「営業支援」に関する裁判例(87)平成23年 7月26日 東京地裁 平22(ワ)19313号 不当利得返還請求事件
「営業支援」に関する裁判例(87)平成23年 7月26日 東京地裁 平22(ワ)19313号 不当利得返還請求事件
裁判年月日 平成23年 7月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)19313号
事件名 不当利得返還請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2011WLJPCA07268009
要旨
◆被告が、訴外会社に対し、1億円を貸し付け、貸付契約の返済及び業務委託契約の報酬名下に弁済を受けたところ、これを利息制限法により引き直すと、過払金が発生したとして、訴外会社から上記過払金返還請求債権を譲り受けたと主張する原告が、被告に対し、不当利得に基づき、過払金の支払を求めた事案において、本件業務委託契約は本件貸付契約について制限利率を超過する利息を徴収するために締結されたものであり、虚偽表示によるものであるとの原告の主張を排斥し、訴外会社の被告に対する本件支払は、本件貸付契約の弁済としてされたものではなく、本件業務委託契約の報酬としてされたものであるとして、請求を棄却した事例
参照条文
民法94条
民法703条
裁判年月日 平成23年 7月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)19313号
事件名 不当利得返還請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2011WLJPCA07268009
東京都新宿区〈以下省略〉
原告 有限会社マックスコーポレーション
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 山田一郎
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 株式会社保険ステーション
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 松坂祐輔
同 桑島良太郎
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1206万1953円及びこれに対する平成20年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,①被告(旧商号株式会社FISソリューションズ)が,株式会社ニュートラル(以下「ニュートラル」という。)に対し,別紙計算書のとおり,1億円を貸し付け,貸付契約の返済及び業務委託契約の報酬名下に弁済を受けたところ,これを利息制限法所定の制限利率(以下「制限利率」という。)を超過する利率の利息として支払われた部分を元本に充当すると,過払金が発生した,②原告が,ニュートラルから,上記過払金返還請求債権を譲り受けたとして,原告が,被告に対し,不当利得に基づき,過払金1206万1953円及びこれに対する最終弁済日の翌日である平成20年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実,証拠〔甲1,甲2〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) ニュートラルと被告は,保険代理店経営等を営む会社である。
(2)ア ニュートラルと被告は,平成20年8月5日付けで,要旨,次の記載のある業務委託契約書(甲2,以下「本件業務委託契約書」という。)を取り交わして,業務委託契約を締結した(以下「本件業務委託契約」という。)。
委託内容 被告が,ニュートラルに保険代理店経営のサポートを行う。
期間 平成20年8月5日から同年10月31日
報酬 平成20年9月5日,同年9月30日及び同年10月31日限り,400万円ずつを支払う。
イ ニュートラルは,被告に対し,平成20年9月5日,同年9月30日及び同年10月31日限り,400万円ずつを支払った(以下「本件支払」という。)。
(3)ア 被告は,平成20年9月8日付けで,ニュートラルに対し,次の約定で1億円を貸し付けた(以下「本件貸付契約」という。)。
利息 平成20年9月8日,同年9月30日及び同年10月31日限り,100万円ずつ支払う。
元金 同年11月26日限り,1億円を支払う。
イ ニュートラルは,被告に対し,上記借入債務につき,平成20年9月8日,同年9月30日,同年10月31日に100万円ずつを支払い,同年11月26日,1億円を支払った。なお,上記合計1億0300万円の支払のみでは過払金は発生しない。
(4) ニュートラルは,平成22年5月13日,被告に対し,本件貸付契約に係る過払金返還請求債権を譲渡した旨の通知をした。
2 争点
(1) 本件業務委託契約が通謀虚偽表示によるものか否かー本件支払が本件貸付契約についてのものか否か
(2) ニュートラルと原告間の債権譲渡の有無
(3) 被告が悪意の受益者に該当するか否か
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件業務委託契約が通謀虚偽表示によるものか否かー本件支払が本件貸付契約についてのものか否か)について
〔原告の主張〕
本件業務委託契約は,本件貸付契約について,制限利率を超過する利率の利息を徴求するために締結されたものであり,通謀虚偽表示によるものである。
したがって,本件支払は,本件貸付契約についてのものである。
〔被告の主張〕
原告の主張は否認する。
(2) 争点(2)(ニュートラルと原告間の債権譲渡の有無)について
〔原告の主張〕
原告は,平成22年3月30日,ニュートラルに対し,返済期日を平成22年4月26日として2500万円を貸し付けた。
ニュートラルは,返済期日に2500万円を返済することができず,被告から短期の高利による資金調達をしていたことが判明した。
そこで,原告は,ニュートラルから,被告に対する過払金返還請求債権の譲渡を受けた。
〔被告の主張〕
原告の主張は否認する。
2500万円の授受を裏付ける証拠はないから,原告が主張する債権譲渡は実体を伴わないものである。
(3) 争点(3)(被告が悪意の受益者に該当するか否か)について
〔原告の主張〕
被告は,ニュートラルから,本件業務委託契約の報酬名下に制限利率を超過する利率の利息を受領したから,悪意の受益者に該当する。
〔被告の主張〕
原告の主張は否認する。
第3 当裁判所の判断
1 前提事実,証拠(甲10,乙1ないし乙18,証人C,被告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(1) ニュートラルは,平成20年8月当時,資金繰りに窮していた。
(2) ニュートラルは,保険代理店経営の業務についてIT化を進めていたが,完成に至らずにいた。
被告は,ニュートラルに対し,保険代理店経営の業務のIT化を提案した。
(3) ニュートラルと被告は,平成20年8月5日付けで,本件業務委託契約書を取り交わして,被告がニュートラルに保険代理店経営のサポートを行う旨の本件業務委託契約を締結した。
(4) ニュートラルは,被告に対し,本件業務委託契約に基づき,平成20年9月5日,同年9月30日及び同年10月31日限り,400万円ずつを支払った(本件支払)。
(5) 被告は,平成20年9月8日,ニュートラルに対し,1億円を貸し付けた(本件貸付契約)。
ニュートラルは,被告に対し,本件貸付契約に基づき,利息として,平成20年9月8日,同年9月30日及び同年10月31日に100万円ずつを支払い,元金として同年11月26日に1億円を支払った。
(6) 被告は,平成22年2月初旬から,ニュートラルに①代理人や募集人の営業支援・顧客管理のため,CSBシステムの導入作業を開始し,②募集人への支払手数料計算と振込手続のため,「ふりわけ君」システムの導入作業を開始した。
(7) ニュートラルは,平成22年4月ころ,営業を停止し事実上倒産した。
2 争点(1)(本件業務委託契約が通謀虚偽表示によるものか否かー本件支払が本件貸付契約についてのものか否か)について
ニュートラル代表者のC(以下「C」という。)は,陳述書(甲10)において,被告代表者のBから,①1億円を月500万円の利息で融資する,ただし,②1か月500万円の利息とすると利息制限法に違反するので,融資期間中,ニュートラルと被告が業務委託契約を締結し,利息1か月500万円のうち400万円は業務委託料として支払う,③1億円の融資の前に400万円を前払いしてもらう,といった条件を提示されてこれを承諾し,平成20年9月5日,前払利息として400万円を支払い,同年9月8日,利息残100万円を差し引かれた9900万円の融資を受けた旨供述する。
しかしながら,Cは,尋問において,本件業務委託契約締結の経緯について,本件業務委託契約と本件貸付契約の締結日が同一日であったというものの,本件業務委託契約書の作成日付けである平成20年8月5日であるか,本件貸付契約に係る契約書の作成日付けである同年9月4日であるか明確ではないなどとあいまいな供述に終始している上,Cの上記供述を裏付ける具体的な証拠はない。
被告代表者のBは,尋問及び陳述書(乙16,乙18)において,本件業務委託契約に基づき,ニュートラルに経営上の支援助言をしていた,ニュートラルの担当者が度々替わるなどしたため,CSBシステムや「ふりわけ君」システムの導入作業が平成22年2月初旬となった旨供述するところ,上記認定のとおり,被告が,同年2月初旬から,ニュートラルに,代理人や募集人の営業支援・顧客管理のため,CSBシステムの導入作業を開始し,募集人への支払手数料計算と振込手続のため,「ふりわけ君」システムの導入作業を開始したことから,直ちにBの上記供述の信用性を否定することはできない。
したがって,Cの上記供述は採用することができない。
この他に本件業務委託契約が通謀虚偽表示によるものであることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件支払が本件貸付契約についてされたものということはできない。
第4 以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 矢作泰幸)
〈以下省略〉
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