判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(182)平成25年 2月22日 東京地裁 平21(ワ)29315号 損害賠償請求本訴事件、報酬金請求反訴事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(182)平成25年 2月22日 東京地裁 平21(ワ)29315号 損害賠償請求本訴事件、報酬金請求反訴事件
裁判年月日 平成25年 2月22日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)29315号・平22(ワ)7237号
事件名 損害賠償請求本訴事件、報酬金請求反訴事件
裁判結果 本訴請求棄却、反訴請求認容 文献番号 2013WLJPCA02228019
要旨
◆被告会社及びBとの間の投資事業組合契約により成立した民法上の組合である原告が、原告の業務執行に係る投資等の決定、実行につき業務執行組合員であった被告会社の悪意重過失により損害を被ったとして損害賠償を求めるとともに、被告会社の取締役であった被告Y1、Y2にも損害賠償を求めた(本訴)のに対し、被告会社が本組合契約に基づく管理報酬金の支払を求めた(反訴)事案において、本件各投資に関し、被告会社が実質的利益相反取引をしたとか投資の適否判断のための必要最低限な調査をしなかったとはいえず、業務執行につき裁量権濫用、善管注意義務違反及び忠実義務違反は認められないから、Y1、Y2も任務懈怠等は認められないとして、本訴請求を棄却する一方、被告会社は本組合契約による管理報酬請求権を取得したとして、反訴請求を全部認容した事例
参照条文
会社法330条
会社法355条
会社法356条3号
商法266条ノ3第1項(平17法87改正前)
商法522条
民法91条
民法644条
民法667条
裁判年月日 平成25年 2月22日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)29315号・平22(ワ)7237号
事件名 損害賠償請求本訴事件、報酬金請求反訴事件
裁判結果 本訴請求棄却、反訴請求認容 文献番号 2013WLJPCA02228019
平成21年(ワ)第29315号 損害賠償請求本訴事件
平成22年(ワ)第7237号 報酬金請求反訴事件
東京都港区〈以下省略〉
本訴原告(反訴被告) ジェービィック1号投資事業組合(以下「原告」という。)
同代表者清算人弁護士 平野高志
同 菅奈穂
同 渡邊隆元
同代理人弁護士 千葉直人
東京都港区〈以下省略〉
本訴被告(反訴原告) ジェービィックベンチャーキャピタル株式会社(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 A
東京都大田区〈以下省略〉
本訴被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 上岡秀行
同 十亀正嗣
東京都江東区〈以下省略〉
本訴被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
同訴訟代理人弁護士 和田好史
主文
1 本訴原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。
2 本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)ジェービィックベンチャーキャピタル株式会社に対し,2884万9658円及びこれに対する平成22年2月27日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,全て本訴原告(反訴被告)の負担とする。
4 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
(本訴)
被告らは,原告に対し,連帯して,3億0275万8391円及びこれに対する平成21年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(反訴)
主文第2項同旨
第2 事案の概要
本訴は,被告会社及びB(以下「B」という。)との間の平成12年8月1日付け投資事業組合契約(以下「本組合契約」という。)に基づいて成立した民法上の組合である原告が,① 原告の業務執行組合員であった被告会社に対し,原告の業務執行に係る投資等の決定及び実行につき,悪意又は重過失があり,これによって損害を被ったと主張して,善管注意義務違反及び忠実義務違反に基づき,損害賠償金3億0275万8391円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年9月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,② 被告会社の取締役であった被告Y1及び被告Y2に対し,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)266条の3第1項に基づき,同額の損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年9月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
反訴は,被告会社が,原告の業務執行組合員として,原告の業務執行を行ったと主張して,原告に対し,本組合契約に基づき,管理報酬金2884万9658円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成22年2月27日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は,本組合契約に基づいて成立した民法上の組合であり,日本の未公開企業であって,本件組合契約期間中に株式を公開する可能性があり,高成長が見込める企業に対し,その発行する株式,新株引受権付社債,転換社債又はその他の投資証券を取得し,もって投下資本を増殖回収することを目的としている。原告は,平成17年12月31日,契約期間満了により解散し,現在清算中である。(甲1,乙イ37)
イ Bは,昭和44年以来,パチスロ機等の開発・製造等を業とするアルゼ株式会社(後の商号 株式会社ユニバーサルエンターテイメント。以下,両者を区別することなく「アルゼ」という。)の代表取締役の地位にある者である。
ウ 被告会社は,経営コンサルタント業務,企業に対する貸付け・保証及び投資,投資事業組合財産の運用及び管理等を目的とする株式会社であり,未公開企業への投資等を行ういわゆるベンチャーキャピタルである。日本ベンチャーズインベストメントクラブ株式会社(以下「NVIC」という。代表取締役はC(以下「C」という。))は,被告会社の完全親会社であり,平成12年12月末当時,NVICは他に,ジェービィック証券株式会社の66%の株式,ジェービィック投資顧問株式会社の100%の株式を保有していた。
エ 被告Y1は,野村證券株式会社の取締役であった者であり(平成2年6月取締役,平成7年6月常務取締役になり,平成10年3月退社),被告会社の設立時(平成12年5月1日)からの取締役(平成12年9月30日から平成13年3月31日まで及び平成14年7月12日以降は代表取締役)兼会長であった。
オ 被告Y2は,平成12年4月までアクシーズジャパン証券株式会社等の取締役であった者であり,被告会社の設立時から平成13年3月31日までの間,同社の取締役(被告会社の設立から平成12年9月30日までは代表取締役)であった。
(2) 原告への出資
Bは,平成12年7月27日,原告に対する出資金10億円を,被告会社は,同日,原告に対する出資金1000万円を,それぞれ原告名義の銀行口座に振込送金する方法により出資した。他に原告に対する出資者はおらず,Bは原告の非業務執行組合員であり,被告会社は原告の業務執行組合員であった。(甲26)
(3) 本組合契約には,次の規定がある。
11条1項 非業務執行組合員は,本契約に明文をもって定められている権限を除き,前条に規定する事項を含め,業務の執行に関与し又は本組合を代表するいかなる権限も有しない。
2項 組合持分の4分の3以上を有する非業務執行組合員からの請求があったとき又は業務執行組合員が適宜必要と判断したときは,業務執行組合員は全組合員に対し,書面による30日以上の事前の通知をなして組合員集会を招集するものとする。組合員集会において業務執行組合員は,本組合の運営及び組合財産の運用につき報告することができ,また組合員は業務執行組合員に対しそれにつき意見を述べることができる。
3項 非業務執行組合員は,(中略)財務諸表及び投資会社報告書の発送後20日以内に,業務執行組合員に対して,書面で,本組合の財産状況及び業務執行組合員の業務執行状況につき質問することができる。(略)
12条3項 業務執行組合員は,取引価格の公正さが客観的に担保されている場合を除き,自己又は第三者のために,本組合と取引をすることができない。
14条1項 業務執行組合員は故意又は重大な過失がない限り,本組合の業務の執行の結果生じた損失又は損害に関して,本組合又は非業務執行組合員に対して,いかなる責任も負わないものとする。
2項 業務執行組合員は,本契約上の裁量権の行使又は不行使の結果生じた損失又は損害に関して,それが本組合の利益になると信じて行われたものである限り,本組合又は非業務執行組合員に対して,いかなる責任も負わないものとする。
26条 業務執行組合員は,組合業務執行の役務に対する報酬として,組合財産からそれぞれ次に定めるものをそれぞれに規定する時期に受領するものとする。但し,本契約に基づき本組合が解散し,清算手続が開始した場合には,業務執行組合員は,次のb.に限り,報酬として受領できるものとする。
a. 管理報酬として,直前半期末組合純資産額の年率3%に相当する金銭(中略)各期首毎に前払。ただし,日割計算とする。
b. 成功報酬として,本契約第22条2項に規定する割合の現物又は金銭(中略)業務執行組合員が相当と認める時。
組合員の受ける分配金累計額が出資金額の200%を超えた場合には,当該超える額の成功報酬については,40%となる。
33条2項 業務執行組合員は,以下の場合に限り,非業務執行組合員の全員一致により業務執行組合員たる地位を解任されるものとする。
(中略)
② 本契約第12条3項の規定に故意に違反した場合
③ 業務を執行するにあたり又は本組合を代表するにあたり違法行為を為した場合
④ その他本契約上の重大な義務に違反した場合
(4) 株式会社ゼフィール(以下「ゼフィール」という。)への投資(以下「ゼフィール投資」という。)
ア ゼフィール(代表取締役はD(以下「D」という。))は,人材の募集に関する情報提供サービス等を目的とする株式会社であり,設立時の商号は,株式会社アクセスビジネスワールド,同社の発起人兼平成11年10月までの代表取締役は,E(以下「E」という。)であった。(甲29)
イ 原告は,平成12年7月31日,NVICからゼフィールの株式(以下「ゼフィール株式」という。)100株を1株85万円で購入した。なお,NVICは同年2月24日,第三者割当増資により,ゼフィール株式1200株を1株5万円で取得していた。(甲12)
ウ 原告は,平成12年8月7日,ゼフィールが発行した第1回無担保新株引受権付社債1億円(年利4%,償還金額1億円,償還期限平成13年7月31日 以下「ゼフィール第1回社債」という。)を引き受けた。
エ 原告は,平成12年12月15日,ゼフィールが発行した第2回無担保新株引受権付社債5400万円(年利7%,償還金額5400万円,償還期限平成13年12月11日 以下「ゼフィール第2回社債」という。)を引き受けた。
オ 原告は,平成13年12月6日,ゼフィール第2回社債の新株引受権を行使し,ゼフィール株式22株(1株の発行価額25万円,合計550万円について,ゼフィール第2回社債の繰上償還金と相殺する方法により払込み。)を取得した。
カ 原告は,平成13年10月2日頃,ゼフィール及びDとの間で,ゼフィール第1回社債の元本償還債務について,弁済期を平成14年7月31日,利息を年4%とする金銭準消費貸借契約を締結し,その後順次弁済期を延長したが,ゼフィール及びDは元本及び利息の一部しか弁済せず,平成16年7月31日時点における残元金は9740万円であり,同年8月31日時点での未払利息は1216万3590円であった。(甲16)
キ 原告は,平成14年1月25日頃,ゼフィールとの間で,ゼフィール第2回社債の元本償還債務について,弁済期を同年12月28日,利息を年4%とする金銭準消費貸借契約を締結し,その後順次弁済期を延長したが,ゼフィールは元本の一部しか弁済せず,平成16年8月31日時点における残元金は4620万円,未払利息は649万4801円であった。(甲16)
ク ゼフィールは,平成16年9月6日,東京地方裁判所から破産宣告を受けた。
(5) 株式会社鈴商(以下「鈴商」という。)への投資(以下「鈴商投資」といい,ゼフィール投資と併せて,「本件各投資」という。)
ア 鈴商は,通信機器の製造,販売等を目的とする株式会社である。(甲45)
イ 原告は,平成12年12月15日,鈴商の株式(以下「鈴商株式」という。)400株(1株5万円,合計2000万円)を第三者割当増資により取得した。
ウ 原告は,平成13年1月25日,鈴商が発行した第1回無担保新株引受権付社債(以下「鈴商社債」という。)3000万円を引き受けた。
エ 鈴商は,平成13年11月頃,営業を停止した。
2 争点
(1) 争点(1)(ゼフィール投資についての被告会社の責任)(本訴について)
(原告の主張)
ア ゼフィール株式及びゼフィール第1回社債
(ア) 実質的利益相反取引(裁量権の濫用)
a 投資スキームの利益相反性
ゼフィールの発起人は,Eであり,Eは,平成11年10月まで同社の代表取締役を務めていた。一方,NVICの発起人もEであり,ゼフィール投資の当時,NVICは,ゼフィール株式の50%を保有し,その本店所在地はゼフィールと同一の建物内にあり,ゼフィールの経営に深く関与し,ハンズオン(投資先の価値を増大させるために,投資先の経営に積極的に関与すること)の範囲を超えた独自の深い利害関係を有していた。
そして,被告会社とNVICとは形式的には別の法人であるが,NVICは被告会社の完全親会社であり,両社の役員構成は共通しており,両社の本店所在地は同一であった。また,被告会社における社内の投資検討資料にNVICの代表であるCが発案者として署名し,承認者として捺印しており,被告会社は,原告の業務執行組合員としての投資判断にNVICを実質的に関与させていた。そうすると,実質的には被告会社とNVICは一体であり,原告とNVICとの取引は,原告と被告会社との取引と同視できる。
このような構造的な利益相反関係がある場合の投資判断については,当該投資判断が正当であることを被告会社において立証できない限り,原告に係る業務執行につき被告会社の裁量権の濫用が推認されるというべきである。
よって,被告会社が,ゼフィール株式を,NVICから譲り受ける方法により,原告に取得させたことは,業務執行組合員が自己又は第三者のために原告と取引を行うことを禁止した本組合契約12条3項に違反する利益相反取引に当たる。
b ゼフィール株式の取得価額の不当性
利益相反取引も,取引価格の公正さが客観的に担保されている場合には許容される。しかし,被告会社は,原告にゼフィール株式を1株85万円という不相当な高値で取得させているから,取引価格の公正さが客観的に担保されているとは到底いえない。被告らは,監査法人a作成の意見書(甲19 以下「本件意見書」という。)に依拠して上記の株価の算定が妥当である旨主張するが,本件意見書は,ゼフィールが算定した株価評価について,その方法のみの妥当性を外形的に評価したものにすぎず,事業計画の実現可能性等を考慮の上で,主体的に算定した株式評価ではない。同法人の同一の会計士は,本件意見書作成の3箇月後に,株価算定の引き下げを行うべき事情がなく,ゼフィールの売上げが上方修正された中で,ゼフィールの事業計画の実現可能性等の分析も考慮して株価を35万円程度と算定しており,このことからすれば,上記の85万円という株価が不当に高額であったことは明らかである。
NVICは,当初ゼフィール株式を1株5万円で取得しており,原告に対し,ゼフィール株式100株を1株85万円で譲渡したことで,8000万円もの譲渡益を得たことからすれば,被告会社は,ゼフィール株式の価格が不当な高値であることを認識しながら,本組合契約に違反して,NVICの利益を図る目的で,原告にゼフィール株式を取得させたというべきである。
c 原告がゼフィール株式を取得する必要性がないこと
被告らは,平成12年7月当時,ゼフィールには2億円の資金需要があったが,株式の希薄化防止及びNVICの持ち株比率低下の必要性を考慮し,原告がゼフィール株式100株及びゼフィール第1回社債1億円を取得した旨主張する。しかし,ゼフィールに2億円の資金需要があったというのに,ゼフィールに直接資金の入らない方法により株式を原告に取得させ,資金需要の半分にすぎない1億円の社債を引き受けさせるという投資方法を採ったというのは不合理である。また,原告がゼフィール株式を取得した同日,NVICは,Eが代表取締役を務める株式会社アクセスプランニング(以下「アクセスプランニング」という。)からゼフィール株式50株を取得しており,原告にゼフィール株式を取得させた目的は,NVICの持ち株比率低下などではなく,アクセスプランニングに利益を還元することにあったことが明らかである。
(イ) 必要最低限の調査の不履行(裁量権の逸脱)
ゼフィールは平成11年に設立したばかりの会社であり,平成12年2月時点では約1200万円の赤字があり利益は出ていないこと等を考慮すれば,同社が平成13年に株式を公開する可能性が乏しく,同社が発行する社債の償還可能性が低いことは明白であった。
しかし,被告会社は,原告に対する善管注意義務・忠実義務の一環として,投資先企業等について十分調査し,投資の適否を検討する義務を負っていたにもかかわらず,ゼフィール株式の取得及びゼフィール第1回社債の引受けに際して,NVICとは別に被告会社独自の調査検討をほとんど行わず,NVICの調査検討のみに依拠して投資を行ったから,必要最低限の調査を怠ったというべきであり,被告会社に与えられた原告に係る業務執行権につき裁量権を逸脱している。
(ウ) 被告Y2の補足主張について
被告Y2は,Bが,平成12年7月28日,F(以下「F」という。)を通じて,被告会社に対し,ゼフィール株式及びゼフィール第1回社債を買い付けるよう指示した旨主張する。しかし,被告会社の投資委員会議事録(甲30)によれば,被告会社は,同月26日には投資委員会でゼフィール株式を取得することを決定していたのであるから,同月28日にBからの指示などなかったことは明らかである。
イ ゼフィール第2回社債
被告会社は,善管注意義務・忠実義務の一環として,投資先企業等について十分調査し,投資の適否を検討する義務を負っていた。しかし,被告会社は,ゼフィールについて,資金調達の使途,償還可能性を調査検討することなく,償還可能性が低いことを認識しながら,NVICの代表取締役であるCの実質的な関与の下,NVICの利益を図る目的で,ゼフィール社債を引き受けた。
平成12年10月当時,ゼフィールの事業計画は大幅に遅れており,事業計画どおりの増資もままならない状況であり,上場又は金融機関から借入れを前提とした償還可能性を検討すること自体が極めて不合理である。
被告会社がこのような不合理な投資を行ったのは,NVICの損失を防ぐ目的で,原告の組合財産を流用して,ゼフィールのわずかな事業改善の可能性に賭けたからである。
ウ Bは原告の実質的意思決定権者ではないこと
被告らは,被告会社が実質的意思決定権者であるBの下での単なる業務執行者にすぎない旨主張するが,被告会社は,自らの裁量の下で,原告の業務執行を決定し,最終的な投資決定をしていたものであり,Bが原告の実質的意思決定権者であったことはない。
また,被告らは,Bは投資経験豊富なプロの投資家であり,原告がBの財力とベンチャー企業への高い投資意欲を背景にした完全カスタムメイドのファンドである旨主張する。しかし,Bは,平成12年7月当時,自らがオーナー企業として創業したアルゼの株式を上場させた経験こそ有していたものの,個人で未公開株やベンチャー企業等に投資した経験は全くなく,Bがプロの投資家であるということはなかった。
Bは,被告会社及び被告Y1が相応の注意義務とルールに則り,B以外の投資家からの資金とともに,10億円を適切に運用すると信じて,被告会社に10億円の運用を任せたのであり,Bは,被告Y1から原告がベンチャー企業への投資を目的とするとの説明を受けたことはないし,組合報告書の交付や郵送は一切されておらず,原告の投資判断に必要な情報の開示及び説明を受けたこともない。
エ Bはゼフィール投資に関する代理権をGに授与していないこと
被告らは,ゼフィール投資について,B又はBから代理権を授与されたG(Bの子でアルゼの取締役)から,承諾を得ていた旨主張するが,Bは,被告会社から個々の投資先についての具体的な説明を受けていないからこれを承諾することなどなかったし,BがGに対し,本組合契約に関する代理権を授与したことはない。
オ 本組合契約14条2項は公序良俗に反すること
本組合契約14条2項によれば,被告会社に悪意又は重過失による善管注意義務違反があった場合でも,本組合の利益になると信じていた旨主張すれば免責されることとなり,被告会社が原告から多額の管理報酬,成功報酬を得ることに比して著しく不公正であるから,本組合契約14条2項は,公序良俗に反し無効である。
(被告らの主張)
ア ゼフィール株式及びゼフィール第1回社債
(ア) 実質的利益相反取引ないし必要最低限の調査の不履行はないこと
a ゼフィールが有望な会社であったこと
① 事業計画の合理性,成長性
ゼフィールは,携帯電話を利用した大量即時の情報受発信により,登録者の学生や若者を,大量かつ即時に,雇用ニーズのある企業に派遣する事業を計画していた。同事業によれば,登録者の空きスケジュールや希望職種と企業側のアルバイトニーズとをコンピュータ上で自動的にマッチングさせ,事務コストの大幅な削減が見込めた。
また,ゼフィールは,登録者に対する電子コマースによる物販事業の展開を予定していた。具体的には,登録者が商品やサービスを携帯電話で購入するに当たり,その代金支払をアルバイトの予約申込みを行うことで購入可能とする与信サービスであり,「与信を利用した決済方法」として特許出願もしている。
平成12年当時は,人材派遣業や業務請負業の成長が著しく,ゼフィールの事業領域である学生や若者のアルバイト派遣は,小売業や外食産業等のサービス業にニーズがあった。人材派遣業と電子コマースによる物販事業を融合するという戦略は,他の類似業者にはない独自の戦略であった。
このように,ゼフィールの事業計画における市場の設定及びシステムには,高い合理性,成長性及び他社に対する優位性があった。
② 経営者及び経営態勢
Dは,大学在学中から学生イベントプロモーターとして実績があり,アルバイトあっせんに関して学生の間で知られた存在だったことに加え,企業家としての資質を有していたし,被告会社は,経営支援のためにCを役員として派遣しており,ゼフィールにはDをサポートする経営組織が整いつつあった。
③ 株式の公開可能性
ベンチャー企業に対する投資においては,設立されて間もない会社であることや,赤字決算である等の事情から株式の公開可能性を判断するのではなく,種々の状況を調査し,ハンズオンを行うことを前提として,潜在的に高い成長性を見出して株式の公開可能性を判断するものである。
平成11年11月,新興企業を対象とするマザーズ市場が開設され,高い独自性と成長性があれば,設立して間もなく,赤字の会社であっても上場が可能な状況であった。ゼフィールは,新興企業育成を目的とするマザーズへの上場へ向けて,有価証券報告書の整備や主幹事証券会社の指名等の準備を進めていたのであり,ゼフィールが株式を公開する可能性は高かった。
b NVICと被告会社の関係
NVICは,起業支援,ベンチャー企業発掘,経営アドバイス,ベンチャー企業と投資家のマッチングを行い,ベンチャー企業に資金調達等の支援を行うことを目的とする会社であった。他方,被告会社は,投資家から出資を募り投資事業組合の運用を行い,投資家の資産運用を行うことを目的とする会社であった。このように,NVICと被告会社は,同じグループ会社とはいえ,全く異なる目的を有する別個の法人として設立され,その経営は明確に分離されていたから,NVICと被告会社が一体であるということはない。NVICと被告会社が協力して活動したのは,ベンチャー企業に対し,その成長時期を逃さない早期のファイナンスを行うことによって,ベンチャー企業を一気に成長させることを目指したためであり,これはベンチャー企業と投資家の双方にメリットの大きい態勢であった。
c ゼフィール株式及びゼフィール第1回社債取得の目的
被告会社は,投資スキームの決定に際して,まず,ゼフィールが株式上場を達成するために必要な資金調達額として,平成12年度中において情報システム投資約5000万円,営業増員に伴う営業関連費用約5000万円,資金繰りに必要な運転資金1億円超の合計約2億円であると算出した。また,ゼフィールは,平成13年2月期決算基準で上場を目指していたところ,引受証券会社から,継続開示企業に該当しないNVICが株式の50%を保有していることは,株式上場審査上,問題がある旨指摘された。
このため,NVICの持ち株比率を低下させることが優先度の高い資本戦略となり,被告会社は,ゼフィールの早期の上場を実現するためには,NVICから原告がゼフィール株式を買い受けることもやむを得ないと判断した。
そして,被告会社は,発行済株式数の増加による株式の希薄化を防止しつつ,NVICのゼフィール株式保有割合を下げる方法として,原告がNVICからゼフィール株式を取得すること,ゼフィール第1回社債1億円を引き受けることで所要資金の半分をまかなうことが,資金調達,資本戦略として最適であると判断した。Dによれば,残りの1億円の資金については,原告以外の投資家から資金調達ができる見込みであり,被告会社としては,当時追加投資の可能性も視野に入れていた。
原告は,ゼフィール株式を原告に取得させることがNVICの利益を図る目的であった旨主張するが,NVICは,ゼフィールが破産する平成16年9月まで,ゼフィール株式の32.3%を手放すことなく保有していた筆頭株主だったのであり,原告の主張に理由がないことは明らかである。
また,本組合契約26条には,組合員の受ける分配金累計額が出資金額の200%を超えた場合には,当該超える額の成功報酬については,40%となると規定されており,投資先企業のIPO(Initial Public Offers 新規株式公開)を実現させて原告の利益を追求することが被告会社の収益増加につながることが明らかであって,被告会社が原告以外の利益を図ることなどありえない。
d ゼフィール株式の取得価額が適正であること
1株85万円というゼフィール株式の原告の取得価額は,本件意見書を一つの参考意見として算定したものであり,直近の売買事例から見ても適正な価格であった。ゼフィールのような未公開会社の株式評価額については,公開会社のような一定の確定した評価額は存在せず,多くの株価算定方式のうちどの株価算定方式を採用するかによって株価の評価額は大きく異なり得る。そして,その評価額の違いは株価算定方式の違いによるものにすぎず,いずれの評価額も適正かつ相当である。
投資家であるベンチャーキャピタルは,投資候補先企業の調査を行い,相対で協議して企業価値を値踏みし,資本戦略をにらみながら株価を決定するものであるから,当該株価が一物多価になるのは当然のことである。
e 実質的利益相反取引に当たらないこと
原告は,被告会社とNVICが一体であり,原告にNVICからゼフィール株式を取得させたことは,本組合契約12条3項に違反する実質的利益相反取引である旨主張する。しかし,被告会社とNVICは一体ではないから,ゼフィール株式の取得が本組合契約12条3項に反することはない。NVICは,被告会社の業務に関与することはあったが,創業段階にある企業の支援及び投資家への情報提供を行うインキュベーターとしての役割を果たしたのであって,被告会社とNVICが一体である理由にはならない。
f 十分な調査を行ったこと
被告会社は,Dら経営者の事業遂行力,事業モデルの合理性・成長性,財務状況等の十分な調査検討を行い,ゼフィールが前記aのとおり有望な会社であると判断した。
g Bの買付け指示について(被告Y2の補足主張)
Bは,本組合契約の締結前である平成12年7月28日,Fを通じて,被告会社に対し,ゼフィール株式及びゼフィール第1回社債を買い付けるよう指示した。この点について,原告は,被告会社が,同月26日の投資委員会で,ゼフィール株式を同月31日に取得することが決定されていた旨主張する。しかし,その時点では原告は設立されておらず,上記株式の買付け指示を受けて,事後的に被告会社として投資に関する形式を整えたにすぎない。
イ ゼフィール第2回社債
ゼフィールは,平成12年10月頃,登録者の派遣が増加し,それに伴って登録者に対する給与の支払が増大したことから,運転資金が逼迫していた。事業基盤が整備されて,更なる成長が見込める状況の下で,情報システムへの投資を継続しつつ,運転資金を確保するためには,社債による資金調達が必要であった。
同年12月12日のゼフィール第2回社債引受当時も,ゼフィールの事業計画を達成させてベンチャー企業を育てるための多くの賛同者がおり,その成果が出ていたから,被告会社の投資判断は適正であった。
ウ Bが原告の実質的意思決定権者であること
(ア) Bは,平成10年9月1日に自らが代表を務めるアルゼの株式上場を果たした辣腕実業家であり,巨額の創業者利益を取得するという成功体験を持つほか,数多くの投資経験を有し,その知識経験は深く,金融資産も潤沢で,投資のプロ並みの理解・判断力を有していた。Bは,自ら株式上場を果たしていたことから,成功確率が低くハイリスクの投資である反面(ただし,損失は投資元本に限定される。),成功した場合のリターンは,投資額の数百倍にもなり得るという極めて魅力的なIPO投資の特性を十二分に理解していたことから,原告への出資を行ったものである。したがって,原告の実質的な意思決定権者はBであり,被告会社は飽くまで実質的な意思決定権者であるBの下における単なる業務執行者にすぎない。
被告会社は,平成12年7月6日にゼフィール株式について,Bに説明し,投資を行うことの了承を得ており,また,同年8月23日にゼフィール第1回社債について,Bに説明し,了承を得た。被告会社は,同年10月20日にゼフィール第2回社債について,Gに説明し,投資を行うことの了承を得ていた。
(イ) 被告会社は,ゼフィール投資の前後にわたり,B又はGに対してその説明をして承諾を得たほか,決算報告書を交付又は送付したにもかかわらず,Bは,異議を述べたことがなかったから,Bがゼフィール投資について了承していたことは明らかである。
エ Bはゼフィール投資に関する代理権をGに授与したこと
なお,Bは,平成12年7月6日,被告Y1に対し,同日以降は,本組合契約に関することはGに報告,相談するよう指示し,Gに権限を委譲した。
オ 本組合契約14条2項は公序良俗に反しないこと
原告は,本組合契約14条2項は,公序良俗に反し無効であると主張するが,原告の利益になると信じて行った行為が免責されるのは当然であり,同規定は公序良俗に反しない。
(2) 争点(2)(鈴商投資についての被告会社の責任)(本訴について)
(原告の主張)
ア 実質的利益相反取引(裁量権の濫用)
鈴商投資は,ゼフィールとの事業接点を作り,NVICが通信事業へ参画し,Cが鈴商へ経営参加することを目的としてされたものであって,専らNVIC及びCの利益を図る目的で行われたものであるから,被告会社が,原告の業務執行組合員としての裁量権を濫用したことは明らかである。
イ 必要最低限の調査の不履行(裁量権の逸脱)
被告会社は,鈴商株式への投資に先立ち,被告会社として独自に,形式的,外形的調査以上の実質的調査検討を行っていない。被告会社は,鈴商投資に当たり,適切な財務及び法務デューデリジェンスを行っておらず,投資後にも何ら適切なモニタリングをしていない。
鈴商は,原告が鈴商株式を取得した平成12年12月当時,大幅な債務超過で,主力商品となるべきマイライン事業は全く業績がない状況にあり,株式を公開する可能性はなかった。また,原告が鈴商社債を引き受けた平成13年1月当時,鈴商は大幅な債務超過で,株式を公開する可能性はなく,鈴商社債が約定のとおりに償還される可能性が低いことは明らかであった。
ウ Bは原告の実質的意思決定権者ではないこと
上記の点についての原告の主張は前記(1)(原告の主張)ウと同様である。
エ Bは鈴商投資に関する代理権をGに授与していないこと
上記の点についての原告の主張は前記(1)(原告の主張)エと同様である。
(被告らの主張)
ア 実質的利益相反取引及び必要最低限の調査の不履行はないこと
(ア) 鈴商が有望な会社であったこと
a 事業計画の合理性,成長性
鈴商は,平成12年当時,東京電力系の電話会社である東京電話の大手代理店であり,特に神奈川県内では90%のシェアを獲得するなど営業力の高い会社であった。鈴商は,平成13年1月からサービスの申込み受付が開始されるマイライン事業を新規事業として立ち上げ,急速な拡大成長を目指していた。
マイライン事業は,国内の通信事業各社が一斉に参入する事業であり,通信事業者から各代理店に手数料が支払われたため,代理店にとっては非常に利益率の高い事業であり,鈴商が蓄積してきた電話回線再販事業のノウハウを生かせるものであった。
原告は,鈴商には主力商品となるべきマイライン事業の実績が全くなかった旨主張する。しかし,マイライン事業サービスは平成13年1月に申込みが開始されるものであったから,平成12年12月時点で業績がないのは当然である。
b 経営者及び経営態勢
鈴商の代表取締役であるHは,秀逸な営業マンであり,各代理店を的確に組織,統率して,販売促進や契約獲得のノウハウを蓄積していた。また,当時,鈴商には財務戦略や経営管理を掌握する人材がいなかったことから,早急に経理及びマネジメントに精通した人材を役員として登用する予定であり,その一環としてCを取締役に就任させることで,経営態勢を改善させる見込みであった。
c 株式の公開可能性
被告会社は,鈴商の上場を視野に入れながら,ゼフィールとの合併も考慮に入れて投資を行った。ゼフィールの上場は計画されていたので,ゼフィールと鈴商の合併又は株式交換を行うことで,原告が保有していた鈴商株式の早期流動化が図れると判断したためである。
(イ) 十分な調査を行ったこと
被告会社は,鈴商投資に当たり,決算報告書や企業報告レポート等の書面に基づき,聞き取りも行って,慎重に調査検討を行った。
(ウ) 鈴商投資の判断が適正であったこと
被告会社は,額面株式として許容されていた最低金額である5万円で鈴商株式を取得したのであり,これは原告に最も有利なものであった。
また,被告会社が,ゼフィールを紹介することで,登録者への営業効果が高く見込め,他方,マイライン事業に必要なコールセンター要員,アルバイト販売員をゼフィールの登録者から確保できる見込みがあったことから,両社の相乗効果が期待できると判断した。
鈴商は,財務及び管理面が弱かったことから,Cが鈴商での経理,財務面での経営指導を行うことを条件に投資を行ったのであり,鈴商投資がCの利益を目的としていたということはない。
イ Bは原告の実質的意思決定権者であること
上記の点についての被告らの主張は前記(1)(被告らの主張)ウと同様である。
ウ Bは鈴商投資に関する代理権をGに授与したこと
上記の点についての被告らの主張は前記(1)(被告らの主張)エと同様である。
(3) 争点(3)(本件各投資についての被告Y1の責任)(本訴について)
(原告の主張)
被告Y1は,被告会社の取締役として,被告会社が本組合契約に従って適切に組合財産を運用管理するよう職務を行う義務を負っていた。
しかし,本件各投資が,被告会社の裁量権を逸脱,濫用したものであることを認識しながら,投資委員会に出席し,本件各投資の決定,承認及び執行をしたのであるから,任務懈怠について悪意又は重過失がある。
また,被告Y1は被告会社の他の取締役の業務執行について監視義務を負っていたにもかかわらず,被告Y2による本件各投資を阻止することなくこれを執行させ,監視義務を怠った。
よって,被告Y1は,旧商法266条の3第1項に基づき,損害賠償責任を負う。
(被告Y1の主張)
原告の主張は,否認ないし争う。
被告会社は,原告の利益のために慎重に調査検討した上で,本件各投資を決定,実行したのであるから,悪意・重過失による善管注意義務違反・忠実義務違反はなく,被告Y1にも,取締役としての任務懈怠及び悪意・重過失は存しない。
(4) 争点(4)(本件各投資についての被告Y2の責任)(本訴について)
(原告の主張)
被告Y2は,被告会社の取締役として,被告会社が本組合契約に従って適切に組合財産を運用管理するよう職務を行う義務を負っていた。
しかし,本件各投資が,被告会社の裁量権を逸脱,濫用したものであることを認識しながら,投資委員会に出席し,本件各投資の決定,承認及び執行をしたのであるから,任務懈怠について悪意又は重過失がある。
また,被告Y2は被告会社の他の取締役の業務執行について監視義務を負っていたにもかかわらず,被告Y1による本件各投資を阻止することなくこれを執行させ,監視義務を怠った。
よって,被告Y2は,旧商法266条の3第1項に基づき,損害賠償責任を負う。
(被告Y2の主張)
原告の主張は,否認ないし争う。
被告会社には,本件各投資について,悪意・重過失による善管注意義務違反・忠実義務違反はなく,被告Y2にも,取締役としての任務懈怠及び悪意・重過失は存しない。
(5) 争点(5)(被告会社及び被告Y1についての消滅時効)(本訴について)
(被告会社及び被告Y1の主張)
本件訴訟は,平成21年8月19日に提起された。仮に,原告の被告会社に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権があったとしても,平成12年7月31日のゼフィール株式の取得,同年8月7日及び同年12月15日のゼフィール社債の引受け,同日の鈴商株式の取得,平成13年1月25日の鈴商社債の引受けから各5年の経過により時効消滅した。
被告会社及び被告Y1は,原告に対し,平成22年3月25日の本件第3回弁論準備手続期日において,5年の商事消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(原告の主張)
被告会社は,原告の業務執行組合員の地位にあり,原告を代理する一切の権限を有していたところ,被告会社が原告を代表して,自らに対し善管注意義務違反による損害賠償請求訴訟を提起するはずはなく,非業務執行組合員として業務執行組合員の解任権を有していたBは,解任権行使の前提となる事実を知り得なかった。よって,被告会社が,平成19年7月2日に原告の清算人の地位を辞任するまでは,消滅時効は進行しない。
また,本件における被告会社の行為態様は,業務執行組合員としての正当な業務の範囲を著しく超えるものであり,その内容も非定型的で,訴求に際して義務の有無・内容の確定等困難な問題が生じる。よって,被告会社の損害賠償債務について,商事消滅時効は適用されない。
(6) 争点(6)(原告の損害額)(本訴について)
(原告の主張)
ア ゼフィール投資
原告は,被告会社の善管注意義務違反・忠実義務違反により,ゼフィール株式の取得代金9050万円及びゼフィール社債の未償還金1億6225万8391円の合計2億5275万8391円の損害を被った。
イ 鈴商投資
原告は,被告会社の善管注意義務違反・忠実義務違反により,鈴商株式の取得代金2000万円,鈴商社債への払込代金3000万円の合計5000万円の損害を被った。
(被告らの主張)
争う。
(7) 争点(7)(管理報酬請求権の有無)(反訴について)
(被告会社の主張)
被告会社は,別紙記載の期間において,原告の業務を執行したから,本組合契約26条に基づき,原告に対する別紙記載の管理報酬請求権を取得した。
(原告の主張)
争う。
被告会社には,本組合契約の業務執行における善管注意義務違反があるから,被告会社主張に係る管理報酬請求権は発生していない。
仮に,管理報酬請求権が発生しているとしても,本訴請求に係る損害賠償請求権を自働債権とし,管理報酬請求権を受働債権として,対当額で相殺する。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実,証拠(乙イ58,67,乙ロ41,42,被告Y1本人,被告Y2本人),括弧内に記載した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができ,Bの陳述書(甲88)及びGの陳述書(甲89)のうち上記事実に反する部分は関係各証拠に照らして採用することができない(なお,甲63の1(原告が被告Y1作成と主張する書面)は真正に成立したと認めるに足りる証拠はなく,採用することができない。)。
(1) IPO投資について
ア 平成12年当時の新興市場
平成11年11月,東京証券取引所内にマザーズが開設された。これは,新興企業について,成長性があれば設立経過年数の規制がなく,業績面でも赤字や株式資本がマイナスであっても上場が可能とする株式市場である。マザーズにおいて,新規上場時に分配する新規公開株は,上場基準の株主総数を満たすため,購入上限株数が原則1名義人1単位(株)であった。(乙ロ38)
イ IPO投資の特性
ベンチャー企業に対するIPO投資の成功確率は,平成12年当時で2%程度であり,成功した場合のリターンは投資元本の数百倍にも達し得るものであった。また,投資家にとってIPO投資は,投資元本と投資のための費用を超える損失が生じることはないという特性を有していた。ベンチャー企業投資の究極の目的は,上場を果たして創業者利益等を取得することにあり,投資関係者はいずれも上場を目指すという点で利益を共通にしている。
(2) 被告会社の設立等
被告Y1は,平成11年末頃,C及び被告Y2から,ベンチャーキャピタルの立ち上げを持ち掛けられ,平成12年4月からNVICの取締役会長となった。その後,同年5月1日に被告会社が設立され,NVICはベンチャーのために投資家の紹介や経営指導を行うこととし,被告会社は投資家資金の運用業務を行うこととした。
(3) Bが原告に出資するに至る経緯
被告会社が運用するファンドは,高配当,高利回りを目標とする反面,元本保証などはなく,創業間もないベンチャー企業の上場を主目的としていたことから,ハイリスク・ハイリターンの投資を行うものであった。
そこで,被告Y1は,被告会社が運用するファンドへの出資者としては,多くの個人資産を持ち,ベンチャー企業への投資リスクを良く理解している企業経営者が適任であると考えた。被告Y1は,以前野村證券の取締役であった時に,アルゼの株式上場準備に関与したことがあり,それ以来付き合いのあったBが,上記株式上場により数千億円の利益を得ていたと認識していたことなどから,原告への出資者にふさわしいと考えた。そして,被告Y1は,平成12年6月,I(以下「I」という。)とともにアルゼを訪問してBと面談し,原告の立ち上げ及び原告への30億円の出資を打診したところ,Bはこれに興味を示し,出資を了承した。
被告Y1は,同年7月6日,Iとともに再びアルゼを訪問してBと面談したところ,Bは,ラスベガスのホテル建設のために資金が必要になったとして,30億円ではなく10億円を出資すること,20億円の追加出資は検討することを伝えた。
(4) ゼフィール投資について
ア ゼフィール株式及びゼフィール第1回社債についての調査検討
(ア) 被告会社の調査
被告Y1と被告Y2は,平成12年6月頃,ゼフィールについて本格的に調査検討を行うこととし,ゼフィールの経営実態を知るために,Dらと面談し,ゼフィールが派遣している企業の選定や,派遣社員の社員教育について日々打合せをした。この打合せを通じて,被告会社は,Dが平成11年頃から大阪と神戸を中心として学生組織「ゼフィール」を作り,当時携帯電話が急速に伸びる中で,携帯電話の販売代理店等の事業に参画し,結果的に約2万人規模の学生団体の中心的リーダーとして活躍していることを知った。
そこで,被告会社は,ゼフィールに対する支援を行うこととし,被告Y1及び被告Y2らは,日々ゼフィールの活動をモニタリングし,ハンズオンにつなげて行き,ゼフィールに対して派遣先企業として多数の上場企業を紹介した。被告会社は,Dらの面談のほかにも,ゼフィールの事業計画書,事業報告書,決算報告書,税務申告書及び有価証券報告書等の検討,取引先等に対するヒアリングを行った。このような調査手法は,ベンチャーキャピタルにおいて,当時一般的なものであった。(乙イ10ないし12,42,乙ロ13,15ないし18,25,26)
(イ) ゼフィールの事業内容
ゼフィールは,携帯電話を利用した大量即時の情報受発信により,登録者の学生や若者を大量かつ即時に,雇用ニーズのある企業に派遣する事業を計画していた。被告Y1及び被告Y2らは,これにより登録者の空きスケジュールや希望職種と企業側のアルバイトニーズとをコンピュータ上で自動的にマッチングさせ,事務コストの大幅な削減が見込めると判断した。
ゼフィールは,同時に,登録者に対する電子コマースによる物販事業の展開を予定していた。同事業は登録者が商品やサービスを携帯電話で購入するに当たり,その代金支払をアルバイトの予約申込みを行うことで購入可能とする与信サービスであり,平成12年9月7日には「与信を利用した決済方法」として特許出願がされた。(乙イ12)
被告Y1及び被告Y2らは,平成12年当時,人材派遣業や業務請負業の成長が著しく,ゼフィールの事業領域である学生や若者のアルバイト派遣は,小売業や外食産業等のサービス業にニーズがあり,また,人材派遣業と電子コマースによる物販事業を融合するという戦略は,他の類似業者にはない独自の戦略であると判断した。
(ウ) 投資計画の検討
ゼフィールは,当時株式上場に向けて有価証券報告書の作成に着手し,主幹事証券会社の指名等の準備を進めていた。そして,被告会社は,マザーズの上場基準の1つである時価総額5億円については,前記ゼフィールの事業の合理性,成長性に照らすと,平成13年にはクリアできるとして,株式の公開可能性が高いと判断した。
そして,被告会社は,平成12年7月頃,ゼフィールが株式上場を達成するために必要な資金調達額として,平成12年度中において情報システム投資約5000万円,営業増員に伴う営業関連費用約5000万円,資金繰りに必要な運転資金1億円超の合計約2億円であると算出した。
被告会社は,発行済株式数の増加による株式の希薄化を防止しつつ,NVICのゼフィール株式保有割合を下げる方法として,NVICからゼフィール株式100株を1株85万円で原告に取得させること,ゼフィール第1回社債1億円を原告に引き受けさせることで所要資金の半分をまかなうことが,ゼフィールの資金調達,資本戦略として最適であると判断した。原告のゼフィール株の取得価額を1株85万円に決定するに際しては,本件意見書等の内容も踏まえ,上場後の予想売却価額を,同業他社を参考にした株価収益率を用いて算定し,投資の採算性を検討した。なお,ゼフィールは,原告以外の投資家からの資金調達を検討しており,被告会社としても追加投資の可能性も視野に入れていた。
イ Bへの説明
被告Y1は,平成12年7月6日,Iとともにアルゼを訪問してBと面談した際,Bに対して,投資先候補として検討しているゼフィールについて,ゼフィールの会社概要パンフレットを示しながら,口頭で説明した。Bは,ゼフィールの説明を聞いて,「面白そうだね。」と述べた。面談の終わりに,Bは,被告Y1に対し,「ラスベガスホテルのプロジェクトで忙しくなるので,息子のGに任せる。」と伝えた。(乙イ11,61,63の1)
被告Y1は,同月19日,再びIとともにアルゼを訪問してBと面談し,Bに対して,約1時間,ゼフィールの平成12年度事業計画書を示しながら,ジェービィックグループの構築及びNVICとゼフィールの関係,更に被告会社において行ったゼフィールの上記の検討結果等を説明するとともに,経営,財務に関するリスク及びその改善策を説明した。そして,株式の新規発行を抑制する必要があること,株式上場審査上,NVICの持ち株比率を下げる必要があることを説明し,原告においてゼフィール株式100株をNVICから1株85万円で取得したいと伝えた(ただし,被告Y1は,NVICがゼフィール株式を1株5万円で取得したことについては伝えなかった。)。これに対して,Bは,「ゼフィールは面白そうだね。行けそうだね。」と述べつつ,ゼフィール株式100株をNVICから1株85万円で取得すること,ゼフィール第1回社債を引き受けることについて了承した。(乙イ10,63の2)
ウ Bによる投資指示
Bは,平成12年7月27日,原告に対する10億円の出資金の振込送金を行い,同月28日,被告会社に対して,原告においてゼフィール株式及びゼフィール第1回社債を取得するよう指示した。(乙ロ1)
原告は,同月31日,ゼフィール株式を取得し,その後,被告会社は,同月26日付けで,投資委員会議事録を作成した。(甲30)
エ ゼフィール第1回社債の引受けとBの承認
被告会社は,平成12年8月2日,投資委員会でゼフィール第1回社債の引受けを決定し,同月23日,Bにゼフィール株式の取得とゼフィール第1回社債の引受けを報告するとともに,20億円の追加出資を要請した。Bは,当分忙しくなるので,全て息子のGに報告するよう指示した。被告Y1は,Bに対し,年2回の決算報告書を届けるので,必ず確認し何か不審点があれば連絡するよう伝えた。
オ ゼフィール第2回社債についての調査検討
平成12年度上半期(平成12年2月から同年8月)のゼフィールの平均月商は,1100万円程度であったが,平成12年9月以降は月商3000万円台を推移し,営業も好調であったことから売上げの拡大が見込まれた。ところが,平成12年10月以降,いわゆるITバブルが崩壊し,IT株を中心に株価が下がり,金融機関からの資金調達が困難となっていた。
前記のとおり,被告会社は,平成12年度のゼフィールの必要資金は約2億円と算定していたが,ゼフィールにおいては,ゼフィール第1回社債による1億円以外の資金調達が実現しておらず,売上げの増加に伴い登録者に対する給与の支払が増大し,情報システム開発費用は削れず,運転資金が逼迫する状況にあった。(乙イ14,19の1~5)
被告会社は,ゼフィールが並行的に上場の準備を進めており,平成13年2月期決算による上場申請計画に変更がなかったこと,平成13年秋頃に一般公募増資を行うことにより返済の見込みが立っていたことから,ゼフィール第2回社債の引受けを行うこととした。(乙ロ20)
カ Gへの説明
被告Y1は,平成12年10月20日,IとともにGと面談し,同年12月にゼフィールが発行する無担保新株引受権付社債(ゼフィール第2回社債)を5000万円から6000万円分引受けることを検討していること,資金の使途は開発資金と運転資金であること,社債はゼフィールの株式上場時の公募資金で償還する予定であることを説明し,了承を得た。(乙イ63の4)
キ ゼフィール第2回社債の引受け
被告会社は,平成12年12月12日頃,投資委員会でゼフィール第2回社債の引受けを決定し,原告は,同月15日,ゼフィール第2回社債5400万円を引き受けた。
ク その後のゼフィールの経営状況
ゼフィールは,平成13年に入ると飛躍的に売上高を伸ばし,監査人として新日本監査法人が,名義書換代理人として東京証券代行株式会社がそれぞれ内定し,いちよし証券及び新光証券が,引受証券会社の候補となっていた。その後,ゼフィールは,新興市場低迷により多額の負債を抱えることとなり,平成16年9月6日東京地方裁判所から破産宣告を受けた。(乙イ47,乙ロ32,43,44)
(5) 鈴商投資について
ア 鈴商投資についての調査検討
被告会社は,平成12年9月末頃,Cから投資候補先として鈴商の紹介を受け,鈴商が,創業以来,通信回線再販事業,携帯電話端末販売を行ってきた実績のある企業であること,その主要取引先は,NTTグループ各社で安定していること,東京電話においては神奈川県下で大きな市場シェアを有していること,新規参入するマイライン事業が有望であることから,鈴商について調査検討を行うこととした。(乙イ20)
そこで,被告会社は,鈴商の財務諸表,事業計画書,株主名簿等の資料を入手し,十分検討した上で,企業経営管理に豊富な経験を持つCを取締役に就任させることを条件に,投資を行うこととした。そして,鈴商の事業はゼフィールの事業との相乗効果が高いこと,ゼフィールの株式上場後に鈴商との資本提携を進めれば原告が所有している鈴商株式の資金化を早めることができると考え,原告が支配株主となれるよう,1株5万円とする400株の第三者割当増資,3000万円の新株引受権付社債を引き受けるという内容の投資を行うことを検討した。
イ Bへの説明
被告Y1は,平成12年10月20日,Gと面談し,鈴商の事業計画及び上記投資について説明したところ,Gはこれを了解し,Bにも伝えると述べた。
ウ 鈴商株式の取得と鈴商社債の引受け
被告会社は,平成12年12月8日,投資委員会で鈴商株式の引受けを決定し,同月15日,鈴商株式400株を第三者割当増資により取得し,また,平成13年1月23日,投資委員会で鈴商社債の引受けを決定し,同月25日,鈴商社債3000万円を引き受けた。
エ 鈴商の営業状況
その後,鈴商は,マイライン事業による高成長を達成することはできず,平成13年11月頃,営業を停止した。
(6) 決算報告書の送付等
被告会社は,B又はGに対し,原告の平成12年12月期から平成17年12月期までの決算書を各期にそれぞれ交付又は郵送する方法で送付したが,B又はGから質問や問い合わせを受けたことはなかった。
2 争点(1)(ゼフィール投資についての被告会社の責任)について
(1) 実質的利益相反取引(裁量権の濫用)がなかったことについて
ア 原告は,ゼフィール投資が被告会社と実質的に一体のNVICが経営に深く関与する会社への投資であり,NVICの利益を図る目的でされたものである旨主張し,また,ゼフィール株式の取得も,必要性がないのに不当な高額でされたものであるから,ゼフィール投資は実質的利益相反取引である旨主張する。
イ(ア) しかし,IPO投資において,ベンチャーキャピタルが投資先企業の株式を保有し,経営に参画することは当然に予定されたことである上,当該投資先企業に,当該ベンチャーキャピタルに関連する投資事業組合が投資することも何ら不合理とはいえないから,NVICの完全子会社である被告会社が業務執行組合員を務める原告が,NVICが投資し,経営に参画するゼフィールに投資するという本件の投資スキームが,不合理で原告の利益を害するものとはいえない。
(イ) また,前記1(4)に認定説示のとおり,① ゼフィールは,平成12年当時,新規性のある人材派遣事業によって売上げを伸ばしており,有価証券報告書の作成に着手し,主幹事証券会社が内定するなど上場へ向けた準備が着々と進んでおり,原告の契約期間中に株式を公開する可能性があり,高成長が見込めるものであったこと,② 被告会社は,ゼフィールの発行済株式数の増加による株式の希薄化を防止しつつ,NVICのゼフィール株式保有割合を下げる方法として,原告がNVICからゼフィール株式を取得し,ゼフィール第1回社債1億円を引き受けることで所要資金2億円の半分をまかなうことが,資金調達,資本戦略として最適であると判断したこと,③ 平成12年10月以降,いわゆるITバブルが崩壊し,IT株を中心に株価が下がり,金融機関からの資金調達が困難となっていたところ,ゼフィール第1回社債による1億円以外の資金調達が実現しておらず,運転資金が逼迫する状況にあったため,ゼフィール第2回社債の引受けをする必要性があったこと等の諸事情が認められ,これらによれば,ゼフィール投資をすることには,合理性及び必要性があったというべきである。
なお,原告は,NVICが,アクセスプランニングからゼフィール株式を50株取得していたから,原告はゼフィール株を取得する必要性はなかった旨主張するが,上記事実があったとしても,NVICのゼフィール株50株分の保有割合の低下は認められるから,これが上記認定を左右するものではない。
(ウ) そして,前記1(4)の認定説示によれば,被告会社において,本件意見書(甲19)や株価収益率を用いた予想売却価額に基づいて,ゼフィール株式の価額を算定した過程に特段不合理な点は見当らないこと等に照らすと,ゼフィール株式の取得価額の算定は不合理であったと認めることはできない。なお,甲20中には,上記株価を30万円ないし35万円程度と評価する旨の記載があるが,甲19及び20を作成したJは,上記各書証が作成された時期や目的等が異なるので単純に比較することに意味はない旨述べていること(乙イ43)等に照らすと,甲20をもって上記算定が不合理であると断定することはできない。また,NVICは,原告にゼフィール株式を譲渡したことにより,1株当たり80万円の譲渡益を得たといえる反面,平成12年7月31日当時はゼフィールの公開可能性があり,NVICは,ゼフィール株式を譲渡したことにより,将来上場した場合の値上がりによる利益も手放したと評価することができるから,NVICが1株80万円の譲渡益を得たことをもって,上記株価が不当に高額であったともいえない。
(エ) 以上に加え,NVICは,ゼフィールが破産する平成16年9月まで,ゼフィール株式の32.3%を手放すことなく保有していた筆頭株主であったこと,本組合契約26条には,組合員の受ける分配金累計額が出資金額の200%を超えた場合には,当該超える額の成功報酬については,40%となると規定されており,投資先企業のIPOを実現させて原告の利益を追求することが被告会社の収益増加につながることなどに照らすと,ゼフィール投資が,必要性もないのに,NVICの利益を図る目的でされた不公正な実質的利益相反取引であるとはいえない。
(オ) なお,前提事実(2),前記1(4)及び(6)のとおり,原告は,BがIPO投資を行うことを目的として成立した投資事業組合であり,Bの出資比率が99%超であるという実質的1人組合であったことから,被告会社は,Bの意向を確かめつつ,業務を行うこととしていた一方,Bは,平成12年7月6日以降,原告に関する話はGにするよう被告会社に伝えていたのであり,被告会社は,ゼフィール投資について,事前又は事後に,原告の実質的な利益帰属主体であるBの承諾又は承認を得ていたというべきであるから,これに基づいて被告会社が行ったゼフィール投資が原告の利益に反するものであったとはいえない。
ウ よって,ゼフィール投資に関し実質的利益相反取引があったとはいえず,被告会社に原告の業務執行につき裁量権の濫用があったとはいえない。
(2) 必要最低限の調査の不履行(裁量権の逸脱)がなかったことについて
ア 原告は,ゼフィールが平成11年に設立したばかりの会社であり,平成12年2月時点では約1200万円の赤字があり利益は出ていないこと等を考慮すれば,同社が平成13年に株式を公開する可能性が乏しく,同社が発行する社債の償還可能性が低いことは明白であったところ,被告会社が同社に対する投資の適否を検討する必要最低限の調査を怠った旨主張する。
イ しかし,前記1(4)アに認定のとおり,被告会社は,Dらとの面談のほかにも,事業計画書,事業報告書,決算報告書,税務申告書及び有価証券報告書等の検討,取引先等に対するヒアリングなど,ベンチャーキャピタルにおいて,当時一般的だった調査検討を行った結果,ゼフィールが,平成12年当時,新規性のある人材派遣事業によって売上げを伸ばしており,有価証券報告書の作成に着手し,主幹事証券会社が内定するなど上場へ向けた準備が着々と進み,原告の契約期間中に株式を公開する可能性があり,高成長が見込めると判断しゼフィール投資をしたものであるから,上記調査及び判断が不合理で不十分であるということはできない。
なお,前提事実(1)ア及び前記1(1)イのとおり,原告は未公開企業への投資を目的としていたところ,未公開企業が上場に至るかを的確に予測することは極めて困難であること,平成12年当時,ベンチャー企業に対するIPO投資は,成功確率が約2%という極めてハイリスク・ハイリターンの投資であったことに照らすと,ゼフィールが結果的に上場に至らなかったことは前記認定を左右するものではない。
ウ よって,ゼフィール投資に関し必要最低限の調査の不履行があったとはいえず,被告会社に原告の業務執行につき裁量権の逸脱があったとはいえない。
(3) 小括
以上によれば,ゼフィール株式の取得及びゼフィール社債の引受けについて被告会社に裁量権の逸脱,濫用はなく,善管注意義務違反,忠実義務違反があったとはいえない。
3 争点(2)(鈴商投資についての被告会社の責任)について
(1) 実質的利益相反取引(裁量権の濫用)がなかったことについて
ア 原告は,鈴商投資は,ゼフィールとの事業接点を作り,NVICが通信事業へ参画し,Cが鈴商へ経営参加することを目的としてされたものであって,専らNVIC及びCの利益を図る目的で行われたものであるから,実質的利益相反取引である旨主張する。
イ(ア) しかし,前記2(1)アに説示のとおり,IPO投資において,ベンチャーキャピタルが投資先企業の株式を保有し,経営に参画することは当然に予定されたことである上,当該投資先企業に,当該ベンチャーキャピタルに関連する投資事業組合が投資することも何ら不合理とはいえないから,NVICやCが鈴商への経営参加をすることを前提とする投資スキームが不合理なものとはいえない。
(イ) また,前記1(5)に説示のとおり,被告会社は,平成12年9月末頃,鈴商が,創業以来,通信回線再販事業,携帯電話端末販売を行ってきた実績のある企業であること,その主要取引先は,NTTグループ各社で安定していること,東京電話においては神奈川県下で大きな市場シェアを有していること,新規参入するマイライン事業が有望であること,鈴商の事業はゼフィールの事業との相乗効果が高く,ゼフィールの株式上場後に鈴商との資本提携を進めれば原告が所有している鈴商株式の資金化を早めることができることから,原告が支配株主となれるよう鈴商投資を行ったこと等の諸事情が認められ,これらによれば,原告が鈴商投資をすることには,合理性及び必要性があったというべきである。
(ウ) 以上に加え,前記2(1)イ(エ)に説示した事情にも照らすと,鈴商投資が,必要性もないのに,NVICやCの利益を図る目的でされた不公正な実質的利益相反取引であるとはいえない。
(エ) なお,前提事実(2),前記1(5)及び(6)のとおり,原告は,BがIPO投資を行うことを目的として成立した投資事業組合であり,Bの出資比率が99%超であるという実質的1人組合であったことから,被告会社は,Bの意向を確かめつつ,業務を行うこととしていた一方,Bは,平成12年7月6日以降,原告に関する話はGにするよう被告会社に伝えていたのであり,被告会社は,鈴商投資について,事前又は事後に,原告の実質的な利益帰属主体であるBの承諾又は承認を得ていたというべきであるから,これに基づいて被告会社が行った鈴商投資が原告の利益に反するものであったとはいえない。
ウ よって,鈴商投資に関し実質的利益相反取引があったとはいえず,被告会社に原告の業務執行につき裁量権の濫用があったとはいえない。
(2) 必要最低限の調査の不履行(裁量権の逸脱)がなかったことについて
ア 原告は,鈴商は,原告が鈴商株式を取得した平成12年12月当時,大幅な債務超過で,主力商品となるべきマイライン事業は全く業績がない状況にあり,株式を公開する可能性はなく,鈴商社債が約定のとおりに償還される可能性が低いことは明らかであったところ,被告会社が同社に対する投資の適否を検討する必要最低限の調査を怠った旨主張する。
イ しかし,前記1(5)に認定のとおり,被告会社は,鈴商の財務諸表,事業計画書,株主名簿等の資料入手し検討し,ベンチャーキャピタルにおいて,当時一般的だった調査検討を行った結果,平成12年当時,鈴商が新規参入するマイライン事業は高い成長が期待でき,当時上場の可能性があったゼフィールとの合併又は株式交換により鈴商株式を公開することができると判断したものであるから,上記調査及び判断が不合理で不十分であるということはできない。
なお,前提事実(1)ア及び前記1(1)イのとおり,原告は未公開企業への投資を目的としていたところ,未公開企業が上場に至るかを的確に予測することは極めて困難であること,平成12年当時,ベンチャー企業に対するIPO投資は,成功確率が約2%という極めてハイリスク・ハイリターンの投資であったことに照らすと,鈴商が結果的に上場に至らなかったことは前記認定を左右するものではない。
ウ よって,鈴商投資に関し必要最低限の調査の不履行があったとはいえず,被告会社に原告の業務執行につき裁量権の逸脱があったとはいえない。
(3) 小括
以上によれば,鈴商株式の取得及び鈴商社債の引受けについて被告会社に裁量権の逸脱,濫用はなく,善管注意義務違反,忠実義務違反があったとはいえない。
4 争点(3)(本件各投資についての被告Y1の責任)について
上記2及び3に説示のとおり,被告会社に原告の業務執行につき裁量権の逸脱,濫用はなく,善管注意義務違反,忠実義務違反があったとはいえないから,被告Y1に,取締役としての任務懈怠及び悪意・重過失があったとはいえない。
5 争点(4)(本件各投資についての被告Y2の責任)について
前記2及び3に説示のとおり,被告会社に原告の業務執行につき裁量権の逸脱,濫用はなく,善管注意義務違反,忠実義務違反があったとはいえないから,被告Y2に,取締役としての任務懈怠及び悪意・重過失があったとはいえない。
6 争点(7)(管理報酬請求権の有無)について
証拠(乙イ87の1,88の1,89の1)によれば,平成16年6月30日,同年12月31日,平成17年6月30日における原告の純資産額は,それぞれ,6億8166万9967円,5億7530万6160円,5億6919万5792円であったことが認められ,前記2及び3のとおり,被告会社に本組合契約の業務執行についての善管注意義務違反,忠実義務違反があったとはいえないから,被告会社は,本組合契約26条に基づき,原告に対する別紙記載のとおり,2884万9658円の管理報酬請求権を取得したといえる(なお,民事訴訟法142条が重複起訴を禁止する趣旨に鑑みると,本訴及び反訴が係属中に,本訴請求債権を自働債権とし,反訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは,許されないと解すべきであるから,原告の相殺の抗弁は不適法である。)。
第4 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却し,被告会社の反訴請求は理由があるから認容し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 齋藤繁道 裁判官 宮崎拓也 裁判官 手塚隆成)
〈以下省略〉
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