
「営業コンサルタント」に関する裁判例(1)令和元年 8月30日 東京地裁 平29(ワ)43836号 会社解散請求事件
「営業コンサルタント」に関する裁判例(1)令和元年 8月30日 東京地裁 平29(ワ)43836号 会社解散請求事件
裁判年月日 令和元年 8月30日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)43836号
事件名 会社解散請求事件
裁判結果 認容 上訴等 控訴 文献番号 2019WLJPCA08306001
要旨
◆株主構成が原告会社50%、代表取締役である訴外C50%である被告会社について、原告会社が、被告会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、被告会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとして、被告会社の解散を求めた事案において、被告会社の中心的な目的は訴外会社株式を保有し、その価値上昇に伴って得られる利益を被告会社の株主である原告会社及び訴外Cに取得させることにあったといえるところ、訴外Cが確定判決にも従わない態度を示して原告会社が株主として行動することを拒絶し、訴外会社株式を譲渡した対価の分配について判断する前提となる管理状況を原告会社が知ることもできないことから、被告会社の中心的な目的である訴外会社株式から生じた利益の分配を行うために必要な決算の承認や利益の配当など株主総会において決定すべき事項の決定ができない状態にあるといえる上、訴外Cが、原告への利益の移転を防ぐべく、被告会社の資産を訴外Cへ役員報酬ないし退職慰労金として移転するおそれがある等の事情によれば、被告会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、被告会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあり、やむを得ない事由があるといえると判示し、被告会社の解散を命じた事例
◆会社解散の訴えを提起する権利が少数株主の投下資本回収の利益を保護するために認められた監督是正権の一種であること、会社の解散の訴えの提起が執行債権者の保有する株式を失わせる行為とはいえないことなどからすると、会社解散の訴えは、換価ないし満足の準備という差押えの目的を阻害するものとはいえず、執行債権者を害するものではないから、この目的を達成するために会社の解散の訴えを提起する権利にまで差押えの効力を及ぼす必要は認められない等として、原告会社の保有する被告会社株式について株式差押命令及び仮差押え決定があっても、原告会社は原告適格を失わないと判示した事例
参照条文
会社法833条1項
裁判年月日 令和元年 8月30日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)43836号
事件名 会社解散請求事件
裁判結果 認容 上訴等 控訴 文献番号 2019WLJPCA08306001
東京都港区〈以下省略〉
原告 X社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 星野一郎
同 上松健太郎
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y社
同代表者取締役 B
同訴訟代理人弁護士 川村一博
同 高谷裕介
同訴訟復代理人弁護士 中林数基
主文
1 被告を解散する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,被告の株主である原告が,被告の解散を求めた事案である。
1 前提事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認定することのできる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,平成24年3月28日にC(以下「C」という。)によってCを代表取締役として設立され,被告が発行する株式(以下「被告株式」という。)30株を保有する株主である(甲2〔枝番含む。〕,3,乙1。以下,原告が保有する被告株式を「本件株式」という。)。原告において,平成26年6月13日,Cが代表取締役を辞任し,Aが代表取締役に就任した(甲3)。
イ 被告は,平成13年3月22日に設立された,企業経営に関する診断・指導・調査研究等についてのコンサルタント業務等を目的とし,発行済株式総数60株の特例有限会社であり,B(以下「B」という。)の資産管理を行っている(甲1,弁論の全趣旨)。Bは,被告の唯一の取締役であり,被告株式30株を保有している(甲2〔枝番含む〕)。
ウ a社(以下「a社」という。)は,平成18年にJASDAQ市場に上場し,平成24年9月1日,Bが代表取締役に就任した株式会社である(甲2の1,4)。
(2) 本件訴訟に至る経緯
ア 東京地方裁判所は,平成28年1月18日,平成26年(ワ)第29900号及び同29917号事件(以下「前訴」という。)において,原告が被告株式30株を保有する株主であることを確認する,被告は原告に対しその営業時間内のいつにても平成24年度から平成26年度までの会計帳簿又はこれに関する資料を閲覧及び謄写させよとの判決(以下「前訴判決」という。)をした(甲2の1)。同判決に対する控訴については,平成28年4月27日に口頭弁論が終結され,同年6月8日,棄却する旨の判決が言い渡された(甲2の2)。
被告は,前訴及び前訴の控訴審において,原告が株主名簿に記載されていないことを主張しなかった(甲2の1・2)
イ 被告は,平成28年10月14日当時,a社が発行する株式(以下「a社株式」という。)132万株を保有していたが,同日,b社に対し,23億7600万円でこれを譲渡した(甲4)。
ウ 前記アの控訴審判決に対する上告及び上告受理申立てについては,平成29年5月9日,上告を棄却する,上告審として受理しない旨の決定がされた(甲2の3)。
エ 原告は,平成29年10月22日到達の内容証明郵便により,平成24年度から平成28年度までの会計帳簿の閲覧及び謄写等を請求したが,被告は,確定した前訴判決で認容された部分も含め,株主名簿の名義書換えがされていないため原告を株主として取り扱えないとしてこれに応じなかった(甲8の1・3,9)。
オ 原告は,平成29年12月27日,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。
(3) 本件訴訟提起後の事情
ア 被告は,平成30年4月12日,被告準備書面(1)において,株主名簿に記載がないことを理由に株主ではないとして,訴え却下を求めた(当裁判所に顕著な事実)。
イ 原告は,平成30年5月22日第1回弁論準備手続期日において裁判所の示唆を受けたことから,本件株式について名義書換えを行うこととし,同年7月10日,被告に対し,被告から受け取った株式名義書換請求書に原告の実印が押捺されたもの及び印鑑証明書を交付した(甲15の1・2・3,18)。
被告は,平成30年8月7日,原告に対し,原告の株主が誰であるかを明らかにすることを求め,同月10日,その理由として原告が反社会的勢力に該当しないことを確認すること,原告の株主と主張する者が複数いることを挙げた(甲17,19)。
被告は,原告が原告の株主について回答したことを受け,平成30年9月13日,原告を30株の株主である旨の株主名簿の名義書換えをした(甲20,乙6)。
ウ 原告及び被告は,平成30年9月14日第3回弁論準備手続期日において,期日間に被告が会計帳簿の開示について検討し,原告が会計帳簿の開示を受けた場合,取下げを検討することとし,その検討に時間を要するとして次回期日が同年12月5日と定められた(当裁判所に顕著な事実)。
原告及び被告は,平成30年12月5日第4回弁論準備手続期日において,平成24年度から平成26年度までの総勘定元帳,平成25年1月19日付け工事請負契約書及び同年9月1日付け不動産管理に関する業務委託契約書の開示を受けたことを確認し,その余の会計帳簿の開示について引き続き検討することとなった(当裁判所に顕著な事実)。
被告は,平成31年2月12日第5回弁論準備手続期日において,残りの会計帳簿について開示しない旨を明らかにした(当裁判所に顕著な事実)。
(4) 被告株式の差押え等
ア 東京地方裁判所は,以下のとおり,本件株式について,原告に対し,譲渡並びに株券発行,株券交付及び利益配当等の各請求権の行使その他一切の処分をしてはならない旨の株式差押命令(以下「本件差押え」という。)を発した(乙7から10まで)。
(ア) 平成30年2月27日,債権者D及びE
(イ) 平成30年9月19日,債権者F
(ウ) 平成31年1月21日,債権者G
(エ) 平成31年3月25日,債権者H
イ 東京地方裁判所は,平成31年1月22日,Iを債権者として,本件株式について,原告に対し,譲渡並びに株券発行,株券交付及び利益配当等の各請求権の行使その他一切の処分をしてはならない旨の仮差押決定(以下「本件仮差押え」という。)を発した(乙11)。
2 争点
(1) 原告適格
(2) 解散事由
3 争点に対する当事者の主張
(1) 原告適格
【被告の主張】
本件株式について本件差押え及び本件仮差押えを受けていることから,原告に本件訴訟の原告適格を認めるべきではない。最高裁昭和48年3月13日判決(民集27巻2号344頁参照。以下「昭和48年判決」という。)は仮差押えを受けた債権について,執行債務者の原告適格を認めているが,その示した基準によれば,執行債権者等の債権者を害することになるから,本件訴訟では原告の原告適格は否定されるべきである。原告が本件訴訟を追行して被告が解散することとなると,被告の解散により本件株式が消滅し,本件差押え及び本件仮差押えの目的物が消滅するから,本件差押え及び本件仮差押えの目的に反することになる。執行債権者が解散による残余財産の分配を受けることができたとしても,本件株式の売却価格よりも被告の解散による残余財産分配額が低額になる可能性があり,現状を保存する必要性が認められる。また,本件は形成訴訟であるから,昭和48年判決で考慮されている執行債務者による時効の中断の利益を考慮する必要がなく,本件訴訟以外に本件差押え及び本件仮差押えの事実を主張する機会がない。さらに,昭和48年判決は,原告適格を否定すると仮差押えが取り消された場合に再訴を強いられ訴訟経済に反するとしているが,本件では,執行債権者の原告に対する債権は裁判によって確定しており,本件差押えが取り消される可能性は極めて低く,原告が再度の訴訟提起を余儀なくされるという訴訟経済に反する事態にはならない。加えて,本件株式が第三者に対して売却されることが合理的に見込まれるため,原告は本件訴訟を提起できる「株主」には該当しない。
【原告の主張】
本件株式に対する売却命令は発令されていないし,このまま発令されない可能性もある。本件差押え及び本件仮差押えは,当該株式及び当該株式に関する自益権の処分を禁止する一方で,議決権(共益権)の行使を禁止していない。解散しても,当該株式の財産的価値は,残余財産分配請求権等に変化して存続するので差押え債権者を害することはない。
(2) 解散事由
【原告の主張】
ア 被告は,株主構成が,原告・30株,B・30株となっており,相互の対立,不信が極めて強く,株主総会を開催して取締役の改選決議をすることが困難な状況に陥っていること,前訴判決確定後も原告を被告の株主として扱わず,確定判決が命じた会計帳簿の閲覧等も応じない態度を示したこと,被告が資産管理会社であるところ,大部分の資産であるa社株式の売却に原告が関与する機会を与えず,この売却で得た23億7600万円の推移を原告に対し一切開示しないこと,原告を関与させずに,事業年度の変更,取締役報酬の増額,決算の承認をしたことからすると,被告が業務の執行において著しく困難な状況に至り,被告に回復することができない損害が生じ,又は生ずるおそれがあるといえる。
イ a社株式の売却により資産が現金化したため,被告の会社財産がBにより流出するおそれがある。
ウ 被告は,本件訴訟の係属後も原告に対し株主総会の招集通知を行わないことなど,これまでの被告の態度をみると,被告が資産管理によって得た利益を原告に還元するとは考え難く,かかる現状を打開する手段として会社解散以外に適切な手段はない。
【被告の主張】
ア 被告において取締役の任期の定めはなく,改選決議の必要性はない。
イ 被告は,取締役であるBの意思決定に基づき,正常に事業活動を継続しており,支払不能,銀行取引停止などの経済的窮状にはなく,営業活動が停止していることもない。
ウ 特例有限会社において,重要な資産の処分を行う場合に株主を意思決定に関与させなければならないという法律上定款上の定めはない。
エ 被告は,株主名簿の名義書換えさえあれば原告の株主権行使に異存はない。被告は,原告に対し,前訴判決において認められた平成24年度から平成26年度までの会計帳簿及びこれに関する資料を開示した。
オ 原告が保有する被告株式30株は,早晩,第三者に対して売却され,デッドロック状態も解消されることが見込まれる。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 差押えは,強制執行において執行機関による換価ないし満足を準備すべく対象を強制的に拘束するものであり,その目的に必要な限度においてのみその効力が認められると解するのが相当である。これを前提に,会社の解散の訴え(会社法833条1項)の提起が本件差押え及び本件仮差押えによって禁じられる「その他一切の処分」に含まれるかについてみると,まず,会社解散の訴えを提起する権利は,少数株主の投下資本回収の利益を保護するために認められた監督是正権の一種であり,本件差押え及び本件仮差押えにおいて禁じられる行為の例示として挙げられている利益配当請求権のような,直接会社から利益を享受する権利とは性質が異なる。そして,解散判決がされた場合,当該会社は清算手続が開始されることとなるが(会社法475条1項1号),清算手続が結了するまでその清算手続に引き続き株主として関与することとなるのであって(会社法478条1項3号,479条1項,507条3項など),解散判決の時点で当該株式が消滅するものではなく,会社の解散の訴えの提起は,株式の譲渡のような執行債務者の保有する株式を失わせる行為とはいえない。なお,清算手続内において残余財産の分配が予定されているが(会社法504条),残余財産分配請求権は会社から直接利益を享受する権利であるから,同権利には差押えの効力が及ぶと解するのが相当である。以上によれば,会社の解散の訴えは,差押えの対象となる株式に基づく投下資本回収の利益を保護するための制度であり,訴えが認容された結果生ずる権利には差押えの効力が及ぶことからすると,換価ないし満足という目的に沿ったものということができるだけでなく,差押えの目的物である株式を消滅させたり,株式から得られる利益を直接執行債務者に取得させてしまうものではないのであって,換価ないし満足の準備という目的を阻害するものとはいえず,執行債権者を害するものではないから,この目的を達成するために会社の解散の訴えを提起する権利にまで差押えの効力を及ぼす必要は認められない。仮差押えの目的は,債務者の財産の現状を保存して金銭債権の執行を保全するにあるから,その効力は,同目的のため必要な限度においてのみ認められるのであり,それ以上に債務者の行為を制限するものと解すべきではない(最高裁昭和45年(オ)第280号昭和48年3月13日第三小法廷判決・民集第27巻第2号344頁参照)。そうすると,仮差押えの場合も差押えの場合と同様に解すべきである。
(2) よって,本件差押え及び本件仮差押えがあっても,原告は原告適格を失わない。
(3) これに対し,被告は,本件株式の売却価格よりも被告の解散による残余財産分配額が低額になる可能性があり,現状を保存する必要性が認められる,本件差押えが取り消される可能性は低く,原告が再度の訴訟提起を余儀なくされるという訴訟不経済を招来することはない,本件株式が売却されることが合理的に見込まれるなど主張する。
しかし,本件株式の売却価格に関する主張については,被告が株式の譲渡に株主総会の承認を要する(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律9条1項,2項,会社法139条1項)こと,被告が確定判決があるにもかかわらず原告を株主として扱おうとしなかったこと(前記第2の1(2)エ,(3)ア,イ)を踏まえると,抽象的な可能性にとどまり,前記判断を左右するものとはいえない。本件差押えが取り消される可能性が低いなど,昭和48年判決と本件訴訟との事案の相違に関する主張については,前記(1)の会社の解散の訴えを提起する権利の性質に照らすと,前記判断を左右するものとはいえない。本件株式が売却される可能性については,売却が実施されるのでない限り,株主としての権利に影響を与えるものではないので,前記判断を左右するものとはいえない。その余の被告の主張も前記(1)において検討したところを併せて考えると,前記判断を左右するものとはいえない。
2 争点(2)について
(1) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。
ア Cは,Bとの間で,平成24年12月から平成25年1月25日までの間ころ,a社の経営をサポートするインセンティブについて協議し,被告がa社株式を取得し,Cが被告株式の50%を譲り受けることを合意した。同合意に基づき,被告は,同日,a社株式を51万株取得し,Bは,同年3月1日,Cが当時一人株主であり代表取締役を務める原告に対し,本件株式を代金150万円で譲渡した。(甲2の1,12,13,乙1。なお,前訴判決正本(甲2の1)及びCの陳述書(乙1)には被告が同年1月25日に5100株取得した旨の記載があるが,a社は100株を一単元とする単元株制度を採用していること(甲4),被告の有価証券の内訳書には同年12月20日にa社株式15万株を取得して平成26年1月31日現在でa社株式66万株保有している旨の記載があり,平成25年1月31日現在でa社株式51万株を保有していたとうかがえること(甲12)からすると,上記の5100株との記載は,単元の数と株式数を混同したことによるものであり,同月25日に被告が取得したa社株式の数は51万株と認めることができる。)。
イ 被告は,平成26年10月3日,前訴の大阪地裁での審理当時,被告がBの資産管理会社で,平成25年3月ころ当時,資産の大部分はa社株式である旨主張したが,前訴及びその控訴審を通じ,株主名簿に記載がされるまで原告が株主であることを対抗できない旨の主張をしなかった(甲2の1・2,13)。
ウ 被告は,平成28年2月1日から同年9月30日までの事業年度(以下,事業年度については期末をもって「平成28年9月期」のように表記する。)において,Bに対し,役員報酬540万円を支払った(甲23)。被告において,同日までの間に事業年度の変更がされた(甲23)。
エ 被告は,平成29年9月期において,Bに対し,役員報酬1620万円を支払い,役員退職慰労金引当金として11億0160万円を計上した(甲23)。
オ 被告は,平成30年9月期の定時株主総会について,原告に対し,招集通知を送付していない(弁論の全趣旨)。
(2)ア まず,被告がa社株式を保有するに至った動機は,Cがa社の経営に参加するインセンティブを付与することにあり,その枠組みとして,Cが支配する原告が被告株式を取得し,被告がa社株式を保有することで,被告を通じてa社株式の価値上昇による利益を原告に取得させる枠組みを形成したといえる(前記(1)ア)。そして,被告が前訴において被告が資産管理会社であり,平成25年3月ころ当時,被告の資産の大部分がa社株式であった旨主張したこと(前記(1)イ)を併せて考えると,平成25年3月以降,被告の中心的な目的はa社株式を保有し,その価値上昇に伴って得られる利益を被告の株主である原告及びBに取得させることにあったといえる。そして,被告は,平成28年10月14日に保有するa社株式を譲渡し,約23億円の金員を取得したのであるから(前記第2の1(2)イ),この時点では,その金員自体の分配や金員の運用利益の分配が被告の中心的な目的となるところ,被告は,前訴において株主名簿の名義書換えが未了である旨の主張をせず(前記第2の1(2)ア),原告との間で,平成28年4月27日を基準時として原告が被告株式30株の株主であることについて既判力が生じたにもかかわらず(前記第2の1(2)ア,ウ),株主名簿の名義書換えが未了であることを理由に原告の株主としての権利行使を争い,前訴で認められた範囲の会計帳簿の閲覧謄写にも本訴において裁判所の示唆により株主名簿の名義書換えを行うまで応じず,その余の範囲の会計帳簿の閲覧謄写にも応じないなど(前記第2の1(2)エ,(3)アからウまで),上記金員の管理状況等について株主である原告に対して明らかにしようとしない。原告とBは,被告株式を30株ずつ保有し(前記第2の1(1)ア,イ),Bが前記のような確定判決にも従わない態度を示して原告が株主として行動することを拒絶し,上記金員の分配について判断する前提となる管理状況を原告が知ることができないことから,被告の中心的な目的であるa社株式から生じた利益の分配を行うために必要な決算の承認や利益の配当など株主総会において決定すべき事項の決定ができない状態にあるといえる。他方,Bは,原告が被告から何らの利益を得ることができずにいるのに,役員報酬を増額するなどして被告から利益を得たほか,役員退職慰労金引当金を約11億円計上するなど,被告から多額の利益を得ようとしており(前記(1)ウ,エ),被告において,仮に株主総会で取締役の報酬の決定を取締役に委任する決議がされていたとすると,唯一の取締役であるBが自由に自己の報酬を定めて会社財産をBへ移転することができることになり,被告の確定判決の既判力を無視するなどの原告への対応をみても,原告への利益の移転を防ぐべく,被告の資産をBへ役員報酬ないし退職慰労金として移転するおそれがある。さらに,被告株式をBと原告で50%ずつ保有するため,被告の取締役を交代させる株主総会決議をすることはできず,仮にBについて解任の訴えが認められたとしても,その後任取締役を選任する株主総会決議をすることができず,Bが被告の唯一の取締役であるから(前記第2の1(1)イ),業務執行が可能な状態を作出することができないのであって,解散の訴えによるほか現状を打開することはできないというべきである。
イ 以上によれば,被告が業務の執行において著しく困難な状況に至り,被告に回復することができない損害が生じ,又は生ずるおそれがあり,やむを得ない事由があるといえる。
ウ これに対し,被告は,Bの意思決定に基づき正常に事業活動を継続しており,被告が業務の執行において困難な状況に至っていない,株主名簿の名義書換えさえあれば原告の株主権行使に異存はなく,被告は,原告に対し,前訴判決において認められた平成24年度から平成26年度までの会計帳簿及びこれに関する資料を開示しており,やむを得ない事由がない旨主張する。
業務執行に関する主張に関し,Cの陳述書(乙1)には被告がコンサルティング業を行っていることをうかがわせる記載があり,被告がコンサルティング業を行っていないことを示す証拠は見当たらないものの,被告が株主である原告の求めにもかかわらず近年の会計帳簿等を開示しないため,コンサルティング業等の事業活動の規模を明らかにする証拠はなく,前記アにおいて検討したところを併せて考えると,平成28年10月以降,被告の中心的な目的がa社株式から生じた利益の分配以外の事業活動にあるということはできず,前記アの判断を覆すに足りるものとはいえない。そうすると,前記アのとおり,被告の中心的な目的に関する業務の執行において著しく困難な状況に至っているのであるから,被告の業務の執行の一部に支障がなかったとしても,解散事由があるとの判断に影響しないと解するのが相当である。
また,原告を株主として取り扱う旨の主張については,株主名簿の名義書換えが未了であるという事由は,前訴当時から生じていた事由で前訴において主張できない事情も見当たらないから,前訴判決の既判力によって遮断される事由であるのに,被告は,本件訴訟においてこれを主張して原告が株主であることを争うなど(前記第2の1(3)ア),確定判決の既判力を無視してまで原告による株主権の行使を拒絶しようという強固な態度を示しており,株主名簿の名義書換え後においても,原告の平成28年1月期以降の会計帳簿等の閲覧謄写に応じない(前記第2の1(3)ウ),原告に対し平成30年9月期の定時株主総会の招集通知を送付しない(前記(1)オ)など,原告による株主権の行使を拒絶していることを踏まえると,被告が今後もあらゆる理由を付けて原告による株主権の行使を認めない可能性が高く,被告の主張はやむを得ない事由があるとの前記判断を左右するものではない。また,その余の被告の主張は,前記検討したところに照らし,前記判断を左右するものではない。
3 結論
以上によれば,原告の請求には理由がある。よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第8部
(裁判官 諸井明仁)
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