
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(66)平成28年11月17日 東京地裁 平27(ワ)37015号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(66)平成28年11月17日 東京地裁 平27(ワ)37015号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成28年11月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)37015号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2016WLJPCA11178003
要旨
◆原告が、訴外会社の取締役であった被告に対し、被告が同社を代表する権限がないにもかかわらず、同社の代表取締役として原告に対する仮差押命令(前件仮差押え)の申立てをし、更に原告に対して訴え(前訴)を提起したことは、被告の訴外会社の取締役としての任務の懈怠あるいは不当な提訴等に当たるとして、会社法429条1項又は不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案において、一般通常人であれば自らに代表権がないことを容易に認識し得た状況にあったにもかかわらず、代表取締役として前件仮差押えを申し立て、更に前訴を提起した被告の行為は、前訴の相手方であった原告との関係で不当な訴訟行為等であったといわざるを得ず、被告は、前件仮差押えの申立人及び前訴の原告とされた訴外会社の取締役としての任務を、少なくとも重過失により怠ったというべきであるとして、前訴に係る弁護士費用等として支出する必要が生じた金額を任務懈怠による損害と認定し、請求を一部認容した事例
参照条文
会社法429条1項
民法709条
裁判年月日 平成28年11月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)37015号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2016WLJPCA11178003
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 X株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 宮本寛之
東京都港区〈以下省略〉
被告 甲山Y
同訴訟代理人弁護士 杉本太郎
同 志賀厚介
主文
1 被告は,原告に対し,395万6580円及びこれに対する平成26年9月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,695万6580円及びこれに対する平成26年9月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,訴外a株式会社(以下「訴外会社」という。)の取締役であった被告が訴外会社を代表する権限がないにもかかわらず,同社の代表取締役として原告に対する仮差押命令の申立てをし,更に原告を提訴したことが,被告の訴外会社の取締役としての任務の懈怠あるいは不当な提訴等に当たるとして,会社法429条1項に基づく損害賠償請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,損害賠償金695万6580円及びこれに対する不法行為の日(仮差押命令申立日)である平成26年9月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実関係(認定に供した主要な証拠等は括弧内に掲げている。)
(1) 当事者等
ア 原告は,自動車のポリマー加工等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 訴外会社は,電気器具の製造及び販売等を目的とする株式会社であり(取締役会設置会社),現在の代表取締役はB(以下「B」という。)である(甲1,弁論の全趣旨)。Bが取締役に就任したのは平成20年であり,代表取締役に就任したのは平成27年12月であった(甲18,弁論の全趣旨)。
ウ 同社の登記情報上は,次のような事実関係が記載されている(甲1)。すなわち,甲山C(以下「C」という。)が代表取締役を平成24年12月25日に,取締役を同月27日にそれぞれ辞任した。また,被告が平成24年12月25日に代表取締役に就任し,同日,D(以下「D」という。)が取締役に就任した。
これらの就任ないし辞任に係る登記は,いずれも平成25年1月29日に行われた。
なお,Cは,平成24年12月28日に急死した(甲11,18,19)。
エ 被告は,訴外会社が設立された昭和44年から平成12年までの間,訴外会社の代表取締役を務めており,その後も,平成12年から平成15年までの間を除き,訴外会社の取締役であった(甲1,13)。
(2) 訴外会社の代表者としての被告による仮差押及び提訴
ア 被告は,訴外会社の代表者として,原告に対し,訴外会社と原告との間における業務委託契約(平成19年2月締結)は,訴外会社と原告の平成19年当時の代表取締役がいずれもCであるため自己取引に該当し,訴外会社の取締役会決議を欠いているために無効であるなどとして,平成19年3月以降平成25年10月までの80か月分の業務委託料合計5040万円につき不当利得返還請求権を有すると主張し,平成26年9月5日,上記不当利得返還請求権の一部を被保全権利として,原告の預金債権に係る仮差押命令を申し立てた(甲2,乙1,2)(以下,この手続を「前件仮差押」という。)。これを受けて,同月12日,仮差押決定が出され,原告の三菱東京UFJ銀行新宿新都心支店の普通預金口座(同月22日現在の口座残高213万0954円)が仮に差し押さえられた(甲3,4)。
前件仮差押の申立てを行うことについては,被告,その妻である甲山E(以下「E」という。)及びDにおいて実質的な意思決定をした(証人D)。
イ 原告は,訴外会社に対し,平成26年10月31日,起訴命令の申立てを行った(甲6)。東京地方裁判所は,同年11月5日,起訴命令を発令した(甲7)。
ウ 起訴命令の発令を受け,被告は,訴外会社を代表して,原告に対し,平成26年11月19日,上記被保全権利を訴訟物とする訴えを提起した(以下「前訴」という。)。前訴においては,平成19年3月から平成25年8月までの78か月分の業務委託料合計4914万円の不当利得返還等が求められた。(甲8,乙2,3の1~10,4の1~13,5,6,7)
これに対し,原告は,本件の原告訴訟代理人を訴訟代理人に選任して,応訴した。
原告は,平成27年1月27日,訴外会社の代表者とされる被告につき,代表取締役選任の取締役会決議が無効であるために,代表権がないと主張した上,前訴につき却下を求める旨の答弁を行った(甲10)。これに対し,被告によって代表された訴外会社は,主位的には,被告が訴外会社の全株式を有することを前提に,平成24年12月25日に被告が出席した株主総会で被告及びDが取締役に選任され,更に両名が出席して同日開催された取締役会において被告が代表取締役に就任することが承認された旨を主張し,予備的には,平成25年1月8日に被告及びBの両名が出席して代表取締役の選任につき協議した結果,被告が代表取締役に就任することが承認された事実を主張した(甲11)。
(3) 前訴に関する判決
前訴に関し,東京地方裁判所は,平成27年11月19日,訴えを却下する旨の判決を言い渡した(以下「前訴判決」という。)(甲11)。前訴判決は,同年12月4日に確定した。また,被告によって代表された訴外会社は,平成27年12月10日付けで,前件仮差押の申立てを取り下げた(甲12)。
前訴判決は,Bが平成24年12月25日に議事録上開催されたこととなっている取締役会に出席していなかった事実を認定した上,同日の取締役会において被告が代表取締役に選任された事実は認められないとし,さらに,平成25年1月8日に被告とBの間で代表取締役選任に関する協議や意思決定がされた事実も認められないとした(甲11)。
また,前訴判決において,裁判所は,訴外会社の訴訟代理人が代表権の欠缺を補正する意思がない旨を表明していることから,相当期間内に代表権の欠缺の補正がされる見込みがないことは明らかであるとも述べた(甲11)。
(4) 原告による弁護士費用の支出等
ア 原告は,平成26年10月30日,前訴に係る起訴命令を申し立てることを前提として,原告訴訟代理人に対し,着手金として70万9560円(税込み)を支払った(甲5)。
イ 原告は,平成27年12月頃,原告訴訟代理人から,前訴に関する報酬として,324万7020円(税込み)の請求を受け,原告において同額を支払う必要が生じた(甲21,弁論の全趣旨)。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 争点
ア 代表権の欠缺があったにもかかわらず被告が代表取締役として訴外会社を代表して前件仮差押を申し立て,前訴を提起したことが,取締役の任務懈怠又は不当提訴等に当たるか(争点1)
イ 損害の有無及び額(争点2)
(2) 争点1について
(原告の主張)
被告は,実際には代表取締役に就任した事実がないのに,取締役であるBの了承を何ら得ることなく,平成24年12月25日に代表取締役に選任された旨の取締役会決議に係る議事録を偽造し,当該議事録を基に平成25年1月29日に代表取締役選任の虚偽登記を行った。
前件仮差押や前訴提起はこの後にされたものであり,被告は,自らに代表権がないことを当然に認識しつつ,代表取締役であるかのごとく装って訴訟提起等を行ったものである。このように訴訟要件等を欠くことを分かりながら,少なくとも容易に認識し得るのに提訴等に及んだことは,悪意又は重過失による取締役の任務の懈怠であって,被告には,会社法429条1項に基づく責任がある。同時に,被告には一般不法行為責任も生じる。
なお,被告が主張するような,平成25年1月8日にBが被告の代表取締役就任を了解したなどという事実はない。同日,顧問税理士であるF(以下「F」という。)が,その場にいた全役員及び従業員に対し,「a社は,今後,Yさんが代表者になり,Dさんが取締役になることになりました」などと一方的に通告をしたが,これにつきBが了承したり追認したりしたことはない。しかも,少なくとも平成25年11月時点では,Cの妻である訴外甲山G(以下「G」という。)から被告を含む全取締役の解任を議題とする株主総会の開催を求めていたなどの事情もあったから,被告に前件仮差押や前訴提起の段階で代表権を有するとの認識がなかったか,そう考えたことに重大な過失があることは明白である。
被告は,他の訴訟においても被告が代表者として扱われたと述べるが,裁判所や反対当事者としても,特に争点とする必要がなければ,登記情報上表示されている者を代表者と扱うのは自然であり,そうだからといって,真に代表権を有するとの被告自身の認識が形成されるものではない。
また,被告は,自身が訴外会社の一人株主であると誤信していた旨述べるが,前訴当時,株主権の帰属については係争中であり,そうであるにもかかわらず提訴すること自体,軽率であった。また,被告が上記のような誤信をすること自体が,事実経過からして考えられない。仮にそのような誤信をしていたとすれば,わざわざ臨時株主総会の議事録を偽造する必要などないからである。
(被告の主張)
被告は,平成24年12月28日にCが死亡した後,平成25年1月8日,当時訴外会社の取締役であったBとの間で,被告が代表取締役となることについて協議の上決定した。少なくとも,同日,被告が代表取締役となることが伝えられた際にBからは異論が出なかったことから,被告としては,これをもって,取締役会における決議が経られたとの認識であった(当時の取締役は被告とBであり,その両名がいずれも出席していた以上,招集通知等の手続は必要ないし,議事録がなくとも決議の効力には影響しない。)。このことは,その後,Bが出席した会議等において,被告が代表取締役であることが当然の前提とされていたのに対して,Bが何らの異論も述べなかったこと,対外的にも対内的にも被告が代表取締役として扱われていたことからも明らかである。なお,取締役会の議事録が平成25年1月8日とは異なる日付(平成24年12月25日付け)で作成されたのは,登記の日付をC死亡前とした方がよいとのFからの助言があったためであるところ,そのような操作をすることは中小企業においてはよくあることであるから,この点は大きな問題ではない。
更に言えば,前訴以前に,例えばGとの間での株主権確認訴訟等では,Gにおいて被告の代表権を問題とするような主張もしてはいたが,被告が訴外会社の代表権を有しないなどとした判断がされたこともなかった(G自らが代表権を争うことを前提とした訴えを取り下げたことすらあった。)し,その他の訴訟においても被告の代表権が前提となった判断が出され続けていたため,被告が代表権を有しないことを疑う契機もなかった。
したがって,被告は,前件仮差押の申立時及び前訴提起時において,代表権がないとの認識は有していなかったし,そのように認識しなかったことにつき過失もない(少なくとも,通常人であれば容易にその点の認識を持ち得たとはいえず,重過失は存在しない。)。
更に補足すれば,被告は,自身が訴外会社の一人株主であると認識していたものである(関連訴訟において,平成12年頃に被告がCに株式を譲渡した事実が認定されたが,証拠としてはCが主導で作成した税務申告書の記載があったのみであり,税理士がその記載が原因で誤解をしたことから被告らの家族も誤解をしたにすぎず,直接証拠である贈与契約書も作成されていなかったし,Cが贈与税の申告をした事実もなく,株券の発行もなかったものである。)。すなわち,被告の認識を前提とすれば,本来取締役会の決議事項となる事項についても,被告自身において決定し得るのであって,被告としては,その前提認識もあって,少なくとも平成25年1月8日の協議を経た上で行われた代表取締役の選任手続に瑕疵があるとは思ってもいなかった。また,被告自身が一人株主であるとの認識を前提とすれば,仮に代表取締役の選任に何らかの瑕疵があってもそれを被告自身で追認できるから,被告は,その意味でも手続に問題があるとは思っていなかった。
(3) 争点2について
(原告の主張)
上記の不当提訴等により,被告は次の損害を被った。
ア 前件仮差押を受けて,原告は,原告訴訟代理人に対し,仮差押事件及び訴訟事件の関係での着手金として70万9560円を支払った。
イ また,原告は,前訴判決で勝訴したことを受け,原告訴訟代理人から,成功報酬及び実費分として324万7020円の請求を受けた。
なお,前訴の契機は起訴命令にあったが,仮処分命令に対して抗告して争うか,起訴命令を申し立てた上で訴訟の中で争うかは,債務者側の自由であって,起訴命令が契機であることは,責任論はもとより,損害額の算定にも影響を及ぼさない。
ウ 前件仮差押によって,原告は預金の引出しができなくなり,自動車のポリマー加工に関する事業活動が完全に停止した。このことによる営業上の損害は,300万円を下らない。
(被告の主張)
否認し,争う。
ア 営業上の損害については,そもそも当該損害の具体的な内容や内訳も明らかでなく,前件仮差押との因果関係も明らかでない。
また,原告は,何らの業務も行っていないから,損害が生じることは考え難い。訴外会社から原告に対する業務委託料の支払はあったが,これは,Cの遊興費に費消されていたにすぎず,原告には何らの営業実態もない。
イ 着手金等につき,本件で訴外会社が前訴を提起するに至ったのは,原告が起訴命令を申し立てたからにほかならず,少なくとも訴訟を前提とした弁護士報酬等が必要になったことは,原告自身の行為によるものである(代表権の欠缺を主張するのであれば,わざわざ訴訟提起によらずとも抗告をすれば足りた。)。
第3 争点に対する判断
1 認定事実
(1) 訴外会社の全般的な状況
ア 少なくとも平成18年以降,被告が訴外会社の具体的な業務を行ったことはなかった(証人B)。平成24年末にCが死亡した後は,被告の妻であるEとDが,実質的な経営判断等を行っていた(証人B)。
イ Bは,平成25年頃まで,訴外会社において,現場業務に関する責任者としての役割を担っていた(証人B)。
(2) 平成25年1月8日より前の事実経過
ア(ア)平成24年12月25日付けの臨時株主総会議事録には,大要,次の趣旨の記載がされている(甲16)。
すなわち,株主総数1名のところ,当該株主が出席した上で,C,被告,Bの各取締役も立ち会って株主総会が開かれ,Dが取締役に選任された。
同議事録には,C,被告,B及びDの4名の記名押印がされている(甲16)。
(イ)また,同日付けの取締役会議事録には,大要,次の趣旨の記載がされている(甲17)。
すなわち,C,被告,B及びDの4名の取締役の出席のもとで取締役会が開催され,全員一致で被告が代表取締役に就任することとなった。
同議事録には,上記4名の取締役の記名押印がされている(甲17)。
(ウ)しかし,実際にはこのような株主総会や取締役会は開催されておらず,同日,Dはイタリアに滞在中であり,Bも取締役会には出席していなかった(甲18,24,証人B,証人D)。
イ 平成24年12月25日付けで,Cが「一身上の都合により,貴社の代表取締役を辞任したいので,お届けいたします」との文面の辞任届に押印した形となっているが,実際にはこの文書は偽造されたものである(甲15の1)。
また,Cは,同月27日付けで,「一身上の都合により,貴社の取締役を辞任したいので,お届けします」との文面の辞任届にも押印した形となっているが,これも偽造されたものである(甲15の2)。
これらは,代表取締役が不在の空白期間を作らないよう,Fの考えに基づいて行われたものであった(証人D)。
ウ 平成25年1月6日,被告,E,D及びFが集まり,Cの死後の訴外会社の経営について協議したが,その際,Bは呼ばれていなかった(証人B)。
この場で,訴外会社の経営を甲山家で続けていくこと,被告が社長(代表取締役)に戻り,Dが取締役としてサポートするという方向性が決められた(証人D)。
(3) 平成25年1月8日の会議の状況
平成25年1月8日,訴外会社の会議室において,被告,E,B,D,H(訴外会社の相談役),原告代表者及び訴外会社の主な従業員並びに顧問税理士のFが集まり,C死亡後の経営に関する話合いが持たれたが,この際に取締役会を開くとの発言が明示的にされたことはうかがわれない(甲22,証人B,証人D)。
この場において進行役を務めたのはFであったところ,同人は,「訴外会社は,今後,被告が代表者となり,Dが取締役になって,引き続き甲山家において経営を行っていく」と説明し,続いて,Dが自己紹介をした(甲22,証人B,証人D)。この際,Hは,Dの取締役への就任につき異論があるような趣旨のことを述べた(証人B,証人D)。
Bとしては,取締役として承認を求められているとの認識はなく,甲山家の話合いの中で決められたことにつき事後報告を受けているとの認識であった(甲27,証人B)。当時,Bは,取締役会の決議事項としてどのような項目があるかといったことにつき明確な知識や認識を有していなかった(証人B)。
上記の場において,被告は何らの発言もしなかった(甲22,証人B)。
(4) 平成25年1月8日以降の事実経過
ア 平成25年1月16日,Cの社葬において,被告とDは,名刺を配って取引先に対する挨拶を行った(証人D)。
イ(ア)平成25年9月及び10月の会議資料に掲載された会社組織図において,被告は「CEO 代表取締役社長」と記されていた(乙9,11)。
(イ)被告の名義により,平成25年10月7日,「a社代表取締役社長」の肩書で,全社員に対し,「第一次中期経営計画」と題する文書が発出された(乙11)。
(ウ)被告の名義により,平成25年11月29日,「a株式会社代表取締役社長」の肩書で,社員各位に対し,「a社新体制について(通達)」と題する書面が発出された(乙10)。
(エ)平成25年12月度及び平成26年2月度の安全大会に関する資料において,被告の肩書は「代表取締役」と記載されていた(乙12の1,3)。
上記各文書の記載ぶりにつき,Bから異論が出されたことはなかった(弁論の全趣旨)。
ウ 平成25年1月以降,Bとしては,対外的な書類(契約書等)に被告名義の押印があったこと等から,被告が代表取締役となっていることも想定していたが,いずれにせよそれは甲山家の協議で決められることであると考えていた(証人B,証人D)。また,Bは,従前Cに報告していたような重要事項につき,Dに対して報告するようにしていた(証人B)。
なお,同月以降,Bを含めて,被告が代表取締役であるとの前提に異論を述べた者はいなかった(証人B)。
エ 平成25年1月以降の役員会議等には,被告が出席したことはほとんどなかったが,Dは出席していた(証人B,証人D,乙8,9,11)。被告は,平成25年12月末に行われた訴外会社の「安全大会」には出席し,閉会の挨拶を述べた(乙12の1・2)。
オ 平成25年11月,Gは,被告を取締役から解任すること等を内容とする臨時株主総会の開催を被告に対して求めたところ,Bは,Gの意向に同調した(甲23,24,証人B)。
カ 平成26年1月21日,Bが出社した際に訴外会社の会議室に呼ばれた折,訴外会社の顧問弁護士であるI弁護士の進行の下で株主総会が開かれ,Bを取締役に再任しないということが告げられた。このとき,被告,E,Dが出席していた。(甲27,証人B)
キ 平成26年8月5日付けの臨時株主総会において,被告が同月29日付けをもって代表取締役を退き,退職金1億円の支給を受けるという点が議題とされ,賛成が得られた(甲26)。ただし,被告の後任の代表取締役は,その後Bが平成27年12月に代表取締役となるまで決まらないままであった(証人D,証人B)。
上記の退職金の支給は,この頃に訴外会社にまとまった金員が入ったために行われた(証人D)。
(5) 関連訴訟における主張や判断
ア Gは,平成26年1月,同人が訴外会社の株式200株を保有する株主であることの確認を求めて訴外会社を提訴した(以下,「株主権確認訴訟」という。)。この訴訟において,訴外会社の代表者は被告とされていた。(甲13)
この訴訟においては,平成12年頃における被告からCへの株式譲渡の有無が争点となった。東京地方裁判所は,平成27年3月13日に言い渡した判決において,訴外会社の事業申告書及び確定申告書の記載内容等から,被告からCへの株式譲渡があったとの認定を示した。被告によって代表された訴外会社は,この訴訟において,直接的な証拠がない上に,確定申告書には必ずしも実態に沿う株主名が記載されるわけではないなどと主張したが,この主張に関し,裁判所は,平成12年から全権を委ねられ,Cが代表取締役として訴外会社の経営を行うようになった以上,確定申告書の内容は実態を反映したものと見ることができると述べた。(甲13)
被告によって代表された訴外会社は,上記判決に対して控訴し,控訴審においては被告自身も独立当事者参加をして争ったが,東京高等裁判所は,平成27年8月26日,控訴を棄却した(乙16)(同判決に対する上告受理申立てについては,不受理決定がされた。)。控訴審において,Gは,被告が平成26年8月までに代表取締役を辞任して約1億円の退職金を受け取った事実があること等も指摘し,被告の代表資格を問題としたが,控訴審判決は,「被控訴人と控訴人との間で当該株主総会における決議の効力につき争いがあり,被控訴人において,その前提となるべき株主権について確認を求める本件訴えを提起する際には,当該株主総会において選任された代表取締役として登記されている参加人(本件訴訟における被告を指す。)を控訴人の代表者として訴えを提起すれば足り,その選任の効力に争いがあるとしても本件訴訟手続に影響するものではない」と述べ,被告の代表資格につき肯定する判断を示した(乙16,19)。
この訴訟において,Gは,当初,Dを取締役として選任する株主総会決議の不存在や被告を代表取締役として選任する取締役会決議の不存在の確認をも求めていたが,これらについては,平成26年4月25日,訴えを取り下げた(乙17,18)。
なお,この訴訟における争点に関係する事実として,次の事実が認められる。すなわち,Dは,平成25年3月に,GがCから株式を相続していることを前提としたメールを送信した(甲28,証人D)。Dは,当時,現にGが株式を相続したとの認識を有していたが,これはFからそのように聞いたためであった(証人D)。
イ 被告によって代表された訴外会社は,Gに対し,平成26年9月,貸金の返還を求める訴訟を提起したところ,この訴訟においては,被告の代表資格に関する判断は示されなかった(乙20,21,22)。ただし,Gは,少なくとも控訴理由書においては,被告に代表権がない旨を主張したところ,これに対し,被告によって代表された訴外会社は答弁書において,代表取締役は辞任後も新たな代表取締役が就任するまでは代表取締役としての権利義務を負う,仮に株主総会決議が不存在であっても各取締役に代表権があるから被告の代表権に影響はないなどと主張した(乙23,26)(なお,訴外会社は取締役会設置会社であるため,上記の仮定的主張は失当なものである。)。
この訴訟は,控訴審において,訴訟上の和解により解決した(乙21)。
ウ Gは,訴外会社に対し,平成27年3月,上記平成24年12月25日付けのDを取締役に選任する旨の株主総会決議が不存在であることを確認することを求める訴えを提起した。Gは,訴外会社の代表者を被告としていた。(甲19,乙24)
東京地方裁判所は,平成27年12月9日,上記Gの請求を認容する旨の判決を言い渡した(甲19)(同判決は,控訴されることなく確定した(甲20)。)。この訴訟において,被告によって代表された訴外会社は,平成27年6月1日に一人株主である被告が出席して開かれた株主総会においてDを取締役に選任することが決議されており,追認があったとの主張を行ったが,裁判所は,株主権確認訴訟と同様の判断に基づき,Gが一人株主であるから株主総会決議が存在しないとの判断を示した(甲19)。
上記判決において,被告の代表資格に関する判断も示されたところ,その要点は,被告自身の代表取締役選任決議の効力に争いがあるとしても,「法人の役員の組織法上の地位を巡る訴訟を追行するためには,紛争当事者の代表者として登記簿上の代表者に訴訟手続上の代表資格を認めることが合目的的である」から,被告に代表資格があるというものであった(甲19)。
上記訴訟の関連事件として,Gは,平成27年3月,取締役の職務執行停止等の仮処分を申し立てたところ,Gはこの件においても,訴外会社の代表者を被告としていた(乙13,25)。この件において,東京地方裁判所は平成27年8月18日,保全の必要性が認められないとして申立てを却下する決定を出したところ,当該決定においては,「被告は,Cが平成24年1月28日(ママ)に急死したことから,Dらと相談し,訴外会社の代表取締役に復帰することとした」との認定がされた(乙13)。
エ この他,平成25年,J(以下「J」という。)が訴外会社らに対して自動車の使用料相当損害金等の支払を求めた訴訟においても,Jは,訴外会社の代表取締役が被告であることを前提としていた(乙14)。
この訴訟において,原告であるJは,被告が代表取締役である旨の登記は虚偽であるとの趣旨を主張したところ,判決においては,「登記簿上,Cは,平成24年12月25日に訴外会社の代表取締役を辞任し,被告が,同日,訴外会社の代表取締役に就任した旨記録されている」との認定がされた(乙14)。
(6) 原告の事業状況等
少なくとも平成22年度及び平成24年度において,原告の売上高は,前記の業務委託契約に基づく報酬のみであったし(乙5,6)。また,原告は,平成24年度において,当期純損失が発生している状態であった(乙6)。
2 争点1について
(1) 前記1(2)ウ及び(3)において認定したとおり,Cの死後,被告やDらは,Bが不在の場において,被告が代表取締役となりDが取締役となって甲山家で引き続き訴外会社の経営を行っていく方針を確認し,これを前提として,平成25年1月8日,被告以外の取締役であるBのみならず,他の従業員等もいる場において,被告の代表取締役への就任を報告した。この際,Bとしては,決定事項の報告を受けているとの認識であって取締役としての自らの意思決定を求められているとは認識していなかったものである。
そして,客観的状況としても,従業員等が集まった場で異論がないかどうか一応の確認は求められたにせよ,取締役会が開かれる旨が明らかにされたり,取締役である被告が発言したり,取締役であるBに対して特に意思決定の機会が与えられたりしたという事実は認められない。
さらに,同日に取締役会が開かれたことに関する議事録も作成されていないところ,一方で,平成24年12月25日に開かれたとされる取締役会については,実際には開かれた事実がないのにあえて議事録が作成された事実もあるから,実際に取締役会が開かれたとの認識がありながら議事録が作成されていないということは不自然であるというほかない。この点,被告は,平成25年1月8日に意思決定がされた内容について,平成24年12月25日まで日付を遡らせたという趣旨を主張するものとも解し得るが,同日に行われたこととなっているのは,Cの代表取締役辞任,株主総会におけるDの取締役就任,そして取締役会における(Cの辞任を受けての)被告の代表取締役就任という一連の手続であって,平成25年1月8日に実際に行われたと主張されている取締役会としての意思決定と同一性があるとは直ちに言い難い。そして,現に,前訴においても,被告によって代表された訴外会社は,平成24年12月25日の決議を主位的に主張し,それが認められないとしても平成25年1月8日に決議がされたとの主張をしていたのであって,平成25年1月8日の決議が日付を変えて記録化されているとの主張はされていなかったところである(前記第2の1(2)ウ)。
上記の事情からすれば,被告が,平成25年1月8日に,B出席の下取締役会(招集通知を省略した形で開かれるものを含む趣旨である。)を開いて代表取締役を選任したとの認識を有していたとは認められない。また,平成24年12月25日の取締役会決議の不存在自体は,本訴においては争いがないところであり,被告が,同日に取締役会を開いたとの認識を有していたとも認められない。
(2) 次に,被告は,自身が一人株主であったとの認識を有していたという事情を主張しており,これが認められれば,仮に取締役会を開いていないとしても,代表取締役選任という取締役会の決議事項を自らの意思で決定できると考えたことに著しい不当性は認められないという判断もあり得る。
ア そこで検討すると,株主権確認訴訟において,株主権が実際にはCに帰属していたことは確定しており,その前提として,平成12年に代表取締役が被告からCに交代した頃に,被告がCに株式を譲渡した事実が認定されたところである。
この譲渡の事実については,確定判決の拘束力である既判力が直接及ぶものではないが,株主権確認訴訟の判断を導く重要な前提となる事実であり,かつ株主権確認訴訟の中で被告にも十分な攻撃防御の機会が与えられた事項でもあるから,この事実に関して矛盾した判断を行うことは,関連訴訟の判断の結論自体との実質的な抵触を生じさせることになるばかりか,紛争の実質的な蒸し返しを生じさせることにもなる。
よって,被告において,株式譲渡の客観的事実そのものにつき本訴で改めて争うことは,訴訟上の信義則にも照らし,原則として許されないと解すべきである。
そして,本訴において,被告は,株主権確認訴訟において認定された株式の譲渡を巡って,関連訴訟において主張されていない新たな事情を主張しているとは認められない。また,経営権譲渡と株式譲渡が同時にされることが自然であり合理的であるとの前提と併せて,税務書類の記載等を根拠に株式譲渡を認定した株主権確認訴訟の判断に特段不合理な点も認められない。したがって,本訴においても,上記原則を妥当させることが相当であって,株式譲渡が客観的になかったとの前提を採ることはできない。
イ もっとも,客観的には株式譲渡があったことを前提としつつ,株式譲渡がされた事実を認識していなかったとの主張をすることは,直接的には,株主権確認訴訟との関係での抵触を生じさせることにはならない。
しかし,株主権確認訴訟において認定された譲渡は,被告の意思によらなければ起こり得ないものであるから,具体的な事実関係の下において,客観的には被告からCへの株式譲渡があったが,被告としてはそのような事実があったと認識していなかった,又はそう認識していないことに重大な過失がなかったなどということは,特段の事情がない限り想定し難い。
この点,本訴において被告が主に主張しているのは,発行された株券,株主名簿,株式譲渡に関する処分証書や贈与税の申告書等の客観的証拠がないといった事情であるところ,例えば被告が作成した書類などの直接的な証拠がないからといって,被告の意思や認識を基礎付けることができないということにはならない。
被告は,株主権確認訴訟の判決において譲渡行為の具体的態様が認定されていないことも指摘するが,譲渡の事実は認められるがその具体的態様が不明であるにすぎないということであれば,被告に譲渡の認識があったことを推論する妨げになるということはない。
さらに,被告は,被告が訴外会社の借入債務を連帯保証していたために無償でCに株式を譲渡する動機がない,Cが株主であるならば訴外会社から原告に資金を流出させるような行動をとるはずがないなどとも主張する。しかし,前者については,譲渡の動機に関わる間接事実の問題であって,譲渡の事実が認定されたことを前提にした際にその認識を妨げるような事情ではないし,後者についても,Cの心理の問題であって被告自身の認識とは全く関係しない。
結局のところ,被告の主張は,いずれも,実質的には,株式譲渡がされたこと自体が事実に反するとの主張を形を変えて行っているにすぎないものといわざるを得ない。したがって,本件において,特段の事情を認めることはできず,被告がCへの株式譲渡があったのにそれがなかったと誤信していたとの認定をすることはできない。
なお,被告は,上記のような判断がされるとすれば,株主権確認訴訟において控訴して争うことすら否定されることになるかのような指摘をしているが,本件において,株主権確認訴訟における認定を前提として判断しているのは,まさに被告に上訴の機会も与えられた上で株主権の譲渡の有無に関して結論が出されており,手続保障が十分に担保されているといえるからであって,被告の指摘は当たらない。
(3) 以上の(1)及び(2)の検討からすれば,本件において,前件仮差押申立て及び前訴提起の当時,被告が適式に代表取締役に選任されたとの認識を有し得る基礎となる事実を認めることはできない。
この点に関し,被告が社内において代表取締役として通用していた事実は認められる(前記1(4))が,訴訟提起の権限は「事実上の代表取締役」に認められるわけではなく,そのことは会社役員として提訴を行おうとする者であれば当然に認識しておくべき事項であるから,社内において代表取締役として通用していたというだけでは,上記判断を覆す事情として不十分である。
また,被告は,前訴に先立つ関連訴訟において,自らの代表権を否定するような判断が示されなかったなどとも主張するが,関連訴訟においては,代表取締役の選任手続の適式性自体について判断がされたわけではない。すなわち,代表権の点について明示的な判断が示された前記1(5)の各事件においても,選任手続に瑕疵があるか否かを問わず,当該訴訟においては,登記情報上の代表取締役に代表資格があると判示がされたにすぎない。また,前記1(5)ウの仮処分事件の決定も,代表取締役の選任手続について触れているものではない。したがって,選任手続の適法性の認識を基礎付ける事実が他にないのに,関連訴訟の経緯によってそうした認識が基礎付けられるということもあり得ない。
(4) 以上によれば,被告としては,一般通常人であれば自らに代表権がないことを容易に認識し得た状況にあったにもかかわらず,代表取締役として前件仮差押を申し立て,更に前訴を提起したものというべきであり,この行為は,前訴の相手方であった原告との関係で,不当な訴訟行為等であったといわざるを得ず,被告は,前件仮差押の申立人及び前訴の原告とされた訴外会社の取締役としての任務を,少なくとも重過失により怠ったものというべきである(よって,民法709条に基づく責任の有無については,判断するまでもない。)。
(5) なお,被告の指摘するように,同族会社において,会社法の所定する手続が必ずしも厳密に履践されないことが実際上あり得るのだとしても,本件の場合には,少なくとも,(1)平成24年12月25日に日付を遡った点のみならず,(2)現実には辞任の実態が全くないCが辞任したかのような書面が偽造されており,社会通念上あり得ると想定される範囲をも逸脱しているというほかない。被告は,関連して,訴外会社は従来から一人株主の会社であり,Cが代表取締役であったときも株主総会や取締役会を適式に開催したことはなかったなどと主張するが,関連訴訟で判断された株主権の帰属を前提とすれば,Cは現に一人株主であったのだから,株主総会や取締役会で決議すべき事項を一存で決めることもできたのであって,本件における局面とは前提状況が異なっているというほかない。また,仮にCが代表取締役であった頃に何らかの不適法な処理がされていた事実があったとしても,そのことをもって,本件で問題となっている代表取締役選任の手続に関し瑕疵があってもよいということにはならないから,いずれにせよ,被告の主張を採用することはできない。
また,被告は,前訴提起等に関し,訴外会社から原告に対して,業務委託料の名目で実態のない金銭が支払われ続けており,この状態を是正するために前訴提起等は不可欠であり,責任財産保全のために仮差押も必要であったなどと主張し,そうした事情を基に,前訴提起等に違法性はなく,少なくとも本訴請求が信義則違反あるいは権利濫用と評価されるべきであると主張する。しかしながら,本件で問題となっているのは,代表資格のない者が提訴等に及んだことによって,相手方となった原告が本案判断を得ることもなく弁護士費用を費やすなどした点であるから,代表権の欠缺について悪意又は重過失が認められる限り,提訴が著しく相当性を欠くとの評価は妨げられないのであって,前訴請求が本案の問題として理由があったか否か,保全の必要性があったか否かといった点は,争点1の判断に影響するものではない。そして,前訴提起等に違法性があるとの前提に立った場合,損害を受けた原告がその回復を図ることに法的な問題があるとはいえず,他方,少なくとも論理的には,前訴の本案で問題とされていた争点に関する訴外会社としての権利回復が,適法に選任された代表者の下で行われる余地が否定されるものでもないのだから,前訴提起等が任務懈怠に当たるとの前提があるにもかかわらず,本訴請求が信義則違反又は権利濫用に当たるという余地はない。
さらに,被告は,前訴判決で却下判決を受けたことで前訴提起等が任務懈怠に当たるとされるのでは,およそ却下判決等を受けたもの全てが不当提訴といわれることとなり,訴訟提起に対して著しい萎縮効果が生じるなどとも述べる。しかしながら,前述の説示から明らかなとおり,当裁判所の判断は,単に前訴判決の結論あるいはその既判力のみを基礎としているのではなく,被告は代表権の欠缺につき容易に認識し得たとの個別具体的な事実認定を基礎としているのであるから,萎縮効果が生じるなどとの被告の指摘は,前提を異にするものといわざるを得ない。
3 争点2について
前記第2の1(4)のとおり,原告において,前訴に係る弁護士費用等として合計395万6580円を支出する必要が生じたことが認められるから,これは,前記2の任務懈怠による損害として認められる。被告は,原告としては仮差押命令に対する抗告審において代表権の欠缺を問題にすることができたなどと主張するところ,これは,その方が弁護士費用も訴訟に比べて安価に抑えられるということを前提とした主張であるとも解される。しかし,非訟手続において代表権の欠缺を主張したとしても,その点に関する判断に既判力が生じないから,訴訟の方が弁護士費用が高くかかるといった事情があるにしても,既判力を生じさせることができる訴訟手続による解決を選択することは合理的である。したがって,被告の主張する事情によって,相当因果関係が否定されるなどするものではなく,被告の主張は上記判断を左右しない。
このほか,原告は,営業上の損害が少なくとも300万円生じたと主張するが,預金口座の仮差押によって具体的にどのような営業上の損害が生じたかにつき,十分な主張立証がされたとはいえないから,営業上の損害に関する原告の主張は採用できない。
4 以上に述べたとおり,原告の請求は395万6580円及びこれに対する任務懈怠行為の日である平成26年9月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから,原告の請求を上記の限度で一部認容することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第43部
(裁判官 佐藤政達)
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