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判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(343)平成18年 9月12日 東京地裁 平17(ワ)18510号 報酬金請求事件

判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(343)平成18年 9月12日 東京地裁 平17(ワ)18510号 報酬金請求事件

裁判年月日  平成18年 9月12日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(ワ)18510号
事件名  報酬金請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2006WLJPCA09120004

要旨
◆被告(会社)から訴訟提起等の委任を受けた弁護士である原告が、当該委任事務を遂行中に不当に解任されたとして、着手金の残り及びみなし成功報酬金を請求した事案において、原告が所属する弁護士会の報酬規定に基づき求めるみなし成功報酬は委任事務が処理されたことを停止条件とする原則を修正する特約と位置付けて、当事者間ではそのような特約の合意が認められないこと、仮に当該特約が存したとしてもみなし成功報酬の請求には被告が原告を解任したことについて重大な責任が要求されるところ、原告の委任事務処理方針ないし状況と被告の委任事務への要望との食い違い等から委任契約解除の自由の原則に照らして、被告による原告の解任が不当とはいえないことから原告のみなし成功報酬の請求には理由がなく、着手金の残りについても既に被告から当初支払われた着手金の額をもって相当な着手金が支払済みであるとして原告の請求をいずれも棄却した事例

出典
新日本法規提供

参照条文
民法648条1項
民法648条2項
民法651条1項

裁判年月日  平成18年 9月12日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平17(ワ)18510号
事件名  報酬金請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2006WLJPCA09120004

原告 甲山A夫
被告 コンスコア株式会社
同代表者代表取締役 乙川B夫
同訴訟代理人弁護士 早川良

 

主  文

1  原告の請求を棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
被告は、原告に対し、2339万円及びこれに対する平成17年9月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は、弁護士である原告が、被告から訴訟提起等を委任されてその事務を遂行中に不当に解任されたとして、着手金及び報酬金の残金として2339万円とこれに対する商事法定利率による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1  争いのない事実
(1)  原告は、第二東京弁護士会所属の弁護士である。
(2)  被告は、清涼飲料の自動販売機に備えるいわゆるダミー表示ラベル(缶、ペットボトル等に入った飲料の自動販売機に展示される缶、ペットボトル等の合成樹脂フィルム製の模造品)の製造販売等を業とする株式会社である。
(3)  原告は、平成16年9月7日、被告の訴訟代理人として、被告の元代表取締役である丙谷C夫(以下「丙谷」という。)が背任によって被告に損害を与えたとして、同人に対して2億円の損害賠償を求める民事訴訟事件(当庁平成16年(ワ)第18898号損害賠償請求事件。以下「本件訴訟事件〈1〉」という。)を提起した。
(4)  原告は、同月13日、被告からダミー表示ラベルの製造を請け負っていた有限会社富士製作所の訴訟代理人として、丙谷に対して700万円の損害賠償を求める訴訟(当庁同年(ワ)第19484号損害賠償請求事件。以下「本件訴訟事件〈2〉」という。)を提起した。
(5)  原告は、同月ころ、被告の代理人として、丙谷について背任の告訴状を警視庁目白警察署に提出した(以下「本件告訴事件」といい、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉と合わせて「本件各事件」という。)。
(6)  被告は、原告の請求に応じて、本件各事件の着手金として平成16年8月11日に200万円、同年9月14日に400万円をそれぞれ支払済みである。
(7)  被告は、平成17年6月6日、原告から追加の着手金として300万円を請求されたが、被告は、これを断り、同年8月31日発送の内容証明郵便で、原告に対し、本件各事件の代理人から解任する旨通知した。
2  争点
本件の争点は、被告が重大な責任により原告を本件各事件の代理人から解任したことによるみなし成功報酬として、原告が被告に対して弁護士会の報酬規定に従った着手金及び報酬金の全額を請求することができるか、そうでないとした場合に、本件各事件において原告が行った事務処理に対する相当な弁護士報酬の額はいくらか、という点である。なお、本件訴訟事件〈2〉については、被告が原告に訴訟の提起追行を委任したものとして報酬支払の義務があるかについても争いがある。
(原告の主張)
原告と被告との間では、従前から第二東京弁護士会報酬会規(平成8年4月1日施行、同16年3月31日廃止。以下「本件報酬会規」という。)所定の基準によるものとすることが合意されていた。
被告が原告を本件各事件の代理人から解任したのは、訴訟事件の進行が外見上思うように進まないこと、丙谷の逮捕に予想より期間を要していることを理由とするものである。しかし、訴訟の進行は裁判所の専権事項であり、被告訴人の逮捕取調べは捜査当局の行うことであって、弁護士が左右できるものではない。したがって、このような理由によってされた被告による原告の解任は不当であり、被告には重大な責任がある。
そうすると、原告は、本件報酬会規44条3項に従い、本件各事件の事務処理が成功(本件訴訟事件については勝訴、本件告訴事件については丙谷の逮捕)したものとみなすことができ、被告に対して、本件報酬会規に規定する着手金と報酬金の全額を請求することができるところ、その額は、本件訴訟事件〈1〉については着手金669万円、成功報酬1338万円、本件訴訟事件〈2〉については着手金44万円、成功報酬88万円、本件告訴事件については着手金400万円、成功報酬400万円であり、合計2939万円となる。
なお、本件訴訟事件〈2〉の実質的な委任者は被告であるから、原告は、被告に対して上記報酬請求権を有する。
よって、原告は被告に対して上記金額から既払の600万円を控除した2339万円の報酬請求権を有する。
(被告の主張)
原告と被告との間では、本件各事件の報酬額について、本件報酬会規によるとの合意がされたことがないのはもちろん、その他にも何らの合意もされていない。
被告が原告を解任したのは、原告が被告から文書による裁判経過の報告を求められながらこれに応じず、あるいは、報告の内容が理解困難であったこと、原告が訴訟の相手方の準備書面に対する認否、反論に被告の意見を反映させなかったこと、原告が被告から訴訟の方向性、戦術等についての説明を求められても適切な応答をしなかったこと、原告が訴訟において裁判所に提出する書面については事前にその内容を被告に確認させる約束であったのにたびたびこれを履行しなかったことなど、原告の不適切な対応によって、被告の原告に対する不信感が増大し、信頼関係を維持することが困難になったからであり、被告に帰責事由はない。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記争いのない事実、証拠(甲1、5ないし21、乙1、2、原告、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)  原告は、昭和63年に被告の親会社である明和ベンディクス株式会社(当時の商号は株式会社明和スクリーン)に正社員として採用された丙谷の紹介により、同社及びその関連会社から法律相談や訴訟の提起等の法律事務を受任するようになった。原告は、平成16年6月1日、明和ベンディクスの子会社であるMVネクサコア株式会社(以下「ネクサコア」という。)との間で、有効期間を1年とする法律顧問契約書(甲1)を取り交わしたところ、それには、原告は、ネクサコア及びその関連会社から依頼された法律関係の相談、事件処理に関しては、誠実に回答し、必要に応じてネクサコアの代理人として適正な各種法律手続を行う旨(第1条)、原告がネクサコアからの依頼に基づき事務処理をした場合の手数料、報酬については、本件報酬会規による額の7割を基準として、その都度協議の上、決定する旨(第2条)の規定がある。原告は、これ以外に明和ベンディクスやその関連会社との間で顧問契約を締結したことはない。
(2)  原告は、平成16年7月27日、ネクサコアと同じく明和ベンディクスの子会社である被告から、丙谷(平成9年1月から平成15年12月まで被告の代表取締役であり平成16年3月10日に被告を退職した。)が、代表取締役在任中、被告から商社である日本トレーディング株式会社を経由して富士製作所に対してダミー表示ラベルの製造を発注する取引に、丙谷の設立した有限会社エス・エフ工業を介在させ、発注の流れが、被告から日本トレーディング、同社からエス・エフ工業、同社から富士製作所となるようにし、被告や富士製作所からエス・エフ工業に対して取引差益等の名目で合計約2億円を支払わせて被告や富士製作所に損害を与えた、という背任の疑いがあるとして、相談を受けた。
(3)  原告は、被告代表者の乙川B夫や明和ベンディクスの役員らと対応策を打ち合わせた後、被告と富士製作所(以下、両者を合わせて、「被告ら」という。)からその代理人として本件各事件を処理することを受任することとし、平成16年9月13日までに本件訴訟事件〈1〉、〈2〉について東京地方裁判所に訴えを提起したり、そのころ丙谷の告訴の手続について警察署に相談に赴いたりして、本件各事件の処理に着手した。原告は、それと並行して、被告に対して本件各事件の着手金を請求し、平成16年8月11日に200万円を、同年9月14日に400万円をそれぞれ受領したが、その際、原告は、委任契約書や報酬額の合意書を取り交わしたり、見積書を提示したりしたことはなく、口頭でそれらの額を請求したのみで、報酬の総額やその算定根拠を説明することもせず、請求書や領収書を交付することもしなかった。そして、原告が、同年9月までに、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉の訴えの提起を終え、丙谷に対する告訴の手続にも着手したことから、乙川は、上記合計600万円の支払で本件各事件の着手金の支払は終わったものと考えていた。
(4)  被告及びその親会社である明和ベンディクスは、今回の事件が被告の代表取締役を長年務めていた者による背任事件であって、被害額も大きかったばかりか、丙谷が被告を退職した後被告と競争関係にある会社の営業活動に協力し、サントリーフーヅなど被告の主要取引先に対して販売攻勢をかけていたため、場合によっては複数の弁護士による弁護団を組織してでも、早期に、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉において請求認容の判決がされ、本件告訴事件において丙谷が逮捕されるようにすることによって、丙谷の責任が公に明らかにされることを強く期待しており、その成り行きに重大な関心を持っていた。被告代表者の乙川や明和ベンディクスの役員らは、本件各事件を複数の弁護士に委任することについては、原告がこれに消極的な態度を示したことから、断念したものの、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉の期日には毎回傍聴に赴くほか、原告に対し、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉の審理経過と今後の見通しについての見解を文書で報告するよう求め、相手方である丙谷らの主張で被告が虚偽であると考える部分(丙谷らは、被告と富士製作所との間の取引にエス・エフ工業を介在させることについては、明和ベンディクスのオーナーの丁沢D夫も承知していたものであり、これらの訴訟は、丙谷が被告を退職後に協力するようになった競争会社の営業を妨害する目的で提起されたなどと主張し、これに対して、被告は、そのような丙谷らの主張は丁沢の名誉を毀損するものであるなどと反論していた。)については、準備書面で逐一詳細に論駁することを期待していた。しかし、原告は、被告代表者の乙川や明和ベンディクスの役員らが本件訴訟事件〈1〉、〈2〉の傍聴に来ており、期日終了後には口頭で手続を説明したりもしていたことから、特に文書で審理経過を報告する必要はないと考え、審理経過の報告としては、期日で双方当事者が陳述した訴状、答弁書、準備書面を列挙し、裁判官からの指示事項を簡潔に記載し、次回期日の日時を付記しただけの書面(乙1)を提出したにとどまった。また、原告は、被告から丙谷の主張に対する詳細な反論を求められたことに対しても、どちらの主張が正しいかは証拠調べによって裁判所が決めることであるから、神経質になる必要はなく、丁寧な認否反論をする必要はないなどとして、被告の希望するとおりの内容の準備書面は作成しなかった。また、被告や明和ベンディクスの役員らが訴訟が迅速に進行していないように見えることや丙谷が逮捕されないことに対して不満を漏らした際にも、原告は、訴訟の進行や告訴事件の処理は、裁判所の訴訟指揮や捜査機関の捜査によるところが大であり、それに任せるしかないとの応答に終始した。これらのことに加えて、原告が前回期日に裁判所から指示された事項をその次の期日までに準備していなかったことを指摘されるという場面もあったことから、被告や明和ベンディクスの役員らは、次第に、原告に本件各事件の処理を任せておくことに対する不安を覚えるようになっていった。
(5)  そのような折り、原告は、平成17年6月6日になって、被告に対し、本件各事件の着手金として300万円を追加して支払うよう電話で請求した。被告の内部では、この時期になって300万円もの追加着手金をいきなり口頭で請求されることに対する反発の声が強く、原告に対してその算定根拠等の説明を求めるべきであるとの意見が出されたことから、乙川が原告にその説明を求めたところ、原告は、以前に受け取った200万円は本件訴訟事件〈1〉、〈2〉の着手金合計500万円の内金であり、同じく400万円は本件告訴事件の着手金であって、今回請求する300万円は、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉の着手金の残金として請求するものである旨口頭で説明した。
(6)  このような経過を経て、被告や明和ベンディクスの役員らの間では、原告の訴訟活動に対する不満や報酬請求の仕方に対する不信感が強くなり、このような役員らの意向を受けた乙川は、被告らと原告との信頼関係が破壊された状態で原告に対して今後も本件各事件の処理を委任することは適当でないと判断し、平成17年8月22日、原告に対して、本件各事件の代理人を辞任して欲しいと申し出るとともに、原告が保管している訴訟資料の返還を求めた。これに対し、原告は、同月24日、乙川に対し、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉は勝訴できる事件であるから解任するのであればみなし成功報酬を請求する、その支払がされない限り訴訟資料は返還できないとして、辞任を拒否した。そこで、被告は、同月31日発送の内容証明郵便によって、原告に対し、本件各事件の代理人から解任する旨通知した。
(7)  原告は、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉において、解任されるまでに訴状その他の準備書面の作成及び陳述、期日間における被告の関係者らとの面談、電話による打合せ等の事務を処理したが、これらの訴訟は、原告が代理人を解任された後も約1年にわたって第1審に係属しており、その間、一部の被告について訴えが取り下げられるなど、請求や主張の整理が行われており、証人等の尋問はこれから行われる予定である。
2  みなし成功報酬請求の可否について
(1)  弁護士報酬のうちの報酬金(成功報酬)は、本来、委任事務を処理したとき(委任事務処理の成功不成功があるときは成功したとき)に支払を受けられるものであるから、その請求権は、委任事務を処理することを停止条件にした権利である。
この点について、原告は、本件報酬会規44条3項によるみなし成功報酬を請求するとするところ、弁護士が同項の規定に従って依頼者にみなし成功報酬を請求するためには、その規定が上記のような報酬金請求権の発生に関する原則に対する例外を定めたものであり当然には依頼者を拘束するものでない以上、本件報酬会規が廃止された平成16年4月1日以降はもちろん、同会規が施行されていた当時においても、その旨の特約を結ぶ必要があるというべきである。
前記認定の事実によれば、原告と明和ベンディクスの子会社の一つであるネクサコアとの間には、顧問契約が存在し、それによれば、弁護士報酬の額については、本件報酬会規による額の7割の額を基準にして両者間で協議して決定するものとされていたのであるから、ネクサコアとの間では、本件報酬会規44条3項に従ってみなし成功報酬を請求できる旨の特約があるといえないこともない。
しかし、原告とネクサコアとの間で締結された顧問契約の内容が当然に別会社である被告を拘束することになると解すべき根拠はない。そして、原告と被告との間には、そのような内容の顧問契約は締結されておらず、他に、本件各事件の弁護士報酬について、みなし成功報酬を請求することができることを内容とする合意がされたことを認めるに足りる証拠もない。
原告が被告に対しても本件報酬会規44条3項と同様の要件の下にみなし成功報酬を請求したいと考えたのであれば、本件各事件を受任した際に委任契約書を作成するなどしてその旨を明確に合意しておくべきであったのであり、そのような手間を省いて、ネクサコアとの間の顧問契約を根拠としてその請求ができるとする原告の主張は、到底採用できない。
したがって、原告のみなし成功報酬の請求は、まずこの点で、失当というべきである。
(2)  また、仮に、原告と被告間に本件報酬会規44条の3項と同内容のみなし成功報酬の合意が存在するとしても、被告には、原告を解任したことについて、同項にいう重大な責任があるとはいえないというべきである。
すなわち、前記認定の事実によれば、被告は、その代表取締役を長年務めた丙谷の背任行為を本件各事件を通じて早期に明らかにすることによって、丙谷に対する責任を追及するとともに、丙谷が被告を退職後営業に協力するようになった競合会社に取引先を奪われる事態を回避したいと考えていたために、本件各事件の迅速な進行に重大な関心を有しており、また、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉において、丙谷の主張には逐一詳細に反論してそれが虚偽であることを明らかにしたいとの意向を有していたものであり、原告に対してそのような準備書面の作成を期待するとともに、審理経過や今後の見通しについても、詳細な報告を要求していたものということができる。
他方、原告は、訴訟事件や告訴事件の進行は裁判所の訴訟指揮や捜査機関の捜査の成り行きに任せるほかなく、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉の重点は、丙谷が背任によりエス・エフ工業に取得させた約2億円の金銭の使途を解明することにあって、それ以外の点については逐一反論する必要がなく、また、被告や明和ベンディクスの役員らが期日を傍聴するなどしている以上、文書で審理経過等を詳細に報告する必要はないと考えていたものである。
これらの点を考えると、被告らが期待していた本件各事件の処理方針と原告が考えていたそれとの間には、明らかな食い違いがあったというべきである。
もとより、原告が考えていた本件各事件の処理方針は、それ自体としては、直ちに不当なものということはできず、依頼者から特段の要望がない場合には、そのような方針で事件を処理することに特段の問題があったとはいえない。
しかし、ここでの問題は、原告の本件各事件の処理が不当であったかどうかではなく、被告らによる原告の解任が委任契約解除の自由の原則(民法651条)に照らしても容認できないほどに不当であったかどうかという点なのである。
本件において、被告らは、前記認定のような事情から、特に本件各事件の迅速な進行、丙谷の主張に対する詳細な反論、審理経過についての十分な報告等を要望していたのであり、被告らが原告の処理方針がそのような被告らの要望に十分応えていないとして不安や不満を抱いたとしても、そのことを一概に不当であると決めつけることはできない。
加えて、原告は、弁護士報酬に関して被告らとの間で明確な合意をしないまま、被告に対し、三度にわたって本件各事件の着手金を請求したのであるが、いずれの場合も、自ら進んで明細書等によって算定根拠を説明したり、報酬の総額を明示したりしようとせず、被告から要求されるまで請求書や領収書を交付しなかったのであり、このような明朗とはいい難い原告の報酬金請求の仕方が被告に不信と不安を抱かせたことも想像に難くない。
以上のような状況の下で、被告が、平成17年8月下旬ころには原告との信頼関係が失われたとして、原告を本件各事件の代理人から解任したとしても、これをもって被告に重大な責任があるということはできない。
したがって、仮に原告と被告らとの間で本件報酬会規44条3項に準じてみなし成功報酬を支払う旨の合意が成立していたとしても、被告らには同項にいう重大な責任があるとはいえないから、原告のみなし成功報酬の請求はやはり理由がない。
なお、以上に説示したところによれば、被告が停止条件付権利である原告の報酬金請求権の条件成就を故意に妨害したといえないことも明らかであるから、原告は、民法130条に基づいて被告に対してみなし成功報酬の請求をすることもできないというべきである。
(3)  以上のとおりであるから、原告のみなし成功報酬の請求は、理由がない。
3  相当な着手金額について
原告は、原告とネクサコアとの間で締結された顧問契約の規定を根拠にして、被告らに対しても、本件報酬会規に定める着手金額を請求することができると主張する。
しかし、上記顧問契約は、被告らを当事者とするものではないから、その条項が被告らを拘束するものとは解し難い上、上記条項によっても、報酬の額は、本件報酬会規に定める額の7割を基準にして当事者間で協議して定めるとされているのであるから、上記条項から当然に被告が原告に対して本件報酬会規に定める基準額の着手金を支払う義務があるとする原告の主張は到底採用できない。
そうすると、原告と被告との間には、弁護士報酬について別段の定めがないことになるところ、そのような場合には、事件の難易、訴額及び労力の程度、委任者との従前からの関係、受任の経緯、事件の進行状況等の諸般の事情をしんしゃくし、当事者の意思を推測して相当な報酬額を算定すべきである。
ところで、本件報酬会規は、すでに廃止されてはいるものの、当事者間に弁護士報酬について別段の定めがない場合に相当な弁護士報酬額を算定するための一つの参考にはなるものということができるところ、本件報酬会規(乙1)によれば、本件訴訟事件〈1〉、〈2〉の着手金の基準額はそれぞれ669万円及び44万円と算定され、告訴事件の着手金額は10万円以上とされていることが認められる。
そして、本件各事件の基礎となる事実関係は、いずれも丙谷の背任行為であって、その間に共通性があること、原告は、明和ベンディクス又はその子会社から法律事務の委任を受けた場合にも本件報酬会規に規定するとおりの額を報酬として受け取っていたものではないこと(甲1、弁論の全趣旨)、原告は、平成16年8月11日と同年9月14日に合計600万円の着手金の支払を受け、そのころ本件訴訟事件〈1〉、〈2〉の訴えを提起するとともに丙谷に対する告訴について警察署に相談するなどして、本件各事件の処理に着手していること、被告らもその支払によって着手金の支払は完了したと認識していたこと、原告が追加の着手金の名目で300万円を被告に請求したのは、それから9か月近くも経過した平成16年6月になってからであって、原告がそのころになってさらに着手金を請求するに至った理由も不明であることなどを総合的に考慮すると、本件各事件の相当な着手金額は600万円と認めるのが相当である。
そうすると、被告がさらに追加して原告に支払うべき着手金はないことになる。
したがって、原告の被告に対する着手金の請求も理由がない。
第4  結論
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 矢尾渉)

 

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