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判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(277)平成21年 3月16日 東京地裁 平20(ワ)3228号 損害賠償請求事件

判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(277)平成21年 3月16日 東京地裁 平20(ワ)3228号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成21年 3月16日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(ワ)3228号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2009WLJPCA03168002

要旨
◆Xは、セクハラの加害者としてYから訴訟を提起されたが、セクハラはなかったとして勝訴判決を受けたところ、XがYに対し、前訴の提起は不法行為にあたるとして損害賠償を求めた事案において、Yは、Xによるセクハラが虚偽であることを知りながら、会社からXを退職せしめ、かつ、Xに社会的な非難を受けさせる目的をもって前訴を提起しており、これはXに対する違法な不法行為にあたるとして、請求を一部認容した事例

参照条文
民法709条

裁判年月日  平成21年 3月16日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(ワ)3228号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2009WLJPCA03168002

東京都江東区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 谷雅文
千葉市〈以下省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 渥美三奈子
同 酒井由美子

 

 

主文

1  被告は原告に対し,140万2500円及びこれに対する平成18年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の請求を棄却する。
3  訴訟費用はこれを7分し,その5を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

 

事実及び理由

第1  請求
被告は原告に対し,500万円及びこれに対する平成18年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,いわゆるセクシャルハラスメントの加害者として被告から損害賠償請求訴訟を提起され,勝訴の確定判決を受けた原告が被告に対し,当該訴訟の提起が違法な不法行為であるとして損害賠償を求めた事案である。
1  前提事実(当事者間に争いのない事実並びに末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  当事者
原告は,昭和○年○月○日生まれであり,平成4年4月a株式会社(本件会社)に入社してゲームソフトウェア開発に従事しており,平成15年9月ころから同17年5月ころまでの間は,執行役員兼ゲームソフト開発部門の部長を務めていた。その後,平成20年7月1日本件会社を辞職し,現在は自営業を営んでいる。(甲2,3,16)
被告は,昭和○年○月○日生まれであり,平成11年4月本件会社に入社して,主として広報業務を担当しており,平成15年8月に社内結婚し,平成18年9月に退職した。平成15年9月ころから同17年5月ころまでの間は,販売事業部プロモーション課(平成18年2月から組織改編によりプロモーション推進部に昇格)に所属していた。(甲2,3,乙2)
(2)  前訴の提起
被告は,平成18年9月11日東京地方裁判所に対し,原告と本件会社を相手方とする損害賠償請求訴訟(前訴)を提起した(同裁判所平成18年(ワ)第20112号)。この訴訟は,被告が,本件会社に勤務中の平成15年9月から同17年5月までの間,原告から,下記のとおり,合計6回にわたり職務上の立場を利用した被告の意に添わない性的行為を強要され,被告の就業環境を害されたと主張して(いわゆるセクシャルハラスメント),原告に対し不法行為に基づき,本件会社に対し使用者責任に基づき,連帯して1000万円の慰謝料と遅延損害金の支払を求めたものである。(甲1,2)
ア 第1行為
平成15年9月9日,本件会社の広報活動の一環として他社との会食が行われ,その後,日付が変わった午前2時過ぎころ,原告と被告は,帰宅するため2人でタクシーに乗車し,原告は後部座席の右側に座り,被告はその左側に座った。車内において原告は被告に対し,「お前結婚したんだよなあ」などと話しかけた後,「俺はおまえが好きなんだよ」と言いながら,突然,両手を被告の体に回して抱きつき,右手で被告の左顎部分を押さえ,無理矢理被告の顔を上向きにし,自らの顔を強引に近づけてキスをした。さらに原告は,被告の体を押さえ付け,胸や腕などを触り,被告が身動きできない状態にして,強引に被告の口の中に自分の舌を入れた。被告は,「駄目です,やめてください」と言い,右手で原告の左肩を押すなどして抵抗して原告の体を引き離したが,それまでの間,原告は,被告の体を押さえ付けた状態で,執拗に被告に対しキスをし続けた。
その後,原告の自宅付近である錦糸町駅でタクシーが停車したため,降車ドア側に座っていた被告は,奥に座っていた原告を降ろし,自分は再びタクシーに乗って帰るつもりで,いったんタクシーから降りたが,原告は,料金を支払って降車し,そのままタクシーを帰してしまった。そして,原告は,突然被告の手首をつかみ,「行こう」,「いいから来い」と言って,被告を引っ張った。被告は,原告が自分をホテルへ連れて行こうとしていることを悟り,「家に帰らなきゃいけないんです」と抵抗したが,原告は,なおも被告の手を引っ張り,被告をホテルへ連れて行こうとし,抵抗する被告の手首を握ったまま,被告と二,三〇分間,押し問答を続けた。最終的に,被告が泣きながら何度も「家へ帰らせてください」と訴えたため,原告は,被告をホテルに連れて行くことを諦めた。
イ 第2行為
平成15年9月12日,本件会社の麹町オフィス(麹町オフィス)内のプレゼンルームにおいて行われた原告に対する雑誌社の取材後,原告と被告は,今後の宣伝活動に関する打ち合わせを行った。この打ち合わせが終わると,原告は,突然席から立ち上がり,部屋の鍵を掛け,被告が座っていたソファに座り,被告に抱きつき,被告の顔を左手で押さえ付け,キスをしてきた。被告が顔を下に向け,大きな声を出そうとすると,原告は,「しっ!静かにしなさい!」と命令し,被告にキスをしようと左手で被告の顔を押さえ,右手で被告が逃げられないように被告の体を押さえながら,胸,腰及び腕など,被告の体中を触り続けた。最終的に,被告が顔を背け,何度も「やめてください」と言って抵抗したため,原告はそれ以上の行為を諦めた。
ウ 第3行為
平成15年12月2日,麹町オフィス内のプレゼンルームにおいて行われた原告に対する雑誌社の取材後,原告と被告は打ち合わせを行った。この打ち合わせが終わると,原告は,部屋の鍵を掛け,被告の隣に座った。原告からキスを迫られたりすると思った被告が咄嗟に原告に背中を向けると,原告は,被告の背後から抱きつき,被告の胸を触り,制服のブラウスの胸元から手を入れようとしたが,ボタンが一番上で留まっていたため,手が入らなかった。すると,原告は,被告の体を無理矢理引き寄せ,膝の上に被告を座らせた。被告は,原告の手を振りほどき,「やめてください」と言って抵抗したが,原告は被告を抱き寄せた手を離さなかった。最終的に,被告が繰り返し抵抗したため,原告はそれ以上の行為を諦めた。
エ 第4行為
平成16年1月14日,麹町オフィス内のプレゼンルームにおいて行われた原告に対する雑誌社の取材後,原告と被告は打ち合わせを行った。このときも原告は,部屋の鍵を掛け,被告に近づき,手を伸ばして被告の体に触れようとした。これに対し,被告が拒否の姿勢を見せるため立ち上がったため,原告はそれ以上の行為を諦めた。
オ 第5行為
平成16年2月6日,被告は,本件会社九段本社で残業し,日付が変わり,原告と2人でタクシーで帰宅することになった。タクシーが発車してから少し時間が経過したとき,原告が被告に手を伸ばしてきたため,被告は,咄嗟に原告に背中を向けた。すると,原告は,被告の背後から,右手で被告の肩や腰を触りながら体を押さえ,左手の指を被告の口の中に入れようとしてきた。これに対し,被告が,顔を右へ背け,唇をぎゅっと閉じて歯を食いしばり,拒否の姿勢を示したため,原告はそれ以上の行為を諦めた。
カ 第6行為
被告は,平成17年5月18日に米国ロサンゼルスにおいて開催された,原告が開発したゲームソフトに関連するイベントに,原告らとともに合計3名で出席した。イベント終了後,被告は原告に対し,日本の出版社からメールで送られてきた原稿を原告に確認してもらう必要があることを伝えた。日本からパソコンを持ってきたのが被告のみであったので,被告は,原告に対し,パソコンをホテルのロビーに持ってくると述べた。すると,原告は,「大した量じゃないだろ?ささっと見ちゃうからいいよ」と述べ,ホテルの被告の部屋に入ろうとした。被告は,原告を部屋に入れることを躊躇したが,あまり強く断ると原告の機嫌を損ねると思い,断り切れずに原告を部屋に入れた。被告は,部屋に入ると直ちにパソコンを立ち上げ,原告に対し,日本から送られてきた原稿を見せると,原告は,原稿に目を通し,これでよい旨述べた。そこで,被告は,自らも原稿をチェックするため,パソコンに向かい,原稿に目を通し始めた。すると,被告の後方に座っていた原告が,被告の背後から相当な勢いで被告に抱きついて原告の方に引き寄せ,被告の胸を揉み,胸元から手を服の中に入れてきた。被告は,原告に後方から引き寄せられたため,バランスを崩して後方に倒れた。原告は,さらに被告の服の中に手を入れようとした。これに対し,被告が,倒れながらも抵抗し,原告の手を振り払ったため,原告は,それ以上の行為を諦め,部屋を出て行った。
(3)  前訴の経過
第1審裁判所は,平成19年12月5日被告の原告及び本件会社に対する前訴請求をいずれも棄却する旨の判決をした。(甲2)
これに対し,被告は,控訴を提起した(東京高等裁判所平成20年(ネ)第333号)が,控訴審裁判所は,平成20年5月22日被告の原告及び本件会社に対する控訴をいずれも棄却する旨の判決をした。この判決は,上告期間の経過により確定した。(甲3,弁論の全趣旨)
ア 前訴における争点
前訴で被告は,原告が被告に対し,第1ないし第6行為(本件行為)を行ったとした上で,本件行為は,いずれも被告の意思に反するものであり,本件行為が被告の意思に反することを認識しながら被告との支配従属関係を利用して本件行為を強要したものであると主張していた。そして,第1及び第2行為中,原告が被告にキスをしたことは当事者間に争いがなく,主な争点は,本件行為が被告主張のとおりの態様で行われたのかどうか,仮に,本件行為がそのとおりに行われたとしても,上記キス行為を含めてそれが被告の意思に反していたかどうかにあった。
イ 第1審判決の理由
第1審判決は,上記各争点につき要旨次のとおり判断した。(甲2)
すなわち,①原被告間に支配従属関係を認めることができないこと,②被告が第三者に対し,本件行為による被害(セクハラ被害)を相談したとの被告主張事実が認められないこと,③被告が本件会社に対し,セクハラ被害を訴えた経緯が不自然であり,被告が主張する本件行為と被告の体調不良及び退職との関係が認められないこと,④被告の本件会社に対するセクハラ被害の申告の内容が不自然であること等を総合すれば,被告が原告から本件行為を受けた旨の被告の供述を信用することができず,他に被告が主張するとおりの本件行為があったと認めるに足りる証拠はない。
他方,原告は,第1及び第2行為について被告にキスをしたことを認め,本件会社が事情聴取をするようになった当初から,第1行為については,タクシーの中で被告とキスをし,タクシーを降りた後,被告の手を引いてホテルに誘ったこと,第2ないし第4行為については,麹町オフィス内のプレゼンルームにおいてキスをしたことがあることを供述している。そうすると,原告と被告との間では,原告の供述する限度での行為があったと認定するほかない。
そして,被告が原告の好意を認識した上で自分の仕事をうまく進めようとしていたことなど被告と原告との関係や,原告は被告が拒否する行為を行わず,被告がこれを拒否したことで,被告の職務上,原告から不当な扱いを受けたことはなかったことに照らし,原告が供述するキス行為等が,被告の意思に反するものであったとまではいうことはできない。
したがって,前記キス行為等がセクシャルハラスメント(セクハラ)に当たるということはできず,被告の原告に対する前訴請求は理由がない。また,原告の不法行為責任が認められない以上,本件会社の使用者責任も生じないから,被告の本件会社に対する前訴請求も理由がない。
ウ 控訴審判決の理由
控訴審判決も,第1審判決の理由をほぼそのとおり引用した上で被告の原告及び本件会社に対する前訴請求をいずれも棄却すべきものと判断し,要旨,次のとおりの理由を付加した。(甲3)
すなわち,仮に,被告主張の本件行為が外形的に存在したとしても,前記キス行為等と同様,すべて被告の意思に反するものではなかったと認めるのが相当である。この点,被告は,原告に恋愛感情を抱いていなかったのであるから恋愛感情がないのに本件行為に同意することはあり得ないとの主張をする。しかし,被告は,少なくとも平成18年2月の本件会社の組織改編以前は,本件会社の広報業務を事実上一手に仕切って行ってきたものであり(直属の上司は当時被告と不倫関係にあるAであった),本件会社の広報は自分が作り上げたとの自負心と誇りを持って仕事をしていたというものであるところ,広報業務において特に重要な協同関係にあり,かつ本件会社において重要な地位(執行役員兼Team NINJA部長)を占めているクリエイターである原告の自己に対する好意をまんざらではないものとして受け止め,原告とは一線を越さないものの(被告にとっての恋愛対象者はAである),原告の自己に対する好意を利用して広報の仕事をうまく進め,ひいては本件会社における自己の評価を高め,活躍の範囲をさらに拡げようとする意識が働いていたと認められるのであって,このような動機で,原告から求められた性的な行為に同意することは,たとえ原告に対する恋愛感情がなかったとしても,本件に表れた諸事情,特に仕事に関しても恋愛に関しても「のめり込む」被告の性格や,社内における男女関係のモラルが低下していた当時の本件会社の雰囲気にかんがみれば,特段不自然なものではないというべきである。
2  当事者の主張
(1)  原告の主張
ア 前訴で被告が請求原因として主張した本件行為は,いずれも被告により積極的にねつ造された虚偽の事実である。
すなわち,被告は,本件行為が行われたと主張する時点で,セクハラの意味内容を十分に理解していたのであるから,仮に,本件行為が実在し,これらがセクハラに該当するというのであれば,その被害にあったことを直ちに夫や上司に相談するはずであるのにこれをせず,その後,かなりの時間が経過してからセクハラ被害にあったと言い出し,スキャンダル性を付加するために過大な創作(暴力的な部分)を加えて前訴を提起したのであるから,被告主張の本件行為が虚偽の事実であることは明らかである。
そして,前訴の第1審判決では,本件行為が存在したとは認められず,原告が供述するキス行為等はいずれも被告の同意があったと認められた。また,控訴審判決でも,仮に本件行為が外形的に存在したとしても,前記キス行為等と同様,すべて被告の意思に反するものではないと認められた。
イ 被告は,本件行為が虚偽の事実であることを知りながら,本件会社より原告を退職せしめ,かつ原告に社会的な非難を受けさせるために,あえて前訴を提起した。
すなわち,被告は,前訴の提起に先立ち,本件会社に対し,本件行為を申告し,原告を退職させるよう求めたが,本件会社がこれに応じないため,前訴を提起した。そして,前訴においても,本件行為を真実と認めこれを本件会社内部で公表するように要求していた。さらに,株式会社産業経済新聞社(サンケイ新聞社)の記者に対し,本件行為を申述し(その取材は,前訴の提起前に行われた),それが真実であると誤信させ,日刊紙「夕刊c」にその記事を掲載させた。加えて,本件会社の取引先関係者に対し,本件行為を申述した上,本件会社の製品に関する記事を掲載しないように働きかけた。このような経緯からすれば,被告は,前訴を提起することで,本件会社に損害を与え,原告を社内で不利な立場に追い込んで退職させ,かつ原告に社会的な非難を受けさせる目的を持っていたと認められる。
ウ 原告は,前訴の提起により応訴を余儀なくされて,精神的経済的損害を被った。その損害額は,慰謝料300万円,弁護士費用200万円の合計500万円である。
エ よって,原告は被告に対し,不法行為に基づき損害金合計500万円とこれに対する平成18年9月11日(前訴提起日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2)  被告の主張
ア 被告は,本件行為がいずれも存在し,被告の意思に反するものであると認識して前訴を提起したのであり,その認識は現在も変わらない。
しかし,訴訟構造が立証責任を根幹として成り立っており,前訴では,本件行為がセクハラであるとの立証責任が被告にあったため,結果として被告の主張どおり認定されなかったに過ぎない。このように被告の主張がそのとおり認められなかったとしても,これにより直ちに虚偽の事実にはならない。したがって,前訴の判決を根拠に,被告の同意があったから,被告の主張が虚偽であり不当であるとする論理はそもそも理由がない。
イ 原告は,前訴で勝訴したとの事実だけで,新たな主張や証拠もないのに,前訴の提起が不当訴訟であるとして本訴を提起したものである。本訴では,不当訴訟の要件該当性が全く立証されていない。
すなわち,被告は,平成15年12月ないし同16年1月ころ及び第5行為の直後に,上司であるAに対し本件行為を相談し,平成17年1月ころには,クリエイティブ事業部長のBにも相談していた。また,平成16年ころ,友人であるCにも原告のことを相談していた。なお,被告は,本件行為について夫には相談していないが,これは,もし夫に相談すれば,仕事を辞めるよう説得されるため,仕事を辞めたくない気持ちから相談しなかっただけである。
そもそも訴訟を提起することは,被告にとって多大な経済的,精神的な負担を伴うものであり,原告主張の目的でもって,前訴を提起することはあり得ない。実際にも,被告は,前訴の提起に先立って,社内での適正な調査に基づく処分を求めた。しかし,この調査は,中立性に欠けており,顧問弁護士による調査も,原告の言い分についての真偽を確認する質問が行われるだけであった。被告は,このような調査手法とそれに基づく結果及び処分に納得できず,やむを得ず前訴を提起したのであって,その和解交渉では,金銭支払を求めるよりも原告からの謝罪を強く求めていた。
夕刊cへの掲載については,被告が,サンケイ新聞社の記者の取材に応じ,同社が独自の判断で記事として掲載しただけであり,原告を退職に追い込むために働きかけたものではない。また,夕刊cの記事自体も,前訴の存在を中立的に報道したものであり,原告に不利益な内容ではない。
被告は,本件会社の取引先関係者に対し本件会社の製品に関する記事を掲載しないよう働きかけたこともない。
ウ 仮に,前訴の提起が不当訴訟に該当するとしても,原告主張の損害は,いずれも認められない。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前提事実(第2の1)に,証拠(甲1ないし8,16,17,乙2ないし4,原告・被告本人)(後記採用しない部分を除く)及び弁論の全趣旨を併せると,次のとおりの事実が認められる。
(1)  原告は,平成4年4月に本件会社に入社して,ゲームソフトウェア開発に従事しており,平成15年9月ころから同17年5月ころまでの間は,執行役員(遅くとも平成16年6月ころ以降は,常務執行役員)兼ゲームソフト開発部門(Team NINJA部)の部長を務めていた。
原告は,国内外で一定の評価を受け,人気のゲームソフト「b」(略称b1)シリーズの開発責任者であり,ゲームソフトの開発担当者として本件会社内で高い評価を受けていた。
原告は,妻子ある身ではあったが,被告主張の第1行為(平成15年9月9日)以前から被告に好意を寄せており,被告もそのことを認識していたのであり,本件会社内でも被告は原告のお気に入りとみられていた。
(2)  被告は,平成11年4月に本件会社に入社し,平成15年9月ころから同17年5月ころまでの間,販売事業部プロモーション課に所属し,主として広報を担当する一般社員(遅くとも平成17年4月以降は係長)であった。被告の職務内容は,本件会社製品のマスコミへのPR,本件会社内のソフト開発者などに対するマスコミ取材のセッティング,取材への立会い,記事のチェックなどが主なものであった。
被告は,平成15年8月31日に本件会社の社員Dと婚姻し,同17年12月20日に離婚した。他方,被告は,平成15年ころから同18年1月ころまでの間,本件会社の販売事業部プロモーション課の課長であり,妻子のあるAと,不倫関係にあった。
そして,被告は,平成18年2月下旬ころから同年6月末までの間,出勤義務日数の約3分の1を欠勤し,同年7月10日心療内科を受診して,適応障害と診断された。その後,被告は,同年9月7日に本件会社を退職した。
(3)  被告は,平成18年6月30日に,本件会社のクリエイティブ事業部長であるB及び人事部長であるEに対し,原告によるセクハラ被害を申告した(それより前に被告が夫や上司に対し,上記セクハラ被害を相談したことはない。)。その際,被告は,原告からタクシーの中でキスをされたり,原告が何度かプレゼンルームの鍵を掛けて被告にキスを迫ったと述べた。このほかに被告とAとが不倫関係にあったこと等も申告した。
本件会社は,平成18年7月4日には,原告及びAら関係者より事情を聴取するなどして社内調査を行った。被告は,翌5日Eに対し,原告らが本件会社にいられなくしてほしいと話しており,同月7日ころには上記セクハラ被害の申告についてそれが恋愛であったと原告が反論していることを,Eから聞いた。その後,同月18日及び26日には,本件会社の顧問弁護士であるFによる事情聴取が行われた。同月18日の事情聴取の際,被告は,平成15年9月に,宴会の二次会の帰りに原告から抱きしめられ,体を触られたこと,同月か10月から合計4回,麹町オフィス内のプレゼンルームでキスを求められ,1回はキスをさせたが,ペッティング等の行為はなかったことを話しており,それ以外のことには言及していなかった。
(4)  本件会社は,平成18年8月1日上記調査の結果として,被告が申告する原告のセクハラは認定できないとの結論に達し,Eがこれを被告に伝えた。この際,被告は,これを聞いてもなお原告を辞めさせるよう,あるいは他の職場に異動させるよう示唆していた。
また,本件会社は,平成18年8月4日,社内の混乱を招き業務に支障を来したことを理由として,原告について常務執行役員から執行役員へ降格し,Aについてもプロモーション推進部長から同次長へ降格し,1年間2回の賞与を半減するとの処分をした。
(5)  被告は,平成18年9月7日本件会社を退職し,その直後の同月11日に前訴を提起した。
サンケイ新聞社は,平成18年11月8日に,夕刊c同日号紙面上に「○○○」との大見出しを付した記事を掲載,発行した。この記事は,被告がサンケイ新聞社の取材に応じて,その情報を提供したものであった。
以上の事実が認められ,被告本人の供述(乙2ないし4を含む)中には上記認定に相反する部分もあるが,この部分は,前掲各証拠に照らして採用できず,このほかに上記認定を覆すに足りる的確な証拠は存在しない。
2  前記認定事実に前提事実を併せると,被告は,前訴で本件行為が行われたと主張する時点で,セクハラの意味内容を理解していたこと(被告本人),仮に,被告主張の本件行為が行われ,それがセクハラに当たると認識したのであれば,その被害にあったことを直ちに夫や上司等に相談するはずであるのにこれをせず,その後,被告主張の第6行為(平成17年5月18日)から約1年1か月以上も経過した平成18年6月30日になってから,本件会社に対し,原告によるセクハラ被害の申告を行ったこと,その申告内容も被告主張の第1ないし第4行為とは原告の行為態様や時期が異なり,第5及び第6行為については,全く言及されていなかったこと,そして,本件会社による調査の結果として,被告が申告する原告のセクハラが認定されないとの結論が示されると,被告は,本件会社を退職し,本件行為による被害を受けたとして前訴を提起したことが認められ,加えて,前訴の確定判決によれば,本件行為が被告主張のとおりの態様で行われたとは認められず,仮に,本件行為が外形的に存在したとしても,すべて被告の意思に反するものではないと判断されたことが認められ,以上によれば,被告主張の本件行為は,少なくとも前訴の確定判決で,原告が自認し,かつ供述する限度で存在したと認定されたものを除き,被告により作り出された虚偽の事実であったと認めるほかない。
そして,前記認定のとおり被告は,前訴の提起に先立ち,本件会社に対し,原告によるセクハラ被害の申告をして,本件会社より原告を退職させるように求めたこと,しかし,本件会社は,社内調査の結果に基づき原告のセクハラが認定されないとして原告を降格処分等にしただけで,退職させなかったこと,その後,被告は,本件会社を退職して前訴を提起したが,前訴の提起に際し,サンケイ新聞社の取材に応じて,被告主張の本件行為につきその情報を提供していたことが認められ,以上によれば,被告は,本件行為(前訴の確定判決で認定されたものを除く)が虚偽の事実であることを知りながら,本件会社より原告を退職せしめ,かつ原告に社会的な非難を受けさせる目的をもって前訴を提起したと認めるのが相当である。
以上のとおりであるから,被告による前訴の提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠いたものと認めるのが相当であって,原告に対する違法な不法行為であるというべきである。
3  原告は,前訴の提起により応訴を余儀なくされ,しかも被告よりセクハラの加害者であると主張され,前訴係属中に相当の精神的苦痛を被ったと認められ,このほかに前記認定のとおりの前訴に至った経緯なども斟酌すれば,上記不法行為により被告が原告に対して賠償すべき慰謝料は,30万円が相当である。
また,証拠(甲12ないし15,原告本人)によれば,前訴において原告は,被告から慰謝料1000万円を請求されたのでこれに応訴するため原告訴訟代理人弁護士谷雅文と訴訟委任契約を締結し,第1審の着手金57万7500円,控訴審の着手金52万5000円の合計110万2500円を支払い,かつ,本訴を提起するために着手金31万5000円を支払い,成功報酬70万円を支払うことを約束したことが認められる。このほかに前記認定のとおりの前訴及び本訴の経過等にかんがみれば,原告が負担する弁護士費用のうち,被告の上記不法行為と相当因果関係が認められ,かつ被告に負担させるべき金額は,110万2500円とするのが相当である。
以上によれば,原告の損害額は,慰謝料30万円,弁護士費用110万2500円の合計140万2500円となる。
第4  結論
よって,本訴請求は,不法行為に基づき損害金合計140万2500円及びこれに対する前訴の提起日である平成18年9月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 髙橋伸幸)

 

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