償却・支援体力の見通しは既に述べたとおり(169頁のb)であり、全体の所要額に比較して潤沢とはいい難く、有価証券含み益の活用は一度限りの決断であり、さらに将来のリスク要因も勘案すると、このような実効性のある再建計画に対する支援は、原告の単年度当たりの支援損の額が拡大し、原告単独で支援することは困難であり、かえって、このような支援を単独で行うことは原告の経営を危険に曝すこととなるおそれもあったと認められる。
そこで、次に、母体行責任の考え方が支配的な当時の状況下で、原告の他のグループノンバンクへの波及や原告の資金調達への影響を最小限に押さえながら、他の金融機関に対して日本リースの実効性のある再建計画に対する支援の分担を求めることが現実的に可能であったかどうかが問題となる。この点に関する被告らの認識は、本件損益支援の検討段階から一貫して、他の金融機関からの同意が得られない可能性が非常に高く、結果的に日本リースの破綻及びグループノンバンクの信用問題につながるというものであった。
しかるところ、既に述べたとおり(85頁の(イ))、母体行責任の考え方は、各銀行が互いに系列ノンバンクに対してたすき掛けの融資をし合っているという相互依存関係を基盤としていたことからすると、原告が日本リースについて母体行責任を放棄し、単独支援を行わないことから生ずる原告についての信用不安とそれに基づく原告の他のグループノンバンクに対する他行の融資引揚げの連鎖をくい止めるためには、日本リースについてのみ局地的に再建策を示して他の金融機関の同意を求めるだけでは足りず、波及が予想される他のグループノンバンクを含めた処理方針を示して、その了解を取り付ける必要があったものと認められる。そして、原告のグループノンバンクはその大部分が多額の不稼働資産を抱え、財務・経営基盤が脆弱となっていたのであるから、これらのグループノンバンクへの波及を避けるためには、原告のグループノンバンクの大部分について、各ノンバンクの財務・経営状況と原告の償却体力の将来見込みを踏まえて、財源を選択的かつ集中的に配分しグループノンバンクについての支援あるいは処理に関する全体計画を策定し、これをもとに各行の了解を取り付けることが必要であったと考えられる。しかも、各行から計画について了解を取り付けるに当たっては、その前提となったグループノンバンクごとの不稼働資産の状況や収益力等についての情報開示を要求されることは想像に難くない。しかしながら、既に認定したとおり(98頁の(エ))、本件当時においては、銀行の不良債権は、全銀協の統一開示基準に基づき、都市銀行、長期信用銀行及び信託銀行において破綻先債権額及び延滞債権額(6か月以上の利息未払い債権)の開示が行われていたにすぎない状況にあったのであるから、原告のみが、グループノンバンクの全てについて不稼働資産の状況等を各金融機関に対して開示することは、そのこと自体によって原告の信用を著しく毀損する危険があったと考えられる。しかも、原告のグループノンバンクは、長銀リース、NEDを始め、第一住金、第一ファイナンス、ジャリック、ライフなど数が多いことから、必然的に関係金融機関の数も多数に上り、かつ、それぞれに金融機関の性格、体力、融資残高、自行の系列ノンバンクの借入状況など利益状況が種々であるのみならず、母体行責任のルールを破ることに対する反発も加わって、各金融機関の了解が得られるかどうかはなはだ疑問であるし、仮にこれが可能であるとしても、合意形成に長期間を要し、その間に原告及びグループノンバンクの信用が著しく毀損される可能性があったというべきである。このような事情は、仮に日本リースについて法的整理を行う場合にも、原告の他のグループノンバンクへの波及という観点からは同様であり、のみならず法的手続では日本リースについての損失の負担が完全にプロラタでなされることから、金融機関の反発は相当強いものとなることが予想されたものと考えられる。
以上に検討したとおり、本件損益支援の各時点において、原告及びそのグループノンバンクの信用問題に波及させない形で、日本リースの再建計画について各行の支援を要請することは、現実的に不可能であったものと認められる。
原告らは、原告が母体行責任をとらない場合に、各行による原告のグループノンバンクからの融資の引揚げや原告の金融債の購入拒否等が生じ、原告の破綻の可能性があるという点について、〈1〉他の金融機関が原告のグループノンバンクからの融資の引揚げに動けば、原告及びグループノンバンクも他行の系列ノンバンクあるいはメイン先から融資の引揚げで対抗することができるから、原告が交渉上一方的に不利な立場にあったわけではない、〈2〉日本リースから他行の融資の引揚げが一斉に起こる可能性についても、原告がこれに肩代わりをしない場合に日本リースが破綻する可能性があるとすれば、他行は破綻を回避するために融資を継続するであろうから、このような事態が生ずるとは限らない、〈3〉原告が破綻するようなことになれば、原告の金融債の購入先金融機関は多額の損失を被ることとなるから、原告の破綻につながるような行動に出ることは想定できないと主張するが、金融取引が多数の経済主体間の複雑な相互依存関係から成り立っていることからすると、ある出来事が引き金となって全体に波及することは否定し難いところであり、しかもその際の結果の重大性を考えるならば、原告らの主張するような可能性を、信用秩序を維持するという公共的使命を担った金融機関の取締役の現実の意思決定のベースとすることはできないというべきである。
以上によれば、本件当時、日本リースに対して実効性のある再建計画に基づき、他行の協力を得て支援を実行することは極めて困難であり、かつリスクの高いものであり現実的な選択肢としては想定し難いものであったと認められる。
オ 本件損益支援の評価
以上のとおり、本件損益支援は、母体行責任の考え方が支配的な当時において、日本リースの経営悪化を放置することは親銀行による原告の信用問題に直結する重大な影響を及ぼすことが具体的に懸念され、原告の取締役としては、このような事態を回避すべく最善の努力を尽くすことが求められた状況下において行われたものである。本件損益支援は、日本リースの再建策としては必ずしも十分ではなく、情勢の変化により原告からの追加支援が必要となる可能性が見込まれるものではあった。
しかしながら、追加的な支援が必要となるリスクは、本件損益支援の実施の有無にかかわらず、原告が母体行であることにより負担していたものであり、本件損益支援については、〈1〉日本リースの不稼働資産の一部を現実に処理するものであり、これは抜本的な処理策においても、いずれ必要となるものであったこと、〈2〉日本リースの収益は、不稼働資産の減少によるキャリングコストの削減等により大幅に改善し、収益により自転できる状況に一応なっていたこと、〈3〉本件損益支援により、厳しい金融環境にもかかわらず、とりあえず各金融機関との間の取引が継続され、融資の折り返しを確保することができ、また原告による融資の肩代わりを抑えることができたこと等の点に意義を見出し得るものであった。さらに、本件損益支援当時は、既に述べたとおり(82頁のイ、89頁のエ)、経済界等において、戦後の成功体験から来る地価反転と景気循環の期待を背景に、不良債権の処理は、地価や景気の回復を待ちながら時間をかけて実施していくべきであるというソフトランディングと呼ばれる考え方が根強く存在し、現実にも景気回復の兆しが見えかけた時期であった。また、金融行政も、従来の護送船団方式と呼ばれる裁量型行政から早期是正措置の導入、金融ビックバンに至るルールに基づく行政への転換とそのための制度的枠組みが形成されるまでの移行過程にあり、今日のような金融機関の破綻に対するセーフティネットは整備されておらず、不良債権のディスクロージャーも自主的な開示制度のもとで、その対象範囲を徐々に拡張している段階であり、また、不良債権の償却・引当制度も、無税引当について国税庁の委任を受けた大蔵省金融検査部の認定を要する不良債権償却証明制度のもとで、法人税基本通達による税基準が事実上の基準と化し、有税引当も認められたが、その当否は別として、引当を行うかどうかは金融機関の裁量であるとの扱いが広く行われていた制度的枠組みのもとにあった。そして、母体行責任の下において、系列ノンバンクに対する損切りを急がず、親銀行が責任を持って支援していくという金融慣行は、このような金融制度の枠組みとも相互に補完し合って、全体としての不良債権処理のシステムを形作っていたと評価し得るのであり、このような状況を前提として、大蔵省も、「金融機関の不良資産問題についての行政上の指針」(平成6年2月8日)において、不良債権の処理について、「破綻先債権、延滞債権は、今後時間をかけて償却により処理していく必要があること」、「償却等による処理が必要となるものについては、早期に処理方針を確定させ、計画的、段階的に処理を進めていくこと」、「金融機関は、徹底した経営努力を前提に、毎期の業務純益を主たる財源として、実質的な引当金である含み益などの内部蓄積も長い目で考慮しながら、所要の償却等を積極的に進めること」とするなどの方針をとっていた(91頁のc)。
本件損益支援はグループノンバンクの支援を順次進めていく計画のもとで原告の体力の範囲内で実施されたものであり、まさに当時におけるソフトランディングの考え方や金融当局の不良債権の計画的・段階的処理という方針にも適うものであったというべきである。
他方で、既に認定したとおり、原告には本件損益支援に代わるものとして抜本的な再建策を単独で支援できる余力はなく、また、抜本的な再建策を他の金融機関にも損失分担を求めて実行することも、上記のような全体のシステムからの離脱のリスクがあまりにも大きく、現実的な選択肢となり得ない状況であった。
そうすると、本件損益支援は、原告が母体行責任を果たさない場合に想定された極めて重大な事態を回避するため、原告の損失を最小化しつつ、将来に選択肢を残す観点から実施されたものであり、被告らのおかれた局面においては、本件損益支援に代わるべき明らかに優れた選択肢は見出し難かったというべきであるから、本件損益支援に対して、不当な先送りなどとして法的非難を加えることはできないものと判断される。
カ 本件損益支援の社会的相当性
原告らは、本件損益支援は、償還可能性のない又はその極めて低い受皿会社への不稼働資産をサイレントベースとして放置して、本来処理の対象とすべき不稼働資産を隠蔽し、支援計画の合理性を装うものであって、このようなサイレントベースの不稼働資産の隠蔽を不可欠の要素とする本件損益支援は全体として著しく社会的相当性を欠くと主張する。しかしながら、既に述べたように、本件損益支援はサイレントベースの不稼働資産を考慮した場合にも合理性が認められるものであり、さらに、当時においてグループノンバンクの財産内容を開示すべき義務は親銀行にはなかったのであるから、日本リースの不稼働資産の額を開示しなかったからといって、本件損益支援が著しく社会的相当性を欠くとはいえない。
(6) 結論
以上によれば、本件損益支援を行うに当たっての経営判断は、その情報収集・分析、検討に欠ける点はなく、かつ、これに基づく衡量判断についても相応の理由を伴うものであることから、被告らには、善管注意義務違反を認めることができない。
3 争点2
(1) 本件融資〈1〉の経緯
証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア ビルプロの概要並びに原告及び日本リースとの関係
ビルプロは、昭和44年11月に設立され、オフィスビル建設の企画・運営を中心に手掛けていた中堅不動産会社である。ビルプロは、銀行等からの借入により買収した土地上に賃貸ビルを建築して、賃料収入や転売利益を得るプロジェクト事業でバブル期に業績を伸ばし、ピーク時にはグループ資産が6000億円を超えたが、バブル経済崩壊により業績が一気に悪化し、平成4年12月には余剰資金が底をつく状態となった。
原告及び日本リースは、バブル期にビルプログループとの取引を拡大し、平成4年12月時点で、日本リースのビルプログループに対する融資残高は約1449億8100万円、原告のビルプログループに対する融資残高は約1017億3600万円となっていた。特に、日本リースのビルプログループに対する融資残高は、日本リースの全融資残高の約10パーセントを占めており、ビルプログループは日本リースの最大融資先の一つとなっていた。
(甲C2号証、同45号証)
イ 原告によるビルプログループ支援の実行
原告は、ビルプログループの資金繰り破綻の懸念の顕在化が日本リースの信用問題に波及し、ひいては原告の負担を増大させることとなることから、ビルプログループの資金繰りを支援する必要があるとして、業務運営委員会に付議の上、平成5年3月16日、営業企画グループ担当の専務取締役であったEの決裁により、同年9月末を期限として、従前設定していた1175億円のクレジットリミット(与信限度枠)を同額で更新した。
被告Y9は、営業企画グループ部長として、上記クレジットリミットの更新に関わった。
(甲C2号証、同3号証)
ウ 日本リースによるビルプログループ向け融資の受皿会社への付け替え
他方、日本リースは、大口貸付先であるビルプロの財務状況の悪化を懸念する資金調達先の金融機関から、ビルプログループ向け債権の圧縮を強く求められ、それまで日本リースがビルプログループに対して共同事業を行うために融資していた債権をビルプロの100パーセント子会社に付け替える形で、貸付債権約415億円の圧縮を試みた。すなわち、日本リースは、平成5年3月、銀座8丁目物件を担保不動産とするビルプロ及びその子会社である株式会社拓栄企画向け債権約110億円を株式会社栄和プランニング(以下「栄和プランニング」という。)に、竜泉物件を担保不動産とするビルプロ及びその子会社である株式会社ジェイビーピーエンジニアリング向け債権約95億円を株式会社竜泉開発(以下「竜泉開発」という。)に、同年9月、内藤町物件を担保不動産とするビルプロ向け債権約53億円を株式会社幸和開発(以下「幸和開発」という。)にそれぞれ付け替え、これにより、日本リースのビルプログループ向け債権約259億円を受皿会社に付け替えた。また、左門町物件を担保不動産とするビルプロ向け債権約156億円の付け替えも検討されたが、同債権の付け替えは実現に至らなかった。
しかし、以上の貸付債権の付け替えについては、いずれも日本リースから融資を受けた受皿会社が、ビルプロに融資して、ビルプロはその融資金により日本リースに弁済する形をとっており、日本リースのビルプログループ向け債権の総額は何ら変わず、見せかけの貸付債権の圧縮が行われたにすぎなかった。
なお、上記の銀座8丁目物件、竜泉物件、内藤町物件及び左門町物件は、いずれも日本リースとビルプロが、昭和60年ころから、共同事業として、上記各土地上に建物を建設して事業化する旨の協定を交わし、ビルプログループが、日本リースから土地取得資金の融資を受け、土地の買収を進めていたが、土地の買収が難航し、また借家人に対する立退交渉も進まず、事業化が凍結された状態にあった。
(甲C45号証、同46号証)
エ ビルプロの金融機関に対する一部利払い方式への移行
ビルプログループの財務状況はその後も悪化を続け、平成5年7月期の決算において、実質資産3500億円、負債6000億円となり、実質2500億円の債務超過となったことから、原告としては、ビルプログループに対して、これ以上の追加融資はできないとの判断に達した。
そこで、E(当時副頭取)は、平成5年10月13日、日本リースのF社長と面談し、ビルプロ問題について協議した。
その際、原告側は、ビルプログループに対する資金繰り融資を止めるが、日本リースへの影響を考慮し、ビルプログループに対する金利減免を行うとともに、日本リースのビルプログループ向け債権や同債権に係る物件を引き取ることにより原告の日本リースに対する支援色を出すことを打診したところ、日本リース側からは、日本リースのビルプログループへの与信残高1500億円をそのままにすると取付け騒ぎとなることが必至であることから、これを500億円以下に圧縮させたいとして、原告に対する約1000億円の支援の要望がなされた。
原告は、平成5年11月17日、業務運営委員会において、ビルプログループに対する当面の方針を検討し、金利一部支払方式への移行等を内容とする営業企画部の方針を了承した。
すなわち、営業企画部の作成した資料によれば、平成5年9月末時点における日本リースのビルプログループに対する与信残高は1551億円であり、原告の同社グループに対する与信残高は1115億円であり、ビルプログループの再建は困難であるところ、日本リースの上位取引行は日本リースのビルプログループに対する与信残高1500億円を認識していることから、日本リースの資金繰りや損益の問題につながり、ひいては原告の信用問題へ波及する懸念があるとして、平成5年11月末以降、ビルプログループについて金利の一部支払方式へ移行し、一般行は1パーセント程度、原告及び日本リースは0.5パーセント程度の金利水準とすること、原告グループの物件引取会社を設立し、原告は引取会社に488億円を融資して物件引取りを行い、日本リースの与信残高を1075億円に圧縮することとされていた。
その後、ビルプログループは各金融機関に対して金融支援を要請し、平成5年11月から2年間、原告及び日本リースはビルプログループに対する貸付金についての金利を0.5パーセントに、他行は金利を1パーセントに、それぞれ軽減すること、さらに各金融機関は約定弁済を猶予すること等を内容とする再建計画が実施されることとなった。
ところが、ビルプログループについて上記の金利一部支払方式へ移行するに際し、日本リースの資金調達先の金融機関の一部が、日本リースに対し、前記の日本リースのビルプログループ向け債権の圧縮は見せかけにすぎないとして、貸付金500億円を圧縮するように強く要請したことから、日本リースは、ビルプログループ向け債権を、平成6年3月末までに原告の協力を得て500億円圧縮する旨の約束を余儀なくされた。
(甲C4号証ないし同6号証、同44号証、同45号証)
オ 債権の簿価譲渡に関する原告と日本リースの打合せ
原告及び日本リースの担当者は、平成5年10月21日、日本リースのビルプログループ向け与信の圧縮について検討し、国土利用計画法上の届出価額(以下「国土法価格」という。)で、物件を受皿会社に引き取る方法によることを決定し、3社をめどに早急に受皿会社設立の準備を進めること、ビルプロの合意が得られ次第速やかに国土利用計画法上の届出をすることなどを確認した。
これを受けて、平成5年11月18日、原告の子会社及び日本リースの出資により、物件引取りのための受皿会社として、いずれも資本金1000万円で、受皿会社3社が設立された。
引取対象の物件としては、〈1〉日本リースのビルプログループ向け債権約183億円の担保不動産となっている左門町物件、〈2〉同じく債権約53億円の担保不動産となっている内藤町物件、〈3〉同じく債権約31億円の担保不動産となっている南品川物件、〈4〉同じく債権約55億円の担保不動産となっている銀座8丁目物件、〈5〉同じく債権約109億円の担保不動産となっている竜泉物件が候補に挙げられた。
原告の営業企画部等の担当者は、平成6年2月23日、日本リースの担当者と面談し、日本リースのビルプログループ向け債権の圧縮の方針について打ち合わせた。その際、日本リースの担当者は原告の担当者に対し、物件引取りの方法では、貸付債権約431億円に対して、前記物件の国土法価格が230億円程度にしかならず、貸付債権の圧縮額が予定の500億円の半分にも満たない上、日本リースには貸付債権の担保割れの部分が無担保の状態で残るため原告は良いところ取りをしているといった批判が想定され、さらには、ビルプロ側でも168億円の売却損が生じ大幅な債務超過に陥り、原告及び日本リースも償却・引当処理を余儀なくされるという問題があることから、債権圧縮の方策について再度練り直してもらいたいと述べた。
その上で、日本リースの担当者は、500億円圧縮の方策として、〈1〉物件買取りをせず、貸付債権の簿価譲渡を受皿会社へ行い、そこへ原告から譲受資金を貸し付ける方法、〈2〉物件は国土法価格で買い取ることに加え、日本リースのビルプロ向け債権を原告が500億円に達する範囲で肩代わり融資する方法の二つの方法があるが、いずれの方法も税務上の問題が大きいし、ましてや、金利がほとんど入らない貸付金の肩代わりの方法は商法上も大いに問題になるとした上で、一つのアイデアとして、〈1〉の方法については、事業化を前提に簿価で引き取り、4年ないし5年間事業化を進めた形にした上で、最終的には事業化できなかったとして、償却・引当を行えば、税務上の問題を回避できるとの税理士の意見があることを紹介した。すなわち、日本リースの担当税理士の意見は、「譲渡債権の対象プロジェクトの事業化が見込まれ、その事業計画を認めて受皿会社に簿価譲渡して長銀が受皿会社にプロジェクト融資する形であれば、税務上認められる話であるし、事前に国税当局に相談しなくともよい。→事前相談すればかえってヤブ蛇になる。但し、簿価譲渡を可とする理由付けは、あくまで事業化を進めることにあるので、短期間で事業化を断念し、損切りすると当初の簿価譲渡は税務上否認され、時価との差額が寄付と認定される。4~5年は事業化との位置づけを代えない方が無難。本件のケースは、損切り、引当・償却は長期的に処理すると考えるしかない。短期間で処理すると、長銀は時価との差額が寄付とされ課税される。また、受皿会社への貸付債権を引当しようとすると有税となる。」、「事業化推進として位置付けると、債権処理にある程度の期間が必要となり、その間の利息計上(未収or元加)等コストアップは避けられない。しかし、これは有税回避の経費と割り切って考えざるを得ないだろう。」というものであった。
これに対し、原告の担当者は、これまで物件引取りの方針で進めてきた話であり、債権譲渡に変更するのであれば、原告内で然るべき機関決定が必要となることや、原告が受皿会社3社に実施することになる貸出しのうち担保評価額を超える額について、大蔵省検査で不良債権と分類される懸念があるなどの検討事項があることを説明した。
さらに、原告と日本リースの担当者は、平成6年3月2日、ビルプロ対策について実務者レベルでの打ち合わせを行い、日本リースのビルプログループ向け債権の圧縮の方法としては、500億円を目処に日本リースのビルプログループ向け債権を物件引取りのため設立した受皿会社3社に簿価譲渡し、原告から直接受皿会社3社に融資を行う方法によるが、大蔵省検査対策として事後に貸付会社を介在させるスキームに変更することがあり得ること、税務対策及び大蔵省検査対策として事業計画を策定し、共同事業スタイルとすることも検討する必要があること等を確認した。
(甲C1号証の1ないし3、同7号証、同10号証の1ないし3、同44号証)
カ 原告営業企画部における検討
原告の営業企画部は、平成6年3月10日、被告Y9、同企画部副部長、同部参事役、営業第六部部長らが出席する会議を開催し、日本リースのビルプログループ向け債権の圧縮について、前記のとおり、受皿会社に対する債権簿価譲渡によるとの方針が説明され、被告Y9を含む出席者の了解を得た。
その際の検討資料は、ビルプログループの金利一部支払方式への移行に際し、日本リースから主力金融機関に対して、同年3月末までに、原告の協力を得て、日本リースのビルプログループ向け債権を500億円圧縮することの確約がなされたことを受けて、物件引取りを検討したが、想像以上に国土法価格が下落していることなどにより、物件引取りの方法では、与信圧縮額が240億円程度に止まる見込みとなり、一方ビルプログループに売却損が発生し、500億円以上の債務超過に陥ることから、急きょ別途の対策を講じる必要に迫られ、当行による肩代わり等いくつかの案を検討したところ、既に延滞状態に陥っているビルプログループ向け債権を原告が肩代わりすることは背任問題等から事実上不可能であり、最終的に税務面の問題があるものの基本的には債権簿価譲渡により与信圧縮を図り、3月末を乗り切る方針であるとしていた。そして、具体的方法として、前記5物件(左門町物件、内藤町物件、竜泉物件、銀座8丁目物件及び南品川物件)を担保とする日本リースのビルプログループ向け債権(簿価合計481億円、担保物件240億円)を受皿会社3社に簿価譲渡することとし、そのための資金を原告が受皿会社3社に融資するが、大蔵省検査の対策上、上期に迂回実行等の最終形を決定すること、原告の債権保全は、日本リースの機関決定や有価証券報告書の記載を回避するため日本リースの保証ではなく経営指導念書の徴求及び受皿会社3社からの当該債権譲渡(予約)により対応すること、ただし将来的には原告が貸倒損失として負担するものであり、従来の資金支援から損失支援へと一歩踏み込んだ支援となること、譲渡後は各物件ごとに日本リースがプロジェクト計画を立案し、これを補完する意味から受皿会社3社と日本リースとの間で共同事業協定書(仮称)の締結を検討すること等が記載されていた。
(甲C44号証、同45号証)
キ 平成6年3月15日の業務運営委員会における検討
原告は、平成6年3月15日、業務運営委員会を開催し、日本リースのビルプログループ向け債権の圧縮の方針について、営業企画部の作成した原案のとおり受皿会社による債権簿価譲渡の方針によることを了承した。
同委員会の資料は、引取価格を、左門町物件(引取価格188億円、国土法価格64億円)、内藤町物件(引取価格55億円、国土法価格20億円)、竜泉物件(引取価格112億円、国土法価格90億円)、銀座8丁目物件(引取価格116億円、国土法価格35億円)等としているほか、営業企画部の作成の前記同月10日付けの検討資料とほぼ同内容のものであった。なお、本件業務運営委員会の資料は、会議後回収され、業務運営委員会の議事録には、債権簿価譲渡という方法をとるに至った経緯、譲渡債権の簿価と担保不動産の国土法価格、譲渡後に各物件ごとにプロジェクト計画の立案を検討すべきことなどの記載のない別の資料が会議資料として綴られていた。
これを受けて、被告Y9は、同月16日、日本リースのD副社長と面談の上、日本リースのビルプログループ向け債権の圧縮は、受皿会社に対する債権の簿価譲渡により行うことを伝えた。その際、被告Y9は、D副社長に対し、今回の方法は、簿価譲渡が事業化を目的とするものであれば税務上の問題を回避できるとの税理士の意見に基づいたものであるが、原告としては今後そのとおりに行くとは必ずしも思われず、国税検査によりチェックされる可能性が高いこと、原告が今後日本リースに対して踏み込んだ協力をするに当たり、原告としては有税で対応することはできないので、国税当局に対し、原告の直系でない日本リースに対する支援の無税扱いをどのように説明するか協力して検討していく必要があることなどを伝えたところ、D副社長からは、日本リースの資産内容は現在の評価による損失が相当額に及んでおり、それが、毎年未収利息の貸付け(いわゆる追い貸し)等により、膨張していることから、自力再建は無理と考えており、どのタイミングで原告の支援を仰ぐかという問題があると理解しているなどとの答えがあった。
(甲C12号証、同44号証、同45号証)
ク 本件融資〈1〉の実行
(ア) 四谷プランニングに対する融資稟議及び同融資の実行
a 原告は、平成6年3月29日、営業企画グループ担当役員であったEの決裁により、四谷プランニングに対し、187億8000万円の専決極度貸出枠を設定した。被告Y9は、部店担当役員として、この稟議書を承認の上、Eに回付した。
稟議書における営業部店意見としては、〈1〉四谷プランニングは設立直後でありみるべき実績がないが、今後左門町においてビルプロジェクトを推進する計画を有していること、〈2〉本件は、左門町のビル建設プロジェクト資金として四谷プランニングがビルプロに融資する資金の原資とされるものであり、その趣旨・必要性は認められること、〈3〉担保としてビルプロから当該プロジェクト物件の根抵当権の設定仮登記を経由し、かつ、四谷プランニングのビルプロに対する貸付債権の譲渡予約を受け、さらに日本リースから保証予約を徴すること、〈4〉当該融資により日本リースグループとの取引深耕に資することなどから、貸出承認されたいとするものであった。
同稟議書にはプロジェクトの事業計画が添付されていたが、それによると、事務所兼共同住宅の賃貸ビル(地下2階・地上13階)を建築すること、収支については、投資額は、土地関係203億9118万円、追加買収費用53億3750万円、建物関係30億5594万9000円から保証金収入15億9033万円を除いた271億9430万円であり、年間賃貸収入利回り3.13パーセントであること、一部未買収地が計画地に含まれているが所有者の状況から買収可能と判断されること、ビル完成後のテナント対策についても、ヤマト運輸が興味を示すなど相応のめどを有していること等が記載されるとともに、ビルの図面が添付されていた。
本件土地の評価額は62億0781万6000円であり、日本リースの極度額243億2000万円の根抵当権が第1順位で仮登記されていたことから、日本リースから、原告の請求により同仮登記を抹消する旨の念書を徴求することとした上で、担保評価額を43億4547万1000円としていた。
b 日本リースは、平成6年3月31日、同社のビルプログループ向け債権を四谷プランニングに対して簿価(元利合計187億7653万2203円)で譲渡し、原告は、同日、四谷プランニングに対し、前記貸出枠に基づき、その買取資金187億8000万円を貸し付けた。
原告は、上記融資の担保として、ビルプロ所有の左門町物件に極度額245億円の第2順位の根抵当権を設定し、仮登記を経由するとともに、日本リースから、原告の請求により、同社が左門町物件に設定していた第1順位の根抵当権仮登記を抹消する旨の念書を徴求した。
原告は、前同日、上記融資の担保として、四谷プランニングとの間で、上記のとおり同社が日本リースから簿価で譲り受けたビルプロに対する債権の譲渡予約契約を締結した。また、日本リースは、原告に対し、上記の融資について四谷プランニングの債務履行が困難となった場合には、日本リースが四谷プランニングを支援し、原告には一切迷惑をかけないことを確約する経営指導念書を交付した。
上記融資の返済期限は同年4月28日であったが、同期限に弁済されず、その後期限が繰り返し更新された。なお、上記融資に基づく原告に対する支払金利については、日本リースが追い貸しして、金利支払の延滞を起こさないこととなっていた。
(甲C14号証、同17号証、同20号証、同21号証の1ないし10、同22号証ないし同24号証、同39号証の3、同43号証の1)
(イ) 木挽町開発に対する融資稟議及び同融資の実行
a 原告は、平成6年3月29日、営業企画グループ担当役員Eの決裁により、木挽町開発に対し、115億5000万円の専決極度貸出枠を設定した。被告Y9は、部店担当役員として、この稟議書を承認の上、これをEに回付した。
稟議書における営業部店の意見としては、〈1〉木挽町開発が設立直後でありみるべき実績がないが、銀座8丁目ビル建設のプロジェクト推進の予定があること、〈2〉本件は、銀座8丁目のビル建設プロジェクト資金として木挽町開発が栄和プランニングに融資する資金の原資とされるものであり、その趣旨・必要性は認められること、〈3〉担保としては、銀座8丁目物件の根抵当権を一部譲り受け、かつ、木挽町開発の栄和プランニングに対する貸付債権の譲渡予約を受け、さらに日本リースの保証予約を徴求すること、〈4〉当該融資により日本リースグループとの取引深耕に資することなどから、本件貸出を承認されたいとするものであった。
同稟議書には、プロジェクトの概要が添付されており、これによると、店舗兼オフィスの賃貸ビル(地下2階・地上10階)を建築すること、収支については、投資額は、土地関連125億6074万8000円、建物関連11億5248万7000円で、保証金収入7億1280万円を控除した130億0043万5000円であり、年間収入は店舗賃貸収入6720万円とオフィス収入6億4560万円の合計7億1280万円であり、利回り3パーセントであること、一部未買収地を残しているが買収交渉のめどはついていること、隣地所有者の出光興産と共同にてビル建設を行うもので、同社関連会社等の入居が見込まれていること等が記載され、ビルの図面が添付されていた。
本件土地の評価額は45億5895万2000円であり、担保評価額は31億9126万6000円とされていた。
b 日本リースは、平成6年3月31日、栄和プランニングに対する各貸付債権を木挽町開発に対し、簿価(元利総合計115億4162万1872円)で譲渡し、原告は、前同日、上記貸出枠に基づき、木挽町開発に対し、その買取資金115億5000万円を貸し付けた。銀座8丁目物件のうち一部の土地はビルプロが、その余の土地はビルプロの子会社である拓栄企画がそれぞれ所有しており、日本リースは、拓栄企画所有物件に極度額50億円及び極度額41億7000万円の各根抵当権を設定し、その旨の各根抵当権設定登記を経由していたが、原告の上記融資の担保とするため、前同日、木挽町開発に上記各根抵当権を一部譲渡し、その旨の登記を了し、さらに、木挽町開発は原告に上記各根抵当権の一部を譲渡したが、その旨の登記は経由しなかった。
その際、日本リースと木挽町開発は、上記各根抵当権につき、両者間では木挽町開発が優先する旨の合意をし、原告と木挽町開発は、上記各根抵当権につき、両者間では原告が優先する旨の合意をした。
さらに、日本リースは、ビルプロ所有物件について極度額28億円の根抵当権を設定し、その旨の各根抵当権設定登記を経由しており、日本リースは前同日、木挽町開発に上記根抵当権を一部譲渡し、その旨の登記を了し、さらに、木挽町開発は、原告に上記根抵当権の一部を譲渡したが、その旨の登記は経由しなかった。
その際、日本リースと木挽町開発は、上記根抵当権につき、両者間では木挽町開発が優先する旨の合意をし、また、原告と木挽町開発は、上記根抵当権につき、両者間では原告が優先する旨の合意をした。
原告は、前同日、木挽町開発との間で、上記融資の担保として、同社が上記のとおり日本リースから簿価で譲り受けた、栄和プランニングに対する債権の譲渡予約契約を締結した。また、日本リースは、原告に対し、上記融資について木挽町開発の債務履行が困難となった場合には、日本リースが木挽町開発を支援し、原告には一切迷惑をかけないことを確約する経営指導念書を交付した。
上記融資の返済期限は同年4月28日であったが、同期限に弁済されず、その後期限が繰り返し更新された。なお、上記融資に基づく長銀に対する支払金利については、日本リースが追い貸しすることとし、金利支払の延滞を起こさないこととされていた。
(甲C15号証、同18号証、同25号証ないし同32号証、同39号証の3、同43号証の2)
(ウ) 竜泉エステートに対する融資稟議及び同融資の実行
a 原告は、平成6年3月29日、営業企画グループ担当役員であったEの決裁により、竜泉エステートに対し、166億9000万円の専決極度貸出枠を設定した。被告Y9は、部店担当役員として、この稟議書を承認の上、Eにこれを回付した。
その稟議書の営業部店の意見としては、〈1〉竜泉エステートが設立直後でありみるべき実績がないが、竜泉及び内藤町各ビル建設プロジェクト推進計画が存すること、〈2〉本件は、竜泉物件及び内藤町物件のビル建設プロジェクト資金として竜泉エステートが竜泉開発及び幸和開発に各々融資する資金の原資とされるものであり、その趣旨・必要性は認められること、〈3〉担保として、竜泉物件については根抵当権の一部譲り受け、内藤町物件については根抵当権設定の仮登記を受け、かつ、竜泉エステートから竜泉開発及び幸和開発に対する貸付債権の譲渡予約を受け、さらに日本リースの保証予約を徴求すること、〈4〉当該融資により日本リースグループとの取引深耕に資することなどから、本件貸出を承認されたいとするものであった。
同稟議書には、同物件のプロジェクトの概要が添付されており、それによると、竜泉物件については、店舗兼住宅の賃貸ビル(地上18階)を建築すること、当該用地については都立台東病院建設の計画もあること、隣地26.73坪について追加買収を予定していること、収支については、投資額が土地関連194億4837万8000円、建物関連41億1326万3000円、保証金収入4億7556万円を控除した、230億8608万1000円となり、店舗賃貸収入1億4976万円、住宅賃貸収入7億0416万円の合計8億5392万円であり、利回り3.7パーセントであること等が記載され、ビルの図面が添付されていた。内藤町物件については、地上7階建ての賃貸オフィスの建築の計画があることが記載され、ビルの図面が添付されていた。
また、竜泉物件の評価額は91億4485万6000円であり、担保評価額は64億0139万9000円とされていた。内藤町物件の評価額は19億7996万4000円であり、日本リースの極度額243億2000万円の根抵当権が第1順位で設定されていたことから、日本リースから原告の請求により登記を抹消する旨の念書を徴求し、担保評価額を13億3859万7400円としていた。
b 日本リースは、平成6年3月31日、竜泉エステートに対し、幸和開発及び竜泉開発に対する貸付債権をいずれも簿価(元利合計54億7166万5975円)(元利合計112億0878万8837円)で各譲渡し、原告は、同日、竜泉エステートに対し、前記貸出枠に基づき、その買取資金166億9000万円を貸し付けた。
原告は、竜泉エステートを債務者とする上記各融資の担保として、ビルプロ所有の内藤町物件に極度額72億円の第2順位の抵当権を設定し、仮登記を経由した。日本リースは同物件について極度額243億2000万円の第1順位の根抵当権設定仮登記を経由していたが、原告から請求があり次第、同仮登記を抹消する旨の念書を原告に交付した。
日本リースは、ビルプロ及び同社の関連会社の共有である竜泉物件について極度額112億4000万円の根抵当権を設定していたが、日本リースは、平成6年3月31日竜泉エステートに同根抵当権の一部を譲渡し、その旨の登記を了した。さらに、竜泉エステートは、同日原告に同根抵当権の一部を譲渡したが、その旨の登記を経由しなかった。
その際、日本リースと竜泉エステートは、上記根抵当権につき、両者間では竜泉エステートが優先する旨の合意をし、また、原告と竜泉エステートは、上各根抵当権につき、両者間では原告が優先する旨の合意をした。
さらに、原告は、上記融資の担保として、竜泉エステートの間で、同社が上記のとおり日本リースから簿価で譲り受けた、幸和開発及び竜泉開発に対する債権の譲渡予約契約を締結した。また、日本リースは原告に対し、上記融資について竜泉エステートの債務履行が困難となった場合には、日本リースが竜泉エステートを支援し、原告には一切迷惑をかけないことを確約する経営指導念書を交付した。
上記融資の返済期限は同年4月28日であったが、同期限に弁済されず、その後期限が繰り返し更新された。なお、上記融資に基づく原告に対する支払金利については、日本リースが追い貸しすることとし、金利支払の延滞を起こさないこととされていた。
(甲C16号証、同19号証、同33号証の1及び2、同34号証の1ないし14、同35号証、同36号証、同37号証の1及び2、同38号証、同39号証の3、同43号証の3)
ケ 事業化に関する業務委託契約等
日本リースと受皿会社3社は、平成6年3月31日、共同して各プロジェクトの事業化を図り、受皿会社3社がその費用を負担する旨の基本協定書を締結し、さらに、日本リースとビルプロは、上記基本協定書中の事業化のための具体的な日本リースの業務について、日本リースが物件所有者であるビルプロに委託する旨の業務委託契約書を締結した。
(甲C44号証ないし同46号証)
コ 原告における本件融資〈1〉の実行後の対応
受皿会社3社に簿価で譲渡された債権については、原告の日本リースへの平成6年度損益支援計画の検討の中で、簿価譲渡債権(含む未収利息等)については原則譲渡後3年以内に本体に戻す方向で検討され、日本リースが買い戻した後、日本リースのビルプログループ向け債権を共同債権買取機構に持ち込むことが検討されたが、最終的にはビルプログループ向け債権は前記損益支援の中で処理されなかった。
また、原告は、営業企画部において、平成7年5月から同年6月ころ、前記簿価譲渡債権の買戻し等について検討したが、日本リースの債権買戻しはリストラ推進上のハンディとなり、また他行への説明ができないこと、担保物件を処分することは無担保部分の300億円が無担保債権となり、利息の追い貸しも困難なこと、また上記無担保部分の300億円の償却財源を確保することも困難なことなどが指摘されるにとどまり、結局そのままの状態とされた。
原告は、平成8年12月11日、特定債権対策委員会を開催し、本件融資〈1〉の今後の対応について審議した。
その際の検討資料によれば、本件融資〈1〉は緊急避難対策として日本リースから受皿会社への債権簿価譲渡による与信圧縮を実施したものであるが、その後の損益支援においても、原告の支援財源の制約及びさらなる地価下落により、緊急避難対策の見直しに至らず現在に至っていること、今後、有税引当あるいは間接償却や共同債権買取機構への持込み等の無税処理により対応することなどが記載され、また、日本リースから徴求していた経営指導念書については、最終処理に当たり同念書が制約になるおそれが強いとして、税務上及び背任等の問題を検討の上、念書を返還する必要があるなどとされていた。
その後、原告は、平成9年11月12日に、日本リースに対し、受皿会社3社に対する関係の経営指導念書3通を全て返還した。
(甲C39号証の1ないし3、同40号証、同45号証、甲B50号証)
サ 事業化に関するその後の経緯
平成7年10月には、ビルプロの金利減免と約定弁済の猶予等を内容とする2年間の再建計画が終了することとなったが、ビルプロの経営状態は好転せず、実質的経営破綻の状態が継続していた。そこで、原告は、第1次再建計画中に実施してきた資金支援はこれ以上継続しないこととしたが、原告及び日本リースいずれもがビルプログループに対する債権(原告1134億円、日本リース1570億円)を一括償却することは不可能であったことから、可能な限り先送りする方針を採り、ビルプロは平成7年11月以降引き続き2年間にわたり、原告及び日本リースに対する利払いは0.25パーセント、他行に対する利払いは0.5パーセントとする第2次再建計画に移行することとなった。
このようにビルプロは経営破綻の状況にあり、前記各事業プロジェクトはいずれも進展されないままであった。
すなわち、左門町物件についてはビルプロ所有の土地だけでは不整形であり、賃貸ビルを建築することができず、隣接地を買収する必要があったが、ビルプロの経営状態は破綻しており、融資を受けられない状態で、用地の買収資金を捻出することができなかったことから、事業化が行われることもなく、ヤマト運輸に配送センターとして賃貸されたのみであった。
銀座8丁目物件については、隣地所有者である出光興産と共同して賃貸ビルを開発することとされていたが、そもそも出光興産との共同開発の合意が締結されておらず、事業化が行われることはなく、また隣地が買収されることはなく、地形が不整形であることもあって、未利用状態のままであった。
竜泉物件については、隣地を買収して店舗兼住宅の賃貸ビル(地上18階)を建築するプロジェクトとなっていたが、その後も隣地が買収されることはなく、駐車場として暫定利用されていた。平成8年7月には、パチンコ業者とビルプロとの間で事業用定期借地権締結予約に向けた合意書が取り交わされていたが、パチンコ店の建築計画が近隣住民の反対にあい、パチンコ店建築の目処は立っていなかった。
また、内藤町物件についても、地上7階建ての賃貸ビルを建築するプロジェクトとなっており、地形は良好であったが、近隣住民対策が難航し、機械式二段駐車場として暫定利用がされただけであった。
(甲C45号証)
シ 本件融資〈1〉による未回収部分
本件融資〈1〉については、四谷プランニング向け融資のうち187億6673万3057円、木挽町開発向け融資のうち110億7648万0114円及び竜泉エステート向け融資のうち149億4186万7743円の合計額447億8508万0914円が未回収である。
(甲C43号証の1ないし3)
(2) 本件融資〈1〉の当否
ア 本件融資〈1〉の償還可能性
以上に認定した事実によれば、本件融資〈1〉は、もともと日本リースのビルプログループ向け融資を圧縮するためにビルプログループが保有する物件を受皿会社で引き取り、その資金を原告が受皿会社に融資し、これによりビルプログループが日本リースに対する債務を返済することを目的として計画されたものであるが、対象として予定していた物件の時価が約230億円と予想外に低額であり、目標としていた500億円の融資の圧縮には届かないため、担保物件の事業化計画を仮装して、これにより日本リースのビルプログループに対する担保付債権を受皿会社に簿価で譲り受けさせることとし、そのための資金として約470億円を受皿会社に融資したものであり、以下に指摘するとおり、融資の当初から、少なくとも物件の担保評価額である約150億円を超える約320億円については、償還可能性のないことが明らかな融資であったというべきである。
(ア) 受皿会社3社からの返済可能性
すなわち、受皿会社3社は、いずれもビルプログループが保有する物件の引取りを目的として設立された資本金額1000万円の会社であり、物件の管理以外に特段の業務を行うことを予定していない、いわばペーパーカンパニーであって、それ自体に返済能力のないものであった。
(イ) ビルプログループからの返済可能性
次に、原告は、本件融資〈1〉の保全措置として、受皿会社3社との間で、各社が簿価譲渡を受けた日本リースのビルプログループ向け債権について債権譲渡予約契約を締結してはいたが、ビルプログループは実質的に大幅な債務超過となり、金融機関から金利減免を受けていた状況にあり、原告においても同社の経営再建は困難との判断をしていたものであるから、ビルプログループに返済能力がないことも明らかであった。
(ウ) 日本リースからの返済可能性
さらに、本件融資〈1〉について、日本リースから経営指導念書が徴求されており、被告Y9は日本リースの実質保証が付された状態であることから、保全措置として十分であったと主張するが、そもそも日本リースが原告の支援を必要とするなどその信用力に問題があるのみならず、日本リースの保証ではなく経営指導念書の徴求という形態が採られたのは、保証の場合には、日本リースの取締役会における機関決定及び有価証券報告書への記載が必要となることから、他の金融機関の知れるところとなり、日本リースのビルプログループ向け融資の圧縮の趣旨に反するとの批判を受けるのを回避することを狙いとするものであり、他の金融機関との関係において保証を実行させることができない前提に立っていたのであるから、これをもって日本リースの実質的な保証とみることはできないというべきである。
(エ) 事業化計画の実現可能性
また、本件融資〈1〉の稟議書には、担保物件を対象とした事業化計画が添付され、日本リースと受皿会社との間で共同で事業化を図る旨の基本協定及び日本リースとビルプロとの間で事業化のための業務委託契約がそれぞれ締結されてはいるが、そもそも本件担保物件は昭和60年ころから日本リースとビルプログループとの間で事業化が試みられてきたが、用地買収や立ち退き交渉が難航し、事業化のめどが立たないまま凍結されていたものであり、稟議書に添付された事業化計画についても、プロジェクトの収支計算や不足資金の調達方法、融資の具体的返済計画、未収用地の取得の実現可能性等についての具体的検討を欠いた実現性に乏しいものであり、さらに事業化の業務を委託されたビルプロは既に述べたとおり、経営破綻状況にあり、プロジェクト遂行能力がなかったことなどからも明らかなとおり、稟議書に添付された事業化計画や前記の基本協定、業務委託契約はいずれも金融当局や税務当局に対して、本件融資〈1〉の償還可能性を装うためのカモフラージュにすぎず、事業化による返済は期待できないものであった。
イ 本件融資〈1〉の問題点
以上のとおり本件融資〈1〉は、受皿会社に明らかに時価を上回る簿価で債権の引取りをさせるための融資をするものであり、以下に指摘するとおり、健全な融資業務の在り方から著しく逸脱するものであるというべきである。
(ア) 手続違背
第一に、本件融資〈1〉は、担保評価額を超える約320億円については、融資対象から償還可能性のないことを前提に実行されたものであるが、その実質は、原告の損失負担により日本リースのビルプログループ向け債権を肩代わりするものであり、損益支援に当たるものと考えるべきである。しかるところ、多額の損益支援については、商法上重要な財産の処分に該当し、取締役会の決議が必要とされており、原告においても、当時1億円以上の損益支援を実施する場合、取締役会の付議事項とされており、通常の融資より慎重な意思決定が求められていたところ、本件融資〈1〉は、まさに融資という形態を採って与信専決権限を有する一人の取締役の決裁のみによって多額の損益支援を実行するものであり、本来の意思決定のルールを潜脱するものというべきである。しかも、本件融資〈1〉は、その後に計画された日本リースに対する損益支援においても、共同債権買取機構活用による損益支援の対象として検討の対象に上がりながら(甲B13号証、同C39号証の3)、結局は取締役会の決議を経てその対象とされることはなかったのであり、損益支援という観点からは事後的にも取締役会の承認が得られていないものである。
また、被告Y9は、本件融資〈1〉について業務運営委員会の組織決定を経ており、相当の手続を履践したと主張するが、同委員会はクレジットリミットを含む内外与信案件に係る重要事項を協議調整する機関であり、出席者も融資関連部署を担当する取締役に限られ、取締役会とは全く構成を異にすることから、これをもって意思決定のルールを履践したことにはならない。
(イ) 公共性違反
第二に、本件融資〈1〉は、融資の形態を採った実質損益支援であり、融資の時点で償還可能性のないことが明らかであることからして、当然に回収不能部分については不良債権として管理され、適切な償却・引当がなされるべきであり、また、国税当局から無税扱いの承認が得られていなかった以上、しかるべく税金の支払をすべきものであるにもかかわらず、これらの商法及び税法上の義務並びに金融当局による検査を回避するために、事業化計画、基本協定及び業務委託契約を仮装して、償還可能性を偽って実行されたものであり、銀行の公共性に反する融資であるというべきである。
(ウ) 稟議制度の没却
第三に、銀行においては、融資に当たって、各部署で重畳的に償還可能性を始めとする融資の当否をチェックする稟議システムが確立され、これが健全な業務遂行の基盤をなしているところ、本件融資〈1〉は稟議書にいわば虚偽の記載をし、償還可能性を偽り、しかもそのことを関係者が承知の上で稟議が行われたものであり、まさに自らの依拠するシステムの信頼を傷つけるものであったと評価せざるを得ない。
(3) 被告Y9の善管注意義務違反
ア 善管注意義務違反の内容
本件融資〈1〉は、以上に述べたとおり健全な銀行業務の在り方に照らし到底是認することができないものであり、それ自体として取締役に与えられた裁量を逸脱するものであって、他に適切な方法をとることが期待できないなどの特段の事情がない限り、経営判断の内容の合理性を問うまでもなく善管注意義務に違反するものというべきである。
イ 被告Y9の主張
この点について、被告Y9は、本件融資〈1〉は日本リースの破綻回避のために損益支援を実行するまでの間の緊急避難的な支援であり、事後的に損益支援の中で日本リースによる簿価譲渡債権の買戻し等により解消されることを予定していた暫定的なものであったと主張する。
しかるところ、既に認定した本件融資〈1〉の経緯によれば、日本リースは、準主力行に対して、ビルプロの経営悪化に際してビルプログループ向け融資の圧縮を約束していたこと、準主力行からの日本リースに対するビルプログループ向け融資の圧縮要請は、詰まるところ日本リースの母体行たる原告に対して、日本リースへの支援意思を明確にすることを求めるものであったこと、原告の日本リースに対する支援意思の明確化が平成6年3月末の日本リースに対する他の金融機関からの約定弁済の折り返しの確保のために必要であったことが認められるところではある。しかし、他方において、母体行責任のもとにおいて、既に述べたとおり(153頁のウ、173頁のエ)、親銀行が他の金融機関に対して支援の責任の分担を求めることは著しく困難な状況にあったとしても、親銀行が母体行責任を果たすことを明らかにする方法としては、種々の選択肢があり得たものと考えられるところ、本件融資〈1〉の当時、原告においても日本リースに対する損益支援の必要性が認識されつつあり、本件融資〈1〉と相前後してその検討が行われていたのであり、早晩本格的な損益支援を打ち出すことが想定される状況にあったことをも勘案すると、原告として日本リースに対する支援意思を明らかにし、他の金融機関からの折り返しを確保する方法としては、他に適切な選択肢がなかったものとは考え難い。
さらに、日本リースによる簿価譲渡債権の買戻しについては、他の金融機関からビルプログループ向け債権の圧縮を求められた経緯や日本リースの信用状態からして、必ずしも実現性のあるものであったとは認めることはできず、日本リースに対する損益支援において最終的な処理が予定されていたとの点についても、確かに損益支援の検討段階においては同支援の対象とされていたが、本件融資〈1〉は本件損益支援において結局最終的な処理に至らなかったのであるから、これをもって取締役としての責任を免れる事情となるものではない。
ウ 小括
以上によれば、本件融資〈1〉は、本来の融資の在り方から著しく逸脱した不相当なものであり、これを許容すべき特段の事情は認められないから、かかる事情を承知の上、本件融資〈1〉の実行に関与した被告Y9には善管注意義務違反があるものと認められる。
(4) 損害
本件融資〈1〉は、上記のとおり被告Y9の善管注意義務違反により実行されたものであって、これにより原告は少なくとも前記認定(197頁のシ)の未回収額である447億8508万0914円の損害を被ったものと認められる。
被告Y9は、本件融資〈1〉について、同融資金は日本リースに債権売却代金として支払われ、日本リースは、平成6年3月期において、同資金を原告からの既存融資に対する返済に充てており、本件融資金は原告に還流していることから原告には損害が発生していないと主張し、概ね主張に沿った資金の流れが認められるが(乙B10号証の1、乙C2号証の3ないし5、同3号証)、原告の日本リースに対する既存融資が、償還可能性のない無価値なものであったということを認めるに足りる証拠がない以上、損益相殺の主張は理由がない。また、被告Y9は、日本リースに対する融資が、日本リースの保証の下、受皿会社3社に付け替えられただけであり、与信状況に何らの変化がないと主張するが、前記のとおり(198頁の(ウ))、経営指導念書に直ちに保証の効力を認めることはできないこと、本来日本リースの全資産により担保されていた原告の融資が受皿会社3社に付け替えられることにより、償還可能性の極めて低い融資となった以上、与信状況には重大な変化を生じており、被告Y9の主張は採用できない。
(5) 結論
以上のとおり、被告Y9には本件融資〈1〉について善管注意義務違反があり、原告の請求額を超える損害が発生していることが認められるから、原告から損害賠償請求権の譲渡を受けた原告引受人の被告Y9に対する請求は理由がある。
4 争点3
(1) 本件融資〈2〉の経緯
証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 日本リースからの受皿会社に対する融資の肩代わりの依頼
前記のとおり(130頁の(イ))、平成8年2月22日に、Y4(当時頭取)及び被告Y7(当時常務)は日本リースのD副社長と面談し、日本リースに対する損益支援を前倒し実行し、終了することを打診した際に、D副社長から原告に対して、日本リースの受皿会社向け貸付けのうち400億円ないし500億円を肩代わりすることの依頼がなされた。
イ 平成8年2月23日開催の常務役員連絡会における検討
原告は、前記のとおり(131頁の(ウ))、平成8年2月23日開催の常務役員連絡会議において、平成8年3月期の日本リースに対する損益支援について検討をしたが、その際、日本リースから要望のあった営業貸付金の肩代わりのための400億円の融資について、受皿会社保有不動産を路線価で評価し、その範囲内で実行し、不足分は従来同様日本リースによる資金貸付けとすること、事業化の早期着手により「飛ばしイメージ」を払拭すること、実行は極力大蔵省検査後とすることを検討課題としていた。
(甲D2号証)
ウ 原告営業第6部の平成8年2月時点における検討
原告営業第6部は、日本リースからの受皿会社向け営業貸付金の肩代わりについて、要望額である400億円のうち200億円を平成8年度に実行することとして、その方法について検討を行っていた。
原告営業第6部作成の平成8年2月28日付け「日本リース事業会社資金貸付けについて」によれば、日本リースの受皿会社のうち、事業化計画策定可能な物件を保有する箱崎シティ開発及び博多総合開発に対する営業貸付金を肩代わりの対象とし、原告が日本リースグループが出資する黒字のファイナンス事業会社であるフィットニア商事に事業資金を融資し、フィットニア商事が箱崎シティ開発及び博多総合開発に対して融資し、これにより日本リースの箱崎シティ開発及び博多総合開発に対する貸付金の返済が行われる形をとることにより「赤字会社向け融資」を回避すること、3年後に竣工し追加投資額を全て日本リースから調達する前提に立って、保有コストを10年間平均で0.24パーセント、金利を10年間平均で2.4パーセントとし、そのコスト合計2.64パーセントに若干の減価償却費を考慮し持ち出しにならないように事業化後の収益還元価格を3パーセントとした上、還元利回り3パーセントを根拠に算出された評価額(198億円)の範囲内で融資し、担保割れ融資となることを回避すること、貸出金額は法定監査を回避するため200億円未満とする等の検討が行われていた。
(甲D4号証)
エ 平成8年10月8日開催の特定債権対策委員会における検討
原告は、平成8年10月8日開催の特定債権対策委員会において、日本リースの現状、当面の課題及び対応方針について審議し原案を了承したが、その中で、日本リースの受皿会社向け貸付金400億円の肩代わりについて、支援終了時に計画に盛り込まれていたもので、主要金融機関には説明済みであり、大手金融機関の中には受皿会社向け大口貸付金が多数残っていることに懸念を抱いている先が多いことから、日本リースからの肩代わりについて要請が強いとして、平成8年度下期に200億円程度を実施する方向で検討すること、その対象は現在事業化を検討している物件の中から選び、金額は説明の付く範囲内で、担保は収益還元価格をベースとした不動産担保、貸付債権担保及び日本リースの保証予約とし、融資先は黒字の受皿会社を経由し、残額200億円は日本リースによる自助努力をみて検討することとされていた。
また、同会議資料には、受皿会社保有物件のうち、「面積矮小、地上げ頓挫、戸建住宅用地等の物件(簿価200億円強)は原則売却方針で臨み、売却収入は事業化追加投資資金に充当」するとの方針の下で、博多総合開発の保有する博多駅前物件は売却方針決定案件として分類され、同物件の平成8年3月期の簿価は44億6000万円、時価は7億1500万円、含み損は37億4500万円であり、収益賃料の見込額は1400万円で、収益還元価格は2億8000万円(5パーセントの収益還元率による。)であるとされていた。また、箱崎シティ開発が保有する蛎殼町物件は、「事業化検討中の案件」とされ、簿価は180億5500万円、時価は39億7400万円、含み損は140億8100万円であり、事業化には28億8200万円の追加投資が必要で、その場合に5億5100万円の賃料収入が見込まれ、収益還元価格は110億2000万円(5パーセントの収益還元率による。)であるとされていた。
(甲D3号証の1ないし3)
オ 日本リースの受皿会社向け貸付金200億円の肩代わり方法の決定
原告の営業第6部及び事業推進部は、平成9年3月24日付けで、日本リースグループ事業会社向け融資の実行について」と題する書面を作成し、そのころ被告Y7に説明し、その了解を得た。これによれば、貸付業務を行う受皿会社のうち、黒字を維持するフィットニア商事に195億円の融資を行い、同社は受皿会社である箱崎シティ開発及び博多総合開発の2社に融資をした上で、見合資金を日本リースが回収すること、担保は、箱崎シティ開発が所有する蛎殼町物件及び博多総合開発の所有する博多駅前物件を収益還還元法で220億円と評価し、これにフィットニア商事が設定する根抵当権の譲渡を受けるとともに、フィットニア商事の受皿会社2社に対する貸付債権の譲渡予約を徴求することとしており、日本リースが、受皿会社2社に利息支払資金を供給することとされていた。
(甲D5号証)
カ 本件融資〈2〉の稟議及び同融資の実行
(ア) フィットニア商事に対する専決極度の設定及びこれに係る稟議
原告は、営業企画グループ担当役員である被告Y7の決裁により、平成9年3月26日、フィットニア商事に対して、195億円の専決極度貸出枠を設定した。
この稟議書には、上記融資が日本リースグループの不動産受皿会社である箱崎シティ開発及び博多総合開発向けの日本リースの事業化資金融資のバックファイナンスを行うもので、箱崎シティ開発への融資額は155億円、博多総合開発への融資額は40億円であること、当該事業化予定物件は、それぞれ初年度ネット利回り2.7パーセント、3.1パーセントを見込む優良物件であること、本件の担保としてフィットニア商事の箱崎シティ開発の事業化対象物件である蛎殼町物件及び博多総合開発の事業化物件である博多駅前物件に設定している根抵当権の全部譲渡を受け、フィットニア商事の箱崎シティ開発及び博多総合開発に対する営業貸付金債権の譲渡予約を実行すること、物件の担保評価は、いずれも優良事業化物件であるため、いずれも収益還元法(還元利回り3パーセント)にて評価することとし、蛎殼町物件については174億5800万円、博多駅前物件については46億2400万円とすることとされていた。なお、原告においては、収益物件の担保評価においては、通常5パーセントから6パーセントの還元利回りを用いることとされていた。
そして、各事業化計画の内容については、蛎殼町物件の事業化計画は、平成12年2月完成予定で地上9階地下1階のオフィスビルを建設し、賃貸業を営むというもので、投資額総額は254億1600万円であり、その内訳は、土地取得費用199億4100万円(既支出)の外、建物建設資金20億1100万円、追加買収分18億5500万円、金利20億6700万円、諸税諸経費2億1000万円、敷金保証金6億6800万円の合計額である追加投資額54億7500万円とし、年間賃料は6億8800万円(3年ごとに5パーセント上昇を見込む。)であり、初年度の利回りは、2.7パーセントであるとされていた。
さらに、博多駅前物件の事業化計画は、平成11年10月完成予定の10階建てのビジネスホテルを建設し、同ホテルを賃貸する業務を営むというもので、投資額総額は57億0300万円の外、その内訳は、土地取得費用44億6000万円(既支出)であり、建物建設資金9億7500万円、金利3億8000万円、諸税諸経費6100万円、敷金保証金1億7300万円の合計額である追加投資額12億4300万円とし、年間賃料は1億7600万円(3年ごとに5パーセント上昇を見込む。)であり、初年度の利回りは3.1パーセントであるとされていた。
なお、フィットニア商事は、平成4年1月に設立された、資本金1000万円の日本リースグループのファイナンス事業会社であり、平成8年3月期の当期純利益は約500万円の黒字を計上していたが、日本リース及びライフからの借入金を他に貸し付けて、その金利収入を得ているにすぎず、平成9年3月時点では貸付金の完済により営業資産を保有していなかった。
(甲D6号証、同12号証ないし同15号証)
(イ) 本件融資〈2〉の実行
原告は、平成9年3月31日、前記のとおり、被告Y7の決裁により承認された195億円の貸出枠に基づき、フィットニア商事に対し、金利は「当行ユーロ金利+0.25パーセント」、返済期限平成9年4月30日として、貸付金195億円を融資した。
上記融資の使途は、蛎殼町物件及び博多駅前物件の各事業化の資金とされ、その内訳は箱崎シティ開発宛て155億円、博多総合開発宛て40億円であった。フィットニア商事から融資を受けた箱崎シティ開発及び博多総合開発は、同日に、日本リースに借入金を返済した。
上記融資の担保として、原告は、フィットニア商事が蛎殼町物件及び博多駅前物件に設定した第1順位の根抵当権全部を譲り受け、その旨の仮登記を経由した。また、原告は、フィットニア商事との間で、同社の箱崎シティ開発及び博多総合開発に対する貸金債権について債権譲渡予約を締結した。
(甲D8号証、同9号証ないし同11号証)
キ 事業化に関するその後の経緯
蛎殼町物件及び博多駅前物件については、前記(161頁のウ)のとおり平成10年4月20日に、原告経営陣と日本リース経営陣との間で開催された経営問題協議会において、日本リース側から、事業化未済案件として将来処分して行かざるを得ず、その際に損失が出る旨説明されており、特に蛎殼町物件については、Y4頭取が、事業化の可能性について確認したところ、日本リースの副社長であったY9から、事業化は無理であるとの回答がなされたものであり、原告について特別公的管理が開始された平成10年10月23日まで事業化計画は実行されないままであった。
(甲B50号証)
ク 本件融資〈2〉の帰趨
本件融資〈2〉については、フィットニア商事から原告に対する元金の返済がなされないまま原告について特別公的管理が開始され、その後原告から本件融資〈2〉を譲り受けた原告引受人が、平成12年11月に蛎殼町物件は11億6000万円、博多駅前物件は1億6900万円で担保付債権として第三者に売却した。
(甲D7号証、同8号証)
(2) 本件融資〈2〉の当否
ア 本件融資〈2〉の償還可能性
以上のとおり、本件融資〈2〉は原告が日本リースの受皿会社向け貸付けを肩代わりする目的で実行されたものであるが、以下に述べるとおり、担保となるべき物件の評価が融資額を著しく下回るために、見せかけの事業化計画を作成し、収益還元法により物件価格を著しく嵩上げした上で実行されたものであり、融資の実行時点において、その大部分について償還の可能性のないことが明らかな融資であったと認められる。
(ア) フィットニア商事からの返済可能性
まず、フィットニア商事は、日本リースグループの資本金1000万円のファイナンス事業会社であり、日本リースからの借入金をグループの他の会社に貸し出し、わずかな利ざやを稼ぐトンネル会社であって、本件融資〈2〉の時点では貸付金を完済し、営業資産を有しておらず、また、そもそもフィットニア商事が本件の融資先となったのは、原告から赤字会社である箱崎シティ開発及び博多総合開発への直接の融資を避けるために黒字を維持していた同社を形式的に介在させたにすぎないのであるから、それ自体として返済能力のないことは明らかである。
(イ) 箱崎シティ開発及び博多総合開発からの返済可能性
フィットニア商事から融資を受けた箱崎シティ開発及び博多総合開発の返済能力についても、それぞれ保有する蛎殼町物件及び博多駅前物件が大幅な含み損を抱え、日本リースから利息の追い貸しを受けている状態であり、これらの2社の実態は物件を管理保有するだけのペーパーカンパニーであって、それ自体に返済能力はなかった。
(ウ) 事業化計画の実現可能性
本件融資〈2〉の稟議書には、蛎殼町物件及び博多駅前物件については、事業化計画が記載され、これに基づき収益還元法により、担保評価がなされているが、以下述べるとおり、事業化計画は仮装のものにすぎず、実現可能性のないものであり、これに基づく担保評価も著しく不当なものであった。
すなわち、まず蛎殼町物件については平成8年10月の特定債権対策委員会においても、事業化検討案件とされていたが、本件融資〈2〉の稟議書に記載された賃貸オフィスビルの事業化計画は、プロジェクトの収益見通し、追加投資額54億7500万円の調達方法、買収未了地の買取りの可能性、プロジェクトの実施主体、融資の返済計画等について、何らの具体的検討をも伴わない現実性の乏しいものであるといわざるを得ない。
また、博多駅前物件については、上記特定債権対策委員会においては、面積矮小、地上げ頓挫、戸建て住宅用地は原則として売却する方針の下で、売却方針決定案件とされていたにもかかわらず、特段の事情もないのに、事業化に方針変更されたものであり、稟議書記載のビジネスホテルの事業化計画は、ホテルとしての収益性、追加投資額12億4300万円の調達方法、プロジェクトの実施主体、融資の返済計画について、何らの具体的な検討もなされていないものであった。
そして、いずれの物件も上記のとおり平成10年4月時点で事業化計画は実行の着手すらされておらず、日本リースの経営陣も事業化は無理であり、将来的に含み損を負担して売却するしかないとの認識を有していたものである。
加えて、証拠(甲B50号証、同51号証)によれば、被告Y7は、平成7年8月ころ、平成8年度に大蔵省検査が行われることを想定して事業推進部のK参事役が中心となって実施した、原告及び関連・親密先の資産査定の分類予測の結果について、K参事役から、そのままの状態で大蔵省検査を受けると、III分類、IV分類債権が大幅に積み上がる見込みであるとの報告を受け、K参事役に対し、III分類資産及びIV分類資産の査定回避やその額の圧縮のため、事業化計画を示してキャッシュフローの状態を説明することにより、収益の挙げられない資産つまり「死に体」認定を回避するとともに、収益還元法による担保評価で分類額を圧縮するよう述べて、大蔵省検査対策の基本的な方針を指示し、さらに、平成8年3月ころ、K参事役から、日本リースの関係する受皿会社について、IV分類資産であるとの査定を回避するため、事業化の実現可能性が乏しい物件についても、事業化を行うと可能な限り説明して、IV分類資産との査定を回避する旨の説明を受け、これを了承した事実が認められる。
そして、以上の事実を総合すると、本件融資〈2〉の稟議書に添付された事業化計画は実現することを予定していない仮装のものであったと認められる。
この点について、被告Y7は、事業化計画は実現可能性があるものであったと主張して、証拠(乙D1号証ないし同4号証)によれば、本件各物件上に賃貸マンションが建設されている事実が認められる。しかしながら、これは、原告が特別公的管理を受けた後、両物件を担保不動産とする債権を譲り受けた原告引受人が、平成12年11月に、蛎殼町物件は11億6600万円、博多駅前物件は1億6900万円で第三者に担保付債権として売却し、さらにこれが売却されて、この売却価格を前提に、新たな事業化計画による事業化が進められているのであって、また、事業化の内容はいずれの物件についても賃貸マンションとしてであり、本件融資〈2〉の稟議書に記載されていた事業化計画とは全く異なるものであることから、かかる事実をもって前記の認定を左右するものでないというべきである。
(エ) 本件各物件の評価
次に、本件各物件の担保評価についてみるに、蛎殼町物件については、平成8年11月時点における路線価が22億4100万円であり、同年10月の特定債権対策委員会の資料によれば、平成8年3月期の時価は39億7400万円であるとされていたのに対して、上記の事業化計画における賃料収入を前提に、原告において、通常用いられる5パーセントから3.6パーセントの還元利回りではなく、3パーセントの還元利回りを用いて収益還元法により、174億5800万円の担保評価がなされている。博多駅前物件についても、平成8年11月時点の路線価が6億3300万円であり、前記特定債権対策委員会の資料においては、同年3月時点の時価が7億1500万円とされていたにもかかわらず、担保評価は同様に収益還元法により46億2400万円とされている。
しかるに、前記のとおり、事業化計画は現実のものではない以上、これを前提にした担保評価は不当であり、路線価との対比においても本件においては、時価を著しく上回る担保評価がなされているものと認められる。
(オ) 小括
以上のとおり、本件融資〈2〉は、物件の事業化を予定しない以上、少なくとも前記の平成8年3月期の時価とされた蛎殼町物件の39億7400万円、博多駅前物件の7億1500万円の合計46億8900万円を超える約148億円については、融資の実行の当初から償還可能性のないことが明らかな融資であったと認められる。
イ 本件融資〈2〉の問題点
本件融資〈2〉は、既に述べたとおり、日本リースの受皿会社向けの不良債権を肩代わるために、トンネル会社を介在させた上、担保物件について事業化計画を仮装し、収益還元法により時価を著しく上回る担保評価を行うことによりその償還可能性を偽って実行されたものであり、融資の実行時点において、その大部分について償還可能性のないことが明らかな融資であるところ、〈1〉その実質は日本リースに対する損益支援にほかならず、その実行のためには取締役会の承認が必要であるにもかかわらず、融資の形態を採ることにより意思決定のルールを潜脱していること、〈2〉当初から償還可能性のない不良債権として適切な債権管理等が行われるべきであるにもかかわらず、架空の事業化計画を作出し償還可能性を装うことにより金融当局や税務当局のチェック等を免れることを意図して実行されていること、〈3〉稟議書に虚偽の記載をし、関係者がそれを承知の上で棄議を行うなど銀行の業務の基盤たる稟議システムの信頼性を自ら崩すこととなるものであることなどの点において、健全な銀行業務の在り方に照らし、到底是認し難いものであったというべきである。
(3) 被告Y7の善管注意義務違反
ア 善管注意義務違反の内容
本件融資〈2〉は、以上のとおり、健全な銀行業務の在り方から是認できないものであり、被告Y7は、その問題点を知悉した上で、本件融資〈2〉を決裁し、実行させたものであるから、他に適切な方法をとることが期待できないなどの特段の事情がない限り、経営判断の内容の合理性を問うまでもなく、善管注意義務に違反するものというべきである。
イ 被告Y7の主張
被告Y7は、以下のとおり、善管注意義務違反がない旨を主張するが、いずれも採用できない。
(ア) 被告Y7は、本件融資〈2〉は、日本リースに対する損益支援の決定の際にも検討課題とされており、常務役員連絡会及び特定債権対策委員会においても承認を受けていたものであり、相当な手続を履践して実行されたと主張する。
しかしながら、本件損益支援に係る取締役会に際して、本件融資〈2〉はあくまで検討課題とされたに止まり、かつ、本件のような実質損益支援のスキームを前提に検討課題とされていたものでもない。また、常務役員連絡会及び特定債権対策委員会の承認は、取締役会の決定に代替するものではなく、さらに常務役員連絡会において承認された内容は、物件の路線価の範囲内での通常の肩代わり融資であって、本件融資〈2〉のように物件の時価を著しく上回る肩代わり融資を承認したものではない。
(イ) 次に、被告Y7は、本件融資〈2〉が日本リースの信用を維持し、他の金融機関からの折り返しを確保するために必要であった旨主張するところ、日本リースの受皿会社向け融資の肩代わりは日本リースに対する損益支援終了時に検討課題とされており、主要金融機関に説明済みであったことが認められる。しかし、母体行責任のもとにおいても、親銀行が自らの責任を実行する場合には種々の選択肢が考えられるところ、特に既に述べたとおり(161頁のウ)、本件損益支援は日本リースの再建策としては必ずしも十分ではなく、情勢の変化等により原告からの追加的な支援が必要となることが見込まれていたにもかかわらず、当初予定されていた路線価による物件引取り、国税当局から承認を得ていた無税扱いの残枠の活用、本件損益支援において検討課題とされていた日本リースに対する増資引受け、その他折り返し融資に関する他の金融機関との直接交渉等を含めて、日本リースに対する支援意思を明らかにし、他の金融機関からの折り返し融資を確保するためのあらゆる方策について真摯な分析・検討が行われたとはいい難い。そして、このような事情を勘案するならば、本件において、他の適切な方法を取り得ない特段の事情があったことを認めるに足りる証拠はないから、被告Y7の主張は採用できない。
(ウ) また、被告Y7は、本件融資〈2〉の時点において、日本リースは自転可能な体制を整えており、日本リースの資金繰りからの返済も可能であったと主張するが、日本リースは本件融資〈2〉について法的な債務を負担するものではなく、かつ本件融資〈2〉の実行時点において日本リースが本来負担する債務以外についてまで、その資金繰りの中から返済を行えるという具体的な見通しがあったわけではないから、被告Y7の主張は採用できない。
(4) 損害
本件融資〈2〉は、実行時点において少なくとも担保物件の評価を超える約148億円については償還可能性のない融資であり、元金の返済のないまま原告から本件融資〈2〉を譲り受けた原告引受人が平成12年11月に第三者に売却した価額が13億2900万円にすぎなかったことからしても、本件融資〈2〉により、原告は少なくとも本件訴訟で請求している3億円を超える損害を被ったことは明らかである。
(5) 結論
以上によれば、被告Y7には本件融資〈2〉について善管注意義務違反があり、原告の請求額を超える損害が発生したと認められるから、原告から損害賠償請求権の譲渡を受けた原告引受人の被告Y7に対する請求は理由がある。
5 争点4
(1) 本件融資〈3〉の経緯
証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告とランディックとの関係
ランディックは、昭和49年12月に設立され、前身である日本ランドシステム株式会社(旧商号長銀不動産株式会社)から不動産業務を承継し、ビルの賃貸、マンション・住宅の分譲、不動産担保融資、不動産仲介及び不動産鑑定等を行う総合不動産業者として事業を展開してきた。
ランディックは資本のうち95パーセントを原告グループが有し、経営陣も歴代社長を始め役員のほとんどは原告の出身者が占めており、原告の内部においても、関連先と呼ばれ、原告のグループ企業と位置づけられていた。
(甲B2号証、甲E1号証の2、同2号証の2、同5号証)
イ ランディックの業容の拡大
ランディックは、昭和62年11月に第1次長期経営計画を策定し、賃貸ビル事業に本格的に参入することを決定し、併せて採算化に長期間を要する賃貸ビル事業の負担軽減を図るために不動産担保融資事業にも参入した。さらに、ランディックは、本体の投資コストを軽減するため、グループ会社においてもビル賃貸事業を行うとともに、ファイナンス会社を設立して、融資事業にも参入した。ランディックは、バブル期において、賃貸ビル事業及び融資事業ともに順調に業績を伸ばし、とりわけ融資事業の分野で賃貸ビル事業の負担を吸収する形で高収益を上げていた。
ランディックは、平成元年3月期においては、総資産4868億円(うち貸付金合計2132億円)、借入金合計4626億円(うち原告954億円)であったものが、平成3年3月期には、総資産8138億円(うち貸付金合計4274億円)、借入金合計7585億円(うち原告863億円)になるなど、2年間で、資産面では、貸付金が2142億円、不動産が1446億円増大し、これに伴い借入金は他行からの借入を中心に2959億円増加するなど急激に営業規模を拡大させていった。
(甲E1号証の2、同2号証の2)
ウ ランディックの業績の悪化
しかしながら、バブル経済の崩壊により、ランディックは、膨張した営業貸付金が不良債権化するなどして急激に収益が悪化し、ビルの売却による益出し等により表面上は黒字決算を維持していたが、実態は平成3年3月期以降連続して赤字であり、特に平成4年3月期からは実質的に大幅な赤字収支を余儀なくされるに至った。また、ランディックのグループ企業についても、同様な事情に加えて、ランディック本体の決算対策のため、ランディック本体から益出し物件を取得した結果、ランディックのグループ企業は、表面上も大幅な赤字決算となっていた。このようなランディックのグループ企業には、ランディック本体の不良債権の簿価譲渡先である受皿会社、ファイナンス部門の子会社である芝中央ファイナンス株式会社(以下「芝中央ファイナンス」という。)、不動産関連会社として伸栄開発株式会社(以下「伸栄開発」という。)、株式会社ランディックビルディング(以下「ランディックビルディング」という。)等4社があった(以下ランディック本体及びグループ子会社を併せて「ランディックグループ」と総称する。)。
すなわち、平成3年3月期は、ランディック本体において、表面上6億円の黒字とされていたが、実態は11億円の赤字であり、さらにランディックグループでは実態として55億円の赤字であり、平成4年3月期において、ランディック本体は、表面上4億円の黒字であるが、実態は75億円の赤字、ランディックグループ全体では、実態として132億円の赤字であり、平成5年3月期において、本体は表面上4億円の黒字であるが、実態は115億円の赤字、ランディックグループ全体では、実態として212億円の赤字、平成6年3月期においても、本体は表面上4億円の黒字であるが、実態は148億円の赤字であり、ランディックグループ全体として、その実態は254億円の赤字となっていた。さらに、平成7年3月期において、実態ベースでランディック本体で92億円の赤字、ランディックグループ全体で324億円の赤字が見込まれる状況であった。
他方、ランディックグループ全体の資産状況も、平成6年3月期には、賃貸用不動産に294億円の含み益があったものの、営業貸付金3014億円のうち96パーセントに当たる2905億円が延滞債権となり、60パーセントに当たる1800億円が回収不能見込額(含み損額)であり、さらに販売用不動産で385億円、海外現地法人関連で195億円、有価証券で189億円等の含み損が生じており、グループ全体では、総資産1兆1026億円のうち、2275億円の含み損を抱える状態となっていた。
この間、原告は、ランディック本体に対する貸出を増大させており、平成5年3月における借入金残高の合計額は8592億円のうち、原告からの借入金残高は1528億円であり、平成6年12月における借入金残高の合計額8236億円のうち、原告からの借入金残高は1954億円であった。
(甲E1号証の2、同2号証の2)
エ 平成7年3月の経営会議による支援方針決定
原告は、平成7年3月17日、経営会議において、被告Y1(当時会長)、被告Y3(当時頭取)、被告Y4(当時副頭取)、被告Y7、被告Y6及び被告Y2(以上いずれも当時常務取締役)の出席のもと、ランディックに対する支援方針を決定した。
(ア) 支援の必要性
支援の必要性については、経営会議の資料によれば、「不動産市況の低迷及び収益資産の益出しによる不動産部門の収益の悪化に加え営業貸付金の不稼働化による負担が重く、実態はランディック本体で年間150億円、ランディックグループ全体で年間250億円の赤字を余儀なくされている。保有ビルの益出しによる決算対策を続けた場合、収益性のある保有ビルの減少により不動産会社としての再建が不可能となるばかりではなく、収益性の悪化から会社としての再建も困難となり、信用不安が一気に顕在化するおそれがある。したがって、ランディックを実態のある不動産会社として再建するにはコアとなる優良不動産を維持しつつ、使い得る含み益を活用して再建せざるを得ない。このためには原告としても、この過程でランディックの信用問題の顕在化を防ぐ意味から支援の明確化を含め総合的対策を早急に打ち出す必要がある。ランディックの設立経緯、役員・株主構成、借入状況等からランディックの信用不安を放置した場合、原告の信用に多大な影響が出るおそれがある。原告グループの不動産業の中核であり、今後の原告を含むグループ不稼働資産の活性化にはランディックの持つ不動産ノウハウが不可欠であり、ランディックの不動産会社としての再建が必要である。」とされていた。
(イ) 支援の方針
支援方針は、ランディック本体の黒字の維持及び不稼働の営業貸付金の処理を目的とするものであり、資金支援、損益支援及び物件引取支援からなるものであった。
まず、資金支援として、原告の支援姿勢を明確にし、ランディツク本体の貸付資産の圧縮を図るため、原告が、ランディックの芝中央ファイナンスに対する貸付金814億円を肩代わりを行うこととし、芝中央ファイナンスに対して814億円を融資し、同社はこの資金をランディックに対する借入金の返済にあて、ランディックは、その資金をもとに他行からの高利の借入金の返済を行い、金利コストの削減を図ることとれた。
次に、損益支援としては、支援の対象を不動産関連会社を含めたランディックグループ全体とすると10年間で3500億円の支援が必要であるが、ランディック本体、受皿会社及び芝中央ファイナンスの営業貸付金を中心とした不稼働資産とし、10年間で2100億円の債権放棄等の支援を実施することとされた。ただし、当面3年ないし4年間はランディックの含み益の活用を中心とし、原告の損益支援は50億円ないし100億円程度に抑えることとされた。損益支援については、国税当局から無税扱いについての事前了承を受ける必要があることから、方針決定後平成7年度中に国税当局と折衝することとされた。
さらに、不動産の引取りによる支援として、当初の決算対策及びキャリングコストの削減のために、ランディックグループが所有あるいは担保として徴求している不動産のうち、稼働物件(賃貸ビル)は新橋総合開発に、開発用不動産のうち開発に時間を要するものは神谷町土地建物に、それぞれ引き取らせ、原告が買取資金を融資することとし、その規模は、5年間で新橋総合開発に970億円(ランディックの益出し額366億円)、神谷町土地建物に160億円とすることとされた。
なお、ランディックの自助努力として、原告の支援の効果が発揮できる体制を構築するため、経営改善委員会を設置することとし、不動産本業の収益力向上及び金融費用の削減等の基礎収益力の具体的向上策の検討、経費削減策や合理化策の検討、原告及び原告グループノンバンクの不稼働資産処理への積極的関与などが課題とされた。
(ウ) 財務・収益状況のシミュレーション
上記の支援のシミュレーションとして、財務状況については、平成7年3月時点のランディックグループの営業貸付金のうち延滞債権額は2890億円で、このうち回収不能見込額は1734億円であり、これにキャリングコストと不動産含み益を勘案したネット(正味)の含み損益は1968億円の損失であったのが、支援終了時の平成16年3月時点では延滞債権額はゼロとなり、ネットの含み損益も196億円の損失まで改善され、収益見込みについては、10年後の平成16年3月時点でランディック本体の実態収益は黒字に転じ、自転が可能になる計画となっていた。
しかし、支援の対象とされない不動産関連会社には、10年後には1610億円の繰越欠損(キャリングコスト)が残存するものとされていた。また、上記シミュレーションは、いずれも地価上昇率を3パーセントと見込んだものであった。
(甲E1号証の1及び2)
オ 神谷町土地建物
原告は、平成3年12月以降、不稼働不動産対策として不動産買取のための受皿会社を利用していたが、神谷町土地建物は、このような受皿会社の一つとして設立された。
すなわち、原告は、当初は、ランディックの不良資産の受皿会社として設立されたエル都市開発株式会社を担保不動産の集中保有会社として、原告や原告の関連・親密先の不動産を移管させたが、その後、平成5年5月の常務会においてより積極的に受皿会社を活用するとの方針を決定し、平成6年2月に新たな不動産買収専門の受皿会社として日比谷総合開発を設立した。
また、原告は、平成7年1月11日、原告グループ各社の不動産保有管理態勢の整備を図るため、被告Y3の決裁により、新たな受皿会社として有楽町総合開発、新橋総合開発、神谷町土地建物及び虎ノ門土地建物株式会社を設立することを決定し、平成7年1月に有楽町総合開発及び新橋総合開発が、同年3月に軽井沢総合開発株式会社が、同年4月に神谷町土地建物が、それぞれ設立された。
神谷町土地建物は、当初の本店所在地は東京都板橋区東新町2丁目であったが、平成7年11月に新橋総合開発の本店所在地であった東京都港区〈以下省略〉ランディック第3新橋ビルに移転した。
神谷町土地建物の資本金は2000万円であり、その株主は日比谷総合開発(40パーセント)、有楽町総合開発(30パーセント)及び新橋総合開発(30パーセント)の3社であった。
神谷町土地建物の役員構成は、すべて非常勤であって、日比谷総合開発の役職員がこれを兼務し、代表取締役が日比谷総合開発の常務取締役、他の2名も日比谷総合開発の営業部長又は営業部次長であって、それ以外に従業員は存在しなかった。
神谷町土地建物は、本件3物件を取得しこれを管理していたが、特に他の事業等を営んでいなかった。
(甲E13号証ないし同17号証)
カ 本件3物件の鑑定評価
神谷町土地建物の引取対象とされた本件3物件については、以下のとおり、神谷町土地建物の依頼を受けた不動産鑑定士による鑑定評価が実施された。
(ア) 児玉物件の評価
ランディックが所有する児玉物件の評価は、以下のとおりである。
まず、取引比較事例に基づき、5つの取引事例を参照して、時点修正を施して定められた比準価格は、1平方メートル当たり4万6600円から5万0900円であった。
そこで、1平方メートル当たり標準価格は4万8000円と定められ、これに個別修正の0.69を乗じた価格3万3120円が、同物件の1平方メートル当たりの価格とされた。この1平方メートル当たり3万3120円に対象地積1939.7平方メートルを乗じて、児玉物件の価格は6420万円と評価された。
なお、埼玉県地価調査規準地価格を規準とした価格は、埼玉県児玉郡所在の物件について、平成6年7月1日時点において、1平方メートル当たり5万5400円であり、これを規準価格として、児玉物件の規準価格を求めた場合、時点修正や地域格差を考慮し、上記個別修正(0.69)を乗じて算定された価格は、1平方メートル当たり3万0400円であった。
また、参考として、収益還元価格は、1平方メートル当たり2万4400円と算定されていた。
(甲E26号証)
(イ) 軽井沢物件の評価
ランディックが所有する軽井沢物件の評価は、以下のとおりである。
まず、取引比較事例に基づき、4つの取引事例により査定された標準価格は、1平方メートル当たり12万4000円から12万6000円の範囲であり、これに基づき標準地の比準価格は12万5000円と試算された。
なお、県基準地の価格により規準価格は10万6000円と判定され、比準価格と規準価格はほぼ均衡を得ているとの判断から、対象標準地の価格は12万5000円とされた上で、対象地の個別修正等をして、1平方メートル当たり12万1000円と試算した。この12万1000円に対象地積2720平方メートルを乗じて、軽井沢物件の価格は、2億7500万円と評価された。
(甲E27号証)
(ウ) 福山物件の評価
ランディックが2分の1の持分を所有する福山物件の評価は、以下のとおりである。
まず、取引比較事例に基づく比準価格を標準として、4つの取引事例に基づき、試算された比準価格は、1平方メートル当たり815円から857円であり、これを基礎に対象地の標準価格は1平方メートル当たり830円と算定された。
この1平方メートル当たり830円という価格に格差修正(ただし100パーセント)を施し、福山物件の地積53万4346平方メートルを乗じて、さらにランディックの共有持分である2分の1を乗じて、福山物件の価格は2億2200万円と評価された。
(甲E28号証)
キ 本件融資〈3〉の稟議及び実行
原告は、平成7年6月12日、営業企画グループ担当役員である被告Y6の決裁により、神谷町土地建物に対して、使途を短期運転資金として、10億円の専決極度枠を設定した。
さらに、原告は、同月14日、被告Y6の決裁により、神谷町土地建物に係る与信及び準与信に関しては進達手順の例外として審査部に申請書等の回付を行わない取扱いとすることを決めたが、その回議書には、神谷町土地建物は原告グループのノンバンクのリストラの一環として各社の保有不動産及び担保不動産を引き取る目的で設立されたものであり、引取資金について原告及びノンバンクからの調達を原則とし、個別の案件審査になじまないことから、審査部への申請書の回付を行わないものとすると記載されていた。被告Y7は、この稟議書を承認し、決裁権者である被告Y6に回付した。
原告は、上記専決極度枠の実行として、神谷町土地建物に対して、平成7年6月19日に児玉物件の買取資金として6000万円、同年7月6日に軽井沢物件の買取資金として2億7000万円、同年9月5日に福山物件の買取資金等として2億3500万円の合計5億6500万円を貸し付けた(本件融資〈3〉)。
上記融資に係る営業部店の意見として、神谷町土地建物の収益力では本件償還は厳しいとの意見が付されていたが、親会社各社(日比谷総合開発、新橋総合開発及び有楽町総合開発)及び原告の支援により資金繰りは安定し、最終償還に懸念はないとされていた。
また、取得予定物件として、児玉物件、軽井沢物件及び福山物件が記載され、その取得予定価格は、鑑定評価に基づき、児玉物件6420万円、軽井沢物件2億7500万円、福山物件2億円とされていた。
(甲E20号証の1、同23号証、同24号証の1及び2、同25号証)
ク ランディックに対するその余の支援の実行状況
(ア) 資金繰り支援等
原告は、前記の支援方針(220頁の(イ))に従い、平成7年3月にランディックの芝中央ファイナンスに対する貸付金841億円の肩代わりを行った。また、平成8年3月までの間に、ランディックグループが所有あるいは担保に徴求していた29物件(本件3物件を含む。)を新橋総合開発及び神谷町土地建物に買い取らせ、そのための資金として合計375億円をこれらの受皿会社に融資した。
原告は、支援計画に含まれていなかったが、平成7年6月に、ランディックビルディングがランディック大手町ビルディング(原告の旧本店)の買取資金として、生命保険会社から借り入れていた600億円を低利融資により肩代わったほか、平成8年3月までに、ランディックグループの保有する株式(61億円相当)を原告のグループ会社に買受けさせるなどの支援を行った。
これらの支援により、他行の高利融資が原告の低利融資に置き換えられることによる金利負担の軽減及び不動産等の保有負担の削減等により、年間46億円の支援効果があると計算されていた。
(イ) 損益支援
ランディックは、物件の益出し、未収利息の計上等の決算対策により、本体については黒字決算を維持していたが、平成9年3月期の実質損益は53億円の赤字、ランディックグループ全体では176億円の赤字となることが見込まれた。
他方、財務状況については、ランディックグループ全体についてみると、平成8年3月時点において、総資産9458億円のうち、不動産はランディック所有の賃貸不動産に325億円の含み益を有していたものの、販売用不動産及び子会社所有の不動産に合計442億円の含み損が発生し、また営業貸付金等2939億円のうち2411億円が延滞債権となっていて1379億円が回収不能見込、その他海外現地法人の有価証券の含み損が277億円存在し、合計すると1773億円の損失が生じていた。
以上のようなランディックの経営状況を踏まえ、原告は平成7年2月の支援方針に基づき、損益支援について平成8年1月以降国税当局との交渉を行っていたが、平成9年3月11日に国税当局から無税扱いについての了承が得られたことから、後記認定のとおり、平成9年3月21日、ランディック本体、受皿会社及び芝中央ファイナンスの営業貸付金を対象として、債権放棄及び共同債権買取機構の活用により、5年間で1973億円規模の損益支援を行う方針を決定した。
(甲E2号証の2)
(2) 被告らの経営判断の内容
本件融資〈3〉は、ランディックの所有する本件3物件を引き取ることによりランディックの物件保有のキャリングコストを軽減することを狙いとするものであり、ランディックに対する支援計画の一環として行われたものであることから、本件融資〈3〉の善管注意義務違反の有無の判断は、支援計画全体についての経営判断の中で検討を行う必要がある。
しかるところ、被告らの経営判断の内容は概略以下のとおりである。すなわち、支援の必要性については、〈1〉ランディックについて従来同様に保有ビルの益出しによる決算対策を継続した場合には、収益力のある保有ビルの減少により、不動産会社としての再建が不可能となるばかりか、収益の悪化により信用不安が一気に顕在化するおそれがあること、〈2〉原告とランディックの関係からランディックの信用不安を放置した場合、原告の信用に多大な影響が出るおそれがあること、〈3〉ランディックは、原告グループの不動産業の中核であり、原告グループ全体の不稼働資産の活性化にランディックのノウハウが不可欠であることが前提となっていた。
次に、支援目標は、ランディック本体の黒字体制を構築するとともに不稼働の営業貸付金を10年かけて処理するというものであり、支援の方法としては、原告の単独支援が当然の前提とされ、〈1〉芝中央ファイナンスに対するランディックの貸付債権を原告が肩代わりして高金利の借入金の返済を行うための資金支援、〈2〉ランディック本体、受皿会社及び芝中央ファイナンスの不稼働の営業貸付金を対象として10年間で約2100億円の債権放棄や共同債権買取機構への持込み等を行う損益支援及び〈3〉物件保有コストの削減のため、新橋総合開発及び神谷町土地建物にランディック保有物件を買い取らせる物件引取支援により構成されており、本件融資〈3〉は上記〈3〉の物件引取支援の一環として実施されたものである。
なお、損益支援については、原告としては、グループノンバンクのうち、長銀リース及びNEDに対する損益支援を先行させ、次に日本リース及び第一住金に対する損益支援を予定していたことから、財源等の関係から、ランディックについては当面資金支援と物件引取支援でつなぎ、その後に損益支援を行う方針であったのであり、さらに損益支援の無税扱いの承認について国税当局との交渉を行う必要があったことなどから、内容的には必ずしも確定したものではなく、現に平成9年3月に経営会議の決定により、5年計画で約2000億円の損益支援として実施されることとなったものである。
そこで、ランディックに対する支援計画全体の経営判断が、支援を行う場合と支援を行わない場合の利害得失についての情勢分析及び衡量判断に誤りがあったか否か、さらに本件融資〈3〉に支援として著しく社会的相当性を欠く点があったか否かについて、以下に検討する。
(3) 支援を行わない場合の利益状況
ア ランディックグループ全体の状況
ランディックグループの資産の状況については、平成6年3月期において、同グループ全体の営業貸付金3014億円のうち、2905億円は延滞債権であり、含み損は1800億円に達しており、ランディックグループの全資産1兆1026億円のうち、含み損は2275億円に達していたことから、仮にランディックグループが自力で再建を図るためには、それ自体の収益あるいは含み益の活用により、含み損あるいは実質債務超過分を一定期間内に解消できる見通しを立てなければならない状況にあったということができる。
しかしながら、ランディックグループの収益面については、平成6年3月期において、表面上本体は4億円の黒字を計上していたが、金利の追い貸しや未収利息の計上分を控除した実態利益は本体で148億円の赤字、グループ全体の実態利益は254億円の赤字であり、そのままでは赤字が累積される状況にあったことから、上記含み損等をランディックグループの収益により解消することは事実上不可能な状況であったというべきである。
さらに、ランディック本体の賃貸用不動産の含み益(463億円)による益出し等についても、その賃貸用不動産の売却等による益出しを継続すれば、表面上の黒字をしばらく維持することは不可能でなかったが、これをそのまま継続した場合、ランディックの中核業務である不動産業務の存続ができなくなることから、ランディックが不動産会社として再建することが困難となるおそれがあったといえる。
以上によれば、ランディックは、本体及びグループ全体で実態収益は大幅な赤字が累積する状況にあり、多額の不稼働資産を自ら処理することができず、また保有物件の益出しによる決算対策も限界に近づきつつあり、何らの支援もなされない場合には、いずれ同社の信用状態の悪化が顕在化し、金融機関からの融資引揚げにより資金繰り破綻を来すおそれがあったというべきである。
イ 原告による支援の必要性
被告らは、原告がランディックに対して母体行責任を負うことを当然の前提として、本件支援を決定しているところ、平成7年当時の金融界において、銀行のグループノンバンクは母体行が単独支援を行うという母体行責任の考え方が支配的であったこと、母体行責任を負担するノンバンクであるかどうかの認定においては、経営支配の実態をベースとしつつ、他の金融機関の支援の責任分担に関する認識・期待を勘案して判断すべきことは、既に述べたとおり(147頁の(イ))である。しかるところ、原告とランディックとの関係については、〈1〉ランディックは、原告の旧商号を冠した長銀不動産株式会社から営業を承継し、不動産事業を展開してきたこと、〈2〉本件支援の検討時点において、ランディックの資本のうち95パーセントを原告グループが有していたこと、〈3〉ランディックの経営陣は原告の役員経験者が同社の歴代社長を務め、また同社の役員もほとんどは原告の出身者で占められていたこと、〈4〉原告の内部においても、ランディックは関連先と扱われ、原告グループの不動産関連業務の中核を担うものと位置づけられていたこと、〈5〉平成6年12月当時において、ランディックグループの借入残高の合計8236億円のうち原告からの借入残高は1954億円であって、融資残高も原告が最大であったこと、〈6〉平成8年4月ころ行われた大蔵省検査においても、ランディックは「当行関連会社」と位置づけられていたことが認められ(甲B77号証の1ないし3)、これらを総合すると、ランディックは原告が母体行責任を負うべきグループノンバンクであったことは明らかである。
なお、原告らは、ランディックは関連会社通達にいう適正化措置済み会社であり、母体行責任を負うべき対象でないと主張する。
しかしながら、既に述べたとおり(149頁の(ウ))、関連会社通達は、銀行に対する他業禁止の徹底という行政上の目的から定められたものであるのに対して、母体行責任という考え方は、ノンバンクの支援の責任を誰が負担すべきかという観点から金融機関における暗黙の了解事項として生じてきたものであることから、両者はその趣旨を異にし、関連会社通達にいう関連会社でないからといって母体行責任を負わないということにはならず、他に原告がランディックに対して母体行責任を負っていたとの前記認定を左右するに足りる証拠はない。よって、原告らの主張は採用できない。
ウ 原告が支援を行わない場合に発生するおそれのある損失
原告がランディックに対する支援を行わない場合には、ランディックの信用状態の悪化が顕在化し、資金繰り破綻のおそれがあったことは前記のとおりであるが、母体行責任の考え方が支配的な当時の金融界においては、影響はこれに止まることなく、原告がランディックの信用状態の悪化を放置し、支援を行わなかったことが母体行である原告に支援体力がないとの推論を呼び、原告が母体行責任を負うべき他のグループ企業全体に対する信用不安に波及するとともに、原告の金融債発行による資金調達に重大な影響を与えたものと認められることは、既に論じたところと全く同様(153頁のウ)である。
加えて、ランディックは、原告グループの不動産事業の中核を担い、今後、原告グループの不稼働資産処理を進める上においても重要な意義を有していたことから、ランディックを失うことは原告の経営戦略にも大きな影響を与えたものというべきである。
(4) 支援を行う場合の利益状況
本件支援は、ランディック本体の自転体制を構築するために、資金支援として芝中央ファイナンスに対するランディックの814億円の債権を原告が肩代わりすることにより、他行からの高利の借入金を返済し資金調達コストを引き下げ、物件引取支援によりランディックの不稼働資産保有によるキャリングコストの負担を軽減するとともに、ランディックの不稼働の営業貸付金を処理するために10年間で2100億円の損益支援を実施するものであった。
前記認定のとおり(227頁の(2))、損益支援の内容は確定していたわけでないが、本件支援時においては、本件支援により、ランディック本体及び受皿会社の不稼働資産を10年間で処理することにより、平成17年3月期において、ランディック本体の実態収益は黒字化し、芝中央ファイナンスは清算される計画となっていたが、不動産関連会社は支援の対象とされておらず、10年後には1610億円の繰越欠損(キャリングコスト)が残存するものとされていた。また、上記計画においては、地価の上昇率を3パーセントと想定しており、地価下落を想定したシミュレーションは立てられていなかった。
以上のとおり、本件支援は10年かけてランディック本体の自転体制の構築を目指す計画となっていたが、地価の下落等の情勢変化や不動産関連会社の処理のための方策を含むものではなく、これらについては、原告からの追加的な支援が必要となることが見込まれるものであった。そして、原告に想定されるコストとしては、本件損益支援による損失のほかに、将来的に必要となる可能性のある追加的支援の損失、さらには物件引取支援による受皿会社保有の物件の地価の下落リスクや受皿会社に対するキャリングコストについての追い貸しなどが見込まれるものであった。
(5) 本件支援の合理性(本件融資〈3〉の合理性)
ア 母体行責任のもとにおける支援の合理性の判断
以上を前提として本件支援の合理性を検討するに、前記のとおり、母体行責任が支配的な状況下においては、母体行責任を果たさないことにより見込まれる影響が極めて甚大であることから、親銀行の取締役としては、このような事態を回避し、親銀行及びグループノンバンクの信用を維持するために、〈1〉再建可能性のない企業をいたずらに存続させ最終的な処理のコストを増大させる赤字補てん資金の供給の継続にすぎない場合、あるいは〈2〉自己の支援体力を超えて親銀行それ自体を破綻の危険にさらすような場合を除き、むしろ支援を行うべき義務があるというべきであり、このような状況下において、支援が行われた場合は、親銀行の負担を最小化する観点から、当該支援と比較して明白に優れた選択肢があったと認められない限り、その責任を問われるべきではないと考えられる。
イ 支援計画による再建可能性
これを本件についてみるに、本件支援は、既に述べたとおり、地価の下落の場合の対策や不動産関連会社に残存する繰越欠損の処理を含まないことから、将来的に原告からの追加的な支援の必要性が生ずる可能性のあるものではあったが、ランディックの不動産業の中核部分を維持しながら、その資金繰りをつなぐとともに、営業貸付金の処理や物件引取りにより、ランディックのバランスシートから不稼働資産の処理を現実に行うことにより、ランディック本体を自転可能とするものであり、ランディックグループの再建可能性を前提とするものであって、単なる企業延命のための赤字補てん資金の供給ではないことは明らかである。
ウ 原告の償却・支援体力との関係
本件支援が、原告の償却・支援体力からみて明らかに過大であり、原告自体の存続を危うくするような内容であったかどうかを検討する。
まず、本件融資〈3〉は、担保物件の価値に全面的に依存するが、一応の償還可能性を前提とする融資であり、損益支援と異なる資金繰り支援であるから、融資額それ自体が原告の損失とされるものではない。
次に、既に述べたとおり(167頁の(ア))、原告は、平成6年度末において、グループノンバンクに対する支援損等を含めて不良債権3433億円を処理した上で、自己資本比率8.51パーセントを維持し、業務純益809億円及び有価証券含み益約4380億円を有し、他方で、ランディックに対して平成7年度に実施する支援内容は814億円の肩代わり融資、60億円の損益支援及び物件引取資金の融資(最大で190億円程度)であったこと、実際にも平成7年度末において、原告は、グループノンバンクに対する支援損を含めて6499億円の不良債権を処理した上で、自己資本比率8.85パーセントを維持し、業務純益2036億円及び有価証券含み益約5792億円を有していたこと、10年間という期間において、原告の償却・支援体力やランディックグループの状況を検討した上で、支援負担金額等の計画の見直しは当然予定されていたと考えられることなどから、物件引取りによる地価下落のリスクやキャリングコストの負担を考慮に入れるとしても、本件支援は原告の支援体力を超える支援ではなかったというべきである。
また、原告らは、関連・親密先の不良債権の総額が原告の支援あるいは償却体力を超えるとして、本件融資〈3〉が不合理であると主張するが、そもそも、上記のとおり、本件融資〈3〉は償還を前提としている上に、必ずしも原告らの指摘するような状況になかったことは、既に述べたとおり(168頁の(イ))であるから、原告らの主張は採用できない。
エ 実効性のある再建計画をベースとした支援の可能性等
そこで、本件支援計画よりも、明らかに優れた選択肢があったかどうか検討するに、原告らは、「ランディックの再建策としては不動産担保融資部門を完全に切り離した上、ビルマンション事業に関連する保有不動産で傷んでいる物件を整理していくという方法も十分検討に値するものであった。」、「莫大な回収不能債権を有するランディックという会社そのものを存続させるのではなく、ランディックが有する営業上のノウハウや人材を切り難し再建を図るという手法を含めて様々な選択肢があり得た。」と主張するが、いずれも清算を伴うものであり、当時の原告の償却・支援体力及び関連・親密先に対する支援所要額からみて、原告が単独で一括してその損失全額を負担することは現実的な選択肢ではなく、他の金融機関に損失負担を求める場合には、母体行責任の考え方が支配的な当時の状況下においては、このような選択肢が原告グループノンバンクさらには原告自身の信用問題に波及するおそれが大きく、かつ、他の金融機関の合意形成に困難を伴うものであり、現実的な選択肢として想定し難いものであったことは既に論じたとおりである(173頁のエ)。
むしろ、本件支援は、母体行責任により親銀行の採り得る選択肢が限定された下で、原告の体力と他のグループノンバンクの支援の必要性を勘案しながら、まず第一に長銀リース及びNED、次に日本リース及び第一往金、その後ランディックという順序で損益支援を行う計画の下で行われたものであり、当時における地価の反転の期待を背景としたソフトランディングの考え方や金融当局の不良債権の計画的段階的処理という方針にも適うものであったというべきである。
以上によれば、本件支援は、原告が母体行責任を負うランディックに対して、体力の範囲内で再建を目指して実施されたものであり、当時の状況としては、他に本件支援に代わるべき明らかに優れた選択肢を見出し難いというべきであるから、本件支援が合理性を欠くと断ずることはできない。
そして、本件融資〈3〉は、本件支援の一環たる物件引取支援の一部として実行されたものであることから、同様に支援としての合理性を欠くものとは認められない。
オ 本件融資〈3〉の相当性
(ア) 原告らは、本件融資〈3〉は、〈1〉ランディックの不稼働資産を原告の受皿会社で保有することにより、不稼働資産を隠ぺいすることを目的としたものであること、〈2〉受皿会社による本件3物件の買取価額は実勢価額より著しく高額であることは、不稼働資産を隠ぺいする目的を物語るとともに、これを時価による取引であると装うことにより許されない会計上の処理を行うことになること、〈3〉受皿会社による物件引取りは、原告がその支配下にある受皿会社を介して実質的に不動産業を営むこととなり、長期信用銀行法の定める他業禁止の趣旨に反することなどから、銀行の公共性・健全性に照らし著しく社会的相当性を欠くものであり、取締役の善管注意義務に反する旨主張する。
そこで、検討するに、まず、本件3物件の買取価格は、不動産鑑定士による鑑定評価をもとに決定されているものであり、同鑑定は取引比較事例法を用いて鑑定評価額を出しているところ、比較対照された取引事例には格段不適切な点はなく、また鑑定評価の手法自体も特異な手法が採られているわけではないことからして、路線価と鑑定評価額が乖離することをもって本件鑑定評価額の信頼性を疑わせるに足りず、また、他に鑑定評価額が実勢価格より著しく高額であることを認めるに足りる証拠はない。
以上によると、神谷町土地建物による本件3物件の買取価額は時価によるものと認められる。本件3物件の譲渡が時価によって行われる限り、ランディックのバランスシートには、不動産の簿価と譲渡価格(時価)の差額が、売却損あるいは売却益として適正に計上されることになるから、何ら隠ぺいはなく、会計処理上の問題が生ずるわけではない。
(イ) 他方、原告の神谷町土地建物に対する本件融資〈3〉は、後に地価下落により本件3物件に含み損が発生する場合には、その段階で償却・引当を含む適切な債権管理を行えば足りるのであり、本件において、当初からこの点を潜脱する目的で融資が行われたことを認めるに足りる証拠はないから、この観点においても、不稼働資産の隠ぺいは存在しないというべきである。
また、銀行が実質的に不動産事業を営むことになるという点においても、受皿会社による物件取得は広義において債権回収方法として行われているものであり、また、神谷町土地建物は、原告との直接の出資関係を有するものでないことから、これをもって直ちに社会的相当性を欠くものとはいえない。
むしろ、受皿会社によるグループノンバンクの保有物件の時価による取得は、不動動産競売が困難な状態で(乙A111号証)、任意売却が容易ではなく、今日のように資産流動化のための手法が未整備であった当時において、グループノンバンクのバランスシートから不稼働資産を切り離し、当該ノンバンクにおける資金循環の促進及びキャリングコストの削減を図り、その再建を進めるために、グループ内において自らマーケットを創出するものというべきであって、当時設立された共同債権買収機構の活用による支援と比較しても、対象が物件であり、担保付債権でないこと、貸倒償却による税制上の優遇措置がない点が相違するのみで、親銀行がキャリングコスト及び地価下落のリスクを負担する点も含めて全く同様の機能・効果を有するものであったと評価できる。
以上によれば、受皿会社による物件引取りは、取得価額が時価によるものであり、受皿会社に対する買取資金の融資について適切な償却引当が行われる限り、支援方法として社会的相当性を欠くものではないというべきである。
なお、原告らは、受皿会社による物件取得は不稼働資産の処理を先送りし、かつ地価下落のリスクやキャリングコストにより原告の負担を拡大させることになると主張するが、これは、支援方法についての社会的相当性の問題ではなく、支援に当たっての利害得失の衡量判断の問題であり、この点において、被告らの経営判断が合理性を欠くものであったと認められないことは既に述べたとおりである。
(6) 結論
以上によれば、被告らに善管注意義務違反ないし忠実義務違反があったと認めることはできず、また他にこれを認めるに足りる証拠もない。
6 争点5及び争点6
(1) 本件融資〈4〉及び同〈5〉に至る経営判断の前提となった背景事情
証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、本件融資〈4〉及び同〈5〉(以下「本件各支援融資」という。)の前提となった平成9年前後の経済情勢、金融行政、他の金融機関の動向及び原告の動向等については、以下のとおり認められる。
ア 経済情勢、金融行政、他の金融機関等の動向
(ア) 早期是正措置の導入とこれに伴う貸し渋り等
平成8年6月の前記金融3法の成立を受けて、既に述べたとおり(96頁の(ウ))、早期是正措置制度が平成10年4月から導入されることになった。
このため、金融機関は、早期是正措置対応として、自己資本比率を高めるためにその分母であるリスクアセットの圧縮圧力を強め、いわゆる貸し渋り・貸し剥がしの動きが広まった。なかでも、特に回収が容易と見られている銀行系列会社は圧縮のターゲットとされ、原告の関連・親密先の資金調達環境は急速に厳しくなり、これを補うため、原告の関連・親密先に対する貸出は、平成9年3月までの間に3年間に約1兆円も増加した。
(甲F42号証の3の2、同号証の4、同56号証、乙A41号証、同109号証)
(イ) 金融ビックバン政策の公表
平成8年11月、政府は、「金融の大改革-東京市場の再生に向けて」として、いわゆるピックバンの政策を発表した。これによれば、銀行・証券・保険などの金融機関の垣根の撤廃、外国為替取引の完全自由化、株式の売買手数料の自由化、経営内容のディスクロージャー、国際的な経理基準の導入などが、平成13年3月までに実施されることとされていた。
(乙A47号証)
(ウ) 日債銀の系列ノンバンクの破綻
平成9年3月末、日債銀は、系列ノンバンク3社(クラウンリーシング株式会社、日本信用ファイナンス株式会社及び日本トータルファイナンス株式会社)の支援を断念し、これら3社は同年4月1日にそれぞれ破産申立てを行った。その結果、既に述べたとおり(85頁の(イ))、日債銀の信用は従前にも増して大きく毀損され、債券の発行残高は月間で数千億円ずつ減少し、平成9年3月末における債券の発行残高8兆3270億円に対して、平成10年9月末にはその約半分である4兆3765億円にまで落ち込み、既発債の流通利回りについても、平成8年11月ころまでは興銀債との間の差が1パーセント以下であったのに対し、平成8年末頃から急激に乖離幅が拡大し、平成9年3月以降は、それが4パーセント台にまで広がり、新発債の利率にも格差が生じ、債券の販売に困難を来すようになった。
また、日債銀系ノンバンクの破綻は、他の銀行系ノンバンクへの返済圧力・選別の一層強化の原因ともなった。
(乙A4号証、甲F44号証の2)
(エ) 政府による財政健全化政策
政府は、平成8年の景気回復を受け、政府財政の立て直しを優先する政策を採用し、平成9年4月1日から消費税率を3パーセントから5パーセントに引き上げ、また、特別減税を廃止した。これらの施策は、医療養負担の引き上げも重なって、その後の個人消費の冷え込み、景気後退につながった。
(乙A47号証)
(オ) 東アジアの通貨危機
さらに、平成9年7月、タイ中央銀行が、同国通貨パーツの為替制度を変動相場制に移行し、大幅な通貨切り下げを実施し、その後、東アジア全体に対する経済危機が発生した。韓国のウォンの対ドルレートは平成9年11月初めからわずか1か月半で半値近くに下がり、インドネシアのルピアは4分の1となった。その影響は、我が国にも及び、同年9月2日には、長期国債利回りが1.960パーセントと過去最低となり、同年7月の日経平均株価は2万0331円43銭であったが、同年8月には1万8229円、同年9月には1万7887円、同年10月には1万6458円と下落し、同年12月には1万5258円74銭となった。
(甲A3号証、乙A41号証、同42号証、同47号証)。
(カ) 金融機関の相次ぐ破綻
その後、平成9年11月3日、三洋証券が、上場証券会社としては初めて、会社更生手続の申立てをして経営破綻し、同月4日には、短期金融市場(いわゆるコール市場)で10億円のデフォルトが発生した。短期金融市場は、金融機関同士で、担保なしで資金を融通し合うマーケットであり、金融機関及び機関投資家の間の資金の融通でデフォルトはあり得ないというのが、それまでの一般的な考え方であったが、三洋証券の破綻でデフォルトが起こったことにより、その前提が崩壊し、市場では混乱が生じた。このため、担保を出さないと資金を融通してもらえず、あるいは、担保を出しても十分に資金が融通されないなど短期金融市場が一時機能停止に陥り、相当数の金融機関が資金不足状態に陥って、貸し渋り・貸し剥がしが行われた。これは、他の銀行のノンバンクへの貸出を回収しようという動きにつながり、原告の関連・親密先ノンバンクでも資金繰りが一層厳しくなる結果となった。
さらに、同月14日、短期金融市場の混乱の影響を受け、拓銀が資金繰りに行き詰まり、同月17日に自主再建を断念し、北洋銀行に北海道内での預金業務や貸出業務等の営業を譲渡することが決定した。
また、同月24日には、山一證券が、「飛ばし」による簿外取引が2648億円あったことを認め、自主廃業を決定し、同月26日には、宮城県の第二地銀である徳陽シティ銀行が資金繰りの悪化やコール市場における資金調達が困難となったことを受けて経営破綻し、仙台銀行などに営業譲渡することが発表された。
(甲B53号証、同56号証、乙A40号証ないし同42号証、同45号証、同46号証)
(キ) 金融不安の生起
これら大手金融機関が破綻に追い込まれたことを契機として、我が国では金融システム不安が著しく高まり、システミック・リスクの顕在化が懸念される状況に陥った。その結果、以前から大きな不良債権問題を抱えていると目されてきた金融機関を中心に、株価下落や預金流出の動き等が見られたほか、一部金融機関が平成9年の年末越えに向けて外貨資金繰りをつけるために調達を急ぐ中、市場性資金調達の困難化を背景に、ジャパン・プレミアムも100ベーシスポイント(1パーセント)近くまで急上昇した。
(乙A42号証、同46号証)
(ク) 金融安定化法の制定等
平成9年11月26日、こうした信用不安の拡大を沈静化させるため、大蔵大臣及び日銀総裁は、現状では新たな大手金融機関の破綻の可能性はない旨発言するとともに、預金者に対し、沈静化を促す談話を発表した。また、拓銀、山一證券等については、日銀の特別融資等が実施された。
平成10年2月16日、金融システムの安定化を図る緊急措置として、国会は、金融安定化法及び預金保険法の一部改正(平成10年法律第4号)を可決成立させ、預金の全額保護の徹底を図る体制整備に17兆円を(預金保険法)、公的資金の活用による金融機関の自己資本の充実を図る目的に13兆円を(金融安定化法)、それぞれ使用することができる制度が整備された。
そして、平成10年3月30日、金融安定化法に基づき、大手17行に対して合計1兆8000億円程度の公的資金が注入された。
(乙A24号証、同40号証、同46号証、同112号証)。
(ケ) 金融再生関連法の制定
さらに、平成10年10月16日には、金融再生法、「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律」(平成10年法律第143号)など金融再生関連法が成立し、これらの法律により、金融債も預金保険の対象として保護されることになった。また、金融再生委員会が、破綻した銀行又は破綻の危機にある銀行を公的管理に置き、あるいは、資産・負債をブリッジバンク(受皿となるべき銀行)に売却して処理をすることができるシステムが創設された。
(乙A47号証)
イ 原告の経営全体の動向
(ア) 原告による中期計画の策定
原告は、平成9年3月10日、常務会において、「当面の業務運営の考え方と中期的展望~ビックバンへの戦略的対応~」(いわゆる「中期計画」)を決定した。このなかでは、〈1〉不稼働資産の早期処理とBIS比率8パーセントクリアを両立できる財務体質への再構築、〈2〉戦略分野の見定めと業務の組立ての再構築が二つの柱とされ、ピックバンを目前に控え、徹底した資産の効率化と経営資源の大胆な再配置が課題とされた。
(乙A101号証)
(イ) SBCとの提携交渉
原告は、平成9年4月29日、スイス三大銀行の一つであるSBCと資本及び業務提携の正式交渉を開始し、平成9年7月15日、SBCと包括的な資本・業務提携を結ぶことを内容とする基本合意を発表した。その内容は、〈1〉資本提携すなわち提携の象徴として、相互に発行済み株式の3パーセントずつの相互持ち合いを行う(その後、3パーセントから1パーセントに変更)、〈2〉合弁会社設立として、東京に3分野で出資比率50パーセントずつの合弁会社を設立する(投資銀行業務、投資顧問業務、プライベートバンキング業務部門)、〈3〉ファイナンスの実施として、長銀の優先株1300億円と劣後債700億円の各引受けをSBCが行うというものであった。原告は、このSBCとの業務提携を、金融ビックバン対応として銀行経営戦略上極めて重要なものとして位置づけるとともに、自己資本比率8パーセントを維持するための自己資本増額方策としても重要なものとして位置づけていた。
(甲F48号証、同55号証)
(ウ) SBCとの資本・業務提携
平成9年9月19日、原告はSBCとの間で正式契約を締結し、2000億円のファイナンスの時期は平成9年11月下旬を目途とすることとされた(乙A103号証、甲F55号証)。原告とSBCの業務提携は、市場でも好感をもって迎えられ、平成9年4月末終値が341円であった原告の株価も、平成9年7月末には510円、同8月末には597円、同9月末には527円と上昇した。
しかし、平成9年8月7日、大手格付け機関の一つであるムーディーズは、原告の長期格付けをトリプルB1からトリプルB2に格下げした。
(甲F55号証)
(エ) SBCによる原告の増資の引受けの延期
原告及びSBCは、上記資本・業務提携に基づくファイナンスの時期を、平成9年11月下旬と予定していたが、同年11月の金融危機の影響で、海外市場の日本経済に対する評価が厳しくなり、このタイミングでの優先株の発行にはリスクが大きいと判断されたことから、平成9年11月25日のファイナンス発表は断念された。これにより、SBCとの業務提携実現に対する疑念が市場で噂されるようになり、原告の株価は急落した。
(甲F56号証、同57号証)。
(オ) SBCとUBSの合併
さらに、平成9年12月8日、SBCは、スイス三大銀行のトップ銀行であったUBSとの合併を発表し、平成10年5月に、新UBSに変わった。新UBSはSBCとは異なり、既に日本に営業基盤を築いていたため、原告との提携の重要性は必然的に低下することとなり、この合併発表を契機に、原告とSBCとの資本・業務提携の解消の噂が再燃し、株価を始め原告の信認低下の材料となった。
(甲F57号証)
(カ) 原告による2か年計画の策定
平成9年12月26日、原告は、取締役会を開催し、「長銀再生二か年計画」を決定した。同計画では、〈1〉バランスシートの健全化と収益性の改善、〈2〉不稼働資産処理と関連会社の再編・整理(平成9年度5000億円処理)、〈3〉商品・顧客戦略の再編と業務運営の抜本的変革、〈4〉経営システムと人事制度・処遇の見直し、〈5〉拠点・要因・経費の合理化が柱とされ、これらの計画の実施により、平成12年3月には、原告本体の業務純益が850億円から1050億円程度であり、SBCとの合弁による証券業務、投資顧問業務等の合弁事業による収益持分が約200億円と見込まれていた。
(甲F57号証、乙A104号証)
(キ) UBSとの合弁事業の開始
平成10年4月、UBSとの間で、資本の持ち合い(お互いが1パーセントずつ株式を持ち合う。)が実施された。また、UBSとの合弁事業である投資顧問会社も平成10年4月初旬から、同じく合弁事業である証券会社も同年6月1日から業務を開始した。
(甲B53号証)
ウ 原告の資金繰りの状況
(ア) 金融債の発行状況
原告は、平成8年当時、金融債の発行について、興銀と条件分離(興銀の発行する金融債よりも高い金利を設定して金融債を発行すること)して、金融債の発行を行うようになった。また、このころから、バブル期に発行していた償還期限5年の高金利の利付金融債ワイドの償還時期を迎えていたが、ワイドを償還した際、ワイドを引き受けていた金融機関や機関投資家の一部から乗り換え(金融債を償還した際その償還額を財源として新たな金融債の引受けをすること)を受けられず、それらの金融機関等が、原告から資金を引き揚げる事態が生じた。
また、日債銀の金融債の下落の影響を受けて、原告の金融債の発行残高の減少が拡大した。すなわち、平成9年2月以降において、同月7日時点における「対市中金融債」の発行残高(地方銀行、相互銀行や機関投資家などが引き受けた金融債を指し、市場をもっとも反映するものとされる。)は、13兆6183億円であったが、わずかに増加することもあったが、概ね次第に減少しており、例えば同年6月27日には12兆9888億円と13兆円を下回り、その後も同年8月22日には12兆8749億円、同年10月10日には12兆8203億円、同年10月31日には12兆6544億円となり、この間原告の金融債の発行残高は約9639億円減少した。
さらに、平成9年11月、既に述べたとおり、三洋証券、拓銀及び山一證券が相次いで破綻し、市場はパニックの様相を呈した。原告では、主力の資金調達商品である利付金融債が、預金保険の対象となっていなかったこと等から機関投資家から警戒され、金融債の窓口販売においても新規の入金が減少し、解約も相次いだ。
原告は、このような中長期的な資金調達の基盤である金融債の発行残高の減少を受けて、前記の早期是正措置導入に伴う資産圧縮やコール市場などの短期市場性資金の導入により、その資金不足を補っていたが、短期市場性資金は金融債と異なり、短期間に収益を挙げて資金を償還する必要があるため、安定的な資金調達基盤である金融債の発行残高の減少は、原告の資金基盤の脆弱化をもたらした。
(甲F52号証)
(イ) コール市場等における原告の資金調達の状況
原告は、前記のとおり、金融債の発行残高の減少による資金不足をコール市場からのコールマネーの調達(短期市場性資金の借入)により補っていたが、前記の三洋証券の破綻に伴うコール市場におけるデフォルトの状況を受けて、短期市場性資金であるコールマネーの調達に関して、コール枠や担保付きの高金利を設定されるなどして、コール市場において、資金調達が次第に困難となっていた。すなわち、原告は、このころコールマネーの調達を拒絶されたり、クレジットラインによる条件付きでコールマネーを調達するようになっており、コールマネーの残高が平成9年11月から同年12月にかけて概ね2724億円から3642億円で推移しており、短期市場性資金に依存する結果を招来していた。
また、平成10年1月以降、コールマネーの調達も困難となり、原告は、株式や金融債を担保とした借入や日銀に対する手形オペ(原告の貸付先が振り出した手形を日銀に差し入れることにより資金の融通を得る方法)等による資金調達を行うことを余儀なくされており、このころには原告の資金調達基盤はかなり逼迫していた。
(甲F52号証)
(ウ) その後の原告の資金繰り
原告は、平成10年1月から同年3月までの資金繰りについては、平成10年1月の実績として、「円貨手許資金余剰」は7000億円であり、前年12月から増減はなく、平成10年2月の実績として、円貨資金が1500億円増加し、「円貨手許資金余剰」は8500億円となり、平成9年度末には、円貨資金が3100億円増加し、「円貨手許資金余剰」は1兆1600億円まで回復した。
(乙A105号証の1ないし3)
(2) 本件融資〈4〉の経緯
証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、本件融資〈4〉及びその後のランデイックが破綻に至るまでの経緯については以下のとおり認められる。
ア 平成9年3月の経営会議による支援方針決定
(ア) 原告は、前記の平成7年3月の支援方針において懸案とされていた損益支援について、平成8年1月以降、国税当局と交渉を行ったが、平成9年3月11日に国税当局から無税扱いについての了解が得られたことから、同年3月21日、経営会議を開催し、被告Y4及び被告Y7などの出席のもと、ランディックに対する損益支援を主体とする支援方針を承認した。
すなわち、営業貸付金の処理に関しては、ランディック本体、芝中央ファイナンス及び受皿子会社の不良貸付金について、原告単独での損益支援として、債権放棄及び共同債権買取機構を利用した買い取りにより、5年間で1973億円の規模で実施し、これによりランディックを自転可能な状態にすることとされた。
さらに、不動産部門の自転化を図るために、ランディック本体の不動産部門については、原告グループによる物件の引取りに加え、ランディックの自助努力により自転可能な体制を整えること、不動産関連会社についても、原告グループによる物件引取りとともに、未稼働物件の稼働化等収益アップに努め収支均衡を目指すものとされ、不動産関連子会社の一つである伸栄開発に対してランディックが有する貸付金の一部を肩代わりすること、伸栄開発が所有するゴルフ場及び賃貸ビルの引取りを行うことなどの方針が決定された。
(イ) 上記支援計画は、地価上昇率3パーセントを前提とするものであり、支援終了時の平成14年3月期には、ランディック本体の黒字化が図られる計画となっていた。これは、ランディック本体において、40億円の収益アップの自助努力が図られることを前提とするものであった。また、不動産関連子会社全体で、平成14年3月時点においても36億円の赤字が見込まれ、約677億円の債務超過が残るものであった。
(ウ) 支援の必要性及び意義については、経営会議の資料には、ランディックは大幅な債務超過会社であり、決算対策等も限界であり、ランディック独自での再建は不可能な状況であるとした上で、総合不動産業者として事業を行ってきたランディックの機能は、原告の経営戦略上重要な位置づけを有し、その機能維持は必須であること、ランディックの抱える不稼働資産の処理、すなわち原告の支援が明確でないとして、各金融機関のランディックに対する返済圧力が強く、取引維持が厳しい状況であり、ランディックを現状のまま放置することは、長銀リース、NEDなどの原告グループノンバンクの資金調達にも影響を及ぼす可能性が大きいこと、平成8年4月の大蔵省検査では多額のIII分類、IV分類の査定がなされており(ランディック1587億円、芝中央ファイナンス854億円)、早期是正措置の導入をにらみ、当該分類債権を早期に処理する必要があることなどが挙げられていた。
(エ) なお、上記方針を決めた経営会議においては、出席した取締役の中から、「本音でランディックをどう持っていくのか見えない。」、「本件は緊急的な対応であるが、もともとランディックを将来どのように持っていくかの検討が必要である。」などの意見が出されていた。
(甲E2号証1及び2)
イ 平成9年3月の支援方針の実行状況
原告は、上記経営会議における支援方針の承認後、同月27日、取締役会においてランディックに対する損益支援開始を決議し、同月28日にランディックの貸付金債権を譲受けて共同債権買取機構に売却することにより94億2697万9812円の支援損を計上するとともに、同月31日の取締役会において、当該年度のランディックに対する損益支援の総額を301億6000万円とすることを決議した上で、同日、ランディックに対する207億3302万0188円の貸金債権を放棄した。また、同月25日から同月31日にかけて伸栄開発に対するランディックの貸付金400億円の肩代わりと伸栄開発の保有物件の別会社への引取資金約295億円の融資を実行した。
(争いがない。)
ウ 短期運転資金の極度枠の同額更新
原告は、平成9年10月29日、同年11月1日以降のランディックに対する短期運転資金の極度額を従前設定されていた2300億円を同額更新した。被告Y7は、事業推進グループの担当取締役として、上記更新を決裁した。
(甲E34号証の1及び2)
エ 支援としての新規融資供与の方針決定(平成9年11月10日の常務会)
原告は、平成9年11月10日、常務会を開催し、被告Y4、被告Y7らの出席のもと、資金調達問題を中心としたグループ各社対策の基本方針を了承した。すなわち、同方針は、平成9年上期の状況として、早期是正措置への対応としての各行の資産圧縮競争やノンバンク等への残高圧縮、日債銀系ノンバンクの破綻による銀行系ノンバンクへの返済圧力の増大、選別の強化、都銀系ノンバンクの支援の終了などの環境変化に加えて、日本リースの不十分なリストラや原告のNEDやランディックへの支援能力に対する不信感から、原告グループ会社への大口貸出先である生命保険会社や信託銀行が従来の方針を転換してグループ各社に返済を求めてきており、さらに原告グループ各社のリストラの遅れの表面化により、他行の残高維持が困難な状況であり、グループ各社の資金繰り破綻を回避するために原告が肩代わり融資に追い込まれる懸念が大きく、日本リース、NED、ランディックの資金調達が当面の最大の問題と分析されていた。その上で、今後の対応の基本的スタンスとして、グループ各社について思い切った資産圧縮と各行への計画的返済の実施によるベース資金の確保及び原告からの計画的ニューマネーの提供により対応するとしていた。
そして、ランディックについては、原告の支援として平成9年度中に1400億円のニューマネーを提供し他行返済にあてることにより当面の資金繰りを維持し、平成10年3月に損益支援を前倒しで実行して支援を終了し、残高安定化を図ることとされた。もっとも、かなり不良債権を残した形での支援終了であることから、資金返済圧力を完全にストップすることは難しく、早急に黒字転換のための抜本的対策の実施が必要とされていた。
(甲E35号証の1及び2)
オ 本件融資〈4〉の実行
原告は、上記常務会における方針に基づき、ランディックに対して、平成9年11月28日に40億円(純増では30億円)、同年12月15日に20億円、同年12月19日に10億円、同年12月30日に90億円、平成10年1月16日に30億円、同年1月27日に10億円、同年1月30日に50億円(純増では20億円)、同年2月12日に10億円、同年2月20日に10億円、同年2月27日に30億円、同年3月31日50億円及び210億円の合計560億円(純増では520億円)を新規に融資した。
(甲E36号証)
カ ランディックに対する債権放棄
原告は、ランディックに対する前記支援方針の一環として、平成10年、3月23日の常務会の承認及び同月31日の取締役会の決議により、同月31日、ランディックに対する貸付債権1157億0020万2815円を放棄した。さらに、同様に、上記取締役会の決議に基づき、同年5月8日、ランディックに対する貸付債権450億円を放棄した。
(甲E37号証の1、同49号証、同50号証)
キ ランディックの破綻
ランディックは、原告が平成10年10月23日に特別公的管理の開始決定を受け、原告からの支援を受け得なくなったため、平成11年5月31日開催の株主総会において解散決議を行い、同日、東京地方裁判所に対して、特別清算の申立てを行った。
(甲E4号証、同5号証)
(3) 本件融資〈5〉の経緯
証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、本件融資〈5〉の経緯及びNEDが破綻に至るまでの経緯については以下のとおり認められる。
ア NEDの設立及び原告との関係
NEDは、昭和47年11月、国内第1号の民間ベンチャーキャピタルとして設立された株式会社である。同社は、当初は、原告を始めとする法人10社、その他3名の個人を発起人として設立されたが、昭和49年8月からは、原告を中心として第一勧銀、伊藤忠商事及び大和証券との四社体制に移行した。その後、NEDが後述のとおり融資業務にも進出し、総合金融会社に移行する中で、原告グループの出資シェアが大幅に増加し、原告のグループ化が加速した。すなわち、設立時は原告グループの出資シェアは12パーセント、第一勧銀グループの出資シェアは5パーセントであったのに対し、平成5年3月時点において、原告グループの出資シェアは61パーセント、第一勧銀グループのそれは6パーセントであり、役員構成は、原告出身者7名(うち監査役1名)、第一勧銀出身者3名、伊藤忠商事出身者2名(うち監査役1名)、大和証券出身者1名となっていた。また、NEDグループに対する原告グループの融資シェアは、平成5年3月時点で27.76パーセント、第一勧銀グループのそれは10.2パーセントであったが、平成9年3月には原告グループのそれが46.18パーセントになり、平成10年3月には48.10パーセントとなっていた。このように、NEDと原告の人的、資本的関係、さらに借入関係が密接であったため、原告はNEDを同行の「関連先」と位置づけ、他行からも、NEDは原告の直系ノンバンクと見られていた。
(甲F12号証、同16号証の2)
イ NEDの業況拡大と悪化
NEDの業務内容は、ベンチャーキャピタル業務を主軸とするものであったが、投資先のベンチャー企業が成長してから株式公開を果たすまでの期間は、投資回収による利益が実現しないことから、この間の収益を補完する目的で、昭和50年頃から、優良中小企業向けの事業融資を行うようになった。そして、昭和60年頃からは、不動産関連の特定業種に集中して融資を行い、バブル期は融資残高を飛躍的に増大させ、高収益を保っていた。
しかしながら、バブル経済の崩壊により、営業貸付債権は急速に不良債権化が進み、NEDの業況は平成3年3月期以降悪化を続けた。そして、平成4年度の収益状況は、一部入金等による未収利息計上及び不稼働資産の受皿会社への移管効果による表面上黒字を維持できる見通しであるが、不稼働資産の増加で営業収益が激減したことにより、実力収益は前期に引き続き大幅赤字となり264億円の赤字が見込まれる状況であった。また、資産状況が平成4年9月末時点でグループ総資産9812億円のうちの約4割に当たる約3970億円が不稼働資産となっており、その大半に当たる約3845億円は営業貸付金であり、不稼働資産1792億円は受皿会社に簿価譲渡されており、約2000億円はNED本体に残されていた。不稼働資産の含み損見込額は、グループ全体では1631億円に達するが、NEDの内部留保は平成5年3月期において約139億円と見込まれたことから、大幅な債務超過となっていた。
(甲F16号証の2)
ウ 原告によるNED支援の検討
原告は、母体行によるいわゆる系列ノンバンク処理が本格化しつつあった状況下において、原告が支援を行わなければ、NEDが原告以外の金融機関からの資金調達を維持することが困難となるとして、平成5年3月26日、臨時常務会を開催し、NEDの現状及びその対策について審議を行い、〈1〉NEDは原告直系のノンバンクであり、他行支援を前提とした再建では、原告自体の信用力に多大な影響を及ぼす懸念があるため、原告単独支援とすること、〈2〉原告の収益力との兼ね合いから、当面3か年程度は少額の支援に止め、長期間(10年程度)をかけて再建を実現すること、という基本方針が決められた。上記常務会には被告Y4(当時専務)及び被告Y7(当時常務)が出席した。
(甲F16号証の1及び2)
エ 当初支援計画に基づく支援
(ア) NEDに対する損益支援の開始
NEDは、平成5年9月期において表面上は利益計上したものの、実力利益は年間160億円から170億円の大幅な赤字となることが見込まれたため、原告は、平成6年3月18日に業務運営委員会を開催し、損益支援としてNEDに対して平成6年3月期に76億円の債権を放棄すること、さらに、原告の支援姿勢を明確化し金利コスト削減を図るため、受皿会社に対して資金支援をし、これを原資として他行への既往借入金を返済させることとし、平成6年3月期に1000億円の資金対策を行うことを決定した。原告は、上記業務運営委員会の方針に従い、NEDに対する76億円の債権放棄を行い、原告のNEDに対する損益支援を開始した。
なお、上記業務運営委員会には、被告Y4及び被告Y7が出席した。
(甲F18号証、同21号証)
(イ) 国税当局による無税扱いの承認
他方、原告は、原告のNEDに対する損益支援計画について債権放棄等による寄付金及び贈与税課税を回避すべく、国税庁と協議を進め、平成6年7月に国税庁の正式承認を得た。支援計画の内容は、〈1〉支援期間は平成6年3月から平成10年3月まで5年間とし、〈2〉支援方式は、NEDによる収益力向上、借入金の圧縮等自助努力を前提として、債務免除及び共同債権買取機構の活用等による原告単独の損益支援とし、〈3〉支援金額は1900億円というものであった。
(甲F19号証の2)
(ウ) 経営会議及び取締役会におけるNEDの支援計画の承認
そして、原告は、平成6年9月19日、臨時経営会議を開催し、NEDの平成5年3月末における総資産9359億円のうち4338億円が不稼働資産であり、その損失見込額が1281億円(含み損率29.5パーセント)であることを前提に、5年間で合計1900億円(平成6年3月期76億円(前倒し実施済み)、平成7年3月期185億円、平成8年3月期327億円、平成9年3月期578億円、平成10年3月期734億円。但し毎年見直し。)の債務免除及び共同債権買取機構活用による損益支援を実施する旨のNED支援計画を了承した。同支援計画は、平成6年9月19日開催の取締役会で報告された。
なお、上記経営会議及び取締役会には、被告Y4及び被告Y7が出席した。
(甲F19号証の1及び2、同20号証)
(エ) 原告によるNEDに対する支援の実施
原告は、上記の支援計画に基づき、平成6年9月期にNEDの保有する貸付金債権を共同債権買取機構に売却することにより、77億5639万円の支援を行い、平成7年3月期に152億7430万(共同債権買取機構への債権売却に係る支援額として4億5690万円、債権放棄による支援額として148億1740万円)の支援を行い、平成8年3月期に債権放棄により276億円の支援を行い、平成8年9月期に債権放棄により225億9827万円の支援を行い、平成9年3月期に債権放棄により243億円の支援を行った。
(甲F23号証1の1、同23号証1の2、同23号証の2、同24号証の1の1、同24号証の1の2、同24号証の2、同25号証の1の1、同25号証の1の2、同25号証の2、同27号証の1の1、同27号証の1の2、同27号証の2、同28号証)
オ 当初支援計画の修正
原告は、国税当局の無税承認を得て、平成6年3月期から5年間で総額1900億円の損益支援を行う計画を策定し、これに基づき、平成9年3月期までの4年間で1051億円の支援を実施したが、当初支援計画では、平成9年3月末時点における残存不良債権の損失処理額は767億円の見込みとしていたものが、実際には2924億円となっていた。さらに、NED全体の資産状況は、営業貸付金の含み損、受皿会社の赤字を中心に3000億円強の債務超過状況にあり、収益状況は本体部分で黒字決算をしているが、不良債権の処理により連結ベースで80億円の赤字状況にあった。そこで、当初の支援枠組みでは、最終年度である平成10年3月期に支援を終了することが困難な状況になったため、原告は、支援計画を見直し延長する必要があるとして、平成9年初めに国税当局に打診の上、同年6月以降具体的な交渉を行い、平成10年1月には最終版の修正支援計画を提出した。その内容は、支援期間が平成14年3月までの4年間延長され、支援金額総額が4001億円(当初の支援計画より2101億円の増加)となるものであった。
(甲F26号証の1の2、同33号証の2)
カ 平成9年10月29日の当座貸越極度額の更新
平成9年10月29日、原告は、NEDに対する当座貸越及び単名手貸多通貨建インパクトローンの複合極度枠1800億円を同額更新した。被告Y7は、事業推進グループ担当役員として、上記更新を決裁した。
(甲F38号証の1及び2、同39号証)
キ 支援としての新規融資供与の方針決定(平成9年11月10日の常務会)
原告は、前記のとおり(250頁のエ)、平成9年11月10日、被告Y4及び被告Y7が出席する常務会を開催し、資金調達問題を中心としたグループ各社対策の基本方針を了承した。
そして、NEDの資金対策は、原告の支援により他行残高の漸減化を図ること、平成12年3月期までの間に1000億円の新規融資を実行しこれにより他行借入3000億円の返済を行うこととされた。また、NEDの将来の見通しは、償却負担から当面清算はできないが、時間をかけて不良債権を処理し、将来清算するしかないこと、ベンチャーの分離は残存不稼働資産の逐次処理の観点から難しく現状のまま本体に残しておくしかないとされていた。
(甲F44号証の1及び2)
ク 本件融資〈5〉の実行
原告は、上記常務会の方針に基づき、平成9年11月28日に18億円、同年12月30日に60億円、平成10年3月31日に34億円、同年5月29日に45億円及び同年6月30日に50億円の合計207億円の新規融資を実行した。
(争いがない。)
ケ 平成10年3月23日の常務会における上記支援計画の修正
平成10年3月23日、原告は常務会を開催し、国税当局の了承は得られていないが、前記のとおり、支援期間を4年間延長し支援総額を4001億円(平成10年3月から平成14年3月まで合計2950億円を支援)とする決定をした。もっとも、これは国税当局への説明用の計画であり、実際には、原告自体の不良債権処理の必要もあり、支援財源に限界があることから、NEDの支援は長期化せざるを得ないとし、平成10年3月から平成18年3月まで時間をかけて合計2950億円の支援を行うとされていた。被告Y4及び被告Y7は、上記常務会に出席した。
(甲F33号証の2)
コ 平成9年度下期の損益支援の実施状況
原告は、平成10年3月31日開催の経営会議において、NEDに対する平成10年3月期支援について、原告の貸付金債権の放棄により、201億8000万円の支援をすることを了承し、同日開催の取締役会において、これを承認するとの決議をした。被告Y4及び被告Y7は、上記経営会議及び取締役会に出席した。
(甲F26号証の1の1、同号証の1の2、同号証の2)
サ NEDの破綻
NEDは、原告が平成10年10月23日に特別公的管理の開始決定を受け、原告からの支援を受け得なくなったため、平成11年3月25日の株主総会において解散決議をし、同月31日、東京地方裁判所に対し特別清算を申し立てた。
(争いがない。)
(4) 被告らの経営判断の内容
本件各支援融資を行うに当たっての被告らの経営判断の内容は、概略以下のとおりである。
本件各支援融資を行う必要性・合理性としては、〈1〉ランディック及びNEDは、原告が本件各支援融資を行わなければ、必要な資金を調達できず、資金繰り破綻を来すことが避けられないこと、〈2〉原告が、原告グループ会社とされているランディック及びNEDを支援しないで破綻させた場合には、日本リース、長銀リースなどの関連・親密先ノンバンクが連鎖的に破綻し、ひいては原告自身も破綻する可能性が高いこと、〈3〉日本発の世界恐慌が現実味を帯びていた平成9年11月当時に原告グループ会社あるいは原告自身が破綻した場合には、日本の金融システムに著しい影響を及ぼし、社会的な影響は到底看過できる規模ではないこと、〈4〉ランディックに対しては、平成14年3月期までに1973億円の損益支援を実施して同社の自転体制を整えることとなっており、平成9年3月期において301億6000万円の損益支援を実施していたが、これを前倒しして平成10年3月期までに全ての損益支援を終了し、ランディックを自転可能な体制とすることができ、本件融資〈4〉による貸付金も回収が見込まれること、〈5〉NEDに対しては今後も損益支援を行っていくことが予定されており、損益支援により営業貸付部門を縮小し、ベンチャーキャピタルとしての本業に回帰すれば、本件融資〈5〉による貸付金も回収が見込まれることなどが考慮された。
そして、資金繰り融資を行う場合の方法としては、ランディックやNEDが原告のグループ会社として位置づけられていることから、他の金融機関に対して、新規融資の共同負担を依頼することは考えられず、そもそもそのような検討はされなかった。
(5) 本件各支援融資を行わない場合の利益状況
そこで、原告が本件各支援融資を行わない場合に、被告Y4及び被告Y7が予測したような事態が生ずるおそれがあったか否かについて検討する。
ア 原告による支援の必要性
まず、被告Y4及び被告Y7は、原告がランディック及びNEDに対して母体行責任を負うことを前提に、本件各支援融資の要否を判断している。原告はランディックに対して母体行責任を負う関係にあったことは前記(230頁のイ)のとおりであり、本件当時においても原告によるランディックに対する経営支配の事実に変化がない以上、原告はランディックに対して母体行責任を負担する関係にあったというべきである。
そこで、当時、原告がNEDに対して母体行責任を負う関係にあったかどうかを検討する。
前記認定(252頁の(3))によれば、NEDは、〈1〉原告が設立提唱者及び設立母体の一つとなって設立されたベンチャーキャピタルであること、〈2〉原告はNEDの資本の4.9パーセントを有し、原告グループでみればそのシェアは61パーセントにも達するなど、実質的に筆頭株主としての地位を有していたこと、〈3〉平成9年3月末時点での原告グループの融資シェアは、46.18パーセントと約5割にのぼっていたこと、〈4〉NEDの取締役12名中、原告出身者が6名と半数を占めていたこと、〈5〉原告は平成6年度から既にNEDに対して当初支援計画に基づく単独の損益支援を行っており、原告における検討資料でも一貫して、「NEDは当行直系のノンバンクである」と記載されていることが認められ、以上によれば、原告とNEDは人的関係・資本的関係・借入関係が密接であり、NEDは原告の経営支配下にあるものとして、他の金融機関から母体行責任を果たすことが期待されるような状況が形成されていたものと認められる。なお、NEDが原告の直系ノンバンクとみられていたことについては、訴状において原告も認めていた。
以上によれば、被告Y4及び被告Y7が、原告がランディック及びNEDに対して母体行責任を負う関係にあるとの前提で、ランディック及びNEDに対する支援を検討したことについては合理的な根拠がある。
イ 原告が本件各支援融資を行わない場合に想定された事態
そこで次に、原告がそのグループ会社であるNED及びランディックに対し、本件各支援融資を行わない場合に、いかなる事態が想定されたかについて検討する。
(ア) ランディックあるいはNEDの破綻
a 証拠(甲E2号証の2)によれば、ランディックグループは、平成8年3月期において、資産面からみれば、グループ全体で営業貸付金等の含み損が1773億円に達し、資本欠損が680億円となっており、収益面では、決算対策により黒字を維持していたが、実態は324億円の赤字であり、原告から損益支援を受けている状況であった。
また、証拠(甲F26号証の1の2、同30号証の2)によれば、NEDは、平成9年3月末当時、資産面からみれば、グループ合計では営業貸付金の含み損、受皿会社の赤字を中心に3000億円を超える債務超過の状況であり、NED単独での資産改善は不可能な状況であった。また、収益面からみても、平成6年3月末には210億円の赤字、平成7年3月末には180億円の赤字と、金利低下により実質赤字幅は縮小しつつあるものの、大幅な赤字が続いており、平成9年3月末当時も、連結合計で80億円の経常損失を出すなど、改善が見込まれず、原告からの損益支援が行われている状態であった。
しかも、平成10年4月からの早期是正措置導入を控えて、各金融機関は銀行系ノンバンクに対する返済圧力を強めており、ランディックにおいては、平成7年度上期から平成9年度上期において外部調達による借入残高は2598億円減少しており、NEDにおいても平成7年度上期から平成9年度上期までの外部調達による借入残高は1439億円も減少していた(甲F43号証の2)。本件各支援融資は、このように各金融機関からの返済圧力が強まる中、このままでは他行残高を維持するのは困難であり、原告が他行肩代わりに追い込まれる危険性が高いことから、むしろ、他行調達の落ち込みに対して、ランディック及びNEDの思い切った資産圧縮と原告からのニューマネー供給により、能動的に各行への計画的返済を実施しようとしたものであって、他行調達の落ち込みを原告がニューマネーで補うことを目的としたものであったから、仮に原告が本件各支援融資を行わなければ、ランディック及びNEDは、平成9年度下期の必要資金を調達することができず、資金繰り破綻する可能性が高かった。
b そうすると、原告は、金融自由化に対応して投資銀行業務を強化・拡充していくことを基本方針としており、不動産業務に関するノウハウを有するランディックが破綻すれば原告の営業戦略に支障を来し、また、原告が進めていた不稼働資産の事業化にも悪影響を与えるおそれがあった。さらに、ベンチャーキャピタルは、原告が将来、証券業務に進出し、新規の融資取引基盤の醸成をはかり、他行との差別化を行うために重要な意味を有するものであるところ、NEDは昭和47年に国内第1号の民間ベンチャーキャピタルとして設立され、平成9年度当時も業界4位の規模を誇る会社として、企業発掘や企業育成に関する様々な実績・経験・情報等を蓄積していたのであるから、こうした無形の財産的価値をNEDの破綻により失うことは、投資銀行業務の拡大により収益力の強化を目指していた原告にとって、営業戦略上重大な損失となるものであった。
(イ) 関連・親密先ノンバンクの連鎖破綻と原告自身の破綻
次に、ランディックあるいはNEDが破綻した場合に、それが他の原告関連・親密先ノンバンクや原告自身にいかなる影響を与えると予測されたかについて検討する。
a 本件各支援融資の当時、母体行は体力の許す限りグループ企業に対して単独で支援を行うべきであるとの考え方がなお支配的であり、仮に母体行である原告が支援をしないまま、ランディックあるいはNEDが資金繰り破綻をした場合には、他の金融機関は母体行である原告には支援能力がないとみなし、日本リースを始めとする原告の関連・親密先ノンバンクに対して一斉に折り返し融資を拒否し、融資引揚げの行動に走ることが合理的に予測された。
しかして、証拠(乙A86号証の5、同88号証の6、同89号証の7、同90号証の7、同92号証の4)によれば、平成9年3月31日時点において、日本リース、長銀リース、NED、ランディックの借入残高は、合計3兆5280億6196万円であるのに対して、原告の融資残高は5918億7501万円にとどまっていたこと、各銀行が融資の引揚げに動いた場合に、原告において関連・親密先ノンバンクの資金繰りを支えることは不可能であり、他の関連・親密先ノンバンクも含めて資金繰り破綻に至る危険性は高かったものというべきである。
b そして、ランディックあるいはNEDなどの関連・親密先ノンバンクが連鎖倒産した場合には、母体行である原告自身にも深刻な影響が予想された。
すなわち、日本リース、ランディック、NED、長銀リースといった原告直系のノンバンクに融資をしている各金融機関は、原告が発行する金融債の引受機関でもあったところ、仮に原告が母体行責任を果たさずに、関連・親密先ノンバンクを破綻させた場合には、各金融機関の原告に対する信用は失墜し、金融債の消化に多大な影響が出ることは明白であった。このことは、平成9年4月に系列ノンバンクを破産させた日債銀の金融債の発行残高が、前記のとおり(239頁の(ウ))、約1年半で半分にまで落ち込み、新発債の利率にも格差が生じ、債券の販売に困難を来すようになったことからも裏付けられる。
しかも、本件各支援融資が決定された平成9年11月当時は、前記のとおり(240頁の(カ))、三洋証券が破綻しコール市場で日本初のデフォルトが発生するなど、日本経済が混乱を極めていた時期であり、原告のコール市場からの短期資金調達も逼迫した状態になっていたことが認められるから、そのような時期に原告の直系ノンバンクが破綻することにより、原告の金融債消化に一層の支障が生じ、金融債の解約を迫られるなどした場合には、原告自身が資金繰りに行き詰まり、資金繰り破綻する可能性も相当程度見込まれたと考えられる。
c これに対して、原告らは、ランディックあるいはNEDの破綻が原告への破綻へと連鎖したことを示す客観的状況が存したことについては全く証拠がないとし、日債銀は平成9年4月1日に系列ノンバンクの処理について法的整理の方策を取ることを発表したが、本件各支援融資決定当時(平成9年11月10日)においても破綻していなかったと主張する。
しかしながら、ランディックあるいはNEDの破綻が原告への破綻へと連鎖した可能性が認められることは上記bのとおりであり、これを単なる杞憂ということはできない。また、日債銀が直ちに破綻せずに存続したのは、大蔵省及び日銀が日債銀の破綻を回避すべく全面的にバックアップをし、民間金融機関に要請をして、いわゆる奉加帳増資と呼ばれる日債銀への増資(合計約2107億円)を取り付けたためであるが(乙A47号証)、本件融資〈4〉及び〈5〉を決定した当時は、タイのパーツ不安から発生したアジア危機(平成9年7月)や、三洋証券破綻(平成9年11月3日)により、日本の金融システムがパニック状態を呈していた時期であって、他の民間金融機関の協力による奉加帳増資方式が直ちに実施し得たとも考え難い。
以上によれば、原告らの上記主張は採用することができない。
d また、原告らは、本件融資〈4〉及び〈5〉が原告自身の破綻回避のための融資として許されるためには、当該融資により相当な期間内に原告の破綻を回避することができる具体的・客観的な目途が存在する場合でなければならないところ、原告は、本件融資〈4〉及び〈5〉の決定当時、手元資金余剰もいつ枯渇してもおかしくない状況にあった上、大手格付機関により格付も引き下げられ、株価も一貫して下落していたことなどから、既に市場における信用は著しく低下していて、近く原告の資金繰りが破綻するおそれが大きかったのであるから、破綻回避の具体的・客観的目途はなかったと主張する。
この点、証拠(甲F52号証及び同55号証)によれば、〈1〉平成9年8月7日、ムーディーズが原告の長期格付けをトリプルB1からトリプルB2に格下げしたこと、〈2〉日債銀問題の影響を受けて、原告の金融債の発行残高も減少し、平成9年2月7日には13兆円6183億円であった発行残高が、平成9年10月31日には12兆6544億円と減少したこと、〈3〉平成9年11月の金融危機の影響により、原告の金融債発行残高はさらに減少し、平成10年3月末には11兆3194億円となったこと、〈4〉原告は、金融債発行残高の減少をコール市場からの短期市場性資金の借入によって補っていたが、短期市場性資金は、短期間で到来する返済期限において、債権者が折り返して新規資金に応じてくれる保証のない不安定な資金であり、短期市場性資金により資金調達を依存することは原告の資金調達構造を脆弱にするものであったこと、〈5〉平成9年11月には、三洋証券がコール市場においてデフォルトを起こしたことから、信用の低下していた原告は、コール市場においてコール枠や担保付の高金利を設定されるなどして、コール市場からの資金調達も窮屈になったこと、〈6〉平成10年1月からは株式や金融債を担保にした借入による資金調達を開始するなど、原告の資金調達が相当逼迫してきたことなどが認められ、以上によれば、平成9年上期から徐々に苦しくなっていた原告の資金繰りは、平成9年11月の金融危機の影響で、コール市場からの資金調達や金融債の発行に支障が生じたことにより、さらに困難が生ずるようになり、平成10年1月には相当に逼迫した状態になったことが認められる。
しかしながら、原告は、前記(243頁の(イ)、243頁の(ウ))のとおり、平成9年7月にSBCとの業務提携を発表し、SBCから2000億円の資本注入を受け、不良資産を償却できるだけの財務基盤を強化すると共に、投資銀行機能を持つ証券会社、投資顧問業、プライベートバンキングの三つの合弁企業を成長させることにより、投資銀行として大きく飛躍するとの計画を具体化している最中であったのであり、平成9年7月末から9月末まで原告の株価も500円台を保つなど、SBCとの業務提携に対する市場の評価は高いものがあった。また、本件融資〈4〉及び〈5〉が決定された平成9年11月10日時点において、原告の資金繰りは従前に比べて苦しくはなってきていたものの、平成9年11月時点における原告の手元余剰資金は約1兆円であり、当時原告が資金繰り破綻することが具体的に予想される状況ではなかった(元大蔵省銀行局長である西村吉正氏もその著書の中で、平成9年7月のSBCと原告の業務提携発表に触れ、「当時、それから1年余り後に長銀が破綻すると予想した人はほとんどいなかったのではないか。」と述べている。乙A40号証)。
以上によれば、平成9年11月の本件各支援融資の決定時において、既に、原告が近く破綻するおそれが大きい状況にあったとまでは認められず、本件融資〈4〉及び〈5〉を実行してもいずれ原告が破綻したであろうと予測されたとはいえない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
e さらに、原告らは、本件各支援融資が決定された常務会においては、同融資が原告の破綻回避のために不可欠か否かは全く検討されておらず、経営判断の名に値するような真摯な検討も全くされていないとも主張する。
しかしながら、当時の金融情勢や原告とランディックあるいはNEDの関係に照らせば、上記2社を破綻させた場合に原告自身の存立が危うくなる可能性があることは、議論するまでもなく自明のことであったのであるから、常務会の資料に原告の破綻に触れた記載がないからといって、この点の検討が欠けているとは認められない。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(ウ) システミックリスクの発生
次に、原告の関連・親密先ノンバンクが破綻し、原告自身も連鎖破綻した場合に、我が国及び世界の金融システムにいかなる影響が生ずると予測されたかについて検討する。
a 関連・親密先ノンバンクの破綻がもたらす影響
ランディックあるいはNEDの破綻により、日本リース、長銀リースなどの原告の関連・親密先ノンバンクが連鎖破綻した場合には、これらの関連・親密先ノンバンクに融資をしていた各金融機関に、多大な影響が生じたと考えられる。すなわち、証拠(乙A86号証の5、同87号証の5、同88号証の6、同89号証の7、同90号証の7、同92号証の4)によれば、平成9年3月31日時点における上記4社の借入残高は、合計3兆5280億6196万円もの金額にのぼっており(うち原告の融資残高は5918億7501万円)、これら関連・親密先4社が破綻すれば、それぞれの金融機関において融資の大半が貸倒れとなることが予想される。
しかも、平成9年11月当時、日本の金融システムは一種のパニック状態にあり、一部においては取り付け騒ぎも発生しかかっていたことを考えれば、関連・親密先4社の破綻は、これら4社に巨額の融資を行っていた他の金融機関の信用不安につながる可能性もあった。特に、これら4社に対しては、いわゆる中堅中小金融機関(中堅生損保や信連・共済連等の農林系金融機関)も相当額の融資を行っており(平成10年3月末時点において合計5506億円)、関連・親密先4社が連鎖破綻した場合には、これらの体力の弱い中堅中小金融機関の経営が毀損される危険性もあった。
b 原告の破綻がもたらす影響
また、関連・親密先ノンバンクの連鎖破綻により、原告自身も破綻した場合には、日本の金融システムに壊滅的な影響が生ずるおそれがあった。
すなわち、既に述べたとおり(101頁の(イ))、原告はその資金調達を主として金融債に依存していたが、平成9年11月当時、金融債についても預金保険制度の対象とはなっておらず、原告が破綻した場合には、各金融機関や一般国民が保有する金融債は一般債権と同列に扱われ、損失率に応じて元本が削減される可能性があった。このため、原告が破綻した場合には、原告の金融債を大量に購入している各金融機関(特に金融債の主力購入先であった地方金融機関)に大きな影響が生ずる上、個人で金融債を購入している国民の間にも大混乱が生ずることが予想された。さらに、原告の金融債について元本が削減されるような事態になった場合には、他の金融機関(興銀、日債銀、東京銀行、農林中央金庫、商工中金)が発行する金融債に対する信用も揺らぎ、金融債一般に信用不安が波及する可能性があったと認められる。
また、証拠(乙A112号証)によれば、原告は、平成10年3月末時点において、総資産26兆円、金融債発行残高12兆円、総融資残高16兆円、貸出取引先数3万8500件、外貨建資金取引4兆8000億円、金利スワップ取引527兆5300億円の資産・取引内容を有する巨大銀行であったところ、このような巨大銀行が破綻した場合には、原告から融資を受けている借り手企業も連鎖倒産する危険性が高いことは明白であった。また、原告ほどの規模の銀行が破綻した場合には、日本の銀行全体に対する信用が揺らぎ、他行の海外での資金調達にも影響が出てくる可能性が高かった。さらに、平成9年11月当時は、三洋証券・拓銀・山一證券等、日本における主要な金融機関が相次いで破綻するというまさに危機的状況にあり、このような状況下で原告が何の準備もなく破綻すれば、日本発の世界恐慌が起きかねない危険性があったというべきである。
そして、このような銀行破綻による影響を最小限に抑える破綻処理方法としては、受皿になる銀行が破綻銀行の資産・負債を承継する方式があるが、平成9年11月当時、破綻銀行の債務超過状態を解消して受皿銀行に引き継ぐための援助金を投入するシステムとしては預金保険法しか存在せず、その財源となる預金保険機構の資金には限界があることや、受皿になる承継銀行が現れなければ預金保険法は発動できないこと等の制約もあって、その資金援助機能は不十分なものといわざるを得なかった。しかも、公的資金導入の仕組みが設けられていたのは信用組合の破綻処理に限られており、銀行破綻の場合に受皿銀行に公的資金を投入するシステムは存在しなかった。
以上のとおり、銀行が破綻した場合のセーフティネットが不十分であった平成9年当時に、原告がランディックあるいはNEDに対する資金繰り支援を行わず、原告自身も連鎖破綻をした場合には、日本ひいては世界の金融システムに壊滅的な影響が及ぶ危険性があった。
c これに対し、原告らは、本件各支援融資の決定に際して、被告Y4及び被告Y7が、システミックリスクの回避を真摯に検討したわけではないと主張する。
しかしながら、銀行が破綻した場合のセーフティネットの十分に整備されていなかった当時、日本発の世界恐慌が目前に迫っている状況下で原告が破綻すれば、日本ひいては世界の金融システムに壊滅的な打撃を与えることになることは、敢えて議論をするまでもなく明らかであったのであるから、常務会の資料にシステミックリスク回避について触れた記載がないことをもって、この点の検討を欠けているとは認められない。
ウ 小括
以上によれば、本件各支援融資を行わなかった場合に見込まれる損失として、被告Y4及び被告Y7が想定した事態には、相応の根拠があったと認められる。
(6) 本件各支援融資を行う場合の利益状況
これに対し、本件各支援融資を行う場合に生ずる可能性のある損失は、各貸付金560億円及び207億円の回収不能である。そこで、本件各支援融資の償還可能性について検討をする。
ア 本件融資〈4〉の償還可能性
(ア) ランディックからの償還可能性
本件融資〈4〉の当時、前記のとおり(261頁の(ア))、ランディックはグループ全体で、資産面では資本欠損680億円を生じており、収益面でも実態ベースで324億円の赤字を生じていたが、平成9年3月期から平成13年3月期までの5年間で1973億円の損益支援を行い、平成14年3月期にはランディック本体の黒字化を見込む支援計画が決定され、平成9年3月期において既に302億円が損益支援を実行済みであり、しかも、計画の前倒し変更により、平成10年3月期に残額全部について損益支援(債権放棄)を実施することが予定され、これによりランディック本体の不稼働債権(営業貸付金)は解消される見通しが立っており、現実にも平成10年3月期末において約1607億円の債権放棄が実施されていることからすると、本件融資〈4〉についてはランディックの再建が図られる中において、回収を行っていくとの一応の見通しはあったということができる。
(イ) 債権放棄との関係
原告らは、本件融資〈4〉はランディックに対する債権放棄が予定された状況の下で実行されたものであるから、本件融資〈4〉は償還可能性がなかったと主張する。
しかしながら、証拠(乙A112号証)によれば、債権放棄によって損益支援を行う場合にどの債権を放棄するかは、利息や返済期等を考慮の上、決算期において選択決定されることが認められるのであるから、本件融資〈4〉の時点では、当該融資が債権放棄の対象となるか否かは未定であるといわざるを得ない。
さらに、支援の方法として、債権放棄による損益支援は支援先のバランスシートを改善するものではあるが、それ自体はニューマネーを供給するものではないから、債権放棄をするのみでは、他行からの融資の引揚げ等があった場合などに関連会社の資金繰りが行き詰まり、資金繰り破綻を来す可能性がある。そこで、銀行が関連会社を支援し、再建を図るためには、損益支援により不稼働資産を圧縮しキャリングコストの軽減を図るだけではなく、支援先が資金繰り破綻を来すことがないように資金を供給し、企業活動を継続させる必要があり、資金供給をせずに関連会社を資金繰り破綻をさせてしまえば、それまでの損益支援が水泡に帰する。そして、損益支援により関連会社の内容が改善され自転可能な状態となった場合には、資金繰り支援により融資した貸付けも回収することができるのであるから、損益支援を行っている企業に対して融資をすることが、償還可能性のない融資をすることを意味するわけではない。
(ウ) 原告の資金繰り及び償却・支援体力に対する影響
また、原告らは、本件融資〈4〉が、原告の資金繰りを圧迫するとともに、さらに当時原告の償却体力からみて原告の経営を危険にさらす支援であったと主張する。
しかしながら、原告の当時の資金繰りについては、平成9年11月ころには相当程度困難な状況下にあったことは認められるが、それ故、本件融資〈4〉を実施しない限り、かえって原告自体の資金繰り破綻を招く危険すらあったところ、これを回避するために本件融資〈4〉を行ったこと、また、平成10年3月期には、原告の資金繰りは改善されていたことなどから、原告らの主張は採用できない。
また、本件融資〈4〉は融資であり、償還可能性が認められることは既に述べたとおりであるから、融資額それ自体が原告の損失とされるものではなく、原告らの主張は採用できない。
さらに、償却・支援体力と関連・親密先全体の不良債権との関係は、必ずしも原告らの指摘するような状況になかったことは既に述べたとおり(169頁のb)であるから、原告らの主張は採用できない。
イ 本件融資〈5〉の償還可能性
(ア) NEDからの償還可能性
本件融資〈5〉の当時、NEDが、資産面において3000億円を超える債務超過であり、収益面でもベンチャー部門では9億円の黒字であったものの、その他の部門で89億円の赤字を出し、合計80億円の赤字であったことは前記のとおり(261頁の(ア))である。
しかしながら、証拠(甲F33号証の2)によれば、原告は平成6年3月から平成10年3月までの当初支援計画を見直し、平成10年3月から平成14年3月までに2950億円の損益支援を行う旨の支援計画を策定し、平成9年6月から国税当局と具体的な交渉を開始していた。仮にこの修正支援計画が実施されれば、支援終了に至るまでの間に含み損の拡大により、さらに債務超過額が増加する危険性はあるとしても、NEDの有する3000億円強の債務超過は2950億円の損益支援により、相当部分が解消されることが期待できた。
また、収益面についてみるに、証拠(甲F47号証の1及び2)によれば、NEDの各部門のうち、ベンチャー部門及び消費者金融向け貸付部門は利益を確保することができていたところ、うち消費者金融向け貸付けについては250億円程度を圧縮することが予定されており、そのため年4億円から5億円程度の減収が予測されていたものの、NEDのベンチャー部門及び消費者金融向け融資部門からは、年間10億円程度の利益を期待することができたことが認められる。
以上によれば、修正支援計画が実施された場合には、当時約3000億円に達していた債務超過が相当部分が解消され、かつ、ベンチャー部門及び消費者金融向け融資部門からは年間10億円程度の収益が期待できたのであるから、本件融資〈5〉について全く償還可能性がなかったとはいえない。
(イ) NEDの清算方針の有無
これに対して、原告らは、NEDは清算することが決定されていたのであるから、本件融資〈5〉には償還可能性がないと主張する。
この点、確かに、〈1〉平成9年1月から3月頃に事業推進部で作成された資料(甲F48号証添付)には、「NEDは存在意義も基盤もない上、現状経営状態が余りにも酷い→再建は不可能であり、最終的には潰すしかない」との記載があること、〈2〉平成9年11月10日の常務会資料(甲F44号証の2)にも、「償却負担から当面清算は出来ないが時間をかけて不良債権を処理し、将来清算するしかない。」との記載があること、〈3〉被告Y7の検面調書(甲F48号証)にも、「私を含む長銀経営陣は、エヌイーディーが将来清算する予定の会社であると認識してました。」との記載があることが認められる。
しかしながら、NEDの本業であるベンチャー部門は、投資銀行を目指していた原告の営業戦略上重要なものとして位置づけられていたのであり、上記各資料で記載されている「清算」という文言の意味が、ベンチャー部門を含めたNED全体の清算であったとは考えられない。事業推進部が作成した資料(甲F48号証添付)においても、NEDの最終処理イメージとしては、「会社分離による特別清算。・新会社…ベンチャー業務+正常債権、・存続会社…不良債権回収」と記載されており、ベンチャー部門を清算することは予定されていない。さらに、平成10年10月26日付の業務会議資料(甲F13号証)においても、NEDがベンチャー企業として自立できる体制を確立するため、原告が1600億円を支援してNEDを再建する計画案が記載されており、原告が、ベンチャー部門も含めてNED全体の清算を検討していたことを認めるに足りる証拠はない。
他方、NEDの業務のうち営業貸付部門については、上記のとおり、分離して特別清算を申し立てることが事業推進部で検討されていたことが窺われるが、〈1〉平成9年11月10日の常務会資料(甲44号証の2)には、「ベンチャーの分離は残存不稼働の逐次処理の観点から難しく現状のまま本体に残しておくしかない」と記載されていること、〈2〉平成10年3月23日の常務会資料(甲F33号証の2)にも、「ベンチャー部門を除いた当社は存続意義のない会社となることから、対外的信用維持を図れないばかりか、税務当局の合理的再建計画にも影響を及ぼし、逐年の処理が認められなくなる可能性大。」「信用面を考慮すれば当該部門の分離は不可能」と記載されていること、〈3〉同日の常務会では、NEDをそのまま存続させることを前提として、今後5年間で2950億円の修正支援計画を実施することが了承されていることから明らかなとおり、営業貸付部門をNEDから分離して法的清算手続をとることが正式に決定されたことはなく、結局、原告としては、一定期間をかけてNEDの不良債権を処理して営業貸付部門を順次縮小していき、最終的には本業であるベンチャー部門を残す方向で検討していたことが認められる。
以上によれば、本件融資〈5〉の決定時点において、NEDが清算されることが正式に決定されていたとは認められず、原告らの上記主張は採用することはできない。
(ウ) 債権放棄との関係
また、原告らは、NEDに対しては平成9年度下期から平成11年度までの間に合計1004億円もの新規資金を融資することが予定されている一方、平成9年度末から平成13年度まで合計2950億円もの債権放棄をしなければならないとの見通しを立てており、これは、本件融資〈5〉決定後のNEDに対する融資が債権放棄の対象となることを意味しているのであるから、本件融資〈5〉が債還可能性のないものであったことは明らかであると主張する。
しかしながら、前記のとおり(271頁の(イ))、本件融資〈5〉の時点では、当該融資が債権放棄の対象となるか否かは未定であること、債権放棄による損益支援により関連会社の内容が改善され自転可能な状態となった場合には資金繰り支援により融資した貸付けも回収することができるのであって、損益支援を行っている企業に対して融資をすることが、償還可能性のない融資をすることを意味するわけではない。
以上によれば、原告がNEDに対して2950億円の損益支援を予定していたことから、本件融資〈5〉が償還可能性がないと認めることはできず、原告らの上記主張は採用することができない。
(エ) 第一勧銀に対する支援要請の可能性
さらに、原告らは、NEDに関しては設立母体の一つであり主要株主でもあった第一勧銀に対して、支援を求めることが可能であったにもかかわらず、本件融資〈5〉に際し、何らNEDへの支援を第一勧銀に要請していないと主張するので、このような観点から、原告の負担を軽減し得る余地があったかどうか検討する。
この点、確かに、平成9年1月から3月頃に事業推進部で作成した資料(甲F48号証添付)によれば、原告は、仮にNEDを清算した場合には、第一勧銀にも損失負担を求める意向を有していたことが認められる。
しかしながら、第一勧銀は、同行の紹介によりNEDが融資をした案件が不良債権化したことから、原告の要求に応じて300億円をNEDの受皿会社に融資していたものの、この融資についても返済期限が来る度に折り返しを渋り、逆に、原告は300億円の融資の期限延長を了承させるために、平成6年3月31日、Y3頭取名義で第一勧銀の当時のL頭取宛にNEDに対する経営指導念書を差入れざるを得ない状態であったことが認められるのであるから、本件における時間的制約をも勘案すると、原告の希望はともかくとして、第一勧銀に何らかの負担を求めることは現実的に不可能であったと考えられる(甲F47号証)。このことは、証拠(甲F48号証添付資料)に、「DKB(第一勧銀)としては当社(NED)は当行(原告)関連会社としての認識であり出資、人材についても当行との関係の中で協力しているとの認識。母体としての認識無し。」と記載されていることからも裏付けられるところである。
(オ) 原告の資金繰り及び償却体力に対する影響
なお、原告の償却体力から本件融資〈5〉が許されないとする原告らの主張は、既に述べたとおり(272頁の(ウ))、採用できない。
以上によれば、被告Y4及び被告Y7が、本件融資〈5〉の決定に当たって、第一勧銀に負担を求めなかったことには相応の合理性があるというべきであり、原告らの上記主張は採用することができない。
(7) 本件各支援融資の合理性
以上によれば、本件各支援融資を行わない場合には、原告グループノンバンクが連鎖破綻し、原告自身もまた破綻する可能性が相当程度あり、その場合には、三洋証券の破綻により混乱を極めている日本経済に取り返しの付かない一撃を与え、日本の金融システムひいては世界の金融システムをも危うくしかねない重大な影響が生ずるおそれが合理的に予想されたのであり、銀行の取締役としては、このような自体に手をこまねいて放置することなく、積極的に回避すべく最善を尽くす義務があったというべきところ、本件融資〈4〉及び〈5〉による貸付金額は560億円及び207億円と原告の財務基盤を危うくするような金額ではなく、かつ、ランディックあるいはNEDに対する支援計画が実行されたあかつきには無事回収される可能性も一応あったのであり、かつ、これに優る方策も他に想定し難いことから、被告らの行った衡量判断には十分な理由があったということができる。
(8) 結論
そうすると、本件各支援融資を行うに当たっての経営判断は、その情報収集・分析、検討に欠ける点はなく、かつ、これに基づく衡量判断についても十分な理由をともなうものであることから、被告Y4及び被告Y7には、善管注意義務違反を認めることができない。
7 争点7
(1) 訴訟引受け
被告らは、原告引受人に対する引受けの申立てが不適法であり、引受人による訴えについて却下を求めているが、平成12年6月13日付けの決定のとおり本件訴訟引受けの申立ては適法なものであり、被告らの主張には理由がない。
(2) 訴権濫用
被告Y8は、原告が勝訴の見込みがあり、かつ資力に問題なく回収確実な別件訴訟を取り下げて、資力に乏しい被告Y8を相手に本件訴訟を提起しており、訴訟上の信義則に違反し、権利の濫用であると主張するが、このような事情から直ちに訴権の濫用があったと認めることはできず、また他にこれを認めるに足りる事情もないから、被告Y8の主張は理由がない。
第6 結論
以上によれば、原告引受人の被告Y9に対する本件請求3及び被告Y7に対する本件請求4は理由があるからこれらをいずれも認容し、原告の上記各請求についてはその請求権が原告引受人に譲渡されていることが明らかであり理由がないからこれらをいずれも棄却し、原告及び原告引受人のその余の請求については理由がないからこれらをいずれも棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法61条、64条本文、65条1項を適用し、仮執行宣言について民事訴訟法259条1項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 永野厚郎 裁判官 渡邉千恵子 裁判官 名島亨卓)
別表1 償却・支援体力及び不良債権処理の推移
H6.3 H7.3 H8.3 H9.3 H10.3
償却・支援体力(※1) 18,657 10,382 13,828 8,889 7,212
〈1〉業務純益 1,218 809 2,036 1,966 1,647
〈2〉有価証券含み益 12,559 4,380 5,792 1,090 △2191
〈3〉貸倒引当金 3,145 3,968 4,976 4,435 7,383
〈4〉剰余金取崩可能額 1,735 1,225 1,024 1,398 373
不良債権処理額(※2) 2,922 3,433 6,499 2,088 6,166
〈1〉本体不良債権処理額 2,873 2,296 5,008 1,154 4,295
〈2〉関連親密先支援損 119 1,137 1,491 934 1,871
単位億円(それ以下四捨五入)
※1 償却・支援体力=業務純益+有価証券含み益+貸倒引当金+剰余金取崩可能額
各年度の体力の額及び内訳額は、証拠(甲A37号証ないし同40号証)により認定
剰余金取崩可能額は、別表2のとおり算定
※2 不良債権処理額=原告の一般先に対する不良債権処理額+関連・親密先に対する支援損
原告の一般先に対する不良債権処理額=直接償却、共同債権買取機構持込損、債権償却特別勘定繰入額等の合計額
不良債権処理額は、証拠(甲A19号証、同37号証ないし同40号証)により認定
関連親密先の支援損の内訳は、別表4のとおり
なお、原告の保有する公表不良債権額は、別表3のとおりであり、原告の関連・親密先全体に対する融資残高を参考までに別表5に記載した。
別表2 原告の自己資本
H6.3 H7.3 H8.3 H9.3 H10.3
リスクアセット 236444 264259 238220 228313 197272
自己資本 22685 20126 21106 21061 20367
基本的項目 11193 11074 10553 10531 10183
補完的項目 11193 9052 10553 10531 10183
自己資本比率(※1) 9.46% 8.51% 8.85% 9.22% 10.32%
8パーセント維持に必要な自己資本額 18915 18901 19058 18265 15782
上記維持に必要な基本的項目 9458 9849 9529 9133 7891
剰余金取崩可能額 1735 1225 1024 1398 373※2
単位億円(それ以下四捨五入)
(※1)自己資本比率=自己資本額/リスクアセット
各年度の自己資本比率は、証拠(甲A37号証ないし甲40号)により認定
自己資本額=基本的項目+補完的項目
各年度の額は、証拠(甲A37号証ないし同40号証)により認定
自己資本比率8パーセント維持に必要な額=リスクアセット×0.08
剰余金取崩可能額=リスクアセット×0.08×1/2-基本的項目
(※2)ただ、平成10年3月期においては、取崩可能額約373億円
H6.3 H7.3 H8.3 H9.3 H10.3
資本勘定 10,752 10,760 9,439 9,516 7,872
うち剰余金 4,771 4,739 3,380 3,433 460
資本勘定は、原告が自己資本比率の維持を考慮しない場合には、一応償却原資となるべき額であり、参考として記載する。
別表3 原告本体の不良債権
H6.3 H7.3 H8.3 H9.3 H10.3
破綻先債権 1,433 2,048 1,065 1,090 2,185
延滞債権 6,018 5,796 6,717 6,865 6,508
3か月延滞債権 – – – – 1,558
金利減免等債権 – – 2,572 113
経営支援先債権 – – 1,615 3,367
貸出条件緩和債権 – – – – 3,534
合計 7,451 7,844 11,969 11,435 13,785
・破綻先債権とは、「更生手続きまたは商法規定上の整理手続、その他これに類する法律上の整理手続の開始の申立てがあった債務者、海外の法律によりこれらに準ずる法律上の整理手続の開始の申立てがあった債務者及び手形交換所において取引停止処分を受けた債務者に対する貸出金」とされる。
・延滞債権とは、「利息の支払が6か月以上滞っている債権で、上記破綻先債権と金利棚上げにより未収利息を不計上とした債権を除いたもの」とされる。
・3か月延滞債権とは、「元金または利息の支払いが3か月以上延滞している貸出金であって、『破綻先債権』および『延滞債権』に該当しないもの」とされる。
・金利減免等債権とは「債務者の債権・支援を図るため、約定条件改訂時において公定歩合以下の水準にまで金利を引き下げた貸出金、および利鞘が確保されていないスプレッド貸出金、ならびに『金利棚上げ』の措置を講じ未収利息を収益不計上としている貸出金」とされる。
・経営支援先に対する債権とは「債務者の債権・支援のため、損金経理について税務当局の認定を受けて債権放棄等を行い、経営支援している先に対する貸出金」を指し、「約定どおりの利息が支払われており、その点では、破綻先債権や延滞債権とは全く異なる」とされる。
・貸出条件緩和債権とは、経済的困難に陥った債務者の債権・支援を図り、当該債務者に対する債権の回収を促進することなどを目的に、金利の減免、金利の支払猶予、元金の返済猶予、債権放棄など、債務者に有利な一定の譲歩を行った貸出金」である。なお、この貸出条件緩和債権には、従来より開示している「金利減免等債権」および「経営支援先に対する債権」を含む。
別表4 関連・親密先に対する支援損の内訳
H6.3 H7.3 H8.3 H9.3 H10.3
長銀リース 43 196 110 156 441
NED 76 230 276 469 202
日本リース 491 1,098
ランディック 302 1,221
その他 219 7 7 7
合計 119 1,137 1,491 934 1,871
単位億円(それ以下四捨五入)
関連・親密先に対する支援損負担額の内訳は、証拠(甲A20号証、同37号証ないし同40号証)により認定
別表5 関連・親密先に対する融資残高
H6.3 H7.3 H8.3 H9.3 H10.3
日本リースGr 4,640 4,092 4,441 4,756 5,122
ランディックGr 1,931 2,921 3,835 3,883 3,646
NEDGr 2,688 2,512 2,370 2,277 2,283
その他関連先 4,049 4,375 2,922 3,755 2,588
その他親密先 4,852 6,089 5,991 7,331 7,832
受皿会社(エル都市、日比谷等) 1,571 3,332 4,196 5,572 6,030
合計 19,431 23,332 23,756 27,574 27,502
単位億円(それ以下四捨五入)
※Grはグループ会社を含めた趣旨
当事者間に争いがない。
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