【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(348)平成18年 3月31日 さいたま地裁 平12(ワ)2324号 損害賠償請求事件 〔桶川ストーカー殺人事件〕

判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(348)平成18年 3月31日 さいたま地裁 平12(ワ)2324号 損害賠償請求事件 〔桶川ストーカー殺人事件〕

裁判年月日  平成18年 3月31日  裁判所名  さいたま地裁  裁判区分  判決
事件番号  平12(ワ)2324号
事件名  損害賠償請求事件 〔桶川ストーカー殺人事件〕
裁判結果  一部認容、一部棄却  文献番号  2006WLJPCA03319003

要旨
◆当時女子大学生であった被害者が、交際を終わらせようとしていた相手の男性から交際を続けることを強要されたり、通っていた大学や駅構内で被害者を中傷するビラを配布されるなど、度重なる嫌がらせ行為を受けた後、JR桶川駅の駅前で殺害された事件(いわゆる桶川ストーカー殺人事件)について、かつて被害者と交際していた男性及びその兄らの事件への関与が認められ、同人ら(又はその相続人である両親)に対する損害賠償請求が認容された事例

出典
裁判所ウェブサイト

参照条文
民法709条

裁判年月日  平成18年 3月31日  裁判所名  さいたま地裁  裁判区分  判決
事件番号  平12(ワ)2324号
事件名  損害賠償請求事件 〔桶川ストーカー殺人事件〕
裁判結果  一部認容、一部棄却  文献番号  2006WLJPCA03319003

主文
1  被告A及び被告Bは,相互に連帯し,かつ,被告C及び被告Dと,2600万3934円及びこのうち2462万8934円に対する平成12年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度でそれぞれ個別に連帯して,原告Eに対し,5200万7869円及びこのうち4925万7869円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告A及び被告Bは,相互に連帯し,かつ,被告C及び被告Dと,2525万3934円及びこのうち2387万8934円に対する平成12年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度でそれぞれ個別に連帯して,原告Fに対し,5050万7869円及びこのうち4775万7869円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告C及び被告Dは,それぞれ被告A及び被告Bと,2600万3934円及びこのうち2462万8934円に対する平成12年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で連帯して,原告Eに対し,それぞれ2682万8934円及びこのうち2537万8934円に対する同月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  被告C及び被告Dは,それぞれ被告A及び被告Bと,2525万3934円及びこのうち2387万8934円に対する平成12年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で連帯して,原告Fに対し,それぞれ2607万8934円及びこのうち2462万8934円に対する同月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6  訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。
7  この判決の主文第1ないし第4項は,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1  請求
1  被告A及び被告Bは,相互に連帯し,かつ,被告C及び被告Dと,2979万3267円及びこのうち2841万8267円に対する平成12年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度でそれぞれ個別に連帯して,原告Eに対し,5958万6533円及びこのうち5683万6533円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告A及び被告Bは,相互に連帯し,かつ,被告C及び被告Dと,2879万3267円及びこのうち2741万8267円に対する平成12年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度でそれぞれ個別に連帯して,原告Fに対し,5758万6533円及びこのうち5483万6533円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告C及び被告Dは,それぞれ被告A及び被告Bと,2979万3267円及びこのうち2841万8267円に対する平成12年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で連帯して,原告Eに対し,それぞれ3061万8267円及びこのうち2916万8267円に対する同月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  被告C及び被告Dは,それぞれ被告A及び被告Bと,2879万3267円及びこのうち2741万8267円に対する平成12年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で連帯して,原告Fに対し,それぞれ2961万8267円及びこのうち2816万8267円に対する同月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,G(平成11年10月26日死亡)の両親で,その相続人である原告らが,第1に,H(平成12年1月24日ころ死亡)がGに対し,脅迫や交際の強要をしたと主張して,Hの両親で,その相続人である被告C及び被告D(以下,被告Cと被告Dを併せて「被告Cら」ということがある。)に対し,不法行為に基づき,G及び原告らが被った損害の賠償及び損害額中,弁護士費用を除く部分に対する遅延損害金の支払を求め(以下「第1事件」という。),第2に,H,被告A及び被告Bらが共謀して,G及び原告Eに対する中傷行為を行い,同人らの名誉を傷つけたと主張して,被告Cら,被告A及び被告Bに対し,不法行為に基づき,G及び原告らが被った損害の賠償及び損害額中,弁護士費用を除く部分に対する遅延損害金の支払を求め(以下「第2事件」という。),第3に,H,被告A及び被告Bらが共謀して,Gを殺害したと主張して,被告Cら,被告A及び被告Bに対し,不法行為に基づき,G及び原告らが被った損害の賠償及び損害額中,弁護士費用を除く部分に対する遅延損害金の支払を求めた(以下「第3事件」という。)事案である。
1  争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は,末尾に認定に供した証拠等を掲げる。その余の事実は当事者間に争いがない。)
(1)  当事者等
ア G及び原告ら
原告らはGの両親であり,原告Eは,平成11年当時,埼玉県大宮市(平成11年当時の名称,現在の名称は「さいたま市」,以下同じ。)内の会社に勤務する会社員であった。
Gは昭和53年〔以下省略〕に出生し,平成11年当時,原告らともに,原告ら肩書住所地の自宅(以下「原告ら宅」という。)に居住する大学生(同年4月以降2学年在学)であって,最寄駅である埼玉県桶川市内のJR桶川駅から電車を利用して大学に通っていた。(原告ら宅の所在地及び最寄駅並びにGの学年につき甲第19,第31,第69号証,弁論の全趣旨,その余は争いがない。)
イ H,被告A,被告C及び被告D
被告C及び被告DはHと被告Aの両親である。被告AはHの兄であり,平成11年当時,東京消防庁の職員であった。
(2)  GとHの交際
GとHは,平成11年1月ころから同年6月ころまで交際をしていた。(甲第23,第31,第51号証)
(3)  G及び原告Eに対する中傷行為
ア 本件中傷ビラの配布
平成11年7月13日の未明ころ,被告B,分離前の相被告I,同J,同K,同L,同Mらは,「WANTED」,「G」,「この顔にピンときたら要注意」,「男を食い物にしているふざけた女です。不倫,援助交際あたりまえ」,「泣いた男たちの悲痛な叫びです」などと記載され,Gの顔写真等が印刷されているビラ(以下「本件中傷ビラ」という。)を,Gが通っていた大学の正門付近の看板や,同大学に近い東武東上線みずほ台駅の構内及びコンコース付近,原告ら宅付近の立て看板等に合計数百枚貼付し,同駅付近の集合住宅や原告ら宅付近の民家の郵便受けに多数枚投函し,さらに,原告Eが勤務する会社の敷地内に大量に投げ込んだ(以下,Iらの上記行為を「中傷ビラ配布行為」という。)。(甲第9,第15,第20,第30号証,乙B第1号証,原告F本人尋問の結果,弁論の全趣旨)
イ 本件中傷カードの配布
平成11年7月20日ころ,被告B,I,J,K,Mらは,「現役女子大生が作った援助交際サークルです!」,「大人の男性募集中!」,「でんわしてね」などの文言や「〔省略(Gの名)〕」との名前及び原告ら宅の電話番号が記載され,Gの顔写真が印刷されたカード(以下「本件中傷カード」という。)を,東京都板橋区内の高島平団地の集合住宅の郵便受けに,多数枚投函した(以下,Iらの上記行為を「中傷カード配布行為」という)。(甲第9,第15,第27号証,乙B第1号証,原告F本人尋問の結果,弁論の全趣旨)
ウ 本件中傷文書の送付
平成11年8月22日深夜ころ,被告B,I,J及びMは,「Gはその容姿と甘い言葉,思わせぶりな態度で次々と男性に近づき,交際を匂わせる。その上で交際をエサに宝飾品や高価なプレゼントをねだり,男性からの貢ぎ物を手に入れる。そして男性が金銭的にパンクすると,・・・交際を白紙に戻す。」,「最近ではこれらの男性から巻き上げた大量の金品ではあき足らずに,女子大生というブランドを生かして,援助交際さえ行っているのである。」,「Gの父親(E・・・),普段は品行方正,堅物と思われているが,大のギャンブル好き。」,「金のために売春さえ厭わないようなモラルのない娘に育てたE氏の教育の問題,しつけの欠如でもあり,親として,人としての資質の欠落を指摘されてしかるべきであろう。」などと記載された文書(以下「本件中傷文書」という。)が封入され,宛名のシールを貼付した数百通の封筒を,郵便ポストに投函し,翌日ころ,原告Eが勤務する会社及びその親会社に到達させた(以下,Iらの上記行為を「中傷文書送付行為」といい,中傷ビラ配布行為,中傷カード配布行為及び中傷文書送付行為を併せて「本件名誉毀損行為」という。)。(甲第15号証,第16号証の1,第20,第69号証,乙B第1号証,原告E本人尋問の結果,弁論の全趣旨)
(4)  Jの刺突によるGの死亡
平成11年10月26日午後0時52分ころ,埼玉県桶川市〔以下省略〕株式会社東武ストア桶川マイン南東側歩道上(以下「本件犯行現場」という。)において,Jは,所携のナイフで,Gの右背部を1回突き刺し,振り返ったGの左前胸部を1回突き刺した(以下,このJのGに対する刺突行為を「本件刺突行為」という)。Gは,同日午後1時30分ころ,同県上尾市〔以下省略〕医療法人社団愛友会上尾中央総合病院において,左前胸部刺創による肺損傷に基づく失血により死亡した(以下,本件刺突行為によりGが死亡した事件を「本件死亡事件」という。)。(甲第45,第49号証,弁論の全趣旨)
なお,I及び被告Bは,同日,Jとともに本件犯行現場付近に赴いており,Iは,原告ら宅の近くにいて,Gが自宅を出たことや本件犯行現場に近づいたことをJに携帯電話で知らせ,他方,被告Bは,自己が運転する乗用車で,Jを本件犯行現場付近に送り届けるとともに,本件刺突行為後は,Jをその乗用車に乗せて逃走した。(甲第29号証の2,第45,第86号証)
(5)  本件死亡事件後の経緯
被告A,被告B,I及びJは,平成11年12月に,Gを殺害した容疑で逮捕された後,さいたま地方裁判所に,中傷ビラ配布行為の一部及び中傷文書送付行為並びにGに対する殺人などの公訴事実(なお,中傷カード配布行為は公訴事実に含まれていない。)により公訴提起され,同裁判所は,それらの事実をいずれも認めて,平成15年12月25日までに,被告B及びIに対し懲役15年の,Jに対し懲役18年の,被告Aに対し無期懲役の,それぞれ有罪判決を言い渡した。被告Aは,この第一審判決を不服として控訴したが,平成17年12月20日,東京高等裁判所において,控訴棄却の判決の言渡しを受け,現在は最高裁判所に上告中である。Jは,上記第一審判決を不服として控訴したが,その後控訴を取り下げた。被告B及びIはいずれも控訴せず,上記各第一審判決が確定した(以下,被告A,被告B,I及びJ並びにその他の共犯者らを被疑者又は被告人としてなされた,上記犯罪事実に係る一連の刑事事件手続を「本件刑事事件手続」と総称する。)。(甲第14,第22,第49,第53,第91号証,乙A第2,第19,第71号証,弁論の全趣旨)
他方,Hは,平成12年1月24日ころ,北海道において,自殺と考えられる態様で,死亡した。(甲第33号証,弁論の全趣旨)
2  争点
本件の主な争点は,第1事件に関し,①HがGを脅迫し,交際を強要したか否か(争点1),第2事件に関し,①被告Aが本件名誉毀損行為に関与したか否か(争点2),②Hが本件名誉毀損行為に関与したか否か(争点3),第3事件に関し,①被告BがGの殺害をJと共謀したか否か(争点4),②被告AがJに対しGの殺害を依頼したか否か(争点5),③HがGの死亡につき不法行為責任を負うか否か(争点6),第1ないし第3事件に関し,①G及び原告らの損害(争点7)の7点である。
3  争点についての当事者らの主張
(1)  争点1(HがGを脅迫し,交際を強要したか否か)について
ア 原告らの主張
GとHは,平成11年1月6日ころに交際を始めた。しかし,同年3月中旬ころ,Hのマンションを訪れていたGが,ビデオカメラが仕掛けられているのを発見した際,HがGを大声で怒鳴りつけたり,Gの顔すれすれに拳で壁を殴り付けたりしたため,Gは,恐怖心からHとの交際を終わらせたいと述べた。そうしたところ,Hは,「俺に逆らうのか」,「100万円払え」,「払わなければ風俗で働け」などとGを脅迫し,交際を続けることを強要した。
Gは,Hの暴力や脅迫のために,Hに殺されるのではないかと恐怖心を抱くようになり,同年3月30日,Hに別れ話を持ち出したが,Hはやはりこれに応じようとはしなかった。これ以降,Hは,Gに対し,電話等で,「つき合いを戻せばよいが,自分と離れれば家族をめちゃめちゃにしてやる」,「親父をリストラさせてやる」,「長男は浪人生だよな。次男はまだ小学生だよね」などと脅迫し,自己との交際を強要し続けた。同年4月中旬には,GはHの前で土下座をさせられ,交際を続けることを誓わされた上,他の友人との連絡を断つために携帯電話を壊すことも強要された。
その後も,Gは,何度もHと別れようとしたが,その都度,Hから「親父をリストラさせてやる」,「一家崩壊させてやる」,「結婚詐欺で告訴する」,「(別れるならば)金を払え。(金が払えないならば)風俗で働け」などと脅迫された上,さらに,繰り返し「(別れるならば)精神的に追い詰めて,お前に天罰を加えてやる」,「(別れるならば)お前は2000年を迎えられない」,「金で動く奴はいくらでもいる」などと生命に危害を加えることをほのめかされた。そのため,Gは,Hに殺されるのではないかとの恐怖を受け続け,このようなHの脅迫により,自己及び家族に危害が加えられることを恐れて,Hとの交際を継続した。
しかし,Gは,Hとの交際に耐えられなくなり,交際を絶つ決意をして,同年6月14日,Hと会い,その決意をHに告げた。Hは,Gのこの言葉に怒り,被告A及びLとともに,同日午後8時ころ,原告ら宅を訪れ,在宅していたG及び原告Fに対し,被告AがHの勤務先の上司,Lが勤務先の社長と偽って,「うちの社員(H)が会社の金を500万円横領した。お宅のお嬢さんに物を買ってやって,その金を貢いだ。娘さんも同罪です。誠意を示せ」,「こいつ(H)を精神的に不安定にした。病院に通っていて診断書があるんだ」などと述べ,1時間以上にわたり,脅迫を繰り返した。同日午後9時半ころ,原告Eが帰宅し,Hらに対し,「話があれば警察で聞く。(警察へ)行こう」と反論したことから,Hらは退去した。
イ 被告Cらの主張
不知又は争う。
(2)  争点2(被告Aが本件名誉毀損行為に関与したか否か)について
ア 原告らの主張
被告Aは,平成11年7月初めころ,Gを中傷するビラやカードを作成し,これを多数配布することを計画し,Iと共謀して,本件中傷ビラ及び本件中傷カードを業者に依頼して作成させた。
被告Aは,同月13日未明,I,J及び被告Bらと共謀して,中傷ビラ配布行為に及んだ。その後同月20日ころ,被告Aは,Iに対して,先に作成していた本件中傷カードを配布するように依頼し,Iらをして中傷カード配布行為を行わせた。
さらに,被告Aは,同月下旬,G及び原告Eを中傷する文書を多数配布して,同人らの名誉を毀損することを計画し,Iに対して,原告Eが会社を辞めざるを得ないような文書を作成することを依頼した。そして,被告Aは,Iに指示を与えて,本件中傷文書を完成させた上,同年8月21日ころ,Iに対し,同文書を郵便ポストに投函するよう指示し,Iらをして中傷文書送付行為を行わせた。
イ 被告Aの主張
被告Aが,中傷ビラ配布行為のうち,原告Eが勤務する会社の敷地以外の場所での,本件中傷ビラの配布行為に関与したことは認める。しかし,被告Aは,Hから依頼されて,他の実行者らがきちんとビラ貼りをするかどうかを見届け,その実行者らに対して,Hから預かった現金の中からアルバイト代を支払っただけである。
被告Aが,中傷カード配布行為,中傷文書送付行為に関与したことは否認する。
(3)  争点3(Hが本件名誉毀損行為に関与したか否か)について
ア 原告らの主張
Hは,平成11年7月初めころ,被告Aとともに,Gを中傷するビラやカードを作成して,これを多数配布することを計画し,Iに指示して,本件中傷ビラ及び本件中傷カードを作成させた上,Iらに中傷ビラ配布行為を実行させた。
同月中旬ころ,Hは,中傷ビラ配布行為によっても,Gが大学を辞めず,原告Eも会社を辞めなかったことから,さらにGに対する嫌がらせを強めようと考え,その意思を被告Aに伝えたことにより,被告Aの指示に基づき,Iらが中傷カード配布行為を実行した。
さらに,Hと被告Aは,同月下旬,G及び原告Eを中傷する文書を多数配布して,同人らの名誉を毀損することを計画し,被告Aが,Iに対して,原告Eが会社を辞めざるを得ないような文書を作成することを依頼した。その後,本件中傷文書が作成され,Iらによって,中傷文書送付行為が実行された。
イ 被告Cらの主張
不知。もっとも,証拠上,Hが本件名誉毀損行為に関与したことは否定できない。
(4)  争点4(被告BがGの殺害をJと共謀したか否か)について
ア 原告らの主張
被告BとJがGの殺害を共謀し,その共謀に基づいてJがGを殺害したのであるから,被告BはGの殺害につき不法行為責任を負う。
すなわち,平成11年10月20日ころ,Gの殺害を決意したJが,I及び被告Bにその協力を求めたところ,Iと被告Bは,Jのこの依頼を承諾し,三者間で謀議をして,JがGを殺害する役,IがGの行動をJに連絡し,犯行後,被告AにGの死亡を伝える役,被告Bが犯行後にJを乗用車に乗せて逃走する役という役割分担を決定した。そして,同月26日午後0時52分ころ,本件犯行現場において,JがGを殺害し,その直後,被告Bは,本件犯行現場付近でJを乗用車に乗せて,逃走した。
イ 被告Bの主張
JがGを殺害する意思を有していたことは知らない。Iと被告BがJの呼びかけに応じ,三者間で,Jが実行役,Iが連絡役,被告Bが運転手役との役割分担を決定したこと,同月26日,JがGを死亡させた後,被告BがJを乗用車に乗せて逃走したことはいずれも認める。
被告Bは,I及びJと,Gに傷害を負わせることにつき謀議をして役割分担を決定したものであり,Gを殺害することについての謀議はしておらず,被告Bには,Gを殺害する意思を有していなかったから,被告Bの責任は傷害致死の範囲に限られる。
(5)  争点5(被告AがJに対しGの殺害を依頼したか否か)について
ア 原告らの主張
被告Aは,Jに対し,Gを殺害することを依頼した。
すなわち,平成11年10月上旬ころ,被告Aは,Hとともに,もはやGを殺害するしかないと考えるようになり,被告Aは,同月14日ころ,タクシーの車内で,Jに対し,Gの殺害を依頼した。Jはこの依頼を承諾し,同月20日ころ,被告B及びIに協力を求め,三者間で,JがGを殺害する役,IがGの行動をJに連絡し,犯行後,AにGの死亡を伝える役,被告Bが犯行後にJを乗用車に乗せて逃走する役という役割分担を決定した。Iがこの役割分担を被告Aに伝えたところ,被告Aはこれを了解した。その後,同月22日ころ,Jが,Iに対し,犯行に用いるために購入したミリタリーナイフを見せたところ,Iはその直後,被告Aに電話をかけて,「Jさんから,すっごいナイフを見せられました」と伝え,被告Aは,これに対し,「Jさんによろしく言っておいて」と答えた。同月23日ころ,被告Aが,J,I及び被告Bに対し,「いつ行くの」などと催促したことから,Jら3人は同月25日に下見に行くことを決め,これをIが被告Aに連絡した。同月25日,J,被告Bとともに本件犯行現場付近の下見を終えたIが,被告Aに対し,「いま下見が終わりました。明日やります」と連絡したところ,被告Aは「あっ,そう。よろしくね」などと答えた。Jは,同月26日午後0時52分ころ,本件犯行現場において,Gを殺害した。
したがって,被告Aは,Jらに対し,Gの殺害を依頼していたことは明らかであり,Jの実行行為によりGが死亡したことについて不法行為責任を負う。
イ 被告Aの主張
被告AがJに対し,Gの殺害を依頼したことはなく,Gに対する加害行為を依頼したこともない。したがって,被告Aは,Gの死亡について責任を負わない。
なお,J,I及び被告Bは,Gに傷害を与えるとの意図で本件犯行に及び,Gを死亡させたのであり,本件死亡事件は傷害致死事件である。
(6)  争点6(HがGの死亡につき不法行為責任を負うか否か)について
ア 原告らの主張
平成11年10月上旬ころ,Hは,被告Aとともに,もはやGを殺害するしかないと考えるようになり,被告Aを通じて,同月14日ころ,Jに対し,Gの殺害を依頼したのである。したがって,JによるGの殺害は,Hが首謀者であり,被告AがそのHの指示を受けて,Jに実行させたものであって,Hは,Gの殺害について不法行為責任を負う。
Gの殺害がHの指示により行われたことは,Gの殺害後に被告Aが,Hが出資した1800万円をJやI,被告Bに渡したこと,本件死亡事件の前後においてHと被告A,Iらとの間に相当回数にわたる電話連絡がなされていること,J,I及び被告BはGと直接の面識がなく,被告AについてもGとの関係はあくまで弟であるHの元交際相手というだけであって,Gを殺害する動機を有するのはHしかいないこと,被告AがJ,I,被告Bらに対し,「舎弟(H)にガンガン言われて困っている」,「舎弟(H)がうるさいんだ」と再三述べていたことなどの事情からも明らかである。
イ 被告Cらの主張
HがIらに依頼し,指示したのは,Gを拉致監禁して強姦し,その強姦場面をビデオ撮影することのみであり,Hには,Gを刃物で刺すという認識はなかった。したがって,Jの刺突行為によってGが死亡したことはHの意思に基づくものではなく,Hが,Gの死亡結果について責任を負うことはない。
(7)  争点7(G及び原告らの損害)について
ア 原告らの主張
(ア) Hの脅迫,強要行為(Gの慰謝料)
Hは平成11年3月中旬から6月中旬までの間,Gに対し,執拗に脅迫,強要行為を繰り返したのであり,これによって,Gは自己の生命の危機を感じるまでの恐怖を受け続けた。このGの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は300万円が相当である。
(イ) 本件名誉毀損行為
a Gの慰謝料
H,被告A,I,J,被告Bらが行った本件名誉毀損行為によって,Gはその人格に対する社会的評価を著しく傷つけられるとともに,多大な屈辱感と精神的苦痛を味わった。これを慰謝するための慰謝料は300万円が相当である。
b 原告Eの慰謝料
原告Eは,H,被告A,I,J,被告Bらが行った中傷文書送付行為によって,多大な精神的苦痛を受けた。この精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は200万円が相当である。
(ウ) Gの殺害
a Gの慰謝料
Hは,同人の不誠実さから交際を絶とうとしたGに対して,自らの不誠実さを省みることなく,Gを逆恨みし,長期間にわたって恐怖を与え続け,最後には見ず知らずの人物によってGを殺害させた。このようなHの行為及びこれに加担した被告A,J,I,被告Bの行為の悪辣さは筆舌に尽くし難い。同人らの行為によって殺害されたGの無念を考慮すれば,Gの精神的苦痛を慰謝するために相当な慰謝料の額は3000万円を下回ることはない。
b Gの逸失利益
Gは,平成11年10月26日当時,21歳の大学生であり,平成14年3月には大学を卒業して,その後就労するはずであった。
したがって,平成9年賃金センサスによる産業計・企業規模計・大卒・全年齢平均の女子労働者の平均年収額448万6700円を基礎として,稼働期間を23歳時から67歳時までの44年間,生活費控除率を30パーセントとし,ライプニッツ方式により年5分の中間利息を控除して,Gの逸失利益を算定すると,その額は5547万3065円となる。
c 原告ら固有の慰謝料
Gの死亡によって原告らが受けた精神的苦痛は極めて大きく,本件犯行の悪辣さに鑑みるならば,原告らの慰謝料は各1000万円が相当である。
d 原告らが負担したGの葬儀費用
Gの葬儀費用としては120万円(原告ら各60万円)が相当である。
(エ) 原告らの弁護士費用
被告らが上記損害の賠償を任意に行わないため,原告らは訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任せざるを得なかった。この原告らの弁護士費用としては,上記(ア)のHの脅迫,強要行為について,原告ら各15万円,上記(イ)の本件名誉毀損行為について,原告ら各25万円,上記(ウ)のGの殺害について,原告ら各250万円とするのが相当である。
(オ) 相続関係
原告らは,上記(ア),上記(イ)のa,上記(ウ)のa,bの各損害に係るGの損害賠償請求権を各2分の1ずつ相続承継した。
また,被告C及び被告Dは,上記(ア)~(エ)のHの損害賠償義務を各2分の1ずつ相続承継した。
(カ) まとめ
上記(ア)~(オ)によれば,原告Eの損害賠償請求権の額は,被告A及び被告Bに対するものがいずれも5958万6533円,被告C及び被告Dに対するものがいずれも3061万8267円であり,原告Fの損害賠償請求権の額は,被告A及び被告Bに対するものがいずれも5758万6533円,被告C及び被告Dに対するものがいずれも2961万8267円である。
イ 被告Aの主張
すべて不知又は争う。
ウ 被告Bの主張
いずれも不知。
エ 被告Cらの主張
すべて不知又は争う。
第3  当裁判所の判断
1  H,被告A及び被告Bらの関係等について
上記第2の1の争いのない事実等に,甲第14号証,第29号証の1,第39,第44,第58号証,乙A第21,第34,第43号証及び被告A本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば,平成11年ころのH,被告A及び被告B並びにその周囲の関係者らに関し,以下の事実が認められる。
(1)  Hは,遅くとも平成9年ころから風俗店の営業を始め,平成11年当時,東京都豊島区池袋周辺で,「ドリーム」,「花水樹」,「小町」,「ファースト」,「奥様恋愛倶楽部」などの風俗店(以下「本件風俗店」と総称する。)及び広告代理業を目的とする有限会社イーベックスコーポレーション(以下「イーベックス」という。)を経営していた。
他方,被告Aは,東京消防庁に勤めるかたわら,平成10年ころから,本件風俗店の業務に関わり始め,平成11年夏ころからは,Hの指示の下で,店の業務を全般的に取り仕切るようになり,店の売上金を集めて管理したり,従業員の給与を支払ったりしたほか,一部の店舗についてはHと共同出資をしたりして,各店舗の経営にも深く関わるようになった。被告Aは,その対価として,月々数十万円から百数十万円の報酬を得ていた。
なお,本件風俗店に勤める従業員らから,Hはマネージャーと,被告Aはオーナーと呼ばれることがあった。また,被告Aは,同従業員らの前で,Hのことを舎弟と称することがあった。
(2)  被告Bは,以前にB工業という商号で外壁工事業等を営んでいた際,被告Aと知り合い,B工業が経営不振となったため,被告Aに依頼して,平成10年6月ころから本件風俗店で働くようになり,同年8月ころには花水樹の店長となった。また,被告Bは,商業登記簿上,イーベックスの代表取締役として登記されていた。
Iは,被告Bと幼稚園から高等学校まで同級であり,一時B工業に雇われていたこともあったが,被告Bが本件風俗店に関わるようになったのに続いて,平成10年夏ころ,小町の従業員となり,その後同店の責任者となったほか,イーベックスの従業員として,その事務所で,本件風俗店の各店舗の日々の売上金を集めて,売上をグラフに集計するなどした上,定期的に売上金をまとめて被告Aに手渡すなどの事務を行っていた。
Jは,平成10年2月ころ,求人広告を見て,本件風俗店に従業員として入り,その後ドリームと奥様恋愛倶楽部の店長として稼働していた。Jはかつて暴力団に所属していたことがあり,傷害罪等により懲役刑に処せられた前科を有していた。
このほか,平成11年当時,Kはファーストの店長であり,Mは小町の店長であった。また,Lは中古車販売業を営んでおり,平成7,8年ころからH及び被告Aと交際があった。
2  争点1(HがGを脅迫し,交際を強要したか否か)について
(1)  上記第2の1の争いのない事実等及び上記1の認定事実に,甲第24号証,第30ないし第32号証,第35,第51,第53,第69,第70,第74号証,乙A第11号証及び原告E,原告F,被告A各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア Gは,平成11年1月ころ,大宮市内のゲームセンターでHと知り合い,その後間もなくHと交際するようになった。しかし,同年3月中旬ころ,Gが,Hのマンションの居室で段ボール箱に隠されたビデオカメラを発見し,これを確認しようとしたところ,Hが突然怒り出し,Gを大声で怒鳴りつけた上,自己の拳で,Gの顔面すれすれに,部屋の壁を殴り付け,その壁に穴を開けた。
このようなことから,Gは,Hとの交際を止めようと考え,Hに対し,何度も別れ話を持ち掛け,特に,同年3月下旬ころには,自己の生命に危険が及ぶことも覚悟し,自己の家族や友人に宛てて,遺書とも取れる内容の文書を書き残した上,Hと会い,別れてくれるよう懇願したこともあった。しかし,Hは,その都度,Gに対し,「貢いだ金を返せ」,「家族をめちゃくちゃにしてやる」,「父親をリストラさせてやる」,「弟を学校に通えなくしてやる」などと申し向けて脅迫し,交際を続けるよう強要した。また,Hは,Gに土下座をさせ,交際の継続を誓わせた上,他の友人との連絡を断つために携帯電話を壊すことを強要したりもした。このようなHの脅迫により,Gは,自己及び家族に危害が加えられることを恐れて,Hとの交際を続けざるを得なかった。
イ 同年6月14日に至り,意を決したGがHに対し,これ以上の交際を拒絶する旨告げたところ,これに怒ったHは,被告A及びLに依頼して,G及び原告Eらに借用書を書かせることを企て,同日午後8時ころ,被告A及びLとともに原告ら宅を訪れた。そして,応対したG及び原告Fに対し,被告AがHの勤務先の上司,Lが勤務先の社長と偽った上,被告Aにおいて,「うちの社員(注,Hのこと)が会社の金を500万円横領した」,「お宅のお嬢さんに物を買ってやって,その金を貢いだ」,「娘さんも同罪です」,「誠意を示せ」,「こいつ(注,Hのこと)が精神的におかしくなり,病院に通っている」などと述べて,1時間以上にわたり,脅迫を繰り返した。同日午後9時半ころ,原告Eが帰宅し,Hら3人に対し,「話があれば警察で聞く」,「出て行け」などと言ったため,Hら3人は原告ら宅から退去した。
ウ GとHとの交際は,同日をもって終了した。
(2)  上記(1)の認定事実によれば,平成11年3月中旬ころから同年6月14日ころまでの間,Hが,当時既にHとの交際を終わらせようと考えていたGに対し,同人及びその家族に危害を加える旨の言動によって,自己との交際を継続することを強要し,同年6月14日にも,被告A及びLと共謀して,Gを脅迫したことが認められ,かかるHの行為がGに対する不法行為に当たることは明らかである。
3  争点2(被告Aが本件名誉毀損行為に関与したか否か)について
(1)  中傷ビラ配布行為のうち,原告Eが勤務する会社の敷地以外の場所での本件中傷ビラの配布行為に被告Aが関与したことは,原告らと被告Aとの間に争いがなく,この事実及び上記第2の1の(3)の各事実に,甲第15号証,第16号証の1,第26,第27号証,第29号証の1,第41,第44,第62,第64,第65,第80,第88号証,乙A第26,第32,第82号証を総合すると,以下の事実を認めることができる。
ア Iは,平成11年6月終わりころ,被告Aから,ある女性を懲らしめるようなビラを作ってくれと依頼され,数日後,Gの写真などを受け取り,業者に依頼して本件中傷ビラの作成を始めた。その途中,ビラの下刷りを確認した被告AはIに対し,そこにGの名前を追加して記載した上,カラー印刷で,2000枚のビラを作成するよう指示した。その後,Iは,被告Aから,直接Gの自宅に電話がかかるようなものも作成するよう指示され,同じ業者に依頼して本件中傷カードの作成も始めた。同年7月12日ころ,Iは,完成した本件中傷ビラ及び本件中傷カードを花水樹の事務所に届けさせた。同日深夜,被告Aは,花水樹の事務所において,I,J,被告B,K,M外数名とともに,本件中傷ビラを配布することを共謀した後,4台の乗用車に分乗して,本件中傷ビラの配布に出発した。被告Aは,Iらが,本件中傷ビラをみずほ台駅の構内及びコンコース付近,Gが通う大学正門付近の立て看板などに貼付したり,同駅付近の集合住宅や原告ら宅付近の民家の郵便受けに投函したりしている現場に立ち会って,その様子をビデオカメラで撮影するなどしていた。その後,Iら数名は,被告Aと分かれて行動し,原告Eが勤務する会社の敷地内に本件中傷ビラを投げ入れた。
イ 中傷ビラ配布行為の数日後,被告AがIに対し,電話で「もう一つの方はやってくれたか」と催促したため,Iは,同月20日ころ,J,被告B,K,Mらを呼び集め,高島平団地の集合住宅の郵便受けに,本件中傷カードを配布して,中傷カード配布行為を実行した。Iは,上記行為が終了した後,被告Aに対し,電話でその旨を報告した。
ウ 平成11年8月初めころ,被告AはIに対し,Hの気が済まない,原告Eの会社に文書を送りつけられないかなどと持ち掛けた。これを受けたIは,Nと相談して,本件中傷文書の草稿を作り,これを被告Aに見せたところ,被告Aは,原告ら宅の住所の一部や原告Eの名前の一部が欠けている部分を補充して作成するよう指示した。その後,Iは,完成した本件中傷文書1000枚をそれぞれ封筒に封入した上,同月22日ころ,J,被告Bらと共同して,上記封筒約800通を郵便ポストに投函し,中傷文書送付行為に及んだ。投函を終えたIは,その旨を被告Aに報告した。以上の事実を認めることができる。
なお,上記認定に供した上掲各証拠は,甲第16号証の1(本件中傷文書草稿)及び甲第80号証(被告Aの刑事控訴審における供述)を除き,本件名誉毀損行為の全部又は一部を実行したI(甲第15,第41,第64号証,乙A第32,第82号証),J(甲第62,第88号証,乙A第26号証),被告B(甲第29号証の1,第65号証),O(甲第26号証),P(甲第27号証)及びL(甲第44号証)の本件刑事事件手続における供述証拠であるところ,これらは,相互におおむね符合し,かつ,その供述内容に特に不自然なところはないのみならず,本件名誉毀損行為が,計画,準備を経て,実行された平成11年6月から同年8月当時,被告AがHの指示により本件風俗店の業務を取り仕切っていたこと(上記1の(1)),Hは沖縄に滞在しており(甲第33,第52,第58号証),直接,Iらに対し具体的な指示をすることができたとは考えにくいこと,被告Aが,その周囲のI,J,被告Bらに対し,Hが納得しない,何度も電話をかけられて困っているなどと漏らしており(甲第15,第62,第88号証,乙B第1号証),被告Aが,Hの意を受けて実行者であるIらに対して具体的な指示を与えていたと推認されること等,これらの供述内容の裏付けとなる事情の存在も認められるのであって,十分に信用することができるものというべきである。
(2)  上記(1)の認定事実によれば,本件名誉毀損行為に対する被告Aの関与は,その自認に係る中傷ビラ配布行為の一部に止まるものではなく,本件名誉毀損行為はいずれも被告Aの意思と指示に基づいて,I,J及び被告Bらによって実行されたものであることが認められる。したがって,被告Aは,その実行行為の現場に立ち会ったか否かに関わらず,本件名誉毀損行為全体について,実行者の一人である被告Bと連帯して,損害賠償義務を負うことが明らかである。
4  争点3(Hが本件名誉毀損行為に関与したか否か)について 本件名誉毀損行為の実行がなされた当時,被告Aが,その周囲のI,J,被告Bらに対し,Hが納得しない,何度も電話をかけられて困っているなどと漏らしており,被告Aが,Hの意を受けて実行者であるIらに対して本件名誉毀損行為についての具体的な指示を与えていたと推認されることは,上記3の(1)のとおりである。また,甲第26号証,第29号証の1,第53,第55号証及び乙A第11号証によれば,平成11年7月初めころ,Hが被告Aに対して現金2000万円を預け,被告Aは,この現金の中から200万円程度を,本件中傷ビラなどの印刷代や本件名誉毀損行為の実行者らに対する報酬に充てたことが認められ,この事実によれば,上記現金の預託は,本件名誉毀損行為の実行資金とすることを目的としたものと推認される。さらに,本件中傷ビラ及び本件中傷カードには複数のGの写真が印刷されていた(上記第2の1の(3)のア,イ)ところ,Gが,被告Aや,I,J,被告Bなどの本件名誉毀損行為の実行者らと,直接の接点を有していた形跡はないから,上記写真の提供者は,Gの交際相手であったHであると推認される。
加えて,本件中傷ビラ,本件中傷カード及び本件中傷文書は,いずれもGとその父親である原告Eを誹謗中傷する内容である(上記第2の1の(3)のアないしウ)ところ,上記のとおり,被告Aや,I,J,被告Bなどの本件名誉毀損行為の実行者らとGとが,直接の接点を有していた形跡はなく,その点は,被告AやIらと原告Eとについても同様であって,その間に,被告AやIらが,積極的に本件名誉毀損行為に及ぶような軋轢が生ずる要因も見当たらないのに対し,上記1のとおり,交際相手であったGから交際の継続を拒絶されたHには,これを逆恨みし,G及びその父親である原告Eに対する中傷行為を行うべき動機が存在する。
上記各事実関係に照らせば,Hが,被告Aを通じて,Iや被告Bらに本件名誉毀損行為を実行させたことを容易に推認することができる。
そうであれば,Hは,本件名誉毀損行為について,被告A及び被告Bと連帯して,不法行為に基づく損害賠償義務を負うものというべきである。
なお,本件名誉毀損行為の実行者であるIらに対して,直接に指示を与えていたのは被告Aであって,Hは,その当時,沖縄に滞在していたことは上記3の(1)のとおりであるが,このことは,上記認定を左右するに足りない。
5  争点4(被告BがGの殺害をJと共謀したか否か)について
(1)  平成11年10月20日ころ,Jの呼びかけに,Iと被告Bが応じ,三者間で,Gに危害を加えること(それが殺害であるのか,傷害を負わせることに止まるのかについては,争いがある。)につき謀議をし,Jが実行役,Iが連絡役,被告Bが運転手役との役割分担を決定したこと,同月26日,JがGを死亡させた後,被告BがJを乗用車に乗せて逃走したことは当事者間に争いがない。
しかるところ,原告らが,被告Bは,JとGの殺害を謀議し,その謀議に基づいてJがGを殺害したのであるから,被告BはGの殺害につき不法行為責任を負うと主張するのに対し,被告Bは,JがGを殺害する意思を有していたことは知らず,被告Bとしては,I及びJと,G殺害の謀議ではなく,Gに傷害を負わせることについて謀議をしたものであって,Gを殺害する意思を有していなかったから,被告Bの責任は傷害致死の範囲に限られると主張する。
そこで,まず,本件刺突行為の実行者であるJがGに対する殺意を有していたか否か,次いで,被告BとI,Jとの間にG殺害の謀議があったか否かについて,順次検討する。
(2)  Jの殺意の有無
ア 甲第14,第45,第59,第60号証,乙A第1,第22号証,第47ないし第52号証によれば,Jは,平成11年12月19日にG殺害の被疑事実によって逮捕されて以降,その刑事第一審の判決に至るまでの間,一貫して,Gを確実に殺害するとの意思で本件刺突行為を実行した旨供述していたことが認められ,また,甲第46,第48,第49号証,乙A第1,第20,第35,第53,第86号証によれば,Jが本件刺突行為に用いた凶器のナイフは,刃体の長さが約12.5センチメートルの,スミスアンドウェッソン社製の両刃のナイフ(以下「本件ナイフ」という。)であったことが認められる。
そして,本件刺突行為の態様は,上記第2の1の(4)のとおり,Gの右背部を1回突き刺し,さらに振り返ったGの左前胸部を1回突き刺したというものであり,しかも,甲第48,第49号証,乙A第22,第48,第51号証によれば,その刺突の際,Jが力を入れてナイフを突き刺し,そのナイフの刃が根元近くまでGの体内に刺入されたことが認められる。
上記のJの殺意に関する供述内容,Jが使用した凶器の性状及び本件刺突行為の生命侵害の危険性が極めて高いというべき態様に鑑みれば,Jが,Gに対する強固な殺意を持って,本件刺突行為に及んだことが容易に推認される。
イ なお,乙A第2ないし第4号証によれば,Jは,平成13年7月17日の第一審判決言渡し(甲第14号証)の後,控訴し,その控訴審の係属中である平成14年2月から3月の間に,被告Aの刑事第一審公判期日に証人として3回出廷したが,その際,従前の供述を翻して,Gに対し殺意を抱いていなかったと供述し,また,凶器のナイフが本件ナイフではなく,片刃のナイフであったと供述したこともあった(もっとも,最後に出廷した公判期日では,再び本件ナイフであったと供述するに至った)ことが認められる。
しかしながら,Gに対する殺意を否認する上記のJの供述は,従前殺意を認めていた理由に関しても,殺意がなかったのに上記のような生命侵害の危険性が極めて高い本件刺突行為に出でた理由に関しても,不自然,不合理といわざるを得ないものである上,一連の供述中で,犯行に使用した凶器という重要な部分が変遷していること,さらに,乙A第4号証によれば,Jが上記の被告Aの刑事第一審公判期日に証人として出廷する前に,被告Aの弁護人からJに対し,控訴審では,おおむね上記供述に沿った内容の主張をして争ったらどうかという趣旨の手紙が送付されたことが認められることを併せ考えると,Jの上記供述は,全体として到底信用し得るものではない(以下,本件刑事事件手続におけるJの供述を検討するに当たっては,上記平成14年2月ないし3月の被告Aの公判期日における供述(乙A第2ないし第4号証)は,これを除外することとする。)。
(3)  被告BとI,Jとの間のG殺害の謀議の有無
ア 平成11年10月20日ころ,Jの呼びかけに,Iと被告Bが応じ,三者間で,Gに危害を加えることにつき謀議をし,Jが実行役,Iが連絡役,被告Bが運転手役との役割分担を決定したことは,上記のとおりである。そして,この事実に,甲第43,第45,第46,第48,第60号,第86,第87号証,乙A第18,第31,第32,第35,第39,第79,第82号証を総合すれば,平成11年10月20日ころ,Jに呼ばれて,I及び被告Bが東京都豊島区池袋の喫茶店aに赴いたところ,その場で,Jは,I及び被告Bに対し,「私がGを殺します」,「Gを刺します」などと言ったこと,被告BはJに対し,「刺しては駄目です,切るだけにして下さい」などと述べたが,Jは,「切っても刺しても,死ぬことは同じ」などと言い返し,これに対しては,被告Bはもはや何も言わなかったこと,その後,Jが,Iに対し,Gの動向を見届けてJに連絡する役を,被告Bに対し,Jを乗用車に乗せて逃走する役をやってくれるよう依頼したところ,Iと被告Bは,いずれもこの依頼を了承したこと,以上の事実を認めることができる。
イ 上記アの事実によれば,被告BがJ及びIとの間で,Gを殺害することを共謀していたものと認められ,したがって,被告Bは,JがGを殺害したことにつき,不法行為責任を免れない。
ウ 甲第29号証の1ないし5,第65号証によれば,被告Bは,その刑事事件手続において,喫茶店aでは,JからはGを殺害するとの言葉は出ておらず,Gをナイフで傷つけて傷害を負わせる謀議をしたとか,JはGをナイフで刺したりすることはできないが,切り付ける程度のことはするかもしれないと思っていたなどと供述し,J及びIとの間で,Gを殺害することについて共謀があったこと,被告BがGに対する殺意を有していたことを否認していたことが認められる。
しかしながら,Jが,Gに対する強固な殺意を持って本件刺突行為に及んだことは上記(2)のアのとおりである。また,甲第14,第43,第86,第87号証,乙A第31,第32,第35,第39,第71,第73,第79,第82号証によれば,Iは,平成11年12月20日に逮捕された後,翌21日以降は,一貫して,JとGを殺害することを共謀したことを認め,喫茶店aでの謀議の際も,JがGを殺害すると言っていることを理解していた旨供述していることが認められる。加えて,Iは,Jらとの殺人の共謀を認定して,Iに対し懲役15年の刑を言い渡した刑事第一審判決(甲第14号証)に対し控訴をしなかった(上記第2の1の(5))のであるから,Iの上記供述が同人の認識に沿ったものであることは容易に推認されるところである。そうすると,被告Bの上記供述に従えば,喫茶店aでの謀議に加わり,かつ,その際に定められた役割分担に従ってGを襲った者のうち,ひとり被告Bのみが,Gの殺害についての共謀もなく,Gに対する殺意も有していなかったことになるが,それ自体が不合理であり,かつ,立場をほぼ同じくするIとの比較においても不自然であることは明白である。これに加え,被告Bは,本件謀議の前の平成11年10月18日と同月26日の本件刺突行為の直前に,Jが所持していた本件ナイフを見ているが,Jが,本件刺突行為に本件ナイフを使用することについて特に反対しなかったこと(甲第29号証の1ないし3,5),本件刺突行為後,逃走中の乗用車内で,Jが,Gを2回突き刺したと言ったのに対し,被告BはJを何ら非難したり,糾弾したりせず,その後,Gが死亡したことを知った後も,その結果についてJを責めたり,Iに対し不満を述べたりしなかったこと(甲第29号証の2ないし4),被告Bは,Jらとの殺人の共謀を認定して,被告Bに対し懲役15年の刑を言い渡した刑事第一審判決(甲第22号証)に対し控訴をしなかったこと(上記第2の1の(5))をも併せ考えれば,被告Bの上記供述は到底信用することができない。
確かに,喫茶店aでの謀議の際,被告BがJに対し,「刺しては駄目です,切るだけにして下さい」などと述べたことに鑑みれば,被告Bが,Gを殺害することに積極的でなかったことが窺われ,内心では,JがGの殺害に失敗し,傷害を負わせる程度に止まることを期待していた節も見受けられるが,そうであるからといって,被告BがJ及びIとの間でGを殺害することを共謀し,Gに対する殺意を有していたと認められることに毫も影響を及ぼすものではない。
6  争点5(被告AがJに対しGの殺害を依頼したか否か)について
(1)  本件死亡事件に至る経緯及びその後の事情について
ア 上記第2の1の争いのない事実等及び上記1ないし5で認定した事実関係に,甲第15号証,第26ないし第28号証,第29号証の1ないし5,第37ないし第40号証,第45ないし第48号証,第53,第54,第56,第59号証,第61ないし第66号証,第74,第81,第86,第87号証,乙A第12,第23号証,第31ないし第33号証,第36,第37,第39,第42,第46,第64,第76,第82,第87,第95,第98,第102号証を総合すれば,本件死亡事件の前後の経緯及びその時々の被告Aの言動等につき,以下の事実が認められる。
(ア) 被告Aは,平成11年6月14日,Hに依頼されて,Gやその家族に借用書を書かせるために,H,Lとともに,原告ら宅を訪れ,Gと原告Fに対し,脅迫行為を行った。(上記2の(1)のイ)
(イ) 被告Aは,同年6月22日ころ,奥様恋愛倶楽部の事務所で,同店の店長であったJ及び同店の従業員であったPに対し,殺して欲しい奴がいる,やってくれたら2000万円出す,Hが苦しんでいるなどと発言し,これに対し,Pが,不良中国人に頼めば50万円くらいでやってくれますよなどと答え,Jが,私がやりますなどと答えた。(上記1,甲第27,第39,第45,第63号証)
(ウ) 被告Aは,同年7月から8月にかけて,Hの意を受けて,Iや被告Bらを指揮し,本件名誉毀損行為を実行させ,実行者らに対し報酬を支払った。(上記第2の1の(3),上記3,4)
(エ) 被告Aは,同年7月13日の中傷ビラ配布行為の際,被告Aが乗る乗用車を運転していたOに対し,会社の重役に頼まれて嫌がらせをやる,お金がもらえる,ビラを撒いたら500万円,拉致強姦や穴を掘って首まで埋めてしょんべんかけたところをビデオに撮影すれば1000万円から2000万円,殺してくれたら1億円払ってくれるなどと発言した。(甲第26号証)
(オ) Iは,被告Aから指示を受け,同年7月24日ころの深夜に,J,被告Bとともに,原告らの飼犬をホウ酸入りのえさで殺したり,原告らの自家用車にペンキをかけたりしようと企て,原告ら宅に近づいたが,上記飼犬に吠えられたために失敗した。この際,Iらは,被告Aの指示で,その準備の様子をビデオカメラで撮影していた。(甲第15号証,第29号証の1,第37,第62,第65,第81号証,乙A第102号証)
(カ) 被告AはLに対し,同年8月ころ,成功すれば金を払うと述べて,Gを強姦し,その場面をビデオカメラで撮影してくれるよう依頼し,後日,そのための道具として,スタンガン,催涙スプレー,ビデオカメラなどを,Iを通じて,Lに渡した。Lは,同年9月ころ,被告Aの上記依頼に基づいて,Qに対し,山小屋にGを監禁する,犯行には盗難車を使う,Gを強姦してビデオに撮影するなどの具体的な指示をファクシミリ送信し,そのころ,Qの仲間である山神ことRに対し,上記ビデオカメラなどの道具を渡した。同年10月15日,Rとその仲間のS及びTは,乗用車で原告ら宅近くに赴き,自宅から出てきたGを拉致しようとしたが失敗した。同日の夜,Q,S,Tは,再び乗用車で原告ら宅の前に行き,乗用車のカーステレオから大きな音を発して,Gらに対する嫌がらせを行った。(甲第28,第37,第53,第56,第74,第87号証)
(キ) 被告Aは,同年7月下旬ころから,I,被告Bらに対し,Hが,結果が出てないと言って毎日のように電話をかけてくるので困るなどと漏らすようになり,同年8月中旬ころには,Jに対し,Gを拉致して,植木ばさみで指でも切ってHに送れば,Hも納得するか,あれだけやってるのに,Hから文句を言われて疲れた,あの女が邪魔でしょうがないなどと発言した。同年9月末ないし10月上旬ころに至ると,被告Aは,Iや被告Bに対し,Hがうるさいんだ,強姦とか顔に傷をつけるとか彼女に直接危害を加えることができないか,それをビデオに撮影できないかなどと何度も相談を持ち掛け,同年10月16日,喫茶店aで,Iと被告Bに対し,何をしてもいいからどうにかできないか,Hがうるさいんだ,拉致監禁,強姦,まわし(輪姦),何でもいい,ビデオに撮影してくれと強く依頼した。Iと被告Bは,被告Aのこの依頼を受けて,J,Kと話し合い,同月18日にGを乗用車の中に連れ込むことなどを決めた。Iがこの計画を被告Aに報告したところ,被告AはIに対し,自宅にビデオカメラを取りに来るよう指示したため,翌17日,Iが,被告Aの自宅を訪れ,当時の被告Aの妻Uからビデオカメラを受領した。I,J,被告B及びKは,同月18日の朝から乗用車で原告ら宅近くに赴き,午前10時ころ,Gが自宅から出てくるのを発見したが,いずれも躊躇して,Gを車内に連れ込むことを実行できなかった。Iら4人は,同日の夕方,Gが帰宅するのを狙って,再び実行しようとしたが,その時も,相手を見間違えるなどしたために失敗に終わった。同日夜,被告Bが被告Aに対し,電話で,この日の失敗を報告したところ,被告Aから,大の大人が4人も行って何もできないで帰ってくるのかなどと怒られた。(甲第15号証,第29号証の1ないし5,第38,第40,第62,第64,第65,第87号証,乙A第32,第33,第37,第46,第82,第98号証)
(ク) 上記5の(3)のとおり,J,被告B及びIは,同年10月20日ころ,喫茶店aで,Gの殺害を謀議し,役割分担を定めたが,同日,Iが被告Aに対し,この役割分担を電話で報告したところ,被告Aは,ああそう,よろしくなどと答えた。同月22日ころ,イーベックスの事務所で,JがIに対し,本件刺突行為のために準備した本件ナイフを見せたところ,Iは被告Aに,Jがすごいナイフを準備しましたなどと電話報告をした。そして,そのころ,被告AがI,J,被告Bに対し,いつ行くの,いつやるのなどと何度も実行を催促したため,Iら3人は相談の上,同月25日,乗用車で,Gが通学で利用する桶川駅に赴き,駅周辺を下見するとともに,実行場所を桶川駅に近い本件犯行現場付近と定め,さらに,戻る途中の車内で,翌26日にGの殺害を実行することを決めたところ,Iは被告Aに対し,下見に出かけることや,殺害を実行することが決定された都度,そのことを被告Aに電話で報告した。被告Aは,同月25日に,Iから翌26日にGの殺害を実行することを知らされると,明日は大変だから今日は早く上がっていいよと言って,同月25日夜の本件風俗店の勤務を早く切り上げることを許可した。また,被告Aは,同日夜,Jに対しても,本件風俗店(ドリーム)を早く閉店してよいとの電話をした。(上記第2の1,上記5の(3),甲第15,第29号証の2,5,第46,第86,第87号証,乙A第32,第33号証,第46号証)
(ケ) 上記第2の1の(4)のとおり,同月26日午後0時52分ころ,Jは,本件犯行現場において,Gに対する本件刺突行為に及んだが,Jの刺突行為を確認したIが,同日午後1時05分,被告Aに対し,電話で「Jが刺しました」と報告したところ,そのころKとともに川口駅付近にいた被告Aは,「本当に」と少し驚いたように答えた。被告Aは,その後,Iら3名と何度か電話で連絡を取り合い,同人らに東京都北区赤羽所在のカラオケボックスに来るよう指示した上,埼玉県川口市内の自宅に立ち寄って,Hから預かった2000万円の残金である約1800万円(上記4)の中から1000万円を取り出し,これを携えて,上記カラオケボックスに向かった。他方,Iら3名は,一旦本件風俗店が所在する東京都豊島区池袋に戻った後,被告Aの指示に従って上記カラオケボックスに向かい,同日午後4時過ぎころ到着して,被告A及びKと落ち合ったが,このころには既に,Gが刺されて死亡したことがテレビ等で報道されていた。被告Aは,Iらに対し,「大変なことになってしまったが,やったことはしかたがない」,「舎弟に電話をしたら,えっ死んじゃったのと言っていた」などと述べたが,Jが本件刺突行為に及んだことについて憤った様子はなく,また,Jらに対し自首を勧めるようなこともなかった。そして,被告Aは,Jに対しては,上記1000万円の現金が入った紙袋を渡して,沖縄に赴くよう指示し,これに応じて,Iが同日夜の航空便の予約をしたが,その後,Hが沖縄を出ることになりそうだからとする,被告Aの再指示により,Jは沖縄に行くことを中止した。また,被告Aは,同日午後10時ころ,Iを呼び出し,自宅近くのカラオケボックスで上記2000万円の残金である約800万円の現金を渡して,被告Bと分けるよう指示し,Iは,これに従って,その夜,被告Bに対して,上記約800万円の中から400万円の現金を分け与えた。さらに,被告Aは,後日,IやLに指示して,本件死亡事件の際にJらが使用した2台の乗用車を処分させた。(上記第2の1の(4),甲第29号証の2,3,第45,第47,第48,第59,第61,第65,第66,第86号証,乙A第23,第31,第32,第36,第42,第46号証)
イ 上記認定に関連する被告Aの供述については,後に検討する。
(2)  タクシー車内における被告AのJに対する働きかけ
ア 本件死亡事件の前後の経緯,とりわけその時々の被告Aの言動等に関する上記(1)の認定事実に,甲第40,第45,第46,第48,第60,第62,第65号証,乙A第28号証を総合すると,以下の事実を認めることができる。
(ア) 平成11年10月14日ころの午後6時ないし8時ころ,ドリームの店内にいたJに対し,被告Aから「今夜飲みにいこう」という誘いの電話があり,Jは,同日午後7時か8時ころ,待ち合わせ場所である花水樹が入居するビルの下で,被告A及びその連れの被告Bと落ち合った。そして,被告Aらは,池袋駅西口所在の被告Aの行きつけの店に行くこととして,同駅東口の豊島区役所前からタクシーに乗車し,同駅西口の同店が入っているビルに向かったが,その際,タクシーの助手席には被告Bが,右後部座席にはJが,左後部座席には被告Aが座った。
(イ) 同タクシー内で,被告AはJに対し,真剣な表情で,Jの手を握りしめながら,「舎弟からがんがん言われて困っている」,「頼めるのはあなたしかいない,他の人はこういうことを頼んでもみんなぶるってしまう,ねえ分かるよね」,「本当に頼むからやってくれ」,「一生に一度のお願い」などと,説得するように言った。Jは,被告Aが,直接的にはGを殺せとの文言を使用しなかったものの,その言葉遣いや発言の内容,被告Aの表情や仕草から,被告AがG殺害を依頼しているものと理解した。
(ウ) 被告Jとしては,Gを殺害する特別の理由はなかったが,被告Aに雇われて本件風俗店で働き,歩合制で高い給料をもらっているし,それまでにGらに対する中傷行為(本件名誉毀損行為)に加わっていたため,いまさら引き返すこともできないと思い,さらに,自分がやらないと他の者がやらざるを得なくなってしまうと考えて,被告Aの依頼に応じ,Gを殺害しようと決意し,被告Aに対し「分かりました,やります」と答えた。
(エ) 同タクシーは,5分ほどで,目的のビルにつき,被告A,J及び被告Bは,降車して,被告Aの行きつけのキャバクラに入り,同店で1時間程度過ごした。
イ 上掲甲第65号証のほか,甲第29号証の2,3,5によれば,被告Bは,本件刑事事件手続において,平成11年10月に,被告Aとともに,Jを誘って,飲みに行ったことがあり,その際,池袋駅の東口から西口までタクシーに乗車し,助手席には被告Bが,後部座席の運転席側にはJが,助手席側には被告Aが座ったという限度で,上記認定に符合する(ただし,タクシー内での被告AとJの会話は聞き取れなかったとする。)ものの,飲食した店や時間につき,池袋西口のビルの5階のランジェリーパブに入った後,3階のキャバクラに行って,深夜12時か1時ころまで飲んでいたとか,その日は同年10月14日ではなかったなどとする,上記認定と異なる供述をしていることが認められる。
しかしながら,上掲各証拠によれば,被告Bは,被告Aと飲食をともにする機会がかなり多い上,そのような飲食の際に上記ランジェリーパブを利用することや,その後,別の店に行って深夜12時か1時ころまで過ごすこともよくあったことが認められるのであるから,飲食した店や時間についての上記認定との齟齬は,被告Bが別の機会と混同していることによるものと考えられ,上記認定を左右するに足りない。
また,日時についての齟齬に関しては,被告Bが記憶している同月14日の自己の行動(当日は東京都港区六本木に出かけ,午後8時ころに花水樹の事務所に戻ってその後は仕事をしていたとし,また,被告Aと飲食中は,私的な電話はしないが,当日は当時交際中の女性に何度か電話をしているとする。)や天候(当日は雨天であったが,被告A及びJと飲みに行った際は雨が降っていなかったとする。)を根拠とするものであるが,甲第29号証の5,乙A第46号証によれば,被告Bは,同月14日午後8時51分に,その携帯電話から,花水樹(03-〔以下省略〕番)に電話をかけていることが認められるから,少なくともその時刻には花水樹にいなかったはずであって,同日午後8時以降は花水樹の事務所で仕事をしていたという点は被告Bの記憶違いであることが明らかであるし,また,甲第29号証の2によれば,被告Bは,同日夕方から夜にかけて,上記交際中の女性に4度程電話をしていることが認められるが,上記アの(エ)のとおり,被告A及びJと飲食をしていたのが午後8時ころから1時間程度であるとすれば,その間に電話したのは,午後8時23分ころの1度だけであって,被告Bが,被告Aと飲食中は,その電話さえできなかったものとは考え難く,さらに,天候に関しては,同日午後8時以降,東京都豊島区池袋において降雨があったと認めるに足りる証拠はないから,結局,日時についての齟齬も,被告Bの思い違いによる可能性が高く,上記認定を左右するに足りない。
ウ 上記認定に関連する被告Aの供述については,次に検討する。
(3)  上記(1)及び(2)の各アの各認定に関連する被告Aの供述について
ア 上記(1)のアの認定に関連する供述
(ア) この点に関する被告Aの供述の大要は,以下のとおりである。
a 捜査段階における供述(甲第53,第54,第56号証)
被告AがGに会ったのは平成11年6月14日の1回だけである。その日まで,HとGの交際を知らなかった。被告Aは中傷ビラ配布行為には参加したが,中傷文書送付行為には関与していない。Hは,Gを強姦してビデオに撮影してくれる奴がいないか,成功報酬を出すと言っており,同年7月5日ころ,被告AはHから,その成功報酬とビラの印刷代などとして2000万円を受け取った。被告Aは,同年8月か9月上旬に,Lに対し,Gを強姦しビデオに撮影してくれるよう依頼し,同年10月上旬に,Iに対しても同様の依頼をした。その後,Iがやり方を変えるなどと言っていたので,I,J,被告Bの3人でGを痛めつけるのだと思った。同年10月24日の夜,Iから被告Aに明日行ってきますと連絡があり,この時も,被告Aは,Iら3人がGを痛めつけにいくのだと思った。同月25日午前10時か11時ころIから電話があり,桶川に来ていると言われたので,Iら3人がGの住んでいる桶川に行って,事件を起こすつもりだと知った。同日午後2時ころ,Iから電話があり,今日はだめですと言ったので,被告Aが,もう計画を諦めろと言ったところ,Iはもう1回やってみますと答えた。同月26日午後1時か2時ころ,Iから被告Aに,JがGを2回刺したとの連絡があり,被告Aが公衆電話でHに伝えたところ,Hは,弁護士費用として金を渡して自首させてくれと言った。その後,赤羽のカラオケボックスに集まった際,被告AがJを怒ったところ,Jは謝っていた。被告Aは,自宅から持ってきた1000万円をJに渡した。同月27日午後9時半ころ,被告AはIに対し,弁護士費用だと言って,半分は被告Bに分けるよう指示し,800万円が入った紙袋を渡した。
b 刑事事件第一審における供述(甲第30号証,乙A第10ないし第12号証,第16号証)
Hに強制されて中傷ビラ配布行為の一部に関与したが,中傷文書送付行為には関与していない。被告AがI,J及び被告Bらに対し,Gの殺害はもちろん,強姦なども依頼したことはない。HがI,J及び被告Bらに対し,拉致監禁や強姦などGに危害を加えることを依頼していたのは知っていたが,被告Aがそれに関与したことはない。
被告Aは,平成11年6月22日,奥様恋愛倶楽部の店内で,JとPに,下の不良外国人をどうにかしろ,1000万円くらいで殺してくれるのかなどと言ったが,Gのことを指して,殺したい奴がいると言ったことはない。中傷ビラ配布行為の途中,Oに対して,本件中傷ビラを作るのに200万円くらいかかった,HがGを強姦してくれなどと言って2000万円を置いていったが,今回で終わりだという発言をしたものの,それ以上に,ビラを撒いたら500万円,拉致強姦などすれば1000万円から2000万円,殺してくれたら1億円などという発言はしていない。中傷文書送付行為については,後日にHから電話で聞いて知り,実行したIを怒った。同年7月27日,花水樹の店内で,被告Bが,Hに頼まれて,原告ら宅の犬を殺しに行ったが,犬に吠えられて帰ってきたと言っていたので,被告Aは被告Bに対し,Hと関わるなと注意した。同年9月上旬に,被告AがLに対し,渡してあるビデオカメラ等を返すように言ったところ,同年10月5日にLからビデオカメラ等が戻されたので,この時点でGに対する強姦の計画は終わったものと考えていた。被告Aが,10月16日に喫茶店aで,Iと被告Bに,Gの拉致監禁や強姦などを依頼したことはない。その日,被告Aは,午前中長女の授業参観に行き,午前11時ころから,IとKに手伝ってもらいながら,自宅の小屋のニス塗りや庭の植木の手入れなどをして,午後7時ころまでは自宅にいた。なお,この日の午後から同月18日の夜まで,090-〔以下省略〕番の携帯電話を,Iに預けていた。同月17日,Hから電話があり,被告Bの子供の運動会のためにビデオカメラを貸してやってくれと言われた。被告Aは,同月18日に,I,被告B,KらがGの拉致や強姦に行ったことは知らなかったし,同日,被告Bからその失敗を聞かされて怒った事実もない。同日夜,被告Aは,Kとともに居酒屋や西川口のキャバクラに行ったが,その際,Kは強姦に行ったなどとは言わなかった(同月18日夜の行動については,刑事第一審で平成14年3月12日に提出された陳述書(甲第30号証)記載のもの,なお,平成15年7月8日の刑事第一審被告人質問における供述(乙A第16号証)では,同日午後7時ころから,埼玉県川口市西川口所在の「b」という飲食店のホステスであるVとともに横浜までドライブをし,午後11時ころまで横浜にいたが,そのドライブの途中に,Hから電話があり,横浜のホテルに泊まっていると聞いたとされている。)。平成11年10月24日は,IとKが被告Aの自宅に小屋のニス塗りなどの手伝いに来ていたが,Iから,翌日に桶川の下見に行くという話は聞かなかった。同月25日は,昼ころにJから電話があり,午後から半休を取らせてもらいますと言ったので,被告Aが,どうぞと答えたが,Iからの電話はなかった。同月26日,被告Aは,正午ころから,Kとともにパチンコをしていたが,Kは,同日のJや被告Bの行動を知らないと言っていた。午後1時ころ,パチンコをしている最中に,Iの携帯電話(電話番号の末尾が119のもの。)から被告Aの携帯電話にものすごい回数の電話がかかり,初めは留守番電話機能になったが,そのうち留守番電話機能の件数を超えて,着信を示すバイブレーションが止まらない状態になってしまったので,何かあったのかと思い,電話を取ったところ,Iが,大変なことになった,JがGを刺したと言った。被告Aが,川口駅付近の公衆電話で,Hに電話したところ,Hは,俺は強姦しか頼んでない,Jのやつ俺の店を潰しやがって,弁護士費用を渡して自首させてくれなどと言っていた。被告AはKの運転する自動車で自宅に戻り,現金を携えて赤羽に行った。赤羽のカラオケボックスで,被告AがJに対し,どうしてそんなことをやったんだと怒ると,Jは,申し訳ありません,これくらいやらないとHが納得しないと思ったと答えた。被告Aは,Jに自首するよう勧め,現金を渡すとともに,Hから教えられた弁護士の電話番号をJに伝えた。この時,Jは,使用したナイフは片刃のもので,使用後に植え込みに隠してきたと言っていた(ナイフの隠匿に関しては,平成14年3月12日の刑事第一審被告人質問における供述(乙A第12号証)によるもの,但し,平成15年7月8日の刑事第一審被告人質問における供述(乙A第16号証)では,Jは,偽装工作として,使用していない両刃のナイフを隠し,使用した片刃のナイフは帰路の途中で団地のゴミ置き場に捨てたと言っていたとされている。)。Iは,JにはHに報告するために沖縄に行ってもらいますと言っていたので,被告Aは,検問があるから無理だよなどと答えた。この日,被告Aは,西川口でIに800万円を渡した。
c 刑事事件控訴審における供述(甲第80号証)
中傷文書送付行為による名誉毀損の事実も認める。本件死亡事件についても傷害致死の限度で責任を認める。Gが死亡した事件は専らHの意思と指示でなされたものであるが,被告Aは,Hの手足として,I,J,被告B及びKと,Gを強姦することや輪姦することを共謀していた。ただし,Gを刺すとか切るとかの話には関与してない。
平成11年6月30日,喫茶店cに,H,被告A,I,Nが集まった際,HがNに対し,Gの父親を懲らしめたい,ぶっ飛ばしてやりたい,Gの髪が二度と生えないよう,顔が二目とみれないようにしたい,Gを強姦してそのビデオを撮って欲しいと言っており,その場で謀議した計画がY計画と名付けられた。同年7月1日,被告AとIがHのマンションに呼ばれた際,HがIに対して,Gを強姦してビデオを撮影して欲しいと依頼し,そのために,探偵に調べさせたGの情報が記載された紙片やビデオプリンターをIに渡していた。その後しばらくして,花水樹に,HがIに渡した道具が入っている段ボール箱が置かれていて,その箱の中にはバタフライナイフも入っていた。同年9月初めころ,被告AはJに対し,Gの強姦とビデオ撮影をよろしくと依頼した。被告Aが,同年10月16日に,Iや被告Bらに対し,Gの拉致監禁や強姦の依頼をしたことはないが,同月5日に,喫茶店aで,I,J,被告Bらに向かって,Gに対し直接的な危害を加えることができないかという趣旨の相談をした。この時,強姦とビデオ撮影のことを主に話し,そのほかに拉致監禁やまわしという言葉も入っていたと思う。これは,同月2日に大阪でHに会った際に,Hから指示されたので,パイプ役として,伝えたものである。同月半ばに,被告AはIから,Gを強姦してビデオを撮る際の役割分担を聞き,あっそうと答えた。同月16日午後4時前ころ,Hから被告Aの自宅に電話があり,近日中に行くからお前も付き合えと言われた。同月17日,Hから電話があり,明日行くから付き合え,ビデオカメラを貸せと言われたが,被告Aは,協力はできないが,ビデオカメラは貸してやると答えた。同月18日の夜,横浜にVと行った際,そこでHに会い,Hから,Iや被告Bらがこの日Gの拉致に失敗し,Hが被告Bを叱りつけたという話を聞いた。同月20日ないし22日ころに,Iから役割分担の報告やナイフを見たという報告はなかった。同月22日にHのマンションに泊まった際,Hが被告Aに,Y計画を実行に移すと言っていたが,刃物で刺すという話はなかった。同月25日に,Jから,半休を下さいとの電話があり,被告Aは,どうぞと答えたが,Iから,明日決行するという電話はなかった。同月26日午前11時ころに川口駅に到着し,正午ころ,Kと会った。Kは,店の売上金を被告Aに渡すとともに,被告Aに対して,今日Y計画を実施することになった,Hから被告Aを呼んでこいと言われて来た,H,J,Iが人混みに紛れてGの顔か尻を切り付けるらしいと話した。この日,Hは東京にいた。同日午後3時ころに,被告Aが,赤羽の駐車場でHに会ったところ,Hは,Gに対する刺突行為をしたJを誹謗中傷し,俺の店を潰しやがってと怒っており,今日は桶川に行っていた,預けた金をJに渡して,自首させてくれと言った。事件後にJが沖縄に行くことになったのは,Hが沖縄にいたからではない。
d 本件訴訟における陳述(被告A本人尋問の結果)
Gに対する傷害致死の範囲で責任を認める。その首謀者はHであり,被告Aはパイプ役だった。被告AがHに協力せざるを得なかったのは,Hから,被告Aが風俗店の経営に関わっていることを勤務先である消防庁に告げ口すると脅されたからである。また,刑事第一審でHのことを話さなかったのは,Hのことを話すと自分が共犯になってしまうと考えたからである。
平成11年5月3日,Hから,Hの風俗店で働いている女性としてGを紹介された。同年6月にHが病院に入院していた時,被告Aは,見舞いに来たGと会った。同年7月12日,被告Aが花水樹の事務所に行ったところ,そこに,Hから届けられたスタンガンなどが入った段ボール箱が置かれていた。刑事控訴審では,その中にバタフライナイフがあったと供述したが,実際は鉄のかたまりが見えただけで,それがバタフライナイフだったかどうかは分からない。同年10月5日,喫茶店aに,I,J,被告Bらと集まり,被告AがIと被告Bに対し,Hが言った強姦やビデオ撮影ができないかな,本当にY計画できるのかと言ったが,Gに直接危害を加えるという言葉は使わなかった。同月18日の夜,横浜でHと会った時,Hから,その日桶川に陣頭指揮を執りにいっていたこと,Lのグループが桶川駅周辺で拉致監禁等を計画し,Iと被告BらがGの自宅周辺だったと聞いた。Lのグループによる拉致監禁し強姦するという計画は同月26日まで続いていた。同月26日,Iから連絡をもらった後,公衆電話でHに電話をしたことはない。Hの方からKの携帯電話に電話がかかってきて,金を持って赤羽に来るように指示されたので,赤羽の駐車場でHに会った。Hは,Iらが実際に拉致監禁などを実行するか確かめるために,桶川に見にいったと言っていた。
(イ) しかしながら,上記(ア)の被告Aの供述は,刑事第一審の段階では,中傷文書送付行為への関与を否認し,Gの殺害はもちろん,強姦等の危害を加えることについての関与も否認していたのに対し,刑事控訴審に移行すると,中傷文書送付行為への関与及びGに対し強姦等の危害を加えることについての共謀に加わったことを認め,Gの死亡につき傷害致死の範囲で責任を認めた点で大きく変更されたほか,細部においても多数の変遷があることを看取することができる。
また,同供述は,全体として,上記(1)のアの各事実の認定に供したI,J,被告Bらの供述と著しく齟齬するのみならず,以下のとおり,客観的な証拠関係(乙A第46号証添付の電話による通話の記録,以下「本件通話記録」という。)と整合しない点も存在するものである。
すなわち,①被告AがIや被告Bに対しGの拉致監禁,強姦等を依頼した平成11年10月16日(上記(1)のアの(キ))について,被告Aの供述では,昼前からIとKが被告Aの自宅に来ており,被告A自身も午後7時ころまでは自宅にいたとされている(上記(ア)のb)が,本件通話記録によれば,同日午後4時56分に,被告Aがその携帯電話(090-〔以下省略〕番のもので,被告AがこのころIに預けていたと供述する携帯電話(上記(ア)のb)とは異なるものである。)で,自宅に電話をかけ,2分以上通話していることが認められることからすれば,この時刻に被告Aが自宅にいたものとは考え難い。②Gの拉致に失敗したことを被告Aに報告した被告Bが,被告Aから怒られた同月18日の夜(上記(1)のアの(キ))について,被告Aの供述では,当日は横浜に行っており,同日夜,横浜でHと会ったとされている(上記(ア)のc)が,本件通話記録によれば,Hは,同日午後3時ころまで神奈川県内にいたものの,午後7時ころにはすでに沖縄県内に戻っていたものと認められるから,同日の夜に被告Aが横浜でHと会ったものとは認められない。③被告Aの供述では,本件刺突行為が敢行された同月26日の午後3時ころ,Hが赤羽にいたとされている(上記(ア)のc,d)が,本件通話記録によれば,同日午後1時過ぎころから午後9時過ぎころまでのHの携帯電話の受信地及び発信地が沖縄エリアとなっていることは明らかであるから,午後3時ころにHが赤羽にいたということはあり得ない。④さらに,被告Aの供述では,同日,午後1時ころ,Iの携帯電話(電話番号の末尾が119のもの。)から被告Aの携帯電話に多数回の電話があり,留守番電話機能の件数を超えてしまったとされている(上記(ア)のb)が,本件通話記録によれば,同日午後0時から2時までの間に,Iが使用していた携帯電話(090-〔省略〕-3119番)から被告Aの携帯電話に電話があったのは,午後1時05分の1回のみである(なお,通話先の携帯電話で留守番電話機能が働いて応答がなされれば,その時点で,その通話が記録に残るはずである。)。
イ 上記(2)のアの認定に関連する供述
(ア) 甲第30,第80号証,乙A第12,第15,第16号証,被告A本人尋問の結果によれば,この点に関する被告Aの供述の大要は,以下のとおりである。
a 被告Aは,平成11年10月14日は,終日埼玉県内にいた。同日午後,浦和市(現さいたま市)南浦和所在の「d」という喫茶店に行き,また,夜は飲食店b(埼玉県川口市西川口所在)に赴いて深夜まで飲食店bにいた。
b 同日,Jとタクシーに乗ったことはない。同年9月上旬,大橋書店のパーティーに赴く際,被告A,J及び被告Bの3人でタクシーに乗ったことがあり,この時は,タクシーの助手席に被告B,右後部座席にJ,左後部座席に被告Aが座った。このタクシーの中で,被告AはJに対し,店の客数の連絡をよろしくお願いしますと頼んだ。
(イ) しかしながら,被告Aの上記供述は,まず,同年10月14日に喫茶店dを経て飲食店bに赴くまでの行動につき,同日午後,Wと喫茶店dに行き,夜8時ころ同人と飲食店bに行ったとする供述(平成14年3月12日付陳述書(甲第30号証))から,午後5時か6時ころWと喫茶店dに行き,その後,飲食店bのホステスであるVをそのマンションまで迎えに行って,午後7時ころWと別れ,Vと食事をした後,同人と同伴して飲食店bに行ったとする供述(平成15年6月27日刑事第一審被告人質問(乙A第15号証)),さらには,平成11年10月14日は昼からVのマンションにおり,夕方前に同人と喫茶店dで夕食をともにした後,同人と同伴して飲食店bに行ったとする供述(被告A本人尋問の結果)に変わり,また,飲食店bを出てから後の行動につき,飲食店bの閉店までいて,Vのマンションに泊まり,始めて性交渉を持ったとする供述(平成17年6月9日刑事控訴審被告人質問(甲第80号証))から,夜12時ころ飲食店bを出て自宅に帰ったとする供述(被告A本人尋問の結果)に変わるなど,主要な点で変遷が認められ,また,平成11年9月上旬,大橋書店のパーティーに赴く際,被告A,J及び被告Bの3人でタクシーに乗ったという点は,被告Bがそのような事実の存在を否定している(甲第29号証の3)。
ウ 上記(1)のアの認定(本件死亡事件に至る経緯及びその後の事情)に関連する被告Aの供述(上記アの(ア))は,同(イ)のとおり,J,被告Bらの供述と著しく齟齬し,本件通話記録と整合しない点が存在し,かつ,中傷文書送付行為やGに対する加害行為への関与の有無について大きく変更されたほか,細部においても多数の変遷が看取されるものであって,そこには,それが自己の記憶に基づき真摯になされた供述であることを窺わせるような形跡は片鱗もなく,専ら,自己の刑事責任を免れ,またはこれを軽減させる目的により,虚実を織り交ぜて言い逃れようとする態度に終始したものといって過言ではない。したがって,これを信用することは到底できない。
このことは,上記(2)のアの認定(タクシー車内における被告AのJに対する働きかけ)に関連する被告Aの供述(上記イの(ア))についても同様であって,同(イ)のとおり,平成11年10月14日の自己の行動に係る主要な点について変遷が認められる同供述は,これを単なる言い逃れと評されてもやむを得ないものといわざるを得ず,これを信用することもできない。
なお,乙A第12,第46号証によれば,同日午後7時39分に,Wから,被告Aが通常使用していた携帯電話(090-〔以下省略〕番)に架電があり,その受信地が埼玉エリアであったこと,同日午後10時05分に,同携帯電話からIの携帯電話に架電があり,その発信地が埼玉エリアであったことがそれぞれ認められる。しかしながら,南浦和ないし西川口からJR線を利用して池袋に至るまでの所要時間が20分もかからないことは当裁判所に顕著な事実であり,そうすると,たとえ,同日午後7時39分及び午後10時05分に被告Aが南浦和ないし西川口にいたとしても,同日午後8時過ぎころに池袋に到着し,1時間以上滞在した後,西川口に戻ることは十分に可能であるから,上記(2)のアの認定が覆るものではない。
(4)  そこで,上記(1),(2)の各アの事実関係に基づき,被告AがJに対しGの殺害を依頼したか否かを検討する。
ア 上記(1)のアの各認定事実によれば,以下のようにいうことができる。
(ア) 被告Aは,平成11年6月14日に原告ら宅でGに会った後,同年7月ころから,I,J,被告Bらに指示して,Gに対する中傷行為を実行させたり,原告ら宅の飼犬を殺すことや原告らの自家用車を損壊することを計画させたりしたほか,そのころ,周囲の者に対して,殺して欲しい奴がいるとか,Gが邪魔だなどと漏らすようになり,その後,同年8月ころには,Lに対して,成功すれば金を払うと言って,Gを拉致監禁して強姦することなどを依頼するとともに,Jに対して,Gの指を切ることなどを相談し,さらに,同年9月末ないし10月初めころには,Iや被告Bに対し,Gを強姦したり,顔に傷を付けたりすることを依頼するようになり,かつ,その依頼に基づく実行も試みられたのであるから,このような被告Aの言動の推移に照らし,同年6月ころから10月ころにかけて,被告AのGに対する害意が確定的なものになっていくとともに,その加えようとする害悪の内容もより凶悪なものとなっていったことを認めることができる。
(イ) そして,被告Aは,同年10月20日ころ,喫茶店aで,J及び被告BとG殺害の役割分担を定めたIから,当該役割分担や,Jがナイフを準備したことなどの報告を受けた上,Jら3人に対して,いつやるの,いつ行くのなどと実行を促していたのであるから,このころ,被告Aが,Jら3人がGの殺害を企てていることを認識していなかったとは到底考え難い。
(ウ) また,同年10月26日,JがGを殺害した直後に,被告Aは,上記3名を呼び寄せた上,特に怒ったりすることもなく,Jに対して1000万円を与えて,沖縄へ行くよう指示したほか,同夜,実行を手助けしたIに対して,被告Bと分けるよう指示して,約800万円を与えたのであるから,被告Aが,JによるGの殺害を当然に容認していたものと推認することができる。
イ 他方,Jは,上記のとおり,同年10月20日ころ,喫茶店aで,被告B及びIとGの殺害を謀議し,役割分担を定めたところ,この謀議自体,Jが被告B及びIに呼びかけて行われたものであり,かつ,G殺害の直接の実行行為(刺突行為)をJが引き受けたものであって,JはGに対し強固な殺意を有していた(上記5)ものであるが,JとGとの間に個人的な繋がりや軋轢があったことを認めるに足りる証拠は全くないから,このようにJがGに対する強固な殺意を抱くに至ったのは,その日までに,第三者からG殺害の依頼や働きかけがあったためであると考えざるを得ない。
しかるところ,上記(2)のアの認定事実によれば,被告AはJに対し,同月14日ころ,タクシーの車内で,助手席の被告Bにははっきりと聞こえない程度の声で,Jの手を握りしめながら,「舎弟からがんがん言われて困っている」,「頼めるのはあなたしかいない,他の人はこういうことを頼んでもみんなぶるってしまう,ねえ分かるよね」,「本当に頼むからやってくれ」,「一生に一度のお願い」などと言ったことが認められるのであるから,その言葉の内容やことさら秘密めかした言い方に照らして,そのように言った被告Aにとっても,それを聞いたJにとっても,その際の被告AのJに対する頼み事が,尋常なものではなく,Iや被告Bらには実行不可能であるため,Jにしか頼めないような特別なものであるという認識が生じていたことは明白であり,上記のとおり,それまでに,被告Aが,J,I,被告B,Lらに,Gに対する拉致監禁,強姦,手指切断や顔面への傷害など,それ自体でも極めて凶悪な加害行為を依頼し,その実行が試みられてもいた経緯をも踏まえれば,それ以上に凶悪な加害行為としての殺害の依頼がなされたこと,そして,Jはこの依頼に基づいて,G殺害を決意したことは明白であり,同日以降の被告Aの言動もこれを裏付けるものということができる。
ウ なお,上記(1)のアの(キ)のとおり,被告Aは,同月16日にIと被告Bに対してGの拉致監禁や強姦などを依頼した事実が認められるが,当該依頼は,拉致監禁や強姦に限定したものではなく,それらを例に挙げて,何をしてもいいとするものであったことも上記(1)のアの(キ)のとおりであるから,当該依頼の事実が,Jに対するG殺害の依頼と矛盾するものではない。
また,被告Aが,同月26日に,Iから,JがGを刺したとの報告を受けた際,「本当に」と少し驚いたように答えたこと,同日,赤羽のカラオケボックスで落ち合ったJ,被告B及びIらに対し,「大変なことになってしまった」と言ったことは上記(1)のアの(ケ)のとおりである。しかしながら,「本当に」とか「大変なことになってしまった」等の文言は,全く予期していない事態が出来したことを意味するものとは限られないのであり,被告AがJにGの殺害を依頼していたからといって,それが必ず実行されるとは限らないのであるから,実際に殺害行為が実行されたことを知った場合に,多少の驚きと動揺を伴って,「本当に」と返答することは何ら不自然なことではなく,また,Gの死亡が判明したことにより,重大な刑事責任を問われる立場に陥ったことに改めて思いを致し,そのことをJらに確認させる趣旨も含めて「大変なことになってしまった」などと言うことも十分に考えられるところである。したがって,被告Aの上記発言や反応も,被告AがGの殺害を依頼したことと矛盾することはない。
このほか,甲第33,第37号証,乙A第8,第12号証によれば,被告Aは,同年7月ころ,Lに依頼して,H宛てに電話をさせ,原告らの自家用車を損傷したなどと虚偽の報告をさせたり,同じころ,自らHに対し,Gの顔に傷を付けたなどという虚偽の報告をしたことが認められ,また,同年8月ころ,Iに依頼して,上尾警察署の警察官を名乗らせて,Hの母親である被告D宛てに電話をさせたりしたことも窺われるところ,被告Aは,そのような方法によって,Gに対する加害行為を企図しているHを抑止しようとしていたのではないかと考えられなくもない。しかしながら,被告Aのかかる行動は,Gへの加害行為についてのHからの執拗な要求に対する一時しのぎとして,虚偽の報告でHを納得させようとしたものとも考えられる上,その時期が同年7月ないし8月ころであることからすれば,仮にそのころ被告AがHの行動を抑止しようと試みていた事実があったとしても,同年10月に至ってなお被告AがHの行動を抑止しようとしていたとは言い切れず,むしろ,Hが,これらの報告が虚偽であることを知った場合には(なお,乙A第46号証によれば,Hが同月20日に,Gが在籍する大学に電話をかけていることが認められるところ,そうであれば,Hが被告Aの報告を鵜呑みにしないで,自らGの安否等を確認していたことも窺われる。),Hが被告Aに対し,さらに強硬にGへの加害等を要求したことも十分に考えられるから,上記のように,被告Aが同年7,8月にHに対して虚偽の報告等をした事実があったとしても,それが,同年10月に至って,被告AがGの殺害をJに依頼した事実と何ら矛盾することはない。
(5)  上記(4)のとおり,被告Aが,平成11年10月14日ころ,タクシーの車内で,Jに対しGの殺害を依頼したことが認められる。そして,Jは,被告Aの上記依頼によってGの殺害を決意し,被告BやIと共謀してこれを実行したのであるから,被告Aは,同人らと共謀してGを殺害したものというべきであり,Gの死亡につき,被告Bと連帯して損害賠償義務を負うことは明らかである。
7  争点6(HがGの死亡につき不法行為責任を負うか否か)について
(1)  Jが,被告Aの依頼に基づいて,Gを殺害したことは上記6のとおりである。
しかるところ,原告らは,JによるGの殺害は,被告AがそのHの指示を受けて,Jに実行させたものであって,Hは,Gの殺害について不法行為責任を負うと主張するのに対し,被告Cらは,Hが,Gを拉致監禁して強姦し,その強姦場面をビデオ撮影することを指示したことは認めつつ,HがGの殺害を指示したことはなく,JによるGの殺害はHの意思に基づくものではないと主張するので,被告AのJに対する依頼が,Hの指示に基づくものであったか否かを検討する。
(2)  Gの殺害についてのHの指示の有無について
ア Hの関与を推認させる事情について
(ア) Hからの指示についての被告Aの発言
被告Aが,平成11年7月から10月にかけて,その周囲の者らに対し,HがGに対する嫌がらせ行為の結果が出ないことに納得していない,毎日のように電話をかけてきて困っている,Hから文句を言われて疲れたなどと漏らしており,同年10月16日に,Iと被告Bに対して,強姦などを強く依頼した際にも,Hがうるさいんだと述べていたことは,上記6の(1)のアの(キ)のとおりであり,また,被告Aが,同月14日に,タクシーの車内で,Jに対し,Gの殺害を依頼した際にも,Hからがんがん言われて困っていると述べたことは,同(2)のアの(イ)のとおりであるから,被告Aは,I,J及び被告Bらに対して,中傷行為,強姦等及び殺害を依頼するに当たって,それらがいずれもHの指示であることを表明していたことが認められる。
(イ) 本件名誉毀損行為についてのHの関与
Hが,本件名誉毀損行為を,被告Aを通じて,Iらに実行させたことは上記4のとおりである。
(ウ) G等に対する加害行為についてのHへの報告
被告Aが,原告ら及びGに対する加害行為を実行した旨の虚偽の報告をHにしていたことは,上記6の(4)のウのとおりである。
また,被告Aは,Iらに依頼して,原告らの飼犬を殺したり,原告らの自家用車を損傷しようとしたときに,その様子をビデオ撮影しようとしたこと,また,I,L,被告BらにGの強姦や傷害を依頼したときに,併せてその様子をビデオ撮影するよう指示したことは,上記6の(1)のアの(オ)ないし(キ)のとおりであるところ,これらのビデオ撮影は,その首尾をHに対し報告するためのものであると推認される。
(エ) Hの動機
Hが,平成11年1月ころにGに出会い,交際を始めたものの,同年3月ころからは,交際を止めようとするGを脅迫して,交際の継続を強要するようになり,結局,同年6月14日に,Gとの交際を終えるに至ったことは上記2の(1)のとおりである。
このような,GとHの交際の経緯に鑑みれば,Gとの交際を絶たれたHが,その後,Gに逆恨みし,ついにはGを殺害することを企図するようになったとしても不自然ではない。無論,意思に反して交際を終えた者が,元の交際相手に対して憎しみを抱くことはあっても,それが現実の殺害行為にまで至ることは希有なことではあるが,ことHに関する限り,上記(イ)のとおり,現に,Gとその家族に対する執拗な中傷行為や嫌がらせ行為(本件名誉毀損行為)を実行したほか,Gを拉致監禁して強姦し,その強姦場面をビデオ撮影することを指示したことは被告Cらの自認するところであるから,かかる経過の末に,HのGに対する害意が殺意にまで発展したとしても,何ら異とされるものではない。
他方,被告AとGとの間に,Hとの関係を離れて個人的な繋がりや軋轢があったことを認めるに足りる証拠は全くなく,本件名誉毀損行為もHの指示を受けて,Iらに実行させていたのである(上記(イ))から,被告Aが,Hの指示の範囲を超えて,Gに対する殺意を抱くことは想定し難い。
(オ) 本件死亡事件前の多数回の通話の存在
被告AからGの殺害を依頼されたJが,平成11年10月20日ころ,Iと被告BとともにGの殺害を共謀し,同日ころから同月25日の間に,G殺害の計画を具体化していくとともに,Iがそれを頻繁に被告Aに報告していたことは,上記6の(1)のアの(ク)のとおりであるところ,乙A第46号証によれば,上記20日から25日までの間に,Hの携帯電話と被告Aの携帯電話との間で,同月20日に1回,同月22日に2回,同月23日に3回,同月24日に5回,同月25日に7回の通話がなされたことが認められる。このように被告AとHとの間で頻回の通話がなされ,かつ,それが同月26日の殺害実行日に近づくにつれて増加していっていることに照らせば,被告AからHに対し,JらによるG殺害の計画の存在,及びその進捗状況が詳しく報告されていたことが推認される。
(カ) 本件死亡事件後のHの態度
本件死亡事件後,被告Aが,G殺害を実行したJ及びそれに協力したIと被告Bに,Hから預かっていた2000万円のうちの残額である約1800万円の現金を渡したことは上記6の(1)のアの(ケ)のとおりであるところ,この現金はそもそもHのものであるから,被告Aが上記のような多額の金員の処分を行うについては,当然,Hの指示があったものと推認される。
また,本件死亡事件直後に,被告A,J,Iの間で,JがHのいる沖縄へ行くことが話し合われ,航空便の予約がなされたが,Hが沖縄を出ることになりそうだからという理由で,それが取りやめになったことも,上記6の(1)のアの(ケ)のとおりであるところ,この事実によれば,Gの殺害がHと密接に関係するものであることが推認される。
イ 上記アの(ア)ないし(カ)のとおり,被告Aは,Iらに対し,G等への中傷行為や嫌がらせ行為(本件名誉毀損行為)の実行を指示し,強姦を依頼し,あるいは殺害を依頼するに当たっては,それらがHの指図に基づくものであることを表明していたところ,現に本件名誉毀損行為はHの指示で実行され,また,Hは強姦も指示していたのであるから,Gの殺害についても,同様に,Hの指示があったものと考えるのが合理的であること,被告Aと異なり,HにはGの殺害を意図してもおかしくない十分な動機があったこと,本件死亡事件前のHと被告Aの通話状況に照らし,Hと被告AがGの殺害について話し合っていたと推認されること,本件死亡事件後のHの態度からは,Hが,JによるGの殺害の結果を容認し,Jらに対しその報酬を与えたものと考えられることに照らせば,被告AによるJに対するG殺害の依頼は,そもそもHの指示に基づいてなされたものであると推認される。
ウ これに対し,被告A本人尋問の結果中には,本件死亡事件後に,Hが,Gのことを今でも好きだから,好きな女を殺せと指示できるわけがないと言っていたとの供述部分があるが,被告Aの本件死亡事件に関する一連の供述が信用し得ないことは上記6の(3)のとおりである上,仮に,Hが被告Aに対し上記の発言をした事実があったとしても,上記のとおり,HがGの強姦を指示していたことに照らせば,かかるHの発言が同人の真意であるとは到底認め難い。
また,甲第33号証によれば,平成12年1月24日ころ,Hが,自分に対する疑いは全くの冤罪であるとか,Gや原告らの話は狂言であるなどと記載したメモを遺して,死亡したことが認められるが,上記メモの記載内容が事実に反するものであることは明らかであって,上記メモの内容は信用することができない。
(2)  上記(1)の認定説示によれば,Hは,その指示によって,被告Aを通じ,JにGを殺害させたものということができる。
したがって,Hは,不法行為に基づき,被告A及び被告Bと連帯して,Gの死亡に係る損害を賠償すべき責任がある。
8  争点7(G及び原告らの損害)について
(1)  Hの脅迫,強要行為
HがGに対して行った一連の脅迫や強要の態様,その言動の内容,それによってGが受けたであろう恐怖と屈辱の程度を斟酌すれば,このGの精神的苦痛を慰謝するために必要な慰謝料は300万円が相当というべきである(Hの単独債務)。
(2)  本件名誉毀損行為
本件中傷ビラ,本件中傷カード及び本件中傷文書の記載内容並びにそれらの文書等が配布された枚数,その配布の態様等を考慮し,それらの中傷行為によって侵害され,傷つけられたG及び原告Eの社会的評価と名誉感情の程度を斟酌すれば,本件名誉毀損行為に関する慰謝料の額は,Gについて300万円,原告Eについて150万円をもって相当とする(それぞれH,被告A及び被告Bの不真正連帯債務)。
(3)  Gの殺害
ア Gの慰謝料
Gは,複数人による執拗かつ悪辣な嫌がらせ行為によって長期間にわたって被害を受け続けた挙句,理不尽かつ残虐な犯行によって突然にその生を絶たれたものであるところ,かかる凶行により21歳という若さで生命を奪われ,その後のあらゆる希望と可能性を失ったGの無念さは,筆舌に尽くし難いというべきであり,これまでに認定説示したGの殺害に至る経緯,加害者らの共謀の態様,殺害行為の態様をも総合して斟酌すれば,同人の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は2500万円が相当であると解される(H,被告A及び被告Bの不真正連帯債務)。
イ Gの逸失利益
Gは,平成11年10月26日当時,21歳の大学2年生であった(上記第2の1の(1)のア)から,平成14年3月に大学を卒業して,その後就労することが期待できたと認められる。
そうすると,Gの逸失利益は,平成9年賃金センサスによる産業計・企業規模計・大卒・全年齢平均の女子労働者の平均年収額448万6700円を基礎として,稼働期間を23歳時から67歳時まで(2年後から46年後まで)の44年間,生活費控除率を30パーセントとし,ライプニッツ方式により年5分の中間利息を控除して(ライプニッツ係数は,46年間の係数17.8800から2年間の係数1.8594を控除した16.0206)算定するのが相当であり,その額は5031万5738円となる(H,被告A及び被告Bの不真正連帯債務)。
ウ 原告ら固有の慰謝料
Gとともに執拗で陰湿な攻撃を受け続けた末,我が子を奪われた原告らの悲嘆と苦痛も察して余りあるものであるところ,かかる原告らの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は,上記アと同様の事実関係及びG本人の慰謝料額をも斟酌し,それぞれ800万円をもって相当とする(それぞれH,被告A及び被告Bの不真正連帯債務)。
エ Gの葬儀費用
甲第84(枝番を含む。),第85号証によれば,原告らが,Gの葬儀に関連して120万円を超える費用を支出したことが認められるところ,Gの死亡と相当な因果関係を有するものとして,原告らそれぞれにつき60万円(合計120万円)の損害を認める(それぞれH,被告A及び被告Bの不真正連帯債務)。
(4)  相続関係
上記第2の1の(1)の各事実及び弁論の全趣旨によれば,Gの死亡により,その両親である原告らが,Gの損害賠償請求権(上記(1),(2),(3)のア,イ,Hに対し8131万5738円,被告A及び被告Bに対し7831万5738円)を各2分の1(Hに対し各4065万7869円,被告A及び被告Bに対し各3915万7869円,但し,Hに対する額のうち3915万7869円と被告A及び被告Bに対する額の全部は,H,被告A及び被告Bの不真正連帯債務)ずつ相続し,その結果,原告ら固有の損害賠償請求権(原告Eにつき上記(2),(3)のウ,エ,原告Fにつき(3)のウ,エ)と併せ,原告Eの損害賠償請求権は,Hに対し5075万7869円,被告A及び被告Bに対し4925万7869円となり(Hに対する額のうち4925万7869円と被告A及び被告Bに対する額の全部は,H,被告A及び被告Bの不真正連帯債務),原告Fの損害賠償請求権は,Hに対し4925万7869円,被告A及び被告Bに対し4775万7869円となった(Hに対する額のうち4775万7869円と被告A及び被告Bに対する額の全部は,H,被告A及び被告Bの不真正連帯債務)こと,Hの死亡により,その両親である被告C及び被告Dが,上記Hの原告らに対する損害賠償債務を各2分の1ずつ(原告Eに対し2537万8934円,原告Fに対し2462万8934円,但し,原告Eに対する額のうち2462万8934円と,原告Fに対する額のうち2387万8934円は,被告C又は被告Dと被告A及び被告Bの不真正連帯債務)相続したことが認められる。
(5)  弁護士費用
上記(1)ないし(4)に基づく原告らの被告らに対する損害賠償請求権の額などを考慮して,原告E及び原告Fの弁護士費用として,Hの不法行為と因果関係を有する額としてそれぞれ290万円,被告A及び被告Bの不法行為と因果関係を有する額としてそれぞれ275万円(相続により被告C及び被告Dに対する額はそれぞれ145万円ずつ,但し,このうち137万5000円ずつは被告C又は被告Dと被告A及び被告Bの不真正連帯債務)を認める。
(6)  遅延損害金
遅延損害金は,原告らの請求に係る限度に従い,弁護士費用を除く額につき,それぞれ訴状送達の日の翌日(不法行為後の日,被告A及び被告Bにつき平成12年11月5日,被告C及び被告Dにつき同月3日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合によって認める。
9  以上によれば,原告らの請求は,主文第1ないし第4項掲記の限度で理由があり,その余は理由がない。
よって,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条本文,65条1項本文,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石原直樹 裁判官 近藤昌昭 裁判官 足立拓人)
*******

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。


Notice: Undefined index: show_google_top in /home/users/1/lolipop.jp-2394bc826a12fc5a/web/www.bokuore.com/wp-content/themes/rumble_tcd058/footer.php on line 296

Notice: Undefined index: show_google_btm in /home/users/1/lolipop.jp-2394bc826a12fc5a/web/www.bokuore.com/wp-content/themes/rumble_tcd058/footer.php on line 296