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「営業支援」に関する裁判例(31)平成28年 8月19日 東京地裁 平27(ワ)18072号 労働契約上地位確認等請求事件

「営業支援」に関する裁判例(31)平成28年 8月19日 東京地裁 平27(ワ)18072号 労働契約上地位確認等請求事件

裁判年月日  平成28年 8月19日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)18072号
事件名  労働契約上地位確認等請求事件
裁判結果  棄却  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA08198004

要旨
◆業務委託名目の契約について,労働契約性が否定された事例

参照条文
民法623条
労働契約法6条
労働契約法16条

裁判年月日  平成28年 8月19日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)18072号
事件名  労働契約上地位確認等請求事件
裁判結果  棄却  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA08198004

東京都町田市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 藤川久昭
東京都港区〈以下省略〉
被告 株式会社Y
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 渡辺博
同 枝潤

 

 

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  原告は,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2  被告は,原告に対し,391万3449円及びうち31万3449円に対する平成26年6月16日から,うち30万円に対する平成26年7月16日から,うち30万円に対する平成26年8月16日から,うち30万円に対する平成26年9月16日から,うち30万円に対する平成26年10月16日から,うち30万円に対する平成26年11月16日から,うち30万円に対する平成26年12月16日から,うち30万円に対する平成27年1月16日から,うち30万円に対する平成27年2月16日から,うち30万円に対する平成27年3月16日から,うち30万円に対する平成27年4月16日から,うち30万円に対する平成27年5月16日から,うち30万円に対する平成27年6月16日から,いずれも支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3  被告は,原告に対し,平成27年7月から毎月15日限り30万円及び各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
本件は,ITソリューション事業(組み込みソフト,WEBソフト,業務系システム,インフラなどの開発)などを行う被告と契約(以下「本件契約」という。)を締結し,営業支援等の業務を行った原告が,被告との契約は労働契約であったが,平成26年5月29日,解雇(以下「本件解雇」という。)されたものの,本件解雇は解雇権の濫用であり無効であるとして,地位確認,未払賃金及び遅延損害金を請求する事案である。
1  前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)  当事者等
ア 原告は,昭和35年○月○日生まれの男性である。原告は,中古車の輸出,IT関係全般,人材紹介業などを業とするa株式会社(以下「a社」という。)(平成25年6月設立)の代表取締役である。
イ 被告は,ODM事業(半導体製造機械の周辺装置の設計・製造・販売など),ITソリューション事業(組み込みソフト,WEBソフト,業務系システム,インフラなどの開発),CFE事業(半導体・液晶製造装置のフィールドサービスなど),経営コンサルティング事業(企業再生,CI並びにVIに連動する広告・映像・印刷物製作,WEBデザインなど),CUSTOMER事業(LED販売及び導入に関するコンサルティングなど)を扱う株式会社である。
(2)  本件契約について
ア 原告は,株式会社b(以下「b社」という。)に在職中,被告を協力企業としてデジタル複合機ソフトウェア開発業務を行っており,被告代表者と面識があった。
イ 原告は,被告代表者に電話したところ,平成26年1月22日午前10時に面談することとなった。
ウ 原告と被告は,本件契約を締結し,原告は平成26年2月1日から業務を開始した。本件契約において,原告は被告ITソリューション営業部次長という肩書であり,報酬は月額30万円,営業経費(交通費など)は別途精算であった。
(3)  本件契約の終了
ア 平成26年5月29日,被告において会議が行われ,その際,本件契約を終了させることになった(その詳しい経緯は争いがある。)。
イ 原告は,平成26年5月31日をもって被告を退社する旨の同月30日付け退社時誓約書(以下「本件誓約書」という。)に署名・押印し,被告に提出した(甲16)。
2  争点及び争点に関する当事者の主張
(1)  本件契約の労働契約性(争点(1))
(原告)
ア 原告は,平成25年にb社を退職後,a社を設立し,代表取締役に就任した。a社の主要業務はアフリカ地域向けの中古車輸出であるが,輸出業務はいわゆる日中に取り組まなくても対応可能である。そこで,原告は,安定した収入を得るため,日中は通常の社員としての勤務を行うべく,営業職を探していた。原告は,被告代表者と面識があったところ,たまたま閲覧した被告のHPにおいて,営業職を募集しており,試用期間がつき,労働・社会保険完備との記載があることから,被告において社員として働けると考えた。そこで,原告は被告代表者に電話して就職の意思を伝え,面接が行われて本件契約が締結された。
イ 本件契約の内容
(ア) 業務内容は,被告の営業支援に関する業務全般,これに付随する業務並びに管理業務であった。1日の業務の流れは,午前8時30分に出社して,1日約200件にもなるメールチェック,部下の営業進捗,行動予定の確認等を行い,日中は同行営業,単独での顧客訪問を行い,直帰は許されず,所定の勤務時間を1時間から2時間超えるまで業務従事を余儀なくされていた。業務終了後は被告代表者やその息子であるB業務部長(以下「B部長」という。)とよく会食に付き合わされた。被告代表者を待って一緒に帰ることも多かった。
(イ) 報酬は月額30万円,営業経費別途精算である。業務委託契約であることを示す検収は実質的になされなかった。
(ウ) 勤務時間は午前9時から午後6時である。実際は,午前8時30分から出勤し,午後6時を超えて勤務することが恒常的であった。
(エ) 勤務日は毎週月曜日から金曜日である。もっとも,原告の給与が低いため,a社などの仕事が原告に存在するときは,被告からの事前の了解の下,被告に出社する必要がないことが合意されていた。行動予定は全社員社内システムで全員が見られるように管理されており,原告が出社しない日程はシステムに入力して全社員に通知していた。
ウ 本件契約の労働契約性
(ア) 形式
a 本件契約締結の経緯として,原告は被告の社員となることを希望してその希望を伝えて契約をした。被告代表者は,契約名称は形式だと言った。被告が用意した退社時誓約書,退社時秘密保持誓約書にも,「退職」と記載されている。
b 請負誓約書(乙1。以下「本件請負誓約書」という。)及び請負承諾書(乙2。以下「本件請負承諾書」という。)の成立は否認する。署名は原告の筆跡ではない。
(イ) 指揮命令下の労働
a 被告代表者は,原告に平成26年ITソリューション部の予算作成指示をした。また,被告代表者は,原告らに朝の報告会を開催し,原告らに直接指導を行っていた。さらに,懸案事項があった場合,原告は直接社長室に呼ばれ,被告代表者から指導を受けていた。したがって,原告の労務提供に当たって被告による具体的指示があった。
b 出勤時間が決められており,毎朝8時30分からの出社及び毎日所定労働時間を超える業務従事を余儀なくされていた。また,直行直帰は許されなかった。したがって,時間的かつ場所的に拘束されていた。
(ウ) 報酬の労務対価性
a 原告の業務は営業一般であり,特定の成果に対する報酬ではなく,月額30万円と固定されており成果に連動した報酬にはなっていない。契約書に報酬の増額についての記載はない。
b 検収等の仕組みが被告に存在しない。
(エ) 事業者性
a 原告の業務遂行に当たって,原告本人が所有するような機械,器具を使用しているわけではない。原告が使用するパソコンは被告から貸与されていた。被告はプライバシーマークを取得していたが,管理は杜撰であり,新入社員は自宅からパソコンを持参し,業務に使用していた。
b 原告への報酬月額30万円は高額とはいえない。原告の前職は年俸1300万円であった。
c 原告は独自の商号等を使用することなく,被告ITソリューション営業部次長という肩書で仕事をしていた。原告は役職なしでかまわないと言ったが,被告代表者が,営業の責任者なのだからそんなわけにいかないと言うので,被告代表者の息子が部長職であることから気を使って次長又は部長代理職と提案した。
d 原告が従事していた業務は社員としての営業職と同質である。
(オ) その他
a 業務委託契約ならば委託している業務内容が明確であるにもかかわらず,管理一般という曖昧な内容になっている。
b 被告代表者は一方的に原告への委託業務内容を変えることができている。
(被告)
ア 原告は,平成25年1月頃,被告事務所を訪問し,被告代表者に対し,b社を離職して起業の意思を伝えた。原告は,平成26年1月頃,被告代表者に対し,電話で,夕方以降の時間帯が仕事の時間帯となり,それ以外の時間は空いているので空いた時間で被告の営業の仕事を請け負わせてほしいと述べた。そこで,被告代表者は,同月22日に原告と面談した。面談において,原告は被告代表者に対しa社の名刺を渡し,営業には自信があり,a社の代表者としての業務がメインであるため社員ではなく請負として営業をしたいとの要望をし,木曜日は被告の業務は行えないと述べた。これを受けて,被告代表者は,原告に対し,原告のノウハウを生かして被告の受注・売上を拡大してほしいこと,原則として木曜日は被告の営業業務を行わなくてよいこと,木曜日以外も被告の営業時間に合わせてもらうのは問題ないが請負契約なので勤務時間は意味を持たないこと,報酬はまずは30万円として,成果が上がれば増額することを伝えた。この際,原告から成果が出れば月に100万円もらえるか尋ねられたため,被告代表者は成果が出ればそれなりに対応すると述べた。こうして本件契約が締結された。
イ 本件契約の内容
(ア) 業務内容 被告の受注・売上の拡大である。
(イ) 期間 平成26年2月1日から1か月間(1か月ごとに更新可能)
(ウ) 報酬 月額30万円(成果が上がれば増額を予定)
(エ) 支払条件 検収の合格(受注・売上の獲得)
(オ) 勤務時間 自由(ただし,被告社員との連携のため,基本的には被告の営業時間に合わせることを想定)
ウ 本件契約の労働契約性への反論
(ア) 形式
a 本件契約は業務委託契約書(以下「本件契約書」という。)への署名・押印により締結された。
b 本件契約締結の際,原告は本件請負誓約書,本件請負承諾書及び「個人情報に関する誓約」を作成し,被告に提出した。
(イ) 指揮命令下の労働
a 原告には,仕事の依頼,業務指示等に対する諾否の自由がある。本件契約の業務内容は被告の受注・売上を獲得するという包括的な業務であり,原告に一任されていた。なお,営業活動の成果の報告を受けるため,被告が原告に対し資料の作成・提出を求め,原告が応じることはあったが,これは通常注文者が行う程度のものである。
b 時間的及び場所的拘束性がない。原告は,被告社員との連携を図るという業務の性質上,被告の営業時間に合わせて業務を行っていたが,被告社員と異なり木曜日は被告の業務を行わないほか,業務について勤務表や日報を提出する扱いとはなっておらず,遅刻,早退及び欠勤の場合も書類の提出が必要とされなかった。木曜日以外の日も被告の事務所でa社の業務を行うことも多々あったほか,営業場所への直行及び自宅への直帰も認められていた。原告は「Aipo」(以下「アイポ」という。)にスケジュールを入力しているが,被告代表者が原告に対しこれを求めたことはなく,原告の判断によるものである。原告の業務上被告の営業社員との連携が求められているため,互いのスケジュール共有のために入力していたと思われる。アイポはスケジュール共有化ツールにすぎず,これにより社員を管理しているわけではなく,社員には別途書類の提出を求めていたが,原告には求めていない。
(ウ) 報酬の労務対価性
a 原告は所定の勤務時間を1時間から2時間超える業務を余儀なくされていたと主張するが,それにもかかわらず時間外手当の支給はなく,契約書上もその記載はなく,原告は何ら異議を述べていない。
b 原告は被告社員と異なり遅刻,早退及び欠勤があった場合でも報酬の減額がされていない。
c 本件契約の報酬の支払には検収が前提になっている。原告も,平成26年6月23日及び24日のメールにおいて,検収手続の存在を前提とした発言をしている。
d 原告の報酬は営業成果が上がれば増額することも想定されていた。また,営業代行事業の業界的には,インセンティブを採用するかどうかは分かれており,インセンティブの有無は関係がない。
(エ) 事業者性
a 原告は,a社の代表取締役であり,本件契約締結時に被告もそのことを認識している。通常,企業が別企業の代表取締役である者を従業員として招き入れることはない。
b 被告において正規の採用過程はハローワーク,人材紹介会社等を通じて社員の応募を行い,複数回の面談を経て採用を決定し,採用通知書を候補者に交付して候補者の受領印をもらうという手続になっている。これに対して原告は被告代表者との個人的なつながりから直接営業の請負を求め,1回の面談で条件が決定し,正規の採用過程で用いられる採用通知書も交付されていない。
c 本件契約では本件契約書,本件請負誓約書及び本件請負承諾書が作成・提出されており,請負契約を前提としている。
d 他社の営業責任者としての経歴を持つ原告を仮に社員として採用するのであれば,契約期間1か月間という短期に設定するはずがない。
e 被告において,原告の報酬について給与所得として源泉徴収していない。この扱いについて原告から異議が出されたことは一切ない。
f 被告において,原告について労働保険,福利厚生を適用していない。この扱いについて,原告から異議が出されたことは一切ない。
g 原告は,自ら見積書及び請求書を作成,交付し,報酬の支払を求めている。また,給与明細は発行していない。原告作成の見積書及び請求書においては,「被告 御中」,「御担当 B様」など,自らが被告外部の人間であることをうかがわせる表現が用いられている。
h 原告は,平成26年6月17日付け及び同月18日付けのメールにおいて,a社の代表者としての立場で,「業務委託費」という名目で費用の支払を求めてきた。
i ITソリューション営業部次長の肩書は,原告自ら提案したものである。
j 原告の業務は営業であるから,特別な機械,器具等は必要とならない。原告にパソコンを貸与しているが,これは被告がプライバシーマークを取得しており,機密保持上の必要があるからである。個人のパソコンを使用していたインターン生がいたが,それは自らのパソコンで特別なソフト開発を行っており,そのソフトを利用してもらうためであった。
(オ) その他
a 原告は,平成26年5月15日付けのメールにおいて,「下記の業務内容を受託している認識です。」,「契約の解除を依頼」,「受託内容はあくまで営業部の強化,コンサル」,「受託内容は可能な限り受注活動を行う」,「委託料の不払いなどの話はなし」,同年6月17日付けのメールにおいて「業務委託費遅延していますが」,「5月分の業務委託費」など,本件契約が請負契約であることを前提とする表現をしている。
b 原告は,「業務委託報告書」というタイトルの文書(乙7。以下「本件報告書」という。)において,「受託業務」など,本件契約が請負契約であることを前提とする表現を用いている。
(2)  本件契約が存続しているか。(争点(2))
(原告)
ア 平成26年5月8日午前9時30分の会議(以下「本件会議①」という。)にて,被告代表者から原告に対し,原告の売上に関するコメントがあった。すなわち,一体個人としての売上金額がいくらになるのか,このまま個人としての売上がないのであれば報酬は払わず,むしろ支払った分を返してほしい,原告はちゃんと被告従業員の指導をしていないなどと言われた。原告はこれに驚き,信頼関係が構築できないならば被告で働くことはできないと考えて退職を申し出た。被告代表者は原告の退職を慰留し,これからは他のメンバーとの連携や会議への出席等々を全くしなくてよいから個人として売り上げを上げてほしいと指示した。
イ その後,原告は指示に従って売上増加のため営業活動に従事し,c社向けのd社の携帯電話開発に関する受注を獲得したが,被告代表者はこの受注を認めなかった。
ウ そして,本件会議①の3週間後である平成26年5月29日の会議(以下「本件会議②」という。)にて,原告に受注実績がないことのみを理由に本件解雇を行った。
エ 原告は本件誓約書に署名したが,これは本件解雇を前提として被告を退職することになったため,被告の求めに応じて署名したにすぎず,退職に同意したわけではない。
オ 本件解雇は,就業規則などの根拠が示されていないこと,受注実績が存在しているにもかかわらず存在しないことを理由とすること,本件会議①からわずか3週間のみで判断していることなどから客観的合理的理由を欠く。また,解雇理由について具体的な説明がされていないこと,事前に使用者としての改善指導・指摘などが一切ないこと,原告は真面目に職務遂行していたこと,被告代表者はもともと半年から1年かけて仕事するよう言ったにもかかわらず急に成果を追及したことなど,社会的相当性を欠く。
(被告)
ア 原告は,平成26年2月から5月にわたり,受注件数はゼロであった。また,原告は原告自身が有しているであろう顧客への営業を行おうとせず,被告の関係する顧客を形式的に訪問したり,インターネット検索により案件を追うのみであり,長年営業に従事していたとは到底思えない営業活動しか行わなかった。原告は,被告社員との会議,打合せ等の日常的な連携も怠っており,被告の営業社員の進捗管理や教育等も怠っていた。さらに,原告は営業の成果が出ないことに対し,自分の能力不足を棚に上げ,被告の営業社員に能力がないなどと被告社員を中傷するのみであった。
イ 本件会議①において,被告社員から原告の業務態度や営業結果等についての不満が続出した。これを受けて,原告は初めて受注に関する具体的な案件と売上の見込みを提示した。しかし,原告は,本件会議①の後,突然社長室に入ってきて,今日で辞めるなどと述べて本件契約の解除を申し入れた。被告代表者は,これまで成果が出ないが温情で報酬の仮払いをしてきたにもかかわらず,突然無責任に解除を申し入れてきたことに驚愕し,本件会議①で示した具体的な受注の見込みを達成して結果を出したらどうか,受注ゼロのまま辞めるなら今まで仮払いとして支払った金を返してもらいたいと述べた。原告は,解除の申出を撤回したが,本件会議①で被告社員から不満が出たことから,他の営業社員と行動をともにしたくない,会議にも出たくないなどと述べたため,被告代表者は受注・売上が獲得できるならやり方は任せると述べた。
ウ その後,原告は平成26年5月15日付けのメールを被告代表者に送信し,本件契約の受託内容が「営業部の強化,コンサル」であり,「受注活動」ではない,本件会議①を受けて「受託内容は可能な限り受注活動を行う」こととなったなどと主張した。被告代表者は,原告が本件契約の内容を突然曲解し始め,話合いの内容も理解していないことに驚き,原告に対し誤りを正すメールを送信した。
エ d社の受注の件については,いまだ受注に関する情報を記載した「受注伺書」の提出すらされておらず,いまだ受注を獲得したとはいえない段階であった。また,この件は,信用度の低い中国系の企業が関わること,計算上被告に利益が出なかったことから,被告代表者は原告の提案を却下した。
オ 本件会議②において,被告社員複数名が,原告に対し,原告が必ず受注を獲得すると宣言していた案件について結果が出ていないことの理由を問いただすという事態が起きた。これを受けて,原告は回答に窮し,「じゃあもう止めます。」と一方的かつ無責任に本件契約を解除する意向を伝えた。
カ 原告は,平成26年5月30日,被告の事務員に対し,原告が期間中に行った業務内容について,本件報告書を手渡した。
キ したがって,被告は本件解雇をしておらず,原告から解除した。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記前提事実(第2の1)に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(1)  本件契約締結の経緯(甲1,乙18,原告本人,被告代表者)
ア 原告は,大学卒業後,e株式会社,f株式会社などで営業の業務を行い,平成18年にb社に入社し,業務を通じて被告代表者と知り合った。原告は,平成25年,b社を退職し,アフリカ向け中古車の輸出等を行うa社を設立し,代表取締役に就任した。原告は,それまでの職歴において,労務・人事を担当したことがあり,雇用契約や請負契約の締結を担当することもあり,偽装請負について公正取引委員会から指導を受けることもあった。
イ 原告は,a社の業務では日中に時間が空くため,安定した収入を得ようと仕事を探し,被告が営業職を募集していることを見つけ,被告代表者に電話をし,平成26年1月22日に面接することになった。その当時,原告は53歳である。
ウ 被告は,ホームページに採用情報を掲載しており,営業職については仕事内容がIT/ソフトウェア系の顧客の掘り起こし,商談の取り決めなど,応募資格がソフトウェア営業経験者又は人材・技術営業経験者,派遣企業での営業経験者,企業に対する開発案件及び開発業務のアウトソーシング提案経験者,雇用形態が正社員(期間契約,契約等相談に応じる。),6か月の試用期間あり,給与が経験・能力を考慮し決定,勤務時間が午前9時から午後6時,福利厚生が各種保険(雇用・健康・厚生年金・労災)完備,交通費全額支給となっている。(甲4)
エ 平成26年1月22日,原告と被告代表者の面接が行われた。原告は,被告代表者に対し,a社の名刺を渡し,a社の業務もしながら空いた時間に被告において業務をしたいことを話した。被告代表者は,原告に対し,雇用ではなく請負の形式で契約することを話し,同年2月1日から業務をすることとなった。
オ 被告代表者は,同年1月29日,原告に対し,機密保持の関係上パソコンは被告が用意すること,名刺を作るに当たって原告の今までの立場から役職なしとはいかないので意見をもらいたいことなどをメールした。原告は,役職について,組織名は理解していないが,ソリューション部次長又は課長代理等を提案した。
カ 原告及び被告は,同年2月1日,本件契約書に署名(被告は記名)・押印した。本件契約書には,請負業務内容として被告の営業支援に関する業務全般,これに付随する業務並びに管理業務,契約単価として1か月30万円,営業経費別途支給,検収条件として検収月月末起算翌月15日支払い,その他として期間満了までに別段の意思表示がなければ同一条件にて自動更新され,終了に当たっては双方30日前までに予告することなどが記載されている。(甲6)
(2)  原告の業務状況(甲1,乙18,19,証人C(以下「C」という。),原告本人,被告代表者)
ア 平成26年2月から4月までは,原告はITソリューション営業部の営業社員の指導,営業先への同行,単独での営業活動,午前中に行われるミーティングへの出席などを行っていたが,毎月一定の売上を獲得することは求められていなかった。同年4月の新年度1回目の会議において,原告は,営業成績を上げる計画を発表したが,原告は同年5月8日の本件会議①において,被告の営業社員から当該計画に沿うような成果が上がっていないことの不満が続出した。本件会議①終了後,原告は被告代表者に対し退職を申し出た。被告代表者は,原告に対し,受注ゼロのまま辞めるようであればこれまで払った報酬を返してもらいたいことを話し,引き続き被告において業務するよう求め,会議への出席をしなくてもよいので個人として売上げを上げるよう求めた。
(被告代表者は,本件契約において原告には受注・売上の成果を上げることが求められており,それがないにもかかわらず支払った報酬は仮払金である旨供述するが,その旨は本件契約書などの記載等から認めることはできず,採用することができない。)
イ 本件会議①後,原告は,株式会社cが元請,被告が下請となる案件の受注を獲得し,被告代表者に報告したが,被告代表者は利益率の低さなどを理由として受注を認めなかった。
ウ 原告は,同月15日,B部長に対し,営業部の強化,コンサルを内容として業務を受託しているという認識であり,受注がないからといって金を返せというのはおかしいこと,会社のメンバーとの協業はしなくてよく,社内の会議等にも出席しなくてよいという認識であることをメールした。これに対し,被告代表者は,同日,原告に対し,原告にはコンサルではなく営業の支援を業務委託したのであり,受注・売上を上げることが求められており,それができずに辞めるというなら金を返してもらいたいと言ったと反論した。(乙4の1及び2)
(3)  本件契約終了及びその後の経緯(甲1,乙18,19証人C,原告本人,被告代表者)
ア 平成26年5月29日,本件会議②において,本件会議①後に原告が受注を獲得していないことなどが指摘され,本件契約を終了させることとなった。
イ 原告は,平成26年5月30日,被告に対し,本件報告書として,同年2月1日から1か月更新として営業支援業務を受託していたが同年5月29日の本件会議②において解除通告され,同月30日に終了したという報告書を提出した。また,原告は,同月30日付けの退社時誓約書及び退社時秘密保持誓約書に署名押印した。(甲16,17,乙7)
ウ 原告は,同年6月16日,被告代表者に対し,5月分の業務委託費及び交通費の支払がされていない理由を尋ねた。被告代表者は,業務委託の成果が認められず,検収不合格なので支払できないと答えた。原告は,同月17日,委託された営業支援業務は問題なく行われたとして支払を求め,契約解除告知は1か月前となっているので6月分も請求することを伝えた。(乙4の3及び4)
エ 被告は,同年6月20日付け通知書により,原告に対し,本件契約は請負契約であり,検収の合格を条件として1か月30万円の支払であって,2月分,3月分及び4月分は仮払いしているが,検収は不合格なのでこれらの合計90万円を返還するよう求めた。(甲7)
オ 原告は,同年6月23日,被告代表者に対し,回答がないが,同月24日までに回答なき場合は正式に検収したとの扱いで理解すると伝えた。B部長は,同月24日,原告に対し,本件については弁護士に委任しており,同月20日付け通知書を送っているので内容を確認するよう求めた。原告は,同月24日,B部長に対し,不合格の明細が無いのであれば合格でよいか確認した。(乙4の6及び7)
カ 原告は,同年7月31日,被告に対し,本件契約は雇用であり急に解雇されたが賃金が未払であるとして,未払賃金を請求した(甲19)。
(4)  本件契約の労働契約性に関する事実関係
ア 形式面について
(ア) 被告は,従業員の採用時,労働条件を記載した採用通知書を交付することがあるが(乙8),原告に対して採用通知書は交付されていない。
(イ) 原告は,平成26年2月1日付けの営業支援業務を請負業務とする本件契約書に署名押印した。(甲6)
(ウ) 原告は,平成26年2月1日,被告にて請負業務に従事する者として,「個人情報に関する誓約」という書面に署名・押印し,被告に提出した。この書面には,「退職」という記載がある。(乙3)
(エ) 平成26年2月1日請負契約締結に当たっての本件請負誓約書及び本件請負承諾書という文書が存在し,原告名義の署名がされている(ただし,原告は自分の署名ではないとして,成立を否認する。)。本件請負誓約書には,原告が被告の就業規則及び諸規定を遵守することが記載され,「退職」という記載がある。本件請負誓約書は,被告が従業員に提出させている入社誓約書と類似しているが,人事上の異動や移籍の命令に従う旨の条項が削除されている。(乙1,2,15の1から3まで)
(オ) 原告は,平成26年5月30日付け退社時誓約書及び退社時秘密保持誓約書に署名・押印し,被告に提出した。それぞれの書面は,下段に「退職」という文言が記載されている。(甲16,17)
(カ) 被告社内において,原告が労働契約ではないということは周知されておらず,そのことを知っているのは被告代表者及びB部長であった。(甲1,乙18,原告本人,被告代表者)
イ 指揮命令下の労働
(ア) 被告の従業員は,勤務表として毎日出勤時間,退勤時間,休憩時間を記録し,休暇・遅刻・早退は届出を要し,出勤日数に応じて給与が減額され,日報を提出して所属長の承認を受けるが,原告はこれを行っていない。(乙5,6,10,19,証人C)
(イ) 原告は,アイポというスケジュールソフトに日々の予定を入力した。ほぼ毎日のスケジュールが入力されているが,1日のうち出勤時間から退勤時間まですべての予定が記載されているわけではない。木曜日はおおむね終日外出となっている。(乙12)
(ウ) 原告は,被告に出社する日は,午前8時30分頃出社し,午後6時以降まで業務をしており,午後9時30分頃まで業務をすることもあった。(甲1,乙12,原告本人)
(エ) 原告に対して,被告代表者,B部長,営業社員などから日々業務に関する連絡があった。その中には,被告代表者から当日や翌日の一定の時間までに一定の業務をするよう求めるものがあるが,一方的に業務を命じ,拒否することを認めないほどのものではない。(甲22から43)
(オ) 原告は,被告に立ち入るためのカードキーを持っておらず,閉まっているときはカードキーを持っている被告のパートタイム従業員に開けてもらって被告に入った(原告本人)。
ウ 報酬の労務対価性
(ア) 本件契約書には,請負業務内容における具体的な目標数値や,報酬の増額事由の記載はない。原告が,被告代表者に対し,月に100万円くらいもらいたいことを話すと,被告代表者は,いつか成果が上がれば報酬の増額を考える旨答えた。(甲6,乙18,原告本人,被告代表者)
(イ) 業務時間の多寡により報酬の増減は行われていない。(乙18,被告代表者)
(ウ) 被告は,従業員に対しては給与明細を発行し,税金・社会保険料の源泉徴収を行うが,原告にはこれを行わず,原告が被告に対し見積書及び請求書を提出することにより支払った。(甲8から15まで,乙18,被告代表者)
エ 事業者性について
(ア) 原告は,平成26年1月22日,被告代表者に対し,a社代表取締役の肩書きの記載された名刺を交付した。(乙9)
(イ) 原告は,同月29日,被告代表者に対し,a社のXと名乗り,a社の署名のついたメールを送った。原告は,同年6月以降も,被告代表者に対し,a社の署名のついたメールを送った。(甲5,乙4の3から7まで)
(ウ) 原告は,「被告 御中」,「ご担当 B部長様」として,ITソリューション事業営業支援業務について毎月業務対象の期間前の日付で見積書を提出し,業務対象の期間最終日以後の日付で請求書を提出した。本件会議②以降にも,平成26年5月31日付け請求書及び同年7月31日付け請求書が提出された。(甲8から15まで,甲18)
(エ) 被告は,従業員の私物のパソコンの持ち込みを認めることもあるが,プライバシーマークを取得しており機密保持のため原則的にパソコンの持ち込みを認めてなく,原告が被告の業務に使用したパソコンは,被告が用意した。(甲1,乙18,原告本人,被告代表者)
2  争点(1)(本件契約の労働契約性)について
(1)  原告は,本件契約は労働契約であると主張する。本件契約書は業務委託契約となっており,その内容も労働契約ではなく業務委託又は請負を内容としたものになっているが,労働契約性は形式面だけではなく実質面も考慮して判断すべきであるから,本件契約の労働契約性について検討する。
(2)  当事者の意思
ア 上記認定事実(1)のとおり,本件契約締結時,a社の代表取締役として業務を行っており,a社の業務の空き時間に被告において業務する予定であったこと,原告はb社において勤務時,業務を通じて被告代表者と知り合っており,被告における通常の労働者の応募方法とは異なり(甲4),直接被告代表者と電話し,被告代表者と面接し,その日のうちに被告において業務することが決まったこと,被告における原告の肩書きは原告の意見を聞いて決めるなど,原告と被告代表者は対等の立場で協議が行われたといえること,原告は本件契約を労働契約ではなく業務委託の形式とすることにつき,原告はそれまでの経歴において労務・人事を担当したことがあり,偽装請負に問題があるという認識を有していたにもかかわらず,契約開始時だけでなく,原告に対する不満が続出し,原告も本件契約を辞めるよう考えた本件会議①後も異議を述べておらず,平成26年7月31日になってようやく雇用であったと述べるようになったこと,本件契約終了時に原告は被告から指示されたわけではなく自発的に本件報告書を提出し,検収を求めたこと(乙4の3から7まで,乙7,原告本人),原告は経歴に照らせば月100万円程度の支払を希望していた点(原告本人)や本件会議①において原告は本件契約を辞めることを申し出た点に照らし,報酬月30万円という本件契約を意思に反して継続せざるを得ない状況にあったとは認められないことなどの事情が認められる。
イ これらに照らせば,原告と被告は自由な意思において労働契約ではなく業務委託として本件契約を締結し,本件契約を継続したと認められる。
(3)  本件契約の形式面
ア 上記認定事実(4)アのとおり,本件契約に当たって労働契約ではなく業務委託契約の形式となっており,「個人情報に関する誓約」という書面においても請負業務と記載があり,労働契約であるという内容の書面は認められない。
イ 原告は成立を否認するものの,本件請負誓約書及び本件請負承諾書には被告の就業規則及び諸規定を遵守すること,「退職」という記載があることなど,労働契約性を裏付ける方向の証拠がある。しかし,これは被告において労働契約を締結した場合に作成する入社誓約書を元に,人事上の異動や移籍の命令に従う旨の条項を削除するなどの修正を行って作ったものと認められるから,その文言中に労働契約であるかのようなものがあったとしても,労働契約であったとは認められない。また,就業規則及び諸規定を遵守する条項については,本件契約の業務内容上被告社内において業務をする性質上,一定の規則を遵守する必要が認められるとともに,原告については被告の就業規則の全てが適用されていたわけではなく,試用期間,木曜日の業務,出退勤の管理など適用されない条項もあったと認められるから,これにより労働契約であったとは認められない。
ウ 平成26年5月30日付けの退社時誓約書及び秘密保持誓約書に「退職」という文言が記載されているが,これも従業員用の雛形を流用したものと認められ,この時点において原告と被告との間で本件契約の労働契約性が問題となり,文言に注意を払っていたとも認められないから,これにより労働契約であったとは認められない。
エ 被告において,原告と同様の営業支援の業務を行うものについて,あえて労働関係法令の適用を回避するために労働契約ではなく業務委託契約としていたとは認められず,脱法的に本件契約が業務委託契約の形式を取られたとは認められない。これに関して,D(以下「D」という。)は,Dも労働契約を求めたが被告代表者が業務委託契約を求めてきたと供述する(甲21,証人D)。しかし,Dは被告において技術部に関する業務を行ったものであり,営業支援という原告の業務とは異なるから,Dの供述を前提としても本件契約が労働関係法令の適用を回避するために業務委託契約にされたとは認めるに足りない。また,Dは,代理人弁護士を通じて被告に対しDと被告との契約が請負契約であったという書面を送っており(乙24),これについて相談した弁護士が勝手に送ったと供述するものの不自然といわざるを得ないこと,Dは被告に対し迷惑をかけたとして詫び状を書き,42万円の借用書を交付しているが,その返済義務はないとして返済をしていない立場にあり,被告との間に利害関係があること(乙21から23,証人D),被告はDに対する未払賃金請求があるとDは供述するものの,その支払を求める手続をしていないこと(証人D)などを考慮すると,被告が労働契約であるにもかかわらず業務委託契約の形式で契約していた旨のDの供述は採用することができない。
オ 原告は,被告代表者やB部長から本件契約が業務委託の形式になっているが実際は労働契約である旨聞いたと供述するが,被告代表者はこれを否定しており,これを認めるに足りない。
カ したがって,本件契約の形式において,本件契約が労働契約であったとは認められない。
(4)  指揮命令下の労働
ア 認定事実(4)イ(ア)(イ)のとおり,被告の他の従業員が勤務表,休暇・遅刻・早退の届出,日報などにより管理されていたのに対し,原告はその提出を求められていなかったと認められる。他方,原告は他の従業員と同様にアイポというスケジュールソフトに日々の予定を入力していたことは認められるが,営業支援業務として被告の営業社員と連携を取る必要性があることから入力していたものといえ,本件契約において日々具体的な営業活動を行うことなどを求められていたとは認められないことにも照らせば,アイポへの予定の入力をしていたとしても,業務委託契約としての性質に反するとは認められず,原告は被告の指揮命令下にあったとは認められない。
イ 認定事実(4)イ(ウ)及び(オ)のとおり,原告は木曜日以外の平日に午前8時30分頃から午後6時以降まで被告に出社して業務をしていたと認められるが,本件契約書には出社時間の定めはないこと(甲6),営業支援業務としてある程度長く出社していたとしても不自然ではないこと,契約の継続や報酬の増額のために本件契約の業務に多くの時間を費やしたとしても不自然ではないこと,勤務表,休暇・遅刻・早退の届出,日報の提出が求められておらず,被告への出社が義務付けられていたとまでは認められないこと,原告は被告に立ち入るためのカードキーを持っておらず,他の従業員よりも長く出社するとは予定されていなかったといえることなどから,原告が出社していた時間の長さは営業支援業務としての性質に反するとは認められず,原告は被告の指揮命令下にあったとは認められない。
ウ 認定事実(4)イ(エ)のとおり,原告に対して日々業務に関する連絡があり,一定の時間までに一定の業務をするよう求めるものがあったと認められるが,営業支援業務としての性質上一定の業務を求めても不自然ではないこと,被告代表者が原告に対し客と面会するよう提案したものの,原告は予定があると答えたため,またの機会でよいとしたものなどがあり(甲32),断ることにより原告に不利益が生じたとも認められず,平成26年5月15日に原告は営業支援の業務委託であるから受注を取る必要はなく,被告従業員との協業や会議等への出席はしなくてもよいという認識であることをメールしているとおり,原告には諾否の自由があったと認められることなどからすれば,原告は被告の指揮命令下にあったとは認められない。
エ 認定事実(4)ア(カ)のとおり,被告社内において被告代表者及びB部長以外には原告が労働契約でないということは周知されていなかったとしても,原告に業務を頼む立場にあるのは組織図上(甲3,乙13)原告よりも上位に位置する被告代表者や原告と上位又は同列に位置するB部長に限られると認められるから,原告は被告の指揮命令下にあったとは認められない。
オ 認定事実(2)アのとおり,本件契約において原告に求められる業務内容については,原告と被告との間で受注・売上を上げる必要があったかにつき齟齬が認められるものの,受注・売上がなくても報酬は支払われており,受注・売上を獲得するための具体的な指揮命令がなされていたとは認められないから,これにより原告は被告の指揮命令下にあったとは認められない。
(5)  報酬の労務対価性
ア 認定事実(4)ウ(ア)のとおり,本件契約において,報酬の増額についての定めはないが,1か月更新であることから,更新の機会に報酬の増額をする可能性はあったといえ,被告代表者は原告に対し成果が上がれば報酬の増額を考える旨供述したと認められるから,報酬は原告の業務の成果に対する対価としての性質であったと認められ,労務提供の対価であったとは認められない。
イ 認定事実(4)イ(ア)及びウのとおり,原告の業務時間の管理は行われておらず,業務時間の多寡により報酬の増減はないこと,従業員への給与の支払と異なり,給与明細を発行せず,税金・社会保険料の源泉徴収を行わず,見積書及び請求書を提出することにより支払ったことなどの事情が認められ,これらの事実からは労務対価性は認められない。
ウ 営業代行の業務委託において,報酬の定め方を成果報酬型ではなく固定報酬型や複合型とする業者が存在することからすると(乙11),報酬が固定額であるからといって労務対価性は認められない。
(6)  事業者性
ア 認定事実(4)エ(ア)から(ウ)までのとおり,原告はa社の代表取締役として業務をしながら本件契約の業務を行ったこと,被告外部の事業者として報酬を請求していることなどからは,事業者性が認められる。
イ 認定事実(4)エ(エ)のとおり,原告が本件契約の業務に使用していたパソコンは被告が用意したと認められるが,プライバシーマークを取得しているため機密保持のため原則としてパソコンの持ち込みを認めていなかったことによると認められ,事業者性を排斥するものではない。
ウ 原告は被告のITソリューション営業部次長という肩書きで業務をしていたことが認められるが,これは役職無しで業務をさせるわけにもいかないとして原告の意見を聞いてつけたものと認められるから,事業者性を排斥するものではない。
(7)  以上によれば,本件契約の形式面,当事者の意思,指揮命令下の労働,報酬の労務対価性,事業者性などの観点から総合的に検討しても,本件契約は請負契約としての業務委託契約であったと認められ,労働契約であったとは認められない。
3  よって,原告の請求は本件契約が労働契約であることを前提とした地位確認及び賃金請求であるから,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がない。
第4  結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 佐久間隆)

 

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