判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(227)平成23年 6月23日 東京地裁 平21(ワ)28564号 損害賠償請求事件(本訴)、売掛金請求事件(反訴)
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(227)平成23年 6月23日 東京地裁 平21(ワ)28564号 損害賠償請求事件(本訴)、売掛金請求事件(反訴)
裁判年月日 平成23年 6月23日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)28564号・平22(ワ)618号
事件名 損害賠償請求事件(本訴)、売掛金請求事件(反訴)
裁判結果 本訴請求棄却、反訴請求一部認容 文献番号 2011WLJPCA06238011
要旨
◆被告に医療機関の誘致等の業務を委託していた原告が、被告には上記業務委託契約につき債務不履行があったなどと主張して、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償を求めた(本訴)ところ、被告が、原告に対し、上記業務委託契約に基づく報酬等の支払を求めた(反訴)事案において、被告に債務不履行は認められないとして、本訴請求を棄却したが、被告の報酬の一部について原告の消滅時効の抗弁を認めるなどして、反訴請求を一部認容した事例
参照条文
民法415条
民法643条
民法648条
商法512条
裁判年月日 平成23年 6月23日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)28564号・平22(ワ)618号
事件名 損害賠償請求事件(本訴)、売掛金請求事件(反訴)
裁判結果 本訴請求棄却、反訴請求一部認容 文献番号 2011WLJPCA06238011
平成21年(ワ)第28564号 損害賠償請求事件(本訴)
平成22年(ワ)第618号 売掛金請求事件(反訴)
東京都千代田区〈以下省略〉
本件原告兼反訴被告 株式会社ファーマシー企画
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 小野正典
東京都千代田区〈以下省略〉
本訴被告兼反訴原告 株式会社ケアマックス
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 岡田隆
主文
1 本訴原告の請求を棄却する。
2 反訴被告は,反訴原告に対し,406万8750円及びうち188万1250円に対する平成22年1月14日から支払済みまで,うち122万5000円に対する平成22年5月1日から支払済みまで,うち96万2500円に対する平成23年4月1日から支払済みまで,いずれも年6分の割合による金員を支払え。
3 反訴原告のその余の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴,反訴ともに,これを9分し,その8を本訴原告兼反訴被告の負担とし,その余を本訴被告兼反訴原告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
被告は,原告に対し,2735万4858円及びこれに対する平成21年8月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 反訴
被告は,原告に対し,931万8750円及びうち188万1250円に対する平成22年1月14日から支払済みまで,うち647万5000円に対する平成22年5月1日から支払済みまで,うち96万2500円に対する平成23年4月1日から支払済みまで,いずれも年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本訴原告兼反訴被告(以下,単に「原告」という。)は,本訴被告兼反訴原告(以下,単に「被告」という。)に対し,医療機関の誘致等の業務を委託していたものであるが,本訴事件は,原告において,被告には前記業務委託契約につき債務不履行があり,これによって損害を受けた旨主張して,被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案であり,反訴事件は,被告において,原告に対し,前記業務委託契約に基づく報酬等の支払を求めた事案である。
1 前提事実(以下の事実については,いずれも当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により認定することができる。)
(1) 原告は,薬局経営事務用機械器具等のリース販売等を業とする株式会社であり,被告は,医業経営コンサルタント等を業とする株式会社である。
(2) 原告は,平成15年8月1日,被告との間で,次の内容の業務を委託する旨の基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。
ア 委託業務
メディカル分野のノウハウ・人脈等関連情報の提供及び原告の事業拠点の開発・アフターケア
イ 委託費用
月額10万5000円
(3) 原告は,平成15年夏ころ,被告との間で,次の内容の医療機関誘致・継続コンサルティング契約(以下「本件業務委託契約1」という。)を締結した。本件業務委託契約1は,原告が株式会社建栄から被告との契約関係を引き継いだものであり,当初の契約では,3医療機関を誘致することとされていたが,原告が引き継いだ時点では,既に1医療機関が開業していたので,この時点での委託業務は,残る2医療機関の誘致を実現することであった。
ア 委託業務
メディカル所沢の医療機関誘致業務
イ 誘致する医療機関数(以下「予定医療機関数」という。)
2医療機関
ウ 医療機関誘致一時金(以下「成功報酬」という。)
1医療機関につき262万5000円(消費税込み)
(4) 原告は,平成15年夏ころ,被告との間で,次の内容の医療機関誘致・継続コンサルティング契約(以下「本件業務委託契約2」という。)を締結した。本件業務委託契約2は,原告が株式会社建栄から被告との契約関係を引き継いだものである。
ア 委託業務
東松山シルピアドクタービレッジの医療機関誘致業務
イ 予定医療機関数
4医療機関
ウ 成功報酬
1医療機関につき262万5000円(消費税込み)
(5) 原告は,平成19年6月ころ,被告との間で,次の内容の医療機関誘致・継続コンサルティング契約(以下「本件業務委託契約3」という。)を締結した(ただし,下記ウの委託費用の意味内容については,当事者間に争いがある。)。
ア 委託業務
ひばりヶ丘Sビルの医療機関誘致業務
イ 予定医療機関数
4医療機関
ウ 委託費用
(ア) 成功報酬
4医療機関 420万円(消費税込み)
(イ) コンサルティング料
1医療機関 月額4万3750円(消費税込み)
エ 支払方法等
(ア) 成功報酬については,開業月の末日に支払う。
(イ) コンサルティング料については,開業月の翌月から36か月間,毎月末日に支払う。
(6) 原告は,平成20年4月28日ころ,被告との間で,次の内容の医療機関誘致・継続コンサルティング契約(以下「本件業務委託契約4」という。)を締結した(ただし,下記ウの委託費用の意味内容については,当事者間に争いがある。)。
ア 委託業務
野方医療モールの医療機関誘致業務
イ 予定医療機関数
2医療機関
ウ 委託費用
(ア) 成功報酬
2医療機関 315万円(消費税込み)
(イ) コンサルティング料
1医療機関 月額4万3750円(消費税込み)
エ 支払方法等
(ア) 成功報酬については,開業月の末日に支払う。
(イ) コンサルティング料については,開業月の翌月から36か月間,毎月末日に支払う。
(7) 原告は,平成20年4月28日,被告との間で,次の内容の高齢者専用賃貸住宅のコンサルティング契約(以下「本件業務委託契約5」といい,本件業務委託契約1ないし5を総称して「本件各業務委託契約」という。)を締結した。
ア 委託業務
高齢者専用賃貸住宅等の紹介業務
イ 契約期間
平成20年5月1日から平成21年4月30日まで
ウ 委託金等
(ア) 委託金
月額3万1500円(消費税込み)
(イ) 成功報酬
52万5000円(消費税込み)
エ 支払方法等
(ア) 委託金については,前月末日に当月分を支払う。
(イ) 成功報酬については,施設との取引が開始した月の末日に支払う。
(8)ア 被告は,平成17年2月に,本件業務委託契約1に基づき,メディカル所沢に2医療機関の誘致を実現した。
イ 被告は,本件業務委託契約2に基づき,東松山シルピアドクタービレッジに2医療機関の誘致を実現した。
ウ 被告は,本件業務委託契約3に基づき,平成21年4月1日に「a整形外科」を,平成22年4月5日には「b内科」の誘致を実現した。
エ 被告は,現在まで,野方医療モールへの医療機関誘致には成功していない。
(9) 原告は,平成21年6月1日,ひばりヶ丘Sビルに薬局を開設し,営業を開始した。
2 争点
(1) 本件業務委託契約3及び4の契約内容及び債務不履行の有無
(原告の主張)
ア 本件業務委託契約1及び2では,被告が予定医療機関数の誘致に失敗して,原告が損害を受けたことから,本件業務委託契約3及び4では,被告が各契約における予定医療機関数の誘致を実現することが債務の内容とされ,したがって,成功報酬についても,予定医療機関数の誘致に成功した場合にのみ支払うものとされた。
イ しかるに,被告は,本件業務委託契約3については2医療機関の誘致にしか成功せず,本件業務委託契約4に至っては医療機関の誘致ができなかったのであるから,債務不履行に該当する。
ウ 継続コンサルティング料も,実質的には誘致料の一部であるから,予定医療機関数の誘致が実現してから支払義務が生ずることになる。
(被告の主張)
ア 本件業務委託契約3及び4においても,原告は,被告が1医療機関の誘致に成功するごとに成功報酬を支払うものとされていた。医療機関の誘致に成功するか否かについては不確定要素があり,かつ,これに成功しない場合にも相当額の経費を要するにもかかわらず,予定医療機関数の誘致に成功しなければ成功報酬の支払を受けることができないなどという過大なリスクを負ってまで,これらの契約を締結するはずがない。
イ(ア) 前提事実(8)のとおり,被告は,本件業務委託契約3に基づき2医療機関のに成功したのであるから,原告に対し,これに対応する成功報酬の支払を求めることができる。
(イ) また,被告は,本件業務委託契約3に基づき,誘致した医療機関の開業月の翌月から36か月間,継続コンサルティング料の支払義務を負っていたところ,「a整形外科」については平成21年6月分から平成23年3月分まで,「b内科」については平成22年5月分から平成23年3月分までの間,継続コンサルティング料の支払を怠った。
(2) 本件基本契約又は本件業務委託契約5についての債務不履行の有無
(原告の主張)
ア 被告は,本件基本契約に基づき,① メディカル分野のノウハウの提供,② 調剤薬局の場所や営業時間帯等に問題を抱えている医師の紹介,③ 事業拠点の開発及びアフターケアの実施を行う義務があったところ,これらの義務を全く履行しなかった。
イ 本件業務委託契約5で定められた業務は,「医療機関との連携及び特定施設,高齢者専用賃貸住宅の紹介業務」であり,もともと本件基本契約の内容にも含まれているところ,被告は,平成20年8月及び9月に,乙第3号証の書面を送ってきたのみで,紹介業務を行わなかった。
(被告の主張)
ア 被告は,本件基本契約に基づき,月次報告書の送付,診療圏情報や契約書フォーマット等の提供,新規開業セミナーや研修会の実施,廉価での医療機関誘致等の業務を履行しており,何ら債務不履行はない。
イ 被告は,本件業務委託契約5に基づき,○○館の取引を開始させ,その他の施設紹介や情報提供もしているので,何ら債務不履行はない。
(3) 本件業務委託契約1に基づく成功報酬請求権の存否
(原告の主張)
ア 本件業務委託契約2では,予定医療機関数4のうち2医療機関の誘致に成功したのみであり,本件業務委託契約1でも,予定医療機関数3のうち,当初は1医療機関の誘致に成功したのみで,残りの2件については,開業時期が大幅に遅れたことから,原告が開設した薬局の売上げが計画よりも大幅に下回る事態となった。このため,被告は,原告に対し,本件業務委託契約1に基づく成功報酬のうち500万円の支払義務を免除した。
イ(ア) 仮に,原告が前記アの成功報酬の支払義務を免除していないとしても,2医療機関が開業したのは平成17年2月であって,誘致料の支払期限は開業月の末日であるから,前記成功報酬の支払債務については,平成22年2月末日の経過によって商事消滅時効が完成した。また,原告が被告に対して支払猶予の要請をしたことはないが,仮に平成17年3月ころに,そのような事実があったとしても,既にその時点から5年が経過しているから,消滅時効が完成していることに変わりはない。
(イ) 原告は,本件第7回口頭弁論期日において,前記(ア)の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(被告の主張)
ア 被告は,原告に対し,本件業務委託契約1に基づく成功報酬の支払義務を免除したことはない。
イ 被告は,平成17年2月に,原告との間で,本件業務委託契約1に基づく成功報酬の支払を猶予する旨の合意をし,さらに,被告の誘致により開業した「cクリニック」が撤退した後にも支払猶予をしたが,この際には,新たに医療機関の誘致が実現した場合に前記成功報酬を支払うことが合意された。
前記合意は,被告が本件業務委託契約1に基づく医療機関の誘致に成功しなかった場合に無期限に支払を猶予するものではなく,原告が薬局の営業を継続し,合理的期間が経過した場合には,弁済期が到来したものと解するのが当事者間の合理的意思に合致するところ,本件において,既に前記合理的期間が経過したことは明らかである。
被告は,平成22年6月21日には,前記成功報酬の支払を請求し,同年9月16日には反訴を提起したのであるから,消滅時効は完成していない。
(4) 原告が受けた損害の有無及び程度(前記(1)又は(2)において,被告に債務不履行があった場合)
(原告の主張)
ア 本件業務委託契約3の債務不履行に基づくもの
(ア) 平成21年4月から平成22年5月までの賃料相当額 1249万1358円
(イ) 工事完成繰上に要した費用 694万5500円
イ 本件業務委託契約4の債務不履行に基づくもの
有限会社アイ&ジーに対する店舗確保業務委託料の残額 40万円
ウ 本件業務委託契約5の債務不履行に基づくもの
被告に支払った業務委託料 37万8000円
エ 本件基本契約の債務不履行に基づくもの
被告に支払った業務委託料 714万円
(被告の主張)
いずれも否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 本件業務委託契約3を締結する際に取り交わされた「医療機関誘致及び継続コンサルティング契約書」(甲3)では,成功報酬の支払時期は「開業月の月末」とされ,報酬額については「4医療機関分,合計4,200,000円(税込)とする。」とされている。また,同契約書の備考欄において,何らかの事情で誘致した医療機関が医薬分業を行わない場合には,成功報酬を返還する旨の記載がされている。
本件業務委託契約4を締結する際に取り交わされた「医療機関誘致及び継続コンサルティング契約書」(甲2)でも,これとほぼ同旨の契約条項が記載されているが,同契約では,予定医療機関数が2であることから,報酬額は「2医療機関分,合計3,150,000円(税込)とする。」とされている。
このように,予定医療機関数が2ないし4とされている前記各契約において,成功報酬の支払時期が「開業月の月末」とされていることからすれば,成功報酬は,個々の医療機関の誘致に成功する度に支払われることが予定されていたものと解するのが極めて自然である。
また,前記各契約の業務内容は,いずれも特定の場所に医療機関を誘致するというもので,被告において,容易に実現可能なものとは認め難く,かつ,証拠(甲2,3,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,誘致に要する費用についても,原則として被告の負担とされていることが認められるところ,原告が主張するとおり,予定医療機関数の誘致を実現することができなければ,成功報酬が一切支払われないというのでは,被告が負担するリスクが余りに過大であって,事業として成り立ち難いというべきである。しかも,原告の前記主張を前提とすると,予定医療機関数が4の場合(本件業務委託契約3)と2の場合(本件業務委託契約4)とでは,被告が負担するリスクに大きな差異があることになるのであるから,その成功報酬もそのリスクを反映したものになるのが通常であるが,本件業務委託契約3と4とを比較すると,1医療機関当たりに換算した成功報酬は,より高いリスクを負うべき本件業務委託契約3の方が低額とされているのであって,この点も,原告の前記主張を前提とすると不自然である。
さらに,前記各契約書では,何らかの事情で誘致した医療機関が医薬分業を行わない場合には,成功報酬は返還するものとされているところ,誘致に成功した医療機関が1つでも医薬分業を行わなわなかった場合に,4医療機関分の成功報酬全額を返還することが予定されていたとはなおさら考え難いところであって,その意味でも,前記各契約書における成功報酬は,1医療機関の誘致に成功する度に支払われ,かつ,医薬分業がされなかった場合の返金も各医療機関毎に行うことが予定されていたものと解するのが自然である。
また,証拠(証人C)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,ひばりヶ丘Sビルに,自ら1医療機関を誘致して開業させたため,同ビルに残されたスペースは1医療機関分しかなくなったことが認められる。そうすると,原告の前記主張を前提とすれば,原告の前記行為は,被告における仕事の完成を不可能にするものであって,積極的債権侵害に該当することになるものと解されるが,原告と被告との間でそのことが問題にされた形跡もない。
以上の諸点に加えて,前記各契約書に,被告が予定医療機関数の誘致を実現することができなかった場合の違約条項が存在しないことをも併せ考慮すれば,前記各契約おける予定医療機関数は,あくまでも誘致すべき医療機関数の目標を定めたもので,他の終了事由によってこれらの契約が終了しない限り,被告はこれを実現するために尽力すべき義務を負うものの,予定医療機関数の誘致の実現そのものが被告の債務内容を構成するものでなく,成功報酬も,医療機関の誘致に成功する毎に支払われることが予定されていたものと解するのが相当である。
したがって,被告は,原告に対し,本件業務委託契約3に基づき,2医療機関分に相当する成功報酬を請求することができ,かつ,予定医療機関数の誘致を実現することができなかったこと自体について債務不履行責任を負うことはない。
(2)ア これらの点について,原告は,本件業務委託契約1及び2では,被告が予定医療機関数の誘致に失敗し,原告に損害が生じたことから,本件業務委託契約3及び4では,被告がこれらの契約における予定医療機関数の誘致を実現することが債務の内容とされ,したがって,成功報酬についても,予定医療機関数の誘致に成功した場合にのみ支払うものとされた旨主張し,原告の常務取締役であるC(以下「C」という。)もほぼこれに沿う供述をする。
しかしながら,仮に,あえて本件業務委託契約1及び2とは異なる趣旨で本件業務委託契約3及び4を締結したのであれば,前記各契約書においても,この点に疑義が生じないような表現を用いるのが通常であると考えられるが,前記各契約書の記載は,前記(1)で説示したとおり,むしろ被告の主張により整合的な内容となっている(なお,Cにおいても,被告代表者が前記各契約書に原告主張の契約内容を明らかにする条項を入れることを拒絶したことについては,これを自認している〔C証人尋問調書21頁〕。)。
また,Cは,本件証人尋問において,本件業務委託契約1では,4医療機関が同時に開業することが予定されていたなど供述するが(C証人尋問調書23頁以下),既に説示したとおり,被告が委託を受けた業務内容は容易に実現可能なものではない上,開業時期については各医療機関の都合が優先されるはずであって,2ないし4の医療機関の開業時期が同じ月になることが予定されていたとは到底考え難いところである。
以上によれば,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
イ このほかにも,原告は,本件業務委託契約3に基づき,予定医療機関数の誘致が困難となった場合には,関係者間の利益調整をするなどして原告に損害が生じないように留意すべき義務があったのに,被告がこれを怠ったため,予定医療機関数の誘致が実現しない段階での薬局開設を余儀なくされ(前提事実(9)),損害を受けたなどと主張するが,本件業務委託契約3からそのような義務の存在が導かれる法的根拠に欠ける上,証拠(証人C)及び弁論の全趣旨によれば,原告が平成21年6月1日にひばりヶ丘Sビルに薬局を開設したのは,主として同ビルの所有者からの要請に基づくものと認められるのであるから,この点に関する原告の主張も採用することはできない。
2 争点(2)について
(1) 本件基本契約が締結された際に取り交わされた「業務委託基本契約書」(甲1)では,「甲(被告)のもつメディカル分野のノウハウ・人脈・その他の関連情報を乙(原告)に提供し,乙の事業拠点の開発・アフターケアを実施するものとする。」旨の条項(第1条の目的規定)は存在するものの,それ以外に具体的な委託内容を定めた条項はなく,これとは別に本件各業務委託契約が締結されていること等に照らすと,本件基本契約は,本件各業務委託契約の基本契約としての位置づけを有していたものと認められる。
そして,証拠(乙4~6,19,27,28,証人C,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,これまで,原告に対し,月次報告書を送付してきたほか,無料で特定の調査地点における診療圏情報(周囲の診療科目別患者数や将来の人口の予測,介護需要等に関する調査結果を記載したもの)の提供を多数行ってきたことが認められることに加え,現に,原告も,平成15年8月から平成21年3月までの間,被告に対し,本件基本契約に基づく委託契約料金を支払ってきたこと(当事者間に争いがない。),さらには,被告は,これまで,本件各業務委託契約に基づき6医療機関の誘致を実現させたこと(前提事実(8)アないしウ)をも併せ考慮すれば,本件基本契約につき被告に債務不履行があったとは認め難く,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(2) また,原告は,本件業務委託契約5についても,被告に債務不履行があった旨主張するが,証拠(乙7,8,証人C,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成20年5月に,原告に対し,本件業務委託契約5に基づき,高齢者専用賃貸住宅である「○○館」を紹介し,原告と同施設との間で取引が開始されたこと,被告は,このほかにも,原告に対し,高齢者専用賃貸住宅の紹介を行っていることが認められるほか,原告は,平成20年10月31日に,同契約に基づく委託料の全額を支払っていること(当事者間に争いがない。)をも併せ考慮すると,本件業務委託契約5につき被告に債務不履行があったとも認め難い。
3 争点(3)について
被告は,平成17年2月に,本件業務委託契約1に基づき,2医療機関の誘致を実現させたものであるが(前提事実(8)ア),これによれば,被告は,同月末日に,原告に対し,2医療機関の誘致に係る成功報酬の支払を請求することができることになる。
しかしながら,証拠(証人C,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,被告代表者は,平成17年3月ころに,Cとの間で,前記成功報酬の支払につき協議をしたことが認められるところ,その後,被告が長期間にわたって前記成功報酬の支払請求を見合わせてきたこと(この限度では当事者間に争いがない。)からすれば,前記協議の際に成功報酬の支払時期につき何らかの合意が成立した可能性が高いが,この点については,前記支払債務に関する弁済期の合意を撤回して,期限の定めのない債務とする旨の合意が成立したに過ぎない可能性も相当程度認められるところあって,当初の弁済期である平成17年2月末日から他の確定期限ないし不確定期限に弁済期が変更されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
そして,前記協議の時点を起算点としても,同時点から既に5年が経過しており,その間に時効中断がされたことを認めるに足りる証拠はないことからすれば,原告の消滅時効の抗弁は理由がある。
以上によれば,この点に関する被告の反訴請求は理由がない。
4 その余の点について
(1) 前提事実(7)及び前記2(2)で認定した事実によれば,被告は,原告に対し,本件業務委託契約5に基づき52万5000円の成功報酬を請求することができることになるところ,原告は,前記成功報酬については,被告との間で有限会社タッグが支払う旨の合意が成立した旨主張するが,同社が免責的に債務を引き受けることにつき被告が同意したことを認めるに足りる証拠はないから,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(2) 証拠(甲2,3,乙19,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,本件業務委託契約3及び4では,原告の要請により,本件業務委託契約1及び2の場合よりも成功報酬の額を減額し,その分を継続コンサルティング料名目で支払う旨の合意が成立したものと認められるところ,これによれば,原告は,本件基本契約ないし本件各業務委託契約が終了したか否かにかかわらず,被告が誘致を実現させた医療機関につき,約定の期間継続コンサルティング料を支払う義務があるものと解するのが相当である。
被告は,原告に対し,本件業務委託契約3に基づき,「a整形外科」については平成21年6月分から平成23年3月分まで,「b内科」については平成22年5月分から平成23年3月分までの継続コンサルティング料の支払を請求するところ,原告がこれを支払ったことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,被告は,原告に対し,「a整形外科」の誘致に係る継続コンサルティング料として96万2500円(=4万3750円×22か月)の,「b内科」の誘致に係る継続コンサルティング料として48万1250円(=4万3750円×11か月)の各支払を求めることができることになる。
5 以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これらをいずれも棄却すべきである。
他方,被告の反訴請求は,原告に対し,406万8750円(=210万円+52万5000円+96万2500円+48万1250円)及びうち188万1250円に対する平成22年1月14日から支払済みまで,うち122万5000円に対する平成22年5月1日から支払済みまで,うち96万2500円に対する平成23年4月1日から支払済みまで,いずれも年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その範囲でこれを認容し,その余の請求は理由がないものとして棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 堂薗幹一郎)
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