「営業コンサルタント」に関する裁判例(2)令和元年 5月10日 千葉地裁 平30(わ)1100号 各出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反被告事件
「営業コンサルタント」に関する裁判例(2)令和元年 5月10日 千葉地裁 平30(わ)1100号 各出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反被告事件
裁判年月日 令和元年 5月10日 裁判所名 千葉地裁 裁判区分 判決
事件番号 平30(わ)1100号
事件名 各出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反被告事件
文献番号 2019WLJPCA05106004
裁判年月日 令和元年 5月10日 裁判所名 千葉地裁 裁判区分 判決
事件番号 平30(わ)1100号
事件名 各出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反被告事件
文献番号 2019WLJPCA05106004
上記3名に対する各出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官重本みき並びに被告人AことY1の国選弁護人鳩貝滋,被告人Y2の国選弁護人中尾勝彦及び被告人Y3の私選弁護人坪内清久各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
被告人AことY1を懲役2年6月及び罰金300万円に,被告人Y2を懲役2年及び罰金200万円に,被告人Y3を懲役1年及び罰金100万円に処する。
被告人AことY1に対し,未決勾留日数中70日をその懲役刑に算入する。
被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは,それぞれ金1万円を1日に換算した期間,その被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から,被告人Y2に対し4年間,被告人Y3に対し3年間,それぞれその懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用のうち,証人Bに関する分は被告人らの連帯負担とし,被告人AことY1の国選弁護人に関する分は被告人AことY1の負担とし,被告人Y2の国選弁護人に関する分は被告人Y2の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人AことY1(以下「被告人Y1」という。)は,別表1記載のとおり,分離前相被告人C(以下「分離前相被告人C」という。)らと共謀の上,法定の除外事由がないのに,平成20年4月頃から平成29年9月26日までの間,211回にわたり,不特定かつ多数の相手方であるDほか116名から,京都府内等において現金交付させる方法,又は,りそな銀行弘明寺支店に開設されたA名義の普通預金口座に振込送金させる方法等により,元本額及び所定の利息を支払うことを約して,現金合計9億6383万414円を受け入れ,
第2 被告人Y2(以下「被告人Y2」という。)は,被告人Y1及び分離前相被告人Cと共謀の上,法定の除外事由がないのに,別表2記載のとおり,平成25年1月18日から平成28年11月15日までの間,35回にわたり,不特定かつ多数の相手方であるE1ことEほか18名から,神奈川県内等において現金交付させる方法,又は,りそな銀行弘明寺支店に開設されたA名義の普通預金口座に振込送金させる方法等により,元本額及び所定の利息を支払うことを約して,現金合計2億2509万414円を受け入れ,
第3 被告人Y3(以下「被告人Y3」という。)は,被告人Y1及び分離前相被告人Cと共謀の上,法定の除外事由がないのに,別表3記載のとおり,平成21年8月11日から平成27年4月1日までの間,38回にわたり,不特定かつ多数の相手方であるFほか14名から,りそな銀行弘明寺支店に開設されたA名義の普通預金口座に振込送金させる方法等により,元本額及び所定の利息を支払うことを約して,現金合計5000万円を受け入れ,
もって業として預り金をしたものである。
(証拠の標目)〔甲乙に付記した数字は,証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の番号である。〕
判示事実全部について
被告人3名の当公判廷における各供述
第1回公判調書中の被告人3名の各供述部分
被告人Y1の検察官調書謄本(乙2ないし13。ただし被告人Y3につき,乙2の不同意部分を除く。)
被告人Y2の検察官調書謄本(乙18ないし23)
被告人Y3の検察官調書謄本(乙26ないし30)
分離前相被告人Cの検察官調書謄本(甲38ないし44,46,48ないし50)
Dの検察官調書謄本(甲4)
Gの検察官調書謄本(甲5,6)
Hの検察官調書謄本(甲8ないし11,13)
Bの検察官調書謄本(甲14,15)
Iの検察官調書謄本(甲17)
Jの検察官調書謄本(甲18)
Kの検察官調書謄本(甲19)
Lの検察官調書謄本(甲20)
Mの検察官調書謄本(甲21,22)
Nの検察官調書謄本(甲23,24)
Oの検察官調書謄本(甲25,26)
Pの検察官調書謄本(甲27)
Qの検察官調書謄本(甲28)
Rの検察官調書謄本(甲29)
捜査報告書謄本(甲1ないし3)
捜査関係事項照会書謄本(甲33,35)
捜査関係事項照会回答書謄本(甲34,36)
捜査報告書(甲51)
判示第1及び第3の事実について
捜査報告書謄本(甲32)
(法令の適用)
罰条
被告人Y1につき
判示第1別表1各番号の所為 包括して刑法60条,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律8条3項1号,2条1項
被告人Y2につき
判示第2別表2各番号の所為 包括して刑法60条,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律8条3項1号,2条1項
被告人Y3につき
判示第3別表3各番号の所為 包括して刑法60条,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律8条3項1号,2条1項
刑種の選択
被告人Y1につき
判示第1の罪 懲役刑及び罰金刑を選択
被告人Y2につき
判示第2の罪 懲役刑及び罰金刑を選択
被告人Y3につき
判示第3の罪 懲役刑及び罰金刑を選択
未決勾留日数の算入
被告人Y1につき 刑法21条
労役場留置
被告人3名につき いずれも刑法18条
刑の執行猶予
被告人Y2及び同Y3につき いずれも刑法25条1項
訴訟費用の処理
被告人3名につき いずれも刑訴法181条1項本文,182条(証人Bに関する分)
被告人Y1及び同Y2につき いずれも刑訴法181条1項本文(各国選弁護人に関する分)
(量刑の理由)
1 本件事案の内容及び犯行態様等
本件は,被告人らが,首謀者である被告人Y1が設立したa信用組合等○○グループの活動として,法定の除外事由がないのに,それぞれの判示各別表記載のとおり,共犯者らと共謀の上,長期かつ多数回にわたり,不特定多数の顧客らに対し,元本保証の上で高い利率を付けて返金するなどと言って預金等を募り,多額の現金を受け取って,業として預り金をしたという出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)違反の事案である。
その犯行態様は,インドネシア国内で正規に営業する金融機関を名乗り,同国内の不動産価格が高騰しているなどとして,①預金者には元本が保証される上,年利数%程度の高利息がつくという定期預金,②預けた金がインドネシア国内の不動産の購入に充てられ,払戻満期までにその不動産が売却できない場合でも元本が保証される上,不動産購入価格と売却価格との差額も配当されるので,一般の定期預金よりも高利率の配当を得られるとする,不動産投資での運用を目的とする定期預金,③①の定期預金と②の不動産投資での運用を目的とする定期預金を組み合わせた「ハイブリッド」の定期預金があるなどと宣伝・説明し,いずれも十分な担保を取った上で運用される安全な金融商品であるなどと謳い,時には見込み客をインドネシアまで視察旅行に招くなどして,多額の現金を預けさせたなどというものであって,可能な限りリスクを取らずに利殖をしたいとの顧客心理に巧みに付け込む悪質なものである。そして,被告人らは,長期にわたって友人知人を勧誘したり,a信用組合のホームページを通じて宣伝を行ったりして不特定多数の者から預り金を募り,犯行全体に関与した被告人Y1を見ると,起訴分だけでも9年半の間に110名超の顧客から合計9億6300万円を超える極めて多額の金銭を預かったのであり,本件犯行は,組織的かつ計画的に敢行された悪質なものである上,結果として,顧客の相当数が預けた金銭の返還を受けておらず,被告人Y1が認めるだけでも未返還金が数億円単位に上るというのであって,保護法益である一般大衆の財産への被害は甚大であり,社会の信用制度ないし経済秩序の根幹をなす預金業務に対する社会的影響も大きい犯行であったといえる。
以上を前提として,各被告人の責任について検討する。
2 被告人Y1について
被告人Y1は,a信用組合を含め○○グループ全体の実質的代表者であり,上記の金融商品による預り金のスキームを企画し,顧客への勧誘や預り金の管理等業務全般を統括,掌握しつつ,共犯者を含め他の従業員らに指示するなどして犯行を主導しており,本件において首謀者として最も重要な役割を果たしたものである。そして,被告人Y1は,許可を受けずに預り金をする行為が出資法に違反するかもしれないとして違法な行為である可能性を認識しながら,上記のとおり長期にわたり莫大な金額の預り金をする一方,杜撰な計画に基づき事業を行き詰らせ,満期を迎えた顧客に対しての返済資金に窮し,いわゆる自転車操業に陥った挙げ句,結果として,上記のとおり甚大な被害を生じさせたのであって,利欲目的から本件に及び,経営者としても誠に無責任かつ身勝手な考えに基づき被害を拡大させたという点で,その意思決定は厳しく非難されるべきである。
これらの犯情を前提に,被告人Y1が事実関係を認め,今後被害弁償をしていくと述べていること,顧客の一人が今後の経済支援や更生への協力を誓約し,他3名の顧客が被告人Y1に対し寛大な処分を希望していることに加え,同種前科がないことなど被告人Y1に有利な事情を十分に考慮しても,被告人Y1の刑事責任は他の被告人らと比べて格段に重く,刑の執行を猶予すべき事案とは認められないのであって,主文のとおり懲役刑につき実刑に処し,併せて罰金刑を科するのが相当であると判断した。
3 被告人Y2について
被告人Y2は,○○グループに所属する従業員ではなかったが,海外向けの投資案件を紹介して投資家から報酬を受け取ることを業とする海外コンサルタントであったところ,平成25年頃から自身が開設するホームページでa信用組合の上記の定期預金を宣伝し始め,その後,被告人Y1と手を結び,預金獲得額に応じた高額のコミッション目当てに本件に及んだもので,利欲目的から本件に及んだ点は非難されるべきであるし,関与した預り金合計額も約2億2500万円と多額である。もっとも,被告人Y2が犯行に関与していた期間は3年半余りと起訴された共犯者の中で最も短いことに加え,本件犯行への関与形態を見ても,被告人Y2は,被告人Y1が企画した金融商品を気に入って自らa信用組合に定期預金をする傍ら,そうした商品をコンサルタント業での顧客らの求めに応じて紹介して預り金を募っていたのであって,言わば仲介業者的に関与した面もあるものと評価でき,その刑事責任は本件犯行を統括,主導していた被告人Y1とは大きく異なるものといえる。
以上の犯情を前提に,被告人Y2が事実関係を認めていること,交際相手が更生への協力を約束する旨の書面を提出していること,前科がないことなど被告人Y2に有利な事情を考慮し,主文の懲役刑及び罰金刑を量定し,その懲役刑の執行を猶予することとした。
4 被告人Y3について
被告人Y3は,a信用組合に資本金を出資し,平成21年頃から同信用組合の「b支店」として活動し始め,顧客を勧誘し獲得するようになった。その際,被告人Y3は,a信用組合が設定する利率さえ越えなければ,顧客に対し自由に利率を設定してよいなどと被告人Y1からかなりの裁量権を与えられ,独立した収支による「b支店」として主体的に約5年半にわたって本件犯行に関与しており,この点では厳しい非難に値する。一方で,被告人Y3は,その関与した預り金の額が合計5000万円と共犯者の中では最も少ないこと,事実関係を認め,わずかではあるが被害弁償をして顧客全員から宥恕を受け,今後も被害弁償に尽くすと述べるなど反省の態度を示していること,妻がその監督や支援を行う旨を誓約していること,前科がないことなど被告人Y3に有利な事情を考慮し,主文の懲役刑及び罰金刑を量定し,その懲役刑の執行を猶予することとした。
(求刑 被告人Y1につき懲役3年及び罰金300万円,被告人Y2につき懲役2年及び罰金200万円,被告人Y3につき懲役1年及び罰金100万円)
千葉地方裁判所刑事第2部
(裁判長裁判官 坂田威一郎 裁判官 大野洋 裁判官 本田真理子)
〈以下省略〉
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