
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(349)平成18年 2月20日 東京地裁 平15(ワ)13469号 損害賠償請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(349)平成18年 2月20日 東京地裁 平15(ワ)13469号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成18年 2月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平15(ワ)13469号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 上訴等 控訴 文献番号 2006WLJPCA02200004
要旨
◆利用者の電気料金算定の契約種別を電気料金の高額な業務用電力から低額な高圧電力に変更することで利用者から報酬を受け取る業務をしていた原告が、被告電力会社が同業務行為が弁護士法七二条の禁止する非弁行為に該当するとして非弁調査の申立てをし、その旨原告の顧客に通知し、原告の行う業務の受入れを拒否したことが違法であるとして、不法行為に基づき損害賠償の支払を求めた事案につき、被告の行為に違法性はないとして、原告の請求を棄却した事例
新判例体系
公法編 > 組織法 > 弁護士法〔昭和二四年… > 第九章 法律事務の取… > 第七二条 > ○非弁護士の法律事務… > (三)法律事務 > A 該当事例
◆電気需要契約の需要家から委任を受けて電力会社に対し料金の安い契約種別に変更することを協議・交渉し、成功報酬を得るコンサルティング業務は、非弁行為に当たる疑いがある。
出典
判タ 1250号250頁
判時 1939号57頁
新日本法規提供
参照条文
弁護士法72条
弁護士法72条1項
民法709条
裁判年月日 平成18年 2月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平15(ワ)13469号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 上訴等 控訴 文献番号 2006WLJPCA02200004
原告 コスモライフ株式会社
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 若菜允子
同 菅野則子
被告 東京電力株式会社
代表者代表取締役 B
訴訟代理人弁護士 柏崎正一
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、金1億7490万0345円及びこれに対する平成15年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
原告は、電気の利用者から委任を受けて、電力会社に対し、当該利用者の電気料金算定の基礎となる電気需給契約上の契約種別を電気料金の高額な業務用電力からそれが低額な高圧電力へ変更するよう求め、契約種別が高圧電力に変更になると当該電気の利用者から報酬を受け取るという業務(以下「本件業務」という。)を行っていたところ、被告はこの業務が弁護士法72条の禁止する非弁行為に該当するとして、弁護士会に対して非弁調査の申立てを行うとともに、原告に対して本件業務は非弁行為に当たるので原告を介した協議等には応じない旨通知した上、それ以降本件業務の受入れを拒否し、かつ、そのことを原告の顧客に対しても通知した。
本件は、原告が、原告の行う本件業務は非弁行為に該当しないから、被告のしたこれらの行為は、本件業務を違法に妨害するものであり不法行為を構成するとして、民法709条に基づき、原告の被った損害の賠償を求める事案である。
1 前提となる事実(末尾に証拠を掲げない事実はいずれも当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は、電気工事及び経営コンサルタント等を業とする株式会社である(乙9)。
原告は、平成8年から、需要場所に適用される電気需給契約の契約種別が業務用電力とされるか高圧電力A(以下「高圧電力」という。)とされるかによって電気料金が異なる(業務用電力の方が高額である)ことから、電気の利用者(以下「需要家」という。)の需要場所の契約種別が業務用電力とされている場合に、需要家との間で、高圧電力が適用されるよう、電力会社に申し入れ、契約種別が高圧電力になり、需要家の電気料金が削減された場合には、その削減された電気料金の6か月分を報酬とするという内容の電気料金診断及びコンサルティング契約(以下「本件業務契約」という。)を締結し、本件業務を行っていた。
イ 被告は、電気事業を営む株式会社である。
(2) 本件非弁調査申立て
被告は、平成13年6月20日付けの「非弁の疑いのある者に対する調査申立」と題する書面をもって、第一東京弁護士会の「弁護士業務の適正化に関する委員会」に対し、原告及び株式会社ノースランド(以下「ノースランド」という。)が非弁の疑いのある活動を行っているとして、その調査の申立てをした(以下「本件非弁調査申立て」という。)。
なお、ノースランドの事業本部は原告の東京支社と同一の場所に所在し、原告の代表取締役のA(以下「原告代表者」という。)はノースランドの名刺を使用するほか、平成12年9月11日、原告とノースランドとの間で、原告の行っていた本件業務の一部についてその契約窓口の代行をノースランドに委託する旨の契約をするなど両者は密接な関係にあった(甲26の1、乙2の1、乙3の1ないし4)。
(3) 本件通知等
被告は、平成13年9月27日、当時の原告の代理人であったC弁護士及びD弁護士に対し、原告及びノースランドの行う本件業務が弁護士法72条に規定する非弁行為に該当する疑いがあることから、以後、原告及びノースランドとの対応を控える旨伝えた。
また、被告は、同月28日、原告から上記告知に対し問い合わせがあったことから、原告に対しても、上記と同様、以後、原告との対応を控える旨伝えた上、同日以降、原告との対応を行わなくなった。
被告は、同年10月3日付け書面をもって、原告の顧客であった佐川急便株式会社(以下「佐川急便」という。)に対し、原告及びノースランドの業務は弁護士法上問題があるとして、以後、原告及びノースランドとの対応を差し控え、直接、佐川急便と契約種別の変更に関する協議等をしていきたい旨の通知をした。また、被告は、そのころ、同じく原告の顧客である西濃運輸株式会社(以下「西濃運輸」という。)及び株式会社沖電気物流センター(以下「沖電気物流」という。)に対しても同様の内容の通知をした(以下これらの通知を「本件通知」という。)。
2 当事者の主張
(原告の主張)
(1) 原告の業務が非弁行為に当たらないこと
ア 本件業務の内容
原告の行う本件業務は、電力会社が当初の電気需給契約成立時において需要場所の電気使用設備及び電気使用状況という客観的事実の確認を怠り、その結果、電力会社が契約当初より高圧電力か業務用電力かの契約種別の適用を誤っている需要場所について、電力会社の現場調査に立ち会って需要場所の電気使用設備及び電気使用状況という客観的事実を説明し必要に応じて類似事例を提示して事実確認の援助を行う業務である。
すなわち、そもそも、ある需要場所について高圧電力と業務用電力とのいずれの契約種別を適用するべきかは、電気事業法19条4項の規定を受けて電力会社が制定した電気供給約款によるところ、同約款によれば、業務用電力は「高圧で電気の供給を受けて、電灯もしくは小型機器を使用し、または電灯もしくは小型機器と動力とをあわせて使用する需要」と、高圧電力は「高圧で電気の供給を受けて、動力(付帯電灯を含みます。)を使用する需要」と定義され、また、これらの規定中の「高圧」、「電灯」、「小型機器」、「動力」及び「付帯電灯」という用語についてもそれぞれ定義されており、ある需要場所の契約種別の適用に当たっては、電気使用設備及び電気使用状況という客観的事実が上記いずれの定義に該当するかによって決定することになるのであるから、電力会社にも需要家にも高圧電力か業務用電力かを選択する裁量はなく、電力会社と需要家とが協議、交渉し、その結果の合意によって契約種別を決定することはできないのである。
よって、原告の本件業務は、電気供給約款に定義されている高圧電力の適用の有無を決定する電力会社又は電力会社の職員に対して、需要場所における電気使用状況の説明及び類似事例を提示することにより高圧電力への是正を促すことに尽きるものであり、被告との間で協議、交渉を行うものではない。
イ 本件業務が非弁行為に該当しないこと
(ア) 本件業務は、弁護士法72条の「法律事件」ではない。弁護士法72条の「法律事件」とは、法律上の権利義務に関して争いや疑義があり、又は新たな権利義務の発生する事件であるが、さらに、同条の立法趣旨が、弁護士以外の者がみだりに法律事件に介入することを業とする行為を放置すると当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、これらの行為を禁圧することにあることにかんがみれば、「法律事件」とは、弁護士の有するような法的知識を必要とするものを念頭に置き、所定の法的知識を備えた者が事案を取り扱うことによって初めて適正な取扱いが行われる案件をいうものと解するべきである。
本件業務の対象となる高圧電力と業務用電力とのいずれの契約種別を適用すべきかは、電気使用設備及び電気使用状況という客観的事実に基づいて、電気供給約款に定める定義のいずれに該当するかによって決定されるものであるから、法律上の権利義務に関して争いや疑義はなく、また、契約種別の是正は、被告が現場を調査し需要場所に関する客観的事実を基にして当初の電気需給契約の内容を履行するものに過ぎないのであるから、是正によって新たに権利義務が発生することはない。
さらに、本件業務は、需要場所の電気使用設備及び電気使用状況の調査とそれらの事実の説明に尽きるのであるから、本件業務の実施に当たって必要とされる知識や能力は電気の専門知識とそれに基づいて電気使用設備及び電気使用状況を説明できる能力であって、法律知識は一切必要としない。ほとんどの弁護士には上記のような電気の専門知識及び説明能力はなく、知識情報も有していないことは公知の事実であり、現に弁護士が本件業務を行った事例はないのであって、弁護士の有するような法的知識を必要とするものを念頭に置き、所定の法的知識を備えた者が事案を取り扱うことによって初めて適正な取扱いが行われる案件とはいえない。
したがって、本件業務は「法律事件」に該当しない。
(イ) また、本件業務は弁護士法72条の「法律事務を取り扱」うものではない。弁護士法72条の「法律事務を取り扱」うとは、法律上の効果を発生・変更する事項の処理を指すものと解されているところ、本件業務は、上記のとおり、事実の説明及び類似事例の提示にとどまるものであって、法律上の効果を発生・変更する事項を処理するものでないばかりか、原告の説明は電力会社の行う判断の参考でしかなくこれによって是正の効果が発生するものでないことからしても、法律上の効果を発生・変更する事項の処理をするものでないことは明らかである。そもそも、ある需要場所において契約種別が業務用電力から高圧電力に是正されるのは、新たな電気需給契約が成立したことによるものではなく、電力会社が確認した事実に基づき供給約款にのっとって当初契約の債務の履行として正しい契約種別に是正するものであって、原告の業務は事実上電力会社による契約種別の是正を促すものでしかなく、法律上の効果を発生・変更する事項の処理をするものではないから、本件業務は「法律事務を取り扱」うものには該当しない。
(ウ) さらに、実質的にみても、本件業務は弁護士法72条の保護法益である当事者の正当な法的利益、法律生活の公平かつ円滑な営み及び法律秩序を侵害する行為ではなく、同条が禁止する非弁行為には該当しない。
すなわち、原告の行う本件業務は、電気使用状況が同一の需要場所であるにもかかわらず、その契約種別が業務用電力となっている場合に電気供給約款の適用の誤りを是正して統一化するために、電力会社に対して需要場所の電気使用状況を説明し類似事例を提示することであり、これによって公平の原則を課されている被告が、不統一な取扱いにより契約種別の適用を誤って不当に高額な電気料金を取得しているという不公正状態を解消して、電気供給約款及び電気需給契約の内容について無知な需要家の利益を確保するものであって、公共的・公益的性格を有する。また、本件業務は、被告及び需要家の正当な利益を害するものではない上、弁護士が専門的知識を有しない事柄について、原告が電気についての専門的知識及び類似事例についての情報を収集し、需要場所の電気使用状況の説明及び類似事例の提示を行うというものであり、法律生活の公平かつ円滑な営み及び法律秩序を侵害するものではない。
(エ) したがって、本件業務は、弁護士法72条の禁止する非弁行為には該当しない。
(2) 被告による業務妨害行為
ア 本件非弁調査申立て
被告は、電気供給約款の作成者として同約款による契約種別の適用、是正の仕組み及びそれを前提とする本件業務の内容が事実の確認の援助でしかないことを熟知し、本件業務が非弁行為に該当しないことを知りながら、第一東京弁護士会に対し、本件非弁調査申立てを行った。しかも、その申立書において、業務用電力及び高圧電力のいずれの契約種別が適用になるかは、当該需要場所の電気使用設備及び電気使用状況が同約款のいずれの定義に該当するかによって被告自身が適用を決定するという同約款の規定には一切触れず、原告が「需要家の需給契約の種類の変更の申入れをして、電力会社と協議・交渉をし、契約種別の変更契約を成立させる、ということをしています」、原告が本件業務に際して「弁護士の名義を借りて」、「弁護士名義の利用」という虚偽の記載をし、また、「現在明白な非弁活動を大っぴらに行っており」「またそのために弁護士を利用するという違法な手段を用いるに至っている」として本件業務を非弁行為と結論づけ、原告及び原告の本件業務について誤った結論に誘導するような内容の申立てを行った。
イ 本件通知及び本件業務への対応の拒否
被告は、原告及び原告の当時の代理人に対し、本件業務は弁護士法72条の非弁行為に該当する疑いがあるので、それ以降、原告との協議等は差し控える旨告知した上、実際に原告の本件業務の受入れを拒否し、また、原告の顧客に対し、第一東京弁護士会の本件非弁調査申立てに対する決定を待たずに、弁護士法72条を引用し、原告の業務が弁護士法上問題があり、弁護士会にその調査を申し出たところ、弁護士会が正式に調査を開始したため、原告との対応を控える旨の文書を送付した(本件通知)。
ウ 被告の目的
被告が、原告の行う本件業務が弁護士法72条の非弁行為に該当しないことを知りながら、弁護士会に対し虚偽の申立てを行い、それを原告及びその顧客に通知したのは、平成12年中に被告管内を除いて原告の顧客であった佐川急便の全国の配送センターの契約種別が高圧電力に是正され、平成13年に入って原告からそれらの事例を提示された被告はその客観的事実によって高圧電力が適用になることを認めたが、これによって佐川急便と同形態の他の配送センターにおいても全面的に業務用電力から高圧電力への変更を認めざるを得なくなったことから、他の多くの需要家からも被告が誤った契約種別を放置して不当に高い料金を取り続けていることが指摘されて被告の不正行為が暴露されることにより重大な社会問題となることを恐れて、それを隠蔽するために、同業他社に比べて顧客からの信頼も厚く、取扱件数も多数であった原告の本件業務を阻止する目的に基づくものであった。
(3) 被告の行為の違法性
ア 非弁調査申立制度の悪用・濫用による公序良俗違反行為
(ア) 被告は、原告の行う本件業務が非弁行為に該当しないことを十分に知りながら、原告の本件業務を阻止する目的で本件非弁調査申立てをし、これによって原告の本件業務を阻止したものであり、被告の行為は非弁調査申立制度の悪用あるいは濫用であって公序良俗違反の違法行為である。
(イ) また、仮に、原告の行う本件業務が非弁行為に当たるとしても、被告が自らの不正行為を隠蔽することを目的とし、そのための手段として、非弁調査申立手続を利用し、かつ、本件通知を行ったものであり、これは、弁護士会の非弁調査申立手続を悪用したものとして違法というべきである。
イ 申立内容の虚偽記載に関する公序良俗違反行為
被告は、上記のとおり、原告の本件業務を阻止する目的で弁護士会の誤った判断を求めることを企図して、本件業務について虚偽の事実を記載して本件非弁調査申立てを行ったものであり、これは非弁調査申立制度の趣旨に反し公序良俗に違反する違法行為である。
ウ 本件業務の受入れを拒否する違法行為
電力会社は、経済産業大臣の認可を受けた供給約款以外の供給条件によって電気を供給してはならず(電気事業法21条1項)、電気供給約款が適正・公正に適用されているか否かを確認し、誤った契約種別の適用については自ら是正すべき義務を負担しており、原告の本件業務を拒否する正当な理由がないにもかかわらず、被告は本件非弁調査申立てに対する弁護士会の判断がなされる前に、原告の顧客に対して今後は原告の本件業務を認めないと通知し、原告の本件業務の受入れを拒否しており、これは電気事業法21条1項に反する違法行為である。
エ 弁護士法上の問題を理由とする通知の違法行為
被告は、原告の顧客に対し、弁護士法72条の規定を引用して、本件業務は弁護士法上問題があり、以後は原告の本件業務の受入れを拒否することを通知している。弁護士法72条は、刑事罰に関する規定であるところ、本件業務は上記のとおり非弁行為に該当しないのであるから、被告の行為は、原告の名誉を毀損する違法行為である。
オ 以上、被告は、原告の本件業務を妨害する意図の下に、原告の本件業務が非弁行為に該当しないことを熟知しながら、本件業務の内容を歪曲した本件非弁調査申立てをし、地域独占企業として原告の本件業務の受入れを拒否することができないにもかかわらず弁護士会が調査を開始したなどと虚偽の理由をねつ造し、原告及び原告の顧客に対し、犯罪者である原告の本件業務を以後受け入れない旨通知するなど、上記アないしエの公序良俗に反しかつ違法な行為によって原告の営業活動を侵害したものである。
(4) 損害
原告は、被告の上記一連の違法な行為によって、本件業務を継続することができず、また、原告が全国的な大企業を顧客としていたために他の電力会社の管轄下においても新たな営業活動をすることができず、したがって、原告が当時締結していた本件業務契約から生ずる報酬を受け取ることができなくなり、また、その後の営業活動によって得ることができたはずの利益を失い、さらに、被告による本件非弁調査申立てに対処するために多額の費用がかかるという損害が発生した。
すなわち、まず、原告は、その営業活動が被告の不法行為によって妨害されることによって1億6565万円の得べかりし利益を失った。
また、原告は、被告が弁護士会の非弁調査申立てを悪用し、原告の本件業務を妨害したために、本件非弁調査申立てに対処するための弁護士費用として925万0345円を支払った(ただし、本件訴訟における原告訴訟代理人弁護士の報酬を除く。)。
したがって、原告は、被告の不法行為によって、合計1億7490万0345円の損害を被った。
(被告の主張)
(1) 原告の主張(1)は争う。
ア 原告は、需要家の委任を受けて、契約種別を業務用電力から高圧電力に変更してもらうよう、電力会社と協議、交渉し、それに成功して、契約種別が高圧電力に変更され需要家の電気料金が減額されれば、需要家から、減額された電気料金に応じ報酬の支払を受けるという業務を行っている。
原告は、電力会社の職員が高圧電力への変更を拒むと、電力会社に対して協議を申し入れ、その上自己の名前で弁護士を雇い、種別変更を認めるべきであるとの意見書を書かせ、弁護士共々電力会社との協議、交渉を執拗に続け、さらに行政機関に対し、自己の名前で他人の電気需給契約に関して、電気事業法111条に基づき「苦情の申し出」を出したりして電力会社に対して契約種別の変更を認めさせようとしていた。
ある需要場所での契約種別が業務用電力になるか高圧電力になるかは電気需給契約の一要素として、電気使用設備及び電気使用状況等を基に当事者の申込みと承諾によって決まる。新たに需給契約を締結する場合は需要家が業務用電力か高圧電力かその契約種別を明らかにして申込みをし、被告がこれを承諾することによって契約が成立し、契約種別が決定され、契約の途中で業務用電力から高圧電力に契約種別を変更する場合も、これに準じて、需要家が高圧電力に変更を求める申込みをし、被告がこれを承諾することにより、業務用電力が高圧電力に変更されることになる。
また、契約種別は電気使用設備及び電気使用状況という客観的事実から直ちに決定されるわけではなく、いずれの契約種別に該当するかは解釈の余地のあるものであって、実際に、原告と被告との間で契約種別が業務用電力か高圧電力かが問題とされた際、当該需要場所で使用している電灯が付帯電灯に該当するか否かの判断については、原告と被告との間で解釈が対立していたものである。
原告は、上記のように解釈の余地のある契約種別の適用について、被告との間で協議・交渉を行うことをその業務としていたのである。
イ 上記の原告の行う本件業務は、報酬を得る目的で、他人間の法律事件、すなわち、法律上の権利義務に関して争いや疑義がある案件、又は新たな権利義務関係の発生する案件について、被告と協議・交渉するなど法律事務を取り扱うものであるから、弁護士法72条が禁止する非弁行為に該当することは明らかである。
(2) 原告の主張(2)は争う。
ア 被告は、従来から本件業務が弁護士法72条に違反するのではないかという疑いを持っていたところ、原告の行う本件業務が弁護士法72条に違反する疑いがあるとの考えを固めたので、平成13年6月20日、第一東京弁護士会に本件非弁調査申立てをした。
被告は、弁護士会から原告の行う本件業務が非弁行為である疑いが強いから正式に調査を開始する旨の意向が示されたので、まず、原告の当時の代理人及び原告に対し、非弁行為の疑いについての被告の見解を伝えたが、原告側は全く自粛する様子がなかったため、原告の顧客に対し、それ以降原告との協議は差し控え、直接話合いをしたい旨通知した。
イ 被告は、本件業務が非弁行為に該当すると考えたことから、本件非弁調査申立てを行い、原告との交渉をそれ以降差し控えることを決定し、また、そのことを原告の顧客に対し通知したものであり、原告が主張するように、原告の業務が弁護士法72条の規定する非弁行為に該当しないことを知っていたとか、被告の不正行為が暴露され重大な社会問題となることを恐れ、これを隠蔽することを目的として本件非弁調査申立てを利用したということはない。
なお、原告は、同業他社に対しては非弁調査の申立てをしていないことを問題とするが、他社の全貌は必ずしも明らかではなく、原告の場合のように明確な証拠を入手していない。そのため、何社かについて非弁調査の申立てを検討したが取りやめた経緯があるのであって、原告だけを狙い打ちにした訳ではない。
(3) 原告の主張(3)は争う。
ア 原告の行う本件業務は、弁護士法72条が規定する非弁行為に該当するから、そもそも原告の営業活動は法律上保護されるべき利益には当たらず、被告の行為は違法ではない。
また、原告の違法性に関する主張は、証拠調べが終了した後の口頭弁論終結期日に陳述されたものであり、時機に後れた主張として却下されるべきである。
イ 被告は、原告の行う本件業務が弁護士法72条の禁止する非弁行為に該当すると考えたことから、その調査をした上で、第一東京弁護士会が定める「第一東京弁護士会弁護士業務の適正化に関する委員会規則」に基づいて、第一東京弁護士会に対して本件非弁調査申立てを行ったものであり、しかも、上記のとおり本件業務は弁護士法72条の非弁行為に該当するのであるから本件非弁調査申立ては違法ではない。
また、原告が本件業務を停止することになったとしても、それは、被告が本件非弁調査申立てをしたからではなく、被告が原告との交渉を差し控えることとなったからであって、本件非弁調査申立てとは何ら関係が無く、違法ではない。
ウ 被告は、本件非弁調査申立て後3か月を経過した平成13年9月中旬ころ、弁護士会に対し問い合わせをし、申立てを正式に取り上げ、調査を開始しているとの回答を得たことから、まず、原告の当時の代理人及び原告に対し、それ以降原告との協議を行わない旨の通知をした。被告は、原告の顧客に対して原告とそれ以降協議等を行わない旨の通知をしたが、それは、原告を介して被告と交渉していた原告の顧客が交渉の中断によって不都合を被ることを防止するためであり、違法ではない。
また、原告が本件業務を停止したのは、被告が原告の顧客に対して原告の行う本件業務が弁護士法上問題があるとして、今後原告との協議等を控えるとの通知をしたからではなく、被告が原告との間の協議等をそれ以降行わないと決定したことに基づくものであり、被告が原告の顧客に対して通知をしたことは違法ではない。
一方、被告は、第三者であり弁護士ではない原告を介入させて協議等を行わなければならない義務はなく、原告との協議等を行わないこととしたことは違法ではない。
(4) 原告の主張(4)は争う。
原告の主張する損害及び因果関係については争う。
3 争点
(1) 被告が本件非弁調査申立てをしたこと、それに基づき本件通知をしたこと及び原告の行う本件業務の受入れを拒否したことの違法性の有無(争点1)
(2) 損害の有無及びその額並びに因果関係の有無(争点2)
第3 当裁判所の判断
1 争いのない事実に後記認定事実中に掲げた各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(1) 電気事業法及び電気供給約款の規定等
ア 電気事業法の規定
被告は、電気事業法3条に規定する経済産業大臣の許可を受け、一般電気事業を行う株式会社である(一般電気事業者、同法2条、弁論の全趣旨)。
電気事業法は、電気が国民生活及び産業活動に不可欠で、かつ、代替性の乏しい基礎的エネルギーであること、また、電気の供給に関する設備についての二重投資の防止を図ることが国民経済的に見て望ましいことから、一般電気事業を許可制に係らしめるとともに、一般電気事業者が供給区域以外の地域における需要に対して電気を供給してはならないと規定している(同法3条、18条5項、甲9)。
他方で、その結果、一般電気事業者の独占が事実上確保されることになるため、独占の弊害から電気の使用者の利益を保護することが必要であることから、同法18条1項は、一般電気事業者は、正当な理由がなければ、その供給区域における一般の需要に応ずる電気の供給を拒んではならないと規定している(甲9)。
また、一般電気事業は事業許可制の下で一般の需要に応じ地域独占的な供給を行う公益事業であり、需要家は、好むと好まざるとにかかわらず、事実上供給を受ける一般電気事業者を特定されることになるため、一般電気事業者がその独占的地位を利用して料金その他の供給条件について恣意的に定めたり、あるいは各需要家間の取扱いが不公平となることのないように、一般の需要に応ずる電気の供給に係る料金その他の供給条件については、経済産業省令で定めるところにより、供給約款を定めるときは経済産業大臣の認可を受けることを要する(約款の変更も同様)と規定し(同法19条1項)、一方で、経済産業大臣は、〈1〉電気料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること、〈2〉電気料金が供給の種類により定率又は定額をもつて明確に定められていること、〈3〉一般電気事業者及び電気の使用者の責任に関する事項並びに電気計器その他の用品及び配線工事その他の工事に関する費用の負担の方法が適正かつ明確に定められていること、〈4〉特定の者に対して不当な差別的取扱いをするものでないこと、のいずれにも適合していると認められるときは供給約款を認可しなければならないと規定している(同条2項、甲9)。
さらに、電気事業法は、電力会社は、経済産業大臣の認可を受けた供給約款以外の供給条件によって電気を供給してはならない旨規定している(同法21条1項)。
イ 電気供給約款の規定
被告は、電気事業法19条の規定に基づき、電気供給約款を経済産業大臣に届け出て、同約款は経済産業大臣の認可を受けた。
同約款(平成14年4月1日実施版、甲8、乙1の4)には、大要、以下のとおりの規定がある。
(ア) 適用
被告が、一般の需要に応じて電気を供給するときの電気料金その他の供給条件は、この電気供給約款による(同約款I1(1))。
(イ) 定義
次の言葉は、供給約款においてそれぞれ次の意味で使用する(同約款I3(1)ないし(6))。
a 低圧 標準電圧100ボルト又は200ボルトをいう。
b 高圧 標準電圧6000ボルトをいう。
c 電灯 白熱電球、けい光灯、ネオン管灯及び水銀灯等の照明用電気機器(付属装置を含む。)をいう。
d 小型機器 主として住宅、店舗及び事務所等において単相で使用される、電灯以外の低圧の電気機器をいう。ただし、急激な電圧の変動等により他の需要家の電灯の使用を妨害し、又は妨害するおそれがあり、電灯と併用できないものは除く。
e 動力 電灯及び小型機器以外の電気機器をいう。
f 付帯電灯 動力を使用するために直接必要な作業用の電灯その他これに準ずるものをいう。
なお、その他これに準ずるものとは、動力機能を維持するために必要な次の電灯(小型機器を含む。)等をいう。
(a) 当該作業場の維持又は運営のために使用する事務所の電灯
(b) 当該作業場の保守及び保安のために使用する守衛所の電灯及び保安用外灯
(c) 現場作業員のために必要な浴場、食堂又は医療室の電灯
(d) 当該作業場の案内のために使用する電灯
(ウ) 需給契約の申込み
需要家が新たに電気の需給契約を希望する場合は、あらかじめ供給約款を承認の上、契約種別、供給電気方式、需給地点等を明らかにして被告所定の様式によって申込みをする(同約款II6(1))。
(エ) 業務用電力(適用範囲)
高圧で電気の供給を受けて、電灯若しくは小型機器を使用し、又は電灯若しくは小型機器と動力を併せて使用する需要(例えば、事務所、官公庁、学校、研究所、病院、新聞社、放送局、娯楽場、旅館、飲食店、商店、百貨店、倉庫、寺院、アパート、トンネル等がある。)で、契約電力(電気需給契約上、需要家が使用できる最大の電力のことをいう。この契約電力に、所定の基本料金単価を乗じた金額が毎月の電気の基本料金になる。乙11)が2000キロワット未満であり、かつ、次のいずれかに該当するものに適用する。
a 契約電力が50キロワット以上であること。ただし、特別の事情がある場合で、需要家が希望するときは契約電力が50キロワット未満であるものについても適用することがある。
b 使用する電灯又は小型機器について、同約款17(従量電灯)(2)ハ又は(3)ニを適用した場合の契約電流、又は契約容量と使用する動力について同約款21(低圧電力)(4)を適用した場合の契約電力との合計が原則として50キロワット以上であること(同約款III20)。
(オ) 高圧電力(適用範囲)
高圧で電気の供給を受けて動力(付帯電灯を含む。)を使用する需要で契約電力が500キロワット未満であり、かつ、次のいずれかに該当するものに適用する。
a 契約電力が50キロワット以上であること。ただし、特別の事情がある場合で、需要家が希望するときは契約電力が50キロワット未満であるものについても適用することがある。
b 使用する付帯電灯について、同約款17(従量電灯)(2)ハ又は(3)ニを適用した場合の契約電流、又は契約容量と使用する動力について同約款21(低圧電力)(4)を適用した場合の契約電力との合計が原則として50キロワット以上であること(同約款III22)。
(カ) 需給契約の変更
需要家が電気の需給契約の変更を希望する場合は、同約款II(契約の申込み)に定める新たに電気の需給契約を希望する場合に準ずるものとする(同約款IV50)。
ウ 電気料金
業務用電力と高圧電力の電気料金を比較すると、平成8年当時は3%程度、平成12年10月から平成14年3月までは26%程度、平成14年4月以降は13%程度、高圧電力の方が安価である(甲8、弁論の全趣旨)。
すなわち、業務用電力の適用対象となる事務所や百貨店などでは冷暖房の需要が高く、季節によって需要が異なることから、使用効率が悪いのに対し、高圧電力が適用される工場等では需要が安定しているので、使用効率が良いため、その差が電気料金に反映され、高圧電力のほうが電気料金が安価に設定されている(証人E)。
エ 電気需給契約
電気の供給を希望する者は自家用電気使用申込書に、契約種別、供給電気方式、需給地点等電気供給約款II6(1)に規定する事項について記載して、被告に提出し、被告がその申込書に基づき電力の適用種別を判断し、被告が、その結果を記載した「電気需給契約のご案内」と題する書面を需要家に送付することにより電気需給契約が成立する(乙5、6)。なお、この申込みに際しては、電気工事店が代理して行うことが多かった(甲10)。
また、被告の担当者は、申込書に記載された需要場所、業種、用途、付加設備等から適用種別に疑義がないと判断した場合は需給場所に実際に訪問し確認をしなかったため、本来高圧電力が適用される場所であっても、申込書の記載が誤っていることによって誤って業務用電力が適用されている需要場所も存在した(証人E)。
(2) 原告の業務
ア 原告の業務開始の経緯
原告は、平成2年4月、建設業、一級建築設計事務所及び建材業等を業とする目的で設立された(当時の商号コスモライフ建設株式会社)(甲28)。
原告代表者は、平成7年ころ、近く電気事業法が改正され、電力の自由化・規制緩和が促進されることを知り、電気供給約款等について調査を開始した(甲28)。そして、原告代表者は、この電気事業法の改正に併せて、電気需給契約の形態も多様化・複雑化し、従来からの電気供給約款に基づく契約種別による電気需給契約に加えて、新たに多種多様な電気需給契約(選択約款)が設けられることを知った。そこで、原告は、ほとんど全ての需要家が電気供給約款を熟知しておらず、その存在すら知らずに電気需給契約を締結していたことから、需要家が効率的な電気需給契約を選択できるようその需要場所に最も適した電気料金メニューを提案するなどの業務を開始した。
原告代表者は、平成8年4月ころ、顧客の紹介で千葉三菱ふそう自動車販売株式会社を訪問し、電気の使用状況及び電気料金について調査したところ、千葉県内の同社の修理工場の契約種別が業務用電力とされている箇所と高圧電力とされている箇所があることが判明した。そこで、原告は、高圧電力と業務用電力の適用について、電力会社及び電力会社の職員の判断基準が必ずしも統一されていないとの考えから、高圧電力と業務用電力との判断基準に関する事例を調査し、本来、高圧電力が適用されるべきであるにもかかわらず、電気料金の高い業務用電力が適用されている場合に、契約種別を高圧電力とするよう電力会社に求める本件業務を開始した(甲28、原告代表者本人)。
原告は、本件業務を行うに当たり、様々な業種の需要場所を調査し、どのような電気機器が使われていてどのように電気を使用すれば電力会社がどのような契約種別を適用するのかという実態を調査しデータを集積した(甲28、証人F)。
イ 原告の業務形態
(ア) 原告と需要家間における本件業務契約の締結
本件業務契約の締結に至るプロセスは、原告が、需要家を訪問し、電気料金及び電気供給約款について提案書を示すなどしながら説明を行い、需要家の電気の使用状況及び需要家の利用している電気設備について調査・診断を行い、業務用電力から高圧電力への変更(単に改めることの意味であり、法的評価を含まない。以下、この項(第3・1)について同じ。)が可能であると考えられる場合は、さらに、診断書及び見積書等を作成して需要家に交付し、その説明をして本件業務契約を締結するというものである(甲28、乙3の5ないし7、証人F)。
原告は、事例を調査する中で、配送センター、カー・ディーラー及び検査所のような需要場所については、高圧電力か業務用電力かの判断基準が統一されておらず、電気供給約款上も業務用電力とも解釈できるが高圧電力とも解釈できるものであると考え、それらの需要場所を持つ需要家を中心に訪問し、本件業務契約を締結することが多かった(甲28、乙3の5)。
本件業務契約書には、電気料金の診断に関わるすべての費用は原告の負担とすること(本件業務契約書1条)、原告は、需要家の電気需給契約に関する申請書及び協議資料を作成し、電力会社及び関係省庁等と電気需給契約の変更についての協議を行うこととし、協議内容について原告は需要家に報告し、協議に関しては意思統一を図り遂行すること(同3条)、本件業務の対象場所における業務完了前と業務完了後の実際の電気料金の削減金額の6か月分に相当する金額を報酬とすること(同6条)、電力会社との協議が不成立の場合、原告は需要家に対して一切の経費を請求しないこと(同9条)などの定めがあった(甲1)。
(イ) 原告の行っていた調査活動等
原告が行っていた一般的な調査活動等の流れは次のようなものである。
原告は、電力会社に対し、需要家の過去1年間の電気使用量を把握し削減できる電気料金を算定するためにそのデータの提出を依頼し、その調査の結果、契約種別を業務用電力から高圧電力に変更された場合の将来的に削減可能な金額を記載した電気料金診断書を作成し、需要家に調査結果の報告をする(甲3、28)。
続いて、原告は、電力会社に対し、需要場所の契約種別を高圧電力に変更するべく、需要場所の現地調査をするよう申し入れる。原告は、電力会社の現地調査に立ち会うが、電力会社によっては立会いに関する委任状の提出を求める場合があるので、その場合には、需要家から、電気需給契約の契約種別変更に関わる電力会社への手続及び協議を原告に委任する旨、需要家の需要場所の電気需給契約に伴う問い合わせ又は協議等につき、すべて原告と実施し、その結果等は文書にて提出してほしい旨記載された委任状の提出を受け、それを電力会社に提出する(甲4、証人F)。
原告は、需要場所の現地調査に立ち会う際、電力会社に対し、電気使用目的状況の実態に関する説明を行い、必要に応じて、事前に作成した当該需要場所の電気使用目的をまとめた現地調査報告書等の書類を交付する(甲5)。
原告は、現地調査の1週間程度後に、電力会社に連絡し、調査の結果について質問をする(証人F)。
(ウ) 電力会社の判断
電力会社は、当該需要場所が高圧電力が適用される需要場所であると判断した場合には、原告に対し、新規申込みの際と同様の自家用電気使用申込書を提出するように要求する。原告は、電力会社からの要求に応じて、申込書を作成し、需要家が署名押印をした上電力会社に送付し、電力会社は電気需給契約のご案内と題する書面を需要家に送付することによって、契約種別が業務用電力から高圧電力に変更されることになる(甲6、7、28)。
調査の結果、変更が認められないという結論になった場合には、原告は、電力会社の支店の担当者又は本店の担当者に資料を提出し、再度、高圧電力への変更を求め、また、それでも変更されない場合には、資源エネルギー庁及び経済産業省に電力会社に対する行政指導を求める旨の申立てをした(乙3の5、3の13の1、3の13の6)。
(エ) 報酬の受領
原告は、需要場所の契約種別が業務用電力から高圧電力に変更され電気料金が削減された場合には、削減された電気料金6か月分を報酬として受領する。報酬の支払方法は、契約種別変更後3か月ないし4か月経過後から、毎月、削減された電気料金の半額を12か月にわたって支払うというものであった(原告代表者)。
ウ 原告の業務実績
(ア)a 原告は、平成8年以降平成13年10月までの間に、被告の管内の需要場所合計132か所の契約種別を業務用電力から高圧電力に変更することに成功した。その需要場所のうちの大半は、配送センター及びトラック・ディーラーの修理工場に関するものであり、新築当時と変更された当時で電気の使用の状況の変更はなかった(甲28、証人F)。
b 配送センターは、配送物の中継所、すなわち、いったん荷物を預かってそれを方面別に仕分けをして出荷している需要場所であり、ベルトコンベアーの上で荷物を回送しながら手作業で仕分けを行う手動仕分けタイプのもの(以下「手動仕分けタイプ」という。)とベルトコンベアー上の荷物が荷物のバーコードを基にセンサーで自動仕分けをし、荷物はこれに指示された行き先別の滑り台から自動的に下りてくる自動仕分けタイプ(以下「自動仕分けタイプ」という。)のものとがあった。
被告は、自動仕分けタイプの配送センターについては、その配送センターに管理事務所や更衣室等があり、そこで使用されている電灯が付帯電灯に当たらないと考えていたことから、従前から業務用電力を適用していた。これに対し、原告は、管理事務所や更衣室の電灯は、動力機能を維持するために必要な電灯であるから付帯電灯に当たり、高圧電力が適用されるべきであると主張し、契約種別を高圧電力に変更するよう要求した(乙14)。
また、被告は、手動仕分けタイプの配送センターについては、人が仕分けを行う作業上の電灯等が動力を使用するために必要な電灯ではないから付帯電灯には当たらないと考えていたことから、業務用電力を適用していた。これに対し、原告は、人が仕分けを行う作業上の電灯等も自動仕分けタイプの配送センターと異なる解釈をする理由はなく付帯電灯に当たるから高圧電力が適用されるべきであると主張し、契約種別を高圧電力に変更するよう要求した(乙14)。
c 配送センターには、ベルトコンベアー式ではなく、充電式のフォークリフトを使用する需要場所があったが、それらの需要場所については、被告が充電装置自体が動力でありフォークリフトは動力ではなくそれを利用するための電灯は付帯電灯に当たらないと主張したのに対して、原告は、当該需要場所で電気を購入しているのは充電装置に充電するためではなく、充電装置を搭載したフォークリフトを動かすためであるとして、そこで使用されている電灯は付帯電灯であり、高圧電力が適用されるべきであると主張し、契約種別を高圧電力に変更するよう要求した(乙3の13)。
d トラック・ディーラーは、トラックの修理工場と事務所部分から構成されている需要場所である。トラック・ディーラーの事務所は工場事務機能の他に本社事務機能や営業事務機能が混在している場合があり、被告は、本社事務機能又は営業事務機能が認められる場合は、そこで利用されている電灯は付帯電灯には当たらないと考えられることから、従前から業務用電力を適用していた(乙14)。これに対し、原告は、それらの電灯は、付帯電灯に当たるから高圧電力が適用されるべきであると主張し、契約種別を高圧電力に変更するよう要求した(乙14)。
(イ) 上記のように、原告と被告との間では、当該需要場所の電灯が付帯電灯に該当するか否かについて争われていたが、現地調査の結果、自動仕分けタイプの配送センターはその多くが業務用電力から高圧電力に変更になり、また、トラック・ディーラーについても店舗営業が確認されない需要場所においては業務用電力から高圧電力に契約種別が変更された(甲28、証人E)。
(ウ) 一方、被告担当者による現地調査の結果、当該需要場所は業務用電力が適用される需要場所であると判断された需要場所も数件あった。そのような場合、原告は、被告本社又は支社に改めて電気の使用状況及び同種事案を説明して高圧電力が適用されるべきであると説明をするほか、電話及び書面によって、付帯電灯の解釈について自己の解釈を述べたり、需要場所の一部に限り高圧電力を適用するよう要求するなどした(乙7、8)。
それらの説明の結果、被告が当該需要場所が販売業務も兼ねていること、当該需要場所に営業部、販売促進部、管理部、経営管理室、総務部、経理部等があることを理由に業務用電力から高圧電力への変更は認められないとしていたトラック・ディーラーの修理工場について、高圧電力への変更が認められた場合も数件あった(甲28)が、一方で、それらの説明によっても適用の変更が認められない需要場所もあった(乙7、8)。
(3) 本件非弁調査申立てに至る経緯
ア 佐川急便の配送センターに関する本件業務の経緯
(ア) 佐川急便の配送センターは、手動仕分けタイプと自動仕分けタイプとがあったところ、これらの配送センターの契約種別は配送センター開設以来いずれも業務用電力が適用されていた(甲14、28)。
原告は、これらの配送センターはいずれも通常の工場と同様、高圧電力が適用されるべきであると判断し、その旨佐川急便に説明をした(甲28)。
佐川急便は、原告の説明を受けて、平成8年9月、被告に対し、手動仕分けタイプの配送センター及び自動仕分けタイプの配送センターの双方の契約種別について高圧電力を適用するよう申し入れた(甲14、28)。
被告は、同年12月、現場調査の結果、自動仕分けタイプの配送センターについて高圧電力の適用を認め、平成9年1月以降、高圧電力が適用されるようになったが、その余の配送センターについては現場調査の結果、業務用電力が適用されるとして、佐川急便の申入れを拒否した(甲14、28)。被告が拒否したのは、配送センターで使用されている手作業で荷物を仕分けする場所の電灯あるいは物を保管する場所の電灯が動力を使用するために直接必要な作業用の電灯に該当するかどうかについて疑義を持っていたからであった(証人E)。
(イ) 原告と佐川急便は、上記のとおり、被告が高圧電力の適用を認めなかったことから、平成11年12月、本件業務契約を締結し、佐川急便は、原告に対し、佐川急便の電気需給契約に関する申請書や協議資料の作成及び被告を含む電力会社や関係省庁等と電気需給契約の変更についての協議を行うことを依頼した。原告は、これを受けて、佐川急便の全国の配送センターの電気使用状況について調査を行った(甲1、28)。
なお、佐川急便京都本社は、全国の同社の支社に対して配送センター全部について高圧電力への見直しを行うよう指示を出し、佐川急便東京支社は、平成12年、手動仕分けタイプの中小規模の配送センターについて被告に高圧電力の適用を申し入れたが、被告は、高圧電力の適用はできないとして、この申入れを拒否した(甲14、28)。
原告は、平成12年7月ころ、被告に対し、手動仕分けタイプの配送センターである佐川急便北関東支社(埼玉店)について再度の現地調査を依頼し、そのころ現地調査が実施されたが、被告は、同年11月9日、契約種別は業務用電力が適正であるとして、高圧電力の適用を拒否した(甲14、28)。
(ウ) 原告は、北陸電力管内にある佐川急便の配送センターについても契約種別変更のための現地調査を申し入れていたところ、北陸電力は当初、契約種別を高圧電力とすることを拒否していたが、その後、平成13年5月2日、手動仕分けタイプの配送センターについて高圧電力の適用を認めた(甲28)。
原告は、北陸電力の決定を受けて、平成13年6月初旬、被告に対し、北陸電力管内では、手動仕分けタイプの配送センターについて高圧電力の適用を認めていることを説明した。
被告は、原告の上記説明を受けたこと及び資源エネルギー庁から、電力会社の間で解釈のばらつきの有無とその理由について問い合わせがあったことから(証人E)、佐川急便北関東支社(埼玉店)について、平成13年6月18日、再調査を行った。この調査には、原告及び原告の代理人である弁護士も立ち会った。被告は、同年7月2日、同支社に対し、高圧電力を適用することを認める旨回答した(甲28)。
被告は、同月中に、佐川急便の合計54か所の配送センターについて現地調査を行い、同月から同年10月5日までに、その全ての需要場所について高圧電力を適用することを認める旨回答した(甲28)。
なお、被告は、同年7月5日、原告に対し、「佐川急便にお詫びに行く」のでその日時を原告に連絡すると言ったが、その連絡はその後なかった(甲28)。
イ 経済産業大臣に対する苦情の申出
原告は、ノースランドとともに、C弁護士及びD弁護士に委任し、平成12年(平成13年の誤り、乙2の1、乙3の13の6)2月7日付けで、経済産業大臣に対し、電気事業法111条に基づいて、被告を含む電力会社が高圧電力の適用を否定した需要場所(佐川急便富山支店、札幌臨床検査センター、京義倉庫)について、契約種別を高圧電力に変更するよう行政指導を求めて苦情の申出を行った。
原告は、高圧電力と業務用電力の電気料金の差は、高圧電力が適用される工場のような需要場所は一定して負荷率が高いのに対して、業務用電力が適用されるような場所は、一日及び年間を通じて需要の変動が大きく負荷率が低いことに基づくのであり、業務用電力か高圧電力か解釈が分かれるような事例においては、必ずしも付帯電灯等の細かい解釈にとらわれることなく、上記低料金設定の理由が妥当する場合には、高圧電力と取り扱うことが電気供給約款の趣旨に添うこと、同種の事例においては、電力会社が異なっていたとしても同様の契約種別を適用すべきであること、佐川急便富山支店の配送センターについて、自動仕分けタイプと手動仕分けタイプで扱いを異にするのは電気事業法の公平原則に反すること、北陸電力は、ベルトコンベアーの作動と手作業の仕分けを厳然と区別し、電灯は後者のために必要なものに過ぎないから付帯電灯ではないとしているが、両者は不可分一体であるから全体として動力の使用というべきであり、電灯は付帯電灯に当たること、東北電力は佐川急便の配送センターについて高圧電力の適用を認めていること、京義倉庫について、被告は、動力はそこで利用されているフォークリフトではなくフォークリフトに搭載されている充電器であるから、同所で利用されている電灯は動力を利用するために直接必要な付帯電灯に当たらないとするが、充電器を動力と考えるのはおかしいこと、同所で行われている仕分け作業はフォークリフト、エレベーター、ベルトコンベアーを不可分一体的に利用しているものであり、同所の電灯は付帯電灯に当たること等を苦情の理由として同苦情申出書に記載した(乙3の13の1)。
(4) 本件非弁調査申立て及びその後の経緯
ア 本件非弁調査申立て
被告は、従前から本件業務が弁護士法72条の非弁行為に該当するものではないかという疑いを抱いていたところ、原告が上記のとおり経済産業大臣に苦情の申出をしたため、これが非弁行為を行っていることの根拠となるものと考えた。そこで、被告は、原告の業務が非弁行為に該当するかについて調査を開始した。そして、被告は、弁護士法72条について判断した裁判例に照らしても、本件業務が非弁行為に該当するものであるとの考えを固め、平成13年6月20日付けで、本件非弁調査申立てをした(乙2の1、証人E)。
被告は、本件非弁調査申立ての申立書に、原告の業務は、需要家に対して電気料金を安くするという相談を持ちかけ、その委任を受けて、弁護士ではないのに、報酬を得る目的で、電力会社に対し、その需要家の契約種別の変更の申入れをして電力会社とその協議、交渉をし、契約種別の変更契約を成立させていること、電力会社との交渉を有利に運ぶため、弁護士の名義を借りて(弁護士を代理人として)、それらの行為を行い、経済産業大臣に対して、電気事業法111条による苦情(自己の苦情ではなく、他人間の需給契約についての苦情である)の申出をすることまで始めたこと、本件業務は、業務用電力から高圧電力に変更しようとする案件であり、原告と被告との間には、契約種別の変更を認めるべきかについて争いや疑義が生じ、また、契約種別が変更されれば高圧電力による需給契約という新たな権利義務関係が発生することから「法律事件」に関係していること、原告は、需要家から被告との手続及び協議についての委任を受け、その委任状を被告に提出して契約種別の変更を口頭又は書面で申し入れ、その協議、交渉の結果、被告が契約種別の変更を認めると、原告は需要家から新たな契約書に需要家の署名又は記名捺印を取って被告に提出し新しい契約を成立させており、「法律事務」に該当すること、原告は、明白な非弁活動を大っぴらに、かつ大々的に行っており、その範囲は国内電力業界の大半に及び、そのために弁護士を利用するという違法な手段を用いるに至っていることなどを記載し、その資料として原告の業務で用いる提案書、合理化診断書、見積書、委任状、苦情の申出書等を添付した(乙2、3)。
イ 本件通知
被告は、平成13年8月ころ、原告に対し、原告の行っている本件業務は非弁行為であるから、今後一切の交渉はしない旨伝えた。
また、被告の代理人弁護士は、同年9月27日、原告の当時の代理人であったC弁護士及びD弁護士と面会し、同人らに対し、本件非弁調査申立てをしたこと、原告の本件業務が弁護士法72条の非弁行為に該当することから、原告との協議には応じられないことなどを告げた(甲15、証人E)。原告の代理人であった両弁護士はこれに対し、本件業務は非弁行為に当たらないと反論し、平行線のまま面会は終了した。
また、被告は、翌28日、被告の対応について問い合わせしてきた原告代表者に対して電話で、原告との協議には応じられない旨告げた(証人E)。
さらに、被告は、同月28日付けの書面で、第一東京弁護士会の弁護士活動の適正化に関する委員会に対して、同月27日に原告の当時の代理人に本件業務が弁護士法72条に違反する行為と考えられること及び以後原告との交渉は差し控える旨告げたことを報告すると共に、本件非弁調査申立てに係る調査状況について問い合わせをした(甲37)。
被告は、同年10月3日付けで、佐川急便に対して、参考として弁護士法72条の規定を記載した上で、「当社顧問弁護士から両社(原告及びノースランド)の営業方法には弁護士法上問題があるとの見解が示されたことから、弁護士会にその調査を申し出たところ、このたび、弁護士会にて正式に調査が開始されていることが分かりました。このため、平成13年9月27日に、当社顧問弁護士から両社の代理人弁護士に対し、同社との協議等については、対応を控えさせていただくことをお伝えしました。つきましては、今後当社は、直接お客様と契約種別変更に関する協議等をさせて頂きたいと考えております」と記載された書面(甲15)を送付し、同日以降、同様の文書を西濃運輸及び沖電気物流にも送付して、本件通知を行った。
ウ 本件通知後の本件業務の状況
原告は、本件通知があった以降も、佐川急便、沖電気物流及び西濃運輸との本件業務契約を解約することはなかったものの、被告が原告を相手方とすることを差し控えたことから、原告は具体的に高圧電力への変更の要請にかかる業務を行うことはなくなった(証人F)。
沖電気物流の需要場所については、東京電力の担当者Gが現地調査を行い、佐川急便と同様の需要場所であることを原被告間で事実上確認している状態であったが、被告は、本件通知後、沖電気物流に対して連絡をせず、契約種別は高圧電力に変更されていない(証人F)。
一方、被告は、原告と同種の業務を行う同業他社に対しては、弁護士法72条違反の調査申立てをしておらず、それらの会社がする高圧電力への変更の求めに対応している(甲28)。
エ 第一東京弁護士会の勧告
第一東京弁護士会は、被告の本件非弁調査申立てに基づき、原告の業務を審査した上、原告の業務は弁護士法72条に違反する疑いがあると認定し、平成14年5月30日付けで、原告に対し、本件業務を止めるよう勧告した(甲16)。
オ 被告と佐川急便間の紛争
佐川急便は、平成14年11月22日付けの通知書で、被告に対し、過去に支払った電気料金のうち、業務用電力が適用された場合と高圧電力が適用された場合との差額が不当利得であるとして、合計80億0230万8730円の返還を請求した(甲14)。
被告と佐川急便は、平成16年5月24日付けで、佐川急便が被告に送付した平成14年11月22日付け通知書に係る両者間の電気供給約款に関する一切の紛争につき、被告が佐川急便に対し、その解決金として、平成16年6月1日までに金1億3000万円を支払うことを内容とする合意をした(甲35、証人F)。
2 以上の事実を前提に被告のそれぞれの行為、すなわち、本件非弁調査申立てをしたこと、本件通知をしたこと及び原告との対応を拒否したことが違法性を有するか否か(争点1)について検討する。なお、被告は、原告の違法性についての主張が時機に後れたものであるとして却下を求めるが、原告のこの主張によって訴訟が遅延するものとは認められないから、この点の被告の主張は採用することができない。
(1) 上記1(2)で認定した事実によれば、原告は、平成8年から平成13年9月に被告が原告との対応を拒否するまで、配送センター及びトラック・ディーラーなどを運営する会社等を顧客として、本件業務を展開していたものである。
そして、上記認定事実によれば、本件における被告の一連の行為、すなわち、被告が、原告の行う本件業務について弁護士法72条で規制する非弁行為に該当する疑いがあるとして第一東京弁護士会に本件非弁調査申立てをし、平成13年9月28日以降原告の本件業務の受入れを拒否し、かつ、それらの事実を原告の顧客に通知したことによって、原告が本件業務を継続することが阻害されたものというべきである。原告が本件業務を継続し得なくなったのは、直接的には、被告が原告の本件業務受入れを拒否したことをその要因とするものではあるが、本件非弁調査申立て及び本件通知も被告の本件業務受入れ拒否の前提をなすものであり、これらの行為が一体として原告の本件業務の継続を阻害したものというべきである。
もっとも、被告の行った一連の行為によって原告が本件業務を継続し得なくなったものであるとしても、それらの行為が直ちに違法性を帯びるものではなく、それらが社会的相当性を逸脱するようなものである場合に限って違法と評価するべきである。
以上を前提に、被告の行為が違法性を有するか否かについて検討する。
(2) 原告は、被告が、本件業務が非弁行為に該当しないことを知りながら、原告の行う本件業務を阻止する目的で、本件非弁調査申立てをしたことが非弁調査制度の悪用あるいは濫用であって違法であると主張する。
ア(ア) 弁護士法72条は、「弁護士でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない」と規定し、非弁行為を禁じている。
本件で問題となるのは、本件業務が「その他一般の法律事件に関して」「その他の法律事務を取り扱」うものに該当するか否かであるところ、一般的に、「その他一般の法律事件」とは、権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務の発生する案件をいい、「法律事務を取り扱」うとは、法律上の効果を発生・変更する事項の処理をいうものと解されており、非弁行為に該当するためには、少なくともこれらの要件に該当することが必要であるというべきである。そして、これらの要件に該当すれば、(仮に他の要件を付加する見解を採ったとしても)少なくとも非弁行為の疑いがあるものといわなければならない。
そこで、これらの要件について検討する。
(イ) 原告は、まず、高圧電力と業務用電力のいずれの契約種別を適用すべきかは、電気使用設備及び電気使用状況という客観的事実に基づいて決定されるものであるから権利義務に関して争いや疑義はない旨主張する。
a 電気料金は需要家と電力会社との電気需給契約によって決定されるものであるところ、電気需給契約の性質は、電気を目的物とする継続的な売買契約に類似するものであって、諾成・有償の双務契約と解するのが相当である。電気需給契約は、その性質上、電力会社と不特定多数の需要家との関係で締結されるものであるから、それらの需要家との取引においてその都度、契約内容を協議して決める煩雑さを避けるため、その契約内容はその電力会社の制定する電気供給約款に従うものとされ(付合契約)、また、電気事業が地域独占的な公益事業であることなどから電気事業法による変容を受けるものの、電気需給契約は、基本的には一般の私法上の契約と同様、需要家の申込みと電力会社の承諾によって成立するものというべきである。そして、上記1(1)ウで認定したとおり、電気料金は、当該需要場所にいかなる契約種別が適用されるかによって異なり、その契約種別については電気需給契約の内容となる電気供給約款にその定義規定が設けられているのであるから、いかなる契約種別が適用されるか否かは電気需給契約の内容として需要家と電力会社間の権利義務の有無ないし範囲に関する事柄であるというべきである。
b ところで、電気供給約款は、本件業務において問題となる高圧電力及び業務用電力について上記1(1)イ(エ)及び同(オ)で認定したとおり、同約款III20及び22において定義規定を設けているところ、これらの規定によれば、業務用電力は、電灯若しくは小型機器を使用し、又は電灯若しくは小型機器と動力を併せて使用する需要であるのに対し、高圧電力は、動力(付帯電灯を含む。)を使用する需要であるという点で両者は異なり、結局、その区別の大半はそこで利用されている電灯及び小型機器が付帯電灯に該当するのか否かによってなされることになる。
そして、付帯電灯については同約款I3(6)に定義されており、その内容は、上記1(1)イ(イ)fで認定したとおりである。
c この規定によれば、確かに、原告の主張するとおり、電灯と付帯電灯との区別は、電灯あるいは小型機器の使用目的、使用場所、電灯が設置されている場所自体の用途ないし性質という電気使用設備及び電気使用状況という客観的な事情を考慮して判断されるべきものというべきである。
しかしながら、電気使用設備及び電気使用状況という客観的な事情を考慮して判断されるものであるといっても、それによって電灯か付帯電灯かが一義的に明らかになるものであると解することはできない。すなわち、同規定は、まず、付帯電灯とは、動力を使用するために直接必要な作業用の電灯その他これに準ずるものであると定義するところ、電灯が動力を使用するために直接必要であるか否かの判断に当たっては、客観的な電気使用設備や電気使用状況を前提としつつ、直接必要とはいかなる場合をいうのかなどについて規定の文言を解釈し、それに該当するか否かの評価が必要となるものというべきである。また、同規定は、その他これに準ずるものとは、「動力機能を維持するために必要な次の電灯(小型機器を含む。)等をいう」とし、「次の電灯」として、上記1(1)イ(イ)fのとおり規定するところ、上記と同様、動力機能を維持するために必要か否かの判断は、規定の文言の解釈と、それに基づく評価を要するものであるし、次の電灯として列挙されているもののうち、例えば、事務所が「作業上の維持又は運営のために使用する」ものであるか否かについても、事務所が複合的な目的を有する場合にいかように解するべきかなどという点については同規定の文言上不明確であり、そのような場合に電灯か付帯電灯かを判断するに当たっては、電気使用設備及び電気使用状況の客観的な事実を前提に、規約の文言を解釈し、それに該当するかの評価が必要となるものというべきである。さらに、同規定は、次の電灯「等」とし、列挙されたもの以外にも付帯電灯に当たる余地を残していることからしても、付帯電灯に当たるか否かは客観的な事情のみから一義的に明らかになるものとはいえず、上記のような規約の文言の解釈とそれに基づく評価が必要であるものというべきである。
そして、実際にも、原告と被告を含む電力会社との間で、需要場所で使用されている電灯が付帯電灯であるかをめぐって争いがあったことは上記1(2)ウ等で認定したとおりである。そこでは、トラック・ディーラーの事務所が本社機能や営業所の機能を兼ね備えている場合に、そこで使用されている電灯が作業場の維持又は運営のために使用する事務所の電灯に該当するか、自動仕分けタイプの配送センターの事務所で使用されている電灯が作業場の維持又は運営のために使用する事務所の電灯に該当するか、手動仕分けタイプの配送センターで使用されている電灯が、動力を使用するために直接必要な作業用の電灯その他これに準じるものといえるか否かなどについて、原告と被告等の電力会社が互いにそれぞれの見解を主張し、その契約種別について争われていたのであり、このことは、付帯電灯に該当するか否かが、電気使用設備及び電気使用状況等の客観的な事情から一義的に明らかであるとはいえないことの証左というべきである。
しかも、顧客に提出する提案書によれば、原告自身、配送センター、トラック・ディーラー等の需要場所では、電気供給約款上、業務用電力とも解釈できるが高圧電力とも解釈できるとして、高圧電力と業務用電力の適用に当たって、解釈、評価の入る余地があることを認識していたものというべきである。
d したがって、電気需給契約の内容となる契約種別の適用に当たり、高圧電力と業務用電力のいずれを適用すべきかについては、電気使用設備及び電気使用状況という客観的事実に基づいて一義的に明らかになるものではなく、その判断に当たっては、規約の文言の解釈及びそれに基づく評価が必要となるものであって、それらの解釈及び評価については様々な見解が成り立ちうるものであるから、本件業務は、権利義務に関して争いや疑義がある案件に関するものというべきである。
(ウ)a また、原告は、本件業務は、契約種別の是正であり、被告が当初の電気需給契約の内容を履行するものに過ぎないから新たに権利義務が発生するものではない旨主張する。
b しかしながら、上記(イ)のとおり、高圧電力か業務用電力かの契約種別の決定において問題となる付帯電灯に該当するか否かの判断に当たっては、需要場所における電気使用状況等の客観的事実から一義的に明らかになるものではなく、規定の解釈やそれに基づく評価が必要となるものであり、それについては様々な見解が成り立ち得るのであって、被告が従来、当該需要場所において業務用電力を適用していたとしてもそれがすべて誤りであるということはできないのであるから、業務用電力から高圧電力に契約種別を変えることが当初の電気需給契約の内容を履行するものに過ぎないということはできない。
また、確かに、上記1(1)エで認定したとおり、被告が当初の電気需給契約の締結の際に現地調査をしなかったため、本来高圧電力を適用すべきであった場所に業務用電力が適用されていた需要場所があったことが認められ、これらの需要場所において契約種別を高圧電力にする場合には、当初締結していた電気需給契約の内容を是正するという性質を有するものであると解する余地もあるが、仮にそうであったとしても、契約種別が業務用電力から高圧電力に切り替わること自体によって電気需給契約に基づき需要家の支払うべき電気料金が低額になるのであるから、電力会社と需要家との間の権利義務関係に変動が生じることに変わりはない。
さらに、契約種別を業務用電力から高圧電力に変更・是正する際には、当初、電気需給契約を締結する場合と同様、需要家が申込書を被告に対して提出し、これに対し、被告が承諾書を送付するという手続を経ていたことも考慮すれば、本件業務は、新たな権利義務の発生する案件に関するものというべきである。
(エ)a 原告は、本件業務は、事実の説明及び類似事例の提示にとどまるものである上、原告の説明は電力会社の判断の参考でしかなく原告の説明により是正の効果が発生するものではなく、また、本件業務は被告が当初の電気需給契約の内容を履行するものに過ぎないから、法律上の効果を発生・変更する事項の処理をするものには当たらない旨主張する。
b 上記1(2)等で認定したとおり、原告は、本件業務を行うに当たり、当該需要場所の現地調査をし、また、電力会社に電気使用実績の資料の提出を求めることにより、電気使用設備や電気使用状況を確認し、その資料を作成した上、電力会社に対し、契約種別を業務用電力から高圧電力に変更するよう申し入れ、電力会社が行う現地調査に立ち会い、現地の電気使用設備や電気使用状況及び同種の需要場所において高圧電力が適用されている事例等を説明し、その結果、高圧電力の適用を拒否された場合には、電力会社の支社や本社に電話及び書面によって再び高圧電力の適用を申し入れ、場合によっては、資源エネルギー庁や経済産業大臣に苦情を申し立てるなどの行為をしたものであるが、原告は、そのような活動の中で、需要場所の一部に限り高圧電力を適用するよう求めたり、充電式のフォークリフトを使用する需要場所について、被告が充電装置自体が動力でありフォークリフトは動力ではなくそれを利用するための電灯は付帯電灯に当たらないと主張したのに対して、当該需要場所で電気を購入しているのは充電装置に充電するためではなく、充電装置を搭載したフォークリフトを動かすためであるとして、被告の見解を批判し、また、経済産業大臣に対する苦情申立書に、業務用電力か高圧電力か解釈が分かれるような事例においては、必ずしも付帯電灯等の細かい解釈にとらわれることなく、高圧電力用の低料金設定の理由が妥当する場合には、高圧電力と取り扱うことが電気供給約款の趣旨に添う旨記載するなどしている。このように、原告の業務は、単なる電気使用設備及び電気使用状況や類似事例の説明にとどまらず、電気供給約款の文言の解釈及びそれを前提にした評価について意見を述べ、被告がそれに応じない場合、別途資源エネルギー庁や経済産業大臣に行政指導を求めるというのであるから、本件業務は、原告が被告に対し、契約種別を高圧電力にするよう求めて協議、交渉するものであるというべきである。
c 確かに、原告の主張するとおり、需要場所にいかなる契約種別を適用するかの判断は、被告を含む電力会社が需要場所の電気使用設備及び電気資料状況を踏まえて行うものであり、また、電気供給約款は需要家や需要楊所によって不公平が生じないよう客観的状況に応じて公平に適用されなければならないものであって、原告と被告との交渉や協議によって自由に契約種別を決定することはできないものであるというべきである。
しかしながら、上記(イ)のとおり、当該需要場所の契約種別を高圧電力とすべきか業務用電力とすべきかについては、電気供給約款の解釈及びそれを前提とする評価が必要であり、それらの解釈及び評価については、様々な見解があり得、また、それらの見解のうちどのような見解を採用し、いかなる契約種別を適用するかの判断は電力会社がするものであるとはいっても、その判断は恣意的なものであってはならず、電気事業法の規定等に拘束され、その判断が不合理な場合や他の需要場所との間で公平を欠くような場合には、契約種別を変更・是正することが必要になるところ、原告が需要場所の電気使用設備や電気使用状況及び同様の電気使用状況の需要場所において高圧電力が適用されている事例を説明したり、約款の解釈について意見を表明することによって、契約種別が業務用電力から高圧電力に変更・是正されるということもあるのであって、実際、原告の行う本件業務によって契約種別が高圧電力に変更された事例が多数存することは上記1(2)ウで認定したとおりであるから、電力会社がいかなる契約種別を適用するか判断するものであることや電力会社と原告の合意によって自由に契約種別を決定することができないことをもって、本件業務が電力会社との間で契約種別の適用に当たり協議、交渉するものであるとする上記認定を左右するものとはいえず、この点の原告の主張は採用することができない。
d また、上記(ウ)のとおり、本件業務は、被告が当初の電気需給契約の内容を履行するに過ぎないものということはできず、当初から契約種別を誤って適用されていた需要場所においても、契約種別が高圧電力になることによって電気料金が低額になるという効果が発生するのであるから、これをもって、法律上の効果を発生・変更する事項の処理をするものに当たらないとはいえず、この点の原告の主張は採用することができない。
e したがって、本件業務は、原告が被告に対し、契約種別を高圧電力に変更するよう協議・交渉するものであり、法律上の効果を発生・変更する事項の処理をするものであるというべきである。
(オ) 以上検討したところによれば、本件業務は、法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務の発生する案件に関し、法律上の効果を発生・変更する事項の処理をするものであるということができる。
イ ところで、本件においては、被告が本件非弁調査申立てをしたことが社会的相当性を逸脱し、違法であるか否かが問題となっているところ、弁護士法72条が非弁行為を禁止し、また、第一東京弁護士会が弁護士法違反行為等又はこれらを誘発するおそれのある行為の調査、研究、監督及び取締りを目的とする「第一東京弁護士会弁護士業務の適正化に関する委員会規則」を規定し、弁護士法違反行為又はこれを誘発するおそれのある行為があることを知った者は、その調査の申立てができると解されていることに照らすと、非弁行為の疑いがあるとしてその調査の申立てをすることが違法となるためには、申立人において、当該申立てが事実的、法律的根拠を欠くものであることを知り、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たということができるなど、当該申立てが、非弁調査申立制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる場合に限られると解するべきである。
本件においては、上記アで検討したとおり、本件業務は、権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務の発生する案件に関し、法律上の効果を発生・変更する事項の処理をするものであるということができるのであるから、本件業務について非弁行為の疑いがあるものとして本件非弁調査申立てをしたことは、事実的、法律的根拠を欠くものであるということはできない。
ウ これに対し、原告は、弁護士法72条の立法趣旨が、弁護士以外の者がみだりに法律事件に介入することを業とする行為を放置すると、当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、これらの行為を禁圧することにあることにかんがみれば、「法律事件」とは、弁護士の有するような法的知識を必要とするものを念頭におき、所定の法的知識を備えた者が事案を取り扱うことによって初めて適正な取扱いが行われる案件をいうものと解するべきであり、本件業務はこれに当たらず、また、本件業務は弁護士法72条の保護法益である当事者の正当な法的利益、法律生活の公平かつ円滑な営み及び法律秩序を侵害する行為ではなく、同条が禁止する非弁行為には当たらない旨主張する。
確かに、原告の主張するとおり、本件業務は、契約種別の適用が誤っている需要場所や契約種別の適用が不公平であったりする需要場所において、その誤りや不公平を指摘してその契約種別を是正する点において、社会的に有意義な側面を有していたことも否定できない(換言すれば、これまで被告が原告の指摘を受け入れて契約種別を高圧電力に変更ないし是正する実例が一定数存在していたことを考慮すると、被告の契約種別の認定の在り方、電気供給約款の定め方に見直しを求める余地があるというべきである。)。
しかしながら、仮に原告主張のような見解に立ったとしても、本件業務が、上記アのとおり非弁行為の一般的要件からみて、これに該当する疑いがあること自体は否定できないというべきである。また、被告は、従前から本件業務が弁護士法72条の非弁行為に該当するのではないかという疑いを抱いていたところ、この点について調査をし、非弁行為についての裁判例等を踏まえた上で本件非弁調査申立てを行っているものであることからすれば、本件非弁調査申立てが、非弁調査申立制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであると認めることはできない。
したがって、被告による本件非弁調査申立てが社会的相当性を逸脱する違法なものであるということはできない。
また、原告は、仮に本件業務が非弁行為に当たるとしても、自らの不正行為を隠蔽するための手段として非弁調査申立てをすることは、非弁調査制度の悪用であって違法である旨主張するが、弁護士法72条が非弁行為を禁止していること、「第一東京弁護士会弁護士業務の適正化に関する委員会規則」によれば、弁護士法違反行為又はこれを誘発するおそれのある行為があることを知った者は誰であってもその調査の申立てができると解されていること及び本件業務に非弁行為の疑いがあるといえることからすれば、本件非弁調査申立ての意図や動機にかかわらず、当該申立てが社会的相当性を逸脱する違法なものであるということはできず、この点の原告の主張は採用することができない。
エ よって、被告が、本件非弁調査申立てをしたことが違法であるとの原告の主張は理由がない。
(3) 次に、原告は、被告が原告の本件業務を阻止する目的をもって、弁護士会の誤った判断を求めることを企図して、本件業務について虚偽の事実を記載して本件非弁調査申立てを行ったことが違法であると主張する。
原告が虚偽であると主張する本件非弁調査申立ての申立書の記載は、原告が「需要家の需給契約の種類の変更の申入れをして、電力会社と協議・交渉をし、契約種別の変更契約を成立させる、ということをしています」との記載、原告が本件業務に際して「弁護士名義を借りて」あるいは、「弁護士名義の利用」をして、経済産業大臣に対し苦情を申し立てるなどしている旨の記載、「現在明白な非弁活動を大っぴらに行っており」、「またそのために弁護士を利用するという違法な手段を用いるに至っている」旨の記載であるところ、上記(2)ア(ウ)及び同(エ)のとおり、本件業務は、原告が被告に対し、契約種別を高圧電力にするよう求めて協議、交渉するものであること、また、上記1(3)イで認定したとおり、原告は、C弁護士及びD弁護士に委任して、平成13年2月7日ころ、経済産業大臣に対して、電気事業法111条に基づいて、契約種別を高圧電力に変更するよう行政指導を求めて苦情の申出を行っていること、さらに、本件業務は、権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務の発生する案件に関し、法律上の効果を発生・変更する事項の処理をするものといえることからすれば、本件非弁調査申立ての申立書の記載は、いずれも虚偽とまではいい難い。
また、同申立書記載の表現において、強調しすぎたり穏当を欠く部分があったとしても、これをもって本件非弁調査申立てが社会的相当性を逸脱する違法なものとまで評価することはできない。
よって、被告が、非弁調査申立書に虚偽の内容を記載して本件非弁調査申立てをしたことが違法であるとの原告の主張は理由がない。
(4) また、原告は、被告は電気供給約款が適正・公正に適用されているかを確認し、誤った契約種別の適用については自ら是正すべきであるから、被告が原告の本件業務を拒否する正当な理由がないにもかかわらず、本件非弁調査申立てに対する弁護士会の判断がなされる前に、原告の本件業務の受入れを拒否したことが電気事業法21条1項に反し違法であると主張する。
確かに、上記1(1)のとおり、電気事業法21条1項は、電力会社は、経済産業大臣の認可を受けた供給約款以外の供給条件によって電気を供給してはならない旨規定し、同規定によれば、電力会社は、ある需要場所について誤った契約種別が適用されている場合にはこれを正しいものへと変更、是正し、また、需要場所ごとに不公平がないよう同様の電気使用設備及び電気使用状況の需要場所においては統一的に契約種別を適用しなければならないというべきであり、また、本件非弁調査申立てに対する弁護士会の判断がなされる前に、原告の本件業務の受入れを拒否したことも原告主張のとおりである。
しかしながら、上記(2)アのとおり、本件業務が弁護士法72条の非弁行為に該当する疑いがあったことからすれば、被告が、そのような業務を行う原告との協議、交渉を拒否したからといって、非難されるべきことではなく、これをもって社会的相当性を逸脱する違法なものであるということはできず、したがって、被告の拒否が電気事業法21条1項に違反するということもできない。
よって、被告が原告の本件業務の受入れを拒否したことが違法であるとの原告の主張は理由がない。
(5) さらに、原告は、被告が原告の顧客に対して本件通知をしたことが違法であると主張する。
しかしながら、上記(2)アのとおり、本件業務は、弁護士法72条の非弁行為に該当する疑いがあり、被告は、原告との協議、交渉を行わない方針を決定したのであるから、本件通知の記載内容それ自体には誤りはないというべきである。
そして、本件通知を受けた原告の顧客らは、いずれも被告と電気需給契約を締結し、かつ、契約種別の適用をめぐり交渉を継続していた者であるから、被告が客観的な事実に基づいてそれらの者に対して本件通知をしたとしても、その行為が社会的相当性を逸脱する違法なものということはできない。
よって、被告が原告の顧客らに対して本件通知をしたことが違法であるとの原告の主張は理由がない。
(6) なお、原告が、被告らの一連の行為が相まって全体として違法な行為となるものであると主張しているものと解したとしても、上記のとおり、原告の行う本件業務は弁護士法72条の非弁行為に該当する疑いがある以上、被告の一連の行為を全体としてみても、社会的相当性を逸脱する違法なものであるということはできず、結局、原告の主張には理由がない。
3 以上検討したとおり、被告の行為は、違法ということはできないから、その余の点を検討するまでもなく、原告の不法行為に基づく本件請求は理由がない。
第4 結論
以上のとおりであるから、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 荒井勉 裁判官 竹内浩史 裁判官 長谷川秀治)
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