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「営業ノルマ」に関する裁判例(15)平成24年 5月14日 東京地裁 平21(行ウ)523号 遺族補償給付不支給処分取消請求事件、葬祭料不支給処分決定取消請求事件

「営業ノルマ」に関する裁判例(15)平成24年 5月14日 東京地裁 平21(行ウ)523号 遺族補償給付不支給処分取消請求事件、葬祭料不支給処分決定取消請求事件

裁判年月日  平成24年 5月14日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(行ウ)523号・平23(行ウ)154号
事件名  遺族補償給付不支給処分取消請求事件、葬祭料不支給処分決定取消請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2012WLJPCA05148001

要旨
◆本件会社に勤務していた被災者が本件事業所近くの公園で縊死していたのは、業務に起因する精神障害が発症して自殺したものであるとして、同被災者の父である原告が、処分行政庁に対して、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付請求及び葬祭料給付請求をしたところ、支給しない旨の各決定を受けたため、本件各処分の取消しを求めた事案において、本件会社での業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて、本件疾病を発症させる程度に過重であるとはいえず、本件疾病は業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものというだけの根拠はないから、当該業務と本件疾病の発症との間の相当因果関係は認められないなどとして、本件各処分に違法性はないとし、請求を棄却した事例

参照条文
労働者災害補償保険法7条1項1号
労働者災害補償保険法16条
労働者災害補償保険法17条

裁判年月日  平成24年 5月14日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平21(行ウ)523号・平23(行ウ)154号
事件名  遺族補償給付不支給処分取消請求事件、葬祭料不支給処分決定取消請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2012WLJPCA05148001

平成21年(行ウ)第523号 遺族補償給付不支給処分取消請求事件(甲事件)
平成23年(行ウ)第154号 葬祭料不支給処分決定取消請求事件(乙事件)

埼玉県久喜市〈以下省略〉
甲・乙両事件原告 X
訴訟代理人弁護士 川人博
同 平本紋子
東京都千代田区〈以下省略〉
甲・乙両事件被告 国
同代表者法務大臣 A
同両事件処分行政庁 春日部労働基準監督署長 B
指定代理人 木村聡
同 金井裕子
同 芝田栄郎
同 萩原ミドリ
同 中島俊広
同 沼澤由美
同 内田栄一
同 瀬戸口道明

 

 

主文

1  甲・乙両事件原告の請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は,甲・乙両事件原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  甲事件
春日部労働基準監督署長(以下「処分庁」という。)が,甲・乙両事件原告(以下「原告」という。)に対して平成17年11月14日付けでした労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付を支給しない旨の処分は取り消す。
2  乙事件
処分庁が,原告に対して平成22年5月28日付けでした労災保険法による葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。
第2  事案の概要
本件は,株式会社a(以下「本件会社」という。)に勤務していたC(以下「被災者」という。)が平成15年12月8日に本件会社b事業所(以下「本件事業所」という。)近くの公園で縊死していたのは,業務に起因する精神障害が発症して自殺したものであるとして,被災者の父である原告が,処分庁に対し,労災保険法に基づく遺族補償給付請求及び葬祭料給付請求をしたが,遺族補償給付請求については業務起因性が認められないとして,葬祭料給付請求については同法42条に定める時効を理由として,支給しないという決定(以下,それぞれ「本件処分1」「本件処分2」という。)を受けたため,その取消を求めた事案である。
1  前提事実(争いのない事実及び末尾に記載した証拠等による認定事実)
(1)被災者の経歴等
被災者(昭和51年○月○日生。死亡当時27歳)は,平成11年3月にc大学理工学部電気工学科を卒業後,同年4月1日,本件会社に入社した。
被災者は,入社後,本件事業所のd事業部開発部(以下「開発部」という。)に配属され,入社1年目の基礎研修を終えた2年目の平成12年から開発部2課で,一貫して小型放射温度計(非接触で対象物の表面温度を計測する機器)○○(本件会社の工業用放射温度計)の商品開発における電子回路及びソフトウェアの設計,評価試験等の開発業務に従事していた。
被災者は,平成15年10月14日付けで本件事業所内のd事業部営業部(以下「営業部」という。)営業1課2係に異動し,同年11月1日から同部で勤務するものとされた(以下「本件異動」という。)。
被災者の所定労働時間は,午前8時30分~午後5時15分(休憩時間1時間)で,所定休日は,毎週土,日曜日,国民の祝日,夏期休暇(3日間),創立記念日,年末年始休暇(12月30日~1月4日)であった。(乙16)
(2)被災者の健康状況等について
被災者が平成15年4月18日に受診した健康診断結果によれば,身長174.8cm,体重91.5kg,標準体重67.2kg,肥満指数(BMI)29.9,肥満1度で異常はなく,その他精神障害等に関する記述はなかった。
被災者について,本件会社に入社した平成11年4月1日~平成15年12月8日の期間,心療内科,精神障害疾患に関する受診履歴は認められない。
(3)被災者が死亡するまでの経緯の概要
ア 平成15年10月22日,本件会社は,株式会社e(以下「e社」という。)に対し,被災者がd事業部開発係長のD及びd事業部のEとともに開発を手掛けていた○○の特殊仕様品「△△」30台(代金合計243万円)を納入した。(乙17,29,45)
イ 平成15年12月3日,e社の担当者は,被災者に対し,納入された△△について不具合があるとの連絡をする(以下「本件クレーム1」という。)とともに,機器3台を返却し,被災者は,同僚とともにその原因究明に当たり,被災者が関与した部分のソフトの演算部のバグ等が原因であるとして,ソフトの修整等を行う等の対応に当たった上,同月4日,e社を訪問して不具合の原因と対策を説明し,機器3台を再度納入する等した。
ウ 平成15年12月5日,e社の担当者は,前記イで再納入された3台の機器について不具合があったと連絡し(以下「本件クレーム2」という。),被災者は同僚とともにその対応に当たった。
エ 被災者は,遅くとも平成15年12月8日までに,ICD-10の適応障害(以下「本件疾病」という。)を発症していた。
オ 平成15年12月8日午前6時ころ,被災者は,本件事業所近くのf公園で縊死しているのを発見され,その死亡推定時刻は,同日午前4時ころであり,直接の死因は縊死であった。
(4)原告は,平成16年5月7日,被災者の死亡は,本件事業所での勤務状況と直前の業務状況から過労自殺であり,業務上の事由によるものであるとして,処分庁に対し,労災保険法に基づく遺族補償給付(遺族補償年金)の支給を請求したが,処分庁は,平成17年11月14日付けで本件処分1をした。原告は,本件処分1の取消を求め,平成18年1月6日,埼玉労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)に対して審査請求をしたが,平成20年8月21日付けで棄却され,同年9月24日,労働保険審査会に対して再審査請求をしたが,平成21年5月27日付けで棄却された。原告は,同年10月16日,本件処分1の取消を求めて本件訴訟(甲事件)を提起した。
(5)原告は,平成22年3月17日,処分庁に対し,労災保険法に基づく葬祭料の支給を請求したが,処分庁は,同年5月28日付けで本件処分2をした。原告は,本件処分2の取消を求め,同年7月5日,審査官に対して審査請求をしたが,同年9月24日付けで棄却され,同年11月1日,労働保険審査会に対して再審査請求をしたが,平成23年2月16日付けで棄却された。原告は,同年3月10日,本件処分2の取消を求めて本件訴訟(乙事件)を提起した。
2  本件の争点及び当事者の主張
(1)被災者の死亡の業務起因性
(原告の主張)
ア 業務の量的過重性
原告の計算によれば,平成15年4月~同年12月6日の被災者の時間外・休日労働時間は,以下のとおりである(別紙1「労働時間集計表」(原告主張)参照)。同時間・休日労働時間は,被災者のパソコンでのメール使用状況の他,原告が,自らの手帳から判明した自らの帰宅時間と記憶を基礎として原告の妻(F)とともに書き起こした「労働時間の確認書」,勤務状況自己管理表,休日出勤指令書,入退館記録での最も早い時刻を始業時刻とし,最も遅い時刻を終業時刻にした上,休憩時間について原則として平日昼休憩の1時間とし,休日は休憩を取っていないとして算定したものであり,その内容は,少なくとも午後8時30分や午後9時までの残業が開発課全体として恒常的で,納期が迫っている時や△△の開発業務の終盤には特に長時間労働が続いていた旨の同僚らとの供述とも一致している。

平成15年12月 28時間35分(ただし6日のみ)
平成15年11月 46時間45分(少なくとも。以下同じ。)
平成15年10月 105時間55分
平成15年9月 105時間49分
平成15年8月 120時間17分
平成15年7月 96時間44分
平成15年6月 70時間
平成15年5月 97時間47分
平成15年4月 66時間56分

また,○○シリーズの開発が始まった平成12年4月以降,被災者の業務内容に変化がない以上,被災者の同月~平成15年5月の時間外労働時間も,上記の同年6月~同年11月の時間外労働時間と概ね同様であったものと推認するのが相当である。
以上のとおり,被災者は,平成12年4月以降,本件疾病の発症に至るまで,恒常的に長時間労働をしている状態にあった。
イ 長時間労働以外のストレス要因
(ア)被災者は,平成15年12月3日の本件クレーム1及び同月5日の本件クレーム2を受け,その対応に当たるとともに,同日には被災者のフィードバック面接で,営業部に異動する前の上司であったG開発部長の面接を受けたり,同月9日午後には,本件クレーム1,2について社内での説明が予定される等,本件クレーム1,2の対応及びこれに関連する事項が被災者にとって大きな心理的負荷となっていた。
△△は,本件会社が平成12年4月から開発してきた○○の特殊仕様品であり,商品開発が成功すれば多大な利益が見込め,本件会社が注力していた商品であったこと,e社は本件会社にとって△△の初めての受注元顧客であり,同社との関係を良好に保つことが,同商品化成功の鍵を握る重要な事柄であったこと,本件クレーム1の原因は被災者が関与した部分のソフトの演算部のバグ等が原因であり,本件クレーム2の原因については被災者死亡後に被災者が既存の演算プログラムを修正したことが原因と判明したことの点に照らせば,被災者の心理的負荷の強度は著しく大きいというべきである。
(イ)被災者は,本件異動により,平成15年12月1日から営業技術職として上司らとともにユーザー訪問等をし,同月5日ころには,営業部への席の移動のため,パソコンの配線処理等を行ったが,大学の理工学部電気工学科を卒業し,商品開発業務にプライドを持つ一方,営業部での業務について,原告ら家族に対し不安を口にし,自信を喪失した様子であった。このように,慣れない営業部に配置転換となった本件異動は,被災者にとって大きな心理的負荷であった。
ウ 小括
被災者は,上記の恒常的な長時間労働に加え,本件クレーム1,2への対応及び慣れない営業部へ配置転換を強いられたこと等の心理的負荷を受けた結果,本件疾病を発症し,自殺したものであり,被災者に精神障害の既往歴はなく,生活史,アルコール依存状況,性格傾向等についても特段の問題は認められないから,本件疾病の発症及び死亡は,業務に起因することは明らかである。
この点につき,被告は,被災者が平成13年ころ気分変調症を発症しており,これを個体側要因として評価すべきである旨主張するが,被災者には,ICD-10の「診断ガイドライン」上の「少なくとも数年間,時には終生続く」ような「きわめて長期にわたる抑うつ気分」といった,気分変調症の本質的な特徴は認められないから,被災者は同年当時に気分変調症には罹患していなかったというべきである。また,被災者は,同年ころにも平均して1か月当たり80時間台から90時間台の時間外・休日労働が続いており,この当時被災者が何らかの気分障害又は適応障害に罹患していたとすれば,その原因は長時間労働であったと考えられる。
(被告の主張)
ア 業務起因性に関する判断枠組み
精神障害の発病が業務上のものと認められるためには,精神障害の発病と業務との間に条件関係及び相当因果関係が肯定されることが必要である。条件関係を肯定するためには,環境由来のストレスと個体側の反応性,脆弱性との関係で精神破綻が生じるという「ストレス―脆弱性」理論を前提とし,業務上一定以上の大きさを伴う客観的に意味のあるストレスが精神障害の発病に寄与しており,当該ストレスがなければ精神障害は発病していなかったとの関係が高度の蓋然性をもって認められることが必要である。また,労災補償制度の前提となる使用者の補償責任が危険責任に基づく無過失責任であり,労災補償制度が使用者の保険料の拠出により運営されていることに照らせば,精神障害の発病と業務との相当因果関係が認められるためには,当該業務による負荷が,平均的な労働者にとって業務によるストレスが客観的に精神障害を発症させるに足りる程度の負荷であると認められること(危険性の要件)及び当該業務による負荷が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となって,当該精神障害を発病させたと認められること(現実化の要件)が必要である。そして,相当因果関係の立証責任は,保険給付の請求者であり,保険給付に係る不支給決定を争う原告にある。
イ 心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針
旧労働省は,業務による心理的負荷を原因として精神障害を発病し,自殺したとする労災保険給付請求の増加に対応するため,精神医学,心理学及び法律学の専門家に専門的見地からの検討を依頼し,その専門家により構成された「精神障害等の労災認定に係る専門検討会」の検討結果の報告を受け,「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(以下「判断指針」という。)を策定した。なお,判断指針は,平成21年4月6日に一部改正されているが,以下の基本的な考え方は変更されていない。
判断指針は,対象疾病をICD-10第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害とし,①対象疾病に該当する精神障害を発病していること,②対象疾病の発症前概ね6か月の間に,客観的に当該精神障害を発病させる虞れのある業務による強い心理的負荷が認められること,③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないことという3要件を満たす精神障害を業務上の疾病として扱うこととした。
業務による心理的負荷の強度については,「職場における心理的負荷評価表」に基づき,出来事の心理的負荷の強度を「Ⅰ」(日常的に経験する心理的負荷で一般的に問題とならない程度の心理的負荷)~「Ⅲ」(人生の中でまれに経験することもある強い心理的負荷)に評価し,その上で,出来事の心理的負荷の強度及びその出来事に伴う変化等に係る精神的負荷の過重性を総合評価し,「弱」「中」「強」のいずれに該当するか評価する。さらに,業務以外の心理的負荷の強度については,「職場以外の心理的負荷評価表」に基づいてこれを評価し,また,既往歴等の個体側要因として考慮すべき点が認められれば,それが客観的に精神障害を発病させるおそれのある程度のものかを検討する。以上の業務による心理的負荷の強度の評価,業務以外の心理的負荷の強度の評価,個体側要因のそれぞれを検討し,その上で,これらと当該精神障害の発病との関係について総合判断する。
業務による心理的負荷によって精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常な認識,行動選択能力が著しく阻害され,又は,自殺行為を思い止まる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し,原則として業務起因性を認める。
精神障害の業務起因性については,最新の専門的知見に基づく専門検討会の報告を踏まえて策定された判断指針に依拠するのが最も適当である。
ウ 判断の前提となる事実関係
(ア)被災者の職務について
平成11年4月1日~平成15年10月13日の間,被災者は,小型放射温度計(○○)の商品開発(電気回路,ソフト設計,評価試験等)に携わる中で,平成12年4月以降,開発部2課で,新しい小型放射温度計○○の電子回路設計とソフトウェア設計を中心に商品開発に携わっていた。
被災者は,平成15年10月14日付けで営業部に異動(本件異動)して営業技術職となったが,実際に営業部で仕事をしたのは,本件異動の発令から少なくとも2週間経った同月末以降であった。これに伴い,被災者は,営業担当者を技術的な側面から支援することになったが,他方,自ら販売活動等をすることはなく,営業ノルマはない上,配属後間もないことから,業務量は少なく,通常終業後30分から1時間程度で退社しており,上記期間は実質的には研修期間とされ,出張は上司に同行していた。
(イ)被災者の労働時間について
本件事業所では,労働時間,時間外労働時間,休日労働時間の詳細を正確に確認できる資料は存在しないことから,審査官は,被災者のパソコンのメール使用状況一覧表,入退館記録である「C氏勤務状況」,休日出勤指令書,勤務状況自己管理票,残業申告書,使用者報告書添付の別紙1(平成15年12月1日~7日の被災者の勤務状況)に基づいて,出勤日,労働時間,休憩時間を推計しており,この推計は不合理とはいえない。そして,審査官の推計に基づいて,労働基準法に基づく時間外労働時間を算出すると,別紙2「労働時間集計表」(被告主張)のとおりとなり,そのうち時間外労働時間数と休日労働時間数を合計した月別の内訳は,以下のとおりとなる

年月等 時間外・休日労働時間数
平成15年12月1日~7日 23時間50分
平成15年11月 23時間56分
下記7か月間の平均時間数 64時間46分
平成15年10月 65時間54分
平成15年9月 85時間03分
平成15年8月 67時間36分
平成15年7月 77時間12分
平成15年6月 47時間21分
平成15年5月 73時間40分
平成15年4月 36時間38分

(ウ)本件クレーム1,2について
本件会社では,従前から○○に対するクレームが相当数あり,被災者は,適宜適切な修正を行っており,クレームの対応をしていた。
顧客からの製品に対するクレームについて,クレームの原因となった部分の設計担当者一人に責任を負わせることなく,開発に携わった関係者その他の者が組織的にクレームに対応し,特定の設計担当者の負担とならないように配慮されており,本件クレーム1,2についても,Dら開発担当者全員で対応する等組織的に対応していた。
クレームに関して,本件会社で過去に担当者を処分したことはなく,過去に被災者が関わった○○に関するクレームと人事考課との関係を見ても,クレームの有無にかかわらず基準(普通)であるBを下回る評価がされた事実はない。
被災者は,平成15年12月3日に本件クレーム1があった際には特に変わった様子はなかったが,同月5日に本件クレーム2があった際には,落ち込んでいる様子であった。
(エ)被災者の言動等
被災者は,平成13年ころ,自分がうつではないかと言ったり,包丁で自分の手首を傷付けたことがあり,本件異動前である平成15年10月初旬ころ,原告に対し,本件異動について不安を抱いている旨を述べていた。
エ 業務による心理的負荷の評価
(ア)労働時間に係る心理的負荷の強度について
被災者の平成15年4月1日~同年12月7日の約8か月間中,本件異動前の約7か月間では,時間外・休日労働時間数は,月当たり36時間38分~85時間3分で,月平均では64時間46分という長時間労働であったが,本件異動後である同年11月の時間外・休日労働時間数は23時間56分となり,長時間労働は概ね解消されている。
本件異動前の長時間労働は,「職場における心理的負荷評価表」の具体的出来事のうち「勤務・拘束時間が長時間化した」(平均的心理的負荷の強度Ⅱ(中程度))に該当し,特に強度を修正する必要はなく,かつ,直近の時点では当該長時間労働は改善されていることから,労働時間に係る心理的負荷の総合評価は,一時的に「中」程度に評価できる時期があったとはいえるが,全体として「強」とは認められず,このことは,改正された判断指針においても格別変わるところはない。
(イ)人事異動に係る心理的負荷の強度について
本件異動は,被災者を含む技術者5名が開発部から営業部に異動したもので,「職場における心理的負荷評価表」の具体的出来事中「配置転換があった(平均的心理的負荷の強度Ⅱ)」に該当し,上記職務内容から心理負荷の強度を修正する要素は認められず,出来事に伴う変化等の観点からも特に過重であったとは認められないから,本件異動に係る心理的負荷の総合評価は中程度と評価することはできても強と評価することはできない。
(ウ)本件クレーム1,2に係る心理的負荷の強度について
本件クレーム1,2を受けて被災者は深夜残業や休日出勤等で対応しており,本件クレーム2の際に落ち込んでいたことが認められる一方,①被災者のみがe社からのクレームに対応したのではなく,役職上その責任者はDであったと考えられること,②本件会社での納入商品のクレームは一定頻度で起きており,その都度被災者は問題なくこれに対応し,本件会社内部でクレームがあったことを理由に懲戒処分等の処分をした事例はないこと,③e社からのクレームは,従前のクレームと比較して重大であったとは認められず,Dは被災者の死亡後それ程の時間を掛けずに抜本的な対策を立ててこれを行っていること,④△△の1台当たりの金額は,8万1000円(30台で243万円)で,多額とはいえないこと,以上によれば,本件クレーム1,2は,「職場における心理的負荷評価表」の具体的出来事中「顧客からのトラブルがあった(平均的心理的負荷の強度Ⅰ)」という程度に止まり,「会社にとっての仕事上の重大なミスをした(平均的心理的負荷の強度Ⅲ)」に当たるとしても,失敗の程度の小ささや処罰等もないことから,その負荷の程度を修正すべきである。
また,出来事に伴う変化等について,本件クレーム1,2に対応するために時間外労働時間数が増加し,休日出勤もしているが,他方で,その対応自体は比較的短い期間であり,組織的対応がされる等相応の配慮がされていることからすれば,特に過重であったとは認められない。
以上のとおり,本件クレーム1,2に係る心理的負荷の総合評価は「中」程度と評価すべきであって,「強」であったとみる余地はない。
なお,改正判断指針で,新たに「顧客や取引先からのクレームを受けた」という項目が設けられているが,当該平均的心理的負荷の強度はⅡとされており,特にこれを強めに修正すべき要素はないから,改正判断指針においても,本件クレーム1,2に係る心理的負荷の総合評価は「中」程度と評価されるべきこととなる。
(エ)以上のとおり,判断指針を本件に当てはめても,業務上の心理的負荷の総合評価は「強」には至らず,「中」に止まるのであり,これは,改正判断指針に基づいて検討しても同様であるから,その余を検討するまでもなく,本件疾病の発症について業務起因性は否定される。
オ 被災者の個体側要因について
被災者は,遅くとも手首の自傷行為が見られた平成13年ころ,ICD-10「気分変調症」を発症していたものであり,当該事実は,被災者の個体側要因として評価されるべきである。
(2)処分庁の時効主張の可否
(原告の主張)
原告は,平成16年4月15日,本件事業所を管轄する春日部労働基準監督署を訪れ,窓口担当者に対し,「労災申請をしたい。」旨告げたところ,その担当者は,「会社と相談して対応するように。」と教示し,遺族補償給付に関する申請書式のみを交付し,その際,葬祭料に関する申請書式は交付されず,葬祭料の請求ができる旨の説明もなかった。その後,原告が同労働基準監督署その他の労働基準監督署から葬祭料の請求ができる旨の教示を受けたことはなく,また,同請求に係る書式の交付を受けたこともなかった。
労働基準監督署は,労災保険法に基づく申請手続の相談に来訪した労働者やその家族に対し,取り得る手続を教示し,手続に必要な資料や書式を交付する教示義務を負っており,処分庁は,葬祭料請求手続について原告に教示すべき義務があったのに,行わなかったのであるから,原告の葬祭料支給請求に時効(同法42条)を主張することは,信義則に反し許されない。
以上より,処分庁の時効を理由とする本件処分2は違法である。
(被告の主張)
労働基準監督署職員が,葬祭料支給について説明する職務上の法的義務があるとは認められない。
労働者が死亡した際に考え得る労災保険給付として遺族補償給付と葬祭料があることは,極めて基本的な事項であり,当時,労働基準監督署備付けのパンフレットにも,葬祭料の請求に関する分かり易い記載があり,このような基本的事項について労働基準監督署の担当者が窓口で説明しないことは考えられないから,担当者は,原告に対し,葬祭料が請求できることについて説明をし,必要な請求書の交付をしていたのである。したがって,仮に上記のような法的義務があるとしても,被告に手続の教示義務違反はない。
原告は,平成16年1月15日ころ,被災者が加入していた計機健康保険組合に対して埋葬料を請求しており,埋葬料と同じ性質を有する費用である葬祭料の請求をしなかったことは,葬祭料を請求する意思がなかったか,単に失念していたのであるから,信義則違反をいう原告の主張は,前提を欠く。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前記前提事実に加え,証拠(各項目括弧内に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。
(1)被災者の時間外労働時間数について
被災者の休日,始業時刻及び終業時刻に関して争いがない部分(別紙3「労働時間集計表」(裁判所認定)中の「相違点」欄の○印部分)は,当該内容を前提とし,争いがある部分(別紙3「労働時間集計表」(裁判所認定)中の「相違点」欄及び凡例欄参照)については,以下のとおりである。
ア 始業・終業時刻(乙16,33~37,56,証人H,証人D)
本件事業所での時間外勤務の管理は,基本的には勤務状況自己管理票,休日出勤指令書,残業指令書でされることになっていたが,実際には,日常業務のペース配分等(休憩時間の取り方,終業時刻後の勤務や休日勤務の内容)は個人の裁量に委ねられており,休日出勤指令書,勤務状況自己管理票及び残業申告書に実際の労働時間のすべてが記載されているとは限らないから,被災者の時間外労働時間数を算定するに当たっては,前記の各資料のほか,他の証拠資料も併せ考慮する必要がある。
被災者の時間外労働時間数に関する資料としては,被災者死亡前に作成されたものとして,被災者のパソコンのメール使用状況一覧表,入退館記録である「C氏勤務状況」(平日は午後8時15分以降の退館時刻のみ記録),休日出勤指令書,勤務状況自己管理票及び残業申告書がある。また,被災者の死亡後に被災者の業務状況を証明するために作成されたものとして,役員及び従業員作成の平成16年10月29日付け使用者報告書添付の別紙1(被災者死亡前1週間の被災者の勤務状況が記載されている。)及び原告作成の平成18年6月14日付け意見書がある。また,証人Hは,被災者の時間外労働時間数に関して,被災者の平均帰宅時間が午後10時ころで,午前2時,3時になることもよくあり,徹夜になることもあった旨の証言をする。
このうち,入退館記録,休日出勤指令書,勤務状況自己管理票及び残業申告書は,記載された部分については被災者の当時の入退館時刻又は休日・時間外労働時間数を裏付ける客観的な資料と評価でき,少なくともこれらの資料から看取し得る最長の在社時間については,被災者の拘束時間として認めるのが相当である。また,メール使用状況一覧表に係るパソコンは,対象期間中は基本的に被災者のみが使用していたと認められるから,少なくともメール使用状況一覧表での各日のアクセス開始時刻からアクセス終了時刻までの間は,被災者は本件事業所で勤務していたと認めるのが相当である。使用者報告書添付の別紙1についても,被災者の死亡前1週間の被災者の勤務状況を使用者が具体的に記載したものとして,被災者の業務時間として認めるのが相当である。
他方,上記の労働時間数を超える時間外労働時間数を主張する原告作成の平成18年6月14日付け意見書は,被災者死亡後約2年半経過時点で,原告とその妻が記憶を喚起して各日ごとの労働時間数を算定・集計したものであり,これを裏付ける客観的資料はない上,記憶喚起までの時間的経過からすれば,被災者の具体的な労働時間を立証する資料としての証明力は低いといわざるを得ない。また,上記証人Hの証言は,平均帰宅時間及び帰宅時間が遅くなった時についての概ねの記憶を述べているに過ぎず,これによって被災者の具体的な労働時間を認めるには不十分である。
イ 休日労働日の休憩時間の計上(乙30)
原告は,法定外休日及び法定休日の労働については,休憩時間がないとして時間外労働時間を算定している。しかし,本件会社の休憩時間についての規定(1日当たり1時間)は,休日勤務でも適用されるから,休日労働に際し,被災者が一切休憩時間を取らなかったと解するのは相当ではなく,少なくとも1日の所定労働時間以上労働した日は,1時間の休憩時間を取ったものと解すべきである。
ウ 時間外労働時間及び休日労働の算定
原告は,本件会社の就業規則に基づき,時間外労働時間数について,所定労働時間7時間45分を超えた時間数とし,また,休日労働時間数は,法定外休日における労働時間数も加えて算定している。しかし,業務の加重性を判断するための時間外労働時間数や休日労働時間数は,労働基準法が適用される事業所では,同法に基づいて計算される時間外労働時間数や休日労働時間数を対象とすべきである。
エ まとめ
以上のとおり,被災者の時間外労働時間数に関して争いのある部分については,被告主張のとおり算定し,休日労働の日については,1日の所定労働時間以上労働した日は1時間の休憩時間を取ったとして算定する。
そうすると,被災者の死亡前約6か月間の時間外労働時間数は,別紙3「労働時間集計表」(裁判所認定)のとおりで,月別にまとめると,以下のとおりとなる

年月等 時間外労働時間数 月平均
平成15年12月1日~7日 23時間50分 ―
平成15年11月 23時間56分 ―
平成15年10月 65時間54分 44時間55分
平成15年9月 86時間03分 58時間37分
平成15年8月 68時間46分 61時間09分
平成15年7月 78時間17分 64時間35分
平成15年6月 47時間26分 61時間43分

(「月平均」とは,平成15年10月~同年6月の時間外労働時間数の平均を遡って算出したものである。)
(2)被災者の業務内容等について(乙45,証人D,証人H)
前記前提事実のとおり,被災者は,開発部2課で,一貫して主に小型放射温度計○○の商品開発における電子回路及びソフトウェアの設計,評価試験等の開発業務に従事し,同業務の中には,自分が携わった商品についてユーザーから状況を確認したり,調整したりすることも含まれていた。
営業部(本件事業所内のd事業部営業部)所属時には,ユーザーと技術的な面を打ち合わせる等技術的な事項をサポートすることが業務の中心であった。なお,営業部には,他に販売を主業務とする営業所員がいる。
(3)本件クレーム1,2の内容(乙17,24,29,44~47,証人D)
ア 本件クレーム1について
本件会社は,△△(○○をベースとする,①コンピューターとの通信機能付加及び②屋外の厳しい環境で使用するために外気温の変化や直射日光の影響を受けないようにしたことの2点についての特殊仕様品)を,平成15年9月中旬ころから手掛けていた。
同年12月3日のe社からの本件クレーム1の内容は,急激な気温の変化があったときに測定値が異常な値を出すこと,気温が9℃前後のときに測定値が不連続となり異常値を示すことという2点であった。
本件会社では,e社から返却された3台の△△とともに送られてきた測定データから,本件クレーム1に係る不具合の原因がソフトウェアであることが容易に認識できたから,ソフトウェア開発に携わっていた被災者,D及びEの3名で検証した結果,同月4日午前2時ころまでに原因の解明及び修正を終え,上記3名はいったん帰宅した。なお,上記の2つの不具合の原因は,自然界を前提に外気温や直射日光の影響を排除する理論を前提としていた△△に,e社が極端過ぎる温度変化を加える試験条件で試験を行ったことと被災者が設計を手掛けていたソフトウェア部分でのプログラムに関するミスであった。
同日午後,D及び被災者は本件クレーム1の対策を終えた3台を携えてe社に赴き,Dから本件クレーム1に係る不具合の原因と対策について説明し,e社の理解を得た。
イ 本件クレーム2について
平成15年12月5日午後のe社からの本件クレーム2の内容は,気温が10℃前後のときに数℃の測定誤差が生ずるというものであったが,クレーム1のときとは異なり,e社から測定データが提示されていなかった。
本件会社では,本件クレーム2に係る現象が再現するか否かを明らかにするため,同日午後8時ころから翌朝にかけて連続運転を行うこととし,被災者は,連続運転開始後しばらくの間営業部のレイアウト変更に関する作業をした後,同日午後10時過ぎに帰宅した。
同月6日(土),被災者とEはDからの指示の下,午前8時ころ出社して上記の連続運転に係るデータを取得して本件クレーム2に係る現象の再現を認識し,e社に当該データを送信した後,午前9時ころ帰宅した。
Dは,同月8日(月)から本件クレーム2に係る不具合についての調整・解析作業を行い,同月9日午前までに,原因が,被災者が設計を手掛けていたソフトウェア部分でのプログラムに関するミスであったことを確認して,修正作業に着手し,同月11日朝に当該不具合について解決できたことを確認した。
ウ 本件クレーム1,2について,e社から本件会社に対し,200万円~300万円程度の損害賠償請求がされたが,最終的には,△△を次回受注する際に,本件会社からe社に対し,同製品8台(合計代金相当額64万8000円)を無償提供することで和解した。
2  争点(1)(被災者の死亡の業務起因性)に対する判断
上記認定事実を前提に,被災者の縊死の業務起因性を判断する。
(1)業務起因性の判断基準
ア 労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の死亡等について行われる(同法7条1項1号)のであるが,労働者の死亡等を業務上のものと認めるには,業務と死亡との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁)。また,労災保険制度が,労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該死亡等の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁第三小法廷平成8年1月23日判決・判例時報1557号58頁,最高裁第三小法廷平成8年3月5日判決・判例時報1564号137頁)。
イ 精神障害の発症については,環境からくるストレスと個体側の反応性,脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという「ストレス―脆弱性」理論が広く受け入れられていると認められることからすれば,業務と精神障害の発症との間の相当因果関係が認められるためには,ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性を総合考慮し,業務による心理的負荷が,社会通念上,客観的にみて,精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に,業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして,当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。そして,業務により発症した精神障害に罹患していると認められる者が自殺を図った場合には,原則として,当該自殺による死亡につき業務起因性を認めるのが相当である。
(2)被災者の精神障害発症の業務起因性についての判断
ア 精神障害の発症
前記前提事実のとおり,被災者が,遅くとも平成15年12月8日までに,ICD-10の適応障害(本件疾病)を発症していた。以下,同年4月ころから,被災者の周りに発生した出来事の内容が,被災者に対して,どのような心理的負荷を生じさせたかを検討し,その上で,被災者の発病についての業務起因性の有無を検討することとする。
イ 被災者の業務状況(主に時間外労働及び配置転換)
被災者の死亡前8か月間の時間外労働時間数は,上記認定事実のとおり死亡前約6か月の平均が61時間43分であり,特に営業部配置転換後は,時間外労働時間数も本件クレーム1,2に対応した時間を除いて一般的には時間外労働時間数は減少傾向にあったことも併せ考慮すれば,労働時間数から直ちに過度の心理的負荷があったと評価することは困難である。
本件配置転換については,新しい部署に異動することについて一定の心理的負荷があったと認められるが,本件会社の営業部がユーザーと技術的な面を打ち合わせる等技術的な事項をサポートすることを中心とした部署で,この業務内容は開発部当時も携わっていたから,本件配置転換について,過度の心理的負荷があったと評価することはできない。
ウ 本件クレーム1,2について
上記認定事実のとおり,本件クレーム1,2は,いずれも被災者の手掛けていた設計部分に関するものであり,被災者がこれらについて自責の念にかられる等一定の心理的負荷を受けることが十分に考えられる。しかし,他方,上記認定事実及び証拠(乙29,証人D)によれば,①本件クレーム1,2について,被災者だけでなく,ともに○○Xの開発に当たっていたD及びEも処理に携わっており,被災者は,Dの指示に基づいて原因解明のためのデータ取得等の作業に当たっていたこと,②本件クレーム1は不具合の原因箇所が容易に認識でき,早期にその原因の解明及び修正を加えられたこと,本件クレーム2についても,Dがそれ程時間をかけることなく解決可能な程度のものであったこと,被災者はこれまで,○○の商品開発業務に継続的に携わる中で,これに生じたクレームを複数回経験しており,その過程で,当該クレームを理由に人事考課でことさらに低評価を受けたり,ペナルティを受けることはなく,本件クレーム1,2についても,ペナルティ等は予定されていなかったことが認められ,これらに鑑みれば,本件クレーム1,2が,客観的にみて被災者に過度の心理的負荷を生じさせる程度のものであったとは認められない。
この点につき,原告は,顧客から1日おきで連続してクレームを受けることは過去に経験していないこと,e社から被災者に直接クレームの連絡が来る等,本件会社が顧客からクレームを受けた際のサポート体制を十分に講じていなかったこと,Eの聴取書(乙24),I(開発部で被災者の同僚)の聴取書(乙25)並びに証人Hの証言及び陳述書(甲8)で,同人らが,本件クレーム1,2について,その内容や被災者の様子から特別に重い難問であったと感じていた旨供述しており,本件クレーム1,2による被災者の心理的負荷が極めて大きかった旨主張する。しかし,上記判断のとおり,被災者は,商品開発業務に継続的に携わる中で複数回のクレーム対応を経験していること,本件クレーム1,2の処理について,被災者は,Dの指示に基づいて作業に当たっており,本件会社での顧客からのクレームについてのサポート体制が不備であったとはいえないこと,上記3名の供述は,いずれも主観的感想を述べたものに過ぎず,本件クレーム1,2に係る上記認定事実に照らすと,上記供述から直ちに本件クレーム1,2が客観的にみて被災者に過度の心理的負荷を生じさせる程度のものであったとは認められないことから判断すると,原告の上記主張には理由がないというべきである。
エ 業務以外の心理的負荷及び個体側の要因
(ア)被災者の主な過去の言動等に関する認定事実(乙1,20,21,23,25,証人H,原告本人)
被災者は,平成13年ころ,父母に対して自分はうつではないかと言ったり,包丁で自分の手首を傷付けたりすることがあった。
被災者は,平成14年ころ,Iに対して「死にたい」と言ったり,手首を切ったことがあると言って手首を見せたりした。また,平成15年ころ,Iに対して「夜になると怖くなる,夜部屋に一人でいると自分は怖くなる」「自分は仕事ができない,周りに迷惑を掛けるダメな人間,生きる価値がないんだ」等と言うこともあった。
同年9月ころまでの間に,被災者の前腕部には,いわゆるリストカットの跡である傷が無数にあった。
(イ)被災者の過去の言動等に関する医学的知見
a 埼玉労働局地方労災医員協議会の平成17年10月3日付け意見書には,被災者のリストカットの既往及び関係者の証言等から,気分変調症を有していたと考えられるとの記載がある。(乙53)
b 審査官からの鑑定依頼に対し,J医師は,平成18年10月10月付け回答書で,被災者のリストカットの既往及び関係者の証言等から,気分変調症を疑うことができる旨述べている。(乙55)
c K医師は,平成22年9月20日付け意見書で,被災者の平成13年ころからのリストカット,悲観的思考を伴う抑うつ症状は,気分変調症の症状であり,治療を受けずに日常生活等ができていたことから考えると既往歴と判断されるのが通例であり,個体側要因として精神障害発症に関する脆弱性の現れの一部であるとみなすことが可能であると述べている。(乙60)
d L医師は,私的鑑定書で,平成13年ころの被災者は,気分変調症に罹患していなかったことは確実である,当時の心身状態は,何らかの気分障害又は適応障害に罹患していた可能性があるといえるが,それ以上の診断は不可能で,かつ,本件疾病の発症前いずれかの時期で回復していたものとするのが妥当である旨述べている。(甲13)
(ウ)上記認定事実によれば,被災者は,平成13年ころからいわゆるリストカットや悲観的思考を伴う抑うつ症状を呈しており,その言動ないし症状を伴う性格的傾向ないし精神障害は,本件疾病に係る被災者の個体側要因(反応性,脆弱性)であったものと認められる。
この点につき,原告は,仮に被災者が平成13年当時気分変調症等の精神障害に罹患していたとしても,その原因は,当時1か月当たり80時間台~90時間台の時間外労働が続いていたことにあるから,個体側要因として評価されるべきではない旨主張する。しかし,平成13年当時の被災者の時間外労働が原告主張に係る時間数に及んでいたと認めるだけの根拠はなく,そのころの被災者の精神障害の発症等の業務起因性を認める根拠はないから,原告の上記主張には理由がない。また,上記のL医師の私的鑑定書中,被災者が罹患していた可能性のある気分障害又は適応障害が本件疾病の発症前に同復していたとの部分は,被災者が,死亡する約半年前に精神疾患を示唆する言動をして以降に精神症状を経験していた情報が得られず,かつ,日常の言動に変わった様子が見られなかったことを根拠とするのであるが,上記認定事実のとおり,被災者は,平成13年~平成15年の間,リストカットや悲観的思考を伴う抑うつ症状を呈していたから,同医師の指摘を前提としても,これらの性格的傾向,精神障害が本件疾患の個別的要因として考慮すべきではないほどに回復していたものと認め難いというべきである。
オ まとめ
以上の検討結果を前提とすれば,本件会社での業務による心理的負荷が,社会通念上,客観的にみて,本件疾病を発症させる程度に過重であるとはいえず,本件疾病は業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものというだけの根拠はないから,当該業務と本件疾病の発症との間の相当因果関係は認められず,業務起因性を否定した本件処分1に違法性はない。
カ 葬祭料支給の請求について
なお,上記判断のとおり,本件疾病について,業務起因性が認められないことになると,被災者の葬祭料の支給の請求権があるとの原告の主張は,その前提を失うことになるから,その余の点を判断するまでもなく,不支給決定をした,本件処分2もまた違法はないことになる。
第4  結論
以上によれば,本件処分1,2はいずれも違法ではなく,原告の各請求には理由がないからいずれもこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 光岡弘志 裁判官 三島聖子 裁判長裁判官渡邉弘は転補につき署名押印することができない。裁判官 光岡弘志)

 

〈以下省略〉

 

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